JP2004031311A - 燃料電池スタックの組立方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】一組のエンドプレート28に対し、互いに近接する方向に初期締め付け荷重を付与した状態で、積層体26内の反応ガス流路に対して空気の導入および導出を行った後、締め付け荷重を検出して前記初期締め付け荷重との荷重差を演算する。そして、この荷重差分だけ締め付け荷重を付加するとともに、前記荷重差が所定の範囲内になるまで上記の工程を繰り返す。
【選択図】図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電解質の両側にそれぞれ電極を設けた電解質・電極接合体が、セパレータを介装して複数積層された積層体を備え、前記積層体の積層方向両端に一組のエンドプレートが配設された燃料電池スタックの組立方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜(陽イオン交換膜)からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード側電極およびカソード側電極を対設した電解質(電解質膜)・電極構造体を、セパレータによって挟持することにより構成されている。この種の燃料電池は、通常、電解質・電極構造体およびセパレータを所定数だけ積層することにより、燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
前記燃料電池において、アノード側電極に供給された燃料ガス、例えば、主に水素を含有するガス(以下、水素含有ガスともいう)は、触媒電極上で水素がイオン化され、電解質を介してカソード側電極側へと移動する。その間に生じた電子が外部回路に取り出され、直流の電気エネルギとして利用される。なお、カソード側電極には、酸化剤ガス、例えば、主に酸素を含有するガスあるいは空気(以下、酸素含有ガスともいう)が供給されているために、このカソード側電極において、水素イオン、電子および酸素が反応して水が生成される。
【0004】
ところで、燃料電池内の接触抵抗が増大すると、内部抵抗損失が増大して端子電圧が低下してしまう。このため、接触抵抗を低減させるべく、燃料電池に所望の締め付け荷重を付与する必要がある。そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池積層体締め付け構造が知られている。
【0005】
この特許文献1では、図11に示すように、燃料電池積層体1が一組のエンドプレート2に挟持され、このエンドプレート2が、締め付けボルト4の締め付け作用下に締め付け板5により予め仮締めされている。燃料電池積層体1は、圧力容器8に装着されている。この圧力容器8では、燃料電池積層体1は、積層方向を鉛直方向に向けて一方の締め付け板5を圧力容器底架台6に載せるとともに、加圧板7が他方の締め付け板5に配置されている。
【0006】
燃料電池積層体1には、アクチュエータ9を介して加圧板7から圧力が付与されるとともに、前記燃料電池積層体1の高さ減少が圧力容器8の外部に設けられたダイヤルゲージGにより検出されている。
【0007】
【特許文献1】
特開昭58−93173号公報(図2)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の特許文献1では、アクチュエータ9の作用下に加圧板7を介して燃料電池積層体1に所定の締め付け荷重を付与し、締め付けボルト4を締め付けて燃料電池スタックを組み付けた後に、前記燃料電池積層体1を構成するセパレータの厚さ、シール部材の厚さおよび電解質膜の厚さ等が前記締め付け荷重によって変化し易い。例えば、燃料電池積層体1にプレス荷重を付与した状態で放置すると、図12に示すように、時間の経過に伴ってプレス荷重、すなわち、締め付け荷重が減少する、所謂、荷重抜けが発生してしまう。この荷重抜けは、実際上、数十%になる場合があり、燃料電池積層体1全体の寸法が安定するまで、比較的長時間にわたって前記燃料電池積層体1を加圧した状態で放置する必要がある。これにより、燃料電池スタックの組立時間が相当に長時間となってしまい、生産性が著しく低下するという問題が指摘されている。
【0009】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、燃料電池スタック全体を短時間で所望の締め付け荷重に確実に保持することができ、組立時間を有効に短尺化することが可能な燃料電池スタックの組立方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係る燃料電池スタックの組立方法では、一組のエンドプレートに対し、互いに近接する方向に所定の初期締め付け荷重が付与された状態で、積層体内の反応ガス流路に対して流体の導入および導出が行われる。次に、流体が積層体内から導出された後、締め付け荷重が検出されて初期締め付け荷重との荷重差が演算され、この荷重差分だけ締め付け荷重が付加される。そして、荷重差が所定の範囲内になるまで、上記の工程が繰り返し行われる。
【0011】
このように、初期締め付け荷重が付与された状態で、反応ガス流路に対して流体の導入および導出が行われるため、積層体を構成するセパレータや電解質膜等の厚さが短時間で安定する。従って、簡単な工程で、燃料電池スタックの組立時間が有効に短縮され、生産性の向上を図ることができる。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る燃料電池スタックの組立方法では、まず、一組のエンドプレートに対し、互いに近接する方向に所定の初期締め付け荷重より高い荷重が付与される。次いで、一組のエンドプレートに付与される荷重が、初期締め付け荷重に下げられた状態で、積層体内の反応ガス流路に対して流体の導入および導出が行われる。このため、電解質・電極構造体とセパレータとが互いに圧着して馴染み易くなり、積層体に付与される締め付け荷重の変化を良好に低減することが可能になる。
【0013】
さらに、本発明の請求項3に係る燃料電池スタックの組立方法では、一組のエンドプレートに対し、初期締め付け荷重より高い荷重を、複数回にわたって繰り返し付加する。これにより、積層体の荷重抜けが一層確実に低減され、所望の締め付け荷重を有効に保持することができる。
【0014】
さらにまた、本発明の請求項4に係る燃料電池スタックの組立方法では、流体が空気であり、前記空気が実際の作動圧と略同一の圧力で反応ガス流路に供給される。これにより、積層体内では、実際の運転時のような反応ガスの供給および排出が行われて締め付け荷重の調整がなされるため、実際に運転される際に、燃料電池スタックの締め付け荷重に過度な減少が惹起されることがない。このため、燃料電池スタックでは、運転時に所望の締め付け荷重を確実に維持し、面圧の低下や反応ガスの洩れ等を惹起することがなく、良好な発電が行われる。
【0015】
また、本発明の請求項5に係る燃料電池スタックの組立方法では、燃料電池スタックおよび/または流体が、前記燃料電池スタックの作動温度に近似した温度に加温される。従って、燃料電池スタックでは、運転時に所望の締め付け荷重を確実に維持することが可能になり、良好な発電が遂行される。さらに、短時間で燃料電池スタック全体の厚さが安定する。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池スタックの組立方法を実施するための組立装置10の概略構成図である。
【0017】
組立装置10は、燃料電池スタック12を積層方向(矢印A方向)が重力方向に向かうように配置した状態で、前記積層方向に締め付け荷重を付与する押圧機構(例えば、プレス機構)14と、前記燃料電池スタック12に付与される締め付け荷重を検出する圧力検出機構(例えば、ロードセル)16と、前記押圧機構14を制御するとともに、前記圧力検出機構16により検出された締め付け荷重に基づいて後述する演算処理を行うコントローラ18とを備える。
【0018】
燃料電池スタック12は、電解質膜(電解質)・電極構造体(MEA)20が、第1および第2セパレータ22、24を介装して複数積層された積層体26を備え、前記積層体26の積層方向両端に一組のエンドプレート28が配設される。
【0019】
図1および図2に示すように、電解質膜・電極構造体20と第1および第2セパレータ22、24との間には、後述する連通孔の周囲および電極面(発電面)の外周を覆って、ガスケット等のシール部材29が介装されている。
【0020】
電解質膜・電極構造体20と第1および第2セパレータ22、24の矢印B方向(図2中、水平方向)の一端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス供給連通孔30a、冷却媒体を排出するための冷却媒体排出連通孔32b、および燃料ガス、例えば、水素含有ガスを排出するための燃料ガス排出連通孔34bが、矢印C方向(鉛直方向)に配列して設けられる。
【0021】
電解質膜・電極構造体20と第1および第2セパレータ22、24の矢印B方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを供給するための燃料ガス供給連通孔34a、冷却媒体を供給するための冷却媒体供給連通孔32a、および酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス排出連通孔30bが、矢印C方向に配列して設けられる。
【0022】
電解質膜・電極構造体20は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸されてなる固体高分子電解質膜36と、該固体高分子電解質膜36を挟持するアノード側電極38およびカソード側電極40とを備える。
【0023】
アノード側電極38およびカソード側電極40は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子を前記ガス拡散層の表面に一様に塗布した電極触媒層とをそれぞれ有する。電極触媒層は、互いに固体高分子電解質膜36を介装して対向するように、前記固体高分子電解質膜36の両面に接合されている。シール部材29の中央部には、アノード側電極38およびカソード側電極40に対応して開口部44が形成されている。
【0024】
第1セパレータ22の電解質膜・電極構造体20側の面22aには、例えば、矢印B方向に延在する複数本の溝部からなる酸化剤ガス流路46が設けられるとともに、この酸化剤ガス流路46は、酸化剤ガス供給連通孔30aと酸化剤ガス排出連通孔30bとに連通する。
【0025】
第2セパレータ24の電解質膜・電極構造体20側の面24aには、燃料ガス供給連通孔34aと燃料ガス排出連通孔34bとに連通する燃料ガス流路48が形成される。この燃料ガス流路48は、矢印B方向に延在する複数本の溝部を備えている。第2セパレータ24の面24bには、冷却媒体供給連通孔32aと冷却媒体排出連通孔32bとに連通する冷却媒体流路50が形成される。この冷却媒体流路50は、矢印B方向に延在する複数本の溝部を備えている。
【0026】
このように構成される燃料電池スタック12の動作について、第1の実施形態に係る組立方法との関連で、図3に示すフローチャートを参照しながら以下に説明する。
【0027】
まず、図1に示すように、燃料電池スタック12は、一方のエンドプレート28を下側にして積層方向(矢印A方向)が重力方向に向かうように配置されており、コントローラ18を介して押圧機構14が駆動される。押圧機構14の押圧作用下に、一組のエンドプレート28に対して互いに近接する方向に所定の初期締め付け荷重Piが付与される(ステップS1)。
【0028】
この状態で、積層体26内の酸化剤ガス供給連通孔30aを介して酸化剤ガス流路46に、および燃料ガス供給連通孔34aを介して燃料ガス流路48に、それぞれ流体、例えば、空気(ガス)が導入される(ステップS2)。このため、図4に示すように、燃料電池スタック12には、空気によるガス圧が付与され、圧力検出機構16により検出される締め付け荷重が、初期締め付け荷重Piから上昇する。このガス圧は、燃料電池スタック12の実際の作動圧と略同一の圧力、例えば、ゲージ圧力で0.2〜5.0気圧程度、好ましくは、0.5〜2.0気圧程度に設定されている。この空気および/または燃料電池スタック12全体は、実際の作動温度に近似する温度に加温されていることが好ましい。
【0029】
酸化剤ガス供給連通孔30aおよび燃料ガス供給連通孔34aに空気が所定の圧力だけ導入された後、前記空気は、酸化剤ガス排出連通孔30bおよび燃料ガス排出連通孔34bから導出される(ステップS3)。これにより、燃料電池スタック12の締め付け荷重が減少し、この空気が積層体26から排出された際の締め付け荷重が検出される(ステップS4)。
【0030】
ここで、積層体26内に空気を導入した後、この積層体26内から前記空気を導出することにより、該積層体26を構成する第1および第2セパレータ22、24、固体高分子電解質膜36およびシール部材29等の厚さが変動する。このため、検出される締め付け荷重が初期締め付け荷重Piよりも減少し、荷重差δP1が演算される(ステップS5)。
【0031】
次いで、ステップS6に進み、荷重差δP1が所定の範囲内にあるか否か、すなわち、δP1/Piが規定値(%)以下であるか否かが判断される。ステップS6において、規定値以上であると判断されると(ステップS6中、NO)、ステップS7に進んで、コントローラ18を介して押圧機構14が駆動され、荷重差δP1分だけ締め付け荷重が付加される。
【0032】
そして、ステップS2に戻って、酸化剤ガス供給連通孔30aおよび燃料ガス供給連通孔34aに空気が導入された後、前記空気が導出される(ステップS3)。さらに、空気が導出された後に、締め付け荷重が検出されて荷重差δP2が演算され(ステップS4およびステップS5)、この荷重差δP2が規定の範囲内にあるか否かが判断される(ステップS6)。そして、ステップS6において、規定値以下であると判断されると(ステップS6中、YES)、燃料電池スタック12の締め付け作業が終了する。
【0033】
このように、第1の実施形態では、燃料電池スタック12に初期締め付け荷重Piを付与した状態で、酸化剤ガス供給連通孔30aを介して酸化剤ガス流路46に、および燃料ガス供給連通孔34aを介して燃料ガス流路48に、それぞれ実際の作動圧と略同一圧力の空気が供給される。次いで、酸化剤ガス流路46から酸化剤ガス排出連通孔30bに、および燃料ガス流路48から燃料ガス排出連通孔34bに、それぞれ空気が排出された後、燃料電池スタック12の締め付け荷重が検出されている。
【0034】
これにより、燃料電池スタック12は、実際の作動状態に近似した条件に維持され、第1および第2セパレータ22、24、固体高分子電解質膜36およびシール部材29の厚さが、単に荷重を付与するだけの従来の方法に比べて短時間で安定する。従って、簡単な工程で、燃料電池スタック12の組立時間が有効に短縮され、生産性の向上を図ることができるという効果が得られる。
【0035】
その際、図5に示すように、酸化剤ガス供給連通孔30aおよび燃料ガス供給連通孔34aに空気の導入および導出が繰り返し行われると、この空気の導入および導出を行わない場合に比べて、ガスのリーク量が大幅に削減される。さらに、空気の導入および導出を繰り返し行うことにより、リーク量の一層の低減を図ることが可能になる。
【0036】
しかも、積層体26内には、実際の運転時に近似した空気の供給および排出が行われて締め付け荷重の調整がなされるため、実際に運転する際に、燃料電池スタック12の締め付け荷重に過度な減少が惹起されることがない。このため、燃料電池スタック12では、運転時に所望の締め付け荷重を確実に維持し、電圧の低下や反応ガスの漏れ等を惹起することがなく、良好な発電が効率的に遂行されるという利点がある。
【0037】
さらに、積層体26に供給される空気および/または燃料電池スタック12は、前記燃料電池スタック12の作動温度に近似した温度に加温されている。これにより、実際の運転時に近似した状態で締め付け荷重を設定することができ、良好な発電が遂行される。しかも、燃料電池スタック12全体の厚さが、短時間で安定する。その際、空気を加湿して積層体26に供給することが望ましい。
【0038】
なお、第1の実施形態では、図4に示すように、積層体26に対して空気の導入および導出を行うために、荷重差δP1分の締め付け荷重を付加しているが、前記空気の導入および導出を複数回行った後に、荷重差δPn分の付加を行ってもよい。
【0039】
また、第1の実施形態では、ガスケット等のシール部材29を用いているが、これに代替して接着剤等の液状シールを用いてもよく、あるいは、この種のシール部材を用いない構造にも適用することができる。さらに、流体としては空気の他、水等を用いてもよい。
【0040】
ところで、燃料電池スタック12を運転するに際しては、図2に示すように、燃料ガス供給連通孔34aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給されるとともに、酸化剤ガス供給連通孔30aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給される。さらに、冷却媒体供給連通孔32aに純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0041】
酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給連通孔30aから第1セパレータ22の酸化剤ガス流路46に導入され、電解質膜・電極構造体20を構成するカソード側電極40に沿って移動する。一方、燃料ガスは、燃料ガス供給連通孔34aから第2セパレータ24の燃料ガス流路48に導入され、電解質膜・電極構造体20を構成するアノード側電極38に沿って移動する。
【0042】
従って、各電解質膜・電極構造体20では、カソード側電極40に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極38に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。
【0043】
次いで、アノード側電極38に供給されて消費された燃料ガスは、燃料ガス排出連通孔34bに沿って矢印A方向に排出される。同様に、カソード側電極40に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス排出連通孔30bに沿って矢印A方向に排出される。
【0044】
また、冷却媒体供給連通孔32aに供給された冷却媒体は、第2セパレータ24の冷却媒体流路50に導入された後、矢印B方向に沿って流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体20を冷却した後、冷却媒体排出連通孔32bから排出される。
【0045】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池スタックの組立方法を説明するフローチャートであり、図7は、前記組立方法の説明図である。この第2の実施形態では、上記の第1の実施形態と同様に、図1に示す組立装置10および燃料電池スタック12が用いられる。
【0046】
まず、燃料電池スタック12は、押圧機構14の作用下に一組のエンドプレート28に対して互いに近接する方向に所定の初期締め付け荷重Piよりも高い荷重P0が付与される(ステップS11)。そして、押圧機構14の作用下に、一組のエンドプレート28に対して付与される荷重は、上記の荷重P0から初期締め付け荷重Piに下げられる(ステップS12)。
【0047】
次に、積層体26内の酸化剤ガス供給連通孔30aおよび燃料ガス供給連通孔34aに、それぞれ空気が導入される(ステップS13)。以下、第1の実施形態のステップS3〜ステップS7と同様に、ステップS14〜ステップS18に沿って燃料電池スタック12の締め付け作業が行われる。
【0048】
この場合、第2の実施形態では、積層体26内に空気の導入および導出を行う前に、まず、一組のエンドプレート28に対し、押圧機構14を介して初期締め付け荷重Piよりも高い荷重P0が付与される。このため、積層体26内では、電解質膜・電極構造体20と第1および第2セパレータ22、24とが互いに圧着して馴染み易くなる。従って、積層体26内に空気が導入および導出される際に、前記積層体26に付与される締め付け荷重の変化を良好に低減させることが可能になるという効果が得られる。
【0049】
さらに、第2の実施形態では、ステップS11とステップS12とを複数回繰り返すことにより、一組のエンドプレート28に対し初期締め付け荷重Piよりも高い荷重P0を、複数回にわたって繰り返し付加することができる。これにより、積層体26の荷重抜けが一層確実に低減され、所望の締め付け荷重を有効に保持することが可能になる。
【0050】
図8には、押圧機構14を介して一組のエンドプレート28に荷重P0を付与する回数(プレス荷重回数)と、荷重抜け(%)との関係が示されている。これにより、荷重P0を1回付与した際には、荷重抜けが8%前後となって従来に比べ大幅に荷重抜けが減少されるとともに、前記荷重P0を繰り返し付与することによって、前記荷重抜けが一層確実に低減されるという結果が得られた。
【0051】
次いで、初期締め付け荷重Piまで通常の方法で荷重を付与したパターン▲1▼と、荷重P0を1度付与した後、空気の導入および導出を4回繰り返したパターン▲2▼と、前記荷重P0を3回繰り返して付与した後、前記空気の導入および導出を4回繰り返したパターン▲3▼とにおいて、時間経過と荷重変化率を検出する実験を行った。
【0052】
その際、図9に示す測定治具60が用いられる。この測定治具60は、ダミーMEA20aを第1および第2セパレータ22、24で挟持した単位セルを用意し、この単位セルがスペーサ62を介装して矢印A方向に積層されるとともに、両端にターミナル64を介装してエンドプレート28が配設される。エンドプレート28は、6本の軸力ボルト66により締め付け可能であり、各軸力ボルト66には、荷重変化を測定するために図示しないロードセル等の測定手段が接続されている。
【0053】
このように構成される測定治具60を用いて、パターン▲1▼、▲2▼および▲3▼における荷重変化率(%)を検出する実験を行った。その結果、図10に示すような荷重変化率が得られた。具体的には、荷重P0を1回付与したパターン▲2▼では、この荷重P0を付与しないパターン▲1▼に比べて時間の経過に伴う荷重変化率が大幅に減少した。さらに、荷重P0を3回付与したパターン▲3▼では、上記のパターン▲2▼よりも荷重変化率の減少が一層確実に図られた。
【0054】
【発明の効果】
本発明に係る燃料電池スタックの組立方法では、初期締め付け荷重が付与された状態で、反応ガス流路に対して流体の導入および導出が行われるため、積層体を構成するセパレータや電解質膜等の厚さが短時間で安定する。従って、簡単な工程で、燃料電池スタックの組立時間が有効に短縮され、生産性の向上を図ることができる。
【0055】
また、本発明では、まず、一組のエンドプレートに対し、互いに近接する方向に所定の初期締め付け荷重より高い荷重が付与される。次いで、一組のエンドプレートに付与される荷重が、初期締め付け荷重に下げられた状態で、積層体内の反応ガス流路に対して流体の導入および導出が行われる。このため、電解質・電極構造体とセパレータとが互いに圧接して馴染み易くなり、積層体に付与される締め付け荷重の変化を良好に低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池スタックの組立方法を実施するための組立装置の概略構成図である。
【図2】前記燃料電池スタックの要部分解斜視図である。
【図3】前記組立方法を説明するフロチャートである。
【図4】前記組立方法の説明図である。
【図5】空気注入繰り返し回数とリーク量との関係を示す説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池スタックの組立方法を説明するフローチャートである。
【図7】前記組立方法の説明図である。
【図8】プレス荷重回数と荷重抜けとの関係を示す説明図である。
【図9】測定治具の説明図である。
【図10】前記測定治具により測定されるパターン▲1▼、▲2▼および▲3▼の説明図である。
【図11】特許文献1に係る燃料電池積層体締め付け構造の断面説明図である。
【図12】特許文献1の締め付け構造における放置時間とプレス荷重との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
10…組立装置 12…燃料電池スタック
14…押圧機構 16…押圧検出機構
18…コントローラ 20…電解質膜・電極構造体
22、24…セパレータ 26…積層体
28…エンドプレート 29…シール部材
30a…酸化剤ガス供給連通孔 30b…酸化剤ガス排出連通孔
32a…冷却媒体供給連通孔 32b…冷却媒体排出連通孔
34a…燃料ガス供給連通孔 34b…燃料ガス排出連通孔
36…固体高分子電解質膜 38…アノード側電極
40…カソード側電極 46…酸化剤ガス流路
48…燃料ガス流路 50…冷却媒体流路
Claims (5)
- 電解質の両側にそれぞれ電極を設けた電解質・電極接合体が、セパレータを介装して複数積層された積層体を備え、前記積層体の積層方向両端に一組のエンドプレートが配設された燃料電池スタックの組立方法であって、
前記一組のエンドプレートに対し、互いに近接する方向に所定の初期締め付け荷重を付与した状態で、前記積層体内の反応ガス流路に対して流体の導入および導出を行う第1の工程と、
前記流体が前記積層体内から導出された後、締め付け荷重を検出して前記初期締め付け荷重との荷重差を演算する第2の工程と、
前記荷重差分だけ締め付け荷重を付加する第3の工程と、
を有し、
前記荷重差が所定の範囲内になるまで上記の第1の工程以降を繰り返すことを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。 - 電解質の両側にそれぞれ電極を設けた電解質・電極接合体が、セパレータを介装して複数積層された積層体を備え、前記積層体の積層方向両端に一組のエンドプレートが配設された燃料電池スタックの組立方法であって、
前記一組のエンドプレートに対し、互いに近接する方向に所定の初期締め付け荷重より高い荷重を付与する第1の工程と、
前記一組のエンドプレートに付与される前記荷重を、前記初期締め付け荷重に下げた状態で、前記積層体内の反応ガス流路に対して流体の導入および導出を行う第2の工程と、
前記流体が前記積層体内から導出された後、締め付け荷重を検出して前記初期締め付け荷重との荷重差を演算する第3の工程と、
前記荷重差分だけ締め付け荷重を付加する第4の工程と、
を有し、
前記荷重差が所定の範囲内になるまで上記の第2の工程以降を繰り返すことを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。 - 請求項2記載の方法において、前記第1の工程では、前記一組のエンドプレートに対し、前記初期締め付け荷重より高い荷重を、複数回にわたって繰り返し付加することを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。
- 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法において、前記流体は空気であり、前記空気を実際の作動圧と略同一の圧力で前記反応ガス流路に供給することを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。
- 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法において、前記燃料電池スタックおよび/または前記流体は、該燃料電池スタックの作動温度に近似した温度に加温されることを特徴とする燃料電池スタックの組立方法。
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