JP2004027198A - スチレン系樹脂組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】
(A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体 5〜95重量%
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体 95〜5重量%
(C)前記(A)あるいは(B)のスチレン系重合体に相溶な重合体 0〜30重量%
から成るスチレン系樹脂組成物であって、且つ(A)成分が限定された構造および特性を有するスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体であるスチレン系樹脂組成物、及び該組成物からなるシートおよびフィルム。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、主として透明な包装材料等の用途に供するものであり、加工安定性、熱収縮性、経時安定性(寸法変化、物性低下に対する経時耐性)、腰強さ、機械的強度、透明性に優れるとの特長を生かし、特に硬質の熱収縮フィルム用途に好ましく利用できる。
【0002】
【従来の技術】
従来、硬質シートおよびフィルム用途、特に包装用熱収縮性フィルムとして、硬質塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリエステル(PET)系フィルム、スチレン系フィルム、等が一般的に用いられてきた。
硬質PVCフィルムは、可塑剤使用による衛生上、品質上(温水中での白化現象等)の問題に加えて、焼却時に発生する塩素系ガスの問題があり、改善が求められている。
PET系フィルムは可塑剤を含まず、または焼却時の上記問題点に対するクリーン性や燃焼熱が少ないことに特長がある。しかし、透明PETは非晶質化が技術的に充分でなく、品質安定性に問題が残る。そのため熱収縮時の微妙な挙動特性が変動して、包装用熱収縮性フィルムとして安定性に欠ける。
【0003】
スチレン系重合体から成る熱収縮フィルムには、ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、またはスチレンとブタジエンとのブロック共重合体(SBBC)、あるいはこれらを含む組成物等が使用されている。
GPPSフィルムは、透明性に優れるがビカット軟化点(ASTM−D1525法に準じて荷重1kg、昇温スピード20℃/分で測定)が100〜106℃と比較的高いために低温での収縮性が劣る。またフィルムが脆くて裂け易く、曲げた部分が切れる等の問題がある。
HIPSフィルムは、GPPSの脆さと低温収縮性が改良されているが、透明性が劣る。また、フィルムの腰が弱く、自然収縮しやすいとの問題もある。(特許文献1参照)。
【0004】
HIPSに比較して、SBBCは低温収縮性および透明性が改良されている。しかし、フィルムの腰は更に弱くなり、加えて寸法の自然収縮が大きく、硬質収縮性フィルムとして性能は不十分である。またSBBCとPSとのブレンドフィルムはSBBCフィルムより腰の改良に効果が見られる(特許文献2および3参照)。しかし、低温収縮性および透明性の低下に問題が残る。
本発明に直接関わる樹脂材料であるSBBCとスチレン−(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸エステルは、メタアクリル酸エステルおよび/又はアクリル酸エステルを意味する。)共重合体から成る樹脂組成物のフィルムも、既に基本的には公知である(特許文献4および5参照)。これらのフィルム、シートは加工安定性、熱収縮性、寸法安定性、物性低下に対する経時耐性)、腰強さ、機械的強度および透明性等の性能バランスで前述の各種フィルムより優れている。
【0005】
しかし、従来のSBBCとスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体との組成物は、シートおよびフィルムの物性バランスに優れるものの、加工安定性に問題を有するものであった。特に、近年のコスト削減および環境問題に対する意識の高まりによって、産業廃棄物削減の要求が強く、成形加工工程で発生する成形クズのリワークが必須になっている。このため、リワークに耐える樹脂の加工安定性要求が強い。(ここで言うリワークとは、成形不良品やシート成形時にトリミングされるミミ等の破断片樹脂等のリサイクルである。)
【0006】
スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含めて、従来のスチレン系重合体の加工安定性は必ずしも十分でなかった。特に、本発明が一つの目標とするシートおよびフィルム用途においては、樹脂劣化により発生する異物、着色あるいは流れムラは、極めて目立つもので、樹脂リワークの致命的欠点となる。それ故、バージン樹脂に選定された少量のリワーク樹脂を混合する等の対応が現状技術であった。
従来より、スチレン系重合体の加工安定性問題が、樹脂中に存在する環状スチレンオリゴマーに大きく起因するとの考え方がある。具体的には、スチレン系重合体中に存在する環状スチレンオリゴマーが熱的に分解してラジカルが発生し、これが重合体鎖の切断や架橋を引き起こすことが劣化原因とする考え方である。(特許参考文献6参照)。発生したラジカルは、重合体鎖の切断や架橋を引き起こして劣化原因となる。しかし、従来スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体においては、この面から改善の具体的対応は全くなされていなかった。
【0007】
【特許文献1】
特開昭60−048325号公報
【特許文献2】
特公昭60−030705号公報
【特許文献3】
特開昭60−006414号公報
【特許文献4】
特開昭59−221348号公報
【特許文献5】
特開昭61−025819号公報
【特許文献6】
特開平09−111073号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、加工安定性およびリワーク特性を顕著に改善したSBBCとスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなるスチレン系樹脂組成物、及び該組成物からなるシートおよびフィルムを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題解決について鋭意検討の結果、限定された重合条件下に、限定された構造および特性を有するスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を重合し、この重合体を用いることによって、従来技術の課題を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は次の構成よりなるものである。
(A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体 5〜95重量%
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体 95〜5重量%
(C)前記(A)あるいは(B)のスチレン系重合体に相溶な重合体 0〜30重量%
から成るスチレン系樹脂組成物であって、且つ(A)成分のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が下記(a)〜(c)項の特徴を有し、(B)成分のスチレン−共役ジエンブロック共重合体が下記(d)〜(f)項の特徴を有し、更に樹脂組成物として下記(g)および(h)項の特徴を有するスチレン系樹脂組成物。
【0010】
(a)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する結合単位がスチレン系結合単位60〜97重量%と(メタ)アクリル酸エステル系結合単位40〜3重量%から成り、
(b)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、スチレン系結合単位および(メタ)アクリル酸エステル結合単位を分子中に少なくとも各1単位含有する環状構造トリマーを1,000〜10,000ppmの範囲で含有し、
(c)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量が15万〜55万の範囲であり、
(d)スチレン−共役ジエンブロック共重合体のブロック構造が、少なくとも2つのスチレン系重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン系重合体ブロックから構成され、
(e)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成する結合単位がスチレン系結合単位40〜95重量%と共役ジエン結合単位60〜5重量%から成り、
(f)スチレン−共役ジエンブロック共重合体の重量平均分子量が5万〜40万の範囲であり、
(g)スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が50〜99℃の範囲であり、
(h)スチレン系樹脂組成物の1mm厚平板にしての全光線透過率が75%以上である。
【0011】
一般に、スチレン系重合体の重合方法は、ラジカル重合法、アニオン重合法、配位アニオン重合法およびカチオン重合法が、技術的に公知である。この中で、本発明のスチレン系樹脂組成物の(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体はラジカル重合法で得られる。
スチレン系重合体のラジカル重合法をプロセスから分類すると、バッチ重合法と連続重合法がある。また、用いる媒体からの分類として塊状重合法、溶液重合法、縣濁重合法および乳化重合法が公知であり、それぞれに特徴があって、工業的にも実施されている。更に、ラジカル重合法を開始剤の面から分類すると熱ラジカル重合法、開始剤ラジカル重合法が公知である。
【0012】
この中で、本発明のスチレン系樹脂組成物の(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は連続プロセスの塊状又は溶液の開始剤ラジカル重合によって得られる。好ましくは、二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端より生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状あるいは溶液重合法で、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合して成り、下記(a)および(b)項に制御することを特徴とするスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法により得られる。
(a)供給する単量体構成をスチレン系単量体60〜97重量%および(メタ)アクリル酸エステル単量体40〜3重量%の範囲とし、
(b)重合槽各部位における(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が、常に全単量体に対して1重量%を超えるように制御する。
【0013】
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、スチレン系結合単位および(メタ)アクリル酸エステル結合単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーを一定量含有することを一つの特徴とする。
即ち、本発明のスチレン系樹脂組成物においては、スチレン結合単位のみから構成される環状スチレントリマー(以降は単に「環状スチレントリマー」と略す)を抑制し、大半の環状トリマーをスチレン系結合単位および(メタ)アクリル酸エステル結合単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマー(以降は「共反応環状トリマー」と略す)にしたスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用いることを一つの特徴とする。ここで言う環状トリマーとは、分子中にテトラリン骨格を有するトリマーを意味する。
【0014】
この様なスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用いることによって、得られるスチレン系樹脂組成物は、加工安定性が顕著に向上する。この作用効果の発現機構は、必ずしも明確に解明できていないが、次の様に考えている。一般にスチレン系重合体は、重合時にスチレン分子(ジエン構造)と他のスチレン分子(オレフィン構造)とはディールスアルダー型反応により環状ダイマー、例えば1−フェニル−2,3−ジヒドロナフタレンを生成する。この種の環状ダイマーは不安定でラジカルを生成し易く、スチレン重合体の安定性低下の大きな原因となる。
本発明のスチレン系樹脂組成物の(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、その重合時に常時少量の(メタ)アクリル酸エステルを共存させる。これが環状ダイマー生成時、あるいは生成した環状ダイマーに高い反応速度で付加して、(メタ)アクリル酸エステル1分子あるいは2分子が付加した安定なトリマーを形成する。それ故、該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体中にはスチレン3分子からなるトリマーは、仕込み単量体組成に比して極めて少なくなる。
【0015】
この結果、該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含有する本発明のスチレン系樹脂組成物は、従来の同様の組成を有する樹脂に比して驚くべき加工安定性を発現する。広くスチレン系樹脂に含まれる環状オリゴマー構造の限定、特に環状トリマー構造の限定による作用効果およびその含有量の制御方法は、従来は全く知られていなかった。
ここで言う環状オリゴマーとは、スチレン結合単位および(メタ)アクリル酸エステル結合単位の合計2〜3結合単位から構成されるものである。これらの環状オリゴマー、特に環状トリマーの構造式は、それぞれが立体異性体を有し、ガスクロマトグラフィー等での分析時にはいくつかの成分が分離、観測される。
【0016】
次に、環状トリマーの具体例を挙げる。ここではスチレン系単量体としてスチレン、(メタ)アクリル酸エステルとしてアクリル酸のアルキルアルコールエステルからなるトリマーを例にするが、これらは例であってこれらの構造に限定されるものではない。他のスチレン系単量体、メタアクリル酸エステルを用いた場合、それぞれに対応するオリゴマーが生成することは当然である。
スチレンの3結合単位からなる環状トリマーの主な化合物の例として1−フェニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリン、1−フェニル−4−(2−フェニルエチル)テトラリン、1,3,5−トリフェニルシクロヘキサンが挙げられる。
【0017】
スチレンの2結合単位とアクリル酸エステルの1結合単位からなる環状トリマーの主な化合物の例として1−フェニル−(1−アルコキシカルボニルエチル)テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(アルコキシカルボニル)テトラリン、1−(2−フェニルエチル)−4−(アルコキシカルボニル)テトラリン、1,3−ジフェニル−5−アルコキシカルボニルシクロヘキサンが挙げられる。
スチレンの1結合単位とアクリル酸エステルの2結合単位からなる環状トリマーの主な化合物の例として1−アルコキシカルボニル−4−(1−アルコキシカルボニルエチル)テトラリン、1−アルコキシカルボニル−4−(2−アルコキシカルボニルエチル)テトラリン、1−フェニル−3,5−ジアルコキシカルボニル)シクロヘキサンが挙げられる。
アクリル酸エステル3結合単位からなるトリマーの存在は確認できなかった。ここで言うアルコキシ基はアクリル酸エステルを構成するアルコールの構成残基である。
【0018】
これらの環状トリマー類は、前述の如くスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体重合時に単量体の副反応により生成する。これに対して、重合後の重合体の酸化劣化や熱分解、機械的分解等によってもオリゴマー類は生成する。生成するオリゴマーは、主に上述の環状構造(テトラリン骨格)を有さない鎖状オリゴマーである。
この種の鎖状トリマーの内、スチレン結合単位とアクリル酸エステル結合単位を分子中に少なくとも各一単位含有する鎖状トリマーの主な例として2,4−ジフェニル−6−アルコキシカルボニル−1−ヘキセン、2,6−ジフェニル−4−アルコキシカルボニル−1−ヘキセン、4,6−ジフェニル−2−アルコキシカルボニル−1−ヘキセン、2−フェニル−4,6−ジアルコキシカルボニル−1−ヘキセン、4−フェニル−2、6−ジアルコキシカルボニル−1−ヘキセン、6−フェニル−2,4−ジアルコキシカルボニル−1−ヘキセンが挙げられる。
【0019】
更に、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体には、その単量体構成単位の整数倍に一致しないトリマー近似化合物が少量含まれる。ここでは具体的化合物名を示さないが、例えば二重結合が飽和(水素が付加)した鎖状トリマー類や炭素原子の1つ足りない鎖状トリマー類等が存在する場合がある。これらは主に重合後、重合体の分解により生成するオリゴマー関連化合物であって、重合プロセス、重合条件には基本的に依存しない。
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる共反応環状トリマーの含有量は1, 000〜10,000ppmの範囲である。好ましくは1,000〜6,500ppmの範囲である。
共反応環状トリマー量をこの範囲に限定することによって、スチレン系樹脂組成物の加工安定性が顕著に改善する。これにより、成形の加工条件幅を大きく拡大でき、スチレン系樹脂組成物のリワークを容易にする等、実用的効果は極めて大きい。
【0020】
しかし、共反応環状トリマーの含有量が極度に多いと、得られるスチレン系樹脂組成物のシートおよびフィルム等の自然収縮や強度性能の低下、更には成形時の金型やダイが汚染を来して好ましくない。
共反応環状トリマーの含有量が1,000ppm未満の重合体の製造には低温での重合が要求され、コスト的に不利である。また、得られるスチレン系樹脂組成物の成形加工性、シートの延伸加工特性等も低下傾向にあり好ましくない。
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合して得られる。
スチレン系単量体は、スチレンの他に、少量の公知のビニル芳香族単量体を含んでいても構わない、この例としてα−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tertブチルスチレン、およびこれらの混合物等を挙げることができる。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、C1〜C8の範囲のアルコールとアクリル酸およびメタアクリル酸のエステル化合物から選ばれる。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸プロピル、メタアクリル酸ブチル、メタアクリル酸ペンチル、メタアクリル酸ヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル等を挙げることができる。
また、これらの単量体の2種以上を組み合わせて用いても構わない。特にメタクリル酸メチルを用いる場合、得られる重合体の軟化温度を調整するため、他の(メタ)アクリル酸エステルと組み合わせて用いることが好ましい。
低温加工性、耐候性、強度等のバランスの面で、(メタ)アクリル酸エステル単量体はアクリル酸エステル単量体であることが好ましい。アクリル酸エステルはメタアクリル酸エステルに比較して、少量の使用でスチレントリマーの生成を抑制できる。
【0022】
アクリル酸エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチルが更に好ましく、アクリル酸n−ブチルが最も好ましい。アクリル酸n−ブチルを用いることによって、得られる低温加工性シートおよびフィルム等の加工性や物性をバランス良く改良できる。
また、該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する単量体は、本発明の目的を阻害しない範囲で、共重合可能な他のビニル系単量体を含んでいても構わない。この好ましい具体例としては、アクリル酸、メタアクリル酸およびその塩が挙げられる。
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のを構成する単量体組成は、スチレン系単量体60〜97重量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体40〜3重量%の範囲である。好ましくは、スチレン系単量体65〜95重量%、更に好ましくは70〜93重量%、特に好ましくは75〜90重量%の範囲であり、残余の成分は(メタ)アクリル酸エステル単量体である。
【0023】
スチレン単量体が60重量%未満では、得られるスチレン系樹脂組成物の耐熱性が過度に低下して好ましくない。具体的には成型品の熱的変形や熱収縮フィルムの自然収縮が起こり易く、好ましくない。また、スチレン系単量体が97重量%を越えると、得られるスチレン系樹脂組成物の冷間延伸加工時の適正温度幅が著しく狭まり、また強度性能が低下して好ましくない。更には、(メタ)アクリル酸エステル単量体の導入量の低下に伴い、環状スチレントリマーが増大し、加工安定性が低下を来して好ましくない。
また(メタ)アクリル酸エステル単量体は、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上がアクリル酸エステルである。また、アクリル酸エステルとしてはアクリル酸n−ブチルが特に好ましい。
これにより、環状トリマー中の共反応環状トリマー含有率を更に高くでき、得られるスチレン系樹脂組成物の加工安定性を一層改善できる。
【0024】
一般に、バッチ重合プロセスにより得られるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、スチレンおよび(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合性の差異に基づき、重合中に単量体組成が変化する。結果として重合体組成分布も大きくなる。そのため得られるスチレン系樹脂組成物の特定の樹脂性能、例えば低温シーティング時の伸び等の低温加工性が低下して、好ましくない。
また、共重合反応性の違いにより残存(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が低下すると、環状スチレントリマーの生成量が増大する。この結果、得られるスチレン系樹脂組成物の加工安定性の改善効果が低減して好ましくない。
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端より生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状あるいは溶液重合法により得られる。また、プロセスの一部に重合槽を並列に連結することは、重合体の組成分布を拡大あるいは調整する上で好ましい場合がある。
【0025】
更には、二基以上の重合槽を直列に連結し、最終重合槽の混合状態がプラグフロー流れの重合プロセスであることが好ましい。最も好ましくは、前段に完全混合重合槽、後段にプラグフロー重合槽を含む重合プロセスである。これにより、得られるスチレン系樹脂組成物の加工安定性を保持したまま、高い重合転化率を効率的に達成できる。
各重合槽の具体的形状は、その混合状態を達成する限り、特に限定するものではない。例えば、完全混合重合槽とは攪拌機を備え、上下混合の利いたタンクリアクターである。例えば、プラグフロー重合槽は上下攪拌の少ない塔状重合槽、スタティックミキサー、または温度制御された単なる配管でも構わない。
各重合槽の容量は特に限定するものではない。全重合槽容量の和は、重合温度条件や原材料仕込み速度によるが、仕込み単量体の好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上の重合に要する滞留時間を達成するに要する容量である。
【0026】
各重合槽の容量比は、その混合状態にも依存するが、極端な容量差がないことが好ましい。他の反応槽容量に対して、極端に小さい重合槽を連結しても、重合槽直列連結の意味は少ない。
特に最終重合槽の混合状態が、プラグフロー流れである場合、その重合槽の全重合槽容量に占める割合は、好ましくは5〜80%、更に好ましくは10〜60%の範囲である。
また、直列に連結した重合槽を用い、2つ以上の部位に単量体を分割して仕込むことは、重合槽の各部位の全単量体に対する(メタ)アクリル酸エステル濃度を制御するに好ましい。それぞれ原料組成を調整し、原料供給を一箇所もしくは数カ所に分割することが出来る。
【0027】
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重合においては、重合槽各部位における(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度を、常に全単量体に対して1重量%を超える濃度に制御する必要がある。好ましくは2重量%を超え、更に好ましくは3重量%、特に好ましくは5重量%を超える濃度に制御する。
共存する(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が著しく低減すると、環状スチレントリマーの生成量が増大し、本発明の目的を達成できない。(メタ)アクリル酸エステル濃度の均一化を達成する方策は、(メタ)アクリル酸濃度の低下する箇所に該単量体を分割的に仕込むことで達成できるし、重合液流れと逆の混合流れを一部作ることによっても達成できる。
【0028】
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重合においては、有機ラジカル発生剤を開始剤に用いる。有機ラジカル発生剤としては、有機過酸化物およびアゾ化合物等が挙げられる。特に好ましい有機ラジカル発生剤は有機過酸化物である。
有機過酸化物の種類は、実施する重合温度での半減期が好ましくは10分から10時間の化合物から選ばれる。重合温度条件にもよるが、更に好ましくは10時間の半減期を得る温度が50〜130℃の範囲、特に好ましくは80〜120℃の範囲の有機過酸化物から選ばれる。
【0029】
具体的な好ましい有機過酸化物の例としては、オクタノイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシル2−エチルヘイサノエート、サクシニックパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、m−トルオルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサノエート、1,2−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカルボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ−メチル−2、5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α、α’ −ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。
【0030】
最も好ましい有機過酸化物は1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである。
有機ラジカル発生剤の使用量は、全単量体あたり、好ましくは5〜5,000ppmの範囲である。より好ましくは50〜2,000ppmの範囲、特に好ましくは100〜1,000ppmの範囲である。
有機ラジカル発生剤の使用量が5ppm未満では、開始剤ラジカル重合と平行して、熱ラジカル重合が進行するためか、共反応環状トリマー生成量が著しく増大する。このため、本発明のスチレン系樹脂組成物における作用効果、即ち加工安定性の他、シートおよびフィルム加工時の厚みの均一性、得られるシートおよびフィルムの強度等の樹脂性能が低下して好ましくない。また、有機ラジカル発生剤が5,000ppmを越えるとコスト的に不利なだけでなく、重合反応が不安定となり、好ましくない。
【0031】
重合時に連鎖移動剤や分子量調整剤を添加することもできる。これらの連鎖移動剤や分子量調整剤は、スチレン重合体製造において公知の連鎖移動剤や分子量調整剤から選ぶことができる。これらの具体的化合物の例として、四塩化炭素等の有機ハロゲン化合物、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン化合物、α−メチルスチレンダイマー等のベンゼン環に対するα位炭素に活性水素を有する炭化水素化合物が挙げられる。最も好ましい化合物はα−メチルスチレンダイマーである。
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重合は、無溶媒もしくは少量の有機溶媒を使用して実施される。好ましい有機溶媒は、得られるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を溶解可能で、重合反応時のラジカルに対する反応性が低く、かつ重合後に溶媒の加熱除去が容易な有機化合物から選ばれる。この好ましい例としてC6〜C10の芳香族炭化水素化合物および環状の脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。具体例としてトルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサンおよびこれらの混合溶媒等が挙げられる。また、一部に鎖状の脂肪族炭化水素を含んでいても構わない。
【0032】
重合溶媒の使用量は、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体100重量部当たり、好ましくは200重量部以下、更に好ましくは100重量部以下、特に好ましくは50重量部以下である。
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造においては、主たる重合温度を70〜150℃の範囲で実施することが好ましい。主たる重合温度とは、得られる重合体の少なくとも50重量%、好ましくは70重量%、特に好ましくは90重量%の重合が進行する温度を意味する。更に好ましくは主たる重合温度は80〜140℃、特に好ましくは90〜130℃の温度範囲である。
主たる重合温度がこの範囲に制御されている限り、重合体の一部を重合する温度がこの範囲を外れても構わない。例えば、数基の重合槽を直列連結したシステムでは、重合の初段階または後段階の一部の重合に、上述の温度範囲を外れて実施することはできる。また、数基の重合槽を並列連結したシステムでは、一部の重合槽の温度をこの範囲を超えて制御して実施することが好ましい場合がある。
【0033】
具体的には、重合後期に重合を完結させるために、該温度範囲を超えることは目的によっては好ましい。また、重合槽の冷却を補助するために冷却した原材料を連続的に仕込む場合、一部の重合ゾーンの温度が該温度範囲を下回る場合がある。
主たる重合温度が過度に高いと環状スチレントリマーの生成量が増大し、得られるスチレン系樹脂組成物の加工安定性の改善効果が低減して好ましくない。過度に低い温度は重合液の粘度が著しく増大して、重合槽の混合が困難となり、また重合速度が低下する等して実用的でない。
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重合では、重合転化率は好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上に制御する。高い転化率は、当然生産効率の点で好ましい。重合転化率が60重量%を下回ると、生産効率低下、脱揮工程の設備的およびエネルギー的負荷の過大を来たし、好ましくない。また、脱揮工程で残存単量体を取りきれず、得られる重合体の樹脂性能や臭気が問題になり易い。
【0034】
重合終了後、該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、含有する未反応単量体や重合溶媒を脱揮、除去することにより、重合体が回収される。未反応単量体や重合溶媒の脱揮、除去の方法は、特に限定するものではない。ベント付押出機、フラッシュタンク等の既存スチレンの重合体の製造で公知の方法が利用できる。
脱揮時の平均重合体温度は、好ましくは180〜250℃の範囲、更に好ましくは190〜240℃の範囲、特に好ましくは200〜230℃の範囲である。極度に低い脱揮温度では、重合体中に残る単量体含有量が多くなり、好ましくない。また極度に高い温度では、重合体の熱分解により生成する鎖状オリゴマーが増加し好ましくない。但し、脱揮の最終段階で短時間この範囲を超える温度で脱揮することは、得られスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の熱的分解を抑え、かつ残存する単量体量を減らす上で好ましい場合がある。
【0035】
脱揮時の真空度は常圧でも可能であるが、好ましくは50torr以下、より好ましくは20torr以下である。真空度を上げる(絶対圧を低くする)ことにより、低い重合体温度で脱揮効率を高めることができ、好ましい。しかし、真空度を余りに上げることは設備的な限界があり、通常5torr以上の圧で実施される。
また、一連の脱揮プロセス内で一度脱揮処理した重合体に、水、アルコール、炭酸ガス等の重合体に非溶解性の揮発性物質を圧入、これに同伴する形で揮発成分を脱揮する方法は好ましく利用できる。
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量は、15万〜55万の範囲であることが好ましい。更に好ましくは18万〜50万の範囲、特に好ましくは20万〜45万の範囲である。
【0036】
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量が15万未満では、得られるスチレン系樹脂組成物の強度性能、特に引き裂き強度、引っ張り強度が著しく低下して、好ましくない。また、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量が55万を越えると、得られるスチレン系樹脂組成物の加工性、特に成型加工性が著しく低下して、やはり好ましくない。重量平均分子量/数平均分子量の比は好ましくは1.5〜3.9範囲、特に好ましくは1.8〜3.2範囲である。分子量分布があまりに狭いと、加工性、特にフィルムおよびシートの高延伸倍率の延伸加工が困難となり好ましくない。分子量分布があまりに広いと、強度性能、例えば引張り破断強度や表面硬度が低下して好ましくない。
【0037】
また、MFR(ISO R1133に準拠して測定(条件:200℃、荷重5kgf))は1〜20g/10分の範囲が好ましく、2〜15g/10分の範囲が特に好ましい。この範囲内に設定することにより、得られるシートおよびフィルム、更に二次加工して得られる熱収縮フィルムの厚み斑が少なくなる。また、低温での高延伸倍率の加工が容易となり、強度性能にも優れて好ましい。
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のスチレン系単量体含有量は、好ましくは500ppm未満である。更に好ましくは300ppm未満、特に好ましくは200ppm未満、最も好ましくは100ppm未満である。スチレン系単量体の含有量が500ppm以上では、成型加工時の金型やノズル等の汚染が起こり易く、更に成型体表面に対する印刷性の低下が起こり、好ましくない。
【0038】
該スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、好ましくは500ppm未満である。更に好ましくは300ppm未満、特に好ましくは200ppm未満、最も好ましくは100ppm未満である。(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量が500ppm以上では、成型加工時の金型やノズル等の汚染が起こり易なる。また得られるスチレン系樹脂組成物の耐候性が低下し、また臭気を来す場合があり好ましくない。
本発明のスチレン系樹脂組成物を構成する(B)成分はスチレン−共役ジエンブロック共重合体である。該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、スチレン結合単位を主成分とする2つ以上のブロックと、共役ジエン結合単位を主成分とする1つ以上のブロックを有する。
【0039】
具体的なスチレン−共役ジエンブロック共重合体のブロック構造は、例えば一般式(1)〜(3)で表される直鎖ブロック共重合体および一般式(4)〜(7)で表されるラジアル状ブロック共重合体である。
(A−B)n A (1)
(A−B)m (2)
(B−A)m B (3)
[(A−B)n ]m −X (4)
[(B−A)n+1 ]m −X (5)
[(A−B)n −A]m −X (6)
[(B−A)n −B]m −X (7)
(式中、Aはスチレン結合単位を主成分とし、数平均分子量5,000〜200,000の範囲のブロックであり、各Aは同一構造でも、異なった構造であっても構わない。Bは共役ジエン結合単位を主成分とし、数平均分子量10,000〜500,000の範囲のブロックであり、各Bは同一構造でも、異なった構造であっても構わない。Xは多官能のカップリング剤、nは1以上、mは2以上の整数を表す。また、本発明の趣旨からして、B−X−BおよびA−X−Aのブロック連鎖構造は、他のブロックで分割されているわけではなく、本ブロック分子量規定においては1つのブロックに対応すると考える。)
【0040】
また、該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、上記のブロック構造規定に該当しない不完全なブロック重合体、例えばAの単独重合体、Bの単独重合体、あるいはA−Bジブロック共重合体等を、本発明の効果を阻害しない範囲で、一部含んでいても構わない。またAブロックとBブロックとの間に、共重合組成の順次変化する傾斜部分を含んでいても構わない。
Aブロックはスチレン結合単位を主成分とするブロックであるが、少量の共重合可能な他の重合体、例えばスチレン以外のビニル芳香族化合物または共役ジエン類からなる結合単位を含んでいても構わない。
Bブロックは共役ジエン結合単位を主成分とするブロックであるが、少量の共重合可能な他の単量体、例えばビニル芳香族炭化水素からなる結合単位を少量含んでいても構わない。最も好ましい共役ジエンはブタジエンおよび/またはイソプレンである。
【0041】
該スチレン−共役ジエンブロック共重合体におけるスチレン系結合単位の含有率は40〜95重量%の範囲であり、共役ジエン結合単位の含有率は60〜5重量%の範囲である。さらに好ましいスチレン系結合単位の含有率は50〜90重量%、特に好ましくは60〜85重量%の範囲であり、残余の成分は共役ジエン結合単位である。ここに、スチレン結合単位とはスチレンおよびその他のビニル芳香族化合物からなる結合単位の和である。
該スチレン−共役ジエンブロック共重合体の重量平均分子量が5万〜40万の範囲である。好ましくは6万〜30万、さらに好ましくは7万〜20万の範囲である。
分子量が低過ぎると、得られるスチレン系樹脂組成物の機械的強度が低下して好ましくない。また分子量が高過ぎると加工性や、重合体成分の混合分散性が低下して、均一なスチレン系樹脂組成物が得られず、好ましくない。
【0042】
該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は公知の方法により製造できる。例えば、炭化水素溶媒中で、有機リチウム開始剤を用い、バッチプロセスあるいは連続重合プロセスで、スチレン系単量体および共役ジエン単量体を順次ブロック共重合することにより得られる。または共重合後、リチウム活性末端をカップリング反応することによりラジアル構造にブロック共重合体化することもできる。スチレン−共役ジエンブロック共重合体の具体的製造法としては、例えば、特公昭45−19388号公報、特公昭47−43618号公報の技術を挙げることができる。
【0043】
重合時に利用できる溶媒は、基本的に有機リチウム開始剤に対して不活性で、単量体および生成重合体を溶解できる炭化水素溶媒であって、重合時に液状を保ち、重合後の脱溶媒工程で脱揮除去が容易な溶媒が挙げられる。例えばC5〜C9の脂環式炭化水素溶媒、C5〜C9の脂肪族炭化水素およびC6〜C9の芳香族系溶媒が挙げられる。特にC5〜C9の脂環式炭化水素溶媒が好ましく利用できる。具体的にはシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、シクロヘキセンおよびこれらの混合物等が挙げられる。また、エーテル化合物や第3アミン化合物の混合は、有機リチウムの単量体に対する重合活性を改善できる。重合溶媒の使用量は、好ましくは単量体1kg当たり1〜20kgの範囲である。より好ましくは2〜10kg、特に好ましくは3〜5kgの範囲である。
【0044】
重合温度は好ましくは0〜130℃の範囲で制御する。より好ましくは10〜120℃、特に好ましくは20〜110℃の範囲で制御する。バッチプロセスの重合温度は、一般に各ブロックの重合が断熱的に昇温しながら重合することになるが、この温度範囲に制御することが好ましい。重合温度が極度に低いと反応速度が低下して実用性がない。また、重合温度が極度に高いと、リビング活性末端が失活してスチレン−共役ジエンブロック共重合体のブロック構造が不完全となり、得られるスチレン系樹脂組成物の各種強度性能が低下して好ましくない。
重合終了後、該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、含有する未反応単量体や重合溶媒を脱揮、除去することにより、重合体が回収される。未反応単量体や重合溶媒の脱揮、除去の方法は、特に限定するものではない。ダブルドラムドライヤー、水に分散させてのスチームストリッピング、ベント付押出機、フラッシュタンク等の既存スチレン系重合体やゴムの製造で公知の方法が利用できる。
【0045】
残存する単量体や溶媒の量や揮発性にもよるが、一般には温度を100〜250℃、好ましくは120〜200℃、真空度は好ましくは0〜常圧、さらに好ましくは100Pa〜50KPaにて揮発性成分を脱揮除去する。複数の脱揮除去装置を直列に接続する方法は高度な脱揮に効果的である。また、例えば1段目と2段目の間に水を添加して2段目の脱揮能力を高める方法も、好ましく利用できる。
本発明のスチレン系樹脂組成物を構成する(C)成分は前記(A)あるいは(B)のスチレン系重合体に相溶な重合体である。具体的にはスチレン、あるいはスチレンと共重合可能な単量体との共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、各種石油系樹脂等が挙げられる。
【0046】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、
(A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体 5〜95重量%、
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体 95〜5重量%および
(C)前記(A)あるいは(B)のスチレン重合体に相溶な重合体 0〜30重量%から成る。
(A)成分の組成は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜85重量%、特に好ましくは50〜80重量%の範囲である。用途にもよるが、例えば熱収縮フィルムにおいては、5重量%未満では混合効果が発現せず、得られるスチレン系樹脂組成物の剛性が不足し、熱収縮フィルム等の用途により好ましくない。また、95重量%を超えるとフィルムが硬くて脆くなり好ましくない。(B)成分の組成は、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは10〜70重量%、特に好ましくは20〜50重量%の範囲であり、上述の(A)成分単独の欠点である脆さ、柔軟性、伸び等の性能を顕著に改善できる。
(C)成分の組成は、好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0〜10重量%の範囲である。(C)成分の混合により、軟化温度、剛性および流動性のバランスを改善でき、目的に応じて得られるスチレン系樹脂組成物の性能を調整できる。
【0047】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、(A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体、更に必要により(C)スチレン重合体に相溶な重合体から構成されるが、必ずしもこれに限定するものではない。例えばスチレン系樹脂において使用が一般的な各種添加剤を、公知の作用効果を達成するために添加することもできる。例えば滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、可塑剤、染料、顔料、各種充填剤等を、同様な効果を達成するために添加することができる。
また更に用途にもよるが、例えばフィルムに使用する場合、フィルム用途で一般的な添加剤である帯電防止剤、防曇剤、無機微粉体等を混合してもよい。
酸化防止剤として、フェノール系またはフェノールアクリレート系〔例えば:2−tert−ブチル−6(3′−tert−ブチル−5′−メチル−2′−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートおよびこれ等の誘導体がある〕が好ましい。上記化合物に加え燐系の酸化防止剤〔例えば:トリ(2,4−ジ−tert−ブチル)−フェニルフォスファイト,トリ(4−ノニル)−フェニルフォスファイト等〕を使用するのがより好ましい。更に上記2種のタイプに加え、イオウ含有系の酸化防止剤を加えるのが良い場合が多い。またこれ等はそれぞれ単独に使用しても良いし、組み合わせても良い。
【0048】
各酸化防止剤の添加量は、混合樹脂100重量部に対してそれぞれ0.01〜5.0重量部、好ましくは0.05〜3.0重量部、より好ましくは0.10〜2.0重量部、更に好ましくは0.2〜1.0重量部である。0.01重量部未満では樹脂の熱劣化(例えば、架橋や分子量低下等)の防止作用が発現せず、また5.0重量部を超える分散不良、強度低下、透明性の低下、コスト高等の問題が起こり、好ましくない。
帯電防止剤としては、アミン系、アミド系のものが好ましい。例えばアミン系として、ヒドロキシエチルアルキルアミンおよびその誘導体、アミド系としてはヒドロキシエチル脂肪酸アミドおよびその誘導体等が好ましく利用できる。
帯電防止剤の添加量は、樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.2〜3. 0重量部、より好ましくは0.4〜2.0重量部である。0.1重量部未満では帯電防止効果が現れ難いし、5重量部を超えると成型体表面の光沢が失われ、印刷適性が低下を来す等の問題がある。
また、可塑剤としては、DOP、DOA、ATBC、DBS等の酸エステル類、ミネラルオイルのごとき流動パラフィン類を0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%加えても良い。
【0049】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、各重合体成分の混合方法は特に規定しない。各種の樹脂加工機器、例えばニーダー、バンバリーミキサー、押出し機を用いた機械的混合、溶媒に溶かして、あるいは重合体製造時に重合体溶液での溶液混合が利用できる。
本発明のスチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が50〜99℃の範囲である。ビカット軟化温度は、ASTM−D1525法に準じて荷重1kg、昇温スピード20℃/分で測定される。ビッカット軟化温度は好ましくは55〜95℃の範囲、特に好ましくは60〜90℃の範囲である。
例えば熱収縮フィルム用途では、低温での収縮性を重視する場合は、ビッカット軟化温度は70℃程度のものが良好であり、また比較的高温での収縮性を必要とする場合は90℃程度のものが良好である。実際には使用条件に合わせて最適なビカット軟化温度の重合体樹脂を選ぶのが好ましい。
軟化温度が余りに低いと、延伸シートおよびフィルムを常温保管中に寸法変化、収縮力低下現象等を発生するため実用的でなくなり、また強度が低下して好ましくない。一方、軟化温度が余りに高いと、重合体の柔軟性が低下して脆くなり、また低温加工性が著しく低下する。この場合加工温度を高くすれば、シーティングや延伸およびこれらの二次成形加工は可能となるが、加熱時の適正温度幅が狭く、加工操作が難しくなり好ましくない。
【0050】
本発明のスチレン系樹脂組成物の1mm厚平板にしての全光線透過率が75%以上である。好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。本発明のスチレン系樹脂組成物の大きな特長の一つは透明性にある。全光線透過率が75%未満では、本発明の目的とする透明樹脂用途に使用出来ない。
優れた透明性を発現するには、(A)〜(C)の各重合体成分が微分散していること、および重合体各成分の屈折率が近いことが望まれる。特に重合体の(A)成分および(B)成分の分散粒子系は、重量平均の長径は好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm、特に好ましくは1μm以下である。また、両成分の屈折率の差異は好ましくは0.01以下、更に好ましくは0.005以下、特に好ましくは0.002以下である。
屈折率の差は重合体の(A)成分および(B)成分を構成する単量体種および組成により調整できる。
【0051】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、シートおよびフィルムあるいは更に二次加工して、各種包装、容器材料、ブリスターキャアップ、熱収縮ラベル材料に特に好ましく使用できる。しかし、本発明のスチレン系樹脂組成物の利用はこれらに限定するものではない。本発明のスチレン系樹脂組成物の達成する特長を発揮できる各種用途に広く使用できる。例えば、射出成形やインジェクションブロー成形等からなる食品容器、日用品、雑貨、OA機器部品、弱電部品等に使用することもできる。
本発明のスチレン系樹脂組成物を成型、延伸加工してなる熱収縮フィルムは、その特性およびフィルム製法を限定するものではない。一般的な熱収縮フィルムの延伸倍率は主延伸方向に2.0〜10.0倍、好ましくは2.5〜8.0倍で、同様に対直角方向には1.1〜2.5倍、好ましくは1.2〜2.0倍の範囲である。また好ましい延伸倍率比は前者/後者比で1.8〜9.1、より好ましくは2.0〜6.7の範囲である。該スチレン系樹脂組成物の軟化温度にも依存するが、延伸温度は一般に60〜150℃の範囲である。好ましくは70〜120℃の範囲である。
【0052】
本発明の熱収縮フィルムは落錘衝撃強度が少なくとも5kg・cmであることがフィルムの実用性能に重要で、好ましくは10kg・cm以上、より好ましくは20kg・cm以上、更により好ましくは30kg・cm以上である。5kg・cm未満では、包装機械で繰り出した(引張り)時にフィルム切れが発生し好ましくない。
熱収縮フィルムの層構造も特に限定するものではない。本発明のスチレン系樹脂組成物は多層フィルムの少なくとも1層として利用すれば良い。その場合、同種(本発明のスチレン系樹脂組成物)を組み合わせた多層フィルム、または異種(本発明のスチレン系樹脂組成物以外のもの)との組み合わせによる多層フィルムの少なくとも1層(表層あるいは内部層)として利用しても良い。
また、フィルムの厚みは、その用途により異なるが通常5〜800μで、好ましくは10〜500μ、より好ましくは20〜300μの範囲である。
熱収縮フィルムへの成形加工方法は特に限定するものではない。同時2軸や逐次2軸など一般的に使用されている設備、例えばテンター延伸法、バブル延伸法、ローラー延伸法等で代表される延伸成膜設備等での延伸加工が利用できる。
【0053】
【実施例】
以下、実施例および比較例をもって具体的に説明する。この説明は例であって何ら本発明を限定するものではない。
1.評価に用いた重合体の製造条件
実施例および比較例で使用したスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体およびスチレン−共役ジエンブロック共重合体を以下の方法で製造した。
製造例1(スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造例)
第1重合槽として攪拌機を備えた完全混合型重合槽(容量4リットル)、第2重合槽として攪拌機を備えたプラグフロー流の重合槽(容量2リットル)を2基直列に連結した重合装置を準備した。第1重合槽と第2重合槽との間には攪拌機を備えたラインミキサーを挿入した。
第1重合槽に、スチレン73.6重量%、アクリル酸n−ブチル18.4重量%、エチルベンゼン8重量%、有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を0.9リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部より抜き出した。
【0054】
次いで、前記に同組成の原料溶液0.1リットル/hrを追加供給し、ラインミキサーにて混合した後、第2重合槽を上部より下部に通過させた。第1重合槽の内温を105℃、第2重合槽の内温を120〜140℃に制御した。
得られた重合溶液は二段ベント付き脱揮押出機に連続的に供給し、未反応単量体および溶媒を脱揮して、重合体を得た。脱揮押出機は重合体温度を200〜240℃、真空度を20torrに制御した。
得られたスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から抽出したオリゴマー類を、前述の方法で測定した。スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含有する共反応環状トリマー量4400ppmであった。
【0055】
製造例2〜8(スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造例)
実施例1と同じ装置を用いて、同様の方式で重合を行なった。重合体組成が表1あるいは2になるようにスチレン、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルの原料溶液中の比率を変えた。
また、必要に応じて原料溶液中のエチルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンの濃度を調整あるいは連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)を添加した。更に重合温度も目的に応じて制御した。
なお、表1〜2において、スチレン、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルは、夫々ST、BA、EA、MA、MMAと略記する。
【0056】
製造例9(スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造例)
実施例1と同一の重合装置を用いた。第1重合槽に、スチレン73.6重量%、アクリル酸n−ブチル18.4重量%、エチルベンゼン8重量%および有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を1.0リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部より抜き出した。次いで、そのままの重合溶液を第2重合槽の上部より、下部に通過させた。各重合槽の内温は実施例1と同様に制御した。得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、重合体を得た。
製造例10(スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造例)
実施例1と同一の重合装置を用い、開始剤なしで熱的に重合した。第1重合槽の内温を120℃、第2重合槽の内温を150〜170℃に制御した。その他の条件は実施例7と同様にして実施した。
【0057】
製造例11(スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造例)
第1重合槽に、スチレン77.6重量%、アクリル酸n−ブチル19.4重量%、エチルベンゼン3重量%および1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を1リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部より抜き出した。次いで、単に第2重合槽を上部より、下部に通過させた。第1重合槽の内温を120℃、第2重合槽の内温を150〜170℃に制御した。
得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、重合体を得た。
製造例12(スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造例)
攪拌機を備えた10リットル重合槽にてバッチ重合した。スチレン78.2重量%、アクリル酸n−ブチル13.8重量%、エチルベンゼン8重量%、有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を7リットル供給、重合温度90℃で2時間、130℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間重合した。
得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、重合体を得た。
【0058】
製造例13(スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造例)
攪拌機を備えた130リットル重合槽に、純水50kg、ポリビニルアルコール50gを供給、攪拌混合した。次に、スチレン35kg、メチルメタアクリレート15kg、アルファーメチルスチレンダイマー25gを供給、95℃に昇温して6時間重合を行った。更に130℃で6時間重合を継続した。
重合して得られたビーズは洗浄、脱水、乾燥した後、220℃のベント付き押出機を通した。
製造例14(スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造例)
攪拌機を備えた完全混合型重合槽(容量4リットル)単独による連続重合を実施した。全反応槽滞留時間およびその他の条件はほぼ実施例1と同一にした。
具体的には、スチレン73.6重量%、アクリル酸n−ブチル18.4重量%、エチルベンゼン8重量%、有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を0.6リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部より抜き出した。重合槽の内温を120℃に制御した。
得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、重合体を得た。
【0059】
製造例15(スチレン−共役ジエンブロック共重合体製造例)
攪拌器を備えた容量100リッターの反応器に、溶媒としてシクロヘキサン50kg、ブタジエン単量体0.36kg、スチレン単量体3.6kgおよびノルマルブチルリチウム9.4ミリモルを仕込み、徐々に昇温しながら2時間かけて重合した。その後一度30℃まで冷却し、次いでブタジエン単量体2.44kgを仕込み、徐々に昇温しながら1時間かけて重合、更にスチレン単量体3.6kgを仕込み、再度昇温しながら2時間かけて重合した。
得られた重合体溶液はリチウム量の10倍当量のメタノールを添加することによりアニオン活性末端を失活させた。その後、重合体をメタノールにて沈殿分離した後、重合体100g当たり、0.05gの酸化防止剤を加えた後、ベント付き脱揮押し出し機を用い、160℃で揮発成分を除去した。
得られた重合体は、B−A−B−Aタイプのスチレン分布が一部傾斜のテトラブロック構造を有した。得られた重合体の構造は表1および2に記載した。
【0060】
製造例16(スチレン−共役ジエンブロック共重合体製造例)
攪拌器を備えた容量100リッターの反応器に、溶媒としてシクロヘキサン50kgを仕込み、その後50℃に保ちながら、重合開始剤であるセカンダリーブチルリチウム9.8ミリモル、スチレン単量体3.6kg、次いでブタジエン単量体1.68kgとイソプレン単量体1.12kgの共役ジエン単量体混合液、さらにスチレン単量体3.6Kgを順次仕込み、各ブロックを50℃〜80℃の温度範囲で、各1時間、2時間および1時間かけて重合した。
他の条件は製造例15と同様にして重合、脱揮処理した。この様にして得られた重合体は、A−B−Aタイプのトリブロック構造を有し、共役ジエン結合単位におけるイソプレン結合単位の割合は40重量%であり、得られた重合体のその他の構造は表1に記載した。
【0061】
製造例17(スチレン−共役ジエンブロック共重合体製造例)
攪拌器を備えた容量100リッターの反応器に、溶媒としてシクロヘキサン50kg、重合開始剤であるセカンダリーブチルリチウム28ミリモル、スチレン単量体7.2kgを仕込み、その後50℃に保ちながら1時間かけて重合した。次いでブタジエン単量体2.8kgを仕込み、徐々に昇温しながら2時間かけて重合した。重合完結後、8ミリモルのトリクロルメチルシラン8ミリモルを添加、混合し、アニオン末端をカップリングした。
得られた重合体は、微量の未反応A−Bジブロック構造体を含む、(A−B)3−Siタイプのラジアルのブロックポリマー構造をであった。他の条件は製造例15と同様にして重合、脱揮処理した。得られた重合体の構造は表1に記載した。
【0062】
2.樹脂性能の評価方法
実施例7、比較例1および2は、各表1あるいは表2に記載の重合体組成で、他の樹脂組成物は(A)成分70重量部および(B)成分30重量部の重合体組成で、添加剤混合物(フェノールアクリレート系の酸化防止剤(2−tert−ブチル−6(3′−tert−ブチル−5′−メチル−2′−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート)を0.5重量部、燐系の酸化防止剤(トリ(2,4−ジ−tert−ブチル)−フェニルフォスファイト)を0.2重量部、さらに他の燐系の酸化防止剤(トリ(4−ノニル)−フェニルフォスファイト)を0.3重量部、アミン系の帯電防止剤(ヒドロキシエチルアルキルアミン)0.7重量部を含む)を添加して、ブレンダーにて混合した。
この混合物を押出機中で190℃の温度で混合溶融した後、Tダイより押出し均一なシートに成形した。更に、該シートをロール延伸機を用い、90℃でMD方向(シート引出し方向)に1.6倍延伸した後、テンター延伸設備を用い、オーブン温度85℃でTD方向(ロール平行方向)に6.0倍に延伸して50μの逐次二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルム特性および樹脂特性ついて評価した。その結果を表1および表2に示す。
【0063】
3.樹脂性能の評価基準
各種性能評価項目の評価手法および意義は、次の示す評価方法、評価尺度に基づく。特に断りがない限り、評価するフィルムは成膜1日から3日の間、23℃で経過したものを用いた。
1)ビカット軟化温度:
ASTM−D1525法に準じて荷重1kg、昇温スピード20℃/分で測定。
性能評価基準
ビカット軟化温度は基本的な性能であるが、樹脂構造や樹脂組成で調整可能な性能であって、必ずしも本発明の本質的な作用効果を示すものではない。
2)熱収縮フィルム仕上性:
1.5リットルのPETボトル(30℃の水が充填された、最大径91mm、高さ310mmの円筒こけし状容器)に、筒状にした熱収縮フィルム(折り幅148mm、高さ90mm)をセットしたものを、熱風式加熱装置で内温度135℃、滞留時間10秒で熱収縮させ、熱収縮したフィルムがボトルにフィット状態を評価した。
熱収縮させてボトルにセットされたフィルムを指先で円周方向に軽く回転させてその動きの程度をみる。(10個ずつ評価して1つでも下記のものがあればそのランクとする)。
○:ボトルとの間の隙間がない、又は僅かに隙間のあるのもあるが、回転しない。
△:僅かに回転(1mm以内)する。
×:緩くてクルクル回転する。
【0064】
3)引張破断強度:
ASTM−D882に準拠して主延伸方向の対直角方向の値を測定した。(n=5の平均値)
フィルムの機械的強度を判定するもので、引張破断強度の高いものが優れる。○:3.0kg/mm2 以上
△:2.5〜3.0kg/mm2 未満
×:2.5kg/mm2 未満
4)引張破断伸度:
フィルムの伸び易さを成膜1日後に測定した。ASTM−D882に準拠して主延伸方向の対直角方向の値を測定した。(n=5の平均値)。成膜1日後のフィルムで測定した。
伸度が高くて経時低下しないものが、包装機械でのフィルム切れがすくなく、また印刷工程での溶剤や加熱等による品質低下がなく優れている。引張破断伸度は高いのが良い。
○:150%以上
△:120〜150%未満
×:120%未満
【0065】
5)耐折強度:
ASTM−D2176に準拠して荷重2kgで主延伸方向の対直角方向の値(2枚折りで重ねた状態)を測定した。(n=5の平均値で小数点以下は四捨五入)
フィルムは折り曲げて筒状にして使用するので、折り曲げた時の折り目に傷が付いて切れ難いかどうか判定する。切れるまでの折り曲げ回数の多いものが優れる。
○:31回以上
△:11〜30回
×:10回未満
6)自然収縮率:
主延伸方向のフィルム長さL0 に対する30℃で30日間オーブン中に保管後の寸法L1 を用いて次式で計算し、寸法収縮率Lを求める。
フィルムの例えば流通時の保管状態(雰囲気温度、保管時間)によって、フィルムの寸法変化(収縮)はサイズが小さくなって容器にはまり難くなるなどのトラブルの原因になるので、寸法変化率は少ないことがフィルムの品質上重要である。
L(%)=(L0 −L1 )×100/L0
◎:1.0%未満
○:1.0〜2.0%未満
△:2.0〜5.0%未満
×:5.0%以上
【0066】
7)光学特性:
フィルムの透明性や光沢は、フィルムの商品価値を大きく左右する。透明で、光沢の良いものが優れている。HAZEは小さい値、GLOSSは大きい値ほど良い。
a.透明性:
1mm厚のシートを射出成形し、その全光線透過率を求めた。
○:全光線透過率85%以上
△:同75〜85%
×:75%未満
b.光沢:
ASTM−D2457(角度45°)に準拠して熱収縮フィルムのGLOSS値(%)測定した。(n=5の平均値)
○:125%以上
△:100〜125%未満
×:100%未満
【0067】
8)リワーク樹脂性能:
各樹脂をビカット軟化温度+100℃にて押出し、ペレタイジング処理を3度繰返した。その後熱収縮フィルムを作成して、前記の熱収縮フィルム仕上性、耐折強度および次に示す流れムラを観察した。
a.熱収縮フィルム仕上性:バージン樹脂評価方法に同じ。
b.耐折強度:バージン樹脂評価方法に同じ。
c.流れムラ:
二軸延伸フィルムを目測観察し、表面の流れムラ(フィルム延伸に伴う、ライン状の凹凸)を評価した。フィルムは平滑で目立たないものが優れる。
◎:合格レベル(目視判断できる流れムラの発生が全くない。)
○:合格レベル(微妙な流れムラはあるが、明確に判断できる流れムラの発生はない。)
△:不合格レベル(時折、明確な流れムラが認められる。)
×:不合格レベル(常時、明確な流れムラが認められる。)
9)総合評価:
測定評価の10項目の結果をもとに熱収縮性硬質フィルムとしての総合判定を実施。判定基準は次の通り。
○最も良いレベル:各評価項目で◎または○。
△比較的良いレベル:△が2以下で、×がない。
×不合格レベル:△が3以上または×がある。
総合判定が○および△のランクにあるものは実用上合格のレベルであり、○は特に品質が優れる。
【0068】
4.樹脂性能の評価結果
1)実施例1、比較例5〜7
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる共反応環状トリマー含有量の影響を判断できる。共反応環状トリマーが10,000ppmを超えると、リワーク樹脂の顕著な性能低下が認められた。また、共反応環状トリマーが1,000ppm未満ではバージン樹脂の加工性能、特に熱収縮性能の低下が認められた。
2)実施例1〜6
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するアクリル酸エステル種および含有量を変えた実施例である。各種の(メタ)アクリル酸エステルを用いても、得られるスチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度等を調整することによって、優れた樹脂性能を発現できることを示すものである。
【0069】
3)実施例7
(C)成分として、石油系炭化水素樹脂であるテルペン系水素付加樹脂を5重量%添加した例である。テルペン系水素付加樹脂の添加によりスチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度の調整やフィルム光沢の向上が認められた。
4)実施例8および9
(B)成分のブロック構造を変えた実施例である。得られるスチレン系樹脂組成物はシートおよびフィルム用途に優れた性能を発現できることを示すものである。
5)実施例10
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造条件により、(メタ)アクリル酸エステル量が1,200ppmと増大した例である。得られるスチレン系樹脂組成物は熱収縮フィルム仕上性の低下が認められたものの、使用可能レベルであった。
【0070】
6)比較例1および2
(A)成分または(B)成分単味の性能評価結果を示した。各単独では樹脂性能のバランスに欠けるものであった。
7)比較例3および4
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体における(メタ)アクリル酸エステル含有量が、本発明の範囲を外れた例である。(メタ)アクリル酸エステル含有量が少ないとシートおよびフィルムの加工性能が低下する。また、多すぎると軟化温度が低くなって、樹脂としての実用性能が失われて好ましくない。なお、表2中の比較例4における「−」は、樹脂が軟質のゴム状でフィルムが形成できず、評価不能であったことを意味する。
8)比較例8
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を懸濁重合法で得た例である。共反応環状トリマーの低減によるリワーク樹脂性能の低下が認められた。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【発明の効果】
本発明のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル(例えばアクリル酸ブチル)共重合体とスチレン−共役ジエンブロック共重合体等から成るスチレン系樹脂組成物は、シートおよびフィルムの透明性、低温収縮性、腰の強さ、寸法収縮性、強靱性等における優れた特長を維持し、且つ加工安定性およびリワーク特性を顕著に改善するものである。
Claims (8)
- (A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体 5〜95重量%
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体 95〜5重量%
(C)前記(A)あるいは(B)のスチレン系重合体に相溶な重合体 0〜30重量%
から成るスチレン系樹脂組成物であって、且つ(A)成分のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が下記(a)〜(c)項の特徴を有し、(B)成分のスチレン−共役ジエンブロック共重合体が下記(d)〜(f)項の特徴を有し、更に樹脂組成物として下記(g)および(h)項の特徴を有するスチレン系樹脂組成物。
(a)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する結合単位がスチレン系結合単位60〜97重量%と(メタ)アクリル酸エステル系結合単位40〜3重量%から成り、
(b)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、スチレン系結合単位および(メタ)アクリル酸エステル結合単位を分子中に少なくとも各1単位含有する環状構造トリマーを1,000〜10,000ppmの範囲で含有し、
(c)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量が15万〜55万の範囲であり、
(d)スチレン−共役ジエンブロック共重合体のブロック構造が、少なくとも2つのスチレン系重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン系重合体ブロックから構成され、
(e)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成する結合単位がスチレン系結合単位40〜95重量%と共役ジエン結合単位60〜5重量%から成り、
(f)スチレン−共役ジエンブロック共重合体の重量平均分子量が5万〜40万の範囲であり、
(g)スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度が50〜99℃の範囲であり、
(h)スチレン系樹脂組成物の1mm厚平板にしての全光線透過率が75%以上である。 - (A)成分のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル結合単位の70重量%以上がアクリル酸n−ブチルであることを特徴とする請求項1記載のスチレン系樹脂組成物。
- (B)成分のスチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成する共役ジエン結合単位が、ブタジエン結合単位および/またはイソプレン結合単位からなることを特徴とする請求項1又は2記載のスチレン系樹脂組成物。
- (A)成分のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体が、二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端より生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状あるいは溶液重合法で、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、下記(a)および(b)項に示す範囲に制御して製造してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
(a)供給する単量体構成をスチレン系単量体60〜97重量%および(メタ)アクリル酸エステル単量体40〜3重量%の範囲とし、
(b)重合槽各部位における(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が、常に全単量体に対して1重量%を超えるように制御する。 - 重合槽構成として、少なくとも最終重合槽の混合状態をプラグフロー流れとすることを特徴とする請求項4記載のスチレン系樹脂組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を成形してなるシートおよびフィルム。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物を成形後、延伸加工してなる熱収縮フィルム。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物をシート加工後、再成形加工してなる包装容器。
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JP2006328162A (ja) * | 2005-05-24 | 2006-12-07 | Gunze Ltd | フイルム |
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WO2019167745A1 (ja) * | 2018-02-27 | 2019-09-06 | 日本ゼオン株式会社 | テトラブロック共重合体、およびポリマー組成物、ならびにこれらを用いたホットメルト粘接着剤組成物 |
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2003
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