JP2004026590A - 誘電体磁器組成物 - Google Patents

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水谷 寛
Susumu Nishigaki
西垣 進
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Abstract

【課題】緻密な焼結性が得られ、高周波(マイクロ波)帯域で優れた誘電特性を有し、且つ比較的低温で銀電極などと同時に焼成が可能な誘電体磁器組成物を提供する。
【解決手段】一般式αBaO・(1−α)TiO(αは、モル比で、0.12≦α≦0.24)で表される組成物を主成分とする材料100重量部に対して、Bを含むガラスをx重量部(10.0≦x≦25.0)添加して焼成することとし、該ガラスは、組成式=aB−bBi−cZnOで表され、ここに、a,b,cは、モル比で、0.2≦a≦0.5、0.1≦b≦0.4、0.1≦c≦0.4、但し、a+b+c=1の範囲内にあるものとする。焼成温度が、Agの融点(=961.93℃)未満である。
【選択図】  図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体磁器組成物に係り、特に高周波特性が優れ、且つ比較的低温で焼成が可能な誘電体磁器組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話に代表される移動体通信機器は小型化、軽量化が進んでいて、使用される部品にも小型・軽量化が求められている。部品の小型・軽量化は、マイクロ波用セラミックフィルタチップ等のセラミック磁器組成物にも及び、これらは銀(Ag)電極を印刷したシートを重ね合わせて焼成した積層型部品として製造されている。従って、これらの磁器組成物の焼成においても、銀(Ag)が溶け出さない温度(900℃前後が望ましい)で銀(Ag)電極とセラミック磁器組成物を同時に焼成できることが好ましい。
【0003】
マイクロ波用セラミックフィルタチップの素地には、BaO−TiO系組成の誘電体磁器組成物が用いられ、その特性は比誘電率=30〜40と高く、共振周波数(ここでは以下、測定周波数)の温度係数も小さいので有用であることが知られている。しかし、この組成物は、その焼成温度が約1300℃と高温であり、これより低い温度では焼結せず特性も著しく低下するという問題がある。
【0004】
900℃前後の温度でBaO−TiO系組成物を焼成するために適当な焼成助剤を用いても、この温度での焼結は難しく、焼結したとしても誘電体磁器組成物の電気的な特性を大きく変化させるため、高周波帯域において優れた高誘電率、高Q等のフィルタとしての必要な特性が得られなくなってしまうという問題がある。
一般的に誘電体磁器組成物の焼結助剤として知られているものにホウケイ酸ガラスがある。このガラスを用いてBaO−TiO系組成物を930℃で焼成した5件の試料のデータを表2に示す。この表に示されるように、従来の一般的な焼結助剤では、BaO−TiO系組成物を銀(Ag)の融点以下の温度で焼結させることは困難である。従って、一般的に知られた焼結助剤を用いた方法では、銀(Ag)と同時焼成できるマイクロ波用セラミックフィルタ特性を十分に満足する誘電体磁器組成物を作り出すことは困難である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述した事情に鑑みて為されたもので、緻密な焼結性が得られ、高周波(マイクロ波)帯域で優れた誘電特性を有し、且つ比較的低温で銀電極などと同時に焼成が可能な誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決するために、本発明の誘電体磁器組成物は、一般式αBaO・(1−α)TiO(ただし、αはモル比で、0.12≦α≦0.24)で表される組成物を主成分とする材料100重量部に対して、Bを含むガラスをx重量部(10.0≦x≦25.0)添加して焼成したことを特徴とする。
【0007】
前記ガラスは、組成式=aB−bBi−cZnOで表され、ここに、a,b,cは、モル比で、0.2≦a≦0.5、0.1≦b≦0.4、0.1≦c≦0.4、但し、a+b+c=1の範囲内にあり、焼成する温度が銀(Ag)の融点(=961.93℃)未満の温度であることを特徴とする。
【0008】
本発明者は、所定量の添加で誘電体磁器組成物の焼成を促進させることのできるBを含むガラスを開発し、それを用いることで、比誘電率εr=35〜41、Q=167〜294(測定周波数=5.0〜7.0GHzにおいて)の特性を有する緻密な誘電体磁器組成物をAgの融点未満の温度で焼成することができることを見いだした。この緻密な構造により、セラミックの強度が向上し、比誘電率εr、Q値のバラツキが減少して安定化するという性能面の改良がある。また、誘電体磁器組成物と銀(Ag)電極の同時焼成ができることにより、製造工程の短縮と製造コストの削減が達成できるという製造上のメリットがある。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る誘電体磁器組成物の実施形態について、表1、図1乃至図5を参照してさらに詳しく説明する。
【0010】
表1は、25件の試料についての組成と諸特性のデータをまとめたものである。試料の作製に当たり、ガラスの添加率を変えること、ガラスの組成を変えること、焼結助剤としてガラスの添加の有無、焼結温度などを考慮している。ガラスの組成については、図1に示される。
【0011】
[実施例]
本発明の誘電体磁器組成物の出発原料としてBaCO粉末とTiO粉末を用い、表1の組成になるように所定量秤量する。ここで、BaOは、BaCOから得られる。この秤量原料をボールミルで湿式混合した後、乾燥させて混合粉を得る。この混合粉を大気中において焼結助剤なしでBaO−TiO系組成物を生成するような高温(例えば1250℃)にて焼成する。その後、ボールミルで24時間湿式粉砕して平均粒径0.5μmのBaO−TiO組成物を得る。図3に示すように粉末X線回折パターンにより、組成物がBaO−TiO系組成物であることを同定できる。この時の粒度分布を図4に示す。実施例では混合時間、高温焼成温度、粉砕時間、平均粒径を記載してあるが、これらは一例であり、粉末X線回折にてBaO−TiO系組成物であることが同定できれば、これらにこだわることがないことは明らかである。
【0012】
次に、Bを含むガラスを作製する。出発原料にB粉末とBi粉末とZnO粉末を用い、表1に示した試料組成になるように秤量する。この秤量原料を乳鉢・乳棒にて乾式混合する。混合した粉末を磁製アルミナるつぼに入れ、900℃の炉内で溶融させる。30分後、炉からるつぼを取り出し、室内で放冷してガラスを固化させる。るつぼからガラスだけを取り出し、自動乳鉢機で粗粉砕する。粗粉砕したガラス粉末をボールミルで湿式粉砕して平均粒径1μmのガラス粉末を得る。この時の粒度分布を図5に示す。粉末X線回折パターンにより、粉末が非晶質ガラスであることを確認できる。図2は、aB−bBi−cZnOの粉末X線回折パターンを示し、a=0.4、b=0.3、c=0.3の場合を示す。実施例ではガラスは溶融後、室内へ取り出して室温へ放冷し作製しているが、粉末X線回折により非晶質ガラスであることが確認できれば、これに限定されることなく、一般的な急冷水砕法、急冷ロール法等も当然使用可能である。
【0013】
次に、BaO−TiO系組成物とガラスの混合を行う。まず、BaO−TiO組成物に対して表1の組成になるようにガラス粉末を秤量する。それをボールミルで湿式混合した後、乾燥させて混合粉を得る。この混合粉にPVA水溶液を添加して造粒する。この造粒粉を金型に詰めて、19.6メガパスカル(200kgf/cm)にて一軸加圧で仮成形する。さらにその成形体に対して静水圧プレス機を使って98メガパスカル(1000kgf/cm)の力で等方加圧し成形する。それを大気中において、銀(Ag)の融点(=961.93℃)未満の表1の低温焼成温度で2時間焼成し、焼結体を得た。実施例では粉末金型プレス法と静水圧プレス法とを組み合わせて試料を作製しているが、他の成形方法、例えばグリーンシート法、鋳込み法、押出し法等のように成形方法には限定されない。
【0014】
上述の手順により、試料No.1〜試料No.22を作製した。次に、ガラス添加のないBaO−TiO組成物の評価用試料(3件)を同様に表1の組成になるように調整して1200℃〜1300℃で焼成して、試料No.23〜試料No.25を作製した。
【0015】
上記各手順により作製した試料を直径9mm、高さ4.5mmに加工して、電気的特性を測定した。即ち、マイクロ波用ファインセラミックの誘電特性の試験方法(JISR1627)に規定された両端短絡形誘電体共振器法で得られた焼結体の比誘電率εrとQを測定した。その測定データを表1に示す。
【0016】
上記各手順により作製した試料について、焼結性を評価した。焼結性の評価は、各試料について、吸水率を、電気絶縁用セラミック材料試験方法(JISC2141)に規定された方法により求めた。吸水率が0.1%未満のものは、焼結が十分されているものと判断し、表中に○印を付し、吸水率が0.1%以上のものは、焼結が不十分であると判断し、表中に×印を付した。
【0017】
一般的に、BaO−TiO系組成物は、約1300℃の焼成で十分に焼結し、マイクロ波フィルタ特性を満足する良好な比誘電率やQ等が得られる。例えば、試料No.24は、一般式αBaO・(1−α)TiOにおいて、α=0.174とした場合であり、1250℃の高温焼成で、吸水率が0.1%未満、比誘電率が38、Qが2780と、良好な値が得られている。しかしながら、この組成物を焼結助剤を添加することなく単独でこれよりも低い温度で焼成した場合には、焼結性が悪化し、電気的特性も著しく低下することは従来の技術で述べたとおりである。
【0018】
ホウケイ酸ガラスは、一般的に焼結助剤として知られている。このガラスを1250℃の高温焼成にて作製したBaO−TiO組成物の100重量部に対してx重量部添加して930℃の低温焼成温度で焼成した結果を表2に示す。表2に示されるように、吸水率が高く、焼結が不十分であり、このため電気的特性の測定が不可能であった。
【0019】
これに対して、1250℃の高温焼成で作製したBaO−TiO組成物にaB−bBi−cZnOのガラス粉末を適当量添加することで、良好な焼結性と共に良好なフィルタ特性が得られ、これらの試料においては、α,a,b,c,xの値が本発明の範囲にある。即ち、一般式αBaO・(1−α)TiO(0.12≦α≦0.24モル)で表される組成物を主成分とする材料100重量部に対して、Bを含むガラスをx重量部(10.0≦x≦25.0)混合して焼成したもので、前記ガラスは、組成式=aB−bBi−cZnOで表され、ここに、a,b,cは、モル比で、0.2≦a≦0.5、0.1≦b≦0.4、0.1≦c≦0.4、但し、a+b+c=1の範囲内にある。
【0020】
試料No.3、試料No.5〜No.7、試料No.10〜No.12、試料No.16〜No.19の11件については、高温焼成温度=900〜930℃で緻密な構造を有する誘電体磁器組成物となっている。表1の、試料No.3は低温焼成温度=900℃で、試料No.5〜No.7、試料No.10〜No.12、試料No.16〜No.19は低温焼成温度=930℃で良好な焼結性と共に、良好な電気的な特性が得られる。比誘電率εrについて、試料No.19が最高値(εr=41)を有し、試料No.12が最低値(εr=35)を有しているが、全体として35〜41と高い値を示している。Q値については、試料No.5が最高値(Q=294[測定周波数=6〜7GHZにおいて])を有し、いずれもQ>200と高いため、マイクロ波用セラミックフィルタを形成するために十分な特性を有している。上述したように低温焼成温度=900〜930℃で良好な焼結体が得られるので、銀電極との同時焼成も可能であり、これにより工程の簡略化、焼成温度の低減による加工性の向上が期待できる。
【0021】
[比較例]
次に、上記α,a,b,c,xの値が適正でない試料例について説明する。試料No.13はc=0.5でc≦0.4の範囲外にあり、吸水率が高くなった。また、試料No.14はa=0.6でa≦0.5の範囲外にあり、試料No.15はb=0.5でb≦0.4の範囲外にあり、ともに過焼結により試料が破損した。
ガラス組成比a,b,cは、好ましい範囲にあるが、試料No.4は、ガラス添加が10重量部より少ないため、吸水率が0.1%未満に緻密化しなかった。一方、試料No.9のように、ガラス添加率が30重量部を超えるものは、試料の溶着が起きた。また、低温焼成温度=900℃で、ガラス添加が15重量部より少ない試料No.1及びNo.2は、吸水率が0.1%未満に緻密化しなかった。
焼成温度が900℃より低い場合には、試料No.22(低温焼成温度=870℃)のようにガラスを30重量部添加しても吸水率が0.1%未満に緻密化しない。
一般式αBaO・(1−α)TiOのαが大きい試料No.20(α>0.24)は、過焼結が起きて試料が破損した。一方、αが小さい試料No.21(α<0.12)は、吸水率が0.1%未満に緻密化しない。
【0022】
次に、ガラスの添加のないBaO−TiO組成物(試料No.23〜No.25)について記述する。ガラスを添加しないで高温焼成温度=1200℃で焼成したものが試料No.23である。試料No.23は、焼結不十分であり、εr及びQの測定が出来なかった。一方、高温焼成温度=1250℃以上で焼成したものが試料No.24と試料No.25である。試料No.24と試料No.25は、緻密化してその電気特性としてεr≧38、Q≧2780が得られている。ガラス添加のないBaO−TiO組成物を焼結させるには高温焼成温度おおよそ1250℃程度必要であるといえる。
【0023】
表1は、25件の試料について組成と諸特性のデータをまとめて示したものである。
【表1】
Figure 2004026590
【0024】
表2は、ホウケイ酸ガラスを用いてBaO−TiO組成物を1250℃で焼成した5件の試料のデータを示したものである。
【表2】
Figure 2004026590
【0025】
尚、上記実施形態は本発明の実施例の一態様を述べたもので、本発明の趣旨を逸脱することなく種々の変形実施例が可能なことは勿論である。
【0026】
【発明の効果】
本発明の誘電体磁器組成物によれば、一般的な組成物を主成分とする材料に対して、ガラスを添加することで、比誘電率εr=35〜41、Q=167〜294(測定周波数=5〜7GHz)の特性を有する緻密な誘電体磁器組成物を銀(Ag)の融点未満の温度で焼成することができる。
この緻密な構造により、セラミックの強度が向上し、比誘電率εr、Q値のバラツキが減少して安定化するという性能面の改良がある。誘電体磁器組成物と銀(Ag)電極の同時焼成ができることにより、製造工程の短縮と製造コストの削減が達成できるという製造上のメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のガラスの3元組成図である。
【図2】ガラスが組成式=aB−bBi−cZnO(a=0.4、b=0.3、c=0.3)であることを示す粉末X線回折パターン図である。
【図3】BaO−TiO組成物[αBaO・(1−α)TiO;α=0.174]の焼成時の粉末X線回折パターン図である。
【図4】BaO−TiO組成物の24時間粉砕後の粒径データを示す図である。
【図5】Bを含むガラスの粒径データを示す図である。

Claims (3)

  1. 一般式αBaO・(1−α)TiO(ただし、αはモル比で、0.12≦α≦0.24)で表される組成物を主成分とする材料100重量部に対して、Bを含むガラスをx重量部(10.0≦x≦25.0)添加して焼成したことを特徴とする誘電体磁器組成物。
  2. 前記ガラスは、組成式=aB−bBi−cZnOで表され、ここに、a,b,cは、モル比で、0.2≦a≦0.5、0.1≦b≦0.4、0.1≦c≦0.4、但し、a+b+c=1の範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の誘電体磁器組成物。
  3. 焼成する温度が、銀(Ag)の融点未満の温度であることを特徴とする請求項1記載の誘電体磁器組成物。
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