JP2004015746A - 通信方法及び通信装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】TCP或いはTCPに類似したプロトコルを、無線アドホックネットワークに適用した場合における、伝送特性の劣化を効果的に防止する。
【解決手段】複数の通信局で構成されるネットワーク内で通信を行う場合であって、マルチホップの通信を行うアドホックネットワークである場合に、ネットワーク内の通信局が、自己の通信局を通過している通信量をカウントし、そのカウントした通信量に対応して、バックオフの大きさを決定し、その決定されたバックオフの大きさに応じて、パケットの再送を開始させるタイムアウト時間を設定する。このようにしたことで、自己の通信局を通過している通信量に応じて、良好なタイムアウト時間の設定が可能になる。
【選択図】 図1
【解決手段】複数の通信局で構成されるネットワーク内で通信を行う場合であって、マルチホップの通信を行うアドホックネットワークである場合に、ネットワーク内の通信局が、自己の通信局を通過している通信量をカウントし、そのカウントした通信量に対応して、バックオフの大きさを決定し、その決定されたバックオフの大きさに応じて、パケットの再送を開始させるタイムアウト時間を設定する。このようにしたことで、自己の通信局を通過している通信量に応じて、良好なタイムアウト時間の設定が可能になる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種データ転送を行う通信ネットワークでの通信方法及びその通信ネットワークに使用される通信装置に関し、特に通信ネットワーク内で中継して通信を行うシステムに好適なものに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、無線によるLAN(Local Area Network:構内情報通信網)が普及しており、コンピュータ装置やその周辺機器などの多数の機器でネットワークを構築させて、そのネットワーク内で無線通信によりデータ転送を行うことが、一般化している。
【0003】
この場合、ネットワーク層プロトコルに、インターネットなどで広く普及して信頼性の高いプロトコルであるTCP(Transmission Control Protocol )を採用することで、インターネットに接続可能な機器が採用している構成をそのまま利用して、比較的容易にデータ転送が可能となる。また、そのネットワークを経由して、インターネットに接続される場合にも、同じTCPのプロトコルが採用されていることで、データを容易にインターネット側に受け渡すことが可能になる。
【0004】
無線ネットワークを構築する場合には、例えば、ネットワーク内に、少なくとも1台の基地局を設けて、ネットワーク内の各端末局での無線通信を、必ず基地局を経由して行うシステム構成とするものがある。このような基地局を必要とするネットワーク構成の場合には、基地局と直接的に無線通信ができる範囲が、ネットワークのサービスエリアになる。
【0005】
これに対して、ネットワーク内での各端末局で無線伝送信号の中継が出来る構成として、ネットワーク内で、基地局のような固定的なインフラを使用せずに、ネットワーク内の任意の端末局間で無線通信が行えるネットワーク構成が提案されている。このように、ネットワーク内の任意の端末局で中継させて、いわゆるマルチホップの通信を行うものは、アドホックネットワークと呼ばれている。
【0006】
アドホックネットワークの場合には、どの無線局(端末局)を経由して通信を行うかを示す通信経路を選択するプロトコルが必要で、アドホックルーティングプロトコルとして盛んに研究されている。
【0007】
ところで、アドホックネットワークでは、ネットワーク内でデータ転送を行う場合に、送信側の無線局から送信されたパケットが、受信側の無線局に届くのに要する時間は、そのパケットが中継されるルートに依存する。例えば、複数の無線局を経由してデータパケットの転送を行う場合には、受信側の無線局に届くまでの時間が、比較的長く必要である。また、各無線局が移動局である場合には、中継されるルートが変更される可能性が高く、受信側の無線局に届くまでの時間についても、一定でない可能性が高く、急激に変動する可能性もある。
【0008】
一方、無線ネットワーク内でデータ転送を行う場合の処理として、送信側の無線局(送信局)からパケットを送出させて、受信側の無線局(受信局)でそのパケットが正しく受信できた場合に、受信局から送信局に対して、ACKパケットと称される確認応答パケットを返送し、送信局で確認応答パケットを受信できた時点で、正しくデータ転送されたと判断する処理を行うことがある。送信局が確認応答パケットを受信できない場合には、再度送信局から同じデータを送信させて、確実にデータを転送させる。送信局で確認応答パケットを受信できた場合には、次のパケットの送信に移ることができる。
【0009】
送信局では、確認応答パケットの受信を待つ時間が設定してあり、データを送信してからその設定された時間が経過するまでの間に、確認応答パケットが受信できない場合に、再度同じデータを送信するようにしてある。この確認応答パケットの受信を待つ時間は、RTO(Retransmission Timeout Interval )と称され、タイムアウト時間やバックオフ時間とも言われる。
【0010】
確認応答パケットの受信を待つ時間であるRTOは、適切に設定しないと、データの転送に要する時間が長くなってしまう。即ち、RTOを必要以上に長い時間に設定すると、1単位のパケットを送る毎に、長い時間確認応答パケットの受信を待機する必要があり、また、短すぎると、確認応答パケットが受信局から送信されているのに、同じパケットが送信局から再送されてしまう問題がある。
【0011】
有線通信でのTCPのプロトコルでは、RTOとして設定されたタイムアウト時間を経過して、確認応答パケットを受信できない場合に、次に送信するパケットについては、タイムアウト時間を2倍にする、指数バックオフ法が実施されている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、上述した無線アドホックネットワークに、TCPのプロトコルを適用した場合には、以下の問題が生じる。
【0013】
有線通信におけるパケット損失は、ネットワークの輻輳を意味するため、TCPのプロトコルでは、パケット損失を検出すると、データの送出レートを下げて、輻輳を回避するように設定されている。このため、TCPのプロトコルを無線通信に適用した場合には、無線区間でのエラーによるパケット損失も輻輳と解釈され、必要以上に輻輳回避を行う結果、スループットが低下してしまう。
【0014】
さらに、上述したアドホックネットワークにおいては、各無線局の移動等により、通信経路が断絶することが比較的高い確率で生じるが、TCPのプロトコルでは、通信経路が断絶した場合でも、パケット損失はネットワークの輻輳を意味するとして必要以上に輻輳制御を行うため、TCPのプロトコルをアドホックネットワークに適用した場合にはさらにスループットが低下してしまう。具体的には、通信経路が断絶している間に、必要以上にTCPウィンドウが小さくなること、及びTCPのプロトコルでのタイムアウト時間が大きくなることにより、スループットが低下する。
【0015】
このようなTCPのプロトコルをアドホックネットワークに適用した場合に、通信経路の断絶によるスループットの低下を防ぐ方式としては、例えば以下の2つの論文中に提案されている。
論文1:Analysis of TCP performance over mobile ad hoc networks”
in proceeding of IEEE/ACM MOBICOM’99,August 1999
論文2:A comparison of TCP performance over three routing protocols for
mobile ab hoc networks”
in proceeding of IEEE MOBIHOC’01,October 2001
【0016】
論文1に記載された処理では、通信経路が断絶した場合、TCPのプロトコルで伝送されるウィンドウ値(1回に伝送されるデータ量に相当)、及びタイムアウト時間(上述したRTOの値)を固定することによって、スループットの低下を防いでいる。論文2では、常にタイムアウト時間を一定にすることによって、タイムアウト時間が必要以上に大きくなるのを防いで、スループットの低下を防いでいる。
【0017】
しかしながら、これらの論文で提案されている方式は、いずれも、通信経路が断絶した場合には、数秒毎の比較的短い間隔で周期的にパケットを送信することが必要である。論文1の方式では、通信経路が再度設定されたかどうかを知るために、周期的にパケットを送信する必要があり、論文2の方式では、常にタイムアウト時間は一定であり、周期的にパケットを送信することになる。これは、TCPのプロトコルが、ネットワークの混雑時にもネットワークの状況を正常に保つために実施する指数バックオフ法が、通信経路が断絶している期間は無効であることを意味している。
【0018】
従って、論文1,論文2などの従来から提案されている方式では、ネットワークが混雑していない場合には、スループットの低下を防ぐことができるが、ネットワークが混雑している場合には、周期的に送信されるパケットが他のTCPコネクションへの干渉となり、全体としての特性が劣化してしまうという問題点がある。
【0019】
本発明はかかる点に鑑み、TCP或いはTCPに類似したプロトコルを、無線などのアドホックネットワークに適用した場合における、伝送特性の劣化を効果的に防止できるようにすることを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明は、複数の通信局で構成されるネットワーク内で通信を行う場合であって、ネットワーク内で直接的に通信ができない無線通信局の間の通信については、ネットワーク内に存在する他の通信局で中継してマルチホップの通信を行う場合に、ネットワーク内の通信局が、自己の通信局を通過している通信量をカウントし、そのカウントした通信量に対応して、バックオフの大きさを決定し、その決定されたバックオフの大きさに応じて、パケットの再送を開始させるタイムアウト時間を設定するようにしたものである。
【0021】
このようにしたことで、自己の通信局を通過している通信量に応じて、良好なタイムアウト時間の設定が可能になる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施の形態を説明する。
【0023】
図1は、本例のシステム構成例を示した図である。本例においては、複数台の無線通信局1〜8で、無線ネットワーク10を構成してある。ここでは、各無線通信局1〜8は、ネットワーク10内の他の無線通信局から送信された信号を、中継伝送できる機能を備えて、各無線通信局1〜8で中継させて、ネットワーク10内の2台の無線通信局間で双方向のデータ伝送が行える、いわゆる無線アドホックネットワーク10として構成してある。この無線アドホックネットワークとして機能するために、各無線通信局1〜8は、ルーティングテーブルを持ち、そのルーティングテーブルを使用して、データを中継させるルートが選定される。
【0024】
各無線通信局1〜8は、位置が固定された固定局、或いは移動可能に構成された移動局のいずれであっても良い。また、中継伝送可能な機能については、無線アドホックネットワーク10内の一部の無線通信局だけが備えても良い。
【0025】
また、ここでは、ネットワーク10内の特定の1つの無線通信局8については、別の有線ネットワーク20に接続させてあり、無線通信局8が、無線アドホックネットワーク10と有線ネットワーク20との間で、データを受け渡すブリッジ装置として機能するようにしてある。
【0026】
無線アドホックネットワーク10内で、各無線通信局1〜8が実行する無線通信方式としては、例えばIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers )802.11a方式と称される通信方式が適用できる。このIEEE802.11a方式は、1伝送チャンネルで複数のサブキャリアを使用してデータを伝送するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex :直交周波数分割多重)方式を採用してある。
【0027】
ここでは、無線アドホックネットワーク10と有線ネットワーク20のいずれも、トランスポート層プロトコルとして、TCP(Transmission Control Protocol )を使用してある。このTCPのプロトコルは、インターネットなどのプロトコルとして広く使用されている。また、ネットワーク層プロトコルとして、IP(Internet Protocol )を使用してある。このIPのプロトコルについても、インターネットで一般に使用されている。トランスポート層プロトコルにTCPを採用し、ネットワーク層プロトコルにIPを採用したものは、TCP/IPと称される。本明細書でも、両プロトコルを合わせてTCP/IPと述べる場合がある。
【0028】
次に、各無線通信局1〜8として使用可能な無線通信装置100の構成例を、図2を参照して説明する。無線通信装置100は、アンテナ101が高周波部102に接続してあり、高周波部102で受信信号のフィルタリング,周波数変換などのアナログ処理を行い、無線伝送された信号を受信する処理を行う。高周波部102で得られた受信信号は、アナログ/デジタル変換器103に供給して、デジタル化された受信系列に変換する。デジタル変換された受信系列は、ウィンドウ検出部104に供給して、高速フーリエ変換するデータの切れ目やフレームの切れ目を検出する同期検出処理を行い、その同期検出された受信系列を、高速フーリエ変換部105に供給して、検出されたタイミングに同期した高速フーリエ処理を行い、送信時の逆高速フーリエ変換と逆の処理を行う。
【0029】
高速フーリエ変換部105でフーリエ変換された信号は、復調部106に供給して、QPSK復調などの送信時の変調方式に対応した復調処理を行い、受信シンボルストリームを生成させる。生成された受信シンボルストリームは、デインターリーバ107に供給して、分散されたビット系列を再配置させ、受信符号化ビット系列を生成させる。この受信符号化ビット系列は、ビタビ復号器108に供給してビタビ復号し、受信情報ビット系列に変調し、受信データ処理部109に供給する。
【0030】
受信データ処理部109では、受信情報ビット系列として供給された受信パケットの中から、必要なデータを抽出する処理を行い、また必要によりエラー訂正符号に基づいたエラー訂正処理を行い、処理されたデータを、データ蓄積部としてのメモリ310に供給して蓄積させる。
【0031】
この無線通信装置100の中央制御ユニット111は、メモリ110に蓄積された受信データの中から、各々のアプリケーションに合ったデータや、画像データなどの各種データを分離して出力させる。なお、中央制御ユニット111には、タイミング制御部112が接続させてあり、中央制御ユニット111の制御に基づいて、タイミング制御部112が各回路での受信タイミングや復調方式などの指示を行う。
【0032】
次に、無線通信装置100の送信系の構成について説明すると、送信用のデータを一時蓄積させるメモリとして、メモリ121を備え、メモリ121に蓄積されたデータは、中央制御ユニット111の制御により、無線送信系の回路に供給する。即ち、メモリ121から読出されたデータを、送信データ処理部122に供給する。送信データ処理部122は、MAC処理を行う回路であり、供給される送信データを、パケット形式データとして処理を行う。リードソロモン符号やターボ符号を使用したエラー訂正コードを付加させる処理を行う場合もある。
【0033】
送信データ処理部122で得られたパケットデータは、畳み込み部123で系列間距離の伸長を行い、送信符号化ビット系列を生成させる畳み込み符号化処理を行う。畳み込み部123で得られた送信符号化ビット系列は、インターリーバ124に供給して、符号化ビット系列の並び替えを行い、ビット系列を分散させる。分散されたビット系列は、変調部125に供給して、プリアンブル信号をビット系列内に挿入し、次に1次変調としてQPSK変調,BPSK,8PSK,QAM等の変調(絶対変調でも差動変調でも良い)を行う。
【0034】
変調部125で変調された送信シンボルストリームは、逆高速フーリエ変換部126に供給し、逆高速フーリエ変換処理を行い、さらに窓がけ処理を行う。逆高速フーリエ変換部126での処理により、仮想的に周波数軸上に配置されていた送信シンボルストリームが時間軸上で平均化され、OFDM変調された送信系列となる。
【0035】
この逆高速フーリエ変換部126で得られた送信系列を、デジタル・アナログ変換器127に供給し、アナログ信号に変換する。変換されたアナログ信号は、高周波部102に供給して、周波数変換,フィルタリングなどの送信用のアナログ処理を行い、接続されたアンテナ101から無線送信させる。
【0036】
なお、本例の無線通信装置100は、無線信号を中継するルータとして機能するようにしてあり、例えば、受信系のメモリ110に書込まれた受信データを、送信系のメモリ121に供給して、送信処理させて、中継させることができる。中継時に受信信号の送信先を決めるルーティング処理は、中央制御ユニット111内に用意されたメモリの一部の容量を使用した、ルーティングテーブル(図示せず)のデータを使用して実行される。無線通信装置100で中継する信号については、受信系での復調や送信系での変調などの一部の処理を省略して、受信した信号をそのまま送信させるように構成しても良い。また、中央制御ユニット111内のメモリの一部の容量を利用して、この無線通信装置100(即ち自局)を使用して中継している信号に関する情報などを記憶するようにしてある。この中継している信号に関する情報については後述する。
【0037】
このように構成される無線通信装置100を、図1に示した構成の無線アドホックネットワーク10内の無線局1〜8に適用した場合の、各無線局のプロトコルスタックとしては、例えば図3に示す構成となる。即ち、最も下の層に無線通信を実際に実行する物理層が形成され、その上に、MAC(Media Access Control)層、ルーティング層(ネットワーク層)、トランスポート層、アプリケーション層が順に用意されている。アプリケーション層は、伝送させるデータの種類に応じて用意される。本例の場合には、既に説明したように、トランスポート層でのプロトコルについてはTCPを使用し、ネットワーク層でのプロトコルについてはIPを使用した、いわゆるTCP/IPのプロトコルを採用してある。
【0038】
各層について説明すると、物理層は、主として無線信号に送受信、変復調、誤り訂正符号化/復号化などの、無線信号の送受信に必要な信号処理を行う。図2の構成では、受信系の高周波部102からビタビ復号器108までの回路での受信処理と、送信系の畳み込み部123から高周波部102までの回路での送信処理が、物理層に相当する。
【0039】
MAC層は、パケットの送受信の管理、無線区間でのパケット再送処理を行う。即ち、無線局がパケットを送信する際に、その無線局の周辺に存在する無線局のパケットの送受信と自局のパケットの送信が時間的に重ならないように管理する手順、及び無線局がパケットを送信し、正しく受信された場合には当該無線受信局から確認応答パケット(ACKパケット)を受け取り、必要ならパケットを再送する手順がMAC層で定められる。
【0040】
ここでは、IEEE802.11規格で採用されているMAC層の方式である、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Acsess with Collision Avoidance)方式を採用して、確認応答パケット(ACKパケット)を使用して、MAC層での再送を行う再送手順(プロトコル)を定義している。このMAC層の処理は、中央制御ユニット111の制御により、受信データ処理部109及び送信データ処理部122で実行される。
【0041】
ここで本例においては、ACKパケットを使用した再送制御として、送信側の局でACKパケットが受信されるまで待つ時間として、従来の技術で既に説明したRTO(Retransmission Timeout Interval )が中央制御ユニット111内のメモリに設定してあり、パケットを送信してから、このRTOとして設定された時間が経過するまでの間に、ACKパケットが受信できない場合に、再度同じデータを送信する制御を、中央制御ユニット111が行うようにしてある。
【0042】
ルーティング層は、ネットワーク上における通信経路を探索、選定、確定する。ルーティング層は、ネットワーク層とも呼ばれ、ネットワーク上の全ての通信局に対して固有のアドレス(IPアドレス)を割り振り、ネットワーク上に存在する全ての通信局を、割り振られたアドレスを元にして管理する。アドホックネットワークにおける、このルーティング層のプロトコルであるアドホックルーティングプロトコルには大きく分けて、オンデマンドルーティングプロトコルとテーブルドリブンルーティングプロトコルの2種類のプロトコルが存在する。
【0043】
オンデマンドルーティングプロトコルは、通信の要求があった場合のみ経路の探索を行い、テーブルドリブンルーティングプロトコルは、通信の要求がなくても定期的にルーティングアップデート情報を各通信局でやり取りして経路情報を各無線局にて記憶する。一般に、オンデマンドルーティングプロトコルは、定期的に情報のやり取りを行う必要がないためオーバーヘッドが小さく、テーブルドリブンルーティングプロトコルより高いスループットが得られるプロトコルとして知られている。アドホックネットワークにおけるルーティング層の詳細については、例えば、文献”The dynamic source routing protocol for mobile ad hocnetworks(Internet Draft),”MANET working group,IETF や、文献”Ad hoc on demand distance vector(AODV)routing(Internet Draft),”MANET working group,IETFに記載されている。
【0044】
トランスポート層は、ネットワーク上の任意の送信局と受信局の間、即ち、エンドエンドでのパケットの再送手順や輻輳制御を管理する。UDPやTCPがトランスポート層のプロトコルとして知られている。現在のインターネットにおけるトランスポート層プロトコルのデファクトスタンダードであるTCPは、WWW(World Wide Web)やファイル転送に代表される多くのアプリケーションによって使用されているフローチャートで、送信局と受信局の間にコネクションを張ることによって信頼性のあるリンクを提供する。本例では、既に説明したように、トランスポート層でのプロトコルとして、TCPを採用している。
【0045】
アプリケーション層は、例えばWWW閲覧や、ファイル転送などのアプリケーション機能を提供する部分である。
【0046】
次に、本例のアドホックネットワーク内の各無線通信局での、パケット再送制御処理を、図4のフローチャートを参照して説明する。まず各無線局で通信を行う際には、受信先の無線局との間でコネクションを確立させて、その確立させたコネクションを使用して、通常のTCPのプロトコルに基づいた手順で、パケット(TCPパケット)を送信させる(ステップS11)。その後、その送信パケットに対する確認応答パケットであるACKパケットを受信できたか否か判断する(ステップS12)。
【0047】
ACKパケットを受信できた場合には、パケットを送信してからACKパケットを受信するまでの時間(RTT:Round Trip Time )を測定して、その測定された時間RTTを使用して、パケットの再送制御に使用するタイムアウト時間であるRTOの値を計算し、その計算されたRTOの値を、RTO_ORGとして、中央制御ユニット111内のメモリなどに記憶させておく(ステップS13)。測定されたRTTに基づいたRTOの値の計算については、TCPのプロトコルで従来から使用されている計算式が使用できる。ステップS13でRTO_ORGを記憶させた後は、ステップS11に移って、次のパケットの送信処理が行われる。
【0048】
そして、ステップS12の判断で、ACKパケットが受信できないと判断した場合には、ステップS11でパケットを送信させてから、そのとき自局に設定されたRTOの値の時間(即ちタイムアウト時間)を越えたか否か判断し(ステップS14)、タイムアウト時間を越えてない場合には、ステップS11に戻って、ACKパケットの受信を待機する。
【0049】
ステップS14でパケットの送信から、タイムアウト時間を越えてACKパケットの受信がないと判断した場合には、次回のRTOの値(タイムアウト時間)、即ちバックオフの値を、ルーティング層から得られた、自局を通過するコネクション数を使用して、決定させる(ステップS15)。
【0050】
ここで、自局のルーティング層から報告されたTCPコネクション数の内で、最新のコネクション数をmとし、現在のRTOの値をRTO(i)とすると、次回のTCPパケットの送信に使用するタイムアウトの値RTO(i+1)、即ちバックオフ値は、次式により決定する。
【0051】
【数1】
RTO(i+1)=f(m,RTO(i))
但し、fは関数を表している。また、RTO(i)は、ステップS13でRTO_ORGとして記憶された値である。
【0052】
この数1式に示されるように、過去のバックオフ値RTO(i)と、コネクション数mを使用した関数fで、新たなバックオフ値RTO(i+1)に更新させることで、そのときのコネクション数mに基づいた良好なバックオフ時間の設定が可能になる。具体的には、例えば、コネクション数mの値が大きくなるごとに、バックオフ時間を長い時間に設定することになる。但し、コネクション数mの値と設定されるバックオフ時間とが増える比率が一定であるとは限らない。これらは、コネクション数mと過去のバックオフ値RTO(i)を使用した関数fの設定により決まる。
【0053】
図4のフローチャートの説明に戻ると、ステップS15でRTOの値を更新させた後、確認応答パケットが返送されなかったTCPパケットを再送させる制御を行い(ステップS16)、ステップS11に戻って、通常のTCPのプロトコルに戻る。
【0054】
このようにしてタイムアウトの値RTOが設定されるが、そのタイムアウトの値RTOを設定する上で必要な、コネクション数mのカウント処理の例を、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0055】
図5のフローチャートの例は、ルーティング層で、TCPコネクション数をカウントする例を示した図である。まず、中央制御ユニット111内に設定されたカウントタイマで一定時間の経過をカウントしたか否か判断する(ステップS21)。このカウントタイマは、スタートから一定時間毎の経過をカウントするタイマである。
【0056】
カウントタイマのカウントで一定時間の経過を検出した場合には、ルーティング層でカウントした現在のTCPコネクション数mをTCPのプロトコル制御部に報告する(ステップS22)。報告後、カウントしたTCPコネクション数をリセットし(ステップS23)、再びカウントタイマをスタートさせ(ステップS24)、ステップS21の判断に戻る。
【0057】
そして、ステップS21の判断で、カウントタイマのカウントで一定時間に到達してない場合には、TCP層でパケットの受信があるか否か判断する(ステップS25)。ここで、TCP層でパケットの受信がない場合には、ステップS21の判断に戻る。
【0058】
TCP層でパケットの受信がある場合には、ステップS26に移り、そのときの受信パケットの送信元TCPポート番号と、IPヘッダ内に含まれる送信元IPアドレスの組み合わせによって、TCPコネクションを判別する。IPヘッダの構成を図6に示すと、バージョン、ヘッダ長、サービスタイプ、パケット長、識別子、フラグ、フラグメントオフセット、生存時間、プロトコル番号、ヘッダチェックサム、送信元IPアドレス、宛先IPアドレスなどが示される。このIPヘッダに続いて、TCPのヘッダと伝送したいデータ(ペイロード)が配置される。送信元TCPポート番号については、IPヘッダに続いて配置されるTCPヘッダ内に配置されている。
【0059】
図5のフローチャートの説明に戻ると、このように送信元TCPポート番号と送信元IPアドレスとを判断して、今までカウントしたTCPコネクションに、現在受信したパケットに含まれる送信元TCPポート番号と送信元IPアドレスの組み合わせがなければ、TCPコネクション数をカウントするカウンタを、カウントアップし、受信したパケットに含まれる送信元TCPポート番号と送信元IPアドレスの組み合わせを記憶しておく。
【0060】
今までカウントしたTCPコネクションに、現在受信したパケットに含まれる送信元TCPポートと送信元IPアドレスの組み合わせが含まれていれば、同じコネクションは既にカウントしていることになるので、TCPコネクション数のカウントアップはしない。
【0061】
このコネクション数のカウント処理に関するステップS26の処理の後、受信したパケットの送信先アドレスが自局宛か否か判断し(ステップS27)、自局宛のパケットであれば、そのパケットを上位層に渡し(ステップS28)、自局宛のパケットでなければ、受信したパケットを、別の局に送信させる中継処理を行い(ステップS29)、送信先アドレスの局側に伝送させる。ステップS28,S29の処理を行った後には、ステップS21の判断に戻る。
【0062】
このようにして、自局を経由するコネクション数をカウントして、そのカウントしたコネクション数に基づいて、再送制御のタイムアウト時間RTOを決めるようにしたので、そのときのネットワーク内での通信状態に応じた適切なタイムアウト時間の設定が可能になる。
【0063】
例えば図7に示すように、無線局1から無線局2を経由して無線局3へのコネクションを確立させて、そのコネクションで、無線局1からパケットP1を無線局2に送り、無線局2から無線局3にパケットP2が送られ、そのパケット送信に対するACKパケットの返送P3,P4の返送が逆の経路である場合に、無線局2でRTO値t1 が設定されていたとする。このとき、この無線局2を送信先とする別のパケットの伝送P5及びそのACKパケットの返送P6があると、この無線局2での再送制御に使用するRTOの値は、値t1 よりも大きな値t1 +αに更新され、この無線局2でTCPパケットを送信する際の再送制御には、その更新されたRTO値t1 +αが使用される。ここでは、RTO値が大きくなる例についてだけ説明したが、コネクション数が減った場合に、RTO値は小さくなる。
【0064】
無線アドホックネットワークにおいて、TCPのプロトコルを使用する場合には、従来の方式では、ネットワークが混雑している場合には、周期的に送信されるパケットが他のTCPコネクションへの干渉となり、全体としての特性が劣化してしまう問題があったが、本例の処理を行うことで、ある期間内にカウントしたTCPコネクション数を基にバックオフの大きさを決定するので、ネットワークが混在している場合にはバックオフ値が大きく設定され、他のTCPコネクションへの干渉が軽減され、従来の方式の場合に生じていた特性劣化を防ぐことができ、結果的にスループットを高くすることができる。
【0065】
また、ある期間内にカウントしたTCPコネクション数をもとに、TCPにおいてタイムアウト時に行うバックオフの大きさを決定するので、ネットワークが混雑してない場合には、バックオフの値を従来の方式よりも小さく設定され、ネットワークが混雑していない状況においても、従来の方式に比べて高いスループットが得られる。
【0066】
また、ネットワークの混雑度を示す指標をもとにTCPのバックオフ値を決定しているので、トラヒックの変化に柔軟に対処することができる。
【0067】
無線アドホックネットワークにおいてTCPのプロトコルを使用する場合、従来の方式では、経路が断絶した場合に比較的短い周期にて周期的にパケットを送信する必要があった。ネットワークが混雑している状況では、このような周期的に送信されるパケットは、他のコネクションへの干渉になるばかりでなく、無線局の電力資源の面でも無駄であった。本例の処理を行うことで、ネットワークが混雑している状況では、バックオフ値が大きく設定されることで、周期的に送信されるパケットの周期が長く設定されることになり、無線局の電力資源の節約につながる。
【0068】
なお、ここまでの説明では、ネットワークでの通信状況(混雑状況)を判断する処理として、TCPコネクション数をカウントし、カウントしたコネクション数によってバックオフ値を決定するようにしたが、ネットワーク内での通信量や混雑状況が判る別の指標を使用しても良い。例えば、受信したパケットの送信元IPアドレス数をカウントして、そのカウント値を元にバックオフ値を決定しても良い。また、受信したパケットのMAC層(メディアアクセスコントロール層)で使用されるMACアドレス数をカウントして、その値を元にバックオフ値を決定しても良い。また、MAC層にて送受信したパケット数をカウントして、その値を元にバックオフ値を決定しても良い。
【0069】
また、ネットワーク内での通信量や混雑状況をコネクション数などから判断する場合に、図5のフローチャートでは、受信したパケットから判断を行い、その受信したパケットには、自局で中継されるパケットと、自局宛のパケットの双方を、コネクション数として判断するようにしたが、例えば自局で中継されるパケットだけから、コネクション数を判断するようにしても良い。また、自局が送信元となるコネクションを、コネクション数に加えるようにしても良い。
【0070】
また、図5のフローチャートの処理では、ルーティング層がTCPに対してTCPコネクションを報告するのは、カウントタイマが一定時間のカウントを行ったときに報告する例としたが、ルーティング層がTCPに対してコネクション数を報告するのは、このようなカウンタを使用しないで行うようにしても良い。例えば、TCPコネクション数を報告するための独自のタイマを備えて、そのタイマに従って報告しても良く、或いはTCPに対するACKパケットを受信したときにTCPに報告するようにしても良い。
【0071】
また、ここまで説明したバックオフ値の設定処理は、ネットワーク内のそれぞれの無線通信局内で完結する処理としたが、各無線通信局内でカウントしたコネクション数などの通信量のデータを、ネットワーク内の他の無線通信局に送って、そのデータを受信した無線通信局側でも、バックオフ値を決めるための判断材料の1つとして使用しても良い。
【0072】
また、ここまで説明した例では、無線アドホックネットワークのトランスポート層のプロトコルにTCPを使用する場合についての例としたが、例えば、有線のネットワークにおいて、そのトランスポート層にTCPを使用する場合にも適用可能である。その場合、受信したパケットの送信元MACアドレスをカウントし、その値を元にTCPのバックオフ値を決定する。または、MAC層にて送受信したパケット数をカウントして、その値を元にTCPのバックオフ値を決定する。
【0073】
また、無線,有線いずれの場合であっても、TCP以外のプロトコルを使用したネットワークにも適用可能である。
【0074】
さらに、上述した実施の形態では、各無線局を構成する無線通信装置は、専用の通信機器として構成した例としたが、例えばパーソナルコンピュータ装置に、データ通信用のボードなどを組み込み、上述したフローチャートで説明した処理を実行するプログラムを、コンピュータ装置にインストールして、同様の処理を行うシステムを構成させるようにしても良い。
【0075】
【発明の効果】
本発明によると、自己の局を通過している通信量に応じて、良好なタイムアウト時間の設定が可能になり、ネットワーク内の無線通信局でのパケットの再送制御が適切に行えて、ネットワーク内での伝送効率が向上するようになる。
【0076】
この場合、自己の通信局を通過している通信量には、自己の通信局が送信元又は受信先となる通信を含むようにしたことで、自己の通信局が送信元又は受信先となる通信を考慮した、より的確なタイムアウト時間の設定が可能になる。
【0077】
また、通信量のカウントは、自己の通信局を通過しているコネクション数をカウントし、そのカウントしたコネクション数に対応して、バックオフの大きさを決定するようにしたことで、コネクション数のカウント処理で簡単に通信量が判断できるようになる。
【0078】
また、通信量のカウントは、自己の通信局を通過しているパケットの送信元及び/又は受信先となるアドレスの数をカウントし、そのカウントしたアドレス数に対応して、バックオフの大きさを決定するようにしたことで、アドレス数のカウント処理で簡単に通信量が判断できるようになる。
【0079】
このパケットのアドレスとしては、メディアアクセスコントロール層で使用されるMACアドレス、又はルーティング層で使用されるIPアドレスであることで、メディアアクセスコントロール層又はルーティング層での判断で、簡単に通信量が判断できるようになる。
【0080】
さらに、通信量のカウントは、自己の通信局で送信及び/又は受信しているパケット数をカウントし、そのカウントしたパケット数に対応して、バックオフの大きさを決定するようにしたことで、パケット数のカウント処理で簡単に通信量が判断できるようになる。
【0081】
このパケット数をカウントする場合に、メディアアクセスコントロール層で送信及び/又は受信しているパケット数、又はルーティング層で送信及び/又は受信しているパケット数をカウントすることで、メディアアクセスコントロール層又はルーティング層での判断で、簡単に通信量が判断できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態によるシステム構成例を示した説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態による機器構成例を示したブロック図である。
【図3】本発明の一実施の形態による各無線局のプロトコルスタック例を示した説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態によるパケット再送処理例を示したフローチャートである。
【図5】本発明の一実施の形態によるルーティング層でのTCPコネクション数をカウントする処理例を示したフローチャートである。
【図6】IPデータグラムフォーマットの例を示した説明図である。
【図7】本発明の一実施の形態による通信例を示した説明図である。
【符号の説明】
1〜8…無線通信局、10…無線アドホックネットワーク、20…有線ネットワーク、100…無線通信装置、101…アンテナ、102…高周波部、103…アナログ/デジタル変換器、104…ウィンドウ検出部、105…高速フーリエ変換部、106…復調部、107…デインターリーバ、108…ビタビ復号器、109…受信データ処理部、110…メモリ、111…中央制御ユニット、112…タイミング制御部、121…メモリ、122…送信データ処理部、123…畳み込み部、124…インターリーバ、125…変調部、126…逆高速フーリエ変換部、127…デジタル・アナログ変換器
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種データ転送を行う通信ネットワークでの通信方法及びその通信ネットワークに使用される通信装置に関し、特に通信ネットワーク内で中継して通信を行うシステムに好適なものに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、無線によるLAN(Local Area Network:構内情報通信網)が普及しており、コンピュータ装置やその周辺機器などの多数の機器でネットワークを構築させて、そのネットワーク内で無線通信によりデータ転送を行うことが、一般化している。
【0003】
この場合、ネットワーク層プロトコルに、インターネットなどで広く普及して信頼性の高いプロトコルであるTCP(Transmission Control Protocol )を採用することで、インターネットに接続可能な機器が採用している構成をそのまま利用して、比較的容易にデータ転送が可能となる。また、そのネットワークを経由して、インターネットに接続される場合にも、同じTCPのプロトコルが採用されていることで、データを容易にインターネット側に受け渡すことが可能になる。
【0004】
無線ネットワークを構築する場合には、例えば、ネットワーク内に、少なくとも1台の基地局を設けて、ネットワーク内の各端末局での無線通信を、必ず基地局を経由して行うシステム構成とするものがある。このような基地局を必要とするネットワーク構成の場合には、基地局と直接的に無線通信ができる範囲が、ネットワークのサービスエリアになる。
【0005】
これに対して、ネットワーク内での各端末局で無線伝送信号の中継が出来る構成として、ネットワーク内で、基地局のような固定的なインフラを使用せずに、ネットワーク内の任意の端末局間で無線通信が行えるネットワーク構成が提案されている。このように、ネットワーク内の任意の端末局で中継させて、いわゆるマルチホップの通信を行うものは、アドホックネットワークと呼ばれている。
【0006】
アドホックネットワークの場合には、どの無線局(端末局)を経由して通信を行うかを示す通信経路を選択するプロトコルが必要で、アドホックルーティングプロトコルとして盛んに研究されている。
【0007】
ところで、アドホックネットワークでは、ネットワーク内でデータ転送を行う場合に、送信側の無線局から送信されたパケットが、受信側の無線局に届くのに要する時間は、そのパケットが中継されるルートに依存する。例えば、複数の無線局を経由してデータパケットの転送を行う場合には、受信側の無線局に届くまでの時間が、比較的長く必要である。また、各無線局が移動局である場合には、中継されるルートが変更される可能性が高く、受信側の無線局に届くまでの時間についても、一定でない可能性が高く、急激に変動する可能性もある。
【0008】
一方、無線ネットワーク内でデータ転送を行う場合の処理として、送信側の無線局(送信局)からパケットを送出させて、受信側の無線局(受信局)でそのパケットが正しく受信できた場合に、受信局から送信局に対して、ACKパケットと称される確認応答パケットを返送し、送信局で確認応答パケットを受信できた時点で、正しくデータ転送されたと判断する処理を行うことがある。送信局が確認応答パケットを受信できない場合には、再度送信局から同じデータを送信させて、確実にデータを転送させる。送信局で確認応答パケットを受信できた場合には、次のパケットの送信に移ることができる。
【0009】
送信局では、確認応答パケットの受信を待つ時間が設定してあり、データを送信してからその設定された時間が経過するまでの間に、確認応答パケットが受信できない場合に、再度同じデータを送信するようにしてある。この確認応答パケットの受信を待つ時間は、RTO(Retransmission Timeout Interval )と称され、タイムアウト時間やバックオフ時間とも言われる。
【0010】
確認応答パケットの受信を待つ時間であるRTOは、適切に設定しないと、データの転送に要する時間が長くなってしまう。即ち、RTOを必要以上に長い時間に設定すると、1単位のパケットを送る毎に、長い時間確認応答パケットの受信を待機する必要があり、また、短すぎると、確認応答パケットが受信局から送信されているのに、同じパケットが送信局から再送されてしまう問題がある。
【0011】
有線通信でのTCPのプロトコルでは、RTOとして設定されたタイムアウト時間を経過して、確認応答パケットを受信できない場合に、次に送信するパケットについては、タイムアウト時間を2倍にする、指数バックオフ法が実施されている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、上述した無線アドホックネットワークに、TCPのプロトコルを適用した場合には、以下の問題が生じる。
【0013】
有線通信におけるパケット損失は、ネットワークの輻輳を意味するため、TCPのプロトコルでは、パケット損失を検出すると、データの送出レートを下げて、輻輳を回避するように設定されている。このため、TCPのプロトコルを無線通信に適用した場合には、無線区間でのエラーによるパケット損失も輻輳と解釈され、必要以上に輻輳回避を行う結果、スループットが低下してしまう。
【0014】
さらに、上述したアドホックネットワークにおいては、各無線局の移動等により、通信経路が断絶することが比較的高い確率で生じるが、TCPのプロトコルでは、通信経路が断絶した場合でも、パケット損失はネットワークの輻輳を意味するとして必要以上に輻輳制御を行うため、TCPのプロトコルをアドホックネットワークに適用した場合にはさらにスループットが低下してしまう。具体的には、通信経路が断絶している間に、必要以上にTCPウィンドウが小さくなること、及びTCPのプロトコルでのタイムアウト時間が大きくなることにより、スループットが低下する。
【0015】
このようなTCPのプロトコルをアドホックネットワークに適用した場合に、通信経路の断絶によるスループットの低下を防ぐ方式としては、例えば以下の2つの論文中に提案されている。
論文1:Analysis of TCP performance over mobile ad hoc networks”
in proceeding of IEEE/ACM MOBICOM’99,August 1999
論文2:A comparison of TCP performance over three routing protocols for
mobile ab hoc networks”
in proceeding of IEEE MOBIHOC’01,October 2001
【0016】
論文1に記載された処理では、通信経路が断絶した場合、TCPのプロトコルで伝送されるウィンドウ値(1回に伝送されるデータ量に相当)、及びタイムアウト時間(上述したRTOの値)を固定することによって、スループットの低下を防いでいる。論文2では、常にタイムアウト時間を一定にすることによって、タイムアウト時間が必要以上に大きくなるのを防いで、スループットの低下を防いでいる。
【0017】
しかしながら、これらの論文で提案されている方式は、いずれも、通信経路が断絶した場合には、数秒毎の比較的短い間隔で周期的にパケットを送信することが必要である。論文1の方式では、通信経路が再度設定されたかどうかを知るために、周期的にパケットを送信する必要があり、論文2の方式では、常にタイムアウト時間は一定であり、周期的にパケットを送信することになる。これは、TCPのプロトコルが、ネットワークの混雑時にもネットワークの状況を正常に保つために実施する指数バックオフ法が、通信経路が断絶している期間は無効であることを意味している。
【0018】
従って、論文1,論文2などの従来から提案されている方式では、ネットワークが混雑していない場合には、スループットの低下を防ぐことができるが、ネットワークが混雑している場合には、周期的に送信されるパケットが他のTCPコネクションへの干渉となり、全体としての特性が劣化してしまうという問題点がある。
【0019】
本発明はかかる点に鑑み、TCP或いはTCPに類似したプロトコルを、無線などのアドホックネットワークに適用した場合における、伝送特性の劣化を効果的に防止できるようにすることを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明は、複数の通信局で構成されるネットワーク内で通信を行う場合であって、ネットワーク内で直接的に通信ができない無線通信局の間の通信については、ネットワーク内に存在する他の通信局で中継してマルチホップの通信を行う場合に、ネットワーク内の通信局が、自己の通信局を通過している通信量をカウントし、そのカウントした通信量に対応して、バックオフの大きさを決定し、その決定されたバックオフの大きさに応じて、パケットの再送を開始させるタイムアウト時間を設定するようにしたものである。
【0021】
このようにしたことで、自己の通信局を通過している通信量に応じて、良好なタイムアウト時間の設定が可能になる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施の形態を説明する。
【0023】
図1は、本例のシステム構成例を示した図である。本例においては、複数台の無線通信局1〜8で、無線ネットワーク10を構成してある。ここでは、各無線通信局1〜8は、ネットワーク10内の他の無線通信局から送信された信号を、中継伝送できる機能を備えて、各無線通信局1〜8で中継させて、ネットワーク10内の2台の無線通信局間で双方向のデータ伝送が行える、いわゆる無線アドホックネットワーク10として構成してある。この無線アドホックネットワークとして機能するために、各無線通信局1〜8は、ルーティングテーブルを持ち、そのルーティングテーブルを使用して、データを中継させるルートが選定される。
【0024】
各無線通信局1〜8は、位置が固定された固定局、或いは移動可能に構成された移動局のいずれであっても良い。また、中継伝送可能な機能については、無線アドホックネットワーク10内の一部の無線通信局だけが備えても良い。
【0025】
また、ここでは、ネットワーク10内の特定の1つの無線通信局8については、別の有線ネットワーク20に接続させてあり、無線通信局8が、無線アドホックネットワーク10と有線ネットワーク20との間で、データを受け渡すブリッジ装置として機能するようにしてある。
【0026】
無線アドホックネットワーク10内で、各無線通信局1〜8が実行する無線通信方式としては、例えばIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers )802.11a方式と称される通信方式が適用できる。このIEEE802.11a方式は、1伝送チャンネルで複数のサブキャリアを使用してデータを伝送するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex :直交周波数分割多重)方式を採用してある。
【0027】
ここでは、無線アドホックネットワーク10と有線ネットワーク20のいずれも、トランスポート層プロトコルとして、TCP(Transmission Control Protocol )を使用してある。このTCPのプロトコルは、インターネットなどのプロトコルとして広く使用されている。また、ネットワーク層プロトコルとして、IP(Internet Protocol )を使用してある。このIPのプロトコルについても、インターネットで一般に使用されている。トランスポート層プロトコルにTCPを採用し、ネットワーク層プロトコルにIPを採用したものは、TCP/IPと称される。本明細書でも、両プロトコルを合わせてTCP/IPと述べる場合がある。
【0028】
次に、各無線通信局1〜8として使用可能な無線通信装置100の構成例を、図2を参照して説明する。無線通信装置100は、アンテナ101が高周波部102に接続してあり、高周波部102で受信信号のフィルタリング,周波数変換などのアナログ処理を行い、無線伝送された信号を受信する処理を行う。高周波部102で得られた受信信号は、アナログ/デジタル変換器103に供給して、デジタル化された受信系列に変換する。デジタル変換された受信系列は、ウィンドウ検出部104に供給して、高速フーリエ変換するデータの切れ目やフレームの切れ目を検出する同期検出処理を行い、その同期検出された受信系列を、高速フーリエ変換部105に供給して、検出されたタイミングに同期した高速フーリエ処理を行い、送信時の逆高速フーリエ変換と逆の処理を行う。
【0029】
高速フーリエ変換部105でフーリエ変換された信号は、復調部106に供給して、QPSK復調などの送信時の変調方式に対応した復調処理を行い、受信シンボルストリームを生成させる。生成された受信シンボルストリームは、デインターリーバ107に供給して、分散されたビット系列を再配置させ、受信符号化ビット系列を生成させる。この受信符号化ビット系列は、ビタビ復号器108に供給してビタビ復号し、受信情報ビット系列に変調し、受信データ処理部109に供給する。
【0030】
受信データ処理部109では、受信情報ビット系列として供給された受信パケットの中から、必要なデータを抽出する処理を行い、また必要によりエラー訂正符号に基づいたエラー訂正処理を行い、処理されたデータを、データ蓄積部としてのメモリ310に供給して蓄積させる。
【0031】
この無線通信装置100の中央制御ユニット111は、メモリ110に蓄積された受信データの中から、各々のアプリケーションに合ったデータや、画像データなどの各種データを分離して出力させる。なお、中央制御ユニット111には、タイミング制御部112が接続させてあり、中央制御ユニット111の制御に基づいて、タイミング制御部112が各回路での受信タイミングや復調方式などの指示を行う。
【0032】
次に、無線通信装置100の送信系の構成について説明すると、送信用のデータを一時蓄積させるメモリとして、メモリ121を備え、メモリ121に蓄積されたデータは、中央制御ユニット111の制御により、無線送信系の回路に供給する。即ち、メモリ121から読出されたデータを、送信データ処理部122に供給する。送信データ処理部122は、MAC処理を行う回路であり、供給される送信データを、パケット形式データとして処理を行う。リードソロモン符号やターボ符号を使用したエラー訂正コードを付加させる処理を行う場合もある。
【0033】
送信データ処理部122で得られたパケットデータは、畳み込み部123で系列間距離の伸長を行い、送信符号化ビット系列を生成させる畳み込み符号化処理を行う。畳み込み部123で得られた送信符号化ビット系列は、インターリーバ124に供給して、符号化ビット系列の並び替えを行い、ビット系列を分散させる。分散されたビット系列は、変調部125に供給して、プリアンブル信号をビット系列内に挿入し、次に1次変調としてQPSK変調,BPSK,8PSK,QAM等の変調(絶対変調でも差動変調でも良い)を行う。
【0034】
変調部125で変調された送信シンボルストリームは、逆高速フーリエ変換部126に供給し、逆高速フーリエ変換処理を行い、さらに窓がけ処理を行う。逆高速フーリエ変換部126での処理により、仮想的に周波数軸上に配置されていた送信シンボルストリームが時間軸上で平均化され、OFDM変調された送信系列となる。
【0035】
この逆高速フーリエ変換部126で得られた送信系列を、デジタル・アナログ変換器127に供給し、アナログ信号に変換する。変換されたアナログ信号は、高周波部102に供給して、周波数変換,フィルタリングなどの送信用のアナログ処理を行い、接続されたアンテナ101から無線送信させる。
【0036】
なお、本例の無線通信装置100は、無線信号を中継するルータとして機能するようにしてあり、例えば、受信系のメモリ110に書込まれた受信データを、送信系のメモリ121に供給して、送信処理させて、中継させることができる。中継時に受信信号の送信先を決めるルーティング処理は、中央制御ユニット111内に用意されたメモリの一部の容量を使用した、ルーティングテーブル(図示せず)のデータを使用して実行される。無線通信装置100で中継する信号については、受信系での復調や送信系での変調などの一部の処理を省略して、受信した信号をそのまま送信させるように構成しても良い。また、中央制御ユニット111内のメモリの一部の容量を利用して、この無線通信装置100(即ち自局)を使用して中継している信号に関する情報などを記憶するようにしてある。この中継している信号に関する情報については後述する。
【0037】
このように構成される無線通信装置100を、図1に示した構成の無線アドホックネットワーク10内の無線局1〜8に適用した場合の、各無線局のプロトコルスタックとしては、例えば図3に示す構成となる。即ち、最も下の層に無線通信を実際に実行する物理層が形成され、その上に、MAC(Media Access Control)層、ルーティング層(ネットワーク層)、トランスポート層、アプリケーション層が順に用意されている。アプリケーション層は、伝送させるデータの種類に応じて用意される。本例の場合には、既に説明したように、トランスポート層でのプロトコルについてはTCPを使用し、ネットワーク層でのプロトコルについてはIPを使用した、いわゆるTCP/IPのプロトコルを採用してある。
【0038】
各層について説明すると、物理層は、主として無線信号に送受信、変復調、誤り訂正符号化/復号化などの、無線信号の送受信に必要な信号処理を行う。図2の構成では、受信系の高周波部102からビタビ復号器108までの回路での受信処理と、送信系の畳み込み部123から高周波部102までの回路での送信処理が、物理層に相当する。
【0039】
MAC層は、パケットの送受信の管理、無線区間でのパケット再送処理を行う。即ち、無線局がパケットを送信する際に、その無線局の周辺に存在する無線局のパケットの送受信と自局のパケットの送信が時間的に重ならないように管理する手順、及び無線局がパケットを送信し、正しく受信された場合には当該無線受信局から確認応答パケット(ACKパケット)を受け取り、必要ならパケットを再送する手順がMAC層で定められる。
【0040】
ここでは、IEEE802.11規格で採用されているMAC層の方式である、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Acsess with Collision Avoidance)方式を採用して、確認応答パケット(ACKパケット)を使用して、MAC層での再送を行う再送手順(プロトコル)を定義している。このMAC層の処理は、中央制御ユニット111の制御により、受信データ処理部109及び送信データ処理部122で実行される。
【0041】
ここで本例においては、ACKパケットを使用した再送制御として、送信側の局でACKパケットが受信されるまで待つ時間として、従来の技術で既に説明したRTO(Retransmission Timeout Interval )が中央制御ユニット111内のメモリに設定してあり、パケットを送信してから、このRTOとして設定された時間が経過するまでの間に、ACKパケットが受信できない場合に、再度同じデータを送信する制御を、中央制御ユニット111が行うようにしてある。
【0042】
ルーティング層は、ネットワーク上における通信経路を探索、選定、確定する。ルーティング層は、ネットワーク層とも呼ばれ、ネットワーク上の全ての通信局に対して固有のアドレス(IPアドレス)を割り振り、ネットワーク上に存在する全ての通信局を、割り振られたアドレスを元にして管理する。アドホックネットワークにおける、このルーティング層のプロトコルであるアドホックルーティングプロトコルには大きく分けて、オンデマンドルーティングプロトコルとテーブルドリブンルーティングプロトコルの2種類のプロトコルが存在する。
【0043】
オンデマンドルーティングプロトコルは、通信の要求があった場合のみ経路の探索を行い、テーブルドリブンルーティングプロトコルは、通信の要求がなくても定期的にルーティングアップデート情報を各通信局でやり取りして経路情報を各無線局にて記憶する。一般に、オンデマンドルーティングプロトコルは、定期的に情報のやり取りを行う必要がないためオーバーヘッドが小さく、テーブルドリブンルーティングプロトコルより高いスループットが得られるプロトコルとして知られている。アドホックネットワークにおけるルーティング層の詳細については、例えば、文献”The dynamic source routing protocol for mobile ad hocnetworks(Internet Draft),”MANET working group,IETF や、文献”Ad hoc on demand distance vector(AODV)routing(Internet Draft),”MANET working group,IETFに記載されている。
【0044】
トランスポート層は、ネットワーク上の任意の送信局と受信局の間、即ち、エンドエンドでのパケットの再送手順や輻輳制御を管理する。UDPやTCPがトランスポート層のプロトコルとして知られている。現在のインターネットにおけるトランスポート層プロトコルのデファクトスタンダードであるTCPは、WWW(World Wide Web)やファイル転送に代表される多くのアプリケーションによって使用されているフローチャートで、送信局と受信局の間にコネクションを張ることによって信頼性のあるリンクを提供する。本例では、既に説明したように、トランスポート層でのプロトコルとして、TCPを採用している。
【0045】
アプリケーション層は、例えばWWW閲覧や、ファイル転送などのアプリケーション機能を提供する部分である。
【0046】
次に、本例のアドホックネットワーク内の各無線通信局での、パケット再送制御処理を、図4のフローチャートを参照して説明する。まず各無線局で通信を行う際には、受信先の無線局との間でコネクションを確立させて、その確立させたコネクションを使用して、通常のTCPのプロトコルに基づいた手順で、パケット(TCPパケット)を送信させる(ステップS11)。その後、その送信パケットに対する確認応答パケットであるACKパケットを受信できたか否か判断する(ステップS12)。
【0047】
ACKパケットを受信できた場合には、パケットを送信してからACKパケットを受信するまでの時間(RTT:Round Trip Time )を測定して、その測定された時間RTTを使用して、パケットの再送制御に使用するタイムアウト時間であるRTOの値を計算し、その計算されたRTOの値を、RTO_ORGとして、中央制御ユニット111内のメモリなどに記憶させておく(ステップS13)。測定されたRTTに基づいたRTOの値の計算については、TCPのプロトコルで従来から使用されている計算式が使用できる。ステップS13でRTO_ORGを記憶させた後は、ステップS11に移って、次のパケットの送信処理が行われる。
【0048】
そして、ステップS12の判断で、ACKパケットが受信できないと判断した場合には、ステップS11でパケットを送信させてから、そのとき自局に設定されたRTOの値の時間(即ちタイムアウト時間)を越えたか否か判断し(ステップS14)、タイムアウト時間を越えてない場合には、ステップS11に戻って、ACKパケットの受信を待機する。
【0049】
ステップS14でパケットの送信から、タイムアウト時間を越えてACKパケットの受信がないと判断した場合には、次回のRTOの値(タイムアウト時間)、即ちバックオフの値を、ルーティング層から得られた、自局を通過するコネクション数を使用して、決定させる(ステップS15)。
【0050】
ここで、自局のルーティング層から報告されたTCPコネクション数の内で、最新のコネクション数をmとし、現在のRTOの値をRTO(i)とすると、次回のTCPパケットの送信に使用するタイムアウトの値RTO(i+1)、即ちバックオフ値は、次式により決定する。
【0051】
【数1】
RTO(i+1)=f(m,RTO(i))
但し、fは関数を表している。また、RTO(i)は、ステップS13でRTO_ORGとして記憶された値である。
【0052】
この数1式に示されるように、過去のバックオフ値RTO(i)と、コネクション数mを使用した関数fで、新たなバックオフ値RTO(i+1)に更新させることで、そのときのコネクション数mに基づいた良好なバックオフ時間の設定が可能になる。具体的には、例えば、コネクション数mの値が大きくなるごとに、バックオフ時間を長い時間に設定することになる。但し、コネクション数mの値と設定されるバックオフ時間とが増える比率が一定であるとは限らない。これらは、コネクション数mと過去のバックオフ値RTO(i)を使用した関数fの設定により決まる。
【0053】
図4のフローチャートの説明に戻ると、ステップS15でRTOの値を更新させた後、確認応答パケットが返送されなかったTCPパケットを再送させる制御を行い(ステップS16)、ステップS11に戻って、通常のTCPのプロトコルに戻る。
【0054】
このようにしてタイムアウトの値RTOが設定されるが、そのタイムアウトの値RTOを設定する上で必要な、コネクション数mのカウント処理の例を、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0055】
図5のフローチャートの例は、ルーティング層で、TCPコネクション数をカウントする例を示した図である。まず、中央制御ユニット111内に設定されたカウントタイマで一定時間の経過をカウントしたか否か判断する(ステップS21)。このカウントタイマは、スタートから一定時間毎の経過をカウントするタイマである。
【0056】
カウントタイマのカウントで一定時間の経過を検出した場合には、ルーティング層でカウントした現在のTCPコネクション数mをTCPのプロトコル制御部に報告する(ステップS22)。報告後、カウントしたTCPコネクション数をリセットし(ステップS23)、再びカウントタイマをスタートさせ(ステップS24)、ステップS21の判断に戻る。
【0057】
そして、ステップS21の判断で、カウントタイマのカウントで一定時間に到達してない場合には、TCP層でパケットの受信があるか否か判断する(ステップS25)。ここで、TCP層でパケットの受信がない場合には、ステップS21の判断に戻る。
【0058】
TCP層でパケットの受信がある場合には、ステップS26に移り、そのときの受信パケットの送信元TCPポート番号と、IPヘッダ内に含まれる送信元IPアドレスの組み合わせによって、TCPコネクションを判別する。IPヘッダの構成を図6に示すと、バージョン、ヘッダ長、サービスタイプ、パケット長、識別子、フラグ、フラグメントオフセット、生存時間、プロトコル番号、ヘッダチェックサム、送信元IPアドレス、宛先IPアドレスなどが示される。このIPヘッダに続いて、TCPのヘッダと伝送したいデータ(ペイロード)が配置される。送信元TCPポート番号については、IPヘッダに続いて配置されるTCPヘッダ内に配置されている。
【0059】
図5のフローチャートの説明に戻ると、このように送信元TCPポート番号と送信元IPアドレスとを判断して、今までカウントしたTCPコネクションに、現在受信したパケットに含まれる送信元TCPポート番号と送信元IPアドレスの組み合わせがなければ、TCPコネクション数をカウントするカウンタを、カウントアップし、受信したパケットに含まれる送信元TCPポート番号と送信元IPアドレスの組み合わせを記憶しておく。
【0060】
今までカウントしたTCPコネクションに、現在受信したパケットに含まれる送信元TCPポートと送信元IPアドレスの組み合わせが含まれていれば、同じコネクションは既にカウントしていることになるので、TCPコネクション数のカウントアップはしない。
【0061】
このコネクション数のカウント処理に関するステップS26の処理の後、受信したパケットの送信先アドレスが自局宛か否か判断し(ステップS27)、自局宛のパケットであれば、そのパケットを上位層に渡し(ステップS28)、自局宛のパケットでなければ、受信したパケットを、別の局に送信させる中継処理を行い(ステップS29)、送信先アドレスの局側に伝送させる。ステップS28,S29の処理を行った後には、ステップS21の判断に戻る。
【0062】
このようにして、自局を経由するコネクション数をカウントして、そのカウントしたコネクション数に基づいて、再送制御のタイムアウト時間RTOを決めるようにしたので、そのときのネットワーク内での通信状態に応じた適切なタイムアウト時間の設定が可能になる。
【0063】
例えば図7に示すように、無線局1から無線局2を経由して無線局3へのコネクションを確立させて、そのコネクションで、無線局1からパケットP1を無線局2に送り、無線局2から無線局3にパケットP2が送られ、そのパケット送信に対するACKパケットの返送P3,P4の返送が逆の経路である場合に、無線局2でRTO値t1 が設定されていたとする。このとき、この無線局2を送信先とする別のパケットの伝送P5及びそのACKパケットの返送P6があると、この無線局2での再送制御に使用するRTOの値は、値t1 よりも大きな値t1 +αに更新され、この無線局2でTCPパケットを送信する際の再送制御には、その更新されたRTO値t1 +αが使用される。ここでは、RTO値が大きくなる例についてだけ説明したが、コネクション数が減った場合に、RTO値は小さくなる。
【0064】
無線アドホックネットワークにおいて、TCPのプロトコルを使用する場合には、従来の方式では、ネットワークが混雑している場合には、周期的に送信されるパケットが他のTCPコネクションへの干渉となり、全体としての特性が劣化してしまう問題があったが、本例の処理を行うことで、ある期間内にカウントしたTCPコネクション数を基にバックオフの大きさを決定するので、ネットワークが混在している場合にはバックオフ値が大きく設定され、他のTCPコネクションへの干渉が軽減され、従来の方式の場合に生じていた特性劣化を防ぐことができ、結果的にスループットを高くすることができる。
【0065】
また、ある期間内にカウントしたTCPコネクション数をもとに、TCPにおいてタイムアウト時に行うバックオフの大きさを決定するので、ネットワークが混雑してない場合には、バックオフの値を従来の方式よりも小さく設定され、ネットワークが混雑していない状況においても、従来の方式に比べて高いスループットが得られる。
【0066】
また、ネットワークの混雑度を示す指標をもとにTCPのバックオフ値を決定しているので、トラヒックの変化に柔軟に対処することができる。
【0067】
無線アドホックネットワークにおいてTCPのプロトコルを使用する場合、従来の方式では、経路が断絶した場合に比較的短い周期にて周期的にパケットを送信する必要があった。ネットワークが混雑している状況では、このような周期的に送信されるパケットは、他のコネクションへの干渉になるばかりでなく、無線局の電力資源の面でも無駄であった。本例の処理を行うことで、ネットワークが混雑している状況では、バックオフ値が大きく設定されることで、周期的に送信されるパケットの周期が長く設定されることになり、無線局の電力資源の節約につながる。
【0068】
なお、ここまでの説明では、ネットワークでの通信状況(混雑状況)を判断する処理として、TCPコネクション数をカウントし、カウントしたコネクション数によってバックオフ値を決定するようにしたが、ネットワーク内での通信量や混雑状況が判る別の指標を使用しても良い。例えば、受信したパケットの送信元IPアドレス数をカウントして、そのカウント値を元にバックオフ値を決定しても良い。また、受信したパケットのMAC層(メディアアクセスコントロール層)で使用されるMACアドレス数をカウントして、その値を元にバックオフ値を決定しても良い。また、MAC層にて送受信したパケット数をカウントして、その値を元にバックオフ値を決定しても良い。
【0069】
また、ネットワーク内での通信量や混雑状況をコネクション数などから判断する場合に、図5のフローチャートでは、受信したパケットから判断を行い、その受信したパケットには、自局で中継されるパケットと、自局宛のパケットの双方を、コネクション数として判断するようにしたが、例えば自局で中継されるパケットだけから、コネクション数を判断するようにしても良い。また、自局が送信元となるコネクションを、コネクション数に加えるようにしても良い。
【0070】
また、図5のフローチャートの処理では、ルーティング層がTCPに対してTCPコネクションを報告するのは、カウントタイマが一定時間のカウントを行ったときに報告する例としたが、ルーティング層がTCPに対してコネクション数を報告するのは、このようなカウンタを使用しないで行うようにしても良い。例えば、TCPコネクション数を報告するための独自のタイマを備えて、そのタイマに従って報告しても良く、或いはTCPに対するACKパケットを受信したときにTCPに報告するようにしても良い。
【0071】
また、ここまで説明したバックオフ値の設定処理は、ネットワーク内のそれぞれの無線通信局内で完結する処理としたが、各無線通信局内でカウントしたコネクション数などの通信量のデータを、ネットワーク内の他の無線通信局に送って、そのデータを受信した無線通信局側でも、バックオフ値を決めるための判断材料の1つとして使用しても良い。
【0072】
また、ここまで説明した例では、無線アドホックネットワークのトランスポート層のプロトコルにTCPを使用する場合についての例としたが、例えば、有線のネットワークにおいて、そのトランスポート層にTCPを使用する場合にも適用可能である。その場合、受信したパケットの送信元MACアドレスをカウントし、その値を元にTCPのバックオフ値を決定する。または、MAC層にて送受信したパケット数をカウントして、その値を元にTCPのバックオフ値を決定する。
【0073】
また、無線,有線いずれの場合であっても、TCP以外のプロトコルを使用したネットワークにも適用可能である。
【0074】
さらに、上述した実施の形態では、各無線局を構成する無線通信装置は、専用の通信機器として構成した例としたが、例えばパーソナルコンピュータ装置に、データ通信用のボードなどを組み込み、上述したフローチャートで説明した処理を実行するプログラムを、コンピュータ装置にインストールして、同様の処理を行うシステムを構成させるようにしても良い。
【0075】
【発明の効果】
本発明によると、自己の局を通過している通信量に応じて、良好なタイムアウト時間の設定が可能になり、ネットワーク内の無線通信局でのパケットの再送制御が適切に行えて、ネットワーク内での伝送効率が向上するようになる。
【0076】
この場合、自己の通信局を通過している通信量には、自己の通信局が送信元又は受信先となる通信を含むようにしたことで、自己の通信局が送信元又は受信先となる通信を考慮した、より的確なタイムアウト時間の設定が可能になる。
【0077】
また、通信量のカウントは、自己の通信局を通過しているコネクション数をカウントし、そのカウントしたコネクション数に対応して、バックオフの大きさを決定するようにしたことで、コネクション数のカウント処理で簡単に通信量が判断できるようになる。
【0078】
また、通信量のカウントは、自己の通信局を通過しているパケットの送信元及び/又は受信先となるアドレスの数をカウントし、そのカウントしたアドレス数に対応して、バックオフの大きさを決定するようにしたことで、アドレス数のカウント処理で簡単に通信量が判断できるようになる。
【0079】
このパケットのアドレスとしては、メディアアクセスコントロール層で使用されるMACアドレス、又はルーティング層で使用されるIPアドレスであることで、メディアアクセスコントロール層又はルーティング層での判断で、簡単に通信量が判断できるようになる。
【0080】
さらに、通信量のカウントは、自己の通信局で送信及び/又は受信しているパケット数をカウントし、そのカウントしたパケット数に対応して、バックオフの大きさを決定するようにしたことで、パケット数のカウント処理で簡単に通信量が判断できるようになる。
【0081】
このパケット数をカウントする場合に、メディアアクセスコントロール層で送信及び/又は受信しているパケット数、又はルーティング層で送信及び/又は受信しているパケット数をカウントすることで、メディアアクセスコントロール層又はルーティング層での判断で、簡単に通信量が判断できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態によるシステム構成例を示した説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態による機器構成例を示したブロック図である。
【図3】本発明の一実施の形態による各無線局のプロトコルスタック例を示した説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態によるパケット再送処理例を示したフローチャートである。
【図5】本発明の一実施の形態によるルーティング層でのTCPコネクション数をカウントする処理例を示したフローチャートである。
【図6】IPデータグラムフォーマットの例を示した説明図である。
【図7】本発明の一実施の形態による通信例を示した説明図である。
【符号の説明】
1〜8…無線通信局、10…無線アドホックネットワーク、20…有線ネットワーク、100…無線通信装置、101…アンテナ、102…高周波部、103…アナログ/デジタル変換器、104…ウィンドウ検出部、105…高速フーリエ変換部、106…復調部、107…デインターリーバ、108…ビタビ復号器、109…受信データ処理部、110…メモリ、111…中央制御ユニット、112…タイミング制御部、121…メモリ、122…送信データ処理部、123…畳み込み部、124…インターリーバ、125…変調部、126…逆高速フーリエ変換部、127…デジタル・アナログ変換器
Claims (14)
- 複数の通信局で構成されるネットワーク内で通信を行う通信方法であって、ネットワーク内で直接的に通信ができない通信局の間の通信については、ネットワーク内に存在する他の通信局で中継してマルチホップの通信を行う通信方法において、
ネットワーク内の通信局が、自己の通信局を通過している通信量をカウントし、そのカウントした通信量に対応して、バックオフの大きさを決定し、その決定されたバックオフの大きさに応じて、パケットの再送を開始させるタイムアウト時間を設定する
通信方法。 - 請求項1記載の通信方法において、
上記自己の通信局を通過している通信量には、自己の通信局が送信元又は受信先となる通信を含むようにした
通信方法。 - 請求項1記載の通信方法において、
上記通信量のカウントは、自己の通信局を通過しているコネクション数をカウントし、そのカウントしたコネクション数に対応して、バックオフの大きさを決定するようにした
通信方法。 - 請求項1記載の通信方法において、
上記通信量のカウントは、自己の通信局を通過しているパケットの送信元及び/又は受信先となるアドレスの数をカウントし、そのカウントしたアドレス数に対応して、バックオフの大きさを決定するようにした
通信方法。 - 請求項4記載の通信方法において、
上記パケットのアドレスは、メディアアクセスコントロール層で使用されるMACアドレス、又はルーティング層で使用されるIPアドレスである
通信方法。 - 請求項1記載の通信方法において、
上記通信量のカウントは、自己の通信局で送信及び/又は受信しているパケット数をカウントし、そのカウントしたパケット数に対応して、バックオフの大きさを決定するようにした
通信方法。 - 請求項6記載の通信方法において、
上記カウントするパケット数は、メディアアクセスコントロール層で送信及び/又は受信しているパケット数、又はルーティング層で送信及び/又は受信しているパケット数である
通信方法。 - ネットワーク内の他の通信装置とコネクションを確立させて通信を行う通信装置であって、ネットワーク内の他の通信装置間の通信の中継が可能な通信装置において、
ネットワーク内の他の通信装置と通信を行う通信手段と、
設定されたタイムアウト時間を保持する記憶手段と、
上記通信手段で通信している通信量をカウントし、そのカウントした通信量に対応して、バックオフの大きさを決定し、その決定されたバックオフの大きさに応じて、上記記憶手段に記憶されたタイムアウト時間を更新させ、上記記憶手段に記憶されたタイムアウト時間を使用して、パケットの再送制御を行う制御手段とを備えた
通信装置。 - 請求項8記載の通信装置において、
上記制御手段がカウントする通信量には、自己の通信装置で中継している通信の通信量と、時刻の通信装置が送信元又は受信先となる通信の通信量とを含む
通信装置。 - 請求項8記載の通信装置において、
上記制御手段での通信量のカウントは、自己の通信装置を通過しているコネクション数をカウントし、そのカウントしたコネクション数に対応して、バックオフの大きさを決定する
通信装置。 - 請求項8記載の通信装置において、
上記制御手段での通信量のカウントは、自己の通信装置を通過しているパケットの送信元及び/又は受信先となるアドレスの数をカウントし、そのカウントしたアドレス数に対応して、バックオフの大きさを決定する
通信装置。 - 請求項11記載の通信装置において、
上記パケットのアドレスは、メディアアクセスコントロール層で使用されるMACアドレス、又はルーティング層で使用されるIPアドレスである
通信装置。 - 請求項8記載の通信装置において、
上記制御手段での通信量のカウントは、自己の通信装置で送信及び/又は受信しているパケット数をカウントし、そのカウントしたパケット数に対応して、バックオフの大きさを決定する
通信装置。 - 請求項13記載の通信装置において、
上記制御手段でカウントするパケット数は、メディアアクセスコントロール層で送信及び/又は受信しているパケット数、又はルーティング層で送信及び/又は受信しているパケット数である
通信装置。
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