JP2004014120A - プロトン伝導体膜及びその製造方法、膜−電極接合体及びその製造方法、並びに電気化学デバイス - Google Patents

プロトン伝導体膜及びその製造方法、膜−電極接合体及びその製造方法、並びに電気化学デバイス Download PDF

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Abstract

【課題】固体高分子電解質型燃料電池等に使用可能な、水に不溶で、ガス不透過性並びにプロトン伝導性に優れたプロトン伝導体膜及びその製造方法、膜−電極接合体及びその製造方法、並びにこの膜−電極接合体を用いた電気化学デバイスを提供すること。
【解決手段】スルホン酸基−SOH等のプロトン解離性の基を有する水溶性フラーレン誘導体と、ポリビニルアルコール等のヒドロキシル基−OHを有する高分子材料との混合物を加熱処理することにより、水に不溶で、水素ガス透過阻止能力に優れ、大きなプロトン伝導度を有するプロトン伝導体膜を作製できる。更に混合物からなる薄膜を対向電極間に挟持した状態で加熱処理することにより、膜と電極との接合界面が良好な膜−電極接合体(MEA)を作製できる。
【選択図】     図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子電解質型燃料電池等に使用可能な、プロトン伝導膜及びその製造方法、膜−電極接合体(Membrane−Electrode Assembly:MEA)及びその製造方法、並びに電気化学デバイスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
固体高分子電解質型燃料電池は、主として水素電極、酸素電極、及び両電極間に挟持されたプロトン伝導膜で構成され、水素と酸素との反応による起電力が水素電極と酸素電極との間に発生する。
【0003】
具体的には、水素電極に供給された水素は、下記+4e
2H→4H+4e
の反応により酸化され、水素電極に電子を与える。生じた水素イオンH(プロトン)はプロトン伝導膜を介して酸素電極へ移動する。
【0004】
酸素電極へ移動した水素イオンは、酸素電極に供給される酸素と下記
+4H+4e→2H
のように反応し、水を生成するとともに、酸素電極から電子を取り込む。
【0005】
固体高分子電解質型燃料電池の特徴は、電解質に水素イオン(プロトン)を伝達し得る高分子膜を用いていることにあり、電解質の飛散が無く、小型軽量化が可能で出力密度が大きい等の他の燃料電池にはない優れた利点がある。
【0006】
従来、プロトン伝導膜としてパーフルオロスルホン酸樹脂(Du Pont社製の Nafion(R)など)等が用いられてきた。しかし、これらの高分子電解質膜は、水素ガスが酸素電極側へ透過するのを阻止する性能が十分ではない。このため、水素ガスの透過を防止するために膜の厚さを厚くする必要があり、その結果、膜抵抗が大きくなり、電池の出力が低下するという問題点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
一方、近年見出されたフラーレン等の炭素質材料にスルホン酸基等のプロトン解離性の基を導入したフラーレン誘導体は、プロトン伝導能を有する点で有望な材料である。
【0008】
なお、本発明において「プロトン解離性の基」とは、その基から水素原子がプロトン(H)として電離し、離脱し得る官能基を意味する。
【0009】
フラーレン誘導体において、フラーレン分子1個について導入されるプロトン解離性の基の数が多いほど、プロトン伝導性が高くなることが知られている。
【0010】
しかしながら、プロトン解離性の基は親水性であるため、導入されるプロトン解離性の基の数が多いほどフラーレン誘導体は水和しやすくなり、水への溶解性が増加する。水溶性のフラーレン誘導体を燃料電池の電解質として用いると、燃料電池においては上記の電極反応により水が生成するため、発電に際して生成した水に電解質が溶け出し流失してしまうという事態を招くことになる。
【0011】
即ち、フラーレン誘導体を単独で燃料電池の電解質として使用するには、プロトン伝導性が大きく、しかも水に溶けにくいフラーレン誘導体を選別せねばならず、材料設計・材料選択に際して非常に制約が多かった(例えば、C60(OSOH)(OH)なる構造をもつフラレノールは、水に溶解し難いため、燃料電池の電解質として多くの検討がなされている)。
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、固体高分子電解質型燃料電池等に使用可能な、水に不溶で、ガス不透過性及びプロトン伝導性に優れたプロトン伝導体膜及びその製造方法、膜−電極接合体(MEA)及びその製造方法、並びにこのMEAを用いた電気化学デバイスを提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、フラーレン分子を構成する炭素原子にプロトン解離性の基又はその基を含む原子団が結合している水溶性フラーレン誘導体と、ヒドロキシル基を有する高分子材料との混合物が加熱処理されてなるプロトン伝導体膜及びその製造方法に係わり、更に前記混合物を対向電極間に挟持した状態で前記加熱処理されてなる前記プロトン伝導体膜の膜−電極接合体(MEA)及びその製造方法、並びにこのMEAを用いて電気化学反応を行わせる電気化学デバイスに係わるものである。
【0014】
本発明によれば、前記水溶性フラーレン誘導体と前記ヒドロキシル基を有する高分子材料とを混合した状態で加熱処理するので、それぞれを単独で加熱した場合には起こらない化学反応、おそらくは縮合反応を起こさせることができる。
【0015】
その結果、前記フラーレン誘導体及び前記高分子材料の水に対する溶解性をともに低下させることができ、前記水溶性フラーレン誘導体の質量分率や前記加熱処理の条件等を適切に選ぶことにより、水に不溶で、水素ガス透過阻止能力に優れ、大きなプロトン伝導度を有する前記プロトン伝導体膜を作製できる。
【0016】
更に、前記混合物からなる薄膜を対向電極間に挟持した状態で前記加熱処理することで、前記プロトン伝導体膜と電極との接合界面が良好な膜−電極接合体(MEA)を作製できる。
【0017】
このMEAを、電極上で水素イオンがやり取りされる電気化学デバイスの電気化学反応部、例えば燃料電池の発電部に用いると、装置を小型化できるとともに、前記プロトン伝導体膜を単独でハンドリングすることによる膜の損傷を防止できる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明において、前記水溶性フラーレン誘導体及び前記高分子材料をそれぞれ水、アルコール又はこれらの混合溶媒に溶解し、これらの溶液を混合し、その混合溶液から溶媒を蒸発させ、前記混合物を形成するのがよい。これにより、前記フラーレン誘導体及び前記高分子材料が均一によく混ざり合った前記混合物を得ることができる。
【0019】
前記混合物中の前記水溶性フラーレン誘導体の比率が30〜75質量%であり、前記加熱処理の温度が、80℃以上、材料の分解温度未満であるのがよい。
【0020】
また、プロトン伝導体膜の水に対する溶解度が0.02質量%未満であるのがよい。
【0021】
前記水溶性フラーレン誘導体が、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、及び2−プロパノールからなる群より選ばれた少なくとも1種の物質からなる溶媒に10質量%以上溶解する物質であるのがよい。
【0022】
前記プロトン解離性の基が−XH又は−C(YH)(ZH)−(X、Y及びZは2価の結合手を有する任意の原子もしくは原子団である。)であり、具体的には−OH又は−OH含有の原子団、即ち−OSOH、−COOH、−SOH、−OPO(OH)のいずれかであるのがよい。
【0023】
前記プロトン解離性の基が−C(YH)(ZH)−の構造をもつ場合、この基を含む原子団の両端でフラーレン骨格を構成する2個の炭素原子と結合して、3員環以上の環構造をとるものもよい。
【0024】
前記フラーレン分子が、球状炭素クラスター分子C(n=36、60、70、76、78、80、82、84等)であるのがよい。
【0025】
前記高分子材料がポリビニルアルコール又はその誘導体、又はビニルアルコールとアルケン又はアルケン誘導体との共重合体であるのがよい。
【0026】
前記アルケン又はアルケン誘導体は、末端に二重結合をもち、共重合体において大きな側鎖を形成しないもの、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、酢酸ビニル及び酢酸−1−プロペニルなどであるのがよい。
【0027】
前記水溶性フラーレン誘導体がC60(CSOH)であり前記高分子材料がポリビニルアルコールであるのがよい。
【0028】
以下、本発明に基づく実施の形態を項目ごとにより詳しく具体的に説明する。
【0029】
加熱処理温度
本発明のプロトン伝導体膜の製造方法においては、水溶性フラーレン誘導体とヒドロキシル基を有する高分子材料の混合物からなる混合体膜を形成し、この混合体膜を80℃以上の温度で加熱処理することによって、水に溶けにくいプロトン伝導体膜を形成する。
【0030】
加熱処理温度が80℃未満では、不溶化反応が十分に進行しないか、あるいは不溶化するとしても反応に膨大な時間がかかり、現実的ではない。また、加熱処理温度は、材料の耐熱温度よりも低い温度とすべきである。これは、これ以上の温度では材料が熱分解してしまい、所望の膜を得ることができなくなってしまうためである。
【0031】
具体的には、フラーレン誘導体のプロトン解離性の基が−CFSOH、−CFCFSOH等の−(CFSOH型、−CFCFOCFCFSOH等の−(CF−O−(CF−SOH型などの−CF−を主鎖とする基である場合には、熱処理温度は200℃以下、−CHCHSOH、−CHCHCHCHSOH等の−(CHSOH型などの−CH−を主鎖とする基である場合には、熱処理温度は150℃以下とし、これ以外の構造をもつ基である場合には、熱処理温度は120℃以下とするのがよい。ここで、m=1〜20、n=1〜20が好ましく、より好ましくは、m=1〜10、n=1〜10とするのがよい(以下、同様)。
【0032】
このプロトン伝導体膜の製造方法では、80℃以上の耐熱性を有する、すべての水溶性フラーレン誘導体を水に不溶な膜とすることができる。この水溶性のフラーレン誘導体の中でも、官能基が多数導入できる点や化学的な安定性、プロトンの解離性を考慮すると、フラーレン誘導体としてC60((CHSOH)やC60(CFCFOCFCFSOH)を用いることにより、特に優れた伝導体膜を得ることができる。
【0033】
プロトン伝導体膜作製のための加熱処理は、混合体膜形成後であれば、いつ行ってもよい。しかし、膜−電極接合体(MEA)の作製を目的とする場合は、後述するように混合体膜を両電極間に挟持した状態で加熱処理するのが好ましい。
【0034】
加熱処理には、種々の加熱方法を用いることができる。具体的には、ヒーター上に被処理体を配置して加熱する方法、ヒーターを直接混合体膜に圧着して加熱するホットプレス法、恒温槽内で加熱する方法などである。また加熱はアルゴンや窒素などの不活性なガス雰囲気中で行ってもよいし、大気中で行ってもよい。
【0035】
混合体膜の作製
プロトン伝導体膜は、水溶性フラーレン誘導体とヒドロキシル基を有する高分子を質量比率30:70〜75:25、特に40:60〜70:30で混合した混合体膜から形成するのがよい。フラーレン誘導体をこれよりも少なくすると、膜のプロトン伝導度が低くなりすぎる。また、フラーレン誘導体をこれよりも多くすると、フラーレン誘導体を繋ぎ止めるバインダーの役割をする高分子材料が少なすぎて、十分な不溶化を実現することができなくなる。
【0036】
ヒドロキシル基を有する高分子としては、骨格に枝分かれのあるポリマーよりも側鎖の小さい鎖状高分子がよく、より好ましくは、直鎖状のポリマー、例えばポリビニルアルコールなどがよい。その理由は、次の通りである。
【0037】
本発明において、バインダーの役割をする高分子材料に要求される性能として、1.造膜性に優れること、2.形成された膜を水に対して不溶化できること、3.形成された膜が水素の透過を防ぐ性能が高いこと、4.高分子材料を水に溶解した状態でフラーレン誘導体と混合するという作製工程上の都合から、不溶化処理前には水に対し溶解することが好ましいこと、5.形成された膜が化学的安定性に優れること、などが挙げられる。
【0038】
1の造膜性に優れるためには、分子骨格が三次元的に複雑に結合した構造をもつ高分子は不都合であり、可塑性に優れた鎖状の高分子が望ましい.
【0039】
縮合反応によって2の不溶化の条件を満たすためには、ヒドロキシル基の存在が重要である。また、不溶化のメカニズムの一つとして、隣接する高分子同士がヒドロキシル基による分子間水素結合によって緊密に結びつき結晶化する機構が考えられる。この機構は大きな側鎖をもつ高分子では起こりにくく、ヒドロキシル基同士が接近する上で立体的な障害になる側鎖は無い方がよい。
【0040】
3の条件を満たすためにも、隣接する高分子同士が緊密に結びつくことが望ましく、2と同じ理由で側鎖は無い方がよい。
【0041】
複雑な側鎖を有する高分子は、溶媒への溶解性が著しく低いため、溶解による分散混合ができなくなる。4の条件を満たすためにも、高分子は、側鎖の無い直鎖状の構造をもつことが好ましい。
【0042】
5の化学的安定性の条件を満たすためには、高分子材料の炭素骨格は飽和アルキル鎖であることが好ましい。
【0043】
以上より、バインダーに用いられる高分子材料は、ヒドロキシル基を有する、側鎖の無い鎖状高分子であることが最も好ましい。ただし、加熱処理による不溶化は、ヒドロキシル基を有する鎖状高分子なら原理的には可能と考えられ、高温作動の燃料電池用には、耐熱性に優れているシラノール含有ポリ有機シロキサン等の使用も考えられる。
【0044】
プロトン伝導体膜の厚さは、用いるフラーレン誘導体の種類にもよるが、0.1μm以上、100μm以下であるのが望ましい。0.1μmよりも薄くなると、水素ガスに対する透過阻止能力が小さくなりすぎ、また逆に100μmよりも厚くなると、膜の抵抗が大きくなりすぎ、いずれも燃料電池の出力特性を低下させる原因となる。
【0045】
水溶性フラーレン誘導体とヒドロキシル基を有するポリマーとの混合体膜は、フラーレン誘導体の溶液とポリマーの溶液とを混合し、よく攪拌した混合溶液を、各種塗布法、バーコート法、スクリーン印刷及びグラビア印刷などの各種印刷法、スプレードライ法、スピンコート法などの方法を適用して薄膜状に広げ、溶媒を蒸発させて形成するのがよい。
【0046】
上記混合溶液の溶媒量は、混合体膜の各種形成方法により異なるが、例えば印刷法による場合には、フラーレン誘導体とポリマーとの総質量に対して1〜10倍の溶媒を配合し、印刷に供するのがよい。
【0047】
溶媒としては、水の他にメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール類、及びこれらの混合溶媒が使用可能である。
【0048】
ヒドロキシル基を有するポリマー、例えばポリビニルアルコールの水溶液は、一般に粘度が高いため、空気が一旦気泡として抱き込まれると、取り込まれた気泡を水溶液から取り除くのは極めて難しい。気泡を抱き込む主な工程は、溶液の攪拌混合工程や、印刷法等による製膜工程などである。このとき、溶媒中にアルコール類を10%程度含有させておくのが、好ましい。アルコール類には、溶液の粘度を低下させ、溶液が気泡を抱き込むのを抑え、気泡を抜けやすくする働きがある。なお、気泡が抜けきらないまま、溶媒が蒸発して膜が形成されると、気泡のあった部分に穴があいた膜ができてしまい、使い物にならない膜になる。
【0049】
プロトン伝導体膜−電極接合体(MEA)の作製
本発明に基づいてプロトン伝導体膜−電極接合体(MEA)を作製する場合、加熱処理は混合体膜を両電極間に挟持した状態で行う。このことにより、膜の不溶化、および膜−電極の接合が同時に行えるため、膜を単独でハンドリングすることによる膜の損傷を避けることができ、かつ膜−電極界面の抵抗を極めて小さくすることができる。
【0050】
電極は、燃料電池の電極として用いることができるものであればどのようなものでもよい。一般には、膜との接合面側に白金担持カーボンとフルオロカーボン系のバインダーからなる触媒層を有し、必要に応じて、水素及び酸素のガス拡散層や集電体等の構造を有するものがよい。
【0051】
加熱処理接合時の処理温度は、膜を単独で加熱処理する場合に準じる。即ち、80℃以上で、かつ材料の耐熱温度よりも低い温度とする。
【0052】
また、このときの接合圧力はほとんど必要ではなく、軽く抑える程度でよい。大きすぎる接合圧力を加えると、たとえ数kg/cm 程度の圧力であっても、燃料電池を形成した場合の出力に大きな低下が見られる。この原因は明らかではないが、加圧により電極周辺のガス拡散路が塞がれている可能性がある。
【0053】
不溶化のメカニズム
水溶性のフラーレン伝導体が水に不溶化されるメカニズムは、完全な解明には到っていないが、概ね以下の2つの機構がほぼ同時に進行することによるものと思われる。
【0054】
1つ目の機構は、フラーレン誘導体のプロトン解離性の基とポリマーのヒドロキシル基との間で酸エステル化反応による架橋反応が起こり、この架橋反応が3次元的に進行することにより、フラーレン誘導体とヒドロキシル基を有するポリマーとの両方が不溶化する機構である。
【0055】
2つ目の機構は、フラーレン誘導体のプロトン解離性の基が触媒として働くことにより、ポリマーのヒドロキシル基同士が脱水縮合してエーテル結合を形成し、ポリマーの分子鎖が三次元的に複雑に絡み合った不溶性の構造体が形成され、この構造体の中にフラーレン分子が物理的に閉じ込められることにより、プロトン伝導体膜全体が不溶化する機構である。
【0056】
これらの機構のうち、赤外吸収スペクトルからエステル化が進行していることは明らかであるが、酸エステル結合は加水分解に対する安定性が低く、本発明に基づくプロトン伝導体膜の不溶化(加水分解に対する安定性)を、エステル化のみで説明することは難しい。従って、上記の2つの機構が同時並行的に進行し、お互いに補完しあって膜の不溶化を達成しているものと考えられる。
【0057】
また、前述したように、不溶化のメカニズムの一つとして、隣接する高分子同士がヒドロキシル基による分子間水素結合によって緊密に結びつき、結晶化する機構も働いていると考えられる。
【0058】
【実施例】
以下、代表的な水溶性フラーレン誘導体としてC60(CSOH)を用い、ヒドロキシル基を有する高分子材料として、ケン化度88%のポリビニルアルコール−[−(CHCH(OH))0.88−(CHCH(OCOCH))0.12−]−(以下、PVAと略記する)を用いた例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0059】
<プロトン伝導体膜の作製>
本実施例におけるプロトン伝導体膜はすべて以下の手順によって作製した。
【0060】
まず、エタノールと水とを質量比20:80で混合した溶媒に、20質量%の水溶性フラーレン誘導体を溶解させた。一方、10質量%のPVAを水に溶解させた。これら2種類の溶液を所望の比率で混合・攪拌し、混合溶液を作製した。
【0061】
この混合溶液をドクターブレード法にてテフロン(登録商標)シート上に塗布し、溶媒を蒸発させ、水溶性フラーレン誘導体とPVAとの混合物からなる混合体膜を作製した。なお、ブレードのギャップは所望の膜の厚さに応じて適宜調整した。こうして得られた混合体膜を、十分乾燥させた後、テフロン(登録商標)シートよりはがし、所定の条件で加熱処理をして、プロトン伝導体膜を作製した。このプロトン伝導体膜につき、下記の各種評価試験を実施した。
【0062】
<水溶性フラーレン誘導体とPVA樹脂との質量比率の検討>
フラーレン誘導体溶液とPVA溶液との混合比率を調整して、フラーレン誘導体とPVA樹脂との質量比率が異なる6種類の混合体膜を、フラーレン誘導体の質量分率が20質量%〜80質量%となるように作製した。
【0063】
混合体膜の厚さが50μmになるようにドクターブレードのギャップを調整し、これらの混合体膜を窒素ガス雰囲気中、温度90℃で24時間加熱処理して、プロトン伝導体膜を作製した。
【0064】
このようにして作製したプロトン伝導体膜の不溶化度を下記の手順で決定した。
【0065】
まず、プロトン伝導体膜を露点−40℃の乾燥雰囲気下で1日乾燥させ、その乾燥質量w1を測定した。続いて、この膜をその質量の1000倍の質量の純水中に投入し室温で24時間放置した。24時間後に、膜を水中から取り出し、再び露点−40℃の乾燥雰囲気下で24時間乾燥させ、その質量w2を測定した。
【0066】
ここで、プロトン伝導体膜の溶残率(%)を
プロトン伝導体膜の溶残率(%)=(w2/w1)×100(%)
と定義し、溶残率が80%以上の膜を不溶化されたプロトン伝導体膜と判定する。これは、1gのプロトン伝導体膜を1000gの純水中に投入したとき、質量の減少が20%、つまり0.2g未満ということであるから、溶解度が0.02質量%未満であることに相当する。
【0067】
図1は、このようにして求めた溶残率とフラーレン誘導体の質量分率との関係を示すグラフである。図1から、プロトン伝導体膜の溶残率は、フラーレン誘導体の質量分率が75質量%以下ではほぼ一定で、75質量%を超えると急激に低下することがわかる。即ち、不溶化度の大きい伝導体膜を得るには、フラーレン誘導体の質量分率が75質量%以下、好ましくは70質量%以下であるのがよい。
【0068】
フラーレン誘導体の質量分率が75質量%を超えると急激に溶残率が低下する理由は、バインダーの役割をするPVAが不足し、水溶性フラーレン誘導体を不溶化しきれないことにある。従って、同様の関係は、フラーレン誘導体やポリマー材料の種類にかかわらず成り立つ。
【0069】
なお、溶残率が80%以上、溶解度が0.02質量%未満であることを不溶化の基準としたのは、以下の理由による。
【0070】
膜の厚さが10μmのプロトン伝導体膜(密度1.51g/cm)を組み込んだ燃料電池を想定し、1.膜は発電により発生した水に、その溶解度に応じた飽和溶液を形成して溶解する、2.組み込んだ膜の2/3が失われると、膜のショートが発生し、燃料電池の寿命が終了するものと仮定し、3.寿命終了までに、0.1A/cmの発電を150時間継続可能である、つまり、1cmあたり15A・hの電気量を取り出しうるという要求基準を設定すると、この基準を満たす溶解度が0.02質量%未満である。
【0071】
即ち、1cmのプロトン伝導体膜(質量1.51mg)を用いて15A・hの発電を水素−酸素燃料電池で行うとすると、このとき約5.0gの水が発生する。この水に対しプロトン伝導体膜の1/3以上が溶けずに残ると考えて逆算すると、要求される溶解度は約0.02質量%未満となる。
【0072】
図13は、本実施例のプロトン伝導体膜を用いた水素−酸素燃料電池を実際に作製し、出力電圧0.2Vで0.6A/cmの出力電流を取り出しながら連続運転を行った際の、出力電流密度の時間変化を示すグラフである。プロトン伝導体膜は、混合体膜中のフラーレン誘導体の質量分率が66.7質量%、溶残率が82%の膜を用い、後述する方法で膜−電極接合体(MEA)を作製して用いた。最終的に膜のショートが発生し出力が得られなくなるまでに30時間を要し、18A・hの発電ができており、事前の想定どおりの結果が得られた。
【0073】
続いて、作製した6種類のプロトン伝導体膜のプロトン伝導度を、複素インピーダンス法を用いて室温、相対湿度70%及び85%の下で測定した。
【0074】
図2は、測定されたプロトン伝導体膜のプロトン伝導度とフラーレン誘導体の質量分率との関係を示すグラフである。図2から、プロトン伝導体膜のプロトン伝導度は、フラーレン誘導体の質量分率が低下するとともに徐々に低下して行き、特に30質量%以下の領域では急激に低下することがわかる。即ち、良好なプロトン伝導度を有する膜を得るには、フラーレン誘導体の質量分率が30質量%以上、好ましくは40質量%以上とするのがよい。
【0075】
フラーレン誘導体の質量分率が30質量%以下の領域でプロトン伝導体膜のプロトン伝導度が急激に低下する理由は、プロトン伝導の担い手であるフラーレン誘導体が不足することにある。従って、同様の関係は、フラーレン誘導体やポリマー材料の種類にかかわらず成り立つ。
【0076】
以上の結果から、本発明の実施の形態において、不溶化度が大きく、良好なプロトン伝導度を有するプロトン伝導体膜を得るには、加熱処理前の混合体膜中のフラーレン誘導体の質量分率を30質量%〜75質量%、好ましくは40質量%〜70質量%とするのがよいことがわかる。
【0077】
<熱処理温度および熱処理時間の検討>
混合体膜中のフラーレン誘導体の質量分率が66.7質量%となるようにフラーレン誘導体溶液とPVA溶液を混合し、混合体膜の厚さが50μmになるようにドクターブレードのギャップを調整して、混合体膜を作製した。この混合体膜を60℃、80℃、90℃の3つの温度で、処理時間を6時間〜120時間まで変化させて加熱処理を行い、プロトン伝導体膜を作製した。
【0078】
こうして作製した膜に対して、前述したのと同じ方法で溶残率を測定した。
【0079】
図3(a)は、処理時間を24時間としたときの各温度における溶残率を示すグラフである。このグラフから、溶残率は加熱処理温度が下がると低下し、特に、80℃以下では低下が著しいことがわかる。
【0080】
図3(b)は、処理温度を80℃及び90℃としたときの各温度における熱処理時間と溶残率との関係を示すグラフである。このグラフから、十分な不溶化がなされるためには、80℃ならば3日、90℃なら1日以上の熱処理時間を必要とすることがわかる。
【0081】
これらをまとめると、十分な不溶化がなされたプロトン伝導体膜を得るためには、90℃なら1日、80℃なら3日以上の加熱処理時間が必要で、これ以下の温度での加熱処理は、不溶化に時間がかかりすぎて現実的ではないと言える。
【0082】
また、当然ながら、材料であるフラーレン誘導体及びヒドロキシル基を有する高分子材料の耐熱温度以上の温度で加熱処理を行えば、材料の分解が起こり、プロトン伝導体膜としての性能を損ねるため、加熱処理は材料の耐熱温度以下で行うべきである。
【0083】
<プロトン伝導体膜のプロトン伝導度に対する湿度の影響>
混合体膜中のフラーレン誘導体の質量分率が66.7質量%となるようにフラーレン誘導体溶液とPVA溶液を混合し、混合体膜の厚さが50μmになるようにドクターブレードのギャップを調整して、混合体膜を作製した。この混合体膜を窒素ガス雰囲気中にて90℃、24時間加熱処理を行い不溶化されたプロトン伝導体膜を作製した。
【0084】
こうして作製した膜を直径4mmの円形に切り抜き、金電極ではさんで、種々の相対湿度におけるプロトン伝導体膜のプロトン伝導度を測定した。また、比較例として、Nafion(R)115フィルムを直径4mmの円形に切り抜き、金電極にはさんで、プロトン伝導膜と同様に種々の相対湿度におけるプロトン伝導度を測定した。
【0085】
図4は、プロトン伝導度(インピーダンス)測定用の調湿装置の概略構成図である。この調湿装置は、試料1を試料室2の中に収納し、試料室2内の温度と湿度を温度・湿度センサ3でモニタしながら一定に保ち、試料1のプロトン伝導度を測定するためのものである。
【0086】
試料室2の温度は、恒温槽4により所望の値23℃に保たれる。試料室2の湿度は、試料室2に供給される乾燥空気8の流量と、バブラー6内の純水7の中を通すことによって水蒸気で飽和させた空気9の流量とを流量調節器10で調節し、両者の比率を変えることにより、所望の値に設定することができる。
【0087】
図5は、プロトン伝導体膜及びNafion(R)115膜のプロトン伝導度と相対湿度との関係を示すグラフである。図5から、本実施例によるプロトン伝導体膜のプロトン伝導度は、室温の高湿度環境下でNafion(R)115のプロトン伝導度を上回ることがわかる。
【0088】
<膜の水素透過性の測定>
混合体膜中のフラーレン誘導体の質量分率が66.7質量%となるようにフラーレン誘導体溶液とPVA溶液を混合し、混合体膜の厚さが20μmになるようにドクターブレードのギャップを調整して、混合体膜を作製した。この混合体膜を窒素ガス雰囲気中にて90℃、24時間加熱処理を行い不溶化されたプロトン伝導体膜を作製した。
【0089】
こうして作製した膜をポリカーボネート製の多孔質フィルムに貼り付け、膜の水素透過性を測定した。また、比較例として、ほぼ同じ厚さのNafion(R)111フィルムについても、プロトン伝導体膜と同様の条件にて水素透過性を測定した。
【0090】
図6は、膜の水素透過性を測定する装置の概略構成図である。この装置では、膜を貼り付けた試料21を2つの容器22、23の間にOリング24で気密を保ちながら保持できるようになっている。試料21の左側の容器22に一定圧力で水素ガス26を充填すると、水素ガス26が試料21を透過して右側の容器23に侵入し始め、容器23内の水素濃度は時間とともに増大する。この水素濃度の時間変化を水素検出器25で測定する。
【0091】
図7は、測定された水素濃度の時間変化を示すグラフである。Nafion(R)111では、容器22内の水素ガスの圧力が0.01MPaのとき120分後に230ppmの水素が検出され、0.03MPaのときには短時間で水素検出器25の測定限界である300ppmを超えてしまった。これに対し、本実施例によるプロトン伝導体膜では、容器22内の水素ガスの圧力を0.03MPaにした場合でも、約5ppmの水素しか検出されなかった。
【0092】
この結果から、本実施例によるプロトン伝導体膜は、同じ厚さのNafion(R)111膜に比べて、水素ガスの透過を阻止する能力が極めて高いことがわかる。このため水素ガスの透過を防ぐために膜の厚さを厚くする必要がなく、燃料電池を設計する際にプロトン伝導体膜を極めて薄くすることができ、前述したプロトン伝導体膜のもつ高いプロトン伝導性とあいまって、膜抵抗の極めて小さい、高性能な電池の作製が可能である。
【0093】
<本実施例によるプロトン伝導体膜を電解質膜として使用した燃料電池MEAの出力評価>
電極の作製
本実施例によるプロトン伝導体膜を使用した燃料電池の出力特性を測定するため、燃料電池の電極を下記のように作製した。
【0094】
まず、カーボンの微粉末と、パーフルオロカーボン系樹脂を水に分散させた分散液とを、カーボンと樹脂との乾燥質量比が4:6になるように混合した懸濁液を調製し、カーボンシートの上にバーコート法により塗布し、乾燥させた。
【0095】
この下地層の上に、触媒層として、田中貴金属(株)製の燃料電池用触媒TEC10V50Eと、Du Pont社製の Nafion(R)溶液SE−20092とを、白金担持炭素とNafion(R)との乾燥質量比が10:6になるように混合したものを、バーコート法により塗布した。塗布量は、触媒中の白金量に換算した値で、0.5mg/cmとなるようにした。
【0096】
このように、下地層と触媒層の塗布されたカーボンシートを大気中、150℃で熱処理した。これを直径15mmに打ち抜いたものを燃料電池の酸素電極とし、また、直径10mmに打ち抜いたものを燃料電池の水素電極とした。
【0097】
燃料電池の膜 電極接合体(MEA)の作製
燃料電池の電解質用の膜として、混合体膜中のフラーレン誘導体の質量分率が66.7質量%となるようにフラーレン誘導体溶液とPVA溶液を混合し、混合体膜の厚さが20μmになるようにドクターブレードのギャップを調整して、混合体膜を作製した。
【0098】
この膜を直径15mmに切り取って、上記の水素電極及び酸素電極の間に各電極の触媒層が混合体膜の側に来るように挟持し、この上に50gのおもりを乗せた状態で窒素雰囲気中、90℃で24時間加熱処理を施し、燃料電池の膜−電極接合体(MEA)を作製した。
【0099】
図8(a)は、燃料電池の膜−電極接合体(MEA)31の性能評価装置の概略構成図であり、図8(b)は、MEA付近の拡大断面図である。水素室32に水素ガス34、酸素室33に酸素ガス35を流入させ、集電板37に設けられた溝38を通じて各ガスを水素電極42及び酸素電極43に供給する。発生した電流は集電板37で捕集し、その出力電圧及び出力電流を測定する。
【0100】
MEA31において、プロトン伝導体膜41は、水素電極42及び酸素電極43の間に各電極の触媒層44、45が接合するように保持されている。水素室32の気密性は、Oリング36によって保たれる。
【0101】
図9は、測定された出力電流と出力電圧との関係を示すグラフである。本実施例によるプロトン伝導体膜−電極接合体(MEA)を使用することにより、良好な出力を得ることができることがわかる。
【0102】
<不溶化メカニズムの考察>
本発明の実施の形態によるプロトン伝導体膜がいかなるプロセスにて不溶化しているかを調べるために、加熱処理前の混合体膜及び加熱処理後のプロトン伝導体膜の赤外吸収スペクトル(IR)を測定した。なお、プロトン伝導体膜の材料は、プロトン伝導体としてC60(CSOH)を用い、ヒドロキシル基を有する高分子としてケン化度99%のポリビニルアルコール(PVA)−[−(CHCH(OH))0.99−(CHCH(OCOCH))0.01−]−を用いた。
【0103】
混合体膜中のフラーレン誘導体の質量分率が66.7質量%となるようにフラーレン誘導体溶液とPVA溶液を混合し、混合体膜の厚さが50μmになるようにドクターブレードのギャップを調整して、混合体膜を作製した。この一部をサンプリングして非加熱のサンプルとした。残りの膜を窒素雰囲気下、90℃で24時間加熱処理したものの一部をサンプリングして加熱処理後のサンプルとした。これらのサンプルについて、KBr錠剤法を用いて赤外吸収スペクトルを測定した。
【0104】
図10は、非加熱の混合体膜の赤外吸収スペクトル、図11は、加熱処理後のプロトン伝導体膜の赤外吸収スペクトル、図12は、加熱前後の相違点を最も顕著に示す波長領域の赤外吸収スペクトルである。
【0105】
図12によると、加熱前は1180cm−1〜1200cm−1のピークが1つであるのに対して、加熱後は2つに分離している。これは、加熱前のR−SOHのピークに加え、加熱後は新たにR−SO−O−R由来のピークが現れているためと考えられる。
【0106】
また、加熱処理後のスペクトルでは、非加熱のスペクトルに比べ1090cm−1付近の吸収ピークが大幅に減少していることが見て取れる。このピークは、ポリビニルアルコールの−CH(OH)−におけるC−O伸縮振動運動及びO−Hの変角振動運動による吸収ピークと考えられる。
【0107】
即ち、加熱処理によってポリビニルアルコールの−OH基が何らかの反応を起こし、変質していることが示唆される。具体的には、フラーレン誘導体のスルホン酸基との間でのエステル化反応を起こしてスルホン酸エステルを形成していること、又はスルホン酸の介在下でポリビニルアルコールの−OH基同士が脱水縮合して、−CH−O−CH−なるエーテル結合を形成していることが考えられる。
【0108】
R−SO−O−R(スルホン酸エステル)由来のピークのピーク出現と、ポリビニルアルコールの−OH基のピークの減少とが同時に観察されること、更に、フラーレン誘導体も熱処理により不溶化している事実から考えると、フラーレン誘導体の−SOH基とポリビニルアルコールの−OH基との間のエステル化反応が支配的に進行した可能性が高いと推察される。
【0109】
脱水反応が進行している裏づけとして、膜の加熱処理による質量減少率を調べた結果を表1に示す。表1には、比較として、ポリビニルアルコール(PVA)及びフラーレン誘導体をそれぞれ単独で、膜と同条件により加熱処理した際の処理前後の質量減少率も示す。なお、質量測定は、前もって露点−40℃の乾燥雰囲気下で24時間乾燥を行った後、行った。
【0110】
【表1】
Figure 2004014120
【0111】
結果を見ると、ポリビニルアルコール(PVA)及びフラーレン誘導体を単独で加熱処理した場合の質量減少率は、それぞれ8.1%、5.0%である。これらに混合体膜中での両者の質量分率をかけて足し合わせて、両者が無関係と仮定した場合の理論質量減少率を求めると6.0%となる。
【0112】
一方、プロトン伝導体膜での実際の減少率は17.8%であり、上記計算値を大きく上回っている。これは、混合物の加熱処理により単独の加熱では起こらなかった何らかの反応が起こり、反応生成物のうちの揮発性物質が失われたことを示していると考えられる。赤外吸収スペクトルの結果と考え合わせると、加熱処理により進行した縮合反応により生成した水が水蒸気として揮発し、失われたものと考えられる。
【0113】
以上、本発明を実施の形態及び実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0114】
【発明の作用効果】
本発明によれば、水溶性フラーレン誘導体とヒドロキシル基を有する高分子材料とを混合した状態で加熱処理するので、それぞれを単独で加熱した場合には起こらない化学反応、おそらくは縮合反応を起こさせることができる。
【0115】
その結果、フラーレン誘導体及び高分子材料の水に対する溶解性をともに低下させることができ、水溶性フラーレン誘導体の質量分率や加熱処理の条件等を適切に選ぶことにより、水に不溶で、水素ガス透過阻止能力に優れ、大きなプロトン伝導度を有するプロトン伝導体膜を作製できる。
【0116】
更に、前記混合物からなる薄膜を対向電極間に挟持した状態で加熱処理することにより、プロトン伝導体膜と電極との接合界面が良好な膜−電極接合体(MEA)を作製できる。
【0117】
このMEAを、電極上で水素イオンがやり取りされる電気化学デバイスの電気化学反応部、例えば燃料電池の発電部に用いると、装置を小型化できるとともに、前記プロトン伝導体膜を単独でハンドリングすることによる膜の損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例によるプロトン伝導体膜の溶残率とフラーレン誘導体の質量分率との関係を示すグラフである。
【図2】同、プロトン伝導体膜のプロトン伝導度とフラーレン誘導体の質量分率との関係を示すグラフである。
【図3】同、プロトン伝導体膜の溶残率と加熱処理温度(a)及び加熱処理時間(b)との関係を示すグラフである。
【図4】同、プロトン伝導度測定用の調湿装置の概略構成図である。
【図5】本発明の実施例によるプロトン伝導体膜及びNafion(R)膜のプロトン伝導度と相対湿度との関係を示すグラフである。
【図6】同、膜の水素透過性を測定する装置の概略構成図である。
【図7】本発明の実施例によるプロトン伝導体膜及びNafion(R)膜の水素透過性を示すグラフである。
【図8】同、燃料電池の膜−電極接合体(MEA)の性能評価用装置の概略構成図(a)及びその要部拡大断面図(b)である。
【図9】本発明の実施例によるMEAを用いた燃料電池の出力電圧と出力電流密度との関係を示すグラフである。
【図10】同、非加熱の混合体膜の赤外吸収スペクトルである。
【図11】同、加熱処理後のプロトン伝導体膜の赤外吸収スペクトルである。
【図12】同、加熱前後の相違点を最も顕著に示す波数領域の赤外吸収スペクトルである。
【図13】同、プロトン伝導体膜を用いた燃料電池の出力電流密度と動作時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
31…膜−電極接合体(MEA)、32…水素室、33…酸素室、
34…水素ガス、35…酸素ガス、36…Oリング、37…集電板、
41…プロトン伝導体膜、42…水素電極、43…酸素電極、
44…水素側触媒層、45…酸素側触媒層

Claims (25)

  1. フラーレン分子を構成する炭素原子にプロトン解離性の基又はその基を含む原子団が結合している水溶性フラーレン誘導体と、ヒドロキシル基を有する高分子材料との混合物が加熱処理されてなるプロトン伝導体膜。
  2. 前記混合物中の前記水溶性フラーレン誘導体の比率が30〜75質量%である、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  3. 前記加熱処理の温度が、80℃以上、材料の分解温度未満である、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  4. 水に対する溶解度が0.02質量%未満である、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  5. 水、メタノール、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールからなる群より選ばれた少なくとも1種の物質からなる溶媒に、前記水溶性フラーレン誘導体が10質量%以上溶解する、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  6. 前記プロトン解離性の基が−XH(Xは2価の結合手を有する任意の原子もしくは原子団である。)である、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  7. 前記プロトン解離性の基が−C(YH)(ZH)−(Y及びZは2価の結合手を有する任意の原子もしくは原子団である。)である、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  8. 前記プロトン解離性の基が、−OH又は−OH含有の原子団である、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  9. 前記プロトン解離性の基が、−OH、−OSOH、−COOH、−SOH、−OPO(OH)のいずれかより選ばれる基である、請求項8に記載したプロトン伝導体膜。
  10. 前記フラーレン分子が、球状炭素クラスター分子C(n=36、60、70、76、78、80、82、84等)である、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  11. 前記高分子材料がポリビニルアルコール又はその誘導体である、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  12. 前記高分子材料がビニルアルコールとアルケン又はアルケン誘導体との共重合体である、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  13. 前記アルケン又はアルケン誘導体が末端に二重結合をもつアルケン又はその誘導体である、請求項12に記載したプロトン伝導体膜。
  14. 前記水溶性フラーレン誘導体がC60(CSOH)であり前記高分子材料がポリビニルアルコールである、請求項1に記載したプロトン伝導体膜。
  15. フラーレン分子を構成する炭素原子にプロトン解離性の基又はその基を含む原子団が結合している水溶性フラーレン誘導体と、ヒドロキシル基を有する高分子材料とを混合し、この混合物を加熱処理する、プロトン伝導体膜の製造方法。
  16. 前記水溶性フラーレン誘導体の溶液と前記高分子材料の溶液とを混合し、この混合溶液から溶媒を蒸発させて前記混合物を形成する、請求項15に記載したプロトン伝導体膜の製造方法。
  17. 前記水溶性フラーレン誘導体の溶液及び前記高分子材料の溶液が、水、アルコール又はこれらの混合溶媒を溶媒とする溶液である、請求項16に記載したプロトン伝導体膜の製造方法。
  18. 請求項2〜14のいずれか1項に記載したプロトン伝導体膜を製造する、請求項15に記載したプロトン伝導体膜の製造方法。
  19. 請求項1〜14のいずれか1項に記載したプロトン伝導体膜が対向電極間に挟持されてなる、膜−電極接合体。
  20. フラーレン分子を構成する炭素原子にプロトン解離性の基又はその基を含む原子団が結合している水溶性フラーレン誘導体と、ヒドロキシル基を有する高分子材料とを混合し、この混合物を対向電極間に挟持した状態で加熱処理することによりプロトン伝導体膜を形成する、膜−電極接合体の製造方法。
  21. 前記水溶性フラーレン誘導体の溶液と前記高分子材料の溶液とを混合し、この混合溶液から溶媒を蒸発させて前記混合物を形成する、請求項20に記載した膜−電極接合体の製造方法。
  22. 前記水溶性フラーレン誘導体の溶液及び前記高分子材料の溶液が、水、アルコール又はこれらの混合溶媒を溶媒とする溶液である、請求項21に記載した膜−電極接合体の製造方法。
  23. 前記プロトン伝導体膜として請求項2〜14のいずれか1項に記載したプロトン伝導体膜を形成する、請求項20に記載した膜−電極接合体の製造方法。
  24. 請求項19に記載した膜−電極接合体が電気化学反応部に用いられている、電気化学デバイス。
  25. 燃料電池として構成された、請求項24に記載した電気化学デバイス。
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