JP2004012997A - 磁気光学体 - Google Patents
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Abstract
【課題】簡便な製造工程でかつ低コストで作製し得る磁気光学体を提供することを目的とし、これはファラデー回転子に好ましく利用され得るものである。
【解決手段】磁気光学体(10)は、入射光の偏光面を回転させるための透光性で非晶質の磁性薄膜(2)と、この非晶質磁性薄膜(2)の両主面の各々上において高屈折率層(1a、3a)と低屈折率層(1b、3b)とを交互に積層した誘電体多層膜(1、3)とを含み、入射光はそれらの誘電体多層膜(1、3)間において非晶質磁性薄膜(2)中を往復伝播し得る。
【選択図】 図1
【解決手段】磁気光学体(10)は、入射光の偏光面を回転させるための透光性で非晶質の磁性薄膜(2)と、この非晶質磁性薄膜(2)の両主面の各々上において高屈折率層(1a、3a)と低屈折率層(1b、3b)とを交互に積層した誘電体多層膜(1、3)とを含み、入射光はそれらの誘電体多層膜(1、3)間において非晶質磁性薄膜(2)中を往復伝播し得る。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は入射光の偏光面を回転させるファラデー回転子に利用され得る磁気光学体の改善に関し、ファラデー回転子はたとえば光通信における光アイソレータなどに利用され得るものである。
【0002】
【従来の技術】
光ファイバやその他の光学部品を含んで構成される光通信システムにおいて、光コネクタや光回路部品などからの反射光が戻り光として光源に再入射することがある。光通信システムにおける光源としては、一般に半導体レーザが使用されている。レーザ光源に戻り光が入射すれば、それがレーザの共振作用に影響を及ぼし、出射レーザ光にノイズが含まれることになる。そこで、レーザ光源へ戻り光が入射することを防止するために、光アイソレータが利用されている。
【0003】
光アイソレータは、第1と第2の偏光子にはさまれたファラデー回転子を含んでいる。第1の偏光子は、光源から射出された光のうちで特定の第1の偏光面を有する光のみを通過させる。ファラデー回転子は、第1の偏光子を通過した光の偏光面を45度回転させる。第2の偏光子は、ファラデー回転子によって偏光面が45度回転させられた光のみを通過させるように、第1の偏光面から45度回転させられた第2の偏光面を有している。
【0004】
このような光アイソレータに戻り光が逆方向に入射する場合、第2の偏光子は第2の偏光面を有する戻り光のみを通過させる。次に、戻り光がファラデー回転子を逆方向に通過するとき、その戻り光の第2の偏光面は、第1の偏光面へ回転し戻されるのではなくて、さらに45度だけ追加回転させられる。これは、ファラデー効果の非相反性として知られている。すなわち、ファラデー回転子を通過した戻り光は、第1の偏光面に対して90度回転させられた第3の偏光面を有している。したがって、第3の偏光面を有する戻り光は第1の偏光子を通過することができず、光源へ入射することが防止されることになる。
【0005】
ここで、ファラデー効果とは、磁場中に置かれた透明物質中で磁場に平行に直線偏光を伝播させた場合に、その偏光面が回転する現象を意味する。透明物質がガラスなどの非磁性体の場合、ファラデー効果による偏光面の回転角(ファラデー回転角)は、その物質によって定まる比例定数の下で、磁場の強さと磁場に平行な光の伝播距離とに比例する。透明物質が強磁性体の場合、ファラデー回転角は磁化に関係する量であり、飽和磁場以上の磁場下では一定となり、また非磁性体の場合と同様に、光の伝播距離に比例する。一般に、非磁性透明物質よりも強磁性透明物質を利用することによって、大きなファラデー回転角が得られる。
【0006】
他方、上述のファラデー効果の非相反性から理解されるように、ファラデー回転子内で光を複数回往復させて合計の伝播距離を大きくすることによって、ファラデー回転角を大きくすることができる。このことを利用するために、透明磁性膜の両主面の各々上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜を含むファラデー回転子が知られている。すなわち、それら2つの誘電体多層膜は干渉フィルタまたは干渉反射膜として作用し、一種のファブリ・ペロー共振器を構成する。したがって、透明磁性膜の両主面上に設けられた2つの誘電体多層膜間で透明磁性膜中を光が複数回往復することができ、大きなファラデー回転角が得られることになる。
【0007】
図2の模式的な断面図は特開2001−110635号に開示された磁気光学体を示しており、これはファラデー回転子に利用し得るものである。この磁気光学体200は、第1の誘電体多層膜210と第2の誘電体多層膜211にはさまれた透光性磁性膜207を含んでいる。第1と第2の誘電体多層膜210と211の各々において、高屈折率のTa2O5層と低屈折率のSiO2層が交互に積層されている。透光性磁性膜207としては、良好な磁気光学特性を有する希土類鉄ガーネットである結晶質のBiYIG(ビスマス置換イットリウム鉄ガーネット)膜が用いられる。
【0008】
図3は、図2の磁気光学体を作製する過程において利用される赤外線加熱装置を模式的なブロック図で図解している。この赤外線加熱装置220においては、水冷される基板ホルダ201上にインジュウムシート202を介して基板203が載置される。基板203上には、第1の誘電体多層膜210が形成されている。そのような誘電体多層膜は、たとえばEB(電子ビーム)蒸着などによって形成され得る。また、この第1の誘電体多層膜210上にはBiYIG膜207が形成されている。そのようなBiYIG膜207は、たとえばスパッタリングによって形成され得る。ただし、スパッタリングによって成膜されたままのBiYIG膜207は非晶質である。この非晶質BiYIG膜207上に、吸光板としてのグラッシーカーボン板204がセットされる。
【0009】
赤外線発生部221は赤外線221aを放射し、グラッシーカーボン板204がその赤外線221aを吸収することによって加熱される。他方、基板ホルダ201は冷却機構222によって冷却される。そして、カーボン板204の温度は、熱電対223によってモニタされる。すなわち、赤外線加熱装置220は、誘電体多層膜210に悪影響を及ぼすことなく、BiYIG膜207を結晶化するために用いられる。
【0010】
前述のように、成膜されたままの状態のBiYIG膜207は、非晶質であって十分な磁化特性を有しておらず、大きなファラデー回転角を生じさせることができない。したがって、BiYIG膜に大きなファラデー回転角を持たせるために、600℃以上の熱処理によってBiYIG膜を結晶化させる必要がある。他方、誘電体多層膜201が600℃以上の温度にさらされれば、それに含まれるTa2O5層とSiO2層との間において相互拡散を生じ、その誘電体多層膜の光学的特性を損なってしまう。このような理由から、誘電体多層膜201を冷却しつつ、BiYIG膜207を赤外線で加熱して結晶化させるのである。そして、BiYIG膜207が結晶化された後には、そのBiYIG膜207上に第2の誘電体多層膜211がEB蒸着などによって形成される。
【0011】
図4の模式的な断面図は特開2001−194639号に開示された磁気光学体を示しており、これは高温の熱処理を必要とすることなく作製し得ることを特徴としている。この磁気光学体200は、第1の誘電体多層膜14と第2の誘電体多層膜15にはさまれた透光性磁性膜16を含んでいる。第1と第2の誘電体多層膜14と15の各々において、高屈折率のTa2O5層12と低屈折率のSiO2層13が交互に積層されている。透光性磁性膜16としては、複合材料が用いられている。
【0012】
複合材の透光性磁性膜16においては、強磁性金属のCo微粒子17が、希土類酸化物であるSm2O3母相18中で分散させられている。このような透光性磁性膜16は、回転支持テーブル上に基板を保持し、Sm2O3ターゲットとCoターゲットからスパッタされた粒子流に基板を交互にさらすことによって形成され得る。そして、Sm2O3母相18中に分散されたCo微粒子17を含む透光性磁性膜16が、たとえば500℃以下の比較的低温で形成され得る。すなわち、磁気光学体200は比較的低温で作製され得るので、それに含まれる誘電体多層膜14と15におけるTa2O5層12とSiO2層13との間の相互拡散が低減され、それらの誘電体多層膜の光学的特性の劣化が防止され得る。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
特開2001−110635号に開示された磁気光学体は、図3に関連して説明されたように、その製造工程が非常に煩雑であって製造コストも高くなる。また、特開2001−194639号に開示された磁気光学体も、その作製に複雑なスパッタリング工程を要して製造コストも高くなる。
【0014】
そこで、本発明は簡便な製造工程でかつ低コストで作製し得る磁気光学体を提供することを目的とし、これはファラデー回転子に好ましく利用され得るものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明による磁気光学体は、入射光の偏光面を回転させるための透光性で非晶質の磁性薄膜と、この非晶質磁性薄膜の両主面の各々上において低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜とを含むことを特徴としている。
【0016】
なお、その非晶質磁性薄膜は、Fe、Co、およびNiの少なくとも1種の元素を含む酸化物を含むことが好ましい。また、その非晶質磁性薄膜は、P、As、Se、Te、およびBiの少なくとも1種の元素をさらに含むことが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
まず、本発明者らは、成膜された非晶質状態のままで大きなファラデー回転角を有し得る透光性材料に関して検討した。その結果、いくつかの特定の組成の材料に関しては、非晶質状態においても大きなファラデー回転角を有し得ることが見出された。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態による磁気光学体を示す模式的な断面図である。この磁気光学体10は、第1の誘電体多層膜1と第2の誘電体多層膜3にはさまれた透光性磁性膜2を含んでいる。すなわち、透光性磁性膜2が極めて薄い場合でも、干渉フィルタまたは干渉反射膜として作用し得る第1と第2の誘電体多層膜1、3の間において、入射光が透光性磁性膜2中を多数回往復することができ、大きなファラデー回転角を得ることができる。
【0019】
第1の誘電体多層膜1において、TiO2またはTa2O5などからなる高屈折率層1aとSiO2などからなる低屈折率層1bが交互に積層されている。同様に、第1の誘電体多層膜3においても、TiO2またはTa2O5などからなる高屈折率層3aとSiO2などからなる低屈折率層3bが交互に積層されている。これらの誘電体多層膜は、たとえばEB蒸着やCVD(化学気相堆積)などのような公知の気相堆積法を利用して形成することができる。
【0020】
ここで、誘電体多層膜中の各誘電体層の厚さd1は、その誘電体層の屈折率がn1で入射光の波長がλである場合に、d1=λ/4n1に設定し得る。このように各誘電体層の厚さを設定することによって、それらの誘電体層を含む誘電体多層膜が干渉フィルタまたは干渉反射膜として作用し得る。
【0021】
透光性磁性膜2としては、十分な飽和磁化を有し得る非晶質の透光性材料の膜が利用される。非晶質膜は、一般に、スパッタリング、真空蒸着、レーザアブレーション、イオンプレーティング、MBE(分子ビームエピタキシ)などの方法を利用して、500℃以下の比較的低温で形成することができ、200℃以下の低温での形成も可能である。
【0022】
すなわち、本発明による磁気光学体10においては、それに含まれる透光性磁性膜2として非晶質膜が形成されるので、誘電体多層膜1、3に含まれる高屈折率層1a、3aと低屈折率層1b、3bとの間で相互拡散が生じず、誘電体多層膜1、3の光学的特性が損なわれることがない。
【0023】
なお、透光性磁性膜2の厚さd2は、その透光性磁性膜の屈折率がn2で入射光の波長がλである場合に、d2=λ/2n2またはd2=λ/n2に設定し得る。
【0024】
透光性磁性膜2としては、Co、Fe、およびNiの少なくとも1種の強磁性元素を含む酸化物膜を利用することができる。また、そのような強磁性元素の酸化物に希土類元素の酸化物が混合された膜も、透光性磁性膜2として利用され得る。さらに、透光性磁性膜2を構成する酸化物内に、P、As、Se、Te、Biなどの添加元素が含められてもよい。これらの添加元素は大きなイオン半径を有していて酸化物内の拡散を抑制するように作用し、透光性磁性膜2を構成する酸化物膜の非晶質性を安定化させ得る。ただし、添加元素を必要以上に多くすれば、透光性磁性膜2の磁気特性を低下させるので好ましくない。
【0025】
なお、透光性磁性膜2が非晶質であることは、光透過性の観点からも好ましいことである。なぜならば、非晶質材料は非常に均質であり、多結晶材料の場合のように結晶粒界における光の散乱などが生じ得ないからである。
【0026】
より具体的には、透光性磁性膜2は、CoFe2O4の非晶質膜として形成することができる。たとえば、CoFe2O4ターゲットを用いるスパッタリング法によって形成し得る。そのとき、基板を加熱する必要はなく、スパッタリングによる成膜中の基板温度の上昇は約70〜80℃程度である。なお、より低い基板温度が望まれる場合には、基板ホルダが水冷されてもよいことは言うまでもない。
【0027】
また、CoFe2O4膜の非晶質性を安定化させるために、たとえばPが添加されてもよい。その場合、たとえば80質量%のCoFe2O4と20質量%のP2O5の混合物をスパッタリングのターゲットとして用いることができる。
【0028】
さらに、透光性磁性膜2としては、CoFe2O4の非晶質膜の場合と同様に、NiFe2O4の非晶質膜をも利用することができる。すなわち、NiFe2O4に希土類酸化物が混合されてもよいし、イオン半径の大きな元素が添加されてもよい。
【0029】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、簡便な製造工程でかつ低コストで作製し得る磁気光学体を提供することができ、それはファラデー回転子に好ましく利用され得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるファラデー回転子に含まれる磁気光学体を示す模式的な断面図である。
【図2】先行技術によるファラデー回転子に含まれる磁気光学体の一例を示す模式的な断面図である。
【図3】図2の磁気光学体に含まれれる希土類鉄ガーネット膜を結晶化する方法を示す模式的なブロック図である。
【図4】先行技術によるファラデー回転子に含まれる磁気光学体の他の例を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
1 第1の誘電体多層膜、2 透光性磁性膜、3 第2の誘電体多層膜、1a、3a 高屈折率層、1b、3b 低屈折率層、10 磁気光学体。
【発明の属する技術分野】
本発明は入射光の偏光面を回転させるファラデー回転子に利用され得る磁気光学体の改善に関し、ファラデー回転子はたとえば光通信における光アイソレータなどに利用され得るものである。
【0002】
【従来の技術】
光ファイバやその他の光学部品を含んで構成される光通信システムにおいて、光コネクタや光回路部品などからの反射光が戻り光として光源に再入射することがある。光通信システムにおける光源としては、一般に半導体レーザが使用されている。レーザ光源に戻り光が入射すれば、それがレーザの共振作用に影響を及ぼし、出射レーザ光にノイズが含まれることになる。そこで、レーザ光源へ戻り光が入射することを防止するために、光アイソレータが利用されている。
【0003】
光アイソレータは、第1と第2の偏光子にはさまれたファラデー回転子を含んでいる。第1の偏光子は、光源から射出された光のうちで特定の第1の偏光面を有する光のみを通過させる。ファラデー回転子は、第1の偏光子を通過した光の偏光面を45度回転させる。第2の偏光子は、ファラデー回転子によって偏光面が45度回転させられた光のみを通過させるように、第1の偏光面から45度回転させられた第2の偏光面を有している。
【0004】
このような光アイソレータに戻り光が逆方向に入射する場合、第2の偏光子は第2の偏光面を有する戻り光のみを通過させる。次に、戻り光がファラデー回転子を逆方向に通過するとき、その戻り光の第2の偏光面は、第1の偏光面へ回転し戻されるのではなくて、さらに45度だけ追加回転させられる。これは、ファラデー効果の非相反性として知られている。すなわち、ファラデー回転子を通過した戻り光は、第1の偏光面に対して90度回転させられた第3の偏光面を有している。したがって、第3の偏光面を有する戻り光は第1の偏光子を通過することができず、光源へ入射することが防止されることになる。
【0005】
ここで、ファラデー効果とは、磁場中に置かれた透明物質中で磁場に平行に直線偏光を伝播させた場合に、その偏光面が回転する現象を意味する。透明物質がガラスなどの非磁性体の場合、ファラデー効果による偏光面の回転角(ファラデー回転角)は、その物質によって定まる比例定数の下で、磁場の強さと磁場に平行な光の伝播距離とに比例する。透明物質が強磁性体の場合、ファラデー回転角は磁化に関係する量であり、飽和磁場以上の磁場下では一定となり、また非磁性体の場合と同様に、光の伝播距離に比例する。一般に、非磁性透明物質よりも強磁性透明物質を利用することによって、大きなファラデー回転角が得られる。
【0006】
他方、上述のファラデー効果の非相反性から理解されるように、ファラデー回転子内で光を複数回往復させて合計の伝播距離を大きくすることによって、ファラデー回転角を大きくすることができる。このことを利用するために、透明磁性膜の両主面の各々上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜を含むファラデー回転子が知られている。すなわち、それら2つの誘電体多層膜は干渉フィルタまたは干渉反射膜として作用し、一種のファブリ・ペロー共振器を構成する。したがって、透明磁性膜の両主面上に設けられた2つの誘電体多層膜間で透明磁性膜中を光が複数回往復することができ、大きなファラデー回転角が得られることになる。
【0007】
図2の模式的な断面図は特開2001−110635号に開示された磁気光学体を示しており、これはファラデー回転子に利用し得るものである。この磁気光学体200は、第1の誘電体多層膜210と第2の誘電体多層膜211にはさまれた透光性磁性膜207を含んでいる。第1と第2の誘電体多層膜210と211の各々において、高屈折率のTa2O5層と低屈折率のSiO2層が交互に積層されている。透光性磁性膜207としては、良好な磁気光学特性を有する希土類鉄ガーネットである結晶質のBiYIG(ビスマス置換イットリウム鉄ガーネット)膜が用いられる。
【0008】
図3は、図2の磁気光学体を作製する過程において利用される赤外線加熱装置を模式的なブロック図で図解している。この赤外線加熱装置220においては、水冷される基板ホルダ201上にインジュウムシート202を介して基板203が載置される。基板203上には、第1の誘電体多層膜210が形成されている。そのような誘電体多層膜は、たとえばEB(電子ビーム)蒸着などによって形成され得る。また、この第1の誘電体多層膜210上にはBiYIG膜207が形成されている。そのようなBiYIG膜207は、たとえばスパッタリングによって形成され得る。ただし、スパッタリングによって成膜されたままのBiYIG膜207は非晶質である。この非晶質BiYIG膜207上に、吸光板としてのグラッシーカーボン板204がセットされる。
【0009】
赤外線発生部221は赤外線221aを放射し、グラッシーカーボン板204がその赤外線221aを吸収することによって加熱される。他方、基板ホルダ201は冷却機構222によって冷却される。そして、カーボン板204の温度は、熱電対223によってモニタされる。すなわち、赤外線加熱装置220は、誘電体多層膜210に悪影響を及ぼすことなく、BiYIG膜207を結晶化するために用いられる。
【0010】
前述のように、成膜されたままの状態のBiYIG膜207は、非晶質であって十分な磁化特性を有しておらず、大きなファラデー回転角を生じさせることができない。したがって、BiYIG膜に大きなファラデー回転角を持たせるために、600℃以上の熱処理によってBiYIG膜を結晶化させる必要がある。他方、誘電体多層膜201が600℃以上の温度にさらされれば、それに含まれるTa2O5層とSiO2層との間において相互拡散を生じ、その誘電体多層膜の光学的特性を損なってしまう。このような理由から、誘電体多層膜201を冷却しつつ、BiYIG膜207を赤外線で加熱して結晶化させるのである。そして、BiYIG膜207が結晶化された後には、そのBiYIG膜207上に第2の誘電体多層膜211がEB蒸着などによって形成される。
【0011】
図4の模式的な断面図は特開2001−194639号に開示された磁気光学体を示しており、これは高温の熱処理を必要とすることなく作製し得ることを特徴としている。この磁気光学体200は、第1の誘電体多層膜14と第2の誘電体多層膜15にはさまれた透光性磁性膜16を含んでいる。第1と第2の誘電体多層膜14と15の各々において、高屈折率のTa2O5層12と低屈折率のSiO2層13が交互に積層されている。透光性磁性膜16としては、複合材料が用いられている。
【0012】
複合材の透光性磁性膜16においては、強磁性金属のCo微粒子17が、希土類酸化物であるSm2O3母相18中で分散させられている。このような透光性磁性膜16は、回転支持テーブル上に基板を保持し、Sm2O3ターゲットとCoターゲットからスパッタされた粒子流に基板を交互にさらすことによって形成され得る。そして、Sm2O3母相18中に分散されたCo微粒子17を含む透光性磁性膜16が、たとえば500℃以下の比較的低温で形成され得る。すなわち、磁気光学体200は比較的低温で作製され得るので、それに含まれる誘電体多層膜14と15におけるTa2O5層12とSiO2層13との間の相互拡散が低減され、それらの誘電体多層膜の光学的特性の劣化が防止され得る。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
特開2001−110635号に開示された磁気光学体は、図3に関連して説明されたように、その製造工程が非常に煩雑であって製造コストも高くなる。また、特開2001−194639号に開示された磁気光学体も、その作製に複雑なスパッタリング工程を要して製造コストも高くなる。
【0014】
そこで、本発明は簡便な製造工程でかつ低コストで作製し得る磁気光学体を提供することを目的とし、これはファラデー回転子に好ましく利用され得るものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明による磁気光学体は、入射光の偏光面を回転させるための透光性で非晶質の磁性薄膜と、この非晶質磁性薄膜の両主面の各々上において低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜とを含むことを特徴としている。
【0016】
なお、その非晶質磁性薄膜は、Fe、Co、およびNiの少なくとも1種の元素を含む酸化物を含むことが好ましい。また、その非晶質磁性薄膜は、P、As、Se、Te、およびBiの少なくとも1種の元素をさらに含むことが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
まず、本発明者らは、成膜された非晶質状態のままで大きなファラデー回転角を有し得る透光性材料に関して検討した。その結果、いくつかの特定の組成の材料に関しては、非晶質状態においても大きなファラデー回転角を有し得ることが見出された。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態による磁気光学体を示す模式的な断面図である。この磁気光学体10は、第1の誘電体多層膜1と第2の誘電体多層膜3にはさまれた透光性磁性膜2を含んでいる。すなわち、透光性磁性膜2が極めて薄い場合でも、干渉フィルタまたは干渉反射膜として作用し得る第1と第2の誘電体多層膜1、3の間において、入射光が透光性磁性膜2中を多数回往復することができ、大きなファラデー回転角を得ることができる。
【0019】
第1の誘電体多層膜1において、TiO2またはTa2O5などからなる高屈折率層1aとSiO2などからなる低屈折率層1bが交互に積層されている。同様に、第1の誘電体多層膜3においても、TiO2またはTa2O5などからなる高屈折率層3aとSiO2などからなる低屈折率層3bが交互に積層されている。これらの誘電体多層膜は、たとえばEB蒸着やCVD(化学気相堆積)などのような公知の気相堆積法を利用して形成することができる。
【0020】
ここで、誘電体多層膜中の各誘電体層の厚さd1は、その誘電体層の屈折率がn1で入射光の波長がλである場合に、d1=λ/4n1に設定し得る。このように各誘電体層の厚さを設定することによって、それらの誘電体層を含む誘電体多層膜が干渉フィルタまたは干渉反射膜として作用し得る。
【0021】
透光性磁性膜2としては、十分な飽和磁化を有し得る非晶質の透光性材料の膜が利用される。非晶質膜は、一般に、スパッタリング、真空蒸着、レーザアブレーション、イオンプレーティング、MBE(分子ビームエピタキシ)などの方法を利用して、500℃以下の比較的低温で形成することができ、200℃以下の低温での形成も可能である。
【0022】
すなわち、本発明による磁気光学体10においては、それに含まれる透光性磁性膜2として非晶質膜が形成されるので、誘電体多層膜1、3に含まれる高屈折率層1a、3aと低屈折率層1b、3bとの間で相互拡散が生じず、誘電体多層膜1、3の光学的特性が損なわれることがない。
【0023】
なお、透光性磁性膜2の厚さd2は、その透光性磁性膜の屈折率がn2で入射光の波長がλである場合に、d2=λ/2n2またはd2=λ/n2に設定し得る。
【0024】
透光性磁性膜2としては、Co、Fe、およびNiの少なくとも1種の強磁性元素を含む酸化物膜を利用することができる。また、そのような強磁性元素の酸化物に希土類元素の酸化物が混合された膜も、透光性磁性膜2として利用され得る。さらに、透光性磁性膜2を構成する酸化物内に、P、As、Se、Te、Biなどの添加元素が含められてもよい。これらの添加元素は大きなイオン半径を有していて酸化物内の拡散を抑制するように作用し、透光性磁性膜2を構成する酸化物膜の非晶質性を安定化させ得る。ただし、添加元素を必要以上に多くすれば、透光性磁性膜2の磁気特性を低下させるので好ましくない。
【0025】
なお、透光性磁性膜2が非晶質であることは、光透過性の観点からも好ましいことである。なぜならば、非晶質材料は非常に均質であり、多結晶材料の場合のように結晶粒界における光の散乱などが生じ得ないからである。
【0026】
より具体的には、透光性磁性膜2は、CoFe2O4の非晶質膜として形成することができる。たとえば、CoFe2O4ターゲットを用いるスパッタリング法によって形成し得る。そのとき、基板を加熱する必要はなく、スパッタリングによる成膜中の基板温度の上昇は約70〜80℃程度である。なお、より低い基板温度が望まれる場合には、基板ホルダが水冷されてもよいことは言うまでもない。
【0027】
また、CoFe2O4膜の非晶質性を安定化させるために、たとえばPが添加されてもよい。その場合、たとえば80質量%のCoFe2O4と20質量%のP2O5の混合物をスパッタリングのターゲットとして用いることができる。
【0028】
さらに、透光性磁性膜2としては、CoFe2O4の非晶質膜の場合と同様に、NiFe2O4の非晶質膜をも利用することができる。すなわち、NiFe2O4に希土類酸化物が混合されてもよいし、イオン半径の大きな元素が添加されてもよい。
【0029】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、簡便な製造工程でかつ低コストで作製し得る磁気光学体を提供することができ、それはファラデー回転子に好ましく利用され得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるファラデー回転子に含まれる磁気光学体を示す模式的な断面図である。
【図2】先行技術によるファラデー回転子に含まれる磁気光学体の一例を示す模式的な断面図である。
【図3】図2の磁気光学体に含まれれる希土類鉄ガーネット膜を結晶化する方法を示す模式的なブロック図である。
【図4】先行技術によるファラデー回転子に含まれる磁気光学体の他の例を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
1 第1の誘電体多層膜、2 透光性磁性膜、3 第2の誘電体多層膜、1a、3a 高屈折率層、1b、3b 低屈折率層、10 磁気光学体。
Claims (3)
- 入射光の偏光面を回転させるための透光性で非晶質の磁性薄膜と、
前記非晶質磁性薄膜の両主面の各々上において低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した誘電体多層膜とを含むことを特徴とする磁気光学体。 - 前記非晶質磁性薄膜は、Fe、Co、およびNiの少なくとも1種の元素を含む酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気光学体。
- 前記非晶質磁性薄膜は、P、As、Se、Te、およびBiの少なくとも1種の元素をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の磁気光学体。
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JP2002168800A JP2004012997A (ja) | 2002-06-10 | 2002-06-10 | 磁気光学体 |
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Cited By (2)
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JP2009147490A (ja) * | 2007-12-12 | 2009-07-02 | Murata Mfg Co Ltd | バンドパスフィルタ |
WO2012133200A1 (ja) * | 2011-03-28 | 2012-10-04 | 独立行政法人物質・材料研究機構 | ファラデー回転子、光アイソレーター及び光加工器 |
-
2002
- 2002-06-10 JP JP2002168800A patent/JP2004012997A/ja not_active Withdrawn
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WO2012133200A1 (ja) * | 2011-03-28 | 2012-10-04 | 独立行政法人物質・材料研究機構 | ファラデー回転子、光アイソレーター及び光加工器 |
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