JP2004012529A - 定着ローラ及び定着装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】薄肉芯金を基体として使用した定着ローラであって、前記薄肉芯金が、少なくとも炭素を0.04〜0.11質量%、マンガンを0.80〜1.40質量%、及びニオブを0.02〜0.05質量%含有する高張力鋼からなることを特徴とする定着ローラである。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複写機、プリンタ、及びファクシミリ等の画像形成装置に用いられる定着ローラ及び定着装置に関し、特に薄肉芯金を備えた定着ローラ及び定着装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
複写機等、電子写真方式を用いた画像形成装置に使用される定着装置において、定着ローラは、そのローラ内部にハロゲンヒータ、もしくは電磁誘導方式等の熱発生装置を内装し、加圧ローラと圧接してニップ部を形成している。そして、このような定着ローラは、上記ニップ部に送り込まれた被記録体を加熱及び加圧して、その表面のトナー画像を溶融定着させるものである
【0003】
従来から、前記定着ローラ用の芯金としては、熱伝導性と剛性とを確保するために、鉄もしくはアルミニウム合金のパイプが素材として用いられてきた。このような定着ローラの一般的な構成は、筒状で薄肉のローラ芯金を基体とし、その表面にフッ素樹脂皮膜等を粉体塗装する、もしくはチュービングすることで離型層を形成したものである。また、カラートナー用の定着ロールとしては、上記離型層と前記芯金との間に弾性層を設けたものも見受けられる。
【0004】
近年、上記定着ローラの芯金には、定着装置の省エネ化を進めるためにより薄肉化することが要求されている。すなわち、前記のようなローラ芯金の薄肉化により、定着可能な温度に達するまでの時間(ウォームアップタイム)を短縮して、複写機、プリンタ等の省電力化を進めることが望まれている。
【0005】
しかしながら、定着装置において、上記薄肉芯金を定着ロールの基体としてを用いた場合、ローラ自体の熱容量が減少するために被記録体の連続出力時にトナーの定着性が低下する。
そこで、上記定着性を安定に保つためには、定着ローラと加圧部材とで形成されるニップ部のニップ荷重を高荷重にする必要があるが、薄肉芯金を用いたロールに高いニップ荷重をかけた場合には、芯金部のたわみ、もしくは凹み等の塑性変形や疲労破壊が発生する可能性がある。このため、薄肉芯金用の材料には高い剛性が必要とされる。
【0006】
一方、従来定着ローラの基体として用いられているアルミ合金の場合には、熱伝熱性は良好であるが、剛性が低く薄肉化には限界がある。これに対し、特開2000−29342号公報に見られるように、内面にリブ等を設けるなどの工夫をしたものもあるが、加工工程が複雑となるのが欠点である。
【0007】
また、鉄系材料の場合には、アルミ合金に比較して厚みが薄い芯金が得られるが、従来の芯金材料(STKM11A)と比べて、高強度な鋼材(STKM16A、クロムモリブデン鋼など)では強度と加工性を兼ね備えたものが少なく、より高強度な薄肉芯金の製造は難しいのが実状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、従来より薄肉かつ高剛性を確保できる薄肉芯金を用い、ウォームアップタイムの短縮化を図りつつ、安価で耐久性にも優れた定着ローラ及び定着装置の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、以下の本発明により達成される。すなわち本発明は、
<1> 薄肉芯金を基体として使用した定着ローラであって、前記薄肉芯金が、少なくとも炭素を0.04〜0.11質量%、マンガンを0.80〜1.40質量%、及びニオブを0.02〜0.05質量%含有する高張力鋼からなることを特徴とする定着ローラである。
【0010】
<2> 前記薄肉芯金の厚さが0.1〜2mmの範囲であり、引っ張り強度が440MPa以上、降伏点が340MPa以上であることを特徴とする<1>に記載の定着ローラである。
【0011】
<3> 前記引張り強度が650MPa以上、降伏点が590MPa以上であることを特徴とする<1>または<2>に記載の定着ローラである。
【0012】
<4> 前記薄肉芯金が、電縫鋼管から複数回の伸管加工を経て形成されたものであり、仕上げ伸管加工における減面率が、途中の伸管加工における減面率より大きいことを特徴とする<1>〜<3>のいずれかに記載の定着ローラである。
【0013】
<5> 前記薄肉芯金の表面に離型層を有することを特徴とする<1>〜<4>のいずれかに記載の定着ローラである。
【0014】
<6> 前記薄肉芯金と前記離型層との間に、弾性層を有することを特徴とする<5>に記載の定着ローラである。
【0015】
<7> 前記弾性層が、前記薄肉芯金と前記離型層との間に注入成型により形成されることを特徴とする<6>に記載の定着ローラである。
【0016】
<8> 定着ローラと加圧部材とが加熱された状態で圧接配置され、前記定着ローラと前記加圧部材とで形成されるニップ部に、表面にトナー画像を担持した被記録体を、トナー画像が担持された表面が前記定着用回転体に接するように通過させることで、前記トナー画像を被記録体表面に定着せしめる定着装置であって、前記定着ローラが<1>〜<7>のいずれかに記載の定着ローラであることを特徴とする定着装置である。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の定着ローラは、薄肉芯金を基体として使用した定着ローラであって、前記薄肉芯金が、少なくとも炭素を0.04〜0.11質量%、マンガンを0.80〜1.40質量%、及びニオブを0.02〜0.05質量%含有する高張力鋼から構成されることを特徴とする。
【0018】
上記高張力鋼とは、鉄に炭素、シリコン、マンガン等を添加した上に、さらにニオブもしくはモリブデンなどの析出強化元素を若干量含有させた鋼材であり、従来の鋼材に比べ、靭性や圧延性を損なわずに強度の向上が図られたものである。
【0019】
一般に鋼材は含まれる炭素量の増加、またはニオブ、モリブデンなどの析出強化元素の添加により強度が向上するが、高い強度になるほど加工性が低下する欠点がある。
本発明に用いられる高張力鋼は、炭素含有量が低く、マンガン含有量が高い鋼材に、ニオブを0.02〜0.05質量%含有させたものであり、炭素含有量を低くしながらマンガン含有量を高くして、ニオブを鋼材中で析出させることで加工性を保ちつつ高強度化を達成しているものである。
【0020】
前記炭素、マンガン、及びニオブともに、鋼材の強度を高める上で必要な元素であるが、本発明においては、定着ローラとしての強度と加工性との観点から、各元素の鋼材中の含有量は以下のように規定される。
【0021】
まず、炭素は鋼材中に0.04〜0.11質量%含まれることが必要である。含有量が0.04質量%に満たないと、前記本発明の目的を達成するための強度が得られない場合があり、含有量が0.11質量%を超えると、引き抜き、研磨などの加工性や靭性が低下する場合がある。
【0022】
次にマンガンは鋼材中に0.80〜1.40質量%含まれる必要がある。含有量が0.80質量%に満たないと、上記炭素の同様十分な強度が得られない場合があり、含有量が1.40質量%を超えると、溶接性や靭性が低下する場合がある。
【0023】
また、ニオブについては鋼材中に0.02〜0.05質量%含まれる必要がある。含有量が0.02質量%に満たないと、析出した時の効果が少なくなり強度不足となる場合があり、含有量が0.05質量%を超えると、溶接性を阻害し、芯金の研磨も難しくなる場合がある。
【0024】
上記ニオブを鋼材中に添加することにより、鋼材の降伏強さと靭性とを向上させることができる。
本発明に用いられる高張力鋼は、このニオブの添加の効果に加えて、加工性を悪化させる炭素の含有量を低減させる一方、炭素同様に強度を向上させる作用を持つが、加工性への影響が少ないマンガンの含有量を高めることで、高強度と良好な加工性とを兼ね備えたものである。
【0025】
本発明に用いられる高張力鋼には、上記炭素、マンガン、及びニオブ以外に微小な量の不純物を含ませることができる。
該不純物の種類は、定着ローラとして加工・使用する上で特に制限されるものではないが、鋼の性質及び製法上で混入の避けられない不純物であるシリコン、アルミニウム、リン、イオウに関しては、以下のような理由から含有量が規定される。
【0026】
上記シリコンの含有量は、0.01〜0.50質量%の範囲であることが好ましい。前記含有量が0.01質量%に満たないと、シリコンの固溶体強化作用による鋼材の強度及び延姓を改善する作用が得られない場合があり、含有量が0.50質量%を越えると鋼材の靭性が劣化するようになる場合がある。
【0027】
前記アルミニウムの含有量は、0.005〜0.050質量%の範囲であることが好ましい。上記含有量が0.005質量%に満たないと、製鋼段階の脱酸が十分にできない場合があり、含有量が0.050質量%を超えると、介在物そのものの絶対値が増加する場合がある。
【0028】
前記リンの含有量は0.025質量%以下であることが好ましい。リンは鋼の結晶粒界の脆化を起こしやすい元素であるため、上記含有量が0.025質量%を超えると加工性が低下する場合がある。
【0029】
前記イオウの含有量は、0.010質量%以下であることが好ましい。イオウは鋼材製造時の熱間加工性を悪化させるため、上記含有量が0.010質量%を超えると同様に加工性が低下する場合がある。
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の定着装置の概略を示す断面図である
定着ロール14は、内側にヒーターランプ11を有する外径35mm、厚み0.4mm、長さ380mmの高張力鋼製の薄肉芯金12とテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂からなる離型層13とから構成される。
【0031】
加圧ローラ17(加圧部材)は、芯金15と、その外周面に形成される5mm厚の表面離型性耐熱ゴム層(面長320mm)である加圧弾性層16とから構成されている。この加圧ローラ17は、軸方向両端に軸受部が設けられ、定着ユニットフレーム(図示せず)に回転自在に取り付けられている。
【0032】
定着ローラ14及び加圧ローラ17は、回転自在に支持されていて、本実施形態では、定着ローラ14のみが駆動源から回転駆動される構成となっている。
【0033】
加圧ローラ17は、定着ローラ14の表面に圧接されニップ部Nを形成し、このニップ部Nでの摩擦力で、定着ローラ14に対して従動回転するように配設されている。なお、加圧ローラ17は、バネ等を用いた構成によって定着ローラ14の回転軸に向けて加圧されている。
【0034】
本実施形態では、加圧ローラ17は、約588.4Nで荷重されており、その場合、ニップ部Nの幅(ニップ幅)は約5.5mmになる。なお、都合によっては加圧ローラ17による荷重を変化させてニップ幅を変えてもよい。
【0035】
また、前記加圧部材は、上記加熱定着ローラに圧接し、かつ、共に転動するエンドレスベルトと、このエンドレスベルトの内側に配設されて、該エンドレスベルトを定着ローラに向けて押圧して当該エンドレスベルト及び定着ローラの間にニップ部を形成する圧力部材とを備え、このニップ部に被記録体を通過させることで、当該被記録体表面の未定着トナー画像を加熱加圧定着するようにした、いわゆるベルトニップ方式に対応した構造のものであってもよい。
【0036】
次に、本発明の定着ローラについて詳しく説明する
上記定着ローラ14の薄肉芯金12は、高張力鋼の1種であるHT590(日鉄鋼管(株)社製)から構成されている。表1に、HT590を用いた加工前の原管及び加工後の芯金完成品について、含まれる化学成分をJIS G0321に規定される分析方法により分析した結果を示す。表1に示すように、原管及び芯金完成品中には、ともに前記規定された量の炭素、マンガン、及びニオブが含有されている。
【0037】
【表1】
【0038】
上記薄肉芯金12の製造工程は以下の通りである。
HT590材の原管である電縫鋼管(外径42mm、厚さ1.2mm)を所定の寸法の薄肉鋼管にするため、1回目の伸管で外径39mm、厚さ0.9mmに引き抜いた後、2回目の伸管を行い、外径35mm、厚さ0.7mm、長さ380mmの鋼管とした。
【0039】
上記1回目の伸管時、2回目の伸管時の減面率はともに30%である。なお、ここで減面率とは、伸管前後での鋼管断面積の減少率のことであり、伸管工程の加工率を表わしている。具体的には、伸管前の管の断面における管の部分の断面積に対する、伸管後の管の断面における管の部分の断面積の比を百分率で表したものである。
【0040】
その後、該鋼管を研磨加工するために熱処理後、通紙部(面長330mm)を薄肉にするためにセンタレス研磨加工機で厚さ0.4mmまで削り込む。なお、両端部は強度補強のために厚さを0.6mmとして、通紙部に比較して厚肉にする。
【0041】
このようにして製造された薄肉芯金12に引張り試験を実施したところ、引張り強度447MPa、降伏点346MPaであった。また、本実施形態の薄肉芯金でn数を増やして上記引張り試験を測定したところ、引張り強度440MPa以上470MPa以下、降伏点340MPa以上370MPa以下の値を示した。
【0042】
なお、上述の研磨加工において、薄肉化の限界について調査したところ芯金の厚さは、振れや研磨ムラ等が発生することなく0.1mmの厚さまで薄くすることが可能であった。
上記薄肉芯金の厚さは、強度の点では厚い方が好ましいが、厚くなりすぎるとウォームアップタイムが長くなるので、厚さの上限としては2mm程度となる。したがって、本発明における薄肉芯金の厚さは、0.1〜2mmの範囲であることが好ましい。
【0043】
このように厚さ0.1〜2mmの範囲の薄肉芯金において、バラツキを考慮しても引張り強度が440MPa以上、降伏点が340MPa以上を数値を示すのは本発明における薄肉芯金の特徴である。
この薄肉芯金12に防錆処理やギア固定部の加工を施した後、離型層13を成型する工程を経て定着ローラ14は製造されている。
【0044】
なお、上記引張り試験は以下のようにして行った。
(1)引張り試験の試料としては、外径35mmの鋼管を研磨し、外径34.4mm、厚み0.4mm(両端部の厚みは0.6mm)、長さ380mmの円筒形状の鋼管を用いた。
(2)上記鋼管を試験機にクランプしたときのつぶれを防止するため、鋼管の両端部に、長さ80mmの鉄棒を挿入後、試験機にバイスでクランプした。
(3)万能試験機(UEH−30型、島津製作所社製)の油圧調整つまみを調整しつつ、荷重計を観察しながら急激な荷重上昇がないように徐々に上記鋼管に荷重を加えた。なお、引張速度は30〜40mm/minの範囲であった。
(4)その後、材料(鋼管)の降伏時及び破断時での荷重を記録して、その値と試験前に計測した鋼管の厚みから求めた鋼管の断面積とから、降伏応力及び引張強さを計算により求めた。
【0045】
次に、上記HT590材との比較として、STKM11A、STKM13A、STKM16A、及びクロムモリブデン鋼を用いた定着ロールの製造について検討した。なお、各鋼材中の前記分析方法による化学成分の含有量は表2に示す通りである。
【0046】
【表2】
【0047】
上記鋼材について前記と同様に研磨加工を行ったところ、STKM16A鋼管及びクロムモリブデン鋼管に関しては、鋼管の溶接部と母材部とで大きな硬度むらがあり、センタレス研磨で加工しても均一に削ることができず、その結果、いびつな形状となってしまったため、定着ローラ用薄肉芯金とすることができなかった。
【0048】
また、定着用芯金として製造できた他の鋼材2種(STKM11A、STKM13A)について、前記の芯金の引張り試験を実施したところ、従来の鉄ローラであるSTKM11Aに関しては、引張り強度が321MPa、降伏点が188MPaであり、STKM13Aに関しては、引張り強度が423MPa、降伏点が281MPaであった。この結果は、前述のHT590材の測定値に比べると、引張り強度、降伏点ともに劣るものであった。
【0049】
なお、上記3種の鋼管の引張り強度、降伏点は、鋼材の規格より低い値を示しているが、これはセンタレス研磨による薄肉化を容易にするために、鋼管を伸管した後に焼きなますことで、鋼管表面の残留応力が除去されているためである。
【0050】
前記のように上記薄肉芯金12の表面には、定着時におけるトナーとの離型性を向上させるために、離型層13を設けることが好ましい。当該離型層13の材質としては、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フッ素樹脂等が用いられるが、これらの中で、フッ素樹脂が特に好ましい。
【0051】
上記フッ素樹脂としては、従来公知のフッ素樹脂であれば如何なるものでも使用することができる。具体的に例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン系共重合体(PVdFまたはETFE)等が挙げられる。
【0052】
上記フッ素樹脂よりなる離型層13は、フッ素樹脂を含む液を薄肉芯金12の表面にコートし、加熱処理により焼き付けてもよいし、薄肉芯金12にフッ素樹脂チューブを被せることにより形成してもよい。
なお、離型層13の膜厚は、10〜50μmの範囲に設定することが好ましい。
【0053】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
定着ローラ14を製造するにあたり、前記HT590材の原管である電縫鋼管(外径42mm、厚さ1.2mm)を所定の寸法の薄肉鋼管にするため、1回目の伸管で外径40mm、厚さ0.95mmに引き抜いた後、2回目の伸管を行い外径35mm、厚さ0.7mm、長さ380mmの芯金の材料となる薄肉鋼管を得た。このときの1回目の伸管時、2回目の伸管時の減面率は、各々24%、35%である。
【0054】
上記薄肉鋼管を、第1の実施形態と同様に、通紙部(面長330mm)をセンタレス研磨加工機で厚さが0.4mmとなるまで削り込み、薄肉芯金12’を得た。この薄肉芯金12’について前記引張り試験を実施したところ、引っ張り強度が696MPa、降伏点が664MPaであり、同一のHT590材を用いた場合でも、第1の実施形態に比べ、引っ張り強度、降伏点ともに大きくすることができた。
【0055】
なお、上記加工により得られた薄肉芯金についても、n数を増やして引張り試験を行ったところ、ばらつきはあるがいずれも引張り強度が650MPa以上、降伏点が590MPa以上の値を示した。
よって、同一の原管(HT590)を用いた場合でも、伸管加工の方法により、第1の実施の形態とは明らかに強度が異なる薄肉芯金が得られることを確認した。
【0056】
本実施形態の鋼管の伸管工程においては、第1の実施形態では減面率30%の伸管加工を2回行い、所定寸法の薄肉鋼管を得ているのに対し、1回目の減面率を24%、2回目の減面率を35%として伸管し、所定寸法を得ている点が異なる。このように薄肉芯金の強度を上げるためには、該薄肉芯金が複数回の伸管加工で形成され、最終仕上げの伸管加工における減面率が途中の伸管加工における減面率より大きくなるように加工することが好ましい。
【0057】
上記のように伸管による薄肉鋼管の製造において、仕上げ加工となる最終の減面率が強度に影響を与えることは経験的な事実であるが、従来の材料(STKM11A等)では、定着ロールの製造工程における研磨加工前の熱処理により、残留応力が除去され強度が低下してしまい、前記減面率による強度の差が打ち消されてしまう傾向があった。
【0058】
しかしながら、本発明に用いる薄肉芯金では、高張力鋼中にニオブが添加され、鋼材の結晶粒界が細粒化されていることで残留応力が蓄積されやすい鋼材になっている。そのため、電縫溶接後の鋼管(大口径)から2回以上(複数回)の伸管加工により所定寸法の鋼管(芯金の素材)を得るにあたっては、仕上げ伸管加工の減面率αを、途中の伸管加工の減面率βより高く設定することでより高強度な薄肉芯金を得ることができるものである。
【0059】
すなわち、本発明に用いられる鋼材を上記のような加工により薄肉芯金とすることにより、研磨加工前の熱処理によっても残留応力が除去されにくく(特に軸方向)、前記のような大きな引張り強度、降伏点が得られるものと考えられる。
【0060】
その結果、本実施形態では薄肉芯金の引張り強度は増加し、第1の実施形態に比較して、同じHT590材を原管を用いながら下記に示すようにより高強度な芯金12’を得ることができた。
【0061】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について、図2に基づいて説明する。
図2は、本発明の弾性層を有する定着ローラ20の概略断面図である。定着ローラ20は、薄肉芯金21と離型層23との間に弾性層22を有している。定着性の向上やカラートナー画像定着への対応を図るためには、定着ローラがこのような構成を採ることが好ましい。上記定着ローラ20の薄肉芯金21は、第1の実施形態の定着ローラ14の薄肉芯金12に用いた鋼材と同様であり、本定着ローラは、第1の実施形態と同様の効果に加え、定着性の向上という効果を奏することができる。
【0062】
このような弾性層22を設けた定着ローラは、特開2000−356923号公報などに見られるように、ローラ芯金を金型内に固定し、液状シリコーンゴム等を芯金の周囲に注入成型して製造されるものである。したがって、薄肉芯金の場合には上記ゴム成型時の注入圧及び注入ムラにより、芯金自体21が塑性変形する可能性があり、芯金内部に芯棒を入れて剛性を高める等の工夫が不可欠となる。
【0063】
しかしながら、この方法では薄肉芯金21と芯棒との間にすき間(クリアランス)を設ける必要があるため、上記変形を完全に防止することができない。そして、このような注入成型時による薄肉芯金の塑性変形は、定着ローラの振れを増加させ、定着性の悪化や紙しわ発生の原因となる。
【0064】
本発明に用いる薄肉芯金21では、従来の材料(STKM11A等)に比べて、薄く高強度な芯金であるため、このゴム注入成型による定着ローラ製造でも変形が少なく、振れが少ない良好な定着ローラが安定した得率で得られる。
【0065】
なお、前記弾性層21の材料としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられるが、特にシリコーンゴムが、弾性と熱的安定性に優れる点で好ましい。
【0066】
シリコーンゴムとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴム等が挙げられ、具体的には、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)などが挙げられる。
【0067】
以上、実施形態を挙げて説明したように、本発明の定着ローラは、従来より加工性に優れ、薄肉かつ高剛性を確保できる薄肉芯金を用いたことにより、ウォームアップタイムの短縮することができ、さらに安価で耐久性にも優れるものである。そして、上記定着ローラを用いた定着装置により、複写機、プリンタの省電力化、高耐久化を達成することができる。
【0068】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
(実施例1)
第1の実施形態で説明した、HT590材を原管として伸管、研磨加工して得られた外径35mm、長さ380mm、厚み0.4mmの薄肉芯金の表面に、厚さ30μmのPFAを離型層として設け、定着ローラを作製した。この定着ローラに対し、以下の評価試験を行った。
【0069】
−室温下での圧縮変形試験−
上記定着ローラを、第1の実施の形態で用いた定着装置に装着し、25℃、60%RHの環境下で、定着ローラに対し加圧ローラにより588.4Nの荷重で加圧を行い、1000時間放置した。その後、定着ローラの形状を真円度計(ロンコム52B、(株)東京精密社製)により計測し、変形の有無、凹みの深さを調べた。
【0070】
−高温下での圧縮変形試験−
プリンターの連続出力終了直後、もしくはジャム(紙づまり)発生時などの強制停止時には、定着ローラは少なくとも100℃以上の高温であり、ニップ圧により定着ローラが受けるストレスは室温時での倍となる。このストレスによる変形が定着ローラ周方向の各部に蓄積していった場合、定着性や紙しわが悪化する原因となる。本試験は、このようなストレスに対する耐久性を調べるものである。
【0071】
25℃、60%RHの環境下で、上記圧縮変形試験同様、定着ローラに対し加圧ローラにより588.4Nの荷重で加圧を行い、定着装置のヒーターの電源を入れて、定着ローラ表面の温度を室温から200℃まで177.7rpmで回転駆動させながら、昇温させた。
定着ローラの表面温度が200℃に落ち着いた後に、ローラの回転を止めてローラの表面温度のみ200℃に保持させながら4時間放置した。その後、ヒーターの電源を切りニップを解除して徐々に室温まで冷却した。定着ローラ形状を真円度計で計測し、変形の有無、凹みの深さを調べた。
【0072】
−耐久破壊試験−
上記と同様の定着装置にて、定着ローラの表面温度を200℃、加圧荷重を490.3Nとして、320mm/secのプロセススピードでニップ部に連続して通紙(A4サイズ)を行った。この条件での通紙を定着ローラの薄肉芯金にクラックが発生するまで行い、そのときの通紙枚数を調べた。
以上の試験結果をまとめて表3に示す。
【0073】
(実施例2)
実施例1において、第2の実施形態で説明した、HT590材を原管とし、2回目の伸管加工の減面率が1回目の伸管加工の減面率より大きくなるようにして作製した定着ローラを用いた以外は、実施例1と同様にして評価試験を行った。
結果をまとめて表3に示す。
【0074】
(比較例1)
実施例1において、原管としてHT590材の代わりにSTKM11Aを用いて作製した定着ローラを用いた以外は、実施例1と同様にして評価試験を行った。結果をまとめて表3に示す。
【0075】
(比較例2)
実施例1において、原管としてHT590材の代わりにSTKM13Aを用いて作製した定着ローラを用いた以外は、実施例1と同様にして評価試験を行った。結果をまとめて表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
以上の結果のように、実施例1及び2の本発明における高張力鋼を用いた定着ローラでは、薄肉芯金の製造が容易でありながら、剛性及び耐久性の高い定着ロールが得られることがわかった。
【0078】
【発明の効果】
本発明によれば、定着ローラの芯金の薄肉化によって装置の立ち上げ時間の短縮化を図りながら、ローラ芯金の塑性変形及び破損を防止した薄肉かつ高剛性な定着ローラが得られる。また、当該定着ローラを用いることにより、省電力化、高耐久化に対応した定着装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の定着装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の定着ローラの一例を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
11 ハロゲンヒータ
12、21 薄肉芯金
13 離型層
14、20 定着ローラ
15 加圧ローラ軸
16 加圧弾性層
17 加圧ローラ(加圧部材)
18 未定着トナー画像
19 転写材(被記録体)
N ニップ部
22 弾性層
23 離型層
Claims (8)
- 薄肉芯金を基体として使用した定着ローラであって、前記薄肉芯金が、少なくとも炭素を0.04〜0.11質量%、マンガンを0.80〜1.40質量%、及びニオブを0.02〜0.05質量%含有する高張力鋼からなることを特徴とする定着ローラ。
- 前記薄肉芯金の厚さが0.1〜2mmの範囲であり、引っ張り強度が440MPa以上、降伏点が340MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の定着ローラ。
- 前記引張り強度が650MPa以上、降伏点が590MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の定着ローラ。
- 前記薄肉芯金が、電縫鋼管から複数回の伸管加工を経て形成されたものであり、仕上げ伸管加工における減面率が、途中の伸管加工における減面率より大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の定着ローラ。
- 前記薄肉芯金の表面に離型層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の定着ローラ。
- 前記薄肉芯金と前記離型層との間に、弾性層を有することを特徴とする請求項5に記載の定着ローラ。
- 前記弾性層が、前記薄肉芯金と前記離型層との間に注入成型により形成されることを特徴とする請求項6に記載の定着ローラ。
- 定着ローラと加圧部材とが加熱された状態で圧接配置され、前記定着ローラと前記加圧部材とで形成されるニップ部に、表面にトナー画像を担持した被記録体を、トナー画像が担持された表面が前記定着用回転体に接するように通過させることで、前記トナー画像を被記録体表面に定着せしめる定着装置であって、
前記定着ローラが請求項1〜7のいずれかに記載の定着ローラであることを特徴とする定着装置。
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---|---|---|---|
JP2002161851A JP2004012529A (ja) | 2002-06-03 | 2002-06-03 | 定着ローラ及び定着装置 |
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007241119A (ja) * | 2006-03-10 | 2007-09-20 | Fuji Xerox Co Ltd | 定着ローラ、定着装置、及び定着ローラの製造方法 |
JP2008090275A (ja) * | 2006-09-08 | 2008-04-17 | Ricoh Co Ltd | 定着装置及び画像形成装置 |
JP5819014B1 (ja) * | 2015-01-29 | 2015-11-18 | ミツマ技研株式会社 | ヒートロール定着装置及びヒートローラ |
-
2002
- 2002-06-03 JP JP2002161851A patent/JP2004012529A/ja active Pending
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JP2008090275A (ja) * | 2006-09-08 | 2008-04-17 | Ricoh Co Ltd | 定着装置及び画像形成装置 |
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