JP2004006335A - 燃料電池用の燃料組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】燃料の使用状況や燃料の漏れなどがないか目視で確認することができる燃料電池用の燃料組成物を提供する。
【解決手段】(1)炭素数3以下のアルコールおよび水を含む燃料と、識別剤とを含有する 燃料電池用の燃料組成物である。(2)界面活性剤を含有する燃料電池用の燃料組成物である。(3)アルコールに比べて低温で蒸発圧の高い助燃剤を含有する。(4)アルコール含有量30wt%以下で,不凍液化剤または流動性向上剤を含有する 燃料電池用の燃料組成物である。(5)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の燃料組成物とゲル化剤とを含有する 燃料電池用のゲル状燃料組成物。
【選択図】  図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、メタノール型燃料電池用の燃料組成物に係り、特に毛管力による燃料供給を行う燃料電池の燃料組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池としては、燃料気化供給型や毛管力を利用したものなど種々のタイプが知られており、燃料としてはアルコールと水とを混合して調製されたものが用いられている。
【0003】
従来の燃料気化供給型の燃料電池は、高濃度の燃料を直接用いることができるため燃料部のコンパクト化に関しては有利であるものの、システムが複雑であるのでそのままの構成では小型化が困難であるという問題を有している。一方、毛管力を利用した従来の液体燃料電池は、構成上は小型化に適しているものの、燃料極に燃料が直接液体状態で供給されるため低濃度の燃料を使わざるを得ない。したがって、結果的に燃料部の容積が大きくなり小型化が困難である。
【0004】
こうした問題を解決する新型の燃料電池が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この燃料電池は、燃料としての液体燃料を毛管力で各単電池内に導入して各単電池内で気化し、気化された燃料を燃料極に供給する構造である。このため、燃料気化器等などの補器を使用せずに、高濃度の燃料を使用できるため小型化が可能である。
【0005】
しかしながら、こうした新型電池においても、従来の液体型燃料電池での課題であった起動時間の短縮化、低温からの起動が小型電源として実用化する上での極めて大きな障害となっている。
【0006】
【特許文献1】
特開平11−162630号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述した新型電池のように、多孔板の毛細管現象を利用した燃料供給システムの場合には、毛細管と燃料との濡れ性が大きな問題である。また、こうした新型電池を低温(外気温が室温以下)から起動した際には、多孔質気化層による燃料気化が起こり難くなり、メタノールおよび水の蒸気圧が大幅に低下してしまう。したがって、ヒーターで加熱を行っても電池の始動に長時間が必要となり、起動時間の短縮を図ることができない。一方、こうした燃料電池を低温(氷点下40℃から室温)で使用する際には、燃料自体の凍結および粘度上昇に起因した流動性が問題となってくる。
【0008】
他方、通常使用されている燃料は無色透明であるため、燃料の使用状況を目視により容易に確認するのが困難である。万一、こうした燃料が漏出した場合には、透明であるために分かり難く、燃料成分にアルコールを含むため危険を招くおそれがある。
【0009】
本発明は上記の従来の燃料電池における問題点を解決して、小型機器の電源として有用な小型燃料電池用の燃料を提供するために行われたものであり、燃料の使用状況や燃料の漏れなどがないか目視で確認することができる燃料電池用の燃料組成物を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、炭素数3以下のアルコールおよび水を含む燃料と、識別剤とを含有する燃料電池用の燃料組成物を提供する。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
まず、本発明の燃料組成物を使用する新しいアルコール型燃料電池について説明する。
【0013】
図1に、かかるアルコール型燃料電池の構成を表す概略図を示す。図示するように、この燃料電池は、基本的には、スタック本体1、燃料タンク2、および燃料タンクから本体に液体燃料を供給する導入管3により構成される。
【0014】
なお、スタック本体1内においては、各単電池11の間に浸透板4が配置され、外部から空気を取り入れ可能な透過膜5、および導入管3から供給された液体燃料を受け取るレシーバー6が設けられている。さらにスタック本体1の側面には、酸化剤ガスを供給するためにファン(図示せず)が設けられている。燃料タンク2には、燃料を収容するための貯液部7と、この中に設置された芯体8と、外部から空気を取り入れ可能な透過膜9とが設けられている。芯体8は、ジャンクション10において導入管3に接続されている。
【0015】
かかる燃料電池においては、燃料としての液体燃料を毛管力により各単電池11内に導入して、各単電池内で気化し、気化された燃料が燃料極に供給される。このように液体燃料は毛管力で各単電池内に導入されるため、図示する燃料電池は燃料供給のためのポンプ等の駆動部を必要としない。電池内に導入された液体燃料は、燃料気化層にて電池反応の反応熱を利用して気化されるため、燃料気化器等の補器を必要としない。また、燃料気化層内の気体燃料は、ほぼ飽和状態に保たれるので、電池反応による燃料気化層中の気体燃料の消費分だけ燃料浸透層から液体燃料が気化し、さらに気化分だけ液体燃料が毛管力によってセル内に導入される。
【0016】
このように、図示する燃料電池においては、燃料供給量は燃料消費量に連動しているため、未反応で電池の外に排出される燃料はほとんどなく、従来の液体燃料電池のように燃料出口側の処理系を必要としない。すなわち、図1に示した燃料電池は、ポンプやブロワ、燃料気化器、凝縮器等の補器を特に用いる必要ない、新しいタイプの液体燃料である。
【0017】
こうした燃料電池においては、毛細管現象による液体の導入を達成するために、毛細管現象が起こりうる多孔質を有する基材が用いられている。その材料の種類にも依存するが、アルコール水溶液だけからなる液体燃料は、十分に基材内を浸透しない。液体燃料と多孔板内部の毛細管との濡れ性を向上させ、毛細管現象による燃料の吸い上げを容易に行って、燃料供給を向上させるためには、アルコール水溶液からなる液体燃料に界面活性剤を添加することが好ましい。
【0018】
本発明の燃料組成物において、燃料は炭素数3以下のアルコールと水とにより構成される。炭素数3個以下のアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、および1−プロパノールが挙げられる。アルコールの含有量は、アルコールと水とからなる燃料全体に対して1wt%以上80wt%以下であることが好ましく、10wt%以上40wt%以下であることがより好ましい。アルコールの含有量が1wt%未満の場合には燃料タンクが大きくなりすぎ、小型化を図ることが困難になる。80wt%を越えると、燃料を構成する他方の成分である水が減少するため、電池反応が起こりにくくなるおそれがある。
【0019】
燃料の他方の成分である水の含有量は、こうしたアルコールの量に応じて、適宜決定することができる。
【0020】
本発明の燃料組成物に配合される界面活性剤としては、イオン性(カチオン性、アニオン性、両性)界面活性剤および非イオン性(ノニオン性)界面活性剤のいずれを用いてもよく、単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。
【0021】
以下に、本発明で用い得る界面活性剤の具体的な例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルスルホン酸およびその塩、アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩、ポリオキシアルキレンスルホン酸およびその塩パーフルオロアルキルスルホン酸およびその塩、パーフルオロアルキルべンゼスルホン酸およびその塩、パーフルオロポリオキシアルキレンスルホン酸およびその塩、ポリスチレンスルホン酸およびその共重合体、ポリビニルスルホン酸およびその共重合体、ポリパーフルオロビニルスルホン酸およびその誘導体、ポリアクリル酸およびその共重合体などが挙げられる。
【0023】
カチオン性界面剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムハライドなどの4級アンモニウム基を持つポリマーおよび高級アルカン誘導体などが挙げられる。
【0024】
両性界面活性剤としては、スルホン酸基(RSO )および4級アンモニウム基(R)を分子中内に有するポリマーおよび高級アルカン誘導体(スルホン酸ベタイン)や、カルボキシル基(RCOO−)および4級アンモニウム基(R)を分子中に有するポリマーおよび高級アルカン誘導体(ベタイン)などが挙げられる。
【0025】
非イオン性界面活性剤は、アルキルスルホン酸エステル、アルキルべンゼスルホン酸エステル、ポリオキシアルキレンとその共重合体、ポリオキシアルキレンスルホン酸エステル、パーフルオロアルキルスルホン酸エステル、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸エステル、パーフルオロポリオキシアルキレとその共重合体、パーフルオロポリオキシアルキレンスルホン酸エステル、ポリスチレンスルホン酸とその共重合体、ポリパーフルオロビニルスルホン酸エステルとその共重合体、およびポリアクリル酸エステルとその共重合体などが挙げられる。
【0026】
本発明において特に好ましく用いられる界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシエチレン、フッ素系界面活性時のフローラード(3M社製)、第2級高級アルコールエトキシサルフォン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、スルホコハク酸アルキル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0027】
本発明の燃料組成物におけるこうした界面活性剤の添加量は、組成物全体に対して1ppmから5%の範囲とすることが好ましく、10ppmから0.1%(1000ppm)であることより好ましい。1ppm未満の場合には、界面活性剤を添加した効果を得ることができない。一方、5%を越えると気泡などを抱え込んで毛細管による燃料導入の妨げになるおそれがある。
【0028】
本発明の燃料組成物には、識別剤として色素(染料、顔料)を配合して、燃料を着色させる。こうした識別剤を添加することによって、燃料の使用状況や燃料の漏れなどがないか目視で確認することができる。
【0029】
色素は、有機顔料および無機顔料のいずれでもよく、染料としては、水溶性およびアルコールに可溶な染料を用いることができる。さらに本発明においては、色素として蛍光色素を配合してもよい。
【0030】
用い得る色素の具体的な例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。顔料としては、例えばカーボン、キナクリドンおよびフタロシアニンなどが挙げられ、染料としてはインジゴ、アゾ染料、トリフェニルメタン系染料(マゼンタなど)キサテン系染料(フェノールフタレイン、ローダミンなど)などが挙げられる。
【0031】
蛍光色素は無機系および有機系のいずれでもよく、無機系としては、例えば、硫化カルシウム、硫化亜鉛、などの硫化物とその誘導体、酸化イットリウムなどの酸化物、タングステン酸マグネシウム、珪酸亜鉛、珪酸バリウムなどの酸素酸塩系などが挙げられる。一方、有機系の蛍光色素としては、例えば、アントラキノン系色素、ポリメチン系色素、ジチオール金属塩系色素、インドフェノール系色素、およびキサンテン染料などが挙げられる。
【0032】
上述した色素のうち、燃料組成物に溶解しないものを本発明の燃料組成物に添加する場合には、分散剤を予め分散液として分散液を調製し、燃料組成物に分散して用いることができる。一方、燃料組成物に溶解するものは、そのまま所定量を、燃料組成物またはその成分に溶解すればよい。
【0033】
識別剤として本発明の燃料組成物に配合される色素の量は、燃料組成物の重量に対して、0.01ppmから10000ppm以下とすることが好ましく、0.1ppmから100ppmとすることがより好ましい。0.01ppm未満の場合には目視での確認が困難となり、10000ppmを越えると電極反応及び燃料供給に悪影響を及ぼすと考えられる。添加された色素が、毛細管による燃料の供給(濡れ性)や電極反応に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、燃料タンクの出口または燃料の浸透板の入り口に、フィルターおよび色素吸着層を設ければよい。
【0034】
図1に示したような燃料電池においては、低温では、燃料電池内の燃料気化層における燃料気化が起こり難いため、燃料のアルコールや水の蒸気圧は非常に小さくなる。この場合には、充分な量の燃料を電極に供給することが困難になる。こうした不都合を避けるためには、低温でも気化能が大きい、すなわち蒸気圧の大きい燃料(助燃剤)を添加することによって、低温の起動および起動時間の短縮を可能とすることができる。
【0035】
本発明で用いる助燃剤としては、燃料の一方の成分であるアルコールの代替となる物質と、燃料の他方の成分である水の代替となる物質との2種類が挙げられる。
【0036】
第1の助燃剤であるアルコールの代替となる物質としては、炭素数3個以下のアルキルエーテル、アルデヒド、蟻酸アルキルおよび蓚酸エステルなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。
【0037】
なお、アノード極では、燃料中の水がメタノールの二酸化炭素への酸化に使用されることから、上述したような水の代替となる物質が第2の助燃剤として用いられる。こうした物質としては、硝酸アルキル、有機ニトロ化合物、ニトロソ化合物、有機化酸化物などの酸素原子を供給できる物質が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。
【0038】
助燃剤の具体的な例としては、例えば、ジメチルエーテル、メチラール、1,2−ジメトキシタンのようなエーテル類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキサール、グリコールアルデヒドなどのアルデヒド類;蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸イソプロピル、蟻酸nープロピルなどの蟻酸エステル類;蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸エチルメチルなどの蓚酸エステル類;硝酸メチル、硝酸エチルなどの硝酸エステル類;ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物、メチルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ジメチルペルオキシド、過酢酸、過蟻酸など有機過酸化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
上述した第1の助燃剤と第2の助燃剤とは、それぞれ1種以上を選択して組み合わせて用いることが好ましい。
【0040】
また、毛管現象を用いて燃料供給を行い、気化層で気化させるタイプの燃料電池では、助燃剤の電極反応による生成物が残留してしまうことを考慮すると、電極反応により生じる助燃剤の最終生成物はガス化することが望まれる。電極反応の最終生成物がガス化する助燃剤としては、例えば、ジメチルエーテル、メチラール、ホルムアルデヒド、蟻酸メチル、蓚酸メチル、硝酸メチル、ニトロメタン、メチルヒドロアルオキシド、過蟻酸などを挙げることができる。
【0041】
上述したような助燃剤の含有量は、燃料組成物全体に対して0.001%から50%の範囲で添加することが好ましい。0.001%未満の場合には充分な効果を得ることが困難となり、50%を越えると水への溶解性が低下して液が分離するおそれがある。
【0042】
本発明の燃料組成物は、酸素を導入し、紫外線を照射して反応させることにより調製してもよい。酸素を導入し紫外線を照射することによって、過酸化物が生成される。こうして得られた過酸化物は、アノード極でアルコールなどの燃料と反応し水の代替として作用するので、電池の低温起動などの点で好ましい。
【0043】
場合によっては、酸素を導入して紫外線を照射する操作は、界面活性剤を加える前に行うこともできる。まず、アルコールと水とを混合して燃料を調製し、この燃料に対し酸素を導入し、紫外線を照射して反応させた後に、所定の界面活性剤を添加してもよい。特に、界面活性剤が紫外線に分解しやすい場合には、こうした手順で燃料組成物を調製することが望まれる。
【0044】
本発明の燃料組成物には、電極反応を促進する成分として、揮発性の有機酸および無機酸、ヨウ素、ヨウ素化合物を加えてもよい。
【0045】
酸は、電極反応においてアルコールの酸化の過電圧を低下させることができるので、反応の促進剤として作用する。用い得る酸としては、例えば、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、塩酸、およびトリフルオロ酢酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
また、ヨウ素およびヨウ素化合物は、ヨウ素イオンが電極反応で触媒的に働いて反応を促進する。化合物の具体的な例として、ヨウ化メタン、ヨウ化エタンのようなヨウ素化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明の燃料組成物に含有されるアルコールの量が、燃料全体の30wt%を越える場合には、低温(氷点下40℃)でも凍結しないので、添加剤を配合する必要はないが、アルコールの量が30wt%以下の場合には、不凍液化剤または流動性向上剤を配合して、燃料組成物の不凍液化を図ることが望まれる。
【0048】
不凍液化剤および流動性向上剤としては、多価アルコールおよびその誘導体などを用いることができ、その添加量は、燃料に対して、0.1%から10%の範囲とすることが好ましい。0.1%未満の場合には充分な効果を得ることが困難であり、10%を越えると燃料の流動性を低下させるおそれがある。
【0049】
多価アルコールおよびその誘導体としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジグライム、ポリオキシエチレンのオリゴマー、およびポリオキシプロピレンのオリゴマーなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0050】
上述した成分に加えて、本発明の燃料組成物には、香料、腐食防止剤などをさらに添加してもよい。香料としては、例えば蟻酸イソアミル、エチルバニリン、シトラール、プロピオン酸イソアミル、l−メントール等を用いることができる。また、腐食防止剤としては、例えばダイマー酸、ポリオキシエチレンアルキルアミン、カルボキシベタイン型両性界面活性剤等を用いることができる。
【0051】
なお、安全性の点を考慮すると、燃料タンクが壊れた場合や、持ち運びの際の安全を確保することが望まれる。また、燃料タンクが高温となる場所での使用では、液体燃料の蒸気圧が大きくなるのでタンクが加圧状態となって、危険が生じることが考えられる。
【0052】
上述したような本発明の燃料組成物をゲル化して、ゲル状燃料組成物とすることによって、こうした危険を回避することができる。
【0053】
ゲル状燃料組成物を得るためのゲル化は、有機高分子に燃料を吸収させる方式(化学ゲル)により達成することができる。あるいは、燃料液体と粒子粉末との混合による相互作用(水素結合など)によるチキソトロピー性を用いた方式(物理ゲル)を用いて、燃料組成物のゲル化を行ってもよい。
【0054】
化学ゲルのゲル化剤の有機高分子としては、具体的には、架橋型ポリアクリル酸やその誘導体、架橋型ポリアクリルアミドとその誘導体などが挙げられるが、限定されるものではない。
【0055】
また、物理ゲルの架橋剤は、燃料組成物と水素結合を起す物質であれば任意のものを用いることができる。具体的には、例えば活性炭、エアロジルなどの無機酸化物、有機アミドの誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
ゲル化剤は、燃料組成物重量に対して、1重量部から100重量部の範囲で加えることが好ましい。こうしてゲル状とされた燃料組成物は、燃料液体とゲル化剤との相互作用により、高温での蒸気圧が減少して粘性が大きく増加する。このため、タンクが壊れた場合における液体の飛散を防止することができ、安全上の向上につながる。
【0057】
ゲル状燃料組成物は、例えば、図2に示すような構成の燃料電池で用いることができる。図2に示す燃料電池においては、ゲル保持材13によってゲル状燃料組成物12がスタック本体2に取り付けられている。スタック本体2の構成は、図1に示した燃料電池の場合と同様である。
【0058】
【発明の実施の形態】
以下、具体例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
【0059】
(実施例1)
まず、メタノール50gに界面活性剤としてのパーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール(フロラードFC−170C住友シリーエム社製)0.01gを溶解させた。この溶液にイオン交換水50gを加え、さらに識別剤としての赤色染料(C.I.No.16045、ダイワ化成株式会社製)1mg加えて、着色した燃料組成物を調製した。
【0060】
得られた燃料組成物は、均一かつ非常にはっきりした赤色に着色されていた。この燃料組成物中に炭素多孔板(日本カーボン社製)の一端を浸して浸透試験を行ったところ、多孔板を浸透していく様子が目視で確認された。このことから、本実施例の燃料組成物を用いることによって、極めて短時間で燃料電池を起動できることがわかる。
【0061】
(比較例1)
メタノール50gとイオン交換水50gとからなる燃料を調製した。この燃料は、従来用いられている燃料に相当する。得られた燃料について前述の実施例1と同様の浸透試験を行ったところ、ほとんど浸透しなかった。したがって、この燃料を用いると、燃料電池の起動に長時間を要することが推測される。
【0062】
(実施例2)
分散剤としてのブチラール樹脂1gをメタノール45gに溶解し、識別剤としての青色顔料のフタリシアニン5gを加えて、サンドミルにより顔料分散液を調製した。
【0063】
一方、メタノール50gに界面活性剤としてのパーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール(フロラードFC−170C住友シリーエム社製)0.01gを溶解させて溶液を得、前述の顔料分散液0.01gおよび水50gを加えて、着色した燃料組成物を調製した。
【0064】
得られた燃料組成物は、均一かつ非常にはっきりした青色に着色されていた。この燃料組成物について実施例1と同様の浸透試験を行ったところ、多孔板を浸透していく様子が目視で確認された。このことから、本実施例の燃料組成物を用いることによって、極めて短時間で燃料電池を起動できることがわかる。
【0065】
(実施例3)
まず、メタノール50gに界面活性剤としてのパーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール(フロラードFC−170C住友シリーエム社製)0.01gを溶解させた。次いで、この溶液にイオン交換水50gを加え、さらに識別剤としての黄色染料(C.I.acid yellow7)1mg加えて、着色した燃料組成物を調製した。
【0066】
得られた燃料組成物は、均一かつ非常にはっきりと着色され、緑色の蛍光を発した。この燃料組成物について実施例1と同様の浸透試験を行ったところ、多孔板を浸透していく様子が目視で確認された。このことから、本実施例の燃料組成物を用いることによって、極めて短時間で燃料電池を起動できることがわかる。
【0067】
(比較例2)
メタノール50gとイオン交換水50gの混合溶液を用いて、実施例1と同様に燃料電池の起動試験を行ったが始動しなかった。
【0068】
(実施例4)
メタノール30gとイオン交換水60gとの混合溶液に、不凍液化剤としてのエチレングリコール10g加え、識別剤としての赤色染料(C.I.No.16045、ダイワ化成株式会社製)1mg添加して着色させた。さらに、界面活性剤としてのパーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール(フロラードFC−170C住友シリーエム社製)0.01gを溶解させて、本実施例の燃料組成物を調製した。
【0069】
得られた燃料組成物は、均一かつ非常にはっきりした赤色に着色されていた。また、この燃料組成物を冷却したところ、−40℃の低温下でも凍結しなかった。したがって、本実施例の燃料組成物は、−40℃でも燃料電池を起動できることがわかる。
【0070】
(比較例3)
メタノール20gとイオン交換水80gの混合溶液を調製し、この混合溶液を冷却したところ、約−10℃で凍結した。
【0071】
このように従来の燃料は、−10℃程度の条件下では燃料電池を起動することができない。
【0072】
(実施例5)
まず、メタノール50gとイオン交換水50gとの混合溶液に、助燃剤としての蟻酸メチル1gおよび硝酸メチル1gを加えた。さらに、識別剤としての赤色染料(C.I.No.16045、ダイワ化成株式会社製)1mg加えて着色し、界面活性剤としてのパーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール(フロラードFC−170C住友シリーエム社製)0.01g加えて、本実施例の燃料組成物を調製した。
【0073】
得られた燃料組成物は、均一かつ非常にはっきりした赤色に着色されていた。また、この燃料組成物を用いて、図1で示した燃料電池の起動試験を0℃で行ったところ、電池が正常に起動することが確認された。
【0074】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、燃料の使用状況や燃料の漏れなどがないか目視で確認することができる燃料電池用の燃料組成物が提供される。
【0075】
本発明の燃料組成物は、目視により識別確認することもできるので安全性の点で優れている。さらに、本発明の燃料組成物を用いることによって、液体型燃料電池の起動時間の短縮化を図れるのみならず、こうした燃料電池を低温から起動することも可能となり、その工業的価値は絶大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の燃料組成物で起動される燃料電池の一例の構成を表す概略図。
【図2】本発明の燃料組成物で起動される燃料電池の他の例の構成を表す概略図。
【符号の説明】
1…スタック本体,2…燃料タンク,3…導入管,4…浸透板,5…透過膜
6…レシーバー,7…貯液部,8…芯体,9…透過膜,10…ジャンクション
11…単電池,12…ゲル状燃料組成物,13…ゲル保持材。

Claims (5)

  1. 炭素数3以下のアルコールおよび水を含む燃料と、識別剤とを含有する燃料電池用の燃料組成物。
  2. 界面活性剤を含有する請求項1に記載の燃料電池用の燃料組成物。
  3. 前記アルコールに比べて低温で蒸気圧の高い助燃剤を含有する請求項1または2に記載の燃料電池用の燃料組成物。
  4. 前記アルコールの含有量は前記燃料に対して30wt%以下であり、不凍液化剤または流動性向上剤を含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の燃料電池用の燃料組成物。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の燃料組成物とゲル化剤とを含有する燃料電池用のゲル状燃料組成物。
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