JP2003171720A - 被膜特性および電磁特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

被膜特性および電磁特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法

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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】 脱炭焼鈍時におけるSiO2欠乏層の生成を効果
的に防止して、被膜形成および電磁特性に優れた方向性
電磁鋼板を提供する。 【解決手段】 含けい素鋼スラブを、熱間圧延した後、
1回または中間紹鈍を含む2回以上の冷間圧延を施して
最終板圧とし、ついで電解脱脂処理後、脱炭焼鈍を施
し、その後仕上焼鈍を行う方向性電磁鋼板の製造に際
し、電解脱脂処理後、脱炭焼鈍を施すに当たり、上記脱
炭焼鈍後の鋼板表面において、表層に生成した酸化物に
おけるSiO2生成比率を70%以下とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、被膜特性および電磁
特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法に関し、特に脱
炭焼鈍におけるサブスケールの生成状態を適切に制御す
ることによって、被膜特性および電磁特性の有利な改善
を図ろうとするものである。
【0002】
【従来の技術】方向性電磁鋼板は、主として変圧器およ
びその他の電気機器の鉄心材料として使用されるもの
で、磁束密度や鉄損等の電磁特性および絶縁性や密着性
等の被膜特性に優れることが基本的に重要とされる。
【0003】かかる方向性電磁鋼板は、2次再結晶に必
要なインヒビター、例えばMnS,MnSe,AlN等を含む鋼
スラブを、熱間圧延したのち、必要に応じて熱延板焼鈍
を行い、ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷
間圧延によって最終板厚としたのち、脱炭焼鈍を行い、
ついで鋼板の表面にMgOなどの焼鈍分離剤を塗布してか
ら、最終仕上焼鈍を行って製造される。なお、この方向
性電磁鋼板の表面には、特殊な場合を除いて、フォルス
テライト(Mg2SiO4)質の絶縁被膜が形成されているのが
一般的である。
【0004】このフォルステライト質絶縁被膜は、鋼板
を積層して使用する場合に、その層間を電気的に絶縁
し、渦電流を低減するのに有効に寄与するが、該鋼板表
面の絶縁被膜が不均一であったり、巻き鉄心作製時に被
膜剥離が生じたりすると、商品価値が低下するだけでな
く、占積率が低下し、さらには鉄心組立て時の締め付け
により絶縁性が低下して局所的な発熱を起こし、変圧器
における事故の原因ともなる。
【0005】また、このフォルステライト質絶縁被膜
は、鋼板表面の電気的絶縁だけでなく、その低熱膨張性
を利用して引張応力を鋼板に付与することにより、鉄損
さらには磁気歪の改善に寄与している。さらに、このフ
ォルステライト質絶縁被膜は、二次再結晶が完了して不
要となったインヒビター成分を被膜中に吸い上げ、鋼を
純化することによっても、磁気特性の向上に寄与してい
る。従って、かような絶縁被膜の形成過程を制御して、
均一かつ平滑なフォルステライト質絶縁被膜を形成する
ことは、方向性電磁鋼板の製品品質を左右する重要なポ
イントの一つである。
【0006】ところで、上記したようなフォルステライ
ト質絶縁被膜は、脱炭焼鈍時に生成するサブスケール中
のSiO2と焼鈍分離剤中のMgOが、高温の仕上焼鈍時に、
次式に従い固相反応を生じることによって形成される。 2MgO + SiO2 → Mg2SiO4 従って、従来から、良好なフォルステライト質絶縁被膜
を形成するために、脱炭焼鈍時に生成するサブスケール
についても、種々の検討が行われている。
【0007】例えば、特開平6−336616号公報では、脱
炭焼鈍の均熱過程では、炉内雰囲気を非FeO生成域に設
定する一方、その昇温過程では雰囲気酸化度を均熱過程
よりも低く設定することによって、酸化をコントロール
する方法を提案している。また、特開平7−41861 号公
報には、中間焼鈍における雰囲気酸化度を 0.4〜2.0 の
範囲に設定し、Siの優先酸化を制御することによって、
脱炭焼鈍後の酸化物中のSiO2量を安定化させる方法が提
案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の
技術を適用した場合であっても、中間焼鈍前や脱炭焼鈍
前の鋼板の表面状態が変動すると、脱炭焼鈍後のサブス
ケール品質が変動し、最終仕上焼鈍時に追加酸化が増大
して、電磁特性の劣化を招く場合があった。この発明
は、上記の問題を有利に解決するもので、脱炭焼鈍後に
おけるサブスケール品質の変動を効果的に抑制して、仕
上焼鈍後に均一で密着性に優れたフォルステライト質絶
縁被膜を得ることができ、ひいては良好な電磁特性を得
ることができる、方向性電磁鋼板の新規な製造方法を提
案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】以下、この発明の解明経
緯について説明する。上述したとおり、予め脱炭焼鈍条
件を適正に制御していた場合であっても、中間焼鈍前や
脱炭焼鈍前の鋼板の表面状態が変動した場合には、サブ
スケール品質が変動し、その結果電磁特性が劣化する場
合があった。そこで、発明者らは、サブスケール品質の
変動によって最終的に磁気特性の劣化を生じた製品板の
脱炭焼鈍段階におけるサブスケールの生成状況、および
サブスケール品質が変動せず最終的に良好な磁気特性が
得られた製品板の脱炭焼鈍段階におけるサブスケールの
生成状況の違いについて、調査を行った。
【0010】図1(a), (b)にそれぞれ、最終的に磁気特
性の劣化を招いた脱炭焼鈍板および最終的に良好な磁気
特性が得られた脱炭焼鈍板のサブスケール断面を比較し
て、模式で示す。同図(b) に示したとおり、最終的に良
好な磁気特性が得られた脱炭焼鈍板では、鋼板の表面か
ら内部にかけて均一にSiO2が形成されていたのに対し、
最終的に磁気特性の劣化を招いた脱炭焼鈍板では、同図
(a) に示したとおり、鋼板の表層直下にSiO2の欠乏層が
生成していた。
【0011】このように、脱炭焼鈍時に均一なSiO2が形
成されず、鋼板の表層直下にSiO2の欠乏層が生成するこ
とによって、被膜形成ひいては電磁特性が劣化する理由
は、次のとおりと考えられる。すなわち、フォルステラ
イト被膜の一方の原料物質であるMgOを主体とする焼鈍
分離剤は、水に懸濁したスラリーとして鋼板に塗布され
るため、乾燥された後も物理的に吸着したH2Oを保有す
る他、一部が水和してMg(OH)2 に変化しているため、仕
上焼鈍中は 800℃程度まで、少量ながらH2Oを放出し続
ける。このため鋼板表面はこのH2Oにより、いわゆる追
加酸化を受ける。この追加酸化が多いと、フォルステラ
イトの生成速度が抑制されるだけでなく、インヒビター
の酸化や分解が促進される。図1(a) に示すように、鋼
板の表層直下にSiO2の欠乏層が存在すると、かような追
加酸化が多くなると考えられ、その結果被膜特性および
磁気特性の劣化を招くものと考えられる。
【0012】また、特にAlNをインヒビターとする方向
性電磁鋼板においては、この鋼板の表層直下にSiO2欠乏
層が仕上焼鈍中の脱N挙動あるいは焼鈍雰囲気からの鋼
板への侵N挙動に影響を及ぼし、インヒビターの働きを
通して磁気特性にも影響を与えるものと考えられる。す
なわち、脱Nが進行するとインヒビターの抑制力は弱ま
り、磁気特性は劣化する。一方、侵Nが進行し過ぎる
と、インヒビターが強くなりすぎて正常な2次再結晶が
起こり難くなり、この場合も特性劣化につながるわけで
ある。
【0013】従って、良好な被膜特性および電磁特性を
得るためには、かようなSiO2欠乏層を生成させないこと
が重要なわけであるが、脱炭焼鈍時にかようなSiO2欠乏
層が生成したかどうかを、コイル毎に試料を採取して断
面調査を行うことは、多大の時間を要し、実際的でな
い。そこで、脱炭焼鈍後にSiO2欠乏層の有無を的確に把
握できる簡便な方法について検討を行った。その結果、
かような判定方法としては表面反射赤外吸収スペクトル
法(Fourier Transform Infra Red :FT-IR 法)が有利
に適合することが判明した。すなわち、このFT-IR 法に
よれば、鋼板の最表層における物質の存在状態を評価す
ることができ、例えば図2に示すように、鋼板の最表層
にSiO2およびその他の物質(ファイアライト等)が存在
する場合、SiO2のピークをa、その他の物質のピークを
bとすれば、a/(a+b)× 100 (%) によってSiO2
の生成比率を求めることができる。
【0014】図3に、SiO2欠乏層を有する脱炭焼鈍板お
よびSiO2欠乏層のない脱炭焼鈍板について、FT-IR 法に
よって測定したSiO2生成比率を比較して示す。同図に示
したとおり、FT-IR 測定によるSiO2生成比率は、SiO2
乏層を有する脱炭焼鈍板よりもSiO2欠乏層のない脱炭焼
鈍板の方がむしろ小さく、70%以下になっている。
【0015】次に、図4に、脱炭焼鈍板のFT-IR 測定に
よるSiO2生成比率と最終製品板の磁束密度B8 との関係
について調べた結果を示すが、同図によれば、FT-IR 測
定によるSiO2生成比率が70%以下の範囲において、B8
が 1.895(T)以上という優れた電磁特性が得られるこ
とが判明した。
【0016】図3および図4の結果から、最終製品板に
おいて優れた被膜特性および電磁特性を得るためには、
FT-IR 測定によるSiO2生成比率を70%以下として、鋼板
の表層直下におけるSiO2欠乏層の生成を抑制することが
重要であることが判明した。
【0017】そこで、次に、鋼板の表層直下におけるSi
O2欠乏層の生成を抑制する手段について鋭意検討を重ね
た結果、電解脱脂処理の際に鋼板表面にSiO2の発生核と
なるSiを適正量電着させ、かつ脱炭焼鈍の昇温過程にお
ける雰囲気酸化度〔P(H20)/P(H2)〕を比較的高めに設
定して、脱炭焼鈍の早い段階で鋼板の最表面に極薄で緻
密なSiO2層を形成することが極めて有効であることの知
見を得た。すなわち、脱炭焼鈍の初期段階で鋼板の最表
面に極薄のSiO2層が形成されていると、その後の均熱過
程において、雰囲気中の酸素による鋼板表層部の強制的
酸化に伴う表層直下域からのSiの表層への拡散が抑制さ
れ、その結果表層直下域におけるSiO2欠乏層の生成が効
果的に阻止されることが究明されたのである。
【0018】図5に、電解脱脂処理の際の電着Si量と脱
炭焼鈍の昇温過程における雰囲気酸化度〔P(H20)/P(H
2)〕がSiO2欠乏層の生成に及ぼす影響について調べた結
果を整理して示す。なお、SiO2欠乏層の生成の有無は、
FT-IR 測定によるSiO2の生成比率によって判断するもの
とし、このSiO2生成比率が70%以下であればSiO2欠乏層
は生成していないと考えることができる。同図に示した
とおり、電解脱脂処理の際の電着Si量を蛍光X線による
測定強度で0.10〜0.45 kcps の範囲に制御すると共に、
脱炭焼鈍の昇温過程における雰囲気酸化度〔P(H20)/P
(H2)〕を0.45以上とすることによって、脱炭焼鈍板のFT
-IR 測定によるSiO2の生成比率を70%以下にすることが
でき、ひいては表層直下域におけるSiO2欠乏層の生成を
効果的に抑制することができたのである。この発明は、
上記の知見に立脚するものである。
【0019】すなわち、この発明の要旨構成は次のとお
りである。 1.含けい素鋼スラブを、熱間圧延したのち、1回また
は中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚
とし、ついで電解脱脂処理後、脱炭焼鈍を施したのち、
最終仕上焼鈍を施す一連の工程によって方向性電磁鋼板
を製造するに際し、上記脱炭焼鈍後の鋼板表面におい
て、表層に生成した酸化物におけるSiO2生成比率を70%
以下とすることを特徴とする被膜特性および電磁特性に
優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0020】2.上記1における電解脱脂処理におい
て、鋼板の表面に、蛍光X線による測定強度で0.10〜0.
45 kcps に相当する量のSiを電着させると共に、上記脱
炭焼鈍の昇温過程における雰囲気酸化性〔P(H20)/P(H
2)〕を0.45以上とすることを特徴とする被膜特性および
電磁特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
【0021】
【発明の実施の形態】以下、この発明で対象とする方向
性電磁鋼板の好適成分組成について述べる。出発材であ
る含けい素鋼としては、従来公知の成分組成のものいず
れもが適合するが、代表組成を掲げると次のとおりであ
る。 C:0.01〜0.10mass% Cは、熱間圧延、冷間圧延中の組織の均一微細化だけで
なく、ゴス方位粒の発達に有用な成分であり、少なくと
も0.01mass%以上の添加が望ましい。しかしながら、0.
10mass%を超えて含有させるとかえってゴス方位に乱れ
が生じるので、上限は0.10mass%程度とするのが望まし
い。
【0022】Si:2.0 〜5.5 mass% Siは、鋼板の比抵抗を高め鉄損の低減に有効に寄与する
が、5.5 mass%を上回る含有量では冷延性が損なわれ、
一方2.0 mass%に満たないと比抵抗が低下するだけでな
く、二次再結晶・純化のために行われる高温の最終仕上
焼鈍中にα−γ変態によって結晶方位のランダム化を生
じ、十分な鉄損改善効果が得られなくなるので、Si量は
2.0〜5.5 mass%程度とするのが好ましい。
【0023】Mn:0.02〜2.5 mass% Mnは、熱間脆化を防止するために少なくとも0.02mass%
程度の含有を必要とするが、あまりに多過ぎると磁気特
性を劣化させるので、上限は2.5 mass%程度に止めるの
が好ましい。また、この範囲の含有量でインヒビターと
してMnS, MnSeを析出させることができる。
【0024】二次再結晶によりゴス方位に揃う結晶粒を
高度に集積させるためには、二次再結晶に先立って鋼中
に均一微細に析出するインヒビターの存在が必須であ
る。このインヒビターとしては、いわゆるMnS,Cu2-X
S,MnSe,Cu2-X SeやAlNといった析出物型と、Sn,A
s, Sbなどの粒界偏析型とがある。
【0025】析出物型のうちMnS,Cu2-X S,MnSe,Cu
2-X Se系の場合には、S,Seの1種または2種:0.005
〜0.06mass% S,Seはいずれも、方向性電磁鋼板の二次再結晶を制御
するインヒビターとして有用な成分である。かかる抑制
力確保の観点からは少なくとも0.005 mass%程度を必要
とするが、0.06mass%を超えるとその効果が損なわれる
ので、その下限、上限はそれぞれ0.005 mass%、0.06ma
ss%程度とするのが望ましい。また、Cuをインヒビター
成分として用いる場合には、Cu量は 0.005〜0.50mass%
程度とするのが望ましい。
【0026】AlN系の場合には、Al:0.005 〜0.10mass
%、N:0.004 〜0.015 mass% AlおよびNの含有量の範囲についても、上述したMnS,
Cu2-X S,MnSe,Cu2- X Se系の場合と同様な理由によ
り、上述した範囲が好適である。ここに、上記したMn
S,Cu2-X S,MnSe,Cu2-X Se系およびAlN系はそれぞ
れ併用することがより望ましい。
【0027】また、粒界偏析系インヒビターとして、S
n,Sbはそれぞれ、Sn:0.01〜0.25mass%、Sb:0.005
〜0.15mass%程度が好適であり、これらの各インヒビタ
ー成分についても単独または複合使用のいずれでも良
い。これらの上限は、この値を超えて添加すると飽和磁
束密度が下がり、良好な磁気特性が得られないからであ
る。さらに、従来から知られているCr,Te,Ge,As,B
i,Pなども磁気特性向上のために添加することができ
る。これらの好適範囲はCr:0.01〜0.15mass%、Te,A
s,GeおよびBi:0.005 〜0.1 mass%、P:0.01〜0.2 m
ass%程度が好適である。これらの各インヒビター成分
についても、単独または複合使用のいずれでも良い。
【0028】次に、方向性電磁鋼板の代表的製造条件に
ついて説明する。素材として用いる含けい素鋼スラブ
は、連続鋳造されたものもしくはインゴットから分塊圧
延されたものを対象とするが、連続鋳造後に予備圧延さ
れたスラブも対象に含まれることはいうまでもない。
【0029】上記の含けい素鋼スラブは、スラブの加熱
処理によりインヒビターを溶体化する必要がある。この
発明では、溶体化の条件については特に制限するもので
はないが、ガス炉または誘導式電気加熱炉もしくは両者
の組み合わせによって各々のインヒビター成分の溶解度
積以上の温度で5分以上加熱することが望ましい。ま
た、加熱中もしくは加熱前に20%以下の軽圧下をするこ
とにより、加熱後のスラブ組織を細粒化することも可能
である。加熱後のスラブは、通常の粗圧延を行いシート
バーとした後、熱間仕上圧延に供する。ついで、必要に
応じて熱延板焼鈍を行う。
【0030】上記の熱延板焼鈍後、二回冷延法を行う場
合は、一回目の冷延圧延を圧下率:5〜50%程度で行
う。ついで中間焼鈍後、最終冷間圧延を施し、目標の板
厚とするが、最終冷間圧延を公知のように温間圧延もし
くはパス間時効処理することにより、より一次再結晶の
集合組織を改善することが可能ととなるのでこの発明の
製造方法として採用することは、より好ましい結果を得
る。一回強冷延法を行っても良いことはいうまでもな
い。最終冷間圧延後、公知のように磁区細分化のため鋼
板表面に線状の溝を設ける処理を行うのも可能である。
【0031】上記の方法により最終板厚とした鋼板は、
電解脱脂処理後、脱炭・一次再結晶焼鈍を施す。まず、
電解脱脂処理に際しては、鋼板の表面に蛍光X線による
測定強度で0.10〜0.45 kcps(kiro count per second)に
相当する量のSiを電着させることが肝要である。という
のは、電着Si量が蛍光X線による測定強度で 0.10 kcps
に満たないと、その後の脱炭焼鈍において適正な条件で
昇温処理を行っても、鋼板の最表層に極薄で緻密なSiO2
層を形成することができず、一方 0.45 kcpsを超える
と、最表層でのSiO2の形成が過度に進み、表層直下にSi
O2の欠乏層ができてしまうからである。
【0032】ここに、電着Si量の調整手段としては、電
解脱脂処理時における電気量の調整が有効である。この
電解脱脂電気量は、浴組成により幾分変化するとはい
え、上記の好適電着Si量を得るためには、電気量を1.8
A/dm2 以下程度とすることが好ましい。また、浴組成に
ついては、けい酸ソーダを含むアルカリ性水溶液を用い
ることが好ましく、ソーダの代わりにけい酸カリウム、
けい酸リチウム等のアルカリ金属のけい酸塩を用いても
良い。また、濃度については、 0.5〜15mass%程度とす
ることが好ましく、より好適には 1.0〜8.0 mass%であ
る。
【0033】次に、脱炭・一次再結晶焼鈍を施すが、こ
の脱炭焼鈍の昇温過程における雰囲気酸化度〔P(H20)/
P(H2)〕を0.45以上とする。というのは、この雰囲気酸
化度〔P(H20)/P(H2)〕が0.45に満たないと、電解脱脂
処理時に適正量のSiを電着させたとしても、脱炭焼鈍の
昇温過程で鋼板の最表層に極薄で緻密なSiO2層を形成す
ることができないからである。なお、この昇温過程にお
ける雰囲気酸化度の上限については特に規定しないが、
0.7 を超えると、FeOが生成して緻密なSiO2層の形成を
阻害し、サブスケールの保護性が劣化するので、上限は
0.7程度とすることが好ましい。また、均熱時における
雰囲気酸化度〔P(H20)/P(H2)〕については、従来と同
様 0.2〜0.7 程度とすることが好ましい。
【0034】上記の脱炭焼鈍後、鋼板表面に焼鈍分離剤
を塗布・乾燥してから、最終仕上焼鈍を施す。この最終
仕上焼鈍については、従来から公知の条件に従って行え
ば良い。ついで、未反応の焼鈍分離剤を除去したのち、
鋼板表面に絶縁コーティングを塗布して製品とするが、
必要に応じて絶縁コーティングの塗布前に鋼板表面の鏡
面化処理を施しても良いし、また絶縁コーティングとし
て張力コーティングを用いても良い。また、コーティン
グの塗布焼付け処理を、平坦化処理と兼ねて行ってもよ
い。さらに、二次再結晶後の鋼板には、鉄損低減効果を
得るため、公知の磁区細分化処理、すなわちプラズマジ
ェットやレーザー照射を線状領域に施したり、突起ロー
ルによる線状のへこみ領域を設けたりする処理を施すこ
ともできる。
【0035】
【実施例】C:0.041 mass%,Si:3.21mass%、Mn:0.
070 mass%およびSe:0.021 mass%を含有し、残部はFe
および不可避的不純物の組成になる含けい素鋼スラブ
を、熱間圧延し、ついで中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延
によって板厚:0.23mmの冷延板とした。ついで、オルト
けい酸ソーダ(Na4SiO4)を1〜10mass%、界面活性剤を
0.5 mass%含有させた組成になる電解浴中にて、種々の
電解電気量の下で電解脱脂処理を実施し、鋼板の表面に
種々の量のSiを電着させた。ついで、昇温過程の雰囲気
酸化度〔P(H20)/P(H2)〕を表1に示すように種々に変
化させて脱炭処理を行った。なお、均熱過程における雰
囲気酸化度〔P(H20)/P(H2)〕は 0.5の一定とした。上
記の脱炭焼鈍後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布
してから、コイルに巻き取ったのち、水素雰囲気中にて
850℃,70時間の仕上焼鈍を施した。
【0036】かくして得られた製品板の電磁特性につい
て調べた結果を、電解脱脂処理時における電着Si量およ
び昇温過程における雰囲気酸化度〔P(H20)/P(H2)〕と
の関係で表1に示す。また、製品板の被膜特性について
調べた結果についても、同じく電解脱脂処理時における
電着Si量および昇温過程における雰囲気酸化度〔P(H
20)/P(H2)〕との関係で表1に示す。なお、被膜特性
は、被膜密着性(棒鋼に巻き付けた時、被膜剥離が生じ
ない棒鋼の最小径)で評価した。
【0037】
【表1】
【0038】表1に示したとおり、この発明に従い、電
解脱脂処理時に、鋼板の表面に蛍光X線による測定強度
で0.10〜0.45 kcps に相当する量のSiを電着させると共
に、脱炭焼鈍の昇温過程における雰囲気酸化度〔P(H
20)/P(H2)〕を0.45以上とし、表層酸化物におけるSiO2
生成比率を70%以下とすることによって、優れた被膜特
性および電磁特性を併せて得ることができる。なお、こ
の発明に従い、優れた被膜特性および電磁特性が得られ
た製品板の脱炭焼鈍後の鋼板について、SiO2欠乏層の有
無について調査したが、発明例はいずれもSiO2欠乏層は
生じていないことが確認されている。
【0039】
【発明の効果】かくして、この発明によれば、脱炭焼鈍
時におけるSiO2欠乏層の生成を効果的に防止して、被膜
特性および磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を安定して
得ることができ、その工業的価値は極めて大といえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 最終的に磁気特性の劣化を招いた脱炭焼鈍板
(a) および最終的に良好な磁気特性が得られた脱炭焼鈍
板(b) のサブスケール断面を比較して示した図である。
【図2】 FT-IR 測定によるSiO2生成比率の算出要領を
示した図である。
【図3】 SiO2欠乏層を有する脱炭焼鈍板およびSiO2
乏層のない脱炭焼鈍板について、FT-IR 法により測定し
たSiO2生成比率を比較して示した図である。
【図4】 脱炭焼鈍板のFT-IR 測定によるSiO2生成比率
と最終製品板の磁束密度B8 との関係を示したグラフで
ある。
【図5】 電解脱脂処理の際の電着Si量と脱炭焼鈍の昇
温過程における雰囲気酸化度〔P(H20)/P(H2)〕がSiO2
欠乏層の生成に及ぼす影響を示したグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4K026 AA03 BA02 BA12 BB10 CA18 CA27 EA08 EB11 4K033 AA02 BA01 BA02 CA01 CA02 CA03 CA07 CA09 DA02 HA01 HA03 JA01 JA04 KA00 LA01 NA03 RA04 SA01 SA02

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 含けい素鋼スラブを、熱間圧延したの
    ち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施
    して最終板厚とし、ついで電解脱脂処理後、脱炭焼鈍を
    施したのち、最終仕上焼鈍を施す一連の工程によって方
    向性電磁鋼板を製造するに際し、 上記脱炭焼鈍後の鋼板表面において、表層に生成した酸
    化物におけるSiO2生成比率を70%以下とすることを特徴
    とする被膜特性および電磁特性に優れた方向性電磁鋼板
    の製造方法。
  2. 【請求項2】 請求項1における電解脱脂処理におい
    て、鋼板の表面に、蛍光X線による測定強度で0.10〜0.
    45 kcps に相当する量のSiを電着させると共に、上記脱
    炭焼鈍の昇温過程における雰囲気酸化性〔P(H20)/P(H
    2)〕を0.45以上とすることを特徴とする被膜特性および
    電磁特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法。
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