JP2003159764A - 耐コンタミ性に優れた精密機器カバー用樹脂複合型ステンレス制振鋼板 - Google Patents
耐コンタミ性に優れた精密機器カバー用樹脂複合型ステンレス制振鋼板Info
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Abstract
る諸特性を同時に満足できる耐コンタミ性に優れた樹脂
複合型ステンレス制振鋼板を提供すること。 【解決手段】 ステンレス鋼板を粘弾性樹脂を介して積
層した精密機器カバー用樹脂複合型ステンレス制振鋼板
において、少なくとも精密機器カバー内面側になる方の
表面が、粒界に沿った微小な粒界溝が無く、かつ、粘弾
性樹脂と接着される側のステンレス鋼板表面はクロメー
ト処理、ノンクロメート処理、シランカップリング剤処
理、プライマー処理のいずれかが施されており、かつ、
精密機器カバーの外面側となる方のステンレス鋼板の表
面仕上がダル仕上であり、かつ、粘弾性樹脂がニッケル
粒子および/またはステンレス粒子を樹脂重量に対して
1重量%以上30重量%以下含有する熱硬化性の非晶性ポ
リエステル系樹脂とした。
Description
に樹脂層を積層してなる樹脂複合型制振金属板に関し、
主に機器から発生する振動騒音を低減させることを目的
として、電子機器部品や精密機械のケース等に使用され
るものである。特に、材料自身から発生するガス(以下
アウトガスと呼ぶ)や材料が持込む塵埃等を極端に嫌う
ハードディスクドライブ等の精密電子機器製品のケース
カバー類に対して好適である。 【0002】 【従来の技術】従来、ハードディスク等の精密電子機器
製品のケースカバーには、主にアルミ単板が使用されて
いたが、高速回転化によって振動が大きくなったため、
カバーの振動による騒音が問題となるようになった。こ
のため低騒音化対策として、アルミ板に代わって質量の
あるステンレス鋼板をカバーに採用されるようになって
きたが、質量増だけでは十分な低騒音化が達成されない
ため、近年ではカバー全体をステンレス表皮の制振鋼板
で作製される場合が多くなってきた。 【0003】ところで、ハードディスク等の精密電子機
器製品では機器内部にガスや塵が発生すると、磁気記録
ディスク表面等を変質損傷させる恐れがあるため、カバ
ーに使用する材料においても、材料自身がガスや塵を発
生しないようなものでなければならない。この点におい
てステンレス鋼板は、メッキ板や塗装板と異なり、長期
の使用においても錆やガスを発生することがないため、
ハードディスク等の精密電子機器製品のケースカバー類
に好適な材料といえる。しかしながら、近年、ハードデ
ィスクドライブの高容量化・高回転化が著しいことか
ら、使用される材料に関しても一層の信頼性を要求され
るようになってきており、ケースカバー用のステンレス
制振鋼板においても、アウトガス・ 塵発生量の大幅な低
減化が必要となってきた。 【0004】現状のステンレス制振鋼板に用いられるス
テンレス板は、汎用性、入手性、コスト及び樹脂接着強
度確保に有利などの理由から、最も汎用的なSUS304/2
B仕上げが殆どであるが、SUS304の2B仕上げは焼鈍酸洗
工程で、その前の焼鈍時に形成した粒界酸化物が除去さ
れているため、または焼鈍時の表面酸化に起因して、表
面近傍の粒界付近に形成するCr欠乏層が酸洗によって
優先して溶削されるため、結果として鋼板表面の粒界に
沿って微小な粒界溝(いわゆる、ミクログルーブ)が形
成されている。酸洗直後の粒界溝内部は清浄であるが、
潤滑油を使用したプレス工程の後の洗浄が不十分な場合
には、粒界溝内部に微小に油が残る場合があり、アウト
ガス発生の原因となる場合がある。また、粒界の溝が深
いと、プレス加工によって鋼板の極表面部の微小な結晶
粒が脱落し、SUS粉塵となってディスクに損傷を与え
る危険性もある。 【0005】従って、ハードディスクドライブ等の精密
電子機器製品の信頼性向上という観点からは、ケースカ
バーに使用されるステンレス鋼板の表面は、鏡面仕上の
ステンレス鋼板のような粒界溝の無いものの方が好まし
いと言える。ただし、鏡面仕上のステンレス鋼板は、取
扱い時に入るキズが目立ち易いので、キズに対する品質
管理が課題となる。 【0006】一方、ステンレス制振鋼板の粘弾性樹脂と
ステンレス鋼板との接着性の点では、粒界溝は樹脂のア
ンカリング効果が期待されるため、むしろ、深い方が好
ましい。接着強度が低いとプレス加工によって樹脂が剥
離することがあり、剥離した隙間にプレス油や洗浄液等
が侵入・ 残留し、アウトガス発生源となる危険性がある
ため、ハードディスクドライブ等の精密電子機器製品の
ケースカバーとして好ましい状態とは言えない。 【0007】このように上記従来のステンレス制振鋼板
では、ハードディスクドライブ等の精密電子機器製品の
ケースカバーとして求められる、低アウトガス・ 低塵埃
(以下、アウトガスと塵埃を総称してコンタミと呼ぶ)
の実現と、制振樹脂剥離防止に必要な高接着性を両立さ
せることは困難であった。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようと
するところは、上記従来の問題点を解決して、ハードデ
ィスクドライブ等の精密電子機器製品のケースカバーと
して求められる低騒音、低コンタミ性、ビス締付けトル
ク低下による気密性低下防止および外観品位の向上を同
時に満足できる耐コンタミ性に優れた精密機器カバー用
樹脂複合型ステンレス制振鋼板を提供することである。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記問題
点を解決するため鋭意検討を行った結果、樹脂複合型ス
テンレス制振鋼板に使用するステンレス鋼板表面の表面
性状を最適化し、かつ、粘弾性樹脂との接着面に下地処
理を施すことにより、ステンレス制振鋼板の接着強度を
犠牲にすることなく、耐コンタミ性を向上できることを
見出した。 【0010】すなわち、本発明の要旨は、ステンレス鋼
板を粘弾性樹脂を介して積層した精密機器カバー用樹脂
複合型ステンレス制振鋼板において、少なくとも精密機
器カバー内面側になる方のステンレス鋼板の表面が、粒
界に沿った微小な粒界溝(ミクログルーブ)が無く、か
つ、粘弾性樹脂と接着される側のステンレス鋼板表面が
クロメート処理、または、ノンクロメート処理、また
は、シランカップリング剤処理、または、プライマー処
理を施された面であり、かつ、精密機器カバーの外面側
となる方のステンレス鋼板の表面仕上がダル仕上であ
り、かつ、粘弾性樹脂が熱硬化性の非晶性ポリエステル
系樹脂であり、かつ、粘弾性樹脂中にニッケル粒子およ
び/またはステンレス粒子を樹脂重量に対して1重量%
以上30重量%以下含有することを特徴とする耐コンタミ
性に優れた精密機器カバー用樹脂複合型ステンレス制振
鋼板、である。 【0011】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を詳細
に説明する。本発明者らの検討によれば、鋼板表面の微
小凹凸が多いと、洗浄後の耐コンタミ性は、悪くなるこ
とを確認しており、ステンレス鋼板においては特に酸洗
後の粒界溝(以下ミクログルーブ)が深い程、耐コンタ
ミ性が悪いことを見出した。ミクログルーブの深さが1
00nm以下であれば、カバーのプレス加工後の洗浄工
程で十分洗浄可能であるが、高度の耐コンタミ性を実現
するならば、ミクログルーブのない表面であることが望
ましい。 【0012】ミクログルーブの発生を防止する方法につ
いてであるが、SUS304の2B仕上げの場合を例に上げる
と、酸洗工程で、その前の焼鈍時に形成した粒界酸化物
が除去されているため、または焼鈍時の表面酸化に起因
して、表面近傍の粒界付近に形成するCr欠乏層が酸洗
によって優先して溶削されるため、結果として鋼板表面
の粒界に沿ってミクログルーブが形成されることから、
表面酸化し難い方法でステンレス鋼板を製造すれば、耐
コンタミ性を向上させることが可能となる。 【0013】ところで、ステンレス鋼板の製造方法につ
いてであるが、SUS304を代表とするオーステナイ
ト系ステンレス鋼板を例に採ると、スラブ加熱についで
熱間圧延、(熱間圧延後、熱延板焼鈍、前処理酸洗を行
う場合もある)、冷間圧延からなる一連の工程を経た
後、仕上焼鈍を行い所定の材質に調整し、その後、品種
によって酸洗による脱スケール処理を行う。仕上焼鈍の
方法には、強還元性雰囲気で処理する方法と燃焼雰囲気
中で処理する方法とがある。 【0014】強還元性雰囲気で処理する方法は、光輝焼
鈍(BA)と呼ばれ、生成する酸化皮膜(スケール)
は、極めて薄く、ほとんど圧延ままの光沢が得られる。
強還元性ガスとしては、H2 、または、H2 +N2 を用
いるのが一般的であり、表面酸化皮膜の厚みを100n
m以下に制御するのに適している。光輝焼鈍材は、酸化
皮膜厚が非常に薄いので、仕上焼鈍後の酸洗による脱ス
ケール処理を省略する場合も多い。 【0015】一方、燃焼雰囲気中で処理する方法は、仕
上げ焼鈍時に、鋼板表面に一定厚さ以上のスケールが生
じるため、通常、焼鈍した後に脱スケールのための酸洗
を行う。脱スケール処理としては、溶融アルカリ塩に浸
漬するソルト処理、もしくは、硫酸ナトリウム、硝酸ナ
トリウム等の中性塩中における電解処理などの前処理を
行った後、硫酸、硝酸、硝弗酸等の酸溶液に浸漬または
電解処理する工程を組み合わせる方法がある。特に前処
理後の酸処理としては、硝酸と弗酸からなる混酸または
硝酸を用いて、電解処理または浸漬処理を行うのが一般
的である。このような脱スケール処理を行った場合、ス
ケール層は除去されるものの、酸洗後のステンレス鋼板
の表面は粒界あるいは粒内が侵食され、溝ができた状態
となる。このため、油等の汚れが溝に染み込み易くなっ
たり、表面付近の微細な結晶粒が脱落する恐れがあるた
め、精密機器の耐コンタミ性の観点からは好ましい方法
とは言えない。 【0016】従って、ステンレス鋼板のミクログルーブ
の発生を防止する方法としては、冷間圧延後の仕上焼鈍
を光輝焼鈍、ないしは、無酸化焼鈍として粒界溝が発生
しないように処理する方法が最も適している。光輝焼鈍
材ないし無酸化焼鈍材では仕上焼鈍後の酸洗処理は一般
的には必須ではないが、光輝焼鈍材ないし無酸化焼鈍材
の酸化皮膜厚は非常に薄く酸処理による粒界侵食はほと
んどないので、必要に応じて適宜酸洗処理しても構わな
い。光輝焼鈍、ないしは、無酸化焼鈍材では酸洗処理は
硝酸と弗酸からなる混酸または硝酸を用いて、電解処理
または浸漬処理を行うのが一般的であるが、電解処理と
浸漬処理で特に表面性状に違いはないので酸洗処理する
場合はどちらか適宜選択されれば良い。 【0017】次にステンレス鋼板表面の接着性について
説明する。接着性に関しては、鋼板表面に微小な凹凸が
ある方が、接着樹脂が鋼板表面の微小凹内部まで入り込
むことによる投錨(アンカリング)効果が発生し接着強
度の向上が期待できるので好ましいが、前述の耐コンタ
ミ性の観点からは鋼板表面には微小な凹凸が無い方が好
ましい。 【0018】本発明者らは、この相反する特性を両立さ
せる方法として、粘弾性樹脂と接着される側のステンレ
ス鋼板表面にクロメート処理、または、ノンクロメート
処理、または、シランカップリング剤処理、または、プ
ライマー処理を施すことが有効であることを見出した。 【0019】ステンレス鋼板の表面にクロメート処理、
または、ノンクロメート処理、または、シランカップリ
ング剤処理、または、プライマー処理をすることによっ
て接着強度が向上する理由としては、いずれの処理剤も
鋼板表面に強固に固着し、かつ、樹脂との親和密着性に
優れていることから、アンカリング効果によらなくとも
十分な接着強度が発現するものと考えられる。 【0020】クロメート処理剤としては、6価および3
価のクロム、シリカ等を主成分とした一般的な構成のも
ので良い。ノンクロメート処理剤としては、シリカを主
成分とする6価クロムフリータイプのものや、3価クロ
ムを主体とするタイプ、または、有機樹脂を配合した有
機無機複合タイプのものがあるが、クロメート処理剤と
同等な密着性が得られるものであれば、種類は特に限定
されない。シランカップリング剤についても種類は特に
限定されないが、樹脂との親和性が良いものを適宜選択
して使用するのが良い。プライマー処理としては、エポ
シキフェノール系などの有機系のものが主体であるが、
種類によって、ステンレス鋼板および樹脂との相性が異
なるので、接着強度が高くなるものを適宜選択して使用
するのが好ましい。これら処理剤は、接着強度、およ
び、塗工性に問題のない範囲で適宜混合使用しても差し
支えない。 【0021】ステンレス鋼板の表面に施すクロメート処
理、または、ノンクロメート処理、または、シランカッ
プリング剤処理、または、プライマー処理の厚みについ
てであるが、無機系のものの場合は、10〜1000nm、有機
系の場合は、0.1 〜10μm の範囲が適当である。この塗
膜厚範囲を外れると十分な接着強度が得られ難いので好
ましくない。クロメート処理剤、または、ノンクロメー
ト処理剤、または、シランカップリング剤処理剤、また
は、プライマー処理剤の塗布方法は、特に限定されるも
のではなく、ロールコーター、スプレー、浸漬、ブラ
シ、カーテンフローコーター等種々の塗工方法で塗布さ
れた後、所定の温度で乾燥処理すればよい。 【0022】次に制振樹脂について述べる。制振樹脂
は、外界から伝達された振動を粘弾性樹脂の粘性抵抗に
よって減衰させるものである。このため、使用される温
度域では高分子鎖がミクロ的に流動する程度に軟化して
いる必要があるが、接着性の観点から言えば、樹脂の弾
性率が高い程、高接着強度となる。従って、制振性と高
接着性を両立させるためには、軟化しても温度上昇に伴
う極端な弾性率の低下をさせないようにすることが必要
である。軟化後の温度上昇に伴う極端な弾性率の低下を
防止する方法として、粘弾性樹脂を熱硬化性樹脂とする
方法があるが、硬化成分として反応性の高い塩素系や硫
黄系の化合物を用いるとアウトガスとなった場合に腐食
の原因となる危険性があるので好ましくない。同様な理
由で低分子可塑成分を添加して軟化させる方法もアウト
ガス上好ましくない。硬化速度を早める目的で、種々の
硬化触媒を添加しても構わない。プレス後の剥離はシワ
の発生を防止するためには少なくとも80N/25mm以上のT
ピール強度を有していることが望ましい。 【0023】アウトガス発生の危険性がなく制振性と接
着性を両立させる方法としては、本発明者らが開発した
熱硬化性の非晶性ポリエステル系樹脂(特開平04-10365
7 号、特開平04-353514 号、特開平06-329770 号、特開
平06-329771 号、特開平07-179735 号)が制振樹脂とし
ては好適である。これは特定の構造、構成の非晶質ポリ
エステル樹脂をイソシアナート化合物やエポキシ樹脂と
酸無水物、あるいはアミン系などの硬化剤によって架橋
させることを特徴とした制振樹脂である。また、制振樹
脂の厚みについては、20〜80μm の範囲が接着性、加工
性が良好なので好ましい樹脂厚が20μm 未満だと接着強
度が安定せず、80μm を超えるとプレス加工シワが発生
したり樹脂がはみ出したりするので好ましくない。 【0024】その他ハードディスクドライブとしては、
コンタミ防止の観点から気密性が高いことが必要であ
る。気密性を保つためには、カバー取り付け面の気密性
が変化しないことが重要であるが、カバーの気密性を維
持するためには、固定しているビスの経時的な緩みが無
いことが重要である。しかしながら制振鋼板は中間層が
粘弾性樹脂であるため、樹脂のクリープが起こり、ビス
締付けトルクの経時的な低下が発生する。そこで、本発
明者らは、カバーのビス止め時に締付けトルクが低下す
るのを防止することを目的として、粘弾性樹脂中にステ
ンレス、ニッケル粉等の金属粉を添加して金属粉の厚み
以上に樹脂のクリープが進行しないようにすることを考
案した。 【0025】金属粉の種類は特に限定されるものではな
く、ステンレス、ニッケル、鉄、銅、黄銅などの金属を
粉末状、フレーク状、ファイバー状、ワイヤー状などに
加工したものを1 重量%以上添加すればビスの締付けト
ルクの低下は防止できる。耐食性の観点からはニッケル
粒子および/またはステンレス粒子が最も好ましく、添
加量は接着性の点から樹脂重量に対して30重量%以下と
するのが良い。また、ニッケル粒子および/またはステ
ンレス粒子は焼鈍軟質化したものの方が制振鋼板製造時
の圧着工程で潰れ易いので好ましい。金属粒子が硬質過
ぎると金属粒子の部分がつぶれず気泡を巻き込んだり、
未接着部が出来易くなり、接着強度の低下を招く恐れが
あるので好ましくない。逆に金属粉が柔らかすぎても潰
れ過ぎるので、金属粉の硬度は50〜200 μHvの範囲とす
るのが好ましい。金属粒子の粒径は特に限定されない
が、制振鋼板製造時の圧着工程で金属粒子が圧潰された
時の金属粒子の厚みと樹脂厚の比が0.9 〜1.2 となるよ
うにするのが接着強度を低下させることなくトルク低下
防止できるのでより好ましい。 【0026】樹脂複合型制振金属板を製造する方法とし
ては、表裏金属板を加熱炉あるいは加熱ロール等で加熱
し、表裏金属板間に熱可塑性樹脂のフィルムを挿入圧着
することにより熱融着させるフィルムタイプの方法と、
塗料型の樹脂をロールコーターやナイフエッヂコータ
ー、カーテンフローコーター等によって表裏鋼板の樹脂
接着面側に塗布し乾燥炉等を通して溶剤を揮発させた
後、加熱圧着する塗布タイプの方法があるが、前述した
熱硬化性樹脂に関してはフィルムタイプだとフィルム製
造段階で硬化反応が進んでしまうため、金属板とフィル
ムを貼り合せるのが困難となり好ましくない。塗付タイ
プならば、乾燥・圧着温度を最適化すれば樹脂が硬化す
る前に鋼板どうしを貼り合わせられるので、製造性の観
点からは塗付タイプの方がフィルムタイプよりも容易で
あるので好ましい。 【0027】次にステンレス制振鋼板の表皮ステンレス
鋼板の組合せについて述べる。表裏のステンレス鋼板の
組合せとしては、少なくとも精密機器カバー内面側にな
る方のステンレス鋼板表面にミクログルーブがなければ
良く、種類、板厚はどのような組合せであっても構わな
い。鋼板の種類としては例えば、SUS304、SUS
430などが挙げられる。板厚の組合せは、制振性能の
点から言えば、表裏とも同じ板厚とするのが最も効率が
高いが、部品としての剛性確保という点からは表と裏の
板厚を変える異厚構成のものの方が等厚構成の制振鋼板
より剛性が高くできるので、必要に応じて表裏の板厚構
成は変えても差し支えない。 【0028】精密機器カバー外面側になる方のステンレ
ス鋼板についてもミクログルーブ深さが100nm以下
である方が洗浄性が良いので好ましいが、光輝焼鈍、な
いしは、無酸化焼鈍で酸化皮膜厚を薄くしたものは、酸
洗処理を行っても粒界溝の深さが非常に浅いため、表面
の光沢が高く、逆に取扱い疵が目立ち易くなる欠点があ
る。精密機器のカバーに疵があると商品価値が下がるた
め、カバー外面側鋼板表面の疵は極力目立たない方が好
ましいと言える。疵の目立ち難さという観点からは、表
面をダル仕上にして、鋼板表面に凹凸を付けて光を乱反
射させる方が良い。ダル仕上げとしては、ステンレス鋼
板の焼鈍を燃焼雰囲気中で行い、焼鈍後に脱スケールの
ための酸洗を行う方法によって粒界溝を深くする方法
か、あるいは、鋼板表面をツヤ消しロールで圧延し表面
に凹凸を付けてダル仕上にする方法が一般的である。特
に光輝焼鈍材ないし無酸化焼鈍材をツヤ消しロールで圧
延して表面に凹凸を付けてダル仕上にする方法は、ミク
ログルーブがなく、かつ、スキンパスロールの粗度によ
って鋼板表面に粗い凹凸がつけられるので、清浄性と表
面疵の目立ち難さの両立という点で好ましい方法であ
る。この他のダル仕上げの類似例としては、サンド、ビ
ーズ、ワイヤーカットなどを鋼板表面にエアーで吹き付
けるショットブラスト法やエッチングあるいは放電加工
でロールを加工したエンボス用ロールで圧延するエンボ
ス法などが挙げられる。 【0029】 【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明す
る。本実施例において使用した制振樹脂は、溶剤に溶解
させた非晶質ポリエステル樹脂(ガラス転移点温度(Tg)
-16 ℃、 数平均分子量25000 の非晶質ポリエステルと、
ガラス点移転温度71℃、 数平均分子量12000 の非晶質ポ
リエステルをブレンドしたもの) にエポキシ樹脂(ビス
フェノールA型)と酸無水物(ベンゾフェノンテトラカ
ルボン酸二無水物) を添加したものであり、金属板と貼
り合せる加熱乾燥・ 加熱圧着の工程で硬化するようにし
た。樹脂の塗布厚は乾燥貼り合わせ後に所定の厚みにな
るような厚みで塗付した金属粒子を樹脂中に添加する場
合は、樹脂溶液に混合したものを樹脂と共に鋼板に塗布
することによって、フィルム中に均一に混入させた。用
いた金属粉は粒径範囲40〜90μm の焼鈍ニッケル粉(マ
イクロビッカース硬度120 μHv)である。比較用の制振
樹脂として、熱可塑性のアクリル系樹脂、 および、上記
非晶質ポリエステル単体(硬化成分無し) を用い、上記
と同様な方法で貼り合せを行った。 【0030】次に、ステンレス鋼板の制振樹脂接着面と
なる側の下地処理剤についてであるが、クロメート処理
剤として、6価クロムとシリカを含有するクロメート処
理剤、ノンクロメート処理剤として、りん酸金属塩とシ
リカを含有する処理剤、シランカップリング剤として、
グリシジル基を有するシランカップリング剤、プライマ
ー処理剤としてエポキシ−フェノール系プライマー処理
剤をそれぞれ用いてステンレス鋼鈑の接着面下地処理を
行った。 【0031】樹脂複合型制振金属板の製造方法の詳細は
以下の通りである。 鋼板接着面下地処理:鋼板の制振樹脂接着面になる側
にクロメート処理液等の下地処理液をロールコーターで
塗布し、乾燥炉で乾燥処理(板温約100 ℃) する。 樹脂塗布:溶剤希釈された樹脂をロールコーターを用
いて片側金属板の接着面に塗布する。 溶剤乾燥:乾燥炉で溶剤を完全に揮発させる(板温約
175 ℃) 。この時、もう一方の金属板も同じ炉内で加熱
しておき、乾燥終了と同時に貼り合わせられるようにし
ておく。 圧着:樹脂塗布した金属板と他方の金属板を乾燥炉か
ら取出したら、速やかに加熱ロール(約200 ℃) によっ
て圧着する。 冷却:圧着後空冷によって板温度を室温まで冷却す
る。 【0032】次に作製したステンレス制振鋼板の評価方
法について述べる。まず、接着強度の評価方法について
であるが、接着強度の測定はTピール試験によって行
う。Tピール試験片のサイズは幅25mm長さ200mm とし、
試験片の片方を50mm程剥離させて引張試験時のつかみ部
とする。引張試験は、試験片つかみ部を30mmとして、室
温(23℃)下で引張速度50mm/min. で試験を行う。 【0033】コンタミ性の評価は、プレス加工品を洗浄
した時の洗浄液中のコンタミ粒子を測定する方法と、プ
レス加工品を加熱した時に発生するアウトガスの量によ
って評価した。 【0034】洗浄液中のコンタミ粒子を測定する方法に
ついて述べる。まず、12cm×17cmの大きさのステンレス
制振鋼板を潤滑油を使用してプレス加工した後、プレス
品を1000mlの炭化水素洗浄液中に浸漬して超音波洗浄す
る。洗浄は新しい液で2回行い、2回目の洗浄液中の0.
1 μm 以上の粒子の数をLPCカウンターで測定し、洗
浄液100 ml当たりのコンタミ粒子数に換算した値をコ
ンタミ性評価値とした。 【0035】アウトガス発生量の測定方法について述べ
る。まず、10mm×30mmのステンレス制振鋼板3枚をヘッ
ドスペースガスサンプラー付きGC/MSでアウトガス
量を測定した。アウトガスは、試料を150 ℃で60分加熱
した後のヘッドスペースガスを導入して分析し、 測定結
果は試料1cm2 当りのアウトガス発生量として評価し
た。 【0036】外観疵については、ステンレス制振鋼板の
上に#1000サンドペーパーを乗せ2g/cm2の面圧をかけて
1回摺動させた後、ステンレス鋼板表面に垂直に50cm離
した位置で目視観察して疵が分かるかどうかで良、不良
の判定を行った。 【0037】ネジ締め後の経時による締付けトルク低下
量の測定方法について述べる。直径3mm深さ10mm以上の
ビス穴加工を施した厚さ1cm以上の平滑な厚鋼板に、直
径3.2mm のバリの無い打抜き穴を開けたステンレス制振
鋼板を、直径3mm、首下8mm、ビス頭径5.2mm のビスを
用いて1N/mの締付けトルクで締付ける。ネジ締め後、ビ
ス留めしたステンレス鋼板を厚鋼板ごと雰囲気温度80℃
の恒温槽に30分間入れる。熱処理後試験体を取出し、厚
鋼板が冷えるまで待ってから、再びビスをトルクドライ
バーでゆっくりと締付ける。締付けトルクが低下してい
ると初期の締付けトルクの1N/mに達する前にビスが回り
始めるので、回り始める時の締付けトルクを読み取る。
初期の締付けトルクと加熱処理後のビスが始めた時のト
ルクの差と初期締付けトルクの比率をトルク低下率とし
た。 【0038】ステンレス制振鋼板の表皮材に用いたステ
ンレス鋼板の詳細を表1に示す。表2に表1中のステン
レス鋼板の組合せによって作製したステンレス制振鋼板
の特性評価結果を示した。 【0039】実施例1は、表側板にSUS304 BA ダル材
(酸洗処理なし)、裏側板にSUS304 BA 材(酸洗処理な
し)を用い、それぞれの鋼板の制振樹脂接着面側にクロ
メート処理を施し、更に、制振樹脂としてNi粉を1重
量%添加した熱硬化性の非晶性ポリエステル樹脂を50μ
m の厚みとして制振鋼板を作製した例である。実施例2
は、表側板にSUS430 BA ダル材(酸洗処理なし)、裏側
板にSUS430 BA 材(酸洗処理なし)を用い、それぞれの
鋼板の制振樹脂接着面側にクロメート処理を施し、更
に、制振樹脂としてNi粉を1重量%添加した熱硬化性
の非晶性ポリエステル樹脂を50μm の厚みとして制振鋼
板を作製した例である。実施例3は、表側板にSUS304 B
A ダル材(硝酸電解酸洗処理あり)、裏側板にSUS304 B
A 材(硝酸電解酸洗処理あり)を用い、それぞれの鋼板
の制振樹脂接着面側にクロメート処理を施し、更に、制
振樹脂としてNi粉を3重量%添加した熱硬化性の非晶
性ポリエステル樹脂を25μm の厚みとして制振鋼板を作
製した例である。実施例4は、実施例3の樹脂厚みを75
μm として制振鋼板を作製した例である。実施例5は、
実施例3のNi粉添加量を30重量%として制振鋼板を作
製した例である。実施例6は、実施例3の樹脂厚みを75
μm 、 Ni粉添加量を30重量%として制振鋼板を作製し
た例である。実施例7は、実施例3の鋼板の制振樹脂接
着面側の処理をシランカップリング剤処理とし、樹脂厚
みを45μm 、Ni粉添加量を3重量%として制振鋼板を
作製した例である。実施例8は、実施例3の表側板をSU
S430 BA ダル材、裏側板をSUS430 BA 材をとして制振鋼
板を作製した例である。実施例9は、実施例8の樹脂厚
みを75μm として制振鋼板を作製した例である。実施例
10は、実施例8のNi粉添加量を30重量%として制振
鋼板を作製した例である。実施例11は、実施例8の樹
脂厚みを75μm 、 Ni粉添加量を30重量%として制振鋼
板を作製した例である。実施例12は、実施例3の鋼板
の制振樹脂接着面側の処理をノンクロメート剤処理と
し、樹脂厚みを50μm 、 Ni粉添加量を3重量%として
制振鋼板を作製した例である。実施例13は、実施例3
の鋼板の制振樹脂接着面側の処理をプライマー処理剤処
理とし、樹脂厚みを50μm 、 Ni粉添加量を3重量%と
して制振鋼板を作製した例である。 【0040】表2の特性評価結果から分かる通り、実施
例1から実施例13はいずれも、接着強度、コンタミ
性、外面側疵の目立ち難さ、ネジ締め時のトルク保持性
が良好である。 【0041】次に比較例について説明する。比較材とし
て作製した制振鋼板の樹脂厚は50μm とした。比較例1
は、実施例3、4の構成の内、鋼板の接着面の下地処理
を未処理として、制振鋼板を作製した例であるが、鋼板
の接着面にクロメート処理を施した実施例に比較して、
接着接着強度が低くなっている。比較例2は、実施例
3、4の構成の内、表側板をSUS304 BA 材として、制振
鋼板を作製した例であるが、実施例に比較して、表板の
表面が光沢面となったため、外面疵が目立ち易くなっ
た。比較例3は、実施例8、9構成の内、鋼板の接着面
の下地処理を未処理として、制振鋼板を作製した例であ
るが、比較例1同様、鋼板の接着面にクロメート処理を
施した実施例に比較して、接着接着強度が低くなってい
る。比較例4は、実施例3、4の構成の内、裏側板をSU
S304 2B 材として、制振鋼板を作製した例であるが、実
施例に比較して、LPCコンタミ性が悪化した。比較例
5は、実施例3、4の構成の内、裏側板をSUS304 2D 材
として、制振鋼板を作製した例であるが、比較例4同
様、実施例に比較して、LPCコンタミ性が悪化した。
比較例6は、実施例3、4の構成の内、制振樹脂中への
Ni粉添加量を0重量%として、制振鋼板を作製した例
であるが、実施例に比較して、ネジ締め時のトルク保持
性が悪化した。比較例7は、実施例3、4の構成の内、
制振樹脂中へのNi粉添加量を35重量%として、制振鋼
板を作製した例であるが、実施例に比較して、接着強度
が低下した。比較例8は、実施例3、4の構成の内、制
振樹脂を熱可塑性アクリル樹脂に変更して、制振鋼板を
作製した例であるが、実施例に比較して、接着強度、ア
ウトガスコンタミ性、ネジ締め時のトルク保持性とも悪
化した。比較例9は、実施例3、4の構成の内、制振樹
脂を熱可塑性ポリエステルとして、制振鋼板を作製した
例であるが、実施例に比較して、接着強度、ネジ締め時
のトルク保持性とも悪化した。 【0042】 【表1】 【0043】 【表2】【0044】 【発明の効果】以上詳述したように、本発明の耐コンタ
ミ性に優れた精密機器カバー用樹脂複合型ステンレス制
振鋼板は、ハードディスクドライブ等の精密電子機器製
品のケースカバーとして求められる、低騒音、低コンタ
ミ性、ビス締付けトルク低下による気密性低下防止、お
よび、外観品位の向上を同時に満足できる優れた特徴を
有するので、工業的に極めて価値の高い発明であると言
える。
Claims (1)
- 【特許請求の範囲】 【請求項1】 ステンレス鋼板を粘弾性樹脂を介して積
層した精密機器カバー用樹脂複合型ステンレス制振鋼板
において、少なくとも精密機器カバー内面側になる方の
ステンレス鋼板の表面が、粒界に沿った微小な粒界溝
(ミクログルーブ)が無く、かつ、粘弾性樹脂と接着さ
れる側のステンレス鋼板表面がクロメート処理、また
は、ノンクロメート処理、または、シランカップリング
剤処理、または、プライマー処理を施された面であり、
かつ、精密機器カバーの外面側となる方のステンレス鋼
板の表面仕上がダル仕上であり、かつ、粘弾性樹脂が熱
硬化性の非晶性ポリエステル系樹脂であり、かつ、粘弾
性樹脂中にニッケル粒子および/またはステンレス粒子
を樹脂重量に対して1重量%以上30重量%以下含有する
ことを特徴とする耐コンタミ性に優れた精密機器カバー
用樹脂複合型ステンレス制振鋼板。
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---|---|---|---|
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Applications Claiming Priority (5)
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JP2001-275187 | 2001-09-11 | ||
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JP3956346B2 JP3956346B2 (ja) | 2007-08-08 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007152916A (ja) * | 2005-12-09 | 2007-06-21 | Nippon Steel Corp | 耐久密着性に優れたクロメートフリー樹脂複合型制振材料 |
US9370810B2 (en) | 2011-03-31 | 2016-06-21 | Nisshin Steel Co., Ltd. | Stainless steel plate |
-
2001
- 2001-12-26 JP JP2001393410A patent/JP3956346B2/ja not_active Expired - Fee Related
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JP2007152916A (ja) * | 2005-12-09 | 2007-06-21 | Nippon Steel Corp | 耐久密着性に優れたクロメートフリー樹脂複合型制振材料 |
JP4543262B2 (ja) * | 2005-12-09 | 2010-09-15 | 新日鐵住金ステンレス株式会社 | 耐久密着性に優れたクロメートフリー樹脂複合型制振材料 |
US9370810B2 (en) | 2011-03-31 | 2016-06-21 | Nisshin Steel Co., Ltd. | Stainless steel plate |
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