JP2003138361A - 合金化溶融亜鉛めっき鋼板 - Google Patents

合金化溶融亜鉛めっき鋼板

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JP2003138361A
JP2003138361A JP2001336630A JP2001336630A JP2003138361A JP 2003138361 A JP2003138361 A JP 2003138361A JP 2001336630 A JP2001336630 A JP 2001336630A JP 2001336630 A JP2001336630 A JP 2001336630A JP 2003138361 A JP2003138361 A JP 2003138361A
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Hisato Noro
寿人 野呂
Masayasu Nagoshi
正泰 名越
Shoichiro Taira
章一郎 平
Yoshiharu Sugimoto
芳春 杉本
Michitaka Sakurai
理孝 櫻井
Kaoru Sato
馨 佐藤
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NKK Corp
Nippon Kokan Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 プレス成形時の摺動性に優れた合金化溶融亜
鉛めっき鋼板を提供する。 【解決手段】 鉄−亜鉛合金めっき表面における平坦部
の流体保持指標Sviが0.120以上であることを特徴とする
合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。前記で、鉄−亜鉛合
金めっき表面における前記平坦部の面積率が20〜80%で
ある合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。前記で、鉄−亜
鉛合金めっき層が主としてδ1相からなり、少なくとも
鋼板の片面の鉄−亜鉛合金めっき層の表層にζ相が残存
する合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プレス成形時にお
ける摺動性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する
ものである。
【0002】
【従来の技術】合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、亜鉛めっ
き鋼板と比較して溶接性および塗装性に優れることか
ら、自動車車体用途を中心に広範な分野で利用されてい
る。その一方で、プレス成形性の点で冷延鋼板に劣る事
が、該鋼板の解決すべき課題となっている。合金化溶融
亜鉛めっき鋼板は、プレス金型での摺動抵抗が冷延鋼板
に比べて大きい。そのため、金型に接したビード部など
の摺動抵抗が大きい部分では合金化溶融亜鉛めっき鋼板
がプレス金型に流入しにくく、めっきの金型への凝着や
鋼板の破断を起こしやすい。
【0003】合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に亜鉛
めっきを施した後、加熱処理によって、鋼板中のFeとめ
っき層中のZnを拡散させる合金化反応を引き起こす事に
より、Fe-Zn合金相を形成させためっき鋼板である。こ
のFe-Zn合金相は、通常、Γ相、δ1相、ζ相から成って
おり、単一の合金相では、Fe濃度が高い順、即ち、Γ
相、δ1相、ζ相の順に高い硬度ならびに高い融点を有
している。摺動性の観点からは、硬質で融点が高く、凝
着の起こりにくい高Fe濃度の皮膜が有効であるため、プ
レス成形性を重視する合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、製
造時、皮膜中の平均Fe濃度が高めになるように制御され
ている。
【0004】しかしながら、高Fe濃度の皮膜では、めっ
き−鋼板界面に硬くて脆いΓ相が形成されやすく、加工
時に界面から剥離する現象、いわゆるパウダリングを生
じやすいという問題がある。このため、特開平1-319661
号公報、特開平4-202786号公報などに示されているよう
に、摺動性と耐パウダリング性を両立させる手段とし
て、上層に第二層として硬質のFe系合金を電気めっきな
どのプロセスにより付与する方法が実用化されている。
但し、この方法には製造コストが高いという問題があ
る。
【0005】亜鉛系めっき鋼板使用時のプレス成形性を
向上させるその他の方法としては、高粘度の潤滑油を塗
布する方法が広く用いられている。しかし、この方法で
は、潤滑油が高粘度であるために塗装工程で脱脂不良に
よる塗装欠陥が発生したり、プレス時の油切れによって
プレス性能が不安定になる等の問題が生じる場合があ
る。
【0006】以上の背景から、合金化溶融亜鉛めっき自
体のプレス成形性を改善する技術が強く求められてい
る。そのような合金化溶融亜鉛めっき自体のプレス成形
性を改善する方法の一つとして、めっき層の表面に固体
潤滑作用のある皮膜を形成させる方法が知られている。
例えば、特開昭53-60332号公報や特開平2-190483号公報
には、亜鉛系めっき鋼板の表面に電界処理、浸漬処理、
塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、亜鉛
酸化物を主体とする酸化膜を形成させて溶接性または加
工性を向上させる技術が開示されている。
【0007】特開平4-88196号公報には、亜鉛系めっき
鋼板の表面にリン酸ナトリウム5〜60g/lを含みpH2〜6の
水溶液にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理を行うか、
または、上記水溶液を塗布することにより、P酸化物を
主体とする酸化膜を形成して、プレス成形性及び化成処
理性を向上させる技術が開示されている。
【0008】特開平3-191093号公報には、亜鉛系めっき
鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布処理、塗布酸化
処理、または加熱処理により、Ni酸化物を生成させるこ
とにより、プレス成形性および化成処理性を向上させる
技術が開示されている。
【0009】プレス成形性の改善には、合金化溶融亜鉛
めっき鋼板そのものの表面粗さの制御も重要であること
が知られている。例えば、特開平6-15302号公報には低
粗度の圧延ロールで調質圧延してめっき鋼板の表面粗さ
を調整することにより摺動性を改善する技術が開示され
ている。また、特開2000-64013号公報には、めっき付着
量とめっき層中のFe濃度を限定した上でめっき層の中心
線平均粗さを0.5〜0.8μmの範囲とすることにより、摺
動特性に優れ、パウダリングとスリップ傷の抑制に効果
のある技術が開示されている。特開2000-219948号公報
には、めっき層中のFe濃度とめっき表面の中心線平均粗
さを限定した上で、中心線平均粗さとζ相の存在量の積
で上限規定する方法も開示されている。
【0010】特開2000-160358号公報には、前述の二つ
の技術を複合したもの、即ち、亜鉛系めっき層の上にFe
系酸化物を主体とする酸化膜を形成させ、更にその算術
平均粗さを1.2μm以下とすることによりプレス成形性を
向上させる技術が開示されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の
先行技術を合金化溶融亜鉛めっき鋼板に適用しても、プ
レス成形性の改善効果を安定して得ることはできない。
本発明者らは、その原因について詳細な検討を行った結
果、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に存在するAl酸化
物が表面の反応性を鈍らせていること、および、合金化
反応過程で生じた表面全体の凹凸が主たる原因であるこ
とを見出した。即ち、先行技術を合金化溶融亜鉛めっき
鋼板に適用した場合、表面の反応性が低いため、電解処
理、浸漬処理、塗布酸化処理および加熱処理等を行って
も、所定の皮膜を表面に均一に形成することは困難であ
り、反応性の低い部分、即ち、Al酸化物量が多い部分で
は膜厚が薄くなってしまう。表面の凹凸が大きい合金化
溶融亜鉛めっき鋼板において、プレス成形時にプレス金
型と直接接触する表面の凸部にこのような膜厚の薄い部
分が存在すると摺動抵抗が大きくなり、プレス成形性の
改善効果が十分に得られない。
【0012】先行技術には算術平均粗さRa(もしくは中
心線平均粗さRa、以下Raと記載する)を規定して合金化
溶融亜鉛めっき鋼板表面の摺動特性を改善しようとする
ものも多い。プレス金型と接触するめっき鋼板表面の三
次元形状は摺動性を考える上で重要だが、周知のよう
に、Raは鋼板表面の三次元形状の特徴を十分反映しえな
い。例えば、同一のRaを有する鋼板表面でも、金型と接
触するその凸部の数はこれに限定されることなく様々に
変化しうる。金型と接触する凸部の数が変われば、当
然、各凸部にかかる面圧も変化し、摺動抵抗も変化す
る。従って、Raが摺動性に支配的な影響を及ぼすとは原
理的に考えがたい。
【0013】本発明は、このような事情に鑑みてなされ
たものであり、上記の問題を改善し、プレス成形時の摺
動性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供すること
を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の問
題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、合金化溶融亜
鉛めっき鋼板表面に存在する平坦部の三次元形状を制御
することで、安定して優れたプレス成形性が得られるこ
とを見出した。
【0015】既に述べた通り、プレス金型と接触するめ
っき鋼板表面の三次元形状は摺動性を考える上で大変重
要だが、前述のRaも含めて、従来用いられて来た表面の
粗さパラメータは、触針式の粗さ計で測定した二次元的
な断面曲線(計測線分上での高さ分布)をベースに算出
されたものが殆どであり、必ずしも、実際の三次元表面
の特徴を反映したものになっていない。ましてや、金型
と直接接触する凸部などの、摺動性を考える上で重要な
めっき鋼板表面各部の三次元形状が摺動性にどのような
影響を与えるかといったことは従来全く知られていな
い。
【0016】合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の前記平坦
部は、周囲よりも凸になっている。これは、主に合金化
処理の過程で形成された表層の凸部が鋼板の調質圧延の
過程で調圧ロールに押し込まれてこのような平坦部が形
成されるためである。プレス成形時に実際にプレス金型
と接触するのはこの平坦部が主体となるため、この平坦
部における摺動抵抗を小さくできれば、摺動性を安定化
させてプレス成形性を改善することができる。
【0017】この平坦部の摺動抵抗を小さくするために
は、めっき層と金型との凝着を防ぐのが有効であり、そ
の方法としてめっき層の表面に硬質かつ高融点の皮膜を
形成することが有効であることは既に説明した通りであ
る。しかしながら、プレス油を使用する場合、このよう
な特殊な組成を有する皮膜の固体潤滑作用を利用しなく
ても、前記平坦部でのプレス油の保持性を高めるような
微細な三次元形状を平坦部に形成させることによって、
合金化溶融亜鉛めっき鋼板全体の摺動性を大幅に改善で
きる。ここで言うプレス油は、特定の粘度のものを指し
てはおらず、通常粘度のものでも構わない。尚、形状制
御を基本とするこの方法は、固体潤滑作用を有する前述
の皮膜と組み合わせて使用することも可能である。
【0018】本発明は、以上の知見に基づいてなされた
ものであり、その要旨は以下の通りである。 (1)鉄−亜鉛合金めっき表面における平坦部の流体保
持指標Sviが0.120以上であることを特徴とする合金化溶
融亜鉛めっき鋼板(第1発明)。 (2)鉄−亜鉛合金めっき表面における前記平坦部の面
積率が20〜80%であることを特徴とする前記(1)に記
載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(第2発明)。
【0019】(3)鉄−亜鉛合金めっき層が主としてδ1
相からなり、少なくとも鋼板の片面の鉄−亜鉛合金めっ
き層の表層にζ相が残存することを特徴とする前記
(1)または(2)に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板
(第3発明)。 (4)前記平坦部が亜鉛酸化物を含む酸化物で被覆され
ていることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに
記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(第4発明)。
【0020】
【発明の実施の形態】調質圧延でその頂部が平坦化され
た凸部を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板をプレス油を
使用してプレス成形する場合、この平坦部の流体保持指
標Sviを0.120以上にするように平坦部の三次元形状を制
御することにより、良好なプレス成形性を確保できる。
第1発明で鉄−亜鉛合金めっき表面における平坦部の流
体保持指標Sviを限定するのはそのためである。このよ
うな効果が得られる理由は、プレス成形時に金型と直接
接触する平坦部でプレス油の保持性が向上するためだと
推察される。
【0021】ここで用いる流体保持指標Sviは、欧州で
利用されている三次元パラメータ(Birmingham set of
14 parameters)に属するもので、物理的には測定エリ
ア内の谷部に溜まりうる流体(本発明では、プレス油等
の潤滑油)の量を、平均粗さで規格化した(割り算し
た)ものに相当する。平均粗さで規格化してあるのは、
測定エリアの平均粗さが粗いほどエリア内の谷部に溜ま
る流体の量も増えるという必然的な効果をキャンセル
し、形状がもたらす客観的な流体保持性能を評価するた
めである。具体的には、以下のように定義される。
【0022】
【数1】
【0023】ここでVvは、測定エリア内の谷部の、単位
サンプリング面積あたりの容積で、Sqは下記の式で定義
される測定エリアの二乗平均平方根偏差である。SqはJI
S-B0660:1998、JIS-B0601:2001(ISO4287:1997)に記載
された二次元のRq(粗さ曲線の二乗平均平方根粗さ)を
三次元に拡張したもので、以下のように定義される。
尚、Sq、Rqは共に、高さ分布の標準偏差に相当する。
【0024】
【数2】
【0025】ここで、Lx、Lyはxy面を平均面として縦方
向をz軸とした時のx方向、y方向の測定長さで、z = f
(x,y)は表面形状曲面を表す関数である。これらのパラ
メータの定義の詳細は、例えば、K. J. Stout, W. P. D
ong, L. Blunt, E. Mainsah and P. J. Sullivan“3D S
urface TopogRaphy; Measurement Interpretation andA
pplications, A survey and bibliogRaphy” K. J. Sto
ut 編、Penton Press出版(1994)、“Development of
Methods for the ChaRacterisation of Roughness in T
hree Dimensions”K. J. Stout編、Penton Press出版
(2000)などに開示されている。このような欧州の三次
元指標で規定する理由は、国内では、日本工業規格(JI
S)も含めて、三次元形状評価・三次元粗さ解析を扱う
方法論が未だ確立されていないからである。
【0026】平坦部の三次元形状に関する他のパラメー
タについては特に規定しないが、調質圧延された合金化
溶融亜鉛めっき鋼板では、通常、算術平均粗さSa、二乗
平均平方根偏差Sq、最大粗さStが、それぞれ、2〜6nm、
3〜9nm、30〜90nmの範囲で、本発明品では、Sa、Sq、St
がこれよりも1桁近く大きくなる場合もある。ここで、
SaとStは、JIS-B0660:1998、JIS-B0601:2001(ISO4287:
1997)に記載された二次元のRa(粗さ曲線の算術平均粗
さ)とRy(もしくはRt:粗さ曲線の最大高さ)を三次元
に拡張したものである。尚、本発明で規定する数値はこ
れらの数値も含めて全て平均値である。
【0027】調質圧延によって平坦化された凸部を有す
る合金化溶融亜鉛めっき鋼板をプレス成形する場合、平
坦部の面積率を20〜80%とすることにより、個々の凸部
にかかる金型の面圧を分散させて、摺動特性を改善でき
る。第2発明で平坦部の面積率を限定するのはそのため
である。面積率が20%未満では、平坦部以外の部分と金
型との接触によって押しつぶされる部分が受ける面圧が
大きくなるため、摺動特性の改善を期待できない。ま
た、面積率が80%を超えると、プレス成形時に油切れを
起こしやすくなり、プレス成形性の改善効果が小さくな
る。これは、平坦部を除く部分(調圧ロールの当たらな
い凹部)にプレス油を保持する機能があるためだと推察
される。めっき表面の平坦部は、光学顕微鏡あるいは走
査電子顕微鏡等で観察することにより容易に識別可能
で、その面積率は観察画像を解析することによって求め
られる。
【0028】耐パウダリング性と摺動性の両立には合金
めっき層の層構造の最適化が有効である。既に述べたよ
うに、合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の摺動性を改善す
るには、めっき層の表面に硬質かつ高融点の皮膜を形成
することが効果的で、めっきの結晶構造の観点からは、
表層をδ1単相のめっき皮膜で覆うことが望ましい。し
かしながら、表層を完全にδ1単相で覆うためには、皮
膜中のFe濃度を高める合金化処理を施さなければならな
いため、めっき−鋼板界面に硬くて脆いΓ相が厚く形成
されやすくなり、その結果、パウダリングが発生しやす
くなる。一方、Γ相が厚くならないような合金化処理を
施すと表層に摺動性に劣るζ相が残存しやすくなる。こ
れを第1発明、第2発明で補うことにより、耐パウダリン
グ性と摺動性を両立させることが可能になって、トータ
ルとしてのプレス成形性を向上させることができる。第
3発明で鉄−亜鉛合金めっき層の結晶構造について、主
としてδ1相からなり、少なくとも鋼板の片面の鉄−亜
鉛合金めっき層の表層にζ相が残存することに限定する
のはそのためである。また、プレス成形では、厳しい加
工を受ける側の鋼板面の摺動特性を改善するだけでも相
当な効果が得られる。鋼板の片面だけであっても良いと
するのはそのためである。
【0029】尚、前述の表層にζ相が残存する皮膜と
は、めっき表面を走査電子顕微鏡などで観察した場合
に、ζ相の晶癖(柱状の外観)を示すめっき結晶が占め
る表面の面積率が10%以上の皮膜のことを指す。このよ
うなめっき皮膜を通常のX線回折法で測定した場合、ζ
相に帰属する格子面間隔d=1.90Åのピークの強度の、δ
1相に帰属するd=1.99Åのピークの強度に対する比は0.2
以上になる。但し、ピーク強度はバックグラウンドを含
まないネット強度とする。X線回折法によるこの判定法
は、調質圧延の影響などのために走査電子顕微鏡などで
ζ相の晶癖を利用した判別が困難な場合に、特に有効で
ある。
【0030】第1発明〜第3発明のいずれかの発明におい
て、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の平坦部を亜鉛酸化物を
含む硬質かつ高融点の酸化物で被覆した場合、もしく
は、酸化皮膜自身が第1発明を満足する三次元形状を有
している場合、酸化皮膜の固体潤滑効果も加えた複合的
な改善効果が期待できる。第4発明を規定するのはその
ためである。ここで、亜鉛酸化物を含む酸化物に限定す
るのは、安価なプロセス、あるいは、製造後の経時によ
って、合金化溶融亜鉛めっきの表面に固体潤滑作用に優
れる亜鉛酸化物を含む酸化膜を成長させることが比較的
容易だからである。
【0031】酸化物層の厚さとしては10nm以上あれば改
善効果が認められるが、20nm以上とするとより効果的で
ある。尚、酸化物層の厚さは、Arイオンスパッタリング
を併用したオージェ電子分光法による深さ方向分析や、
集束イオンビームで作成した断面試料の透過電子顕微鏡
観察によって求めることができる。
【0032】本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板を
製造するには、まず、亜鉛めっき浴でめっきし、合金化
処理を行い、更に調質圧延を行う。この際、既に述べた
合金めっき層の層構造の最適化の観点から、めっき浴中
にAlを添加するのが一般的であるが、Al以外の添加元素
成分は特に限定されない。例えば、Alに加えて、Pb、S
b、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有されて
いても、本発明の効果が損なわれるものではない。次い
で調質圧延でめっき層の凸部の頂部を平坦にしてめっき
表面に平坦部を形成する。その際、圧延条件を調整し、
平坦部の面積率を前記で説明した範囲にする。
【0033】次いで、鉄−亜鉛合金めっき表面の平坦部
の流体保持指標Sviを本発明範囲内にする処理を行う。
例えば、調質圧延した合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、硫
酸亜鉛および酢酸ナトリウムを添加した硫酸酸性溶液に
浸漬、水洗、乾燥する方法において、溶液のpH、溶液温
度などを調整することにより、流体保持指標Sviを本発
明で規定する範囲内にする。より好ましい方法は、調質
圧延後の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、上記硫酸酸性水
溶液に短時間浸漬後、所定時間放置した上で水洗、乾燥
する方法である。この方法によれば、放置時間を変える
ことにより、流体保持指標Sviを本発明範囲内に調整す
ることが比較的容易である。この理由は明らかでない
が、放置時間によって亜鉛リッチ部分の優先溶解の程度
や亜鉛酸化物の析出の程度が変化するためだと推察され
る。なお、流体保持指標Sviが本発明範囲内にあるな
ら、その方法は前記方法に限定されない。
【0034】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
る。 [実施例1]まず、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の平坦部の
流体保持指標Sviがめっき鋼板全体の摩擦係数に与える
影響について説明する。 (供試材)表1に示すFe濃度が8.4〜11.2%で、調質圧延
によって平坦部面積率を約50%に揃えた、8種類の合金
化溶融亜鉛めっき鋼板の摩擦係数を測定した。ここで、
供試材1〜4は調質圧延後の合金化溶融亜鉛めっき鋼板
を、硫酸亜鉛:100g/l、酢酸ナトリウム:30g/lを添加
したpH:2.0、液温:40℃の硫酸酸性水溶液に1秒間浸漬
した後、3秒程度放置してから水洗、乾燥させることに
より、流体保持指標Sviを本発明の範囲内に制御したサ
ンプル(発明例)である。また、供試材5〜8はこのよう
な処理を行っていない調質圧延ままの(即ち、通常の)
合金化溶融亜鉛めっき鋼板(比較例)である。
【0035】平坦部面積率およびめっき皮膜中Fe濃度は
以下の方法で測定した。 (平坦部面積率測定)500倍の走査電子顕微鏡像に写っ
た平坦部が視野に占める面積率を画像処理によって求
め、これを5視野に対して繰り返し実施した後、平均し
て求めた。 (めっき皮膜中Fe濃度)めっき層のみを希塩酸で溶解・
剥離した後、溶液を適度に希釈してICP法により求め
た。
【0036】めっき表層のζ相の残存程度の評価には、
既述のX線回折による方法、即ち、以下の方法を用い
た。 (ζ相の残存程度)Cu-Kα線を線源とする広角X線回折
法を用いて、ζ相に帰属する格子面間隔d=1.90Åのピー
クのネット強度の、δ1相に帰属するd=1.99Åのピーク
のネット強度に対する比を求めた。
【0037】三次元形状(流体保持指標Svi)および摩
擦係数は以下の方法で測定した。 (三次元形状測定)エリオニクス社の電子線三次元粗さ
解析装置ERA-8800FEを用いた。測定は加速電圧5kV、WD1
5mmにておこない、測定時の面内方向のサンプリング間
隔は5nmとした。流体保持指標Sviの値は、任意に選択し
た20箇所の平坦部を測定した個々の結果を平均して求め
た。尚、本装置を用いた高さ方向の校正には、米国の国
立研究機関であるNISTにトレーサブルなVLSIスタンダー
ド社の触針式、光学式表面粗さ測定機を対象としたSHS
薄膜段差スタンダード(段差18nm、88nm、450nmの3種)
を用いた。
【0038】(解析ソフト)流体保持指標Sviの算出に
は長岡技術科学大学の柳研究室が開発した三次元表面形
状解析ソフトSUMMITを用いた。電子線三次元粗さ解析装
置を用いて三次元形状を測定する場合、測定中に電子線
照射領域でカーボンコンタミネーションが成長する影響
が測定データに現れる場合があり、特に、測定エリアを
小さくした場合にこの影響が顕著になる。そこで、デー
タ解析にあたっては、平坦部を測定した生データに、測
定エリア長手方向の長さの半分をカットオフ波長とする
Splineハイパスフィルターをかけて、コンタミネーショ
ン成長の影響を除去し、三次元形状パラメータの算出に
供した。
【0039】(摩擦係数測定)図1に摩擦係数測定装置
の概略正面図を示す。供試材から採取した摩擦係数測定
用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可
能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スラ
イドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有す
る上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、
これを押し上げることにより、ビード6による摩擦係数
測定用試料1への押付荷重Nを測定するための第1ロード
セル7が、スライドテーブル支持台5に取り付けられてい
る。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル3
を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定する
ための第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の
端部に取り付けられている。尚、試験は、潤滑油とし
て、日本パーカライジング社製ノックスライト550HNを
試料1の表面に塗布してから行った。
【0040】図2、3に使用したビードの形状・寸法を示
す概略斜視図を示す。ビード6の下面が試料1の表面に押
付けられた状態で摺動する。図2に示すビード6の形状は
幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部
は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられる
ビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有す
る。図3に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向
長さ69mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構
成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺
動方向長さ60mmの平面を有する。
【0041】摩擦係数測定試験は以下に示す2条件で行
った。 (条件1)図2に示すビードを用い、押し付け荷重N:400
kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移
動速度):100cm/minとした。 (条件2)図3に示すビードを用い、押し付け荷重N:400
kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移
動速度):20cm/minとした。 供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ = F / N
から算出した。供試材の内容および測定結果を表1に示
す。
【0042】
【表1】
【0043】流体保持指標Sviと摩擦係数の関係を図4に
示す。金型を想定した摺動ビード下面と直接接触する平
坦部の流体保持指標Sviが増加すると、めっき皮膜中のF
e濃度やζ相の残存程度に関わらず、めっき鋼板表面の
摩擦係数μはほぼ単調に減少する。特に、面圧の低い条
件2ではこの減少幅が顕著である。条件2に較べて、面圧
の高い条件1では摩擦係数の減少幅が小さいが、これ
は、ビードに負荷された高い面圧によって平坦部に形成
されたSviの向上に効く微視的な凹凸形態(以下、表面
テクスチャーと記載する)が押しつぶされる割合が条件
2の場合よりも多いため、即ち、元々の表面テクスチャ
ーに特有のSviの効果が安定して現れにくいためだと推
察される。
【0044】通常の合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の摩
擦係数の下限値は、めっき皮膜中のFe濃度により若干変
化するが、条件1では0.16前後、条件2では0.22前後であ
る。参考的に、条件1の下限値を0.16、条件2の下限値を
0.22として、それぞれ破線で図4中に示した。
【0045】図4から明らかなように、流体保持指標Svi
が第1発明で規定する0.120以上の範囲にある供試材1〜4
の摩擦係数は、前記で説明した通常の合金化溶融亜鉛め
っき鋼板の摩擦係数の下限値を下回り、特に、面圧が低
い条件で大きく減少している。
【0046】[実施例2]板厚0.8mmの冷延鋼板上に、通常
の合金化溶融亜鉛めっき皮膜を形成し、更に調質圧延を
行った。この際、合金化条件を変更することで表層のζ
相比率を変化させ、調質圧延の圧下荷重を変化させるこ
とで、表面における平坦部の面積率を変化させた。
【0047】供試材の一部には、以下に記載する条件で
酸化処理を施して酸化皮膜を形成させた。 (酸化処理方法)合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、硫酸亜
鉛:100g/lおよび酢酸ナトリウム:30g/lを添加したpH:
2.0、液温:40℃の硫酸酸性水溶液に1秒間浸漬した後、
所定時間放置した上で、水洗・乾燥させた。この際、放
置時間を3秒〜60秒の範囲で変化させて、平坦部に形成
される亜鉛酸化物を含む酸化物層の膜厚と流体保持指標
Sviを調整した。
【0048】このようにして得た供試材の平坦部の面積
率、流体保持指標Svi、酸化皮膜の厚さ、摩擦係数を測
定した。流体保持指標Svi、摩擦係数等は実施例1と同様
の方法で測定した。また、酸化皮膜の厚さは下記の方法
で測定した。 (酸化皮膜の厚さ測定方法)Arイオンスパッタリングを
併用したオージェ電子分光法による深さ方向分析から評
価した。評価にあたっては酸素の信号強度が強度プロフ
ァイルの最大値の1/2となる深さを測定し、これを市販
の標準試料(Si基板上に成長させた膜厚既知の酸化皮
膜)を使って求めたスパッタリングレート(約4.5nm/mi
n)で膜厚に換算した。尚、大気中で供試材表面に吸着
したコンタミネーションレイヤーの影響を除去するた
め、測定に際しては30秒間の予備スパッタリングを実施
した。
【0049】尚、酸化皮膜を形成させた供試材の一部
は、電子線三次元粗さ解析装置による表面形状測定の際
に絶縁物層(酸化皮膜)に電荷が溜まる、所謂、チャー
ジアップ現象を引き起こした。そのため、精確な測定を
妨げるチャージアップのひどい一部のサンプルについて
は、事前にAuを数nm程度スパッタコーティングしてか
ら、平坦部の表面形状測定に供した。試材の内容及び測
定結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】表2に示すように、平坦部の流体保持指標S
vi、平坦部面積率が本発明の範囲内にある発明例3〜14
の摩擦係数は、ζ/δ値が高く、皮膜の表層に明らかに
ζ相が存在する場合でも、通常の合金化溶融亜鉛めっき
鋼板(酸化処理を施していない比較例1〜2がこの範疇に
含まれる)の摩擦係数の下限値を下回る。また、平坦部
面積率が本発明範囲を外れる発明例1、2は、平坦部面積
率が本発明範囲内にある発明例に比べるとその改善効果
は幾分少ないが、通常の合金化溶融亜鉛めっき鋼板に比
べると摺動性は優れている。
【0052】これに対して、平坦部の流体保持指標Svi
が本発明の範囲から外れる比較例4、5では、平坦部の酸
化皮膜による摺動性の改善効果は認められるものの、通
常の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の摩擦係数の変動範囲内
での改善に留まっている。
【0053】
【発明の効果】本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、
プレス成形時の摺動抵抗が小さいため、優れたプレス成
形性を示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】摩擦係数測定装置を示す概略正面図。
【図2】図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図。
【図3】図1中の別のビード形状・寸法を示す概略斜視
図。
【図4】平坦部のSviと摩擦係数の関係を示す図。
【符号の説明】
1 摩擦係数測定用試料 2 試料台 3 スライドテーブル 4 ローラ 5 スライドテーブル支持台 6 ビード 7 第1ロードセル 8 第2ロードセル 9 レール N 押付荷重 F 摺動抵抗力 P 引張荷重
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 平 章一郎 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 杉本 芳春 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 櫻井 理孝 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 佐藤 馨 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 Fターム(参考) 4K027 AA02 AA22 AB02 AB07 AB26 AB28 AB36 AB37 AB42 AC73 AC82 AC87 AE25

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 鉄−亜鉛合金めっき表面における平坦部
    の流体保持指標Sviが0.120以上であることを特徴とする
    合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  2. 【請求項2】 鉄−亜鉛合金めっき表面における前記平
    坦部の面積率が20〜80%であることを特徴とする請求項
    1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  3. 【請求項3】 鉄−亜鉛合金めっき層が主としてδ1相か
    らなり、少なくとも鋼板の片面の鉄−亜鉛合金めっき層
    の表層にζ相が残存することを特徴とする請求項1また
    は2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  4. 【請求項4】 前記平坦部が亜鉛酸化物を含む酸化物で
    被覆されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか
    に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
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