JP2003096680A - 退色性が改善された製紙用パルプの製造方法 - Google Patents

退色性が改善された製紙用パルプの製造方法

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JP2003096680A JP2001292837A JP2001292837A JP2003096680A JP 2003096680 A JP2003096680 A JP 2003096680A JP 2001292837 A JP2001292837 A JP 2001292837A JP 2001292837 A JP2001292837 A JP 2001292837A JP 2003096680 A JP2003096680 A JP 2003096680A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 環境負荷の低い退色性が改善された製紙用パ
ルプの製造方法を提供する。 【解決手段】 広葉樹材を蒸解することによって、カッ
パー価が18〜23であり且つヘキセンウロン酸量が3
5〜45mmol/絶乾パルプkgである未漂白パルプ
を得、その後、アルカリ酸素脱リグニン処理を行い、元
素状塩素を使用しない多段漂白工程で漂白処理してIS
O白色度70〜89%、ウロン酸含有量10mmol/
絶乾パルプkg未満の漂白パルプを得ることを特徴とす
る退色性が改善された製紙用パルプの製造方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は製紙用パルプに関
し、更に詳しくは、環境負荷の低い退色性が改善された
製紙用パルプの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、製紙用パルプは、リグノセルロー
ス材料を化学薬品で蒸解後、アルカリ酸素脱リグニンさ
れ、塩素漂白(以下、C漂白と略す)−アルカリ抽出
(以下、E抽出と略す)−次亜塩素酸漂白(以下、H漂
白と略す)−二酸化塩素漂白(以下、D漂白と略す)か
らなるシーケンスで、ISO白色度80%以上のパルプ
として製造されてきた。
【0003】最近、環境問題に優しい産業を目指す製紙
産業において、木材パルプのC漂白がダイオキシン類の
有機塩素系物質を発生させる原因になること、H漂白が
その原因物質であるクロロホルムの排出原因になること
が判明し、C漂白、H漂白などの有機塩素系物質を排出
する元素状塩素を使用しない漂白法(以下、ECF漂白
と略す)が採用されるようになってきている。この漂白
法の代表的シーケンスとしては、D−E−D−D漂白が
挙げられる。しかし、D漂白における二酸化塩素は多量
の電気エネルギーを使用して製造されるため、二酸化塩
素を大量に使用して製造された高白色度のパルプ(通常
ISO白色度90%以上のパルプ)は、環境に優しいパ
ルプとは言えない。二酸化塩素の使用量をできるだけ減
少させ、古紙脱墨パルプより若干高い白色度である、I
SO白色度70〜89%のパルプが環境負荷の少ない製
紙用パルプと言うことができるパルプである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ISO白色度70〜8
9%の製紙用パルプを得ようとする場合、ECF漂白の
代表的なシーケンスであるD−E−D−Dのシーケンス
で漂白すると、D漂白の薬品添加率を比較的低く抑える
ことができ、環境負荷の小さい製紙用木材パルプを製造
可能であるが、このようにして製造された漂白パルプは
長時間保存すると白色度が低下するといった欠点がある
ことが判明した。本発明は、ISO白色度70〜89%
で、環境負荷の比較的小さな製紙用パルプであって、長
期間保存しても退色による白色度低下の少ない製紙用、
特に酸性紙用の木材パルプの製造方法を提供することに
ある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる課
題を解決するため、D−E−D−Dのシーケンスで漂白
した多種類のISO白色度89%以下の製紙用木材パル
プの組成を鋭意分析し、解析したところ、長期保存によ
り白色度が低下するパルプにはヘキセンウロン酸含有量
が多いということを見出した。そして、該製紙用木材パ
ルプを、5時間沸騰水浴中で加熱酸加水分解し、この加
水分解液を、ODSカラムを使用して高速液体クロマト
グラフで分離し定量したところ、ヘキセンウロン酸量が
10mmol/絶乾パルプkg以上含まれていることを
見出した。
【0006】本発明者らは、先に、リグノセルロース物
質を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素漂白
し、その後、多段漂白工程で元素状塩素を使用せずに漂
白処理してなる漂白パルプであって、該漂白パルプの過
マンガン酸カリウム値(JIS P 8206)が1.
5以下であり、かつISO白色度が70〜89%である
退色性の改善された酸性紙用漂白パルプ(特願2001
−073423号明細書)を提案した。またヘキセンウ
ロン酸含有量が10mmol/絶乾パルプkg以下であ
り、かつ、ISO白色度が70〜89%である退色性の
改善された酸性紙用漂白パルプも同時提案した。
【0007】ヘキセンウロン酸を漂白工程で除去する方
法については、酸処理によって除去する方法(特表平1
0−508346号公報)や酸処理とオゾンを組み合わ
せた方法(特開平2000−290887号公報)、酸
性下で過酸化水素とモリブデン酸塩を組み合わせる方法
(特開平2001−192991号公報)等が近年提案
されているが、いずれも、漂白コストが大幅に高くなる
上、設備コストもかなり高くなる。
【0008】また、大量の二酸化塩素を主に初段の二酸
化塩素段へ添加することで、漂白完成パルプのヘキセン
ウロン酸含有量を低減できることも判明しているが、二
酸化塩素の添加量が増加する分だけコストが上がり、環
境負荷も増加する。また、白色度89%以下の製紙用パ
ルプを生産する場合、特に過酸化水素を併用した漂白シ
ーケンスを用いた場合には、二酸化塩素添加量が少なく
てすむが、ヘキセンウロン酸の除去効果が弱い。以上の
ように、これまでのパルプ製造法によっては、環境負荷
の低減と退色性改善という要求を同時に満足させること
は困難であった。
【0009】一方、蒸解工程でのヘキセンウロン酸の挙
動については、これまでにZHI-HUAJIANGらが未漂白パル
プのヘキセンウロン酸含有量は蒸解初期に増加し、蒸解
後期に減少することを報告している(TAPPI JOURNAL, V
ol.83, No.1, 2000,p167-175,Hexenuronic acid grou
ps in pulping and bleaching chemistry )。また、Ca
trin A-S. Gustavssonらは、蒸解温度が高い程、アルカ
リ添加率が多い程ヘキセンウロン酸が減少することを報
告している(Nordic Pulp and Paper Research Journa
l, Vol.15, No.2, 2000, p160-167, The influence of
cooking conditions on the degradation of hexenuron
ic acid, xylan, glucomannan and cellulose during k
raft pulping of softwood)。しかし、漂白完成パルプ
のヘキセンウロン酸含有量との関係は判っておらず、ま
してや蒸解条件が完成パルプの退色性へ与える影響につ
いても全く言及されていない。また、漂白パルプの退色
性を改善する蒸解方法についても明らかにされていなか
った。
【0010】本発明者らは、ヘキセンウロン酸の含有量
が完成パルプの退色性に影響を与えることを見出し、ヘ
キセンウロン酸を蒸解工程で減少させる方法について多
角的に検討した結果、蒸解初期で生成したヘキセンウロ
ン酸を蒸解後期で除去するよりも、蒸解初期にヘキセン
ウロン酸の生成量をできるだけ少なくして、蒸解工程か
ら得られる未漂白パルプのヘキセンウロン酸含有量を少
なくし、その後、アルカリ脱リグニン工程を介して、多
段漂白工程で元素状塩素を使用しない、環境負荷の少な
い漂白処理を施すことにより、完成漂白パルプ中に残留
するヘキセンウロン酸を減少させ、該ヘキセンウロン酸
に起因する退色による白色度の低下を抑え得ることを見
出した。
【0011】上記目的を達成することのできる本発明
は、以下の各発明を包含する。 (1)広葉樹材を蒸解することによって、カッパー価が
18〜23でありかつヘキセンウロン酸量が35〜45
mmol/絶乾パルプkgである未漂白パルプを得、そ
の後、アルカリ酸素脱リグニン処理を行い、元素状塩素
を使用しない多段漂白工程で漂白処理してISO白色度
70〜89%、ヘキセンウロン酸含有量が10mmol
/絶乾パルプkg未満の漂白パルプを得ることを特徴と
する退色性が改善された製紙用パルプの製造方法。
【0012】(2)前記未漂白パルプが、広葉樹材を1
30〜155℃の温度で、アルカリ添加率12〜17質
量%、硫化度20〜30%で蒸解することにより製造さ
れた未漂白パルプであることを特徴とする(1)項記載
の退色性が改善された製紙用パルプの製造方法。
【0013】(3)前記(1)項又は(2)項記載の方
法によって製造されたISO白色度70〜89%でヘキ
センウロン酸含有量が10mmol/絶乾パルプkg未
満の退色性が改善された製紙用パルプを主パルプ成分と
する酸性紙。
【0014】
【発明の実施形態】本発明において、未漂白パルプ及び
漂白パルプにおける「ヘキセンウロン酸含有量」とは、
未漂白パルプや漂白パルプを5時間加熱酸加水分解し、
その液をODSカラム(シリカゲル担体にオクタデシル
シリル基を化学結合した充填剤が詰められたカラム)を
用いて高速液体クロマトグラフで分離、定量して得られ
るヘキセンウロン酸の量を意味する。
【0015】本発明で用いられる広葉樹材は、特に限定
するものではなく、植物学分類上、広葉樹と見なされる
ものであれば、ユーカリ、オーク、アカシア、ビーチ、
タンオーク、オルダー等、如何なるものでも良い。本発
明に使用される未漂白パルプを得るための蒸解法として
は、クラフト蒸解、ポリサルファイド蒸解、ソーダ蒸
解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用い
ることができるが、パルプ品質、エネルギー効率等を考
慮すると、クラフト蒸解法が好適に用いられる。
【0016】例えば、木材をクラフト蒸解する場合、ク
ラフト蒸解液の硫化度は5〜75%、好ましくは20〜
30%であり、有効アルカリ添加率は絶乾木材質量当た
り5〜30質量%、好ましくは12〜17質量%であ
り、蒸解温度は120〜170℃、好ましくは130〜
155℃であり、蒸解方式は、連続蒸解法あるいはバッ
チ蒸解法のどちらでも良く、連続蒸解釜を用いる場合
は、蒸解液を多点で添加する修正蒸解法でも良く、その
方式は特に問わない。
【0017】蒸解に際して、使用する蒸解液に蒸解助剤
として、公知の環状ケト化合物、例えばベンゾキノン、
ナフトキノン、アントラキノン、アントロン、フェナン
トロキノン及び前記キノン系化合物のアルキル、アミノ
等の核置換体、あるいは前記キノン系化合物の還元型で
あるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合
物、さらにはディールスアルダー法によるアントラキノ
ン合成法の中間体として得られる安定な化合物である
9,10−ジケトヒドロアントラセン化合物等から選ば
れた1種あるいは2種以上が添加されても良く、その添
加率は木材チップの絶乾質量当たり0.001〜1.0
質量%である。
【0018】本発明では、公知の蒸解法により得られた
未漂白化学パルプは、洗浄、粗選及び精選工程を経て、
公知のアルカリ酸素漂白法により脱リグニンされる。本
発明に使用されるアルカリ酸素漂白法は、公知の中濃度
法あるいは高濃度法がそのまま適用できるが、現在汎用
的に用いられているパルプ濃度が8〜15質量%で行わ
れる中濃度法が好ましい。
【0019】前記中濃度法によるアルカリ酸素漂白法に
おいて、アルカリとしては苛性ソーダあるいは酸化され
たクラフト白液を使用することができ、酸素ガスとして
は、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Ad
sorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorpti
on)からの酸素等が使用できる。前記酸素ガスとアルカ
リは中濃度ミキサーにおいて中濃度のパルプスラリーに
添加され混合が十分に行われた後、加圧下でパルプ、酸
素及びアルカリの混合物を一定時間保持できる反応塔へ
送られ、脱リグニンされる。
【0020】酸素ガスの添加率は、絶乾パルプ質量当た
り0.5〜3質量%、アルカリ添加率は0.5〜4質量
%、反応温度は80〜120℃、反応時間は15〜10
0分、パルプ濃度は8〜15質量%であり、この他の条
件は公知のものが適用できる。本発明では、アルカリ酸
素漂白工程において、上記アルカリ酸素漂白を連続して
複数回行い、できる限り脱リグニンを進めるのが好まし
い実施形態である。アルカリ酸素漂白が施されたパルプ
は次いで洗浄工程へ送られる。パルプは洗浄後、多段漂
白工程へ送られる。
【0021】本発明においては、アルカリ酸素漂白後
に、酵素処理工程を設けることも可能である。前記酵素
処理工程で使用される酵素は、パルプと反応させること
により、JIS P 8206で測定されるパルプの過
マンガン酸カリウム価が低下するものであれば、いかな
る酵素でも良い。例えば、キシラナーゼ、リグニンパー
オキシダーゼ、マンガンパーオキシダーゼ、ラッカーゼ
等が知られいるが、勿論これらの酵素でも良く、未だ知
られていない酵素でも該当する酵素であれば良いことは
言うまでもない。また、これらの酵素は単独で用いても
良く、あるいは複合、混合して、さらには複数回に分け
て使用することもできる。これらの酵素のうち、キシラ
ナーゼと呼ばれるキシラン分解酵素は、漂白促進効果も
同時に有しており、好適に用いられる。
【0022】酵素処理工程においては、パルプ濃度は1
〜30質量%の範囲で行われる。パルプ濃度が1質量%
未満では、処理に大容量の設備を要するので適さない。
パルプ濃度が30質量%を超えると、パルプと酵素ある
いは培養物を均一に混合する点で問題が生じるので適さ
ない。
【0023】処理温度は10〜90℃の範囲であるが、
酵素の至適温度に近い処理温度がより好ましい。一般的
な酵素の場合、処理温度が10℃未満では反応が不十分
となる上、そのような温度を得ること自体に多大のコス
トを要するので適さない。一方、温度が90℃を超えて
高くなると、処理系を密閉化しないと熱ロスが大きくな
る上、一般的な酵素の場合、酵素自体が変性し、不活性
になるので適さない。
【0024】処理時の溶液pHは3〜10の範囲である
が、酵素の至適pHに近いpHがより好ましい。pHの
調整が必要な場合は、任意の酸性溶液又はアルカリ性溶
液を添加して調整することができる。前記のpH調整用
に用いられる溶液は、多段漂白シーケンスからの排水を
利用できることは言うまでもない。処理時間は、10分
以上であるが、時間については特に限定されない。
【0025】酵素処理は、複数回行うこともできる。同
一酵素を用いて複数回酵素処理を行うこともできるし、
複数の酵素を用いて複数回酵素処理を行うこともでき
る。また、本発明の酵素処理は、既設あるいは新設を問
わず、反応塔、タンク、チェスト等の容器内で実施する
ことができる。また、耐圧容器内においては加圧状態で
の処理も可能である。酵素処理工程の終了後、パルプの
洗浄がなされ、洗浄されたパルプは多段漂白工程へと送
られる。
【0026】本発明においては、アルカリ酸素漂白工程
後、あるいは前記酵素処理工程後に、酸処理工程を設け
ることも可能である。また、特開平10−251986
号公報、特開平10−298886号公報に記載のよう
に、酸素及び/又は窒素加圧下で行っても構わない。更
に酸性下で過酸化水素を併用しても良い。酸処理工程の
終了後、パルプの洗浄がなされ、洗浄されたパルプは多
段漂白工程へと送られる。
【0027】多段漂白処理工程では、必ず初段は二酸化
塩素漂白段(D)、二段目にはアルカリ抽出段(E)が
用いられる。本発明の初段の二酸化塩素漂白段に用いら
れる二酸化塩素は、当業者にとって公知の多くの二酸化
塩素発生法より得られる二酸化塩素から選ぶことができ
るが、好適には、塩素を副生しない発生法から得られる
二酸化塩素が用いられる。本発明の初段の二酸化塩素段
でのpHは2〜6であり、pHを調整するために任意の
酸又はアルカリを補助的に添加することも可能である。
また、二酸化塩素処理時間、処理温度、パルプ濃度等の
その他の二酸化塩素漂白条件は、全て公知の条件を使用
することができる。
【0028】本発明の二酸化塩素漂白段に続くアルカリ
抽出段では、当業者にとって公知の多くのアルカリ化合
物から選ぶことができるが、苛性ソーダが最も使用しや
すく、好適に使用される。本発明のアルカリ抽出段で
は、酸素及び/又は過酸化水素を併用することもでき
る。アルカリ抽出処理時間、処理温度、パルプ濃度等の
その他のアルカリ抽出条件は、全て公知の条件を使用す
ることができる。
【0029】本発明の多段漂白工程で用いられる、二酸
化塩素漂白段、アルカリ抽出段に続く3段目以降の漂白
段では、塩素及び次亜塩素酸塩以外の漂白薬品であれば
如何なる漂白薬品を用いても良いが、二酸化塩素、過酸
化水素、オゾン、過酸、等の一般的な漂白薬品が好適に
用いられる。3段目以降の段数も特に限定されるわけで
はないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合
計で3段あるいは4段で終了するのが好適である。
【0030】本発明に用いられる漂白薬品としては、塩
素及び次亜塩素酸塩を除く、二酸化塩素(D)、アルカ
リ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン
(Z)、有機過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を挙げる
ことができる。また、本発明における多段漂白処理工程
での漂白シーケンスとして、例えば、D−E/O−D、
D−E/O−P−D、 D−E/O−D−D、D−E/
O−D−P、D−E/OP−D、D−E/O−Z−D、
Z−E/O−D、Z−E/OP−D、Z−E/OP−D
−P、Z−E/OP−P−D、Z−D−E/O−D、Z
−D−E/OP−D、Z/D−E/O−D、Z/D−E
/OP−D等を挙げることができる。また、多段漂白工
程中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエ
チレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレ
ート剤処理段を挿入しても良い。
【0031】
【実施例】以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を
より具体的に説明するが、勿論本発明はこれらの実施例
に限定されるものではない。以下に示す実施例1〜3
は、ヘキセンウロン酸を減少させることを目的とした蒸
解方法で蒸解することにより製造された未漂白広葉樹ク
ラフトパルプを酸素脱リグニン処理し、D−E/O−P
−Dシーケンスで漂白を行ったものである。また、特に
示さない限り、カッパー価の測定、過マンガン酸カリウ
ム価の測定、パルプ白色度の測定、パルプの退色性の評
価はそれぞれ以下の方法で行った。なお、実施例及び比
較例における薬品の添加率は絶乾パルプ質量当たりの質
量%を示す。
【0032】1.パルプのカッパー価の測定 カッパー価の測定は、JIS P 8211に準じて行
った。
【0033】2.パルプのヘキセンウロン酸含有量の定
量 500mlのSUS製容器に十分にイオン交換水で洗浄
したパルプを絶乾パルプ5g量り取って入れ、蟻酸−蟻
酸ナトリウムバッファー10mmol/l溶液を用いて
トータル300mlとした。その後、SUS製容器内を
窒素ガスで置換し、油恒温槽内で、110℃、5時間処
理した。SUS容器を流水冷却後、処理後のパルプ懸濁
液を洗浄液を含めて500mlにメスアップした後、ろ
過して、ろ液を資生堂社製ODSカラムを用いてHPL
C(高速液体クロマトグラフィー)にて分析し、2−f
uroic acidと5―carboxy−2−fu
raldehydeを定量した。定量に際し、算出式、
参考文献は、以下のものを使用した。
【0034】算出式:(各サンプル20μlの濃度)=
a、b(ng/μl)とした。 1)5―carboxy−2−furaldehyde
量(mmol/kg)=b×(500/1000)/
(10×10−3)/140.1 2)ヘキセンウロン酸含有量(mmol/l)=2−f
uroic acid量+5―carboxy−2−f
uraldehyde量
【0035】(参考文献):著者 Vuorinen,T. Selective hydrolysis of hexenuronic acid grou
ps and its application in ECF and TCF blea
ching of kraft pulps International Pulp Bleaching Conference,April
14-18,1996,P43-51
【0036】3.白色度測定用パルプシートの作成方法 漂白パルプを離解後、パルプスラリーに硫酸バンドを対
パルプ3.0%加え、Tappi試験法T205os−
71(JIS P 8209)に従って坪量60g/m
2のシートを作製した。
【0037】4.パルプ白色度の測定 JIS P 8123に従ってパルプのISO白色度を
測定した。
【0038】5.パルプの退色性評価 白色度測定用パルプシートを80℃、相対湿度65%の
条件下で、48時間退色させ、退色前後のパルプ白色度
から下式に従いPC価を算出し、評価した。 PC価=(1−退色後白色度)2/2/退色後白色度−
(1−退色前白色度)2/2/退色前白色度
【0039】実施例1 蒸解:国内産広葉樹30%とユーカリ材70%からなる
広葉樹混合木材チップを絶乾900g採取し、液比5、
絶乾チップ質量当たり活性アルカリ14%、蒸解液の硫
化度28%、蒸解温度150℃、蒸解時間150分の条
件下で実験用間接加熱用オートクレーブを用いてクラフ
ト蒸解し、その後廃液とパルプを分離し、パルプを10
カットのスクリーンプレートを備えたフラットスクリー
ンで精選してISO白色度31.1%、カッパー価2
2.9の広葉樹未漂白クラフトパルプを絶乾447g得
た。得られたパルプを5時間酸加水分解処理し、ヘキセ
ンウロン酸含有量を測定した。蒸解条件、カッパー価、
ヘキセンウロン酸(以下HexAと略す)含有量をまとめて
表1に示す。
【0040】酸素脱リグニン:前記広葉樹未漂白クラフ
トパルプ絶乾質量90.0gを採取し、絶乾パルプ質量
当たり苛性ソーダを1.5%添加し、次いでイオン交換
水で希釈してパルプ濃度を10%に調整し、間接加熱式
オートクレーブに入れ、ゲージ圧が5kg/cm
2(0.49MPa)となるように純度が99.9%の
市販の圧縮酸素ガスで加圧し、温度100℃で60分間
加熱し、中濃度法によりアルカリ酸素漂白を行った。得
られたパルプをイオン交換水で洗浄し、パルプ濃度30
%まで脱水濃縮を行った(以下脱水とは30%まで脱水
濃縮することを示す)。
【0041】D1段(二酸化塩素処理段):アルカリ酸
素脱リグニン段後のパルプをプラスチック袋に入れ、イ
オン交換水を用いてパルプ濃度を14%に調整した後、
二酸化塩素を絶乾パルプに対して二酸化塩素換算で1.
2%添加し、パルプ濃度を10%に調整し、70℃で3
0分間処理した。反応終了後、得られたパルプについて
イオン交換水で洗浄し、脱水した。
【0042】E/O段(アルカリ抽出段):D1段後の
パルプをプラスチック袋に入れ、イオン交換水を用いて
パルプ濃度を10%に調整した後、絶乾パルプ質量当た
り苛性ソーダを1.2%添加し、ステンレス製2リット
ル容の間接加熱式オートクレーブに入れ、ゲージ圧が
0.15MPaとなるように純度が99.9%の市販の
圧縮酸素ガスで加圧し、70℃で20分間反応させた。
その後、パルプスラリーをオートクレーブから取り出
し、プラスチック袋に移した後、D1段と同様に70℃
で70分間処理し、E/O段の抽出を行った。得られた
パルプをイオン交換水で洗浄、脱水した。
【0043】P段(過酸化水素処理段):E/O段後の
パルプ濃度を14%に調整したパルプに苛性ソーダを絶
乾パルプ質量に対して0.45%、過酸化水素を過酸化
水素換算で0.4%添加し、パルプ濃度を10%に調整
し、65℃で120分間処理した。反応終了後、得られ
たパルプについてイオン交換水で洗浄し、脱水した。
【0044】D2段(第二二酸化塩素処理段):P段後
のパルプ濃度を14%に調整したパルプに二酸化塩素を
絶乾パルプ質量に対して二酸化塩素換算で0.2%添加
し、パルプ濃度を10%に調整し、70℃で180分間
処理した。反応終了後、得られたパルプについてイオン
交換水で洗浄し、漂白完成パルプを得た。このパルプの
ISO白色度は86.1%であった。得られたパルプの
白色度、ヘキセンウロン酸含有量、及びこの漂白パルプ
から製造した漂白パルプシートの48時間後のPC価を
測定し、表2に示した。
【0045】実施例2 蒸解温度が155℃で、活性アルカリ添加率が16.0
%、硫化度が24.0%であること以外は実施例1と同
様の処理を行い、ISO白色度36.1%、カッパー価
18.1の広葉樹未漂白クラフトパルプを得た。得られ
た広葉樹未漂白クラフトパルプをD1段の二酸化塩素添
加率を0.90%にする以外は実施例1と同様の処理を
行い漂白完成パルプを得た。多段漂白後のパルプのIS
O白色度は86.0%であった。
【0046】実施例3 蒸解温度が140℃で、活性アルカリ添加率が16.5
%、硫化度が25.0%であること以外は実施例1と同
様の処理を行い、ISO白色度32.3%、カッパー価
18.5の広葉樹未漂白クラフトパルプを得た。得られ
た広葉樹未漂白クラフトパルプをD1段の二酸化塩素添
加率を1.00%にする以外は実施例1と同様の処理を
行い漂白完成パルプを得た。多段漂白後のパルプのIS
O白色度は86.0%であった。
【0047】比較例1 蒸解温度が170℃で、活性アルカリ添加率が22.0
%、蒸解時間が45分であること以外は実施例1と同様
の処理を行い、ISO白色度35.9%、カッパー価1
6.0の広葉樹未漂白クラフトパルプを得た。得られた
広葉樹未漂白クラフトパルプをD1段の二酸化塩素添加
率を0.82%とした以外は実施例1と同様の処理を行
い漂白完成パルプを得た。多段漂白後のパルプのISO
白色度は86.2%であった。
【0048】比較例2 蒸解温度が155℃活性で、アルカリ添加率が16.0
%で、硫化度が32.0であること以外は実施例1と同
様の処理を行い、ISO白色度35.5%、カッパー価
16.5の広葉樹未漂白クラフトパルプを得た。得られ
た広葉樹未漂白クラフトパルプをD1段の二酸化塩素添
加率を0.84%とした以外は実施例1と同様の処理を
行い漂白完成パルプを得た。多段漂白後のパルプのIS
O白色度は85.9%であった。
【0049】比較例3 蒸解温度が155℃活性で、活性アルカリ添加率が2
2.0%であること以外は実施例1と同様の処理を行
い、ISO白色度37.7%、カッパー価13.4の広
葉樹未漂白クラフトパルプを得た。得られた広葉樹未漂
白クラフトパルプをD1段の二酸化塩素添加率を0.6
5%とした以外は実施例1と同様の処理を行い漂白完成
パルプを得た。多段漂白後のパルプのISO白色度は8
5.8%であった。
【0050】実施例1〜3及び比較例1〜3で用いた蒸
解条件と未漂白パルプの性質を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】実施例1〜3及び比較例1〜3により得ら
れた漂白完成パルプの性質を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】表2の実施例1〜3と比較例1〜3との比
較から明らかなように、比較例1〜3の一般的な蒸解方
法で製造された製紙用パルプの場合は、ヘキセンウロン
酸含有量が多く、その結果PC価も高く、パルプの退色
性が悪い。また実施例1〜3に示すように蒸解工程でヘ
キセンウロン酸の生成を抑制したものは比較例と同等の
白色度であっても、漂白完成パルプ中のヘキセンウロン
酸含有量が少なく、PC価も低く、パルプの退色性も良
いので長期保存性が優れていると言える。
【0055】
【発明の効果】広葉樹材を蒸解して得られる未漂白パル
プをアルカリ酸素漂白し、その後、元素状塩素、次亜塩
素酸塩を用いない多段漂白工程で処理してなる漂白完成
パルプにおいて、広葉樹未漂白パルプのヘキセンウロン
酸含有量が35〜45mmol/絶乾パルプkgであ
り、カッパー価が18〜23であり、かつISO白色度
を70〜89%とすることで、退色性が著しく改善され
ている環境負荷の低い漂白パルプを提供することが可能
となった。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 五十嵐 英夫 東京都江東区東雲一丁目10番6号 王子製 紙株式会社東雲研究センター内 (72)発明者 大門 宏行 東京都江東区東雲一丁目10番6号 王子製 紙株式会社東雲研究センター内 (72)発明者 香川 仁志 愛知県春日井市王子町1番地 王子製紙株 式会社春日井工場内 Fターム(参考) 4L055 AA03 AC06 AD02 AD05 BA20 BB13 BB15 EA02 EA20 EA32 EA40 FA12

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 広葉樹材を蒸解することによって、カッ
    パー価が18〜23でありかつヘキセンウロン酸量が3
    5〜45mmol/絶乾パルプkgである未漂白パルプ
    を得、その後、アルカリ酸素脱リグニン処理を行い、元
    素状塩素を使用しない多段漂白工程で漂白処理してIS
    O白色度70〜89%、ヘキセンウロン酸含有量が10
    mmol/絶乾パルプkg未満の漂白パルプを得ること
    を特徴とする退色性が改善された製紙用パルプの製造方
    法。
  2. 【請求項2】 前記未漂白パルプが、広葉樹材を130
    〜155℃の温度で、アルカリ添加率12〜17質量
    %、硫化度20〜30%で蒸解することにより製造され
    た未漂白パルプであることを特徴とする請求項1記載の
    退色性が改善された製紙用パルプの製造方法。
  3. 【請求項3】 請求項1又は2に記載の製紙用パルプの
    製造方法によって製造されたパルプを主パルプ成分とす
    る酸性紙。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2007169831A (ja) * 2005-12-22 2007-07-05 Mitsubishi Gas Chem Co Inc 化学パルプの製造方法
JP2013181258A (ja) * 2012-03-01 2013-09-12 Nippon Paper Industries Co Ltd パルプの製造方法

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