JP2002521582A - ポリエーテルイミド繊維複合材料の製造方法 - Google Patents

ポリエーテルイミド繊維複合材料の製造方法

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Abstract

(57)【要約】 ポリエーテルイミド樹脂、中和剤、共溶媒、溶媒、開環剤及び水からなる安定なエマルジョンを使用する繊維ポリエーテルイミド複合材料を形成するための泳動電着プロセス。繊維とアノードをエマルジョン中に入れ、電流を流す。ポリエーテルイミドは繊維を被覆する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の分野】
本発明は、ポリエーテルイミド繊維組成物に関するものであり、具体的には泳
動電着方法で製造されるポリエーテルイミド繊維組成物に関する。
【0002】
【関連技術の簡単な説明】
ポリエーテルイミド樹脂は、アニオン電着を始めとする各種技術を利用して基
材に適用されている。一般に、アニオン電着(アノード電着ともいわれる)では
、樹脂Rとイオン形成基(例えば−COOH)が化学的に結合して酸性樹脂RC
OOHを形成し、これが塩基と反応してアノード析出用マクロイオンRCOO-
を形成する。基本的に、フィルム形成性マクロイオン(RCOO-)と対イオン
(Y+)の水性分散液中に挿入した2つの電極により、水不溶性の樹脂(RCO
OH)が陽極(アノード)上に析出し、水溶性YOHが負極(カソード)上に形
成される。このプロセスの際、基材から遊離した金属イオンがポリアニオンの沈
殿を速める。
【0003】
【化6】
【0004】 式中、RCOOHは樹脂、YOHは外部可溶化剤、RCOO-はフィルム形成
性マクロイオン、Y+は対イオンである。電極反応は次の通りである。
【0005】
【化7】
【0006】 このプロセスの欠点は、金属基材の溶解、防蝕のための前処理が必要であるこ
と、金属イオンに起因する変色、さらには消費されずに残ったカルボキシル基(
−COOH)に起因するアルカリ感受性まで多岐にわたる。
【0007】 アノード電着とは異なり、カソード電着では、基材の溶解がなく、着色がなく
、しかも良好なアルカリ耐性を有する製品が得られる。このプロセスではポリカ
チオンを使用し、通例、酸水溶液と次の電極反応を利用して第三級アミン(NR 3 )をカチオン(NR4 +)へと変換する。
【0008】
【化8】
【0009】 式中、R3Nは水不溶性オリゴマー、HXは外部可溶化剤、R3NH+はフィルム
形成性マクロイオン、Xは対イオンである。
【0010】 カソード電着はアノード電着の問題の幾つかを解決するが、このプロセスは、
エマルジョン安定性が悪く、貯蔵能が限られ、溶媒毒性と刺激臭があり、つきま
わり性(throwing power)が低く、すなわち塗膜が基材の隔たった領域を所望の厚
さで均一に被覆する能力に乏しく、そのため層厚さの一様性が限定されるため、
ポリエーテルイミド組成物に対して商業的には実行できない。
【0011】 カソード電着ではアノード電着の問題の幾つかが解決されるが、このプロセス
は、ポリエーテルイミド組成物については、エマルジョン安定性が悪く、貯蔵安
定性に乏しく、溶媒毒性と刺激臭があり、つきまわり性(throwing power;すな
わち基材の隔たった箇所でも塗膜が所望の厚さで均一に付着する能力)に乏しく
、そのため塗膜厚みにバラツキが生じるので、工業的実施性に欠ける。
【0012】 繊維部材の塗装プロセス、特にポリエーテルイミドを用いた塗装プロセスは、
形状の複雑なもの、すなわち中空又は複雑な基材ではことのほか難しいことが実
証されている。複雑な部材及び中空部材は、実質的にボイドのない複合材料が得
られるように繊維を完全に含浸することが必要とされ、完全な含浸は低粘度ポリ
マーでしか達成できないので、ガラス温度の高い熱硬化性材料(例えば不飽和ポ
リエステルやエポキシ樹脂)に基づくのが通例である。しかし、熱硬化系は脆性
であること、部材の損傷許容性が低いこと及びリサイクル上の制約のため、産業
界は製造要件の厳しい熱可塑性材料を利用することが迫られている。そこで、ポ
リエーテルイミド炭素繊維複合材料を製造するための従来法は規則的な二次元表
面に限られていた。さらに、これらの従来法、すなわち溶融法、乾燥粉末法及び
溶液法では、毒性をもつかさもなければ環境に有害な化学品を用いたり、経費の
かさむ二次的作業や長いサイクル時間を要するプロセスを用いている。
【0013】 溶融法は、クロスヘッド押出機を用いて溶融熱可塑性材料をダイに供給しなが
らダイに繊維を通すか、或いは又は繊維を溶融材料浴に通すとによって溶融熱可
塑性材料を繊維に塗布することからなる。この方法の欠点としては、加工処理時
に繊維に加わる力で繊維が損傷すること、並びに少量での含浸及びきつく張った
繊維に均一に含浸することが難しいことが挙げられる。
【0014】 乾燥粉末法は、粒度の非常に細かい熱可塑性材料を繊維中に焼結させる。この
方法では、十分に小さいポリマー粒子を得るために長いサイクル時間と粉砕など
の経費のかさむ二次的作業が必要とされる。
【0015】 溶液法では、熱可塑性ポリマーの低粘度溶液を繊維に含浸させる。この方法で
は、複合材料の固化の際にリサイクルすべき揮発性溶媒がボイドを生じるおそれ
がある。
【0016】 溶融法、乾燥粉末法及び溶液法では、繊維を熱可塑性ポリマーで被覆してプレ
プレグとしたら、このプレプレグを、真空/圧空成形、ハイドロフォーミング、
スタンプ成形又はオートクレーブ成形などの通常の熱成形法を用いて複雑な形状
へと変える。
【0017】 プレプレグ及び複合材料の各種製造プロセスの詳細な概説は、Plastic
s, Rubber and Composites. Processing
and Applications, vol.23, No.5, 199
5, pp.279−293のM.Hou, Lin Ye及びYiu−Win
g Mayの報文及びその引用文献に記載されている。M.Houらは、Jou
rnal of Reinforced Plastics and Comp
osites, Vol.15, p.117, 1996に“Carbon
Fiber Polyetherimide Composites(炭素繊維
ポリエーテルイミド複合材料)”の特性に及ぼす加工処理の影響についての結果
も報告している。
【0018】 当技術分野では、複雑な形状の繊維強化ポリエーテルイミド複合材料を製造す
るための、コストパフォーマンスに優れ、簡単で環境に優しい方法である。
【0019】
【発明の概要】
本発明は、ポリエーテルイミドで被覆された繊維を製造するための泳動電着法
に関する。この方法は、無水物基を有するポリエーテルイミド樹脂を溶媒及び実
質的に水不溶性の共溶媒に分散させ、開環剤を上記無水物基と反応させてアミン
基を形成し、アミン基を中和剤で中和して第四級化混合物を形成し、第四級化混
合物に水を添加してポリエーテルイミドエマルジョンを形成することによってポ
リエーテルイミドエマルジョンを形成し、エマルジョン中にアノードを挿入し、
エマルジョン中にカソードとして機能する繊維プリフォームからなる繊維を挿入
し、エマルジョンに電流を流し、ポリエーテルイミドカチオンを生じさせ、ポリ
エーテルイミドカチオンをカソードで反応させて繊維を被覆するポリエーテルイ
ミド種を形成することを含んでなる。
【0020】
【発明の詳しい説明】
好ましい実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂、開環剤、中和剤、溶媒、共
溶媒及び水からなるポリエーテルイミドエマルジョン中で電気泳動的に繊維を被
覆する。この塗装プロセスは、ポリエーテルイミドを溶媒に溶解し、共溶媒を加
え、無水物基を開環剤で開環し、アミン基を中和剤で第四級化し、最後に水を加
えて水性ポリエーテルイミドエマルジョンを形成することを含んでいる。次に、
繊維とアノードをエマルジョン中に入れ、電流を流すと、ポリエーテルイミドが
反応して繊維を被覆する。
【0021】 エマルジョンは、約10体積%(vol%)以下のポリエーテルイミド樹脂、
約5vol%以下の開環剤、約5vol%以下の中和剤、約20vol%以下の
溶媒、約20vol%以下の共溶媒及び残部の水からなり、約3〜約8vol%
のポリエーテルイミド樹脂、約0.2〜約3vol%の開環剤、約0.3〜約3
.5vol%の中和剤、約8〜約15vol%の溶媒、約9〜約15vol%の
共溶媒及び残部の水からなるのが好ましく、約4〜約7vol%のポリエーテル
イミド樹脂、約0.5〜約1.5vol%の開環剤、約0.5〜約2vol%の
中和剤、約10〜約13vol%の溶媒、約10〜約12.5vol%の共溶媒
及び残部の水からなるのが特に好ましい。
【0022】 本発明のエマルジョンのポリエーテルイミド樹脂成分として使用するのに好適
なポリエーテルイミド樹脂は公知の化合物であり、その製造及び性質は例えば米
国特許第3803085号及び同第3905942号などに記載されている。な
お、これらの米国特許の開示内容は援用によって本明細書に取り込まれる。
【0023】 好ましい実施形態では、本発明のポリエーテルイミド樹脂成分は次の式(I)
の構造単位を2〜1000もしくはそれ以上、好ましくは10〜1000含んで
いる。
【0024】
【化9】
【0025】 式中、二価基Tは式(I)の各アリールイミド部分のアリール環の3,3′位、
3,4′位、4,3′位又は4,4′位を橋かけするもので、Tは−O−又は式
−O−Z−O−の基であり、Zは次の式(II)
【0026】
【化10】
【0027】 からなる群から選択される二価基であり、Xは次の式(III)
【0028】
【化11】
【0029】 の二価基からなる群から選択されるものであり、yは1〜約5の整数であり、q
は0又は1であり、Rは(a)炭素原子数6〜約20の芳香族炭化水素基及びそ
のハロゲン化誘導体、(b)炭素原子数2〜約20のアルキレン基、(c)炭素
原子数3〜約20のシクロアルキレン基、及び(d)次の一般式(IV)
【0030】
【化12】
【0031】 の二価基からなる群から選択される二価有機基であって、Qは式(V)
【0032】
【化13】
【0033】 からなる群から選択されるものであり、y′は約1〜約5の整数である。
【0034】 ある実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂は上記のエーテルイミド単位に加
えてさらに次の式(VI)のポリイミド繰返し単位を含む共重合体であってもよい
【0035】
【化14】
【0036】 式中、Rは上記の式(I)で定義した通りであり、Mは次式(VII)、(VIII)
及び(IX)からなる群から選択される。
【0037】
【化15】
【0038】
【化16】
【0039】
【化17】
【0040】 ポリエーテルイミド樹脂は、例えば米国特許第3847867号、同第381
4869号、同第3850885号、同第3852242号、同第385517
8号及び同第3983093号に開示されているような公知の方法で製造される
。これらの米国特許の開示内容は援用によって本明細書に取り込まれる。
【0041】 好ましい実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂は、下記の式(X)の芳香族
ビス(エーテル無水物)と下記の式(XI)の有機ジアミンとの反応で合成される
【0042】
【化18】
【0043】 (XI) H2N−R−NH2 式中、T及びRは上記の式(I)で定義した通りである。一般に、反応はo−
ジクロロベンゼン、m−クレゾール/トルエンなどの周知の溶剤を用いて約10
0℃〜約250℃の温度で式(X)の無水物と式(XI)のジアミンとを相互作用
させることで実施できる。
【0044】 別法として、ポリエーテルイミド樹脂は芳香族ビス(エーテル無水物)とジア
ミンとの溶融重合によっても製造でき、成分混合物を攪拌しながら高温で加熱す
ることによってなされる。一般に溶融重合では約200℃〜400℃の温度を用
いる。反応に連鎖停止剤及び枝分れ剤を使用してもよい。
【0045】 具体的な芳香族ビス(エーテル無水物)と有機ジアミンは、例えば米国特許第
3972902号及び同第4455410号に開示されており、その開示内容は
援用によって本明細書に取り込まれる。
【0046】 式(X)の芳香族ビス(エーテル無水物)の具体例には、2,2−ビス(4−
(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン二無水物、4,4′−
ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4,4
′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、
4,4′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、
4,4′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水
物、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパ
ン二無水物、4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエ
ーテル二無水物、4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニ
ルスルフィド二無水物、4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ベ
ンゾフェノン二無水物、4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジ
フェニルスルホン二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−
(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル−2,2−プロパン二無水物、
4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェ
ノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ
)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物
、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフ
ェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、及び4−(2,3−ジカルボキシフェノキ
シ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物
、並びにこれらの各種混合物がある。
【0047】 上記の式(X)に包含される芳香族ビス(エーテル無水物)の好ましいクラス
には、Tが次の式(XII)のものがある。
【0048】
【化19】
【0049】 式中、各々のYは次の式(XIII)からなる群から独立に選択される。
【0050】
【化20】
【0051】 ポリエーテルイミド/ポリイミド共重合体を用いる場合、ピロメリト酸無水物
のような二無水物をビス(エーテル無水物)と組合せて使用する。
【0052】 ビス(エーテル無水物)は、双極性非プロトン溶媒存在下でのニトロ置換フェ
ニルジニトリルと二価フェノール化合物の金属塩との反応生成物の加水分解及び
その後での脱水反応によって製造することができる。
【0053】 式(XI)の好適な有機ジアミンには、例えば、m−フェニレンジアミン、p−
フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、4,4′−ジア
ミノジフェニルメタン(慣用名「4,4′−メチレンジアニリン」)、4,4′
−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4
,4′−ジアミノジフェニルエーテル(慣用名「4,4′−オキシジアニリン」
)、1,5−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチルベンジジン、3,3−ジメ
トキシベンジジン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(
p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−o−
アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−イソプロピルベンゼン、1
,2−ビス(3−アミノプロポキシ)エタン、ベンジジン、m−キシリレンジア
ミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ビス(4−アミ
ノシクロヘキシル)メタン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメ
チルヘプタメチレンジアミン、2,11−ドデカンジアミン、2,2−ジメチル
プロピレンジアミン、1,18−オクタメチレンジアミン、3−メトキシヘキサ
メチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチ
ルヘプタメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、5−メチルノ
ナメチレンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,18−オクタデカ
ンジアミン、ビス(3−アミノプロピル)スルフィド、N−メチル−ビス(3−
アミノプロピル)アミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、
ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン及びこれらのジアミンの混合物が
ある。
【0054】 式(I)の範疇に属する特に好ましいポリエーテルイミド樹脂の具体例は、R
がp−フェニレン、m−フェニレン又はp−フェニレンとm−フェニレンの混合
物であって、Tが−O−Z−O−でZが次の式(XIV)であり、式(XIV)の二価
基が式(I)の各アリールイミド部分のアリール環の3,3′位を橋かけしてい
る繰返し単位を含んでなるものである。
【0055】
【化21】
【0056】 別の実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂は、2,2−ビス(2,3−ジカ
ルボキシフェノキシフェノール)プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン及
びアミノプロピル末端D10ポリジメチルシロキサンとの縮合で製造され、ポリジ
メチルシロキサン由来の構造単位を34重量%(wt%)含有し、約60000
g/モルの分子量を有するシロキサンポリエーテルイミド共重合体であってもよ
い。
【0057】 一般に、有用なポリエーテルイミド樹脂は、25℃のm−クレゾール中で測定
して、約0.2dl/gを超える固有粘度[η]、好ましくは約0.35〜約0
.7dl/gの固有粘度[η]を有する。
【0058】 好ましい実施形態では、本発明の樹脂のポリエーテルイミド樹脂は、ポリスチ
レン標準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定して、100
00〜150000g/モルの重量平均分子量を有する。
【0059】 エマルジョンの形成に当たり、ポリエーテルイミド樹脂はそのポリエーテルイ
ミド樹脂を溶解し得る溶媒に溶解させる。本発明で有用な慣用溶媒の一例はN−
メチルピロリドンのような有機溶媒である。ポリエーテルイミド樹脂を溶解し得
る他の慣用の溶媒を使用してもよい。
【0060】 溶媒と併用する共溶媒はポリエーテルイミド用の溶媒であって、温度0℃で液
体で、広い温度域(すなわち約150℃まで、好ましくは250℃まで)上記の
溶媒と混和性で、しかも析出塗膜中での溶媒/共溶媒比が約1未満となるもので
あるべきである。エマルジョンの安定性を向上させ、高いつきまわり性(すなわ
ち、平均電圧が零に近づく或いは略ゼロとなること)を得るとともに、析出層内
の水分量を低減するために、共溶媒は水に不溶性又は僅かしか溶解しないもので
、好ましくは水中での溶解度が約5.5g/l未満のものであるべきである。表
1に、20mlのN−メチルピロリドン−水(50/50)混合物に対する共溶
媒の不混和点及びカップリング係数を示す。カップリング係数は不均一混合物を
得るのに必要な共溶媒の量で混合物の量を割った値で表す。
【0061】
【表1】
【0062】 好ましくは、共溶媒はさらにN−メチルピロリドン中で約3.7以上のカップ
リング係数を有する。可能な共溶媒としては、特に限定されないが、芳香族エー
テル類、ケトン類、エーテルケトン類、アリールアリルケトン類、アリールアル
キルケトン類、アリールエーテルアルコール類、ケトン類、フェノール類及びエ
ーテル含有溶媒があるが、メチルフェニルエーテル(すなわちアニソール)及び
2−メトキシフェニルアセトンが好ましい。表2から分かるように、エマルジョ
ンの安定性は共溶媒の水溶解度と相関しており、水溶解度の高い共溶媒ほどエマ
ルジョンの安定性は低くなるか或いは乳化が不完全となる。
【0063】
【表2】
【0064】 表3に、共溶媒が最終塗膜中のポリエーテルイミドの収率に及ぼす効果を示す
【0065】
【表3】
【0066】 表4に、最終アンペア数(塗装終了時の電流)及び略零に近づくのに要する時
間に及ぼす共溶媒の効果を示す。
【0067】
【表4】
【0068】 エマルジョンの調製に当たっては、ポリエーテルイミドの無水物基を開環剤を
用いて開環する。この開環剤はポリエーテルイミドのイミド基を開環することの
できる化合物であればどんなものでもよく、アミンが好ましい。そうしたアミン
は水と混和性の第二級又は第三級アミンで、標準的製造・貯蔵条件(すなわち略
25℃及び1気圧)下で揮発しないような沸点の十分に高いものであり、沸点は
約90℃を上回っているのが好ましく、約110℃を上回っているのが特に好ま
しい。好ましくは、かかるアミンはアルコール基のような親水性基を有する。N
−メチルピペラジンが好ましく、2−(1−ピペラジニル)エタノール(HEP
)が特に好ましい。これらは、ポリエーテルイミドの収率が高く、ポリエーテル
イミドと効率的に反応し、その過剰分はポリエーテルイミド塗膜の硬化時に容易
に除去されるからである。
【0069】 開環剤はポリエーテルイミドの無水物基と反応して官能化アミン基を形成する
。アミン基は中和剤を用いて第四級化される。中和剤には、所望の第四級化を達
成するのに十分な酸強度を有する酸が包含される。可能な中和剤としては、特に
限定されないが、酸強度Kaが約10-5以上の一塩基酸がある。他の酸も使用で
きるが、中和剤の余分な酸性基はエマルジョンの安定性を低下させる。好ましく
は、乳酸又はグリコール酸を使用する。これらの酸の対イオンは溶媒和が強いの
で親水性を高めて水/溶媒/共溶媒の界面へと移行し、安定エマルジョンを生じ
るからである。表5及び表6に、乳酸又はグリコール酸を中和剤として用いたと
きのエマルジョン及び析出塗膜の安定性と収率が改善されることを示す。
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】 本発明のエマルジョンの調製は、普通、エマルジョンの形成に適した条件下で
成分を混合することによってなされる。好適な条件には、例えば一軸又は二軸押
出機、ミキシングボール又は成分に剪断を加えることのできる同様の混合装置で
の溶液ブレンディング又は溶融混合がある。二軸押出機は一軸押出機に比べて混
合能力に優れているので好ましいことが多い。組成物中の揮発性不純物を除去す
るため押出機の少なくとも1箇所のベント口を介してメルトを真空に引くのが往
々にして有利である。
【0073】 基本的には、不活性雰囲気(すなわち、窒素、アルゴンその他)下で、ポリエ
ーテルイミド樹脂を好ましくは溶媒と共溶媒の混合物に加熱しながら溶解させる
。このプロセスは室温(RT)で達成することもできるが、ポリエーテルイミド
の溶解を促すため好ましくは混合物を加熱する。溶解し終わったら、開環剤を共
溶媒に溶解して、上記溶液に混ぜる。溶液は次いで好ましくは、開環剤がポリエ
ーテルイミドの無水物基の望ましい量と反応してアミン基を形成するのに十分な
時間及び十分な温度に加熱する。開環剤と反応させる無水物基の望ましい量は具
体的用途に基づいて決められ、実質的にすべての無水物基を反応させることも可
能であるが、約50〜約80%が好ましく、約60〜約75%が特に好ましい。
【0074】 アミン基の形成後、共溶媒と中和剤の混合物を添加してアミン基を第四級化す
る。中和剤の使用量は第四級化することが望まれるアミン基の量に基づいて決め
られる。例えば、ポリエーテルイミドの50vol%を第四級化するため、中和
剤の50vol%水溶液を上記溶液に混合する。好ましくは、アミン基の約75
%までもしくはそれ以上を第四級化するが、約42〜約55%が特に好ましい。
最後に、水性エマルジョン中のポリエーテルイミド百分率が所望の値となるだけ
の十分な水、好ましくは脱イオン水を添加する。
【0075】 なお、開環剤及び中和剤は上記溶液に添加する前に共溶媒中に混合しておくの
が好ましく、エマルジョンの安定性を維持・確保するため上記溶液中に若干の共
溶媒を使用するのが好ましい。エマルジョンの安定性を確保するため、溶媒:共
溶媒比が約1以下に保たれる限りにおいて溶媒は共溶媒と共に又はその代わりに
使用することができる。この比が約1を上回るとエマルジョンは不安定になる。
【0076】 エマルジョンを調製し終えたら、泳動電着プロセスを用いて繊維にエマルジョ
ンを含浸させることができる。繊維は、部材の形成に望ましい長さ又は直径を有
する織布もしくは不織布、一方向性テープ、ランダム繊維シートとすることがで
きる。可能な繊維としては、被覆繊維などのエマルジョンと適合性の導電性繊維
があり、金属被覆ガラス繊維/布のようなガラス繊維、炭素繊維及びこれらの混
合物が好ましい。可能な被膜には、金属被膜のような導電性被膜があり、例えば
ニッケル、鉄、鋼、銅など、さらにはこれらの合金があるが、これらに限られる
ことはない。
【0077】 繊維を含浸する前に、繊維を前処理するのが好ましい。繊維の前処理は塗膜の
密着性を高めて、最終複合材料の機械的特性を向上させるとともに、接液層の厚
さを均一にする。可能な前処理としては、特に限定されないが、ポリエーテルイ
ミドの良溶媒、例えばN−メチルピロリドンやクロロホルムでの繊維の前処理が
ある。前処理法の一つでは、繊維を溶媒で濯ぐか或いは溶媒中に浸漬する。
【0078】 次に、ポリエーテルイミド水性エマルジョンでの繊維の含浸は、アノード(す
なわちステンレス鋼その他の棒)と繊維(すなわちカソード)をエマルジョン中
に挿入し、電圧を印加することからなる。電圧は約100ボルト(V)までとす
ることができ、約20〜約60Vが好ましい。表7及び表8から分かるように、
印加電圧は収率及び濡れ/含浸性に直接影響した。
【0079】
【表7】
【0080】
【表8】
【0081】 析出プロセスの完了後に、含浸布を、例えば脱イオン水その他の不活性液体で
濯いで、残っていた可能性のある有機物質をすべて除去した。濯ぎ終えたら、ポ
リエーテルイミドを高温で硬化させることができる。温度は、繊維に悪影響を及
ぼすことなく硬化時間内にポリエーテルイミドを硬化させるのに十分な温度とす
べきである。通例、温度は約250〜300℃で約30分以内であり、約15〜
約20分が好ましい。
【0082】
【実施例】
以下の実施例では、安定なポリエーテルイミドエマルジョンを用いて本発明の
ポリエーテルイミド被覆繊維を製造した。
【0083】 500ml反応フラスコ中で、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキ
シフェノール)プロパン二無水物とm−フェニレンジアミンの縮合で合成した重
量平均分子量約55×103g/モルのポリエーテルイミド樹脂80gを、16
0mlのN−メチルピロリドンと20mlの共溶媒に、窒素雰囲気下で85〜9
5℃に加熱しながら混合物を攪拌して溶解させた。ポリマーが溶解したところで
、18.9gの開環剤と60mlの共溶媒を、激しく攪拌するとともに温度を8
5〜95℃に保ちつつ、1ml/分の速度で加えた。添加後、混合物を2時間1
10℃に加熱して70%アミン変性ポリマー溶液を形成した。
【0084】 次に、19.9gの共溶媒及び等モル量の50%中和剤水溶液(すなわち、グ
リコール酸の50%水溶液4.2g)を100gのポリマー溶液中に攪拌するこ
とによってアミン基の50vol%を第四級化した。次いで、この第四級化溶液
に259.9gの脱イオン水をゆっくり加えて6wt%のポリエーテルイミド水
性エマルジョンを形成した。
【0085】 ポリエーテルイミド水性エマルジョンの電着では、ステンレス鋼棒(アノード
)と炭素繊維布(カソード)をエマルジョン中に挿入して、電圧を印加した。
【0086】 析出工程後、含浸布を脱イオン水で濯ぎ、15〜20分間約250〜300℃
の高温で硬化させた。
【0087】 表9及び表10に、標準的な開環剤(N−メチルピペラジン(NMP))と比
較して、HEPを開環剤として用いたエマルジョン及び析出塗膜の改善された安
定性と収率を示す。
【0088】
【表9】
【0089】
【表10】
【0090】 表11に、ポリエーテルイミド塗膜の溶媒及び水分量を示す。この表から明ら
かな通り、溶媒:共溶媒比は1未満であり、水分量は低い。水分量が低いとポリ
エーテルイミド塗膜の伝導率が低下するのでつきまわり性が改善され、一方、溶
媒:共溶媒比が低いことは共溶媒析出が優先することを示しており、改善された
塗膜の製造が容易になる。共溶媒は塗膜硬化時に蒸発し易く、実質的に均一で密
着性の高い塗膜を生成するからである。
【0091】
【表11】
【0092】 表12に、上記実施例に記載の泳動電着プロセスで製造した炭素繊維ポリエー
テルイミド複合材料(各複合材料は繊維50vol%とポリエーテルイミド50
vol%からなり、26枚の織布層を積層して形成される)の典型的な機械的特
性を示す。
【0093】
【表12】
【0094】 本発明の繊維ポリエーテルイミド複合材料は、良好な機械的特性を有する複雑
な幾何学的形状の繊維強化部材の簡単で経済性に優れた環境に優しい製造を可能
にする。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4F070 AA55 AC12 AC40 AC46 AE08 AE28 AE30 CA01 CA18 CB03 CB13 4J043 PA02 PB15 QB31 RA34 SA06 SA42 SA46 SA47 SB01 TA22 TA46 TA71 TB01 UA121 UA142 UA152 UB021 UB022 UB122 UB152 UB282 UB302 VA011 VA012 VA051 XA08 YB08 YB24 YB32 ZB03 4L033 AA08 AA09 AB05 AB07 AC11 AC12 AC15 CA55

Claims (24)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ポリエーテルイミド被覆繊維を製造するための泳動電着方法
    であって、 無水物基を有するポリエーテルイミド樹脂を溶媒及び実質的に水不溶性の共溶
    媒に分散させ、 開環剤を上記無水物基と反応させてアミン基を形成し、 上記アミン基を中和剤で中和して第四級化混合物を形成し、かつ 上記第四級化混合物に水を添加してポリエーテルイミドエマルジョンを形成す
    ることによってポリエーテルイミドエマルジョンを形成し、 上記エマルジョン中にアノードを挿入し、 上記エマルジョン中にカソードとして機能する繊維プリフォームからなる繊維
    を挿入し、 上記エマルジョンに電流を流し、 ポリエーテルイミドカチオンを生じさせ、そして 上記ポリエーテルイミドカチオンを上記カソードで反応させて上記繊維を被覆
    する不溶性ポリエーテルイミド種を形成する ことを含んでなる泳動電着方法。
  2. 【請求項2】 前記ポリエーテルイミド樹脂が次式(I)の構造単位を含ん
    でなる、請求項1記載の泳動電着方法。 【化1】 式中、二価基Tは式(I)の各アリールイミド部分のアリール環の3,3′位、
    3,4′位、4,3′位又は4,4′位を橋かけするもので、Tは−O−又は式
    −O−Z−O−の基であり、Zは次の式(II) 【化2】 からなる群から選択される二価基であり、Xは次の式(III) 【化3】 の二価基からなる群から選択されるものであり、yは1〜約5の整数であり、q
    は0又は1であり、Rは(a)炭素原子数6〜約20の芳香族炭化水素基及びそ
    のハロゲン化誘導体、(b)炭素原子数2〜約20のアルキレン基、(c)炭素
    原子数3〜約20のシクロアルキレン基、及び(d)次の一般式(IV) 【化4】 の二価基からなる群から選択される二価有機基であって、Qは式(V) 【化5】 からなる群から選択されるものであり、y′は約1〜約5の整数である。
  3. 【請求項3】 前記ポリエーテルイミド樹脂が2,2−ビス[4−(3,4
    −ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジア
    ミンとの溶融重合で合成された反応生成物反応生成物からなる、請求項1記載の
    泳動電着方法。
  4. 【請求項4】 前記溶媒及び前記共溶媒の水中での溶解度が各々約5.5g
    /l未満である、請求項1記載の泳動電着方法。
  5. 【請求項5】 前記溶媒がN−メチルピロリジノンである、請求項1記載の
    泳動電着方法。
  6. 【請求項6】 前記共溶媒がケトン系溶媒、フェノール系溶媒又はエーテル
    系溶媒である、請求項1記載の泳動電着方法。
  7. 【請求項7】 前記共溶媒がアニソールである、請求項1記載の泳動電着方
    法。
  8. 【請求項8】 前記開環剤がアミンである、請求項1記載の泳動電着方法。
  9. 【請求項9】 前記開環剤が第二級又は第三級アミンである、請求項8記載
    の泳動電着方法。
  10. 【請求項10】 前記開環剤がN−メチルピペラジン又は2−(ピペラジニ
    ル)エタノールである、請求項1記載の泳動電着方法。
  11. 【請求項11】 前記中和剤が約10-5を上回る酸強度Kaを有する、請求
    項1記載の泳動電着方法。
  12. 【請求項12】 前記中和剤が一塩基酸である、請求項1記載の泳動電着方
    法。
  13. 【請求項13】 前記中和剤が乳酸又はグリコール酸である、請求項1記載
    の泳動電着方法。
  14. 【請求項14】 前記エマルジョンが約10体積%(vol%)以下のポリ
    エーテルイミド樹脂、約5vol%以下の開環剤、約5vol%以下の中和剤、
    約20vol%以下の溶媒、約20vol%以下の共溶媒及び残部の水からなる
    、請求項1記載の泳動電着方法。
  15. 【請求項15】 前記エマルジョンが約3〜約8vol%のポリエーテルイ
    ミド樹脂、約0.2〜約3vol%の開環剤、約0.3〜約3.5vol%の中
    和剤、約8〜約15vol%の溶媒、約9〜約15vol%の共溶媒及び残部の
    水からなる、請求項1記載の泳動電着方法。
  16. 【請求項16】 前記エマルジョンが約4〜約7vol%のポリエーテルイ
    ミド樹脂、約0.5〜約1.5vol%の開環剤、約0.5〜約2vol%の中
    和剤、約10〜約13vol%の溶媒、約10〜約12.5vol%の共溶媒及
    び残部の水からなる、請求項1記載の泳動電着方法。
  17. 【請求項17】 ポリエーテルイミド樹脂が2,2−ビス(2,3−ジカル
    ボキシフェノキシフェノール)プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン及び
    アミノプロピル末端D10ポリジメチルシロキサンとの縮合で合成された共重合体
    からなる、請求項1記載の泳動電着方法。
  18. 【請求項18】 前記繊維プリフォームが織布、不織布、一方向性テープ及
    びランダム繊維シートからなる、請求項1記載の泳動電着方法。
  19. 【請求項19】 前記繊維プリフォームがガラス繊維、炭素繊維又はこれら
    の混合物からなる、請求項1記載の泳動電着方法。
  20. 【請求項20】 前記繊維が金属被膜を有する、請求項19記載の泳動電着
    方法。
  21. 【請求項21】 前記金属被膜がニッケル、鉄、鋼又はこれらの合金である
    、請求項20記載の泳動電着方法。
  22. 【請求項22】 前記無水物基の約50〜約80%を前記開環剤と反応させ
    ることをさらに含む、請求項1記載の泳動電着方法。
  23. 【請求項23】 前記無水物基の約60〜約75%を前記開環剤と反応させ
    ることをさらに含む、請求項1記載の泳動電着方法。
  24. 【請求項24】 前記アミン基の約42〜約55%を中和することをさらに
    含む、請求項23記載の泳動電着方法。
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