JP2002080501A - 組織再生マトリックス用グリコサミノグリカン−ポリカチオン複合体とその製造方法 - Google Patents

組織再生マトリックス用グリコサミノグリカン−ポリカチオン複合体とその製造方法

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JP2002080501A JP2000273187A JP2000273187A JP2002080501A JP 2002080501 A JP2002080501 A JP 2002080501A JP 2000273187 A JP2000273187 A JP 2000273187A JP 2000273187 A JP2000273187 A JP 2000273187A JP 2002080501 A JP2002080501 A JP 2002080501A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 鋳型に入れて成型が可能である系において、
軟骨、肝臓、血管、神経等、さまざまな組織再生マトリ
ックスとして使用できる、各組織に極めて類似した物性
を示し、生物学的機能も優れている組織再生材料の開発
を目的とする。 【構成】 グリコサミノグリカンとポリカチオンを縮合
反応により架橋した組織再生マトリックス用グリコサミ
ノグリカン−ポリカチオン複合体。グリコサミノグリカ
ンとポリカチオンをポリイオンコンプレックスを形成し
ない塩濃度で縮合剤として水溶性カルボジイミドを用い
た縮合反応により架橋することによって製造する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、軟骨等の組織再生
マトリックス用グリコサミノグリカン(GAG)−ポリ
カチオン複合体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】軟骨は非常に再生しにくい臓器である
が、加齢やスポーツ障害による変形性関節症等の関節疾
患の対策として軟骨再生材料の開発が切望されている。
軟骨組織の主成分は、II型コラーゲン、ヒアルロン
酸、コンドロイチン硫酸鎖が豊富なプロテオグリカンで
ある。これまで、ハイドロキシアパタイト−II型コラ
ーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸自己組織化
体が、invivoにおいてある程度軟骨再生を促進する結果
が得られている。
【0003】また、これまで、ヒアルロン酸を架橋剤
(ジアミン、ジエポキシ、エピクロロヒドリン)により
架橋したもの、縮合剤(水溶性カルボジイミド)により
架橋したもの、ヒアルロン酸のカルボキシル基の部分に
疎水基を導入したもの等が報告されている。
【0004】また、グリコサミノグリカン(GAG)−
コラーゲン複合体の調製は、コラーゲン溶液を凍結乾燥
したコラーゲンマトリックスへのGAGの固定化(J.S.
Pieper et al.,「Biomaterials」, 2000,21:581-593)
やGAG−コラーゲンコンプレックスを化学架橋する手
法が取られていた(特表平6−505642号公報、特
開平7−196704号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】グリコサミノグリカン
とコラーゲンとの複合体に関しては、コラーゲンスポン
ジに縮合剤を用いてグリコサミノグリカンを固定化する
手法と、グリコサミノグリカンとコラーゲンのポリイオ
ンコンプレックスを縮合剤を用いて架橋する手法が報告
されているが、これらの手法を用いると成型が困難であ
るという問題がある。
【0006】本発明は、鋳型に入れて成型が可能である
系において、軟骨、肝臓、血管、神経等、さまざまな組
織再生マトリックスとして使用できる、各組織に極めて
類似した物性を示し、生物学的機能も優れている組織再
生材料の開発を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】ヒアルロン酸はグリコサ
ミノグリカンと呼ばれる多糖類の一つであり、II型コ
ラーゲンはポリカチオンの一つである。ヒアルロン酸水
溶液とII型コラーゲン塩酸溶液は混合するとポリイオ
ンコンプレックス(PIC)を形成することが知られて
いる。これは、ヒアルロン酸の分子鎖がカルボキシル基
の解離により負に帯電(ポリアニオン)しており、一
方、II型コラーゲンは高分子鎖全体として正に帯電
(ポリカチオン)しているため(等電点8以上)であ
る。
【0008】また、縮合剤である水溶性カルボジイミド
(WSC:1−エチル−3−(3−(ジメチルアミノプ
ロピル)カルボジイミド)は、pH4から8の条件下で
安定にカルボキシル基を活性化し、その活性中間体はア
ミノ基および水酸基と反応し、アミドおよびエステルを
形成することが知られている。
【0009】本発明者は、グリコサミノグリカン−ポリ
カチオン複合体(ハイブリッド)ゲルの調製について検
討を行った結果、特定の塩濃度を用いてグリコサミノグ
リカンとポリカチオンとがポリイオンコンプレックスを
形成するのを抑制しつつ縮合剤を用いて架橋させること
により、WSCを用いた縮合反応によりグリコサミノグ
リカン−ポリカチオン複合体ゲルを得ることができ、軟
骨、肝臓、血管、神経等、さまざまな組織の優れた再生
材料を得ることができることを見出した。
【0010】すなわち、本発明は、グリコサミノグリカ
ンとポリカチオンを縮合反応により架橋した組織再生マ
トリックス用グリコサミノグリカン−ポリカチオン複合
体である。
【0011】また、本発明は、グリコサミノグリカンと
ポリカチオンをポリイオンコンプレックスを形成しない
条件で縮合剤として水溶性カルボジイミドを用いた縮合
反応により架橋することを特徴とする上記のグリコサミ
ノグリカン−ポリカチオン複合体の製造方法である。
【0012】また、本発明は、グリコサミノグリカンと
ポリカチオンをポリイオンコンプレックスを形成しない
条件で縮合剤として水溶性カルボジイミドと2−ヒドロ
キシスクシンイミドを用いた縮合反応により架橋するこ
とを特徴とする上記のグリコサミノグリカン−ポリカチ
オン複合体の製造方法である。
【0013】また、本発明は、グリコサミノグリカンと
ポリカチオンがポリイオンコンプレックスを形成しない
塩濃度において縮合反応により架橋することを特徴とす
る上記のグリコサミノグリカン−ポリカチオン複合体の
製造方法である。
【0014】また、本発明は、架橋によって形成したグ
リコサミノグリカン−ポリカチオンゲルからなる複合マ
トリックスを水で洗浄し、マトリックス中の塩のイオ
ン、水溶性カルボジイミド、および副生成物を除去する
ことを特徴とする上記のグリコサミノグリカン−ポリカ
チオン複合体の製造方法である。
【0015】また、本発明は、グリコサミノグリカンが
ヒアルロン酸であり、ポリカチオンがII型コラーゲン
であり、0.4±0.05Mの水溶性の塩濃度において
縮合反応により架橋することを特徴とする上記のグリコ
サミノグリカン−ポリカチオン複合体の製造方法であ
る。
【0016】グリコサミノグリカンとしては、ヒアルロ
ン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、
ヘパラン硫酸等の多糖類をいずれも用いることができ
る。ポリカチオンとしては、コラーゲン、キトサンを用
いることができる。コラーゲンには10数種のタイプが
あるが、種類は特に限定されない。キトサンは、カニ、
エビ等の甲殻類の殻の有機成分(キチン)を脱アセチル
化したものである。これらの中で、グリコサミノグリカ
ンの代表的なものとしてヒアルロン酸(略号Hyal
A)を用い、ポリカチオンとしてII型コラーゲンを用
いた場合について、以下に本発明を詳しく説明する。
【0017】本発明の方法において、架橋形成の条件
は、(1)PICを形成しない塩濃度、すなわち、静電
的相互作用によりPICを形成しないような塩濃度で架
橋を行うことと、(2)WSCの安定性の高いpH4以
上で架橋を行うことである。
【0018】NaCl等の塩を含まない水中においてヒ
アルロン酸はカルボキシル基により分子として負に帯電
しており(ポリアニオン)、一方、コラーゲンは分子全
体で正に帯電している。塩を含まないヒアルロン酸水溶
液と塩を含まないコラーゲン水溶液を混合するとヒアル
ロン酸の負電荷とコラーゲンの正電荷によってポリイオ
ンコンプレックスとして沈殿が生じる。
【0019】ヒアルロン酸とコラーゲンの水溶液を混合
する際に適量の塩が存在すると、塩の溶解によって生じ
たイオンがヒアルロン酸とコラーゲンの電荷を打ち消す
ためにポリイオンコンプレックスは形成されなくなる。
このような原理であるために用いる塩の種類は、水に溶
解する塩、例えば、NaCl、CaCl2、Na2SO 2
等、であればどのような塩でも使用できる。ただ、塩の
種類により最適塩濃度が若干変わることがある。水溶性
カルボジイミドで架橋を行うのは、このポリイオンコン
プレックスを形成しない塩濃度のときである。
【0020】架橋直後では、塩がゲル中に塩のイオンの
状態でまだ存在している。この塩を除くには、大過剰の
水で洗浄する。ゲル中に含まれるイオンを除かないと、
ポリイオンコンプレックスによる架橋形成を行うことが
できない。すなわち、共有結合+静電的相互作用による
結合が形成されない。
【0021】縮合剤で架橋を行う利点は、(1)架橋形
成後、縮合剤を洗浄で除くことが可能であるため、架橋
剤の毒性を問題にしなくてよいこと、(2)生分解性ハ
イドロゲルが得られること、(3)縮合剤の濃度をコン
トロールすることにより架橋度のコントロール(ポアサ
イズのコントロール)が可能であること、(4)ハイド
ロゲルに組織の修復を早める作用のあるタンパク質であ
るTGF−β(Transforming Growth Factor beta) 、繊
維芽細胞の増殖を早める繊維芽細胞増殖因子FGF(Fib
roblast Growth Factor)、血管内皮細胞の増殖を早める
血管内皮細胞増殖因子VEGF(Vascular Endothelial
Growth Factor)等のサイトカイン類を内包させ、徐放す
ることも可能であること等である。
【0022】本発明のヒアルロン酸−II型コラーゲン
複合体は、含水率が90〜99重量%、ヒアルロン酸
(ポリアニオン)/コラーゲン(ポリカチオン)比(重
量)が50/50〜5/95、空孔率が90〜99容積
%である。架橋密度は、含水率に対応している。
【0023】図1は、本発明の方法によってグリコサミ
ノグリカン−ポリカチオンゲルを形成直後の複合マトリ
ックスの模式図である。複合マトリックスを形成した直
後には、複合マトリックスに塩(図1の場合はNaC
l)が入っているので、NaイオンとClイオンがマト
リックス中に存在するために共有結合のみでマトリック
スが架橋されている。次に、複合マトリックスを大過剰
の水に入れ、マトリックス内部のNaイオン、Clイオ
ンを除く。
【0024】図2は、ヒアルロン酸とII型コラーゲン
のゲルの水中での膨潤時の構造(共有結合+静電的相互
作用)を示す模式図である。この模式図は、大過剰の水
でマトリックスを洗浄し、マトリックス中のNaイオ
ン、Clイオン、水溶性カルボジイミドおよびウレア等
の副生成物を除去した後の構造を示す。この場合、水溶
性カルボジイミドによって形成した共有結合(アミドと
エステル結合)の他にも結合が形成されると考えられ
る。この結合は、COO−とNH 3+との静電的な相互作
用によるものである。これは、NaイオンとClイオン
がマトリックス内部から除かれるために未反応のカルボ
キシル基とアミノ基がコンプレックスを作り、見掛け上
の架橋点になるということである。
【0025】図3は、ヒアルロン酸とII型コラーゲン
の混合比を1:1とした場合のヒアルロン酸溶液の種々
のpHにおけるPIC形成を500nmの光の透過率
(%)を調べることにより評価したグラフである。この
図は、ヒアルロン酸とコラーゲン水溶液(それぞれ1.
25%の濃度)を重量比1:1で混合したときに、どの
ようなpHの時にポリイオンコンプレックスを形成しな
くなるかを調べたものである。横軸にヒアルロン酸水溶
液のpHを取り、縦軸に500nmの光の透過率(分光
光度計[UV/Vis spectrometer] を使用)を取っている。
【0026】透過率が0%の時には、光が透過しないと
いうことであるから、ポリイオンコンプレックスが形成
していることを示す。100%に近づくほどポリイオン
コンプレックスが形成されないことを示している。ヒア
ルロン酸水溶液のpHが6から1.5の間では、透過率
がほとんど0%なので、ポリイオンコンプレックスが形
成している。PHが1になると透過率が約70%まで上
昇しているので、ポリイオンコンプレックスが形成され
なくなることが分かる。
【0027】図4は、同じく、種々の塩(図1の場合は
NaCl)濃度におけるPIC形成を500nmの光の
透過率(%)を調べることにより評価したグラフであ
る。この図は、ヒアルロン酸とコラーゲン水溶液(それ
ぞれ1.25%の濃度)を重量比1:1で混合したとき
に、どのような塩濃度の時にポリイオンコンプレックス
を形成しなくなるかを調べたものである。横軸にヒアル
ロン酸とコラーゲンの混合液中に含まれるNaCl濃度
を取り、縦軸に500nmの光の透過率を取っている。
【0028】透過率が0%の時には、光が透過しないと
いうことであるから、ポリイオンコンプレックスが形成
していることを示す。100%に近づくほどポリイオン
コンプレックスが形成されないことを示す。NaCl濃
度が0.4M近くで透過率が急上昇し、0.4Mで透過
率が最大値を示していることから、0.4Mおよびその
近傍、数値で表現すれば0.4±0.05M程度でポリ
イオンコンプレックスが形成されなくなることが分か
る。
【0029】図3、図4から、pH1または0.4Mの
NaCl濃度の時に光の透過率(%)が最大となり、P
ICの形成が大幅に抑制されることが明らかとなった。
この理由は、低pHになるとヒアルロン酸およびII型
コラーゲンのカルボキシル基の解離が抑制される(pK
a以下)ため、II型コラーゲンのプロトン化したアミ
ノ基とコンプレックスを形成できな<なるためであると
考えられる。
【0030】一方、NaCl濃度が0.4Mのときに透
過率が最大値を取る理由としては、以下のことが考えら
れる。すなわち、塩濃度が0.4Mまでは塩添加がPI
Cの形成を抑制する方向に働き、塩濃度が0.4Mを超
えると塩析効果によりコラーゲンが析出してくるためで
あると考えられる。
【0031】以上の結果から、ヒアルロン酸とII型コ
ラーゲンがPICを形成しない最適の条件は、pH1ま
たは塩濃度0.4Mのときであることが明らかとなっ
た。縮合剤のWSCが安定にカルボキシル基を活性化す
るpHは、4〜8であり、pH1の条件下では極めて不
安定である。そこで、塩濃度0.4Mの条件下で種々の
濃度のWSC(0〜1000mM)を添加し、架橋を行
った。
【0032】図5は、得られたゲルを大過剰の水で洗浄
し、ゲルのマトリックスから縮合剤およびNaイオン、
Clイオンを除去し、これを凍結乾燥したマトリックス
の膨潤度[Swelling Ratio;乾燥したゲルが自重の何
倍、水を吸収するかという値=(湿潤ゲルの重量−乾燥
ゲルの重量)/乾燥ゲルの重量]とWSC濃度(mM)
の関係を示すグラフである。
【0033】この図は、ヒアルロン酸とコラーゲンの混
合比が1:1の場合に、水溶性カルボジイミド(WS
C)の濃度を変化させたときに得られた複合体の膨潤度
がどのように変化するかを調べたものである。この図か
ら言えることは、縮合剤の濃度をコントロールすること
によって複合体中に含まれる水の含量をコントロールで
きるということである。膨潤度が小さくなるということ
は、複合体中に含まれる水の含量が少なくなることを意
味するので、複合体は硬くなる。
【0034】図6は、ヒアルロン酸とII型コラーゲン
の混合比を変えた場合の、マトリックスの転化率とWS
C濃度(mM)の関係を示すグラフである。この図は、
水溶性カルボジイミド(WSC)の濃度が転化率に及ぼ
す影響を調べた結果を示すものである。対象の複合体
は、ヒアルロン酸とコラーゲンの比率が1:1から1:
8までのものである。水溶性カルボジイミドの濃度を増
加させていくと、およそ20〜30mMで100%近く
に達していることから、ほぼ仕込通りのヒアルロン酸−
II型コラーゲン複合体が得られることを示している。
【0035】逆に言えば、20〜30mM以上の水溶性
カルボジイミドを添加しないと定量的に複合体が得られ
ないということを示している。WSC濃度が100mM
以上のときには転化率はさらに大きくなる。ヒアルロン
酸の分子量、あるいは、ヒアルロン酸とコラーゲンの濃
度を上げると水溶性カルボジイミド濃度は20mMより
低い値でも架橋は可能である。
【0036】図7は、同様に、マトリックスの膨潤度と
WSC濃度(mM)の関係を示すグラフである。この図
は、ヒアルロン酸とコラーゲンの比率を1:1から1:
8まで変えた場合についても水溶性カルボジイミドの濃
度をコントロールすることによって膨潤度の制御が可能
であることを示している。
【0037】
【発明の実施の形態】本発明の方法は、水溶性カルボジ
イミドを用いてグリコサミノグリカンとポリカチオンの
架橋を行う際に、ポリイオンコンプレックスを形成しな
い条件で架橋を行うものであり、ポリイオンコンプレッ
クスを形成させない条件は2つある。一つは、グリコサ
ミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸)のカルボキシル
基を解離させないpH、もう一つは、ポリイオンコンプ
レックスを形成しない最適な塩濃度である。ポリイオン
コンプレックスを形成しないこの最適の条件は、ヒアル
ロン酸とII型コラーゲンの組み合わせの場合は、pH
が1の時と、NaCl濃度が0.4±0.05M(pH
は、pH調整をしない状態でおよそ5)の時である。こ
の値は、グリコサミノグリカンとポリカチオンの他の組
み合わせ(例えば、コンドロイチン硫酸とコラーゲン)
では、多少変動するので、それぞれの組み合わせによっ
て最適値を定める。
【0038】しかし、水溶性カルボジイミドを用いて架
橋を行う場合には、水溶性カルボジイミドの安定性を考
える必要がある。水溶性カルボジイミドが安定に反応す
るpHは、4〜8であるから、塩を添加した場合には、
水溶性カルボジイミドが安定に存在するpH4〜8の範
囲内にあるために架橋が可能となる。
【0039】また、用いる水溶性カルボジイミドは、p
Hが4〜8の範囲のときに安定にカルボキシル基を活性
化し、アミノ基または水酸基と反応する試薬である。つ
まり、水溶性カルボジイミドが安定に存在してポリイオ
ンコンプレックスを形成しない条件というのは、NaC
l濃度が0.4±0.05M(このときのpHは、およ
そ5)の時ということになる。水溶性カルボジイミドの
濃度は、グリコサミノグリカンの分子量、あるいはグリ
コサミノグリカンとポリカチオンの濃度を上げると低い
濃度でも架橋が可能である。
【0040】水溶性カルボジイミドに2−ヒドロキシス
クシンイミドを組み合わせて用いてもよい。2−ヒドロ
キシスクシンイミドは、水溶性カルボジイミドの反応効
率を上げるために使用するもので、その濃度は、水溶性
カルボジイミドが1に対して1〜0.1が好ましい。
【0041】グリコサミノグリカンとポリカチオンの混
合比は任意に変えることができ、混合比を変えることに
よって、物性や生物学的機能が変わってくる。ヒアルロ
ン酸等グリコサミノグリカンの分子量は、この系では、
数万〜数100万までどのような分子量のものについて
も適用できる。
【0042】縮合剤の濃度をコントロールすることによ
って複合体中に含まれる水の含量をコントロールでき
る。複合体中に含まれる水の含量が少なくなる、つまり
膨潤度が小さくなると複合体は硬くなる。硬いのがいい
のかどうかは、複合体を使ってどのような組織を作るか
による。例えば、複合体を生体内で早く分解させたい時
には、水溶性カルボジイミドの濃度を下げて、膨潤度を
上げてやることが必要であり、硬いものが必要な場合に
は、水溶性カルボジイミドの濃度を上げることが必要と
なる。ただし、水溶性カルボジイミドは、生体に対して
いいものではないので、濃度が少なく、細胞の増殖能が
高いものがより好ましい。
【0043】架橋直後には塩が生成したゲル中に塩のイ
オン(NaClの場合はNaイオンとClイオン)の状
態で存在しているので、ゲルを大過剰の水で洗浄して塩
のイオンを除去する。洗浄方法としては、例えば、ゲル
の体積で100倍量以上の脱イオン水に生成したゲルを
浸漬する。洗浄によって、ゲルの中に含まれるイオンの
他に、未反応の水溶性カルボジイミドおよびウレア等の
副生成物が除去される。ゲル中に含まれるイオンを除く
ことによって共有結合+静電的相互作用による結合が形
成される。
【0044】本発明の複合体の利用に当たっては、反応
前のゾル状の水溶液を適当な鋳型に流し込み、反応を行
うことによって、さまざまな形の耳や鼻、軟骨欠損部位
等複雑な形状のものまで容易に形成することが可能であ
る。使用法については、スポンジ状、ゲル状のものを使
用し、そのマトリックスの中に軟骨を作る場合は、軟骨
細胞を、血管を作る場合は、血管内皮細胞を入れて培養
する。マトリックス自身として使用可能の他、細胞の増
殖、分化を促すための足場としてもマトリックスを使用
できる。また、細胞等の実験に用いるには、水中で洗浄
した後、生体中の浸透圧とほぼ等しい濃度の塩濃度を持
つリン酸緩衝液中に入れ、複合体中の水をリン酸緩衝液
に置換した後に使用する。
【0045】
【実施例】実施例1〜6 ヒアルロン酸(分子量=640,000,生化学工業
製)1.25w/v%水溶液およびII型コラーゲン
(新田ゼラチン製)1.25w/v%0.01N−HC
lの混合溶液に0.4MのNaClを添加し、pHがお
よそ5の状態で、縮合剤である水溶性カルボジイミド水
溶液を滴下し、十分攪拌、脱泡した後、30℃で2時間
放置した。その後、得られたゲルを大過剰の水で2日間
洗浄し、ゲルのマトリックスから縮合剤、副生成物、お
よびNaイオン、Clイオンを除去した。これを1日間
凍結乾燥した。
【0046】実施例1〜6のそれぞれのヒアルロン酸対
コラーゲンの比および添加した水溶性カルボジイミドの
量(mM)を下記のとおりとした。実施例1=1:8−
100、実施例2=1:1−100、実施例3=1:8
−20、実施例4=1:4−20、実施例5=1:2−
20、実施例6=1:1−20。例えば、1:8−10
0の実施例1では、ヒアルロン酸とコラーゲンの比率が
1:8で、水溶性カルボジイミドの濃度が100mMを
示している。なお、コントロールとしてTCPS(Tiss
ue Culture PolyStylene;普段用いられている細胞培養
用のシャーレ)とコラーゲン(20mMの水溶性カルボ
ジイミドで架橋)を用いた。
【0047】図8に、実施例6、ヒアルロン酸対コラー
ゲンの比および添加した水溶性カルボジイミドの量が
1:1−200mMのもの、ヒアルロン酸、コラーゲン
について、それぞれFT−IRによりエステル形成の同
定を行った結果を示す。実施例6について、化学反応に
よって共有結合が形成していることが確認できる。
【0048】図9は、それぞれの実施例のヒアルロン酸
とII型コラーゲンマトリックスを37℃で7日軟骨細
胞培養し、細胞数をカウントした結果を示し、各実施例
のそれぞれのヒアルロン酸対コラーゲン比−(WSC濃
度)と相対成長率を棒グラフで示している。
【0049】各実施例の複合体の調製には、厚さ1m
m、直径15mmのディスク状の複合体を用いた。その
上に、子牛の関節から取り出し増殖させた軟骨細胞を1
×10 5 個播種した。このときの培養液の組成は、DM
EM培地に10%ウシ血清(FBS)が入ったものを使
用した。複合体上に細胞を播種した後、4日後に培養液
を交換し、その後3日後(Total の培養日数7日)に細
胞数をCell Counting Kit (同仁化学薬品(株) 製)を
用いて計数した。
【0050】データは、TCPS上の細胞数を1として
相対的な細胞数を示してある。この結果から、まず言え
ることは、本発明による複合体は、どのような比率でも
有意(4〜7倍)に軟骨細胞の増殖を促進するというこ
とである。これが、コラーゲンのみであると全くといっ
ていいほど細胞数が増えていないが、ヒアルロン酸と複
合化することによって優れた細胞増殖能があることが分
かる。
【0051】また、ヒアルロン酸とコラーゲンとの比率
の違いというものは、この場合には、認められない。水
溶性カルボジイミドの濃度の違いも有意な差とは言えな
い。細胞の形態には差があり、TCPSとコラーゲン上
では、軟骨細胞が繊維状の形態をしており、実施例の複
合体上では、軟骨細胞特有の丸い形態をしていることか
ら細胞に対する適合性が高いと言える。
【0052】物性と生物学的機能で最も優れている条件
は実施例3の条件である。図7では、ヒアルロン酸とコ
ラーゲンとの比が1:4または1:8で水溶性カルボジ
イミドが20mMの時に膨潤度が極小値を取っている。
これは、複合体中に含まれる水が他のものに比べて少な
く、硬いことを示す。すなわち、取り扱いやすいという
ことである。また、図9で、実施例3と実施例4を比較
すると細胞数にそれ程差はないとは言え、実施例3の方
が、より生物学的に活性が高いと言える。実施例6は最
も細胞数が多いが強度が弱く最適とは言えない。
【0053】
【発明の効果】本発明のグリコサミノグリカンとポリカ
チオン複合ゲル、例えばヒアルロン酸−II型コラーゲ
ン複合ゲルは、耳、鼻、軟骨欠損部等の複雑な形状を容
易に形成することが可能であり、架橋剤の毒性を考慮す
る必要がなく、生体内の酵素(ヒアルロニダーゼ、コラ
ゲナーゼ)により分解することが予想され、組織再生マ
トリックスとしての有用性が極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ヒアルロン酸とII型コラーゲンのゲ
ル形成時の構造(共有結合)を示す模式図である。
【図2】図2は、ヒアルロン酸とII型コラーゲンのゲ
ルの水中での膨潤時の構造(共有結合+静電的相互作
用)を示す模式図である。
【図3】図3は、ヒアルロン酸溶液の種々のpHにおけ
るPICの形成を500nmの光の透過率(%)を調べ
ることにより評価したグラフである。
【図4】図4は、ヒアルロン酸溶液の種々の塩(NaC
l)濃度におけるPICの形成を500nmの光の透過
率(%)を調べることにより評価したグラフである。
【図5】図5は、ヒアルロン酸とII型コラーゲンマト
リックスの膨潤度とWSC濃度(mM)の関係を示すグ
ラフである。
【図6】図6は、ヒアルロン酸とII型コラーゲンの混
合比を変えた場合の、ヒアルロン酸とII型コラーゲン
マトリックスの転化率とWSC濃度(mM)の関係を示
すグラフである。
【図7】図7は、ヒアルロン酸とII型コラーゲンの混
合比を変えた場合の、ヒアルロン酸とII型コラーゲン
マトリックスの膨潤度とWSC濃度(mM)の関係を示
すグラフである。
【図8】図8は、本発明のヒアルロン酸とII型コラー
ゲンマトリックスについてのFT−IRによるエステル
形成の同定を示すグラフである。
【図9】図9は、各実施例によって得られたヒアルロン
酸とII型コラーゲンマトリックスを用いて軟骨細胞培
養したヒアルロン酸対コラーゲン比−(WSC濃度)と
相対成長率を示すグラフである。
フロントページの続き (71)出願人 000190943 新田ゼラチン株式会社 大阪市浪速区桜川4丁目4番26号 (71)出願人 500421358 田中 順三 茨城県つくば市鹿島台3−6 (72)発明者 田中 順三 茨城県つくば市鹿島台3−6 (72)発明者 田口 哲志 茨城県つくば市稲荷前19−8スプリーム成 城B205 (72)発明者 宮崎 匡輔 東京都八王子市小安町3−33−3 (72)発明者 佐倉 義幸 神奈川県横浜市金沢区寺前1−18−15 (72)発明者 大塚 龍郎 兵庫県尼崎市七松町1−3−2−2404 (72)発明者 萬代 佳宣 大阪府大阪市平野区長吉長原東3−9−20 −407 Fターム(参考) 4C081 AB04 AB13 AB18 BA12 CD082 CD122 EA05 4C090 AA05 BA67 BB69 CA46 DA24

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 グリコサミノグリカンとポリカチオンを
    縮合反応により架橋した組織再生マトリックス用グリコ
    サミノグリカン−ポリカチオン複合体。
  2. 【請求項2】 グリコサミノグリカンとポリカチオンを
    ポリイオンコンプレックスを形成しない条件で縮合剤と
    して水溶性カルボジイミドを用いた縮合反応により架橋
    することを特徴とする請求項1記載のグリコサミノグリ
    カン−ポリカチオン複合体の製造方法。
  3. 【請求項3】 グリコサミノグリカンとポリカチオンを
    ポリイオンコンプレックスを形成しない条件で縮合剤と
    して水溶性と2−ヒドロキシスクシンイミドを用いた縮
    合反応により架橋することを特徴とする請求項1記載の
    グリコサミノグリカン−ポリカチオン複合体の製造方
    法。
  4. 【請求項4】 グリコサミノグリカンとポリカチオンが
    ポリイオンコンプレックスを形成しない塩濃度において
    縮合反応により架橋することを特徴とする請求項2また
    は3記載のグリコサミノグリカン−ポリカチオン複合体
    の製造方法。
  5. 【請求項5】 架橋によって形成したグリコサミノグリ
    カン−ポリカチオンゲルからなる複合マトリックスを水
    で洗浄し、マトリックス中の塩のイオン、水溶性カルボ
    ジイミド、および副生成物を除去することを特徴とする
    請求項4記載のグリコサミノグリカン−ポリカチオン複
    合体の製造方法。
  6. 【請求項6】 グリコサミノグリカンがヒアルロン酸で
    あり、ポリカチオンがII型コラーゲンであり、0.4
    ±0.05Mの水溶性の塩濃度において縮合反応により
    架橋することを特徴とする請求項4または5記載のグリ
    コサミノグリカン−ポリカチオン複合体の製造方法。
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