JP2001318003A - 熱物性値測定装置 - Google Patents
熱物性値測定装置Info
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Abstract
定 【解決手段】4つの領域に分けられ、別の表面加工を施
した(放射率が異なる)アルミ板72をプラスチック・
ケース70に張って、サーモカメラ10を用いている熱
物性値測定装置100を用いて計測する。プラスチック
・ケース70の中には、アルミ板72の温度を決めるた
めの温水74を入れている。測定はカメラ10の前方に
フード20を設置し、その前方の視野内にアルミ板72
を置いて行う。PC30上で測定開始の信号を送ると、
測定の一連の動作が自動的に行われる。測定終了後は、
熱物性値算出アルゴリズムに従い計算し、熱物性値分布
画像を表示させる。これにより、実効環境放射温度を求
めることができ、より正確な熱物性値算出が可能とな
る。
Description
浸透率などの熱物性値の測定に関し、より正確に熱物性
値の測定を行うことに関する。
のがある。古くから存在し最も普及しているものとして
は、水銀温度計や熱電対などのように物体からの熱伝導
を利用したものが挙げられる。これに対し近年では、赤
外線放射温度計やサーモグラフィのように、被計測物体
の表面温度をそこから放射される赤外線量から逆算して
求めるという計測機器も使われるようになった。後者は
非接触・無侵襲で物体の表面温度を測定できるという点
で特に優れており、工学や医学をはじめ様々な分野で使
用されている。特にサーモグラフィは、被験者に全く苦
痛や悪影響を与えることなく、人体の体表温という生理
学上重要な情報を得ることが可能であるため、医学分野
での幅広い利用が確認されている。ところで、一般に赤
外放射を利用した温度測定において、測定対象が黒体と
みなせる場合、Stefan-Boltzmannの法則により放射エネ
ルギから温度を算出できる。対象が黒体でない場合に
は、放射率と外界の放射温度による補正を行わなければ
ならない。
用いた測定装置には、測定対象に応じて、能動的に放射
率による温度補正を行う機能が付加されていなかった。
対象の放射エネルギのみを測定しているものがほとんど
であり、放射率についてはあらかじめ既知のものとし
て、測定前に設定しておくようになっていた。特別の精
度を要求しない限り対象を黒体とみなせる、あるいは、
局所的な温度の値よりむしろ温度分布の時間的・空間的
な変化のみを必要とする、などの理由から、事実上放射
率による温度補正を行う必要がないとする応用例は多
い。従来の放射率測定は非常に大がかりで実験室的な傾
向が強いため、高精度な温度測定を要求されない分野に
おいては、それらを無くし簡便な測定方法を採用する方
が都合の良い場合が多かった。
また、放射率による温度補正を行わなくてもよいとされ
てきた例の一つである。医用分野における測定対象であ
る人の皮膚の放射率は、皮膚表面から放射される赤外線
の多くが含まれる3〜14[μm]の波長域では、黒体とほ
ぼ同様、すなわちε=1とみなせるとされてきた。その
ため医用サーモグラフィでは、ほとんどの場合、放射率
による温度補正が行われていない。しかし、その根拠と
して今日でもしばしば引用されるHardyらの実験の記述
を調べると、皮膚温を測定するのに、外気温による誤差
を除くため、外気温と皮膚とをほぼ等温に保ったと記さ
れている。仮にこの条件で放射エネルギを測ったとすれ
ば、放射率に関係なく黒体と同じ放射エネルギが観測さ
れることになるため、誤って放射率がほぼ1であるとみ
なしてしまう。
る多くの報告がなされているが、同種の物体であっても
個体間、部位間で放射率が異なる、あるいは赤外線の波
長によっても放射率が変化する(波長依存性)などの問
題もあって、0.9以上であること以外は必ずしも一致し
ていない。そのため、文献から正確な皮膚放射率を決定
することは困難である。以上のような放射率に関する種
々の問題を考慮せず、人の皮膚を黒体とみなして、放射
率による温度補正を行わなかった場合、測定された温度
には、通常の室温の範囲内で1.0[℃]程度の測定誤差が
生じることになる。一般の臨床用水銀体温計が、20[℃]
〜45[℃]程度の比較的狭い温度範囲で、0.1[℃]程度の
測定精度を持つことを考えると、この誤差は決して小さ
いものではない。
の臨床応用例の多くは左右差や異常パターンの発見など
のいわゆるパターン認識に頼った診断となっている。こ
のような診断では、生体の皮膚表面の温度情報を十分に
活用しているとは言い難い。もし、サーモグラフィ等に
よる測定の精度を向上させることができれば、現在のパ
ターン認識に頼ったサーモグラフィによる診断を、より
多くの生理量を定量化する方向へ転換させていくことが
できると考えられる。体表温とそれに関連した種々の生
理量の秤量が可能になれば、より広い臨床の場でのサー
モグラフィ利用が期待できる。
るための方法としては、環境放射温度切り換え法があ
る。この環境放射温度切り換え法の利点は以下の通りで
ある。まず、他の測定法と比較した場合、非常に簡便な
測定が可能であることが挙げられる。放射測定法では参
照黒体を必要としたが、本測定法において参照黒体は不
要で、測定対象に対する温度制御の必要もないため、測
定開始までの準備が少なくて済む。また、画像として表
すことを考えた場合、反射測定法では反射鏡の焦点位置
近傍の放射率しか測定できないといった問題があり、不
適である。それに対して本測定法を用いれば、測定範囲
全域の環境放射温度を切り換えることで必要な範囲の放
射率測定が可能になる。さらに、本測定法では放射率の
他に熱浸透率を測定することも可能で、2つの異なる熱
物性値を1つの手法で同時に測定できるという利点もあ
る。以下にその測定原理について詳しく説明する。
物体は灰色体であって、その表面では物体からの熱放射
が反射される。したがって、灰色体の表面からの熱放射
には、その物体自体からの放射だけでなく、反射成分も
含まれている。環境放射温度切り換え法では、この環境
からの反射成分を利用して、対象表面の放射率を算出す
る。ここで、ある物体(灰色体)の表面温度を、サーモ
グラフィ(あるいは赤外放射計)を用いて測定する場合
を図1に示す。図1において、物体表面からカメラに入
射する放射エネルギは、物体自体からの放射エネルギε
W(Ts)と、環境からの放射エネルギW(Ta)のう
ち、物体表面で反射された成分(1−ε)W(Ta)の
2種類である。このことから、実際にサーモグラフィで
測定される放射エネルギは、その見かけ上の温度をTr
[K]とすれば、式(1)のように表されることがわか
る。
m2] Ta :環境放射温度 [K] Ts :対象物体の温度 [K] ε :放射率 ここで、環境放射温度をTaLからTaHへステップ状に変
化させた場合を考える。このとき、温度切り換えが十分
に高速であれば、対象表面の温度Ts[K]は変化しない
と考えられる。すると、式(1)より、式(2),
(3)の二式が得られる。
温度はサーモグラフィによって測定されるので、環境放
射温度の変化が既知であれば未知数はεとTsの2つだ
けとなるため、これを解くことで対象表面の放射率を算
出することが出来る(式(4))。
は式(3))に代入することで、対象表面の真の温度を
求めることができる(式(5))。
の放射エネルギであるが、Stefan-Boltzmannの法則を用
いることで、最終的には温度を得ることが出来る。
出および放射率による温度補正のほかに、熱浸透率の算
出も可能である。熱浸透率は熱伝導率κ[W/mK],密
度ρ[kg/m3],比熱c[J/kgK]の積の平方根(単位[W
s0.5/m2K])で表される熱物性値であり、その測定原
理を以下に述べる。いま、環境放射温度TaL[K]の下で
表面温度Ts0[K]の物体が熱的に平衡状態にあるとする
と、この物体表面における放射熱交換は見かけ上存在し
ない。ここで、環境放射温度をTaL[K]からTaH[K]に
ステップ状に変化させると、熱流密度の変化Q[W/m3]
が物体表面に加えられる。これにより、物体の表面温度
は変化するが、Buettnerによると、その表面温度T
s(t)[K]の変化は、変化を受けた時点をt=0とし
て、
mannの法則から、式(7)のように表される。
たとすれば、変化を受けた直後および時刻tにおけるサ
ーモグラフィ温度出力をそれぞれTrH,Tr(t)とし
て、
(6)と式(7)もしくは(9)を用いることで、対象
の熱浸透率を算出することが出来る。
答速度の速いサーモカメラと、環境放射温度をステップ
状に変化させることが必要である。環境放射温度を設定
するには、対象物体表面の周囲全域に対し、温度を一定
に保持した黒体の壁で囲めばよい。さらに、環境放射温
度のステップ状変化にはこの黒体の壁の温度をステップ
状に切り換えればよい。これを実現するための測定系の
概要を図2に示す。
0において、測定対象を覆うようなフード20を用意
し、フード温度制御装置40を用いて、この内部の温度
をステップ状に切り換えることで環境放射温度切り換え
を実現している。フード20の内面にはフレキシブル基
板で製作した黒色艶消し塗料を塗布したヒータが貼り付
けられており、これに対する通電量をフード温度制御装
置40で制御することで、ステップ状温度変化が得られ
る。サーモカメラ10はサンプリング周期1/30[sec]
(最速時)での連続取り込みが可能で、環境放射温度を
切り換える前、切り換えた後の測定対象の温度変化を逐
次取り込み、パーソナル・コンピュータ(PC)30に
転送できる。測定の開始・終了および画像データの収集
等、測定の一連の制御は全てPC30で行っている。得
られた画像データはPC30上で処理され、最終的な熱
物性値画像を得ている。フード20の形状は、測定対
象を覆えるような形であること,測定対象側からサー
モカメラ側開口部を臨む立体角が可能な限り小さくある
こと,サーモカメラの撮影範囲と合っていること,の
3つの条件が必要である。フード20の内面にはヒータ
を配置し、実質的にこの温度を切り換えることによって
環境放射温度切り換えを実現している。既に述べたよう
に、環境放射温度は瞬時に切り換わらなければならな
い。そのため、ヒータの設計に関して注意すべきこと
は、ヒータ自身の温度が短い時間で変化できるよう、比
熱の小さな材質を用いるとともに全体の質量をできるだ
け小さくし、熱容量の可能な限り抑えなければならな
い。理想的な環境放射温度切り換えには、きわめて短
時間で切り換えが完了すること,その後の温度が一定
であること,の2つを満たすことが必要である。それぞ
れの要求を満たすようにするために、フード温度制御装
置40には、異なる温度制御方法を持つ2種類のユニッ
トを用意し、それらを組み合わせることで理想的な変化
を実現した。具体的には、大容量コンデンサからの放電
によって環境放射温度を急速に切り換える放電制御部
と、その後の温度を一定に保つ温度維持部である。2つ
のユニットはどちらも同じフード(ヒータ)の温度を制
御するためのものである。そのため、それぞれのユニッ
トで別々に温度検出部を持つのでは効率が悪いし、なに
よりそれぞれのセンサ間のばらつきが問題となると考え
られる。そこで、温度の検出部についてはユニット間で
共有している。
え法によって熱物性値を算出する場合、環境放射温度の
変化を正しく把握することが重要である。誤った値を用
いれば当然正しい熱物性値は得られない。これまではフ
ード20下面の1点を測って環境放射温度の変化と見な
してきた。実際の測定前には、それがステップ状に切り
換わるようフード温度制御装置の調整を行って、その後
の計算はその変化をもとに行っていた。しかし、フード
20の内は一様でなく、これまでの方法は妥当であると
は言えない。
目的は、環境放射温度切り換え法によって、温度、放射
率、熱浸透率等の正確な熱物性値を求めることである。
に、本発明は、環境放射温度切り替え法による熱物性値
測定装置であって、前記熱物性値測定装置は、ステップ
状に環境放射温度を切り替えることができる放射源と、
前記放射源の温度を制御する温度制御部と、温度を測定
できる温度計測部と、前記温度制御部の制御、温度計測
部の制御および測定計算処理を行う処理システムとを備
え、複数の放射率を有する一定温度の試験片のサーモグ
ラフィ画像から、前記放射源による実効環境放射温度を
求め、その後に、前記実効環境放射温度を用いて、測定
対象の熱物性値を算出することを特徴とする。上述の構
成により、環境温度の把握を実効環境放射温度を求める
ことで行い、この実効環境放射温度により、温度、放射
率、熱浸透率等の熱物性値を正確に求めることができ
る。前記試験片は乱反射する面を有しており、塗料を塗
布することで、異なる複数の放射率を得ることができ
る。前記温度計測部は、2点以上を同時に測定可能な温
度計とすることができる。前記温度計測部は、サーモカ
メラであることも可能で、その場合、前記処理システム
は、サーモグラフィ画像処理を行うことができる必要が
ある。このとき、前記試験片は、同一の試験片に異なる
複数の放射率を有するものとしたり、前記試験片と前記
測定対象のサーモグラフィ画像は、同一撮影画像中にあ
るようにしたりすることができる。また、前記試験片
は、少なくとも2つあり、それぞれ異なる温度に設定さ
れていて、前記複数の試験片のサーモグラフィ画像か
ら、切り換え前後の実効環境放射温度を算出することも
できる。
して詳細に説明する。さて、仮に表面で乱反射する物体
に対して測定を行うと、図2の熱物性値測定装置100
において、たとえフード20の内部に温度のばらつきが
あったとしても、おそらくこれらを均等に反射すると考
えられる。そして、その測定対象の放射率が一様であれ
ば、その対象における環境放射温度の反射成分はその対
象内のどの部分でも同じ値として、サーモカメラ10で
認識されると考えられる。つまり、表面で乱反射する物
体では周囲から受ける様々な温度放射を平均化したもの
を反射していると考えられる。このとき平均化したもの
を、測定対象にとって意味のある環境放射温度というこ
とで「実効環境放射温度」と定義する。ここで述べるよ
うに、このような仮定に基づいて測定を行えば、従来よ
り信頼度の高い熱物性値を求めることが可能である。以
下にその実効環境放射温度を求める方法を説明する。
えると、測定対象のサーモグラフィ温度出力値もTrLか
らTrHに変化する。これらの関係は、対象の真の表面温
度をTs,放射率をεとしたとき、次式で表される。
つ塗料を塗るなどして、温度が等しく、放射率が異なる
領域を作る。すると、複数の放射率εに対して、それぞ
れ上式が成立する。例えば、2つの放射率ε1,ε2につ
いて、上式が成立するとすると、
とはできないが、W(T s)だけは、次式のように求め
ることができる。
時に測定可能な赤外放射温度計もしくはサーモグラフィ
と、熱赤外線源の前にシャッタを付けるなどした、簡易
な環境放射温度切り替え装置とを組み合わせれば、測定
対象の正確な温度を測定することができる。例えば、赤
外放射温度計を2連式にして、簡易な環境放射温度切り
替え装置を加えるだけで、放射率が不明な対象物の温度
を測定することができる。
(16)で、5つの未知数TaL,TaH,Ts,ε1,ε2
の内、Ts以外の1つが分かれば、残りの4つの未知数
を求めることができる。例えば、TaLが既知である場
合、TaHは次式(17)のように表すことができる。
で、Ts,ε1,ε2を求めることができる。銅板等を放
射率の異なる塗料で塗り分けて、等しいTsと異なるε
をもつ対象物のセットをサーモグラフィの画面の一部に
置くと、TaL,TaHが共に確定できるため、測定画面全
体にTaL,TaHを既知として環境放射切り替え法を適用
でき、画面全体にわたって真の温度と放射率を求めるこ
とができる。例えば、TaLは測定対象を室温に保ったフ
ードで覆うことで容易に求めることができる。上記のフ
ードで高温側のTaHを確定して、測定画面全体にTaL,
TaHを既知として、環境放射切り替え法を適用すること
ができるようになった。
組加えて、以下のように、8元連立方程式を作る。上述
の放射率の異なる塗料で塗り分けた物体を2つ、各々を
異なる温度に保って配置することで配置して、この連立
方程式を得ることが可能になる。
れば、TaL,TaHを確定できるが、放射率は表面形状な
どによって変化するので、フード等を用いて環境放射温
度のいずれかを既知のものとするのが現実的である。し
かし、この方式3によって、フードなどを用いて環境放
射温度のいずれかを既知のものとする必要が無くなっ
た。したがって、サーモグラフィに簡便な環境放射温度
切り替え装置を組み合わせ、その画面に放射率の異なる
塗料で塗り分けた物体を2つ、各々を異なる温度に保っ
て配置することで、画面全体で環境放射温度切り替え法
を用いた熱物性計測が可能になる。簡便な環境放射切り
替え装置であっても、同じ場所での短時間内の繰り返し
では、TaL,TaHに高い再現性があると期待できるの
で、一度この方法でTaL,T aHを確定すれば、その後は
そのTaL,TaHを用いて測定することが可能となる。
射温度を求めるためには、真の表面温度が等しくかつ放
射率の異なる物体を少なくとも2つ用意する必要がある
(ただし、真の表面温度は切り換え前の環境放射温度と
同じであってはならない)。そこで、1枚のアルミ板を
4つの領域に分け、それぞれに別の表面加工を施すこと
で異なる放射率が得られるようにした。さらにその裏側
に熱源を当てて同じ温度に温めることにした。実際に
は、図3のように、4つの領域に分けられ、別の表面加
工を施したアルミ板72をプラスチック・ケース70に
張って、これを図2に示す熱物性値測定装置100を用
いて計測した。プラスチック・ケース70は、1辺が25
[cm]の立方体型のものであり、一面にアルミ板72をは
り、ケースの残った5面は断熱材73で覆った。プラス
チック・ケース70の中には、アルミ板72の温度を決
めるための温水74を入れている。水温は、水晶温度計
60により計測されている。測定の手順について以下に
説明する。場合により変わることはあるが、基本的な手
順は変わらない。まず、アルミ板72の温度が安定する
まで30分から1時間待った後、あらかじめフード温度制
御装置の設定を済ませ、理想的な環境放射温度切り換え
ができるようにしておく。測定はカメラ10の前方にフ
ード20を設置し、その前方の視野内にアルミ板72を
置いて行う。測定前にPC30上で撮影条件を設定す
る。設定項目は環境放射温度切り換え前、切り換え後の
それぞれの撮影枚数および撮影間隔である。全撮影枚数
と測定間隔をかけたものが全測定時間となる。少なくと
も15秒以上長くても40秒くらいがよい。PC30上で測
定開始の信号を送ると、その後は測定終了まで、画像の
取り込みや環境放射温度の切り換えなど測定の一連の動
作が自動的に行われる。測定終了後は、熱物性値算出ア
ルゴリズムに従い計算し、熱物性値分布画像を表示させ
る。測定に用いたアルミ板は、15[cm]四方のもので、表
面で乱反射するよう全体を満遍なくやすりがけをしてあ
る。このアルミ板を4つの領域に分け、そのうち1面は
何も施さず、残りの3面はそれぞれ白,緑,黒のペイン
ト(全て艶消し)を施した。測定は水晶温度計の表示値
が32.000[℃]および32.500[℃]を示したときに行った。
測定の際はこまめに攪拌するなどしてケース内で温度差
が生じないよう心がけた。
実効環境放射温度は室温とすればいいのだが、これを別
の温度計で測定するのではなく、サーモグラフィ画像か
ら求めることにした。具体的には、図4に示すサーモグ
ラフィ画像において、サーモグラフィ画像に映る背景部
分(この場合、網目部分)から任意に抽出した1800点の
温度平均値をとった。切り換え後の実効環境放射温度の
求め方を、図5を用いて説明する。
放射率の互いに異なる4点、すなわちアルミ板の各領域
から1点、計4点の測定データに対し、先に求めた切り
換え前の実効環境放射温度をもとに、式(5)において
切り換え後の環境放射温度の値を変えたとき、計算して
求まる真の表面温度がどのようになるかを表したもので
ある。なお、この4点は4つの領域が互いに接するアル
ミ板中心付近からそれぞれ選択した。アルミ板は熱の良
導体であり内部でそれほど温度差があるとは考えられな
いが、少しでもその温度差が生じないよう、互いの位置
が近い4点となるようにした。図5のグラフに示した、
これらの曲線は理論上全て1点で交わるはずであり、こ
の図を見ると実際にほぼ1点で交わっていることが分か
る。そこでこの交点を求めればよい。4本の曲線があ
り、各々の2本の曲線から1つの交点が求まるから、合
計で6つの交点が得られる。理想ではこれらが1点で交
わるのだが、実際は様々な誤差の要因があり、きれいに
1点では交わらない。そこで、これらの平均をとること
にした。平均の仕方であるが、6つの値のうち最大値と
最小値の除いた4点を平均することにした。なお、これ
らは実際のところ、図からでなく、式(16)の計算を
もとに求めている。
にまとめる。
との熱物性値計算を行った。基準温度すなわち水晶温度
計の指示値が32.000[℃]であったときの結果を表2にま
とめる。また、これが32.500[℃]であったときの結果を
表3にまとめる。なお、画素数は各領域1000点とした。
性値(32.000[℃]) ※ 値は全て平均値±標準偏差
性値(32.500[℃]) ※ 値は全て平均値±標準偏差 上記の結果において、水晶温度計が示した温度がアルミ
板の真の表面温度であったとすれば、サーモグラフィの
見かけ上の温度は真値と比べてやすりがけ部分で7[℃]
以上も低く、最も真値に近い黒色塗料部分でさえ約1
[℃]低かった。これに対し、環境放射温度切り換え法に
よって求めた補正温度は、やすりがけ部分で約1[℃]の
ずれしか生じず、黒色塗料部分に至っては約0.1[℃]、
全体でも約0.4[℃]のずれが生じるにとどまった。以上
のことから、我々の測定系において非常に精度の高い放
射熱測定が行えることが明らかになった。なお、誤差は
例えば、アルミ板で乱反射面ができていない等によるも
のと考えられる。このため、乱反射面を得るための加工
に、やすりがけでは無く、サンドブラスト加工など、よ
り理想的な乱反射面を得られる加工方法を採用するなど
すれば、より精度が上がると思われる。
療現場で頻繁に使用されるので、生体計測の際にもこの
方法が適用できることが望ましい。実効環境放射温度を
求めるには、同じ温度で異なる放射率を持つ試験片があ
ればよいから、他の対象においてこの方法を適用するに
は、対象とこの試験片を同時に測定すればよい。ここで
は、生体計測における応用について説明する。試験片と
しては、前に説明したアルミ板を使用するのも1つの手
である。しかし、フードの測定対象側開口部は235[mm]
四方で、一方アルミ板の大きさは150[mm]四方であるか
ら、フードの前にアルミ板を置いてしまうと、それだけ
でもう他のものを測れなくなってしまう。そこで、図6
に示すように、小さなチップ型の試験片(チップ)80
を製作した。図6(c)に示すように、試験片80は、
大きさ12×14[mm]の小さな銅板にまず全面やすりがけを
し、異なる放射率が得られるようアルミ板試験片のとき
と同じく4つの領域に分け、そのうち3つの面にはそれ
ぞれ白,緑,黒のペイント(全て艶消し)を施した。ま
た、試験片80は切り換え前の環境放射温度とは異なる
温度で全面等しく保たなければならないが、その手段と
して生体そのものの熱を利用することにした。図6
(b)に示すように、試験片80を測定対象90の近傍
に粘着テープ82で貼り付け、この温度が安定するまで
そのまま10分以上時間をおくようにした。前に説明した
実効環境放射温度の決定に準じて、図6(a)に示すよ
うに、切り換え前および切り換え後の実効環境放射温度
を求めた。表4にその結果を示す。
7に示すように、測定対象90の網目部分(20×20ピク
セル)92における、それぞれの熱物性値の平均および
標準偏差を表5に示す。
領域が複数存在する試験片を同じ温度に保たなければな
らないのだが、それだけでなく、その温度が切り換え前
の環境放射温度と同じであってはならない。そのため、
何らかの方法で試験片を加熱もしくは冷却することが必
要となる。その方法として、ここでは生体そのものの熱
を利用した。この方法であれば、用意するのは試験片1
枚のみであり、簡便さという点で、優れた方法である。
このように、小さな銅板の試験片を生体に貼り付け、こ
れらを同時に測定することで、実効環境放射温度を求め
てより信頼度の高い熱物性値を算出する方法が、生体計
測においても適用可能であると分かった。非常に簡便な
測定が可能であるため、臨床での幅広い応用が期待でき
る。
明した方式2では、切り換え後の実効環境放射温度を計
算により算出している。以下では、方式3により、切り
換え前の実効環境放射温度も計算により求めることで、
さらに正確に熱物性値を測定することを説明する。さ
て、前述の測定装置で大きなフードが必要となっていた
のは、環境放射温度切り換え法を適用するにあたって、
切り換え前後の環境放射温度が既知でなければならなか
ったためである。つまり、一様な温度を持つフードで測
定対象を覆ったならば、その限定された空間の中ではフ
ードの温度を環境放射温度とみなしてよいため、これを
定めることができると考えられたからである。もっと
も、実際はフード内を一様な温度分布にすることは難し
い。しかし、前に説明した理論によれば、測定時に同じ
表面温度で複数の異なる放射率の領域を持つ試験片が2
枚以上あり、さらにこれらが別々の温度に保たれていた
とすれば、これらを測定対象と同時に映し込むことによ
って、環境放射温度を切り換えたときにその前後の温度
が分かっていなくても、計算で求められる。そのため、
これによってフード内のばらつきに関わらず測定できる
ようになる。そして、実はそれだけでなく、フードなし
で測定を行える可能性が出てきた。それを、測定を行う
ための測定系を示した図8を用いて、以下に説明する。
験片を2枚使用する方式3を用いると、切り換え前後の
実効環境放射温度を求められるようになる。そのため、
何かしらの手段で測定時の環境状態を変化させたとして
も、その変化は計算で求まってしまう。その何かしらの
手段とは必ずしもフードでなければいけないとは限らな
い。離れたところにある電気ストーブのスイッチが入っ
た、白熱電球が点灯した、などどんな変化でも構わない
と考えられる。ただ、本当に何でも構わないかというと
そうではなく、実際はサーモカメラ10の測定感度波長
帯域が3〜5[μm]であるので、できればここにピーク
を持った変化であることが望ましい。そこで、図8にお
いては、ハロゲンヒータ25を用いている。現在、市販
されているハロゲンヒータの中に上記の条件を満たすも
のがあることが確認されている。ハロゲンヒータ25に
は反射鏡27が取り付けられ、その向きは例えば、ステ
ッピング・モータ29(図示せず)で変えられるように
なっている。測定前は反射鏡の向きを測定対象の反対側
に向けておき、この向きを測定対象側に切り換えること
で環境放射温度の切り換えが実現できる。なお、図8で
は、ヒータは1本しか用意されていないが、複数本用意
して多方面から照らすようにしてもよい。これは、測定
対象や試験片の表面がいつでも完全な乱反射面であると
は限らないため、その場合に少しでも空間の温度分布の
偏りを小さくした方がよいからである。
放射率を持つ試験片85の2枚が入り込むようにして行
う。試験片85は、例えばサーモスタット87で加温す
るようにしてある。なお、それぞれの試験片には別々の
サーモスタット87が貼り付けられており、サーモスタ
ット温度設定装置89で互いの温度が異なるようにして
ある。こうすることで切り換え前および切り換え後の実
効環境放射温度を求めることが可能となる。以上のよう
にして環境放射温度切り換えが実現でき、さらにその値
が分かったとすれば、あとの熱物性値計算は非常に容易
である。上記の計測は一定の熱放射を行っている熱源を
測定対象に向けたり背けたりするだけであり、基本的に
機械式装置と同じ発想である。しかし、それと比べてフ
ードがなくなるだけでも次のような利点が考えられる。
まず、装置全体を大幅に小型化できることである。そも
そもこれまで装置を小型化できなかったのはフードの形
状が大きかったためだと言える。次に、フードの大きさ
にとらわれない測定が可能になることも挙げられる。さ
らに、フードをなくすことで測定の安全性が増すことも
見逃せない。ハロゲン・ヒータも非常に高い熱を出すの
でその取り扱いには注意を要するが、少なくとも被験者
から距離をおくことができるので被験者にとっては安全
な測定が行えるようになると考えられる。
ることで、環境放射切り換え法による熱物性値の測定を
正確に行うことができる。
環境温度との関係を説明する図である。
できる、サーモグラフィを用いた熱物性値測定装置の構
成を示す図である。
環境放射温度を測定することを説明する図である。
である。
図である。
す図である。
Claims (7)
- 【請求項1】環境放射温度切り替え法による熱物性値測
定装置であって、 前記熱物性値測定装置は、ステップ状に環境放射温度を
切り替えることができる放射源と、 前記放射源の温度を制御する温度制御部と、 温度を測定できる温度計測部と、 前記温度制御部の制御、温度計測部の制御および測定計
算処理を行う処理システムとを備え、 複数の放射率を有する一定温度の試験片の温度を測定し
て、前記放射源による実効環境放射温度を求め、 その後に、前記実効環境放射温度を用いて、測定対象の
熱物性値を算出することを特徴とする熱物性値測定装
置。 - 【請求項2】請求項1記載の熱物性値測定装置におい
て、 前記試験片は、乱反射する面に塗料を塗布することで、
異なる複数の放射率を有するようにしたことを特徴とす
る熱物性値測定装置。 - 【請求項3】請求項1又2に記載の熱物性値測定装置に
おいて、 前記温度計測部は、2点以上を同時に測定可能な放射温
度計であることを特徴とする熱物性値測定装置。 - 【請求項4】請求項1又は2に記載の熱物性値測定装置
において、 前記温度計測部はサーモカメラであり、前記処理システ
ムはサーモグラフィ画像処理を行うことを特徴とする熱
物性値測定装置。 - 【請求項5】請求項4記載の熱物性値測定装置におい
て、 前記試験片は、同一の試験片に異なる複数の放射率を有
するものであることを特徴とする熱物性値測定装置。 - 【請求項6】請求項5記載の熱物性値測定装置におい
て、 前記試験片と前記測定対象のサーモグラフィ画像は、同
一撮影画像中にあることを特徴とする熱物性値測定装
置。 - 【請求項7】請求項4又は5に記載の熱物性値測定装置
において、 前記試験片は、少なくとも2つあり、それぞれ異なる温
度に設定されていて、前記複数の試験片のサーモグラフ
ィ画像から、切り換え前後の実効環境放射温度を算出す
ることを特徴とする熱物性値測定装置。
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