JP2001143971A - エッチング安定性に優れた低圧用硬質電解Al箔およびその製法 - Google Patents

エッチング安定性に優れた低圧用硬質電解Al箔およびその製法

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克浩 松門
Shigeaki Miyauchi
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 材料因子の許容範囲を広げた場合でも、安定
して高レベルのエッチング性と静電容量を得ることので
きる低圧用硬質電解Al箔とその製法を確立すること。 【解決手段】 Alの純度が99.9%以上で、析出F
e量が25ppm以下、析出Si量が20ppm以下で
あり、表面酸化皮膜厚さが10〜70Åで、且つ、箔表
面から少なくとも深さ1μmまでの転位セルの平均直径
が1.0〜3.0μmであるエッチング安定性に優れた
低圧用硬質電解Al箔を開示すると共に、この様な要件
を満たすAl箔を確実に得ることのできる製法を開示す
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エッチング安定性
に優れた低圧用の硬質電解Al箔とその製法に関するも
のである。
【0002】
【従来の技術】電解コンデンサの静電容量は、極板箔の
面積Sと極板間距離dの逆数との積(S/d)にほぼ比
例して増加することが確認されている。そこで、通常の
電解コンデンサ用Al箔には、酸溶液中でエッチング処
理を施して粗面化することにより、実効面積の拡大を図
っている。
【0003】電解エッチングを行う場合、電気量や電解
液組成などの電解条件により、ある範囲まではAlの溶
解量を増加させて拡面率を大きくすることができる。し
かし、拡面率の増大を期して多量のAlを溶解させる
と、Al箔自体の厚さ減少による機械的強度の低下が軽
視できなくなり、また、エッチングに必要な消費電力が
増大するといった問題も生じてくる。従って、できるだ
け少ないAl溶解量で高い拡面率を得ること、つまり、
効率の良い拡面処理により静電容量を増大させることが
望ましい。
【0004】低圧用硬質電解Al箔は、通常、冷間圧延
後の軟化焼鈍なしでエッチングに供されるため、エッチ
ング時のAlの溶解挙動は加工組織や析出物などによっ
て大きな影響を受け、安定したエッチング性を得ること
は容易でない。そこで、安定したエッチング性と高レベ
ルの静電容量を有する硬質電解Al箔を得るべく、これ
まで、Al箔組成の制御、圧延前の均質化処理による析
出・固溶元素の制御、表面酸化皮膜性状の制御などが検
討されているが、圧延後の箔組織制御に関する改善例は
少ない。
【0005】圧延後の箔組織を制御することによって硬
質Al箔のエッチング性を安定化させる試みとしては、
たとえば特開平4−179110号公報が挙げられる。
本公報に開示された方法では、Al純度を99.9%以
上、析出Fe量および析出Si量を10ppm以下、サ
ブグレインの平均直径を20μm以下、表面酸化皮膜の
厚さを10〜30Å、表面粗さを0.1〜0.5μmの
範囲に規定することにより、安定したエッチング特性と
静電容量が得られると記載されている。しかし、上記各
規定要件は非常に狭い範囲に限定されており、全ての材
料因子を厳しく制御することが必要となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこうした従来
技術の問題点に着目してなされたものであり、その課題
は、材料因子の許容範囲を広げた場合でも、安定して高
レベルのエッチング性と静電容量が得られる様な低圧用
硬質電解Al箔を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を達成すること
のできた本発明の低圧用硬質電解Al箔とは、Al純度
が99.9%以上で、析出Fe量が25ppm以下、析
出Si量が20ppm以下であり、表面酸化皮膜厚さが
10〜70Åで、且つ、箔表面から少なくとも深さ1μ
mまでの転位セルの平均直径が1.0〜3.0μmの範
囲であるところに要旨を有している。
【0008】即ち本発明では、Al箔の表面から少なく
とも深さ1μmまでの転位セルの平均直径をDとしたと
き、Dを1.0≦D≦3.0μmの範囲に制御したもの
は、析出Fe量が25ppm以下、析出Si量が20p
pm以下、表面酸化皮膜厚が10〜70Åといった、従
来材に比べて広い許容範囲の析出Fe量、析出Si量、
酸化膜厚さ領域においても、安定したエッチング性と高
い静電容量を示す低圧用硬質電解Al箔が得られること
を知り、上記本発明に想到したものである。
【0009】また本発明の製法は、上記エッチング安定
性に優れた低圧用硬質電解Al箔の製造に適した方法を
提供するもので、Al純度が99.9質量%以上で、F
e含有量が10〜200ppm、Si含有量が10〜2
00ppmであるAl箔に、70〜200℃×30〜1
200秒の低温・短時間の熱処理を施すところに要旨を
有している。
【0010】
【発明の実施の形態】従来の低圧用硬質電解Al箔は、
前述の如く冷間圧延ままでエッチングに供されるため、
ピット発生やその成長は材料組織に大きく依存する。そ
のため、安定したエッチング性を得るには、材料組織を
厳しく制御する必要があった。
【0011】本発明の低圧用硬質電解Al箔は、たとえ
ば大気中で70〜200℃、30〜1200secとい
った低温かつ短時間の熱処理で、Al箔表面から少なく
とも深さ1μmまでの転位セルの平均直径Dを1.0≦
D≦3.0μmの範囲に制御したものである。ここで転
位セルとは、加工硬化した金属に見られる細胞状に配列
した転位で形成されるセルをいい、該転位セルの平均直
径が上記範囲に制御されたAl箔は、従来材に比べて広
い許容範囲の析出Fe量、析出Si量および酸化膜厚で
あっても安定して優れたエッチング性を示し、延いては
高レベルの静電容量を示すものとなる。
【0012】低圧用硬質電解Al箔のエッチングは、通
常、酸溶液中での定電流の交流電解によって行われるこ
とが多く、該交流電解では、カソードサイクルで水素還
元が起こってピット内のpHが上昇するため、水酸化物
が生成してピット内に沈積する。ピット径が小さい場合
は、ピット内外の液交換が不十分になり、アノードサイ
クル時にもpH低下が起こらないため水酸化物皮膜がピ
ット内に堆積し、Alの溶解が妨げられる。従って円滑
なAlの溶解を確保するには、ピット内外の液交換が十
分に行われるに足るサイズのピット径が必要となる。
【0013】ピット発生は、Al箔表面における転位等
の材料欠陥部で起こり易く、そのため転位セル径が小さ
い程、ピットの発生数は増加する。定電流電解ではAl
の溶解量は一定であるので、ピット数が増大するにつれ
てピット径は小さくなる。そして、転位セル径が1.0
μm未満である場合に発生するピット径は小さく、その
様な小さなピット径では、該ピット内外の液交換が不十
分となってAlの溶解量が減少し、結果として実効面積
の拡大が不十分となり、満足のいく静電容量の増大が果
たせなくなる。一方、転位セル径が3.0μmを超える
と、ピット径が大きくなり過ぎるため全面溶解に近くな
り、その結果として、Al表面の溶解量は増大するもの
の表面積の増加は小さくなって満足のいく静電容量の増
大が果たせなくなる。
【0014】ところが、転位セル径Dが1.0≦D≦
3.0μmの範囲であるものは、液交換が十分に行われ
ると共にAl溶解が集中しない程度の径のピットが発生
し、Al箔表面の拡面処理が効率よく行えるため、安定
して高い静電容量を得ることが可能となる。
【0015】また、上記好適転位セル径範囲が規定され
る深さ位置をAl箔表面より少なくとも1μmと規定し
たのは、エッチングの前処理として行われるアルカリ脱
脂や電解液浸漬などによりAl箔の表面層が除去される
ことを考慮したためである。そして、該好適平均直径範
囲の転位セルがAl箔表面から1μm以下の浅い位置に
しか存在しない場合は、エッチング前処理の程度によっ
ては十分な静電容量が得られないことがある。
【0016】次に、Al箔の析出Fe量を25ppm以
下、析出Si量を20ppm以下に限定した理由は次の
通りである。即ちFeは、Al箔中における固溶限が少
なく、Al3Fe,Al6Fe,Al−Fe−Si化合物
などとして析出し易い。またSiは低温で析出し易いた
め、単体SiやAl−Fe−Si化合物として析出す
る。このようなFe系析出物やSi系析出物は、酸溶液
中でのエッチング時に溶解促進作用を発揮するため、こ
れら析出物の周囲で溶解が集中的に起こり易い。そし
て、Al箔中の析出Fe量が25ppmを超え、あるい
は析出Si量が20ppmを超えると、これら析出部周
辺での溶解集中が顕著になって局所的な脱落が起こり易
くなり、延いては静電容量の増大が阻害されることにな
る。このため、析出Fe量は25ppm以下に、また析
出Si量は20ppm以下に抑えなければならない。
【0017】これらFeおよびSiの析出量を上記の範
囲に制御するには、Al箔中のFe含有量を10ppm
以上、200ppm以下、より好ましくは20ppm以
上、100ppm以下の範囲に、またSi含有量を10
ppm以上、200ppm以下、より好ましくは20p
pm以上、100ppm以下の範囲にすることが望まし
い。
【0018】また、エッチングによるピットの発生はA
l箔表面に存在する酸化皮膜の厚さによっても影響を受
ける。そして、該酸化皮膜厚さが10Å未満では、エッ
チング時の表面溶解が過度に進行し易くなる傾向があ
り、一方、酸化皮膜厚さが70Åを超えると、酸化皮膜
の不均一溶解によってピット発生が局部的に進行する傾
向が生じ、その結果として、ピット数が減少して拡面率
不足となり静電容量の増大にマイナスとなる。こうした
観点から、酸化皮膜厚さのより好ましい範囲は20Å以
上、45Å以下である。
【0019】上記諸要件を満たす本発明のAl箔を製造
するための方法は特に限定されないが、好ましい方法と
しては次の様な方法が挙げられる。
【0020】原料スラブとしては、Al含量が99.9
質量%以上で、好ましくはFe含有量が10ppm以
上、より好ましくは20ppm以上で、200ppm以
下、より好ましくは100ppm以下、Si含有量が1
0ppm以上、より好ましくは20ppm以上で、20
0ppm以下、より好ましくは100ppm以下である
Alスラブを使用し、これを先ずFeやSiを均一に固
溶させるため均熱処理を行う。均熱処理は常法に従って
行なえばよく、通常は550〜650℃で5〜50時間
の範囲から選定される。次いで熱間圧延および冷間圧延
が施されるが、これらも既知の条件を採用すればよい。
但し、冷間圧延の前・後または途中で焼鈍を行なうと、
転位が回復してセルが粗大化する傾向があるので望まし
くない。
【0021】圧延の後、Al箔を有機溶剤またはアルカ
リなどで脱脂洗浄し、大気(もしくは非酸化性雰囲気)中
で低温、短時間の焼鈍を行なうことにより、転位セル
径、析出Fe量、析出Si量および酸化膜厚さの調整を
行なう。このとき、該焼鈍を70℃〜200℃で30〜
1200秒、より好ましくは70〜150℃で30〜5
00秒の低温、短時間で行なうと、本発明で定める前記
好適範囲の転位セル径、析出Fe量、析出Si量および
酸化膜厚さを容易に得ることができる。
【0022】なお、圧延後の脱脂洗浄を省略すると、A
l箔表面に残留した圧延油などの汚れのためエッチング
むらが生じる恐れがあるので、安定したエッチング性を
確保するには圧延後に脱脂洗浄を行なうべきである。ま
た、脱脂洗浄にアルカリ洗浄を採用した場合は、時とし
て表面酸化皮膜厚さが10Åより薄くなることがあるの
で、この場合は、脱脂洗浄後に行なわれる低温焼鈍を酸
化性雰囲気、例えば、水蒸気の存在下で行ない、所定厚
みの酸化皮膜厚さを確保することが必要となる。
【0023】かくして、転位セル径、析出Fe量、析出
Si量および表面酸化膜厚さを適正に制御した低圧用硬
質電解Al箔は、安定したエッチング性と高い静電容量
を有するものとなる。
【0024】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に
説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限
を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範
囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、そ
れらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0025】実施例 Al含有量が99.9質量%以上、Fe含有量が40p
pm、Si含有量が40ppmのAlスラブを使用し、
常法に従って熱間圧延および冷間圧延を行なって得た厚
さ約0.1mmの低圧用硬質電解Al箔を、アセトン洗
浄により脱脂した後、下記表1,2に示す条件(大気中)
で焼鈍し、熱フェノール法による析出Fe量および析出
Si量の分析、FT-IRによる酸化皮膜厚さの測定、
転位セル径の測定を行った。
【0026】Fe,Siの析出量は、熱フェノール分解
により抽出されるFe,Siを原子吸光法によって測定
した。また転位セル径の測定は、硝酸アルコール中での
電解研磨によってAl箔を厚さ方向に薄膜(0.8〜1
μm)化し、TEMによる表面観察を行なってAl箔表
面近傍の転位セル径を測定した。結果を表1,2に示
す。
【0027】次に、上記測定後の各Al箔について、下
記の条件で定電流・交流多段エッチングを行った。尚エ
ッチングを行なう際に、流した電気量(30C/c
2)が全てAlの溶解に消費されたとした場合の理論
溶解減量Wthは、28.0g/m 2となる。
【0028】[エッチング条件] 電解液:混酸水溶液(塩酸:20%+硫酸1%) 液温:50℃ 電気量:30C/cm2(60Hz) 上記エッチングを行った後の試料箔を、20Vで化成し
て静電容量を測定した。Alの溶解減量および理論溶解
減量Wthとの比、静電容量および無処理材の静電容量に
対する比を表1,2に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】エッチング時の実際の溶解減量と理論溶解
減量Wthとの比は拡面化の程度に対応しており、今回採
用したエッチング法では90%前後が最も望ましい。ち
なみに90%を大きく下回る場合は粗面化が不十分であ
り、また90%を大きく超える場合は過度の表面溶解と
表面脱落が起こっており、静電容量の増大は却って小さ
くなる。
【0032】該実験からも明らかな様に、転位セル径が
本発明の規定範囲内に制御されたAl箔は、従来材より
も広いFe,Si析出量や表面酸化皮膜厚さにおいても
理想的な拡面化が行われ、その結果として高静電容量が
安定して得られることが分かる。
【0033】即ち、No.16の無処理材は溶解減量比
が70%未満であるのに対し、No.1〜9(実施例
材)の溶解減量比は87〜91%まで増大している。即
ち本発明にかかるAl箔の静電容量は無処理材の約1.
5倍に増大しており、エッチング性が著しく向上してい
ることが分かる。
【0034】また、70℃より低温の50℃で焼鈍処理
した比較材(No.10〜12)では、Al箔の転位組
織がほとんど回復していないか、あるいは転位セル径が
1.0μm未満であり、溶解減量および静電容量はいず
れも無処理材と同等であり、エッチング性の改善は殆ど
認められない。250℃の高温で焼鈍処理した比較材
(No.13〜15)では、転位セルの平均径が3.0
μmを超えており、溶解減量比は約100%になってい
るが静電容量はほとんど変わっておらず、エッチング特
性の改善効果が殆ど認められない。この試料断面を顕微
鏡で観察したところ、かなり大きな径のピットが多数存
在しており、結果的に表面積の増大が不十分であったこ
とが原因しているものと考えられる。
【0035】次に、No.17〜26は、熱間圧延の条
件を変えることによって析出Fe量および析出Si量を
変化させた例であり、析出Fe量が25ppm以下、析
出Si量が20ppm以下であるNo.17〜20およ
びNo.22〜25では、いずれも溶解減量比が87〜
91%であり、無処理材に対して約1.5倍の静電容量
が得られている。一方、析出Fe量が25ppmを超え
るNo.21および析出Si量が20ppmを超えるN
o.26では、溶解減量比は96〜97%までに増加し
ているものの、静電容量比は1.1倍程度とあまり増加
していない。これは、析出量の過度の増大により部分的
な表面脱落が起こったためと考えられる。
【0036】次にNo.27〜32は、冷間圧延後の焼
鈍雰囲気を変えることにより表面酸化皮膜厚さを変えた
例であり、表面酸化皮膜厚さが10〜70Åの範囲内に
制御されたNo.28〜31では、溶解減量比が87〜
92%で静電容量は約1.5倍に増大しているのに対
し、表面酸化皮膜厚さが10Å未満のNo.27では、
溶解減量比は96.8%であるが静電容量は無処理材の
1.1倍程度に止まっている。これは、酸化皮膜が薄い
ため過度の表面溶解が起こったためと考えられる。
【0037】また、表面酸化皮膜厚さが70Åを超える
No.32では、溶解減量比が80%以下で静電容量は
無処理材の1.3倍程度にとどまっている。これは、皮
膜が厚過ぎるためにピット発生が局部的に偏ったためと
考えられる。
【0038】
【発明の効果】本発明は以上の様に構成されており、従
来材よりも広い許容範囲の析出Fe量、析出Si量およ
び酸化膜厚さにおいても安定したエッチング性を示し、
高い静電容量を有する電解コンデンサ用Al箔を提供し
得ることになった。

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Al純度が99.9質量%以上で、析出
    Fe量が25ppm以下、析出Si量が20ppm以下
    であり、表面酸化皮膜厚さが10〜70Åで、且つ、箔
    表面から少なくとも深さ1μmまでの転位セルの平均直
    径が1.0〜3.0μmであることを特徴とするエッチ
    ング安定性に優れた低圧用硬質電解Al箔。
  2. 【請求項2】 Al純度が99.9質量%以上で、Fe
    含有量が10〜200ppm、Si含有量が10〜20
    0ppmであるAl箔に、70〜200℃×30〜12
    00秒の熱処理を施すことを特徴とするエッチング安定
    性に優れた低圧用硬質電解Al箔の製法。
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