JP2001073064A - 耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料 - Google Patents

耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料

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JP2001073064A
JP2001073064A JP24804099A JP24804099A JP2001073064A JP 2001073064 A JP2001073064 A JP 2001073064A JP 24804099 A JP24804099 A JP 24804099A JP 24804099 A JP24804099 A JP 24804099A JP 2001073064 A JP2001073064 A JP 2001073064A
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delayed fracture
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steel
fracture resistance
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JP24804099A
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English (en)
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Takahito Omura
孝仁 大村
Satoru Yusa
覚 遊佐
Masao Hayakawa
正夫 早川
Toru Hara
原  徹
Saburo Matsuoka
三郎 松岡
Kaneaki Tsuzaki
兼彰 津崎
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IHI Corp
National Research Institute for Metals
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IHI Corp
National Research Institute for Metals
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】 耐遅れ破壊強度を優れたものとした鉄鋼材料
を提供する。 【解決手段】 旧オーステナイト粒界の平坦な部分の平
均寸法を5μm以下とするか、あるいは結晶物内の強度
が、マクロ強度に対し50%以上であるか、もしくはそ
の絶対値が220Hv以上であるものとする。さらに、
上記の鉄鋼材料の製造方法であって、加熱処理、結晶微
細化、固溶強化、折出強化、分散強化、転移強化を施し
たことを特徴とする耐遅れ破壊性にすぐれる鉄鋼材料の
製造方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、耐遅れ破
壊性に優れる鉄鋼材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】鉄鋼材料は構造物や各種輸送
機器等に広く用いられる材料で、優れた力学特性が要求
される。特に遅れ破壊強度は静的強度と同様にあらゆる
用途において重要視される特性で、構造物全体の設計を
左右する因子である。遅れ破壊強度の向上は、構造物の
安全性、信頼性を高めるばかりでなく、使用寿命の長期
化や材料の省資源化にもつながり、社会的な貢献も大き
い。
【0003】このような鉄鋼材料の遅れ破壊強度を向上
させるための方法として従来は、き裂の発生点と考えら
れている粒界、特に旧γ粒界の強度を上げることが考え
られてきている。具体的には、PやSなどによる粒界偏
析を抑制することや、焼戻し温度を上げて粒界炭化物を
球状化させるなどである。そして後者の場合には、高温
焼戻しによる強度低下を防ぐために、焼戻し軟化抵抗の
高いSiの添加、あるいはMoやVを添加して特殊炭化
物を析出させる等の方策が採られている。また、Moや
Vの特殊炭化物は遅れ破壊の原因とされる水素を効果的
にトラップして、粒界への集積を防ぐ役割も果たすとさ
れる。
【0004】しかしながら、これらの従来の方法による
粒界、特に旧γ粒界の強度の向上という手段によっては
鉄鋼材料の遅れ破壊強度の向上には限界があり、現状以
上とするためには別途の方策が必要であるとされてい
る。
【0005】そこでこの出願の発明は、従来技術の限界
を超えて、遅れ破壊強度をより一層向上させることので
きる、全く新しい技術思想による耐遅れ破壊強度に優れ
る鉄鋼材料を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】この出願の発明は、上記
の課題を解決するものとして、第1には、旧オーステナ
イト粒界の平坦な部分の平均寸法が5μm以下であるこ
とを特徴とする耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料を提供す
る。
【0007】また、この出願の発明は、第2には、結晶
粒内の強度を、マクロ強度に対する比として50%以上
であることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料
を、第3には、結晶粒内の強度が、絶対値で220Hv
以上に増大されていることを特徴とする耐遅れ破壊性に
優れる鉄鋼材料を提供する。
【0008】そして、この出願の発明は、第4には、第
1の発明の鉄鋼材料において、結晶粒内の強度がマクロ
強度に対する比として50%以上であるか、もしくはそ
の絶対値が220Hv以上である耐遅れ破壊性に優れる
鉄鋼材料も提供する。
【0009】さらにこの出願の発明は、第5には、前記
第1ないし第4のいずれかの発明の鉄鋼材料の製造方法
であって、加工熱処理を施すことを特徴とする耐遅れ破
壊性に優れる鉄鋼材料を、第6には、前記第2ないし4
のいずれかの発明の鉄鋼材料の製造方法であって、結晶
微細化を施したことを特徴とする耐遅れ破壊性に優れる
鉄鋼材料の製造方法を、第7には、固溶強化を施した製
造方法を、第8には、析出強化を施した製造方法を、第
9には、分散強化を施した製造方法を、第10には、転
位強化を施した製造方法を、第11には、残留応力を利
用した製造方法を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】この出願の発明は、上記のとおり
の特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態につ
いて説明する。
【0011】この出願の発明は、従来とは全く異なる観
点として、旧オーステナイト粒界とその近傍の組織制御
並びに粒内強度の制御によって遅れ破壊強度を向上させ
るとの新しい思想を提出するものである。なお、「旧オ
ーステナイト粒界」との規定は、鉄鋼技術の分野では一
般的な呼称とされているものであって、マルテンサイト
の母相粒界(もとの相の粒界、旧粒界)のことを意味し
ている。 <A>旧オーステナイト粒界とその近傍の組織制御によ
る遅れ破壊強度向上 通常の焼戻しマルテンサイト組織の高強度鋼では、旧オ
ーステナイト粒は数ミクロン程度の平坦な面によって構
成されている。従って、旧オーステナイト粒界は数ミク
ロンに亘って同一面方位をなしており、そこに、図1
(a)に示したように、粒内の通常のラスに比べて著し
く大きいラスが形成されたり、粗大なフィルム状炭化物
が形成されたりする。このような大きなラスは周囲の組
織に比較して容易に変形を起こすために歪みが集中し、
き裂を発生させる一因となり遅れ破壊強度の低下をもた
らすことになる。また粒界上の粗大な炭化物も変形を拘
束して応力集中源となったり、水素の集積場所となって
き裂の発生を容易にし、遅れ破壊強度低下の原因とな
る。
【0012】これに対し旧オーステナイト粒界に加工に
よって微細な凹凸を導入したり、オーステナイト粒径を
微細にする等の方法により旧オーステナイト粒界の平坦
部を微細化すると、たとえば図1(b)に示したよう
に、旧オーステナイト粒界の面方向および面方位は短い
周期で変化することになる。このような短周期での面方
向の変化は遅れ破壊における初期き裂の最小単位の縮小
をもたらすとともに、以後の粒界に沿うき裂の進展に要
するエネルギーが増大することから、遅れ破壊の発生を
抑制する。また、旧オーステナイト粒界面方位の短周期
での変化は旧オーステナイト粒界に沿う粗大なラスの形
成を抑制し、変形が均一化するために結果として遅れ破
壊強度を向上させると同時に、旧オーステナイト粒界上
に析出する炭化物の析出速度の分散および炭化物結晶方
位の分散をもたらし、粗大なフィルム状の炭化物の析出
を抑制して遅れ破壊強度の向上を可能にする。
【0013】この出願の発明としての、旧オーステナイ
ト粒界の平坦な部分の平均寸法を微小化制御するとの思
想は以上のような知見に基づいている。実際に、種々の
鋼種について検証してみると、遅れ破壊特性と旧オース
テナイト粒界平坦部の平均寸法は、たとえば図2のよう
な関係にある。横軸は旧オーステナイト粒界平坦部の平
均サイズであり、縦軸は遅れ破壊特性を表す限界拡散性
水素量である。旧オーステナイト粒界平坦部の平均寸法
が5μm以下で遅れ破壊強度の向上が見られ、2μm以
下で非常に優れた特性を示すことが確認されている。
【0014】そこで、この出願の第1の発明では、旧オ
ーステナイト粒界の平坦な部分の平均寸法を5μm以下
にした耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料を提供する。平坦
部分の平均寸法はより好適には2μm以下にすることが
考慮されることになる。このような平坦部分の寸法制御
については各種の手段の採用が可能であって、たとえば
加工熱処理による方法や結晶粒微細化の方法等が採用さ
れる。前者の加工熱処理による方法では、塑性変形によ
って旧オーステナイト粒界に凹凸を導入することによ
り、旧オーステナイト粒界の平坦部の寸法を本来の旧オ
ーステナイト粒界サイズより小さくすることができ、平
均寸法を5μm以下、さらには2μm以下とすることが
可能となる。結晶粒微細化のための鍛造、これにともな
う熱処理等の各種方法も考慮される。 <B>粒内の強度制御による遅れ破壊強度向上 前記のように、遅れ破壊は旧オーステナイト粒などの粒
界がき裂の発生点および伝ぱ経路になることが知られて
いるが、その理由の1つとして粒界には塑性変形による
転位の堆積や炭化物等の析出物による応力集中が生じや
すいことが挙げられる。これに対して、粒内に転位のピ
ン止めサイトを多く設けることによって粒界に堆積する
転位数を軽減し、これによって応力集中を抑えて遅れ破
壊特性を向上させることができる。粒内の転位のすべり
運動に対する抵抗を高めることは、粒内の強度を上げる
ことを意味する。マルテンサイト組織は、図3に示すよ
うに、複数の特徴的な組織単位(旧γ粒、パケット、ブ
ロック、ラス)が階層的に重なる形態を持ち、結晶学的
な解析からラス境界以外は大角粒界を形成することが知
られている。したがって、大角粒界を結晶粒界と見なせ
ば、ブロックが結晶粒の最小単位となる。ブロックサイ
ズは通常1μm程度であり、その粒内強度は、圧痕サイ
ズが数100nm程度のナノインデンテーションによっ
て測定可能である。
【0015】この出願の第2および第3の発明は、この
ようにして定義づけられるブロック、つまり結晶粒につ
いて、ブロック・マトリックスとしての粒内の強度を向
上させた鉄鋼材料を提供するものである。
【0016】種々の鋼種について検証してみると、遅れ
破壊特性と粒内強度は、たとえば図4のような関係にあ
る。(a)の横軸はナノインデンテーションで測定され
る粒内硬さとマイクロビッカースで測定されるマクロ硬
さの比を、(b)は粒内硬さの絶対値を表しており、縦
軸はいずれも遅れ破壊特性を表す限界拡散性水素量であ
る。マクロ硬さに対する比が50%以上、粒内硬さの絶
対値が220Hv以上で効果が見られ、マクロ硬さに対
する比が55%以上、Hv250以上で特性が3倍以上
に向上し、さらに70%、330以上で最も良い特性を
示すことが確認されている。
【0017】そこで、この出願の発明では、粒内強度に
ついて、マクロ強度の50%増大されていること、また
は絶対値でHv220以上であることの少くともいずれ
かの要件を満たす耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料とす
る。そして前記のことから、マクロ硬さに対する比は、
より好適には55%以上、さらには70%以上であり、
Hvは、より好適には250以上、さらには330以上
とすることが考慮される。
【0018】以上のような粒内強度の制御については、
従来より金属材料の強化手段として採用されてきた各種
の方法が適宜に採用されてよい。たとえば、固溶強化、
析出強化、分散強化、転位強化、残留応力を利用した方
法等である。また、加工熱処理の方法も有効である。加
工熱処理によれば、塑性変形によって旧オーステナイト
粒界サイズを小さくできるとともに、変形による転位の
導入により粒内の強度向上が図られるからである。これ
らの強化方法は、塑性変形の素過程である転位の運動、
すなわち格子面間のすべりを妨げることによって変形抵
抗を上昇させることを基本としており、以下のように、
その転位の運動を阻害する方法に違いがある。 結晶粒微細化:旧オーステナイト粒などの結晶粒径を小
さくすることによる強化。結晶粒径を小さくすると強度
が上昇するというホール・ペッチの関係(経験式)に基
づく方法。粒界の存在が転位の運動を阻害すると考えら
れている。 固溶強化:鉄元素以外の元素を添加して固溶(固相状態
で溶かし込む)させることによって結晶格子に応力場を
作り、転位の運動を阻害する方法。固溶させる元素、お
よびその量は多岐にわたる。 析出強化:鉄以外の元素を添加して、析出という変態過
程によって母相内に母相よりも変形しにくい粒子等(母
相とは全く別の相)を介在させて、転位の速度を阻害す
る方法。析出物の周囲に形成される結晶格子のひずみも
転位の運動を効果的に阻害する。 分散強化:母相内に母相よりも変形しにくい別の相を粒
子などの形態で介在させることによって、転位の運動を
阻害する方法。介在させる方法としては最初から粒子状
のものを入れる場合を指し、この点で析出強化とは区別
される。 転位強化:正確には転位間相互作用強化。材料に変形を
加えることによって転位の数(密度)を増やし、それら
が絡まり合うなどしてお互いの運動を阻害し合う。引張
試験などで、変形の進行とともに変形応力が高くなるい
わゆる加工硬化の原因とされる。 残留応力:相変態や熱応力等によって発生する材料内部
の応力場が、転位の運動を阻害する方法。
【0019】また、この出願の発明においては、旧オー
ステナイト粒界の平坦部の平均寸法と、前記の粒内強度
とは各々独立して制御要件としてもよいし、双方合わせ
て制御するようにしてもよい。
【0020】なお、この発明が対象とする鉄鋼材料につ
いては、その化学組成が特に限定されることはない。市
販実用品をはじめ各種組成の鉄鋼材料であってよい。疲
労強度や遅れ破壊特性の劣化が特に問題となる引張強度
100Kgf/mm 2以上の鉄鋼材料に適用する場合、 C量は0.1%以上、1.2%以下とするのが望まし
い。
【0021】0.1%以下では、引張強度100Kgf
/mm2が得られないとともに、1.2%以上では、高
炭素による靭性の劣化が懸念される。また、他元素とし
ては、大型部材における焼入れ性を確保するためにMn
の0.3〜3%の添加は有効である。また、それぞれ3
%以下のCr,Mo,Ni,Cu,Siの添加、さらに
は0.1%以上のNb,Ti,V,Bの添加も焼入れ性
および固溶・析出強化の点から有効である。さらに、靭
性の点からP,Sは0.02%以下Alは0.1%以下
であることが望まれる。
【0022】そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく
この出願の発明について詳しく説明する。
【0023】
【実施例】実施例1:市販のJIS SCM440
(0.42%C−0.20%Si−0.83%Mn−
1.08%Cr−0.16%Mo)に対して、図5
(a)に示した手順に従ってオースフォーム−高周波焼
戻し処理を行った。この処理により試料(A鋼、引張強
度1450MPa)を得た。
【0024】また、図5(b)のように通常の焼入れ−
焼戻し処理をした試料(B鋼、引張り強度1403MP
a)も作製した。試料のA鋼およびB鋼について、旧オ
ーステナイト粒界近傍の組織を、SEMおよびTEMに
より観察を行ったところ、通常の焼入れ−焼戻し処理を
行った試料Bでは、図6のように、長範囲に亘って直線
的な旧オーステナイト粒界が観察され、そこに沿って粗
大なラスが形成されている。また場所によっては旧オー
ステナイト粒界に粗大なフィルム状の炭化物が析出して
いることが観察される。
【0025】一方、オースフォーム−高周波焼戻しを行
った試料Aでは、図7のように、旧オーステナイト粒界
には微細な凹凸が導入されている。このような粒界上に
析出した炭化物は、図8に示したように方位が場所によ
って変化し、その結果として、図9に示したように、フ
ィルム状の粗大な炭化物の析出が解消されている。さら
に、オースフォームを実施した材料では旧オーステナイ
ト粒界に沿った粗大なラスの形成は観察されない。
【0026】両者の旧オーステナイト粒界の平坦部平均
寸法は、 A鋼 1.6μm B鋼 11μm であった。
【0027】そこで次に、A鋼およびB鋼の両者につい
て、遅れ破壊試験を行って両者を比較した。遅れ破壊試
験では陰極チャージによって試験片中の平均水素量を変
化させ、Cdメッキを施すことによって試験片中の水素
が散逸しない状態で、試験片に平滑試験片の引張強さの
0.9倍の応力を静的に負荷して破断するまでの時間を
測定した。鋼中水素量は、試験片が破断した後に4重極
質量分析計を用いて昇温分析法により測定した。
【0028】その結果を、前出の図2におけるA点(A
鋼)、B点(B鋼)として示した。この発明の旧オース
テナイト粒界の平坦部平均寸法が1.6μmのA鋼の場
合には限界拡散性水素量が0.9ppmであるのに対
し、比較としてのB鋼では0.3ppmであり、A鋼の
ものは遅れ破壊強度が著しく改善されることが確認され
た。 実施例2:実施例1と同様にして、旧オーステナイト粒
界平坦部の平均寸法が相違する各種の試料を得た。
【0029】平均寸法と遅れ破壊試験の数値との関係に
ついてたとえば図2に示した結果を得た。平均寸法が5
μm以下の場合に優れた耐遅れ破壊性を示すことが確認
された。 実施例3:実施例1と同一の低炭素鋼(A鋼,B鋼)に
対し、粒内強度測定と遅れ破壊試験を行って比較を行っ
た。図10(a)、(b)は、ナノインデンテーション
によって測定された両材の換算ビッカース硬さHv*
ヒストグラムである。用いた圧子は対稜角60°の三角
錐ダイヤモンドで負荷加重は0.23mN、測定点数は
約25点である。押込深さは、A鋼で50〜100n
m、B鋼で100〜150nmであり、圧痕サイズから
見積もられる塑性域径は押込深さの約1.3倍である。
硬さの平均値は、A鋼が約330Hv* 、B鋼が約20
0Hv* と算出され、粒内強度の高い材料が高い遅れ破
壊強度を示す。マクロビッカース硬さはいずれも450
Hvである。図11のAFM像から見積もられるブロッ
クサイズは約1μmであり、ナノインデンテーションに
よる測定はブロック粒内で行われていると判断できる。
A鋼で粒内の強度が上昇しているのは、B鋼に比べて炭
化物が粒内に微細に分散していることによると考えられ
る。
【0030】実施例1に示した遅れ破壊試験で得られた
結果と、マクロ硬さに対する粒中強度の比、粒内強度の
絶対値Hvとの関係を図示したものが前出の図4のA点
(A鋼)、B点(B鋼)である。
【0031】A鋼を例とする粒内強度の高いこの発明の
鉄鋼材料が高い破壊強度を示すことが確認された。 実施例4:低炭素鋼(炭素量0.35wt%)に対しS
i(1.6wt%)を添加した鉄鋼材料(C鋼)とSi
無添加の鉄鋼材料(D鋼)の各々を、通常の焼入れ−焼
戻し処理により作製した。
【0032】このC鋼およびD鋼について、各々、粒内
強度測定と遅れ破壊試験とを行った。図12(a)、
(b)はナノインデーションによって測定された両鋼の
換算ビッカースHv* のヒストグラムである。測定条件
は実施例3と同じである。押込深さはSi添加材で80
〜120nm、無添加材で100〜150nmであり、
硬さの平均値はSi添加材で約240Hv* 、無添加材
で約170Hv* と算出され、遅れ破壊試験により得ら
れた結果の関係を、図4にC点(鋼)、D点(D鋼)と
して示した。粒内強度が高いこの発明のC鋼は遅れ破壊
強度が高いことが確認された。図13に示すAFM像よ
り、ブロックサイズは1μm程度と見積もられることか
ら、ブロックの粒内を測定していると判断できる。Si
添加材で粒内の強度が上昇しているのは、Siが固溶炭
素の拡散を妨げることによって粒内炭化物が微細に分散
することと、Si自信の固溶強化によると考えられる。 実施例5:実施例3および4の場合の鉄鋼材料とは異な
る値のマクロ硬さに対する粒内硬さの比もしくは粒内硬
さの絶対値Hvを持つ鉄鋼材料を作製し、遅れ破壊強度
との関係を評価した。図4にはその結果を示した。
【0033】実施例3および4と同様に、前記の比が5
0%以上であるが、絶対値Hvが220以上の粒内強度
の高い鉄鋼材料は遅れ破壊強度が高いことが確認され
た。
【0034】
【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、この出願の
発明により、従来技術とは別の思想によって耐遅れ破壊
強度を優れたものとした鉄鋼材料が提供される。
【0035】鉄鋼材料の遅れ破壊強度を旧オーステナイ
ト粒界とその近傍の組織制御あるいは粒内強度の制御に
よって向上させる点でこの出願の発明は極めて基本的
な、しかも技術的に重要なシーズとなる。また、構造材
料の機械的特性の中でも特に重要な遅れ破壊特性に係わ
っており、実用化されれば構造物の安全性の向上や、使
用期間を長期化させることが可能となり、社会的、経済
的貢献度は高いと期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】旧オーステナイト粒界平坦部のサイズの縮小の
模式図である。オーステナイト粒界が直線的な場合には
粒界に沿って粗大なラスが形成されたり、フィルム状の
炭化物が形成されてき裂発生の要因となる。また一つの
粒界で発生したき裂は、他の粒界へ伝播して最終破断を
引き起こす。旧オーステナイト粒界のファセットサイズ
を小さくすることにより、き裂発生の要因となる粗大な
ラスやフィルム状の炭化物の形成を防止するとともに、
初期き裂のサイズの縮小やその伝播を抑制することによ
り高遅れ破壊強度が達成できる。
【図2】旧オーステナイト粒界平坦部の平均サイズと遅
れ破壊特性の関係を示した図である。サイズが5μm以
上では、サイズの縮小によって遅れ破壊強度が若干改善
される傾向が見られるが、サイズ5μm以下になると強
度向上が明確になり、特に2μm以下で向上が著しい。
【図3】マルテンサイト組織の模式図である。4つの特
徴的な組織単位が階層的に重なっている。最も大きさナ
イの組織は旧γ粒(粒界:太実線)、それがいくつかの
パケット(粒界:破線)に分割され、さらに細長い形状
のブロック(粒界:細実線)に分かれている。ブロック
は最も小さい単位のラス(円内)で構成され、ラス境界
以外の3つの粒界は大角粒界である。
【図4】遅れ破壊特性と粒内硬さの関係を示した図であ
る。(a)の横軸はナノインデンテーションで測定され
る粒内硬さとマイクロビッカースで測定されるマクロ硬
さの比を、(b)は粒内硬さの絶対値を表しており、縦
軸はいずれも遅れ破壊特性を表す限界拡散性水素量であ
る。
【図5】試料のプロセスパターンを示した図である。オ
ースフォーム−高周波焼戻し処理としては1323Kで
1.2Ksecオーステナイト化した後、4パス2ロー
ルの線材圧延機で仕上温度1086K、減面率50%の
圧延を施して水冷し、その後高周波加熱によって803
Kで10sec焼戻して水冷した。試料のプロセスパタ
ーン。通常の焼入れ−焼戻し処理としては1153Kで
27Ksecオーステナイト化した後油焼入れし、その
後723Kで5.4Ksec焼戻して水冷した。
【図6】JIS SCM440で通常の焼入れ−焼戻し
処理を施した試料のSEMによる組織観察結果を示した
図である。図中には旧オーステナイト粒界の三重点が見
られ、そこから伸びているオーステナイト粒界は直線的
で、そこにフィルム状の炭化物が明瞭に析出している。
また旧オーステナイト粒界に沿って粗大なラスが形成さ
れている。
【図7】JIS SCM440でオースフォーム−高周
波焼戻し処理を施した試料のTEMによる旧オーステナ
イト粒界近傍の観察結果を示した図である。旧オーステ
ナイト粒界には周期が1〜2μm程度の細かい凹凸が形
成されていることがわかる。
【図8】JIS SCM440でオースフォーム−高周
波焼戻し処理を施した試料のTEMによる旧オーステナ
イト粒界上に析出した炭化物の観察結果を示した図であ
る。凹凸のある旧オーステナイト粒界は折れ曲がった短
い直線的な粒界の集合であることが示されている。また
オーステナイト粒界上に析出している炭化物は、析出す
る位置によってその方位が異なることが電子線回折図形
によって確認できる。
【図9】JIS SCM440でオースフォーム−高周
波焼戻し処理を施した試料のSEMによる組織観察結果
を示した図である。図中には斜めに旧オーステナイト粒
界が伸びているが、旧オーステナイト粒界上への炭化物
の析出は粒内とあまり差が無い程度である。また旧オー
ステナイト粒界に沿うような粗大なラスは観察されな
い。
【図10】SCM440鋼のナノ硬さのヒストグラムを
示した図である。ナノインデンテーションによって押込
荷重0.23mNで測定された(a)オースフォーム−
高周波焼戻し処理材、(b)通常の焼入れ−焼戻し処理
材の硬さ値をヒストグラムに整理したもの。測定点数は
両材料ともに25点である。押込深さから塑性変形域の
大きさは100〜200nmと見積もられ、ブロック粒
内の硬さを測定している。オースフォーム−高周波焼戻
し処理材は通常の焼入れ−焼戻し処理材に比べ平均値が
高い。
【図11】SCM440鋼の表面AFM像を示した図で
ある。(a)オースフォーム−高周波焼戻し処理材、
(b)通常の焼入れ−焼戻し処理材の表面のAFM像。
表面の最終仕上げは電解研磨。結晶方位の違いによって
電解研磨速度に違いがあるため、大角粒界には10nm
程度のわずかな段差が生じる。AFMはSEMに比べて
分解能が高いため、この段差を検出することができ、そ
の結果ブロック粒を特定できる。ブロックの幅は両材で
およそ1μmと見積もられ、圧痕サイズの数倍であるこ
とから、ナノインデンテーションで測定された硬さはブ
ロック粒内の強度を反映しているものと判断できる。オ
ースフォーム−高周波焼戻し処理材はブロック内の炭化
物密度が高い。
【図12】低炭素鋼のナノ硬さのヒストグラムを示した
図である。ナノインデンテーションによって測定された
(a)Si添加低炭素鋼、(b)Si無添加低炭素鋼の
硬さ値をヒストグラムに整理したもの。測定条件等は図
8に同じ。Si添加低炭素鋼の硬さの平均値は無添加鋼
に比べて高い値を示す。
【図13】低炭素鋼の表面AFM像を示した図である。
(a)Si添加低炭素鋼、(b)Si無添加低炭素鋼の
表面のAFM像。表面の最終処理は図11と同じ電解研
磨。ブロックの幅は両材でおよそ1μmと見積もられ、
圧痕サイズの数倍であることから、ナノインデンテーシ
ョンで測定された硬さはブロック粒内の強度を反映して
いるものと判断できる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 遊佐 覚 茨城県つくば市千現1丁目2番1号 科学 技術庁金属材料技術研究所内 (72)発明者 早川 正夫 茨城県つくば市千現1丁目2番1号 科学 技術庁金属材料技術研究所内 (72)発明者 原 徹 茨城県つくば市千現1丁目2番1号 科学 技術庁金属材料技術研究所内 (72)発明者 松岡 三郎 茨城県つくば市千現1丁目2番1号 科学 技術庁金属材料技術研究所内 (72)発明者 津崎 兼彰 茨城県つくば市千現1丁目2番1号 科学 技術庁金属材料技術研究所内

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 旧オーステナイト粒界の平坦な部分の平
    均寸法が5μm以下であることを特徴とする耐遅れ破壊
    性に優れる鉄鋼材料。
  2. 【請求項2】 結晶粒内の強度が、マクロ強度に対する
    比として50%以上であることを特徴とする耐遅れ破壊
    性に優れる鉄鋼材料。
  3. 【請求項3】 結晶粒内の強度が、絶対値で220Hv
    以上であることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼
    材料。
  4. 【請求項4】 請求項1の鉄鋼材料において、結晶粒内
    の強度がマクロ強度に対する比として50%以上である
    か、もしくはその絶対値が220Hv以上である耐遅れ
    破壊性に優れる鉄鋼材料。
  5. 【請求項5】 請求項1ないし4のいずれかの鉄鋼材料
    の製造方法であって、加工熱処理を施すことを特徴とす
    る耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料の製造方法。
  6. 【請求項6】 請求項1ないし4のいずれかの鉄鋼材料
    の製造方法であって、結晶微細化を施したことを特徴と
    する耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料の製造方法。
  7. 【請求項7】 請求項2ないし4のいずれかの鉄鋼材料
    の製造方法であって、固溶強化を施したことを特徴とす
    る耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料の製造方法。
  8. 【請求項8】 請求項2ないし4のいずれかの鉄鋼材料
    の製造方法であって、析出強化を施したことを特徴とす
    る耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料の製造方法。
  9. 【請求項9】 請求項2ないし4のいずれかの鉄鋼材料
    の製造方法であって、分散強化を施したことを特徴とす
    る耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料の製造方法。
  10. 【請求項10】 請求項2ないし4のいずれかの鉄鋼材
    料の製造方法であって、転位強化を施したことを特徴と
    する耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料の製造方法。
  11. 【請求項11】 請求項2ないし4のいずれかの鉄鋼材
    料の製造方法であって、残留応力を利用したことを特徴
    とする耐遅れ破壊性に優れる鉄鋼材料の製造方法。
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