JP2001056931A - 磁気ディスク媒体の製造方法 - Google Patents

磁気ディスク媒体の製造方法

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JP2001056931A
JP2001056931A JP11328669A JP32866999A JP2001056931A JP 2001056931 A JP2001056931 A JP 2001056931A JP 11328669 A JP11328669 A JP 11328669A JP 32866999 A JP32866999 A JP 32866999A JP 2001056931 A JP2001056931 A JP 2001056931A
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dlc
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Yasuo Baba
靖男 馬場
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 DLC保護膜を有する磁気ディスク媒体の表
面層にイオン注入を行って、その磁性膜の磁気特性を有
為に劣化させることなくDLC保護膜の摩擦係数を有効
に低減させることのできる、磁気ディスク媒体の製造方
法を提供する。また、DLC保護膜を備えたディスク媒
体の熱処理により劣化したDLC保護膜の膜質の回復を
可能にする磁気ディスク媒体の製造方法を提供する。 【解決手段】 DLC保護膜を有する磁気ディスク媒体
の表面層に、炭素を含む分子イオンを注入することを含
む、磁気ディスク媒体の製造方法。また、低温で成膜し
た高K磁性材料膜を有する磁気ディスク媒体を、磁性膜
上にDLC保護膜を被着させて熱処理し、次いで表面層
に炭素を含む分子イオンを注入することを含む、磁気デ
ィスク媒体の製造方法。好ましい注入分子イオンはCm
n + (mおよびnはそれぞれ1以上の整数を表す)で
表される。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気ディスク媒体
の製造方法に関する。ハードディスク装置においては、
記録密度の増大とともに、機械的信頼性の向上が益々重
要となっている。この理由は、記録密度を上げるために
は、磁気ヘッドと磁気ディスク媒体の間隔(スペーシン
グ、d)を小さくすることが最も重要であるためであ
る。スペーシングの縮小に伴って、磁気ヘッドの先端部
にあってディスク媒体に最も接近しており、記録再生を
司る主要部を収納するスライダーと、ディスク媒体表面
とが接触する機会が増大する。よって、許容される摩耗
量を小さくしなければならなくなる。現在では、スペー
シングは100nmをはるかに下回り、媒体表面を保護
する目的の保護膜の厚さは20nmを下回ってきてい
る。従って、高速状態で使用されるハードディスク装置
の液体潤滑状態にある系が急激に接触(ヘッドクラッシ
ュ)するのを防止することが最重要課題となってきてい
る。
【0002】一方、磁気ディスク媒体の面記録密度は年
々向上しているが、およそ40Gbit/in2 (40
Gbit/6.45cm2 )の面密度において現材料系
の物理的限界に達する。これは、記録情報を保持してい
る磁化状態が、熱エネルギーによって不安定になること
を意味する。すなわち、磁性粒がもつ磁気異方性エネル
ギーが、媒体雑音の低減の要請に基づく磁性粒体積の縮
小化のために、不足してくる。なお、磁気ディスク媒体
では、現在、磁性粒の主成分をCo元素とする材料(C
oCr系材料等)が用いられている。Co結晶粒の磁気
異方性エネルギー定数(K)は4×10-1J/cm
3 (4×106 erg/cc)である。ここで、磁気異
方性エネルギー(E)は磁気異方性エネルギー定数
(K)と磁性粒体積(V)の積(E=KV)で与えられ
る。そこで、面内記録媒体の面密度を今後ともに向上さ
せていくためには、磁気異方性エネルギー定数が高く熱
耐性のある媒体の開発が、必要な段階にきている。
【0003】
【従来の技術】空気膜潤滑を利用した浮動スライダーは
既に50nm以下の浮上が可能になっている。常に接触
の機会があるCSS(コンタクト・スタート・ストップ
(Contact Start Stop))方式では、ヘッドクラッシュ
の防止のために保護膜の耐接触性の向上が重要である。
また、磁気ヘッドと磁気ディスク媒体の接触によって境
界潤滑状態からヘッドクラッシュに至る過程では、保護
膜、潤滑剤、スライダー材料相互で種々の化学反応が生
じることが予想されるが、それを引き起こす要因は摩擦
熱であると考えられている。
【0004】磁気ディスク媒体表面の保護膜に要請され
る基本的な性質は、できる限り薄膜であること、耐摩耗
性であること、静的かつ動的な摩擦係数が低いこと、耐
食性であること等である。このような必要条件を充たす
保護膜としてスパッタカーボン膜が用いられている。こ
の膜は、自己潤滑性があるために、ディスクが致命的な
破壊に至り難いという特長を有する。かかるスパッタカ
ーボン膜としては、現在、ダイアモンドライクカーボン
(DLC)膜が主流である。
【0005】DLC膜の成膜技術について述べるなら
ば、DLC膜はグラファイトターゲットを用いたアルゴ
ンガスプラズマによるDCマグネトロンスパッタ法を使
用して成膜される。この成膜は、低いスパッタリングパ
ワーで行われる。具体的には、1Pa程度のアルゴンガ
ス圧力において、基板温度を室温にして行う。成膜され
たDLC膜は、低い摩擦係数を持ち、自己潤滑性があっ
て、サファイアに近いビッカース硬度を有するので、磁
気ディスク媒体を被覆するのに好適な保護膜である。
【0006】かかるDLC膜の膜質の改善のため、さら
に技術が進んでいる。成膜したDLC膜にC+ イオンを
イオン注入する方法である(B. Bhushan and B. K. Gup
ta,"Friction and wear of ion-implanted diamondlike
carbon and fullerene films for thin-film rigid di
sks", J. Appl. Phys., Vol.75, No.10, pp.6156-6158,
15 May 1994) 。イオン注入量として5×1015cm-2
を用いると、摩擦係数が未処理の膜に比べて半減し、明
らかな改善が見られる。改善の理由は、DLC膜の多結
晶構造にダイアモンド構造が増加したためであると述べ
られている。ただし、彼等が用いたイオン注入エネルギ
ーは200keV(キロ電子ボルト)である。
【0007】また、磁性粒として用いられるCoCr系
材料の改善が現在盛んに進められる一方で、40Gbi
t/in2 (40Gbit/6.45cm2 )超の面密
度で磁気記録が可能な別種の媒体材料の開発が併行して
行なわれている。そのような材料としては、磁気異方性
エネルギー定数K>>4×10-1J/cm3 (4×l0
6 erg/cc)の材料が選ばれ、具体的には、表1に
示すように規則合金FePt、FePd、CoPt、S
mCo5 等が選ばれる。これらは、表1に見るとおり、
K値が非常に高いので、これらの材料で構成される磁性
粒は熱的に安定である。超高密度記録媒体に用いる前記
の規則合金材料を以後、高K材料(または高K磁性材
料)と呼ぶことにする。
【0008】
【表1】
【0009】超高密度記録媒体の膜構成は、現行の膜構
成における磁性膜(CoCr系材料)部分を高K材料に
置き換える。すなわち、下層からガラス基板、下地膜
(通常Crを主成分とする膜を用いることが多い)、高
K材料磁性膜、DLC保護膜の構成となる。下地膜、磁
性膜、保護膜の成膜にはスパッタリング法を用いる。現
在主流のDCマグネトロンスパッタリングでよい。保護
膜の成膜にはプラズマCVD(PCVD)法を用いるこ
ともできる。
【0010】超高密度記録媒体用の高K材料磁性膜の成
膜には、多面的に技術上の配慮が必要である。第一は、
磁性粒径の観点からの配慮であり、第二は、磁性粒径を
制御するための成膜条件の設定についての配慮であり、
第三は、磁性膜中の磁性粒が強磁性の性質を発現するた
めの熱処理についての配慮である。以下に、各々の項目
について説明する。
【0011】第一の、磁性粒径(正確には3次元の粒体
積であるが、以後しばしば1次元の粒径で言い換える)
に関する配慮については、40Gbit/in2 (40
Gbit/6.45cm2 )超の高記録密度に適合させ
るために、磁性粒体積を格段に小さくする。媒体雑音抑
制の必要から、ビットセル内の磁性粒数>1000個の
条件に従うようにする。ビットセル面積の縮小ととも
に、磁性粒径を小さくする。例えば、80Gbit/i
2 (80Gbit/6.45cm2 )の媒体では、磁
性粒径は5.5nm以下にしなければならない。
【0012】第二の、微小な磁性粒径を実現するための
成膜条件の設定に関する配慮について説明するために、
磁性粒径を左右する材料調製の技術要素を挙げると次の
とおりである。 (1)下地膜の結晶粒径 (2)下地膜の膜厚 (3)磁性膜の膜厚 さらに、異なる観点から、磁性粒径を左右する成膜プロ
セスの技術要素を挙げると、まず、下地膜について次の
ものが挙げられる。 (4)下地膜の成膜温度 (5)下地膜の成膜時間 (6)下地膜の成膜時のガス圧 続いて、磁性膜について、同じく (7)磁性膜の成膜温度 (8)磁性膜の成膜時間 (9)磁性膜の成膜時のガス圧 が関係する。
【0013】磁性粒径を左右する材料要素と成膜プロセ
ス要素の背景にある物理的原理は、Thorntonら
が与えたストラクチャー・ゾーン・モデル(Struc
ture Zone Model(SZM))(J.
A.Thornton,“The microstru
cture of sputter−deposite
d coatings.” J. Vac. Sci.
Techno1.,A4, 3059(1986))
によることができる。SZMは、スパッタ薄膜の物理的
構造の成り立ちをよく説明している。成膜時の薄膜表面
にスパッタ粒子が到達して付着した原子の移動度が小さ
いことが、微小な粒径を実現するためのキー・ファクタ
ーであることが分かる。すなわち、薄膜内において粒界
に空隙を持たせる構造を与えることが重要であり、その
ために高ガス圧、低温度で成膜を実施する。これを言い
換えると、付着原子の薄膜表面での拡散が起こらない低
温で、低エネルギーのスパッタ粒子を用い、すなわち、
スパッタ粒子の運動エネルギーが付着表面でマイグレー
ション・エネルギーに変換されることを考慮して、低エ
ネルギーで成膜する。空隙のある粒構造は成膜方向に柱
状構造を作るが、柱の上部は次第に連結し合う傾向があ
るので、膜厚を薄くする(すなわち成膜時間を短くす
る)ことも考慮に入れる。以上のことから、具体的な成
膜条件は前記の(4)〜(9)に関して、成膜温度をで
きるだけ低くし、好ましくは室温にして、0.1〜0.
5nm/sの成膜速度、0.67〜6.7Pa(5〜5
0mTorr)のArガス圧を用いて行う。成膜時間を
調節して、下地膜の膜厚2〜20nm、磁性膜の膜厚2
〜20nmとする。この結果、SZMにおけるゾーン1
に入るスパッタ薄膜ができる。
【0014】ここで、ゾーン1に属する薄膜とは次のよ
うな場合を言う。すなわち、スパッタ粒子は薄膜表面に
到達した後に、移動(マイグレーション)することな
く、到達した表面に堆積するので、シャドウ効果が生
じ、そのため、傾斜面ほど堆積速度は下がり、その結果
得られる、空隙のある粒集合からなる薄膜を言う。な
お、下地膜が空隙のある粒集合からなる薄膜構造を形成
するときに、この構造を引き継いで、磁性膜が空隙のあ
る粒集合からなる薄膜を形成することは、Y.Liue
t al, “Microstructure of
the Cr underlayer and its
effect on Sm−Co/Crthin f
ilms”, J.App1.Phys.77(8),
15 Apri1 1995,pp.3831−383
5に報告がある。
【0015】次に、第三の、成膜した高K材料磁性膜中
の磁性粒が強磁性の性質を発現するための加熱処理につ
いて述べる。この加熱処理は、磁性膜の成膜温度を高温
にすれば、そのままで強磁性を発現するところを、高K
磁性材料を低温(室温)で成膜するために、必要となる
工程である。
【0016】高K材料磁性膜についてこのような回り道
の手順を採用する理由は、次のとおりである。すなわ
ち、磁気ディスク媒体においては前述したようにSZM
のゾーン1に入るような空隙のある粒集合からなる薄膜
を要求しており、ゾーン1に入ることの必要性を要約し
て言えば、媒体雑音を低減させる目的で磁性膜を微粒子
の集合とし、磁性粒間の交換結合をなくすために磁性粒
間に空隙を設けることである。高K材料についてこのゾ
ーン1に入る磁性膜を得るためには、前述のとおり室温
での成膜が必要である。そして高K材料を室温でスパッ
タ成膜すると、この薄膜はアモルファス状態の固溶体に
なっており、これを加熱処理することによって規則合金
相を析出させるのである。
【0017】一般的には500〜600℃に加熱処理し
た後に規則合金相が出現して、強磁性が発現する。具体
的な熱処理条件は個々の高K材料によって若干異なる。
これまでに報告されている高K材料の熱処理の実例を表
2にまとめて示す。
【0018】
【表2】
【0019】ここで、表中に番号で示した参考文献は次
のとおりである。 ・参考文献1: C.Chen et al., “V
ery largecoercivity and g
ranular structure ofCoPt/
SiO2 films”, Intermag99 D
igests,GP−06 ・参考文献2: S.S.Ma1hotra et a
l., “Highcoercivity rare
earth−cobalt films”,J. Ap
p1. Phys. 79(8), 15 April
1996,pp.5958−5960 ・参考文献3: P Caro et al., “S
tructure and chemical ord
er in sputtered epitaxial
FePd(001) alloys”, J. Cr
yst. Growth 187(1998), p
p.426−434 ・参考文献4: J.U.Thiele et a
l., “Perpendicular magnet
ic anisotropy and magneti
c domain structure in spu
ttered epitaxial FePt(00
1) L10 films”, J. App1. P
hys. 84(10), 15 Nov. 199
8, pp.5686−5692 ・参考文献5: R.F.C.Farrow et a
l., “Magnetic anisotropy
and microstructure inmole
cular beam epitaxial FePt
(110)/MgO(110)”, J. Appl.
Phys. 84(2), 15July 199
8, pp.934−939
【0020】表2に示した磁性膜のうち、SmCo5
パッタ膜の場合は、Smが極めて酸化されやすく、これ
を防止するため、磁性膜の成膜後に保護膜を付ける。表
2に示した公知文献では、10nm膜厚のCrスパッタ
膜を用いて保護膜とした上で、500℃で20分間の熱
処理(アニール)を真空中で行なっている。他方、スパ
ッタ磁性膜がCoPt/SiO2 である場合では、保護
膜なしで600℃において35時間かけて真空中でアニ
ールを行なっている。SiO2 材料がスパッタ時に付加
されている理由は、磁性粒のグラニュラー化のためであ
る。一方、FePd磁性膜の場合には、室温スパッタ後
のアニール処理に関する公知文献はないが、400℃以
上でスパッタすると、強磁性を発現することは分かって
いる。このことから、FePd膜を室温スパッタすると
400℃以上のポスト・アニール処理で同様の強磁性の
性質を得ることができると推定される。さらに、FeP
t磁性膜の場合には、垂直異方性が生じる例として、5
50℃でのスパッタ成膜の報告、面内異方性が生じる例
として、500℃での分子線エピタキシー(MBE)成
膜の報告がある。これから、FePt磁性膜を室温スパ
ッタすると、500〜550℃以上のポスト・アニール
処理で同様の強磁性の性質を得ることができると推定さ
れる。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】DLC膜の膜質の改善
のためのイオン注入工程では、高エネルギーイオンを対
象となる材料に導入するので、次の特徴が指摘される。 (1) 注入したイオンは、材料表面から相当の深さまで入
り込む。具体的には、平均深さ(投影飛程と呼ばれる)
を中心として到達深さにバラツキがあり、偏差をもつ。 (2) 高エネルギーイオンから材料へのエネルギー授受が
あるために、イオンが入り込んだ領域には結晶構造に損
傷が導入される。具体的には、イオン注入は通常は室温
プロセスとして行うために、単純欠陥(空格子、格子間
原子)が移動した後、結晶構造の準安定状態が残る。
【0022】磁気ディスク媒体において主流である長手
媒体の典型的な層構成は、上からDLC保護膜(10n
m)/Coを主成分とする磁性膜(20nm)/Crを
主成分とする下地膜(20nm)/ガラスあるいはAl
基板である(かっこ内の数字は膜厚を示す)。従来技術
としてのC+ イオン注入をこの多層構造体に対して実施
するとき、C+ イオン→C膜、C+ イオン→Co膜の両
組合わせについて前述の平均深さと偏差を知る必要があ
る。図1にC+ イオン→C膜における注入イオンの平均
深さとそのときの偏差の値、図2にC+ イオン→Co膜
における注入イオンの平均深さとそのときの偏差の値を
示す。
【0023】前述のB. BhushanおよびB. K. Gupta の文
献から、C+ イオン注入がDLC膜の摩擦係数を改善す
ることが認められるが、問題点がある。前記文献の例で
は、C+ イオンを200keVで加速し、導入してい
る。そこで、図1および図2の関係を用いて200ke
VのC+ イオンが前述の多層構造の媒体に入り込む深さ
を見積もった。Cr材料については、Co材料と原子量
が近いことから図2を代用して行なった。C濃度(相対
値)の深さ分布を図3(縦軸の相対濃度は対数目盛りで
示されている。以下、図4、図5および図7において同
じ)に示す。付随する損傷は、注入したC+ イオン周囲
に広がるので、C分布と同じであると考えてよい。
【0024】図3から明らかなように、導入されること
が必要なC膜にはC+ イオンも付随する損傷も僅かにし
か存在せず、大部分はさらに深部の領域へ入り込んでい
る。特に、C膜よりもCo膜に多量のC+ イオンと損傷
が入ってしまうことに注意しなければならない。ともか
く、この方法では、C膜へのC+ イオン導入の効率が極
めて低いことが分かる。
【0025】前記文献の例では、200keVのイオン
エネルギーを用いている。加速エネルギーを下げると、
イオンの入り込む深さが浅くなり、前述の導入効率が改
善されるが、効果的な改善が成されるか否かをここで検
討する。イオン注入工程では、イオン源からの引き出し
電圧が約5kVであり、イオン引き出し後の加速電圧が
最低約25kV必要である。従って、必要なイオンエネ
ルギーは、最低で30keVとならざるを得ない。そこ
で、30keVのC+ イオンが前述の多層構造の媒体に
入り込む深さを見積もって、これを図4に示す。一見し
て明らかに、図3と比べて、事態は僅かにしか改善され
ていない。
【0026】図3および図4を見て、さらに分かること
がある。媒体の磁気特性を司る磁性膜(図3および図4
ではCo膜と記した)へのC+ イオンと損傷の導入であ
る。これは、磁性膜の磁気特性を劣化させる作用しかな
く、DLC膜の膜質の改善のためにイオン注入する従来
技術を実施した場合の大きな問題点である。
【0027】一方、高K材料であるSmCo5 が磁性膜
材料の場合においては、次のような問題がある。すなわ
ち、Smの酸化を防ぐため磁性膜の成膜後に保護膜を付
けてアニール熱処理した後に、この保護膜を磁性膜から
剥離することができない。この理由は、磁性膜が極めて
薄いために選択剥離する技術がないためである。前記の
S.S.Malhotraらの文献では、10nm膜厚
のCr保護膜を用いているが、磁性膜を残してこのよう
な薄い保護膜のみを剥離することは不可能である。そこ
で、アニール保護膜を付着させたまま、この上からDL
C保護膜を堆積して媒体構造を作製することになる。こ
のとき、磁気ヘッドと媒体間の磁気スペーシングが、ア
ニール保護膜の膜厚分だけ加算されることになる。これ
では、超高記録密度用の媒体としては磁気スペーシング
が大きくなり過ぎて、使用に適さない。
【0028】そこで、次の方法を用いることになる。す
なわち、アニール保護膜としてDLC保護膜を用いる。
この方法を用いるときには、DLC保護膜が熱処理工程
を通ることになり、具体的に言えば500℃の温度環境
を経ることになる。ところで、DLC保護膜には、その
成分であるC原子とC原子がsp3結合をなすダイアモ
ンド構造が含まれている。しかし、この構造は準安定状
態であって、350℃以上の温度環境にさらされるとs
p3結合が励起されて変化し、C原子とC原子がsp2
結合をなすグラファイト構造になる。従って、DLC保
護膜をアニール保護膜として用いる結果として、この膜
は、硬度が低下し、摩耗度が増し、もはやDLC保護膜
とは言えない性質の膜に劣化してしまう。
【0029】このようにDLC保護膜を熱処理用の保護
膜として利用した場合のDLC保護膜の劣化は、DLC
保護膜を磁性膜の上に被着した状態で350℃以上の温
度で熱処理するときに常に生じる問題であって、磁性膜
の種類を間わない。
【0030】また、アニール保護膜を用いずキャップレ
スで磁性膜を熱処理する際、磁性膜の汚染を防止するた
め真空中で熱処理を実施するときにも問題が生じる。特
に、前述したようなCoPt/SiO2 膜に関する数1
0時間を要する熱処理において、この問題は大きい。そ
の問題とは、生産効率の低さである。
【0031】すなわち、真空中での熱処理は、対流を用
いず、熱放射のみを用いて(ないしは、主として熱放射
を用い、熱伝導を補助的に用いて)加熱するので、広域
の均一な加熱が極めて困難である。そのため、磁気ディ
スク基板を加熱ホルダーにセットして、1枚ごとに加熱
処理を行う。あるいは、枚葉式に磁気ディスク基板の加
熱を行うことも可能ではあるが、ヒーター部を複数個装
備しておかないと、実質的な加熱効率は低下して、必要
な熱処理時間が長くなってしまう。そして、このように
して行う熱処理工程は生産性の低いものになる。真空チ
ャンバー内に多数個のヒーター部を張り巡らして加熱効
率を向上させる方法を考えられなくもないが、温度制御
の困難な実用に適さない装置にしかならない。
【0032】従って、本発明は、磁性膜上にDLC保護
膜を有する磁気ディスク媒体の表面層にイオン注入を行
ってDLC膜の膜質を改善するに際し、磁性膜の磁気特
性を有為に劣化させることなく、DLC保護膜の摩擦係
数を有効に低減させることのできる、磁気ディスク媒体
の製造方法を提供することを、第一の目的とする。
【0033】さらに、本発明は、磁性膜の熱処理工程を
DLC保護膜を付着させた状態で常圧下において高い処
理効率で実施し、かつ、この熱処理によって劣化したD
LC保護膜の膜質の修復あるいは回復を可能にする、磁
気ディスク媒体の製造方法を提供することを、その第二
の目的とする。
【0034】
【課題を解決するための手段】本発明の第一の態様で
は、上述の第一の目的を達成するため、注入すべきイオ
ン種として、炭素を含む分子イオンを用いる。すなわ
ち、本発明によれば、DLC保護膜を有する磁気ディス
ク媒体の表面層に、炭素を含む分子イオンをイオン注入
することを含む、磁気ディスク媒体の製造方法が提供さ
れる。好ましくは、炭素を含む分子イオンは、式Cm
n + (ここで、mおよびnはそれぞれ1以上の整数を表
す)で表されるハイドロカーボンイオンを用いる。
【0035】一方、本発明の第二の態様では、上述の第
二の目的を達成するため、低温、好ましくは室温で成膜
した高K磁性材料膜(磁気異方性エネルギー定数Kが特
に高い値をもつ磁性材料の膜)を有する磁気ディスク媒
体を、その磁性膜上に直接DLC保護膜を被着させて熱
処理し、次いでこの媒体の表面層に、炭素を含む分子イ
オンをイオン注入することを含む、磁気ディスク媒体の
製造方法が提供される。ここでも、炭素を含む分子イオ
ンは、好ましくは式Cm n + (ここで、mおよびnは
それぞれ1以上の整数を表す)で表されるハイドロカー
ボンイオンである。また、ここでの「室温」とは10〜
30℃程度の温度のことである。
【0036】この方法では、高K材料の磁性膜、あるい
は高K材料を主成分とする(SiO 2 等の非磁性材料の
付加物があってよい)磁性膜を低温で成膜後、好ましく
は室温でスパッタ成膜後、磁性膜上に直接DLC保護膜
を被覆する。このDLC保護膜はスパッタ膜でもPCV
D膜でもよい。DLC保護膜を施した磁気ディスク媒体
の熱処理工程は、磁性膜に強磁性を発現させるために行
うものである。この熱処理は、真空炉ではなく、常圧炉
で行うことができる。この炉は、例えば、ヒーター加熱
の電気炉でもランプ加熱炉でもよい。熱処理(アニー
ル)時には、N2、Ar等の不活性ガスを流すことがで
きる。このとき、DLC保護膜がアニール保護膜の役割
を果す。磁性膜およびDLC保護膜を堆積した基板(媒
体ディスク)は、複数枚を同時にバッチ処理することが
できる。アニール温度は350℃以上で行う。アニール
温度と時間の選択は、高K材料の種類に応じて適宜行え
ばよく、例えば500〜600℃前後の温度において所
期の強磁性が発現される時間とすればよい。なお、ここ
で言う「高K材料」とは、磁気異方性エネルギー定数
(K)が1.0J/cm3 以上の磁性材料を指すものと
する。
【0037】DLC保護膜は、熱処理工程を経て膜質が
劣化している。そこで、この膜質の改善ないし修復を、
熱処理済み媒体表面層(即ち、DLC保護膜の層)に炭
素を含む分子イオンをイオン注入することで行う。イオ
ン注入に用いるイオン種は、好ましくはハイドロカーボ
ンCm n (mおよびnはそれぞれ1以上の整数)を一
価イオンにして用いる。
【0038】本発明の方法においては、イオン注入のた
めの加速エネルギーは実用範囲内で低エネルギーを選
ぶ。例えば、30keV程度がよい。イオン注入量は、
中濃度の領域、すなわち結晶が壊れてアモルファス状態
に至るまでの途中の領域、具体的に言うと1×1012
1×1015cm-2の範囲内で、適宜選択する。イオン注
入量の選択の仕方としては、イオン分子の質量が大きい
ほど、すなわちイオン種Cm n + のm値が大きいほ
ど、イオン注入量を少なくし、併せて、本発明の第二の
態様において熱処理を施した場合には、高い熱処理温度
で処理された場合ほどイオン注入量を多くするようにす
る。なお、イオン注入工程は室温で行う。
【0039】
【発明の実施の形態】本発明では、磁気ディスク媒体の
表面のDLC保護膜に炭素含有分子イオンを注入する
が、このイオン注入は、一方では、第一の態様として上
記したように、DLC保護膜の下層として存在する磁性
膜の磁気特性を損なうことなくDLC保護膜の摩擦係数
を低減させるために行うものであり、他方では、第二の
態様として上記したように、低温で成膜した高K材料の
磁性膜に強磁性を発現させるための熱処理(アニール)
工程をDLC保護膜をアニール保護膜として利用して行
うことで劣化したDLC保護膜の膜質を修復あるいは回
復するために行うものである。
【0040】かかる本発明の方法においては、一般に
は、分子イオンを低エネルギーで加速し、イオン注入量
(単位面積当たり)を前述した従来技術と比べて格段に
少なくして、イオン注入を行う。このような低エネルギ
ー加速での分子イオンの注入によって、以下で説明する
如き様々の作用が生まれる。
【0041】注入イオン種として多原子からなるハイド
ロカーボンイオンCm n + (mおよびnはそれぞれ1
以上の整数)を用いると、注入イオンが打ち込まれた材
料表面でフラグメンテーションを起こす。これは、多原
子イオンが単原子粒子に分割されて、材料内に入り込ん
でいくことを意味する。従って、イオンエネルギーEの
とき、フラグメンテーションされたC原子のエネルギー
は12E/(12m+n)となる。一方、H原子のエネ
ルギーはE/(12m+n)となる。
【0042】上記の理由により、高分子イオンを用い
て、実効的には極めて低エネルギーのC原子注入を実施
することができる。H原子についても同様であり、実効
的に極めて低エネルギーのH原子注入を実施することが
できる。装置機能としては実用的には30keVが最低
のイオンエネルギーであると前述したが、多原子イオン
として注入するハイドロカーボン種を適宜選択すること
により、実効的にそれ以下のエネルギー領域で、打ち込
まれた多原子イオンが分割して生じた単原子粒子として
のC原子が材料内に入り込む平均深さを調整することが
可能になる。そしてこれにより、本発明では、図5の概
念図に示すように、従来技術を説明する図3および図4
と比べてはるかに高い割合でC原子がC膜すなわちDL
C保護膜内に納まることになる。C原子の注入に付随す
る膜材料の損傷も同様であり、DLC保護膜内にほぼ集
中していることが分かる。
【0043】他方、Co膜内にC原子が入り込むことは
ある程度避けられないが、図3および図4と比べて分か
るとおり、その侵入量が図5においては小さくなる。付
随する損傷についても同じであり、DLC保護膜内にほ
ぼ集中し、磁性膜(Co膜)内に存在する割合は大幅に
改善され、Cr下地膜には到達していない。よって、本
発明の方法では、従来技術と比べて、C原子注入による
磁性膜劣化の低減が可能となる。
【0044】注入C原子の量と付随する損傷量に関し
て、膜質改善のためにC膜(DLC膜)内に必要とされ
る注入濃度は注入工程を変えても同じである。上記の説
明から明らかなように、本発明の方法を用いるとC膜内
にC原子と付随する損傷が集中することになり、これに
より注入工程の時間が短縮される。一次近似としては、
実効的なイオンエネルギーと工程時間は比例すると考え
てよいので、本発明によれば、従来法に比べて12/
(12m+n)に短縮される。特に高分子イオンを用い
ることにより、大幅な改善が得られる。
【0045】多原子イオンから分割により生じたC原子
の注入時に付随する損傷が導入されるが、これがC膜
(DLC膜)に与える作用について述べるならば、DL
C膜の結晶構造は立方晶形(sp3結合状態)のダイア
モンド構造の微結晶と六方晶形(sp2結合状態)のグ
ラファイト構造の微結晶との混合物である。ここでは、
sp3結合の方がエネルギー状態が高く、準安定状態で
ある。注入工程で付随する損傷が導入されることによ
り、準安定状態が増加すると理解されている。これはす
なわち、ダイアモンド微結晶が増加することを意味して
おり、DLC膜の硬度が増すこととなる。これが、イオ
ン注入とそれに伴う分割原子の注入によるDLC膜の膜
質改善の理由である。
【0046】他方、C膜(DLC膜)へのH原子の導入
によっても利点が生まれる。ここで、DLC膜は、一般
にスパッタ法を用いて成膜され、さらに本発明に従って
イオン注入処理を施されるので、熱非平衡工程であるこ
とを理由に多くのダングリングボンド(結合の手が切れ
た状態)を含む。DLC膜へのH原子の導入によって、
ダングリングボンドとH原子の結合が進む。これは、D
LC膜を構成する数多くの微結晶の結晶構造が一層安定
化される作用を生む。従って、これにより、スライダー
と媒体表面が接触した場合にDLC膜にマイクロクラッ
クが発生し難くなる効果が得られ、ひいてはデブリス
(破片)の発生が抑制され、媒体の機械的動作寿命が長
くなるという効果が得られる。
【0047】本発明においては、一般的な意味におい
て、このように多原子イオンが分割して生じた単原子が
DLC保護膜に入り込むことによりその膜質の改善がな
される。この膜質の改善は、多原子イオンに由来する単
原子の注入を、先行する熱処理に付されることで劣化を
きたしたDLC保護膜に対し適用した場合には、その膜
質を修復ないしは回復することに相当するものである。
次に、このような劣化した膜質の修復ないし回復の作用
について説明することにする。
【0048】DLC保護膜を備えた磁気ディスク媒体を
熱処理にかけるのは、高K材料の磁性膜を室温で成膜し
てから熱処理して強磁性を発現させるような場合に必要
となる。DLC保護膜を熱処理(アニール)の際の保護
膜(アニール保護膜)として磁性膜の熱処理を行うこと
により、磁性膜の汚染が防止される。この熱処理は、磁
性膜がDLC保護膜で保護されていることから真空外に
おいて汎用の加熱炉を用いて行うことができるので、バ
ッチ処理が容易に行える。長時間の熱処理が必要な場合
には、特に生産性が向上する。続いて、多原子ハイドロ
カーボンイオンの注入に由来するC、H原子の注入によ
り、先行の熱処理工程を経過して膜質が劣化したDLC
保護膜の膜質の修復あるいは回復がなされる。本発明に
よらず、DLC保護膜を被覆して磁性膜を単に熱処理し
ただけでは、DLC保護膜が使用に耐えられないものに
なってしまう。また、磁性膜上に何物も被覆せずに真空
中で熱処理すれば、長時間の加熱工程時間を要するため
大変に生産性が低い欠点を生じる。一方、本発明を使用
する場合、イオン注入工程による処理時間を新たに加算
しなければならなくなるが、イオン注入工程についは生
産性を上げるために、ラスター・スキャン方式だけでな
く、中電流のビーム電流を用いるハイブリッド・スキャ
ン方式、大電流のビーム電流を用いるメカニカル・スキ
ャン方式が既に確立している。このような方式を採用す
ることにより、バッチ処理を行って、媒体ディスク1枚
当りの工程時間を1分以内にすることは容易である。
【0049】先に触れたとおり、注入イオン種としてハ
イドロカーボンイオンCm n + (m、nはそれぞれ1
以上の整数)を用いるとき、注入イオンは打ち込まれた
材料表面でフラグメンテーションを起こす。これは、分
子イオンが単原子粒子に分割されて、材料内に入り込ん
でいくことを意味する。従って、イオンエネルギーがE
のとき、フラグメンテーションされたC原子のエネルギ
ーは12E/(12m+n)となる。一方、同じくフラ
グメンテーションされたH原子のエネルギーはE/(1
2m+n)となる。この理由により、高分子イオンを用
いて、実効的には極めて低エネルギーのC原子の注入が
実施できる。H原子についても同様であり、実効的に極
めて低エネルギーのH原子の注入が実施できる。DLC
保護膜が極めて薄膜であるために、この方法は極めて有
用な方法である。
【0050】イオン注入装置の機能として、実用的には
30keVが最低のイオンエネルギーである。しかし、
使用するハイドロカーボン種を適宜選択することによ
り、実効的には30keV以下のエネルギー領域で、注
入原子が材料内に入り込む平均深さを調整することが可
能になる。それにより、図5の概念図に示すように、C
原子が高い割合でDLC保護膜内に納まる。付随する損
傷も同様である。他方、磁性膜内にC原子が入り込むこ
とはある程度避けられないが、侵入原子の低エネルギー
のために、その侵入量は少ない。それに付随する損傷に
ついても同じである。注入工程が及ぼす磁性膜劣化の影
響は、低エネルギーであるほど、また高分子量であるほ
ど、軽減される。
【0051】上述のとおり、C原子の注入に付随して損
傷が導入されるが、これがDLC保護膜に与える作用に
ついて、ここでもう一度説明することにする。DLC膜
の結晶構造は、立方晶形(sp3結合状態)のダイアモ
ンド構造の微結晶と、六方晶形(sp2結合状態)のグ
ラファイト構造の微結晶の混合物である。sp3結合の
方がエネルギー状態が高く準安定状態である。イオン注
入工程で付随する損傷が導入されることにより、準安定
状態が増加すると理解されている。これはすなわち、ダ
イアモンド微結晶が増加することを意味しており、その
結果DLC膜の硬度が増す。これがC原子の注入による
DLC膜の膜質改善、あるいは修復もしくは回復の要点
である。
【0052】他方、DLC保護膜へのH原子の導入によ
って次に述べることに関して利点が生まれる。DLC膜
はスパッタリング法ないしPCVD法で作製され、さら
にそれが高K材料から作られた膜の場合には熱処理後に
イオン注入法によって加工されるので、熱非平衡工程で
あることを理由に、多くのダングリング・ボンド(緒合
の手が切れた状態)を含む。DLC膜へのH原子の導入
によって、ダングリング・ボンドとH原子の結合が進
む。これは、DLC膜を構成する多数の微結晶の結晶構
造を一層安定化させる作用を生む。そしてこれは、スラ
イダーと媒体表面が接触した場合に、DLC膜にマイク
ロクラックが発生し難くなる効果を生み、引いてはデブ
リス(破片)の発生を抑止する効果があり、媒体の機械
的動作寿命に益がある。
【0053】熱処理時のDLC保護膜の効果について先
に述べたが、一方、デメリットはないか、次のことにつ
いて説明する必要がある。特に高K材料を磁性膜材料と
して使用する場合、スパッタリング法等の適当な方法に
より堆積したままのアズデポジション状態ではアモルフ
ァス状態にある磁性膜を、熱処理によって規則合金相を
微粒子として析出させることを前述したが、本発明にお
いてはこの熱処理工程時に磁性膜にDLC保護膜が密接
して被覆されているので、熱処理中にC原子が磁性膜中
に拡散するか否か懸念される。磁性膜は極めて薄い膜で
あるため、この拡散の影響は大きく、それゆえに拡散が
あってはならない。以下、これに関して考察し、結論と
して、C原子の拡散のデメリットが生じないことを説明
する。なお、以下の説明の組立てとして、DLC保護膜
/磁性膜材料の熱処理温度における固相拡散について
は、この材料系の平衡状態図を検討して、該当温度にお
けるC原子の固溶度を把握することで、C原子の拡散の
有無を判断している。本発明が関係する高K材料の一部
のものにFeが含まれていることと、鉄鋼技術において
は炭素が極めて有用な元素として研究されてきた歴史が
あることから、Fe−C系材料を主として、以下の説明
を進める。
【0054】(1)Fe−C系材料 鉄鋼の表面硬化技術のうちに、900〜l000℃の加
熱処理によって鋼材の中に炭素を浸透拡散する「浸炭」
と呼ばれる技術がある。ミリメートル(mm)オーダー
の深さまで炭素(C)の拡散が可能であるとして、古く
から知られる。ここで、浸炭技術の要点について触れて
おくことにする。
【0055】浸炭を行うには、次に示すように酸素が重
要な役割を果す。 C+O2 →CO2 C+CO2 →2CO このCOが鋼材表面において分解し、Cを析出するが、
このCは活性炭素または発生期の炭素と呼ばれ、普通の
炭素と区別するため[C]で表され、そしてこの鋼材表
面でのCO分解反応は次式により表される。 2CO→[C]十CO2 この活性炭素が鋼材表面から侵入して、次式のように浸
炭が行なわれる。 Fe+2CO→{Fe−C}十CO2 上の式で{Fe−C}は炭秦が固溶したオーステナイト
という表示である。炭素はα鉄に対してほとんど固溶し
ないため、実際の浸炭はA1 点(740℃)以上で行
う。このように、浸炭技術には酸素が不可欠とされる。
逆に、酸素がない場合は、鉄表面に接触した炭素が固相
反応のみにより、極くわずかに入り込むと考えればよ
い。本発明における熱処理工程では、Feを含む磁性材
料とCにより構成されるDLC膜との界面に酸素のない
雰囲気で熱処理を行うので、浸炭技術とは関わりのない
熱処理工程となる。
【0056】次に、Fe単体金属薄膜にDLC保護膜を
被覆させた上で熱処理したときの2相界面からFe相へ
のC原子の固溶の有無について、明らかにしておく。
T.B.Massalski, ed: Binary
A11oy Phase Diagrams, Vo
ls. 1, 2, and 3, American
Society for Metals (1990)
(以下、「状態図参考文献」と呼ぶ)の843頁を出典
とする、図8のFe−C系2元状態図を参照すれば、F
eの変態は、常温〜912℃でbcc(体心立方)のα
鉄、912〜1394℃でfcc(面心立方)のγ鉄
(オーステナイト)、続いて1538℃までbccのδ
鉄と呼ぶ各相をもつ。(さらに、既に炭素を固溶してい
るFeにおいては、A1 変態(740℃)と呼ばれる共
析変態がある。)ここで、α鉄にはC原子はわずか
(0.1mol%まで)しか固溶しない(金属便覧:
日本金属学会編、改訂5版、丸善(1990)、509
頁の図8.4、511頁の図8.11)。さらに、91
2℃のA3 変態点以上の温度でγ鉄(オーステナイト)
になると、C原子が侵入型固溶のメタロイドとして、そ
の最大固溶量は約9mo1%になる。なお、炭素を固溶
したオーステナイトを徐冷すると、Fe3 C相(セメン
タイト)を析出するようになり、A1 点以下にまで徐冷
すると、α鉄とセメンタイトを析出するようになる。た
だし、セメンタイト相は準安定であって、長時間熱処理
すると、Fe相と黒鉛とに分解する。
【0057】以上のように、純鉄においてはα鉄(フェ
ライト)ではなく、912℃以上のγ鉄(オーステナイ
ト)においてC原子が固溶しやすくなることを述べた。
この理由は、C原子が侵入型固溶する位置が、bcc−
α相においては非等方的な間隙であるために、侵入する
C原子は上下または左右に結晶格子を押し広げ、歪ませ
て固溶しなければならないので、固溶度が小さいためと
理解されている。他方、fcc−γ相(オーステナイ
ト)においては、C原子の侵入型固溶の位置が等方的な
間隙にあるので、結晶格子を歪ませないため固溶しやす
くなる。
【0058】(2)Fe−M−C系材料 次に、Fe基合金の2元系状態図を参照して、α/γ平
衡に対する合金元素の影響を検証する。Fe基合金の平
衡状態図において、オーステナイト相(γ)が占める領
域の形式ないし形状(様子)は、周期律表上の周期性と
符合するように、合金元素(M)の核外電子の状態と密
接に関連することが分かっている。Fe基合金において
Feと同じVIII族の元素(Co、Pt、Pdもこれ
に属する)は、γ開放型と分類されている。これは、F
eに対するこれらの元素の組成比率の増加とともに、オ
ーステナイト相がより低温度領域まで拡大することを意
味する。すなわち、C原子の固溶度が低温度領域まで大
きくなる傾向を示すことになるので、これについて一層
詳しく見ておく必要がある。
【0059】そこで、図9のFe−Pt系状態図(出
典:状態図参考文献、1755頁)を見ると、確かにオ
ーステナイト相は拡大している。純鉄ではA3 点が91
2℃であるが、Fe−15%Ptでは600℃になる。
ところが、さらなるPt組成の増加で規則合金相が現れ
てくるので、この変化を考えなければならない。規則合
金相はFe3 Pt、FePt、FePt3 と3種類ある
が、本発明に関わる高K材料としてのFe−Pt系は、
およそ50%Pt組成で現れるFePt相であり、これ
について述べる。FePt相は、およそ1300℃にお
いてγオーステナイト相に接して低温側に現れる。この
FePt相はfct(面心正方格子)でL10 型である
ので、Fe原子面とPt原子面が交互する形で積層す
る。ここで、C原子が侵入型固溶する位置を見ると、非
等方的な間隙をもつことになり、侵入するC原子はFe
Pt結晶格子を歪ませて固溶しなければならなくなるた
め、固溶度が小さいという結論が出る。
【0060】次に、図10のFe−Pd系状態図(出
典:状態図参考文献、1751頁)について見る。この
場合も、Feに対するPd組成の増加とともにオーステ
ナイト相は拡大し、およそ46%Pd組成においてA3
点は605℃まで低下する。しかし、さらにPd組成が
増すと、この系においてもL10 型の規則合金相(Fe
Pd)が現れる。本発明に関わる高K材料は、このFe
Pd相に対応するものであって、前述の説明と同様にこ
れへのC原子の固溶度は小さい。
【0061】(3)Co−Pt−C系材料 次に、Co−Pt系2元合金の場合のC原子の固溶度に
ついて説明する。そのための準備として、まず、図11
のCo−C系2元状態図(出典:状態図参考文献、83
6頁)を見る。fccのαCo(A1 型)は1320℃
において4.1原子%炭素を固溶するが、温度低下とと
もにC固溶度が減少し、422℃において共析反応があ
り、εCo相と黒鉛相に分離する。εCo相のC固溶度
は8.7×10-4原子%である。
【0062】続いて、図12のPt−C系2元状態図
(出典:状態図参考文献、873頁)を見ると、170
5℃の共晶温度以下では、黒鉛と分離したPt相はfc
c(A1 型)であるが、C固溶度は800℃において1
%に過ぎない。
【0063】ここで、図13のCo−Pt系2元状態図
(出典:状態図参考文献、1226頁)に転じると、高
温域ではαCoとαPtの固溶相である。この相ではC
原子がある程度αCo内に固溶する。本発明に関わる高
K材料については、およそ50%組成において825℃
以下の温度で現れる規則合金CoPt相が関心事である
が、この結晶もfct、L10 型である。よって、前述
と同様にこのCo−Pt合金へのC原子のメタロイドと
しての固溶度は小さい。
【0064】(4)Sm−Co−C系材料 次に、Sm−Co系2元合金へのC原子の固溶度につい
て検証する。Sm−C系2元状態図はこれまで作成され
ていないが、αSm、βSm、γSmともにC原子を固
溶しないことが知られている(状態図参考文献、884
頁)。高温では定比化合物が形成され、SmC2 と黒鉛
の共晶温度が2240℃である。他方、Co−C系につ
いては前述したとおり、C原子の固溶度は小さかった。
【0065】そこで、図14のSm−Co系2元状態図
(出典:状態図参考文献、1241頁)に転じて述べる
と、Coリッチ組成の広い範囲で、幾種類もの定比化合
物を析出する。析出相であるCo17Sm2 、Co5
m、Co7 Sm2 、Co3 Sm、Co2 Smはいずれも
複雑な結晶構造をもち非等方的であるので、侵入型C原
子が位置したときに、非等方的に結晶格子を歪ませるこ
とになって、C原子のこれらへの固溶度は小さいと判断
してよい。
【0066】以上の説明をまとめると、FePt、Fe
Pd、CoPt、SmCo5 を引き合いに出して述べた
高K材料へのC原子の固溶度は小さいことが分かる。特
に、本発明での熱処理温度である500〜600℃で
は、これらの高K材料へのC固溶は実質的にないと判断
できる。そこで、本発明において、DLC保護膜を被覆
した磁性膜を熱処理する工程を実施しても、保護膜から
磁性膜へのC原子の固相拡散はないと判断できる。
【0067】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに説明す
る。
【0068】〔実施例1〕DLC膜(10nm)/Co
0.8 Cr0.15Pt0.05磁性膜(20nm)/Cr下地膜
(20nm)/NiPメッキ膜(10μm)/Al基板
の層構成を有する磁気ディスク媒体を用いた。DLC膜
の成膜条件は前述したとおりである。すなわち、グラフ
ァイトターゲットを用いたアルゴンガスプラズマによる
DCマグネトロンスパッタ法を用い、1Pa程度のアル
ゴンガス圧力において、基板温度を室温にして成膜を行
った。次いで、注入イオン種のための多原子ハイドロカ
ーボンとしてはベンゼンC6 6 を用いてイオン注入を
行った。低エネルギーを意図して、かつ、装置機能の実
用的なエネルギー範囲での選択として、シングルイオン
6 6 + の加速エネルギーを30keVとした。この
結果、イオン注入時に媒体最表面層であるDLC膜の表
面に到達した後に、C粒子は4.6keV、H粒子は
0.38keVのエネルギーを持って入り込んでいく。
図1および図2を用いてC粒子の媒体内における分布を
見積もることができる(図7)。さらに、エネルギー粒
子HをC材料およびCo材料にイオン注入したときの平
均深さの概算値を図6に示す。これから、本実施例にお
けるH粒子の平均深さが分かる。H分布の広がりは予測
に基づくものであるが、Hが最も軽粒子であるため、C
粒子よりも数倍の広がりをもつことは疑いのないところ
である(図7)。見積もったCおよびH分布をともに示
す図7によると、C粒子、H粒子ともに平均深さはC膜
/Co膜境界にあることから、全注入量の約半分がC膜
内に納まることが分かる。付随する損傷の導入量につい
ても同じことが言える。
【0069】上記では、イオン注入量を、単位面積当た
り1×1012cm-2から5×1014cm-2の範囲で行な
った。この範囲内で、いずれのイオン注入量を用いて
も、耐摩耗性の観点からC膜の膜質改善に有益であっ
た。
【0070】〔実施例2〕磁気ディスク媒体を次のよう
に作製した。まず、500μm厚の3.5インチ(約9
cm)のガラス基板上に、DCマグネトロンスパッタ法
で20nm膜厚のCr下地膜を成膜した。このときのス
パッタ条件は、Arガス圧10mTorr(1.3P
a)、スパッタ速度0.5nm/s、室温とした。続い
て、コンポジットSm2 Co7 ターゲットを用いて、2
0nm膜厚のSmCo5 磁性膜を成膜した。このときの
スパッタ条件は、スパッタ速度を0.1nm/sとする
以外、Crスパッタ時と同じとした。続いて、磁性膜の
酸化を避けるため速やかに、DLC保護膜の10nm膜
厚の成膜を室温でのDCマグネトロンスパッタ法で行
い、磁気ディスク媒体を得た。
【0071】次に、熱処理工程を実施した。N2 ガスを
5リットル/minの流量で流した開管式のヒーター加
熱式電気炉内で、媒体ディスクの熱処理を550℃で2
0分間行なった。ディスク10枚を同時に処理した。
【0072】次に、イオン注入工程を実施した。イオン
注入は、1×1012〜1×1015cm-2の範囲内にある
イオン注入量で、30keVの加速エネルギーの一価分
子イオンを用いて室温で行なった。イオン種はベンゼン
6 6 + を用いた。
【0073】1×1012〜1×1015cm-2の範囲内に
あるイオン注入量で実施した結果、いずれも耐摩耗性の
観点からDLC保護膜を熱処理前の膜質にまで回復する
のに有益であった。一方、この範囲を外れると、低注入
量では回復効果が見られず、高注入量では逆に膜質の劣
化が進行した。
【0074】イオン注入用のイオン種としては、C6
6 以外にも、メタンCH4 、エタンC2 6 、プロパン
3 8 、ブタンC4 10等の一般式Cn 2n+2(この
式のnは正整数)のアルカン系ハイドロカーボンを用い
ることができる。また、C=C二重結合を一つもつ一般
式Cn 2n(この式のnは正整数)の非環式炭化水素で
あるアルケン系ハイドロカーボンも用いることができ
る。さらに、C≡C三重結合を一つもつ一般式Cn
2n-2(この式のnは正整数)のアルキン系ハイドロカー
ボンも用いることができる。このほか、環状ハイドロカ
ーボンのうち芳香族ハイドロカーボンも、ベンゼンに限
らず使用可能であり、例えば、ベンゼンのモノメチル置
換体であるトルエン、ジメチル置換体であるキシレンな
ども使用できる。
【0075】さらに、これまで、イオン種としてはハイ
ドロカーボンCm n (mおよびnはそれぞれ1以上の
整数)のみに言及してきたが、例外的にCおよびH以外
の元素としてNを付加した化合物も、N原子がDLC保
護膜、媒体磁性膜に特に悪影響を及ぼさないことが分か
ったことから、イオン注入用イオン種として用いること
ができる。そのようなN含有ハイドロカーボンの代表例
として、芳香族アミンのピリジンを挙げることができ
る。
【0076】以上が本発明の実施態様の一例である。こ
こで、本発明の更なる実施態様として、特許請求の範囲
で採り上げなかったものを列挙すれば、例えば次のとお
りである。 (ア)高K磁性材料膜の成膜を室温で行う、磁気ディス
ク媒体の製造方法。 (イ)前記熱処理を不活性ガスの雰囲気下に常圧で行
う、磁気ディスク媒体の製造方法。 (ウ)イオン注入が実効的に極めて低エネルギーで行わ
れる、磁気ディスク媒体の製造方法。 (エ)イオン注入する炭素を含む分子イオンがベンゼン
イオンである、磁気ディスク媒体の製造方法。
【0077】
【発明の効果】本発明によれば、イオン注入装置の機能
的な実用範囲を外れた、実効的に極めて低エネルギーで
イオン注入工程を実施することができ、しかも工程時間
が短縮され、また結晶構造の安定化に有益となるH導入
も単一工程の取扱いで行うことができる。すなわち、本
発明の方法は、DLC膜の膜質改善に向けた加工時間の
短縮と、媒体の機械的動作機能の長寿命化を同時に図れ
る利点をもつ。
【0078】また、本発明によれば、熱処理によって劣
化したDLC保護膜の膜質を、イオン注入による熱非平
衡工程を通じて回復あるいは修復することができる。こ
の効果があるために、特に高K材料の磁性膜を室温で成
膜する場合に必要となる磁性膜の熱処理工程を、DLC
保護膜を付着させた状態で常圧のもとで高い処理効率で
実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】注入イオンC+ のC膜に対する平均深さと偏差
のグラフ。
【図2】注入イオンC+ のCo膜に対する平均深さと偏
差のグラフ。
【図3】200keVでイオン注入したC+ イオンの媒
体内における相対的な濃度分布の図。
【図4】30keVでイオン注入したC+ イオンの媒体
内における相対的な濃度分布の図。
【図5】多原子ハイドロカーボンイオンを実効的に極め
て低エネルギーでイオン注入したときのC粒子の媒体内
における相対的な濃度分布の図。
【図6】注入イオンH+ のC膜およびCo膜に対する平
均深さのグラフ。
【図7】ベンゼンイオンC6 6 + を30keVでイオ
ン注入したときのC粒子とH粒子の媒体内における相対
的な濃度分布の図。
【図8】Fe−C系状態図。
【図9】Fe−Pt系状態図。
【図10】Fe−Pd系状態図。
【図11】Co−C系状態図。
【図12】Pt−C系状態図。
【図13】Co−Pt系状態図。
【図14】Sm−Co系状態図。

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ダイアモンドライクカーボン保護膜を有
    する磁気ディスク媒体の表面層に、炭素を含む分子イオ
    ンをイオン注入することを含む、磁気ディスク媒体の製
    造方法。
  2. 【請求項2】 低温で成膜した高K磁性材料膜を有する
    磁気ディスク媒体を、その磁性膜上に直接ダイアモンド
    ライクカーボン保護膜を被着させて熱処理し、次いでこ
    の媒体の表面層に、炭素を含む分子イオンをイオン注入
    することを含む、磁気ディスク媒体の製造方法。
  3. 【請求項3】 前記炭素を含む分子イオンが、式Cm
    n + (ここで、mおよびnはそれぞれ1以上の整数を表
    す)により表される、請求項1又は2記載の方法。
  4. 【請求項4】 前記炭素を含む分子イオンが、一般式C
    n 2n+2(この式のnは正整数)のアルカン系ハイドロ
    カーボン、一般式Cn 2n(この式のnは正整数)のア
    ルケン系ハイドロカーボン、一般式Cn 2n-2(この式
    のnは正整数)のアルキン系ハイドロカーボン、芳香族
    ハイドロカーボン又はN含有ハイドロカーボンの分子イ
    オンである、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方
    法。
  5. 【請求項5】 イオン注入量が1×1012cm-2から1
    ×1015cm-2の範囲である、請求項1〜4のいずれか
    一つに記載の方法。
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