JP2001030066A - Al合金製熱交換器およびその製造方法 - Google Patents

Al合金製熱交換器およびその製造方法

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JP2001030066A
JP2001030066A JP20819599A JP20819599A JP2001030066A JP 2001030066 A JP2001030066 A JP 2001030066A JP 20819599 A JP20819599 A JP 20819599A JP 20819599 A JP20819599 A JP 20819599A JP 2001030066 A JP2001030066 A JP 2001030066A
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brazing
temperature
alloy
brazing material
heat exchanger
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JP20819599A
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Masahiro Nomura
正裕 野村
Yasuaki Sugizaki
康昭 杉崎
Shigenobu Nanba
茂信 難波
Toshiki Ueda
利樹 植田
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Kobe Steel Ltd
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Kobe Steel Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 余分な製造工程を追加することなく製造する
ことができる耐エロージョン特性に優れた熱交換器、お
よびその様な熱交換器を製造する為の有用な方法を提供
する。 【解決手段】 Al合金芯材の両面若しくは片面に中間
層を介して若しくは介さずにAl−Si系ろう材または
Al−Si−Mg系ろう材を積層したAl合金ブレージ
ングシート製チューブ材と、Al合金製フィン材が、前
記ろう材を介してろう付けされてなる熱交換器におい
て、前記チューブ材のろう付け前のろう材の芯材側界面
から深さ70μmの位置におけるろう付け後のSi濃度
[Si]70が下記(1)式で規定される値以下である。 [Si]70=芯材中に元々含まれているSi濃度+0.
4%(質量%)…(1)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車用の熱交換
器および該熱交換器の製造方法に関するものであり、特
にチューブ材とフィン材をろう付けされて構成される熱
交換器におけるエロージョンを抑制した熱交換器、およ
びこの様な熱交換器を製造する為の有用な方法に関する
ものである。
【0002】
【従来の技術】自動車用熱交換器、例えばカーエアコン
のエバポレーターは、Al合金ブレージングシートを成
形加工したチューブ材とAl合金からなるフィン材とか
ら構成され、両者が真空ろう付け等によってろう付けさ
れて組み立てられている。そして、前記Al合金ブレー
ジングシートとしては、従来からJISA3003等の
Al合金を芯材とし、これにAl−Si系のろう材また
はAl−Si−Mg系ろう材(以下、Al−Si系ろう
材で代表させることがある)をクラッドしたものが使用
されている。
【0003】上記の様な熱交換器を製造するに当たって
は、そのろう付け工程において、ろう付け炉内温度の均
一化の為に、Al−Si系ろう材の固相線温度付近で数
分間一旦保持し(以下、これを「中間保持」ということが
ある)、その後ろう材を溶融してろう付けを行なう為
に、ろう材の液相線温度〜(液相線温度+15℃)程度
の温度域(ろう付け温度)に加熱、数分間保持すること
が行われている。尚、上記中間保としては、例えば「三
菱重工技報」(Vol.24,No.5)では、858
K(565℃)で5分間の保持が行われている(第52
8頁の図)。また、上記中間保持に至るまでに比較的低
温にて一旦加熱保持して、その後段階的に中間保持温度
まで昇温することも行われている。
【0004】近年、自動車軽量化の一環として、熱交換
器の軽量化ひいてはAl合金ブレージングシートの薄肉
化が求められている。Al合金ブレージングシートを薄
肉化した場合には、熱交換器の耐食性を維持する為にエ
ロージョンを許容腐食深さよりも少なく抑える必要があ
る。ろう付けの際にAlブレーイングシートのろう材が
芯材を侵食し、芯材厚さを減少させる現象を「エロージ
ョン」と呼ぶが、このエロージョンの程度が大きい場合
には、共晶部が優先腐食経路となるので、腐食が助長す
ることが知られている。こうしたことから、特に薄肉化
したAl合金ブレージングシートを用いて熱交換器を構
成した場合には、エロージョンをできるだけ抑制するこ
と(以下、耐エロージョン特性と呼ぶことがある)が要
求される。
【0005】上記の様なエロージョン現象を抑制する技
術として、例えば特開平2−153048号には、ろう
付けの際に芯材の再結晶を完了させるべく、サブグレイ
ンの残留を防止するという観点から、ブレージングシー
トに予め加工率5〜15%程度の冷間加工を施し、その
後145〜195℃の温度範囲で焼鈍する技術が提案さ
れている。
【0006】しかしながらこの様な技術では、本来必要
でない冷間加工や焼鈍工程を製造工程として追加するこ
とになり、製造工程が煩雑になると共に製造コスト高を
招くことになる。
【0007】また耐エロージョン特性を改善したAl合
金ブレージングシートとして、Al合金ろう材とAl合
金芯材の間にはエロージョン防止層としてのAl合金中
間層を介在させたものも知られいるが、こういたブレー
ジングシートを用いても耐エロージョン特性の改善には
限度がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこうした状況
の下でなされたものであって、その目的は、余分な製造
工程を追加することなく製造することができる耐エロー
ジョン特性に優れた熱交換器、およびその様な熱交換器
を製造する為の有用な方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成し得た本
発明の熱交換器とは、Al合金芯材の両面若しくは片面
に中間層を介して若しくは介さずにAl−Si系ろう材
またはAl−Si−Mg系ろう材を積層したAl合金ブ
レージングシート製チューブ材と、Al合金製フィン材
が、前記ろう材を介してろう付けされてなる熱交換器に
おいて、前記チューブ材のろう付け前のろう材の芯材側
界面から芯材側深さ70μmの位置におけるろう付け後
のSi濃度[Si]70が、下記(1)式で規定される値
以下である点に要旨を有するものである。 [Si]70=芯材中に元々含まれているSi濃度+0.4%(質量%)…(1)
【0010】尚、本発明で用いるチューブ材としては、
Al合金芯材にAl−Si系ろう材材やAl−Si−M
g系ろう材を直接クラッドしたものに限らず、Al合金
ろう材とAl合金芯材の間にAl合金中間層を介在させ
たものも含まれるものであり、この場合のろう材の芯材
側界面とはろう材/中間層の界面となる。
【0011】一方、上記目的を達成することのできた本
発明方法とは、Al合金芯材の両面若しくは片面に中間
層を介して若しくは介さずにAl−Si系ろう材材また
はAl−Si−Mg系ろう材を積層したAl合金ブレー
ジングシート製チューブ材と、Al合金製フィン材が、
前記ろう材を介してろう付けされてなる熱交換器を製造
するに当たり、前記ろう付けに際して、Al−Si系ろ
う材材またはAl−Si−Mg系ろう材の固相線温度ま
での加熱は、前記チューブ材のろう付け前のろう材の芯
材側界面から芯材側深さ20μmの位置におけるSi濃
度[Si]20が、下記(2)式で規定される値以下とな
る条件で行ない、その後、ろう付け温度を前記Al−S
i系ろう材またはAl−Si−Mg系ろう材の液相線温
度〜(液相線温度+15℃)として、このろう付け温度
に至るまでは10分以内で加熱を行なう点に要旨を有す
るものである。 [Si]20=芯材中に元々含まれているSi濃度+0.7%(質量%)…(2)
【0012】また上記本発明方法の条件を満足させる為
の熱処理方法としては、上記の様な熱交換器を製造する
に当たり、(1)ろう付けに際して、前記チューブ材が
Al−Si系ろう材またはAl−Si−Mg系ろう材の
(固相線温度−80℃)〜(固相線温度−10℃)の温
度域にある時間を1〜60分として加熱した後、(固相
線温度−10℃)を超えて(液相線温度〜液相線温度+
15℃)の範囲のろう付け温度に至るまでは10分以内
で加熱を行なうか、或は(2)前記ろう付けに際して、
前記チューブ材がAl−Si系ろう材またはAl−Si
−Mg系ろう材の(固相線温度−10℃)超〜固相線温
度の温度域にある時間を5分未満として加熱した後、固
相線温度を超えて(液相線温度〜液相線温度+15℃)
の範囲のろう付け温度に至るまでは10分以内で加熱を
行なう、等の構成が挙げられる。
【0013】
【発明の実施の形態】従来の熱交換器に用いられていた
Al合金ブレージングシートは、例えばエバポレータで
は芯材の肉厚が0.4mm程度であり、また現状のろう
付け方法(熱処理パターン)によるエロージョン深さ
は、ろう付け前のろう材の芯材側界面から100μm程
度になっている。この様に比較的厚肉のブレージングシ
ートでは、上記の程度のエロージョンが生じてもそれほ
ど問題になることはなかった。しかしながら、近年のブ
レージングシートへの薄肉化(例えば、芯材の肉厚で
0.25mm程度)の要求が高まるにつれて、エロージ
ョン深さが100μm程度であっても腐食が助長される
ことになる。こうしたことから、近年の薄肉化に対応す
るためには、エロージョン深さ(ろう付け前のろう材の
芯材側界面からの深さ、以下同じ)は70μm以下に抑
制することが必要になる。
【0014】本発明者らは、エロージョン深さをできる
だけ抑制する為に、様々な角度から検討を重ねてきた。
その結果、ろう材が溶融する前若しくは後のSiの芯材
(または中間層)への拡散状況がエロージョンの生成に
影響を及ぼしていることを明らかにし、ろう付け前若し
くは後の芯材(または中間層)のろう材界面からの所定
深さにおけるSi濃度を適切に制御すれば良いとの着想
が得られた。
【0015】そして、こうした着想に基づいて更に検討
を進めた結果、Al合金ブレージングシート製チューブ
材の、ろう付け前のろう材の芯材側界面から深さ70μ
mの位置におけるろう付け後のSi濃度[Si]70が前
記(1)式で規定される値以下(好ましくは、芯材中に
元々含まれているSi濃度+0.4%以下)となる様に
した熱交換器では、上記目的が見事に達成されることを
見出し、本発明を完成した。
【0016】図1は、ろう付け後の芯材若しくは中間層
における拡散Si濃度プロファイルの一例を示すグラフ
であり、横軸の「距離」は、ろう付け前におけるろう材
の芯材側界面(ろう材/芯材界面またはろう材/中間層
界面)を基準(0μm)としたときの心材若しくは中間
層の芯材側深さを意味する。また、「Si濃度」は、ろ
う付け後の合計Si濃度から、芯材に元々含まれている
Si濃度を除いた値(拡散Si濃度:質量%)を意味す
る。
【0017】ここで、ろう材の芯材側界面からの深さ位
置を、「ろう付け前」としたのは、ろう付け後ではその
界面がろう材の拡散によって消失してしまうからであ
る。即ち、本発明の熱交換器においては、ろう付け前に
おけるろう材の芯材側界面からの芯材側深さ(距離)が
70μmの位置において、ろう付け後のSi濃度が、芯
材中に元々含まれているSi濃度からの増加量(拡散
量)が0.4質量%以下となる様にすればエロージョン
が希望する程度に抑制され、熱交換器の腐食が低減でき
たのである。
【0018】尚、エロージョンの生成にSiの拡散が関
与しているという指摘は、従来にもなされたことがあっ
たが(例えば、「アルミニウムの組織と性質」軽金属学
会発行、p254、図39)、上記の様に具体的にSi
拡散とエロージョンの関係が明らかにされたことはこれ
までになかったのである。
【0019】次に、本発明の製造方法について説明す
る。上記の様な熱交換器を製造するためには、ろう付け
に際して、Al−Si系ろう材の固相線温度までの加熱
を、前記チューブ材のろう付け前のろう材の芯材側界面
から深さ20μmの位置におけるSi濃度[Si]20
前記(2)式で規定される値以下(好ましくは、芯材中
に元々含まれているSi濃度+0.5%以下)となる条
件で行なう必要がある。これは、次の様な理由からであ
る。
【0020】近年における熱交換器の薄肉化の要求に応
じることのできる許容エロージョン深さは、前述の如く
70μmであるが、これをろう付け工程を終えた段階で
満足させる為には、ろう材が溶融するまでに(即ち、固
相線温度までの加熱の段階で)Siの拡散をこの程度に
抑える必要があることを、本発明者らが数多くの実験の
結果から明らかにしたのである。
【0021】図2は、ろう材が溶融するまでの芯材若し
くは中間層における拡散Si濃度プロファイルの一例を
示すグラフであり、横軸の「距離」および縦軸の「Si
濃度」の夫々の意味は前記図1と同じである。本発明の
製造方法においては、ろう材が溶融するまでの芯材若し
くは中間層の拡散Si濃度プロファイルにおいて、ろう
材の芯材側界面からの芯材側深さ(距離)が20μmの
位置において、芯材中に元々含まれているSi濃度から
の増加量(拡散量)が0.7質量%以下となるという条
件を満足させれば、最終的に(ろう付け後に)、「ろう
付け前におけるろう材の芯材側界面からの芯材側深さ
(距離)70μmの位置におけるろう付け後のSi濃度
[Si]70が前記(1)式で規定される値以下」である
という要件を満足し得たのである。
【0022】上記の条件を満足させる為の熱処理方法に
ついては、種々の手段・手法が考えられるが(例えば、
昇温速度の制御、中間保持温度・時間の制御、或はこれ
らの組み合わせ等)、本発明者らが検討したところによ
れば、ろう付けに際して、下記(1)または(2)の要
件を満足させれば良いことを見出した。 (1)チューブ材がAl−Si系ろう材の(固相線温度
−80℃)〜(固相線温度−10℃)の温度域にある時
間を1〜60分として加熱した後、(固相線温度−10
℃)を超えて(液相線温度〜液相線温度+15℃)の範
囲のろう付け温度に至るまでは10分以内で加熱を行な
う。 (2)チューブ材がAl−Si系ろう材の(固相線温度
−10℃)超〜固相線温度の温度域にある時間を5分未
満として加熱した後、固相線温度を超えて(液相線温度
〜液相線温度+15℃)の範囲のろう付け温度に至るま
では10分以内で加熱を行なう。
【0023】尚、上記熱処理条件は、ろう付け前の中間
保持温度・時間を規定したものであるが、この中間保持
条件に至るまでに比較的低温にて一旦加熱保持して、そ
の後段階的に本発明で規定する中間保持温度まで昇温す
る様にしても良く(後記図5参照)、こうした熱処理パ
ターンで処理することも本発明の技術的範囲に含まれる
ものである。
【0024】これらの熱処理方法における各要件につい
て説明する。まず、上記(1)の熱処理方法において、
第1段階の熱処理の温度範囲を(固相線温度−80℃)
〜(固相線温度−10℃)としたのは、ろう付け性と耐
エロージョン性を両立させる為である。ろう付け性の観
点からすれば、中間保持温度はできるだけ高い方が望ま
しいが、エロージョンを抑制という観点からすれば低い
方が好ましい。即ち、このときの熱処理温度が(固相線
温度−80℃)未満では良好なろう付け性が達成され
ず、また(固相線温度−10℃)を超えると、芯材若し
くは中間層でのSi拡散が過度に進行して最終的に優れ
た耐エロージョン特性が発揮されなくなる。
【0025】この方法における中間保持時間を1分以上
としたのは、ろう付け性を確保する為である。また、こ
の中間保持時間の上限を60分としたのは、工業的に長
時間保持することはろう付け炉の操業上コスト高となる
からである。
【0026】上記(1)の熱処理では、引き続き(固相
線温度−10℃)を超えて(液相線温度〜液相線温度+
15℃)の範囲のろう付け温度に至るまでは10分以内
で加熱を行なうものであるが、これはろう材の溶け別れ
を防止する為である。即ち、この温度域ではろう材が固
液2相状態となるので、保持時間が長いと液相部分のみ
が流動し、固相部分が残留してしまうことになる。
【0027】次に、上記(2)の熱処理方法において
は、まずチューブ材がAl−Si系ろう材の(固相線温
度−10℃)〜固相線温度の温度域にある時間を5分未
満として加熱するものであるが、この条件はろう材溶融
前のSiの過剰拡散を防止する為である。即ち、上記温
度域を5分以上加熱すると、ろう材溶融前のSiの過剰
拡散が生じて、「ろう材の芯材側界面からの芯材側深さ
20μmの位置におけるSi濃度[Si]20が前記
(2)式で規定される値以下である」という条件を満足
できなくなる。
【0028】この熱処理方法では、その後固相線温度を
超えて(液相線温度〜液相線温度+15℃)の範囲のろ
う付け温度に至るまでは10分以内で加熱を行なうもの
であるが、これは上記(1)の方法において(固相線温
度−10℃)を超えて液相線温度〜(液相線温度+15
℃)の範囲のろう付け温度に至るまでを10分以内で加
熱を行なのと同様に趣旨であり、この熱処理条件によっ
てろう材の溶け別れを防止するのである。
【0029】尚、上記(2)の熱処理方法における第1
段階の熱処理時間をできるだけ短くするという観点から
すれば、中間保持を行なわずに(即ち、第1段階の加熱
時間を0分とする)直ちにろう付け温度に保持してもエ
ロージョンは抑制できるものと考えられる。従来の概念
では温度を高くすれば、耐エロージョン性は悪くなると
漠然と考えられていたのであるが、ろう材が溶融するま
での芯材へのSiの拡散深さがエロージョンを支配して
いるという知見に基づいて検討したところ、中間保持を
行なわずにいきなりろう付け温度に保持してもエロージ
ョンが抑制できることを確認した。
【0030】但し、中間保持をしない場合はろう付け性
を確保するという観点からして、その後のろう付け温度
[液相線温度〜(液相線温度+15℃)]での保持時間
は1分以上とすることが好ましい。また、上記(1),
(2)のいずれの熱処理方法において、中間保持を行な
う場合においても、良好なろう付け性を確保する為に
は、ろう付け温度における保持時間を1分以上とするこ
とが好ましい。
【0031】本発明方法は、ろう材の溶融前における芯
材若しくは中間層へのSiの拡散深さがエロージョンを
支配しているという新しい知見に基づいてなされたもの
である。こうした現象が生じる理由については、その全
てを明らかにした訳ではないが、おそらく次の様な機構
によるものと考えられた。この機構を、図面を用いて説
明する。
【0032】図3(b)は、ろう材として用いるAl−
Si系合金の二元系状態図である。この図から明らかな
様に、ろう材の固相線温度T0(同図ではAl−Si共
結晶温度に相当する)では、αAl中のSi固溶限は極
大値C1をとる。この固相線温度T0近傍で保持する
と、ろう材の芯材側界面付近の芯材(若しくは中間相)
のSi濃度はほぼ上記C1となり、芯材(若しくは中間
層)におけるSi濃度プロファイルは上記界面からの深
さが深くなるにつれて徐々に低濃度の呈する様になる
(前記図1および図2)。
【0033】拡散は一般に温度が高くなるほど速いの
で、固相線温度以下の温度域では中間保持温度が高いほ
どSi濃度プロファイルは高温側にシフトする。この様
に芯材側にSiの拡散侵入が起こった状態でろう付け温
度T1まで加熱すると[図3(a)]、C1からC2の
濃度を持つ領域は必然的に固液2相状態となり、これが
エロージョンの原因となる。従来のろう付けヒートパタ
ーンでは、図3(a)に示す様に、中間保持温度をろう
材の固相線温度T0付近で行なっていたのであるが、こ
うした状態で加熱すると芯材(若しくは中間層)へのS
iの拡散侵入が活発になってその部分のSi濃度が高く
なってしまう。これに対し、本発明方法では、中間保持
温度を従来より低く抑えるか、或は固相線温度T0付近
をできるだけ速やかに横切るようにしたので、Si濃度
プロファイルが低温側に移行し、エロージョンの発生が
抑制できたのである。
【0034】尚、Si濃度を、芯材中に元々含まれてい
るSi濃度を超えた濃度(拡散Si濃度)で規定したの
は、芯材中に元々含まれているSiはAl或いはAl以
外の合金元素と化合物を形成しており、Al溶融時に拡
散侵入するSiと比べるとほとんど影響を与えないから
である。また、本発明で芯材として用いるAl合金とし
ては、前述したJISA3003の他JISA3004
等が使用されるのが一般的であり、これらのAl合金に
は少量のSiが含有されるものであるが、本発明で芯材
として用いるAl合金としてはこれらに限らず、Siを
実質的に含まないもの(即ち、芯材中に元々含まれるS
i濃度が0質量%のもの)を使用しても良い。
【0035】以下、本発明を実施例によって更に詳細に
説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のもの
ではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することは
いずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0036】
【実施例】JISA3003Al合金(0.6%Si-0.7%Fe-
1.2%Mn-0.1%Zn:残部Al)を溶製し、熱間加工によって薄
板とし、更に冷間圧延および焼鈍を施して芯材用Al合
金薄板を得た。一方、Al−10%Si−1.2%Mg
合金からなるろう材用薄板を準備し、これを上記芯材用
Al合金薄板の両面に積層してクラッド圧延し、焼鈍
後、冷間圧延および焼鈍を施して、Al合金芯材(厚
さ:420μm)の両面にAl−Si系合金ろう材(厚
さ:90μm×2)が積層されたブレージングシートを
得た。尚、冷間圧延後の焼鈍では、加工歪みを完全に除
去し、ブレージングシートが完全焼鈍材となる様にし
た。
【0037】得られたAl合金ブレージングシートをチ
ューブ材としてチューブ形状に成形加工し、またJIS
A3003合金をフィン材としてフィン形状に加工し
た。上記チューブ材とフィン材とを組み付け後、ろう付
けを行なった。ろう材の固相線温度および液相線温度
は、別途示差熱分析器で測定(10℃/分の昇温速度)
して求めた。その結果、ろう材の固相線温度は560
℃、液相線温度は590℃であった。
【0038】ろう付けは10-4torrの真空下で図4
に示すヒートパターンで行なった。即ち、室温から中間
保持温度T2(℃)まで加熱し、その温度で時間t2
(分)保持後、ろう付け温度T3(℃)まで加熱し、そ
の温度で時間t3(分)保持してから急冷して真空ろう
付けを行なって熱交換器を製造した。ここで、ろう付け
時の昇温速度は10℃/分とした。
【0039】そして、上記温度T2,T3および時間t
2,t3を変化させてろう付けを実施し、得られた熱交
換器のろう付け性および耐エロージョン性について調査
した。尚、ろう付け性は、ろう付け後のチューブにガス
で圧力をかけ、漏れが生じるか否かで評価した。また、
耐エロージョン性については、ろう材侵食深さとして
(ろう付け前の芯材厚さ−ろう付け後の残留芯材厚さ)
/2を測定し、これが70μmを超えているか否かによ
って評価した。これらの結果を、各試験における温度T
2,T3および時間t2,t3と共に、下記表1に示
す。
【0040】
【表1】
【0041】次に、幾段かの中間保持後そのまま急冷し
た試料で(ろう付け前)、ろう材の芯材側界面から芯材
側20μm深さの位置でSi濃度の分析をEPMAで行
なう一方、中間保持後ろう材固相線温度でろう付けした
(590℃×5分)製品についてろう付け性および耐エ
ロージョン性を調査した。またこの製品について、ろう
付け前のろう材の芯材側界面から芯材側70μm深さの
位置における、ろう付け後のSi濃度をEPMAで測定
した。このときのヒートパターンを図5に示す(図中、
T4,T5は中間保持温度、t4,t5は時間を示
す)。これらの結果を、中間保持の各段階の温度T4,
T5および時間t4,t5と共に、下記表2に示す。
尚、表2には、Si濃度として芯材中に元々含まれてい
るSi濃度を除いた拡散Si濃度を示した。
【0042】
【表2】
【0043】これらの結果から明らかな様に、本発明で
規定する要件を満足する実施例のものでは、ろう付け性
も良好であると共に、ろう材侵食深さも70μm以下に
低減されて優れた耐エロージョン特性が発揮されている
ことがわかる。また、本発明方法によれば、ろう付けま
での熱処理条件を適切に制御するだけで良いので、余分
な製造工程を追加することもない。
【0044】
【発明の効果】本発明は以上の様に構成されており、余
分な製造工程を追加することなく製造することができる
耐エロージョン特性に優れた熱交換器が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】ろう付け後の芯材の拡散Si濃度プロファイル
の一例を示すグラフである。
【図2】ろう材が溶融するまでの芯材若しくは中間層に
おける拡散Si濃度プロファイルの一例を示すグラフで
ある。
【図3】ろう材の溶融するまでの芯材若しくは中間層に
おけるSiの拡散深さがエロージョンを支配している機
構について説明するための図である。
【図4】ろう付けにおけるヒートパターンの一例を示す
グラフである。
【図5】ろう付けにおけるヒートパターンの他の例を示
すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 難波 茂信 神戸市西区高塚台1丁目5番5号 株式会 社神戸製鋼所神戸総合技術研究所内 (72)発明者 植田 利樹 栃木県真岡市鬼怒ケ丘15番地 株式会社神 戸製鋼所真岡製造所内

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Al合金芯材の両面若しくは片面に中間
    層を介して若しくは介さずにAl−Si系ろう材または
    Al−Si−Mg系ろう材を積層したAl合金ブレージ
    ングシート製チューブ材と、Al合金製フィン材が、前
    記ろう材を介してろう付けされてなる熱交換器におい
    て、前記チューブ材のろう付け前のろう材の芯材側界面
    から芯材側深さ70μmの位置におけるろう付け後のS
    i濃度[Si]70が、下記(1)式で規定される値以下
    であることを特徴とする熱交換器。 [Si]70=芯材中に元々含まれているSi濃度+0.4%(質量%)…(1)
  2. 【請求項2】 Al合金芯材の両面若しくは片面に中間
    層を介して若しくは介さずにAl−Si系ろう材または
    Al−Si−Mg系ろう材を積層したAl合金ブレージ
    ングシート製チューブ材と、Al合金製フィン材が、前
    記ろう材を介してろう付けされてなる熱交換器を製造す
    るに当たり、前記ろう付けに際して、Al−Si系ろう
    材またはAl−Si−Mg系ろう材の固相線温度までの
    加熱は、前記チューブ材のろう付け前のろう材の芯材側
    界面から芯材側深さ20μmの位置におけるSi濃度
    [Si]20が、下記(2)式で規定される値以下となる
    条件で行ない、その後、ろう付け温度を前記Al−Si
    系合金ろう材またはAl−Si−Mg系ろう材の液相線
    温度〜(液相線温度+15℃)として、このろう付け温
    度に至るまでは10分以内で加熱を行なうことを特徴と
    する熱交換器の製造方法。 [Si]20=芯材中に元々含まれているSi濃度+0.7%(質量%)…(2)
  3. 【請求項3】 Al合金芯材の両面若しくは片面に中間
    層を介して若しくは介さずにAl−Si系ろう材または
    Al−Si−Mg系ろう材を積層したAl合金ブレージ
    ングシート製チューブ材と、Al合金製フィン材が、前
    記ろう材を介してろう付けされてなる熱交換器を製造す
    るに当たり、前記ろう付けに際して、前記チューブ材が
    Al−Si系合金ろう材またはAl−Si−Mg系ろう
    材の(固相線温度−80℃)〜(固相線温度−10℃)
    の温度域にある時間を1〜60分として加熱した後、
    (固相線温度−10℃)を超えて液相線温度〜(液相線
    温度+15℃)の範囲のろう付け温度に至るまでは10
    分以内で加熱を行なうことを特徴とする熱交換器の製造
    方法。
  4. 【請求項4】 Al合金芯材の両面若しくは片面に中間
    層を介して若しくは介さずにAl−Si系ろう材または
    Al−Si−Mg系ろう材を積層したAl合金ブレージ
    ングシート製チューブ材と、Al合金製フィン材が、前
    記ろう材を介してろう付けされてなる熱交換器を製造す
    るに当たり、前記ろう付けに際して、前記チューブ材が
    Al−Si系ろう材またはAl−Si−Mg系ろう材の
    (固相線温度−10℃)超〜固相線温度の温度域にある
    時間を5分未満として加熱した後、固相線温度を超えて
    液相線温度〜(液相線温度+15℃)の範囲のろう付け
    温度に至るまでは10分以内で加熱を行なうことを特徴
    とする熱交換器の製造方法。
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