JP2000351799A - フィブロネクチン溶液の製造方法 - Google Patents

フィブロネクチン溶液の製造方法

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JP2000351799A
JP2000351799A JP11160312A JP16031299A JP2000351799A JP 2000351799 A JP2000351799 A JP 2000351799A JP 11160312 A JP11160312 A JP 11160312A JP 16031299 A JP16031299 A JP 16031299A JP 2000351799 A JP2000351799 A JP 2000351799A
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Mitsuo Shimizu
光男 清水
Kazunobu Mizuguchi
和信 水口
Ayako Tsuda
綾子 津田
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 フィブロネクチン製剤の製造のための、エン
ベロープウイルス及び非エンベロープウイルス共に除去
可能な、且つ十分な実用性のあるウイルス除去の方法を
提供すること。 【解決手段】 フィブロネクチン溶液の製造方法であっ
て、薬剤学的に許容し得るキレート剤及び1〜30mM
の濃度の薬剤学的に許容し得る緩衝剤を含有するpH6
〜7.5の水溶液である媒質にフィブロネクチンを溶解
させ、ポアサイズ18nm未満のフィルターに通すこと
を特徴とする製造方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、血漿由来タンパク
質であるフィブロネクチンの濾液の製造方法に関し、よ
り詳しくは、ウイルス等の病原性因子の除去のためにフ
ィブロネクチン水溶液を濾過して濾液を得るための方法
に関する。
【0002】
【従来の技術】血漿由来タンパク質の製剤には、感染性
の病原性ウイルスの混入の危険がつきまとっている。ヒ
トに感染するウイルスは、エンベロープウイルスと非エ
ンベロープウイルスとに大別される。エンベロープウイ
ルスのうち重得な疾病を引き起こすものとしてはHIV
(AIDSウイルス)、HTLV−1等のヒト白血病ウ
イルス、HBV、HCV等の肝炎ウイルス、EBウイル
ス、ヘルペスウイルス等が存在し、非エンベロープウイ
ルスのうちではポリオウイルスやバルボウイルスが知ら
れている。
【0003】血液製剤の投与には、供血者の血漿に存在
している可能性のある上記感染性因子による患者の感染
の危険が伴う。このため、血漿由来タンパク質の製剤化
に際しては、これら感染性因子の混入を防ぐ目的でPC
R法等の高感度なウイルス検出法を用いて原材料たる血
漿を試験し、ウイルスに汚染された血漿を排除すること
が、第一に行われている。しかしながら、ウイルスの混
入を調べるための如何なる試験法も、その検出感度には
限界がある。血液製剤を製造する場合、製剤中に混入し
ているかも知れないそれらの感染性因子の不活性化及び
除去の工程を設けることは、従って、必須項目である。
そのため、血漿由来のタンパク質製剤中のウイルスを不
活性化して製剤の安全性を確保するための種々の方法が
考案されてきた。
【0004】それらのうち主として用いられている方法
は、血液由来タンパク質製剤を、タンパク質安定化剤の
共存下に加熱することによるものである。一般には液状
熱処理法がおこなわれ、それによればタンパク質安定化
剤としてアルブミン、糖類又はアミノ酸が用いられ、6
0℃、10時間の加熱処理が行われる[特開平5−18
6358号]。EP0052827−A2には、第VIII
因子、フィブロネクチン、グロブリン等のタンパク質の
熱処理法が開示されている。
【0005】しかし、液状熱処理法は、熱に不安定なタ
ンパク質に適用すると熱変性を引き起こしやすく、特
に、血漿タンパク質であるフィブロネクチンは熱変性し
やすい。そのため、液状熱処理法の利用は、熱安定性の
タンパク質に限定されている。
【0006】他方、有機溶媒及び界面活性剤を用いる、
いわゆるソルベント・デタージェント法(SD法)によ
るウイルス不活性化法が確立されている[Solvent/Dete
rgent Technology Handbook, Version 2.0 (1996), New
York Blood Center (USA)]。この方法は、肝炎ウイル
スやHIVウイルス等のエンベロープウイルスの不活性
化に著しく効果がある。このため、ソルベント・デター
ジェント法は、血液製剤のウイルス処理法として日・米
・欧の血液製剤メーカによって広く利用されており、取
り分け、熱に不安定なタンパク質での殺菌及びウイルス
不活性化処理に繁用されている。
【0007】しかしながら、ソルベント・デタージェン
ト法は、非エンベロープウイルスの不活性化に対して
は、殆ど効果がないことが知られている。
【0008】血漿タンパク質であるフィブロネクチン
は、熱処理に不安定なタンパク質である。このためウイ
ルスの液状熱処理法は適用できない。また、タンパク質
によっては利用可能な方法として、フィルター濾過によ
るウイルス除去方法があるが、フィブロネクチンは長鎖
の高分子であるためフィルター濾過では回収率が極めて
低くなり、実際には利用できない。
【0009】そのためフィブロネクチン製剤のウイルス
不活性化法としては、これまでソルベント・デタージェ
ント法のみが利用可能であり、混入のおそれのある非エ
ンベロープウイルスの効果的な除去法は確立されないま
まとなっている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、この問題を
解決して、フィブロネクチン製剤の製造のための、エン
ベロープウイルス及び非エンベロープウイルス共に除去
可能な、且つ十分な実用性のあるウイルス除去の方法を
提供することを目的とする。
【0011】本発明者は、濾過法によるフィブロネクチ
ン製剤中のウイルス除去の潜在的可能性に着目し、ウイ
ルスの通過を阻止する小さなポアサイズのフィルターを
用いながらしかもフィブロネクチンを高い回収率で効率
的に濾過する方法を見出すために研究を行った。その結
果、種々のウイルスを除去できる十分小さいポアサイズ
のフィルターを用いても、フィブロネクチンを含有する
媒質をある特定の条件に適合するものとしておくことに
より、濾液中のフィブロネクチンの回収率を飛躍的に高
めることができることを見出した。
【0012】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、フィ
ブロネクチン溶液の製造方法であって、薬剤学的に許容
し得るキレート剤及び1〜30mMの濃度の薬剤学的に
許容し得る緩衝剤を含有するpH6〜8.0の水溶液であ
る媒質にフィブロネクチンを溶解させ、ポアサイズ18
nm未満のフィルターに通すことを特徴とする製造方法
を提供する。
【0013】本発明で用いるフィルターにおける18n
m未満というポアサイズは、最小サイズの非エンベロー
プウイルスであるパルボウイルスの直径18〜24nm
より小さい。このため、他のウイルスは勿論のこと、パ
ルボウイルスをも有効に除去できる。従って、本発明
は、エンベロープウイルス及び非エンベロープウイルス
の両方について優れた除去方法を提供する。またフィブ
ロネクチンは溶液状態では凝集や析出をする傾向があ
り、特に、小さいポアサイズフィルターを用いる濾過は
フィブロネクチンの回収率が低過ぎて従来実用化できな
かったが、本発明に従ってフィブロネクチンを含有する
媒質を調製することにより、フィブロネクチンの凝集・
析出を抑え非常に効率よく回収することができる。この
ため、本発明は、血漿からのフィブロネクチン製剤の製
造工程に有利に適用することができる。本発明の方法
は、知られている最小サイズのウイルスでも効果的に除
去できるため、安全なフィブロネクチン製剤の提供にお
ける有用性が大きい。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明で用いるフィルターとして
は、メンブランフィルターを用いることができるが、1
8nm未満のポアサイズのものが入手できるのであれば
他のフィルターを用いることも可能である。現在商業的
に入手できるフィルターの例としては、ポアサイズ15
nmの限外濾過フィルター「PLANOVA 15」(登録商標)
(セルロースによる中空糸膜:旭化成工業(株))が
挙げられる。
【0015】本発明で用いられるフィルターのポアサイ
ズには特に明確な下限はなく、入手可能なフィルターか
ら、フィブロネクチンが実用上通過できるサイズのもの
を選択すればよい。
【0016】本発明において用いる緩衝剤として特に好
ましいのは、緩衝剤がリン酸塩緩衝剤、マレイン酸塩緩
衝剤、及びクエン酸塩緩衝剤である。これらの緩衝液
は、何れも注射剤として繁用されているものであるた
め、使用において安全性が高い。
【0017】また本発明において用いるキレート剤とし
て特に好ましい一例は、エチレンジアミンテトラ酢酸で
ある。エチレンジアミンテトラ酢酸はやはり、注射剤へ
の添加剤として実績があるため、安全性の保証が容易で
ある。なお、本明細書において「エチレンジアミンテト
ラ酢酸」というときは、遊離酸のみならずその塩、例え
ばナトリウム塩等のアルカリ金属塩をも包含する。
【0018】本発明において、キレート剤濃度として
は、0.1〜2.0mMであることが好ましく、0.2
〜1.0mMであることが更に好ましい。
【0019】また本発明において、フィブロネクチン濃
度としては、0.1〜3.0mg/ml程度の範囲であ
ることが好ましく、0.2〜1.5mg/ml程度の範
囲であることが更に好ましい。
【0020】本発明者等は、ポアサイズ15nmのフィ
ルターを用いて、血漿タンパク質であるフィブロネクチ
ン分画に、ウイルス(ウシ口内炎ウイルス、ヒト単純ヘ
ルペスウイルス、ポリオウイルス、パルボウイルス)を
添加して、それらをそれぞれフィルター濾過して、濾過
効率を調べた。その結果、フィルター濾過のステップ
で、ウシ口内炎ウイルスの場合4.2×106以上、ヒ
ト単純ヘルペスウイルスの場合1.0×105以上、ポ
リオウイルスの場合2.3×106以上、更に、最小の
ウイルスであるパルボウイルスに関して1.0×103
以上の除去効率が見出された(表2〜5)。
【0021】ヒトパルボウイルスのモデルとしてブタパ
ルボウイルスを用い、これに対しポアサイズ15nm及
び35nmの2種類のフィルターを通した濾過による除
去率を比較した。除去効率の評価には、ウイルスの生物
学的性質である感染性について、細胞変性効果(CP
E)(図1)及び赤血球凝集反応(HA)(図2及び
3)を用いた。また、ウイルス核酸のPCR法を用いた
検出試験によっても比較検討した。パルボウイルスの直
径は18〜24nmであり[The Lancet, 343: p.798
(1994)]、ポアサイズ35nmのフィルターは通過する
と予測されていたが[国立予防衛生研究所学友編:ウイ
ルス実験学 総論、丸善 (1973)]、ブタパルボウイル
スの場合、ポアサイズ35nmのフィルターによる濾液
では、1×103倍希釈まで感染が確認された。このこ
とはブタパルボウイルスがポアサイズ35nmのフィル
ターを予測通り容易に通過することを示しており、やは
り35nmのポアサイズのフィルターがウイルス除去目
的には不適当であることを確認するものである。
【0022】これに対してポアサイズ15nmのフィル
ターを用いた場合は、パルボウイルス原液を濾過して
も、通過した濾液中についての細胞変性効果及び赤血球
凝集反応による試験でウイルスは検出されず、ポアサイ
ズ15nmのフィルターによる著しく優れた除去効果が
確認された。一方、PCR法によるウイルスDNAの検
出試験では、ポアサイズ15nmのフィルターによって
も、1×103倍希釈までウイルスDNAが検出された
が、これはウイルス粒子自体の通過でなく、ウイルスD
NAの断片が通過したことによると考えられる。
【0023】ポアサイズ15nmのフィルターを通過し
たフィブロネクチンは、SDS−PAGE上やBHK細
胞接着能試験、及び抗体との反応性において濾過の前後
で変化が見られず、フィブロネクチンの基本的な構造及
び機能に差違は認められなかった。
【0024】
【実施例】以下、典型的な実施例を挙げて本発明を更に
詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定され
ることは意図しない。
【0025】(1)材料 (a)試薬類としては下記のものを用いた。イーグルM
EM培地「ニッスイ」(1)(日水製薬)、ダルベッコP
BS(−)粉末「ニッスイ」(日水製薬)、トリプシン
(DIFCO)、EDTA・2Na(DOJINDO)ウシ胎児血清
(JRH Bioscience)、L−グルタミン(和光純薬工
業)、7%炭酸水素ナトリウム注射液(扶桑薬品)、1
0×反応緩衝液(Promega)、塩化マグネシウム溶液(P
romega; 25 mM)、taq DNAポリメラーゼ(Promeg
a; 5U/μl)、dATP(宝酒造; 100μM)、dG
TP(宝酒造; 100μM)、dCTP(宝酒造; 100μ
M)、dUTP(Sigma; 100μM)、ウラシルDNAグ
ルコシラーゼ(GIBCO BRL; 1U/μl)、φx174/HincI
I(東洋紡績)、プロテイナーゼK(宝酒造:20mg/
ml)、STE緩衝液(10M Tris-HCl, 10mM NaCl,
1mM EDTA、pH7.6)、0.5%SDS−ST
E緩衝液、グリコーゲン(Boehringer Mannheim; 20m
g/ml)、3M酢酸ナトリウム(ニッポンジーン)、
クロロホルム(和光純薬工業)、イソアミルアルコール
(和光純薬工業)、TE飽和フェノール(ニッポンジー
ン)、TE緩衝液(10M Tris-HCl, 1mM EDTA、
pH7.6)、グリシン(和光純薬工業)、Tween 80
(和光純薬工業;化学用Polyoxyethylene(20)Sorbitan
Monooleate)、並びに、抗ヒトフィブロネクチンモノク
ローナル抗体として抗コラーゲン結合部位(FN4-4)、
抗細胞接着部位(FN12-8)、抗N末フィブリンヘパリン
結合部位(FN9-1)及び抗C末ヘパリン結合部位(FN3-
8)(いずれも宝酒造)。
【0026】(b)機材及びフィブロネクチンとしては
次のものを用いた。加圧ポンプ(Linicon LC-910: NITT
O KOHKI,)、マイクロチューブポンプ(MP-3:東京理科
機械)、限外濾過システム(ProFlax M12:アミコ
ン)、フィブロネクチン(ヒト血漿由来:日本ケミカル
リサーチ製)、ブタパルボウイルス原液(CPE法、10
5TICD50)、限外濾過フィルター(PLANOVA 15nm、PLA
NOVA 35nm:旭化成)。
【0027】(c)ウイルス及び培養細胞 ウシ水疱性口内炎ウイルス(VSV)は、ニュージャー
ジー株(家畜衛生試験所)を用いた。ヒト羊膜由来FL
細胞(国立衛生研究所)にVSVを感染増殖させ、ペト
リ皿に播種してウイルスをプラーク法により定量した。
ヒト単純ヘルペスウイルスI型(HSV―1)はF株
(アラバマ大学臨床ウイルス学教室)を用いた。サル腎
由来のVero細胞(大日本製薬)にHSV-1を完成させた。2
4ウェルマルチディッシュプレートに播種して、ウイル
スをプラーク法により定量した。ポリオウイルス(Sabi
n 1)は、国立衛研究所から入手して、このウイルスをV
ero細胞に感染させ3cmのペトリ皿に播種し、ウイル
スをプラーク法により定量した。ブタパルボウイルスと
しては90HS株(京都微生物化学研究所)を用いた。ブタ
腎由来のESK細胞(京都微生物化学研究所)にブタパ
ルボウイルスを感染増殖させ、48ウェルマイクロプレ
ートに播種したESK細胞を用いて、ウイルスをTCID法
/HA法により定量した。
【0028】(d)ウイルス液の調製:ブタパルボウイ
ルス原液につき、5%ウシ胎児血清/イーグルMEM培
地・3%炭酸ナトリウムにて、1×1010倍希釈までの10
倍段階希釈を行った。
【0029】(2)フィブロネクチン濾液の調製:5m
Mリン酸ナトリウム、1mM EDTA・2Na(pH
7.4)の希釈用緩衝液で濃度調製したフィブロネクチン
(1.0mg/ml)の溶液18mlに、上記(d)で調製し
たウイルス液(原液〜1×1010倍希釈ウイルス液)2m
lを添加して、ポアサイズ0.22μmのメンブランフィル
ターで濾過し、更に、希釈液で平衡化したPLANOVA膜
(0.001m2又は0.01m2、ポアサイズ15nm又は35n
m)を通過させることにより、フィブロネクチン濾液と
した。
【0030】(3)細胞変性効果(CPE)の観察 (a)ESK細胞懸濁液の調製:ESK細胞を常法によ
りトリプシンで消化して、細胞懸濁液を作成し、細胞数
が2.0〜2.3×104個/mlとなるように調製した。
【0031】(b)サンプル液の調製:ブタパルボウイ
ルス原液につき、5%ウシ胎児血清/イーグルMEM培
地・3%炭酸ナトリウムにて、1×1010倍希釈までの10
倍段階希釈を行うことによりウイルス標準液を調製し
た。また、5mMリン酸ナトリウム、1mM EDTA
・2Na(pH7.4)の希釈用緩衝液で濃度調製したフ
ィブロネクチン(1.0mg/ml)の溶液18mlに、ブタ
パルボウイルス原液2mlを添加することにより調製し
たウイルス・フィブロネクチン液(「チャージ液」とい
う。)につき、同様に5%ウシ胎児血清/イーグルME
M培地・3%炭酸ナトリウムにて、1×1010倍希釈まで
の10倍段階希釈を行うことにより希釈チャージ液を調製
した。また、これらの溶液の各一部分を、ポアサイズ35
nm又は15nmのフィルター(PLANOVA:旭化成)で濾
過することにより、フィルター濾液を得た。
【0032】(c)ESK細胞の培養:上記(a)にて
調製したESK細胞を、48ウェルプレートの各ウェルに
0.5mlずつ分注し、更に、上記(b)に記載のウイル
ス標準液、チャージ液又はフィルター濾液を0.1ml添
加し、37℃、5%CO2にて7〜10日間静置培養した。
【0033】(d)CPEの観察と結果 培養7日目から、感染価の高いブタパルボウイルスを添
加したESK細胞にCPEが現れた(図1(b))。これ
らの細胞の形態変化を顕微鏡により観察した。ポアサイ
ズ35nmのフィルターによる濾液では、ウイルス原液〜
1×103倍希釈液まで、培養細胞に図1(b)で例示したよ
うなCPEが観察された。これに対し、ポアサイズ15n
mのフィルターによる濾液では、ウイルス原液を添加し
た細胞でCPEを指標とした感染が観察されたのみであ
り、他のフィルター濾液では何れもCPEは観察されず
図1(a)で例示したような正常な細胞形態が見られた。
このように、ポアサイズ15nmのフィルターは、知られ
ている最小サイズのウイルスに対して、著しい除去効果
を示した。
【0034】(4)HA値の測定 (a)モルモット赤血球(0.5%赤血球)浮遊液の調
製:シリンジにヘパリンをコートしてモルモットの心臓
から血液1mlを採取した。採血後にPBS(−)溶液
を用いて2000rpm、5分間の遠心を2回行った後、25
00rpm、10分の遠心を行うことにより洗浄した。洗浄
後に、赤血球0.5mlをPBS(−)溶液100mlに懸濁
させ、0.5%赤血球浮遊液とした。
【0035】(b)サンプル液の調製:ブタパルボウイ
ルス原液につき、5%ウシ胎児血清/イーグルMEM培
地・3%炭酸ナトリウムにて、1×1010倍希釈までの10
倍段階希釈を行うことにより希釈ウイルス液を調製し
た。また、5mMリン酸ナトリウム、1mM EDTA
・2Na(pH7.4)の希釈用緩衝液で濃度調製したフ
ィブロネクチン(1.0mg/ml)の溶液18mlに、ブタ
パルボウイルス原液2mlを添加することにより調製し
たウイルス・フィブロネクチン液(「チャージ液」とい
う。)につき、同様に5%ウシ胎児血清/イーグルME
M培地・3%炭酸ナトリウムにて、1×1010倍希釈まで
の10倍段階希釈を行うことにより希釈チャージ液を調製
した。また、チャージ液及び希釈チャージ液の一部を、
ポアサイズ35nm及び15nmのフィルター(PLANOVA:
旭化成)で濾過することにより、濾液を得た。
【0036】(c)サンプルの添加及び評価方法:V底
の96ウェルプレートに上記の無希釈〜1×1010倍希釈の
ウイルス標準液、チャージ液又はフィルター濾液を50μ
l、PBS(−)溶液50μl、及び0.5%モルモット赤
血球浮遊液100μlを添加して密封した。プレートミキ
サーを用いて攪拌した後、1〜2時間室温で静置した。
ブランクとして、ウイルス無添加のESK細胞培養上清
液を使用した(図2及び3における「C」)。赤血球が
凝集すれば陽性、凝集しなければ陰性と判定した。
【0037】(d)結果:ウイルス標準液では、原液か
ら1×104倍希釈まで、またチャージ液では無希釈〜1
×103倍希釈まで、赤血球の凝集が認められた(図2を
参照:図2以降において希釈倍率1×10n倍は単に10n
略記)。またポアサイズ35nmフィルターを通した無希
釈〜希釈チャージ液でも1×104倍希釈まで赤血球の凝
集が確認された(図3のプレートの右半分)。これに対
して、ポアサイズ15nmのフィルターによる濾液では、
いずれも赤血球凝集は認められず、ウイルスが効果的に
除去されていることが確認された(図3のプレートの左
半分)。
【0038】(5)PCRによるウイルスDNAの検出 (a)ブタパルボウイルスDNAの抽出方法:ウイルス
標準液、チャージ液及びフィルター濾液(100μl)に
STE緩衝液(900μl)を加え、混合後4℃にて15000
rpm、90分間の遠心分離処理を行った。遠心分離後、
沈殿に0.5%SDS−STE緩衝液(100μl)、10mg/
mlのプロテイナーゼK 2.5μlを加えて混合した。55
℃にて5分間加熱した後、室温にて25分間清置した。
【0039】フェノール:クロロホルム:イソアミルア
ルコール(25:24:1)100μlを加え、4℃にて15000
rpm、10分間遠心分離を行った後、水層に20mg/m
lのグリコーゲン1μl、3M酢酸ナトリウム100μ
l、エチルアルコール200μlを添加した。−80℃にて3
0分間静置した後、4℃にて15000rpm、5分間遠心分
離を行った。沈殿物に80%にエチルアルコール1000μl
を添加して、更に4℃にて15000rpm、10分間の遠心
分離操作を行った。沈殿物を吸引乾燥処理し、得られた
沈殿乾燥物をTE緩衝液20μlに溶解させてブタパルボ
ウイルスDNA抽出液とした。
【0040】(b)ブタパルボウイルスDNAの検出方
法:ウイルスDNAの検出は、Nested-PCRにて行っ
た。第1次PCR反応溶液(20μl)[10×反応緩衝液
(2.0μl)、25mM塩化マグネシウム溶液(1.2μ
l)、1.0mM dNTPs混合物(2.0μl)、ウラシ
ルDNAグルコシラーゼ(1U/μl)(0.5μl)、
0.2μM PB-1(1.0μl)、0.2μM PB-2(1.0μl)、
Taq DNAポリメラーゼ(0.5U/μl)(1.0μl)、
ブタパルボウイルスDNA抽出液(2.0μl)、SDD
W(9.3μl)]を調製し、第1次PCRを行った。最
初に、37℃、15分間のウラシルDNAグルコシラーゼ
(UDG)処理を行い、94℃にて4分間の処理によりUDGを
失活させた。その後、増幅反応として94℃1分間、55℃
2分間のサイクルを35回繰り返した。次に第1次PCR
産物を鋳型DNAとして、第2次PCR反応液(20μ
l) [10×反応緩衝液(2.0μl)、25mM塩化マグネ
シウム溶液(1.2μl)、1.0mM dNTPs混合物
(2.0μl)、20μM PB-3(1.0μl)、20μM PB-4
(1.0μl)、Taq DNAポリメラーゼ(0.5U/μl)
(1.0μl)、第1次PCR産物(2.0μl)、SDDW
(9.8μl)]を調製し、第2次PCRを行った。増幅
反応は第1次PCRと同様に行った。プライマーは第1
次PCR用のプライマーとしてPB-1(配列表の配列番号
1)、PB-2(配列表の配列番号2)を、第2次PCR用
のプライマーとしてPB-3(配列表の配列番号3)、PB-4
(配列表の配列番号4)を使用した。PCR産物は、3.
0%アガロース電気泳動で確認した。
【0041】(c)結果:PCRによる検出の結果、ウ
イルス標準液では1×107倍希釈まで(図4)、チャー
ジ液では1×106希釈まで(図5)、ポアサイズ35nm
のフィルターの濾液では1×105倍希釈まで(図6)、
それぞれウイルスDNAが検出されたが、これに対し、
ポアサイズ15nmのフィルターの濾液では1×103倍希
釈を超えるとウイルスDNAは検出されなかった(図
7)。
【0042】HA、CPE及びPCRの結果につき、ウ
イルス検出限度以下となる希釈倍率を次の表1にまとめ
る。
【0043】
【表1】
【0044】(6)各精製工程のフィブロネクチン分画
及びウイルスの除去効率の評価 (a)行程(1) 血漿のクリオ沈殿物約10gを、5倍量(V/W)のヘパ
リンナトリウム液(1%エタノール、3単位/mlヘパ
リンナトリウム)で溶解し、工程前試料液とした。この
溶液にウイルス液を1/10(V/W)量添加した。次
に、3%の水酸化アルミニウム懸濁液を調製して、溶解
液に1/10(V/V)量を添加して、pH6.0〜6.2に攪
拌調整した。約5℃の低室温にて30分間程清置し、遠心
分離により水酸化アルミニウム含有の沈殿を回収した。
回収した沈殿に5倍量(V/W)の10mMリン酸塩−0.
12M NaCl緩衝液(pH7.4)を加えて溶解した。更
に、グリシンを最終濃度が2Mとなるように添加してp
H7.0〜7.4に調整した。30分間室温にて静置後、遠心分
離操作により上清を回収し、この上清を工程後試料液と
した。
【0045】(b)工程(2) ウイルス無添加の工程(1)の条件で得られた上清に、
ウイルス液を1/10(V/V)量添加混合し、工程前試
料液とした。この前試料液に、TNBP、Tween80をそれぞ
れ最終濃度が0.3%(V/V)、1.0%(V/V)とな
るように添加し、25℃にて6時間以上攪拌保持し、これ
を工程後の試料液とした。
【0046】(c)工程(3) ウイルス無添加の工程(1)の条件で得られた上清に、
ウイルス液を1/10(V/V)量添加混合して工程前試
料液とした。前試料液を、10mMリン酸塩−0.12M N
aCl緩衝液(pH7.4)で十分に平衡化させたゼラチ
ンセファロースカラムに負荷させた後に、緩衝液で非吸
着物を十分に洗い流した。次いで溶出緩衝液(0.1M酢
酸ナトリウム−1M臭化ナトリウム(pH5.0))によ
り、吸着しているフィブロネクチンを溶出させて工程後
の試料とした。
【0047】(d)工程(4) ウイルス無添加の工程(1)〜(3)で精製されたフィ
ブロネクチン溶液を、5mMリン酸塩緩衝液−1mM
EDTA・2Na(pH7.4)で十分透析して緩衝液交
換し、同緩衝液でフィブロネクチン溶液(1mg/m
l)を調製した。この溶液にウイルス液を1/10(V/
V)量添加して工程前試料液とした。工程前試料液(20
ml)をウイルス除去フィルター(15nm、0.001m2
に負荷して、工程後試料とした。
【0048】(e)処理前試料並びに処理後試料液のウ
イルス定量結果(n=3) (i)添加ウイルスがウシ口内炎ウイルス(VSV)の
場合、次の表2に示すように、工程2,3,4の全体で
>1.1×1015の除去効率を示した。
【0049】
【表2】
【0050】(ii)添加ウイルスがヒト単純ヘルペスウ
イルス(HSV)の場合、次の表3に示すように、工程
2、3、4全体で>4.7×1011の除去効率を示した。
【0051】
【表3】
【0052】(iii)添加ウイルスがポリオウイルスの
場合、表4に示す用ように、工程3、4の全体で>1.1
×109の除去効率を示した。
【0053】
【表4】
【0054】(iv)添加ウイルスがパルボウイルスの場
合、表5に示すように、工程4のみで>1.0×103の除去
効率を示した。
【0055】
【表5】
【0056】(7)濾過によるフィブロネクチン回収率
の改善 フィブロネクチンの濾過のための適切な条件を検討する
ため、各種の媒質にフィブロネクチンを溶解し、フィル
ターで濾過して、濾液中などのフィブロネクチン濃度を
測定してフィブロネクチン回収率を求めた。
【0057】フィブロネクチンを溶解させる媒質として
は、次の3種類のリン酸塩緩衝液を用いた。 ・5mMリン酸塩緩衝液(pH7.4)(緩衝液I) ・1% Tween80含有5mMリン酸塩緩衝液(pH7.4)
(緩衝液II) ・1mM EDTA含有5mMリン酸塩緩衝液(pH7.
4)(緩衝液III)
【0058】溶液中のフィブロネクチン濃度は、分子吸
光係数(E1%)13.0より求めた。
【0059】(a)フィブロネクチン濃度1mg/ml
での検討 上記の各緩衝液150mlにフィブロネクチンを150mgを
溶解させ、1mg/mlのフィブロネクチン溶液各150
mlを調製した。これらのフィブロネクチン溶液を、加
圧ポンプを用いて圧力0.5kg/cm2以下の圧力で、そ
れぞれポアサイズ15nmのフィルター(0.01m2、PLANO
VA:旭化成)を通して濾過し、濾液中のフィブロネクチ
ン濃度を測定してフィルター通過率を求めた。
【0060】結果を図8に示す。フィブロネクチン溶液
150mlをフィルターに通過させて得られた濾液(「初
回通過液」:緩衝液によるフィルター洗い出し工程を含
まない濾液)中へのフィブロネクチン回収率は、緩衝液
Iを用いたフィブロネクチン溶液では約50%、緩衝液II
を用いたフィブロネクチン溶液では約60%、緩衝液III
を用いたフィブロネクチン溶液では約50%であった(図
8の左側の3本のヒストグラム参照)。
【0061】膜上に残留すると考えられたフィブロネク
チン量を確認するため、フィルターに対し反対方向から
それぞれの緩衝液を通すことによりフィルターを逆方向
洗浄し、逆方向洗浄液中のフィブロネクチン量を測定し
た。その結果各フィルターについて得られたフィブロネ
クチン量を比較すると、緩衝液IIIによるものが顕著に
高かった(図8の中央の3本のヒストグラム参照)。初
回通過液中に回収されたフィブロネクチン量とフィルタ
ーの逆方向洗浄液より回収されたフィブロネクチン量と
を合計すると、緩衝液III(キレート剤であるEDTA
含有の低塩濃度緩衝液)ではほぼ100%のフィブロネク
チンの回収を見たのに対し、緩衝液I(キレート剤を含
まない)では約60%、緩衝液II(非イオン界面活性剤で
あるTween80を含有)でも約80%のフィブロネクチンし
か回収できなかった(図8の右側の3本のヒストグラム
参照)。このように、緩衝液IIIを用いたときは、フィ
ブロネクチンが損失なくフィルターを通過又はフィルタ
ーから回収できたのに対し、緩衝液Iでは約40%のフィ
ブロネクチンが失われ、緩衝液IIでも約20%のフィブロ
ネクチンが失われた。この結果は、緩衝液Iでは、フィ
ブロネクチンのフィルターへの吸着等のような何らかの
実質的に非可逆的な相互作用が起こった可能性を示唆し
ている。また、緩衝液IIIを用いた場合、フィルター等
とのそのような非可逆的な相互作用が防止できることも
示唆している。また、緩衝剤IIを用いたときは、フィブ
ロネクチン溶液の濾過時のフィルター通過は優れていた
が、フィルターの逆方向洗浄液中の回収率は低く、フィ
ルター等との何らかの非可逆的相互作用の存在が窺われ
る。
【0062】(b)フィブロネクチン濃度5mg/ml
での検討:上の結果を参考として、次に、より高濃度の
フィブロネクチン溶液を用いてフィブロネクチンの濾過
効率を検討した。試料として、上記緩衝液II及びIIIを
それぞれ30ml用いて各150mgのフィブロネクチンを
溶解することにより、5mg/mlの濃度の3種類のフ
ィブロネクチン溶液各30mlを調製した。これらのフィ
ブロネクチン溶液について、上記と同様に、加圧ポンプ
を用いて圧力0.5kg/cm2の以下の圧力で、それぞれ
ポアサイズ15nmのフィルター(0.01m2、PLANOVA:旭
化成)で濾過し濾液中のフィブロネクチン量を測定し、
次いで、同じ緩衝液で各フィルターを逆方向洗浄して得
た洗液中に回収されたフィブロネクチン量を測定し、相
互に比較した。
【0063】その結果、フィブロネクチン溶液を単にフ
ィルターで濾過するのみでフィルターの洗浄を行わない
初回通過液中のフィブロネクチン量は、緩衝液II及び緩
衝液IIIでそれぞれ約10%及び15%に止まった(図9の
左側の2本のヒストグラムを参照)。しかしながら、フ
ィルターの逆方向洗浄により多量のフィブロネクチンが
回収され(図9の中央の2本のヒストグラムを参照)、
初回通過液中のフィブロネクチン量とフィルターの逆方
向洗浄液中に回収されたフィブロネクチン量とを合計す
ると、緩衝液II及びIIIで共に約95%の回収が得られた
(図9の右側の2本のヒストグラムを参照)。この結果
は、溶液中のフィブロネクチンの濃度が5mg/mlと
高いと、溶液を単にフィルターを通過させただけではフ
ィブロネクチンのフィルター通過が著しく低下すること
を示している。また、フィルターの逆方向洗浄によって
かなりの効率でフィブロネクチンが回収されるものの、
約5%の損失が生じたことは、フィブロネクチン濃度の
上昇と共にフィルターへの吸着など何らかの非可逆的相
互作用の影響が増す可能性も示唆している。またこれに
関し、緩衝液IIを用いたときのフィブロネクチンの回収
率がフィブロネクチン濃度1mg/mlの場合と比較し
て高まったのは、高濃度のフィブロネクチンによってフ
ィルターの吸着部位等がマスクされた可能性も考えられ
る。
【0064】(c)フィルター洗い出しを伴うフィブロ
ネクチン濾過の検討 緩衝液II及び緩衝液IIIを用いて、1mg/mlの濃度
のフィブロネクチン溶液を各150ml調製した。これら
の溶液を、加圧ポンプを用いて0.5kg/cm2以下の以
下でそれぞれポアサイズ15nmのフィルター(0.01
2、PLANOVA:旭化成)で濾過し、次いで各フィルター
にそれぞれの緩衝液50mlを同じ方向に通過させること
によりフィルターを洗い出して洗液を回収した。濾液及
びフィルター洗液中のフィブロネクチン量をそれぞれ測
定し、フィブロネクチンの回収率を算出した。
【0065】最初の濾液中のフィブロネクチンは、緩衝
液IIを用いたものでは約60%、緩衝液IIIを用いたもの
では約65%であった(図10の左側の2本のヒストグラ
ムを参照)。少量の緩衝液によるフィルターの洗い出し
により、緩衝液と共にフィルターを通過して各洗液中に
フィブロネクチンが回収された(図10の中央の2本の
ヒストグラムを参照)。フィルター洗液中のフィブロネ
クチンの回収率は、キレート剤含有の緩衝液IIIを用い
たもので高く、その結果、最初の濾液及び洗液を合わせ
たフィルターを通したフィブロネクチンの全体の回収率
は、緩衝液IIIを用いたもので約90%に達したが、これ
に対し界面活性剤含有の緩衝液IIでは全体の回収率は約
75%に止まった(図10の右側の2本のヒストグラムを
参照)。この結果は、キレート剤を含有する緩衝液をフ
ィブロネクチンの媒質とし、比較的少量の緩衝液による
フィルターの洗い出し工程を含めることで、殆どのフィ
ブロネクチンを回収できることを示している。
【0066】また、1mg/mlのフィブロネクチンを
1mM EDTAを含む5mMリン酸塩緩衝液に溶解さ
せた30mlの溶液を、一定速度(0.2ml/分)及び一
定圧力(0.5kg/cm2)のもとでPLANOVA(15nm:
0.001m2)に送液して濾過し、次いで緩衝液10mlを濾
過して洗浄し、それぞれの濾液を回収して比較したとこ
ろ、一定速度で行った方が、全体としてフィブロネクチ
ンの回収率が幾分高かった(図11)。
【0067】(d)大容量でのフィブロネクチン溶液濾
過の検討 スケールアップした場合の回収率を検討する目的で、フ
ィブロネクチン6gを、1mMのEDTAを含んだpH
7.4の5mMリン酸塩緩衝液6Lに溶解させることに
より濃度1mg/mlのフィブロネクチン溶液を調製し
た。この溶液を、一定の流速(20ml/分)で、ポアサ
イズ15nmの表面積1m2のフィルター(PLANOVA:旭化
成工業)で濾過し、濾液中のフィブロネクチン量を測定
して回収率を算出した。その結果、93.5%の回収率が得
られた。
【0068】(8) フィブロネクチンの構造及び機能
に対する濾過の影響の検討 緩衝液IIIを用いて濾過する前後のフィブロネクチンに
つき、非還元条件下におけるSDS−ポリアクリルアミ
ドゲル電気泳動、BHK細胞接着能試験、及び抗体反応
性について検討した。
【0069】(a)フィルター通過前後におけるフィブ
ロネクチンのSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳
動:分子中に存在するS−S結合を維持するため非還元
条件下に、ポアサイズ15nmのフィルターによる濾過前
後の、それぞれ0.25μg、0.5μg、1.0μg及び2.0μ
gのフィブロネクチンを、常法によりSDS−ポリアク
リルアミドゲル電気泳動にかけ、濾過による分子量の変
化の有無につきフィブロネクチンの分子量に変化は見ら
れなかった。
【0070】(b)フィルター通過前後におけるフィブ
ロネクチンの細胞接着性:15nmのフィルターによる濾
過前後の各濃度のフィブロネクチンを96ウェルのマイク
ロプレートに固相化した後、ウェルをBSAでブロック
し、次いでPBSで洗浄した。これに血清不含RPMI
1640培地中のBHK細胞を一定数(1×105固/50μl
/ウェル)播種した。プレートを、37℃にて90分間、加
湿した5%CO2雰囲気下にインキュベートした。細胞
がウェルに接着した後、プレートをPBSで2回洗浄し
た。次いでニュートラルレッド(NR)溶液100μlを
各ウェルに加えて、37℃にて1時間、加湿した5%CO
2雰囲気下にインキュベートした。プレートをPBSで
2回洗浄した。接着した細胞により取り込まれたNRを
抽出するために、抽出剤として0.05Mリン酸二水素
ナトリウム/50%エタノールを加え(100μl/ウェ
ル)、室温にて終夜インキュベートした後、546nmに
てウェルの吸光度を測定した。その結果、図13に示す
通り、フィルターの通過によってはフィブロネクチンの
細胞接着性は全く影響を受けていないことが判明した。
【0071】(c)フィルター通過前後におけるフィブ
ロネクチンと抗ヒトフィブロネクチンモノクローナル抗
体との反応性:15nmのフィルターによる濾過前後の各
濃度のフィブロネクチンを96ウェルのマイクロプレート
に固相化した後、各ウェルに次の抗ヒトフィブロネクチ
ンモノクローナル抗体(宝酒造)0.2μg/100μl/ウ
ェルを加えて一定時間インキュベートした。 ・抗コラーゲン結合部位(FNC4−4) ・抗細胞接着部位(FNC12−8) ・抗N末フィブリンヘパリン結合部位(FNC9−1) ・抗C末ヘパリン結合部位(FNC3−8) 次いでウェルを洗浄した後、ペルオキシダーゼを接合し
た二次抗体を加えてウェルをインキュベートした。次い
でウェルをペルオキシダーゼの基質(パーオキシダーゼ
基質キット:日本バイオラッド社)と共にインキュベー
トし、415nmにて反応混合液の吸光度を測定すること
により、濾過の前後におけるフィブロネクチンに対する
各抗体の結合を比較検討した。その結果、図14に示す
ように、濾過の前後で、これらの抗体とフィブロネクチ
ンとの結合性には全く変化が見られなかった。
【0072】これらの結果から、濾過がフィブロネクチ
ンの分子量、細胞接着性、抗体反応性に影響を及ぼさな
いことが確認された。
【0073】
【発明の効果】本発明によれば、フィブロネクチンをポ
アサイズ18nm未満のフィルターに通過させて濾過滅菌
を行うことができ、それによりエンベロープウイルス及
び非エンベロープウイルス共に除去することができる。
特に、フィブロネクチン製剤に関して従来手段のなかっ
た、最小サイズの非エンベロープウイルスであるパルボ
ウイルスも除去できるため、血漿に基づくフィブロネク
チン製剤の安全性を飛躍的に高め、優れたフィブロネク
チン製剤の製造を可能にする。
【0074】
【配列表】 Sequence Listing <110> JCR Pharmaceuticals Co., Ltd. <120> Method for Producing Fibronectin Filtrate <130> P63-99 <160> 4 <210> 1 <211> 20 <212> DNA <213> porcine parvovirus <400> 1 gatgctaacg catggggagt 20 <210> 2 <211> 20 <212> DNA <213> porcine parvovirus <400> 1 tgtccagtgt atgttggtgg 20 <210> 3 <211> 20 <212> DNA <213> porcine parvovirus <400> 1 ccagcggact ggcagttaat 20 <210> 4 <211> 20 <212> DNA <213> porcine parvovirus <400> 1 gtttcacttc taggtgctgc 20
【図面の簡単な説明】
【図1】 ブタパルボウイルス感染ESK細胞の形態変
化。
【図2】 ブタパルボウイルスによるモルモット赤血球
凝集反応結果。
【図3】 ポアサイズ15nm及び35nmのフィルター濾
液についてのモルモット赤血球凝集反応結果。
【図4】 ウイルス標準液についてのPCR反応結果。
【図5】 チャージ液についてのPCR反応結果。
【図6】 ポアサイズ35nmのフィルター濾液について
のPCR反応結果。
【図7】 ポアサイズ15nmのフィルター濾液について
のPCR反応結果。
【図8】 濃度1mg/mlのフィブロネクチン溶液の
濾過回収率についての予備的検討結果。
【図9】 濃度5mg/mlのフィブロネクチン溶液の
濾過回収率についての予備的検討結果。
【図10】 濃度1mg/mlのフィブロネクチン溶液
の濾過回収率についての検討結果。
【図11】 送液方法の相違によるフィブロネクチン回
収率についての検討結果。
【図12】 濾過の前後におけるフィブロネクチンの分
子量変化についての検討結果。
【図13】 濾過の前後におけるフィブロネクチンの細
胞接着性の変化についての検討結果。
【図14】 濾過の前後におけるフィブロネクチンの抗
体との反応性の変化についての検討結果。

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】フィブロネクチン溶液の製造方法であっ
    て、薬剤学的に許容し得るキレート剤及び1〜30mM
    の濃度の薬剤学的に許容し得る緩衝剤を含有するpH6
    〜8.0の水溶液である媒質にフィブロネクチンを溶解
    させ、ポアサイズ18nm未満のフィルターに通すこと
    を特徴とする製造方法。
  2. 【請求項2】該緩衝剤がリン酸塩緩衝剤、マレイン酸塩
    緩衝剤及びクエン酸塩緩衝剤よりなる群より選ばれるこ
    とを特徴とする、請求項1の製造方法。
  3. 【請求項3】キレート剤がエチレンジアミンテトラ酢酸
    であることを特徴とする、請求項1又は2の製造方法。
  4. 【請求項4】キレート剤濃度が0.1〜2.0mMであ
    ることを特徴とする、請求項1ないし3の何れかの製造
    方法。
  5. 【請求項5】フィブロネクチン濃度が0.1〜3.0m
    g/mlである、請求項1ないし4の何れかの製造方
    法。
  6. 【請求項6】該媒質に溶解させたフィブロネクチン溶液
    を該フィルターに通した後、該フィルターに、キレート
    剤及び1〜30mMの濃度の緩衝剤を含有するpH6〜
    8.0の水溶液を通すステップを含むことを特徴とす
    る、請求項1ないし5の何れかの製造方法。
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