JP2000294256A - 固体高分子型燃料電池 - Google Patents

固体高分子型燃料電池

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JP2000294256A
JP2000294256A JP11103357A JP10335799A JP2000294256A JP 2000294256 A JP2000294256 A JP 2000294256A JP 11103357 A JP11103357 A JP 11103357A JP 10335799 A JP10335799 A JP 10335799A JP 2000294256 A JP2000294256 A JP 2000294256A
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芳男 樽谷
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彰 関
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Abstract

(57)【要約】 【課題】溶出金属イオンによる各電極担持触媒の被毒が
極めて少ないテンレス鋼のセパレータを備えた固体電解
質型燃料電池を提供する。 【解決手段】S、P、V、NiおよびCu等の不純物を
低くし、CrとMoの含有量を、Cr:10.5〜35
%、Mo:0.5〜5%で、かつ12%≦Cr+3Mo
≦43%を満足させたステンレス鋼からなるセパレータ
を備えた固体電解質型燃料電池。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、自動車搭載用や
家庭用等の小型分散型電源として用いられる固体高分子
型燃料電池に関する。
【0002】
【従来の技術】燃料電池は、水素および酸素を利用して
直流電力を発電する電池であり、固体電解質型燃料電
池、溶融炭酸塩型燃料電池、リン酸型燃料電池および固
体高分子型燃料電池などがある。燃料電池の名称は、電
池の根幹をなす『電解質』部分の構成材料に由来してい
る。
【0003】現在、商用段階に達している燃料電池に
は、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池がある。
燃料電池のおおよその運転温度は、固体電解質型燃料電
池で1000℃、溶融炭酸塩型燃料電池で650℃、リ
ン酸型燃料電池で200℃および固体高分子型燃料電池
で80℃である。
【0004】固体電解質型燃料電池は、運転温度が80
℃前後と低く起動−停止が容易であり、エネルギー効率
も40%程度が期待できることから、小事業所、電話局
などの非常用分散電源、都市ガスを燃料とする家庭用小
型分散電源、水素ガス、メタノールあるいはガソリンを
燃料とする低公害電気自動車搭載用電源として、世界的
に実用化が期待されている。
【0005】上記の各種の燃料電池は、『燃料電池』と
言う共通の呼称で呼ばれているものの、それぞれの電池
構成材料を考える場合には、全く別物として捉えること
が必要である。使用される電解質による構成材料の腐食
の有無、380℃付近から顕在化し始める高温酸化の有
無、電解質の昇華と再析出、凝結の有無等により求めら
れる性能、特に耐食性能が、それぞれの燃料電池で全く
異なるためである。実際、使用されている材料も様々で
あり、黒鉛系素材から、Niクラッド材、高合金、ステ
ンレス鋼と多様である。
【0006】商用化されているリン酸型燃料電池、溶融
炭酸塩型燃料電池に使用されている材料を、固体高分子
質型燃料電池の構成材料に適用することは全く考えるこ
とができない。
【0007】図1は、固体高分子型燃料電池の構造を示
す図で、図1(a)は、燃料電池セル(単セル)の分解
図、図1(b)は燃料電池全体の斜視図である。同図に
示すように、燃料電池1は単セルの集合体である。単セ
ルは、図1(a)に示すように固体高分子電解質膜2の
1面に燃料電極膜(アノード)3を、他面には酸化剤電
極膜(カソード)4が積層されており、その両面にセパ
レータ5a、5bが重ねられた構造になっている。
【0008】代表的な固体高分子電解質膜2としては、
水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン
交換樹脂膜がある。
【0009】燃料電極膜3および酸化剤電極膜4には、
粒子状の白金触媒と黒鉛粉、必要に応じて水素イオン交
換基を有するフッ素樹脂からなる触媒層が設けられてお
り、燃料ガスまたは酸化性ガスと接触するようになって
いる。
【0010】セパレータ5aに設けられている流路6a
から燃料ガス(水素または水素含有ガス)Aが流されて
燃料電極膜3に水素が供給される。また、セパレータ5
bに設けられている流路6bからは空気のような酸化性
ガスBが流され、酸素が供給される。これらガスの供給
により電気化学反応が生じて直流電力が発生する。
【0011】アノード側: H2 → 2H++2e カソード側: (1/2)O2+2H+2e- → H2O 固体高分子型燃料電池セパレータに求められる機能は、
(1)燃料極側で、燃料ガスを面内均一に供給する“流
路”としての機能、(2)カソード側で生成した水を、
燃料電池より反応後の空気、酸素といったキャリアガス
とともに効率的に系外に排出させる“流路”としての機
能、(3)長時間にわたって電極として低電気抵抗、良
電導性を維持する単セル間の電気的“コネクタ”として
の機能、および(4)隣り合うセルで一方のセルのアノ
ード室と隣接するセルのカソード室との“隔壁”として
の機能などである。
【0012】これまで、セパレータ材料としてカーボン
板材の適用が鋭意検討されてきているが、カーボン板材
には“割れやすい”という問題があり、さらに表面を平
坦にするための機械加工コストおよびガス流路形成のた
めの機械加工コストが非常に高くなる問題がある。それ
ぞれが宿命的な問題であり、燃料電池の商用化そのもの
を難しくさせかねない状況がある。
【0013】カーボンの中でも、熱膨張性黒鉛加工品は
格段に安価であることから、固体高分子型燃料電池セパ
レータ用素材として最も注目されている。しかしなが
ら、ガス透過性を低減して前記隔壁としての機能を付与
するためには、“複数回”に及ぶ樹脂含浸と焼成を実施
しなければならない。また、平坦度確保および溝形成の
ための機械加工コスト等今後も解決すべき課題が多く、
実用化されるに至っていないのが現状である。
【0014】こうした黒鉛系素材の適用の検討に対峙す
る動きとして、コスト削減を目的に、セパレータにステ
ンレス鋼を適用する試みが開始されている。
【0015】特開平10−228914号公報には、金
属製部材からなり、単位電池の電極との接触面に直接金
めっきを施した燃料電池用セパレータが開示されてい
る。金属製部材として、ステンレス鋼、アルミニウムお
よびNi−鉄合金が挙げられており、ステンレス鋼とし
ては、SUS304が用いられている。この発明では、
セパレータは金めっきが施されているので、セパレータ
と電極との接触抵抗が低下し、セパレータから電極への
電子の導通が良好となるため、燃料電池の出力電圧が大
きくなるとされている。
【0016】特開平8−180883号公報には、表面
に形成される不働態膜が大気により容易に生成される金
属材料からなるセパレータが用いられている固体高分子
電解質型燃料電池が開示されている。金属材料としてス
テンレス鋼とチタン合金が挙げられている。この発明で
は、セパレータに用いられる金属の表面には、必ず不働
態膜が存在しており、金属の表面が化学的に侵され難く
なって燃料電池セルで生成された水がイオン化される度
合いが低減され、燃料電池セルの電気化学反応度の低下
が抑制されるとされている。また、セパレータの電極膜
等に接触する部分の不働体膜を除去し、貴金属層を形成
することにより、電気接触抵抗値が小さくなるとされて
いる。
【0017】しかしながら、上記の公開公報に開示され
ている表面に不働態膜を備えたステンレス鋼のような金
属材料をそのままセパレータに用いても、耐食性が十分
でなく金属の溶出が起こり、溶出金属イオンにより担持
触媒性能が劣化(以下、担持触媒の被毒と記す)する。
また、溶出後に生成するCr-OH、Fe-OHのような腐食生成
物により、セパレータの接触抵抗が増加するという問題
があるので、金属材料からなるセパレータには、コスト
を度外視した金めっき等の貴金属めっきが施されている
のが現状である。
【0018】これまでの金属材料のセパレータへの適用
は、適用したという実績があるにすぎず、実用化にはほ
ど遠い状況にある。
【0019】セパレータとして、高価な表面処理を施さ
ない“無垢”で適用でき、電池環境での電気伝導性に優
れると共に、耐食性に優れたステンレス鋼の開発がなさ
れれば、燃料電池の製造コストが格段に低下し、固体高
分子型燃料電池の商用化、用途拡大が期待できる。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、高価
な表面処理を施す必要がなく、溶出金属イオンによる各
電極担持触媒の被毒が極めて少なく、かつ腐食生成物に
よる電極との接触電気抵抗の増加および不働態皮膜の強
化による接触抵抗の増加が少ないステンレス鋼のセパレ
ータを備えた固体電解質型燃料電池を提供することにあ
る。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、以下の
通りである。
【0022】(1)固体高分子電解質膜を中央にして燃
料電極膜と酸化剤電極膜を重ね合わせた単位電池を複数
個、単位電池間にセパレータを介在させて積層した積層
体に、燃料ガスと酸化剤ガスを供給して直流電力を発生
させる固体高分子型燃料電池において、セパレータが下
記の化学組成を有するフェライト系ステンレス鋼からな
ることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
【0023】 重量%で、 S:0.005%以下、 P:0.025%以下、 V:0.2%以下、 Ni:0.2%以下、 Cu:0.2%以下、 Cr:10.5〜35%、 Mo:0〜6%、 希土類元素:0〜0.1% を含有し、かつ(Cr+3Mo)が10.5〜43%の
範囲内にある(2)フェライト系ステンレス鋼中のSi
およびMnが、重量%で、Si量が0.3%以下、Mn
が0.4%以下である上記(1)記載の固体高分子型燃
料電池。
【0024】(3)フェライト系ステンレス鋼中のCお
よびN量が、重量%で、C:0.018%以下、N:
0.018%以下、かつCとNの合計含有量が、0.0
25%以下である上記(1)または(2)記載の固体高
分子型燃料電池。
【0025】(4)フェライト系ステンレス鋼が、Ti
とNbの1種または2種を含有しており、Tiが、重量
%で0.2%以下で、かつ6(C%+N%)〜25(C
%+N%)の範囲、およびNbが0.3%以下で、かつ
6C%〜25C%の範囲内にある上記(1)から(3)
のいずれか記載の固体高分子型燃料電池。
【0026】なお、セパレータとは前述した4つの機能
を有するものである。すなわち、a)燃料極側で、燃料
ガスを面内均一に供給する"流路"としての機能、b)カ
ソード側で生成した水を、燃料電池より反応後の空気、
酸素といったキャリアガスとともに効率的に系外に排出
させる"流路"としての機能、c)長時間にわたって電極
として低電気抵抗、良電導性を維持する単セル間の電気
的"コネクタ"としての機能、およびd)隣り合うセルで
一方のセルのアノード室と隣接するセルのカソード室と
の"隔壁"としての機能を有するものである。これらの機
能を複数枚のプレートで機能分担させる構造にする場合
もある。本発明でいうセパレータとは、上記4つの機能
のうちの少なくとも一つの機能を有するプレートをセパ
レータと言う。
【0027】本発明者らは、ステンレス鋼からなるセパ
レータを備えた固体高分子型燃料電池を開発するため、
セパレータが置かれる環境において、ステンレス鋼表面
から溶出する金属イオンを可能な限り低減することを目
標に、単セルを用いて種々試験を実施した。その結果、
以下の知見を得て本発明を完成するに至った a)セパレータが置かれるpHが1〜3の環境(以下、
単にセパレータ環境と記す)において、オーステナイト
系ステンレス鋼は耐食性が不十分であり、金属の溶出が
著しくセパレータには不適当である。
【0028】b)セパレータ環境で、フェライト系ステ
ンレス鋼は良好な耐食性を発揮するが、一般のフェライ
ト系ステンレス鋼では、電池性能に影響を及ぼす程度の
金属の溶出が生じる。
【0029】c)金属が溶出すると、腐食生成物(Fe
を主体とする水酸化物)が生成し、接触電気抵抗の増大
をもたらし、かつ担持触媒性能に著しい悪影響を及すの
で、起電力に代表される電池性能が短時間で劣化する。
また、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系
イオン交換樹脂膜の陽イオン伝導度にも悪影響を及ぼ
す。
【0030】d)金属の溶出を防止するためには、フェ
ライト系ステンレス鋼中の不純物のうち、S、P、V、
NiおよびCuの含有量を同時に低減すると共に、不働
態被膜を強固にしなければならない。
【0031】e)不働態被膜を強固にしても、不働態被
膜厚さを厚くすると接触電気抵抗が増大し、電池効率が
著しく低下する。
【0032】f)不働態被膜を厚くすることなく強固に
して、セパレータ環境で金属の溶出を抑制するために
は、CrとMoの含有量は(Cr%+3×Mo%)が1
2〜43%の範囲内になるようにする必要がある。
【0033】g)積極的にMoを添加することで、耐食
性が確保されるが、Moは溶出したとしても、アノード
およびカソード部に担持されている触媒の性能に対する
影響は比較的軽微である。
【0034】
【発明の実施の形態】以下、本発明の固体高分子型燃料
電池が備えているフェライト系ステンレス鋼からなるセ
パレータの化学組成を規定した理由を詳しく説明する。
なお、下記成分の%表示は重量%を示す。
【0035】S:鋼中のS量は、0.005%以下とす
ることが必要である。Sは、鋼中共存元素および鋼中の
S量に応じて、Mn系硫化物、Cr系硫化物、Fe系硫
化物、Ti系硫化物、これらの複合硫化物および酸化物
との複合非金属介在物としてほとんどは析出している。
しかしながら、セパレータ環境においては、いずれの組
成の非金属介在物も、程度の差はあるものの腐食の起点
として作用し、不働態化の維持、金属の腐食溶出抑制に
有害である。
【0036】また、燃料電池が作動している状況におい
て、フェライト系ステンレス鋼からなるセパレータとM
EA(Membrane Electrode Assembly)間の隙間内は、
電池反応および/または酸素濃度差電池腐食が起こるこ
とにより隙間内のpHが低下し、ミクロ電池腐食を起こ
しやすい状況となるが、硫化物系非金属介在物はその際
の腐食起点、加速因子として大きな影響を及ぼす。通常
の量産鋼の鋼中S量は、0.005%超え0.008%
前後であるが、上記の有害な影響を防止するためには
0.005%以下に低減する必要がある。望ましい鋼中
S量は0.002%以下であり、最も望ましい鋼中S量
レベルは、0.001%未満であり、低ければ低い程よ
い。
【0037】P:鋼中のP量は、0.025%以下であ
ることが必要である。通常のステンレス商用鋼含有レベ
ルは、0.026〜0.035%程度である。Pは不可
避的な不純物であり、Sと並んで、アノードおよびカソ
ード触媒層の被毒に対して少なからずの影響を及ぼす有
害素である。低い程望ましい。
【0038】V:鋼中のVは、0.2%以下にする必要
である。一般に、Vはステンレス鋼を溶製する際の必須
溶解原料であるCr源中に不純物として含有されてお
り、ある程度の混入は不可避である。但し、溶出したV
は、アノードおよびカソード部に担持されている触媒の
性能に対して少なからず悪影響を及ぼす。電池特性維持
の上から、許容できる上限は0.2%であり、低ければ
低いほどよい。
【0039】Cu,Ni:鋼中のCu、Niは、いずれ
も、あるいは双方ともに0.2%以下にする必要があ
る。一般に不純物程度の微量Cu、Niであっても、低
pH環境におけるステンレス鋼の耐食性を改善する効果
を有する。しかしながら、セパレータ環境では、不働態
維持状態における微量のCu、Niイオン溶出であって
もアノードおよびカソード触媒層の被毒に対して影響を
及ぼすので、上限を0.2%とする必要がある。スクラ
ップからの混入も含めて、鋼中のCu、Ni量は低い方
が望ましいが、0.2%以下の極微量不純物レベルのC
u、Niが、フェライト系ステンレス鋼の不働態化能を
高め、不働態化状態での金属溶出を抑制する作用も有
し、結果として電池性能を改善するため、上限を0.2
%とする。
【0040】Cr、Mo:Cr、Moはともに、耐食性
を確保する上での基本合金元素である。含有量は高いほ
ど高耐食となるが、高Cr化するに伴い常温靭性が低下
する傾向があり、Cr量で35%を超えると量産での生
産は困難となる。また、10.5%未満では、その他の
元素を変化させてもセパレータとして必要な耐食性の確
保が困難となる。
【0041】Moは、必要により含有させる元素で、C
rに比べて少量で耐食性を改善する効果がある。0.5
%未満ではMoの効果が明確でなくなる。含有させる場
合、6%を超えて含有させると、シグマ相等の金属間化
合物の析出回避が困難であり、鋼の脆化の問題から生産
が困難となるので上限を5%とする。積極的にMo含有
させることで、耐食性が確保される。Moは溶出したと
しても、アノードおよびカソード部に担持されている触
媒の性能に対する影響は比較的軽微であり、水素イオン
(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン交換樹脂膜
の陽イオン伝導度にも悪影響が小さい。
【0042】(Cr%+3Mo%):セパレータ用ステ
ンレス鋼としては、固体高分子型燃料電池の作動温度で
ある70℃から高々100℃の環境において不働態化の
状態にあり、かつ、継時的にも接触電気抵抗値が低いこ
とが必要である。不働態皮膜厚さ増加と腐食生成物生成
を実用的な範囲で抑制する必要がある。そのための必要
条件として、CrおよびMoの含有量は、腐食指数であ
る(Cr%+3Mo%)が12〜43%の範囲内にある
ことが必要である。
【0043】実際の作動状態にある電池内部の模擬環境
として妥当と判断される「25℃におけるpHが2.6
の硫酸水溶液80℃中」で不働態化していることが少な
くとも必要である。そのためには、本環境で0.2V vs.
SCE における不働態維持電流密度が50μA/cm2
未満であることが望ましい。
【0044】Si:鋼中のSi量は、0.3%以下にす
るのが好ましい。Siは量産鋼においてはAlと同様に
有効な脱酸元素である。しかし、溶出したSiが、アノ
ードおよびカソード触媒層の被毒に対して少なからず影
響を及ぼすため、電池特性維持の上からは明らかに有害
であるため0.3%以下とする。0.25%前後での生
産が量産コスト低減の観点からは最も望ましいが、セパ
レータ環境では0.2%未満であることが望ましい。さ
らに望ましいのは、0.1%未満である。
【0045】Mn:鋼中Mn量は、0.4%以下とする
のが望ましい。通常、Mnは、鋼中のSをMn系の硫化
物として固定する作用があり、熱間加工性を改善する効
果がある。また脱酸元素あるいはNiバランス調整元素
として積極的に添加してもよい。しかし、不働態を維持
している状態においても金属の溶出がわずかづつ進行す
るが、0.4%を超える量になると、溶出したMnイオ
ンが、アノードおよびカソード触媒層の被毒に対して少
なからず影響を及ぼす。望ましくは、0.1%未満であ
る。0.45以下のMnであれば、量産の際の熱間割れ
などの問題も発生することなく製造が可能である。製造
コストアップもほとんど問題とならない。
【0046】C、N:鋼中のC、Nは、常温靭性改善の
目的から、Cは0.018%以下、Nは0.018%以
下で、かつC%+N%値で0.025%以下とすること
が望ましい。C、Nは、浸入型元素であり、高純度フェ
ライト系ステンレス鋼の母材靭性、溶接部の耐食性およ
び靭性劣化の原因となる。C、Nは厳しく制限すること
が、高純度フェライト系ステンレス鋼の熱延コイルの製
造工程で問題となる常温靭性対策となり、製造コストの
上昇を避けることができる。鋼中のC、Nを極低化すれ
ばするほど常温靭性は改善するので低ければ低いほどよ
い。
【0047】Ti:Tiは、必要により0.2%以下
で、(C%+N%)値の6倍以上、25倍以下の範囲量
で含有させる。Tiは、アノードおよびカソード触媒層
に被毒を及ぼすので、本来は低減されるべき元素である
が、量産での製造性確保、薄板の加工性確保の観点よ
り、必要により最低量含有させる。
【0048】溶接性が要求されない場合には、(C%+
N%)値×6倍以上、10倍以下が最も望ましい。溶接
性が求められる場合には、(C%+N%)値の10倍以
上、16倍以下が最も望ましい。介在物起因の板表面疵
発生を回避するためには、0.1%以下とすることが望
ましい。必要以上含有させると、不働態維持状態におけ
る金属の溶出によるアノードおよびカソード触媒性能劣
化の原因となる。
【0049】Nb:Nbは、必要により含有させる元素
で、Tiと同様に鋼中C、Nとの結合力がCrよりも強
い合金元素である。Nbは、0.3%以下で、かつC%
×6〜C%×25[すなわち、Nb(%)/C(%)=6〜
25%]の範囲内で含有させる。熱延コイルの常温靭性
を含め靭性改善に極めて効果的である。ただし、腐食に
伴い溶出したNbは、腐食面に腐食生成物として堆積
し、接触電気抵抗を高める弊害があるので、母材性能の
観点のみからはNb含有量は低い方が望ましい。ただ
し、溶接部の性能の確保や、NbとTiを同時に含有さ
せて冷延鋼板素材の加工性を改善する必要があると判断
される場合には必要最少量添加する。
【0050】希土類元素(REM):希土類元素は、溶
鋼段階でSとの結合力が極めて強いので、Sを無害化す
る効果がある。したがって、必要によりミッシュメタル
のような形で添加しても良い。含有量は、0.1%以下
で十分効果が得られる。
【0051】上記元素以外の元素を必要により含有させ
てもよい。例えば、熱間加工性改善には、0.1以下の
Ca、MgやBを含有させるのがよい。
【0052】
【実施例】表1に示した28種の化学組成のフェライト
系ステンレス鋼を高周波誘導加熱方式の150kg真空溶
解炉で溶解した。溶解原料としては、市販の不純物の少
ない原料を厳選して使用し、鋼中の不純物量を調整し
た。
【0053】
【表1】
【0054】造塊した横断面が丸形のインゴットは、大
気中で1230℃に3時間加熱した後、プレス方式鍛造
機で熱間鍛造し、各インゴットを下記2種の寸法の試験
用スラブに仕上げた。
【0055】厚さ30mm、幅100mm、長さ12
0mm 厚さ70mm、幅380mm、長さ550mm のスラブは、熱間圧延して厚さ6mmの熱延鋼板と
し、次いで量産での熱延終了直後の温度履歴を模擬した
断熱材巻き付け条件で徐冷した。常温での熱延コイル靱
性を調べるためシャルピー衝撃試験に供した。試験片
は、JIS Z2202 4号ハーフサイズとした。 のスラブは、機械加工でスラブ表面を切削加工して、
表面の酸化スケールを除去し、厚さ62mmのスラブに
仕上げた。このスラブを大気中で1200℃に加熱し、
熱間圧延して厚さ4mmに仕上げた後、と同様、量産
での熱延終了直後の温度履歴を模擬した断熱材巻き付け
条件で徐冷した。
【0056】この熱延鋼板に、化学組成に応じて下記の
温度で、保持4分の溶体化処理を施し、強制空冷した。 表1のNo.25の熱延鋼板 ・・・・・・・・・・・ 830℃ 表1のNo.11〜15、16〜23の熱延鋼板・・・・ 900℃ 表1のNo.1〜10の熱延鋼板 ・・・・・・・・ 930℃ 表1のNo.24、29の熱延鋼板 ・・・・・・・・ 980℃ 表1のNo.26,27の熱延鋼板 ・・・・・・・・ 1080℃ 各温度は、再結晶が進行し、金属間化合物が固溶する温
度とした。在炉時間はおよそ20分であった。
【0057】次いで、溶体化処理した熱延鋼板を、多段
式ゼンジマー型ロール圧延機を用い途中で中間焼鈍を挟
みながら、冷間圧延をおこない厚さ0.3mmに仕上げ
た。最終仕上げ焼鈍は、露点が−50℃以下である水素
雰囲気の光輝焼鈍炉内で行い、温度は熱間圧延素材の焼
鈍温度と同じとした。保持時間は1分であり、在炉時間
で約3分であった。
【0058】この冷間圧延焼鈍材から、下記寸法のセパ
レータ模擬環境での不働態皮膜の評価をおこなうための
試験片、および実際の固体高分子型燃料電池への装填用
のセパレータをプレス成形により製作した。
【0059】なお、比較例のNo.27については、模擬
環境用試験片およびセパレータを作製後、片面5μm厚
さの金めっきを施した。
【0060】模擬環境用試験片: 厚さ0.3mm、幅10mm、長さ10mm セパレータ: 厚さ0.3mm、縦80mm、横80mm ガス流路:高さ0.8mm、山と山との間隔1.2mm
(コルゲート加工)これらの表面をショット加工用Si
C砥粒を用いて機械的にショット研磨仕上げし、5%H
NO3+3%HF、40℃中で15分間の超音波洗浄を
行い、さらに、試験直前に6%水酸化ナトリウム水溶液
を用いたアルカリ噴霧脱脂処理をおこない、流水で簡易
水洗後、バッチ型水槽で蒸留水浸漬洗浄を3回行い、さ
らに蒸留水噴霧洗浄を4分間行って冷風ドライアー乾燥
させた後、各試験に供した。
【0061】模擬環境での試験として、特級試薬の硫酸
を用いて調整した25℃におけるpHが2.6である硫
酸水溶液を80℃に昇温し、その溶液中に試験片を6時
間浸漬し、不働態化の有無を腐食減量、素材表面からの
水素気泡発生、試験溶液の色変化から評価すると共に、
金属の溶出程度をより正確に調べるため、0.2Vvs S
CE における不働態保持電流密度を測定した。
【0062】シャルピー衝撃試験結果およびセパレータ
模擬環境における試験結果は、表2に示す通りであっ
た。
【0063】
【表2】
【0064】表2から明らかなように、本発明例では、
80℃に昇温した25℃におけるpHが2.6である硫
酸水溶液中で不働態化状態にあり、溶出の程度を示す
“不働態保持電流密度”も20μA/cm2以下となって
いる。
【0065】ステンレス鋼を固体高分子型燃料電池用セ
パレータとして適用する際には、不働態保持電流密度は
可能な限り低いレベルとすることが望ましいことはいう
までもない。安定して低い値をとることが重要であり、
10μA/cm2未満が最も望ましく、次いで10〜20
μA/cm2であることが望ましい。
【0066】比較例の不働態電流密度は、30〜80μ
A/cm2であり、抑制されているといえるが、セパレー
タから比較的大きな溶出が起こっている状態であること
を示している。
【0067】本発明者らは、燃料電池用セパレータ材料
としての適用可否を判断する基準として、実機単セル電
池での性能特性との関係から不働態保持電流密度>50
μA/cm2 では性能が不十分であると判断した。不働
態保持電流密度が50μA/cm2以下の材料において
は、 実単セル評価試験でも、問題となる程度の継時的
性能劣化を確認するには至っておらず、迅速模擬環境評
価条件として極めて適切であると判断している。本結果
においても、発明例の場合は固体高分子型燃料電池環境
で最も望ましい金属素材のひとつである金めっき素材
(供試鋼27)と同じレベルであり、相対的に見て良好
な性能が確保できると判断された。
【0068】次に、実際の固体高分子型単セル電池内部
にセパレータとして装填した状態での特性評価として、
電池内に燃料ガスを流してから1時間経過後に単セル電
池の電圧を測定し、初期の電圧と比較することにより電
圧の低下率を調べた。なお、低下率は、1−(1時間経
過後の電圧V/初期電圧v)により求めた。
【0069】評価に用いた固体高分子型燃料単セル電池
は、米国Electrochem社製市販電池セルFC50を改造して
用いた。
【0070】アノード極側燃料用ガスとしては99.9
999%水素ガスを用い、カソード極側ガスとしては空
気を用いた。電池本体は全体を78±2℃に保温すると
共に、電池内部の湿度制御を、セル出側の排ガス水分濃
度測定をもとに入り側で調整した。電池内部の圧力は、
1気圧である。水素ガス、空気の電池への導入ガス圧は
0.04〜0.20barで調整した。セル性能評価
は、単セル電圧で500mA/cm2−0.62Vが確認で
きた状態より継時的に測定を行った。
【0071】単セル性能測定用システムとしては、米国
スクリブナー社製890 シリーズを基本とした燃料電池計
測システムを改造して用いた。電池運転状態により、特
性に変化があると予想されるが、同一条件での比較評価
である。
【0072】結果を表2に示した。
【0073】表2から明らかなように、本発明例では電
圧低下率は全て0.05以下であり、No.27の高価で
高耐食性の金めっきしたセパレータと同等となった。ま
た、本発明で規定した化学組成を外れた比較例では、電
圧低下率が0.3〜0.8と極めて大きかった。
【0074】一部の試験片で、長時間の試験を実施して
評価おこなったが、表2に示した短時間試験結果と近似
した相関した結果が得られた。
【0075】ステンレス鋼の常温での靭性は、一般にオ
ーステナイト系ステンレス鋼に比べてフェライト系ステ
ンレス鋼は劣っている。しかし、表2のシャルピー試験
結果から明らかなように、鋼中のC、N含有量が高い比
較例の場合に比べて、C、N含有量が低い一連の本発明
例の場合は格段に優れた靱性を有している。一般に常温
靭性は、板厚が薄くなると見かけ上改善されるため、本
発明の場合のレベルであれば実用上全く問題がない。す
なわち、高純度フェライト系ステンレス鋼製造時に問題
となる熱延コイルの常温靭性は良好であると言える。一
般に常温靭性は、板厚が薄くなると見かけ上改善される
ため、本発明の鋼のレベルであれば実用上全く問題がな
い。
【0076】
【発明の効果】本発明の固体高分子型燃料電池は、セパ
レータがフェライト系ステンレス鋼からなり、高価な金
めっきを施す必要ないので、安価に製造ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】固体高分子型燃料電池の構造を示す図である。
【符号の説明】
1 燃料電池 2 固体分子電解質膜 3 燃料電極膜 4 酸化剤電極膜 5a、5b セパレータ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 土井 教史 大阪府大阪市中央区北浜4丁目5番33号住 友金属工業株式会社内 Fターム(参考) 5H026 AA06 CC05 CX04 EE08 HH05

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】固体高分子電解質膜を中央にして燃料電極
    膜と酸化剤電極膜を重ね合わせた単位電池を複数個、単
    位電池間にセパレータを介在させて積層した積層体に、
    燃料ガスと酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる
    固体高分子型燃料電池において、セパレータが下記の化
    学組成を有するフェライト系ステンレス鋼からなること
    を特徴とする固体高分子型燃料電池。 重量%で、 S:0.005%以下、 P:0.025%以下、 V:0.2%以下、 Ni:0.2%以下、 Cu:0.2%以下、 Cr:10.5〜35%、 Mo:0〜6%、 希土類元素:0〜0.1% を含有し、かつ(Cr+3Mo)が10.5〜43%の
    範囲内にある
  2. 【請求項2】フェライト系ステンレス鋼中のSiおよび
    Mnが、重量%で、Si量が0.3%以下、Mnが0.
    4%以下であることを特徴とする請求項1記載の固体高
    分子型燃料電池。
  3. 【請求項3】 フェ
    ライト系ステンレス鋼中のCおよびN量が、重量%で、
    C:0.018%以下、N:0.018%以下、かつC
    とNの合計含有量が、0.025%以下である請求項1
    または2記載の固体高分子型燃料電池。
  4. 【請求項4】フェライト系ステンレス鋼が、TiとNb
    の1種または2種を含有しており、Tiが、重量%で
    0.2%以下で、かつ6(C%+N%)〜25(C%+
    N%)の範囲、およびNbが0.3%以下で、かつ6C
    %〜25C%の範囲内にある請求項1から3のいずれか
    記載の固体高分子型燃料電池。
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