JP2000272576A - 滑走型高速艇用スポンソン - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 船側に沿った細長い下面が平坦形状をしてい
るため、スプレーの一部だけしか受け止めることができ
ず、しかもスプレーを横方向および上方に飛ばすため
に、その運動エネルギーが有効に活用できていなかっ
た。 【解決手段】 滑走型高速艇１の船尾部２の両舷船側外
板７に設置され、その軸方向を船の前後方向に向けて設
置されたスポンソン１１であって、船底面３ａに沿って
跳ね上がってきたスプレーを捕捉しうるように略船底面
３ａの傾斜方向又は水面方向に開口した軸方向に延びる
トンネル状凹部１３を有するスポンソン１１を備えた滑
走型高速艇である。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本願発明は、滑走型高速艇の
高速走行時における船体姿勢安定性能を向上するための
スポンソンに関する。

【０００２】

【従来の技術】一般に、滑走型高速艇は、僅かな外乱に
より航走姿勢が大きく変わる性質がある。また、外乱が
ない場合でも、ポーポイジングと呼ばれる縦方向の周期
運動を発生することがある。これらの船体姿勢変化や船
体運動を、抑制するため船尾船側にスポンソンが設けら
れている（例えば、特開平６−１９１４６６号公報、実
開昭６２−１５７６９４号公報がある）。

【０００３】かかるスポンソンは、船底部から船体表面
に沿って後ろ上方に流れてくるスプレーを船体最後端部
付近で受けて、流体力を発生させ、これを船体姿勢の安
定保持等に利用するものである。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】しかし、上記従来のス
ポンソンは平板状であり、船側に沿った細長い下面が平
坦形状をしているため、スプレーの一部だけしか受け止
めることができず、しかもスプレーを横方向および上方
に逃がすために、その運動エネルギーの殆どを利用せず
に捨てていた。

【０００５】従って、船体姿勢の安定保持に必要な流体
力（揚力）を充分に得ることができなかったり、或いは
充分な流体力（揚力）を発生させるためにスポンソンの
長さ、幅を大きくしなければならず、結果として船体の
抵抗増加を招いたりしていた。

【０００６】

【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するた
めに、本願発明は、滑走型高速艇の船尾部の両舷船側外
板に設置され、その軸方向を船の前後方向に向けて設置
されたスポンソンであって、船底に沿って跳ね上がって
きたスプレーを捕捉しうるように略船底の傾斜方向又は
水面方向に開口した軸方向に延びるトンネル状凹部を有
する滑走型高速艇用スポンソンである。

【０００７】これにより、船底表面に沿って後ろ上方に
流れてくるスプレーの殆どをスポンソンのトンネル状凹
部で捕捉、受け止めて、その運動エネルギーの殆どを揚
力および推力として有効に利用しうる。すなわち、従来
のスポンソンが横方向へスプレーを逃がしていたのに対
し、船体後方（真後ろ方向）へ流すことにより、その反
力としてスポンソンに前向きの流体力（すなわち推力）
を得ることができる。また、従来のスポンソンが船外上
方へスプレーを逃がしていたのに対し、船体下方にスプ
レーを流すことにより、その反力としてスポンソンに船
体上向きの力（すなわち揚力）を得ることができる。

【０００８】これらの揚力および推力により、従来のス
ポンソンを装備した滑走型高速艇に比して、船体姿勢の
安定性を向上させることができ、推進性能も向上させる
ことができる。

【０００９】上記の場合、スポンソンの前部においては
トンネル状凹部内に捕捉されたスプレーの堰き止め壁と
してのステップ部を形成するとともに、スポンソンの後
端においてはトンネル状凹部を後方に開放させたのが好
ましい。そうすれば、このステップ部によって、トンネ
ル状凹部に捕捉されたスプレーのうち、後方に流れずに
前方に逆流する一部のスプレーが堰き止められ、スプレ
ーの前方向への運動エネルギーが受け止められると共
に、他の多くのスプレーはトンネル状凹部に沿って後方
に導かれ、その開放端から船側外板に沿った船尾後方に
放出され、これによって推力が得られる。

【００１０】また、トンネル状凹部を形成するスポンソ
ンの天井面を、スポンソンの後端部において後方に向か
って下方傾斜させた場合には、トンネル状凹部に捕捉さ
れたスプレーは後端で下方斜めに放出されるから揚力が
増加する。これは高速艇の姿勢安定性能向上に寄与す
る。

【００１１】また、スポンソンを略鉤状断面に形成する
ことにより先端部にフック部を形成した場合には、船底
面から上昇してきたスプレーを逃がさず効率よくトンネ
ル状凹部内に取り込むことができる。

【００１２】更にまた、スポンソンを上向き迎え角をと
るように傾斜配置した場合には、高速滑走時のスプレー
に対するトンネル状凹部による捕捉性がよくなると同時
にスプレーをより下方へ放出できるので揚力の増加が大
きくなる。

【００１３】

【発明の実施の形態】以下、本願発明の実施形態を図面
を参照しながら説明する。図１(a)(b)は本願発明に係る
スポンソンを備えた滑走型高速艇の側面図と船尾から見
た正面図である。

【００１４】この図に示す滑走型高速艇１は、レジャー
用の小型滑走艇であり、船尾部２の船底３付近に設けた
ジェットノズル４から水を噴射することにより推進力を
得て高速で航走するものである。運転者はシート５に座
って操縦ハンドル６を握って操縦する。船体横断面は船
体中心線に対して左右対称であり、船底３はキール３ｂ
位置から上向きに傾斜して舷側７ａまで延び、ナックル
ライン８ｋからほぼ垂直に上方に立ち上がって船側外板
７を形成している。ナックルライン８ｋはチャイン８を
形成するもので、チャイン８と甲板９との間に存在する
船側外板７は船尾から一定の深さ（高さ）をもち、チャ
イン８は甲板９にほぼ平行に船首部１０付近まで延び、
船首部１０付近から緩やかな円弧を描いて船首端１０ａ
につながっている。

【００１５】艇の前後方向に延びる細長いスポンソン１
１が船尾部２の船側外板７に装着されている。スポンソ
ン１１は両舷対称位置に配置される。

【００１６】図２(a)(b)はスポンソン１１の拡大平面図
とその側面図、図３は図２(b)におけるＸ−Ｘ矢視断面
図である。

【００１７】スポンソン１１の頭部（前部）１２は流線
形をしており、船側外板７にほぼ平行な一定の幅と高さ
をもってその軸方向を艇の前後方向に向けて配置してあ
る。

【００１８】スポンソン１１は、通常、図３に示す如
く、鉤（フック）状断面に形成されている。すなわち、
スポンソン１１に彫り込まれたトンネル状凹部１３がそ
の軸方向に延び、前部流線形の終端付近ではステップ部
１４が形成されて、トンネル状凹部１３に流入したスプ
レーのうち、後方に流れずに前方に逆流する一部のスプ
レーを堰き止める壁（スプレーの前方向への運動エネル
ギーを受け止める壁）として働くようになっている。ス
ポンソン１１後端ではトンネル状凹部１３はそのまま船
尾後方に開放している。

【００１９】図３に示すように、トンネル状凹部１３
は、船底面３ａに沿って斜めに跳ね上がってきたスプレ
ーＳを効率よく取り込む（捕捉する）ことができるよう
に水面方向に、より好ましくは略船底面３ａに向けて開
口している。従って船底面３ａに沿って跳ね上がってき
たスプレーＳはトンネル状凹部１３に捕捉され、スプレ
ーＳはトンネル状凹部１３に沿って後方に流れてスプレ
ーが後端１１ｂから後方に放出されるようになってい
る。

【００２０】トンネル状凹部１３を形成している内面壁
１３ａは略楕円形の曲面で形成され、その自由端はフッ
ク部１１ａの形を呈する。つまり、スポンソン１１の自
由端は、船底から跳ね上がってきたスプレーＳの束（ス
プレー群）を捕捉して、これを外に逃がさないような形
状（フック形状）になっている。

【００２１】更に、トンネル状凹部１３を形成している
内面壁（天井壁部分）１３ａはスポンソン１１の後部で
は緩やかに下方に傾斜している。図３の仮想線１３ｂが
スポンソン１１の後端位置における内面壁の位置を示し
ている。後端位置における下方傾斜量はδである（図２
(b)参照）。トンネル状凹部１３を後部で下方傾斜させ
るのは、後述するように、できるだけ揚力を増大させる
ためである。

【００２２】図４はスポンソン１１Ａの断面形状の別な
形態例であり、トンネル状凹部１３Ａを半円形の曲面に
形成して、構造を簡素化することにより製作が簡単にな
るようにしたものである。この場合もトンネル状凹部１
３Ａは水面方向又は船底面３ａに向かうように開口し
て、スプレーＳ群を捕捉し易いようにしている。図３と
同じ構成要素には同一符号を付して説明は省略する。

【００２３】スポンソン１１の標準的な配置（以下「基
準位置」という）は、次の通りである。 (a) 艇の前後方向における配置：スポンソン１１の後端
１１ｂが船尾端近くに来るように配置される。 (b) 艇の高さ方向における配置：船尾部付近のチャイン
８の高さにほぼスポンソン１１のフック部１１ａが位置
するように、換言すれば、船底に沿って斜めに跳ね上が
ってきたスプレーがそのままトンネル状凹部１３に捕捉
される（吸い込まれる）ようにトンネル状凹部１３が位
置するような高さに配備される。 (c) スポンソン１１の迎え角θ：スポンソン１１はチャ
イン８に平行に配置される。（この位置を迎え角の基準
＝０°とする。） 後述する実験結果によれば、スポンソンを３°前後の迎
え角θをつけて前端が上方になるように傾斜配置したの
が好ましい（図２(b)参照）。

【００２４】上記スポンソン１１を基準位置に配置する
ことによって、図５(a)(b)に示す作用が発揮される。す
なわち、図５(a)(b)は、それぞれ本願発明の作用を示す
滑走型高速艇の平面図と側面図である。

【００２５】高速で航走中、船底面から跳ね上がってき
たスプレーＳはスポンソン１１のトンネル状凹部１３
（図３参照）に入り込んで、トンネル状凹部１３に沿っ
て、即ち船側に沿って後方に導かれ、その後端から少し
下方に向けて放出される。この時、スポンソン１１には
上向きの力が働く。

【００２６】図５(a)はスプレーの放出方向を船側に沿
った後方にすることにより得られる推力増加量、即ち、
抵抗減少量を説明するための図である。

【００２７】は従来のスポンソンによるスプレーの方
向を示し、スプレーの大部分はスポンソンで捕捉されず
に、船尾から斜め後方に放散するが。本発明では、スプ
レーの殆どは船側に沿って真っ直ぐ後方に放出する。
従って、の方向の成分との大きさとの差がスポン
ソンに加わる推力即ち抵抗減少量となる。

【００２８】図５(b)はスプレーを斜め下方に放出させ
ることによって得られる揚力増加量を説明するための図
である。

【００２９】従来はスプレーがやや上方に向けての成
分で放散するが、本発明では少し斜め下方に放出す
る。この時、とと作られる平行四辺形の上向きの
成分がスポンソンに加わる揚力増加量となる。

【００３０】このように、本発明のスポンソンを備えた
滑走型高速艇では、スポンソンによってスプレーのもつ
運動エネルギーが回収され、揚力増加や抵抗減少に有効
に活用されるものである。

【００３１】図６は、実艇による航走実験で得られた従
来型と本発明との作用効果の評価図である。縦軸に揚
力、横軸に船体姿勢安定性能評価値（具体的には頭下げ
モーメントの大小でポーポイジングの振幅の大小）をと
って示してある。右上がりになっていればスポンソンと
して性能が従来型より高いことを意味する。

【００３２】丸形●○の印は、スポンソンを基準位置に
設けた場合の従来と本発明との比較である。基準位置に
設けた場合、従来と本願発明との性能の差は最も大き
い。

【００３３】菱形◆◇の印は、スポンソンを基準位置か
らスポンソンの前端部の角度を３度上向きに傾けて配置
した場合（即ち、迎え角θ＝３°を付けた場合）の従来
と本発明の比較である。基準位置に配置したときと比べ
て、従来型も本発明も、揚力が大きく姿勢安定性能も最
も優れている。従って、スポンソンの頭を３°前後上げ
た態様で装着するのがより好ましいことが分かった。

【００３４】四角形■□の印は、スポンソンを基準位置
から３０ｍｍ前方移動位置に設けた場合の従来型と本発
明との比較であり、三角形▲△の印は、スポンソンを基
準位置から２０ｍｍ上方位置に設けた場合の従来型と本
発明との比較である。

【００３５】図６から考察すると、スポンソンを基準位
置から前方位置に設けた場合、また、上方位置に設けた
場合には、他の位置よりも性能は落ちることが判る。こ
れは、船底からのスプレーを充分に捕捉できないことが
原因である。しかし、本発明のスポンソンでは、上方位
置または前方位置に設けた場合でも、従来型の基準位置
および先端３°アップの位置のものよりも優れた性能を
示していることが判る。

【００３６】

【発明の効果】本願発明は、以上説明したような形態で
実施され、次のような効果を奏する。 船底表面に沿って後ろ上方に流れてくるスプレーの
殆どを効果的にトンネル状凹部で捕捉することより、そ
の運動エネルギーを揚力および推力として有効に利用す
ることができる。すなわち、従来のスポンソンが横方向
へスプレーを逃がしていたのに対し、船体後方（真後ろ
方向）へ流すことにより、その反力としてスポンソンに
前向きの流体力（すなわち推力）をえることができる。

【００３７】特に、ステップ部によって、トンネル状凹
部に捕捉されたスプレーのうち、後方に流れずに前方に
逆流する一部のスプレーが堰き止められ、スプレーの前
方向への運動エネルギーが受け止められると共に、他の
多くのスプレーはトンネル状凹部に沿って後方に導か
れ、その開放端から船側外板に沿った船尾後方に放出さ
れ、これによって推力が得られる。

【００３８】また、従来のスポンソンが船体上方へスプ
レーを逃がしていたのに対し、船体下方にスプレーを流
すことにより、その反力としてスポンソンに船体上向き
の力（すなわち揚力）を得ることができる。 これらの揚力増加および推力増加（すなわち抵抗減
少）により、従来のスポンソンを装備した滑走型高速艇
に比して、船体姿勢の安定性を向上させることができ、
推進性能も向上させることができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本願発明に係るスポンソンを備えた滑走型高速
艇を示し、(a)は側面図、(b)は船尾後方から見た要部正
面図である。

【図２】(a)(b)はそれぞれスポンソンの平面図と側面図
である。

【図３】スポンソンの図２(b)におけるＸ−Ｘ矢視断面
図である。

【図４】スポンソンの他の縦断面図である。

【図５】スポンソンの作用図で、(a)は平面図、(b)は側
面図である。

【図６】実艇による試験結果を図示したものである。

【符号の説明】

１…滑走型高速艇 ２…船尾（端）部 ３…船底 ３ａ…船底面 ７…船側外板 ８…チャイン ９…甲板 １０…船首部 １１、１１Ａ…スポンソン １１ａ…フック部 １１ｂ…スポンソン後端 １２…スポンソンの頭部（前部） １３、１３Ａ…トンネル状凹部 １３ａ…内面壁（天井壁） １４…ステップ部 Ｓ…スプレー

─────────────────────────────────────────────────────

【手続補正書】

【提出日】平成１２年３月１０日（２０００．３．１
０）

【手続補正１】

【補正対象書類名】明細書

【補正対象項目名】特許請求の範囲

【補正方法】変更

【補正内容】

【特許請求の範囲】

【手続補正２】

【補正対象書類名】明細書

【補正対象項目名】０００６

【補正方法】変更

【補正内容】

【０００６】

【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するた
めに、本願発明は、滑走型高速艇の船尾部の両舷船側外
板に設置され、その軸方向を船の前後方向に向けて設置
されたスポンソンであって、船底に沿って跳ね上がって
きたスプレーを捕捉しうるように略船底面の傾斜方向又
は水面方向に開口した軸方向に延びるトンネル状凹部を
有し、しかも、スポンソンの前部においてはトンネル状
凹部内に捕捉されたスプレーの堰き止め壁としてのステ
ップ部を形成するとともに、スポンソンの後端において
はトンネル状凹部を後方に開放させてなる滑走型高速艇
用スポンソンである。

【手続補正３】

【補正対象書類名】明細書

【補正対象項目名】０００９

【補正方法】変更

【補正内容】

【０００９】しかも、スポンソンの前部においてはトン
ネル状凹部内に捕捉されたスプレーの堰き止め壁として
のステップ部を形成するとともに、スポンソンの後端に
おいてはトンネル状凹部を後方に開放させたので、この
ステップ部によって、トンネル状凹部に捕捉されたスプ
レーのうち、後方に流れずに前方に逆流する一部のスプ
レーが堰き止められ、スプレーの前方向への運動エネル
ギーが受け止められると共に、他の多くのスプレーはト
ンネル状凹部に沿って後方に導かれ、その開放端から船
側外板に沿った船尾後方に放出され、これによって推力
が得られる。

Claims (6)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 滑走型高速艇の船尾部の両舷船側外板に
   設置され、その軸方向を船の前後方向に向けて設置され
   たスポンソンであって、船底に沿って跳ね上がってきた
   スプレーを捕捉しうるように略船底面の傾斜方向又は水
   面方向に開口した軸方向に延びるトンネル状凹部を有し
   てなる滑走型高速艇用スポンソン。
2. 【請求項２】 スポンソンの前部においてはトンネル状
   凹部内に捕捉されたスプレーの堰き止め壁としてのステ
   ップ部を形成するとともに、スポンソンの後端において
   はトンネル状凹部を後方に開放させた請求項１記載の滑
   走型高速艇用スポンソン。
3. 【請求項３】 トンネル状凹部を形成するスポンソンの
   天井面を、スポンソンの後端部において後方に向かって
   下方傾斜させた請求項１又は２記載の滑走型高速艇用ス
   ポンソン。
4. 【請求項４】 スポンソンを略鉤状断面に形成すること
   により先端部にフック部を形成した請求項１〜３いずれ
   か１項に記載の滑走型高速艇用スポンソン。
5. 【請求項５】 スポンソンを、上向きの迎え角をとるよ
   うに傾斜配置した請求項１〜４いずれか１項に記載の滑
   走型高速艇用スポンソン。
6. 【請求項６】 請求項１〜５いずれか１項に記載のスポ
   ンソンを備えた滑走型高速艇。