JP2000137008A - 鉄鋼製品および関連する原材料に含まれる元素の化学結合状態分析方法 - Google Patents

鉄鋼製品および関連する原材料に含まれる元素の化学結合状態分析方法

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JP2000137008A
JP2000137008A JP11079417A JP7941799A JP2000137008A JP 2000137008 A JP2000137008 A JP 2000137008A JP 11079417 A JP11079417 A JP 11079417A JP 7941799 A JP7941799 A JP 7941799A JP 2000137008 A JP2000137008 A JP 2000137008A
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chemical bond
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spectrum
analyzing
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Shinya Okude
進也 奥出
Masayasu Nagoshi
正泰 名越
Hisato Noro
寿人 野呂
Katsumi Kobayashi
克己 小林
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 鉄鋼製品および関連する原材料に含有される
元素の化学結合状態を分析する。 【解決手段】 測定用材料(試料)に照射したX線を
吸収し、材料と接地したグランドとの間に流れる電流を
測定してX線吸収端スぺクトルを測定する。 【効果】特別な材料の前処理無く、および、非破壊によ
って、材料の化学結合状態を分析できる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、鉄鋼製品の安定
製造のための品質管理に関し、特別な材料の前処理無
く、非破壊によって、鉄鋼製品および関連する原材料に
含まれる元素の化学結合状態を分析する方法に関するも
のである。
【0002】
【従来の技術】鉄鋼製品および関連する原材料に含まれ
るあらゆる元素の化学結合状態は、その製品や材料の持
つ特性に大きく影響を及ぼすことが知られている。例え
ば、亜鉛めっき鋼板など、耐食性や塗料密着性などの特
性の向上を目的に、亜鉛めっき上に様々なクロメート被
膜が施される。
【0003】例えば、クロメート被膜は、主に+3価ク
ロムと+6価クロムとにより構成されており、+3価クロ
ムのバリヤー効果と+6価クロムの補修効果とにより耐
食性が保持されている。そのため、これらクロメート処
理製品を安定して製造し、出荷するためには、被膜中に
含まれる+3価と+6価のクロムの比率を正確に求める
必要がある。
【0004】このように、鉄鋼製品を安定して製造し、
出荷するためには、鉄鋼製品に含まれる元素の化学結合
状態を正確に分析する必要がある。
【0005】鉄鋼製品および関連する原材料に含まれる
元素の化学結合状態を分析する方法として、従来、古く
から、X線光電子光法(XPS)が用いられている(以
下、「先行技術」という)。この先行技術(XPS)を
用いれば、表面近傍(数nmの深さ)の情報を得ること
ができ、例えば、化成処理被膜の表面の状態分析などに
用いられてきた。
【0006】ところが、先行技術では、上記深さより深
い部分の情報を得ることは難しい。そのため、イオンス
パッタリングという方法によって極表面(極めて表面に
近い位置)の原子を剥ぎ取ることによって内部を露出さ
せ、より深い部分の情報を得る方法が一般的に採用され
ている。
【0007】しかし、イオンスパッタリングは化学結合
状態を変化させるため、正確な情報を得ることが難し
い。そのため、極表面(数nm)の情報を得ることがで
きても、深さ方向に平均的な情報、極表面より深い内部
の情報、および極表面から内部にかけての化学結合状態
の変化に関する情報を得ることができない。
【0008】一方、例えば、クロメート被膜について、
昨今、環境問題の観点から、人体に有害な+6価クロム
を含まないクロメート被膜の開発が進められている。+
6価クロムを含まないクロメート処理製品の出荷に際し
ては、被膜中に+6価クロムが含まれないことを検査お
よび確認する必要がある。このような観点からも、被膜
中に含まれる+3価と+6価のクロムの比率を正確に求
める方法の開発が望まれている。
【0009】クロメート被膜中に含まれる+3価と+6
価のクロムの比率を定量する方法についても、古くか
ら、上記先行技術(XPS)が用いられており、表面近
傍(数nmの深さ)の情報を得ることができる。しかし
ながら、様々な厚みを有するクロメート被膜の深さ方向
に平均的な情報を得ることは難しい問題がある。例え
ば、クロメート被膜に対して上記のイオンスパッタリン
グを用いて、極表面の原子を剥ぎ取ることで内部を露出
させ、より深い部分の情報を得るという試みは可能であ
るが、イオンスパッタリングは、化学結合状態を変化さ
せるため、正確な情報を得ることができないため、極表
面の情報を得ることができても、深さ方向に平均的な情
報を得ることができない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】鉄鋼製品および関連す
る原材料においては、耐食性などのように、極表面より
はむしろ内部に存在する元素の化学結合状態が影響を及
ぼす特性が多い。そのため、このような特性に関する品
質の管理においては、深さ方向に平均的な情報を抽出す
ることが必要となる。この場合XPSでは不十分であ
る。
【0011】また、傾斜材料や一部のクロメート被膜の
ように、含まれる元素の化学結合状態が最表面から深さ
方向に変化している材料では、XPSの検出深さ(数n
m)から数10nmにかけての間で分析深さを自由に変
化させて、非破壊で化学結合状態を分析することが望ま
れるが、XPSでは不可能である。
【0012】従って、この発明の目的は、鉄鋼製品およ
び関連する原材料に含まれる元素に関して、深さ方向に
平均的な化学結合状態、また、その深さ方向の分布を調
べることができる分析方法、そして、それにより、例え
ば、クロメート被膜など、酸化クロムを含む製品におい
て、+3価と+6価とのクロムの比率を定量する方法を
提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、
鉄鋼製品および関連する原材料に含有される元素の化学
結合状態分析方法において、測定用材料に照射したX線
を吸収し、前記材料と接地したグランドとの間に流れる
電流を測定してX線吸収端スぺクトルを測定することに
より、前記材料の化学結合状態を分析することに特徴を
有するものである。
【0014】請求項2記載の発明は、X線の入射角度を
前記材料表面に対して5度以下となるように設定し、前
記材料の表面近傍の化学結合状態を分析することに特徴
を有するものである。
【0015】請求項3記載の発明は、材料表面に対する
X線の入射角度を前記X線が全反射を起こす角度に設定
することにより、前記材料の極表面の化学結合状態を分
析することに特徴を有するものである。
【0016】請求項4記載の発明は、鉄鋼製品および関
連する原材料に含有される元素の化学結合状態分析方法
において、測定用材料の表面に対して2つ以上の異なる
入射角度で照射したX線を吸収し、前記材料と接地した
グランドとの間に流れる電流を測定してX線吸収端スぺ
クトルを測定することにより、前記材料に含まれる元素
の化学結合状態の深さ分布を求めることに特徴を有する
ものである。
【0017】請求項5記載の発明は、鉄鋼製品および関
連する原材料に含有される元素の化学結合状態分析方法
において、酸化クロムを含む測定用材料に照射したX線
を吸収し、前記材料と接地したグランドとの間に流れる
電流を測定してCr K吸収端スぺクトルを測定し、得
られたCr K吸収端スぺクトルのプリエッジピーク高
さ(lp)とエッジ高さ(le)との比(lp/le)
から、前記酸化クロム中の+3価のクロムと+6価のク
ロムとの比率を定量することに特徴を有するものであ
る。
【0018】我々は、上記の化学結合状態を調べる方法
として、X線吸収端微細構造法(XANES)に注目し
てきた。この方法は、連続的にエネルギーを変化させた
X線を測定用材料(試料)に照射し、X線吸収端スぺク
トルを測定するものである。ところが、その測定方法は
透過法が基本であり、この場合、測定用試料を10μm
以下まで薄くする必要がある。そのため、0.1mm以
上の厚みを有する鉄鋼製品にこの方法を適用することは
極めて難しい。
【0019】我々は、この問題を解決するために鋭意検
討を重ねた。その結果、X線の吸収により試料と接地し
たグランドとの間に流れる電流を測定することによりX
線吸収端スぺクトルを測定すれば、薄片化など特別な試
料の前処理無く、鋼板もしくはその上の表面処理層など
のあらゆる鉄鋼製品に含有される元素の化学結合状態を
分析できることを知見した。また、分析深さは数10〜
100nmにまで及ぶため、本方法は、先に延べた深さ
方向に平均的な情報を得るのに有効である。ここで、鉄
鋼製品とは、熱延や冷延鋼板、および、表面処理鋼板な
どであり、関連する原材料とは、鉄鉱石、マンガン鉱石
およびチタン鉱石などである。
【0020】請求項2〜4に記載の発明は、上記方法に
おける分析深さを、XPSレベルの数nmから数10n
mの範囲に制御するものである。請求項2および請求項
3に記載の発明は、測定用材料に入射角度が試料表面に
対して5度以下あるいは全反射条件を起こす角度となる
ようにX線を照射し、表面近傍および極表面の材料の化
学結合状態を分析するものである。
【0021】請求項2について、我々は、測定用材料に
X線を照射し、特に、測定用材料に入射角度が試料表面
に対して5度以下で照射したX線を吸収し、前記材料と
接地したグランドとの間に流れる電流を測定してX線吸
収端スぺクトルを測定することにより、鉄鋼製品および
関連する原材料の表面近傍の元素の化学結合状態を分析
することが可能であることを見出した。分析深さが表面
に限られるのは、X線の入射角度を試料表面に平行に近
くしたことにより、X線の侵入深さが浅くなったことに
よる。本方法は鉄鋼製品および関連する原材料の表面近
傍の元素の化学結合状態を分析することができ、表面近
傍での元素の結合状態が特性を決定している材料や、特
に薄い層状の材料や、表面付近にのみ対象元素が含まれ
る材料の分析に特に有効である。
【0022】請求項3について、我々は、X線の入射角
度をいわゆる“X線の全反射”が起こる角度に設定する
と、X線の侵入深さが著しく制限され、鉄鋼製品および
関連する原材料の極表面の元素の化学結合状態を分析す
ることが可能であることを見出した。本方法によれば、
鉄鋼製品および関連する原材料の極表面の元素の化学結
合状態を分析することができる。
【0023】請求項4について、上記の知見から明かな
ように、X線の侵入深さをX線の入射角度を変化させて
制御し、複数の異なるX線の入射角度で化学結合状態分
析を行うと、それぞれの分析結果は試料表面から異なる
深さの元素の結合状態を強く反映させている。従って、
複数の異なるX線の入射角度で化学結合状態分析を行う
ことにより、試料表面から深さ方向の元素の結合状態変
化を明らかにすることができる。ここで、深さ数10n
mにおける検出深さの変化は5度以下の角度で生じるた
め、少なくとも1つの入射角度を5度以下にすることが
望ましいが、数10nmよりも深い領域の深さ方向の結
合状態変化を明らかにする場合には、その必要はない。
本方法は、鉄鋼製品および関連原材料において、表面か
ら深さ方向に元素の結合状態が変化している材料の分析
に特に有効である。
【0024】請求項5記載の発明は、酸化クロムを含む
測定用材料において、酸化クロム中の+3価のクロムと
+6価のクロムとの比率を定量するものである。
【0025】我々は、+3価と+6価のクロムの比率を
定量する方法として、上記のXANESに注目してき
た。しかし、先に延べたように、その測定方法は透過法
が基本であり、この場合、測定用試料を10μm以下ま
で薄くする必要がある。例えば、酸化クロムを含むクロ
メート被膜自身は1μm以下の厚みであるため、電解法
や水銀アマルガム法などの公知の方法により被膜のみを
抽出すれば測定は可能である。しかしながら、(a)被
膜中のクロムの状態を変化させずに抽出すること、およ
び、(b)数mm角の比較的広い範囲で均一に抽出する
ことは、極めて困難である。
【0026】我々は、この問題を解決するために鋭意検
討を重ねた。その結果、X線の吸収により試料と接地し
たグランドとの間に流れる電流を測定することによりC
rK吸収端スぺクトル(Cr K−edge XANE
Sスペクトル)を測定し、得られるスペクトルのプリエ
ッジピーク高さ(lp)とエッジ高さ(le)の比(l
p/le)を求めることで、薄片化など特別な試料の前
処理なく、酸化クロム中の+3価と+6価のクロムの比
率を定量できることを見出した。また、分析深さは数μ
mにまで及ぶため、クロメート被膜など、比較的厚い被
膜の深さ方向に平均的な情報を得るのに有効な方法であ
ることが分かった。
【0027】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)この発明の実施
の形態1を図1に示す。図1の(1)に示すように、X
線(放射光等)を真空チャンバー内の試料(測定用材
料)に放射し、試料と接地したグランドとの間に流れる
電流を測定する。入射X線の強度は、Cuメッシュに流
れる電流により規格化する。(2)に示すように、スペ
クトル形状を調べることで化学結合状態を分析すること
ができる。 (実施の形態2)この発明の実施の形態2を図2に示
す。図2の(1)に示すように、X線(放射光等)を真
空チャンバー内の試料(測定用材料)に放射し、試料と
接地したグランドとの間に流れる電流を測定する。入射
X線の強度は、測定用の真空チャンバーの前段に配置し
たガスチャンバーに流れる電流により規格化する。
(2)に示すように、スペクトル形状を調べることで化
学結合状態を分析することができる。なお、簡易的に
は、入射X線強度の規格化方法として、放射光のリング
電流を用いることもできる。
【0028】
【実施例】図1、図2に示す装置によって原材料に含ま
れる元素の化学結合状態を分析した。
【0029】(実施例1) クロムの状態分析:クロメート被膜中のクロムの状態を
分析した結果を示す。
【0030】片面当たりの付着量が20g/m2の電気
亜鉛めっき鋼板を公知の方法により脱脂し、基板とし
た。無水クロム酸溶液(CrO3:50g/l)を適度
に水で希釈したものを基板に、バーコータにより金属C
r換算で約20mg/m2塗布して試料を調製した。試
料は、85℃にて乾燥した。また、標準試料として、市
販の水酸化クロム(Cr(OH)3)、酸化クロム(C
23)および3酸化クロム(CrO3)の粉末試薬を
測定に供した。
【0031】XANESの測定は、試料吸収電流(Abso
rption current)をモニターする方法により行った。
入射X線の強度は、測定用の真空チャンバーの前段に配
置したガスチャンバーに流れる電流により規格化した
(図2参照)。測定は、高エネルギー加速器研究機構放
射光研究施設のBL27Bにおいて行った。
【0032】図3に、クロメート被膜および標準試料か
ら得られたX線吸収端スぺクトル(Cr K−edge
XANESスペクトル=Cr K吸収端スぺクトル)
を示す。標準試料から得られた結果から、5993eV
近傍に現れるピークは6価クロムに特徴的なものである
ことがわかる。このピークの有無を調べることで、6価
クロムの有無を定性的に調べることできる。クロメート
被膜から得られたスペクトルに注目すると、このピーク
がわずかに出現しており、被膜中にわずかに6価クロム
が存在していることがわかる。一方、6004eV近傍
のエッジより高いエネルギーにおけるスペクトル形状を
みると、同じ3価クロムであっても、化合物が異なると
その形状が異なることが分かる。このことから、6価ク
ロムの有無だけでなく、このような3価クロムの化合物
を形成しているかを調べることが可能である。クロメー
ト被膜から得られたスペクトルの形状は、Cr(OH)
3の形状に近く、このクロメート被膜中のクロムはCr
(OH)3に近い形で存在していることが分かる。
【0033】(実施例2) リンの状態分析:リン酸を添加したクロメート被膜中の
リンの状態を分析した結果を示す。
【0034】クロメート被膜は、無水クロム酸(CrO
3:50g/l)にオルトリン酸を重量比でH3PO4
Cr=4だけ添加した処理溶液を適度に水で希釈したも
のを上述の基板に、バーコータにより金属Cr換算で約
20mg/m2塗布して作製した。試料は、85℃にて
乾燥した。標準試料として、市販のリン酸亜鉛(Zn 3
(PO42・4H2O)および五酸化二リン(P25
の粉末試薬を測定に供した。
【0035】XANESの測定は、試料吸収電流をモニ
ターする方法により行った。入射X線の強度は、測定用
の真空チャンバー内のCuメッシュに流れる電流により
規格化した(図1参照)。測定は、高エネルギー加速器
研究機構放射光施設のBL27Aにおいて行った。
【0036】図4に、リン酸添加クロメート被膜および
標準試料から得られたP K−edge XANESス
ペクトルを示す。スペクトル中に現れているメインのピ
ークは、P1sから主にP3pで構成される非占有軌道
への遷移が双極子遷移の選択則を満足するために生じた
共鳴ピークである。標準試料から得られた2つのスペク
トルでは、Zn3(PO42・4H2Oのスペクトルより
も、P25試料のスペクトルの方が高エネルギー側にピ
ークを持つことが分かる。クロメート被膜から得られた
スペクトルに注目すると、これらの標準試料の中間のエ
ネルギーにピークが存在することから、このクロメート
被膜中におけるリンはリン酸亜鉛と五酸化二リンの混合
体として存在していることが分かる。
【0037】(実施例3) マンガンの状態分析:マンガン鉱石の焼結前後でのマン
ガンの価数変化を調べた結果を示す。
【0038】マンガン鉱石は、オーストラリア産で、B
HP(Broken Hill Product)社より購入した、焼結
(大気中1000℃加熱)前後のものを用いた。鉱石
は、数μm程度のサイズの粒径まで粉砕し、測定に供し
た。また、標準試料として、市販の2価(MnO)、3
価(Mn23)および4価(MnO2)のマンガン酸化
物の粉末試薬を測定に供した。
【0039】XANESの測定は、試料吸収電流をモニ
ターする方法により行った。入射X線の強度は、測定用
の真空チャンバーの前段に配置したガスチャンバーに流
れる電流により規格化した。測定は、高エネルギー加速
器研究機構放射光研究施設のBL27Bにおいて行っ
た。
【0040】図5に、マンガン鉱石ならびに標準試料か
ら得られたMn K−edge XANESスペクトル
を示す。Mnの価数によって、エッジのエネルギーやス
ペクトルの形状が異なることが分かる。各スペクトルの
エッジのエネルギー(EdgeEnergy)とMnの価数の関係
を図6に示すが、両者は非常に良い相関が得られる。こ
こでエッジのエネルギーは、スペクトルを微分して、最
小強度となるエネルギー値とした。この相関を利用して
求めたマンガン鉱石の価数は、焼結前で4.0価、焼結
後で2.4価である。以上から、エッジのエネルギーか
らMnの平均価数を求めることができることが分かる。
【0041】(実施例4)X線の入射角度を試料表面に
対して変化させることのできる回転軸からなる試料ホル
ダーを試料側に設け、試料表面に対するX線の入射角度
を変化させることができるように構成した。試料ホルダ
ーによって試料表面に対するX線の入射角度を変化させ
て試料の化学結合状態を分析した結果を示す。XANE
Sの測定は、試料ホルダーを使用してX線の入射角度を
変化させた他は、実施例1と同様に行った。
【0042】鉄上に金属クロム膜を2nmおよび20n
mの厚さで真空蒸着した試料を測定用試料とした。図7
は、これらの試料の、クロムの相対強度{Fe K−e
dge XANESスペクトル強度(高さ)に対するC
r K−edge XANESスペクトル強度(高さ)
の比}を、X線の入射角度に対してプロットしたもので
ある。また、表1および表2は、数値データを示してい
る。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】 2nmのクロム膜では、入射角度5度よりクロムの相対
強度が増加し始め、0.3度以下の角度で通常条件より
も約4倍以上のクロムの相対強度が得られている。
【0045】一方、20nmのクロム膜でも、5度より
クロムの相対強度が増加しており、より表面近傍が分析
されていることがわかる。更に、0.05度以下の角度
ではX線の全反射が起こっておりクロムの相対強度は無
限大、即ち、クロムの信号のみが得られている。このこ
とは、検出深さが20nm以下であることを示してい
る。
【0046】(実施例5)実施例4同様に試料ホルダー
を設けた装置を用い、公知の方法により鋼板上に金属ク
ロムをめっきしたティンフリースチール(クロム膜厚2
0nm)について分析した結果を図8および表3に示
す。
【0047】
【表3】 3.6度の入射角度から通常条件よりも強いクロムの相
対強度が得られており、実施例4の20nmのクロム膜
と同様に、0.3度以下の角度でクロムのみの信号が得
られている。このとき、前記クロメート被膜の結果と類
似した方法で、スペクトルの形状から、被膜の内部は金
属クロムで表面付近は+3価のクロムであることが明ら
かとなった。
【0048】以上の結果は、本方法が鉄鋼製品および関
連する原材料の数10nm以下の表面付近、および数n
m程度の極表面の元素の化学結合状態をも分析すること
ができることを示している。
【0049】(実施例6)+3価と+6価のクロムの定量
方法について検討した結果を示す。
【0050】+3価と+6価のクロムを標準試料とし
て、市販の酸化クロム(Cr23)および重クロム酸カ
リウム(K2CrO4)の粉末試薬を用いた。+3価と+
6価のクロムの原子比が、0.15:0.85、0.3
2:0.68、0.52:0.48、0.74:0.2
6、になるように、それぞれの試薬を均一に混合した。
測定に際して、試薬をAl板上に接着させた市販の両面
カーボンテープ上に接着させた。
【0051】なお、本実施例は、市販の試薬の+3価ク
ロム(Cr23)と+6価クロム(K2CrO4)を既知
量だけ混合した試料を用いて検量線を作成した例である
が、酸化クロムは様々な状態のものが存在するため、製
品の状態にあった試薬を用いて検量線を作成することが
望ましい。
【0052】XANESの測定は、試料吸収電流をモニ
ターする方法により行った。入射X線の強度は、測定用
の真空チャンバーの前段に配置したガスチャンバーに流
れる電流により規格化した(図2参照)。測定は、高エ
ネルギー加速器研究機構放射光研究施設のBL27Bに
おいて行った。
【0053】図9に、標準試料から得られたCr K吸
収端スぺクトル(Cr K−edge XANESスペ
クトル)を示す。5993eV近傍に現れるプリエッジ
ピークは+6価クロムに特徴的なピークで、+6価クロ
ムの原子比の増加にともないピーク強度が増加している
ことが分かる。測定用試料中のクロムの密度によってこ
のピーク強度は変化することが予想されるため、+3価
と+6価のクロムの比率を定量するに際して、エッジ強
度によりこのピーク強度を規格化することにした。規格
化は、5993eV近傍のプリエッジピークの最大強度
から全体のスペクトル中の最低強度を差し引いた強度
(lp)を、6011eV近傍のエッジの最大強度から
全体のスペクトル中の最低強度を差し引いた強度(l
e)で割ることにより行った。規格化した強度(lp/
le)をクロムの原子比に対してプロットしたグラフ
(検量線)を図10に示す。図10中に示した回帰曲線
が実験結果を良く再現しており、この曲線を用いること
で、+3価と+6価のクロムの比率を定量することが可
能であることが分かる。
【0054】なお、回帰曲線の求めかたは、下記の通り
である。
【0055】+3価クロムのlpおよびleを、a
(3)、b(3)、+6価クロムのlpおよびleを、
a(6)、b(6)とし、+6価クロムの原子比をc
(at%)とすると、未知物質の強度比(lp/le)
は、下記式、lp/le={a(3)×(100−c)/100+a(6)×c
/100}/{b(3)×(100−c)/100+b(6)×c/100}によ
って表される。
【0056】a(3)/b(3)およびa(6)/b
(6)は、それぞれ、+3価と+6価のクロムの標準物
質から得られたスペクトルから求められる。回帰曲線
は、この値を代入した式を用い、最小二乗法により求め
た。
【0057】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれ
ば、下記に示す有用な効果がもたらされる。 特別な材料の前処理無く、更に、非破壊によって、
鉄鋼製品や関連する原材料に含まれる元素の化学結合状
態を調べることができ、鉄鋼製品の安定した製造に寄与
できる。 また、極表面から深さ方向の元素の化学結合状態の
変化を調べることができる。 クロメート被膜など、酸化クロムを含む製品におけ
る、+3価と+6価のクロムの比率を定量することが可
能で、クロメート処理製品の安定した製造に寄与でき
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態1に係る、試料吸収電流
モニターによるX線吸収端スぺクトル測定を示す(1)
は模式図、(2)はスペクトルグラフである。
【図2】この発明の実施の形態2に係る、試料吸収電流
モニターによるX線吸収端スぺクトル測定を示す(1)
は模式図、(2)はスペクトルグラフである。
【図3】この発明の実施例1に係るクロメート被膜およ
び標準試料から得られたCrK−edge XANES
スペクトルを示すグラフである。
【図4】この発明の実施例2に係るリン酸添加クロメー
ト被膜および標準試料から得られたP K−edge
XANESスペクトルを示すグラフである。
【図5】この発明の実施例3に係るマンガン鉱石および
標準試料から得られたMn K−edge XANES
スペクトルを示すグラフである。
【図6】この発明の実施例3に係るMnの価数とMn
Kエッジエネルギーとの関係を示すグラフである。
【図7】この発明の実施例4に係る、鉄上の2nmのク
ロム膜および20nmのクロム膜についての、クロムの
相対強度{Fe K−edge XANESスペクトル
強度(高さ)に対するCr K−edge XANES
スペクトル強度(高さ)の比}をX線の入射角度に対し
てプロットしたグラフである。
【図8】この発明の実施例5に係る、鋼板上に金属クロ
ムをめっきしたティンフリースチール(クロム膜厚20
nm)についての、クロムの相対強度{Fe K−ed
ge XANESスペクトル強度(高さ)に対するCr
K−edge XANESスペクトル強度(高さ)の
比}をX線の入射角度に対してプロットしたグラフであ
る。
【図9】この発明の実施例6に係る、標準試料から得ら
れたCr K吸収端スぺクトルを示すグラフである。
【図10】この発明の実施例6に係る、規格化した強度
(lp/le)をクロムの原子比に対してプロットした
グラフである。
【符号の説明】
1 電流計
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 野呂 寿人 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日 本鋼管株式会社内 (72)発明者 小林 克己 茨城県つくば市稲荷前22−12 Fターム(参考) 2G001 AA01 BA13 CA03 FA02 FA08 FA30 GA08 GA13 JA07 JA11 JA20 KA12 LA02 LA03 MA04 MA05 NA07 NA10 NA17 NA20 PA07 RA01 RA03 RA08

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 鉄鋼製品および関連する原材料に含有さ
    れる元素の化学結合状態分析方法において、測定用材料
    に照射したX線を吸収し、前記材料と接地したグランド
    との間に流れる電流を測定してX線吸収端スぺクトルを
    測定することにより、前記材料の化学結合状態を分析す
    ることを特徴とする鉄鋼製品および関連する原材料に含
    まれる元素の化学結合状態分析方法。
  2. 【請求項2】 X線の入射角度を前記材料表面に対して
    5度以下となるように設定し、前記材料の表面近傍の化
    学結合状態を分析する請求項1記載の方法。
  3. 【請求項3】 材料表面に対するX線の入射角度を前記
    X線が全反射を起こす角度に設定することにより、前記
    材料の極表面の化学結合状態を分析する請求項1または
    2記載の方法。
  4. 【請求項4】 鉄鋼製品および関連する原材料に含有さ
    れる元素の化学結合状態分析方法において、測定用材料
    の表面に対して2つ以上の異なる入射角度で照射したX
    線を吸収し、前記材料と接地したグランドとの間に流れ
    る電流を測定してX線吸収端スぺクトルを測定すること
    により、前記材料に含まれる元素の化学結合状態の深さ
    分布を求めることを特徴とする鉄鋼製品および関連する
    原材料に含まれる元素の化学結合状態分析方法。
  5. 【請求項5】 鉄鋼製品および関連する原材料に含有さ
    れる元素の化学結合状態分析方法において、酸化クロム
    を含む測定用材料に照射したX線を吸収し、前記材料と
    接地したグランドとの間に流れる電流を測定してCr
    K吸収端スぺクトルを測定し、得られたCr K吸収端
    スぺクトルのプリエッジピーク高さ(lp)とエッジ高
    さ(le)との比(lp/le)から、前記酸化クロム
    中の+3価のクロムと+6価のクロムとの比率を定量す
    ることを特徴とする鉄鋼製品および関連する原材料に含
    有される元素の化学結合状態分析方法。
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