JP2000109965A - 加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法 - Google Patents

加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法

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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】 不めっきがなく、密着性に優れ、しかも降伏
比が低く、良好な加工性を有する溶融亜鉛めっき高張力
鋼板の製造方法を提案する。 【解決手段】 C及びMnを特定した鋼素材を熱間圧延、
冷間圧延し、Ac1変態点〜Ac3変態点の温度範囲に加熱
し、この加熱温度からめっき浴温度までの温度域を、B
≦0.0006wt%のとき、log CR=−3.50(Mowt%)−1.
20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08
(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50、B>0.00
06wt%のとき、log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mn
wt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt
%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20、(ただし、T:
保持温度(℃)、t:保持時間(sec)、CR:臨界冷却
速度(℃/sec))で表される臨界冷却速度以上の速度で
冷却して、溶融亜鉛めっきを施し、引き続き300 ℃まで
の温度域を、同様に上式の速度で冷却する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車車体などに
用いられる、加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板
(合金化したものを含む)の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車用の鋼板には、一般に、耐食性と
加工性が必要であるため、種々の表面処理鋼板が用いら
れている。その中でも、溶融亜鉛めっき鋼板は、高度な
耐食性を有しているとともに、再結晶焼鈍および亜鉛め
っきを同一ラインで処理できる連続溶融亜鉛めっきライ
ン(CGL)により、極めて安価に製造できるという利
点を具えている。また、前記亜鉛めっきの後、直ちに加
熱して合金化処理を行った溶融亜鉛めっき鋼板は、とり
わけ耐食性に優れ、溶接性やプレス成形性にも優れてい
る。一方、近年、地球環境の改善を目指した燃費向上の
ための自動車の軽量化が迫られ、また、安全性向上のた
めの衝突時の安全規制の強化が要請されるようになっ
て、溶融亜鉛めっき鋼板にも高強度化(高張力化)が必
要になってきた。
【0003】ところで、高張力鋼板には種々の強化機構
を利用したものが開発されているが、中でも、自動車の
耐衝突特性に優れた鋼板として複合組織鋼板が挙げられ
る。複合組織鋼板は、フェライト相に、第2相として、
主にマルテンサイト相を複合させた鋼板であり、この硬
質な第2相を分散させることによって、組織強化による
高強度化を図ったものである。複合組織鋼板の一般的な
製造方法は、低炭素鋼板にMnなどの合金元素を添加し、
フェライトとオーステナイトの2相領域に加熱したの
ち、冷却し、オーステナイト相をマルテンサイトに低温
変態させるものである。このマルテンサイト変態時に、
マルテンサイトの周囲のフェライトに可動転位が導入さ
れ、降伏比(YR=降伏強さ/引張強さ)が低くなる。
このように降伏比が低い材料は、プレス成形時のしわの
発生が抑えられ、プレス成形に有利となる。また、複合
組織鋼板には、加工硬化(n値)が高く、均一伸びが高
いという利点もある。
【0004】上述した2相域焼鈍において、オーステナ
イト相をマルテンサイト相に変態させるためには、合金
元素の添加が必要である。例えば、特開昭57−152421号
公報には、焼鈍後の冷却速度に応じて合金元素の添加量
を規定する技術が提案されている。この開示技術のよう
に、焼き入れ性を向上させるためには、Mn、Mo、Crなど
の合金元素を添加する必要がある。ここで、Moはめっき
性への影響が小さいものの、コストアップを招き、多量
に添加することは難しい。このため、高強度化を図るた
めの合金添加は、主としてMnあるいはCrを添加すること
によって対処していた。
【0005】しかし、このMn、Crは、一般に、焼鈍の過
程で鋼板の表面に濃化して (表面濃化層の形成) 、めっ
き性、とくに溶融亜鉛めっきする際の濡れ性を悪くする
ことが知られており、これらの点から、極力低減するこ
とが望ましい元素であるといえる。一方、溶融亜鉛めっ
き後に合金化処理する際の冷却速度は、通常の連続焼鈍
ラインの場合に比べて遅くなり、マルテンサイトを確保
するためには、より多くの合金元素の添加が避けられな
くなるという側面がある。このため、溶融亜鉛めっき
後、合金化処理した溶融亜鉛めっき高張力鋼板で、低降
伏比の特性が得られる程度に合金元素を添加すると、他
方では、不めっきが発生し、外観を問題視する自動車用
の部品への適用が困難になるという問題があった。
【0006】これらの問題に対する従来の方策として
は、めっき濡れ性の改善について、例えば、鋼板をCG
Lに導入するに先立って、電気めっきを行う方法(特開
平2−194156号公報)、クラッド法によりSi、Mnなどの
含有量の少ない組成の鋼を表層にする方法(特開平3−
199363号公報)が提案されている。しかし、これらの方
法では、コストがかかり生産性も悪い工程を新たに経る
必要が生じるなどの問題がある。
【0007】また、めっき性を改善する方法として、特
開平7−70723 号公報に、一旦焼鈍した後、表面に濃化
した元素を酸洗除去し、これをCGLにて加熱、めっき
する方法が開示されている。ここで、CGLでの焼鈍時
の表面濃化を防止するための温度は、再結晶温度−30℃
が望ましいとしている。しかしながら、この焼鈍温度は
複合組織鋼板の材質特性を確保するには適さず、降伏強
度が上昇したり、合金元素の多量添加に伴うコストアッ
プを招くという問題があった。他方、十分複合組織とす
るために変態点以上で焼鈍すると、合金元素の表面への
再濃化が早まり、十分なめっき品質を安定して得ること
は困難であった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、溶融
亜鉛めっき高張力鋼板を製造するに当たって、従来の既
知技術では、不めっきの発生、密着性の低下、降伏比の
上昇(加工性の低下)などを招き、また、過度の合金添
加や新たな附帯設備の増設などに伴って、生産性の低下
やコストの上昇をもたらしていた。本発明は、このよう
な従来技術が抱えていた上記問題を解消し、溶融亜鉛め
っき高張力鋼板の新規な製造方法を提案することを目的
とする。また、本発明の目的は、とくに不めっきがな
く、密着性に優れ、しかも降伏比が低く、良好な加工性
を有する溶融亜鉛めっき高張力鋼板の新規な製造方法を
提案することにある。さらに、本発明の他の目的は、具
体的な特性として、引張強さが380 〜1000MPa、とりわ
け440 〜580 MPaで、降伏比が55%以下を満たし、めっ
き性がよい溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法を提案
することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】発明者らは、めっき性と
加工性を両立させるための溶融亜鉛めっき鋼板の製造方
法について、鋭意研究した。その結果、合金元素を適正
に添加したうえ、あらかじめ高温処理によって表面直下
に内部酸化層を形成させることによって鋼板表面におけ
る濃化を抑制し、かつ、所望の複合組織を得るために適
した、熱処理工程を採用することによって、上記の目的
を達成できるとの知見を得て本発明を完成するに至っ
た。その要旨構成は以下のとおりである。
【0010】(1) C:0.005 〜0.15wt%、 Mn:0.3 〜
3.0 wt%、を含有する鋼素材を熱間圧延したのち、熱間
圧延後の冷却時にまたは冷却後に再加熱して下記 (1)式
の条件で高温保持し、その後、表面の酸化スケールを除
去し、次いで連続圧延した後、Ac1変態点〜Ac3変態点
の温度範囲に加熱し、この加熱温度から少なくともめっ
き浴温度までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式
または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却
して、必要に応じて (すなわち、前記冷却においてめっ
き浴温度未満まで鋼板を冷却した場合は) 少なくともめ
っき浴温度まで加熱し、次いで (前記めっき浴温度まで
の加熱の有無にかかわらず) 溶融亜鉛めっきを施し、引
き続き300 ℃までの温度域を、B含有量に応じて下記
(2)式または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度
で冷却することを特徴とする、加工性に優れた溶融亜鉛
めっき高張力鋼板の製造方法。 記 T+112 log t≧ 1054 …………… (1) B≦0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt %)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50 ……… (2) B>0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt %)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20 ……… (3) ただし、T:保持温度(℃) t:保持時間(sec) CR:臨界冷却速度(℃/sec)
【0011】(2) C:0.005 〜0.15wt%、 Mn:0.3 〜
3.0 wt%、を含有する鋼素材を熱間圧延したのち、熱間
圧延後の冷却時にまたは冷却後に再加熱して下記 (1)式
の条件で高温保持し、その後、表面の酸化スケールを除
去し、次いで冷間圧延後、Ac1変態点〜Ac3変態点の温
度範囲に加熱し、この加熱温度から少なくともめっき浴
温度までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式また
は (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却し
て、必要に応じて (すなわち、前記冷却においてめっき
浴温度未満まで鋼板を冷却した場合は) 少なくともめっ
き浴温度まで加熱し、次いで (前記めっき浴温度までの
加熱の有無にかかわらず) 溶融亜鉛めっきを施し、さら
に、合金化処理を行い、引き続き300 ℃までの温度域
を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)式で表され
る臨界冷却速度以上の速度で冷却することを特徴とす
る、加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方
法。 記 T+112 log t≧ 1054 …………… (1) B≦0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt %)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50 ……… (2) B>0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt %)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20 ……… (3) ただし、T:保持温度(℃) t:保持時間(sec) CR:臨界冷却速度(℃/sec)
【0012】(3) 上記 (1)または (2)において、鋼素材
の成分組成が、C:0.005 〜0.15wtwt%、 Mn:0.3 〜
3.0 wt%を含み、かつMo:0.05〜1.0 wt%、Si:0.05〜
0.5 wt%、Cr:0.05〜1.0 wt%、P:0.02〜0.1 wt%、
B:0.0003〜0.01wt%、Ni:0.05〜1.5 wt%、Cu:0.05
〜1.5 wt%、Nb:0.3 wt%以下、Ti:0.3 wt%以下、お
よびV:0.3 wt%以下から選ばれるいずれか1種または
2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的からなるこ
とを特徴とする、加工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力
鋼板の製造方法。
【0013】なお、上記の熱間圧延後の冷却時に、また
は冷却後に再加熱して行う高温保持は、熱間圧延後の冷
却時と冷却後の再加熱の両方によって行ってもよい。こ
の場合、保持時間tは両保持処理の時間を加算するもの
とする。また、高温保持に際しては、50℃程度の温度変
化は許容するものとし、したがって、徐冷、徐加熱も含
まれる。なお、温度Tは、保持処理における平均温度と
する。
【0014】
【発明の実施の形態】まず、本発明の成分組成を上記範
囲に限定理由したについて説明する。 C:0.005 〜0.15wt% Cは、第2相をマルテンサイト化し、また、そのマルテ
ンサイト相の強度を確保するために必要な元素である。
C量が0.005 wt%未満では、マルテンサイト化しにく
く、複合組織を安定して得ることが困難となる。一方、
0.15wt%を超えるとマルテンサイトへの変態温度が低下
し、マルテンサイト化しにくくなる。このため、C量は
0.005 〜0.15wt%、好ましくは0.02〜0.10wt%とする。
【0015】Mn:0.3 〜3.0 wt Mnは、焼き入れ性を向上させる元素として有効な元素で
あり、安定した複合組織を得るためには、少なくとも0.
3 wt%は必要である。一方、Mn含有量が3.0 wt%を超え
ると、加工性が低下し、また、めっき性が本発明工程に
よっても改善できなくなる。このため、Mn量は、0.3 〜
3.0 wt%、好ましくは 1.0〜2.4 wt%とする。
【0016】本発明の鋼板は、上記組成を基本成分とし
て、残部はFeおよび不可避的不純物とすればよい。以上
の基本成分に加えて、高張力鋼板のさらなる強度、加工
性等の材質改善のために、焼入性改善元素としてMo, S
i, Cr, P, B, Ni, Cuの1種以上を、また、局部延性
改善元素としてTi, Nb, Vの1種以上を、それぞれ添加
してもよい。とくにMoの添加は、強度・加工性・めっき
性の両立の観点から、とくに好ましい。
【0017】Mo:0.05〜1.0 wt% Moは、焼き入れ性を向上させるが、めっき性への悪影響
が少ないので、強度確保の上で極めて有用な元素であ
る。このような効果を発揮させるためには、0.05wt%以
上の添加が必要である。一方、1.0 wt%を超えると、合
金化の遅延を招くほか、コスト上昇にもつながるので、
Mo量は0.05〜1.0 wt%、好ましくは0.10〜0.50wt%の範
囲で添加する。
【0018】Si:0.05〜0.5 wt% Siは、鋼の強化と強度−伸びバランスの向上に有用な元
素である。その効果は0.05wt%以上の添加で得られる
が、0.5 wt%を超えて添加すると、めっき性、とくに濡
れ性を阻害する。このため、Si量は0.05〜0.5 wt%とす
る。
【0019】Cr:0.05〜1.0 wt% Crは、マルテンサイト化を促進するとともに、マルテン
サイトの分布状態を制御し、低降伏比化に有利な元素で
ある。この効果は0.05wt%以上の添加で発現するが、1.
0 wt%を超えて添加すると濡れ性を阻害する。よって、
Cr量は、0.05〜1.0 wt%の範囲で添加する。
【0020】P:0.02〜0.1 wt% Pは、強度向上のほか、伸びやr値の改善に有効な元素
である。これらの効果は0.02wt%以上で得られるが、0.
1 wt%を超えると加工性の低下、靭性の低下をもたらす
ので、0.02〜0.1 wt%の範囲で添加する。
【0021】B:0.0003〜0.01wt% Bは、焼き入れ性を向上するほか、伸びの改善に有効な
元素である。この効果は0.0003wt%以上で得られるが、
0.01wt%%を超えて添加すると析出による加工性の低下
をきたす。よって、Bは0.0003〜0.01wt%の範囲で添加
する。
【0022】Ni:0.05〜1.5 wt% Niは、焼き入れ性の向上に有効であり、めっき性への悪
影響が少ない元素であるが、1.5 wt%を超えて添加する
と伸びなどの加工特性を低下させるので、Ni量は0.05〜
1.5 wt%の範囲とする。
【0023】Cu:0.05〜1.5 wt% Cuは、焼き入れ性を向上させる元素である。この効果を
発揮させるためには、0.005 wt%以上の添加を必要とす
るが、1.5 wt%を超えて添加すると、熱間圧延における
スケール疵の原因になりやすいので、0.05〜1.5 wt%の
範囲で添加する。
【0024】Nb:0.3 wt%以下, Ti:0.3 wt%以下,
V:0.3 wt%以下 Nb, Ti, Vは、微細な炭化物をフェライトに析出させる
ことによりフェライトの強度を上昇させ、伸び, フラン
ジ性などの局部延性を向上させるのに有効な元素であ
る。但し、0.3 wt%超の添加は、析出物が多くなりすぎ
て、伸びの低下を招くので、0.3 wt%以下が適する。な
お、Nb、TiおよびVの3元素は、同等の効果をもち、0.
3 wt%超の添加は伸びの低下を招くので、合計量(Nb+
Ti+V量)で0.3 wt%以下の範囲で添加するのが望まし
い。
【0025】次に、溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造条
件について説明する。上述した成分を有するスラブをそ
のまま、または再可熱を行ったあと、熱間圧延を行う。
熱間圧延は、オーステナイト域で終了させることが好ま
しい。熱間圧延後、そのまま、または一旦冷却後再加熱
して高温保持し、鋼板に内部酸化層を形成させる。な
お、内部酸化層とは、Mn酸化物、Mn−Fe複合酸化物等を
通常主体とする酸化物が集中的に析出している、鋼板表
面直下の帯状の領域を指す。この帯状の領域は通常、鋼
板表面より役3μm程度の深さから役30μm程度の深さ
にかけて形成される。なお、内部酸化層を形成する個々
の酸化物は、主として粒界に析出している。上記の内部
酸化層は、以下の機構により形成されるものと考えられ
る。表面に酸化スケール層を有する鋼板を高温で保持す
ると、酸化スケールと地鉄の界面においては酸素の供給
不足のため一部の酸化スケール層は分解して酸素を発生
する。この酸素の一部は鋼板内部へ移動し、そこで表面
付近に移動してきたMn、Cr等の濃化元素との間に酸化物
を形成する。なお、上記還元反応により地鉄界面も酸化
スケール層側に若干移動すると思われ、その結果、上記
Mn、Cr等の酸化物は地鉄最表面ではなく表面直下に残さ
れるものと考えられる。
【0026】鋼板に内部酸化相を形成させるためには、
T+112 log t≧ 1054 (ただし、T:保持温度
(℃)、t:保持時間(sec))の条件で高温保持する必
要がある。高温保持の具体的方法は、鋼素材を熱間圧延
した後の冷却過程で行っても、あるいは、熱延板を再加
熱して行っても、いずれの段階であってもよいが、保持
温度と時間は上記式を満たしている必要がある。なお、
T+112 log tの上限は、異常粒成長防止のうえから、
1500以下に止めるのが望ましい。
【0027】その後、鋼板表面の酸化スケールを除去す
る。このとき、内部酸化層は残す必要があるが、酸洗等
の通常の工業的除去真空脱ガスであれば、内部酸化層は
鋼板表層部直下に残る。そして酸洗後、めっき前に、連
続溶融亜鉛めっきラインで加熱すると、SiやMnなどの合
金元素は、粒界にそって表面に濃化しようとするが、上
記内部酸化層にトラップされて表面には移動できない。
一方、鋼板表面では、還元雰囲気により、還元されたFe
層が形成され、めっき性に好ましい表面状態になる。
【0028】なお、上記条件で高温保持する理由は、内
部酸化層を形成するため以外に、複合組織を理想的に形
成するためでもある。すなわち、事前の高温保持により
一旦、フェライトと第2相との複合組織となし、めっき
前加熱 (焼鈍) の際に第2相にさらに合金元素を濃化さ
せることにより、フェライトおよび第2相が、より安定
して形成される。加熱冷却後に、最終製品と同じ複合組
織が得られればもちろんよいが、そうでなくとも、少な
くとも合金元素が粒界の3重点付近に濃化するため、最
終製品での安定した複合組織の形成が得られる。
【0029】酸洗処理に続いて、冷間圧延を施して製品
厚みに応じた所定の厚みとし、連続溶融亜鉛めっきライ
ンにて、Ac1変態点〜Ac3変態点の2相域温度に加熱す
る。連続溶融亜鉛めっきラインの還元雰囲気中で加熱
(焼鈍)することによって、前述したように、鋼板表面
にはFe相が形成されるとともに、合金元素がさらに第2
相つまりγ相へと濃化する。そして、この濃化部分は、
その後に所定速度で冷却したとき、マルテンサイト相と
なって複合組織の形成に寄与する。ここでいう合金元素
とは、Mn、Moなどの置換型の合金元素であり、前述した
高温保持やCGLでの加熱(焼鈍)の温度域では、比較
的拡散しにくい元素をいう。これらの合金元素は、かか
る温度域における加熱を繰り返すことによって、より局
所的に濃化する。
【0030】次に、この加熱温度から少なくともめっき
浴温度(通常、 550〜450 ℃)までの温度域を、B含有
量に応じて下記式で表される臨界冷却速度CR(℃/se
c)以上の速度で冷却する。B≦0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16
(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)
−0.32(Pwt%)+3.50 B>0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16
(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)
−0.32(Pwt%)+3.20 上記各式で冷却することによって、合金元素の濃化部は
マルテンサイトに変態し、降伏比が低い複合組織鋼板を
製造できる。なお、上式は、合金元素の含有量により、
冷却過程でのパーライトの晶出曲線が変化するため、パ
ーライトノーズにかからないよう合金元素の量に応じて
冷却速度を制御しなければならないことを意味してい
る。
【0031】上記の冷却はめっき浴温度で終えて、その
まま溶融亜鉛めっきを施してもよい。また、めっき浴温
度未満まで冷却した後、少なくともめっき浴温度まで加
熱して溶融亜鉛めっきを施してもよい。溶融亜鉛めっき
を施した後、めっき温度から (さらに合金化処理を行う
場合には、合金化処理温度(通常、 470℃〜Ac1)か
ら) 300 ℃までの温度域をも、上述した方法と同様にし
て、B含有量に応じて上記で表される臨界冷却速度以上
の速度で冷却する。すなわち、B≦0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16
(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)
−0.32(Pwt%)+3.50 B>0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16
(Siwt%)− 2.0(Crwt%)−0.08(Niwt%+Cuwt%)
−0.32(Pwt%)+3.20 冷却速度が上記速度より小さいと、オーステナイト相が
マルテンサイトになる前にベイナイト変態してしまい、
製品の降伏比が上昇する。
【0032】
【実施例】以下に、実施例に基づき本発明について説明
する。表1に示す組成の鋼スラブを、1150℃に加熱した
のち、仕上げ温度 900〜 850℃で熱問圧延した。この熱
延板を酸洗したあと冷間圧延したものに、連続溶融亜鉛
めっきラインにて、焼鈍、めっきを行い溶融亜鉛めっき
鋼板とした。また、めっき後さらに合金化処理を行った
ものも製造した。これらの工程における、高温保持、め
っき前加熱(焼鈍)、めっき、合金化などの処理条件
を、表2および以下に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】・高温保持 雰囲気:大気中 (コイル) ・めっき前加熱(焼鈍) 雰囲気:5%H2 +N2 ガス(露点−20℃) ・酸化スケールの除去 塩酸酸洗(濃度:5%HCl の水溶液) 温度:60℃ 浸漬時間:6秒 ・めっき めっき浴のAl濃度:0.13wt% 浴温:475 ℃ 板温:475 ℃ 浸漬時間:3秒 目付け量:45g/m2 なお、表2中、No.13 の鋼は、めっき前加熱後 400℃ま
で冷却し、その後 475℃まで加熱しめっきを施した。他
の鋼は、めっき前加熱後 475℃まで冷却し、そのままめ
っきを施した。 ・合金化 処理温度: 470〜550 ℃ 合金化後のFe濃度目標:10wt% (X線を使ったオンライ
ン制御を行った)
【0036】得られた供試鋼板について、引張特性(Y
S,TS,El,YEl,YR)、めっき性(不めっ
き)およびパウダリング性を調査した。 ・めっき性およびパウダリング性の評価方法 不めっき欠陥の判定は、目視により、不めっき欠陥が全
くないものを「1」、もっとも不めっきの多いものを
「5」とする5段階で評価した。耐パウダリング性は90
°曲げ戻しの後、セロテープに付着した亜鉛粉を蛍光X
線にて測定した。蛍光X線は、亜鉛粉の亜鉛の蛍光X線
を計数管で2分カウントした。セロテープにうっすらと
亜鉛粉が付着した状態が2000cps であり、2500cps 以下
であれば自動車などのプレス成形に耐えうるものとな
る。これらの測定結果を合わせて表2に示す。なお、め
っき層中Fe含有量は、硫酸にてめっき層を溶解し、原子
吸光にて測定した。
【0037】表2から、本発明によって製造した溶融亜
鉛めっき高張力鋼板は、いずれも、合金化処理の有無に
かかわらず、めっき性、耐パウダリング性が良好である
とともに、55.0%以下の低降伏比であることがわかる。
【0038】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
表面濃化層の除去、内部酸化層の形成、複合組織の形成
が有効に作用して、優れためっき性と耐パウダリング
性、低降伏比を共に満たした、溶融亜鉛めっき高張力鋼
板を提供することが可能になる。したがって、本発明
は、耐食性と加工性が求められる自動車の車体などの品
質向上や生産性の向上に寄与するところが極めて大き
い。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 古君 修 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 (72)発明者 磯部 誠 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 Fターム(参考) 4K027 AA02 AA23 AB02 AB28 AB42 AC02 AC12 AC18 AC73 AE12 AE18 4K037 EA02 EA04 EA05 EA06 EA11 EA13 EA15 EA16 EA17 EA19 EA20 EA23 EA27 EA31 EA32 EB06 FF02 FF03 FJ05 FK03 GA05

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C:0.005 〜0.15wt%、 Mn:0.3 〜3.0 wt%、 を含有する鋼素材を熱間圧延したのち、熱間圧延後の冷
    却時に、または冷却後に再加熱して、下記 (1)式の条件
    で高温保持し、その後、表面の酸化スケールを除去し、
    次いで冷間圧延し、Ac1変態点〜Ac3変態点の温度範囲
    に加熱し、この加熱温度から少なくともめっき浴温度ま
    での温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)
    式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却して、必要
    に応じて少なくともめっき浴温度まで加熱し、次いで溶
    融亜鉛めっきを施し、引き続き300℃までの温度域を、
    B含有量に応じて下記 (2)式または (3)式で表される臨
    界冷却速度以上の速度で冷却することを特徴とする、加
    工性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法。 記 T+112 log t≧ 1054 …………… (1) B≦0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt %)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50 ……… (2) B>0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt %)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20 ……… (3) ただし、T:保持温度(℃) t:保持時間(sec) CR:臨界冷却速度(℃/sec)
  2. 【請求項2】C:0.005 〜0.15wt%、 Mn:0.3 〜3.0 wt%、 を含有する鋼素材を熱間圧延したのち、熱間圧延後の冷
    却時に、または冷却後に再加熱して、下記 (1)式の条件
    で高温保持し、その後、表面の酸化スケールを除去し、
    次いで冷間圧延し、Ac1変態点〜Ac3変態点の温度範囲
    に加熱し、この加熱温度から少なくともめっき浴温度ま
    での温度域を、B含有量に応じて下記 (2)式または (3)
    式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷却して、必要
    に応じて少なくともめっき浴温度まで加熱し、次いで溶
    融亜鉛めっきを施し、さらに、合金化処理を行い、引き
    続き300 ℃までの温度域を、B含有量に応じて下記 (2)
    式または (3)式で表される臨界冷却速度以上の速度で冷
    却することを特徴とする、加工性に優れた溶融亜鉛めっ
    き高張力鋼板の製造方法。 記 T+112 log t≧ 1054 …………… (1) B≦0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt %)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.50 ……… (2) B>0.0006wt%のとき、 log CR=−3.50(Mowt%)−1.20(Mnwt%)−0.16(Siwt%)− 2.0(Crwt %)−0.08(Niwt%+Cuwt%)−0.32(Pwt%)+3.20 ……… (3) ただし、T:保持温度(℃) t:保持時間(sec) CR:臨界冷却速度(℃/sec)
  3. 【請求項3】請求項1または請求項2において、鋼素材
    の成分組成が、 C:0.005 〜0.15wt%、 Mn:0.3 〜3.0 wt% を含み、かつ Mo:0.05〜1.0 wt%、 Si:0.05〜0.5 wt%、 Cr:0.05〜1.0 wt%、 P:0.02〜0.1 wt%、 B:0.0003〜0.01wt%、 Ni:0.05〜1.5 wt%、 Cu:0.05〜1.5 wt%、 Nb:0.3 wt%以下、 Ti:0.3 wt%以下、および V:0.3 wt%以下 から選ばれるいずれか1種または2種以上を含有し、残
    部はFeおよび不可避的からなることを特徴とする、加工
    性に優れた溶融亜鉛めっき高張力鋼板の製造方法。
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