JP2000097262A - ディスクブレーキ用アルミニウム製一体型キャリパボディ及びその製造方法 - Google Patents

ディスクブレーキ用アルミニウム製一体型キャリパボディ及びその製造方法

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JP2000097262A
JP2000097262A JP10269425A JP26942598A JP2000097262A JP 2000097262 A JP2000097262 A JP 2000097262A JP 10269425 A JP10269425 A JP 10269425A JP 26942598 A JP26942598 A JP 26942598A JP 2000097262 A JP2000097262 A JP 2000097262A
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宜伸 清水
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康彦 濱野
Kaoru Sugita
薫 杉田
Akio Hashimoto
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    • F16ENGINEERING ELEMENTS AND UNITS; GENERAL MEASURES FOR PRODUCING AND MAINTAINING EFFECTIVE FUNCTIONING OF MACHINES OR INSTALLATIONS; THERMAL INSULATION IN GENERAL
    • F16DCOUPLINGS FOR TRANSMITTING ROTATION; CLUTCHES; BRAKES
    • F16D55/00Brakes with substantially-radial braking surfaces pressed together in axial direction, e.g. disc brakes
    • F16D2055/0004Parts or details of disc brakes
    • F16D2055/0016Brake calipers

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Abstract

(57)【要約】 【目的】 疲労クラックの発生原因である介在物を減少
し、共晶Siを形体制御することにより、一体型のアル
ミニウム製ブレーキディスク用キャリパボディを得る。 【構成】 この一体型キャリパボディは、アルミニウム
製パイプを鋳ぐるんだ鋳物であり、鋳ぐるみ材にはSb
で微細化処理し、鋳造組織の共晶Siの平均長さが10
μm以下,デンドライトアームスペーシングが50μm
以下,介在物の平均個数がK10値で0.01個/cm2
以下のアルミニウム合金が使用される。脱ガス,脱滓,
微細化処理したアルミニウム合金溶湯を保持炉で700
〜760℃に保持し、1回の鋳造に必要な量の溶湯を湯
溜りに移湯し、湯溜りでの溶湯温度を640〜700℃
に調整した後、被鋳ぐるみ材のアルミニウム製パイプが
セットされた金型に溶湯を注湯することにより製造され
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ロータの両側面に対向
してピストンを配設した対向ピストン型ディスクブレー
キのキャリパボディ及びその製造方法に関する。
【0002】対向ピストン型ディスクブレーキは、車軸
に固定されているロータに対して一対又は複数対のピス
トンを両側から対向させた構造をもっている。具体的に
は、ピストン使用状態を平断面図で示す図1にみられる
ように、ロータ1のヘッドをキャリパボディ2の中心近
傍にある空間部に臨ませ、ピストン3の先端に取り付け
られているブレーキパッド4をロータ1の両側面に対向
させている。パイプ5から送られる油圧でピストン3を
ロータ1側に押し出すと、ブレーキパッド4がロータ1
の両側面に押し付けられる。ブレーキパッド4の押圧力
は、車軸に対する制動力として働き、車軸の回転速度を
低下させる。ピストン3を支持するキャリパボディ2に
は、鋳鉄鋳物が従来から使用されている。油圧送給用の
パイプ5は、鋳鉄鋳物の中に配置されることから、鋼製
パイプを鋳鉄に鋳包むことによってキャリパボディ2内
に組み込んでいた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】鋳鉄製のキャリパボデ
ィでは、重量が嵩み、車両搭載用機器に強く要求されて
いる軽量化を図ることができない。鋳鉄製に替えてアル
ミニウム製のキャリパボディが使用されると、大幅な軽
量化が可能になる。しかし、キャリパボディの構造及び
機能面から、鋳鉄製をアルミニウム製に単に置き換える
ことはできない。すなわち、シリンダ6にパイプ5から
油を送り込み、ピストン3に油圧を加えることにより車
軸にブレーキがかかるが、このときキャリパボディ2の
ブリッジ部7が開く方向の反力が発生する。
【0004】アルミニウム製のキャリパボディ2では、
この反力によってブリッジ部7が金属疲労してクラック
が発生する虞れがあり、安全上の問題が未解決である。
ブリッジ部7の金属疲労を回避するため、ブリッジ部7
をA−A線で2分割してアウタキャリパ及びインナキャ
リパを製造し、両者をボルトで締め付けることによりキ
ャリパボディを組み立てることが知られている(特開平
9−177843号公報)。しかし、分割型キャリパボ
ディでは、製造工数が増加し、結果的にコストが高くな
る。また、アウタキャリパとインナキャリパとの正確な
位置合せも必要となり、アウタキャリパ,インナキャリ
パの鋳造自体にも厳格な管理が要求される。更には、デ
ィスクブレーキ作動中にアウタキャリパとインナキャリ
パとを締結するボルトに応力が集中し、ボルトが破損す
る虞れがある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、このような問
題を解消すべく案出されたものであり、キャリパボディ
に使用されるアルミニウム合金及び鋳造法を改良するこ
とにより、ブリッジ部に発生しがちな疲労クラックを抑
制し、製造及び組立てが容易な一体型のキャリパボディ
を提供することを目的とする。本発明のアルミニウム製
一体型キャリパボディは、その目的を達成するため、ブ
レーキパッドを介してロータに押し付けられるピストン
に油圧を送給するアルミニウム製パイプがキャリパボデ
ィに鋳ぐるまれており、キャリパボディを構成するアル
ミニウム合金がSi:5〜11重量%,Mg:0.25
〜0.7重量%,Sb:0.08〜0.20重量%を含
み、残部が実質的にAlの組成をもち、不純物として含
まれる元素がP:0.002重量%以下,Ca:0.0
02重量%以下,Na:0.001重量%以下,Sr:
0.001重量%以下,Fe:0.3重量%以下,その
他の不純物元素:合計0.5重量%以下に規制され、鋳
造組織の共晶Siの平均長さが10μm以下,デンドラ
イトアームスペーシングが50μm以下,介在物の平均
個数がK10値で0.01個/cm2 以下であることを特
徴とする。使用するアルミニウム合金は、更にTi:
0.05〜0.3重量%及び/又はB:0.0001〜
0.01重量%を含むことができる。
【0006】このキャリパボディは、脱ガス,脱滓,微
細化処理したアルミニウム合金溶湯を保持炉で700〜
760℃に保持し、1回の鋳造に必要な量の溶湯を湯溜
りに移湯し、湯溜りでの溶湯温度を640〜700℃に
調整した後、被鋳ぐるみ材のアルミニウム製パイプがセ
ットされた金型に溶湯を注湯することにより製造され
る。鋳造に際しては、1回の鋳造に必要な量の溶湯を保
持炉から汲み出し、金型の湯溜りに連結されている冷却
樋に移湯し、冷却樋を経て湯溜りに溶湯を供給する。冷
却樋としては、湯溜りに流出する溶湯の流量を調整する
堰を備え、放熱構造をもつ冷却樋が使用される。他方、
湯溜りは、収容している溶湯の降温を抑えて均一な温度
分布にするため、断熱材がライニングされている。
【0007】金型に注入される溶湯の流量は、湯溜りか
ら送り込まれる溶湯がアルミニウム製パイプに直接接触
することを防止するため、湯溜りから金型のキャビティ
に送り込まれた溶湯の湯面が上昇してアルミニウム製パ
イプを覆った後で、生産性を向上させるため残りの溶湯
をキャビティに急速に供給するように調整される。具体
的には、キャビティ内を上昇する溶湯の湯面がアルミニ
ウム製パイプを覆うまでは、湯溜りから送り込まれる溶
湯がアルミニウム製パイプに直接接触しないように、湯
溜りが一体化された金型又は回転可能な湯溜りを徐々に
回転させながら金型からキャビティに溶湯を送り込む傾
斜鋳造法が採用される。キャビティを溶湯で充填した後
で、湯口を上方に位置させて押し湯効果を働かせると
き、鋳巣等の欠陥が防止される。溶湯注入中には、必要
に応じてアルミニウム製パイプの一端を真空系に接続
し、他端から外気を吸引する。これによって、アルミニ
ウム製パイプが冷却され、溶損が防止される。鋳造後に
520〜545℃×1〜15時間の溶体化処理,水焼入
れ,150〜170℃×2〜10時間の時効処理を施す
とき、キャリパボディとして必要な機械的特性が付与さ
れる。
【0008】
【作用】本発明者等は、ブリッジ部7にみられる疲労ク
ラックの発生原因を調査し、疲労クラックの発生に及ぼ
す合金組成,鋳造方法等の影響を検討した。その結果、
疲労クラックは、キャリパボディのアルミニウム合金に
含まれる酸化物等の介在物や粗大な金属間化合物を起点
として発生することを見出した。そこで、介在物や粗大
な金属間化合物を抑制する合金設計及び鋳造方法を解明
した。本発明に従ったキャリパボディに使用されるアル
ミニウム合金は、次のように合金設計されている。
【0009】Si:5〜11重量% 金型に注湯された溶湯の湯流れを改善し、熱処理時にM
2 Siを析出させて合金の機械強度を向上させる。ま
た、5〜11重量%にSi含有量を調整することによ
り、被鋳ぐるみ材であるアルミニウム製パイプよりも融
点を下げ、金型に注湯された溶湯によってアルミニウム
製パイプが溶損することを抑制する。Si含有量5〜1
1重量%の範囲は亜共晶組成であり、機械加工時の切削
性を向上させる上でも有利である。Si含有量が11重
量%を超える過共晶領域では、凝固時に発生した初晶S
iが応力によってクラック発生源となり、疲労強度を低
下させる。また、過共晶領域ではα−Al晶がほとんど
ないため材料の伸びが非常に小さくなり、疲労クラック
が発生したときクラックの伝播速度が速く疲労強度が低
下する。他方、5重量%未満のSi含有量では湯流れが
悪くなり、鋳造欠陥の発生,切削性及び強度等が低下す
る傾向がみられる。また、Si含有量の低下に伴って融
点が上昇すると、被鋳包み材であるアルミニウム製パイ
プを溶損する虞れが生じる。
【0010】Mg:0.25〜0.7重量% 熱処理によってMg2 Siを形成し、合金の機械強度を
向上させる。しかし、0.7重量%を超える多量のMg
が含まれると、Mg系酸化物が多くなる。Mg系酸化物
が製品に混入すると、クラック発生源となって疲労強度
を低下させる。また、伸びを低下させて疲労強度を低下
させる原因にもなる。逆に、0.25重量%未満のMg
含有量では、Mg2 Siが十分析出せず、必要強度が得
られない。Sb:0.08〜0.20重量% 共晶Siを細長い形状に微細化し、伸び及び疲労強度を
増大させると共に、共晶Siによる耐摩耗性を確保す
る。Sbは、溶製時,保持時等の高温状態においても溶
湯中で酸化されがたい。そのため、Sbの酸化物がクラ
ック発生源となって製品中に混入されることがなく、疲
労強度が高くなる。しかも、溶体化処理時、Sbで微細
化された共晶Siは塊状Siに成長することなく、細長
い共晶Siの角部が丸くなる。これによっても伸びの改
善が図られる。このような作用は、0.08〜0.20
重量%の範囲で顕著になる。共晶Siの微細化は、0.
20重量%を超える量でSbを添加しても増量に見合っ
た効果がみられない。逆に、0.08重量%未満のSb
含有量では、共晶Siが十分に微細化されない。
【0011】Ti:0.05〜0.3重量%及び/又は
B:0.0001〜0.01重量% α−Al晶の鋳造結晶粒を微細化し、デンドライトを小
さく、方向性の無いデンドライト組織に改良することに
より、材料の伸び及び疲労強度の異方性をなくし、伸び
及び疲労強度の値を向上させる作用を呈する。しかし、
0.3重量%を超えるTi量や0.01重量%を超える
B量では,クラックの発生源となる粗大なTiB2 ,T
iAl3 等が発生し、疲労強度を低下させる原因とな
る。逆に、0.05重量%未満のTi量又は0.000
1重量%未満のB量では、微細化効果が小さくなる。鋳
造結晶粒はTi又はBの単独添加でも微細化されるが、
Ti及びBの併用添加によってより微細化効果が顕著に
なる。P:0.002重量%以下 初晶Siの微細化剤として使用される元素であるが、A
l−P系化合物がSiの結晶核として働くことから、共
晶Siの粗大化や初晶Siの晶出の原因となる。粗大な
共晶Siや初晶Siは、クラック発生源となり、疲労強
度を低下させる。また、共晶Siが粗大化すると、伸び
を低下させる。このようなことから、P含有量は少ない
ほど好ましいが、合金配合時に不純物として混入するこ
とが避けられない。そこで、本発明においてはP含有量
の上限を0.002重量%に設定した。
【0012】Ca:0.002重量%以下,Na:0.
001重量%以下,Sr:0.001重量%以下 何れも共晶Siの微細化剤として知られている元素であ
るが、溶湯中で酸化されやすい。生成したCa系,Na
系,Sr系酸化物は、製品中に取り込まれると疲労クラ
ック発生源となり、更には共晶Siを微細化するSbの
働きを抑える方向に作用する。したがって、Ca,N
a,Sr含有量は少ないほど好ましいが、合金配合時に
不純物として混入することが避けられない。そこで、本
発明においては、上限をそれぞれ0.002重量%,
0.001重量%,0.001重量%に設定した。
【0013】Fe:0.3重量%以下 クラック発生源となるAl−Fe−Si系化合物を作る
元素であることから、少ないほど好ましい。しかし、F
e含有量を極端に下げることは、合金配合時に使用され
る原料が制約され、結果として合金コストを上げること
になる。そこで、本発明においては、Fe含有量の上限
を0.3重量%に設定した。その他の不純物元素:合計0.5重量%以下 本発明で使用されるアルミニウム合金は、疲労クラック
発生源となる酸化物の巻込み及び金属間化合物の晶出を
防止する合金設計を採用している。そのため、他の不純
物元素も極力少なくすることが必要である。このような
観点から、本発明においては他の不純物元素の合計量を
0.5重量%以下に規制した。
【0014】共晶Siの平均長さ:10μm以下 共晶Siが小さいほど、合金材料に伸びを与え疲労強度
を向上させる上で有効である。共晶Siのサイズは、S
bの添加量によって調整される。共晶Siが平均長さで
10μmを超えるようになると、疲労クラックの発生源
になり易い。また、ピストンが摺擦するシリンダ部では
耐摩耗性が要求されるため、過度に微細な共晶Siは好
ましくない。デンドライトアームスペーシング(DAS):50μm
以下 α−Al晶のDASが小さいほど、合金材料に伸びが出
て疲労強度を向上させる。そこで、本発明においては,
DASの上限値を50μmとした。DASが50μmを
超えると、デンドライトとデンドライトの境界や結晶粒
界に粗大金属間化合物が発生及び凝集し、疲労クラック
の発生源になり易くなる。DASを小さくするためには
金型に注湯された溶湯を急冷する必要があるが、本発明
に従った鋳造法では、金型内部の必要個所に冷却機構を
セットし、冷却機構に供給する冷却水で金型を冷却する
ことも可能である。
【0015】介在物の平均個数:K10値で0.01個/
cm2 以下 肉眼や10倍ルーペ等で観察される長さ0.1mm以上
の粗大介在物は、疲労クラックの発生源となる。この種
の粗大介在物は、Al,Na,Ca,Sr,Mg等の酸
化物や酸化皮膜,Al−Si−Fe系,Al−Ti系,
Ti−B系,Mg−Sb系等の晶出金属間化合物や炉
材,工具等から混入する異物等に由来する。粗大介在物
を観察視野において0.01個/cm2 以下に抑えるこ
とが重要であり、これによって初めてキャリパボディ2
のブリッジ部7に疲労クラックの発生がなくなり、疲労
強度及び安全性に優れた一体型のキャリパボディが得ら
れる。介在物の平均個数は、鋳造された合金材料の破断
面を10倍ルーペで観察し、カウントされた個数を単位
面積当りに換算したK10値で表示される。平均個数の測
定に際しては、左右の2破断面を一片とし、5〜6片を
1試料として評価される。本発明では、更にその面積2
5cm2 で1試料のデータとし、7試料のデータの平均
値として介在物の平均個数を算出した。このように求め
られたK10値が0.01個/cm2 以下であると、優れ
た伸び特性及び疲労強度が合金材料に付与される。他
方、K10値が0.01個/cm2 を超える場合、必要と
する疲労強度が得られない。
【0016】0.01個/cm2 以下のK10値は、次の
ような方法で達成できる。合金配合時に混入してくるN
a,Ca,Sr等を配合原料の選択によって極力抑える
と共に、酸化後に溶湯を高温処理することにより、混入
してきたNa,Ca,Sr等を炉滓として溶湯から浮上
分離する。浮上したスラグを溶湯から除去すると、N
a,Ca,Sr等の極めて少ないアルミニウム合金溶湯
となる。Mg,Al等も酸化皮膜となって溶湯表面に浮
遊するが、これら酸化皮膜は、除滓時に溶湯から分離さ
れる。溶湯を保持炉から湯溜りに移湯する際には、酸化
物や酸化物皮膜が溶湯に巻込まれないような方法を採用
する。更に、製造条件を調整することによって、Fe,
Ti,他の元素が粗大晶出物に成長することを防止す
る。炉材や工具に由来する介在物は、溶湯を高温で保持
することによって溶湯から分離される。
【0017】高温保持:保持炉で700〜760℃に保
所定組成となるように配合された原料は、溶解,脱ガ
ス,微細化処理,脱滓等の工程を経てアルミニウム合金
溶湯に調製される。溶製された溶湯は、保持炉で700
〜760℃に保持され、安定した高品質溶湯が得られ
る。保持炉としては、500〜1000kg程度の小さ
な手元炉が好ましい。高温保持処理によって、溶製段階
で発生した酸化物等の介在物や炉材,工具由来の異物が
溶湯から分離され、炉滓として溶湯表面に浮上する。し
たがって、炉滓を除去するとき、酸化物等の炉滓が製品
中に持ち込まれることが防止され、疲労クラックの発生
源となる介在物を可能な限り少なくした合金溶湯が得ら
れる。
【0018】保持温度は、このようなことから700〜
760℃の温度範囲に設定される。なかでも、Ca,N
a,Sr等は高温保持処理時に酸化されて炉滓に移行す
るため、保持処理後に合金溶湯のCa,Na,Sr量が
大幅に少なくなる。他方、Sbは酸化されることなく溶
湯中に溶解しているので、共晶Siの微細化に有効な量
のSbが保持処理によって減少することはない。760
℃を超える保持温度では、熱エネルギの消費量が大きく
なりすぎ、逆に700℃に達しない保持温度では、溶湯
の粘性が高くなって介在物の浮上分離が不充分になる。
また、700℃未満の温度で溶湯を長時間保持すると、
Mg−Sb系の板状化合物が成長する虞れがある。Ti
も同様な温度条件下でTiAl3 となって晶出する。M
g−Sb系板状化合物やTiAl3 晶出物は、製品に混
入されると疲労クラックの発生源となる。この点でも、
溶湯保持温度を700〜760℃の範囲に設定すること
が重要である。
【0019】保持炉から湯溜りに溶湯を移湯する段階で
も、1回の鋳造に必要な溶湯量をレードルで汲み取ると
き酸化物が溶湯に混入する虞れがある。そこで、汲取り
に当たっては酸化物の巻込みがないように注意を払う必
要がある。鋳造 以上のように用意されたアルミニウム合金溶湯は、重力
鋳造,低圧鋳造等によって鋳造される。金型には予め油
圧供給用のアルミニウム製パイプがセットされている
が、中子や金型の内部を水冷することにより鋳造組織の
DASを小さくできる。金型に注入される溶湯は、金型
内にセットされているアルミニウム製パイプの溶損を防
止するため、金型内での溶湯温度が585〜640℃と
なるように温度調整することが好ましい。そこで、保持
炉に収容されている温度700〜760℃の溶湯を如何
に降温させて鋳造するかが重要な問題になる。本発明で
は、保持温度700〜760℃から注湯温度585〜6
40℃への降温を工業的に実施するため、以下に示す方
法を採用する。
【0020】(方法1)金型10の湯口11の近傍に、
1回の鋳込み量の溶湯Mを収容できる湯溜り12を金型
10と一体的に設ける。湯溜り12に収容されている溶
湯Mの温度を640〜680℃に管理すると、金型10
に注入された溶湯Mは金型10により冷却され溶湯温度
585〜640℃に降温する。保持炉(図示せず)から
レードル13で汲み出される溶湯Mは、700〜760
℃の温度であり、この溶湯Mを湯溜り12に直接移湯
し、湯溜り12で640〜680℃まで降温するまで溶
湯Mを保持することも可能である。しかし、湯溜り12
に収容される溶湯Mは、1回の鋳込み量の溶湯であり、
鋳込み回数ごとに降温を待つことは生産的でない。した
がって、保持炉から冷却樋14に溶湯Mを移湯すること
が好ましい。冷却樋14は、移湯された溶湯Mを降温さ
せる放熱構造をもっている。具体的には、厚さ1〜20
mmの鋼製で、内側に離型剤が薄くコーティングされて
いる。
【0021】冷却樋14の出側に堰15が設けられ、堰
15の下方が流出口16になっている。堰15は、保持
炉からレードル13を経て湯溜り12に運ばれた炉滓
や、冷却樋14に収容されている間で溶湯Mの表面に生
成した酸化皮膜が湯溜り12に流れ込むことを防止す
る。冷却樋14は、更に流出口16から溶湯Mが流出す
る量を調整し、冷却樋14にある溶湯Mの滞留時間,ひ
いては溶湯Mの降温や温度調節にも有効である。なお、
より積極的に流量調整するためには、冷却樋14に対し
て堰15を昇降可能に設け、流出口16の流路断面積を
可変にすることが好ましい。溶湯Mは、堰15をもぐっ
て流出口16から供給樋17に沿って湯溜り12に送り
込まれる。700〜760℃で冷却樋14に移湯された
溶湯Mは、冷却樋14,供給樋17を経て湯溜り12に
流入した段階で640〜700℃に降温する。レードル
13から冷却樋14を経て湯溜り12に溶湯Mが移動す
る時間は十数秒程度であり、短時間のうちに溶湯Mが注
湯に有効な640〜700℃まで降温するため、鋳込み
作業は高生産性で実施される。また、長時間をかけて降
温しないため、溶湯からSb−Mg系化合物が晶出する
こともない。
【0022】湯溜り12は、たとえば厚さ1〜5cmの
断熱材18をライニングした保温構造をもち、断熱材1
8の表面に離型剤がコーティングされている。そのた
め、湯溜り12から金型10に溶湯Mを注入する際、溶
湯Mの温度が過度に下がることがなく、金型10内での
湯流れが保証される。湯溜り12に収容された溶湯M
は、湯溜り12の保温構造によって温度分布が均一化さ
れ、安定条件下で金型10に注入・鋳造される。湯溜り
12内にある溶湯Mの温度が640〜700℃の範囲に
あることを確認した後、湯溜り12から金型10に溶湯
Mが注入される。なお、金型10には中子20及びアル
ミニウム製パイプ21が予めセットされており、湯口1
1が水平方向を向くように金型10が配置されている。
【0023】金型10に溶湯Mを注入するに当たって
は、図3に示すようにグランドレベルGL上にある金型
10の端部コーナを回転中心Oとして金型10を徐々に
回転させる。金型10の回転に伴って、金型10と一体
化されている湯溜り12が傾動し、溶湯Mが湯溜り12
から湯口11を経て金型10内のキャビティ19にゆっ
くりと流し込まれる。キャビティ19に向かう溶湯Mの
流れがアルミニウム製パイプ21に直接接触すると、ア
ルミニウム製パイプ21を溶損する虞れがある。そこ
で、溶湯Mが金型10の内壁に沿ってキャビティ19に
流入するように金型10の回転速度を調整すると、溶湯
Mとアルミニウム製パイプ21との直接接触が防止さ
れ、アルミニウム製パイプ21が溶損から保護される。
湯溜り12から湯口11に至る底面や湯口11の傾斜面
を工夫することによっても、溶湯Mとアルミニウム製パ
イプ21との直接接触が防止される。
【0024】流入した溶湯Mは、キャビティ19の底の
方から溜まり、徐々に湯面Sを上昇させる。そして、金
型10や中子20で冷却された溶湯Mが徐々にアルミニ
ウム製パイプ21を鋳包んでいく。なお、疲労クラック
の発生原因ともなる鋳巣を防止するため溶湯Mの冷却が
促進されるように、必要個所を冷却水で冷却する水冷機
構を備えた金型10,中子20を使用し、溶湯Mを冷却
しながら注入することが好ましい。また、鋳込みの最中
に、アルミニウム製パイプ21の一端を真空系に接続
し、他端から外気を吸引することによってアルミニウム
製パイプ21を冷却すると、アルミニウム製パイプ21
の溶損が確実に防止される。真空吸引による冷却は、鋳
込み作業の安全性を確保する上でも有効である。仮に、
アルミニウム製パイプ21が溶損してパイプの内部空間
が溶湯Mに接触するような事態が生じても、真空吸引で
アルミニウム製パイプ21内に送り込まれた溶湯Mがそ
のまま凝固してパイプを閉塞させるため、作業の安全性
が図られる。これに対し、加圧空気や冷却水をアルミニ
ウム製パイプ21に送り込んで冷却する方式では、アル
ミニウム製パイプ21の溶損時に加圧空気や水が溶湯M
中に吹き出し危険である。
【0025】金型10を更に回転させ、傾斜角がθ1
θ2 になった段階(図4)では、湯面Sがアルミニウム
製パイプ21を完全に覆った状態になる。この状態で
は、湯溜り12からキャビティ19に流入する溶湯Mが
アルミニウム製パイプ21に直接当たることがない。そ
こで、生産性を上げるため、金型10の回転速度を上昇
させ、直立状態(図5)まで一挙に回転させる。直立状
態では湯口11が垂直上方に向いており、キャビティ1
9に注入された溶湯Mが押し湯Hで加圧され鋳巣の発生
が抑制される。
【0026】(方法2)湯溜り12を一体化した金型1
0の回転に代え、金型10から分離された湯溜り12を
回転させることによっても、湯溜り12から流入する溶
湯Mがアルミニウム製パイプ21に直接接触することを
防止できる。たとえば、図6に示すように金型10を所
定の傾斜角度θ3 をもって金型を斜めに配置し、回転可
能な湯溜り12を金型10から斜め上方に延びた湯口1
1に臨ませる。湯口11は、キャビティ19に流入する
溶湯Mがアルミニウム製パイプ21に直接接触しないよ
うに、流れ込んだ溶湯Mがキャビティ19の底部から溜
まる位置関係で設けられている。溶湯Mの注入初期段階
では、キャビティ19内に溶湯Mが徐々に溜まるように
湯溜り12の回転速度を遅くする。そして、注入された
溶湯Mがアルミニウム製パイプ21を完全に覆った段階
で、湯溜り12の回転速度を上げ、残りの溶湯Mを一挙
にキャビティ19に注入する。1回分の量の溶湯Mが注
入された後、金型10を回転させ押し湯効果を働かせ
る。或いは、図6に示すように十分なヘッドで湯口11
を設けた場合、金型10を回転させなくても、湯口11
に溜まっている溶湯Mが押し湯Hとなってキャビティ1
9内の溶湯を加圧する。
【0027】アルミニウム製パイプ 金型10に予めセットされるアルミニウム製パイプ21
は、中子20で保持されてキャビティ19内の所定位置
に確保される。アルミニウム製パイプ21は、溶湯Mで
鋳ぐまれ、内部が油圧供給路となる。中実の鋳物を直接
機械加工して孔を開けてキャリパボディを製造する方法
もあるが、鋳造後の機械加工では製造コストが嵩む。こ
の点、本発明においては、キャリパボディを構成するア
ルミニウム鋳物合金でアルミニウム製パイプ21を鋳ぐ
るんでいるので、鋳造後の機械加工が省略でき、製造コ
ストが低減される。アルミニウム製パイプ21は、通常
の仕様では外径5〜7mm、内径2〜4mmであり、複
雑な立体形状に成形されることから加工しやすく且つ加
工後のスプリングバックが少ない材質であることが一般
に要求される。そのため、1000系,3000系,6
000系等(具体的には,A1050,A3003,A
6063)のアルミニウム合金が使用される。
【0028】アルミニウム製パイプ21を金型10にセ
ットして溶湯Mをキャビティ19に注入するため、溶湯
Mの熱でアルミニウム製パイプ21が溶損しないことが
要求される。3000系,6000系等のアルミニウム
合金の融点が640〜660℃であるので、溶湯Mとし
ては融点630℃以下の鋳物用合金が使用される。鋳物
用合金の融点は、Si含有量によって調整できる。好ま
しくは615℃近傍の融点をもつ鋳物用合金を使用し、
金型10内にある溶湯Mの温度が585〜645℃とな
るように鋳造条件を選定する。また、アルミニウム製パ
イプ21の溶損を防止するため、陽極酸化皮膜,離型剤
等の断熱材でアルミニウム製パイプ21を被覆しておく
ことも好ましい。
【0029】熱処理 鋳造されたキャリパボディ(以下、素形材という)に
は、アルミニウム製パイプ21が鋳ぐまれている。素形
材は、押し湯H等を切断分離した後で溶体化処理され
る。溶体化処理によって、Si,Mg等の合金成分がマ
トリックスに固溶し、晶出した共晶Siの角部が丸くな
り伸びが向上する。共晶Siの平均長さは、鋳造時に比
較して短くなる。溶体化処理後、Mg2 Si等の析出に
よって強度を向上させる時効処理が施される。素形材に
施される熱処理としては、溶体化処理(520〜545
℃×1〜15時間)→水焼入れ→人工時効(150〜1
70℃×2〜10時間)→空冷のT6処理が好ましい。
溶体化処理温度が520℃未満では、Si,Mg等の固
溶が十分に進行しない。逆に545℃を超える溶体化処
理温度では、昇温に見合った効果が得られず経済的でな
いばかりでなく、一部に溶解が発生しやすくなる。溶体
化処理された素形材は、均一な焼入れ性を得るため、5
0〜80℃程度に保持した水中に焼入れされる。次い
で、150〜170℃の加熱によりMg2 Siが析出
し、強度及び伸びが確保される。150℃を下回る時効
処理温度ではMg2 Siの析出が不充分であり、170
℃を超える時効処理温度では析出粒子が大きくなり却っ
て強度が低下しやすい。
【0030】熱処理された素形材は、機械加工され、必
要に応じて硬質アルマイト処理が施される。硬質アルマ
イト処理では、耐摩耗性の改善に有効な膜厚30〜40
μm程度の陽極酸化皮膜をシリンダ面に形成する。この
ようにして得られたキャリパボディは、他の部品と組み
合わされてディスクブレーキに組み立てられる。このキ
ャリパボディには、疲労クラックの発生源となる介在物
がなく、結晶粒径も適正に調整されているので、ピスト
ン3の反力が繰返し加わる条件下でも、ブリッジ部7に
クラックが発生することがない。しかも、一体型である
ことから、分割型キャリパボディに比較して鋼製締付け
ボルト,ナット等が不要になり、その分だけ軽量化され
た製品となる。また、機械加工の工数が減るため、安価
に提供できる。
【0031】
【実施例】組成を調整した700kgのアルミニウム合
金溶湯に脱ガス,微細化処理,脱滓等の通常の溶湯処理
を施し、保持炉で742℃に40分間保持した。本発明
に従った合金1ではSbを用いて微細化処理し、比較合
金2ではNaF+NaClの混合フラックスを用いたN
a処理で微細化した。用意された各合金の組成(重量
%)は、次の通りである。 本発明合金1: Si:7.00%, Mg:0.48%, Sb:0.13%, Ti:0.16%, B:0.001%, P:0.0007%, Ca:0.001%, Na:0.0001%,Sr:0.0000%, Fe:0.11%, Cu:0.01%, Mn:0.00%, Cr:0.00%, Zn:0.01%, Sn:0.00%, Ni:0.00%, Pb:0.00% 比較合金2: Si:7.10%, Mg:0.49%, Sb:0.00% Ti:0.16%, B:0.001%, P:0.0008%, Ca:0.001%, Na:0.006%, Sr:0.0000%, Fe:0.11%, Cu:0.01%, Mn:0.00%, Cr:0.00%, Zn:0.01%, Sn:0.00%, Ni:0.00%, Pb:0.00%
【0032】鋳造装置としては、図2に示す設備構成を
もつ装置を使用し、外径6mm,内径4mmのA300
3アルミニウム合金パイプ21を金型10に予めセット
した。本発明合金1及び比較合金2のそれぞれ10kg
をレードルに汲み取り、冷却樋14に移湯した。冷却樋
14で冷却された溶湯Mは、堰15を潜り抜け、湯溜り
12に溜められた。湯溜り12内で溶湯Mの温度が67
5℃になった時点で金型10を回転させ、アルミニウム
製パイプ21に溶湯Mが直接当たらないようにキャビテ
ィ19に溶湯Mを注入した。金型10に注入された溶湯
Mの湯面Sは、キャビティ19の底から徐々に上昇し、
アルミニウム製パイプ21を完全に覆った。具体的に
は、約2度/秒の回転速度で金型10を回転させ、回転
開始から25秒経過して傾斜角が50度になったとき、
アルミニウム製パイプ21の全体が湯面Sの下に潜っ
た。そこで、金型10の回転速度を8度/秒に速めて金
型10を直立(図5)させ、金型10内の溶湯Mを押し
湯Hで加圧した。金型10の回転開始から30秒経過し
た時点で鋳造が完了した。
【0033】次いで、金型10の冷却を継続し、鋳造開
始から145秒経過した時点で金型10から製品を取り
出した。鋳造に際し金型10の内部に温度計T(図3)
を組み込み、注入開始から鋳造完了までの期間における
溶湯Mの温度変化を調査した。また、冷却樋14,湯溜
り12にある溶湯Mについても、同様に温度測定した。
図7の調査結果にみられるように、保持炉から移湯され
た溶湯Mは、冷却樋14で効率よく冷却され、比較的短
時間のうちに鋳込みに最適な温度640〜700℃に降
温していることが判る。
【0034】本実施例においては、アルミニウム製パイ
プ21は、真空吸引方式で冷却されることなく、キャビ
ティ19に注入された溶湯Mに鋳ぐまれた。アルミニウ
ム製パイプ21に及ぼす溶湯Mの熱影響を調査するた
め、アルミニウム製パイプ21の近傍1mmの位置に温
度計Tを設置し、アルミニウム製パイプ21の近傍にあ
る溶湯Mの温度を検出した。温度計Tで指示された溶湯
Mの温度は最高でも620℃に過ぎず、アルミニウム製
パイプ21に使用されたA3003アルミニウム合金の
融点約655℃より十分に低い温度であった。そのた
め、鋳造後に得られた素形体を切断し鋳ぐるまれたアル
ミニウム製パイプ21を調査してみても、溶損に起因す
るダメージが何ら検出されず、油圧回路として十分使用
できることが判った。
【0035】以上の鋳造を、本発明合金1及び比較合金
2を使用して7回繰り返した。得られた各素形材の中心
部から試験片を切り出し、ミクロ組織,機械的性質及び
介在物分布を調査した。ミクロ組織観察では、DASを
測定すると共に、観察結果を画像処理して共晶Siの平
均長さを求めた。介在物分布の調査では、素形体から切
り出した高さ0.5cm,長さ5cmの長尺厚板にノッ
チを入れて破断し、肉眼及び10倍ルーペで1試料につ
き0.5cm×5cmの10破断面(2面)を観察して
介在物の個数をカウントし、カウント数からK10値を算
出した。介在物は大半が酸化物系であり、0.1〜3m
m程度の介在物が黒味がかった色調を呈していた。
【0036】表1の調査結果にみられるように、本発明
合金1における共晶Siは、10μm以下の平均長さで
あるが、比較合金2に比較して大きな値になっている。
共晶Siの平均長さの相違は、本発明合金1がSbで微
細化処理されているのに対し、比較例2がNaで微細化
処理されたことに原因がある。そのため、本発明合金1
は、比較合金2よりも優れた耐摩耗性を呈する。介在物
は、本発明合金1よりも比較合金2の方が遥かに多くな
っている。比較合金2で多量の介在物が分散しているこ
とは、微細化処理材として使用されたNaが酸化され、
酸化皮膜として溶湯に巻込まれ、その分離が難しいこと
に原因がある。溶湯が鋳型内に流入する過程で生じた酸
化物が鋳物に取り込まれることも、介在物が多量に分布
した原因である。これに対し、本発明合金1では、酸化
されがたいSbを微細化処理材として使用しているの
で、介在物の分散が大幅に抑えられている。DASは、
合金系及び冷却速度で決まる値であり、両者共に同じ条
件を採用しているので、50μm以下のほぼ同じ値を示
している。
【0037】
【0038】次いで、各素形材にT6処理(溶体化53
5℃×6時間→水焼入れ→室温に6時間放置→人工時効
155℃×5時間)を施した。熱処理後の素形材から試
料を切り出し、引張強さ,0.2%耐力,伸び及びクラ
ウゼ式回転曲げ疲労試験機による疲労強度を測定した。
クラウゼ式回転曲げ疲労試験では、試験片に120N/
mm2 の応力を掛け、破断するまでの回転数を求めた。
表3の調査結果にみられるように比較例の伸びが平均で
7.4%程度であるのに対し、本発明例では、表2にみ
られるように平均でも12%程度の高い伸びを示してい
た。このことから、本発明品は、靭性及び衝撃荷重に優
れていることが判る。疲労特性についても、本発明品
は、比較例に比べて高い疲労強度を示し、キャリパボデ
ィに適した材質といえる。疲労強度にこのような大きな
差が生じる原因は、介在物の分散状態及び共晶Siのサ
イズに原因がある。すなわち、比較合金2では、疲労ク
ラックの発生原因である介在物が多量に分散し且つNa
処理によって共晶Siがクラック伝播を阻止しがたい程
度に短くなっていることから、低い疲労強度を示してい
る。他方、本発明品では、25cm2 の面積で0.14
個(換算すると0.0057個/cm2 )の介在物が観
察されたに止まり、介在物の少ないことが優れた疲労強
度となって現れている。
【0039】
【0040】
【0041】更に、溶解炉における溶湯保持温度が製品
の組織,機械的性質に及ぼす影響を調査するため、本発
明合金1を保持炉で680℃に40分保持した後、同様
に鋳造した。得られた製品の鋳造組織,介在物,T6処
理後の機械的性質を表4に示す。介在物の個数は、表4
にみられるように大きな値であった。これは、680℃
と低い保持温度で保持処理したものではSbで微細化処
理しているにも拘わらず、溶解時の介在物や溶解中の酸
化物等が溶湯から十分に浮上分離されることなく、製品
に持ち込まれたことを示すものである。しかも、粗大な
Mg−Sb系晶出物も観察され、これによっても伸びが
低下しているものと考えられる。
【0042】
【0043】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明のキャリ
パボディにおいては、酸化されがたいSbを微細化処理
剤として使用し、溶湯中に混入しがちな酸化物を保持処
理によって温度管理することにより溶湯から分離するこ
とにより、疲労クラックの発生原因となる介在物を減少
させると共に、共晶Siの形体を制御している。このよ
うにして得られた鋳造体は、優れた疲労特性及び機械的
性質を示すことから、ブリッジ部に疲労クラックの発生
がない一体型のキャリパボディとして使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一体型キャリパボディの断面図
【図2】 本発明に従った鋳造法の説明図
【図3】 金型を回転させている状態を示す図
【図4】 アルミニウム製パイプが溶湯で覆われた状態
を示す図
【図5】 金型を直立させた図
【図6】 金型を固定し湯溜りを回転可能にした装置を
示す図
【図7】 本発明実施例における溶湯の温度変化を表わ
したグラフ
【符号の説明】
1:ロータ 2:キャリパボディ 3:ピストン
4:ブレーキパッド 5:パイプ 6:シリンダ 7:ブリッジ部 10:金型 11:湯口 12:湯溜り 13:
レードル 14:冷却樋 15:堰 16:流出
口 17:供給樋 18:断熱材 19:キャビ
ティ 20:中子 21:アルミニウム製パイプ M:溶湯 0:回転中心 S:湯面 H:押し湯
T:温度計
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) F16D 55/228 F16D 55/228 // C22F 1/00 602 C22F 1/00 602 611 611 691 691B 691C (72)発明者 濱野 康彦 北海道苫小牧市晴海町43番地3号 日本軽 金属株式会社苫小牧製造所内 (72)発明者 杉田 薫 東京都品川区東品川二丁目2番20号 日本 軽金属株式会社内 (72)発明者 橋本 昭男 静岡県庵原郡蒲原町蒲原1丁目34番1号 日本軽金属株式会社グループ技術センター 内 Fターム(参考) 3J058 AA66 BA61 BA64 CC22 EA02 EA08 EA31 EA37

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ブレーキパッドを介してロータに押し付
    けられるピストンに油圧を送給するアルミニウム製パイ
    プがキャリパボディに鋳ぐるまれており、キャリパボデ
    ィを構成するアルミニウム合金がSi:5〜11重量
    %,Mg:0.25〜0.7重量%,Sb:0.08〜
    0.20重量%を含み、残部が実質的にAlの組成をも
    ち、不純物として含まれる元素がP:0.002重量%
    以下,Ca:0.002重量%以下,Na:0.001
    重量%以下,Sr:0.001重量%以下,Fe:0.
    3重量%以下,その他の不純物元素:合計0.5重量%
    以下に規制され、鋳造組織の共晶Siの平均長さが10
    μm以下,デンドライトアームスペーシングが50μm
    以下,介在物の平均個数がK10値で0.01個/cm2
    以下であるアルミニウム製一体型キャリパボディ。
  2. 【請求項2】 請求項1記載のアルミニウム合金が更に
    Ti:0.05〜0.3重量%及び/又はB:0.00
    01〜0.01重量%を含むアルミニウム製一体型キャ
    リパボディ。
  3. 【請求項3】 請求項1又は2記載の組成に調整された
    アルミニウム合金溶湯を脱ガス,脱滓,微細化処理した
    後、保持炉で700〜760℃に保持し、1回の鋳造に
    必要な量の溶湯を湯溜りに移湯し、湯溜りでの溶湯温度
    を640〜700℃に調整した後、被鋳ぐるみ材のアル
    ミニウム製パイプがセットされた金型に溶湯を注湯する
    ことを特徴とする一体型キャリパボディの製造方法。
  4. 【請求項4】 1回の鋳造に必要な量の溶湯を保持炉か
    ら汲み出し、金型の湯溜りに連結されている冷却樋に移
    湯し、冷却樋を経て湯溜りに溶湯を供給する請求項3記
    載の一体型キャリパボディの製造方法。
  5. 【請求項5】 湯溜りに流出する溶湯の流量を調整する
    堰を備え、放熱構造をもつ冷却樋を使用する請求項3又
    は4記載の一体型キャリパボディの製造方法。
  6. 【請求項6】 断熱材がライニングされた湯溜りを使用
    する請求項3又は4記載の一体型キャリパボディの製造
    方法。
  7. 【請求項7】 湯溜りから金型のキャビティに送り込ま
    れた溶湯の湯面が上昇してアルミニウム製パイプを覆っ
    た後で、残りの溶湯をキャビティに急速に供給すること
    により、湯溜りから送り込まれる溶湯がアルミニウム製
    パイプに直接接触することを防止する請求項3〜6の何
    れかに記載の一体型キャリパボディの製造方法。
  8. 【請求項8】 キャビティ内を上昇する溶湯の湯面がア
    ルミニウム製パイプを覆うまでは、湯溜りから送り込ま
    れる溶湯がアルミニウム製パイプに直接接触しないよう
    に、湯溜りが一体化された金型又は回転可能な湯溜りを
    徐々に回転させながら金型からキャビティに溶湯を送り
    込む請求項7記載の一体型キャリパボディの製造方法。
  9. 【請求項9】 キャビティに溶湯を注入した後、湯口を
    上方に位置させて押し湯効果を働かせる請求項3〜8の
    何れかに記載の一体型キャリパボディの製造方法。
  10. 【請求項10】 溶湯注入中、アルミニウム製パイプの
    一端を真空系に接続し、他端から吸引される外気により
    アルミニウム製パイプを冷却する請求項3〜9の何れか
    に記載の一体型キャリパボディの製造方法。
  11. 【請求項11】 鋳造後に520〜545℃×1〜15
    時間の溶体化処理,水焼入れ,150〜170℃×2〜
    10時間の時効処理を施す請求項3〜10何れかに記載
    の一体型キャリパボディの製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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KR101241229B1 (ko) 2009-02-03 2013-03-13 주식회사 만도 브레이크의 캘리퍼 하우징 주조용 중자
US9890824B1 (en) 2016-11-21 2018-02-13 J&C Co., Ltd. Method for manufacturing a monoblock-type aluminum caliper housing

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