JP7355281B1 - 溶接継手、溶接部材およびその製造方法、ならびに、抵抗スポット溶接方法 - Google Patents
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Abstract
Description
「高強度めっき鋼板のスポット溶接において、下記条件(1)および(2)を満足させるように溶接通電時間および溶接通電後の保持時間を設定してスポット溶接を行うことを特徴とする高強度めっき鋼板のスポット溶接方法。
0.25・(10・t+2)/50≦WT≦0.50・(10・t+2)/50 ・・(1)
300-500・t+250・t2≦HT ・・(2)
ただし、t:板厚(mm)、WT:溶接通電時間(ms)、HT:溶接通電後の保持時間(ms)」
が開示されている。
「高張力亜鉛系めっき鋼板を3段以上の多段通電によりスポット溶接するにあたり、形成されるナゲットが、下記(1)式で定義される所望のナゲット径d0以上でかつ溶融残厚0.05mm以上となるように溶接条件を調整することを特徴とする高張力亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法。
記
d0=k√t ………(1)
ここで、d0:所望のナゲット径(mm)
k:係数;3~6の間で施工条件に合わせて選択される係数
t:鋼板板厚(mm)」
が開示されている。
「少なくとも一方の表面の溶接箇所にめっきが被覆された鋼板を1枚以上含む重ね合わされた複数の鋼板を対向する溶接電極で挟み込みスポット溶接する方法であって、
スポット溶接の前に、めっきを除去する工程を含み、
上記めっきを除去する工程において、めっきが除去される範囲を、少なくとも、外周が重ね合わされた複数の鋼板の溶接電極側に形成される溶接熱影響部外縁となる円内とすることを特徴とするスポット溶接方法。」
が開示されている。
「少なくとも溶接箇所が重ね合わされた複数枚の鋼板で構成される被溶接部材を溶接電極により加圧して通電する本溶接を行い、更に、前通電及び後通電の少なくとも一方の通電工程を行うスポット溶接方法であって、
前記複数枚の鋼板の少なくとも一つについて、少なくとも前記溶接箇所の重ね合わせ面が亜鉛系めっきで被覆され、前記複数枚の鋼板の総板厚t(mm)が1.35mm以上であり、
前記溶接電極間の通電開始時から、溶接終了の際の当該溶接電極間の通電終了時まで、当該溶接電極による前記被溶接部材の加圧を保持したままとし、
溶接終了の際、前記溶接電極間の通電終了時から当該溶接電極と前記被溶接部材とを非接触とするまでの通電後保持時間Ht(秒)を下記(1)式の範囲内とすることを特徴とするスポット溶接方法。
0.015t2+0.020≦Ht≦0.16t2-0.40t+0.70 ・・・(1)」
が開示されている。
「複数の鋼板を重ね合わせた板組を、一対の電極によって挟み、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法において、
重ね合わせた複数の鋼板のうち少なくとも1枚は、表面に金属めっき層を有する表面処理鋼板であり、
通電として、ナゲット部を形成する通電を行なう主通電工程と、
主通電工程の後に通電休止時間Tc(サイクル)の間通電を休止する無通電工程と、
無通電工程の後にナゲット部を成長させずに再加熱する通電を行なう後通電工程とを有し、
電極の打角をA(度)、主通電工程の電流値をIm(kA)、後通電工程の電流値をIp(kA)、1+0.1・Tcを変数B、1+0.2・Tcを変数Cとしたとき、前記通電は、下記式(I)の関係を満たす抵抗スポット溶接方法。
式(I)
0<A<3の場合は、(22+A)・B/100<Ip/Im<C
3≦A<7の場合は、(17+A)・B/80<Ip/Im<C
7≦A<15の場合は、(11+A)・B/60<Ip/Im<C」
が開示されている。
また、本発明は、亜鉛系めっき鋼板に対する抵抗スポット溶接として、めっき層の除去工程が不要であり、かつ、表層鋼板の厚さ比や外乱の影響が大きい場合にも、溶接部の割れの発生抑制と所望の大きさのナゲット径の安定確保とを両立できる、抵抗スポット溶接方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記の溶接継手を有する溶接部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
亜鉛系めっき鋼板に対する抵抗スポット溶接において発生する溶接部の割れ、特に、肩部割れの発生有無は、溶接時に発生する板組の肩部での変形、特には、肩部の角度に強く影響する。そして、肩部の角度を、板組の表層鋼板(板組において最外側に位置する(溶接時に電極と接触する)鋼板)として配置される亜鉛系めっき鋼板の引張強さおよび厚さ、板組を構成する鋼板の合計厚さ、ならびに、ナゲット径との関係で適切に制御する。具体的には、後述する(1)式および(2)式の少なくとも一方を満足させる。これにより、溶接部の割れの発生を有効に抑制できる。
(a)溶接時の通電工程を第1通電工程と第2通電工程の2つの工程に分ける。
(b)第1通電工程においては、通電パターンを調整して入熱量を制御することにより、板組の肩部での大きな変形を極力抑止しつつ、中間段階のナゲット(以下、中間段階ナゲットともいう)を形成する。
(c)第2通電工程においては、通電と冷却を繰り返す通電パターンにより、板組の肩部での大きな変形を極力抑止しつつ、中間段階ナゲットを段階的に拡大させて、最終的な大きさのナゲットを得る。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
1.n枚の鋼板を重ね合わせた板組と、該鋼板同士を接合するナゲットと、を有する、溶接継手であって、
nは2以上の整数であり、
前記板組において、上から順に1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうちの少なくとも一方が亜鉛系めっき鋼板であり、
[条件1]の場合には、前記板組の1枚目の鋼板における肩部の角度aが、以下の(1)式を満足し、
[条件2]の場合には、前記板組のn枚目の鋼板における肩部の角度bが、以下の(2)式を満足し、
[条件3]の場合には、前記肩部の角度aおよびbがそれぞれ、以下の(1)式および(2)式を満足し、
前記板組において、k枚目の鋼板とk+1枚目の鋼板の境界レベルでのナゲット径xk(mm)が4.0√tk以上であり、kが1~n―1までの整数であり、tkがk枚目の鋼板とk+1枚目の鋼板のうちの薄い方の鋼板の厚さ(mm)である、溶接継手。
a≦{(980/SU)0.3×(1/T0.3)×(T/tU)0.2}×11×W0.3+15 ・・・(1)
b≦{(980/SL)0.3×(1/T0.3)×(T/tL)0.2}×11×W0.3+15 ・・・(2)
式中、
a:板組の1枚目の鋼板における肩部の角度(°)、
b:板組のn枚目の鋼板における肩部の角度(°)、
T:n枚の鋼板の合計厚さ(mm)、
tU:1枚目の鋼板の厚さ(mm)、
tL:n枚目の鋼板の厚さ(mm)、
SU:1枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
SL:n枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
W:ナゲット径(mm)、
である。
また、[条件1]~[条件3]は、以下のとおりである。
[条件1]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、1枚目の鋼板のみが亜鉛系めっき鋼板である。
[条件2]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、n枚目の鋼板のみが亜鉛系めっき鋼板である。
[条件3]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、1枚目の鋼板およびn枚目の鋼板の両方が亜鉛系めっき鋼板である。
前記[条件2]の場合には、前記肩部の角度bが、以下の(4)式を満足し、
前記[条件3]の場合には、前記肩部の角度aおよびbがそれぞれ、以下の(3)式および(4)式を満足する、前記1に記載の溶接継手。
a≦{(980/SU)0.3×(1/T0.3)×(T/tU)0.2}×6×W0.3+9 ・・・(3)
b≦{(980/SL)0.3×(1/T0.3)×(T/tL)0.2}×6×W0.3+9 ・・・(4)
T/tU>2 ・・・(5)
T/tL>2 ・・・(6)
nは2以上の整数であり、
前記板組において、上から順に1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうちの少なくとも一方が亜鉛系めっき鋼板であり、
また、前記抵抗スポット溶接方法は、
中間段階ナゲットを形成する、第1通電工程と、
前記中間段階ナゲットを拡大する、第2通電工程と、
を有し、
前記第1通電工程では、前記中間段階ナゲットの径W0が
[条件1]の場合には、以下の(7)式を、
[条件2]の場合には、以下の(8)式を、
[条件3]の場合には、以下の(7)式および(8)式の両方を、
それぞれ満足する条件で通電を行い、
前記第2通電工程では、
冷却時間:10ms以上160ms未満の無通電状態での冷却と、
通電時間:15ms以上200ms未満および電流値:前記第1通電工程の電流値以上での通電と、をそれぞれ1回以上行う、抵抗スポット溶接方法。
(T0.3/tU 0.2)×(SU/980)0.1×2.0≦W0 ・・・(7)
(T0.3/tL 0.2)×(SL/980)0.1×2.0≦W0 ・・・(8)
式中、
W0:中間段階ナゲットの径(mm)、
T:n枚の鋼板の合計厚さ(mm)、
tU:1枚目の鋼板の厚さ(mm)、
tL:n枚目の鋼板の厚さ(mm)、
SU:1枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
SL:n枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
である。
また、[条件1]~[条件3]は、以下のとおりである。
[条件1]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、1枚目の鋼板のみが亜鉛系めっき鋼板である。
[条件2]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、n枚目の鋼板のみが亜鉛系めっき鋼板である。
[条件3]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、1枚目の鋼板およびn枚目の鋼板の両方が亜鉛系めっき鋼板である。
前記[条件1]の場合には、以下の(9)式を、
前記[条件2]の場合には、以下の(10)式を、
前記[条件3]の場合には、以下の(9)式および(10)式の両方を、
それぞれ満足する条件で通電を行う、前記5に記載の抵抗スポット溶接方法。
(T0.45/tU 0.3)×(SU/980)0.15×2.0≦W0 ・・・(9)
(T0.35/tL 0.3)×(SL/980)0.15×2.0≦W0 ・・・(10)
If>Is ・・・(11)
式中、
Is:第1通電工程での通電開始時の電流値(kA)、
If:第1通電工程での通電終了時の電流値(kA)、
である。
T/tU>2 ・・・(5)
T/tL>2 ・・・(6)
(A)溶接電極と板組が打角を有する。
(B)一対の溶接電極が芯ずれする。
(C)板組の加圧前に、固定式の溶接電極と板組との間に隙間がある。
(D)板組の加圧前に、板組の鋼板間において少なくとも1箇所以上に隙間がある。
(E)板組の表面において、溶接打点の中心から板組の端面までの最短距離が10mm以下である。
また、本発明の溶接継手を有する溶接部材は、最外側に高い耐食性をそなえる亜鉛系めっき鋼板が配置されるので、自動車部品、特には、雨水に曝される部位に使用される自動車部品などに適用して極めて好適である。
本発明の一実施形態に従う溶接継手は、
n枚の鋼板を重ね合わせた板組と、該鋼板同士を接合するナゲットと、を有する、溶接継手であって、
nは2以上の整数であり、
前記板組において、上から順に1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうちの少なくとも一方が亜鉛系めっき鋼板であり、
[条件1]の場合には、前記板組の1枚目の鋼板における肩部の角度aが、以下の(1)式を満足し、
[条件2]の場合には、前記板組のn枚目の鋼板における肩部の角度bが、以下の(2)式を満足し、
[条件3]の場合には、前記肩部の角度aおよびbがそれぞれ、以下の(1)式および(2)式を満足し、
前記板組において、k枚目の鋼板とk+1枚目の鋼板の境界レベルでのナゲット径xk(mm)が4.0√tk以上であり、kが1~n―1までの整数であり、tkがk枚目の鋼板とk+1枚目の鋼板のうちの薄い方の鋼板の厚さ(mm)である、というものである。
a≦{(980/SU)0.3×(1/T0.3)×(T/tU)0.2}×11×W0.3+15 ・・・(1)
b≦{(980/SL)0.3×(1/T0.3)×(T/tL)0.2}×11×W0.3+15 ・・・(2)
式中、
a:板組の1枚目の鋼板における肩部の角度(°)、
b:板組のn枚目の鋼板における肩部の角度(°)、
T:n枚の鋼板の合計厚さ(mm)、
tU:1枚目の鋼板の厚さ(mm)、
tL:n枚目の鋼板の厚さ(mm)、
SU:1枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
SL:n枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
W:ナゲット径(mm)、
である。
また、[条件1]~[条件3]は、以下のとおりである。
[条件1]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、1枚目の鋼板のみが亜鉛系めっき鋼板である。
[条件2]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、n枚目の鋼板のみが亜鉛系めっき鋼板である。
[条件3]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、1枚目の鋼板およびn枚目の鋼板の両方が亜鉛系めっき鋼板である。
上述したように、亜鉛系めっき鋼板に対する抵抗スポット溶接において発生する溶接部の割れ、特に、肩部割れの発生有無は、溶接時に発生する板組の肩部の変形、換言すれば、肩部の角度aおよびbに強く影響する。そして、肩部の角度aおよびbを、板組の表層鋼板として配置される亜鉛系めっき鋼板の引張強さおよび厚さ、板組を構成する鋼板の合計厚さ、ならびに、ナゲット径Wとの関係で適切に制御することにより、溶接部の割れの発生を有効に抑制できる。
具体的には、
上述した[条件1]の場合には、肩部の角度aが上掲(1)式を満足し、
上述した[条件2]の場合には、肩部の角度bが上掲(2)式を満足し、
上述した[条件3]の場合には、肩部の角度aおよびbがそれぞれ、上掲(1)式および(2)式をそれぞれ満足する、
ことにより、溶接部の割れの発生を有効に抑制できる。なお、肩部の角度aおよびb、ならびに、ナゲット径Wの測定方法は上述のとおりである。
上述した[条件2]の場合には、肩部の角度bが以下の(4)式を満足し、
上述した[条件3]の場合には、肩部の角度aおよびbがそれぞれ、以下の(3)式および(4)式を満足する、ことが好ましい。これにより、溶接部の割れの発生をより有効に抑制できる、特には、肩部における長さ100μm未満の微小なLME割れの発生をも有効に抑制することが可能となる。
a≦{(980/SU)0.3×(1/T0.3)×(T/tU)0.2}×6×W0.3+9 ・・・(3)
b≦{(980/SL)0.3×(1/T0.3)×(T/tL)0.2}×6×W0.3+9 ・・・(4)
T/tU>2 ・・・(5)
T/tL>2 ・・・(6)
T/tU>3 ・・・(12)
T/tL>3 ・・・(13)
継手強度を確保する観点から、k枚目の鋼板とk+1枚目の鋼板の境界レベルでのナゲット径xk(mm)を4.0√tk以上とする。ナゲット径xkの上限は特に限定されるものではないが、散りの発生を抑制する観点から、ナゲット径xkは10.0√tk以下が好ましい。ここで、kは1~n-1までの整数であり、tkはk枚目の鋼板とk+1枚目の鋼板のうちの薄い方の鋼板の厚さ(mm)である。なお、ナゲットとは、板組の鋼板同士を接合する点状の溶接部である。また、ナゲットは、板組の鋼板が溶融して凝固した部分である。
本発明の一実施形態に従う溶接部材は、上記の溶接継手を有する溶接部材である。本発明の一実施形態に従う溶接部材は、最外側に高い耐食性をそなえる亜鉛系めっき鋼板が配置されるので、自動車部品、特には、雨水に曝される部位に使用される自動車部品などに適用して好適である。なお、本発明の一実施形態に従う溶接部材には、上記の溶接継手に加えて、別の溶接継手(溶接部)をさらに有していてもよい。
本発明の一実施形態に従う抵抗スポット溶接方法は、
n枚の鋼板を重ね合わせた板組を一対の溶接電極で挟持し、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法であって、
nは2以上の整数であり、
前記板組において、上から順に1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうちの少なくとも一方が亜鉛系めっき鋼板であり、
また、前記抵抗スポット溶接方法は、
中間段階ナゲットを形成する、第1通電工程と、
前記中間段階ナゲットを拡大する、第2通電工程と、
を有し、
前記第1通電工程では、前記中間段階ナゲットの径W0が
[条件1]の場合には、以下の(7)式を、
[条件2]の場合には、以下の(8)式を、
[条件3]の場合には、以下の(7)式および(8)式の両方を、
それぞれ満足する条件で通電を行い、
前記第2通電工程では、
冷却時間:10ms以上160ms未満の無通電状態での冷却と、
通電時間:15ms以上200ms未満および電流値:前記第1通電工程の電流値以上での通電と、をそれぞれ1回以上行う、というものである。
(T0.3/tU 0.2)×(SU/980)0.1×2.0≦W0 ・・・(7)
(T0.3/tL 0.2)×(SL/980)0.1×2.0≦W0 ・・・(8)
式中、
W0:中間段階ナゲットの径(mm)、
T:n枚の鋼板の合計厚さ(mm)、
tU:1枚目の鋼板の厚さ(mm)、
tL:n枚目の鋼板の厚さ(mm)、
SU:1枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
SL:n枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
である。
また、[条件1]~[条件3]については、上述のとおりである。
以下、第1通電工程および第2通電工程について、説明する。なお、本発明の一実施形態に従う抵抗スポット溶接方法で使用する板組に関する説明は、[1]溶接継手における板組での説明と同様なので、ここでは記載を省略する。
第1通電工程では、後工程である第2通電工程において板組の肩部での大きな変形が発生しないように、ナゲットを形成することが必要である。そのためには、板組の表層鋼板として配置される亜鉛系めっき鋼板の厚さおよび引張強さ、ならびに、板組を構成する鋼板の合計厚さに応じて通電パターンを調整して入熱量を制御することが重要である。特には、上述した[条件1]~[条件3]に応じて、中間段階ナゲットの径W0(第1通電工程終了時点で得られるナゲットの径)が上掲(7)式および(8)式の少なくとも一方を満足する条件で通電を行うことが重要である。
上述したように、第1通電工程では、通電パターンを調整して入熱量を制御する、特には、上述した[条件1]~[条件3]に応じて、中間段階ナゲットの径W0が上掲(7)式および(8)式の少なくとも一方を満足する条件で通電を行う。これによって、中間段階ナゲットの周囲の圧接部(コロナボンド部)を、対象とする板組において最終的に得られるナゲット径の確保と溶接部の割れ抑制を実現するために必要な範囲において、強固に形成することができる。その結果、表層鋼板の厚さ比や外乱の影響が大きい場合にも、後述する第2通電工程において散りの飛散量を抑制しつつ中間段階ナゲットを拡大することが可能となる。これにより、第2通電終了後に板組の肩部の変形、ひいては溶接部の割れの発生を抑制した上で所望のナゲット径が実現される。
上述した[条件2]の場合には、以下の(10)式を、
上述した[条件3]の場合には、以下の(9)式および(10)式を、
それぞれ満足する条件で通電を行うことが好ましい。これにより、溶接部の割れの発生をより有効に抑制できる。特には、肩部における長さ100μm未満の微小なLME割れの発生をも有効に抑制することが可能となる。
(T0.45/tU 0.3)×(SU/980)0.15×2.0≦W0 ・・・(9)
(T0.35/tL 0.3)×(SL/980)0.15×2.0≦W0 ・・・(10)
If>Is ・・・(11)
なお、Isは、好ましくは2.0~14.0kAである。Ifは、好ましくは3.0~15.0kAである。
第2通電工程では、冷却と通電を繰り返す通電パターンにより、板組の肩部での大きな変形を極力抑止しつつ、第1通電工程で形成した中間段階ナゲットを段階的に拡大させて、最終的な大きさのナゲットを得る。
上述したように、第2通電工程では、板組の肩部での大きな変形を極力抑止しつつ、中間段階ナゲットを段階的に拡大させる必要がある。そのため、第2通電工程では、冷却と通電を繰り返す通電パターンを行うものとする。特には、冷却時間:10ms以上160ms未満の無通電状態での冷却と、通電時間:15ms以上200ms未満および電流値:I1以上での通電とをそれぞれ1回以上行うものとする。冷却および通電の回数はそれぞれ、上記の効果をより有利に得る観点から、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上である。なお、冷却および通電の回数が10回を超えると、上記の効果が飽和する一方、施工効率の低下を招く場合もある。そのため、冷却および通電の回数はそれぞれ、好ましくは10回以下である。
(A)溶接電極と板組が打角を有する。
(B)一対の溶接電極が芯ずれする。
(C)板組の加圧前に、固定式の溶接電極と板組との間に隙間(以下、電極-板組間隙間ともいう)がある。
(D)板組の加圧前に、板組の鋼板間において少なくとも1箇所以上に隙間(以下、板隙ともいう)がある。
(E)板組の表面において、溶接打点の中心から板組の端面までの最短距離(以下、端面最短距離ともいう)が10mm以下である。
本発明の一実施形態に従う溶接部材の製造方法は、上記の抵抗スポット溶接方法により、上記の板組を接合する工程を有するというものである。これにより、板組の肩部の変形、ひいては溶接部の割れの発生を抑制しつつ、所望の大きさのナゲット径を安定的に確保できる。その結果、種々の溶接部材、特には、最外側に高い耐食性をそなえる亜鉛系めっき鋼板を配置した自動車部品等を、高い施工効率の下、製造することが可能となる。
なお、表3中、肩部割れの欄におけるA、BおよびCはそれぞれ以下の意味である。
A(合格、特に優れる):割れの発生なし
B(合格):割れの発生はあるが、長さが100μm未満
C(不合格):100μm以上の長さの割れが発生
また、表3中の判定の欄は、
肩部割れがAであり、ナゲット径xkが4.0√tk以上である場合を「合格(優)」、
肩部割れがBであり、ナゲット径xkが4.0√tk以上である場合を「合格(良)」、
上記以外の場合、つまり、1つでも目標特性が得られなかった場合を「不合格」と表記した。
なお、t1は1枚目の鋼板と2枚目の鋼板のうちの薄い方の鋼板の厚さである。t2は2枚目の鋼板と3枚目の鋼板のうちの薄い方の鋼板の厚さである。t3は3枚目の鋼板と4枚目の鋼板のうちの薄い方の鋼板の厚さである。また、ナゲットとは、板組の鋼板同士を接合する点状の溶接部である。また、ナゲットは、板組の鋼板が溶融して凝固した部分である。
試料番号18~24、33、36、37、40、43、46および49では、第1通電工程において中間段階ナゲットの径W0が所定の範囲にならない条件で通電を行ったため、溶接部の割れが発生したり、鋼板の境界レベルによっては所望の大きさのナゲット径が得られなかった。
試料番号26~30では、第2通電工程の冷却時間、電流値、または、通電時間が適正範囲外となるため、溶接部の割れが発生したり、鋼板の境界レベルによっては所望の大きさのナゲット径が得られなかった。
1-2 鋼板(下鋼板)
1-3 鋼板
2 板組
3 溶接電極(上電極)
4 溶接電極(下電極)
5 ナゲット
6 肩部
7 スペーサ
8 スペーサ
Claims (16)
- n枚の鋼板を重ね合わせた板組と、該鋼板同士を接合するナゲットと、を有する、溶接継手であって、
nは2以上の整数であり、
前記板組において、上から順に1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうちの少なくとも一方が亜鉛系めっき鋼板であり、
[条件1]の場合には、前記板組の1枚目の鋼板における肩部の角度aが、以下の(1)式を満足し、
[条件2]の場合には、前記板組のn枚目の鋼板における肩部の角度bが、以下の(2)式を満足し、
[条件3]の場合には、前記肩部の角度aおよびbがそれぞれ、以下の(1)式および(2)式を満足し、
前記板組において、k枚目の鋼板とk+1枚目の鋼板の境界レベルでのナゲット径xk(mm)が4.0√tk以上であり、kが1~n―1までの整数であり、tkがk枚目の鋼板とk+1枚目の鋼板のうちの薄い方の鋼板の厚さ(mm)である、溶接継手。
a≦{(980/SU)0.3×(1/T0.3)×(T/tU)0.2}×11×W0.3+15 ・・・(1)
b≦{(980/SL)0.3×(1/T0.3)×(T/tL)0.2}×11×W0.3+15 ・・・(2)
式中、
a:板組の1枚目の鋼板における肩部の角度(°)、
b:板組のn枚目の鋼板における肩部の角度(°)、
T:n枚の鋼板の合計厚さ(mm)、
tU:1枚目の鋼板の厚さ(mm)、
tL:n枚目の鋼板の厚さ(mm)、
SU:1枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
SL:n枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
W:ナゲット径(mm)、
である。
また、[条件1]~[条件3]は、以下のとおりである。
[条件1]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、1枚目の鋼板のみが亜鉛系めっき鋼板である。
[条件2]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、n枚目の鋼板のみが亜鉛系めっき鋼板である。
[条件3]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、1枚目の鋼板およびn枚目の鋼板の両方が亜鉛系めっき鋼板である。 - 前記[条件1]の場合には、前記肩部の角度aが、以下の(3)式を満足し、
前記[条件2]の場合には、前記肩部の角度bが、以下の(4)式を満足し、
前記[条件3]の場合には、前記肩部の角度aおよびbがそれぞれ、以下の(3)式および(4)式を満足する、請求項1に記載の溶接継手。
a≦{(980/SU)0.3×(1/T0.3)×(T/tU)0.2}×6×W0.3+9 ・・・(3)
b≦{(980/SL)0.3×(1/T0.3)×(T/tL)0.2}×6×W0.3+9 ・・・(4) - 前記n枚の鋼板の合計厚さT、前記1枚目の鋼板の厚さtUおよび前記n枚目の鋼板の厚さtLが、以下の(5)式および(6)式のうちの少なくとも一方を満足する、請求項1または2に記載の溶接継手。
T/tU>2 ・・・(5)
T/tL>2 ・・・(6) - 請求項1または2に記載の溶接継手を有する、溶接部材。
- 請求項3に記載の溶接継手を有する、溶接部材。
- n枚の鋼板を重ね合わせた板組を一対の溶接電極で挟持し、加圧しながら通電して接合する抵抗スポット溶接方法であって、
nは2以上の整数であり、
前記板組において、上から順に1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうちの少なくとも一方が亜鉛系めっき鋼板であり、
また、前記抵抗スポット溶接方法は、
中間段階ナゲットを形成する、第1通電工程と、
前記中間段階ナゲットを拡大する、第2通電工程と、
を有し、
前記第1通電工程では、前記中間段階ナゲットの径W0が
[条件1]の場合には、以下の(7)式を、
[条件2]の場合には、以下の(8)式を、
[条件3]の場合には、以下の(7)式および(8)式の両方を、
それぞれ満足する条件で通電を行い、
前記第2通電工程では、
冷却時間:10ms以上160ms未満の無通電状態での冷却と、
通電時間:15ms以上200ms未満および電流値:前記第1通電工程の電流値以上での通電と、をそれぞれ1回以上行う、抵抗スポット溶接方法。
(T0.3/tU 0.2)×(SU/980)0.1×2.0≦W0 ・・・(7)
(T0.3/tL 0.2)×(SL/980)0.1×2.0≦W0 ・・・(8)
式中、
W0:中間段階ナゲットの径(mm)、
T:n枚の鋼板の合計厚さ(mm)、
tU:1枚目の鋼板の厚さ(mm)、
tL:n枚目の鋼板の厚さ(mm)、
SU:1枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
SL:n枚目の鋼板の引張強さ(MPa)、
である。
また、[条件1]~[条件3]は、以下のとおりである。
[条件1]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、1枚目の鋼板のみが亜鉛系めっき鋼板である。
[条件2]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、n枚目の鋼板のみが亜鉛系めっき鋼板である。
[条件3]
板組の1枚目の鋼板とn枚目の鋼板のうち、1枚目の鋼板およびn枚目の鋼板の両方が亜鉛系めっき鋼板である。 - 前記第1通電工程において、前記中間段階ナゲットの径W0が
前記[条件1]の場合には、以下の(9)式を、
前記[条件2]の場合には、以下の(10)式を、
前記[条件3]の場合には、以下の(9)式および(10)式の両方を、
それぞれ満足する条件で通電を行う、請求項6に記載の抵抗スポット溶接方法。
(T0.45/tU 0.3)×(SU/980)0.15×2.0≦W0 ・・・(9)
(T0.35/tL 0.3)×(SL/980)0.15×2.0≦W0 ・・・(10) - 前記第1通電工程において、以下の(11)式を満足する条件で通電を行う、請求項6に記載の抵抗スポット溶接方法。
If>Is ・・・(11)
式中、
Is:第1通電工程での通電開始時の電流値(kA)、
If:第1通電工程での通電終了時の電流値(kA)、
である。 - 前記第1通電工程において、以下の(11)式を満足する条件で通電を行う、請求項7に記載の抵抗スポット溶接方法。
If>Is ・・・(11)
式中、
Is:第1通電工程での通電開始時の電流値(kA)、
If:第1通電工程での通電終了時の電流値(kA)、
である。 - 前記n枚の鋼板の合計厚さT、前記1枚目の鋼板の厚さtUおよび前記n枚目の鋼板の厚さtLが、以下の(5)および(6)のうちの少なくとも一方を満足する、請求項6に記載の抵抗スポット溶接方法。
T/tU>2 ・・・(5)
T/tL>2 ・・・(6) - 前記n枚の鋼板の合計厚さT、前記1枚目の鋼板の厚さtUおよび前記n枚目の鋼板の厚さtLが、以下の(5)および(6)のうちの少なくとも一方を満足する、請求項7に記載の抵抗スポット溶接方法。
T/tU>2 ・・・(5)
T/tL>2 ・・・(6) - 前記n枚の鋼板の合計厚さT、前記1枚目の鋼板の厚さtUおよび前記n枚目の鋼板の厚さtLが、以下の(5)および(6)のうちの少なくとも一方を満足する、請求項8に記載の抵抗スポット溶接方法。
T/tU>2 ・・・(5)
T/tL>2 ・・・(6) - 前記n枚の鋼板の合計厚さT、前記1枚目の鋼板の厚さtUおよび前記n枚目の鋼板の厚さtLが、以下の(5)および(6)のうちの少なくとも一方を満足する、請求項9に記載の抵抗スポット溶接方法。
T/tU>2 ・・・(5)
T/tL>2 ・・・(6) - 以下の(A)~(E)の状態の1つまたは2つ以上を満足する、請求項6~13のいずれかの記載の抵抗スポット溶接方法。
(A)溶接電極と板組が打角を有する。
(B)一対の溶接電極が芯ずれする。
(C)板組の加圧前に、固定式の溶接電極と板組との間に隙間がある。
(D)板組の加圧前に、板組の鋼板間において少なくとも1箇所以上に隙間がある。
(E)板組の表面において、溶接打点の中心から板組の端面までの最短距離が10mm以下である。 - 請求項6~13のいずれかに記載の抵抗スポット溶接方法により、n枚の鋼板を重ね合わせた板組を接合する工程を有し、nが2以上の整数である、溶接部材の製造方法。
- 請求項14に記載の抵抗スポット溶接方法により、n枚の鋼板を重ね合わせた板組を接合する工程を有し、nが2以上の整数である、溶接部材の製造方法。
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