WO2024143389A1 - 全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池 - Google Patents

全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池

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集電体の少なくとも一方の表面上に活物質層を有する全固体二次電池用電極シートであって、活物質層が周期律表第1族若しくは第2族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と活物質(B)とを有し、かつ下記式(1)及び式(2)を満たす全固体二次電池用電極シート、並びにこの電極シートを少なくとも一方の電極として有する全固体二次電池。 式(1):1.4<S1/S100、式(2):0.05<S1<0.60 S1は、集電体の表面から活物質層の層厚1%以下の断面領域における炭素原子を含む材料の合計面積の面積比を示し、S100は集電体の表面から活物質層の層厚の1%を超える断面領域における炭素原子を含む材料の合計面積の面積比を示す。

Description

全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池
 本発明は、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池に関する。
 全固体二次電池は、負極、電解質及び正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性及び信頼性を大きく改善することができる。また長寿命化も可能になるとされる。更に、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べて高エネルギー密度化が可能となり、電気自動車又は大型蓄電池等への応用が期待されている。
 全固体二次電池において、集電体上に積層される活物質層(電極活物質層ということもある。)は、通常、無機固体電解質、活物質、導電助剤等の固体粒子で形成される。このような固体粒子で形成された活物質層は、活物質層中における固体粒子同士の密着力(粒子密着力ということがある。)、更に活物質層と集電体との層間密着力が十分ではないため、通常、ポリマーバインダーを併用して粒子密着力及び層間密着力を強化している。
 ポリマーバインダーを用いて粒子密着力、層間密着力等を改善する技術として、例えば、特許文献1には、「集電体の少なくとも一方の表面に易接着層を有する易接着層付集電体であって、前記易接着層が、トルエンに対する25℃における溶解度が1g/100g以上である重合体を含有する、易接着層付集電体」における「易接着層を設けた表面上に、固体電解質を含有する電極活物質層を有する電極」が記載されている。また、特許文献2には、「正極集電体と、前記正極集電体上に形成された、少なくとも正極活物質およびバインダーを含む正極合剤層とを備える正極層と、負極集電体と、前記負極集電体上に形成された、少なくとも負極活物質およびバインダーを含む負極合剤層とを備える負極層と、前記正極合剤層と前記負極合剤層との間に配置された、少なくともイオン伝導性を有する固体電解質を含む固体電解質層と、を備える全固体電池であって、前記正極合剤層、前記負極合剤層、および前記固体電解質層よりなる群から選ばれた少なくとも一層に含まれる溶剤の濃度が50ppm以下であり、前記正極合剤層および前記負極合剤層から選ばれた少なくとも一層に含まれる前記バインダーの濃度が、前記固体電解質層近傍よりも前記正極集電体または前記負極集電体近傍の方が高い、全固体電池」が記載されている。
国際公開第2019/230592号 特開2018-125260号公報
 ところで、全固体二次電池、全固体二次電池に組み込む電極(電極の前駆体としての電極シートを含む。)は、製造中における搬送、製造後の輸送等により、繰り返し振動を受けることがある。そのため、ポリマーバインダーを併用して粒子密着力及び層間密着力を高めても、繰り返される振動によって、当初の強固な粒子密着力及び層間密着力を維持できず、当初の密着状態が徐々に崩壊して、電極及び全固体二次電池の性能低下を招く。
 特に、近年、全固体二次電池の実製造に向けて生産性を高めた工業的製造方法、例えば、複数のロールで搬送しながら製造するロール・トゥ・ロール法での製造が検討されており、このような工業的製造方法では、全固体二次電池及び電極は、製造工程中に大きな振動を繰り返して受けることになり、大幅な性能低下が懸念される。
 しかし、このような繰り返される振動による性能低下については、従来、着目されてなく、特許文献1及び2においても何ら検討されていない。
 本発明は、繰り返し振動を受けても性能の低下を抑制可能な全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池を提供することを課題とする。
 本発明者らは、種々検討を重ねた結果、集電体の表面に設ける活物質層について、その厚さ方向に100等分した100層の仮想分割活物質層を想定して、集電体側から順に第1仮想分割活物質層~第100仮想分割活物質層とした場合に、第1仮想分割活物質層における炭素原子を含む材料の面積比S1と、第2仮想分割活物質層~第100仮想分割活物質層の99層全体における炭素原子を含む材料の面積比S100とが後述する式(1)及び式(2)を同時に満たすように、活物質層中に、炭素原子を含む材料、無機固体電解質及び活物質を配置することによって、活物質層中における粒子密着力(各仮想分割活物質層中の粒子密着力、及び第1仮想分割活物質層と第2仮想分割活物質層との界面における粒子密着力(界面密着力ともいう。)を含む。)、更には集電体と活物質層との層間密着力を、繰り返される振動を受けても密着状態の崩壊を抑制可能となる強固なものに強化でき、電極及び全固体二次電池の性能低下を抑制できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
 すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>集電体の少なくとも一方の表面上に活物質層を有する全固体二次電池用電極シートであって、
 活物質層が、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と活物質(B)とを有し、かつ、下記式(1)及び式(2)を満たす、全固体二次電池用電極シート。
 式(1):   1.4<S1/S100
 式(2):  0.05<S1<0.60
 上記式において、S1は、集電体の表面から活物質層の層厚1%以下の断面領域において、その全面積に対する、炭素原子を含む材料の合計面積の面積比を示し、
 S100は、集電体の表面から活物質層の層厚の1%を超える断面領域において、その全面積に対する、炭素原子を含む材料の合計面積の面積比を示す。
<2>活物質層が下記式(4)を満たす、<1>に記載の全固体二次電池用電極シート。
 式(4):
  0.010<(S1/S100)/L<0.100
 式(4)において、Lは活物質層の層厚を示し、S1及びS100は上述の通りである。
<3>活物質層がポリマーバインダー(C)と導電助剤(D)とを含有し、かつ、
 炭素原子を含む材料がポリマーバインダー(C)及び導電助剤(D)を含む、<1>又は<2>に記載の全固体二次電池用電極シート。
<4>ポリマーバインダー(C)が2種類以上のポリマーバインダーを含む、<3>に記載の全固体二次電池用電極シート。
<5>2種類以上のポリマーバインダーのうち少なくとも1種がゴム状ポリマーからなるポリマーバインダーである、<4>に記載の全固体二次電池用電極シート。
<6>活物質層が下記式(3)を満たす、<1>~<5>のいずれか1つに記載の全固体二次電池用電極シート。
 式(3): 0.005<S100<0.30
 式(3)において、S100は上述の通りである。
<7>下記振動試験前の電子伝導度σ1に対する下記振動試験後の電子伝導度σ2の変化率:(1-σ2/σ1)×100が50%未満である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の全固体二次電池用電極シート。
<振動試験>
 電極シートから直径10mmの円盤状シートを2枚打ち抜き、各円盤状シートの活物質層同士を対向させて積層し、積層方向に350MPaの圧力をかけて加圧し、厚み方向にSUS製の直径10mmの丸棒で、50MPaで拘束して、測定セルを作製する。
 この測定セルを、電極積層面と振動方向(振動面)とが平行になるように振動試験機にセットし、日本産業規格 D 1601に準拠した条件として、段階30、振動数33Hz、振動加速度30m/sの条件で、振動試験を実施する。
 振動試験前後の測定セルに、30℃の恒温槽中で5mVの電圧を印加し、直流電流抵抗を測定して、振動試験前の電子伝導度σ1及び振動試験後の電子伝導度σ2をそれぞれ算出する。
<8>正極と、負極と、正極及び負極の間の固体電解質層とを含む全固体二次電池であって、
 正極及び負極の少なくとも一方が、<1>~<7>のいずれか1つに記載の全固体二次電池用電極シートで構成されている、全固体二次電池。
 本発明の全固体二次電池用電極シートは、活物質層中における粒子密着力及び集電体と活物質層との層間密着力が強化されており、繰り返し振動を受けても性能、例えば電子伝導度の低下を抑制できる。同様に、本発明の全固体二次電池は、活物質層中における粒子密着力及び集電体と活物質層との層間密着力が強化されており、繰り返し振動を受けても電池性能の低下を抑制でき、例えば優れたサイクル特性を発現する。
 本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池用電極シートを模式化して示す縦断面図である。 図2は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
 本発明において、成分の含有量、物性等について、数値範囲を示して説明する場合、数値範囲の上限値及び下限値を別々に説明するときは、いずれかの上限値及び下限値を適宜に組み合わせて、特定の数値範囲とすることができる。一方、「~」を用いて表される数値範囲を複数設定して説明するときは、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、特定の数値範囲として「~」の前後に記載された特定の組み合わせに限定されず、各数値範囲の上限値と下限値とを適宜に組み合わせた数値範囲とすることができる。なお、本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
 本発明において化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
 本発明において、ポリマーは、重合体を意味し、いわゆる高分子化合物と同義である。重合体は単独重合体及び共重合体を包含し、共重合体は付加重合体、縮重合体等を含む。共重合体における構成成分の重合様式は、特に制限されず、ランダムでもブロック等でもよい。重合体は、架橋重合体でも非架橋重合体でもよい。
 本発明において、ポリマー及び重合鎖の主鎖とは、ポリマー又は重合鎖を構成する、それ以外のすべての分子鎖が、主鎖に対して枝分れ鎖若しくはペンダント基とみなしうる線状分子鎖をいう。枝分れ鎖若しくはペンダント基とみなす分岐鎖の質量平均分子量にもよるが、典型的には、ポリマー又は重合鎖を構成する分子鎖のうち最長鎖が主鎖となる。ただし、ポリマー又は重合鎖の末端が有する末端基は主鎖に含まない。また、ポリマーの側鎖とは、主鎖以外の分岐鎖をいい、短鎖及び長鎖を含む。
 本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタアクリルの一方又は両方を意味する。(メタ)アクリレートについても同様である。
 本発明において、ポリマーバインダー(単にバインダーともいう。)は、ポリマーで構成されたバインダーを意味し、ポリマーそのもの、及びポリマーを含んで構成(形成)されたバインダーを包含する。
[全固体二次電池用電極シート]
 本発明の全固体二次電池用電極シート(以下、単に電極シートということがある。)は、集電体の少なくとも一方の表面上に活物質層を備えた電極シートであって、活物質層が無機固体電解質(A)と活物質(B)とを有し、かつ後述する式(1)及び式(2)を満たしている。活物質層が無機固体電解質(A)と活物質(B)とを含有したうえで、後述する式(1)及び式(2)を満たすことにより、集電体の表面に設けられる第1仮想分割活物質層における粒子密着力及び層間密着力を強化しながら、十分な電子伝導性及びイオン伝導性(周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性)を確保できる。また、第1仮想分割活物質層と第2仮想分割活物質層との界面密着力も強化でき、第1仮想分割活物質層と第2仮想分割活物質層との剥離を抑制できる。その結果、本発明の電極シートは、繰り返し振動を受けても電子伝導度等の性能の低下を抑制できる。
 本発明の電極シートは、繰り返し振動を受けても電子伝導度の性能の低下を抑制でき、例えば、後記実施例欄に記載の振動試験前の電子伝導度σ1に対する振動試験後の電子伝導度σ2の変化率:(1-σ2/σ1)×100(%)が50%未満という優れた特性を達成でき、望ましくは40%未満の変化率を達成できる。なお、全固体二次電池用電極シートが集電体に積層された活物質層上に固体電解質層、保護層等の他の層を有する場合、これらの層を除去して振動試験を行う。
 上記優れた特性を示す本発明の電極シートは、全固体二次電池の電極として組み込まれることにより、サイクル特性に優れた全固体二次電池を実現できる。
 本発明において、「全固体二次電池用電極シート」は、全固体二次電池の構成部材である態様(二次電池に組み込まれた状態)と、本発明で規定する構成を備えている限り、全固体二次電池に組み込まれる前の、電極材である態様の両態様を包含する。したがって、「全固体二次電池用電極シート」の形態は、上記両態様に応じた形態を特に制限されずに適用され、例えば、シート状(フィルム状)であっても短冊状であってもよく、また長尺としても短尺(枚葉体)としてもよい。電極材である場合、長尺のシート状であることが好ましい。
 本発明の電極シートは、集電体の少なくとも一方の表面上に活物質層を備えていればよく、集電体の両表面上に活物質層を備えていてもよい。活物質層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
 本発明の電極シートは、上記構成を有していればよく、他の層(フィルム)を有していてもよい。他の層としては、例えば、保護層(剥離シート)、コート層等が挙げられる。更には電極シートを支持する基材を集電体とは別に有していてもよい。また、本発明の電極シートは、活物質層上に固体電解質層を有する積層体、更に固体電解質層上に別の活物質層を有する積層体とすることもできる。なお、本発明の電極シートは、集電体(後述する表面被覆層付集電体を含む。)と活物質層との間に他の層を有さず、集電体と活物質層とが接した状態に積層されている。
 本発明の電極シートのうち活物質層の総厚Lは、特に制限されず、電池の種類、電池性能等に応じて適宜に設定され、例えば、30~500μmが好ましく、50~350μmがより好ましく、100~350μmが更に好ましい。本発明の電極シートを全固体二次電池用の電極として用いる場合、本発明の電極シートを構成する上記各層の層厚は、後述する全固体二次電池において説明する各層の層厚と同じであり、後記実施例欄に記載の方法と同様にして測定された値とする。
 本発明の電極シートは、全固体二次電池用正極シート(単に、正極シートということがある。)として構成されても、全固体二次電池用負極シート(単に、負極シートということがある。)として構成されてもよく、用途等に応じて適宜に選択される。特に、上述の強固な密着力を利用して、繰り返される振動によって密着力が低下しやすい正極シート(正極活物質層)とされることが好ましい。
 図1は、本発明の電極シートの好ましい実施形態について、電極シートの長手方向に垂直な断面を模式的に示す図である。ただし、第1仮想分割活物質層23-L1等をより明瞭に示すため、活物質層23における厚さ方向については中間部分を省略している。また、集電体、活物質層及び各成分のサイズないし相対的な大小関係等は説明の便宜上変えている場合があり、また活物質層23を構成する各成分の存在位置及び存在量(含有量)等は説明の便宜上変えており、いずれも、実際の大小関係、存在位置、存在量等をそのまま示すものではない。なお、活物質層23の空白部分は、炭素原子を含む材料が存在しており、「斜線」でその断面を示すべきであるが、図1においては、視認しやすくするため、断面を示す「斜線」を省略している。
 以下、本発明の電極シートについて、適宜に図1を参照しながら、説明する。
 図1に示す電極シート21は、集電体22の一方の表面に活物質層23を有している。活物質層23は、無機固体電解質(A)31と、活物質(B)32と、図示しないポリマーバインダー(C)と、図示しない導電助剤(D)とを含有しており、場合によっては空隙33を有している。
<集電体>
 本発明の電極シートを構成する集電体は、二次電池に通常用いられるものであれば特に制限されず、電子伝導体が好ましい。集電体を形成する材料は、金属又は導電性樹脂が挙げられ、集電体の用途(正極集電体又は負極集電体)に応じて適宜の材料が選択されることが好ましい。例えば、正極集電体として用いる場合、材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタン等の他に、アルミニウム若しくはステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン若しくは銀で処理したもの(薄膜を形成したもので、表面被覆層付集電体ともいう。)等が挙げられ、中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。一方、負極集電体として用いる場合、材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金若しくはステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン若しくは銀で処理したもの(表面被覆層付集電体ともいう。)が挙げられ、中でも、銅、銅合金及びステンレス鋼がより好ましい。
 集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体等も用いることができる。
 集電体の厚さは、特に制限されず、例えば、3~50μmが好ましく、5~25μmがより好ましい。
 集電体の表面は、表面処理により凹凸を形成することも好ましい。
 本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に集電体と称することがある。
<活物質層>
 本発明の電極シートが有する活物質層は、無機固体電解質(A)と、活物質(B)とを含有し、炭素原子を含む材料、更には適宜に各種の添加剤を含有している。炭素原子を含む材料(炭素含有材料ということもある。)としては、全固体二次電池の活物質層を形成(構成)する材料(成分)のうち当該材料(成分)がその機能を示すのに必須の構成原子として炭素原子を含むものであればよく、例えば、後述する、負極活物質としての炭素材料、ポリマーバインダー(C)、導電助剤(D)、後述するその他の成分のうち炭素原子を含む材料が挙げられる。なお、本発明において、コアシェル粒子等の、ある成分の一部、例えば被覆層、表面層等が炭素原子を含有している場合、ある成分の残部(例えばコア)が炭素原子を含有していなくても、ある成分全体を炭素含有材料とする。一方、炭素原子を必須の構成原子としない活物質(例えば、金属酸化物、ケイ素)が炭素コートされている場合、この炭素コートされた活物質は炭素含有材料には該当しない。活物質層は有機固体電解質を含有していないことが好ましい。各成分の詳細については後述する。
 本発明において、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか、又は、両方を合わせて、単に活物質層と称することがある。
 活物質層は、その厚さ方向の断面において、活物質層を構成する材料の存在(含有)状態に着目すると、下記式(1)及び式(2)を満たしている。
 本発明において、活物質層の断面は、電極シートをその長手方向に沿って切断したときの断面であってもよく、また電極シートをその長手方向に垂直に切断したときの断面(図1に示す断面)であってもよい。
 
 式(1):   1.4<S1/S100
 式(2):  0.05<S1<0.60
 
 式(1)及び式(2)において、S1は、集電体の表面から活物質層の層厚1%以下の断面領域において、その全面積に対する、炭素原子を含む材料の合計面積の面積比を示す。本発明において、断面領域の全面積とは、当該断面に現れる活物質層を構成する成分の合計面積(実断面積)をいい、断面に現れる空隙部分の面積を算入しない。
 上記S1は、換言すると、活物質層23について、その厚さ方向に100等分した100層の仮想分割活物質層を想定して、集電体22側から活物質層23の表面に向かって順に第1仮想分割活物質層23-L1~第100仮想分割活物質層23-L100とした場合に、第1仮想分割活物質層23-L1において、その全面積S-L1Aに対する、炭素原子を含む材料の合計面積S-L1Cの面積比:(S-L1C)/(S-L1A)ということもできる。
 式(1)において、S100は、集電体の表面から活物質層の層厚の1%を超える断面領域において、その全面積に対する、炭素原子を含む材料の合計面積の面積比を示す。
 上記S100は、換言すると、活物質層23について、その厚さ方向に100等分した100層の仮想分割活物質層を想定して、集電体22側から活物質層23の表面に向かって順に第1仮想分割活物質層23-L1~第100仮想分割活物質層23-L100とした場合に、第2仮想分割活物質層23-L2から第100仮想分割活物質層23-L100までの仮想分割活物質層99層全体において、その全面積S-L2-100Aに対する、炭素原子を含む材料の合計面積S-L2-100Cの面積比:(S-L2-100C)/(S-L2-100A)ということもできる。
 本発明者らは、上述のように、活物質層を構成する成分、例えば、ポリマーバインダー(C)と、無機固体電解質(A)、活物質(B)及び導電助剤(D)との存在状態に着目して検討を進めたところ、集電体近傍に導電助剤(D)を存在させて、集電体との電子伝導性を確保したうえで、活物質層を構成する成分のうち、通常無機物で含有量の高い無機固体電解質(A)及び活物質(B)に対する、有機物で含有量の低いポリマーバインダー(C)の存在状態が密着力の強化に寄与することを見出した。更に検討を進めたところ、活物質層中における炭素含有材料を、式(1)及び式(2)を満たすように、集電体近傍に存在(偏在)させることによって、電子伝導性及びイオン伝導性を維持しながらも、粒子密着力、界面密着力及び層間密着力のいずれの密着力をもバランスよく強化できることを、種々の実験を通して、見出した。
 本発明において、炭素含有材料としては、上述の各成分のなかでも、ポリマーバインダー(C)及び導電助剤(D)を含むことが好ましく、ポリマーバインダー(C)及び導電助剤(D)であることがより好ましい。
 本発明において、S1は、第1仮想分割活物質層23-L1における炭素含有材料の存在割合(偏在状態)を規定するものであり、第1仮想分割活物質層23-L1中における粒子密着力及び層間密着力の強化と、集電体及び第1仮想分割活物質層23-L1の層間での両伝導性(イオン伝導性及び電子伝導性)とをバランスよく両立させることに寄与する。そのため、活物質層が式(2)を満たすと、粒子密着力及び層間密着力の強化と両伝導性に優れた活物質層となる。また、第1仮想分割活物質層23-L1を活物質層の全層厚の1%に相当する厚さ領域とすることにより、両伝導性を維持しながら、第2仮想分割活物質層23-L2との界面密着力を補強することもできる。
 S1の下限値は、両伝導性を維持しながら粒子密着力及び層間密着力を更に強化できる点で、0.10以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.40以上であることが更に好ましく、0.45以上であることが特に好ましい。一方、S1の上限値は、粒子密着力及び層間密着力を維持しながら優れた両伝導性を確保できる点で、0.59以下であることが好ましく、0.58以下であることがより好ましく、0.57以下であることが更に好ましく、0.55以下であることが特に好ましい。
 S1の測定方法は実施例欄にて後述する。
 本発明において、第1仮想分割活物質層23-L1に存在する炭素含有材料について、ポリマーバインダー(C)と導電助剤(D)との存在比(含有量比)は、特に制限されず、密着力及び伝導性のバランス等を考慮して、適宜に決定することができる。例えば、ポリマーバインダー(C)の含有量Cと導電助剤(D)の含有量Cとの質量比(C:C)としては、1.0:0.0005~1:1.0であることが好ましく、1.0:0.01~1:0.70であることがより好ましい。なお、この質量比(C:C)は、第1電極組成物の塗布量によっては、下記仮想分割活物質層99層全体における質量比と同じ範囲とすることもできる。
 本発明において、S1/S100は、第1仮想分割活物質層23-L1と、第2仮想分割活物質層23-L2から第100仮想分割活物質層23-L100までの仮想分割活物質層99層全体との炭素含有材料の存在割合(偏在状態)の比率を規定するものである。このS1/S100は、第1仮想分割活物質層23-L1及び第2仮想分割活物質層23-L2の間の界面密着力、並びに仮想分割活物質層99層全体における粒子密着力の強化と、仮想分割活物質層99層全体における両伝導性とをバランスよく両立させることに寄与する。活物質層は、通常、構成する成分が変化する界面、例えば、本発明の活物質層においては第1仮想分割活物質層23-L1と第2仮想分割活物質層23-L2との界面が繰り返される振動によって剥離しやすい。しかし、活物質層が式(1)を満たすと、界面密着力が特に強化され、界面密着力及び粒子密着力と両伝導性に優れた活物質層となる。
 S1/S100は、両伝導性を確保しながら界面密着力及び粒子密着力を更に強化できる点で、1.4以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、4.0以上であることが更に好ましい。一方、S1/S100の上限値は、特に制限されず、適宜に決定することができ、例えば、密着力を維持しながら優れた両伝導性を確保できる点で、100以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、7.0以下であることが更に好ましい。
 S1/S100の測定方法は実施例欄にて後述する。
 本発明において、活物質層が式(1)及び式(2)を同時に満たすと、活物質層において、両伝導性を確保しながらも、粒子密着力、層間密着力及び界面密着力をバランスよく強化することができ、繰り返される振動を受けても固体粒子の結着状態の崩壊を効果的に抑制できる。
 本発明において、S100は、第2仮想分割活物質層23-L2から第100仮想分割活物質層23-L100までの仮想分割活物質層99層全体における炭素含有材料の存在割合(偏在状態)を規定するものである。このS100は、仮想分割活物質層99層全体における粒子密着力の強化と、仮想分割活物質層99層全体における両伝導性とをバランスよく両立させることに寄与し、更に、上記式(1)による界面密着力の強化を補強することができる。S100は、上記式(1)等を考慮して適宜の範囲に設定することができる。例えば、粒子密着力及び界面密着力を強化しながらも両伝導性を確保できる点で、活物質層は下記式(3)を満たすことが好ましい。
 
 式(3): 0.005<S100<0.30
 
 S100の下限値は、両伝導性を確保しながら粒子密着力及び界面密着力を更に強化できる点で、0.006以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.05以上であることが更に好ましい。一方、S100の上限値は、密着力を維持しながら優れた両伝導性を確保できる点で、0.20以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましい。
 S100の測定方法は実施例欄にて後述する。
 本発明において、仮想分割活物質層99層全体に存在する炭素含有材料について、ポリマーバインダー(C)と導電助剤(D)との存在比(含有量比)は、特に制限されず、密着力及び伝導性のバランス等を考慮して、適宜に決定することができる。例えば、ポリマーバインダー(C)の含有量Cと導電助剤(D)の含有量Cとの質量比(C:C)としては、1.0:0.3~1:20であることが好ましく、1.0:0.6~1:12であることがより好ましい。
 本発明において、活物質層は、密着力を更に強化でき、また両伝導性を確保できる点で、下記式(4)を満たすことが好ましい。
 
 式(4):
  0.010<(S1/S100)/L<0.100
 
 式(4)において、Lは活物質層の層厚を示し、S1及びS100は上述の通りである。
 上記「(S1/S100)/L」は、第1仮想分割活物質層23-L1と仮想分割活物質層99層全体との炭素含有材料の存在割合の比率を活物質層の全層厚Lで除したものであり、活物質層の全層厚Lに対する第1仮想分割活物質層23-L1の好適な層厚等を間接的に規定するものである。
 (S1/S100)/Lは、密着力の強化及び両伝導性の確保の点で、0.011~0.030であることが好ましく、0.015~0.030であることがより好ましく、0.015~0.027であることが更に好ましい。
 活物質層の層厚Lは、上述の通りであるが、活物質層を後述する好ましい方法で形成する場合、活物質層において、第1電極組成物(乾燥後)の層厚TC1は、特に制限されず、例えば、0.1~1.5μmとすることができ、0.2~1.0μmであることが好ましい。この層厚TC1は、集電体の表面から活物質層の層厚1%までの層厚(第1仮想分割活物質層23-L1の層厚)TL1に対する比[TC1/TL1]として、0.10~0.80とすることができ、0.10~0.70であることが好ましく、0.40~0.60であることがより好ましい。層厚TC1は後記実施例欄に記載の方法と同様にして測定された値とする。
 以下に、活物質層を形成する成分について説明する。
<無機固体電解質(A)>
 活物質層は、無機固体電解質(A)を含有している。
 本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンに解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF、LiBF、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClなど)とも明確に区別される。
 無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば、特に限定されず、電子伝導性を有さないものが一般的である。本発明の全固体二次電池がリチウムイオン電池の場合、無機固体電解質は、リチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
 上記無機固体電解質は、全固体二次電池に通常使用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。例えば、無機固体電解質(A)としては、(i)硫化物系無機固体電解質、(ii)酸化物系無機固体電解質、(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質、及び、(iv)水素化物系無機固体電解質が挙げられる。
 無機固体電解質(A)は、炭素原子を含有しないものが好ましく、例えば、(i)硫化物系無機固体電解質、(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質、及び、(iv)水素化物系無機固体電解質がより好ましく、後述する活物質(B)との間に良好な界面を形成することができる観点から、(i)硫化物系無機固体電解質が更に好ましい。
(i)硫化物系無機固体電解質
 硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、適宜に、Li、S及びP以外の他の元素(炭素原子を除く。)を含んでもよい。
 硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(I)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
 
   La1b1c1d1e1 (I)
 
 式(I)中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
 各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
 硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
 硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
 Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度が好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
 具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、LiS-P、LiS-P-LiCl、LiS-P-HS、LiS-P-HS-LiCl、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiS-P-SiS-LiCl、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
(ii)酸化物系無機固体電解質
 酸化物系無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
 酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
 具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO〔xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。〕(LLT); LixbLaybZrzbbb mbnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。); Lixcyccc zcnc(MccはS、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xcは0<xc≦5を満たし、ycは0<yc≦1を満たし、zcは0<zc≦1を満たし、ncは0<nc≦6を満たす。); Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。); Li(3-2xe)ee xeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。); LixfSiyfzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。); Lixgygzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。); LiBO; LiBO-LiSO; LiO-B-P; LiO-SiO; LiBaLaTa12; LiPO(4-3/2w)(wはw<1); LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO; ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO; NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12; Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。); ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。
 またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO); リン酸リチウムの酸素元素の一部を窒素元素で置換したLiPON; LiPOD(Dは、好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。
 更に、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる1種以上の元素である。)等も好ましく用いることができる。
(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質
 ハロゲン化物系無機固体電解質は、ハロゲン原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
 ハロゲン化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiCl、LiBr、LiI、ADVANCED MATERIALS,2018,30,1803075に記載のLiYBr、LiYCl等の化合物が挙げられる。中でも、LiYBr、LiYClが好ましい。
(iv)水素化物系無機固体電解質
 水素化物系無機固体電解質は、水素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
 水素化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiBH、Li(BHI、3LiBH-LiCl等が挙げられる。
 無機固体電解質(A)は粒子であることが好ましい。粒子の形状は、特に制限されず、偏平状、無定形等であってもよいが、球状若しくは顆粒状が好ましい。無機固体電解質(A)が粒子状である場合、無機固体電解質の粒子径(体積平均粒子径)は、特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。無機固体電解質(A)を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機を用いればよく、例えば負極活物質で説明する方法が挙げられる。
 無機固体電解質の粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質の粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散液試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要により日本産業規格(JIS) Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
 無機固体電解質(A)は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 活物質層において、単位面積(cm)当たりの無機固体電解質と活物質との合計質量(mg)(目付量)は、特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cmが好ましい。
 無機固体電解質(A)の、活物質層中の含有量は、イオン伝導性及び密着力の点で、併用する活物質(B)との合計含有量として、固形分100質量%において、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
 各仮想分割活物質中における無機固体電解(A)の含有量は、活物質層全体の上記含有量を考慮して、上記式(1)及び式(2)、好ましくは更に上記式(3)及び/又は式(4)を満たす範囲内において、適宜に決定される。
<活物質(B)>
 活物質(B)は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能なものである。このような活物質としては、以下に説明する、正極活物質及び負極活物質が挙げられ、活物質層は本発明の電極の用途に応じて正極活物質又は負極活物質を含有する。
 活物質(B)は、炭素原子を含有しないものが好ましく、正極活物質としては遷移金属酸化物(好ましくは遷移金属酸化物)がより好ましく、負極活物質としては、金属酸化物若しくはSn、Si、Al及びIn等のリチウムと合金形成可能な金属がより好ましい。
 本発明において、正極活物質及び負極活物質のいずれか、又は両方を合わせて、単に、活物質又は電極活物質と称することがある。
(正極活物質)
 正極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質であり、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物、又は、有機物、硫黄などのLiと複合化できる元素などでもよい。
 中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素M(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素M(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P及びBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Mの量(100mol%)に対して0~30mol%が好ましい。Li/Mのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
 遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
 (MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])及びLiNi0.5Mn0.5(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
 (MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn(LMO)、LiCoMnO、LiFeMn、LiCuMn、LiCrMn及びLiNiMnが挙げられる。
 (MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO及びLiFe(PO等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP等のピロリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類並びにLi(PO(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
 (MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、LiFePOF等のフッ化リン酸鉄塩、LiMnPOF等のフッ化リン酸マンガン塩及びLiCoPOF等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
 (ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、LiFeSiO、LiMnSiO、LiCoSiO等が挙げられる。
 本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
 正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質が粒子状である場合、正極活物質の(体積平均)粒子径(球換算平均粒子径)は特に制限されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機を用いればよく、例えば負極活物質で説明する方法が挙げられる。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶媒にて洗浄した後使用してもよい。正極活物質粒子の粒子径は、無機固体電解質の粒子径の測定と同様にして測定することができる。
 正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 正極活物質層を形成する場合、正極活物質層において、単位面積(cm)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cmが好ましい。
 正極活物質の、活物質層中における含有量は、特に制限されず、10~97質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましく、40~93質量%が更に好ましく、50~90質量%が特に好ましい。
 各仮想分割活物質中における正極活物質の含有量は、活物質層全体の上記含有量を考慮して、上記式(1)及び式(2)、好ましくは更に上記式(3)及び/又は式(4)を満たす範囲内において、適宜に決定される。
(負極活物質)
 負極活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な活物質であり、可逆的にリチウムイオンを挿入及び放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金形成可能(合金化可能)な負極活物質等が挙げられる。中でも、金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金形成可能な負極活物質が好ましく、金属複合酸化物又はリチウム単体が信頼性の点からより好ましい。全固体二次電池の大容量化が可能となる点では、リチウムと合金化可能な活物質がより好ましい。
 負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維及び活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー並びに平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
 これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料(ハードカーボンともいう。)と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62-22066号公報、特開平2-6856号公報、同3-45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料である必要はなく、特開平5-90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6-4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
 炭素質材料としては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。
 負極活物質として適用される金属若しくは半金属元素の酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な酸化物であれば特に制限されず、金属元素の酸化物(金属酸化物)、金属元素の複合酸化物若しくは金属元素と半金属元素との複合酸化物(まとめて金属複合酸化物という。)、半金属元素の酸化物(半金属酸化物)が挙げられる。これらの酸化物としては、非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイドも好ましく挙げられる。本発明において、半金属元素とは、金属元素と非半金属元素との中間の性質を示す元素をいい、通常、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルの6元素を含み、更にはセレン、ポロニウム及びアスタチンの3元素を含む。また、非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。2θ値で40°~70°に見られる結晶性の回折線の内最も強い強度が、2θ値で20°~40°に見られるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましく、結晶性の回折線を有さないことが特に好ましい。
 上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物又は上記カルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素(例えば、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBi)から選択される1種単独若しくはそれらの2種以上の組み合わせからなる(複合)酸化物、又はカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga、GeO、PbO、PbO、Pb、Pb、Pb、Sb、Sb、SbBi、SbSi、Sb、Bi、Bi、GeS、PbS、PbS、Sb又はSbが好ましく挙げられる。
 Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び/又は放出できる炭素質材料、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金化可能な負極活物質が好適に挙げられる。
 金属若しくは半金属元素の酸化物、とりわけ金属(複合)酸化物及び上記カルコゲナイドは、構成成分として、チタン及びリチウムの少なくとも一方を含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。リチウムを含有する金属複合酸化物(リチウム複合金属酸化物)としては、例えば、酸化リチウムと上記金属(複合)酸化物若しくは上記カルコゲナイドとの複合酸化物、より具体的には、LiSnOが挙げられる。
 負極活物質、例えば金属酸化物は、チタン元素を含有すること(チタン酸化物)も好ましい。具体的には、LiTi12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
 負極活物質としてのリチウム合金としては、二次電池の負極活物質として通常用いられる合金であれば特に制限されず、例えば、リチウムアルミニウム合金、具体的には、リチウムを基金属とし、アルミニウムを10質量%添加したリチウムアルミニウム合金が挙げられる。
 リチウムと合金形成可能な負極活物質は、二次電池の負極活物質として通常用いられるものであれば特に制限されない。このような活物質は、全固体二次電池の充放電による膨張収縮が大きく、サイクル特性の低下を加速させるが、本発明の無機固体電解質含有組成物は上述のバインダーを含有するため、サイクル特性の低下を抑制できる。このような活物質として、ケイ素元素若しくはスズ元素を有する(負極)活物質(合金等)、Al及びIn等の各金属が挙げられ、より高い電池容量を可能とするケイ素元素を有する負極活物質(ケイ素元素含有活物質)が好ましく、ケイ素元素の含有量が全構成元素の50モル%以上のケイ素元素含有活物質がより好ましい。
 一般的に、これらの負極活物質を含有する負極(例えば、ケイ素元素含有活物質を含有するSi負極、スズ元素を有する活物質を含有するSn負極等)は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量(エネルギー密度)を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
 ケイ素元素含有活物質としては、例えば、Si、SiO(0<x≦1)等のケイ素材料、更には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、ランタン等を含むケイ素含有合金(例えば、LaSi、VSi、La-Si、Gd-Si、Ni-Si)、又は組織化した活物質(例えば、LaSi/Si)、他にも、SnSiO、SnSiS等のケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。なお、SiOは、それ自体を負極活物質(半金属酸化物)として用いることができ、また、全固体二次電池の稼働によりSiを生成するため、リチウムと合金化可能な負極活物質(その前駆体物質)として用いることができる。
 スズ元素を有する負極活物質としては、例えば、Sn、SnO、SnO、SnS、SnS、更には上記ケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。また、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、LiSnOを挙げることもできる。
 本発明においては、上述の負極活物質を特に制限されることなく用いることができるが、電池容量の点では、負極活物質として、リチウムと合金化可能な負極活物質が好ましい態様であり、中でも、上記ケイ素材料又はケイ素含有合金(ケイ素元素を含有する合金)がより好ましく、ケイ素(Si)又はケイ素含有合金を含むことが更に好ましい。
 上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
 負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質が粒子状である場合、負極活物質の粒子径は、0.1~60μmが好ましい。
 所定の粒子径に調整する方法は、特に制限されず、公知の方法を適用でき、例えば、通常の粉砕機又は分級機を用いる方法が挙げられる。粉砕機又は分級機としては、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩などが好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては、特に制限はなく、篩、風力分級機などを必要に応じて用いることができる。分級は乾式、湿式ともに用いることができる。負極活物質粒子の粒子径は、無機固体電解質の粒子径の測定と同様にして測定することができる。
 上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
 負極活物質層を形成する場合、負極活物質層において、単位面積(cm)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cmが好ましい。
 負極活物質の、活物質層中における含有量は特に制限されず、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%がより好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが更に好ましい。
 各仮想分割活物質中における負極活物質の含有量は、活物質層全体の上記含有量を考慮して、上記式(1)及び式(2)、好ましくは更に上記式(3)及び/又は式(4)を満たす範囲内において、適宜に決定される。
(活物質の被覆)
 正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、LiTi12、LiTi、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、Li、LiPO、LiMoO、LiBO、LiBO、LiCO、LiSiO、SiO、TiO、ZrO、Al、B等が挙げられる。
 また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
 更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
<ポリマーバインダー(C)>
 活物質層は、炭素含有材料の1種としてポリマーバインダー(C)を含有していることが好ましい。
 ポリマーバインダー(C)としては、全固体二次電池の活物質層に通常用いられるポリマーバインダーを特に制限されることなく用いることができる。
 ポリマーバインダー(C)としては、例えば、各種のポリマーからなるバインダーが挙げられ、ゴム状ポリマーからなるバインダー、非ゴム状ポリマーからなるバインダーが挙げられる。
 本発明において、ゴム状ポリマーとは常温でゴム弾性を示すポリマーをいい、例えば、ヤング率(日本産業規格(JIS) K 7161)が0.001~0.030GPaを示すポリマーが挙げられる。これに対して、非ゴム状ポリマーとは常温でゴム弾性を示さないポリマーをいう。
 ゴム状ポリマーとしては、特に制限されず、例えば、熱可塑性エラストマー及びゴムが挙げられる。ゴムとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、又は、これらの水素添加ゴム、例えば水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)等の炭化水素ゴム;ポリビニリデンジフルオリド(PVdF)、ビニリデンフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素ゴム;アクリルポリマー等のアクリル系ゴム;エチレン-プロピレンゴム;セルロースゴム等が挙げられる。
 熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー又はその水素化物等が挙げられる。スチレン系エラストマーとしては、特に制限されないが、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、水素化(水添)SEBS、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SIS、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素化SBS、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、水素化SIBS、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)等が挙げられる。
 ゴム状ポリマーとしては、炭化水素ゴム、アクリル系ゴム、スチレン系エラストマーが好ましい。
 非ゴム状ポリマーとしては、特に制限されず、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリル(PMMA)、アクリル酸アルキルエステルの(共)重合体等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC);ポリエチレン(PE)、超高分子量ポリエチレン(U-PE)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンとの共重合体(ABS)、アクリロニトリルとスチレンとの共重合体(AS)等の炭化水素樹脂;ポリスチレン(PS);ポリビニルアルコール(PVA);ポリ塩化ビニリデン(PVDC);ポリアセタール(POM);ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂;ポリスルホン(PSU);ポリエーテルスルホン(PES);ポリフェニレンサルファイド(PPS);ポリアリレート(PAR);ポリアミドイミド(PAI);ポリエーテルイミド(PEI);ポリウレタン;ポリウレア;ポリアミド;ポリイミド;ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)等のポリエステル;ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のポリエーテル;ポリカーボネート;液晶ポリマー(LCP)が挙げられる。
 非ゴム状ポリマーとしては、アクリル樹脂が好ましい。
 ポリマーバインダー(C)を形成するポリマーは、直鎖状ポリマー、すなわち側鎖成分として重合鎖を有さないポリマー、例えばマクロモノマー由来の構成成分を有さないポリマーであることが好ましい。マクロモノマーとしては、例えば、特許文献1に記載のマクロモノマーAが挙げられる。このマクロモノマーAとしては、特許文献1に記載の内容を適宜参照することができ、その内容はそのまま本明細書の記載の一部として取り込まれる。
 - ポリマー又はポリマーバインダーの物性若しくは特性等 -
 ポリマーバインダー(C)又はそれを形成するポリマーは、下記の物性若しくは特性等を有することが好ましい。
 ポリマーバインダー(C)は、活物質層を形成する電極組成物に含有される分散媒に対して溶解する特性(可溶性)を示すことが好ましい。分散媒に溶解するポリマーバインダーを溶解型バインダーという。電極組成物中でのポリマーバインダー(C)は、その含有量、後述する溶解度、分散媒の含有量等にもよるが、通常、電極組成物中において分散媒に溶解した状態で存在する。これにより、電極組成物中においてポリマーバインダー(C)が活物質(B)に適度に吸着した状態を維持しながら活物質層が形成されるため、活物質層中における上述の各密着力を効果的に補強できる。
 本発明において、ポリマーバインダー(C)が分散媒に溶解するとは、例えば、溶解度測定において分散媒に対する溶解度が10質量%以上であることをいう。一方、ポリマーバインダー(C)が分散媒に溶解しない(不溶性)とは、溶解度測定において分散媒に対する溶解度が10質量%未満であることをいう。溶解度の測定方法は次の通りである。
 測定対象とするポリマーバインダー(C)をガラス瓶内に規定量秤量し、そこへ電極組成物が含有する分散媒と同じ分散媒100gを添加し、25℃の温度下、ミックスローター上において80rpmの回転速度で24時間攪拌する。こうして得られた24時間攪拌後の混合液の透過率を以下条件により測定する。この試験(透過率測定)についてポリマーバインダー(C)の溶解量(上記規定量)を変更して行い、透過率が99.8%となる上限濃度X(質量%)をポリマーバインダー(C)の上記分散媒に対する溶解度とする。
<透過率測定条件>
 動的光散乱(DLS)測定
 装置:大塚電子製DLS測定装置 DLS-8000
 レーザ波長、出力:488nm/100mW
 サンプルセル:NMR管
 ポリマーバインダー(C)が粒子状である場合(電極組成物に含有される分散媒に対して溶解しない場合)、その形状は、特に制限されず、偏平状、無定形等であってもよいが、球状若しくは顆粒状が好ましい。この場合、電極組成物中において、粒子状のポリマーバインダー(C)の平均粒子径は、特に制限されないが、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることが更に好ましい。上限値としては、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。ポリマーバインダー(C)の平均粒子径は、上記無機固体電解質の粒子径と同様にして測定できる。ポリマーバインダー(C)の平均粒子径は、例えば、分散媒の種類、ポリマーバインダーを形成するポリマーの組成等により、調整できる。
 ポリマーの質量平均分子量は、特に制限されない。例えば、5000以上が好ましく、30000以上がより好ましく、50000以上が更に好ましい。上限としては、5000000以下が実質的であるが、500000以下が好ましく、300000以下がより好ましく、200000以下が更に好ましい。
 ポリマーの質量平均分子量は、重合開始剤等の種類、含有量、重合時間、重合温度等を変更することにより、適宜に調整できる。
 - 分子量の測定 -
 本発明において、ポリマー又は重合鎖(重合鎖を有する構成成分)の分子量については、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の質量平均分子量をいう。その測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)に設定した方法が挙げられる。ただし、ポリマー又は重合鎖の種類によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
  カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-H(商品名、東ソー社製)を2本つなげる
  キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
  測定温度:40℃
  キャリア流量:1.0ml/min
  試料濃度:0.1質量%
  検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
  カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000(いずれも商品名、東ソー社製)をつないだカラムを用いる。
  キャリア:テトラヒドロフラン
  測定温度:40℃
  キャリア流量:1.0ml/min
  試料濃度:0.1質量%
  検出器:RI(屈折率)検出器
 ポリマーの水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。また、このポリマーは、晶析させて乾燥させてもよく、ポリマー液をそのまま用いてもよい。
 ポリマーは、非晶質であることが好ましい。本発明において、ポリマーが「非晶質」であるとは、典型的には、ガラス転移温度で測定したときに結晶融解に起因する吸熱ピークが見られないことをいう。
 ポリマーは、非架橋ポリマーであっても架橋ポリマーであってもよい。また、加熱又は電圧の印加によってポリマーの架橋が進行した場合には、上記分子量より大きな分子量となっていてもよい。好ましくは、全固体二次電池の使用開始時にポリマーが上述の範囲の質量平均分子量であることである。
 活物質層が含有するポリマーバインダー(C)は、1種でもよいが、密着力の点で、2種以上であることが好ましく、例えば、2~5種とすることができ、2種又は3種であることがより好ましい。
 活物質層が1種のポリマーバインダー(C)を含有する場合、繰り返される振動、搬送時の曲げ応力等に対してよく追従して、上述の各密着力の低下を抑制できる点で、ゴム状ポリマーからなるバインダーであることが好ましい。
 一方、活物質層が2種以上のポリマーバインダー(C)を含有する場合、繰り返される振動、搬送時の曲げ応力等に対してよく追従して、上述の各密着力の低下を抑制できる点で、2種以上のポリマーバインダー(C)の少なくとも1種はゴム状ポリマーからなるバインダーであることが好ましい。2種以上のポリマーバインダー(C)は、そのすべてがゴム状ポリマーからなるバインダーであってもよいが、少なくとも1種は非ゴム状ポリマーからなるバインダーであることが好ましく、少なくとも1種のゴム状ポリマーからなるバインダーと少なくとも1種の非ゴム状ポリマーからなるバインダーとの組み合わせが、密着力を更に強化でき、しかも応力に対する過度な変形を抑制できる点で、好ましい。
 活物質層のうち第1仮想分割活物質層23-L1は、ゴム状ポリマーからなるバインダーを含有していることが好ましく、第2仮想分割活物質層23-L2~第99仮想分割活物質層23-L99は、ゴム状ポリマーからなるバインダー又は非ゴム状ポリマーからなるバインダーを含有していることが好ましく、非ゴム状ポリマーからなるバインダーを含有していることがより好ましい。
 活物質層全体におけるポリマーバインダー(C)の含有量は、特に制限されず、0.01質量%以上とすることができるが、密着力及び両伝導性の点で、例えば、0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.2~4.0質量%であることがより好ましく、0.3~2.0質量%であることが更に好ましい。
 第1仮想分割活物質層23-L1におけるポリマーバインダー(C)の含有量は、活物質層全体の上記含有量を考慮して、上記式(1)及び式(2)、好ましくは更に上記式(3)及び/又は式(4)を満たす範囲内において、適宜に設定される。例えば、密着力及び両伝導性の点で、例えば、3質量%以上とすることができ、10質量%以上100質量%未満であることが好ましく、25質量%以上100質量%未満であることがより好ましい。上限値としては、例えば、60質量%とすることもできる。
 第2仮想分割活物質層23-L2~第99仮想分割活物質層23-L99の99層中におけるポリマーバインダー(C)の含有量は、活物質層全体の上記含有量を考慮して、上記式(1)及び式(2)、好ましくは更に上記式(3)及び/又は式(4)を満たす範囲内において、適宜に設定され、例えば、上記活物質層全体における含有量と同じ範囲であることが好ましい。
<導電助剤(D)>
 活物質層は、導電助剤(D)を含有していることが好ましく、炭素原子を含む導電助剤を含有していることが好ましい。導電助剤(D)としては、特に制限はなく、一般的な導電助剤として知られているものを用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子を用いてもよい。
 本発明においては、導電助剤(D)は、炭素含有材料の1つとして、黒鉛類、カーボンブラック類、無定形炭素、炭素繊維類、炭素質材料を含むことが好ましい。
 本発明において、上記の導電助剤のうち、電池を充放電した際に周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン(好ましくはLiイオン)の挿入と放出が起きず、活物質として機能しないものを導電助剤とする。したがって、導電助剤の中でも、電池を充放電した際に活物質層中において活物質として機能しうるものは、導電助剤ではなく活物質に分類する。電池を充放電した際に活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、活物質との組み合わせにより決定される。
 導電助剤(D)は、1種を含有していてもよいし、2種以上を含有していてもよい。
 導電助剤(D)の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。
 活物質層中の導電助剤(D)の含有量は、特に制限されないが、密着力及び両伝導性の点で、例えば、0質量%を超え20質量%以下であることが好ましく、0.05~5質量%であることがより好ましい。
 第1仮想分割活物質層23-L1における導電助剤(D)の含有量は、活物質層全体の上記含有量を考慮して、上記式(1)及び式(2)、好ましくは更に上記式(3)及び/又は式(4)を満たす範囲内において、適宜に設定され、例えば、10質量%以下とすることができる。
<添加剤>
 活物質層は、上記各成分以外の他の成分として、所望により、イオン液体、リチウム塩(支持電解質)、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等の添加剤を、適宜の含有量で、含有することができる。
 本発明において、活物質層が含有する添加剤のうち炭素原子を有するものは、上記炭素含有材料の1種とする。
 リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486の段落[0082]~[0085]に記載のリチウム塩が好ましい。イオン液体は、イオン伝導度をより向上させるため含有されるものであり、公知のものを特に制限されることなく用いることができる。
[電極シートの製造方法]
 本発明の電極シートの製造方法は、特に制限されず、無機固体電解質(A)、活物質(B)及び分散媒を含有する電極組成物(活物質層形成用組成物)を、集電体の表面で製膜(塗布乾燥)する方法が挙げられる。なお、電極シートの製造方法は、大気下で実施することもできるが、乾燥空気(露点-20℃以下)下又は不活性ガス(例えばアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス)等の環境下で、実施されることが好ましい。
 上記式(1)及び式(2)、好ましくは更に上記式(3)及び/又は式(4)を満たす活物質層を形成する方法及び条件としては、種々の方法が挙げられ、例えば、電極組成物の組成、粘度、更に電極組成物の製膜方法若しくは製膜条件等を変更する方法が挙げられる。具体的には、炭素含有材料として無機固体電解質(A)等よりも比重が大きなものを選択して、塗布後から乾燥開始までの時間を長くして塗布乾燥する方法が挙げられる。また、電極組成物の乾燥温度の高温化、ポリマーバインダー(C)と分散媒との親和性向上等により、ポリマーバインダー(C)の塗装膜中での拡散(偏在)を調整でき、その結果、S1を低下させることが可能となる。
 活物質層を形成する好ましい方法としては、第1電極組成物を集電体の表面で製膜し、次いで、第2電極組成物を第1電極組成物層の表面で製膜する方法が挙げられる。この方法で形成された活物質層は、第1電極組成物からなる層と第2電極組成物からなる層とがそれらの界面近傍で混合していることもある。
 第1電極組成物は、炭素含有材料と分散媒とを含有していればよく、更に、無機固体電解質(A)及び活物質(B)、また適宜に添加剤を含有していてもよい。各成分は上述の通りである。
 第1電極組成物が含有するポリマーバインダー(C)は、1種でも2種以上でもよいが、少なくとも1種のゴム状ポリマーからなるバインダーを含むことが好ましい。
<分散媒>
 第1電極組成物が含有する分散媒は、使用環境において液状を示し、上記各成分を分散若しくは溶解するものであればよく、例えば、各種有機溶媒が挙げられ、具体的には、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族炭化水素化合物、脂肪族炭化水素化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等が挙げられる。
 分散媒としては、非極性分散媒(疎水性の分散媒)でも極性分散媒(親水性の分散媒)でもよいが、非極性分散媒が好ましい。非極性分散媒とは、一般に水に対する親和性が低い性質を意味し、本発明においては、例えば、エステル化合物、ケトン化合物、エーテル化合物、芳香族炭化水素化合物、脂肪族炭化水素化合物等が挙げられる。
 アルコール化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。
 エーテル化合物としては、例えば、アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等)、アルキレングリコールモノアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、アルキレングリコールジアルキルエーテル(エチレングリコールジメチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)等)が挙げられる。
 アミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
 アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
 ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン(DIBK)、イソブチルプロピルケトン、sec-ブチルプロピルケトン、ペンチルプロピルケトン、ブチルプロピルケトンなどが挙げられる。
 芳香族炭化水素化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、パーフルオロトルエン等が挙げられる。
 脂肪族炭化水素化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、パラフィン、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油等が挙げられる。
 ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
 エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、ペンタン酸ブチル、ペンタン酸ペンチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸イソブチル、ピバル酸プロピル、ピバル酸イソプロピル、ピバル酸ブチル、ピバル酸イソブチルなどが挙げられる。
 本発明においては、中でも、エーテル化合物、ケトン化合物、芳香族炭化水素化合物、脂肪族炭化水素化合物、エステル化合物が好ましく、芳香族炭化水素化合物、脂肪族炭化水素化合物がより好ましい。
 分散媒を構成する化合物の炭素数は特に制限されず、2~30が好ましく、4~20がより好ましく、6~15が更に好ましく、7~12が特に好ましい。
 分散媒の常圧(1気圧)での沸点は、特に制限されない。例えば、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。上限は、250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることが更に好ましい。
 第1電極組成物の固形分中における炭素含有材料の含有量は、上記式(1)及び式(2)を満たす限り特に制限されず、例えば、5質量%以上とすることができ、50~100質量%であることが好ましい。本発明において、炭素含有材料の含有量を高めるとS1の値が大きくなる傾向がある。
 第1電極組成物の固形分中におけるポリマーバインダー(C)の含有量は、上記式(1)及び式(2)を満たす限り特に制限されず、上記炭素含有材料の含有量を考慮して適宜に設定され、例えば、1質量%以上とすることができ、5~100質量%であることが好ましい。なお、第1電極組成物が無機固体電解質(A)又は活物質(B)を含有する場合、ポリマーバインダー(C)の含有量は、1~10質量%とすることができ、4~8質量%であることが好ましい。
 第1電極組成物の固形分中における導電助剤(D)の含有量は、上記式(1)及び式(2)を満たす限り特に制限されず、上記炭素含有材料の含有量を考慮して適宜に設定され、例えば、5質量%以下とすることができ、0~3質量%であることが好ましい。
 第1電極組成物の固形分中における無機固体電解質(A)の含有量は、上記式(1)及び式(2)を満たす限り特に制限されず、適宜に設定され、例えば、50質量%以下とすることができ、0~30質量%であることが好ましい。
 第1電極組成物の固形分中における活物質(B)の含有量は、上記式(1)及び式(2)を満たす限り特に制限されず、適宜に設定され、例えば、90質量%以下とすることができ、0~80質量%であることが好ましい。
 本発明において、固形分とは、特に断りがない限り、組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下170℃で6時間乾燥処理したときに、揮発又は蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、分散媒以外の成分を指す。
 第1電極組成物が含有する分散媒は、1種でもよく2種以上でもよい。
 第1電極組成物中における分散媒の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができ、例えば、15~99質量%が好ましく、20~95質量%がより好ましく、25~95質量%が更に好ましい。
 第1電極組成物は、上記の各成分及び分散媒を常法にて混合することにより、調製できる。混合方法は特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。
 第1電極組成物の製膜に際して、上述の集電体を準備し、この集電体の表面で第1電極組成物を製膜して、第1電極組成物層を形成する。製膜方法における塗布方法は、特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート塗布、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布が挙げられる。
 第1電極組成物は、好ましくは、第1仮想分割活物質層23-L1(活物質層の全層厚に対して1%厚さ領域)よりも薄く塗布して、第1電極組成物層を形成することが好ましい。これにより、第1電極組成物層上に製膜される第2電極組成物層と相まって、第1仮想分割活物質層23-L1が形成され、式(1)及び式(2)、好ましくは更に上記式(3)及び/又は式(4)を満たす活物質層を形成することができる。第1電極組成物の塗布厚さを厚くすると、又は活物質層の全層厚を薄くすると、S1の値が大きくなる傾向にある。例えば、第1電極組成物の塗布厚さTC1Aは、特に制限されず、例えば、0.1~1.5μmとすることができ、0.2~1.0μmであることが好ましい。この塗布厚さTC1Aは、第1仮想分割活物質層23-L1の層厚TL1に対して第1電極組成物層の塗布厚さTC1Aの比[TC1A/TL1]として、0.10~0.80とすることができ、0.10~0.70であることが好ましく、0.40~0.60であることがより好ましい。
 第1電極組成物の乾燥方法及び乾燥条件は、特に制限されず、適宜に選択できる。本発明において、乾燥温度を高くするとS1の値が小さくなる傾向にある。第1電極組成物の乾燥温度としては、例えば、30℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましい。その上限は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることが更に好ましく、130℃以下であることが特に好ましい。乾燥時間は、特に制限されず、適宜に設定できる。
 このようにして形成した第1電極組成物層を加圧することもできる。加圧する際の加圧力としては、特に制限されない。
 活物質層を形成する好ましい方法においては、次いで、第2電極組成物を、第1電極組成物層の表面で製膜する。
 第2電極組成物は、無機固体電解質(A)、活物質層(B)、炭素含有材料及び分散媒を含有し、適宜に添加剤を含有していてもよい。各成分は上述の通りである。
 第2電極組成物が含有するポリマーバインダー(C)は、1種でも2種以上でもよいが、第1電極組成物層が含有するポリマーバインダーと異なるものが好ましく、非ゴム状ポリマーからなるバインダー若しくはゴム状ポリマーからなるバインダーを少なくとも1種含むことがより好ましい。
 第2電極組成物の固形分中における各成分の含有量は、それぞれ、活物質層における各成分の含有量と同じであることが好ましい。本発明において、第2電極組成物の炭素含有材料の含有量を高めるとS100の値が大きくなる傾向がある。
 第2電極組成物が含有する分散媒は、1種でもよく2種以上でもよい。第2電極組成物中における分散媒の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができ、例えば、15~99質量%が好ましく、20~70質量%がより好ましく、25~60質量%が更に好ましい。
 第2電極組成物は、上記の各成分及び分散媒を常法にて混合することにより、調製できる。混合方法は特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。
 第2電極組成物の製膜に際して、第1電極組成物層の表面で第2電極組成物を製膜して、第2電極組成物層を形成する。製膜方法における塗布方法及び乾燥条件は、特に制限されず、第1電極組成物の塗布方法と同じである。本発明において、第2電極組成物の塗布厚さを厚くする(活物質層の全層厚を厚くする)と、S100の値が小さくなる傾向にある。また、乾燥温度を高くすると、S100の値が大きくなる傾向にあり、更に活物質層中の空隙量が高くなる傾向にある。第1電極組成物層の表面に第2電極組成物を塗布するに際して、第2電極組成物を塗布完了してから所定の乾燥温度に到達するまで時間は、適宜に設定でき、式(1)及び式(2)、好ましくは更に上記式(3)及び/又は式(4)を満たす活物質層を形成できる点で、1秒~10分とすることができ、5秒~1分とすることが好ましい。なお、第2電極組成物の塗布完了後から乾燥開始までの時間は、適宜に設定できる。
 第2電極組成物の乾燥は、1回で行うこともでき、複数回(例えば2~5回)に分けて行うこともできる。複数回に分けて乾燥する場合(多段乾燥法)、各乾燥工程における乾燥温度は同じでも異なっていてもよく、異なる乾燥温度で乾燥するときは、初回の乾燥工程から順次乾燥温度を高く設定していくことが好ましい。初回の乾燥温度は、上述の範囲の中でも、80~120℃であることが好ましい。
 このようにして形成した電極組成物層を加圧することもできる。加圧条件等については、後述する、全固体二次電池の製造方法において説明する。ただし、加圧力は、全固体二次電池にかける加圧力よりも低く設定することができ、例えば、2~100MPaに設定することができる。
 こうして、式(1)及び式(2)、好ましくは更に上記式(3)及び/又は式(4)を満たす活物質層を集電体の表面に形成して、本発明の電極シートが形成される。
[全固体二次電池]
 本発明の電極シートを電極として備えた全固体二次電池は、正極(正極集電体及び正極活物質層)と、この正極に対向する負極(負極活物質層及び負極集電体)と、正極(正極活物質層)及び負極(負極活物質層)の間に配置された固体電解質層とを有する。本発明において、正極及び負極の少なくとも一方、好ましくは少なくとも正極、より好ましくは両電極とも、本発明の電極シートで構成されている。全固体二次電池に組み込まれ、全固体二次電池を構成している集電体及び活物質層は、本発明の電極シートにおけるものと同じである。すなわち、本発明の電極シートで構成した電極の活物質層は、全固体二次電池においても、本発明の電極シートにおける活物質層が有する特徴、例えば上記式(1)、式(2)等の特徴を満たしている。なお、正極及び負極の一方が本発明の電極シートで形成されない場合、活物質を用いて、例えば活物質を含有する公知の固体電解質組成物を用いて、形成することができる。
 固体電解質層は、無機固体電解質を用いて、例えば例えば固体電解質を含有する通常の固体電解質組成物を用いて、形成されている。
 負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の厚さは、それぞれ、特に制限されない。各層の厚さは、一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、それぞれ、10~1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。
〔筐体〕
 本発明の全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金又は、ステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
 以下に、図2を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
 図2は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、正極及び負極のいずれも本発明の電極シートを用いて形成した二次電池である。この全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有する。各層はそれぞれ接触しており、隣接した構造をとっている。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e)が供給され、そこにリチウムイオン(Li)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球をモデル的に採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
 本発明において、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の各層の間又はその外側には、機能性の層、部材等を適宜介在若しくは配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
 本発明の全固体二次電池は、本発明の電極シートからなる電極を備えており、上述のように、繰り返し振動を受けても電池性能の低下を抑制でき、例えば優れたサイクル特性を発現する。
 - 全固体二次電池の用途 -
 本発明の全固体二次電池は、上述の優れた特性を示し、種々の用途に適用することができる。適用態様には特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、電子機器としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源などが挙げられる。その他民生用として、自動車(電気自動車等)、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
[全固体二次電池の製造方法]
 本発明の全固体二次電池は、本発明の電極シートを用いて製造する方法を介して(経て)製造することができ、本発明の電極シートを用いて公知の方法により製造できる。例えば、本発明の電極シートを製造し、これを用いて固体電解質層を形成することにより、製造できる。具体的には、固体電解質層は、電極上で製膜してもよく、電極上に配置若しくは転写してもよい。こうして形成した固体電解質層に別の電極を重ねて全固体二次電池とする。少なくとも1つの電極として本発明の電極シートを用いていれば、他の電極として通常の電極(集電体と活物質層との積層体)を作製して用いてもよい。好ましくは、正極及び負極として本発明の電極シートを作製し、これらの間に固体電解質層を配置して製造する方法が挙げられる。
 全固体二次電池の製造方法は、大気下で実施することもできるが、乾燥空気下(露点-20℃以下)、不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)等の環境下で、実施されることが好ましい。
 固体電解質層は、例えば、固体電解質組成物を調製し、これを塗布、乾燥して製膜することができる。固体電解質組成物は、無機固体電解質と、好ましくは分散媒、ポリマーバインダーと、適宜に、上述の添加剤とを含有する組成物であり、スラリーであることが好ましい。固体電解質組成物が含有する成分は上述の通りである。固体電解質組成物は、特に制限されないが、含水率(水分含有量ともいう。)が、500ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。含水量は、固体電解質組成物中に含有している水の量(固体電解質組成物に対する質量割合)を示し、具体的には、0.02μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定を用いて測定された値とする。
<固体電解質層の形成(製膜)>
 固体電解質組成物の塗布方法は、特に制限されず、上述の第1電極組成物の塗布方法と同じ方法を適用できる。また、固体電解質組成物の乾燥方法(条件)も、特に制限されず、上述の第1電極組成物の乾燥方法(条件)を適用できる。
 製膜した固体電解質組成物又は製造した全固体二次電池を加圧することが好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては特に制限されず、一般的には50~1500MPaの範囲であることが好ましい。
 上記加圧は、固体電解質組成物の加熱と同時に行うこともできる。加熱温度としては、特に制限されず、一般的には30~300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。一方、無機固体電解質とバインダーが共存する場合、バインダーを形成する樹脂のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。加圧は分散媒を予め乾燥させた状態で行ってもよいし、分散媒が残存している状態で行ってもよい。プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池を加圧する場合、中程度の圧力をかけ続けるために、拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
 プレス圧は被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。このときのプレス圧は被圧部の面積又は層厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で加圧することもできる。プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
 なお、固体電解質層は、分散媒以外の成分を含有する固体混合物を加圧成形して形成することもできる。
<初期化>
 上記のようにして製造した二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化は、特に制限されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を解放することにより、行うことができる。
 本発明の電極シートは、上述の優れた密着力を有するから、例えば、本発明の電極シートを長尺状にライン製造する場合(搬送中に巻き取っても)、また、ロール・トゥ・ロール法等の工業的製造方法で製造する場合においても、集電体と活物質層との剥離の発生、及び活物質層の崩壊を抑制できる。このような電極シートを用いると、高い生産性及び歩留まり(再現性)で、優れた電池性能を示す全固体二次電池を製造できる。
 以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。本発明において「室温」とは25℃を意味する。
1.ポリマーの合成及び準備
[合成例S-1]アクリルポリマーの合成及びアクリルポリマー溶液の調製
 還流冷却器、ガス導入コックを付した1000mL三口フラスコに、メチルメタクリレート(富士フイルム和光純薬工業社製)24.0g、ブチルアクリレート(富士フイルム和光純薬工業社製)96.0g及びトルエン480.0gを添加し、2回窒素置換した後、重合開始剤V-65(商品名、富士フイルム和光純薬工業社製)2.4gを添加し、更に2回窒素置換した後、窒素気流下70℃で3時間加熱した。核磁気共鳴分析(NMR)により、残存モノマー由来ピークの消失を確認するまで加熱を継続して、アクリルポリマーとしてPoly(methyl methacrylate-co-butyl acrylate)を得た(質量平均分子量34000)。
 その後、室温まで冷却し、トルエンで固形物濃度が10%となるまで希釈し、アクリルポリマー溶液を得た。
[合成例S-2]アクリルポリマーLxの合成及びアクリルラテックスの分散液の調製
 国際公開第2019/074076号の段落0131に記載の<バインダー粒子(D)の合成例>に準じて、アクリルポリマーLx(質量平均分子量:89000)の分散液を得た。アクリルポリマーLxの粒径は200nmであった。
 ポリマーバインダーとして以下のポリマーからなるバインダーを用いた。
水添SBS:DYNARON1321P(商品名、JSR社製)
SIBS:SIBSTAR 103T(商品名、カネカ社製)
アクリルゴム:トライゼクトXB-A90(商品名、アロン化成社製)
フッ素ゴム:ダイエルG-704(商品名、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ダイキン社製)
水添SEBS:セプトン8004(商品名、クラレ社製)のヘプタン溶液(固形分10質量%)
2.硫化物系無機固体電解質の合成
[合成例A]
 硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235、及び、A.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして合成した。
 具体的には、アルゴン雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(LiS、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g及び五硫化二リン(P、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。LiS及びPの混合比は、モル比でLiS:P=75:25とした。
 次いで、ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記の硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を完全に密閉した。遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)に容器をセットし、温度25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li-P-S系ガラス、以下、LPSと表記することがある。)6.20gを得た。Li-P-S系ガラスの粒子径は15μmであった。
3.第1電極組成物の調製
[第1電極組成物1-1の調製]
 水添スチレンブタジエンゴム(DYNARON1321P:(商品名)3gと脱水トルエン100gとを、プラネタリーミキサー(TKハイビスク社製)に加え、室温下、回転数10rpmで1時間攪拌・溶解させて、第1電極組成物1-1(固形分濃度2.9質量%)を調製した。
[第1電極組成物1-2~1-6の調製]
 第1電極組成物1-1の調製において、水添スチレンブタジエンゴムからなるバインダーに代えて表1-1の「ポリマーバインダー(C)」欄に示すポリマーからなるバインダーを用い、必要に応じて硫化物系無機固体電解質(LPS)を表1-1に示す含有量となる質量割合で含有させたこと以外は、第1電極組成物1-1の調製と同様にして、第1電極組成物1-2~1-6をそれぞれ調製した。
[第1電極組成物1-7の調製]
 第1電極組成物1-1の調製において、表1-1に示す含有量となる質量割合で、水添スチレンブタジエンゴムからなるバインダー、合成例Aで合成した硫化物系無機固体電解質(LPS)、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)及び脱水トルエンを攪拌、混合したこと以外は、第1電極組成物1-1の調製と同様にして、第1電極組成物1-7(固形分濃度60質量%)を調製した。
4.第2電極組成物の調製
[第2電極組成物2-1の調製]
 ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)70gと、合成例Aで合成した硫化物系無機固体電解質(LPS)26gと、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(セプトン8004:商品名)のヘプタン溶液(固形分10質量%)20gと、アセチレンブラック2gと、へプタン150gとをプラネタリーミキサーに加え、室温下、回転数50rpmで1時間撹拌して、第2電極組成物2-1(固形分濃度60質量%)を調製した。
[第2電極組成物2-2~2-12の調製]
 第2電極組成物2-1の調製において、表1-2に示す組成となるように各成分の種類又は含有量を変更したこと以外は、第2電極組成物2-1の調製と同様にして、第2電極組成物2-2~2-12をそれぞれ調製した。
 第1電極組成物及び第2電極組成物において、ポリマーバインダー(C)は、アクリルポリマーLxからなるバインダー以外は、すべて分散媒(トルエン又はヘプタン)に溶解していた。
5.正極シートの作製
[正極シートPK-1の作製]
 上記で調製した第1電極組成物1-1を、アルミニウム集電体(厚さ20μm)上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)により塗布し、100℃で1時間加熱後、更に120℃で1時間乾燥させて、第1電極組成物層1-1を形成した。
 次いで、上記で調製した第2電極組成物2-1を、第1電極組成物層1-1の表面上に、ベーカー式アプリケーターにより塗布し、塗布完了直後(90秒以内)に100℃で1時間加熱後、更に140℃で1時間乾燥させて、第2電極組成物層2-1を形成した。
 次いで、形成した電極組成物層を、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧し(20MPa、1分間)て、第2電極組成物層2-1/第1電極組成物層1-1/アルミニウム集電体の積層構造を有する正極シートPK-1を作製した。この正極シートPK-1において、活物質層(第1電極組成物層1-1及び第2電極組成物層2-1)の全層厚Lは、表1-3の「活物質層の層厚L」欄に示す通りである。
[正極シートPK-2~PK-21の作製]
 正極シートPK-1の作製において、第1電極組成物及び第2電極組成物を表1-1及び表1-2に示す各組成物に変更し、また第2電極組成物の塗布完了直後(塗布直後ともいう。)の乾燥温度(表1-2において「塗布直後乾燥温度」と表記する。)を表1-2に示す温度に変更し、更に必要により、第1電極組成物層の塗布量を変更し、又は活物質層の層厚Lを表1-3に示す値に変更したこと以外は、正極シートPK-1の作製と同様にして、正極シートPK-2~PK-21をそれぞれ作製した。
[正極シートPKc21~PKc23の作製]
 正極シートPK-1の作製において、第1電極組成物及び第2電極組成物を表1-1及び表1-2-に示す各組成物に変更し、また第2電極組成物の塗布直後の乾燥温度を表1-2に示す温度に変更し、更に第1電極組成物層の塗布量を変更し、又は活物質層の層厚Lを表1-3に示す値に変更したこと以外は、正極シートPK-1の作製と同様にして、正極シートPKc21~PKc23をそれぞれ作製した。
6.負極シートの作製
[負極シートNK-1及びNK-2の作製]
 正極シートPK-1の作製において、アルミニウム集電体に代えて銅集電体(厚さ20μm)を用いて、第2電極組成物2-1を第2電極組成物2-8に変更し、また第2電極組成物の塗布直後の乾燥温度を表1-2に示す温度に変更し、更に第1電極組成物層の塗布量を変更し、かつ活物質層の層厚Lを表1-3に示す値に変更したこと以外は、正極シートPK-1の作製と同様にして、負極シートNK-1及びNK-2を作製した。
[負極シートNKc21の作製]
 負極シートNK-1の作製において、第1電極組成物1-1及び第2電極組成物2-1をそれぞれ第1電極組成物1-5及び第2電極組成物2-11に変更し、また第1電極組成物層の塗布量を変更し、かつ活物質層の層厚Lを表1-3に示す値に変更したこと以外は、負極シートNK-1の作製と同様にして、負極シートNKc21を作製した。
<S1の算出>
 作製した各電極シート(正極シート及び負極シート)の長手方向に垂直な断面を、Cross Section Polisher装置(型番:IB-09010CP、日本電子社製)を用いて加工し、鏡面仕上げされた断面のうち任意に選んだ5つの視野を、走査電子顕微鏡(SEM)により、倍率3000倍で、撮像した。
 各視野の画像において、下記のようにして、集電体の表面及び活物質層の表面を特定して、活物質層の全層厚Lを算出した。次いで、活物質層を厚さ方向に100等分して、集電体の表面に隣接する第1仮想分割活物質層23-L1を区分けする仮想線(第1仮想分割活物質層23-L1と第2仮想分割活物質層23-L2との界面)を決定した。
 集電体の表面(集電体と第1仮想分割活物質層23-L1との界面)は、抽出予定の幅方向10μmの領域において幅1μmずつ(離間した10箇所の測定点)を特定し、隣接する測定点同士を直線で連結して、表面仮想線を引いて、決定した。また、第1仮想分割活物質層23-L1と第2仮想分割活物質層23-L2との界面は、上記のようにして得た集電体と第1仮想分割活物質層23-L1との界面(特定した10箇所)において、各界面から当該測定点における活物質層厚さ方向に、厚さの100分の1の距離だけ平行移動させて移動点を特定し、隣接する移動点同士を直線で連結して、界面仮想線を引いて、決定した。なお、各測定点における活物質層の層厚は上記表面仮想線から活物質層の表面までの厚さとし、測定点10点の算術平均値を活物質層の全層厚Lとした。
 次いで、上述のようにして、各視野の画像において、集電体、第1仮想分割活物質層23-L1及び第2仮想分割活物質層23-L2を含む厚さ方向と幅方向10μmとの矩形領域を抽出(選択)して、第1仮想分割活物質層23-L1(10μmの幅方向両端縁と表面仮想線と界面仮想線とで区画される領域)について、画像処理ソフト(ImageJ)により、炭素原子を含む材料の占める面積a1、炭素原子を含まない材料の占める面積a2、及び空隙の占める面積a3を3値化した。ここで、炭素原子を含む材料が占める領域a1と、炭素原子を含まない材料が占める領域a2及び空隙の占める面積a3とは、走査型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)による元素分析によって、区別した。
 こうして得られたa1及びa2を用いて、式:a1/(a1+a2)から、第1仮想分割活物質層23-L1の全面積に対するa1の面積比を算出した。5視野から得た値を算術平均して、S1とした。その結果を表1-3に示す。
<S100の算出>
 上記<S1の算出>において得た5視野の各画像において、第1仮想分割活物質層23-L1を区分けする界面仮想線を決定した後、活物質層全体(第1仮想分割活物質層23-L1~第100仮想分割活物質層23-L100)を含む厚さ方向と幅方向10μmとの矩形領域を抽出した。この矩形領域のうち、第2仮想分割活物質層23-L2から第100仮想分割活物質層23-L100までの領域(10μmの幅方向両端縁と界面仮想線と活物質層の表面とで区画される領域)について、上述のように画像処理したこと以外は、上記<S1の算出>と同様にして、S100を算出した。その結果を表1-3に示す。
<S1/S100の算出>
 各電極シートにおいて、上記のようにして算出したS1(平均値)とS100(平均値)とを用いて、S1/S100を算出した。その結果を表1-3に示す。
<(S1/S100)/Lの算出>
 上記のようにして算出したS1/S100(平均値)を、上記<S1の算出>で求めた活物質層の全層厚L(平均値)で除して、(S1/S100)/Lを算出した。その結果を表1-3に示す。
<層厚比[TC1/TL1]の算出>
 上記<S1の算出>で求めた第1仮想分割活物質層23-L1の測定点における層厚を算術平均して、第1仮想分割活物質層23-L1の層厚TL1を算出した。
 また、活物質層において、第1電極組成物を製膜した層の層厚TC1を、上記<S1の算出>で求めた第1仮想分割活物質層23-L1の測定点における、第1電極組成物層と第2電極組成物層との界面を決定して、算出した。SEM画像においては、集電体の表面に存在(位置)する炭素原子を含む材料からなる部分領域(塊状若しくは層状の断面領域)を確認、特定することができ、その部分領域を、第1電極組成物を製膜した層とする(活物質、無機固体電解質等の炭素原子を含む材料に相当しない材料を含む第1電極組成物を用いた場合も同様とする)。第1電極組成物層と第2電極組成物層との界面は、各SEM画像について、幅方向10μmの領域において、幅1μm間隔(離間した10箇所の測定点)で、集電体表面から、膜厚方向に連続して炭素原子を含む材料が存在する部分領域(断面領域)の終点(頂点)を結ぶことによって、決定した。層厚TC1は、上記10箇所の各測定点における集電体表面から終点までの厚さ(距離)を測定し、それらの算術平均値とした。
 得られた層厚TL1で算出した層厚TC1を除して、層厚比[TC1/TL1]を算出した。その結果を表1-3に示す。
<活物質層中の各成分の含有量>
 作製した各電極シートにおける活物質層全体中の各成分の含有量は、第2電極組成物における固形分中の含有量と厳密には異なるが、第1電極組成物の塗布量が極めて少ないので、第2電極組成物における固形分中の含有量と同一とみなすことができる。
<振動試験前後における電子伝導度の変化率の評価>
(振動試験前の電子伝導度の測定)
 作製した各電極シートから直径10mmの円盤状シートを2枚打ち抜き、各円盤状シートの活物質層同士を対向(接触)させて積層し、積層方向に350MPaの圧力をかけて加圧し、測定サンプルを作製した。測定サンプルを厚み方向にSUS製の10mm(直径)の丸棒で、50MPa圧で拘束して、測定セルとした。
 作製した測定セルに、30℃の恒温槽中で5mVの電圧を印加し、直流電流抵抗を測定して、振動試験前の電極シートの電子伝導度σ1を算出した。
(振動試験後の電子伝導度の測定)
 一方、上記のようにして同じ電極シートから作製した測定セルを、電極積層面(活物質層同士の積層面)と振動方向とが平行になるように振動試験機(型番:EM2305、IMV社製)にセットし、自動車部品振動試験方法である日本産業規格(JIS) D 1601に準拠した条件で、振動試験を実施した。すなわち、上記規格の「5.3 振動耐久試験」において、段階30、振動数33Hz、振動加速度30m/sの条件で、振動試験を実施した。
 振動試験終了後の測定セルに、30℃の恒温槽中で5mVの電圧を印加し、直流電流抵抗を測定して、電子伝導度σ2を算出した。
(電子伝導度の変化率の算出)
 上記のようにして得られた電子伝導度σ1及びσ2を用いて、式:(1-σ2/σ1)×100から、振動試験前後における電子伝導度の変化率(%)を算出して、下記評価基準のいずれに含まれるかにより、振動試験による電極シートの密着力を評価した。
 本試験において、電子伝導度の変化率が小さいほど、粒子密着力、層間密着力及び界面密着力が高く、繰り返される振動を受けても密着状態を維持できることを示す。評価基準が「D」以上を本発明の合格レベルとする。結果を表1-3の「電子伝導度変化率」欄に示す。
 A: 変化率が15%未満
 B: 変化率が15%以上、30%未満
 C: 変化率が30%以上、40%未満
 D: 変化率が40%以上、50%未満
 E: 変化率が50%以上
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000003
 表1において、「含有量」は、各電極組成物における各成分の含有量の質量比を示す。 表1-2における「塗布直後乾燥温度」の単位は「℃」であり、表1-3の「層厚TC1」及び「層厚L」の単位はいずれも「μm」であるが、各表においてその単位を省略する。
 なお、表1中の符号は下記示す通りである。
 Al:アルミニウム集電体
 Cu:銅集電体
 アクリル:合成例S-1で合成したアクリルポリマー
 アクリルLx:合成例S-2で合成したアクリルラテックス
 LPS:合成例Aで合成した硫化物系無機固体電解質
 Si:ケイ素
 NMC:ニッケルマンガンコバルト酸リチウム
 AB:アセチレンブラック
7.全固体二次電池の製造
<全固体二次電池用固体電解質シートの作製>
 ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを60g投入し、上記合成例Aで合成したLPS8.4g、KYNAR FLEX 2500-20(商品名、PVdF-HFP:ポリフッ化ビニリデンヘキサフルオロプロピレン共重合体、アルケマ社製)を0.6g(固形分質量)、及び分散媒として酪酸ブチル11gを投入した。その後に、この容器を遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)にセットした。温度25℃、回転数150rpmで10分間混合して、無機固体電解質含有組成物(スラリー)を調製した。
 上記で得られた無機固体電解質含有組成物を厚み20μmのアルミニウム箔上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)を用いて塗布し、80℃で2時間加熱して、無機固体電解質含有組成物を乾燥(分散媒を除去)させた。その後、ヒートプレス機を用いて、120℃の温度及び40MPaの圧力で10秒間、乾燥させた無機固体電解質含有組成物を加熱及び加圧して、全固体二次電池用固体電解質シートを作製した。固体電解質層の層厚は50μmであった。
<固体電解質層を備えた正極シートPK-1~PK-19及びPKc21~PKc23の作製>
 表2の「正極シート」欄に示す各正極シートの正極活物質層上に、上記方法で作製した全固体二次電池用固体電解質シートを固体電解質層が正極活物質層に接するように重ね、25℃の環境下、プレス機を用いて50MPaで加圧して転写(積層)した後に、25℃の環境下、600MPaで加圧することで、層厚20μmの固体電解質層を備えた正極シートPK-1~PK-19及びPKc21~PKc23をそれぞれ作製した。
<全固体二次電池CK-1の製造>
 次いで、図2に示す層構成を有する全固体二次電池CK-1を製造した。
 上記で得られた固体電解質層を備えた正極シートPK-1(全固体二次電池用固体電解質シートのアルミニウム箔は剥離済み)を直径14.5mmの円盤状に切り出し、スペーサーとワッシャーを組み込んだステンレス製の2032型コインケースに入れた。次いで、固体電解質層上に、負極シートNK-1から直径15mmの円盤状に切り出した負極シートNK-1を、その負極活物質層が接するように、重ねて配置した。その上に更にステンレス鋼箔を重ねて全固体二次電池用積層体(アルミニウム箔-正極活物質層-固体電解質層-負極活物質層-銅箔-ステンレス鋼箔からなる積層体)を形成した。その後、2032型コインケースをかしめることで、全固体二次電池CK-1を製造した。
<全固体二次電池CK-2~CK-21及びCKc-1~CKc-3の製造>
 上記全固体二次電池CK-1の製造において、固体電解質層を備えた正極シートPK-1又は負極シートNK-1に代えて表2の「正極シート」欄又は「負極シート」欄に示す各電極シートを用いたこと以外は、全固体二次電池CK-1の製造と同様にして、全固体二次電池CK-2~CK-21及びCKc-1~CKc-3をそれぞれ製造した。
<振動試験後のサイクル特性の評価>
 製造した各全固体二次電池について、振動試験後のサイクル特性を、充放電評価装置「TOSCAT-3000」(商品名、東洋システム社製)により、評価した。
 具体的には、各全固体二次電池を、それぞれ、30℃の環境下で、電池電圧が4.2Vに達するまで電流値0.2mAで充電した。充電後の全固体二次電池を電極積層面と振動方向とが平行になるように振動試験機(型番:EM2305、IMV社製)にセットし、JIS D 1601に準拠した条件で、振動試験を実施した。すなわち、上記規格の「5.3 振動耐久試験」において、段階30、振動数33Hz、振動加速度30m/sの条件で振動試験を実施した。
 次いで、振動試験後の各全固体二次電池を、電池電圧が4.2Vに達するまで電流値0.2mAで充電した後、電池電圧が3.0Vに達するまで電流値0.2mAで放電した。この充電1回と放電1回とを充放電1サイクルとした。3サイクル目の放電容量の80%未満の放電容量となるまでこの充放電サイクルを繰り返した。3サイクル目の放電容量の80%以上の放電容量を維持したサイクル数から、下記評価基準に従ってサイクル特性を評価した。評価基準は、「D」以上が本発明の合格レベルであり、「C」以上が本発明のより優れた合格レベルである。結果を表2に示す。
 
 - 評価基準 -
 AA:60回以上
  A:50回以上、60回未満
  B:40回以上、50回未満
  C:30回以上、40回未満
  D:10回以上、30回未満
  E:10回未満
 なお、製造した各全固体二次電池から電極を取り出して、電極シートと同様にして、S1、S100、S1/S100、更に(S1/S100)/Lを測定したところ、ほぼ一致していた。
 また、実施例における全固体二次電池は、イオン伝導度及び電子伝導度に優れていた。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000004
 表1及び表2に示す結果から次のことが分かる。
 すなわち、集電体上に設けた活物質層が上記式(1)又は式(2)を満たしていない比較例の電極シートは、いずれも、密着力が十分ではなく、繰り返して振動を受けると、固体粒子の密着状態又は集電体との密着状態が崩壊して、振動試験によって電子伝導度が大きく低下した(表1)。これらの電極シートを組み込んだ比較例の全固体二次電池は、いずれも、サイクル特性に劣る(表2)。
 これに対して、集電体上に設けた活物質層が上記式(1)又は式(2)を満たす実施例の電極シートは、いずれも、繰り返して振動を受けても、固体粒子の密着状態又は集電体との密着状態を維持するほどに強固な密着力を示し、優れた電子伝導度を維持できている。これらの電極シートを組み込んだ実施例の全固体二次電池は、いずれも、優れたサイクル特性を実現できる。
 本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
 本願は、2022年12月27日に日本国で特許出願された特願2022-210759に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
21 電極シート
22 集電体
23 活物質層
 23-L1 第1仮想分割活物質層
 23-L2 第2仮想分割活物質層
 23-L99 第99仮想分割活物質層
 23-L100 第100仮想分割活物質層
31 無機固体電解質(A)
32 活物質(B)
33 空隙

Claims (8)

  1.  集電体の少なくとも一方の表面上に活物質層を有する全固体二次電池用電極シートであって、
     前記活物質層が、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属イオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と活物質(B)とを有し、かつ、下記式(1)及び式(2)を満たす、全固体二次電池用電極シート。
     
     式(1):   1.4<S1/S100
     式(2):  0.05<S1<0.60
     
     上記式において、S1は、集電体の表面から活物質層の層厚1%以下の断面領域において、その全面積に対する、炭素原子を含む材料の合計面積の面積比を示し、
     S100は、集電体の表面から活物質層の層厚の1%を超える断面領域において、その全面積に対する、炭素原子を含む材料の合計面積の面積比を示す。
     
  2.  前記活物質層が下記式(4)を満たす、請求項1に記載の全固体二次電池用電極シート。
     式(4):
      0.010<(S1/S100)/L<0.100
     式(4)において、Lは活物質層の層厚を示し、S1及びS100は上述の通りである。
  3.  前記活物質層がポリマーバインダー(C)と導電助剤(D)とを含有し、かつ、
     前記炭素原子を含む材料が前記ポリマーバインダー(C)及び前記導電助剤(D)を含む、請求項1に記載の全固体二次電池用電極シート。
  4.  前記ポリマーバインダー(C)が2種類以上のポリマーバインダーを含む、請求項3に記載の全固体二次電池用電極シート。
  5.  前記2種類以上のポリマーバインダーのうち少なくとも1種がゴム状ポリマーからなるポリマーバインダーである、請求項4に記載の全固体二次電池用電極シート。
  6.  前記活物質層が下記式(3)を満たす、請求項1に記載の全固体二次電池用電極シート。
     式(3): 0.005<S100<0.30
     式(3)において、S100は上述の通りである。
  7.  下記振動試験前の電子伝導度σ1に対する下記振動試験後の電子伝導度σ2の変化率:(1-σ2/σ1)×100が50%未満である、請求項1に記載の全固体二次電池用電極シート。
    <振動試験>
     電極シートから直径10mmの円盤状シートを2枚打ち抜き、各円盤状シートの活物質層同士を対向させて積層し、積層方向に350MPaの圧力をかけて加圧し、厚み方向にSUS製の直径10mmの丸棒で、50MPaで拘束して、測定セルを作製する。
     この測定セルを、電極積層面と振動方向とが平行になるように振動試験機にセットし、日本産業規格 D 1601に準拠した条件として、段階30、振動数33Hz、振動加速度30m/sの条件で、振動試験を実施する。
     振動試験前後の測定セルに、30℃の恒温槽中で5mVの電圧を印加し、直流電流抵抗を測定して、振動試験前の電子伝導度σ1及び振動試験後の電子伝導度σ2をそれぞれ算出する。
  8.  正極と、負極と、正極及び負極の間の固体電解質層とを含む全固体二次電池であって、
     前記正極及び前記負極の少なくとも一方が、請求項1~7のいずれか1項に記載の全固体二次電池用電極シートで構成されている、全固体二次電池。
PCT/JP2023/046717 2022-12-27 2023-12-26 全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池 WO2024143389A1 (ja)

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