WO2023233920A1

WO2023233920A1 - 紙状複合シート及び紙状複合シートの製造方法

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Publication number: WO2023233920A1
Application number: PCT/JP2023/017221
Authority: WO
Inventors: 康幸礒野; 雄阿蘇
Original assignee: 大日精化工業株式会社
Priority date: 2022-05-30
Filing date: 2023-05-08
Publication date: 2023-12-07
Also published as: TW202406529A

Abstract

シート状のスポンジ状成形物の代表例であるコラーゲンスポンジの崩壊を簡便な手段で抑制し、保持体となるシート状のコラーゲンスポンジの強度を高め、携帯性や使い勝手がよく、肌触りのよい使用感の化粧品等として好適なシート状製品の提供の実現。　紙状コラーゲンに多糖類を含んでなるシート状の複合体であって、シート状保持体として機能する（ａ）成分のコラーゲンスポンジと、（ｂ）成分の多糖類とを有してなり、前記多糖類の水溶液の含浸物を乾燥させてなるコラーゲンスポンジの乾燥物であることを特徴とする紙状複合シート及びその製造方法。

Description

紙状複合シート及び紙状複合シートの製造方法

　本発明は、紙状複合シート及び紙状複合シートの製造方法に関し、詳しくは、紙状複合シートを、シート状保持体（基材）をコラーゲンスポンジとし、該コラーゲンスポンジの細孔内に多糖類の水溶液を含浸させ、その状態で乾燥してなる乾燥物で構成したことで、使用感に優れ、しかも有効成分が安定して保たれ、安全性に優れた、紙状化粧品に好適な紙状複合シートを簡便に提供できる技術に関する。

　化粧品及び医薬品等に使用される有効成分は化学的に不安定なものも多く、不安定な成分は、製造工程中または保存環境等の外的影響が原因で、変質または分解されることが知られている。その結果、不安定な成分が含まれる化粧品や医薬品などの製品は、期待される効果効能を示さなくなるか、十分に効果効能を示すことができなくなる場合がある。また、化粧品や医薬品などの製品は、品質の維持安定、生物汚染防止の目的で、防腐剤、保存剤、安定剤等の添加物を配合する場合が多い。しかしながら、これら添加物の中には人体にとって有害な効果を引き起こすものも少なくないといった問題があり、できるだけ使用を控えることが望まれている。

　一方、上記とは別の製造工程中または保存環境中での化粧品等の有効成分の安定化方法として、凍結乾燥法が有効であることが知られている。凍結乾燥法は、製造工程が低温で維持されていること、得られる製品（凍結乾燥物）の水分活性が低いことから、成分の安定性、製品の保存性が高く、医薬、医療機材、化粧品等の製造に用いられている（特許文献１、２参照）。

　しかしながら、凍結乾燥品（凍結乾燥物）は、多数の細孔を有するスポンジ状であり、衝撃により崩壊しやすいという課題があり、特に、その形状がシート状であることが求められるような凍結乾燥品に対しては、流通時や保管時や使用時に、形状維持のための慎重な取り扱いが要求される。例えば、コラーゲンを凍結乾燥することで得られるシート状のコラーゲンスポンジは、細胞培養用基材や移植片などの医療材料等として用いられているが、強度や弾力等を高めるために種々の提案がされている。例えば、特許文献３では、弾力のある吸収性の化学架橋コラーゲンスポンジを提案しており、また、特許文献４では、凍結乾燥後に、化学架橋剤によって不溶化処理を行う方法が提案されている。さらに、引用文献５には、コラーゲン繊維で形成された多孔質立体構造体の強度を向上させたコラーゲンスポンジを得る方法が提案されている。この技術では、コラーゲン繊維で形成された多孔質立体構造体の表面に、特有のヒドロキシアパタイトをコーティングさせている。

特許第５６７６１３４号公報特許第６１１３９４４号公報特許第６３２８８６１号公報国際公開第２０１８／１２３８１４号特許第５８７５０３４号公報

　しかしながら、上記したコラーゲンスポンジの強度を高めるための従来の方法は、いずれも、コラーゲン繊維を調製する必要があったり、化学架橋剤による処理が必要になったりなど、工程が煩雑であり、また、コラーゲンに加えて、化学架橋剤やコーティングさせるための材料を必要としているため、得られるコラーゲンスポンジを１００％天然素材のものにできなかった。これに対して、医療材料や化粧品においては、できるだけ天然素材の割合が高く、肌触りのよい使用感が得られる製品が望まれ、また、安全性に優れる製品であることが重要になる。さらに、本発明が課題としている、衝撃により崩壊しやすいシート状のコラーゲンスポンジの強度を高めたことで、コラーゲン成分が変性や変質しないことが望まれる。

　従って、本発明の目的は、有効成分の安定性及び保存性を目的として凍結乾燥法により製造された、医療材料や化粧品等に用いられるシート状のスポンジ状成形物の代表例であるコラーゲンスポンジの崩壊を簡便な手段で抑制し、保持体（基材）となるシート状のコラーゲンスポンジの強度を高め、形状保持性を高めることを実現することで、携帯性や使い勝手がよく、肌触りのよい使用感を有する、化粧品等として好適なシート状製品の提供を可能にすることである。また、本発明の目的は、保持体（基材）とするシート状のスポンジ状成形物である凍結乾燥品のコラーゲンスポンジの強度を高め、携帯性や使い勝手を向上させ、肌触りのよい使用感の製品の提供を実現すると同時に、例えば、シート状の化粧品として有用な、コラーゲン以外の各種の有効成分を有してなる、有用で実用価値の高い紙状複合シートからなる種々の製品の提供を可能にすることである。

　上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の紙状複合シートを提供する。
［１］紙状コラーゲンに多糖類を含んでなるシート状の複合体であって、シート状保持体として機能する（ａ）成分のコラーゲンスポンジと、（ｂ）成分の多糖類とを有してなり、前記多糖類の水溶液の含浸物を乾燥させてなるコラーゲンスポンジの乾燥物であることを特徴とする紙状複合シート。

　上記の紙状複合シートの好ましい形態としては、下記が挙げられる。
［２］前記（ｂ）成分の多糖類が、ヒアルロン酸またはその誘導体である上記［１］に記載の紙状複合シート。
［３］前記シート状の複合体が、さらに（ｃ）成分として、柔軟成分を含んでなる上記［１］又は［２］に記載の紙状複合シート。
［４］前記（ｃ）成分が、グリセリン、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール及びジプロピレングリコールからなる群から選ばれた少なくともいずれかである上記［３］に記載の紙状複合シート。
［５］前記シート状の複合体が、さらに（ｄ）成分として、化粧品として配合可能な成分を含んでなる上記［１］～［４］のいずれかに記載の紙状複合シート。
［６］前記（ｄ）成分が、セラミド、エラスチン及び細胞賦活物質からなる群から選ばれる少なくともいずれかである上記［５］に記載の紙状複合シート。
［７］前記前記シート状の複合体の厚さが、１ｍｍ以下である上記［１］～［６］のいずれかに記載の紙状複合シート。
［８］前記シート状の複合体が、防腐剤を含有せず、且つ、水分活性が０．６Ａｗ以下である上記［１］～［７］のいずれかに記載の紙状複合シート。
［９］紙状の化粧品である上記［１］～［８］のいずれかに記載の紙状複合シート。

　本発明は、別の実施形態として、下記の紙状複合シートの製造方法を提供する。
［１０］紙状コラーゲンに多糖類を含んでなるシート状の複合体を得るための紙状複合シートの製造方法であって、少なくとも多糖類の水溶液を含む液にコラーゲンスポンジを含浸させて前記液をコラーゲンスポンジの細孔内に浸入させた後、その状態で乾燥して前記多糖類を固化することで紙状コラーゲンに多糖類を含んでなるシート状の複合体を得ることを特徴とする紙状複合シートの製造方法。

　本発明における紙状複合シートの製造方法の好ましい形態としては下記が挙げられる。
［１１］さらに、減圧脱気をしながら前記液をコラーゲンスポンジの細孔内に浸入させる上記［１０］に記載の紙状複合シートの製造方法。
［１２］前記乾燥する際の温度が、２０～６０℃の範囲内である上記［１０］又は［１１］に記載の紙状複合シートの製造方法。
［１３］前記乾燥を、シート状の複合体の水分活性が０．６Ａｗ以下となるまで行う上記［１０］～［１２］のいずれかに記載の紙状複合シートの製造方法。

　本発明によれば、化粧品等の有効成分の安定性及び保存性を目的として凍結乾燥法により製造された、シート状のスポンジ状成形物である凍結乾燥品（凍結乾燥物）の、強度において劣り崩壊し易い点が簡便な手段で効果的に抑制された、十分な強度を有し、携帯性や使い勝手に優れる有用な紙状複合シート製品の提供が可能になる。本発明によれば、簡便な手段で、スポンジ状成形物である凍結乾燥品のシート状のコラーゲンスポンジの強度を高め、携帯性や使い勝手に優れることに加えて、肌触りなどの使用感も良好な紙状複合シート製品の提供が可能になる。特に、本発明によれば、簡便な手段で、シート状保持体（基材）である、凍結乾燥法によって製造されたシート状のコラーゲンスポンジの強度を向上させて、携帯性や使い勝手に優れる、肌触りのよい使用感に優れる紙状複合シートを実現すると同時に、さらに、例えば、コラーゲン以外の種々の有効成分を有する構成とすることも容易にできるため、有用で実用価値の高い、種々の目的に利用することができる紙状複合シート製品の提供が可能になる。

実施例１紙状複合シートと比較例１の紙状シートの強度測定試験の結果を示す図である。シート状保持体として機能する（ａ）成分のコラーゲンスポンジの顕微鏡写真の図である。図２のコラーゲンスポンジに多糖類の水溶液を含む液を含浸させ、その後に乾燥させた、本発明の実施例の紙状複合シートの顕微鏡写真の図である。図２のコラーゲンスポンジに多糖類の水溶液を含む液を減圧脱気しながら含浸させ、その後に乾燥させた、本発明の実施例１の紙状複合シートの顕微鏡写真の図である。

　以下、発明の好ましい実施形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明を構成するコラーゲンスポンジは、凍結乾燥法によって得られるスポンジ状の成形物であり、細胞培養用基材や移植片などの医療材料等に用いられている。先に述べたように、コラーゲン溶液を凍結乾燥することで容易に得られるコラーゲンスポンジは、強度に劣り、崩壊し易い特性を有し、一方、強度を使用に耐えうる十分なものにするためには、コラーゲンスポンジを化学架橋させたり、コーティングさせたり、或いは、コラーゲン繊維を用いて特種な製法でコラーゲンスポンジを作製するなどの必要があった。

　これに対し、本発明者等は、コラーゲン溶液を凍結乾燥して得られるシート状コラーゲンスポンジにおける強度不足の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、本発明の極めて簡易な構成によって、顕著な効果が得られることを見出した。すなわち、凍結乾燥法で得たシート状の多数の細孔を有するコラーゲンスポンジに、多糖類の水溶液を含む液を含浸させ、必要に応じて、例えば、減圧脱気するなどの簡易な方法を併用して、前記液をスポンジ内の細孔内に含浸させ、次にこれを乾燥させてなる乾燥物である紙状複合シートは、下記の優れた特性を有するものになることを見出した。

　まず、上記乾燥物である紙状複合シートの最大の特徴は、原料として利用したシート状のコラーゲンスポンジは崩壊しやすく、手で簡単にちぎれるほどの強度に劣るものであるのに対して、上記構成の紙状複合シートは、手で強く引っ張っても容易にはちぎれず、格段に強度が向上したものになる点である。このため、本発明の紙状複合シートによれば、持ち運びや保管や使い勝手に優れる製品の提供が可能になる。さらに、本発明の紙状複合シートは、多糖類の水溶液を含む液が細孔内に入った状態の含浸物を乾燥してなる乾燥物でありながら、その使用時にコラーゲンスポンジ本来の性状（肌触り等）に戻り、基材として用いたシート状のコラーゲンスポンジのもつビロードのような優しい肌触りが損なわれることがなく、しなやかで気持ちのよい、より良好な使用感を与えるものになる。この点に加えて、本発明の紙状複合シートは、さらに、その使用時に、コラーゲンスポンジの強度を高めるために用いた多糖類が肌に作用するようになる。具体的には、例えば、角質に多糖類成分が浸み込むなどの効果を実現できるものになることを見出した。

　本発明者らは、本発明の紙状複合シートが、上記したように、崩壊しやすいコラーゲンスポンジを基材としているのに対して格段に強度が向上し、一方、使用時に、コラーゲンスポンジ本来の気持ちのよい肌触りのものに戻り、しかも、コラーゲンスポンジの強度を高めるために使用した成分を、良好な状態で肌に作用するものにできた理由について、以下のように考えている。本発明の紙状複合シートを構成する乾燥物は、極めて小さい細孔を有する多孔質のシート状のコラーゲンスポンジを基材とし、少なくとも多糖類の水溶液を含浸させて乾燥させた乾燥物であることから、多糖類が、多孔質のコラーゲンスポンジの細孔内に万遍なく入り込んだ状態で水分が除去されて、乾燥することになる。このため、乾燥物は、個々の細孔内に微細な多糖類が固化して残留した状態になってコラーゲンスポンジと多糖類とが複合化していることから、細孔内で固化した微細な多糖類が強度に劣るコラーゲンスポンジの補強材として機能し、その結果、強度に優れるものになったと考えられる。一方、使用時に化粧品等で湿潤化させると、細孔内で固化した多糖類が溶け出し、コラーゲンスポンジ本来の性状に戻るので、気持ちのよい肌触りの紙状複合体を実現できたものと考えられる。この結果、上記のように構成したことで、本発明によれば、化学架橋剤などを使用することなく強度を高めた、全てが自然素材で形成された有用なシート状のコラーゲンスポンジを基材とする紙状複合シートの提供が可能になり、先に挙げた本発明の効果が得られたものと考えている。また、先に挙げた効果に加えて、本発明の紙状複合シートによれば、シート状保持体（基材）として機能するコラーゲンスポンジを構成するコラーゲン、及び、該スポンジに含浸して細孔内に保持した状態で乾燥させて固化した多糖類の、保存性、安定性を高めることができるとともに、製品を十分な強度を有するシート状にしたことで、携帯性、使用感を向上させた、化粧品などに好適なシート状製品を提供することが可能になる。以下、本発明を構成する各材料及び成分について説明する。

＜（ａ）成分：コラーゲンスポンジ＞
　本発明の紙状複合シートを構成する（ａ）成分は、コラーゲンスポンジであり、多糖類等の成分を担持するための基材として機能し、また、形成原料であるコラーゲンは、本発明の紙状複合シートの有効成分の一つである。コラーゲンは、近年、美容や健康維持に大きく関わっているとして、食品としても注目されている。コラーゲンスポンジは、コラーゲン溶液を凍結乾燥することで簡便に得られ、多数の微細な細孔（ポア）を有する構造をもつものであり、市販もされている。一方、特殊なコラーゲンスポンジとして、先に挙げたような、コラーゲン繊維を用いて特有の製法で得た、孔が蜂の巣状（ハニカム状）に設計された担持体として有効な構造のものや、化学架橋剤で不溶化処理したものなど、形状保持性を高めるなどのための特殊な構成のものが知られている。本発明では、このような特殊な構成のものでなく、コラーゲン溶液を凍結乾燥することで得られる通常のコラーゲンスポンジを用い、該コラーゲンスポンジの強度を高めることを第１の目的とする。シート状のコラーゲンスポンジを調製する際の、原料の由来、溶液調製方法、凍結乾燥方法などは、常法の、従来公知のいずれのものであってもよい。本発明の紙状複合シートの用途にもよるが、最近では、海洋性コラーゲンを用いたスポンジが好まれており、その製造方法としては、例えば、特開２００６－２８１３８号公報に記載の方法が例示できる。また、本発明を構成するコラーゲンスポンジは、多糖類の水溶液を含む液を含浸させる必要があるため、加熱等の方法で不溶化されていることが望ましい。

＜（ｂ）成分：多糖類＞
　本発明の紙状複合シートを構成する（ｂ）成分は、多糖類である。多糖類は、本発明の紙状複合シートの目的や用途にもよるが、医薬、医療機材、化粧品等の製品に配合が許可されているものを用いることが好ましい。例えば、ヒアルロン酸は、グルクロン酸とＮ－アセチルグルコサミンの繰り返し構造のものであり、「ムコ多糖」と呼ばれているものの代表例の一つであり、医薬から化粧品等に幅広く用いられている。ヒアルロン酸は、有効性、生体適合性等の観点から、本発明を構成する多糖類の代表例とでき、本発明を構成する多糖類としては、特にヒアルロン酸及びその誘導体が好ましい。本発明で使用するヒアルロン酸は、肌への浸透性の観点から、低分子量のものを好適に用いることができる。具体的には、極限粘度法で測定した平均分子量が１万以下のものが好ましく、５０００以下のものがさらに好ましい。ヒアルロン酸及びその誘導体は、市販のものを適宜に使用することができる。ヒアルロン酸は、化粧品などにおいて保湿成分として用いられており、飲むサプリメントとして販売もされている。上記した「ムコ多糖」は、動物の粘性分泌液、微生物体内、微細藻類、キノコ類などから得られる粘液質の多糖の総称であり、例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、サクラン、フォリテクト、プルランなどがある。これらの多糖類は、先に述べたように、本発明の紙状複合シートを使用する際に、化粧水等で溶解して、肌上で多糖類が本来有する機能をそれぞれ発揮する。例えば、高分子ヒアルロン酸であれば皮膜形成能を、低分子ヒアルロン酸であれば角質内に浸透して保湿効果を発揮する。

＜（ａ）成分と（ｂ）成分との複合化＞
　本発明を構成する（ｂ）成分は、水溶液として（ａ）成分に含浸させ、その後に乾燥させて水を除去することで、固化した多糖類を（ａ）成分のコラーゲンスポンジと一体化させ、（ａ）成分と（ｂ）成分とを複合化させた乾燥物の紙状複合シートとして構成する。コラーゲンスポンジに含浸させる液の多糖類の水溶液の濃度は特に限定されないが、本発明者らの検討によれば、高濃度になるにつれて溶液粘度が上がり、（ａ）成分に浸み込みにくくなる傾向がある。水溶液の粘度は、原料の多糖類の分子量と濃度により変化するため、コラーゲンスポンジに容易に含浸操作を行うことのできるように溶液濃度を適宜に選択すればよい。本発明を構成する（ｂ）成分の量は、特に限定されないが、例えば、（ａ）成分のコラーゲンスポンジに含浸し乾燥させて得られた乾燥物の大きさが、厚さ１ｍｍ以下の１０ｍｍの正方形の紙状複合シートにおいて、少なくとも２～２０ｍｇ程度含まれていればよい。

＜（ｃ）成分：柔軟成分＞
　本発明の紙状複合シートの好ましい形態としては、上記（ｂ）成分に加えて、物性や使用感の向上を目的として、（ｃ）成分として柔軟成分を併用させて構成されたものが挙げられる。本発明で使用する（ｃ）成分としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール及びジプロピレングリコール等からなる群から選ばれた１種または２種以上が好ましい。上記に挙げた中でも、特に、柔軟効果のほかに、保湿効果などが期待できるグリセリンが好ましい。本発明の紙状複合シートが（ｃ）成分を含む場合、（ｃ）成分の配合量は特に限定されない。例えば、本発明を構成する（ｂ）成分の配合量に対して、総重量基準で、０．００１～１０質量％が好ましく、さらに好ましくは、０．０１～５質量％、最も好ましくは、０．１～２．５質量％である。当該範囲内であれば、（ｃ）成分を含むことで柔軟性が付与されて、紙状複合シートの使用感向上が期待できる。なお、上記の「総重量基準」とは、各成分が複数種含まれる場合に、（ｂ）成分及び（ｃ）成分それぞれの重量の合計が基準であることを意味する。

＜（ｄ）成分：化粧品用成分＞
　本発明の紙状複合シートは、上記した成分に加えて、（ｄ）成分として、化粧品として配合可能な成分を含むことができる。すなわち、本発明の紙状複合シートを化粧品として用いる場合、さらに（ｄ）成分を含むことで、製品に希望する性能をさらに付加することができる。（ｄ）成分の配合量は、それぞれの成分の配合上限を考慮し、適宜決定することができる。本発明で使用することができる（ｄ）成分としては、例えば、セラミド、エラスチン及び細胞賦活物質からなる群から選ばれる少なくともいずれかであることが好ましい。本発明の紙状複合シートは、紙状シートであるため、皮膚に貼付して用いられることが多い。このため、皮膚に対する効能が知られている、例えば、セラミド、エラスチン、細胞賦活物質などから選択される成分を含む構成とすることが好ましい。

＜紙状複合シート＞
　本発明の紙状複合シートは、紙状シートであればよく特に限定されない。例えば、シートの厚さは、使用感、原材料費などの観点から、１ｍｍ以下であることが好ましく、０．１～０．５ｍｍ程度であれば、さらに好ましい。

　本発明の紙状複合シートは、製品の安全性の観点から防腐剤を含有しないことが好ましい。防腐剤を含まずに、製品の保存性向上、生物汚染防止を実現する目的で、紙状複合シートの水分活性が、０．６Ａｗ以下、より好ましくは０．３Ａｗ以下になるまで、十分に乾燥させるとよい。

＜紙状複合シートの製造方法＞
　上記した本発明の紙状複合シートを作製するための製造方法は、少なくとも多糖類の水溶液を含む液にコラーゲンスポンジを含浸させて、前記液をコラーゲンスポンジの細孔内に浸入させた後、その状態で乾燥して乾燥物であるシート状の複合体の紙状複合シートを得ることを特徴とする。さらに好ましくは、含浸操作を減圧脱気しながら行い、多糖類の水溶液を含む液をコラーゲンスポンジの細孔内に浸入させ、該液と細孔内部の空気と置換するようにすることが好ましい。この場合に行う減圧脱気は、基材として用いるコラーゲンスポンジの細孔内部にまで多糖類の水溶液を浸み込ませることを目的としたものである。具体的には、減圧容器中に当該物を入れ、水流ポンプ、油回転真空ポンプ、ドライポンプ、等を用いて脱気することで、実施することができる。この場合、コラーゲンスポンジの細孔中に多糖類の水溶液を含む液が入り込めばよいので、減圧時の圧力は特に制限されない。例えば、油回転真空ポンプで減圧した場合、減圧容器中の到達真空度は０．１Ｐａ程度になる。

　本発明の紙状複合シートを作製するための製造方法において、乾燥時の温度は、多糖類の水溶液を乾燥でき、且つ、コラーゲンスポンジの形成材料であるコラーゲン及び多糖類への影響が小さい２０℃～６０℃、より好ましくは２０℃～４０℃、さらには３０℃程度に設定することが好ましい。また、乾燥庫内は送風等で空気が循環するようにすると、乾燥効率が高まるのでより好ましい。コラーゲンスポンジのコラーゲンは、熱に対して不安定であることが知られており、乾燥温度が上記した範囲よりも高温であると、コラーゲンのらせん構造がほどけるなどして、スポンジ強度が弱まる場合があるので留意する必要がある。先に述べたように、防腐剤を含まずに、製品の保存性向上、生物汚染防止を実現する目的で、前記乾燥を、シート状の複合体の水分活性が０．６Ａｗ以下となるまで行うことが好ましい。

　以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「％」は、特に断らない限り質量基準である。

［実施例１、比較例１］
（シート状のコラーゲンスポンジの調製）
　原料のテラピアの皮１００ｇを１％のクエン酸溶液（ｐＨ２．７）１Ｌに入れ、室温で１時間膨潤させた後に、手作業により真皮を剥離した。このようにして集めた真皮を、塩酸溶液（ｐＨ２．０）０．６Ｌに入れ、ペプシン０．１ｇを用いて、５℃で４８時間保持して、コラーゲンの可溶化処理を行った。上記のようにして得られた可溶化コラーゲン（アテロコラーゲン）を、０．５％クエン酸溶液に溶解し、０．２％の化粧品原料用のコラーゲンの酸性溶液を得た。

　上記で得た酸性溶液をステンレス製トレイに、液深１０ｃｍとなるよう注入した。これを－３０℃～－４０℃に冷却して、約２４時間で液全体を凍結させた。続いて、真空度５０～２００ｍｍＴｏｒｒ、棚加熱温度１００℃で、１晩凍結乾燥させることにより、コラーゲンスポンジを得た。得られたコラーゲンスポンジの厚さは約１．８ｍｍであり、シート状（紙状）であった。上記のような操作で得られた状態のままの無処理のコラーゲンスポンジを、比較例１の紙状シートとした。

（多糖類水溶液の含浸処理及び紙状複合シートの調製）
　次に、ヒアルロン酸ナトリウムであるＦＣＨ－ＳＵ（商品名、分子量（公称値）：１０万、キッコーマンバイオケミファ社製）を１．０ｇと、水９９．０ｇとを混合し、ビーカー中で撹拌して均一な水溶液を得た。得られたヒアルロン酸ナトリウム水溶液を、先に調製したシート状のコラーゲンスポンジの入ったステンレス製トレイのバットに流し入れ、バットを減圧容器内に入れて減圧脱気して、上記した水溶液がコラーゲンスポンジの細孔内に十分に入るように含浸させた。次に、上記のようにして水溶液を含浸させたシート状のコラーゲンスポンジをバットから取り出して、３０℃の温度で１８時間、恒温槽内で保持して乾燥させて、乾燥物とした。上記のようにして紙状コラーゲン／ヒアルロン酸のシート状の複合体を得た。該シート状の複合体の厚さは約０．６ｍｍであった。なお、乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、乾燥前のシートの厚みが１ｍｍ以下であれば、乾燥温度２０～４０℃で、１２～２４時間で乾燥できる。また、強制送風乾燥機などを用いることで、乾燥時間を短縮することができる。

［実施例２］
　実施例１で用いたヒアルロン酸ナトリウム水溶液に、さらに、０．５％グリセリンを添加した溶液を用い、シート状のコラーゲンスポンジに含浸させたこと以外は、実施例１と同様の操作を行って、本実施例の紙状コラーゲン／（ヒアルロン酸＋グリセリン）のシート状の複合体を得た。該シート状の複合体の厚さは約０．８ｍｍであった。

［実施例３］
　実施例１で用いたヒアルロン酸ナトリウム水溶液に、さらに、０．２％水溶性セラミド（米ぬか由来）と、０．５％加水分解エラスチン（ウシ項靭帯由来）と、２０ｐｐｍ上皮成長因子（ＥＧＦ、大腸菌産生）と、０．５％グリセリンをそれぞれ添加したこと以外は、実施例１と同様の操作を行い、本実施例の紙状コラーゲン／（ヒアルロン酸＋その他の成分）のシート状の複合体を得た。該シート状の複合体の厚さは約０．９ｍｍであった。

［評価試験例１］（水分活性の測定）
　先に述べたようにして実施例１～３でそれぞれに得られた、紙状コラーゲン／ヒアルロン酸等の各シート状の複合体と、無処理のコラーゲンスポンジである比較例１の紙状シートについて、水分活性をそれぞれ測定した。測定には、水分活性測定装置　ＳＰ－Ｗ（商品名、アズワン社製）を用いた。測定結果は、それぞれ、実施例１のシート状の複合体の水分活性は０．１８Ａｗ、実施例２のシート状の複合体の水分活性は０．２２Ａｗ、実施例３のシート状の複合体の水分活性は０．２７Ａｗであった。これに対し、比較例１の紙状シートの水分活性は０．３７Ａｗであり、実施例の各シート状の複合体の水分活性よりも値が高かった。

［評価試験例２］
　上記実施例１～３でそれぞれ得られた、紙状コラーゲン／ヒアルロン酸等で構成された各シート状の複合体と、比較例１の紙状シートについて、後述するようにしてそれぞれを使用して、使用感についての評価を行った。以下、これらの実施例及び比較例のシートをまとめて、シート状化粧品と呼ぶ場合がある。

●評価方法－１（使用感）
　専門パネル６名を対象に、実施例１～３及び比較例１の、各シート状化粧料を使用してもらい、使用している時の、使用中の感触及び使用後の肌の状態について、下記のようにして評価した。

　評価方法は、実施例１～３及び比較例１のシート状化粧料について、それぞれのシート状化粧料を水で十分に湿らせ、手の甲に貼り付けて、一定時間保持した。そして、各シート状化粧料についての得られた使用感の評価に基づき、相対的に評価した。具体的には、各シート状化粧料の使用感について、下記に示す３つの項目について、専門パネルに、それぞれ５段階で評価してもらい、その結果を奏合して評価した。６名の専門パネルは、各項目について、男女２名ずつを一組として、３組で評価した。

（評価項目）
　評価項目は、（１）柔軟性、（２）密着性、（３）気持ちよさ、の３項目とし、各シート状化粧料を先のようにして使用した後に、２名一組の専門パネルが、それぞれ下記の基準で評価し、２名の算術平均を、その組の専門パネルの評価結果とした。

（評価基準）
　シート状化粧料の使用感については、それぞれ下記の５段階で評価した。評価の結果を表１にまとめて示した。表１に示した評価結果は、個々の評価項目についての評価結果を、３組の専門パネルの評価の算術平均値で示し、３つの評価項目の値の和を総合得点とした。
　評点４：「非常に良い」
　評点３：「良い」
　評点２：「普通」
　評点１：「悪い」
　評点０：「非常に悪い」

　表１の結果より、実施例１～３のシート状化粧料は、いずれも、比較例１のシート状化粧料と比較して、使用時の、柔軟性、密着性、気持ちよさのいずれの評価項目についても向上したものになることが確認された。また、柔軟成分を添加することにより、実施例２、３のシート状化粧料は、実施例１のシート状化粧料と比較して、使用感がより向上したものになることが分かった。

●評価方法－２（強度）
　実施例１及び比較例１のシート状化粧料の強度について、ＪＩＳ　Ｋ　６２５１：２０１７「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム－引張特性の求め方」に準じ強度を測定し、評価した。ダンベル状試験片は、ＪＩＳ　Ｋ　６２５０の８．（試験片の採取・作製）に従い、ダンベル状３号形を用いて打ち抜いた。そして、得られた各試験片を、シングルコラム型材料試験機　ＳＴＡ－１１５０（エー・アンド・デイ社製）のつかみ治具に固定し、試料片が切断される（ちぎれる）までの荷重を測定した。

　図１に、実施例１のシート状化粧料及び比較例１のシート状化粧料についての測定結果を示した。図１の測定結果より算出された引張応力は、実施例１のシート状化粧料では４４．５Ｎ／ｍｍ^２であったのに対し、比較例１シート状化粧料では２．７Ｎ／ｍｍ^２であった。このことから、本発明の実施例のシート状化粧料は、複合化していない比較例１のシート状化粧料に比べで、約１６．５倍の引張応力を持つことが確認され、本発明で規定する複合化の技術によってシート状のコラーゲンスポンジの強度を格段に向上させることが実現できることが明らかとなった。実施例２、３のシート状化粧料についても上記と同様にして算出し、その結果を表１中に示した。

［実施例４～６］
　実施例２で用いたヒアルロン酸ナトリウム水溶液の代わりに、下記の多糖類の水溶液をそれぞれ用いて、シート状のコラーゲンスポンジに含浸させたこと以外は、実施例２と同様の操作を行い、基材をシート状のコラーゲンスポンジとし、各種の多糖類で強化した実施例４～６の各紙状複合シートをそれぞれ得た。すなわち、実施例４では、アルギン酸ナトリウム（和光純薬社製、５００～６００ｃＰ）の１％水溶液を用い、実施例５では、プルラン（東京化成社製）の１％水溶液を用い、実施例６では、コンドロイチン硫酸（和光純薬製）の１％水溶液を用いた。得られたそれぞれの紙状複合シートについて、実施例１～３で行ったと同様にして使用感と強度の評価をし、その結果を表２にまとめて示した。表２に示した通り、実施例４～６のいずれの紙状複合シートも、シート状化粧品として好適なものであった。

　本発明の活用例としては、強度に劣るコラーゲンスポンジの強度を、化粧料などに有用な多糖類を利用して簡便な操作で格段に向上させることができるので、強度の弱いスポンジ状成形物の崩壊を防止した、保存性、安定性を高め、携帯性、使用感を向上させたシート状化粧品等としての利用が期待される。また、本発明の活用例としては、上記した化粧料に限らず、他の有効成分を適宜に含有させることにより、食品や医療機材等としても広く利用できる製品への適用も期待される。

Claims

　紙状コラーゲンに多糖類を含んでなるシート状の複合体であって、
　シート状保持体として機能する（ａ）成分のコラーゲンスポンジと、（ｂ）成分の多糖類とを有してなり、前記多糖類の水溶液の含浸物を乾燥させてなるコラーゲンスポンジの乾燥物であることを特徴とする紙状複合シート。
　前記（ｂ）成分の多糖類が、ヒアルロン酸またはその誘導体である請求項１に記載の紙状複合シート。
　前記シート状の複合体が、さらに（ｃ）成分として柔軟成分を含んでなる請求項１又は２に記載の紙状複合シート。
　前記（ｃ）成分が、グリセリン、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール及びジプロピレングリコールからなる群から選ばれた少なくともいずれかである請求項３に記載の紙状複合シート。
　前記シート状の複合体が、さらに（ｄ）成分として、化粧品として配合可能な成分を含んでなる請求項１又は２に記載の紙状複合シート。
　前記（ｄ）成分が、セラミド、エラスチン及び細胞賦活物質からなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項５に記載の紙状複合シート。
　前記シート状の複合体の厚さが、１ｍｍ以下である請求項１又は２に記載の紙状複合シート。
　前記シート状の複合体が、防腐剤を含有せず、且つ、水分活性が０．６Ａｗ以下である請求項１又は２に記載の紙状複合シート。
　紙状の化粧品である請求項１又は２に記載の紙状複合シート。
　紙状コラーゲンに多糖類を含んでなるシート状の複合体を得るための紙状複合シートの製造方法であって、
　少なくとも多糖類の水溶液を含む液にコラーゲンスポンジを含浸させて前記液をコラーゲンスポンジの細孔内に浸入させた後、その状態で乾燥して前記多糖類を固化することで紙状コラーゲンに多糖類を含んでなるシート状の複合体を得ることを特徴とする紙状複合シートの製造方法。
　さらに、減圧脱気をしながら前記液をコラーゲンスポンジの細孔内に浸入させる請求項１０に記載の紙状複合シートの製造方法。
　前記乾燥する際の温度が、２０～６０℃の範囲内の温度である請求項１０又は１１に記載の紙状複合シートの製造方法。
　前記乾燥を、シート状の複合体の水分活性が０．６Ａｗ以下となるまで行う請求項１０又は１１に記載の紙状複合シートの製造方法。