WO2023190543A1

WO2023190543A1 - エチレン系重合体組成物およびその用途

Info

Publication number: WO2023190543A1
Application number: PCT/JP2023/012569
Authority: WO
Inventors: 千紘小松; 充藤澤; 洋平宝谷
Original assignee: 三井化学株式会社
Priority date: 2022-03-31
Filing date: 2023-03-28
Publication date: 2023-10-05
Also published as: KR20240137691A; TW202402926A

Abstract

本発明のエチレン系重合体組成物は、１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］が１．５～１０ｄｌ／ｇであり、密度が９３０～９８０ｋｇ／ｍ3であるエチレン系重合体成分（Ａ）１００質量部、および、炭素繊維（Ｂ）１～１００質量部を含有し、前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］が１０～４０ｄｌ／ｇである超高分子量エチレン系重合体（ａ１）を含む。

Description

エチレン系重合体組成物およびその用途

　本発明はエチレン系重合体組成物およびその用途に関する。

　ポリエチレン樹脂は、成形が容易であり、各種物性に優れ、かつ経済的であることから成形材料として広く利用されている。たとえば、特許文献１には、高密度ポリエチレン樹脂と層状ケイ酸塩とを含む高密度ポリエチレン樹脂組成物、およびこの組成物の射出成形品などが開示されている。また、特許文献２には、ポリオレフィン樹脂（ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂など）、多層カーボンナノチューブおよび無機フィラーからなる樹脂組成物、ならびにこの組成物の成形品が開示されている。

　一方、特許文献３には、超高分子量ポリエチレンと、低分子量ないし高分子量ポリエチレンとを含むエチレン系重合体、および、カーボンナノチューブを含有するエチレン系重合体組成物が開示され、この樹脂組成物は、表面抵抗率及び体積抵抗率が低く、また、良好な熱伝導性を有していること、当該エチレン系重合体組成物から得られる成形体は、良好な摺動性を有し、また、剛性を有していることが記載されている。

特開２０１４－１９７３３号公報特開２０１０－１９６０１２号公報国際公開第２０２２／０３８９４１号

　しかしながら、無機フィラーやカーボンナノチューブを含む従来のエチレン系重合体組成物は、成形性が必ずしも十分ではなく、また、剛性、導電性、耐摩耗性および耐熱性に優れた成形体を得るという観点から、さらなる改善の余地があった。

　そこで本発明は、成形性に優れるとともに、剛性、導電性、耐摩耗性および耐熱性に優れた成形体を得ることのできるエチレン系重合体組成物およびその成形体を提供することを目的とする。

　本発明の例を以下に示す。
　［１］　１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］が１．５～１０ｄｌ／ｇであり、密度が９３０～９８０ｋｇ／ｍ³であるエチレン系重合体成分（Ａ）１００質量部、および、炭素繊維（Ｂ）１～１００質量部を含有し、
　前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］が１０～４０ｄｌ／ｇである超高分子量エチレン系重合体（ａ１）を含む、エチレン系重合体組成物。

　［２］　前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］が０．１～９ｄｌ／ｇである低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）を含む、項［１］に記載のエチレン系重合体組成物。

　［３］　前記エチレン系重合体成分（Ａ）が、エチレン系重合体成分（ＡＩ）を１０～９０質量％、およびエチレン系重合体成分（ＡＩＩ）を９０～１０質量％（成分（ＡＩ）および成分（ＡＩＩ）の合計量を１００質量％とする。）含み、
　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）が、３５質量％を超え９０質量％以下の前記超高分子量エチレン系重合体（ａ１）と、１０質量％以上６５質量％未満の前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）（重合体（ａ１）および重合体（ａ２）の合計量を１００質量％とする。）とを含んでなる多段重合体であり、
　前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）が、１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］が０．１～２．９ｄｌ／ｇであるエチレン系重合体（ａ３）を含む、項［２］に記載のエチレン系重合体組成物。

　［４］　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）が、前記超高分子量エチレン系重合体（ａ１）を生成させる工程と、前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）を生成させる工程とを含む多段重合法により得られる、項［３］に記載のエチレン系重合体組成物。

　［５］　前記炭素繊維（Ｂ）が、表面処理された炭素繊維である、項［１］～［４］のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物。
　［６］　前記炭素繊維（Ｂ）の表面処理が、オレフィン系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ナイロン系ポリマー、またはエポキシ系ポリマーを用いたサイジング処理である、項［５］に記載のエチレン系重合体組成物。

　［７］　前記エチレン系重合体組成物から抽出される前記炭素繊維（Ｂ）の平均繊維長が１００μｍ以上４００μｍ以下である、項［１］～［６］のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物。
　［８］　前記エチレン系重合体組成物から抽出される前記炭素繊維（Ｂ）のうち、繊維長が１００μｍ以上３００μｍ以下である炭素繊維の割合が３０％以上である、項［１］～［７］のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物。

　［９］　変性オレフィン系重合体（Ｃ）を含む、項［１］～［８］のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物。
　［１０］　前記エチレン系重合体成分（Ａ）１００質量部に対する前記炭素繊維（Ｂ）の含有量が２０～６０質量部である、項［１］～［９］のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物。

　［１１］　項［１］～［１０］のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物を含む成形体。
　［１２］　前記成形体に含まれる前記炭素繊維（Ｂ）のうち、針状比が１．５以上である炭素繊維の割合が３０％以上である、項［１１］に記載の成形体。

　［１３］　前記成形体の長さ方向および幅方向の収縮率が、いずれも２．０％以下である、項［１１］または［１２］に記載の成形体。
　［１４］　前記成形体の曲げ弾性率が、５０００ＭＰａ以上である、項［１１］～［１３］のいずれか１項に記載の成形体。

　［１５］　前記成形体の振動疲労試験（３５ＭＰａ）における変位量が８ｍｍに達した際の繰り返し回数が、１５００回以上である、項［１１］～［１４］のいずれか１項に記載の成形体。
　［１６］　射出成形体である、項［１１］～［１５］のいずれか１項に記載の成形体。
　［１７］　被覆材または摺動材である、項［１１］～［１６］のいずれか１項に記載の成形体。

　本発明によれば、成形性に優れるとともに、剛性、導電性、耐摩耗性および耐熱性に優れた成形体を得ることのできるエチレン系重合体組成物およびその成形体を提供することができる。

図１は、実施例における配向を評価する際の観察用サンプルを、ＡＳＴＭ　Ｄ６７１　ＴｙｐｅＡ型試験片（成形体）から採取する箇所および観察用サンプルの観察面を説明するための概略図である。

　以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、「～」を用いて表される数値範囲は、「～」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。

　本発明に係るエチレン系重合体組成物（以下、単に「本発明の組成物」ともいう。）は、極限粘度［η］が１．５～１０ｄｌ／ｇであり、密度が９３０～９８０ｋｇ／ｍ³であるエチレン系重合体成分（Ａ）１００質量部、および、炭素繊維（Ｂ）１～１００質量部を含有し、前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、極限粘度［η］が１０～４０ｄｌ／ｇである超高分子量エチレン系重合体（ａ１）を含むことを特徴としている。

　なお、本発明において極限粘度［η］とは、特に断りのない限り、１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］である。

　＜エチレン系重合体成分（Ａ）＞
　前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、エチレンの単独重合体、またはエチレンとα－オレフィンとの共重合体であり、一般に高圧法低密度ポリエチレン（ＨＰ－ＬＤＰＥ）、線状低密度ポリエチレン（ＬＬＤＰＥ）、中密度ポリエチレン（ＭＤＰＥ）、高密度ポリエチレン（ＨＤＰＥ）、超高分子量エチレン系重合体などと呼称されている、エチレンを主体とする重合体である。

　前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、共重合体である場合は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。

　エチレンと共重合されるα－オレフィンは、好ましくは炭素数３～２０のα－オレフィンであり、具体的には、プロピレン、１－ブテン、４－メチル－１－ペンテン、１－ヘキセン、１－ヘプテン、１－オクテン、１－ノネン、１－デセン、１－ウンデセン、１－ドデセン、１－トリデセン、１－テトラデセン、１－ペンタデセン、１－ヘキサデセン、１－ヘプタデセン、１－ノナデセン、１－エイコセン、９－メチル－１－デセン、１１－メチル－１－ドデセンおよび１２－エチル－１－テトラデセンなどが挙げられる。これらα－オレフィンは、１種単独で、または２種以上組み合わせて用いられる。

　前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、１種単独の重合体であっても２種以上のエチレン系重合体の組成物（混合物）であってもよい。

　前記エチレン系重合体成分（Ａ）の極限粘度［η］は、１．５～１０ｄｌ／ｇ、好ましくは、２．０～８．０ｄｌ／ｇ、より好ましくは２．５～７．０ｄｌ／ｇである。前記エチレン系重合体成分（Ａ）が、前記の範囲内の極限粘度［η］を有することにより、本発明の組成物から、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性、外観および成形性などの特性のバランスに優れた成形体を得ることができる。

　前記エチレン系重合体成分（Ａ）の密度（ＡＳＴＭ　Ｄ１５０５に準拠して測定）は、９３０～９８０ｋｇ／ｍ³、好ましくは９４０～９７０ｋｇ／ｍ³である。前記エチレン系重合体成分（Ａ）が、前記の範囲内の密度を有することにより、耐摩耗性と柔軟性に優れる成形体が得られる。

　前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、極限粘度［η］が１０～４０ｄｌ／ｇの超高分子量エチレン系重合体（ａ１）（以下「重合体（ａ１）」とも記載する。」）を含んでいる。前記エチレン系重合体成分（Ａ）が前記重合体（ａ１）を含んでいるため、本発明の組成物から、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性などに優れた成形体が得られる。

　前記重合体（ａ１）の極限粘度［η］は、好ましくは１５～３５ｄｌ／ｇ、より好ましくは２０～３５ｄｌ／ｇである。

　前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、極限粘度［η］が０．１～９ｄｌ／ｇの低分子量ないし高分子量のエチレン系重合体（ａ２）（以下「重合体（ａ２）」とも記載する。）を含んでいてもよい。前記重合体（ａ２）は、ワックスであってもよい。

　前記重合体（ａ２）の極限粘度［η］は、好ましくは０．１～５ｄｌ／ｇ、より好ましくは０．５～３．０ｄｌ／ｇ、さらに好ましくは１．０～２．５ｄｌ／ｇである。

　本発明の組成物は、好ましくは、前記エチレン系重合体成分（Ａ）として、
　３５質量％を超え９０質量％以下の前記超高分子量エチレン系重合体（ａ１）と、
　１０質量％以上６５質量％未満の前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）（重合体（ａ１）および重合体（ａ２）の合計量を１００質量％とする。）とを含む多段重合体であるエチレン系重合体成分（ＡＩ）を１０～９０質量％、および
　極限粘度［η］が０．１～２．９ｄｌ／ｇであるエチレン系重合体成分（ＡＩＩ）を９０～１０質量％（成分（ＡＩ）および成分（ＡＩＩ）の合計量を１００質量％とする。）含有する。

　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）は、好ましくは前記超高分子量エチレン系重合体（ａ１）を生成させる工程と、前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）を生成させる工程とを含む多段重合法により得ることができる。

　前記多段重合法において、通常、１段階目で前記重合体（ａ１）を生成させ、次いで２段階目で前記重合体（ａ２）を生成させる。

　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）の割合は、好ましくは１５～９０質量％、より好ましくは２０～８０質量、さらに好ましくは２６．７～４９質量％であり、前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）の割合は、好ましくは８５～１０質量％、より好ましくは８０～２０質量％、さらに好ましくは７３．３～５１質量％（成分（ＡＩ）および成分（ＡＩＩ）の全量を１００質量％とする。）である。

　《エチレン系重合体成分（ＡＩ）》
　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）を構成する前記超高分子量エチレン系重合体（ａ１）は、通常、多段重合法における第１段階の重合にて得られる。

　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）を構成する前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）は、通常、多段重合法において前記重合体（ａ１）の重合後、第２段階の重合にて得られる。

　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）は、触媒の存在下に、エチレンおよび所望に応じてα－オレフィンを多段階で重合させることにより製造することができ、多段階の重合は、特開平２－２８９６３６号公報に記載の重合方法と同様な方法で行うことができる。

　また、前記重合体（ａ１）を重合し、次いで前記重合体（ａ２）を後重合することにより、前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）は、前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）との相溶性に優れる。その結果、本発明の組成物には前記超高分子量エチレン系重合体（ａ１）が均一に分散し、前記超高分子量エチレン系重合体（ａ１）は前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）と結合する。すなわち前記重合体（ａ１）と前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）との間の界面強度が高くなる。このため本発明の組成物は、前記成分（ＡＩ）および前記成分（ＡＩＩ）を含むことで、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性、外観および成形性などの特性のバランスに優れ、とりわけ耐摩耗性、外観と成形性のバランスに優れる。

　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）は、前記超高分子量エチレン系重合体（ａ１）を、好ましくは３５質量％を超え９０質量％以下、より好ましくは４０質量％を超え８０質量％以下、さらに好ましくは４１～７５質量％の量で含有し、前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）を、好ましくは１０質量％以上６５質量％未満、より好ましくは２０質量％以上６０質量％未満、さらに好ましくは２５～５９質量％の量で含有する。

　重合体（ａ１）と重合体（ａ２）との割合を前記の範囲内にすることにより、成分（ＡＩ）と成分（ＡＩＩ）との相溶性が向上し、本発明の組成物は、特に耐摩耗性や外観と成形性に優れる。

　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）は、実質的に超高分子量エチレン系重合体（重合体（ａ１））および低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（重合体（ａ２））のみを含んでなる。

　前記成分（ＡＩ）には、通常のポリオレフィンに添加される添加剤（例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤などの安定剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、鉱物油系軟化剤、石油樹脂、ワックスなど）が添加されていてもよく、本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記成分（ＡＩ）に添加された添加剤を含んでいてもよい。

　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）の密度（ＡＳＴＭ　Ｄ１５０５に準拠して測定）は、通常９３０～９８０ｋｇ／ｍ³、好ましくは９４０～９７０ｋｇ／ｍ³である。
　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）の極限粘度［η］は、通常３．０～１０．０ｄｌ／ｇ、好ましくは３．０～８．０ｄｌ／ｇ、より好ましくは３．０～７．０ｄｌ／ｇである。

　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）が、上記のような密度を有することにより、成形体の動摩擦係数が小さくなるので自己潤滑性に優れた成形体が得られる。
　また、前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）が、上記の範囲内の極限粘度［η］を有することにより、前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）とエチレン系重合体成分（ＡＩＩ）との分散状態が良好になる。

　すなわち、前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）に含まれる前記重合体（ａ２）と、押出機などでメルトブレンドするエチレン系重合体成分（ＡＩＩ）とが相互に微細に分散することにより分散状態が均一になるので、前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）を用いることにより、本発明の組成物から、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性、外観および成形性などに優れた成形体が得られる。

　《エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）》
　前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）は、極限粘度［η］が０．１～２．９ｄｌ／ｇであるエチレン系重合体（ａ３）を含むことが好ましい。

　前記エチレン系重合体（ａ３）としては、高圧法ポリエチレン（ＨＰ－ＬＤＰＥ）、線状低密度ポリエチレン（ＬＬＤＰＥ）、中密度ポリエチレン（ＭＤＰＥ）、高密度ポリエチレン（ＨＤＰＥ）、エチレン・α－オレフィン共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン・（メタ）アクリル酸共重合体、エチレン・α－オレフィン・ジエン（トリエン、ポリエン）三元共重合体などが挙げられる。ここでα－オレフィンとしては、炭素数が３～２０であるプロピレン、１－ブテン、１－ペンテン、１－ヘキセン、１－オクテン、１－デセン、１－ドデセン、４－メチル－１－ペンテンおよび３－メチル－１－ペンテンなどが例示できる。またジエン（トリエン、ポリエン）としては、共役もしくは非共役ジエン、トリエン、ポリエンを含む、５－エチリデン－２－ノルボルネン、ビニルノルボルネンなどを例示できる。

　前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）は、１種単独のエチレン系重合体（ａ３）であっても、あるいは２種以上のエチレン系重合体（ａ３）の組成物であってもよく、エチレン系重合体（ａ３）とポリオレフィン（ポリプロピレン、ポリブテンなど）との組成物であってもよい。また、前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）は、ワックスであってもよい。

　前記エチレン系重合体（ａ３）としては、上述したものの中でも、高密度ポリエチレン（ＨＤＰＥ）、低密度ポリエチレン（ＬＤＰＥ）が好ましく、高密度ポリエチレン（ＨＤＰＥ）がより好ましい。

　前記エチレン系重合体（ａ３）の密度（ＡＳＴＭ　Ｄ１５０５に準拠して測定）は、通常８２０～９８０ｋｇ／ｍ³、好ましくは９３０～９８０ｋｇ／ｍ³、より好ましくは９５０～９８０ｋｇ／ｍ³である。

　前記エチレン系重合体（ａ３）の極限粘度［η］は、通常０．１～２．９ｄｌ／ｇ、好ましくは０．３～２．８ｄｌ／ｇ、より好ましくは０．５～２．５ｄｌ／ｇ、さらに好ましくは１．０～２．５ｄｌ／ｇである。

　前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）は、前記エチレン系重合体（ａ３）を含むため、前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）と混合した際に良好に分散する。すなわち、押出機などでのメルトブレンド時に、エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）と、エチレン系重合体成分（ＡＩ）に含まれる低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）とが相互に微細に分散することにより分散状態が均一になる。このため、エチレン系重合体成分（Ａ）として、エチレン系重合体成分（ＡＩ）とエチレン系重合体成分（ＡＩＩ）とを用いることにより、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性、外観、柔軟性および成形性などに優れた成形体が得られる。

　前記成分（ＡＩＩ）には、通常のポリオレフィンに添加される添加剤（例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤などの安定剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、鉱物油系軟化剤、石油樹脂、ワックスなど）、が添加されていてもよく、本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記成分（ＡＩＩ）に添加された添加剤を含んでいてもよい。

　＜炭素繊維（Ｂ）＞
　前記炭素繊維（Ｂ）としては、特に限定されず、公知の種々の炭素繊維を使用することができ、例えば、ポリアクリルニトリル系、レーヨン系、ピッチ系、ポリビニルアルコール系、再生セルロース系、メゾフェーズピッチから製造されたピッチ系等の炭素繊維が挙げられる。これらは、１種単独で用いても２種以上を併用してもよい。

　前記炭素繊維（Ｂ）は、汎用繊維でもよく、高強度繊維でもよい。また、前記炭素繊維（Ｂ）は、長繊維、短繊維、チョップドファイバー、リサイクル繊維であってもよい。

　前記炭素繊維（Ｂ）は、表面処理された炭素繊維が好ましい。炭素繊維の表面処理の方法としては、一般的によく用いられる公知の方法を用いればよく、例えば、炭素繊維に酸またはアルカリ性の水溶液で電解表面処理を行って炭素繊維表面に官能基を付与する方法、ならびにサイジング剤を用いて処理する方法などが挙げられる。このうち、オレフィン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、ナイロン系ポリマーおよびウレタン系ポリマーなどを用いたサイジング処理が好ましく挙げられる。

　前記炭素繊維（Ｂ）の平均長さ、すなわち平均繊維長は、好ましくは０．１ｍｍ以上１５．０ｍｍ以下、より好ましくは０．３ｍｍ以上１３．０ｍｍ以下、さらに好ましくは０．５ｍｍ以上１３．０ｍｍ以下である。平均繊維長が前記下限以上である場合には、炭素繊維による機械物性の補強効果が充分発現される傾向にある。平均繊維長が前記上限以下である場合には、エチレン系重合体組成物中の炭素繊維が分散することによって成形体の外観が良好となる傾向にある。

　本発明の組成物から抽出される前記炭素繊維（Ｂ）の平均繊維長は、好ましくは１００μ以上４００μｍ以下、より好ましくは１２０μｍ以上３８０μｍ以下、さらに好ましくは１５０μｍ以上３６０μｍ以下である。本発明の組成物から抽出される前記炭素繊維（Ｂ）の平均繊維長が前記範囲であることにより、成形体作製時の加工性が良好になる。一方で、平均繊維長が前記範囲外にあると、成形時に炭素繊維と樹脂とが均一に混練されにくくなり、組成物および成形体の物性低下の要因となる場合がある。

　また、本発明の組成物から抽出される前記炭素繊維（Ｂ）のうち、繊維長が１００μｍ以上３００μｍ以下である炭素繊維の割合は、好ましくは３０％以上、より好ましくは３５～９９％、さらに好ましくは４０～９８％である。繊維長が１００μｍ以上３００μｍ以下である炭素繊維の割合が前記範囲であることにより、機械的強度を高めることが可能となり、耐摩耗性に優れる成形体を得ることができる。
　本発明の組成物から抽出される前記炭素繊維（Ｂ）の繊維長および平均繊維長は、例えば、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。

　前記炭素繊維（Ｂ）の平均直径は、好ましくは０．５μｍ以上３０μｍ以下、より好ましくは１μｍ以上２１μｍ以下であり、さらに好ましくは１μｍ以上１９μｍ以下である。炭素繊維の平均直径が前記下限以上である場合には、成形時に炭素繊維が破損し難くなり、また、得られる成形体の衝撃強度が高くなる傾向にある。炭素繊維の平均直径が前記上限以下である場合には、成形体の外観が良好となり、また、炭素繊維のアスペクト比が低下せず、成形体の剛性、耐熱性などの機械的物性に十分な補強効果が得られる傾向にある。

　本発明の組成物において、前記炭素繊維（Ｂ）の含有量は、前記エチレン系重合体成分（Ａ）の含有量を１００質量部とすると、１～１００質量部、好ましくは４～７０質量部、より好ましくは７～６５質量部、さらに好ましくは１０～６０質量部、特に好ましくは２０～６０質量部である。前記炭素繊維（Ｂ）の含有量が前記範囲にあると、本発明の組成物の成形性に優れるとともに、本発明の組成物から剛性、導電性、耐摩耗性、耐熱性に優れた成形体を得ることができる。

　炭素繊維（Ｂ）の市販品としては、例えば、株式会社帝人製テナックス（ＨＴ　Ｐ８０２（ポリオレフィン系ポリマーサイジング）、ＨＴ　Ｃ６０５（ナイロン系ポリマーサイジング）、ＨＴ　Ｃ５０３（ウレタン系ポリマーサイジング））、東レ株式会社製トレカカットファイバー　Ｔ００８－００６（エポキシ系ポリマーサイジング）、日本ポリマー産業株式会社　ＥＸ―１ＬＣ（エポキシ系ポリマーサイジング）などが挙げられる。

　＜変性オレフィン系重合体（Ｃ）＞
　本発明の組成物は、変性オレフィン系重合体（Ｃ）を含んでいてもよい。
　前記変性オレフィン系重合体（Ｃ）は、たとえば、前記エチレン系重合体成分（Ａ）と前記炭素繊維（Ｂ）との相容性を高めるための相容化剤として用いられる。

　前記変性オレフィン系重合体（Ｃ）としては、特に限定されないが、たとえば、エチレンおよび炭素原子数３～１２のα－オレフィンの単独重合体または共重合体の酸変性物（例えば、無水マレイン酸変性物）、空気酸化物、またはスチレン変性物が挙げられる。これらの中でも、エチレン系重合体（エチレン単独重合体およびエチレンと炭素原子数３～１２のα－オレフィンから選ばれる少なくとも１種のα－オレフィンとの共重合体）およびプロピレン系重合体（プロピレン単独重合体およびプロピレンと炭素原子数４～１２のα－オレフィンから選ばれる少なくとも１種のα－オレフィンとの共重合体）からなる群から選ばれる重合体の変性体が好ましい。

　ここで、前記α－オレフィン（炭素原子数３～１２のα－オレフィンまたは炭素原子数４～１２のα－オレフィン）の例としては、プロピレン、１－ブテン、１－ペンテン、１－ヘキセン、４－メチル－１－ペンテン、１－オクテンが挙げられる。

　前記変性オレフィン系重合体（Ｃ）は、好ましくは変性エチレン系重合体である。
　前記変性オレフィン系重合体（Ｃ）は、より好ましくは下記のエチレン系重合体（ｃ１）が不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されている、変性エチレン系重合体（ｃ１１）である。

　前記エチレン系重合体（ｃ１）は、密度が９３０～９７５ｋｇ／ｍ³であり、ＡＳＴＭ　Ｄ１２３８に基づき測定した、１９０℃、２．１６ｋｇ荷重におけるメルトフローレート（ＭＦＲ）が０．１～１０ｇ／１０分であるか、ＡＳＴＭ　Ｄ１２３８に基づき測定した、１９０℃、１０ｋｇ荷重におけるメルトフローレート（ＭＦＲ）が０．１～２０ｇ／１０分であることが好ましい。

　エチレン系重合体（ｃ１）の密度は、好ましくは９４０～９７０ｋｇ／ｍ³である。密度が前記範囲にあると、エチレン系重合体成分（Ａ）と炭素繊維（Ｂ）との相容性が高い。

　エチレン系重合体（ｃ１）のメルトフローレート（ＡＳＴＭ　Ｄ１２３８に準拠、１９０℃、２．１６ｋｇ荷重）は、好ましくは０．２～８ｇ／１０分、より好ましくは０．５～６ｇ／１０分、さらに好ましくは０．５～３ｇ／１０分である。エチレン系重合体（ｃ１）のメルトフローレート（ＡＳＴＭ　Ｄ１２３８に準拠、１９０℃、１０ｋｇ荷重）は、好ましくは０．１～１５ｇ／１０分、より好ましくは、０．１～１０ｋｇ／１０分、さらに好ましくは０．１～８ｇ／１０分である。メルトフローレートが前記範囲にあると、エチレン系重合体成分（Ａ）と炭素繊維（Ｂ）との相容性が高い。

　変性エチレン系重合体（ｃ１１）における不飽和カルボン酸またはその誘導体のグラフト量は、通常０．０１～１０質量％、好ましくは０．０２～１０質量％である。グラフト量が前記範囲にあると、エチレン系重合体成分（Ａ）と炭素繊維（Ｂ）との相容性が高い。

　前記不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えば、（メタ）アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸（エンドシス－ビシクロ［２.２.１］ヘプト－５－エン－ジカルボン酸）等の不飽和カルボン酸、およびその誘導体、例えば、酸ハライド、アミドイミド、無水物、エステル等が挙げられる。前記誘導体の具体例としては、例えば塩化マレイル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエート、（メタ）アクリル酸メチル、（メタ）アクリル酸エチル、（メタ）アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル等のエステルおよびハーフエステル等が挙げられる。これらの中では、不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物が好ましく、マレイン酸、ナジック酸およびこれらの酸無水物がより好ましい。

　前記変性エチレン系重合体（ｃ１１）は、種々公知の方法で製造することができる。例えば、エチレン系重合体を有機溶媒に溶解し、次いで得られた溶液に不飽和カルボン酸またはその誘導体及び必要に応じて有機過酸化物などのラジカル開始剤を加え、通常、６０～３５０℃、好ましくは８０～１９０℃の温度で、０．５～１５時間、好ましくは１～１０時間反応させる方法、あるいは、押出機などを使用して、無溶媒で、エチレン系重合体と、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体及び必要に応じて有機過酸化物などのラジカル開始剤を加え、通常、エチレン系重合体の融点以上、好ましくは１６０～３５０℃、０．５～１０分間反応させる方法を採り得る。

　変性前のエチレン系重合体は、公知の方法、例えば高圧法あるいはチーグラー型のＴｉ系触媒、Ｃｏ系触媒、あるいはメタロセン系触媒等を用いる低圧法によって製造することができる。

　エチレン系重合体（ｃ１）は、それぞれ、１種単独のエチレン系重合体を含んでいてもよく、２種以上のエチレン系重合体を含んでいてもよい。
　エチレン系重合体（ｃ１）が２種以上のエチレン系重合体を含む場合、その２種以上のエチレン系重合体はそれぞれ、上記エチレン系重合体（ｃ１）の密度およびメルトフローレートの要件を満たす。

　本発明の組成物が前記変性オレフィン系重合体（Ｃ）を含む場合、前記本発明の組成物における前記変性オレフィン系重合体（Ｃ）の含有量は、前記エチレン系重合体成分（Ａ）の含有量を１００質量部とすると、好ましくは０．１～１０質量部、より好ましくは０．３～８質量部、さらに好ましくは０．５～７質量部である。前記変性オレフィン系重合体（Ｃ）の含有量が前記範囲にあると、前記エチレン系重合体成分（Ａ）および前記炭素繊維（Ｂ）を良好に相容化させることができる。

　＜任意成分＞
　本発明のエチレン系重合体組成物は、上述したエチレン系重合体成分（Ａ）、炭素繊維（Ｂ）、および変性オレフィン系重合体（Ｃ）に加え、必要に応じて、炭素繊維（Ｂ）以外の無機フィラー、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ワックス、滑剤、スリップ剤、核剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、染料、分散剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、相容化剤等の通常ポリオレフィンに用いる各種添加剤、あるいはエラストマーなどの衝撃強度改質剤、ポリアミドなどの重合体を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。

　本発明のエチレン系重合体組成物が前記添加剤あるいは重合体を含む場合は、その量は特に限定されないが、たとえば、０．０１～３０質量％の範囲である。

　前記添加剤としては、ワックスが好ましい。ワックスの例としては、ポリエチレン系ワックス（前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）に相当するものを除く。）、ポリプロピレン系ワックスが挙げられる。

　本発明のエチレン系重合体組成物がワックスを含むとエチレン系重合体成分（Ａ）中での炭素繊維（Ｂ）の凝集が抑制されるので混練するのが容易になり、エチレン系重合体成分（Ａ）中に炭素繊維（Ｂ）が分散しやすいと考えられる。

　本発明のエチレン系重合体組成物がワックスを含む場合は、その量は、組成物全体の量に対して、好ましくは０．０１～１０質量％の範囲である。

　本発明のエチレン系重合体組成物の、ＪＩＳ　Ｋ　７２１０－１：２０１４に準拠し、１９０℃で１０ｋｇの荷重で測定したＭＦＲは、好ましくは０．０１～２０ｇ／１０分、より好ましくは０．０１～１０ｇ／１０分である。

　＜エチレン系重合体組成物の製造方法＞
　本発明のエチレン系重合体組成物は、前記エチレン系重合体成分（Ａ）、前記炭素繊維（Ｂ）、任意に前記変性オレフィン系重合体（Ｃ）、および任意に前記任意成分を、従来公知の方法で混合、たとえば各成分をドライブレンドし、続いて一軸または二軸押出機で溶融混練し、ストランド状に押出しペレットに造粒することにより得ることができる。

　前記炭素繊維（Ｂ）は、前記エチレン系重合体成分（Ａ）等の重合体成分と予め混合してマスターバッチの形態で用いてもよい。

　＜成形体＞
　本発明の成形体は、前記エチレン系重合体組成物を含む。成形体の製造方法（成形方法）としては、具体的には、従来公知のポリオレフィンの成形方法、例えば、押出成形、射出成形、フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等の公知の熱成形方法が挙げられる。好ましくは射出成形によって、前記エチレン系重合体組成物を加工することで、前記エチレン系重合体組成物を含む成形体を得ることが可能である。

　前記成形体は、前記エチレン系重合体組成物から形成された成形体であってもよく、また、前記エチレン系重合体組成物から形成された部分、例えば表層、を有する成形体であってもよい。

　本発明の成形体に含まれる前記炭素繊維（Ｂ）のうち、針状比が１．５以上である炭素繊維の割合が、好ましくは３０％以上、より好ましくは３０～７０％、さらに好ましくは３１～６５％、特に好ましくは３２～６０％である。炭素繊維の針状比１．５以上である炭素繊維の割合が前記範囲であることにより、成形体の機械的強度を高めることができ、剛性や耐疲労性に優れる成形体が得られる。針状比が１．５以上である炭素繊維の割合は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。

　本発明の成形体の長さ方向および幅方向の収縮率は、いずれも２．０％以下であることが好ましく、１．５％以下であることがより好ましく、０．０５～１．０％であることが特に好ましい。前記収縮率は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。

　本発明の成形体の曲げ弾性率は、好ましくは５０００ＭＰａ以上、より好ましくは６０００～２００００ＭＰａ、さらに好ましくは７０００～１５０００ＭＰａである。前記曲げ弾性率は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。

　本発明の成形体の振動疲労試験（３５ＭＰａ）における変位量が８ｍｍに達した際の繰り返し回数は、好ましくは１５００回以上、より好ましくは２０００回以上、さらに好ましくは５０００回以上である。前記繰り返し回数の上限は、多いほどよいため特に限定されないが、好ましくは１０００万回であり、より好ましくは１００万回、さらに好ましくは５０万回である。前記繰り返し回数は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。

　成形体は、たとえば日用品やレクリエーション用途などの家庭用品、一般産業用途、工業用品に至る広い用途で用いられる。成形体の具体例としては、家電材料部品、通信機器部品、電気部品、電子部品、自動車部品、その他の車両の部品、船舶、航空機材料、機械機構部品、建材関連部材、土木部材、農業資材、電動工具部品、食品容器、フィルム、シート、繊維が挙げられる。

　本発明の成形体は、従来公知のポリエチレン用途に広く使用できるが、特に耐摩耗性、剛性、自己潤滑性、衝撃強度、薄肉成形などの特性のバランスに優れているので、これらが要求される用途として、例えば、鋼管、電線、自動車スライドドアレールなどの金属の被覆材（積層）；耐圧ゴムホース、自動車ドア用ガスケット、クリーンルームドア用ガスケット、自動車グラスランチャンネル、自動車ウエザストリップなどの各種ゴムの被覆材（積層）；ホッパー、シュートなどのライニング用、ギアー、軸受、ローラー、テープリール、各種ガイドレールやエレベーターレールガイド、各種保護ライナー材などの摺動材などに使用される。

　本発明の成形体は、導電性にも優れるため、各種機械部品や摺動部材の帯電性を抑制することが可能であり、導電性・帯電防止を要求される用途に好適に使用できる。

　以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。

　［測定方法］
　実施例等で用いた重合体、実施例等で得られた組成物、および該組成物を用いて作製された成形体の物性の測定方法は以下のとおりである。

　〔極限粘度［η］〕
　１３５℃、デカリン中で測定した。

　〔密度〕
　エチレン系重合体成分（Ａ）の密度は、ＡＳＴＭ　Ｄ１５０５に準拠して、密度勾配法で測定した。
　実施例または比較例で得られた組成物の密度は、ＪＩＳ　Ｚ８８０７：２０１２に準拠し、液中秤量法により２３℃、水中にて測定した。

　〔エチレン系重合体組成物から抽出される炭素繊維（Ｂ）の繊維解析〕
　＜前処理＞
　実施例または比較例で得られたペレット状の組成物を、大気雰囲気下、５００℃の電気炉内で３０分加熱した。

　＜炭素繊維（Ｂ）の画像解析＞
　前処理で得られた灰分の一部をスライドグラスに取り出し、オイルで展開後、カバーガラスで覆ったプレパラートを観察サンプルとした。オリンパス（株）製「実体顕微鏡ＳＺＸ１６」を用い、反射明視野像をレンズ倍率４倍で前記サンプルを観察した。観察視野から１００μｍ以上の繊維を含む視野を選定し、画像を取得後、画像解析ソフト（ＭＩＴＡＮＩ　Ｃｏｒｐｏｒａｔｉｏｎ製「Ｗｉｎ　ＲＯＯＦ　２０１８」）により解析を行い、炭素繊維（Ｂ）の繊維長と繊維数を求めた。

　＜炭素繊維（Ｂ）の平均繊維長＞
　上記画像解析で得られた結果を基に、組成物に含まれる炭素繊維の平均繊維長を算出した。
　＜繊維長１００～３００μｍである炭素繊維（Ｂ）の割合＞
　上記画像解析で得られた結果を基に、解析した全繊維のうち、繊維長が１００～３００μｍの繊維の割合を算出した。

　〔配向〕
　＜ＡＳＴＭ　Ｄ６７１　ＴｙｐｅＡ型試験片の作製＞
　実施例または比較例で得られた組成物を、芝浦機械（株）製「ＥＣ－７５ＳＸＩＩＩ型成形機」のホッパー部に投入し、２３０℃で溶融させ、金型に射出成形することにより、図１に示すような外形を有する、板状のＡＳＴＭ　Ｄ６７１　ＴｙｐｅＡ型試験片（成形体）を作製した。射出成形時における金型の温度を３０～５０℃、射出圧を９０～１１０ＭＰａ、保圧を５５～６５ＭＰａとした。

　＜観察用サンプルの作製＞
　図１に概略図を示したＡＳＴＭ　Ｄ６７１　ＴｙｐｅＡ型試験片（成形体）を、まずは射出成形時の流れ方向（射出成形方向）と同方向、すなわち図１のＡ－Ａ線の方向に切り出すとともに、試料採取領域の部位を切り出した。次いで、切り出した試料採取領域の部位を樹脂包理した後、Ａ－Ａ線方向の切断面を研磨し、さらにミクロトームで所望の厚さに切り出し、最後にカーボン蒸着を行うことにより、観察用サンプルを作製した。

　＜観察および解析＞
　作製した観察用サンプルを（株）日立ハイテク製「走査型電子顕微鏡Ｓ－３７００Ｎ」を用い、加速電圧１０ｋＶ、反射電子像を倍率１５０倍で観察した。観察用サンプルの観察方向は、図１に示したように成形体から切り出した部位の研磨された面を正面とする方向とし、この観察方向から見た観察面と、撮像画面上の長辺とが平行になるように撮影した。撮影した画像は、成形体の表面（上面）から０．７～０．８ｍｍの深さを画像の中心とした。

　画像を取得後、画像解析ソフト（ＭＩＴＡＮＩ　Ｃｏｒｐｏｒａｔｉｏｎ製「Ｗｉｎ　ＲＯＯＦ　２０１８」）により解析を行った。画像から炭素繊維（ＣＦ）を二値化抽出し、抽出されたすべてのＣＦの針状比を算出し、その平均値を求めた。針状比は、観察した楕円形状のＣＦの絶対最大長と、絶対最大長と垂直の対角幅の比（絶対最大長／対角幅）から算出した。

　〔導電性（表面抵抗率、体積抵抗率）〕
　＜長さ１２０ｍｍ×幅１３０ｍｍ×厚さ３ｍｍの試験片の作製＞
　実施例または比較例で得られた組成物を、芝浦機械（株）製「ＥＣ－７５ＳＸＩＩＩ型成形機」のホッパー部に投入し、２３０℃で溶融させ、金型に射出成形することにより、長さ１２０ｍｍ×幅１３０ｍｍ×厚さ３ｍｍの試験片を作製した。金型の温度を５０～７０℃、射出圧を９０～１１０ＭＰａ、保圧を４０～７０ＭＰａとした。

　＜表面抵抗率、体積抵抗率の測定＞
　長さ１２０ｍｍ×幅１３０ｍｍ×厚さ３ｍｍの試験片を用いて、（株）エーディーシー製「デジタル超高抵抗／微粒電流計８３４０Ａ」で、２重リング法により２３℃、湿度：５０％、印加電圧：５００Ｖ、印加時間：６０秒の条件で、表面抵抗率および体積抵抗率を測定した。

　なお、上記測定における表面抵抗率が１．０×１０⁷以下の水準については、ＪＩＳ　Ｋ７１９４：１９９４に準拠し、（株）日東精工アナリテック社製「ロレスタ－ＧＸ－ＭＣＰ－Ｔ７００低抵抗　抵抗率計」を用いて、印加電流：１ｍＡ、印加時間：１０秒、温度：２３℃、湿度：５０％の条件で測定した。

　〔耐熱性（熱変形温度ＨＤＴ）〕
　ＩＳＯ－７５－１，２に準拠して、試験片形状をＪＩＳ　Ｋ７１６２　１Ａに記載の形状とし、熱変形温度を求めた。ここで、熱変形温度の測定は、曲げ応力を０．４５ＭＰａとした場合（ＨＤＴ　０．４５ＭＰａ）と、１．８０ＭＰａとした場合（ＨＤＴ　１．８０ＭＰａ）のそれぞれについて行った。

　〔成形性（成形収縮率）〕
　前記と同様の方法で、射出成形により長さ１２０ｍｍ×幅１３０ｍｍ×厚さ３ｍｍの試験片を作製し、金型のサイズ（長さ方向および幅方向の長さ）に対する成形３日後の試験片のサイズ（長さ方向および幅方向の長さ）の寸法変化を算出して成形性の評価とした。具体的には、射出成形後の成形体（試験片）を金型から外して室温で３日静置した後、試験片の長さ方向および幅方向の各辺の長さと、射出金型の長さ方向および幅方向の各辺の長さとの差を４辺について測定した。当該４辺につき、金型の辺の長さに対する差の割合の百分率をそれぞれ求め、これらの百分率の平均値を成形収縮率とした。長さ方向の成形収縮率を収縮率ＭＤとし、幅方向の成形収縮率を収縮率ＴＤとした。

　〔摺動性（動摩擦係数）および耐摩耗性（比摩耗量）〕
　前記と同様の方法で作製した長さ１２０ｍｍ×幅１３０ｍｍ×厚さ３ｍｍの試験片を打ち抜き、長さ３０ｍｍ×幅３０ｍｍ×厚さ３ｍｍの試験片を作製した。この試験片を用いて、ＪＩＳ　Ｋ７２１８「プラスチックの滑り摩耗試験Ａ法」に準拠して、松原式摩擦摩耗試験機を使用して動摩擦係数および比摩耗量を測定した。
　試験条件は、相手材：Ｓ４５Ｃ、速度：５０ｃｍ／秒、距離:３ｋｍ、荷重：１５ｋｇ、測定環境温度：２３℃とした。

　〔引張破断強度、引張破断伸びおよび引張弾性率〕
　ＩＳＯ　５２７－１，２に準拠し、試験片形状をＪＩＳ　Ｋ７１６２　１Ａに記載の形状とし、引張速度５０ｍｍ／分として、引張破断強度、引張破断伸びを求めた。また、ＩＳＯ　５２７－１，２に準拠し、試験片形状をＪＩＳ　Ｋ７１６２　１Ａに記載の形状とし、引張速度１ｍｍ／分として、引張弾性率を求めた。

　〔曲げ強度、曲げ弾性率〕
　＜ＪＩＳ　Ｋ７１６２　１Ａ試験片の作製＞
　実施例または比較例で得られた組成物を、芝浦機械（株）製「ＥＣ－７５ＳＸＩＩＩ型成形機」のホッパー部に投入し、２３０℃で溶融させ、金型に射出成形することにより、ＪＩＳ　Ｋ７１６２　１Ａ試験片を作製した。金型の温度を５０～７０℃、射出圧を８０～１２０ＭＰａ、保圧を６０～９０ＭＰａとした。ただし、比較例１で得られた組成物の場合のみ、射出圧を７０～９０ＭＰａ、保圧を２５～４５ＭＰａに変更した。

　＜曲げ強度、曲げ弾性率の測定＞
　ＪＩＳ　Ｋ７１６２　１Ａ試験片を用いて、ＩＳＯ　１７８に準拠し、上記試験片形状を８０ｍｍ（長さ）、１０ｍｍ（幅）、４ｍｍ（厚さ）でスパン間距離６４ｍｍ、試験速度２ｍｍ／分として、曲げ強度および曲げ弾性率を求めた。

　〔曲げ疲労試験〕
　＜ＡＳＴＭ　Ｄ６７１　ＴｙｐｅＡ型試験片の作製＞
　実施例または比較例で得られた組成物を、芝浦機械（株）製「ＥＣ－７５ＳＸＩＩＩ型成形機」のホッパー部に投入し、２３０℃で溶融させ、金型に射出成形することにより、ＡＳＴＭ　Ｄ６７１　ＴｙｐｅＡ型試験片を作製した。金型の温度を３０～５０℃、射出圧を９０～１１０ＭＰａ、保圧を５５～６５ＭＰａとした。

　＜振動疲労回数の測定＞
　ＡＳＴＭ　Ｄ６７１　ＴｙｐｅＡ型試験片を、東洋精機製作所社製「Ｂ７０型　繰り返し振動疲労試験機」にセットし、室温、周波数３０Ｈｚ、圧力３５ＭＰａの条件で振動疲労試験を行った。変位量が８ｍｍに達した際の繰り返し回数を、耐疲労性（回）として求めた。

　［原料］
　実施例または比較例で用いられた原料は以下のとおりである。

　（エチレン系重合体成分（ＡＩ））
　《エチレン系重合体成分（ＡＩ－１）の製造》
　常法により、第１段階での重合で極限粘度［η］が３０ｄｌ／ｇの超高分子量エチレン系重合体（重合体（ａ１））を、次いで第２段階での重合で極限粘度［η］が１．５ｄｌ／ｇの低分子量エチレン系重合体（重合体（ａ２））を、質量比（重合体（ａ１）／重合体（ａ２））が４１／５９となる割合で２段重合にて生成させて、極限粘度［η］４．４ｄｌ／ｇのエチレン系重合体成分（ＡＩ－１）を得た。

　《エチレン系重合体成分（ＡＩ－２）の製造》
　常法により、第１段階での重合で極限粘度［η］が３０ｄｌ／ｇの超高分子量エチレン系重合体（重合体（ａ１））を、次いで第２段階での重合で極限粘度［η］が１．５ｄｌ／ｇの低分子量エチレン系重合体（重合体（ａ２））を、質量比（重合体（ａ１）／重合体（ａ２））が７５／２５となる割合で２段重合にて生成させて、極限粘度［η］が６．９ｄｌ／ｇのエチレン系重合体成分（ＡＩ－２）を得た。

　（エチレン系重合体成分（ＡＩＩ））
　以下のエチレン系重合体成分を使用した。
　エチレン系重合体成分（ＡＩＩ－１）：極限粘度［η］が１．１ｄｌ／ｇ、密度９６５ｋｇ／ｍ³の高密度低分子量ポリエチレン（（株）プライムポリマー社製「ハイゼックス１７００Ｊ」）

　（エチレン系重合体成分（Ａ））
　《エチレン系重合体成分（Ａ－１）の製造》
　エチレン系重合体成分（ＡＩ－1）とエチレン系重合体成分（ＡＩＩ－１）とを、質量比（（ＡＩ－１）／（ＡＩＩ－１））が４９／５１となる割合で配合し、池貝鉄工製・ＰＣＭ二軸押出機を用いてメルトブレンドし、ペレット状の極限粘度［η］が３．０ｄｌ／ｇ、密度が９６８ｋｇ／ｃｍ³のエチレン系重合体成分（Ａ－１）を得た。エチレン系重合体成分（Ａ－１）中の超高分子量エチレン系重合体（重合体（ａ１））含量は２０質量％であった。

　《エチレン系重合体成分（Ａ－２）の製造》
　エチレン系重合体成分（ＡＩ－２）とエチレン系重合体成分（ＡＩＩ－１）とを、質量比（（ＡＩ－２）／（ＡＩＩ－１））が３３／６７となる割合で配合し、池貝鉄工製・ＰＣＭ二軸押出機を用いてメルトブレンドし、ペレット状の極限粘度［η］が５．８ｄｌ／ｇ、密度が９６６ｋｇ／ｃｍ³のエチレン系重合体成分（Ａ－２）を得た。エチレン系重合体成分（Ａ－２）中の超高分子量エチレン系重合体（重合体（ａ１））含量は２５質量％であった。

　（炭素繊維（Ｂ））
　以下の炭素繊維を使用した。
　炭素繊維（Ｂ－１）：帝人株式会社製「テナックスＨＴ　Ｐ８０２」（ポリオレフィン系ポリマーサイジング処理、繊維長：３ｍｍ、直径：７μｍ、炭素繊維分の割合：９８質量％）
　炭素繊維（Ｂ－２）：帝人株式会社製「テナックスＨＴ　Ｃ６０５」（ナイロン系ポリマーサイジング処理、繊維長：６ｍｍ、直径：７μｍ、炭素繊維分の割合：９５．５質量％）
　炭素繊維（Ｂ－３）：東レ株式会社「TＯＲＡＹＣＡ　Ｔ００８－００６」（エポキシ系ポリマーサイジング処理、繊維長：６ｍｍ、直径：７μｍ、炭素繊維分の割合：９９質量％）

　（他の炭素系フィラー）
　以下のカーボンナノチューブを使用した。
　カーボンナノチューブ：ナノシル社製「ＮＣ７０００」（平均直径:９．５ｎｍ、平均長さ:１．５μｍ）

　《カーボンナノチューブマスターバッチの作製》
　前記カーボンナノチューブ１５質量％、エチレン系重合体成分（Ａ－１）７５質量％、およびワックス（ポリエチレン系ワックス）１０質量％を既存の手法により混合し、カーボンナノチューブ含有マスターバッチを作製した。

　（変性オレフィン系重合体（Ｃ））
　以下の変性オレフィン系重合体を相容化剤として使用した。
　変性オレフィン系重合体（Ｃ－１）：国際公開第２０１９／２０８１６９号、段落［００４２］～［００４３］に記載されたエチレン系重合体ＰＥ－０の製造方法に基づいて製造した、マレイン酸変性エチレン系重合体（密度：９６５ｋｇ／ｃｍ³、ＭＦＲ（１９０℃、２．１６ｋｇ荷重）：５ｇ／１０分、変性度：２．４）
　変性オレフィン系重合体（Ｃ－２）：特開２０１９－２１８５６８号公報の段落［００８３］に記載された変性ポリオレフィン組成物の製造方法に基づいて製造したマレイン酸変性エチレン系重合体（密度９６７ｋｇ/ｃｍ³、極限粘度［η］５ｄｌ／ｇ［η］、ＭＦＲ（１９０℃、１０ｋｇｆ）：６．２、変性度：０．８）

　［実施例１］
　エチレン系重合体成分（Ａ－１）７８質量％、炭素繊維（Ｂ－１）２０質量％、および変性オレフィン系重合体（Ｃ－１）２質量％の割合でドライブレンドした後、株式会社パーカーコーポレーション社製二軸混練押出機「ＨＫ－２５Ｄ」を用いて、シリンダー温度２６０℃、スクリュー回転数２００ｒｐｍ、および吐出量１２ｋｇ/ｈの条件で溶融押出を行って組成物を得た。得られた組成物中の各成分の配合量（エチレン系重合体の総量を１００質量部とする。）を表１に示す。また、得られた組成物の物性を上記の方法で測定した。結果を表１に示す。

　［実施例２］
　エチレン系重合体成分（Ａ－１）、炭素繊維（Ｂ－１）、変性オレフィン系重合体（Ｃ－１）の量を表１に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例１と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表１に示す。

　［実施例３］
　変性オレフィン系重合体（Ｃ－１）の代わりに変性オレフィン系重合体（Ｃ－２）を用い、エチレン系重合体成分（Ａ－１）、炭素繊維（Ｂ－１）、変性オレフィン系重合体（Ｃ－２）の量を表１に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例１と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表１に示す。

　［実施例４］
　エチレン系重合体成分（Ａ－１）の代わりにエチレン系重合体成分（Ａ－２）を用い、エチレン系重合体成分（Ａ－２）、炭素繊維（Ｂ－１）、変性オレフィン系重合体（Ｃ－１）の量を表１に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例１と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表１に示す。

　［実施例５］
　炭素繊維（Ｂ－１）の代わりに炭素繊維（Ｂ－２）を用い、エチレン系重合体成分（Ａ－１）、炭素繊維（Ｂ－２）、変性オレフィン系重合体（Ｃ－１）の量を表１に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例１と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表１に示す。

　［実施例６］
　炭素繊維（Ｂ－１）の代わりに炭素繊維（Ｂ－３）を用い、エチレン系重合体成分（Ａ－１）、炭素繊維（Ｂ－３）、変性オレフィン系重合体（Ｃ－１）の量を表１に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例１と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表１に示す。

　［比較例１］
　エチレン系重合体成分（Ａ－１）の代わりにエチレン系重合体成分（ＡＩＩ－１）を用い、エチレン系重合体成分（ＡＩＩ－１）、炭素繊維（Ｂ－１）、変性オレフィン系重合体（Ｃ－１）の量を表１に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例１と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表１に示す。

　［比較例２］
　炭素繊維（Ｂ－１）および変性オレフィン系重合体（Ｃ－１）を用いずに、エチレン系重合体成分（Ａ－１）のみを用いたこと以外は実施例１と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表１に示す。

　［比較例３］
　エチレン系重合体成分（Ａ－２）４０質量％およびカーボンナノチューブマスターバッチ６０質量％の割合でドライブレンドした後、株式会社パーカーコーポレーション社製二軸混練押出機「ＨＫ－２５Ｄ」を用いて、シリンダー温度２６０℃、スクリュー回転数２００ｒｐｍ、および吐出量１２ｋｇ/ｈの条件で溶融押出を行って組成物を得た。組成物中の各成分の配合量（エチレン系重合体の総量を１００質量部とする。）を表１に示す。また、得られた組成物の物性を上記の方法で測定した。結果を表１に示す。

Claims

　１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］が１．５～１０ｄｌ／ｇであり、密度が９３０～９８０ｋｇ／ｍ³であるエチレン系重合体成分（Ａ）１００質量部、および、炭素繊維（Ｂ）１～１００質量部を含有し、
　前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］が１０～４０ｄｌ／ｇである超高分子量エチレン系重合体（ａ１）を含む、エチレン系重合体組成物。
　前記エチレン系重合体成分（Ａ）は、１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］が０．１～９ｄｌ／ｇである低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）を含む、請求項１に記載のエチレン系重合体組成物。
　前記エチレン系重合体成分（Ａ）が、エチレン系重合体成分（ＡＩ）を１０～９０質量％、およびエチレン系重合体成分（ＡＩＩ）を９０～１０質量％（成分（ＡＩ）および成分（ＡＩＩ）の合計量を１００質量％とする。）含み、
　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）が、３５質量％を超え９０質量％以下の前記超高分子量エチレン系重合体（ａ１）と、１０質量％以上６５質量％未満の前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）（重合体（ａ１）および重合体（ａ２）の合計量を１００質量％とする。）とを含んでなる多段重合体であり、
　前記エチレン系重合体成分（ＡＩＩ）が、１３５℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度［η］が０．１～２．９ｄｌ／ｇであるエチレン系重合体（ａ３）を含む、請求項２に記載のエチレン系重合体組成物。
　前記エチレン系重合体成分（ＡＩ）が、前記超高分子量エチレン系重合体（ａ１）を生成させる工程と、前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体（ａ２）を生成させる工程とを含む多段重合法により得られる、請求項３に記載のエチレン系重合体組成物。
　前記炭素繊維（Ｂ）が、表面処理された炭素繊維である、請求項１～４のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物。
　前記炭素繊維（Ｂ）の表面処理が、オレフィン系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ナイロン系ポリマー、またはエポキシ系ポリマーを用いたサイジング処理である、請求項５に記載のエチレン系重合体組成物。
　前記エチレン系重合体組成物から抽出される前記炭素繊維（Ｂ）の平均繊維長が１００μｍ以上４００μｍ以下である、請求項１～６のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物。
　前記エチレン系重合体組成物から抽出される前記炭素繊維（Ｂ）のうち、繊維長が１００μｍ以上３００μｍ以下である炭素繊維の割合が３０％以上である、請求項１～７のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物。
　変性オレフィン系重合体（Ｃ）を含む、請求項１～８のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物。
　前記エチレン系重合体成分（Ａ）１００質量部に対する前記炭素繊維（Ｂ）の含有量が２０～６０質量部である、請求項１～９のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物。
　請求項１～１０のいずれか１項に記載のエチレン系重合体組成物を含む成形体。
　前記成形体に含まれる前記炭素繊維（Ｂ）のうち、針状比が１．５以上である炭素繊維の割合が３０％以上である、請求項１１に記載の成形体。
　前記成形体の長さ方向および幅方向の収縮率が、いずれも２．０％以下である、請求項１１または１２に記載の成形体。
　前記成形体の曲げ弾性率が、５０００ＭＰａ以上である、請求項１１～１３のいずれか１項に記載の成形体。
　前記成形体の振動疲労試験（３５ＭＰａ）における変位量が８ｍｍに達した際の繰り返し回数が、１５００回以上である、請求項１１～１４のいずれか１項に記載の成形体。
　射出成形体である、請求項１１～１５のいずれか１項に記載の成形体。
　被覆材または摺動材である、請求項１１～１６のいずれか１項に記載の成形体。