WO2023027148A1 - 精子幹細胞様細胞の製造方法及び精子幹細胞様細胞株 - Google Patents

精子幹細胞様細胞の製造方法及び精子幹細胞様細胞株 Download PDF

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    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
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    • C12N5/00Undifferentiated human, animal or plant cells, e.g. cell lines; Tissues; Cultivation or maintenance thereof; Culture media therefor
    • C12N5/06Animal cells or tissues; Human cells or tissues

Definitions

  • Non-Patent Document 1 describes that primordial germ cell-like cells obtained from pluripotent stem cells were induced to differentiate into spermatogonia by culturing reconstituted testis, and a functional spermatogonial stem cell-like cell line was established therefrom. is described.
  • step (c1) of obtaining a cell-like cell and the primordial germ cell-like cell obtained in the step (c1) in which the epigenomic state has reached a basal state is mixed with a living body-derived male testicular somatic cell and cultured in suspension, and the cell is and a step (c2) of obtaining a lump.
  • the concentration of cyclosporin A in the medium is preferably 1-100 ⁇ M, more preferably about 5 ⁇ M.
  • the method of the present embodiment enables stable and efficient production of functional spermatogonial stem cell-like cells from pluripotent stem cells.
  • mPGCLC-derived spermatogonia-like cells present per reconstructed testis were cultured with 0.1% gelatin-phosphate-buffered saline (PBS) for 30 min followed by mouse embryonic fibroblasts ( MEFs) were seeded and cultured on a 24-well plate (Falcon) after 6 hours or more.
  • PBS gelatin-phosphate-buffered saline
  • MEFs mouse embryonic fibroblasts

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Abstract

精子幹細胞様細胞の製造方法であって、哺乳動物由来の多能性幹細胞をアクチビンA及びFGF2の存在下で培養してエピブラスト様細胞を得る工程(a)と、エピブラスト様細胞をBMP4、LIF、SCF及びEGFの存在下で培養して始原生殖細胞様細胞を得る工程(b)と、始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c)と、細胞塊を気液平衡培養して再構成精巣を得る工程(d)と、再構成精巣を更に気液平衡培養し精子幹細胞様細胞を得る工程(e)と、を含み、工程(c)が、工程(b)で得た前記始原生殖細胞様細胞を培養し、エピゲノム状態を基底状態にする工程(c1)と、始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c2)とを含む、製造方法。

Description

精子幹細胞様細胞の製造方法及び精子幹細胞様細胞株
 本発明は、精子幹細胞様細胞の製造方法及び精子幹細胞様細胞株に関する。本願は、2021年8月26日に、米国に仮出願されたUS63/237,139号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
 マウスの場合、生殖細胞は、胚齢6日目に胚体外外胚葉から分泌されるBMP4により、エピブラストから誘導され、胚齢7日目までにはその運命を決定する。生殖細胞は、後腸を移動し、将来の精巣となる生殖巣へ移動し、その後雄性分化をした生殖巣である精巣の管構造内にて、雄性生殖細胞である前精原細胞へと分化する。胚齢20日に相当する出生後、前精原細胞は管腔から基底膜へと移動し精原細胞へと分化する。生後1週間のうちに精原細胞の一部は、自己複製能力と精子分化能をもつ精子幹細胞となり、生涯にわたる精子産生の根源となる。
 非特許文献1には、多能性幹細胞から得た始原生殖細胞様細胞を再構成精巣培養することで精原細胞にまで分化誘導し、そこから機能的な精子幹細胞様細胞株を樹立したことが記載されている。
 非特許文献2には、多能性幹細胞から得た始原生殖細胞様細胞を平面培養にて精子まで誘導したことが記載されている。
Ishikura Y., et al., In Vitro Derivation and Propagation of Spermatogonial Stem Cell Activity from Mouse Pluripotent Stem Cells, Cell Rep, 17 (10), 2789-2804, 2016. Zhou Q., et al., Complete Meiosis from Embryonic Stem Cell-Derived Germ Cells In Vitro, Cell Stem Cell, 18, 330-340, 2016.
 しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、再構成精巣培養中の始原生殖細胞様細胞の生存能が低く、得られる細胞が少ないため、機能解析が困難であった。また、樹立した精子幹細胞様細胞株は、精子形成能率が低く、15株中3株のみで精子形成に成功したことが報告されている。また、樹立した精子幹細胞様細胞株は、再構成精巣培養後の不均一な細胞に由来するものであったため、機能解析が困難であった。
 また、非特許文献2に記載された系は、生体における雄性生殖細胞の分化過程を再現していないだけでなく、複数の論文において再現性がないことが明らかにされている。
 本発明は、機能的な精子幹細胞様細胞を製造する技術を提供することを目的とする。
 本発明は以下の態様を含む。
[1]精子幹細胞様細胞の製造方法であって、哺乳動物由来の多能性幹細胞をアクチビンA及びFGF2の存在下で培養してエピブラスト様細胞を得る工程(a)と、前記工程(a)で得た前記エピブラスト様細胞をBMP4、LIF、SCF及びEGFの存在下で培養して始原生殖細胞様細胞を得る工程(b)と、前記工程(b)で得た前記始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c)と、前記工程(c)で得た前記細胞塊を気液平衡培養して再構成精巣を得る工程(d)と、前記工程(d)で得た前記再構成精巣を更に気液平衡培養し、その結果、前記再構成精巣内の前記始原生殖細胞様細胞が精子幹細胞様細胞に分化する工程(e)と、を含み、前記工程(c)が、前記工程(b)で得た前記始原生殖細胞様細胞を培養し、エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を得る工程(c1)と、前記工程(c1)で得た、前記エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c2)とを含む、製造方法。
[2]前記工程(c1)を、フォルスコリン及びロリプラムを含む培地中で行う、[1]に記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
[3]前記工程(c1)を、フォルスコリン、ロリプラム及びシクロスポリンAを含む培地中で行う、[1]に記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
[4]前記工程(d)及び(e)を、ウシ胎児血清を含む培地中で行う、[1]~[3]のいずれかに記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
[5]前記工程(c2)を、フォルスコリン及びロリプラムを含む培地中で行う、[1]~[4]のいずれかに記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
[6]前記多能性幹細胞は、マウス由来である、[1]~[5]のいずれかに記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
[7]前記工程(c1)において、前記始原生殖細胞様細胞を4~7日間培養する、[1]~[6]のいずれかに記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の製造方法により製造された精子幹細胞様細胞株。
[9]クローニングされた、[8]に記載の精子幹細胞様細胞株。
 本発明によれば、機能的な精子幹細胞様細胞を製造する技術を提供することができる。
図1は、精子幹細胞様細胞の製造方法の概要を説明する模式図である。 図2は、再構成精巣の気液平衡培養(気相液相培養)を説明する模式図である。 図3は、実験例1の概要を説明する図である。 図4は、実験例1における再構成精巣培養により、後期生殖細胞に分化した細胞の割合を測定した結果を示すグラフである。 図5は、実験例2において、経時的に細胞を観察した結果を示す明視野画像及びMvh-RFP(VR)、Stella-ECFP(SC)、Blimp1-mVenus(BV)の蛍光顕微鏡画像である。 図6上段は、インビボでの雄性生殖細胞の分化において、VR、SC、BVの蛍光強度(相対値)の経時変化を示すグラフである。図6下段は、図5におけるVR、SC、BVの蛍光強度(相対値)の経時変化を示すグラフである。 図7は、実験例3におけるgene ontology(GO)エンリッチメント解析の結果を示すヒートマップである。 図8は、実験例3において内在性レトロトランスポゾンの発現を解析した結果を示すヒートマップである。 図9は、実験例3において、全ゲノムバイサルファイト解析(WGBS)により、DNAのメチル化(エピゲノム)状態を解析し、主成分分析した結果を示すグラフである。 図10は、実験例3において、再構成精巣中のmPGCLC由来細胞の細胞周期の状態と、インビボにおけるマウスの雄性生殖細胞の細胞周期の状態を解析した結果を示すグラフである。 図11は、実験例4において樹立した代表的なGSCLC株の顕微鏡画像である。 図12は、実験例5において、GSCLC株をW/Wマウスの精巣に移植した後に観察された、精子形成を伴うコロニーの割合を示すグラフである。 図13左は、実験例5において、GSCLC_W9株を移植してから8週間後のW/Wマウスの精巣から採取した精細管の明視野画像である。図13中央は、図13左と同視野におけるVRの蛍光を示す蛍光顕微鏡画像である。図13右は、実験例5において、GSCLC_W1株を移植してから8週間後のW/Wマウスの精細管から採取した精子(矢印で示す)の明視野画像である。 図14左上は、実験例5における、GSCLC_W1株に由来する前核期胚の顕微鏡画像である。図14右上は、実験例5における、GSCLC_W1株に由来する2細胞期胚の顕微鏡画像である。図14左下及び右下は、実験例5において得られた子孫の写真である。
[精子幹細胞様細胞の製造方法]
 一実施形態において、本発明は、精子幹細胞様細胞の製造方法であって、哺乳動物由来の多能性幹細胞をアクチビンA及びFGF2の存在下で培養してエピブラスト様細胞を得る工程(a)と、前記工程(a)で得た前記エピブラスト様細胞をBMP4、LIF、SCF及びEGFの存在下で培養して始原生殖細胞様細胞を得る工程(b)と、前記工程(b)で得た前記始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c)と、前記工程(c)で得た前記細胞塊を気液平衡培養して再構成精巣を得る工程(d)と、前記工程(d)で得た前記再構成精巣を更に気液平衡培養し、その結果、前記再構成精巣内の前記始原生殖細胞様細胞が精子幹細胞様細胞に分化する工程(e)と、を含み、前記工程(c)が、前記工程(b)で得た前記始原生殖細胞様細胞を培養し、エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を得る工程(c1)と、前記工程(c1)で得た、前記エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c2)とを含む、製造方法を提供する。
 図1は、本実施形態の製造方法の概要を説明する模式図である。図1上段は、ヒトの雄性生殖細胞の分化過程を示す。図1中段は、マウスの雄性生殖細胞の分化過程を示す。図1下段は、本実施形態の製造方法を示す。図1上段と図1中段との間の点線は、対応する分化段階を示す。図1下段に示すように、本実施形態の製造方法では、多能性幹細胞からエピブラスト様細胞を経て始原生殖細胞様細胞を得る。続いて、始原生殖細胞様細胞を培養し、エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を得る。続いて、エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る。続いて、細胞塊を気液平衡培養して再構成精巣を得る。続いて、再構成精巣を更に気液平衡培養し、その結果、再構成精巣内の始原生殖細胞様細胞が精子幹細胞様細胞に分化する。
 実施例において後述するように、本実施形態の方法により、多能性幹細胞から機能的な精子幹細胞様細胞を安定的に効率よく製造することができる。
 精子幹細胞様細胞とは、多能性幹細胞から分化誘導した精子幹細胞であり、インビボにおける精子幹細胞と同等な細胞を意味する。精子幹細胞様細胞は精子幹細胞といいかえてもよい。
 機能的な精子幹細胞様細胞とは、子孫に寄与可能な精子を形成する機能を有する精子幹細胞様細胞を意味する。精子幹細胞様細胞は、内因性精子形成を欠く成体マウス(W/Wマウス、6~8週齢)の精巣に移植して8~10週間後に形成された精子幹細胞様細胞のコロニーのうち、精子形成を伴うコロニーの割合が30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
 本実施形態の製造方法では、工程(a)において、哺乳動物由来の多能性幹細胞をアクチビンA及びFGF2の存在下で培養してエピブラスト様細胞を得る。エピブラスト様細胞とは、多能性幹細胞から分化誘導したエピブラストであり、インビボにおけるエピブラストと同等な細胞を意味する。エピブラスト様細胞はエピブラストといいかえてもよい。
 多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)等が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄類;イヌ、ネコ等の食肉類;ヒト、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等が挙げられる。
 工程(a)において、培地としては、アクチビンA及びFibroblast Growth Factor-2(FGF2)を添加した基本培地を用いることができる。工程(a)における培地は、Knockout Serum Replacement(KSR、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を更に含むことが好ましい。多能性幹細胞を約2日間培養すると、エピブラスト様細胞が得られる。多能性幹細胞としては雄性の細胞を用いることが好ましい。
 基本培地としては、特に限定されず、あらゆる無血清の細胞培養用基本培地を用いることができる。例えば、Glasgow’s Minimal Essential Medium(GMEM、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、alpha-Minimum Essential Medium(αMEM、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、アドバンスト-ダルベッコ改変イーグル培地/ハムF-12混合培地(DMEM/F12、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、RPMI1640培地、アドバンストRPMI培地、NeuroBasal培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、NeuroBasal Plus培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、BrainPhys培地(ステムセルテクノロジーズ)等が挙げられる。
 培地中のアクチビンAの濃度は10~100ng/mLであることが好ましく、約20ng/mLであることがより好ましい。
 また、培地中のFGF2の濃度は5~100ng/mLであることが好ましく、約12ng/mLであることがより好ましい。
 培地には、アクチビンA及びFGF2以外の添加物を添加してもよい。このような添加物としては、例えば、N2サプリメント(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、B27サプリメント(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、GlutaMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、Non Essential Amino Acid(NEAA、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、ピルビン酸ナトリウム、2-メルカプトエタノール、抗生物質、ウシ胎児血清(FBS)、Knockout Serum Replacement(KSR、サーモフィッシャーサイエンティフィック)等が挙げられる。
 続いて、工程(b)において、工程(a)で得たエピブラスト様細胞をBone morphogenetic protein 4(BMP4)、Leukemia Inhibitory Factor(LIF)、Stem cell factor(SCF)及びEpidermal Growth Factor(EGF)の存在下で培養して始原生殖細胞様細胞を得る。始原生殖細胞様細胞とは、多能性幹細胞から分化誘導した始原生殖細胞であり、インビボにおける始原生殖細胞と同等な細胞を意味する。始原生殖細胞様細胞は始原生殖細胞といいかえてもよい。
 工程(b)において、培地としては、BMP4、LIF、SCF及びEGFを添加した基本培地を用いることができる。基本培地については上述したものと同様である。エピブラスト様細胞をBMP4、LIF、SCF及びEGFの存在下で約4~6日間培養すると、始原生殖細胞様細胞が得られる。U底又はV底の細胞低接着ウェルプレートを用いて、エピブラスト様細胞を浮遊培養することが好ましい。
 培地中のBMP4の濃度は100~1,000ng/mLであることが好ましく、約500ng/mLであることがより好ましい。
 また、培地中のLIFの濃度は100~2,000U/mLであることが好ましく、約1,000U/mLであることがより好ましい。
 培地中のSCFの濃度は10~1,000ng/mLであることが好ましく、約100ng/mLであることがより好ましい。
 また、培地中のEGFの濃度は10~100ng/mLであることが好ましく、約50ng/mLであることがより好ましい。
 続いて、工程(c)において、工程(b)で得た始原生殖細胞様細胞を、生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る。
 図2は、工程(c)及び工程(d)を説明する模式図である。工程(c)は、工程(b)で得た始原生殖細胞様細胞を培養し、エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を得る工程(c1)と、工程(c1)で得た、エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c2)とを含む。
 実施例において後述するように、工程(c1)を行うことにより、安定的に高い効率で機能的な精子幹細胞様細胞を得ることができる。
 工程(c1)において、培地としては、フォルスコリン(CAS番号:66428-89-5)及びロリプラム(CAS番号:61413-54-5)を添加した基本培地を用いることができる。基本培地については上述したものと同様である。
 実施例において後述するように、工程(b)で得た始原生殖細胞様細胞をフォルスコリン及びロリプラムの存在下で培養すると、ゲノムDNAが脱メチル化され、エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を得ることができる。ここで、フォルスコリン、ロリプラムに加えてシクロスポリンA(CAS番号:59865-13-3)を更に添加してもよい。また、工程(c1)において、工程(b)で得た始原生殖細胞様細胞を4~7日間、例えば5日間培養することが好ましい。
 「エピゲノム状態が基底状態になった」とは、「エピゲノム状態が基底状態に近づいた」、「エピゲノム状態がインビボのマウスの胎生10.5日~16.5日の雄性生殖細胞に近い状態になった」等といいかえることができる。
 工程(c1)では、フィーダー細胞上で始原生殖細胞様細胞を培養することが好ましい。フィーダー細胞としては、例えば、マイトマイシンC処理したm220-5細胞を用いることができる。
 培地中のフォルスコリンの濃度は1~100μMであることが好ましく、約10μMであることがより好ましい。
 また、培地中のロリプラムの濃度は1~100μMであることが好ましく、約10μMであることがより好ましい。
 培地中のシクロスポリンAの濃度は1~100μMであることが好ましく、約5μMであることがより好ましい。
 続いて、工程(c2)において、工程(c1)で得た、エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る。浮遊培養は、U底又はV底の細胞低接着ウェルプレートを用いて行うことが好ましい。
 生体由来の雄性精巣体細胞としては、例えば、胎生12.5日目のマウスの胚の精巣を摘出し、単一細胞に解離し、未分化細胞を除去した細胞を用いることができる。未分化細胞の除去は、例えば、SSEA1陽性の未分化細胞を除去することにより行うことができる。SSEA1陽性細胞の除去は、例えば、magnetic-activated cell sorting(MACS)、セルソーター等を用いて行うことができる。
 始原生殖細胞様細胞と、生体由来の雄性精巣体細胞との混合割合は1:2~2:1程度が好ましく、約1:2が好ましい。例えば、始原生殖細胞様細胞10,000個/ウェル及び生体由来の雄性精巣体細胞20,000個/ウェルを混合し、約2日間浮遊培養するとよい。
 工程(c2)において、培地としては、フォルスコリン及びロリプラムを添加した基本培地を用いることができる。基本培地については上述したものと同様である。工程(c2)で用いる培地には、更にシクロスポリンAを添加してもよい。
 続いて、工程(d)において、工程(c2)で得た細胞塊を気液平衡培養して再構成精巣を得る。再構成精巣とは、インビボにおける精巣を再構成した精巣である。気液平衡培養は、セルカルチャーインサートを装着したウェルプレートを用いて行うことができる。工程(c2)で得た細胞塊をセルカルチャーインサート上に移して気液平衡培養を行うことにより、再構成精巣が得られる。
 工程(d)を、ウシ胎児血清を含む培地中で行うことが好ましい。実施例において後述するように、工程(d)を、ウシ胎児血清を含む培地中で行うことにより、始原生殖細胞様細胞が後期生殖細胞に分化する割合が格段に向上する。
 続いて、工程(e)において、工程(d)で得た再構成精巣を更に気液平衡培養する。工程(e)を、ウシ胎児血清を含む培地中で行うことが好ましい。実施例において後述するように、工程(e)を、ウシ胎児血清を含む培地中で行うことにより、始原生殖細胞様細胞が後期生殖細胞に分化する割合が格段に向上する。
 再構成精巣の気液平衡培養を続けることにより、再構成精巣内の始原生殖細胞様細胞が精子幹細胞様細胞に分化する。精子幹細胞様細胞は、精原細胞と同等の細胞性質を有し、自己複製すると共に、減数分裂を経て精子細胞に分化する能力を持つ。実施例において後述するように、精原細胞マーカーであるZBTB16陽性の細胞は、気液平衡培養の開始から7日目以降に認められ、14日目には、始原生殖細胞様細胞に由来する細胞の90%以上がZBTB16陽性となる。
 一実施形態において、本発明は、精子幹細胞様細胞の製造方法であって、哺乳動物由来の多能性幹細胞をアクチビンA及びFGF2の存在下で培養してエピブラスト様細胞を得る工程(a)と、前記工程(a)で得た前記エピブラスト様細胞をBMP4、LIF、SCF及びEGFの存在下で培養して始原生殖細胞様細胞を得る工程(b)と、前記工程(b)で得た前記始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c)と、前記工程(c)で得た前記細胞塊を、ウシ胎児血清を含む培地中で気液平衡培養して再構成精巣を得る工程(d’)と、前記工程(d)で得た前記再構成精巣を、ウシ胎児血清を含む培地中で更に気液平衡培養し、その結果、前記再構成精巣内の前記始原生殖細胞様細胞が精子幹細胞様細胞に分化する工程(e’)と、を含み、前記工程(c)が、前記工程(b)で得た前記始原生殖細胞様細胞を4~7日間、フォルスコリン、ロリプラム及びシクロスポリンAの存在下で培養し、エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を得る工程(c1)と、前記工程(c1)で得た、前記エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合してフォルスコリン及びロリプラムを含む培地中で浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c2’)とを含む、製造方法を提供する。
 実施例において後述するように、本実施形態の方法により、多能性幹細胞から機能的な精子幹細胞様細胞を安定的に効率よく製造することができる。
[精子幹細胞様細胞株]
 一実施形態において、本発明は、上述した製造方法により製造された精子幹細胞様細胞株を提供する。
 実施例において後述するように、本実施形態の精子幹細胞様細胞株は、従来法により多能性幹細胞から製造された精子幹細胞様細胞株と比較して、マウスの精巣に移植した場合に精子形成に寄与する効率が格段に高い。
 したがって、従来法により多能性幹細胞から製造された精子幹細胞様細胞株とは、エピゲノム状態、遺伝子発現プロファイル等が相違していると考えられる。しかしながら、そのような相違を特定することは困難であり、製造方法で特定することが現実的である。
 また、本実施形態の精子幹細胞様細胞株は、多能性幹細胞から分化して得られたものであるため、インビボの精子幹細胞とはエピゲノム状態、遺伝子発現プロファイル等が相違していると考えられる。しかしながら、そのような相違を特定することは困難であり、製造方法で特定することが現実的である。
 本実施形態の精子幹細胞様細胞株はマルチクローナルであってもよいし、クローニングされたモノクローナルな細胞株であってもよいが、クローニングされていることが好ましい。精子幹細胞様細胞株がモノクローナルであると、均一であるため、機能解析が容易になる。
 次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
(再構成精巣培養の最適化)
 図1に示すように、マウスES細胞(mESC)をアクチビンA及びFGF2の存在下で約2日間培養することにより、エピブラスト様細胞(EpiLCs)を得ることができる。続いて、エピブラスト様細胞をBMP4、LIF、SCF及びEGFの存在下で約4日間培養することにより(d4)、始原生殖細胞様細胞(mPGCLCs)を得ることができる。以下、エピブラスト様細胞をBMP4、LIF、SCF及びEGFの存在下で約4日間培養して得た始原生殖細胞様細胞を「d4 mPGCLCs」という場合がある。
 非特許文献1では、図2に示すように、d4 mPGCLCsを、胎生12.5日目のマウス由来の雄性精巣体細胞と混合して約2日間浮遊培養して細胞塊を得て、この細胞塊を気液平衡培養し、再構成精巣を形成した。この場合、再構成精巣培養を3週間行った後に、精原細胞マーカーであるZBTB16(PLZF)陽性の細胞の出現が認められたが、その出現効率は10%以下であった。これに対し、本実験例では、様々な条件下で再構成精巣を形成し、再構成精巣培養の最適化を行った。図3は、本実験例の概要を説明する図である。
 図3に示すように、本実験例では、mPGCLCsとして、(1)d4 mPGCLCs、又は、(2)d4 mPGCLCsを5日間、フォルスコリン10μM、ロリプラム10μM及びシクロスポリンA5μMの存在下、m220フィーダー細胞上で培養した始原生殖細胞様細胞(d4c5 mPGCLCs)を用いて再構成精巣培養を行い、その影響を検討した。後述するように、d4c5 mPGCLCsは、エピゲノム状態が基底状態になったことが明らかとなった。
 また、mPGCLCsを雄性精巣体細胞と混合して約2日間浮遊培養する培地として、(1)15%Knockout Serum Replacement(KSR、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を添加したGlasgow’s Minimal Essential Medium(GMEM、サーモフィッシャーサイエンティフィック)(以下、「GMEM-KSR15%」という場合がある。)、又は、(2)10%KSR、0.1mM Non Essential Amino Acid(NEAA、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、1mMピルビン酸ナトリウム(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、100U/mLペニシリン,0.1mg/mLストレプトマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、2mM GlutaMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、2.5%FCS(ハイクローン)を添加したGMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック)(以下、「GK10」という場合がある。)に、フォルスコリン10μM及びロリプラム10μMを含む培地(以下、「GK10+FR10」という場合がある。)を用いてその影響を検討した。
 また、細胞塊を気液平衡培養し、再構成精巣を形成する培地として、(1)10%KSR(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を添加したalpha-Minimum Essential Medium(αMEM、サーモフィッシャーサイエンティフィック)(以下、「αMEM-KSR10%」という場合がある。)、又は、(2)10%ウシ胎児血清(FBS、ハイクローン)を添加したαMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック)(以下、「αMEM-FBS10%」という場合がある。)を用いてその影響を検討した。
 図3上段は、mPGCLCsとして、d4 mPGCLCsを用いた場合の実験スケジュールを示す図である。図3中段は、mPGCLCsとして、d4c5 mPGCLCsを用いた場合の実験スケジュールを示す図である。
 図3下段は、浮遊培養時及び気液平衡培養(気相液相培養)時の培地の組み合わせを示す図である。条件Aでは、浮遊培養の培地にGMEM-KSR15%を使用し、気液平衡培養の培地にαMEM-KSR10%を使用した。条件Bでは、浮遊培養の培地にGMEM-KSR15%を使用し、気液平衡培養の培地にαMEM-FBS10%を使用した。条件Cでは、浮遊培養の培地にGK10+FR10を使用し、気液平衡培養の培地にαMEM-KSR10%を使用した。条件Dでは、浮遊培養の培地にGK10+FR10を使用し、気液平衡培養の培地にαMEM-FBS10%を使用した。
 胎生12.5日目のマウス由来の雄性精巣体細胞としては、ICRマウスの胚の精巣を摘出し、単一細胞に解離し、magnetic-activated cell sorting(MACS)を用いてSSEA1陽性の生殖細胞を除去した細胞を使用した。続いて、mPGCLCs 10,000個/ウェル及び雄性精巣体細胞20,000個/ウェルを混合し、Nunclon Sphera 96ウェルマイクロプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて2日間浮遊培養し、細胞塊を得た。
 続いて、ガラスキャピラリーを用いて細胞塊をThinCertTM24ウェル用セルカルチャーインサート(グライナー)の上に移し、気液平衡培養を行った。
 mPGCLCsへの分化に使用したmESCは、Blimp1(Prdm1としても知られる)制御下のmembrane-targeted Venus(mVenus)、Stella(Dppa3としても知られる)制御下のECFP、Ddx4(Mvhとしても知られる)制御下のRFPのトランスジーン[Blimp1-mVenus;Stella-ECFP;Mvh-RFP:以下「BVSCVR」という場合がある。]を有していた。雄性生殖細胞の分化において、Blimp1及びStellaは始原生殖細胞マーカーであり、Mvhは後期生殖細胞マーカーである。生殖細胞は、オスになるためのシグナルを受けるとMvhを発現する。その後、オスとしての形質が獲得されると、Blimp1、Stellaの順に発現が低下する。したがって、BVSCVRトランスジーンは雄性生殖細胞の発達の進行をモニターするのに効果的なマーカーである。
 図4は、各条件下で再構成精巣培養を行い、気液平衡培養の開始から7日目に後期生殖細胞に分化した細胞であるVR陽性細胞の割合を測定した結果を示すグラフである。図4中、縦軸はmPGCLCs由来細胞に対するVR陽性細胞の割合(%)を示す。また、横軸のA~Dは、図3に示す条件A~Dを示す。
 その結果、d4 mPGCLCsを培養した場合と比較して、d4c5 mPGCLCsを培養した場合に格段にVR陽性細胞の形成割合が上昇したことが明らかとなった。更に、図3に示す条件B又は条件Dにより、格段にVR陽性細胞の形成割合が上昇したことが明らかとなった。すなわち、細胞塊を気液平衡培養する培地として、αMEM-FBS10%を用いることが好ましいことが明らかとなった。また、mPGCLCsを雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養する培地として、GMEM-KSR15%又はGK10+FR10が好ましく、GK10+FR10が特に好ましいことが明らかとなった。
[実験例2]
(雄性生殖細胞の試験管内再構成1)
 mPGCLCsとしてd4c5 mPGCLCsを用い、d4c5 mPGCLCsを雄性精巣体細胞と混合して約2日間浮遊培養する培地としてGK10+FR10を用い、細胞塊を気液平衡培養し、再構成精巣を形成する培地として、αMEM-FBS10%を用いて再構成精巣培養を行った。
 図5は、経時的に細胞を観察した結果を示す明視野画像及びVR、SC、BVの蛍光顕微鏡画像である。スケールバーは100μmである。図5中、m0~m14は、それぞれ、気液平衡培養開始から0~14日目であることを示す。
 図6下段は、図5に基づいて、再構成精巣培養におけるmPGCLC由来細胞のVR、SC、BVの蛍光強度(相対値)の経時変化を示すグラフである。図6上段は、インビボでの雄性生殖細胞の分化において、VR、SC、BVの蛍光強度(相対値)の経時変化を示すグラフである。
 その結果、14日間の再構成精巣培養におけるVR、SC、BVの蛍光強度の変化は、生体内での胎生11.5日から出生後5~7日の精原細胞の分化におけるVR、SC、BVの蛍光強度の変化とよく一致していることが示された。
 精原細胞マーカーであるZBTB16陽性の細胞はm7以降に認められ、m14では、BV陽性SC陽性VR陽性細胞の90%以上がZBTB16陽性であった。
[実験例3]
(雄性生殖細胞の試験管内再構成2)
 実験例2と同様にして再構成精巣培養を行った。続いて、RNAシーケンス解析により、再構成精巣中のmPGCLC由来細胞のトランスクリプトームを、インビボにおけるマウスの雄性生殖細胞のトランスクリプトームと比較した。
 図7はgene ontology(GO)エンリッチメント解析の結果を示すヒートマップである。その結果、再構成精巣中のmPGCLC由来細胞のトランスクリプトームの経時変化は、インビボにおけるマウスの雄性生殖細胞のトランスクリプトームの経時変化と非常に類似していることが明らかとなった。
 図8は内在性レトロトランスポゾンの発現を示すヒートマップである。レトロトランスポゾンの発現は、DNAが脱メチル化されてエピゲノム状態が基底状態になったことを示す。その結果、再構成精巣中のmPGCLC由来細胞におけるレトロトランスポゾンの発現の経時変化は、インビボのマウスの雄性生殖細胞におけるレトロトランスポゾンの発現の経時変化と類似していることが明らかとなった。
 図9は、全ゲノムバイサルファイト解析(WGBS)により、DNAのメチル化(エピゲノム)状態を解析し、主成分分析した結果を示すグラフである。図9中、「d4PGCLC」はd4 mPGCLCsを示し、「d4c3」、「d4c7」は、それぞれ、d4 mPGCLCsをフォルスコリン、ロリプラムの存在下で3日間及び7日間培養したmPGCLCsを示し、「d4c7CsA」は、d4 mPGCLCsをフォルスコリン、ロリプラム、シクロスポリンAの存在下で7日間培養したmPGCLCsを示し、「E10.5」、「E13.5」、「E16.5」は生体由来の雄性生殖細胞を示す。
 その結果、d4 mPGCLCsをフォルスコリン及びロリプラムの存在下で数日間培養すると、エピゲノム状態が基底状態になり、インビボのマウスの胎生10.5日~13.5日の雄性生殖細胞に近い状態になることが明らかとなった。
 図10は、再構成精巣中のmPGCLC由来細胞の細胞周期の状態と、インビボにおけるマウスの雄性生殖細胞の細胞周期の状態を解析した結果を示すグラフである。その結果、再構成精巣中のmPGCLC由来細胞は、インビボにおけるマウスの雄性生殖細胞と同様に、一度細胞周期が停止した後再開することが明らかとなった。
 以上の結果は、実験例2と同様の再構成精巣培養におけるmPGCLC由来細胞の分化過程が、インビボにおける雄性生殖細胞の分化過程と類似していることを示す。
[実験例4]
(精子幹細胞様細胞株の樹立)
 実験例2と同様にして再構成精巣培養を行った。気液平衡培養開始から14日目(m14)に、再構成精巣1つあたりに存在する、全てのmPGCLC由来の精原細胞様細胞(300~1,000個)又は1個のmPGCLC由来の精原細胞様細胞を培養し、精子幹細胞様細胞(GSCLC)株を樹立した。
 mPGCLC由来の精原細胞様細胞としては、再構成精巣を、精原細胞マーカーである、APC標識抗CD9抗体で染色し、VR陽性CD9陽性細胞をフローサイトメーター(FACS AriaIII、BDバイオサイエンス)でソーティングして回収したものを使用した。
 再構成精巣1つあたりに存在する、全てのmPGCLC由来の精原細胞様細胞は、0.1%ゼラチン-リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で30分間コートした後、マウス胎児線維芽細胞(MEF)を播種し6時間以上経過した24ウェルプレート(Falcon)に播種して培養した。
 1個のmPGCLC由来の精原細胞様細胞は、0.1%ゼラチン-リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で30分間コートした後、マイトマイシンC処理したマウス胎児線維芽細胞(MEF)を播種し6時間以上経過した96ウェルプレート(Falcon)に播種して培養した。
 mPGCLC由来の精原細胞様細胞の培地には、StemProサプリメント(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、1%FCS(ハイクローン)、1×MEMビタミン溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、5mg/mL AlbuMAXI(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、0.1mM NEAA(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、1mMピルビン酸ナトリウム(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、100U/mLペニシリン,0.1mg/mLストレプトマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、2mM GlutaMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、1×Insulin-Transferrin-Selenium(ITS-G、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、10ng/mL 組換えヒトbFGF(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、20ng/mL 組換えラットGDNF(RSD)、20ng/mLマウス組換えEGFキャリアフリー(RSD)、1,000U/mL LIFを添加したStemPro-34SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用した。
 その結果、全てのmPGCLC由来の精原細胞様細胞を培養した16個の細胞培養の全てにおいて、精子幹細胞様細胞(GSCLC)株を樹立することができた。以下、樹立したマルチクローナルなGSCLC株を、それぞれ、「GSCLC_W1」~「GSCLC_W16」という。
 また、特筆すべきことに、1個のmPGCLC由来細胞を培養した192個の細胞培養のうちの15個から、GSCLC株を樹立することができた。以下、樹立したモノクローナルなGSCLC株を、それぞれ、「GSCLC_S1」~「GSCLC_S15」という。
 図11に、代表的なGSCLC株の顕微鏡画像を示す。スケールバーは100μmである。また、下記表1に、GSCLC株の樹立の結果を示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
[実験例5]
(精子幹細胞様細胞株の精子形成能の検討)
 実験例4で樹立したGSCLC株が精子形成能を示すかどうかを検討した。精子幹細胞様細胞株を、内因性精子形成を欠く成体マウス(W/Wマウス、6~8週齢)の精巣に移植し、移植後8~10週間後に分析した。
 非特許文献1の結果では、再構成精巣1つあたりに存在する、全てのmPGCLC由来の精原細胞様細胞から樹立したGSCLC株(GSCLC16_W1~GSCLC16_W15、おそらく、マルチクローナル)は、限定的な効率で精子形成に寄与した。具体的には、15株のうち3株のみが精子形成に寄与した。また、精子形成に寄与した3株においても、精子形成を示すコロニーの割合は20%以下であった。すなわち、GSCLC株がコロニーを形成した精細管の20%以下で精子形成が認められた。
 これに対し、実験例4において、再構成精巣1つあたりに存在する、全てのmPGCLC由来の精原細胞様細胞から樹立したGSCLC株(GSCLC_W1~GSCLC_W16)は、安定的に精子形成に寄与し、これらの細胞株の大部分(15/16、~94%)において、精子形成を伴うコロニーの割合は80%以上であった。
 また、実験例4において、1個のmPGCLC由来の精原細胞様細胞から樹立したGSCLC株は、6株のうち5株が精子形成に寄与した。また、これらの細胞株の大部分(4/5、~80%)において、精子形成を伴うコロニーの割合は80%以上であった。
 図12は、GSCLC株をW/Wマウスの精巣に移植した後に観察された、精子形成を伴うコロニーの割合を示すグラフである。図12中、「16_W1-15」は、非特許文献1で樹立したGSCLC株「GSCLC16_W1」~「GSCLC16_W15」を示し、「W1-16」は、実験例4で樹立したGSCLC株「GSCLC_W1」~「GSCLC_W16」を示し、「S1-6」は、実験例4で樹立したGSCLC株「GSCLC_S1」~「GSCLC_S6」を示す。
 図13左は、GSCLC_W9株を移植してから8週間後のW/Wマウスの精巣から採取した精細管の明視野画像である。スケールバーは100μmである。図13中央は、図13左と同視野における蛍光画像であり、VRの蛍光を撮影したものである。図13右は、GSCLC_W1株を移植してから8週間後のW/Wマウスの精細管から採取した精子(矢印で示す)の明視野画像である。スケールバーは10μmである。
 続いて、4つの独立したGSCLC株(GSCLC_W1~GSCLC_W3、GSCLC_S1)に由来する精子の卵細胞質内精子注入法(ICSI)を実施した。これらの注入はすべて、接合子と2細胞期胚の生成をもたらし、代理母に移植した結果、明らかに健康な子孫に寄与した。
 図14左上は、GSCLC_W1株に由来する前核期胚の顕微鏡画像である。図14右上は、GSCLC_W1株に由来する2細胞期胚の顕微鏡画像である。図14左下及び右下は、これらの胚から得られた子孫の写真である。下記表2に、卵細胞質内精子注入法の結果を示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 子孫へのGSCLC由来精子細胞の寄与の効率は、生殖幹細胞(GSC)由来精子又はインビボ精子の効率と類似していた。これらの結果は、多能性幹細胞から精原細胞/精子幹細胞(SSC)を安定的に再構成できることを示す。
 本発明によれば、機能的な精子幹細胞様細胞を製造する技術を提供することができる。

Claims (9)

  1.  精子幹細胞様細胞の製造方法であって、
     哺乳動物由来の多能性幹細胞をアクチビンA及びFGF2の存在下で培養してエピブラスト様細胞を得る工程(a)と、
     前記工程(a)で得た前記エピブラスト様細胞をBMP4、LIF、SCF及びEGFの存在下で培養して始原生殖細胞様細胞を得る工程(b)と、
     前記工程(b)で得た前記始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c)と、
     前記工程(c)で得た前記細胞塊を気液平衡培養して再構成精巣を得る工程(d)と、
     前記工程(d)で得た前記再構成精巣を更に気液平衡培養し、その結果、前記再構成精巣内の前記始原生殖細胞様細胞が精子幹細胞様細胞に分化する工程(e)と、を含み、
     前記工程(c)が、前記工程(b)で得た前記始原生殖細胞様細胞を培養し、エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を得る工程(c1)と、前記工程(c1)で得た、前記エピゲノム状態が基底状態になった始原生殖細胞様細胞を生体由来の雄性精巣体細胞と混合して浮遊培養し、細胞塊を得る工程(c2)とを含む、製造方法。
  2.  前記工程(c1)を、フォルスコリン及びロリプラムを含む培地中で行う、請求項1に記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
  3.  前記工程(c1)を、フォルスコリン、ロリプラム及びシクロスポリンAを含む培地中で行う、請求項1に記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
  4.  前記工程(d)及び(e)を、ウシ胎児血清を含む培地中で行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
  5.  前記工程(c2)を、フォルスコリン及びロリプラムを含む培地中で行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
  6.  前記多能性幹細胞は、マウス由来である、請求項1~5のいずれか一項に記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
  7.  前記工程(c1)において、前記始原生殖細胞様細胞を4~7日間培養する、請求項1~6のいずれか一項に記載の精子幹細胞様細胞の製造方法。
  8.  請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法により製造された精子幹細胞様細胞株。
  9.  クローニングされた、請求項8に記載の精子幹細胞様細胞株。
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