WO2023008498A1 - 非ラメラ液晶形成性組成物及びその用途 - Google Patents

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Abstract

本発明は、新たな非ラメラ液晶形成性組成物を提供する。 本発明の一態様は、脂肪酸エステルと、リン脂質とを含み、前記脂肪酸エステルが、1つの水酸基又はその塩を有する親水性基を有し、前記脂肪酸エステルが、下記一般式(A)~(D)で表されるいずれの構造も有さない脂肪酸エステルである、非ラメラ液晶形成性組成物である。(式中、mはそれぞれ独立に1又は2であり、a、b、c、dはそれぞれ独立に、親水性基との結合部位を意味し、nは0、1又は2であり、波線はそれぞれ独立にE体又はZ体を意味する。)

Description

非ラメラ液晶形成性組成物及びその用途
 本発明は、非ラメラ液晶形成性組成物及びその用途に関する。
 リポソームなどのリオトロピック液晶は、生体模倣性薬物送達システム(DDS)キャリアとして、DDS概念の提唱時期より有用性が数多く報告されている。近年では、リオトロピック液晶の1種である非ラメラ液晶(NLLC)について、従来のDDSキャリアと比して、高い薬物含有率、調製容易性などの利点を有することが報告されている。
 様々な液晶形成化合物が化粧品分野、医薬品分野などで様々な用途に利用されている。例えば、極性頭部基に-OH基が2つ以上存在するソルビタン不飽和脂肪酸エステルと、リン脂質と、特定の液晶硬化剤とを含み、水性流体の不在下で脂質液相として存在し、水性流体上で液晶を形成する徐放性脂質初期製剤(pre-concentrate)が知られている(例えば特許文献1参照)。
 また、別の例としては、糖又は糖誘導体のエステルと、リン脂質と、生体適合性酸素含有低粘性有機溶媒との低粘性非液晶性混合物を含む予備製剤であって、前記予備製剤が、水性流体と接触した際に、非ラメラ液晶相構造を形成するか、形成可能であり、前記予備製剤が、特定の液晶硬化剤をさらに含まない、予備製剤が知られている(例えば特許文献2参照)。
特表2014-527545号公報 特表2018-502091号公報
 本発明は、新たな非ラメラ液晶形成性組成物を提供することを課題とする。本発明はまた、非ラメラ液晶形成性組成物を提供することが可能な、新たな化合物又はその塩を提供することを課題とする。
 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、所定の脂肪酸エステル及びリン脂質を含む、非ラメラ液晶形成性組成物を見出した。本発明者らは、さらに、非ラメラ液晶形成性組成物の調製に用いることができる、新たな化合物の合成にも成功した。このようにして本発明者らは、本発明を完成するに至った。
 すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 脂肪酸エステルと、リン脂質とを含み、
 前記脂肪酸エステルが、1つの水酸基又はその塩を有する親水性基を有し、
 前記脂肪酸エステルが、下記一般式(A)~(D)で表されるいずれの構造も有さない脂肪酸エステルである、非ラメラ液晶形成性組成物。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000006
(一般式(A)~(D)において、mはそれぞれ独立に1又は2であり、a、b、c、dはそれぞれ独立に、親水性基との結合部位を意味し、
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000007
はそれぞれ独立に一重結合又は二重結合を意味し、一般式(A)におけるnは0、1又は2であり、一般式(B)、(C)及び(D)における波線はそれぞれ独立にE体又はZ体を意味する。)
[2] 前記脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数が6~24である、[1]に記載の組成物。
[3] 前記脂肪酸エステルと前記リン脂質との重量比が、90:10~20:80である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 前記脂肪酸エステルが、飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸及びその誘導体から選択される少なくとも1種と、グリコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種との脂肪酸エステルである、[1]~[3]のいずれか1つに記載の組成物。
[5] 前記直鎖脂肪酸が、不飽和度が0~6の直鎖脂肪酸である、[4]に記載の組成物。
[6] 前記直鎖脂肪酸が下記一般式(I)で表される直鎖脂肪酸である、[4]又は[5]に記載の組成物。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000008
(一般式(I)において、Rは、‐C-で表される直鎖状炭化水素基であり、pは4~22の整数であり、qはpが5以下の場合2p-4~2pの整数であり、pが6又は7の場合2p-6~2pの整数であり、pが8又は9の場合2p-8~2pの整数であり、pが10又は11の場合2p-10~2pの整数であり、pが12以上の場合2p-12~2pの整数である。)
[7] 前記直鎖脂肪酸がカプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、及びベヘン酸から選択される少なくとも1種の脂肪酸である、[4]~[6]のいずれか1つに記載の組成物。
[8] 前記グリコールがプロピレングリコール、エチレングリコール、ブチレングリコール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、及びイソソルバイドから選択される少なくとも1種のグリコールである、[4]~[7]のいずれか1つに記載の組成物。
[9] 前記リン脂質がホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミン並びにそれらの塩から選択される少なくとも1種のリン脂質である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の組成物。
[10] 前記リン脂質が大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、及びジオレイルホスファチジルエタノールアミン並びにそれらの塩から選択される少なくとも1種のリン脂質である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の組成物。
[11] 油分及び有機溶媒の少なくとも一方を含む、[1]~[10]のいずれか1つに記載の組成物。
[12] 水性媒体をさらに含む、非ラメラ液晶組成物である、[1]~[11]のいずれか1つに記載の組成物。
[13] 界面活性剤をさらに含む、非ラメラ液晶エマルション組成物である、[12]に記載の組成物。
[14] 水性媒体の存在下で非ラメラ液晶を形成可能である液晶前駆体組成物である、[1]~[11]のいずれか1つに記載の組成物。
[15] [1]~[14]のいずれか1つに記載の組成物を含む、医薬製剤。
[16] 生体組織の癒着防止用の、[15]に記載の医薬製剤。
[17] 前記組成物が薬物をさらに含む、徐放性製剤である[15]に記載の医薬製剤。
[18] 前記薬物が、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストである、[17]に記載の医薬製剤。
[19] 前記GnRHアゴニストが、ロイプロリド又はその塩である、[18]に記載の医薬製剤。
[20] スプレー剤、エアゾール剤、注射剤、又はデポ剤である、[15]~[19]のいずれか1つに記載の医薬製剤。
[21] 式(X’)で表される化合物又はその塩。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000009
(一般式(X’)において、Rは、プロピレングリコール、ブチレングリコール、イソプレングリコール、ジエチレングリコール又はイソソルバイドに由来する構造である。)
[22] 式(X)、(Y)、又は(Z)で表される化合物又はその塩。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000010
 本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2021-122489号の開示内容を包含する。
 本発明により、非ラメラ液晶を形成することが可能な新たな組成物を提供することができる。
図1は実施例5における酢酸ロイプロリドを配合した前駆体製剤No.32、No.33、及びNo.35からの薬物(酢酸ロイプロリド)の放出率(インビトロ放出データ)を示す。 図2は実施例6における酢酸ロイプロリドを配合した前駆体製剤No.34、及びNo.35の薬物(酢酸ロイプロリド)動態データを示す。 図3は実施例6における前駆体製剤No.35を皮下投与したラットの製剤投与部位の写真を示す。
 以下、本発明を詳細に説明する。
 本発明の一態様は、脂肪酸エステルと、リン脂質とを含み、前記脂肪酸エステルが、1つの水酸基又はその塩を有する親水性基を有し、前記脂肪酸エステルが、下記一般式(A)~(D)で表されるいずれの構造も有さない脂肪酸エステルである、非ラメラ液晶形成性組成物に関する。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、リン脂質を含むため生体適合性に優れており、そのような非ラメラ液晶形成性組成物は、安全性が高いため、生体内適用が許容される。
 本発明に用いられる脂肪酸エステルは、1つの水酸基又はその塩を有する親水性基を有している。また、本発明に用いられる脂肪酸エステルは、下記一般式(A)~(D)で表されるいずれの構造も有さない脂肪酸エステルである。なお、親水性基を有する脂肪酸エステルを、両親媒性化合物とも記す。また、脂肪酸エステルとしては1種単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000011
(一般式(A)~(D)において、mはそれぞれ独立に1又は2であり、a、b、c、dはそれぞれ独立に、親水性基との結合部位を意味し、
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000012
はそれぞれ独立に一重結合又は二重結合を意味し、一般式(A)におけるnは0、1又は2であり、一般式(B)、(C)及び(D)における波線はそれぞれ独立にE体又はZ体を意味する。)
 前記一般式(A)~(D)で表される構造は、所謂イソプレノイド型脂肪鎖である。本発明に用いられる脂肪酸エステルは、所謂イソプレノイド型脂肪鎖を有さないことを特徴の一つとする。なお、前記親水性基との結合部位とは、言い換えると親水性基との結合手を意味する。
 前記脂肪酸エステルは、1つの水酸基又はその塩を有する親水性基を有する。親水性基は、通常は脂肪酸エステルを構成する脂肪酸に由来するカルボニル(C=O)構造及び、脂肪酸とエステル結合する化合物(例えばグリコール)に由来する構造とから構成される親水性基である。親水性基は水酸基又はその塩を1つ有するが、水酸基の塩としては、例えば水酸基の金属塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩)が挙げられる。水酸基の塩の好ましい例としては、水酸基のアルカリ金属塩、水酸基のアルカリ土類金属塩が挙げられ、特に好ましい例として、水酸基のナトリウム塩(-ONa)、水酸基のカリウム塩(-OK)、水酸基のカルシウム塩(-OCa1/2)、水酸基のマグネシウム塩(-OMg1/2)が挙げられる。水酸基の塩としては、それ以外の製薬上許容される塩であってもよい。脂肪酸エステルとして、1つの水酸基又はその塩を有する親水性基を有する脂肪酸エステルを用いると、親水性基が複数の水酸基又はその塩を有する脂肪酸エステルを用いた場合と比べて、組成物の粘性を低くすることができることを本発明者らは見出した。組成物の粘性が低いと、例えば注射剤として使用する際に、注射針を細くすることができるため有用である。また、粘性が低い組成物は、粘性が高い組成物と比べて調製が容易であり、幅広い温度で安定性が高い傾向があった。さらに、組成物として幅広い重量比で脂肪酸エステルを含む組成物を、液体状の組成物として形成することができるため好ましい。
 前記脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数、言い換えると脂肪酸エステルを構成する脂肪酸(脂肪酸エステルの原料である脂肪酸)の炭素数は、6~24であることが好ましく、8~22であることがより好ましく、8~18であることが更に好ましい。前記範囲内では、非ラメラ液晶形成性の組成物を容易に得ることができるため好ましい。脂肪酸としては、分岐脂肪酸であってもよい。分岐脂肪酸としては、飽和又は不飽和の分岐脂肪酸を用いることができる。分岐脂肪酸としては例えば、2-エチルヘキサン酸、イソノナン酸、イソデカン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、イソイコサン酸が挙げられる。
 前記脂肪酸としては、飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸であることが好ましい態様の一つである。脂肪酸としては、合成脂肪酸であっても、半合成脂肪酸であっても、天然脂肪酸であってもよいが、天然脂肪酸であることが好ましい態様の一つである。また、前記脂肪酸エステルは、脂肪酸及びその誘導体から選択される少なくとも1種と、グリコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種との脂肪酸エステルであることが好ましい態様の一つである。
 すなわち、前記脂肪酸エステルが、飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸及びその誘導体から選択される少なくとも1種と、グリコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種との脂肪酸エステルであることが好ましい態様の一つである。前記脂肪酸エステルの製造方法としては特に制限はなく、例えば、飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸及びその誘導体から選択される少なくとも1種と、グリコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種とを公知の条件で反応させ、脂肪酸由来のカルボキシル基と、グリコール由来の水酸基とを反応させ、エステル結合を形成することにより得ることができる。なお、具体例としては、後述の実施例に記載の方法により、脂肪酸エステルを製造することができる。
 直鎖脂肪酸が不飽和脂肪酸である場合には、その不飽和度、すなわち、炭素炭素二重結合の数は、通常は1以上であり、好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4であり、特に好ましくは1又は2である。言い換えると、直鎖脂肪酸としては、不飽和度が0~6の直鎖脂肪酸であることが好ましく、不飽和度が0~4の直鎖脂肪酸であることがより好ましく、不飽和度が0~2の直鎖脂肪酸であることが特に好ましい。また、直鎖脂肪酸が不飽和度が1又は2の不飽和脂肪酸である場合には、炭素数が18以下であることが、組成物の安定性の観点から、好ましい態様の一つであり、直鎖脂肪酸が飽和脂肪酸である場合には、炭素数が16以下であることが、組成物の安定性の観点から、好ましい態様の一つである。
 前記直鎖脂肪酸が下記一般式(I)で表される直鎖脂肪酸であることが好ましい態様の一つである。すなわち、直鎖脂肪酸としては、片方の末端がメチル基であることが好ましい態様の一つである。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000013
(一般式(I)において、Rは、‐C-で表される直鎖状炭化水素基であり、pは4~22の整数であり、qはpが5以下の場合2p-4~2pの整数であり、pが6又は7の場合2p-6~2pの整数であり、pが8又は9の場合2p-8~2pの整数であり、pが10又は11の場合2p-10~2pの整数であり、pが12以上の場合2p-12~2pの整数である。)
 pは6~20の整数であることがより好ましく、6~16であることが更に好ましい。qはpの値にかかわらず、2p-4~2pであることが好ましい態様の一つである。なお、qが2p-12である場合‐C-で表される直鎖状炭化水素基は、不飽和度が6であり、qが2p-10である場合‐C-で表される直鎖状炭化水素基は、不飽和度が5であり、qが2p-8である場合‐C-で表される直鎖状炭化水素基は、不飽和度が4であり、qが2p-6である場合‐C-で表される直鎖状炭化水素基は、不飽和度が3であり、qが2p-4である場合‐C-で表される直鎖状炭化水素基は、不飽和度が2であり、qが2p-2である場合‐C-で表される直鎖状炭化水素基は、不飽和度が1であり、qが2pである場合‐C-で表される直鎖状炭化水素基は、飽和直鎖状炭化水素基(直鎖アルキレン基、不飽和度0)である。また、前述の2p-4~2pは、2p-4、2p-2又は2pを意味し、2p-6~2pは、2p-6、2p-4、2p-2又は2pを意味し、2p-8~2pは、2p-8、2p-6、2p-4、2p-2又は2pを意味し、2p-10~2pは、2p-10、2p-8、2p-6、2p-4、2p-2又は2pを意味し、2p-12~2pは、2p-12、2p-10、2p-8、2p-6、2p-4、2p-2又は2pを意味する。
 前記脂肪酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、(9,12,15)-リノレン酸、(6,9,12)-リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、8,11-エイコサジエン酸、ミード酸、アラキドン酸、ベヘン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸が挙げられる。脂肪酸としては一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。脂肪酸としては直鎖脂肪酸が好ましく、中でも、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、及びベヘン酸から選択される少なくとも1種の脂肪酸が好ましい。脂肪酸としては、1種単独で用いても、2種類以上を用いてもよい。なお、市販されている脂肪酸は、複数の脂肪酸の混合物である場合があるが、このような脂肪酸も問題なく使用することができる。
 前記グリコールとは、2個の水酸基が、2個の異なる炭素原子に結合している鎖状または環状の炭素、酸素、水素からなる化合物を意味する。前記グリコールとしては、プロピレングリコール、エチレングリコール、ブチレングリコール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、及びイソソルバイドから選択される少なくとも1種のグリコールが好ましい。
 グリコールが有する2つの水酸基が非等価である場合、例えばグリコールが有する水酸基の一つが1級の水酸基であり、他方が2級の水酸基である場合、脂肪酸エステルとしては、脂肪酸と結合する水酸基が異なる異性体が存在する。本発明で用いられる脂肪酸エステルとしては、片方の異性体であってもよく、両方の異性体を含む混合物であってもよい。一般にグリコールが1級の水酸基と2級の水酸基とを有する場合、合成された脂肪酸エステル中には、1級の水酸基が脂肪酸と結合した脂肪酸エステルが、2級の水酸基が脂肪酸と結合した脂肪酸エステルよりも、より高い割合で存在すると考えられる。なお、本実施例では、合成した脂肪酸エステルについて、その化学式を示しているが、代表的な構造を示しているに過ぎず、グリコールが有する異なる水酸基と脂肪酸とが結合した異性体の存在を否定するものではない。
 なお、グリコールが有する2つの水酸基が非等価である場合とは、例えばグリコールとして、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、イソソルバイド等を使用する場合が挙げられる。
 飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸の誘導体としては、例えば前述の飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸のアルキルエステル(飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸とモノアルコールとのエステル)、飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸の塩(例えば、金属塩)が挙げられる。また、グリコールの誘導体としては、例えば前述のグリコールとモノオールとのエーテル(例えば、グリコールが有する水酸基の一つがモノオールとエーテル化された、グリコールのモノエーテル)、グリコールの塩(例えば、金属塩)が挙げられる。飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸の誘導体としては、1種単独で用いても、2種類以上を用いてもよい。なお、市販されている飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸の誘導体は、複数成分の混合物(複数種類の飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸の誘導体の混合物)である場合があるが、このような飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸の誘導体も問題なく使用することができる。
 本発明で用いられる脂肪酸エステルの好ましい例として、
モノカプリル酸プロピレングリコール、
モノオレイン酸プロピレングリコール、
モノミリスチン酸プロピレングリコール、
モノパルミチン酸プロピレングリコール、
モノリノール酸プロピレングリコール、
モノベヘン酸プロピレングリコール、
モノカプリル酸エチレングリコール、
モノオレイン酸エチレングリコール、
モノミリスチン酸エチレングリコール、
モノパルミチン酸エチレングリコール、
モノリノール酸エチレングリコール、
モノベヘン酸エチレングリコール、
モノカプリル酸1,3-ブチレングリコール、
モノオレイン酸1,3-ブチレングリコール、
モノミリスチン酸1,3-ブチレングリコール、
モノパルミチン酸1,3-ブチレングリコール、
モノリノール酸1,3-ブチレングリコール、
モノベヘン酸1,3-ブチレングリコール、
モノカプリル酸3-メチル-1,3-ブタンジオール、
モノオレイン酸3-メチル-1,3-ブタンジオール、
モノミリスチン酸3-メチル-1,3-ブタンジオール、
モノパルミチン酸3-メチル-1,3-ブタンジオール、
モノリノール酸3-メチル-1,3-ブタンジオール、
モノベヘン酸3-メチル-1,3-ブタンジオール、
モノカプリル酸ジエチレングリコール、
モノオレイン酸ジエチレングリコール、
モノミリスチン酸ジエチレングリコール、
モノパルミチン酸ジエチレングリコール、
モノリノール酸ジエチレングリコール、
モノベヘン酸ジエチレングリコール、
モノカプリル酸イソソルバイド、
モノオレイン酸イソソルバイド、
モノミリスチン酸イソソルバイド、
モノパルミチン酸イソソルバイド、
モノリノール酸イソソルバイド、
モノベヘン酸イソソルバイド、
が挙げられ、別の例としては、前述の脂肪酸エステルが有する親水性基が有する水酸基が塩になったものが挙げられるがこれらに限定されるものではない。水酸基の塩としては、好ましくは、水酸基のナトリウム塩(-ONa)、水酸基のカリウム塩(-OK)、水酸基のカルシウム塩(-OCa1/2)、水酸基のマグネシウム塩(-OMg1/2)、それ以外の製薬上許容される塩が挙げられる。
 本発明で用いられる脂肪酸エステルの特に好ましい例として、
モノオレイン酸プロピレングリコール、
モノリノール酸プロピレングリコール、
モノオレイン酸エチレングリコール、
モノリノール酸エチレングリコール、
モノオレイン酸1,3-ブチレングリコール、
モノリノール酸1,3-ブチレングリコール、
モノオレイン酸3-メチル-1,3-ブタンジオール、
モノリノール酸3-メチル-1,3-ブタンジオール、
モノオレイン酸ジエチレングリコール、
モノリノール酸ジエチレングリコール、
モノオレイン酸イソソルバイド、
モノリノール酸イソソルバイド、
が挙げられ、別の例としては、前述の脂肪酸エステルが有する親水性基が有する水酸基が塩になったものが挙げられるがこれらに限定されるものではない。水酸基の塩としては、好ましくは、水酸基のナトリウム塩(-ONa)、水酸基のカリウム塩(-OK)、水酸基のカルシウム塩(-OCa1/2)、水酸基のマグネシウム塩(-OMg1/2)、それ以外の製薬上許容される塩が挙げられる。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、前述の脂肪酸エステルを、1種又は2種以上含んでもよい。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物が、前述の脂肪酸エステルを複数種含む場合、それらの脂肪酸エステルの重量比は特に限定されない。
 本発明で用いられる脂肪酸エステルの中で、式(X’)で表される化合物は、新規化合物であり、本実施形態の一つとして、式(X’)で表される化合物又はその塩が挙げられる。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000014
(一般式(X’)において、Rは、プロピレングリコール、ブチレングリコール、イソプレングリコール、ジエチレングリコール又はイソソルバイドに由来する構造である。)
 式(X’)で表される化合物は、リノール酸と、プロピレングリコール、ブチレングリコール、イソプレングリコール(3-メチル-1,3-ブタンジオール)、ジエチレングリコール又はイソソルバイドとの、脂肪酸エステルである。すなわち、プロピレングリコール、ブチレングリコール、イソプレングリコール、ジエチレングリコール又はイソソルバイドに由来する構造とは、プロピレングリコール、ブチレングリコール、イソプレングリコール、ジエチレングリコール又はイソソルバイドから、一つの水酸基を構成する水素原子が除かれた構造を意味する。一例としてRがジエチレングリコールに由来する構造である場合には、該構造とは-O-CH-CH-O-CH-CH-OHである。
 本発明で用いられる脂肪酸エステルの中で、式(X)、(Y)、又は(Z)で表される化合物は、新規化合物であり、本実施形態の一つとして、式(X)、(Y)、又は(Z)で表される化合物又はその塩が挙げられる。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000015
 なお、式(X)で表される化合物は、モノリノール酸プロピレングリコール(モノリノール酸(C18:2)プロピレングリコール)であり、式(Y)で表される化合物は、モノオレイン酸1,3-ブチレングリコール(モノオレイン酸(C18:1)ブチレングリコール)であり、式(Z)で表される化合物は、モノオレイン酸イソソルバイドである。
 式(X’)、(X)、(Y)、又は(Z)で表される化合物の塩としては、分子中の水酸基が塩になったもの、具体的には水酸基のアルカリ金属塩、水酸基のアルカリ土類金属塩が挙げられ、特に好ましい例として、水酸基のナトリウム塩(-ONa)、水酸基のカリウム塩(-OK)、水酸基のカルシウム塩(-OCa1/2)、水酸基のマグネシウム塩(-OMg1/2)が挙げられる。また、水酸基の塩としては、それ以外の製薬上許容される塩であってもよい。
 本発明では、前述の脂肪酸エステルを、リン脂質と組み合わせて、非ラメラ液晶形成性組成物の製造に用いることができる。すなわち、本発明は、前述の脂肪酸エステルとリン脂質とを含む、組成物、特に非ラメラ液晶形成性組成物を提供する。
 前述の脂肪酸エステルは、リン脂質と組み合わせて用いることができる。前述の脂肪酸エステルは、一部の例外を除き、それのみでは非ラメラ液晶を形成することができなかった。しかしながら、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、前述の脂肪酸エステルとリン脂質とを組み合わせることにより、非ラメラ液晶を形成することができることが見出された。さらに、前述の脂肪酸エステルが仮に毒性を有する場合、リン脂質は、前述の脂肪酸エステルの毒性を低減させて、非ラメラ液晶形成性組成物の生体適合性を向上させ、それを生体内に適用する際の安全性を高めることができる。本発明において「生体適合性」とは、体内適用の際、生体における有害反応(副作用)を生じにくいか又は生じない性質を指す。本発明に関する「毒性」としては、以下に限定するものではないが、肝毒性などの全身毒性、膿瘍発生などの異物反応や出血、変色などの組織障害を生じる局所毒性等が挙げられる。肝毒性は、例えば、腹水の発生、肝臓の肥大化、肝臓周辺の癒着(特に非損傷・非炎症部位の癒着)、肝臓の白色化などから選ばれる、肝臓障害を示す少なくとも1つの症状の発生により確認することができる。本発明に係る脂肪酸エステルとリン脂質とを含む非ラメラ液晶形成性組成物は、体内適用(好ましくは、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与などの非経口投与)が許容される。本発明において「体内適用が許容される」とは、生体内に投与したとき(典型的には、体内に、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与などの非経口投与をしたとき)に毒性を生じないか又は医薬上許容される程度に低いレベルでしか生じないことを意味する。しかしながら、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、体内に適用される目的のものに限定されるものではない。
 本発明で用いるリン脂質としては、以下に限定するものではないが、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセリン、ホスファチジン酸、及びスフィンゴミエリン、並びにそれらの塩からなる群から選択される1種若しくは2種以上のリン脂質、又はそれを含むリン脂質製剤若しくは画分等が挙げられる。ホスファチジルコリンの例として、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、大豆ホスファチジルコリン(SPC;大豆レシチンとも称される)、及び卵黄ホスファチジルコリン(EPC;卵黄レシチンとも称される)等が挙げられるが、これらに限定されない。ホスファチジルエタノールアミンの例として、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)が挙げられるが、これに限定されない。ホスファチジルグリセリンの例として、ジオレイルホスファチジルグリセリンが挙げられ、ホスファチジルグリセリンの塩の例として、ジオレイルホスファチジルグリセリンナトリウム(DOPG-Na)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明で用いるリン脂質は、合成物であっても、天然由来であってもよい。一実施形態では、本発明で用いるリン脂質は、ホスファチジルコリンであってよく、例えば、大豆ホスファチジルコリン又は卵黄ホスファチジルコリンであってよい。別の実施形態では、本発明で用いるリン脂質はホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、若しくはホスファチジルグリセリン、又はそれらの塩であってよい。一実施形態では、本発明で用いるリン脂質は、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、卵黄ホスファチジルコリン(EPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)、及びジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)からなる群から選択されるものであってよい。また、好ましい一実施形態では、リン脂質がホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミン並びにそれらの塩から選択される少なくとも1種のリン脂質であってもよい。別の好ましい一実施形態では、リン脂質が大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、及びジオレイルホスファチジルエタノールアミン並びにそれらの塩から選択される少なくとも1種のリン脂質であってもよい。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、1種又は2種以上のリン脂質を含んでもよい。
 両親媒性化合物の生体適合性を向上させて非ラメラ液晶形成性組成物の安全性を高める目的では、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物に含まれる前記脂肪酸エステルと前記リン脂質との重量比は、以下に限定されるものではないが、当該脂肪酸エステル:リン脂質=90:10~10:90であることが好ましく、90:10~20:80であることがより好ましく、80:20~20:80であることが特に好ましい。別の例としては、当該脂肪酸エステル:リン脂質=80:20~30:70、70:30~10:90、70:30~20:80、70:30~30:70、60:40~10:90、60:40~20:80、60:40~30:70、60:40~40:60、45:55~10:90、45:55~20:80、45:55~30:70、45:55~35:65、45:55~55:45、50:50~20:80、50:50~30:70、40:60~10:90、40:60~20:80、40:60~30:70、35:65~20:80、又は35:65~25:75であってもよい。
 なお上記の脂肪酸エステルとリン脂質の重量比は、前記脂肪酸エステルを複数種用いる場合にはその合計量(重量)、リン脂質を複数種用いる場合はその合計量(重量)を用いて算出する。なお本明細書において用語「重量」と「質量」は互換的に使用される。
 代替的実施形態では、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、用途、剤形、組成等次第で、十分に高い生体適合性(すなわち、安全性)を有し、且つ非ラメラ液晶形成性を有する限り、リン脂質を含まなくてもよい。したがって本発明は、前記脂肪酸エステルを含む、組成物、特に非ラメラ液晶形成性組成物にも関する。なお、前記代替的実施形態においては、エーテル結合を有しないグリコールから得られた、1つの水酸基又はその塩を有する親水性基を有する脂肪酸エステルは、リン脂質を用いることなく、非ラメラ液晶を形成しがたい傾向があるため、使用できない場合がある。一方、モノオレイン酸ジエチレングリコールのように、エーテル結合を有するグリコールから得られた、1つの水酸基又はその塩を有する親水性基を有する脂肪酸エステルは、代替的実施形態に好適に使用できる傾向がある。そのような非ラメラ液晶形成性組成物は、例えば薬物を含む場合、徐放性製剤として使用することもできる。
 本発明において「非ラメラ液晶形成性組成物」とは、非ラメラ液晶構造を形成している組成物(非ラメラ液晶組成物)、又はそれ自体は非ラメラ液晶構造を形成していないが水の存在下で(すなわち、水性媒体との接触により)非ラメラ液晶構造を形成する能力を有する組成物(液晶前駆体組成物)を意味する。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、液晶前駆体組成物である場合、水性媒体を含まないか、又は非ラメラ液晶構造を形成するのに十分な量の水性媒体を含まない。すなわちある態様において本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、水性媒体の存在下で非ラメラ液晶を形成可能である液晶前駆体組成物であり、より具体的な一態様としては、水性媒体を含まず、かつ、水性媒体の存在下で非ラメラ液晶を形成可能である液晶前駆体組成物である。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、非ラメラ液晶組成物である場合、水性媒体、好ましくは、非ラメラ液晶構造を形成するのに十分な量の水性媒体を含む。水性媒体は特に限定されず、滅菌水、精製水、蒸留水、イオン交換水、超純水、注射用水、生理食塩水、リン酸緩衝液等であってもよい。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、液晶エマルション(より具体的には、非ラメラ液晶エマルション組成物)であってもよい。液晶エマルションである本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、界面活性剤をさらに含むことが好ましい。なお非ラメラ液晶エマルション組成物は分散剤とも称される。上記両親媒性化合物及びリン脂質を含む本発明に係る非ラメラ液晶エマルション組成物は、高い安定性も示す。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物において用いる界面活性剤の例として、P80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.))が挙げられる。界面活性剤の別の例として、親水性のエチレンオキシドと疎水性のプロピレンオキシドのブロック共重合体(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油をはじめとする、非イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、分子量が1000以上(より好ましくは、5000以上)のものがより好ましい。エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体としては、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコールなどが挙げられる。これらエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体は、プルロニック(登録商標)、ポロキサマー(登録商標)、ユニルーブ(登録商標)、プロノン(登録商標)などの様々な名称で市販されている。非イオン性界面活性剤の特に好ましい例として、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(別名:プルロニック(登録商標)F127;ユニルーブ70DP-950B、ポロキサマー(登録商標)407)等が挙げられる。なお、本発明において、前記脂肪酸エステルは、親水性基を有するため両親媒性化合物として作用するが、界面活性剤の範囲に含めないものとする。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物はこのような界面活性剤を1種又は2種以上含んでもよい。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、油分及び有機溶媒のうちの少なくとも一方を含んでもよい。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物において用いる油分の例として、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ヤシ油、サフラワー油、エゴマ油、オリーブ油、ヒマシ油、綿実油等の植物油、卵黄油、魚油、ラノリンなどの動物油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、トリグリセリド、流動パラフィンなどの鉱物油、スクアレン、スクワランなどの炭化水素油、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)などのエステル油、コレステロール、トコフェロール、酢酸トコフェロール、グリセリルジオレエート(GDO)、ゲル化炭化水素、テトラヒドロファルネシル酢酸メチル、ヘキサヒドロゲラニルゲラニル酢酸メチル等が挙げられるが、これらに限定されない。油分は、製薬上許容されるものであることが好ましい。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物に含まれる、前記脂肪酸エステルとリン脂質と油分との合計量としては特に限定されるものではない。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物が、液晶前駆体組成物の場合は、前記脂肪酸エステルとリン脂質と油分との合計量としては例えば、組成物全体の量の30%以上、典型的には60~100%、好ましくは65~95%、例えば75~95%、75~93%、又は80~95%程度含んでもよい。また、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物が、液晶エマルションの場合は、前記脂肪酸エステルとリン脂質と油分との合計量としては例えば、液晶エマルションの用途等によって異なるが、組成物全体の量の0.01~40%、好ましくは1~30%程度、例えば20~30%、20~23%、又は25~30%含んでもよい。
 なお本明細書における、非ラメラ液晶形成性組成物中の成分に関する割合(%)は、重量%を意味し、w/w%の単位で表すことができる。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物において用いる有機溶媒の例としては、エタノール、プロピレングリコール、イソプロパノール等のアルコール、ジエチルエーテル、ポリエチレングリコール等のエーテル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMA)等が挙げられるが、これらに限定されない。有機溶媒は、製薬上許容されるものであることが好ましい。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物では、プロトン性有機溶媒又は非プロトン性有機溶媒を単独で、又はプロトン性有機溶媒と非プロトン性有機溶媒を組み合わせて使用し得る。プロトン性有機溶媒としては、エタノール、プロピレングリコール等のアルコール、ポリエチレングリコール等が挙げられ、非プロトン性有機溶媒としては、ジエチルエーテル等のエーテル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMA)等が挙げられる。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物が、油分を含んでいる場合には、非ラメラ液晶形成性組成物に含まれる前記脂肪酸エステルと前記リン脂質との合計重量と、油分の重量は、前記脂肪酸エステルと前記リン脂質との合計重量:前記油分の重量=30:70~99:1であることが好ましく、40:60~98:2であることがより好ましく、45:55~97:3であることが特に好ましい。また、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物が、有機溶媒を含んでいる場合には、非ラメラ液晶形成性組成物に含まれる前記脂肪酸エステルと前記リン脂質と、任意に用いられる油分との合計重量と、有機溶媒の重量は、前記脂肪酸エステルと前記リン脂質と、任意に用いられる油分との合計重量:前記有機溶媒の重量=80:20~99:1であることが好ましく、85:15~97:3であることがより好ましく、90:10~95:5であることが特に好ましい。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、水溶性高分子を含んでもよい。水溶性高分子としては、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、カーボポール、カラギーナン、キトサン、コンドロイチン酸塩、キサンタンガム、ヒアルロン酸塩(ヒアルロン酸ナトリウムなど)、アルギン酸塩(アルギン酸ナトリウムなど)、ゼラチン、デキストラン等が挙げられるが、これらに限定されない。ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)としては、例えば、日本曹達株式会社(日本)から市販されている、HPC-SSL(分子量40,000程度、粘度2~2.9mPa・s)、HPC-SL(分子量100,000程度、粘度3~5.9mPa・s)、HPC-L(分子量140,000程度、粘度6~10mPa・s)、HPC-M(分子量620,000程度、粘度150~400mPa・s)、及びHPC-H(分子量910,000程度、粘度1000~4000mPa・s)の、5種類のグレードのHPCが挙げられる。一実施形態では、ヒドロキシプロピルセルロースは、分子量1,000,000以下、又は800,000以下、例えば10,000~700,000又は10,000~80,000のものであってもよい。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、抗酸化剤を含んでもよい。抗酸化剤としては、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、水を含むか、又は水の存在下で、ゲルを形成することができる。このゲル形成は、非ラメラ液晶(液晶ゲル)が形成されたことを意味する。非ラメラ液晶は薬物等の物質を内部に保持し、徐放することができる。本発明は、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物を含むゲル(ゲル状組成物)にも関する。
 非ラメラ液晶は、ラメラ液晶ではない液晶構造体であり、具体的には、例えば、キュービック液晶、逆ヘキサゴナル液晶(HII)、逆ミセルキュービック相(Fd3m)、又はスポンジ相(L3)でありうる。非ラメラ液晶は、2種類以上の非ラメラ液晶相を含んでもよい。
 キュービック液晶は、結晶学的空間群Ia3dに属するキュービック液晶(以下、Ia3dキュービック液晶)、結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶(以下、Pn3mキュービック液晶)、又は結晶学的空間群Im3mに属するキュービック液晶(以下、Im3mキュービック液晶)であり得る。
 液晶構造の解析は、常法により行うことができるが、例えば以下の方法を用いた小角エックス線散乱(SAXS)測定により解析できる。
 測定サンプルがエマルションの場合は、例えば、サンプルをソーダガラス製や石英製などのエックス線キャピラリーチューブに入れた後、キャピラリーを酸素バーナーで封じ、SAXS測定に供すればよい。SAXS測定は、市販の機器を用いて行うことができ、例えば、NANO Viewerナノスケールエックス線構造評価装置(Rigaku製)を用いて測定を行うことができる。
 SAXS測定の結果、それぞれの液晶構造に特有の以下の散乱ピークの比(ピーク間隔)を示すかどうかを確認することにより、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物が形成しているか又は水の存在下で形成する液晶構造を確認することができる。
  Pn3mキュービック液晶の比:
 √2:√3:√4:√6:√8:√9:√10: ,,,,
  Ia3dキュービック液晶の比:
 √3:√4:√7:√8:√10:√11: ,,,,
  Im3mキュービック液晶の比:
 √2:√4:√6:√8:√10:√12:√14: ,,,,
  Fd3mキュービック液晶の比:
 √3:√8:√11:√12:√16:√19:√24:√27: ,,,,
  逆ヘキサゴナル液晶に特有の比:
 1:√3:2: ,,,,
 また当業者に周知の方法に従って、SAXSの強度分布データからピークの値を算出し、さらにそれらの逆数の比を求めれば容易に空間群と格子定数を決めることができる。
 一方、スポンジ相(L3相)のSAXS測定においては、ブロードな散乱ピークが観測される。
 最も小角側に位置するピークの散乱ベクトル値q1[nm-1]をはじめとした測定サンプルの有するピークの散乱ベクトル値を解析することによって、液晶相の種類だけでなくその面間隔や格子定数を求めることができる。そのような解析結果に基づき、非ラメラ液晶形成性組成物の組成を変更することにより、液晶相や単位格子の大きさを変化させることができ、その結果、非ラメラ液晶形成性組成物と薬物を含む組成物や製剤(例えば、前駆体製剤、エマルション)からの薬物の徐放性(徐放速度)を制御することができる。例えば、前記脂肪酸エステル、リン脂質、及びその他成分、並びにそれらの比率(重量比)に応じて液晶相や単位格子の大きさを変化させることにより、それらに応じた徐放速度を得ることができる。通常、徐放速度は(低い方から)逆ミセルキュービック相(Fd3m)、逆ヘキサゴナル液晶(HII)、キュービック液晶の順番で速くなる。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、体内適用するための医療用基材として用いることができる。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、生体組織の癒着防止作用を有することから、生体組織の癒着防止のために用いることができる。したがって本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、生体組織の癒着防止用であってよい。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、生体組織の癒着防止剤として生体内に適用(投与)することができる。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、癒着の恐れがある生体組織に適用することにより、生体組織の癒着を防止することができる。本発明において「癒着防止効果」とは、癒着の恐れがある組織が他の組織又は臓器と癒着して剥離困難になる状態を防止し、癒着を完全に又は低レベルに抑える効果をいう。したがって本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、生体組織の癒着防止用に用いることができる。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物の癒着防止効果は、非ラメラ液晶形成性組成物に含まれる上記両親媒性化合物(脂肪酸エステル)が、適用された組織表面において、非ラメラ液晶形成に基づく被膜を形成することにより、もたらされるものである。形成された被膜が、組織と他の組織又は臓器との接触を妨げることで、癒着が軽減される。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物の癒着防止効果は、例えば、開腹した動物モデルの組織切開部に非ラメラ液晶形成性組成物を適用し、閉腹した後、経過を観察することにより確認することができる。具体的には、ラットを腹部正中切開(例えば約30mm)で開腹し、左右の上腹部壁側腹膜に約20mmの切開を加え、完全に止血した後、(例えば5-0絹糸を用いて)腹膜切開部を連続縫合閉鎖する。その後、左右のいずれかの腹膜切開部に対し、切開縫合部を覆うように非ラメラ液晶形成性組成物サンプルを適用する。非ラメラ液晶形成性組成物が液晶前駆体組成物の場合は、液晶形成を誘導するため、サンプル適用部位に対して水性媒体(注射用水など)を、噴霧するなどしてさらに添加してもよい。他方の腹膜切開部に対しては何も適用しない。次いで、腹壁を2層で閉腹する。この手術の一定期間後(例えば7日後)に開腹し、切開縫合部に癒着がみられるかどうかを評価すればよい。
 非ラメラ液晶形成性組成物の適用は、その剤形に応じた方法で実施すればよい。上記評価における非ラメラ液晶形成性組成物の適用量は、典型的には、上記両親媒性化合物換算量で5~50mgとなる量とすることが好ましい。
 癒着評価は、例えば以下の癒着強度に関する評価スコアをつけることによって行うことができる。
 ・グレード0 癒着なし
 ・グレード1 軽い牽引で剥離可能な癒着(組織損傷を伴わない)
 ・グレード2 強い牽引で剥離可能な癒着(組織損傷を伴わない)
 ・グレード3 強い牽引の剥離により組織損傷を伴う癒着
 非ラメラ液晶形成性組成物サンプル適用切開部において、同一動物個体の非適用切開部と比較して評価スコアが低い場合、癒着防止効果が認められると判断することができる。
 また、例えば、各切開部の癒着範囲率を、約20mmの切開縫合部に対する癒着長さの割合(%)として算出し、それに基づき、非適用切開部に対する非ラメラ液晶形成性組成物サンプル適用切開部の癒着範囲の割合(サンプル適用側の癒着範囲率/非適用側の癒着範囲率×100)が、40%以下はA、41~60%はB+、61~80%はB-、81%以上はCと判定することができる。この場合、A又はB+の判定であることが、癒着防止効果として好ましい。
 本発明において「癒着防止」は、非ラメラ液晶形成性組成物の適用(処置)により、無処置の対照と比較して、適用部位における癒着の頻度及び/又は程度が低減することによって判断することができる。
 本発明は、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物を、生体組織に適用することを含む、生体組織の癒着を防止する方法も提供する。より具体的には、本発明は、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物を、患者の患部、具体的には癒着のおそれがある部位、具体的には組織修復が起こると想定される部位(例えば体内の炎症部位又は損傷部位)に有効量で適用することを含む、患部における組織の癒着を防止する方法も提供する。そのような癒着のおそれがある部位の具体例としては、体内の外因性又は内因性の炎症部位、手術における切開部位などの創傷部位、手術中に触れるなどの人為的処理によって組織表面が損傷した部位などが挙げられる。本発明において「損傷部位」とは、手術、外傷、疾患等により損傷を受けた組織又は臓器の部分をいう。癒着防止剤を適用する組織又は臓器の例としては、腹膜、小腸、大腸、直腸、胃、十二指腸、盲腸、肝臓、子宮、卵管、リンパ管、心臓、心膜、肺、脳、卵巣、腱等が挙げられるが、これらに限定するものではない。典型例では、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、手術の際、切開部、切開部周囲又は切開部を有する臓器全体に適用される。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、創傷部位や炎症部位などに接触する体内の部位に適用してもよい。
 損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部への適用は、剤形に応じた方法を用いればよい。例えば、ガス噴射式エアゾール容器を用いて、損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部に癒着防止剤をスプレーすればよい。またポンプスプレー剤であれば、例えば汎用的な手動式などの非ガス噴射式のスプレー容器を用いて、非ラメラ液晶形成性組成物を損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部にスプレーすることができる。内視鏡下手術や腹腔鏡下手術の場合には、内視鏡下手術や腹腔鏡下手術の際に用いるスプレーノズル等を用いて非ラメラ液晶形成性組成物を損傷部位(例えば、創傷部位)などの患部にスプレーすることもできる。本発明において「スプレーする」とは、圧力をかけて目的物質を液滴状、霧状、微粒子状、又は泡状等に噴出させる(噴霧及び/又は噴射させる)ことをいう。非ラメラ液晶形成性組成物が塗布剤であれば、適量を取り、損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部に塗布すればよい。非ラメラ液晶形成性組成物が注射剤の場合には、損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部に非ラメラ液晶形成性組成物を注入すればよい。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部を十分に被覆することができる量で損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部に適用することが好ましい。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物の具体的な適用量は、好ましい一実施形態では、ヒトの場合、10mg~100g、より好ましくは50mg~50g、特に好ましくは0.1g~10gである。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物が十分量の水性媒体を含む場合(例えば、液晶エマルションである場合)、非ラメラ液晶形成性組成物は適用された組織表面で非ラメラ液晶を形成することができる。本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物が十分量の水性媒体を含まない場合(例えば、液晶前駆体組成物である場合)、体内の水分によって非ラメラ液晶は形成されるが、被膜形成を促進するためには、非ラメラ液晶形成性組成物に加えて水性媒体を損傷部位(例えば、創傷部位)や炎症部位などの患部に適用することが好ましい。水性媒体は、例えば、滅菌水、精製水、蒸留水、イオン交換水、超純水、注射用水などの水であってもよいし、生理学的に許容される水溶液であってもよい。生理学的に許容される水溶液としては、例えば、生理食塩水;塩化ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、酢酸ナトリウム水溶液等の電解質水溶液;リン酸緩衝液やトリス塩酸緩衝液などの緩衝溶液;グルコース、スクロース、マルトース、ヒアルロン酸等の糖分子を含有する水溶液;ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を含む水溶液等が挙げられる。生理学的に許容される水溶液の好ましい例としては、ヒアルロン酸又はその塩(ヒアルロン酸ナトリウムなど)を含むヒアルロン酸水溶液が挙げられる。
 液晶前駆体組成物である非ラメラ液晶形成性組成物の適用後に、水性媒体を、非ラメラ液晶形成性組成物の上から適用することが好ましいが、これに限定されない。水性媒体は、非ラメラ液晶形成性組成物と同様の適用方法により、例えば噴霧、塗布又は注入等により適用することができる。そのようにして水性媒体を組織又は臓器に適用した後、所定時間(限定するものではないが、例えば、1~30分間、好ましくは5~10分間)そのまま置いて、被膜形成を促進することが好ましい。
 本発明の非ラメラ液晶形成性組成物を用いた癒着防止方法を施す対象(患者)は、典型的には、ヒト、家畜、愛玩動物、実験動物等などの哺乳動物である。外科手術、外傷、疾患等により組織(臓器)が損傷を受けたか又は受けると見込まれる対象が特に好ましい。外科手術には、開腹手術の他、内視鏡下手術や腹腔鏡下手術なども含まれる。
 本発明の非ラメラ液晶形成性組成物は、毒性が顕著に低減又は消失していることから、本発明に係る癒着防止方法は処置を受ける患者において高い安全性を有する。
 本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物は、前記脂肪酸エステル、及びリン脂質等の上述の成分に加えて、薬物を含むこともできる。本発明において、薬物とは、非ラメラ液晶形成性組成物に含有させることにより非ラメラ液晶構造中に保持し徐放(制御放出)させるための、生体に投与すべき任意の物質(有効成分)である。但し薬物は、前記脂肪酸エステルそれ自体ではない。薬物は、有機化合物であっても無機化合物であってもよい。薬物は、水溶性薬物であっても脂溶性(親油性、水不溶性又は水難溶性)薬物であってもよい。薬物は、生理活性物質であってよい。薬物は、例えば、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸等であってよいが、これらに限定されない。薬物は、以下に限定されないが、例えばゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストであり得る。ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストは、以下に限定されないが、例えばロイプロリド又はその塩であってよい。ロイプロリドの塩は、製薬上許容される任意の塩であってよく、例えば、酢酸塩(すなわち、酢酸ロイプロリド)をはじめとするカルボン酸塩が挙げられるが、これに限定されない。なお酢酸ロイプロリドは、リュープロレリン酢酸塩などの別名で呼ばれることもある。このような非ラメラ液晶形成性組成物は、薬物の徐放のために用いることができる。
 本発明はまた、本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物を含む、医薬製剤も提供する。本発明に係る医薬製剤は、前記脂肪酸エステルとリン脂質とを含む、リン脂質により生体適合性が向上した非ラメラ液晶形成性組成物を含む。一実施形態では、本発明に係る医薬製剤は、前記脂肪酸エステルとリン脂質と薬物とを含む、非ラメラ液晶形成性組成物を含む。本発明における「医薬製剤」は、医薬組成物であり得る。本発明における医薬製剤又は医薬組成物は、非ラメラ液晶形成能を維持できる限り、製薬上許容される添加剤(例えば、担体、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、着色剤、着香剤、噴射剤等)などの他の物質をさらに含んでもよい。
 本発明に係る医薬製剤は、任意の剤形に製剤化されたものであってよいが、例えば、スプレー剤、エアゾール剤、注射剤、又はデポ剤等であり得る。
 本発明に係る医薬製剤は、生体組織の癒着防止用のものであってもよい。本発明に係る医薬製剤はまた、上記のような薬物をさらに含む、デポ剤などの徐放性製剤であってもよい。
 本発明はまた、本発明に係る薬物を含む医薬製剤、又は薬物を含む本発明に係る非ラメラ液晶形成性組成物を、対象(患者)などの生体、例えば体内(特に、体内の生体組織)又は体表面に、又は生細胞若しくは生組織に適用することを含む、生体(体内)又は生細胞若しくは生組織内に薬物を徐放送達する方法も提供する。液晶前駆体組成物である非ラメラ液晶形成性組成物又はそれを含む医薬製剤を用いる場合には、その適用後に、水性媒体を、非ラメラ液晶形成性組成物又は医薬製剤の上から適用してもよいが、それに限定されず、生体中の水分による液晶形成を利用してもよい。ここで生体(体内又は体表面等)又は生細胞若しくは生組織への適用は、非経口投与(例えば、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、又は皮内等)により行うことが好ましい。本発明の方法によれば、高い安全性で、薬物を体内又は生細胞若しくは生組織内に徐放送達することができる。
 以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1] 両親媒性化合物(脂肪酸エステル)の合成
(1)モノオレイン酸プロピレングリコールの合成
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000016
 8~9kPaの減圧下、プロピレングリコール45.6g(600mmol)及び炭酸カリウム290mg(2.10mmol)の乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(105mL)溶液に、85℃でオレイン酸エチル46.6g(150mmol、オリーブオレイン酸エチルNIKKOL EOO、日光ケミカルズ株式会社、オリーブ油中主な脂肪酸の典型的な組成例:オレイン酸75%、パルミチン酸12%、リノール酸7%、ステアリン酸3%、パルミトレイン酸1%)を1時間かけて滴下し、同一温度で2時間撹拌した。さらに、炭酸カリウム83mg(0.60mmol)を添加した後、同一温度で1時間撹拌した。反応溶液を65℃まで冷却して、ギ酸283μL(7.5mmol)で中和した後、1~2kPaに減圧して、N,N-ジメチルホルムアミドを留去した。得られた溶液を酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(1:1,140mL)で希釈し、水、飽和重曹水、飽和食塩水(2回)で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによって得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=100:0~40:60)で精製することにより、表題の化合物41.5g(収率81%)を粘性の低い微黄色透明液体として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りであった。
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.88(m,3H),1.2-1.4(m,23H),1.64(m,2H),1.95-2.15(m,4H),2.26-2.38(m,2H),3.55-3.70(m,0.7H),3.9-4.15(m,2.0H),4.99(m,0.3H),5.35(m,2H)
 モノオレイン酸プロピレングリコールを、モノオレイン酸(C18:1)プロピレングリコールとも称する。
(2)モノミリスチン酸プロピレングリコールの合成
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000017
 8~9kPaの減圧下、ミリスチン酸イソプロピル2.70g(10.0mmol)、プロピレングリコール2.43g(31.9mmol)及び炭酸カリウム25mg(0.18mmol)の乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(7.0mL)溶液を85℃で8時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、ギ酸19μL(0.50mmol)で中和した。得られた溶液を酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(1:1,35mL)で希釈し、水、飽和重曹水、飽和食塩水(2回)で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによって表題の化合物2.80g(収率98%)を粘性の低い無色透明液体として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りであった。
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.88(t,J=6.7Hz,3H),1.2-1.4(m,23H),1.63(m,2H),2.26-2.38(m,2H),3.56-3.72(m,0.7H),3.9-4.2(m,1.9H),5.0(m,0.4H)
 モノミリスチン酸プロピレングリコールを、モノミリスチン酸(C14:0)プロピレングリコールとも称する。
(3)モノパルミチン酸プロピレングリコールの合成
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000018
 実施例1(2)のミリスチン酸イソプロピル2.70g(10.0mmol)をパルミチン酸イソプロピル2.99g(10.0mmol)に置き換えた以外は、上記実施例1(2)と同様に操作することによって、表題の化合物3.12g(収率99%)をろう状固体として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りであった。
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.88(t,J=6.6Hz,3H),1.2-1.4(m,27H),1.62(m,2H),2.26-2.38(m,2H),3.56-3.72(m,0.7H),3.9-4.2(m,1.9H),5.0(m,0.4H)
 モノパルミチン酸プロピレングリコールを、モノパルミチン酸(C16:0)プロピレングリコールとも称する。
(4)モノリノール酸プロピレングリコールの合成
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000019
 8~9kPaの減圧下、リノール酸エチル3.09g(10.0mmol)、プロピレングリコール2.43g(31.9mmol)及び炭酸カリウム25mg(0.18mmol)の乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(7.0mL)溶液を85℃で2時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、ギ酸19μL(0.50mmol)で中和した。得られた溶液を酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(1:1,35mL)で希釈し、水、飽和重曹水、飽和食塩水(2回)で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによって得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=100:0~40:60)で精製することにより、表題の化合物2.45g(収率72%)を粘性の低い無色透明液体として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りであった。
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.89(m,3H),1.2-1.4(m,17H),1.63(m,2H),1.95-2.10(m,4H),2.30-2.38(m,2H),2.77(m,2H),3.55-3.70(m,0.7H),3.89-4.14(m,2.0H),5.0(m,0.3H),5.27-5.44(m,4H)
 モノリノール酸プロピレングリコールを、モノリノール酸(C18:2)プロピレングリコールとも称する。
(5)モノベヘン酸プロピレングリコールの合成
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000020
 窒素雰囲気下、ベヘン酸3.41g(10.0mmol)の乾燥塩化メチレン(30mL)溶液に対して塩化オキサリル1.3mL(15mmol)を室温で滴下した。同一温度で2時間撹拌した後、減圧濃縮した。得られた残渣の乾燥塩化メチレン(20mL)溶液を窒素雰囲気下0℃でプロピレングリコール1.14g(15.0mmol)とピリジン1.61mL(20.0mmol)の乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(20mL)溶液に添加し、速やかに室温で一終夜撹拌した。得られた反応溶液を酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(1:1,60mL)で希釈し、水、1M塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによって、表題の化合物3.82g(収率96%)を白色粉末として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りであった。
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.88(t,J=6.6Hz,3H),1.2-1.4(m,39H),1.63(m,2H),2.26-2.38(m,2H),3.58-3.72(m,0.4H),3.89-4.19(m,2.4H),5.0(m,0.2H)
 モノベヘン酸プロピレングリコールを、モノベヘン酸(C22:0)プロピレングリコールとも称する。
(6)モノオレイン酸エチレングリコールの合成
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000021
 実施例1(4)のリノール酸エチル3.09g(10.0mmol)とプロピレングリコール2.43g(31.9mmol)をオレイン酸エチル3.11g(10.0mmol)とエチレングリコール1.98g(31.9mmol)に置き換えた以外は、上記実施例1(4)と同様に操作することによって、表題の化合物2.88g(収率88%)を無色透明液体として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りであった。
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.88(m,3H),1.2-1.4(m,20H),1.63(m,2H),1.95-2.1(m,4H),2.35(t,J=7.6Hz,2H),3.83(m,2H),4.21(m,2H),5.34(m,2H)
 モノオレイン酸エチレングリコールを、モノオレイン酸(C18:1)エチレングリコールとも称する。
(7)モノオレイン酸1,3-ブチレングリコールの合成
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000022
 実施例1(4)のリノール酸エチル3.09g(10.0mmol)とプロピレングリコール2.43g(31.9mmol)をオレイン酸エチル3.11g(10.0mmol)と1,3-ブチレングリコール2,87g(31.9mmol)に置き換えた以外は、上記実施例1(4)と同様に操作することによって、表題の化合物2.90g(収率82%)を粘性の低い無色透明液体として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りであった。
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.88(m,3H),1.2-1.4(m,23H),1.62(m,2H),1.6-1.9(m,2H),1.95-2.1(m,4H),2.26-2.34(m,2H),3.5-3.7(m,0.5H),3.86(m,0.75H),4.12(m,0.75H),4.35(ddd,J=5.3,8.3,13.6Hz,0.75H),5.12(m,0.25H),5.34(m,2H)
 モノオレイン酸1,3-ブチレングリコールを、モノオレイン酸(C18:1)ブチレングリコールとも称する。
(8)モノオレイン酸3-メチル-1,3-ブタンジオールの合成
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000023
 実施例1(4)のリノール酸エチル3.09g(10.0mmol)とプロピレングリコール2.43g(31.9mmol)をオレイン酸エチル3.11g(10.0mmol)と3-メチル-1,3-ブタンジオール3.32g(31.9mmol)に置き換えた以外は、上記実施例1(4)と同様に操作することによって、表題の化合物2.31g(収率63%)を粘性の低い無色透明液体として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りであった。
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.88(m,3H),1.2-1.4(m,26H),1.61(m,2H),1.84(t,J=6.9Hz,2H),1.95-2.1(m,4H),2.30(t,J=7.5Hz,2H),4.25(t,J=6.9Hz,2H),5.34(m,2H)
 モノオレイン酸3-メチル-1,3-ブタンジオールを、モノオレイン酸(C18:1)イソプレングリコールとも称する。
(9)モノオレイン酸ジエチレングリコールの合成
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000024
 実施例1(4)のリノール酸エチル3.09g(10.0mmol)とプロピレングリコール2.43g(31.9mmol)をオレイン酸エチル3.11g(10.0mmol)とジエチレングリコール3.39g(31.9mmol)に置き換えた以外は、上記実施例1(4)と同様に操作(炭酸カリウムは0.08当量添加)することによって、表題の化合物2.57g(収率69%)を粘性の低い微黄色透明液体として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りである。
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.88(m,3H),1.2-1.4(m,20H),1.63(m,2H),1.95-2.1(m,4H),2.28-2.38(m,2H),3.61(m,2H),3.71(m,2H),3.74(m,2H),4.25(m,2H),5.34(m,2H)
 モノオレイン酸ジエチレングリコールを、モノオレイン酸(C18:1)ジエチレングリコールとも称する。
[実施例2] 前駆体製剤の調製、ゲル形成試験、及び、液晶構造の解析
 後掲の表1及び表2に示す配合比に従って、親水性基が1つの水酸基を有する両親媒性化合物(脂肪酸エステル)として実施例1で合成した両親媒性化合物又はモノカプリル酸(C8:0)プロピレングリコール(モノカプリル酸プロピレングリコール)(NIKKOL SEFSOL-218、日光ケミカルズ株式会社)、リン脂質として大豆ホスファチジルコリン(大豆レシチン、LIPOID S100、リポイド社。以下及び表中では略称SPCを使用)、卵黄ホスファチジルコリン(精製卵黄レシチン、PL-100M、キューピー株式会社。以下及び表中では略称EPCを使用)、又はジオレイルホスファチジルエタノールアミン(COATSOME ME-8181、日油株式会社。以下及び表中では略称DOPEを使用)、油分としてゴマ油(トリグリセリド、日本薬局方ゴマ油、カネダ株式会社)、及びEtOH(エタノール)を混合した。得られた混合物を40℃以下の水浴中で溶解することによって、表1、2に示すNo.1~23の前駆体製剤を調製した。
 No.1~23の前駆体製剤について、ゲル形成試験を行った。各前駆体製剤の一部(100~300mg程度)を、バイアル中の過剰量の注射用水(0.5~2mL程度)に対して添加し、室温(25℃)で薬匙及び/又はボルテックスミキサーによって混合操作を行った。その結果、No.1~23の全ての前駆体製剤において、過剰な注射用水(水性媒体)中に分離した、外観上は無色透明~白濁のゲル状組成物が得られた。
 No.1~23の前駆体製剤から得られたゲル状組成物は、そのままピンホールスリットに埋め込み、小角X線散乱(SAXS)装置(リガク社製、Nano-Viewer)を用いて小角X線散乱回折測定を行うことによって、非ラメラ液晶構造を解析した。
 得られた液晶相、及び、最も小角側に位置するピークの散乱ベクトル値q1[nm-1]を表1、2に示した。なお、HIIは逆ヘキサゴナル液晶、Pn3mは結晶学的空間群Pn3mに属する逆キュービック液晶、Im3mは結晶学的空間群Im3mに属する逆キュービック液晶、Fd3mは結晶学的空間群Fd3mに属する逆キュービック液晶を意味する。ゲル状組成物によっては、異なる2種類の液晶相を有するゲル状組成物も存在した。
 なお、用いた親水性基が1つの水酸基を有する両親媒性化合物のうち、モノオレイン酸ジエチレングリコールは、それ単独で水との混合でゲル状組成物を形成した(液晶相:HII、q1:1.35nm-1)。モノオレイン酸ジエチレングリコール以外の両親媒性化合物は、それら単独では水との混合でゲル状組成物を形成しなかった。
 表1、2に示したように、親水性基が1つの水酸基を有する両親媒性化合物:リン脂質比(重量比)については、幅広い比率において当該前駆体製剤は非ラメラ液晶を形成することができることが示唆された。また、当該両親媒性化合物+リン脂質(両親媒性化合物とリン脂質の合計量):油分比(重量比)についても、幅広い比率において当該前駆体製剤は非ラメラ液晶を形成することができた。当該両親媒性化合物、リン脂質、及び油分の様々な配合によって、結晶学的空間群がPn3m、Im3m、又はFd3mに属する逆キュービック液晶や逆ヘキサゴナル液晶といった多様な液晶構造が発現し、格子定数に起因するq1値は非常に幅広い数値を取ることが明らかとなった。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000025
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000026
[実施例3] エマルション(分散剤)の調製、及び、液晶構造・粒子径分布の解析
 後掲の表3に示す配合比に従って、親水性基が1つの水酸基を有する両親媒性化合物としてモノオレイン酸(C18:1)プロピレングリコール(実施例1で合成)、リン脂質としてSPC、油分としてゴマ油、及びEtOHを混合して、油性溶液を得た。一方、界面活性剤としてプルロニックF127(ユニルーブ(登録商標)70DP-950B、日油株式会社)と注射用水(大塚蒸留水)を混合して、プルロニック水溶液を得た。このようにして調製した油性溶液とプルロニック水溶液をそれぞれ40℃以下の水浴中で完全に溶解した後、室温で1つに混合し薬匙又はスターラーチップで撹拌して、懸濁液とした。さらに、この懸濁液を高圧ホモジナイザー(スターバストminimo、スギノマシン製)で分散させることによって、微粒子を含有する白色のエマルション(製剤No.24及び25)を調製した。これらエマルションは、それぞれ8gの量で調製した。
 このようにして得た製剤No.24及び25のエマルションについて、NANO Viewerナノスケールエックス線構造評価装置(Rigaku製)を使用して、小角エックス線散乱(SAXS)による構造解析を行った。各エマルションを大気圧下にてキャピラリーに導入し、減圧状態の装置内で測定(試料自体は大気圧下)した。製剤No.24のエマルションから得られた散乱強度分布では、少なくとも3本の散乱ピークが観測された。ピークの比は逆ヘキサゴナル液晶に特有の比1:√3:2(q1:1.22nm-1)を示したことから、本エマルションは逆ヘキサゴナル液晶の微粒子が水相に分散した液晶エマルション(ヘキサソーム)であることが示された。製剤No.25のエマルションから得られた散乱強度分布では、ブロードな散乱ピークが観測され、それらのエマルションはスポンジ相(L3相)の微粒子が水相に分散した液晶エマルションであると考えられた。
 さらに、製剤No.24及び25のエマルションに対して、ゼータサイザーNano-ZS(マルバーン製)を使用して、動的光散乱法により粒子径分布を測定した。測定サンプルは、調製直後(室温で4日以内)の各エマルションを蒸留水で200倍希釈することにより調製した。表3に、各測定サンプルから得られた平均粒子径(nm)(Z-Average)、PDI(多分散指数)を示す。室温で3ヵ月経過後の各エマルションは外観上安定であった。
 表3に示す幅広い当該両親媒性化合物:リン脂質比及び当該両親媒性化合物+リン脂質(両親媒性化合物とリン脂質の合計量):油分比において、経時的に安定な非ラメラ液晶を有する液晶エマルションを調製することができた。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000027
[実施例4] 親水性基の水酸基数が異なる両親媒性化合物による前駆体製剤の調製、性状確認、ゲル形成試験、及び、粘弾性試験
 親水性基が1~3つの水酸基を有する両親媒性化合物において、リン脂質を有する前駆体製剤の特性を比較した。
 親水性基が1つの水酸基を有する両親媒性化合物としてモノオレイン酸(C18:1)プロピレングリコール(実施例1で合成)、親水性基が2つの水酸基を有する両親媒性化合物としてモノオレイン酸グリセリル(リケマールXO-100、日油株式会社)、親水性基が3つの水酸基を有する両親媒性化合物として精製モノオレイン酸ソルビタン(モノオレイン酸ソルビタンNIKKOL SO-10V(日光ケミカルズ株式会社)からオレイン酸、ジオレイン酸ソルビタンなどの低極性成分をシリカゲルカラム精製によって除去したもの)を用いた。なお、モノオレイン酸(C18:1)プロピレングリコールは粘性の低い微黄色透明液体であるのに対して、モノオレイン酸グリセリルはろう状固体、精製モノオレイン酸ソルビタンは粘性の高い流動物である。
 後掲の表4に示す配合比に従って、実施例2と同様に混合・溶解することによって、No.26~31の前駆体製剤を各2.2g調製した。
 なお、モノオレイン酸(C18:1)プロピレングリコールを用いたNo.26及び27の前駆体製剤は、それぞれ両親媒性化合物:リン脂質比が60:40で両親媒性化合物が異なるNo.28及び30の前駆体製剤、又は、両親媒性化合物:リン脂質比が40:60で両親媒性化合物が異なるNo.29及び31の前駆体製剤と比べて短時間で調製可能であった。なお、調製に要した時間は、No.26及び27の前駆体製剤では1時間以内、No.28~31の前駆体製剤では2時間程度であった。モノオレイン酸グリセリル又は精製モノオレイン酸ソルビタンを用いたNo.28~31の前駆体製剤は、有機溶媒(例えば、EtOH)を用いなければ、均一に溶解できず前駆体製剤を調製できなかったのに対して、モノオレイン酸(C18:1)プロピレングリコールを用いたNo.26の前駆体製剤は、有機溶媒を用いずとも均一に溶解でき前駆体製剤を調製することが可能であった(実施例2の製剤No.3参照)。
 また、モノオレイン酸グリセリルを用い両親媒性化合物:リン脂質比が60:40のNo.28の前駆体製剤は、20℃付近からモノオレイン酸グリセリルが析出し始め、冷蔵では固化した。
 No.26~31の前駆体製剤について、実施例2と同様にゲル形成試験を行った。その結果、No.26~28、30、及び31の前駆体製剤においては、過剰な注射用水(水性媒体)中に分離した、外観上は無色透明~白濁のゲル状組成物が得られた(少量のEtOHが非ラメラ液晶構造に及ぼす影響は少なく、No.2、3及びNo.26の前駆体製剤及びNo.5及び27の前駆体製剤から得られる非ラメラ液晶構造はそれぞれほぼ同じ)。一方、モノオレイン酸グリセリルを用い両親媒性化合物:リン脂質比が40:60のNo.29の前駆体製剤においては、ゲル状組成物が得られず、バイアル中の溶液全体で乳液状となった。
 No.26~31の前駆体製剤について、粘度・粘弾性測定装置(MCR302、アントンパール社;コーンプレートφ50、コーン角度1°、温度23~25℃)を使用して、せん断粘度測定を行った。表4にせん断速度1(1/s)、及び100(1/s)における粘度[Pa・s]を示す。
 両親媒性化合物:リン脂質比が60:40のNo.26、28、及び30の前駆体製剤を比較した場合と両親媒性化合物:リン脂質比が40:60のNo.27、29、及び31の前駆体製剤を比較した場合のいずれにおいても、せん断速度1(1/s)、100(1/s)ともに、モノオレイン酸(C18:1)プロピレングリコールを用いた前駆体製剤(それぞれNo.26又は27の前駆体製剤)の粘度が最も低かった。そのうち、より粘性の高い両親媒性化合物:リン脂質比が40:60のNo.27の前駆体製剤ですら、他の脂質によるNo.28~31の前駆体製剤より粘性は低かった。
 以上の結果から、親水性基が1つの水酸基を有する両親媒性化合物とリン脂質を有する前駆体製剤は、親水性基が2つ又は3つの水酸基を有する両親媒性化合物とリン脂質を有する前駆体製剤と比較して(両親媒性化合物の脂肪酸はいずれもオレイン酸)、幅広い両親媒性化合物:リン脂質比において、調製が容易かつ安定であって、非ラメラ液晶構造の形成性が高く、更に粘性が顕著に低かった。組成物の粘性が低いと、例えば注射剤として使用する際に針を細くできるため有利である。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000028
[実施例5] 酢酸ロイプロリドを配合した前駆体製剤の調製、及び、インビトロ放出試験
 後掲の表5に示す配合比に従って、親水性基が1つの水酸基を有する両親媒性化合物としてモノオレイン酸(C18:1)プロピレングリコール、リン脂質としてSPC、油分としてゴマ油、及びEtOHを混合した後、40℃以下の水浴中で溶解した。続いて、酢酸ロイプロリド(L0249、東京化成工業株式会社、以下及び表中では略称LAを使用)のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を添加し均一に溶解することによって、酢酸ロイプロリドを配合した前駆体製剤No.32~35を得た。
 酢酸ロイプロリドを配合した前駆体製剤No.32、33、及び35(100mg)のインビトロ放出試験を行った。0.02%のP80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.)を含むpH7.4のPBS溶液20mLが入った1つのバイアル(サイズ25mL)に対して、内部に入れた前駆体製剤が十分にPBS溶液に浸るようフローティングラックを上部に接続した1つの透析チューブを入れ、室温(25℃)で静置した。次いで7日間に渡って試験開始から0、1、3、6、12、24、48、72、120、168時間後にバイアル中のPBS溶液から500μLずつ採取した。なお、上記PBS溶液に添加された前駆体製剤No.32、33、及び35は、いずれもゲル状組成物になったことが目視により観察された。
 前記PBS溶液から採取した試料中の酢酸ロイプロリドの定量は、予め作成した検量線を用いることによって、LC/MS/MS分析によって実施した。分析条件は、以下の通りである。
 ・分析カラム;Shodex ODP2HP-2B 2.0mmI.D×50mm(昭和電工株式会社)
 ・移動相;水(0.1%ギ酸含有):アセトニトリル=70:30
 ・流速;0.1mL/min、カラム温度;40℃、注入量;10μL
 ・プリカーサーイオン;605.3m/z,プロダクトイオン;249.0m/z
 図1に、酢酸ロイプロリドを配合した前駆体製剤No.32、33、及び35からのインビトロ放出データを示す。図1中、横軸が時間[日数]、縦軸が試験開始時の前駆体製剤に含まれる酢酸ロイプロリド量に対する各時点のPBS溶液中への酢酸ロイプロリドの放出率[%](n=3の平均値)を示す。前駆体製剤No.32、33、及び35では、いずれも初期バースト放出がなく、酢酸ロイプロリドが徐放されることが示された。そのうち、前駆体製剤No.33及び35の徐放速度は速く、前駆体製剤No.32は徐放速度は遅かった。
 No.32、33、及び35の前駆体製剤における脂質及び油分の重量比は、それぞれNo.8、10、及び12の前駆体製剤と同じであり、水性媒体への添加で得られる非ラメラ液晶構造も同様となる。No.8、10、及び12の前駆体製剤を水に添加して得られたゲル状組成物の液晶相と単位格子a[nm]は、それぞれHIIで7.8nm、HIIで11nm、Pn3m+HIIで20nm+11nmであった(表1より、単位格子aは、液晶構造とq1をはじめとするピークの散乱ベクトル値から算出される)。一般に、液晶相が親水性側ほど徐放速度が速く(Pn3m>HII>Fd3m)、単位格子aが大きいほど徐放速度が速いと考えられることから、この法則に則った徐放速度が得られた。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000029
[実施例6] 酢酸ロイプロリドを配合した前駆体製剤のインビボ薬物動態試験
 予め頸静脈にカニュレーションを施した8週齢雄Wistarラットに対し三種混合麻酔(塩酸メデトミジン+ミダゾラム+酒石酸ブトルファノール)を用いて全身麻酔を施行し、背部を剃毛した後、酢酸ロイプロリドを配合した前駆体製剤No.34及び35(実施例5で調製)各100mgについて、23Gの針を備えたシリンジ(テルモシリンジ1mL)を用いて右背部の皮下に投与した。
 次いで、試験開始から0、1、3、6時間、及び、1、3、5、7、10日後に、カニュレーションチューブより100μL採血を行った。各血液サンプルを遠心分離(15,000rpm、5分、4℃)して各血漿を得た。得られた各血漿50μLにそれぞれアセトニトリル50μLを加え、ボルテックスミキサーで撹拌後、さらに遠心分離(15,000rpm、5分、4℃)して、得られた上清を測定サンプルとした。
 前記測定サンプル中の酢酸ロイプロリドの定量は、実施例5と同様に、LC/MS/MS分析によって実施した。
 図2に、酢酸ロイプロリドを配合した前駆体製剤No.34及び35によるインビトロ薬物動態データを示す。図2中、横軸が時間[日数]、縦軸が酢酸ロイプロリドの血中濃度[ng/mL](n=5の平均値)を示す。図2より、AUC(血中濃度-時間曲線下面積)[ng・h/mL]を求めたところ、前駆体製剤No.34では2170、前駆体製剤No.35では2152であった。
 酢酸ロイプロリドの血中濃度は、前駆体製剤No.34では7日間で消失したのに対して、前駆体製剤No.35では3日間以内に消失した。No.34及び35の前駆体製剤における脂質及び油分の重量比は、それぞれNo.3及び12の前駆体製剤と同じであり、水性媒体への添加で得られる非ラメラ液晶構造も同様となる。No.3及び12の前駆体製剤を水に添加して得られたゲル状組成物の液晶相と単位格子a[nm]は、それぞれHIIで5.9nm、Pn3m+HIIで20nm+11nmであった(表1より、単位格子aは、液晶構造とq1をはじめとするピークの散乱ベクトル値から算出される)。実施例5のインビトロ放出試験と同様に、単位格子aが大きいほど徐放速度が速いという法則に則った徐放速度が得られた。
 また、投与28日後、前駆体製剤No.35を投与したラットをセボフルラン(マイラン製薬)吸入麻酔下で放血し安楽死させた後、皮膚及び皮下組織を含む製剤投与部位を摘出した。皮下脂肪を簡単に取り除いた後、製剤投与部位の肉眼的観察を行った。
 製剤投与部位を撮影した図3の写真のように、製剤投与部位に製剤は残存せず、その周囲組織において、製剤に由来する炎症に起因した所見は肉眼的に観察されなかった。
[実施例7] 両親媒性化合物(脂肪酸エステル)の合成
 実施例1(4)のプロピレングリコール2.43g(31.9mmol)を1,3-ブチレングリコール2,87g(31.9mmol)、3-メチル-1,3-ブタンジオール3.32g(31.9mmol)、ジエチレングリコール3.39g(31.9mmol)、又はイソソルバイド4.66g(31.9mmol、三光化学工業株式会社、純度98.0%以上、水分1.0%以下)、又は、実施例1(4)のリノール酸エチル3.09g(10.0mmol)とプロピレングリコール2.43g(31.9mmol)をオレイン酸エチル3.11g(10.0mmol)とイソソルバイド4.66g(31.9mmol)に置き換えた以外は、上記実施例1(4)と同様に操作(イソソルバイドを用いた場合、炭酸カリウム0.3当量を用いて95℃で反応)することによって、モノリノール酸1,3-ブチレングリコール、モノリノール酸3-メチル-1,3-ブタンジオール、モノリノール酸ジエチレングリコール、モノリノール酸イソソルバイド、又はモノオレイン酸イソソルバイドを無色から薄黄色の透明液体として得た。各々の化合物における収量、収率、及びH-NMR測定データは以下の通りであった。
 (1)モノリノール酸1,3-ブチレングリコール
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000030

 収量2.67g(収率76%)
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.89(m,3H),1.2-1.4(m,17H),1.62(m,2H),1.6-1.9(m,2H),1.95-2.1(m,4H),2.30-2.37(m,2H),2.77(m,2H),3.5-3.7(m,0.5H),3.85(m,0.75H),4.12(m,0.75H),4.35(ddd,J=5.3,8.3,13.6Hz,0.75H),5.13(m,0.25H),5.26-5.44(m,4H)
 (2)モノリノール酸3-メチル-1,3-ブタンジオール
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000031
 収量2.41g(収率66%)
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.89(m,3H),1.2-1.4(m,20H),1.62(m,2H),1.84(t,J=6.9Hz,2H),1.95-2.1(m,4H),2.30(t,J=7.5Hz,2H),2.77(m,2H),4.25(t,J=6.9Hz,2H),5.27-5.43(m,4H)
 (3)モノリノール酸ジエチレングリコール
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000032
 収量2.48g(収率67%)
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.89(m,3H),1.2-1.4(m,14H),1.63(m,2H),1.95-2.1(m,4H),2.34(t,J=7.6Hz,2H),2.77(m,2H),3.61(m,2H),3.70(m,2H),3.74(m,2H),4.25(m,2H),5.27-5.44(m,4H)
 (4)モノリノール酸イソソルバイド
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000033
 収量2.31g(収率56%)
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.89(m,3H),1.2-1.4(m,14H),1.64(m,2H),1.95-2.1(m,4H),2.3-2.4(m,2H),2.77(m,2H),3.55(dd,J=6.0,9.5Hz,0.6H),3.75(ddd,J=2.1.5.2,9.8Hz,0.4H),3.8-3.95(m,1.8H),3.99(m,1.2H),4.2-4.35(m,1H),4.38(d,J=4.6Hz,0.4H),4.44(d,J=4.3Hz,0.6H),4.60(t,J=4.9Hz,0.6H),4.83(t,J=5.0Hz,0.4H),5.12(m,0.4H),5.21(s,0.6H),5.26-5.45(m,4H)
 (5)モノオレイン酸イソソルバイド
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000034
 収量2.38g(収率58%)
 H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.88(m,3H),1.2-1.4(m,20H),1.64(m,2H),1.95-2.15(m,4H),2.25-2.4(m,2H),3.54(dd,J=6.0,9.5Hz,0.6H),3.74(ddd,J=2.1.5.2,9.8Hz,0.4H),3.8-3.95(m,1.8H),3.99(m,1.2H),4.2-4.35(m,1H),4.37(d,J=4.6Hz,0.4H),4.44(d,J=4.3Hz,0.6H),4.60(t,J=4.9Hz,0.6H),4.82(t,J=5.0Hz,0.4H),5.12(m,0.4H),5.20(s,0.6H),5.34(m,2H)
[実施例8] 前駆体製剤の調製、ゲル形成試験、及び、液晶構造の解析
 後掲の表6に示す配合比に従って、実施例7で合成した両親媒性化合物、リン脂質としてSPC(LIPOID S100、リポイド社)、及びEtOH(エタノール)を混合した。得られた混合物を40℃以下の水浴中で溶解することによって、表6に示すNo.36~40の前駆体製剤を調製した。
 なお、モノリノール酸1,3-ブチレングリコール、モノリノール酸3-メチル-1,3-ブタンジオール、及びモノリノール酸イソソルバイドは、それら単独では水との混合でゲル状組成物を形成しなかった。
 No.36~40の前駆体製剤について、ゲル形成試験を行った。各前駆体製剤の一部(100~300mg程度)を、バイアル中の過剰量の注射用水(0.5~2mL程度)に対して添加し、室温(25℃)で薬匙及び/又はボルテックスミキサーによって混合操作を行った。その結果、No.36~40の全ての前駆体製剤において、過剰な注射用水(水性媒体)中に分離した、外観上は無色透明~白濁のゲル状組成物が得られ、これらは逆ヘキサゴナル液晶やキュービック液晶からなる非ラメラ液晶構造を示すと考えられた。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000035
 本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
 以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
 また、本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。

Claims (22)

  1.  脂肪酸エステルと、リン脂質とを含み、
     前記脂肪酸エステルが、1つの水酸基又はその塩を有する親水性基を有し、
     前記脂肪酸エステルが、下記一般式(A)~(D)で表されるいずれの構造も有さない脂肪酸エステルである、非ラメラ液晶形成性組成物。
    Figure JPOXMLDOC01-appb-C000001
    (一般式(A)~(D)において、mはそれぞれ独立に1又は2であり、a、b、c、dはそれぞれ独立に、親水性基との結合部位を意味し、
    Figure JPOXMLDOC01-appb-C000002
    はそれぞれ独立に一重結合又は二重結合を意味し、一般式(A)におけるnは0、1又は2であり、一般式(B)、(C)及び(D)における波線はそれぞれ独立にE体又はZ体を意味する。)
  2.  前記脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数が6~24である、請求項1に記載の組成物。
  3.  前記脂肪酸エステルと前記リン脂質との重量比が、90:10~20:80である、請求項1又は2に記載の組成物。
  4.  前記脂肪酸エステルが、飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸及びその誘導体から選択される少なくとも1種と、グリコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種との脂肪酸エステルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
  5.  前記直鎖脂肪酸が、不飽和度が0~6の直鎖脂肪酸である、請求項4に記載の組成物。
  6.  前記直鎖脂肪酸が下記一般式(I)で表される直鎖脂肪酸である、請求項4又は5に記載の組成物。
    Figure JPOXMLDOC01-appb-C000003
    (一般式(I)において、Rは、‐C-で表される直鎖状炭化水素基であり、pは4~22の整数であり、qはpが5以下の場合2p-4~2pの整数であり、pが6又は7の場合2p-6~2pの整数であり、pが8又は9の場合2p-8~2pの整数であり、pが10又は11の場合2p-10~2pの整数であり、pが12以上の場合2p-12~2pの整数である。)
  7.  前記直鎖脂肪酸がカプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、及びベヘン酸から選択される少なくとも1種の脂肪酸である、請求項4~6のいずれか1項に記載の組成物。
  8.  前記グリコールがプロピレングリコール、エチレングリコール、ブチレングリコール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、及びイソソルバイドから選択される少なくとも1種のグリコールである、請求項4~7のいずれか1項に記載の組成物。
  9.  前記リン脂質がホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミン並びにそれらの塩から選択される少なくとも1種のリン脂質である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
  10.  前記リン脂質が大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン、及びジオレイルホスファチジルエタノールアミン並びにそれらの塩から選択される少なくとも1種のリン脂質である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
  11.  油分及び有機溶媒の少なくとも一方を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
  12.  水性媒体をさらに含む、非ラメラ液晶組成物である、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
  13.  界面活性剤をさらに含む、非ラメラ液晶エマルション組成物である、請求項12に記載の組成物。
  14.  水性媒体の存在下で非ラメラ液晶を形成可能である液晶前駆体組成物である、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
  15.  請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物を含む、医薬製剤。
  16.  生体組織の癒着防止用の、請求項15に記載の医薬製剤。
  17.  前記組成物が薬物をさらに含む、徐放性製剤である請求項15に記載の医薬製剤。
  18.  前記薬物が、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストである、請求項17に記載の医薬製剤。
  19.  前記GnRHアゴニストが、ロイプロリド又はその塩である、請求項18に記載の医薬製剤。
  20.  スプレー剤、エアゾール剤、注射剤、又はデポ剤である、請求項15~19のいずれか1項に記載の医薬製剤。
  21.  式(X’)で表される化合物又はその塩。
    Figure JPOXMLDOC01-appb-C000004
    (一般式(X’)において、Rは、プロピレングリコール、ブチレングリコール、イソプレングリコール、ジエチレングリコール又はイソソルバイドに由来する構造である。)
  22.  式(X)、(Y)、又は(Z)で表される化合物又はその塩。
     
    Figure JPOXMLDOC01-appb-C000005
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