次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係るダンパ装置10を含む発進装置1を示す概略構成図であり、図2は、発進装置1を示す断面図である。これらの図面に示す発進装置1は、原動機としてのエンジン(内燃機関)EGを備えた車両に搭載されるものであり、ダンパ装置10に加えて、エンジンEGのクランクシャフトに連結されて当該エンジンEGからのトルクが伝達される入力部材としてのフロントカバー3や、フロントカバー3に固定されるポンプインペラ(入力側流体伝動要素)4、ポンプインペラ4と同軸に回転可能なタービンランナ(出力側流体伝動要素)5、ダンパ装置10に連結されると共に自動変速機(AT)あるいは無段変速機(CVT)である変速機TMの入力軸ISに固定される出力部材としてのダンパハブ7、ロックアップクラッチ8等を含む。
なお、以下の説明において、「軸方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10の中心軸(軸心)の延在方向を示す。また、「径方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10、当該ダンパ装置10等の回転要素の径方向、すなわち発進装置1やダンパ装置10の中心軸から当該中心軸と直交する方向(半径方向)に延びる直線の延在方向を示す。更に、「周方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10、当該ダンパ装置10等の回転要素の周方向、すなわち当該回転要素の回転方向に沿った方向を示す。
ポンプインペラ4は、図2に示すように、フロントカバー3に密に固定されるポンプシェル40と、ポンプシェル40の内面に配設された複数のポンプブレード41とを有する。タービンランナ5は、図2に示すように、タービンシェル50と、タービンシェル50の内面に配設された複数のタービンブレード51とを有する。タービンシェル50の内周部は、複数のリベットを介してタービンハブ52に固定される。タービンハブ52は、ダンパハブ7により回転自在に支持され、当該タービンハブ52(タービンランナ5)の発進装置1の軸方向における移動は、ダンパハブ7と当該ダンパハブ7に装着されるスナップリングにより規制される。
ポンプインペラ4とタービンランナ5とは、互いに対向し合い、両者の間には、タービンランナ5からポンプインペラ4への作動油(作動流体)の流れを整流するステータ6が同軸に配置される。ステータ6は、複数のステータブレード60を有し、ステータ6の回転方向は、ワンウェイクラッチ61により一方向のみに設定される。これらのポンプインペラ4、タービンランナ5およびステータ6は、作動油を循環させるトーラス(環状流路)を形成し、トルク増幅機能をもったトルクコンバータ(流体伝動装置)として機能する。ただし、発進装置1において、ステータ6やワンウェイクラッチ61を省略し、ポンプインペラ4およびタービンランナ5を流体継手として機能させてもよい。
ロックアップクラッチ8は、ダンパ装置10を介してフロントカバー3とダンパハブ7とを連結するロックアップを実行すると共に当該ロックアップを解除するものである。本実施形態において、ロックアップクラッチ8は、単板油圧式クラッチとして構成されており、フロントカバー3の内部かつ当該フロントカバー3のエンジンEG側の内壁面近傍に配置されると共にダンパハブ7に対して回転自在かつ軸方向に移動自在に嵌合されるロックアップピストン80を有する。図2に示すように、ロックアップピストン80の外周側かつフロントカバー3側の面には、摩擦材81が貼着されている。そして、ロックアップピストン80とフロントカバー3との間には、作動油供給路や入力軸ISに形成された油路を介して図示しない油圧制御装置に接続されるロックアップ室85が画成される。
ロックアップ室85内には、入力軸ISに形成された油路等を介してポンプインペラ4およびタービンランナ5の軸心側(ワンウェイクラッチ61の周辺)から径方向外側に向けてポンプインペラ4およびタービンランナ5(トーラス)へと供給される油圧制御装置からの作動油が流入可能である。従って、フロントカバー3とポンプインペラ4のポンプシェルとにより画成される流体伝動室9内とロックアップ室85内とが等圧に保たれれば、ロックアップピストン80は、フロントカバー3側に移動せず、ロックアップピストン80がフロントカバー3と摩擦係合することはない。これに対して、図示しない油圧制御装置によりロックアップ室85内を減圧すれば、ロックアップピストン80は、圧力差によりフロントカバー3に向けて移動してフロントカバー3と摩擦係合する。これにより、フロントカバー3は、ダンパ装置10を介してダンパハブ7に連結される。なお、ロックアップクラッチ8として、少なくとも1枚の摩擦係合プレート(複数の摩擦材)を含む多板油圧式クラッチが採用されてもよい。
ダンパ装置10は、図1および図2に示すように、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11と、中間部材(中間要素)12と、ドリブン部材(出力要素)15とを含む。更に、ダンパ装置10は、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11と中間部材12との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の第1内側スプリング(第1弾性体)SP1と、それぞれ対応する第1内側スプリングSP1と直列に作用して中間部材12とドリブン部材15との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の第2内側スプリング(第2弾性体)SP2と、ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の外側スプリングSPoとを含む。
すなわち、ダンパ装置10は、図1に示すように、ドライブ部材11とドリブン部材15との間に互いに並列に設けられる第1トルク伝達経路TP1および第2トルク伝達経路TP2を有する。第1トルク伝達経路TP1は、複数の第1内側スプリングSP1、中間部材12および複数の第2スプリングSP2により構成され、これらの要素を介してドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する。また、第2トルク伝達経路TP2は、複数の外側スプリングSPoにより構成され、互いに並列に作用する複数の外側スプリングSPoを介してドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する。
本実施形態において、第1および第2内側スプリングSP1,SP2として、同一の諸元(ばね定数)を有するコイルスプリングが採用されている。更に、第2トルク伝達経路TP2を構成する複数の外側スプリングSPoは、ドライブ部材11への入力トルクがダンパ装置10の最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2(第2の閾値)よりも小さい予め定められたトルク(第1の閾値)T1に達してドライブ部材11のドリブン部材15に対する捩れ角が所定角度θref以上になってから、第1トルク伝達経路TP1を構成する第1および第2内側スプリングSP1,SP2と並列に作用する。これにより、ダンパ装置10は、2段階(2ステージ)の減衰特性を有することになる。
また、本実施形態では、第1および第2内側スプリングSP1,SP2並びに外側スプリングSPoとして、荷重が加えられてないときに真っ直ぐに延びる軸心を有するように螺旋状に巻かれた金属材からなる直線型コイルスプリングが採用されている。これにより、アークコイルスプリングを用いた場合に比べて、第1および第2内側スプリングSP1,SP2並びに外側スプリングSPoを軸心に沿ってより適正に伸縮させて、いわゆるヒステリシスH(ドライブ部材11への入力トルクが増加していく際にドリブン部材15から出力されるトルクと、当該入力トルクが減少していく際にドリブン部材15から出力されるトルクとの差)を低減化することができる。ただし、第1および第2内側スプリングSP1,SP2並びに外側スプリングSPoの少なくとも何れかとして、アークコイルスプリングが採用されてもよい。
図2に示すように、ダンパ装置10のドライブ部材11は、短尺の外筒部11aと、当該外筒部11aの一端から径方向内側に延びる板状の環状部11bとを有する。ドライブ部材11の外筒部11aは、噛み合い係合部811を介してロックアップクラッチ8のロックアップピストン80の外周部に連結される。これにより、ドライブ部材11は、ロックアップピストン80と一体に回転可能となり、ロックアップクラッチ8の係合により、フロントカバー3とダンパ装置10のドライブ部材11とが連結されることになる。
また、ドライブ部材11は、図3に示すように、環状部11bの内周面から周方向に間隔をおいて径方向内側(ドライブ部材11の軸心)に向けて突出する複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の内側スプリング当接部11cを有する。更に、環状部11bには、図3に示すように、それぞれ対応する内側スプリング当接部11cの径方向外側に位置すると共に、周方向に間隔をおいて並ぶように複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の外側スプリング収容部11oが形成されている。各外側スプリング収容部11oは、外側スプリングSPoの自然長に応じた周長を有し、各外側スプリング収容部11oの周方向における両側には、外側スプリング当接部11fが1つずつ形成されている。
中間部材12は、板状の環状部材であり、その外周面から径方向外側に向けて突出すると共に周方向に間隔をおいて並ぶ複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)のスプリング当接部12cを有する。図2に示すように、中間部材12の内周部は、タービンシェル50の内周部と共に複数のリベットを介してタービンハブ52に固定される。これにより、中間部材12とタービンランナ5とは、一体に回転するように連結されることになり、タービンランナ5(およびタービンハブ52)を中間部材12に連結することで、当該中間部材12の実質的な慣性モーメント(中間部材12やタービンランナ5等の慣性モーメントの合計値)をより一層大きくすることが可能となる。
ドリブン部材15は、タービンランナ5側に配置される環状の第1出力プレート部材16と、フロントカバー3側に配置されると共に複数のリベットを介して第1出力プレート部材16に連結(固定)される環状の第2出力プレート部材17とを含む。ドリブン部材15を構成する第1出力プレート部材16は、その内周縁に沿って周方向に間隔をおいて並ぶ複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の円弧状のスプリング支持部16aと、複数のスプリング支持部16aよりも径方向外側で周方向に間隔をおいて並ぶと共にそれぞれ対応するスプリング支持部16aと第1出力プレート部材16の径方向において対向する複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の円弧状のスプリング支持部16bと、複数(本実施形態では、例えば3個)の内側スプリング当接部16cとを有する。複数の内側スプリング当接部16cは、周方向に沿って互いに隣り合うスプリング支持部16a,16bの間に1個ずつ設けられる。
更に、第1出力プレート部材16は、スプリング支持部16bよりも径方向外側で周方向に間隔をおいて並ぶ複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の円弧状のスプリング支持部16dと、複数のスプリング支持部16dよりも径方向外側で周方向に間隔をおいて並ぶと共にそれぞれ対応するスプリング支持部16dと第1出力プレート部材16の径方向において対向する複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の円弧状のスプリング支持部16eとを有する。各スプリング支持部16dおよび16eの中央部は、対応する内側スプリング当接部16cの径方向外側に位置し、スプリング支持部16dおよび16eは、互いに隣り合うスプリング支持部16bの双方と径方向に重なり合う。また、一対のスプリング支持部16d,16eの両側には、外側スプリング当接部16fが1つずつ形成されている。
ドリブン部材15を構成する第2出力プレート部材17の内周部は、図2に示すように、複数のリベットを介してダンパハブ7に固定される。また、第2出力プレート部材17は、その内周部に沿って周方向に間隔をおいて並ぶ複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の円弧状のスプリング支持部17aと、複数のスプリング支持部17aよりも径方向外側で周方向に間隔をおいて並ぶと共にそれぞれ対応するスプリング支持部17aと第2出力プレート部材17の径方向において対向する複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の円弧状のスプリング支持部17bと、複数(本実施形態では、例えば3個)の内側スプリング当接部17cとを有する。複数の内側スプリング当接部17cは、周方向に沿って互いに隣り合うスプリング支持部17a,17bの間に1個ずつ設けられる。
更に、第2出力プレート部材17は、スプリング支持部17bよりも径方向外側で周方向に間隔をおいて並ぶ複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の円弧状のスプリング支持部17dと、複数のスプリング支持部17dよりも径方向外側で周方向に間隔をおいて並ぶと共にそれぞれ対応するスプリング支持部17dと第2出力プレート部材17の径方向において対向する複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の円弧状のスプリング支持部17eとを有する。各スプリング支持部17dおよび17eの中央部は、対応する内側スプリング当接部17cの径方向外側に位置し、各スプリング支持部17dおよび17eは、互いに隣り合うスプリング支持部17bの双方と径方向に重なり合う。また、一対のスプリング支持部17d,17eの両側には、外側スプリング当接部17fが1つずつ形成されている。
第1および第2出力プレート部材16,17が互いに連結された際、第1出力プレート部材16の複数のスプリング支持部16aは、それぞれ対応する第1および第2内側スプリングSP1,SP2のタービンランナ5側の側部を内周側から支持(ガイド)する。複数のスプリング支持部16bは、それぞれ対応する第1および第2内側スプリングSP1,SP2のタービンランナ5側の側部を外周側から支持(ガイド)する。また、第2出力プレート部材17の複数のスプリング支持部17aは、第1出力プレート部材16の対応するスプリング支持部16aと軸方向において対向し、それぞれ対応する第1および第2内側スプリングSP1,SP2のロックアップピストン80側の側部を内周側から支持(ガイド)する。複数のスプリング支持部17bは、第1出力プレート部材16の対応するスプリング支持部16bと軸方向において対向し、それぞれ対応する第1および第2内側スプリングSP1,SP2のロックアップピストン80側の側部を外周側から支持(ガイド)する。
これにより、第1および第2内側スプリングSP1,SP2は、1個ずつ対をなす(直列に作用する)と共にドリブン部材15の周方向に交互に並ぶように、第1出力プレート部材16のスプリング支持部16a,16bと第2出力プレート部材17のスプリング支持部17a,17bとにより支持される。本実施形態において、それぞれ複数の第1および第2内側スプリングSP1,SP2は、図3に示すように、同一円周上に配列され、発進装置1やダンパ装置10の軸心と各第1内側スプリングSP1の軸心との距離と、発進装置1等の軸心と各第2内側スプリングSP2の軸心との距離とが等しくなっている。
また、ダンパ装置10の取付状態において、ドライブ部材11の各内側スプリング当接部11cは、互いに異なるスプリング支持部16a,16b,17a,17bにより支持されて対をなさない(直列に作用しない)第1および第2内側スプリングSP1,SP2の間で両者の端部と当接する。更に、中間部材12の各スプリング当接部12cは、同一のスプリング支持部16a,16b,17a,17bにより支持されて互いに対をなす第1および第2内側スプリングSP1,SP2の間で両者の端部と当接する。また、第1出力プレート部材16の各内側スプリング当接部16cは、互いに異なるスプリング支持部16a,16b,17a,17bにより支持されて対をなさない(直列に作用しない)第1および第2内側スプリングSP1,SP2の間で両者の端部と当接する。同様に、第2出力プレート部材17の各内側スプリング当接部17cも、互いに異なるスプリング支持部16a,16b,17a,17bにより支持されて対をなさない(直列に作用しない)第1および第2内側スプリングSP1,SP2の間で両者の端部と当接する。
これにより、ダンパ装置10の取付状態において、各第1内側スプリングSP1の一端は、ドライブ部材11の対応する内側スプリング当接部11cと当接し、各第1内側スプリングSP1の他端は、中間部材12の対応するスプリング当接部12cと当接する。また、各第2内側スプリングSP2の一端は、中間部材12の対応するスプリング当接部12cと当接し、各第2内側スプリングSP2の他端は、ドリブン部材15の対応する内側スプリング当接部16c,17cと当接する。この結果、互いに対をなす第1および第2内側スプリングSP1,SP2は、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で、中間部材12のスプリング当接部12cを介して直列に連結される。従って、ダンパ装置10では、ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する弾性体の剛性、すなわち第1および第2内側スプリングSP1,SP2の合成ばね定数をより小さくすることができる。
また、第1および第2出力プレート部材16,17が互いに連結された際、第1出力プレート部材16の複数のスプリング支持部16dは、それぞれ対応する外側スプリングSPoのタービンランナ5側の側部を内周側から支持(ガイド)する。複数のスプリング支持部16eは、それぞれ対応する外側スプリングSPoのタービンランナ5側の側部を外周側から支持(ガイド)する。また、第2出力プレート部材17の複数のスプリング支持部17dは、第1出力プレート部材16の対応するスプリング支持部16dと軸方向において対向し、それぞれ対応する外側スプリングSPoのロックアップピストン80側の側部を内周側から支持(ガイド)する。複数のスプリング支持部17eは、第1出力プレート部材16の対応するスプリング支持部16eと軸方向において対向し、それぞれ対応する外側スプリングSPoのロックアップピストン80側の側部を外周側から支持(ガイド)する。
ダンパ装置10の取付状態において、各外側スプリングSPoは、対応するスプリング支持部16d,16e,17d,17eの周方向における間に位置する。そして、各外側スプリングSPoは、ドライブ部材11への入力トルクすなわち駆動トルク(あるいは車軸側からドリブン部材15に付与されるトルク(被駆動トルク)が上記トルクT1に達してドライブ部材11のドリブン部材15に対する捩れ角が所定角度θref以上になると、スプリング支持部16d,16e,17d,17eの両側に設けられた外側スプリング当接部16f,17fの一方と当接することになる。また、各外側スプリングSPoは、図2および図3に示すように、第1および第2内側スプリングSP1,SP2を囲むように流体伝動室9内の外周側領域に配置される。これにより、ダンパ装置10ひいては発進装置1の軸長をより短縮化することが可能となる。
更に、ダンパ装置10は、図1に示すように、ドライブ部材11とドリブン部材15とに接続されて第1トルク伝達経路TP1と第2トルク伝達経路TP2との双方に並列に設けられる回転慣性質量ダンパ20を含む。本実施形態において、回転慣性質量ダンパ20は、ダンパ装置10の入力要素であるドライブ部材11と出力要素であるドリブン部材15との間に配置されるシングルピニオン式の遊星歯車21により構成される。遊星歯車21は、外歯歯車であるサンギヤ(第3要素)22と、サンギヤ22と同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ(第2要素)23と、それぞれサンギヤ22およびリングギヤ23に噛合する複数(本実施形態では、例えば3個)のピニオンギヤ24とを有する。
遊星歯車21のサンギヤ22は、例えばドリブン部材15の第1出力プレート部材16の内径よりも若干大きい外径を有し、慣性モーメントを増加させるためのマス部22mを複数の外歯の内側に含む。サンギヤ22は、ダンパハブ7により回転自在に支持され、当該サンギヤ22の発進装置1の軸方向における移動は、ダンパハブ7と当該ダンパハブ7に装着されるスナップリングにより規制される。リングギヤ23は、例えば第1および第2出力プレート部材16,17のスプリング支持部16b、17bよりも大きい内径を有し、第1および第2出力プレート部材16,17を連結する複数のリベットによりドリブン部材15に固定される。これにより、リングギヤ23は、ドリブン部材15と一体に回転可能となる。
また、複数のピニオンギヤ24は、周方向に間隔をおいて(等間隔に)並ぶと共に互いに隣り合う第1および第2内側スプリングSP1,SP2の間の部分と軸方向において対向するように、それぞれ例えばジャーナル軸受88を介してロックアップピストン80により回転自在に支持される。上述のように、ロックアップピストン80は、ダンパハブ7により回転自在に支持されると共に、ダンパ装置10の入力要素であるドライブ部材11と一体に回転可能である。従って、ロックアップピストン80は、複数のピニオンギヤ24を回転(自転)自在かつサンギヤ22およびリングギヤ23に対して公転自在に支持する遊星歯車21のプラネタリキャリヤ(第1要素)として機能する。
上述のように構成される発進装置1のロックアップクラッチ8によるロックアップが解除されている際には、図1からわかるように、エンジンEGからフロントカバー3に伝達されたトルクが、ポンプインペラ4、タービンランナ5、中間部材12、第2内側スプリングSP2、ドリブン部材15、ダンパハブ7という経路を介して変速機TMの入力軸ISへと伝達される。これに対して、発進装置1のロックアップクラッチ8によりロックアップが実行されると、エンジンEGからフロントカバー3およびロックアップクラッチ8を介してドライブ部材11に伝達されたトルクは、入力トルクが上記トルクT1に達するまで、複数の第1内側スプリングSP1、中間部材12および複数の第2スプリングSP2を含む第1トルク伝達経路TP1と、回転慣性質量ダンパ20とを介してドリブン部材15およびダンパハブ7に伝達される。また、入力トルクが上記トルクT1以上になると、ドライブ部材11に伝達されたトルクは、第1トルク伝達経路TP1と、複数の外側スプリングSPoを含む第2トルク伝達経路TP2と、回転慣性質量ダンパ20とを介してドリブン部材15およびダンパハブ7に伝達される。
そして、ロックアップの実行時(ロックアップクラッチ8の係合時)にドライブ部材11がドリブン部材15に対して回転すると(捩れると)、第1および第2内側スプリングSP1,SP2が撓むと共に、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転に応じて質量体としてのサンギヤ22が回転する。すなわち、ドライブ部材11がドリブン部材15に対して回転する際には、遊星歯車21の入力要素であるプラネタリキャリヤとしてのロックアップピストン80(およびドライブ部材11)の回転数がリングギヤ23と一体に回転するドリブン部材15の回転数よりも高くなる。従って、この際、サンギヤ22は、遊星歯車21の作用により増速され、ロックアップピストン80およびドライブ部材11よりも高い回転数で回転する。これにより、回転慣性質量ダンパ20の質量体であるサンギヤ22から、慣性モーメント(イナーシャ)をダンパ装置10の出力要素であるドリブン部材15に付与し、当該ドリブン部材15の振動を減衰させることが可能となる。
なお、回転慣性質量ダンパ20は、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で主に慣性トルクを伝達し、平均トルクを伝達することはない。また、ダンパ装置10では、入力トルクが上記トルクT2に達すると、ストッパSTによりドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転、すなわち第1および第2スプリングSP1,SP2および外側スプリングSPoのすべての撓みが規制される。本実施形態において、ストッパSTは、第1および第2出力プレート部材16,17(およびリングギヤ23)を締結する複数のリベットに装着されたカラー19と、ドライブ部材11に形成された例えば円弧状の複数の開口部11sとにより構成される。ダンパ装置10の取付状態において、カラー19は、ドライブ部材11の対応する開口部11s内に当該開口部11sを画成する両側の内壁面と当接しないように配置される。そして、ドライブ部材11とドリブン部材15とが相対回転するのに伴って上述の各カラー19が対応する開口部11sの一方の内壁面と当接すると、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転およびスプリングSP1,SP2,SPoの捩れが規制されることになる。
次に、ダンパ装置10の設計手順について説明する。
上述のように、ダンパ装置10では、ドライブ部材11に伝達される入力トルクが上記トルクT1に達するまで、第1トルク伝達経路TP1に含まれる第1および第2内側スプリングSP1,SP2と回転慣性質量ダンパ20とが並列に作用する。このように、第1および第2内側スプリングSP1,SP2と回転慣性質量ダンパ20とが並列に作用する際、中間部材12と第1および第2内側スプリングSP1,SP2とを含む第1トルク伝達経路TP1からドリブン部材15に伝達されるトルクは、中間部材12とドリブン部材15との間の第2内側スプリングSP2の変位(撓み量すなわち捩れ角)に依存(比例)したものとなる。これに対して、回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達されるトルクは、ドライブ部材11とドリブン部材15との角加速度の差、すなわちドライブ部材11とドリブン部材15との間の第1および第2内側スプリングSP1,SP2の変位の2回微分値に依存(比例)したものとなる。これにより、ダンパ装置10のドライブ部材11に伝達される入力トルクが次式(1)に示すように周期的に振動していると仮定すれば、第1トルク伝達経路TP1を経由してドライブ部材11からドリブン部材15に伝達される振動の位相と、回転慣性質量ダンパ20を経由してドライブ部材11からドリブン部材15に伝達される振動の位相とは、180°ずれることになる。
更に、中間部材12を有するダンパ装置10では、第1および第2内側スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつ外側スプリングSPoが撓んでいない状態に対して、2つの固有振動数(共振周波数)を設定することができる。すなわち、ロックアップクラッチ8によりロックアップが実行された状態でエンジンEGからドライブ部材11へのトルクの伝達が開始されると仮定した場合、第1トルク伝達経路TP1では、第1および第2内側スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつ外側スプリングSPoが撓んでいない際に、ドライブ部材11とドリブン部材15とが互いに逆位相で振動することによる共振あるいはドライブ部材11と図示しないドライブシャフトとの間で発生する主に変速機の共振(第1共振、図4における共振点R1参照)が発生する。
また、第1トルク伝達経路TP1の中間部材12は、環状に形成されており、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達される際、中間部材12に作用する慣性力が当該中間部材12の振動を妨げる抵抗力(主に回転する中間部材12に作用する遠心力に起因した摩擦力)よりも大きくなる。従って、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って振動する中間部材12の減衰比ζは、値1未満になる。なお、一自由度系における中間部材12の減衰比ζは、ζ=C/(2・√(J2・(k1+k2))と表すことができる。ただし、“J2”は、中間部材12の慣性モーメント(本実施形態では、中間部材12およびタービンランナ5の慣性モーメントの合計値)であり、“k1”は、ドライブ部材11と中間部材12との間で並列に作用する複数の第1内側スプリングSP1の合成ばね定数であり、“k2”は、中間部材12とドリブン部材15の間で並列に作用する複数の第2内側スプリングSP2の合成ばね定数であり、“C”は、中間部材12の振動を妨げる当該中間部材12の単位速度あたりの減衰力(抵抗力)である。すなわち、中間部材12の減衰比ζは、少なくとも中間部材12の慣性モーメントJ2と第1および第2内側スプリングSP1,SP2の剛性k1,k2とに基づいて定まる。
また、上記減衰力Cは、次のようにして求めることができる。すなわち、上記減衰力Cによる損失エネルギSc、中間部材12の変位xをx=A・sin(ω12・t)とすれば(ただし、“A”は、振幅であり、“ω12”は、中間部材12の振動周波数である。)、Sc=π・C・A2・ω12と表すことができる。更に、中間部材12の1サイクルの振動における上述のヒステリシスHによる損失エネルギShは、中間部材12の変位xをx=A・sin(ω12・t)とすれば、Sh=2・H・Aと表すことができる。そして、上記減衰力Cによる損失エネルギScとヒステリシスHによる損失エネルギShとが等しいと仮定すれば、上記減衰力Cは、C=(2・H)/(π・A・ω12)と表すことができる。
更に、一自由度系における中間部材12の固有振動数f12は、f12=1/2π・√((k1+k2)/J2)と表され、中間部材12を環状に形成することで慣性モーメントJ2が比較的大きくなることから、当該中間部材12の固有振動数f12は比較的小さくなる。従って、第1トルク伝達経路TP1では、第1および第2内側スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつ外側スプリングSPoが撓んでいない際には、図4に示すように、ドライブ部材11の回転数が2つの固有振動数のうちの大きい方に対応した回転数に達した段階、すなわち第1共振よりも高回転側(高周波側)で、中間部材12がドライブ部材11およびドリブン部材15の双方と逆位相で振動することによる当該中間部材12の共振(第2共振、図4における共振点R2参照)を発生させることができる。
本発明者らは、上述のような特性を有するダンパ装置10の振動減衰効果をより向上させるべく鋭意研究・解析を行い、ダンパ装置10では、第1トルク伝達経路TP1における振動の振幅と、それと逆位相になる回転慣性質量ダンパ20における振動の振幅とを一致させることで、ドリブン部材15の振動を減衰させ得ることに着目した。そして、本発明者らは、ロックアップの実行によりエンジンEGからドライブ部材11にトルクが伝達された状態にあり、かつ外側スプリングSPoが撓んでいないダンパ装置10を含む振動系について、次式(2)のような運動方程式を構築した。ただし、式(2)において、“J1”は、ドライブ部材11の慣性モーメントであり、“J2”は、上述のように中間部材12の慣性モーメントであり、“J3”は、ドリブン部材15の慣性モーメントであり、“Ji”は、回転慣性質量ダンパ20の質量体であるサンギヤ22の慣性モーメントである。更に、“θ1”は、ドライブ部材11の捩れ角であり、“θ2”は、中間部材12の捩れ角であり、“θ3”は、ドリブン部材15の捩れ角である。また、“λ”は、回転慣性質量ダンパ20を構成する遊星歯車21のギヤ比(サンギヤ22の歯数/リングギヤ23の歯数)である。
更に、本発明者らは、入力トルクTが上記式(1)に示すように周期的に振動していると仮定すると共に、ドライブ部材11の捩れ角θ1、中間部材12の捩れ角θ2、およびドリブン部材15の捩れ角θ3が次式(3)に示すように周期的に応答(振動)すると仮定した。ただし、式(1)および(3)における“ω”は、入力トルクTの周期的な変動(振動)における角振動数であり、式(3)において、“Θ1”は、エンジンEGからのトルクの伝達に伴って生じるドライブ部材11の振動の振幅(振動振幅、すなわち最大捩れ角)であり、“Θ2”は、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って生じる中間部材12の振動の振幅(振動振幅)であり、“Θ3”は、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って生じるドリブン部材15の振動の振幅(振動振幅)である。かかる仮定のもと、式(1)および(3)を式(2)に代入して両辺から“sinωt”を払うことで、次式(4)の恒等式を得ることができる。
式(4)において、ドリブン部材15の振動振幅Θ3がゼロである場合、ダンパ装置10によりエンジンEGからの振動が理論上完全に減衰されてドリブン部材15よりも後段側の変速機TMやドライブシャフト等には理論上振動が伝達されないことになる。そこで、本発明者らは、かかる観点から、式(4)の恒等式を振動振幅Θ3について解くと共に、Θ3=0とすることで、次式(5)に示す条件式を得た。式(5)は、入力トルクTの周期的な変動における角振動数の二乗値ω2についての2次方程式である。当該角振動数の二乗値ω2が式(5)の2つの実数解の何れか(または重解)である場合、ドライブ部材11から第1トルク伝達経路TP1を介してドリブン部材15に伝達されるエンジンEGからの振動と、ドライブ部材11から回転慣性質量ダンパ20を介してドリブン部材15に伝達される振動とが互いに打ち消し合い、ドリブン部材15の振動振幅Θ3が理論上ゼロになる。
かかる解析結果より、中間部材12を有することで第1トルク伝達経路TP1を介して伝達されるトルクに2つのピークすなわち共振が発生するダンパ装置10では、図4に示すように、ドリブン部材15の振動振幅Θ3が理論上ゼロになる反共振点を合計2つ設定し得ることが理解されよう。すなわち、ダンパ装置10では、第1トルク伝達経路TP1における振動の振幅と、それと逆位相になる回転慣性質量ダンパ20における振動の振幅とを第1トルク伝達経路TP1で発生する2つの共振に対応した2つのポイントで一致させることで、ドリブン部材15の振動を極めて良好に減衰させることが可能となる。
更に、ダンパ装置10では、ドライブ部材11の回転数が低回転側(低周波側)の反共振点A1の振動数に対応した回転数よりもある程度高まった段階で中間部材12の共振が発生し、第2内側スプリングSP2からドリブン部材15に伝達される振動の振幅は、図4において一点鎖線で示すように、ドライブ部材11(エンジンEG)の回転数が、比較的小さい中間部材12の固有振動数に対応した回転数に達する前に減少から増加に転じることになる。これにより、ドライブ部材11の回転数が増加するにつれて回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達される振動の振幅が徐々に増加しても(図4における二点鎖線参照)、当該回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達される振動が第2内側スプリングSP2からドリブン部材15に伝達される振動の少なくとも一部を打ち消す領域を拡げることが可能となる。この結果、ドライブ部材11の回転数が比較的低い領域におけるダンパ装置10の振動減衰性能をより向上させることができる。
ここで、走行用動力の発生源としてのエンジンEGを搭載する車両では、ロックアップクラッチ8のロックアップ回転数Nlup(エンジンEGの始動後に最初に当該エンジンEGとダンパ装置10とを連結する際の回転数であり、複数のロックアップ回転数の中で最も低いもの、すなわちドライブ部材11からトルク伝達経路TP1を介してドリブン部材15にトルクが伝達される回転数域の最小回転数)をより低下させて早期にエンジンEGからのトルクを変速機TMに機械的に伝達することで、エンジンEGと変速機TMとの間の動力伝達効率を向上させ、それによりエンジンEGの燃費をより向上させることができる。ただし、ロックアップ回転数Nlupの設定範囲となり得る500rpm~1500rpm程度の低回転数域では、エンジンEGからロックアップクラッチ8を介してドライブ部材11に伝達される振動が大きくなり、特に3気筒あるいは4気筒エンジンといった省気筒エンジンを搭載した車両において振動レベルの増加が顕著となる。従って、ロックアップの実行時や実行直後に大きな振動が変速機TM等に伝達されないようにするためには、ロックアップが実行された状態でエンジンEGからのトルク(振動)を変速機TMへと伝達するダンパ装置10全体(ドリブン部材15)のロックアップ回転数Nlup付近の回転数域における振動レベルをより低下させる必要がある。
これを踏まえて、本発明者らは、ロックアップクラッチ8に対して定められたロックアップ回転数Nlupに基づいて、エンジンEGの回転数Neが500rpmから1500rpmの範囲(ロックアップ回転数Nlupの想定設定範囲)内にある際に低回転側(低周波側)の反共振点A1が形成されるようにダンパ装置10を構成することとした。上記式(5)の2つの解ω1およびω2は、2次方程式の解の公式から次式(6)および(7)のように得ることが可能であり、ω1<ω2が成立する。そして、低回転側(低周波側)の反共振点A1の振動数(以下、「最小振動数」という)fa1は、次式(8)に示すように表され、高回転側(高周波側)の反共振点A2の振動数fa2(fa2>fa1)は、次式(9)に示すように表される。また、最小振動数fa1に対応したエンジンEGの回転数Nea1は、“n”をエンジンEGの気筒数とすれば、Nea1=(120/n)・fa1と表される。
従って、ダンパ装置10では、次式(10)を満たすように、複数の第1内側スプリングSP1の合成ばね定数k1、複数の第2内側スプリングSP2の合成ばね定数k2、中間部材12の慣性モーメントJ2(一体回転するように連結されるタービンランナ5等の慣性モーメントを考慮(合算)したもの)、および回転慣性質量ダンパ20の質量体であるサンギヤ22の慣性モーメントJiが選択・設定される。すなわち、ダンパ装置10では、上記最小振動数fa1(およびロックアップ回転数Nlup)に基づいて、第1および第2内側スプリングSP1,SP2のばね定数k1,k2,と、中間部材12の慣性モーメントJ2とが定められる。
このように、ドリブン部材15の振動振幅Θ3を理論上ゼロにし得る(より低下させ得る)低回転側の反共振点A1を500rpmから1500rpmまでの低回転数域(ロックアップ回転数Nlupの想定設定範囲)内に設定することで、図4に示すように、第1トルク伝達経路TP1で発生する共振のうち振動数が小さい一方(第1共振)をロックアップクラッチ8の非ロックアップ領域(図4における二点鎖線参照)に含まれるように、より低回転側(低周波側)にシフトさせることができる。すなわち、本実施形態において、共振点R1での共振(2つの固有振動数の小さい方での共振)は、ダンパ装置10が使用される回転数域において発生しない仮想的なものとなる。この結果、より低い回転数でのロックアップ(エンジンEGとドライブ部材11との連結)を許容することが可能となる。
また、式(10)を満たすようにダンパ装置10を構成するに際しては、第1トルク伝達経路TP1で発生する低回転側(低周波側)の共振(共振点R1、図4における共振点R1参照)の振動数が上記最小振動数fa1よりも小さく、かつできるだけ小さい値になるように、ばね定数k1,k2と、慣性モーメントJ2,Jiとを選択・設定すると好ましい。これにより、最小振動数fa1をより小さくし、より一層低い回転数でのロックアップを許容することができる。
更に、2つの反共振点A1,A2を設定できるようにすることで、単一の反共振点が設定される場合に比べて(図4における破線参照)、当該2つの反共振点A1,A2のうち、振動数(fa1)が最小となる反共振点A1をより低周波側にシフトさせることが可能となる。加えて、2つの反共振点A1,A2を設定できるようにすることで、図4からわかるように、2つの反共振点A1,A2間の比較的広い回転数域で、ドライブ部材11から第1トルク伝達経路TP1を介してドリブン部材15に伝達されるエンジンEGからの振動(図4における一点鎖線参照)を、ドライブ部材11から回転慣性質量ダンパ20を介してドリブン部材15に伝達される振動(図4における二点鎖線参照)によって良好に減衰させることが可能となる。
これにより、エンジンEGからの振動が大きくなりがちなロックアップ領域の低回転数域におけるダンパ装置10の振動減衰効果をより向上させることができる。なお、ダンパ装置10では、2つめの共振(第2共振、図4における共振点R2参照)が発生すると、中間部材12がドリブン部材15と逆位相で振動するようになり、図4において一点鎖線で示すように、第1トルク伝達経路TP1を経由してドライブ部材11からドリブン部材15に伝達される振動の位相と、回転慣性質量ダンパ20を経由してドライブ部材11からドリブン部材15に伝達される振動の位相とが一致することになる。
また、上述のように構成されるダンパ装置10においてロックアップ回転数Nlup付近での振動減衰性能をより向上させるためには、当該ロックアップ回転数Nlupと共振点R2に対応したエンジンEGの回転数とを適切に離間させる必要がある。従って、式(10)を満たすようにダンパ装置10を構成するに際しては、Nlup≦(120/n)・fa1(=Nea1)を満たすように、ばね定数k1,kと、慣性モーメントJ2,Jiとを選択・設定すると好ましい。これにより、変速機TMの入力軸ISへの振動の伝達を良好に抑制しながらロックアップクラッチ8によるロックアップを実行すると共に、ロックアップの実行直後に、エンジンEGからの振動をダンパ装置10により極めて良好に減衰することが可能となる。
更に、中間部材12をタービンランナ5に一体回転するように連結すれば、当該中間部材12の実質的な慣性モーメントJ2(中間部材12やタービンランナ5等の慣性モーメントの合計値)をより大きくすることができる。これにより、式(8)からわかるように、反共振点A1の振動数fa1をより一層小さくして当該反共振点A1をより低回転側(低周波側)に設定することが可能となる。
上述のように、反共振点A1の振動数(最小振動数)fa1に基づいてダンパ装置10を設計することにより、当該ダンパ装置10の振動減衰性能を極めて良好に向上させることが可能となる。そして、本発明者らの研究・解析によれば、ロックアップ回転数Nlupが例えば1000rpm前後の値に定められる場合、例えば900rpm≦(120/n)・fa1≦1200rpmを満たすようにダンパ装置10を構成することで、実用上極めて良好な結果が得られることが確認されている。
また、上記ダンパ装置10に含まれる回転慣性質量ダンパ20は、ドライブ部材11と一体に回転するプラネタリキャリヤ(第1要素)としてのロックアップピストン80と、ドリブン部材15と一体に回転するリングギヤ23(第2要素)、およびマス部22mと一体に回転するサンギヤ22(質量体としての第3要素)を含む遊星歯車21を有する。これにより、質量体としてのサンギヤ22の回転数をドライブ部材11よりも増速させることができるので、回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に付与される慣性モーメントを良好に確保しつつ回転慣性質量ダンパ20の質量体の軽量化を図ると共に、回転慣性質量ダンパ20やダンパ装置10全体の設計の自由度を向上させることが可能となる。ただし、質量体の慣性モーメントの大きさによっては、回転慣性質量ダンパ20の遊星歯車21は、質量体(サンギヤ22)をドライブ部材11よりも減速させるように構成されてもよい。また、回転慣性質量ダンパ20は、遊星歯車21以外の例えばリンク機構等を有する差動装置を含むものであってもよい。更に、質量体の慣性モーメントの大きさによっては、質量体をドライブ部材11と等速で回転させる等速回転機構が回転慣性質量ダンパ20に設けられてもよい。また、回転慣性質量ダンパ20は、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転数に応じて質量体の回転数を変化させる変速機構を含むものであってもよい。
なお、上述のように、2つの反共振点A1,A2を設定できるようにすることで、反共振点A1をより低周波側にシフトさせることが可能となるが、ダンパ装置10が適用される車両や原動機等の諸元によっては、式(5)の重解(=1/2π・√{(k1+k2)/(2・J2)}を上記最小振動数fa1としてもよい。このように、式(5)の重解に基づいて第1および第2内側スプリングSP1,SP2のばね定数k1,k2,と中間部材12の慣性モーメントJ2とを定めても、図4における破線で示すように、エンジンEGからの振動が大きくなりがちなロックアップ領域の低回転数域におけるダンパ装置10の振動減衰効果を向上させることができる。
また、上記ダンパ装置10では、第1および第2内側スプリングSP1,SP2として、同一の諸元(ばね定数)を有するものが採用されているが、これに限られるものではない。すなわち、第1および第2内側スプリングSP1,SP2のばね定数k1,k2は、互いに異なっていてもよい(k1>k2、またはk1<k2)。これにより、式(6)および(8)における√の項(判別式)の値をより大きくすることができるので、2つの反共振点A1,A2の間隔をより大きくして、低周波域(低回転数域)におけるダンパ装置の振動減衰効果をより向上させることが可能となる。この場合、ダンパ装置10には、第1および第2内側スプリングSP1,SP2のうちの一方(例えば、より低い剛性を有する一方)の撓みを規制するストッパが設けられるとよい。
更に、上記ダンパ装置10では、回転慣性質量ダンパ20を構成する遊星歯車21の複数のピニオンギヤ24がプラネタリキャリヤとしてのロックアップピストン80により支持されるが、遊星歯車21の複数のピニオンギヤ24は、ダンパ装置10のドライブ部材11により回転自在に支持されてもよい。すなわち、当該ドライブ部材11自体が遊星歯車21のプラネタリキャリヤとして利用されてもよい。また、タービンランナ5は、図1において二点鎖線で示すように、ドライブ部材11およびドリブン部材15の何れか一方に連結されてもよい。なお、このように中間部材12にタービンランナ5が連結されない場合であっても、中間部材12を環状に形成することで遠心力による当該中間部材12の径方向の移動を抑制することができるので、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って振動する中間部材12の減衰比ζは基本的に値1未満になる。
更に、上記回転慣性質量ダンパ20(遊星歯車21)は、リングギヤ23(第1要素)がドライブ部材11(ロックアップピストン80)と一体に回転し、かつプラネタリキャリヤ(第2要素)がドリブン部材15と一体に回転するように構成されてもよい。また、上記回転慣性質量ダンパ20(遊星歯車21)は、リングギヤ23(第1要素)がドライブ部材11(ロックアップピストン80)と一体に回転し、サンギヤ22(第2要素)がドリブン部材15と一体に回転し、かつプラネタリキャリヤ(第3要素)がマス部(質量体)と一体に回転するように構成されてもよい。この場合、マス部は、リングギヤ23の径方向外側およびサンギヤ22の径方向内側の少なくとも何れか一方に配置されてもよい。更に、上記回転慣性質量ダンパ20(遊星歯車21)は、サンギヤ22(第1要素)がドライブ部材11(ロックアップピストン80)と一体に回転し、リングギヤ23(第2要素)がドリブン部材15と一体に回転し、かつプラネタリキャリヤ(第3要素)がマス部(質量体)と一体に回転しするように構成されてもよい。この場合も、マス部は、リングギヤ23の径方向外側およびサンギヤ22の径方向内側の少なくとも何れか一方に配置されてもよい。
図5は、本開示の他の実施形態に係るダンパ装置10Xを含む発進装置1Xを示す概略構成図である。なお、発進装置1Xやダンパ装置10Xの構成要素のうち、上述の発進装置1やダンパ装置10と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図5に示すダンパ装置10Xでは、回転慣性質量ダンパ20Xを構成する遊星歯車21のサンギヤ22にポンプインペラ4と共にトルクコンバータ(流体伝動装置)を構成するタービンランナ5が連結部材を介して連結される。すなわち、回転慣性質量ダンパ20Xは、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転に応じて回転する質量体として、タービンランナ5を含む。これにより、専用の質量体(マス部)を設ける場合に比べてダンパ装置10全体の大型化を抑制しつつ、回転慣性質量ダンパ20Xの質量体の慣性モーメントをより大きくし、回転慣性質量ダンパ20Xからドリブン部材15に付与される慣性モーメントをより大きくすることが可能となる。
図6は、本開示の更に実施形態に係るダンパ装置10X′を含む発進装置1X′を示す概略構成図である。なお、発進装置1X′やダンパ装置10X′の構成要素のうち、上述の発進装置1やダンパ装置10等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図6に示すダンパ装置10X′は、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11′と、中間部材(中間要素)12′と、ドリブン部材(出力要素)15′とを含む。更に、ダンパ装置10X′は、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11′と中間部材12′との間でトルクを伝達する複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1′と、それぞれ対応する第1スプリングSP1′と直列に作用して中間部材12′とドリブン部材15′との間でトルクを伝達する複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2′とを含む。複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1′、中間部材12′、複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2′は、ドライブ部材11′とドリブン部材15′との間でトルク伝達経路TPを構成する。中間部材12′は、環状部材であり、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って振動する中間部材12の減衰比ζは、値1未満である。
更に、ダンパ装置10X′は、ドライブ部材11′とドリブン部材15′との間でトルクを伝達する複数の内側スプリングSPiを含む。複数の内側スプリングSPiは、上記ダンパ装置10の外側スプリングSPoと同様に、ドライブ部材11′への入力トルクが上記トルク(第1の閾値)T1に達してドライブ部材11′のドリブン部材15′に対する捩れ角が上記所定角度θref以上になってから、第1トルク伝達経路TP1を構成する第1および第2スプリングSP1′,SP2′と並列に作用するものである。図6の例において、スプリングSPiは、第1および第2スプリングSP1′,SP2′の径方向内側に配置されて当該第1および第2スプリングSP1′,SP2′により包囲される。
そして、ダンパ装置10X′において、ドライブ部材11′は、複数のピニオンギヤ24を回転(自転)自在かつサンギヤ22およびリングギヤ23に対して公転自在に支持し、回転慣性質量ダンパ20X′を構成する遊星歯車21のプラネタリキャリヤ(第1要素)として機能する。更に、遊星歯車21のサンギヤ(第2要素)22は、ドリブン部材15に一体に回転するように連結される。これにより、質量体(第3要素)としてのリングギヤ23およびマス部23mは、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転に応じて回転する。かかるダンパ装置10X′においても、上述のダンパ装置10等と同様の作用効果を得ることが可能となる。なお、図示を省略するが、上記回転慣性質量ダンパ20X′(遊星歯車21)は、サンギヤ22(第1要素)がドライブ部材11と一体に回転し、かつプラネタリキャリヤ(第2要素)がドリブン部材15と一体に回転するように構成されてもよい。
図7は、本開示の他の実施形態に係るダンパ装置10Yを含む発進装置1Yを示す概略構成図である。なお、発進装置1Yやダンパ装置10Yの構成要素のうち、上述の発進装置1やダンパ装置10等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図7に示すダンパ装置10Yは、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11Yと、中間部材(中間要素)12Yと、ドリブン部材(出力要素)15Yとを含む。更に、ダンパ装置10Yは、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11Yと中間部材12Yとの間でトルクを伝達する複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1′と、それぞれ対応する第1スプリングSP1′と直列に作用して中間部材12Yとドリブン部材15Yとの間でトルクを伝達する複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2′とを含む。複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1′、中間部材12Y、複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2′は、ドライブ部材11Yとドリブン部材15Yとの間でトルク伝達経路TPを構成する。中間部材12Yは、環状部材であり、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って振動する中間部材12の減衰比ζは、値1未満である。また、回転慣性質量ダンパ20Yは、上記回転慣性質量ダンパ20と同様にシングルピニオン式の遊星歯車21により構成され、ドライブ部材11Yとドリブン部材15Yとに接続されてトルク伝達経路TPと並列に並び、ドリブン部材15Yに主に慣性トルクを伝達する。更に、図示するように、中間部材12Yは、タービンランナ5に一体回転するように連結される。ただし、タービンランナ5は、図7において二点鎖線で示すように、ドライブ部材11およびドリブン部材15の何れか一方に連結されてもよい。
更に、ダンパ装置10Yは、ドライブ部材11Yと中間部材12Yとの相対回転、すなわち第1スプリングSP1′の撓みを規制する第1ストッパST1と、中間部材12Yとドリブン部材15Yとの相対回転、すなわち第2スプリングSP2′の撓みを規制する第2ストッパST2とを含む。第1および第2ストッパST1,ST2の一方は、ドライブ部材11Yへの入力トルクがダンパ装置10Yの最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2よりも小さい予め定められたトルクT1に達してドライブ部材11Yのドリブン部材15Yに対する捩れ角が所定角度θref以上になると、ドライブ部材11Yと中間部材12Yとの相対回転、または中間部材12Yとドリブン部材15Yとの相対回転を規制する。また、第1および第2ストッパST1,ST2の他方は、ドライブ部材11Yへの入力トルクがトルクT2に達すると、中間部材12Yとドリブン部材15Yとの相対回転、またはドライブ部材11Yと中間部材12Yとの相対回転を規制する。
これにより、第1および第2ストッパST1,ST2の一方が作動するまで、第1および第2スプリングSP1′,SP2′の撓みが許容され、第1および第2ストッパST1,ST2の一方が作動すると、第1および第2スプリングSP1′,SP2′の一方の撓みが規制される。そして、第1および第2ストッパST1,ST2の双方が作動すると、第1および第2スプリングSP1′,SP2′の双方の撓みが規制される。従って、ダンパ装置10Yも、2段階(2ステージ)の減衰特性を有することになる。なお、トルクT2に対応第1または第2ストッパST1,ST2は、ドライブ部材11Yとドリブン部材15Yとの相対回転を規制するように構成されてもよい。
このような構成を有するダンパ装置10Yにおいても、上述のダンパ装置10と同様の作用効果を得ることが可能となる。そして、ダンパ装置10Yでは、第1および第2スプリングSP1′,SP2′の何れか一方が他方の径方向外側で周方向に間隔をおいて並ぶように配設されるとよい。すなわち、例えば複数の第1スプリングSP1′を流体伝動室9内の外周側領域に周方向に間隔をおいて並ぶように配設し、例えば複数の第2スプリングSP2′を複数の第1スプリングSP1の径方向内側で周方向に間隔をおいて並ぶように配設してもよい。この場合、第1および第2スプリングSP1′,SP2′は、径方向からみて少なくとも部分的に重なるように配置されてもよい。
図8は、本開示の更に他の実施形態に係るダンパ装置10Zを含む発進装置1Zを示す概略構成図である。なお、発進装置1Zやダンパ装置10Zの構成要素のうち、上述の発進装置1やダンパ装置10等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図8に示すダンパ装置10Zは、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11Zと、第1中間部材(第1中間要素)13と、第2中間部材(第2中間要素)14と、ドリブン部材(出力要素)15Zとを含む。第1および第2中間部材13,14は、何れも環状部材である。また、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って振動する第1および第2中間部材13,14のうち、少なくとも何れか一方の減衰比ζは値1未満である。更に、ダンパ装置10Zは、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11Zと第1中間部材13との間でトルクを伝達する複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1′と、第1中間部材13と第2中間部材14との間でトルクを伝達する複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2′と、第2中間部材14とドリブン部材15Zとの間でトルクを伝達する複数の第3スプリング(第3弾性体)SP3とを含む。複数の第1スプリングSP1′、第1中間部材13、複数の第2スプリングSP2′、第2中間部材14、および複数の第3スプリングSP3は、ドライブ部材11Zとドリブン部材15Zとの間でトルク伝達経路TPを構成する。また、回転慣性質量ダンパ20Zは、ドライブ部材11Zとドリブン部材15Zとに接続されてトルク伝達経路TPと並列に並び、ドリブン部材15Zに主に慣性トルクを伝達する。更に、図示するように、第1中間部材13は、タービンランナ5に一体回転するように連結される。
このような第1および第2中間部材13,14を有するダンパ装置10Zでは、第1~第3スプリングSP1′,SP2′およびSP3のすべての撓みが許容されている際に、トルク伝達経路TPにおいて3つの共振が発生する。すなわち、トルク伝達経路TPでは、第1~第3スプリングSP1′,SP2′およびSP3の撓みが許容されている際に、例えばドライブ部材11Zとドリブン部材15Zとが互いに逆位相で振動することによるダンパ装置10全体の共振が発生する。また、トルク伝達経路TPでは、第1~第3スプリングSP1′,SP2′およびSP3の撓みが許容されている際に、第1および第2中間部材13,14がドライブ部材11Zおよびドリブン部材15Zの双方と逆位相で振動することによる共振が発生する。更に、トルク伝達経路TPでは、第1~第3スプリングSP1′,SP2′およびSP3の撓みが許容されている際に、第1中間部材13がドライブ部材11Zとは逆位相で振動し、第2中間部材14が第1中間部材13とは逆位相で振動し、かつドリブン部材15Zが第2中間部材14とは逆位相で振動することによる共振が発生する。従って、ダンパ装置10Zでは、ドライブ部材11Zからトルク伝達経路TPを介してドリブン部材15Zに伝達される振動と、ドライブ部材11Zから回転慣性質量ダンパ20Zを介してドリブン部材15Zに伝達される振動とが理論上互いに打ち消し合うことになる反共振点を合計3つ設定することが可能となる。
そして、ドリブン部材15Zの振動振幅を理論上ゼロにし得る(より低下させ得る)3つの反共振点のうち、最も低回転側の第1の反共振点を500rpmから1500rpmまでの低回転数域(ロックアップ回転数Nlupの想定設定範囲)内に設定することで、トルク伝達経路TPで発生する共振のうち振動数が最小の何れかをロックアップクラッチ8の非ロックアップ領域に含まれるように、より低回転側(低周波側)にシフトさせることができる。この結果、より低い回転数でのロックアップを許容すると共に、エンジンEGからの振動が大きくなりがちな低回転数域におけるダンパ装置10Zの振動減衰性能を極めて良好に向上させることが可能となる。また、ダンパ装置10Zでは、第1の反共振点よりも高回転側(高周波側)の第2の反共振点を例えば変速機TMの入力軸ISの共振点(の振動数)に一致させたり(より近づけたり)、第2の反共振点よりも高回転側(高周波側)の第3の反共振点を例えばのダンパ装置10Z内の共振点(の振動数)に一致させたり(より近づけたり)することで、これらの共振の発生をも良好に抑制することができる。なお、ダンパ装置10Zは、3つ以上の中間部材をトルク伝達経路TPに含むように構成されてもよい。また、タービンランナ5は、第2中間部材14に連結されてもよく、図8において二点鎖線で示すように、ドライブ部材11Zおよびドリブン部材15Zの何れか一方に連結されてもよい。
図9は、本開示の他の実施形態に係るダンパ装置10Vを含む発進装置1Vを示す概略構成図である。なお、発進装置1Vやダンパ装置10Vの構成要素のうち、上述の発進装置1やダンパ装置10等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図9に示すダンパ装置10Vは、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11Vと、第1中間部材(第1中間要素)13と、第2中間部材(第2中間要素)14と、ドリブン部材(出力要素)15Vとを含む。ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って振動する第1および第2中間部材13,14のうち、少なくとも第1中間部材13は環状部材であり、少なくとも第1中間部材13の減衰比ζは値1未満である。更に、ダンパ装置10Vは、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11Vと第1中間部材13との間でトルクを伝達する複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1′と、第1中間部材13と第2中間部材14(ドリブン部材15V)との間でトルクを伝達する複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2′と、第2中間部材14とドリブン部材15Vとの間でトルクを伝達する複数の第3スプリング(第3弾性体)SP3とを含む。複数の第1スプリングSP1′、第1中間部材13、複数の第2スプリングSP2′、第2中間部材14、および複数の第3スプリングSP3は、ドライブ部材11Vとドリブン部材15Vとの間でトルク伝達経路TPを構成する。図9の例において、第3スプリングSP3は、第1および第2スプリングSP1′SP2′のばね定数(剛性)よりも大きいばね定数(剛性)を有するものが採用されている。
また、回転慣性質量ダンパ20Vは、ドライブ部材11Vと第2中間部材14とに接続されてトルク伝達経路TPの複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1′、第1中間部材13、複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2′と並列に並び、第2中間部材14および第3スプリングSP3を介してドリブン部材15Vに主に慣性トルクを伝達する。すなわち、ドライブ部材11Vは、複数のピニオンギヤ24を回転(自転)自在かつサンギヤ22およびリングギヤ23に対して公転自在に支持する遊星歯車21のプラネタリキャリヤ(第1要素)として機能する。更に、遊星歯車21のリングギヤ(第2要素)23は、第2中間部材14に固定され、当該第2中間部材14と一体に回転可能である。これにより、質量体(第3要素)としてのサンギヤ22およびマス部22mは、ドライブ部材11Vとドリブン部材15Vとの相対回転、より詳細にはドライブ部材11Vと第2中間部材14との相対回転に応じて回転する。そして、ダンパ装置10Vでは、ドライブ部材11Vがタービンランナ5に一体回転するように連結される。
かかるダンパ装置10Vは、実質的に、図7に示すダンパ装置10Yにおいて、並列に作用する複数の第3スプリングSP3をドリブン部材15Yと変速機TMの入力軸ISとの間に配置したものに相当する。そして、ダンパ装置10Vにおいて、回転慣性質量ダンパ20Vは、第1および第2スプリングSP1′,SP2′と第1中間部材13と並列に設けられる。従って、ダンパ装置10Vにおいても、少なくとも第1および第2スプリングSP1′,SP2′の撓みが許容された状態のドライブ部材11Vから第2中間部材14までのトルク伝達経路に対して2つ(複数)の固有振動数を設定すると共に、第1共振よりも高回転側(高周波側)で、第1中間部材13の共振(第2共振)を発生させることができる。この結果、ダンパ装置10Vにおいても、ドリブン部材15Vの振動振幅が理論上ゼロになる反共振点を合計2つ設定することが可能となる。
また、ダンパ装置10Vは、特に後輪駆動用の変速機TMと組み合わせて用いられると好適である。すなわち、入力軸ISの端部(発進装置1V側の端部)から図示しない出力軸の端部(車輪側の端部)までの長さが長くなる後輪駆動用の変速機TMでは、ダンパ装置10Vのドリブン部材15Vに連結される入力軸ISや出力軸(更には中間軸)の剛性が低下することから、これらの軸部材の慣性モーメントから定まる固有振動数(共振周波数)が回転慣性質量ダンパ20V全体の慣性モーメントの影響により小さくなってしまう(低周波化してしまう)。このため、本来、ドライブ部材11(エンジンEG)の回転数が高い状態で発生する共振が低回転域で発生して顕在化してしまうおそれがある。これに対して、回転慣性質量ダンパ20Vをダンパ装置10Vのドライブ部材11Vと第2中間部材14とに連結することで、回転慣性質量ダンパ20Vと、ドリブン部材15Vに連結される変速機TMの入力軸ISとの間に第3スプリングSP3を介在させ、両者を実質的に切り離すことができる。これにより、2つの反共振点の設定を可能としつつ、ドリブン部材15Vに連結される軸部材等の慣性モーメントから定まる固有振動数に対する回転慣性質量ダンパ20V全体の慣性モーメントの影響を極めて良好に低減化することが可能となる。
ただし、ダンパ装置10Vは、前輪駆動車両用の変速機TMと組み合わされてもよいことはいうまでもない。ダンパ装置10Vと前輪駆動車両用の変速機TMと組み合わせた場合においても、ドリブン部材15Vに連結される軸部材等の慣性モーメントから定まる固有振動数に対する回転慣性質量ダンパ20V全体の慣性モーメントの影響を極めて良好に低減化すると共に、更なる低剛性化によりダンパ装置10Vの振動減衰性能を向上させることが可能となる。また、ダンパ装置10Vは、第1中間部材13と第2中間部材14との間に更なる中間部材およびスプリング(弾性体)を含んでもよい。更に、タービンランナ5は、図9において二点鎖線で示すように、第1および第2中間部材13,14の何れか一方に連結されてもよく、ドリブン部材15Vに連結されてもよい。また、回転慣性質量ダンパ20Vは、ドライブ部材11とドリブン部材15(第2中間部材14)との相対回転に応じて回転する質量体として、タービンランナ5を含んでもよい。
図10は、本開示の更に他の実施形態に係るダンパ装置10Wを含む発進装置1Wを示す概略構成図である。なお、発進装置1Wやダンパ装置10Wの構成要素のうち、上述の発進装置1やダンパ装置10等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図10に示すダンパ装置10Wは、上述のダンパ装置10Vにおいて回転慣性質量ダンパ20Vをそれとは異なる回転慣性質量ダンパ20Wで置き換えたものに相当する。回転慣性質量ダンパ20Wは、ドライブ部材11Wと第2中間部材14とに接続されてトルク伝達経路TPの複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1′、第1中間部材13、複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2′と並列に並び、第2中間部材14および第3スプリングSP3を介してドリブン部材15Wに主に慣性トルクを伝達する。すなわち、ドライブ部材11Wは、複数のピニオンギヤ24を回転(自転)自在かつサンギヤ22およびリングギヤ23に対して公転自在に支持する遊星歯車21のプラネタリキャリヤ(第1要素)として機能する。更に、遊星歯車21のサンギヤ(第2要素)22は、第2中間部材14に固定され、当該第2中間部材14と一体に回転可能である。これにより、質量体(第3要素)としてのリングギヤ23およびマス部23mは、ドライブ部材11Wとドリブン部材15Wとの相対回転、より詳細にはドライブ部材11Wと第2中間部材14との相対回転に応じて回転する。かかるダンパ装置10Wにおいても、上述のダンパ装置10Vと同様の作用効果を得ることが可能となる。
図11A、図11B、図11Cおよび図11Dは、それぞれ上述のダンパ装置10,10X,10Y,10Z,10V,10Wに適用可能な回転慣性質量ダンパ20D~20Gを示す模式図である。
図11Aに示す回転慣性質量ダンパ20Dは、ダブルピニオン式の遊星歯車21Dにより構成されるものである。遊星歯車21Dは、外歯歯車であるサンギヤ(第3要素)22Dと、サンギヤ22と同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ(第1要素)23Dと、互いに噛合すると共に一方がサンギヤ22Dに、他方がリングギヤ23Dに噛合する2つのピニオンギヤ24a,24bの組を自転自在(回転自在)かつ公転自在に複数保持するプラネタリキャリヤ(第2要素)25とを有する。
遊星歯車21Dのサンギヤ22Dは、回転慣性質量ダンパ20Dの質量体として用いられ、慣性モーメントを増加させるためのマス部22mを含むと共に図示しないダンパハブ等により回転自在に支持される。リングギヤ23Dは、ドライブ部材11と一体に回転可能となるように当該ドライブ部材11あるいは図示しないロックアップピストンに連結される。プラネタリキャリヤ25は、ドリブン部材15と一体に回転可能となるように当該ドリブン部材15に連結される。ただし、複数のピニオンギヤ24a,24bは、ドリブン部材15により支持されてもよい。すなわち、当該ドリブン部材15自体が遊星歯車21Dのプラネタリキャリヤとして利用されてもよい。
図11Bに示す回転慣性質量ダンパ20Eは、同軸かつ一体に結合された小径ピニオンギヤ26aおよび大径ピニオンギヤ26bを含む段付ピニオンギヤ26を複数有する遊星歯車21Eにより構成されるものである。遊星歯車21Eは、複数の段付ピニオンギヤ26に加えて、各段付ピニオンギヤ26の小径ピニオンギヤ26aに噛合する第1サンギヤ(第1要素)27aと、各段付ピニオンギヤ26の大径ピニオンギヤ26bに噛合する第2サンギヤ(第2要素)27bと、複数の段付ピニオンギヤ26を回転自在かつ公転自在に支持するプラネタリキャリヤ(第3要素)28とを有する。
段付ピニオンギヤ26の大径ピニオンギヤ26bの歯数は、小径ピニオンギヤ26aの歯数よりも多く定められる。第1サンギヤ27aは、ドライブ部材11と一体に回転可能となるように当該ドライブ部材11あるいは図示しないロックアップピストンに連結される。第2サンギヤ27bは、ドリブン部材15と一体に回転可能となるように当該ドリブン部材15に連結される。プラネタリキャリヤ28は、回転慣性質量ダンパ20Eの質量体として用いられ、慣性モーメントを増加させるためのマス部28mを有すると共に、例えば図示しないダンパハブ等により回転自在に支持される。
図11Cに示す回転慣性質量ダンパ20Fは、同軸かつ一体に結合された小径ピニオンギヤ26aおよび大径ピニオンギヤ26bを含む段付ピニオンギヤ26を複数有する遊星歯車21Fにより構成されるものである。遊星歯車21Fは、複数の段付ピニオンギヤ26に加えて、各段付ピニオンギヤ26の小径ピニオンギヤ26aに噛合する第1リングギヤ(第1要素)29aと、各段付ピニオンギヤ26の大径ピニオンギヤ26bに噛合する第2リングギヤ(第2要素)29bと、複数の段付ピニオンギヤ26を回転自在かつ公転自在に支持するプラネタリキャリヤ(第3要素)28とを有する。
段付ピニオンギヤ26の大径ピニオンギヤ26bの歯数は、小径ピニオンギヤ26aの歯数よりも多く定められる。第1リングギヤ29aは、ドライブ部材11と一体に回転可能となるように当該ドライブ部材11あるいは図示しないロックアップピストンに連結される。第2リングギヤ29bは、ドリブン部材15と一体に回転可能となるように当該ドリブン部材15に連結される。プラネタリキャリヤ28は、回転慣性質量ダンパ20Fの質量体として用いられ、慣性モーメントを増加させるためのマス部28mを有すると共に、例えば図示しないダンパハブ等により回転自在に支持される。
図11Dに示す回転慣性質量ダンパ20Gは、同軸かつ一体に結合された小径ピニオンギヤ26aおよび大径ピニオンギヤ26bを含む段付ピニオンギヤ26を複数有する遊星歯車21Gにより構成されるものである。遊星歯車21Gは、複数の段付ピニオンギヤ26に加えて、複数の段付ピニオンギヤ26を回転自在かつ公転自在に支持するプラネタリキャリヤ(第1要素)28と、各段付ピニオンギヤ26の大径ピニオンギヤ26bに噛合するサンギヤ(第2要素)27Gと、各段付ピニオンギヤ26の小径ピニオンギヤ26aに噛合するリングギヤ(第3要素)29Gとを有する。
段付ピニオンギヤ26の大径ピニオンギヤ26bの歯数は、小径ピニオンギヤ26aの歯数よりも多く定められる。プラネタリキャリヤ28は、ドライブ部材11と一体に回転可能となるように当該ドライブ部材11あるいは図示しないロックアップピストンに連結される。サンギヤ27Gは、ドリブン部材15と一体に回転可能となるように当該ドリブン部材15に連結される。リングギヤ29Gは、回転慣性質量ダンパ20Gの質量体として用いられ、慣性モーメントを増加させるためのマス部29mを有すると共に、例えば図示しないダンパハブ等により回転自在に支持される。
以上説明したように、本開示のダンパ装置は、エンジン(EG)からのトルクが伝達される入力要素(11,11′,11Y,11Z,11V,11W)と出力要素(15,15′,15Y,15Z,15V,15W)とを含むダンパ装置(10,10X,10X′,10Y,10Z,10V,10W)において、中間要素(12,12′,13,14)、前記入力要素(11,11′,11Y,11Z,11V,11W)と前記中間要素(12,12′,13)との間でトルクを伝達する第1弾性体(SP1,SP1′)、および前記中間要素(12,12′,14)と前記出力要素(15,15′,15Y,15Z,15V,15W)との間でトルクを伝達する第2弾性体(SP2,SP2′)を含むトルク伝達経路(TP1,TP)と、前記入力要素(11,11′,11Y,11Z,11V,11W)と前記出力要素(15,15′,15Y,15Z,15V,15W)との相対回転に応じて回転する質量体(5,22,22m,23,23m,28,28m,29G,29m)を有し、前記入力要素(11,11′,11Y,11Z,11V,11W)と前記出力要素(15,15′,15Y,15Z,15V,15W)との間に前記トルク伝達経路(TP1,TP)と並列に設けられる回転慣性質量ダンパ(20,20X,20Y,20Z,20V,20W,20D,20E,20F,20G)とを備え、前記中間要素(12,12′,13,14)は、前記中間要素(12,12′,13)の慣性モーメント(J2)と前記第1および第2弾性体(SP1,SP1′,SP2,SP2′)の剛性(k1,k2)とに基づいて定まる該前記中間要素の減衰比(ζ)が値1未満であることを特徴とする。
本開示のダンパ装置では、中間要素と第1および第2弾性体とによりトルク伝達経路が構成されると共に、入力要素と出力要素との相対回転に応じて回転する質量体を有する回転慣性質量ダンパが入力要素と出力要素との間に当該トルク伝達経路と並列に設けられる。また、中間要素の慣性モーメントと第1および第2弾性体の剛性とに基づいて定まる当該中間要素の減衰比は、値1未満である。
かかるダンパ装置において、中間要素と第1および第2弾性体とを含むトルク伝達経路から出力要素に伝達されるトルクは、中間要素と出力要素との間の第2弾性体の変位に依存(比例)したものとなる。これに対して、回転慣性質量ダンパから出力要素に伝達されるトルクは、入力要素と出力要素との角加速度の差、すなわち入力要素と出力要素との間に配置される弾性体の変位の2回微分値に依存(比例)したものとなる。従って、ダンパ装置の入力要素に伝達される入力トルクが周期的に振動していると仮定すれば、トルク伝達経路を経由して入力要素から出力要素に伝達される振動の位相と、回転慣性質量ダンパを経由して入力要素から出力要素に伝達される振動の位相とは、180°ずれることになる。また、減衰比が値1未満である中間要素を含むトルク伝達経路では、第1および第2弾性体の撓みが許容されている状態に対して、複数の固有振動数(共振周波数)を設定すると共に、入力要素の回転数が当該複数の固有振動数の何れかに対応した回転数に達した段階で中間要素の共振を発生させることができる。
これにより、本開示のダンパ装置では、入力要素からトルク伝達経路を介して出力要素に伝達される振動と、入力要素から回転慣性質量ダンパを介して出力要素に伝達される振動とが理論上互いに打ち消し合うことになる反共振点を2つ設定することが可能となる。従って、2つの反共振点の振動数を当該ダンパ装置により減衰すべき振動(共振)の周波数に一致させる(より近づける)ことで、ダンパ装置の振動減衰性能を極めて良好に向上させることができる。更に、本開示のダンパ装置では、入力要素の回転数が低回転側(低周波側)の反共振点の振動数に対応した回転数よりも高まった段階で中間要素の共振が発生し、第2弾性体から出力要素に伝達される振動の振幅は、入力要素の回転数が、比較的小さい中間要素の固有振動数に対応した回転数に達する前に減少から増加に転じることになる。これにより、入力要素の回転数が増加するにつれて回転慣性質量ダンパから出力要素に伝達される振動の振幅が徐々に増加しても、当該回転慣性質量ダンパから出力要素に伝達される振動が第2弾性体から出力要素に伝達される振動の少なくとも一部を打ち消す領域を拡げることが可能となる。この結果、入力要素の回転数が比較的低い領域におけるダンパ装置の振動減衰性能をより向上させることができる。
また、前記中間部材(12,12′,13)は、環状部材であってもよい。これにより、中間要素の固有振動数を比較的小さくして、第2弾性体を介して出力要素に伝達される振動の振幅を比較的早期に減少から増加に転じさせることが可能となる。
そして、前記中間要素(12,12′,13)の固有振動数に対応した回転数は、前記入力要素(11,11′,11Y,11Z,11V,11W)から前記トルク伝達経路(TP1,TP)を介して前記出力要素(15,15′,15Y,15Z,15V,15W)にトルクが伝達される回転数域の最小回転数(Nlup)よりも高くてもよく、前記第2弾性体(SP2,SP2′)を介して前記出力要素(15,15′,15Y,15Z,15V,15W)に伝達される振動の振幅は、前記入力要素(11,11′,11Y,11Z,11V,11W)の回転数が前記最小回転数(Nlup)以上であり、かつ前記入力要素(11,11′,11Y,11Z,11V,11W)の回転数が前記中間要素(12,12′,13)の固有振動数に対応した回転数に達する前に減少から増加に転じるとよい。
更に、前記回転慣性質量ダンパ(20,20X,20Y,20Z,20D,20E,20F,20G)は、前記入力要素と一体に回転する第1要素(80,11,11Y,11Z,23D,27a,28,29a)、前記出力要素(15,15Y,15Z)と一体に回転する第2要素(23,25,27b,27G,29b)、および前記質量体(22,22m,5,28m,29m)と一体に回転する第3要素(22,22D,28,29G)を有する差動装置(21,21D、21E,21F,21G)を含んでもよい。これにより、質量体の慣性モーメントの大きさ等に応じて、第3要素すなわち質量体の回転数を入力要素よりも増速させたり、入力要素よりも減速させたりすることができる。この結果、回転慣性質量ダンパから出力要素に付与される慣性モーメントを良好に確保しつつ、質量体やダンパ装置全体の設計の自由度を向上させることが可能となる。ただし、回転慣性質量ダンパは、質量体の慣性モーメントの大きさによっては、質量体を入力要素と等速で回転させる等速回転機構であってもよく、入力要素と出力要素との相対回転数に応じて質量体の回転数を変化させる変速機構を含むものであってもよい。
また、前記差動装置は、遊星歯車(21,21W,21D、21E,21F,21G)であってもよい。ただし、差動装置は、遊星歯車に限られず、例えばリンク機構等を有するものであってもよい。
更に、前記トルク伝達経路(TP)は、前記中間要素として第1および第2中間要素(13,14)を含むと共に、第3弾性体(SP3)を更に含んでもよく、前記第1弾性体(SP1′)は、前記入力要素(11Z)と前記第1中間要素(13)との間でトルクを伝達してもよく、前記第2弾性体(SP2′)は、前記第1中間要素(13)と前記第2中間要素(14)との間でトルクを伝達してもよく、前記第3弾性体(SP3)は、前記第2中間要素(14)と前記出力要素(15Z)との間でトルクを伝達してもよく、前記第1および第2中間要素(13,14)は、環状部材であり、前記第1および第2中間要素(13、14)の少なくとも何れか一方の前記減衰比(ζ)が値1未満であってもよい。かかるダンパ装置では、入力要素からトルク伝達経路を介して出力要素に伝達される振動と、入力要素から回転慣性質量ダンパを介して出力要素に伝達される振動とが理論上互いに打ち消し合うことになる反共振点を合計3つ設定することができるので、振動減衰性能をより一層向上させることが可能となる。
また、前記中間要素(12,12′,13,14)は、流体伝動装置のタービンランナ(5)に一体回転するように連結されてもよい。これにより、中間要素の慣性モーメントを実質的に大きくして、振動数が最小となる反共振点をより低周波側にシフトさせることが可能となる。
更に、前記回転慣性質量ダンパ(20X)の前記質量体は、流体伝動装置のタービンランナ(5)を含んでもよい。これにより、専用の質量体を設ける場合に比べてダンパ装置全体の大型化を抑制しつつ回転慣性質量ダンパの質量体の慣性モーメントをより大きくし、当該回転慣性質量ダンパから出力要素に付与される慣性モーメントをより大きくすることが可能となる。
また、前記第1弾性体(SP1,SP1′)のばね定数と、前記第2弾性体(SP2,SP2′)のばね定数とが同一であってもよい。
更に、前記第1弾性体(SP1,SP1′)のばね定数と、前記第2弾性体(SP2,SP2′)のばね定数とは互いに異なっていてもよい。これにより、2つの反共振点の間隔をより大きくして、低周波域(低回転数域)におけるダンパ装置の振動減衰効果をより向上させることが可能となる。
また、前記出力要素の振動振幅がゼロになる反共振点の振動数のうちの最小振動数に基づいて、前記第1および第2弾性体のばね定数と、前記中間要素および前記質量体の慣性モーメントとが定められてもよい。
更に、前記反共振点の最小振動数と前記エンジンの気筒数とに基づいて、前記第1および第2弾性体のばね定数と、前記中間要素および前記質量体の慣性モーメントとが定められてもよい。
また、前記ダンパ装置は、前記反共振点の前記最小振動数を“fa1”とし、前記エンジンの気筒数を“n”としたときに、500rpm≦(120/n)・fa1≦1500rpmを満たすように構成されてもよい。
このように、出力要素の振動振幅をより低下させ得る反共振点を500rpmから1500rpmまでの低回転数域内に設定することで、より低い回転数でのエンジンと入力要素との連結を許容すると共に、エンジンからの振動が大きくなりがちな低回転数域におけるダンパ装置の振動減衰効果をより向上させることが可能となる。そして、トルク伝達経路で発生する何れかの共振(R1)の振動数が反共振点の振動数fa1よりも小さく、かつできるだけ小さい値になるようにダンパ装置を構成することで、反共振点の振動数fa1をより小さくし、より一層低い回転数での内燃機関と入力要素との連結を許容することができる。
更に、前記ダンパ装置は、前記エンジンと前記入力要素とを連結するロックアップクラッチのロックアップ回転数を“Nlup”としたときに、Nlup≦(120/n)・faを満たすように構成されてもよい。これにより、ロックアップクラッチにより内燃機関と入力要素とを連結する際や両者の連結直後に、内燃機関からの振動をダンパ装置により極めて良好に減衰することが可能となる。
また、前記ダンパ装置は、900rpm≦(120/n)・fa≦1200rpmを満たすように構成されてもよい。
更に、前記差動装置は、遊星歯車であってもよく、前記反共振点の前記最小振動数fa1は、上記式(8)により表されてもよい。なお、回転慣性質量ダンパがシングルピニオン式以外の遊星歯車により構成される場合には、式(8)において“γ=λ2/(1+λ)”とし、定数γを入力要素および出力要素に対する遊星歯車の回転要素の接続態様と当該遊星歯車のギヤ比とから定めればよい。
更に、前記ダンパ装置は、前記入力要素に伝達される入力トルクが予め定められた閾値以上になるまで、前記第1および第2弾性体の撓みが規制されないように構成されてもよい。この場合、閾値は、ダンパ装置の最大捩れ角に対応したトルク値であってもよく、それよりも小さいトルク値であってもよい。
また、前記出力要素は、変速機の入力軸に作用的に連結されてもよい。
本開示の他のダンパ装置は、エンジン(EG)からのトルクが伝達される入力要素(11V,11W)と出力要素(15V,15W)とを含むダンパ装置(10V,10W)において、第1および第2中間要素(13,14)、前記入力要素(11V,11W)と前記第1中間要素と(13)の間でトルクを伝達する第1弾性体(SP1′)、前記第1中間要素(13)と前記第2中間要素(14)との間でトルクを伝達する第2弾性体(SP2′)、および前記第2中間要素(14)と前記出力要素(15V、15W)との間でトルクを伝達する第3弾性体(SP3)を含むトルク伝達経路(TP)と、前記入力要素(11V,11W)と前記第2中間要素(14)との相対回転に応じて回転する質量体(22,22m,23,23m)を有し、前記トルク伝達経路(TP)の前記第1弾性体(SP1′)、前記第1中間要素(13)および前記第2弾性体(SP2′)と並列に設けられる回転慣性質量ダンパ(20V、20W)とを備え、少なくとも前記第1中間要素(13)の慣性モーメントと前記第1および第2弾性体(SP1′,SP2′)の剛性とに基づいて定まる該第1中間要素(13)の減衰比が値1未満であることを特徴とする。
かかるダンパ装置のように、回転慣性質量ダンパをダンパ装置の入力要素と第2中間要素とに連結することで、回転慣性質量ダンパと出力要素に連結される部材との間に第3弾性体を介在させ、両者を実質的に切り離すことができる。これにより、2つの反共振点の設定を可能としつつ、出力要素に連結される部材の慣性モーメントから定まる固有振動数に対する回転慣性質量ダンパ全体の慣性モーメントの影響を極めて良好に低減化することができる。この結果、ダンパ装置の出力要素に連結される部材の剛性が低く、当該部材の慣性モーメントから定まる固有振動数(共振周波数)が回転慣性質量ダンパ全体の慣性モーメントの影響により小さくなったとしても、本来、入力要素の回転数が高い状態で発生する共振が低回転域で発生して顕在化してしまうのを良好に抑制することが可能となる。
また、前記回転慣性質量ダンパは、前記入力要素と一体に回転する第1要素、前記第2中間要素と一体に回転する第2要素、および前記質量体と一体に回転する第3要素を有する遊星歯車を含んでもよい。
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで課題を発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。