WO2016051443A1 - 回折格子素子、照射装置および照射方法 - Google Patents
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Abstract
らせん波のらせん度を任意に制御する。また、らせん波のらせん度を「1」よりも小さな非整数値のレベルで制御する。格子面に刃状転位を含む第1の回折格子と第2の回折格子とが、一つの平面に並べられた回折格子素子の格子間隔または回折格子の方位を調整することにより第1の回折格子および第2の回折格子がそれぞれ生成する第1の回折像の一部と第2の回折像の一部とを重畳させる。この重畳部を絞り孔により選択することにより、非整数値を含む任意のらせん度を持つらせん波を生成させることができる。
Description
本発明は、回折格子素子、光線または粒子線を照射する照射装置および光線または粒子線を試料に照射する照射方法に関する。
らせん状の波面をもつ電子波やその応用に関する研究がなされている。
たとえば、特許文献1には、ゾーンプレートを用いて、入射する波動を変化させ、生成されるらせん波の形状を制御する技術が開示されている。
本発明者は、らせん波の研究開発に従事しており、その生成方法および利用方法について、検討している。その過程において、より有用ならせん波の生成方法や利用方法についての知見を得た。
すなわち、フォーク型格子と呼ばれる刃状転位を含む回折格子(刃状転位回折格子)による回折波を利用する方法において、試料の観測や軌道角運動量を利用した加工や磁化制御などにも適用できるよう、より有用ならせん波の生成方法や利用方法が求められている。そして、それらを実現するために、本発明者は、回折スポットの大きさや形状、非整数値を含む任意のらせん度を持つらせん波を生成させることにより、らせん波の制御において高い自由度を確保できることを見出した。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
本願において開示される一実施の形態に示される回折格子素子は、格子面に刃状転位を含む第1の回折格子と第2の回折格子とが、一つの平面に並べられた回折格子素子である。そして、第1の回折格子および第2の回折格子は、第1の回折格子が生成する第1の回折像の一部と第2の回折格子が生成する第2の回折像の一部とが重畳する格子間隔または回折格子の方位を有する。
本願において開示される一実施の形態に示される照射装置は、回折格子素子と、回折格子素子で回折された光線または粒子線による回折像または回折像の一部を取捨選択する絞りと、を有し、回折像または回折像の一部を試料に照射する照射装置である。そして、回折格子素子は、一つの平面に並べられた、格子面に刃状転位を含む第1の回折格子と第2の回折格子とを有し、第1の回折格子および第2の回折格子は、第1の回折格子が生成する第1の回折像の一部と第2の回折格子が生成する第2の回折像の一部とが重畳する格子間隔または回折格子の方位を有する。
本願において開示される一実施の形態に示される照射方法は、(a)回折格子素子に光線または粒子線を照射する工程、(b)回折格子素子で回折された光線または粒子線による回折像を検出する工程、(c)回折像または回折像の一部を絞りにより取捨選択する工程、(d)回折像の一部を試料に照射する工程、を有する。
そして、(a)工程は、格子面に刃状転位を含む第1の回折格子と第2の回折格子とが、一つの平面に並べられた回折格子素子であって、第1の回折格子および第2の回折格子は、第1の回折格子が生成する第1の回折像の一部と第2の回折格子が生成する第2の回折像の一部とが重畳する格子間隔または回折格子の方位を有する回折格子素子に、光線または粒子線を照射する工程である。また、(c)工程は、第1の回折像の一部と第2の回折像の一部とが重畳することにより形成された重畳部を絞りにより選択する工程である。そして、(d)工程は、上記重畳部を試料に照射する工程である。
本願において開示される以下に示す代表的な実施の形態に示される回折格子素子によれば、非整数値を含む任意のらせん度を持つらせん波を生成させることができる。
本願において開示される以下に示す代表的な実施の形態に示される照射装置によれば、非整数値を含む任意のらせん度を持つらせん波を生成させることができる。
本願において開示される以下に示す代表的な実施の形態に示される照射方法によれば、試料に、非整数値を含む任意のらせん度を持つらせん波を照射することができる。
(実施の形態)
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明するが、その前に、らせん波およびらせん波の生成方法について説明する。
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明するが、その前に、らせん波およびらせん波の生成方法について説明する。
<1.らせん波>
本願で用いられるらせん波について、光波を例に説明する。コヒーレントな光学系においては、伝播する光波の位相は一意に定まる。その位相が等しい面を波面と呼び、その波面の形状から平面波23(図1(a)参照)、球面波など波動の分類が成されている。
本願で用いられるらせん波について、光波を例に説明する。コヒーレントな光学系においては、伝播する光波の位相は一意に定まる。その位相が等しい面を波面と呼び、その波面の形状から平面波23(図1(a)参照)、球面波など波動の分類が成されている。
一方、位相が一意に定まらない特異点を持つ場合も存在する。たとえば、等位相面がある軸(一般に光軸に平行)を中心にらせん形状をしたらせん波である。これは波の伝播方向に垂直な平面で切って見た場合に、特異点を中心(らせんの軸)として、方位角を1回転周回させたときに位相が2πの整数倍だけ変化する位相状態を持つ波のことである。2πの整数倍の位相の変化量は、伝搬する光波では波長の整数倍の変化に相当する。
図1(b)に方位角を1回転周回させたときに位相が2π変化するらせん波21を示す。本願ではこの状態の波を「らせん度1」のらせん波と呼ぶ。図1(b)から明らかなように、らせん軸22の軸上は位相の特異点となっており位相を定めることができない。
図1(c)は方位角を1回転周回させたときに位相が4π変化する「らせん度2」のらせん波24である。伝搬する光波で考えると方位角を1回転周回させたときに2波長分だけ波面が変化することになる。波長が伸びることはないので、図1(d)に示すように、図1(c)のらせん波24の波面とちょうど半回転ずれた別の波面を考え、両方の波面を合わせて図1(e)に示した位相分布がらせん度2のらせん波24のモデルと考えられている。位相が一意に定まらない特異点(らせんの軸22)を持つことは、らせん度1の場合と同じである。他のらせん度でも、図1(e)と同様にらせん度に合わせて、複数枚の波面の組み合わせで考えられる。
らせん度が非整数値をとる場合は、簡単なモデルとして図1のごとく描画することはできないが、らせん度が非整数値のらせん波自体は自然界に存在している。
図2(a)は収束するらせん波を流線27で描いた粒子モデルの図である。簡単には、流線27を粒子軌道と考えて、波面に垂直方向に軌道(流線)が描かれていると考えてよい。らせん度が大きくなるほど、ねじれの度合いが強くなる。
図2(b)は、収束面(回折面94)での波動の強度分布を描いたもので、らせん波は収束点で環状(リング状)のスポット97となることを特徴とする。このリング形状は、ベッセル関数(円筒関数)で表記される。図2(a)に示すごとく、収束するらせん波(粒子)はねじれながら伝搬するため伝搬方向の垂直方向に運動量を伝達できる。
たとえば収束面94(図2(b)に示されている平面)に試料を置いた場合には、当該試料に対して平面内の方向に運動量を伝達できる。このように運動量伝達可能な波であることが、らせん波の特徴である。図2(b)に示した例では、反時計方向に回転する運動量が伝達される。また、運動量の全方位での合成和はゼロである。
このらせん波は、光学ではラゲール・ガウシアンビームや光渦(ひかりうず)と呼ばれ、軌道角運動量を保持したまま伝播する光波であり、等位相面(波面)内に力を作用させることができる。そのため、照射対象に対して運動量を与えることが可能となり、たとえば細胞程度の大きさの粒子を操作する光ピンセットなどのマニピュレーション技術、レーザー加工や超解像顕微分光法として実用化されている。さらには、位相特異点であるらせん軸の部分に複数の軌道角運動量を内在できることから量子情報通信の分野で注目されている他、X線では磁化状態や原子配列の立体像の解析など、物性解析、構造解析に新たな技術的展開が期待されている。
なお、ここでいうトポロジカルチャージ(軌道角運動量の内在)は、らせんの巻きの強さを選べるところに利点がある。以降では、簡単のため、トポロジカルチャージの意味も含めて「らせん度」と呼ぶことにする。
電子線におけるらせん波(電子らせん波)は、軌道角運動量を保持したまま電子線が伝播するので、今までにない電子線のプローブ(入射ビーム)としての応用分野を生み出すと期待されている。たとえば、磁化測定における高感度化や3次元状態の計測、たんぱく質分子や糖鎖の高コントラスト・高分解能観察などである。とりわけ、磁化観察においては、電子線は伝播方向と平行な磁化に対しては感度を持たない原理的な欠点を持っているが、電子らせん波では電子線の伝播方向の磁化を観察できる可能性がある。
また、観測だけでなく、軌道角運動量を利用した加工や磁化制御などにも適用の可能性がある。そのため、スピン偏極電子線と並んで、次世代の電子線装置のプローブとして脚光を浴び始めている。すなわち、波動場・粒子を問わず、新しいプローブとして可能性があり、ここで述べた光波、電子線以外にもX線や中性子線、イオンビームに対しても応用展開が考えられる。
なお、中性子線について光学系を議論することに対して異存があるかもしれない点について、記載しておく。中性子線に対しても有効なレンズを開発し、結像光学系を組む試みは過去にある。そのため、本実施の形態においては、原理的には他の荷電粒子線と同様の取り扱いが可能と考えている。
<2.らせん波の生成>
らせん波を作り出すには、3通りの方法が実現されている。第1の方法は、らせん形状(厚さ分布)をした薄膜(位相板)に平面波を照射し、透過した波の位相分布が膜の厚さを反映してらせん形状となることを利用する方法である。第2の方法は、フォーク型格子と呼ばれる刃状転位を含む回折格子(刃状転位回折格子)による回折波を利用する方法である(図3参照)。第3の方法は、棒状の磁性体の一方の極から発する磁力線を利用する方法である。
らせん波を作り出すには、3通りの方法が実現されている。第1の方法は、らせん形状(厚さ分布)をした薄膜(位相板)に平面波を照射し、透過した波の位相分布が膜の厚さを反映してらせん形状となることを利用する方法である。第2の方法は、フォーク型格子と呼ばれる刃状転位を含む回折格子(刃状転位回折格子)による回折波を利用する方法である(図3参照)。第3の方法は、棒状の磁性体の一方の極から発する磁力線を利用する方法である。
第1の方法は電子波のごとく波長が極端に短い場合にはらせん形状をした薄膜の作製が難しい。また、第3の方法は、磁化の量的な制御や、磁力線分布の非等方性などにより磁力線の制御が難しい。そのため、刃状転位回折格子を用いる第2の方法を用いることが好ましい。但し、非整数の刃状転位は一般には存在しないため、第2の方法で生成されるらせん波は整数値のらせん度のみを持つという特徴を備えている。
次に、図3を参照しながら、刃状転位を含む回折格子(刃状転位回折格子)を用いる第2の方法について詳細に説明する。図3は、刃状転位回折格子かららせん波が生成される様子を示す模式図である。図3に示すように、刃状転位回折格子91から回折波として生成されたらせん波(等位相面がらせん形状を成している波)21は、電子回折像(回折像)9では通常の点状の回折スポット99に代わり、環状の回折スポット97を成す。この環状の回折スポットの1つを回折面94で空間的に分離できれば、所望のらせん波21を取り出すことができる。
そして、第2の方法によるらせん波の生成においては、刃状転位の次数によってらせん度の度数を制御することができる。また、刃状転位のバーガースベクトルの正負によってらせん度の正負(らせんの右巻き、左巻き)を制御することができる。図4(a)は実際に作製した3次の刃状転位回折格子91の電子顕微鏡像である。収束イオンビーム装置により窒化シリコンメンブレン(厚さ200nm)に加工を行い作製した。図4(a)の上側より格子が3本挿入され、中央部に集中している。すなわち、この集中部が刃状転位のコアの位置であり、図4(a)の次数は3次である。刃状転位の次数と生成されるらせん波の度数は、基本的に一致する。しかし、回折格子のコントラストが高く、高次の回折波が得られる場合には、刃状転位の次数と回折波の次数を乗算した積値のらせん度を持つらせん波も生成される。但し、刃状転位の次数も回折波の次数も整数値であるため、得られるらせん度も整数値のみとなる。
図4(b)は、図4(a)の回折格子を加速電圧300kVの電子線で照射した際に得られた電子回折像9(カメラ長150mで記録)である。中央部の0次スポット99の左右に±1次、±2次、±3次の環状の回折スポット97が観察されており、回折次数が高くなるほどリング径が大きくなることから、らせん度が±3次、±6次、±9次のらせん波が生成されていることがわかる。すなわち、回折スポットのリング径は、らせん波のらせん度を直接表している。このように、1枚の刃状転位を含む回折格子91から複数の種類のらせん波21を生成させることが可能である。そして、そのらせん波のいずれもが、整数値のらせん度を持っている。
また、図5(a)~(d)は、次数が異なる刃状転位回折格子とその電子回折像である。図5(a)~(d)の左側に、3次の刃状転位回折格子の電子顕微鏡像を示し、右側に実験で得られた電子回折像を示す。この電子回折像(小角電子回折像)は、それぞれ図5(a)~(d)の回折格子を加速電圧300kVの電子線で照射した際に得られた電子回折像(カメラ長150mで記録)である。
図5(a)~(d)の回折格子は、基本格子間隔400nmの格子が、刃状転位により全範囲に渡って緩やかに変化した構造を取っている。ここでは、回折格子の全視野幅10μm中の25本の平均の格子間隔を基本格子間隔とした。各図の刃状転位格子では、図中上側より転位の次数に合った格子が挿入され中央部に集中している。すなわち、この集中部が刃状転位のコアの位置であり、生成されるらせん波の軸となる。前述したように、刃状転位の次数と生成されるらせん波の度数は基本的に一致する。しかしながら、高次の回折波が得られる場合には、刃状転位の次数と回折波の次数の積が回折波のらせん度となる。図5(a)~(d)の右側では、それぞれ±3次の回折スポットまで得られている。よって、最大らせん度は±21(7次の刃状転位格子における±3次の回折スポット)である。図5(a)~(d)から明らかなように、回折次数が高くなるほど環状の回折スポットのリング径が大きくなるが、回折格子の空間周波数には依存していない。
図5(e)は、第1種ベッセル関数と環状の回折スポットの径との関係を示す図である。らせん波については、波動関数を円柱座標系(r、φ、z)で展開した時に現れる第1種ベッセル関数Jl(x)がその特徴を表すことが知られている。第1種ベッセル関数Jl(x)は、図5(e)の右下の挿入図のように表される。図5(e)のグラフは、図5(a)~(d)に示したらせん波の回折スポットのリング径とらせん度との関係を示す。らせん度は、図5(a)の1次の回折スポットを基準とし、第1種ベッセル(Bessel)関数の次数をlとしてグラフの横軸(Order of helical wave-front)に表記している。縦軸は、リング径(Daimeter of dif.ling(rad))である。その結果、らせん度の増加に伴い回折スポットのリング径が単調に増加すること、その増加の様子はほぼ線形(緩やかに上に凸)であることがわかる。なお、図5の背景の縞模様は、第1種Bessel関数の次数lをパラメータとして描画したものである。第1種Bessel関数の最低次の縞とリング径が一致している。すなわち、らせん波の小角回折で観察される環状の回折スポットは、らせん波を特徴づける第1種Bessel関数に対応していることがわかる。
ここで、本実施の形態の具体的な実施例を説明するのに先立って、本願の立脚する基本的なアイデアである刃状転位回折格子の開口サイズ・開口形状とその電子回折像との関係について簡単に説明する。
<3.刃状転位回折格子の開口サイズ・開口形状とその電子回折像>
図6(a)~(c)は、大きさが異なる円形開口を持つ3通りの刃状転位回折格子とその電子回折像である。円形の開口をもつ3次の刃状転位回折格子の開口サイズを変化させたときの回折格子を左側に示し、実験で得られた電子回折像を右側に示す。開口サイズ(ここでは、開口径)の比は3:2:1であり、実サイズは、10μm:6.7μm:3.3μmである。用いた回折格子の基本格子間隔は、400nmである。刃状転位回折格子は、窒化シリコンメンブレン(厚さ200nm)を収束イオンビーム装置(FIB)により加工したものである。
図6(a)~(c)は、大きさが異なる円形開口を持つ3通りの刃状転位回折格子とその電子回折像である。円形の開口をもつ3次の刃状転位回折格子の開口サイズを変化させたときの回折格子を左側に示し、実験で得られた電子回折像を右側に示す。開口サイズ(ここでは、開口径)の比は3:2:1であり、実サイズは、10μm:6.7μm:3.3μmである。用いた回折格子の基本格子間隔は、400nmである。刃状転位回折格子は、窒化シリコンメンブレン(厚さ200nm)を収束イオンビーム装置(FIB)により加工したものである。
図6(a)~(c)の右側の刃状転位回折格子の電子回折像においては、らせん波の生成を示すリング状(環状)の回折スポットを±3次のスポットまで表示している。開口径が小さくなるほど、リング状の回折スポットのリング径が大きくなっていることがわかる。
よって、図4を参照しながら説明した“らせん度”や、図5を参照しながら説明した“らせん度”、“刃状転位回折格子の次数”だけでなく、“開口サイズ”によっても回折スポットの大きさが制御できることがわかる。
図6では記録された電子回折像は画像処理によりコントラスト調整している。開口径が小さくなるほど入射電子線の強度が低下し、ノイズが目立ってくる。実用上の電子らせん波の生成にあたっては強度も重要であり、強度の向上のためには、入射電子線の強度と回折格子の耐電子線強度、回折効率などを含めた検討が必要である。
図7(a)~(e)は、さまざまな開口形状を持つ刃状転位回折格子とその電子回折像である。図7(a)~(e)の左側に示す刃状転位回折格子の開口形状は、上から順に、(a)円形、(b)三角形(正三角形)、(c)四角形(正方形)、(d)五角形(正五角形)、(e)星形である。刃状転位の次数は、3次である。実験で得られた電子回折像を右側に示す。図6(a)~(c)に示す場合と同様に、用いた回折格子の基本格子間隔は、400nmである。
図7(a)~(e)の右側に示すように、各々の回折スポットは、それぞれ円形、三角形、四角形、五角形、星形の開口形状を反映した環状の形を成している。基本的に電子回折像は、回折格子が配置された空間の周波数成分(あるいは角度成分)を反映した点状スポットの集まりとして構成されるもので、このように回折スポット自体が複雑な形状を描くことは新しい知見である。
本結果は、刃状転位回折格子を照射する電子線の平行度が極めて高く(1×10-7rad以下)、かつ、高い角度分解能を持つ小角回折法(カメラ長:100m~数km)が実現できたことにより得られた結果である。この結果により、刃状転位回折格子の“開口形状”を制御することによって、回折スポットの形状を制御できることがわかる。
このように、“らせん度”“刃状転位回折格子の次数”“開口サイズ”や“開口形状”を制御することによって、逆空間でのらせん波の制御において回折スポットの大きさと形状に高い自由度を確保できることがわかった。
このように回折格子が刃状転位回折格子の場合の新たな知見は、回折格子と開口形状とのコンボリュージョンの結果と考えることができる。すなわち、刃状転位を格子面内に含む場合、回折格子からの回折波はデルタ関数的に局在するのではなく、回折格子の格子間隔に対応した空間周波数部にベッセル関数(円筒形関数)に依存した環状に分布する。
そのため、そのベッセル関数的な広がりを持つ分布と開口形状を反映した電子回折像との積の結果により、開口形状を反映した分布を持つ環状の回折スポットが得られる。すなわち、刃状転位回折格子を用いることにより、従来は特別に光学系を構成しなければ得られかなった開口形状を持つ回折スポットが、従来の光学機器、あるいは粒子線装置でも簡便に得られるようになる。
以下に、本実施の形態について実施例を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態は、複数の刃状転位回折格子を用いることによって、環状の回折スポットを重畳させ、この重畳部において非整数のらせん度をもつらせん波を生成するものである。具体的には、環状の回折スポットを重畳させるための、複数の刃状転位回折格子を有する回折格子素子、また、光線または粒子線における非整数のらせん度をもつらせん波を照射する照射装置(光学機器または粒子線装置)、また、光線または粒子線における非整数のらせん度をもつらせん波を照射する照射方法(回折法)を提供するものである。
<実施例1>
図8を参照しながら、本実施の形態の実施例1を説明する。本実施例においては、基本空間周波数の異なる2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子とその回折像について検討する。図8は、ひし形開口を持つ刃状転位回折格子2個から構成される刃状転位回折格子素子とその回折像のシミュレーションである。回折格子を左側に示し、シミュレーションで得られた回折像を右側に示す。
図8を参照しながら、本実施の形態の実施例1を説明する。本実施例においては、基本空間周波数の異なる2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子とその回折像について検討する。図8は、ひし形開口を持つ刃状転位回折格子2個から構成される刃状転位回折格子素子とその回折像のシミュレーションである。回折格子を左側に示し、シミュレーションで得られた回折像を右側に示す。
刃状転位回折格子の格子間隔を変更することによって、回折面での環状スポットの中心位置(基本空間周波数)を変更することが可能となる。図8では、2つの刃状転位回折格子から生成される2つの環状の回折スポットがちょうどその大きさの1/4ずつ重なるように設計されている。
なお、本実施例においては、図上での重なり具合の認識を良好にするため、環状スポットの直径の大きい、9次の次数を有する刃状転位の場合を例示した。すなわち、重畳した回折パターンが作る閉じた形状(ひし形)は9次のスポットの1/4のサイズであり、9/4(=2.25)のらせん度を持つ環状スポットとなっている。
たとえば環状スポットの重畳領域を小さくしたり、刃状転位回折格子の次数を減らしたりすれば、らせん度1以下の環状スポットが構成される。たとえば、次数9次の刃状転位格子で1次の回折スポットの重なりを1/10とすれば、9/10(=0.9)のらせん度を持つ環状スポットとなり、また、次数1次の刃状転位格子で3次の回折スポットの重なりを1/4とすれば、3/4(=0.75)のらせん度を持つ環状スポットとなる。
図9(a)は、2つのひし形開口を持つ回折格子からなる回折格子素子の環状の回折スポットと絞り位置との関係を表す模式図である。図9(a)においては、図8で示した回折スポットの左側(-1次)の回折スポットを抽出し、模式的に示した。2つのひし形をした環状の回折スポット(97a、97b)の重畳領域に、絞り孔16が配置される。なお、図9においては、孔内の環状の回折スポットを可視化している(図15参照)。
図9(a)において、矢印で示したように、2つのひし形をした環状の回折スポット(97a、97b)が反時計回転のらせん波である場合、その重畳部もまた反時計回転の閉じた環状スポットをなす。この重畳部を絞り孔16で抽出し、絞り孔以降の光学系に伝播させて、観察や加工のためのプローブとすることができる。2つのひし形をした環状の回折スポット(97a、97b)の各々のらせん度だけでなく、各々の環状の回折スポット(97a、97b)の大きさや重畳の程度により生成される閉じた環状スポットの大きさ、すなわち、らせん度を制御することができる。このように、非整数値を含む任意のらせん度を持つらせん波を生成させることができる。
図9(b)は、2つの正方形開口を持つ回折格子からなる回折格子素子の環状の回折スポットと絞り位置との関係を表す模式図である。
図9(a)および(b)に示すように、正方形、ひし形などの矩形環状の回折スポットを対角線上に重ね合わせた場合、重畳部(各回折スポットの一部である重なり領域)において相似形の矩形環状のスポットを生成することができる。また、その大きさを重畳の程度により容易に制御することができる。このように、2つのひし形開口を持つ回折格子や2つの正方形開口を持つ回折格子に用いられる矩形の開口形状は、合理的な形状である。このため、本実施例ではひし形を成す環状の回折スポットの場合について特に詳細に説明したが、本実施の形態は、開口形状を矩形に限定するものではなく、図7を参照しながら説明したさまざまな開口形状を回折格子に適用してもよい。このことは以降の実施例の説明においても同様である。
<実施例2>
図10を参照しながら、本実施の形態の実施例2を説明する。本実施例においては、基本空間周波数の異なる2つの刃状転位回折格子のうちの一方の格子の位相を他方と相対的にπ変化させた回折格子素子とその回折像について検討する。図10は、2つの刃状転位回折格子における格子の位相がπ異なる時の回折格子素子とその回折像を示すシミュレーションである。回折格子を左側に示し、シミュレーションで得られた回折像を右側に示す。格子の位相とは、格子を構成する白黒縞模様の縞位置関係のことである。図10の左側に示す回折格子と図8の左側に示す回折格子とを比較した場合、それぞれの下側の格子の白黒がちょうど反転している。これは半波長分位相がずれたことを示しており位相変化πに該当する。
図10を参照しながら、本実施の形態の実施例2を説明する。本実施例においては、基本空間周波数の異なる2つの刃状転位回折格子のうちの一方の格子の位相を他方と相対的にπ変化させた回折格子素子とその回折像について検討する。図10は、2つの刃状転位回折格子における格子の位相がπ異なる時の回折格子素子とその回折像を示すシミュレーションである。回折格子を左側に示し、シミュレーションで得られた回折像を右側に示す。格子の位相とは、格子を構成する白黒縞模様の縞位置関係のことである。図10の左側に示す回折格子と図8の左側に示す回折格子とを比較した場合、それぞれの下側の格子の白黒がちょうど反転している。これは半波長分位相がずれたことを示しており位相変化πに該当する。
この上下の刃状転位回折格子の格子位相の変化は、回折像に反映されている。図10の右側に示す回折像と図8の右側に示す回折像とを比較した場合、環状スポットの重複位置の中央部のコントラストが異なっている。図10においては、環状スポットの重複位置の中央部においてスポット(パターン)が確認できる。
このように、らせん波にパターンを形成させたい場合、および2つのらせん波の相対的な位相を考慮して絞り孔で選択する場合には、刃状転位回折格子の格子位相を制御すればよい。
<実施例3>
図11を参照しながら、本実施の形態の実施例3を説明する。本実施例においては、格子の方位が異なる2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子とその回折像について検討する。図11は、格子の方位が異なる2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子とその回折像のシミュレーションである。回折格子を左側に示し、シミュレーションで得られた回折像を右側に示す。
図11を参照しながら、本実施の形態の実施例3を説明する。本実施例においては、格子の方位が異なる2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子とその回折像について検討する。図11は、格子の方位が異なる2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子とその回折像のシミュレーションである。回折格子を左側に示し、シミュレーションで得られた回折像を右側に示す。
刃状転位回折格子の方位を調整することによって、回折像を図中縦方向に重畳させることが可能となる。
図11では、左側に示す2つの回折格子のうち、上部の回折格子が時計方向に方位回転し、下部の回折格子が反時計方向に方位回転している。本実施例の場合においては、格子間隔は同じでよい。ここで、回折格子の方位とは、時計の12時方向に対する回折格子の中心格子線の角度ずれ(角度θ、方位角ともいう)をいう。
このように、回折格子の方位を変えた場合においても、回折像を重畳させることができ、実施例1(図9)の場合と同様に、重畳部を絞り孔16で抽出し、絞り孔以降の光学系に伝播させて、観察や加工のためのプローブとすることができる。
本実施例においては、装置に、回折格子の方位を回転可能なシステムを組み込むことにより、容易に回折像を重畳させることができる。また、格子間隔は同じ回折格子を用いるため、格子の加工精度などには変更が不要である。
<実施例4>
図12を参照しながら、本実施の形態の実施例4を説明する。本実施例においては、格子および開口の方位が異なる2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子とその回折像について検討する。図12は、格子と開口の方位が異なる2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子とその回折像を示すシミュレーションである。回折格子を左側に示し、シミュレーションで得られた回折像を右側に示す。
図12を参照しながら、本実施の形態の実施例4を説明する。本実施例においては、格子および開口の方位が異なる2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子とその回折像について検討する。図12は、格子と開口の方位が異なる2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子とその回折像を示すシミュレーションである。回折格子を左側に示し、シミュレーションで得られた回折像を右側に示す。
本実施例においては、実施例3の場合と同様に刃状転位回折格子の方位を調整して回折像を図中縦方向に重畳させている(図12の右側)。但し、本実施例においては、回折格子の方位だけでなく回折格子の開口の方位もあわせて方位角回転させている。図12の左側に示す回折格子と図11の左側に示す回折格子とを比較した場合、図12の上側の回折格子においては、ひし形開口の対角線が回折格子の中心格子線と合うように、開口の方位が12時方向からずれている。同様に、図12の下側の回折格子においては、ひし形開口の対角線が回折格子の中心格子線と合うように、開口の方位が12時方向からずれている。ここで、開口の方位とは、時計の12時方向に対する開口形状の中心線(左右対称線)の角度ずれ(角度θ)をいう。
このように、格子の方位と開口の方位とをあわせて方位角回転させる場合は、製作した回折格子を開口ごと方位角回転させればよいので、システム上の機械構成を容易にすることができる。これにより、実験中に回折格子を方位角回転させる機構を導入することも可能となり、より実用的な装置構成とすることができる。
但し、本実施例においては、格子の方位と開口の方位とをあわせて方位角回転させているため、図12の右側に示す回折像に示すように、ひし形環状の回折スポットの重畳部の形状は、ひし形からずれる。このように、矩形環状の回折スポットの重畳部の形状が、元の矩形の相似形とならず、ずれた形状となる。但し、このずれ方は、格子の方位の回転角に依存して幾何学的に定まっているので、あらかじめずれ量を考慮して方位角回転を与えれば、実用上問題はない。
<実施例5>
図13を参照しながら、本実施の形態の実施例5を説明する。本実施例においては、2つの刃状転位回折格子の格子間隔と格子の方位の両方を制御する場合について検討する。図13は、基本空間周波数と格子の方位などによる矩形回折スポットの重畳部の位置制御の例を示す図である。
図13を参照しながら、本実施の形態の実施例5を説明する。本実施例においては、2つの刃状転位回折格子の格子間隔と格子の方位の両方を制御する場合について検討する。図13は、基本空間周波数と格子の方位などによる矩形回折スポットの重畳部の位置制御の例を示す図である。
2つの刃状転位回折格子の格子間隔と格子の方位の両方を制御できる場合には、逆空間上で直交する方向(x方向、y方向)に2つの矩形回折スポットを移動させることが可能となり、より精密ならせん度の制御が可能となる。図13に、逆空間上に張った座標上での2つの矩形スポット97a、97bの位置関係を示す。矩形スポット97a、97bの1辺をl、矩形スポット97a、97bの中心位置の座標原点(O)からの距離をdとすると、2つの矩形スポット97a、97bの重複により生成される矩形スポットの1辺はl-dとなり、対応する絞り孔径は√2(l-d)と定まる(図中の破線で囲んだ部分参照)。
これにより、非整数らせん波環状スポットのらせん度φも一意に定まり、以下の式(1)で表される。
この式(1)が非整数の値をとり得ることは明らかである。ここで、nは、刃状転位回折格子の次数と回折スポットの次数の積(すなわち、対象としている環状スポット全体のらせん度)である。
逆空間上に張った座標原点(O)は、基本となる回折格子の方位と空間周波数(すなわち格子間隔)とにより定められる。また、矩形スポットの辺長lは、刃状転位の次数(すなわち、らせん度)と開口サイズが定める。さらに、矩形スポットの中心位置の座標原点からの距離dは、刃状転位回折格子の平均格子間隔と格子の方位、および辺長lの場合と同様に刃状転位の次数(すなわち、らせん度)と開口サイズが定める。これらは、用いる刃状転位回折格子、用いるビームの波長および用いる光学系にも依存するが、すべて設計可能なパラメータである。このことは、図8、図10、図11および図12を参照しながら説明したシミュレーションにおいてその結果が成されていることからも明らかである。すなわち、本実施の形態で述べている非整数値を持つらせん波は、制御して生成可能なものである。このように、格子間隔、回折格子の方位、開口形状、開口サイズ、刃状転位の次数のいずれかを適宜調整することにより、重畳部の形状(らせん度)を調整することができる。これにより、非整数値を持つらせん波を生成することができる。
<実施例6>
図14を参照しながら、本実施の形態の実施例6を説明する。本実施例においては、3つの刃状転位回折格子を用いた非整数値を持つらせん波について検討する。なお、用いる刃状転位回折格子の数は3つに限定されるものではない。
図14を参照しながら、本実施の形態の実施例6を説明する。本実施例においては、3つの刃状転位回折格子を用いた非整数値を持つらせん波について検討する。なお、用いる刃状転位回折格子の数は3つに限定されるものではない。
図14は、3つの環状の回折スポットと絞り位置との関係を表す模式図である。図示するように、3つの環状スポット97a、97b、97cが所定の位置関係で重なったとき、それらが重畳された中央部においては、対称性のよいふくらみを持った三角形状の閉じた環状スポットとなる。この環状スポットは、非整数らせん波となる。
本実施例においては、3つの円形の刃状転位回折格子を用いたため、三角形状の非整数らせん波となったが、用いる刃状転位回折格子の数が増えると、生成される非整数らせん波のスポット形状も辺の数(角数)が増え円形に近づく。
<実施例7>
図15を参照しながら、本実施の形態の実施例7を説明する。本実施例においては、非整数らせん波の生成とそれを試料へ照射する装置や方法について検討する。
図15を参照しながら、本実施の形態の実施例7を説明する。本実施例においては、非整数らせん波の生成とそれを試料へ照射する装置や方法について検討する。
図15は、2つの刃状転位回折格子による非整数らせん波の生成と試料への照射の例を示す模式図である。図示するように、2つのひし形の開口形状を持つ2つの刃状転位回折格子91による回折スポット97a、97bの重畳部を、絞り孔16を有する絞り孔素子15により、取捨選択し、絞り孔素子15の下部に配置された試料3に照射する。ひし形の環状の回折スポット97a、97bの形状およびその重畳部の形状は、実施例3(図11)と同様のものを例示している。但し、回折スポット97a、97bの形状やその重畳部の形状は、図示するものに限られるものではない。
このように試料3への非整数らせん波の照射装置および照射方法においては、絞り孔素子15の位置は回折スポットに合わせて移動可能であるとともに、絞り孔径が選択可能であることが好ましい。さらに、絞り孔16の形状も回折スポットにあわせて変化可能であれば、より好ましい。絞り孔径や絞り孔形状の選択や変更は、あらかじめ準備された複数種類の絞り孔の内から最適なものを選択する手法が簡便でかつ実効性が高いものである(図16(a)~(c))。しかし、このような手法に限られるものではなく、複数の絞り板15a~15dを組み合わせて任意の形状、大きさの絞り孔を、その都度、使用条件に合わせて作り出す手法を用いてもよい(図16(d))。図16(a)~(d)は、絞り孔素子の構成例を示す図である。
<実施例8>
図17を参照しながら、本実施の形態の実施例8を説明する。本実施例においては、非整数らせん波を試料へ照射する照射装置の具体例として電子顕微鏡について検討する。
図17を参照しながら、本実施の形態の実施例8を説明する。本実施例においては、非整数らせん波を試料へ照射する照射装置の具体例として電子顕微鏡について検討する。
図17は、回折格子システムを備えた透過型電子顕微鏡の例を示す模式図である。この透過型電子顕微鏡は、300kV程度の加速電圧を持つ汎用型の電子顕微鏡を想定したシステム構成で描かれているが、本実施例はこの構成を持つ電子顕微鏡に限定されるものではない。
図示するように、2つのひし形の開口形状を持つ2つの刃状転位回折格子91が加速管40下部の照射光学系中に設置されている。刃状転位回折格子素子91の上側のコンデンサレンズ41により刃状転位回折格子素子91を照射する電子線27の強度、照射領域の大きさなどが調整される。
ここでは、2つの刃状転位回折格子からなる回折格子素子91として、ひし形開口を持つ刃状転位回折格子を例示している。このようなひし形開口を持つ刃状転位回折格子は、実施例1(図8)や実施例3(図11)で説明したものと同様のものである。但し、刃状転位回折格子の開口形状は、図示するものに限られるものではなく、原理的にはこれまでに説明したすべての刃状転位回折格子を適用可能である。
らせん波の生成は、回折格子素子91を透過した電子線27が、閉じた環状の回折スポットを形成することにより確認される。用いた刃状転位回折格子の刃状転位の次数と回折スポットの次数の積で与えられるらせん波のらせん度は、環状の回折スポットの大きさから評価できる。
試料3を照射するらせん波を収束らせん波(環状の回折スポット)とするか平面波状らせん波とするかは、刃状転位回折格子素子91と試料3との間に位置する第2コンデンサレンズ42で選択可能である。そして、刃状転位回折格子素子91を透過した電子線のうち、所定の電子らせん波を試料3上方の絞り孔素子15により選択し、試料3に照射する。
図17においては、刃状転位回折格子素子91による1次の回折波を収束らせん波として試料3に照射する場合を例示している。このとき、刃状転位回折格子素子91が生成する環状の回折スポットの重畳部を絞り孔素子15で選択する。このような構成や方法は、実施例7(図15)において説明したとおりである。収束らせん波による試料の観察、あるいは試料の加工には、本実施例のような光学系を持つ装置を用いることができる。
試料3の透過像観察については、試料3を透過した電子線を試料より後段の対物レンズ5、および結像レンズ系(61、62、63、64)により拡大し、像検出面89に結像する。収束らせん波を用いる場合には、走査型の観察法が合理的ではあるが、これに限定するものではない。
たとえば、複数の刃状転位回折格子を用いて広い領域を照射可能ならせん波を作り出してもよいし、高分解能観察など広い領域照射を必要としない観察法ならば、照射可能が狭くても透過型観察は可能である。
結像された試料像35は、検出器79とコントローラ78を経て、たとえば画像データモニタ76の画面上で確認できる。また、試料像35を、記録装置77に画像データとして格納することもできる。
これら装置は、全体としてシステム化されており、オペレータはモニタ52の面上で装置の制御状態を確認するとともに、インターフェース53を介して、システム制御コンピュータ51操作する。これにより、電子源1、加速管40、各レンズ(41、42、5、61、62、63、64)、試料3、回折格子素子91、絞り孔素子15、検出器79などを制御することができる。
なお、想定される電子線装置は、電子線の偏向系や真空排気系などを備えているが、ここでは、その図示および説明を省略する。
<実施例9>
図17を用いて説明した電子線装置において、たとえば、複数の刃状転位回折格子素子91を有するホルダー(回折格子固定部)ごと電子線装置に着脱可能な機構としてもよい。
図17を用いて説明した電子線装置において、たとえば、複数の刃状転位回折格子素子91を有するホルダー(回折格子固定部)ごと電子線装置に着脱可能な機構としてもよい。
刃状転位回折格子素子91は、図18(a)に示すように、たとえば回折格子と開口部が別部材で構成されたものでもよい。また、図18(b)に示すように、回折格子と開口部が一体として構成されたものでもよい。また、図18(c)に示すように、素子を構成する回折格子を組み合わせて構成されるものでもよい。図18(a)~(c)は、刃状転位回折格子素子の構成例を示す図である。
複数の刃状転位回折格子素子91を有するホルダーは、透過型電子顕微鏡への装着後、それぞれ所定の素子を選択し、光学系内の所定の位置に搬送することが可能な構成となっている。そして、光学系内の所定の位置において、位置の微動(回転を含む)が可能な構成となっている。言い換えれば、ホルダーには、刃状転位回折格子素子や素子を構成する回折格子の位置調整機構が組み込まれている。これらの操作は、システム制御コンピュータ51から刃状転位回折格子素子の制御系96を介して行われる。
上記操作は、オペレータがシステム制御コンピュータのインターフェース53を介して、手動で行ってもよいし、定常的に決まった操作手順であれば、システム制御コンピュータ51に手順をプログラムして記憶させておき、自動的に行ってもよい。
また、図16を用いて説明した電子線装置において、たとえば、複数の絞り孔素子15を有するホルダーごと電子線装置に着脱可能な機構としてもよい。各絞り孔素子15は、たとえば形状の異なる絞り孔や複数の絞り板で構成される絞り孔有する(図16(a)~(d)参照)。
複数の絞り孔素子15を有するホルダーは、透過型電子顕微鏡への装着後、それぞれ所定の素子を選択し、光学系内の所定の位置に搬送することが可能な構成となっている。そして、光学系内の所定の位置において、位置の微動が可能な構成となっている。これらの操作は、システム制御コンピュータ51から絞り孔素子15の制御系17を介して行われる。
上記操作は、オペレータがシステム制御コンピュータのインターフェース53を介して、手動で行ってもよいし、定常的に決まった操作手順であれば、システム制御コンピュータ51に手順をプログラムして記憶させておき、自動的に行ってもよい。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
たとえば、上記実施の形態においては、電子線をらせん波とし、電子顕微鏡などの電子線装置に適用した例を挙げて説明したが、電子線の他、X線を含む光線、および中性子線、イオンビームなどの荷電、非荷電粒子線などにも本実施の形態を適用可能である。よって、光線を試料に照射する照射装置である光学機器や粒子線を試料に照射する粒子線装置に広く適用可能である。同様に、光線や粒子線を試料に照射する照射方法に広く適用可能である。
また、本発明において「照射」とは対象物に対してらせん波を照射することを指す。これは単に試料の情報を得るだけでなく、対象物の加工や、運動量を与えることによる移動、磁化制御など、対象物に対してらせん波を照射することに起因する結果を含んでいる。そして、本発明でいう「照射装置」や「照射方法」も、らせん波による計測装置・計測方法のみならず、荷電粒子線装置や他の光学装置を用いた同様の意味を有する装置や方法であることに言及しておく。
1…電子源、15…絞り孔素子、15a~15d…絞り板、16…絞り孔、17…絞り孔素子の制御系、18…真空容器、19…電子源の制御系、2…光軸、21…らせん波、22…らせん波の軸、23…平面波、24…らせん度2のらせん波、27…粒子線の流線および電子線の軌道、3…試料、35…試料像、39…試料保持装置の制御系、4…レンズ、40…加速管、41…第1コンデンサレンズ、42…第2コンデンサレンズ、47…第2コンデンサレンズの制御系、48…第1コンデンサレンズの制御系、49…加速管の制御系、5…対物レンズ、51…システム制御コンピュータ、52…システム制御コンピュータのモニタ、53…システム制御コンピュータのインターフェース、59…対物レンズの制御系、61…第1中間レンズ、62…第2中間レンズ、63…第1投射レンズ、64…第2投射レンズ、66…第2投射レンズの制御系、67…第1投射レンズの制御系、68…第2中間レンズの制御系、69…第1中間レンズの制御系、76…画像データモニタ、77…画像データ記録装置、78…画像データコントローラ、79…画像検出器、85…偏向器、88…偏向器の制御系、89…像検出面、9…回折像、91…刃状転位格子もしくは刃状転位格子素子、94…回折面、96…刃状転位格子素子の制御系、97…回折波の環状スポット、99…点状の回折スポット
Claims (15)
- 格子面に刃状転位を含む第1の回折格子と第2の回折格子とが、一つの平面に並べられた回折格子素子であって、
前記第1の回折格子および前記第2の回折格子は、前記第1の回折格子が生成する第1の回折像の一部と前記第2の回折格子が生成する第2の回折像の一部とが重畳する、格子間隔または回折格子の方位を有する、回折格子素子。 - 請求項1記載の回折格子素子において、
前記第1の回折像の一部と前記第2の回折像の一部とが重畳することにより形成された重畳部は、前記第1の回折像および前記第2の回折像のいずれよりも小さく、かつ、閉じた形状を成す、回折格子素子。 - 請求項1記載の回折格子素子において、
前記第1の回折格子および前記第2の回折格子は、格子間隔または回折格子の方位が異なる、回折格子素子。 - 請求項3記載の回折格子素子において、
前記第1の回折格子および前記第2の回折格子は、開口形状が同じである、回折格子素子。 - 請求項3記載の回折格子素子において、
前記第1の回折格子および前記第2の回折格子は、開口サイズが同じである、回折格子素子。 - 請求項3記載の回折格子素子において、
前記第1の回折格子および前記第2の回折格子は、刃状転位の次数が同じである、回折格子素子。 - 請求項4記載の回折格子素子において、
前記開口形状は、矩形である、回折格子素子。 - 回折格子素子と、
前記回折格子素子で回折された光線または粒子線による回折像または前記回折像の一部を取捨選択する絞りと、を有し、
前記回折像または前記回折像の一部を試料に照射する照射装置であって、
前記回折格子素子は、一つの平面に並べられた格子面に刃状転位を含む第1の回折格子と第2の回折格子とを有し、
前記第1の回折格子および前記第2の回折格子は、前記第1の回折格子が生成する第1の回折像の一部と前記第2の回折格子が生成する第2の回折像の一部とが重畳する、格子間隔または回折格子の方位を有する、照射装置。 - 請求項8記載の照射装置において、
前記第1の回折像の一部と前記第2の回折像の一部とが重畳することにより形成された重畳部は、前記第1の回折像および前記第2の回折像のいずれよりも小さく、かつ、閉じた形状を成し、
前記絞りは、前記重畳部を選択し、透過させる、照射装置。 - 請求項8記載の照射装置において、
回折格子固定部を有し、
前記回折格子固定部は、前記回折格子素子または前記第1の回折格子および前記第2の回折格子が組み込まれている、照射装置。 - 請求項10記載の照射装置において、
前記回折格子固定部は、前記回折格子素子または前記第1の回折格子および前記第2の回折格子の位置調整機構が組み込まれている、照射装置。 - (a)回折格子素子に光線または粒子線を照射する工程、
(b)前記回折格子素子で回折された光線または粒子線による回折像を検出する工程、
(c)前記回折像または前記回折像の一部を絞りにより取捨選択する工程であり、
(d)前記回折像の一部を試料に照射する工程、
を有し、
前記(a)工程は、格子面に刃状転位を含む第1の回折格子と第2の回折格子とが、一つの平面に並べられた回折格子素子であって、前記第1の回折格子および前記第2の回折格子は、前記第1の回折格子が生成する第1の回折像の一部と前記第2の回折格子が生成する第2の回折像の一部とが重畳する、格子間隔または回折格子の方位を有する回折格子素子に、光線または粒子線を照射する工程であり、
前記(c)工程は、前記第1の回折像の一部と前記第2の回折像の一部とが重畳することにより形成された重畳部を絞りにより選択し、
前記(d)工程は、前記重畳部を試料に照射する工程である、照射方法。 - 請求項12記載の照射方法において、
前記重畳部は、前記第1の回折像および前記第2の回折像のいずれよりも小さく、かつ、閉じた形状を成している、照射方法。 - 請求項12記載の照射方法において、
前記第1の回折格子および前記第2の回折格子は、格子間隔または回折格子の方位が異なる、照射方法。 - 請求項14記載の照射方法において、
前記(c)工程の前に、前記第1の回折格子および前記第2の回折格子の、格子間隔、回折格子の方位、開口形状、開口サイズ、刃状転位の次数のいずれかを調整することにより、前記重畳部のらせん度を調整する、照射方法。
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