WO2014034736A1 - 歯冠材料及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
支台の周りにZrO2-陶材複合材料が用いられ、審美性の観点から、ジルコニアと同じようにこの複合材料をコアとして用い、その表面に陶材を被覆する。また、咬合する部分を対合歯へのダメージを最小に抑えられるように複合材料の機械的性質を調整し、それより下部は破折しにくくするため高強度にするなど、陶材比率を傾斜配分させて、硬さ、強度特性に傾斜機能を持たせてもよい。
Description
本発明は、特に、性能、製造の容易性及び審美性に優れた歯冠材料及びその製造方法に関する。
近年、歯科治療を受けられる患者の審美的な関心が日増しに強くなってきており、メタルフリーという言葉が意味するように、金属を使わない治療法への要求が高まっている。そのために、歯科臨床の現場でも、その要望に応えられるような、審美性、強度、生体親和性等を兼ね備えた、より高度な治療法の開発が急務となっている。
従来、歯冠材料として、主に金属材料、セラミックス材料、高分子材料などが用いられてきたが、これらの材料は、いずれも長所と短所とを併せ持っている。例えば、金属材料は、鋳造法によって容易に作製できること、機械的性質には優れること等の長所を持つが、短所としては、審美性に劣ること、金属アレルギーの問題が指摘されてきた。セラミックス材料については、鋳造法、耐火模型法、CAD/CAM法などにより作製され、審美性、生体適合性という点では優れている。しかしながら、陶材が単独である場合には、曲げ強さが低く、また、破壊靭性値が低いため、咬合力によっては破折しやすい。高分子系材料については、審美性には優れ、充填操作が容易であり、小さな齲蝕の治療向けではあるが、機械的性質や耐久性に劣り、また、アレルギーや環境ホルモンの問題が指摘されている。
このように、それぞれの材料は長所、短所を併せ持ち、1つの材料で要求されるすべての特性を兼ね備えるのは困難であった。そこで、2種の材料を組み合わせる方法が提案されており、審美性と機械的性質とを同時に獲得するために用いられている材料として、金属に陶材を焼き付ける方法(メタルボンド)やあるいは金属に高分子材料を接着させる方法を用いた、いわゆる表面被覆複合材料が主流となっている。しかしながら、これらの材料は材料内部に異相界面が存在し、この界面を境に物理的、化学的特性に大きな段差が生じるため、表面層の脱落、破壊が生じやすく、理想的な歯冠材料であるとは言い難い。特に、臼歯部のような咬合力の負担が大きい部位では、表面層が脱落したり、破壊したりする可能性がある。
一方、CAD/CAMシステムの発達に伴い、歯冠材料としてにわかに注目を浴びてきている材料がジルコニアである。しかしながら、ジルコニアは機械的強度が高すぎるため、歯冠を作製する際の切削加工が非常に困難であり、微調整しにくいことが問題となっている。その対処法として1次焼結(仮焼結)後に切削加工を行い、その後に2次焼結を行うといった方法もとられているが、このような方法は非常に手間と時間とが多くかかり、また、切削加工用の専用ミリングマシーンは僅かしかないため、一般的な普及への大きな妨げとなっている。
また、1度口腔内に装着してしまうと、その後、何らかの問題が生じた場合に、硬すぎて削れず、除去が困難であるということや、現在用いられている歯科用セメントでは、ジルコニアと支台との接着力が劣るといった問題点も指摘されている。
また、ジルコニアは硬すぎるため、対合歯(天然歯)へのダメージが大きい。さらに、カラーバリエーションが少なく、陶材に比べて審美性に劣る。そのため、ジルコニア製のコアに陶材を焼き付けて補綴物を作製する方法が一般的であるが、従来の陶材焼き付け鋳造冠と同様に、ジルコニア/陶材界面部での陶材の破折や脱落などが指摘されている。これには界面の接合強度の問題だけでなく、両者の熱膨張係数の差に起因する熱応力も関係している。近年、熱膨張係数がジルコニアに近い陶材も開発されているが、十分とはいえない。以上のように、歯科におけるジルコニアを用いた修復治療は、さらなる改善を必要とするというのが現状である。
特許文献1には、ジルコニア粒子にガラスを被覆した粒子を圧縮成形後800℃乃至1300℃の温度に加熱して作製した非金属歯科用義歯の製造方法が開示されている。この方法では、ジルコニア粉末同士の焼結はほとんど行われないため、ジルコニア粉末の表面に被覆されているガラス同士の焼結が主体となり、このガラス同士の焼結が材料全体の強度を支配している。ところが、曲げ強さはある程度高くなるものの、破折や破壊に大きく影響する破壊靱性値は、ほとんど改善されない。
また、非特許文献1に記載されたチタン/歯科用陶材傾斜機能材料の場合は、チタンは金属アレルギーを起こしにくく安全性は高いといわれているが、近年、金属アレルギーを引き起こすことが報告されており、メタルフリーの観点からは好ましくない。また、チタン/歯科用陶材傾斜機能材料は、チタンの金属色の影響が大きく審美性に劣る。さらに、チタン/歯科用陶材傾斜機能材料の引張強さは、陶材単体の2倍ほどしかない。
第131回日本歯科保存学会プログラムおよび講演抄録集、「傾斜機能材料の歯冠修復への応用-チタン/歯科用陶材傾斜機能材料の機械的性質-」、P-134
本発明は前述の問題点に鑑み、機械的性質及び審美性に優れ、容易に製造できる歯冠材料及びその製造方法を提供することを目的としている。
本発明の歯冠材料は、支台の周りに接着される歯冠材料であって、体積比で50~99%のジルコニアと1~50%の陶材との複合材料からなることを特徴とする。
本発明の歯冠材料の製造方法は、体積比で50~99%のジルコニアと、1~50%の陶材とを混合して混合粉末を得る工程と、前記混合粉末を、1100℃以上で焼結して焼結体を得る工程と、前記焼結体をCAD-CAM法により加工する工程と、を有することを特徴とする。
本発明によれば、機械的性質及び審美性に優れ、容易に製造できる歯冠材料及びその製造方法を提供することができる。
本発明者らは、新しい歯冠材料(複合材料)として、曲げ強さが、100(市販の陶材の曲げ強さ)~1000(市販の真密度に近いジルコニアの曲げ強さより若干低い値)MPa、破壊靭性値が1(市販の陶材の破壊靭性値)~10(市販の真密度に近いジルコニアの破壊靭性値より若干低い値)のZrO2-陶材複合材料を発明した。この材料は、粉末焼結を利用して作成されるものであるため、陶材の比率を目的に応じて自由に変えることができる。
図1は、本実施形態に係る複合材料の歯冠及び支台の構造を説明する図である。
図1に示すように、支台12の周りに体積比で50~99%のZrO2と1~50%の陶材とのZrO2-陶材複合材料11が用いられ、審美性の観点から、ジルコニアと同じようにこの複合材料をコアとして用い、その表面に陶材13を被覆することも可能である。
図1に示すように、支台12の周りに体積比で50~99%のZrO2と1~50%の陶材とのZrO2-陶材複合材料11が用いられ、審美性の観点から、ジルコニアと同じようにこの複合材料をコアとして用い、その表面に陶材13を被覆することも可能である。
ここで歯冠とは、陶材の被覆を必要としない一体型のラミネートべニア、冠、被覆冠、インレー、アンレー、ブリッジ等の歯冠修復物、インプラントの上部構造、着脱式の義歯(有床義歯)の人工歯等、あるいは、陶材の被覆を必要とするコア、フレーム、一体型のラミネートべニア、冠、被覆冠、インレー、アンレー、ブリッジ等の歯冠修復物、インプラントの上部構造、着脱式の義歯(有床義歯)の人工歯等を含む。
また、図2及び図3に示すように、咬合する部分を対合歯へのダメージを最小に抑えられるように機械的性質を調整し、それより下部は破折しにくくするため高強度にするなど、陶材比率を傾斜配分させて、硬さ、強度特性に傾斜機能を持たせることが好ましい。
ジルコニアを単独で用いる場合には、仮焼結と本焼結との2回の焼結が必要であったが、本実施形態の複合材料では、一回の焼結で強度特性と審美性とを兼備した歯冠を成型することができる。また、図3に示すような傾斜機能材料(FGM)14にすると、対合歯へのダメージを少なくしたり審美性を良好にしたりするために行う陶材の焼き付け被覆も不要である。
陶材13を被覆する場合には、焼き付けの過程で複合材料中の陶材の部分と被覆用陶材との接合が行われるため、ジルコニアに陶材を被覆する場合に比べて格段に接合強度が高くなり、接合界面の剥離が起こりにくい。また、複合材料中の陶材比率を傾斜させて熱膨張特性に傾斜機能を持たせると、耐剥離性はさらに改善される。
本実施形態に係る複合材料の利点としては、次のようなことが挙げられる。まず、市販の真密度に近いジルコニアに比べて硬さが比較的低いため、一般に広く使われている歯科用切削バーでの加工が容易である。したがって、少数しか存在しないジルコニア専用のミリングマシーンを必要とせず、一般的なCAD/CAM加工機でも簡単に加工できる。
また、複合材料をコアとして用いた場合には、被覆した陶材の剥離が起こりにくく、傾斜機能材料(FGM)にすれば、陶材の被覆を必要としない一体型のラミネートべニア、冠、被覆冠、インレー、アンレー、ブリッジ等の歯冠修復物、インプラントの上部構造、着脱式の義歯(有床義歯)の人工歯等を作製できる。図23は、FGMの歯科治療への適用例を示す図である。
さらに、実用化する場合には、歯科用セメントを用いて歯と支台との接着が容易であり、口腔内からの除去を比較的容易に行うことができる。また、窩洞・支台形成を行った日に歯冠装着も可能である。
以下、本実施形態に係るZrO2-陶材複合材料の製造方法について説明する。ZrO2と陶材とを複合化する場合、大気中での焼結(無加圧焼結)、真空中もしくは不活性ガス中でのホットプレス、または放電プラズマ焼結(SPS)を利用することができる。大気中での焼結では、所定の形状に加工したゴム型、金型、またはプラスチック型に粉末を充填し、単軸加圧もしくは静水圧によって圧粉体を作成するか、もしくは粉末を一次焼結(仮焼結)後にCAD/CAM加工機で所定の形状に加工した後、大気中に1100℃以上の温度で焼結する。ホットプレスでは、CAD/CAM加工機を用いて黒鉛を所定の形状に加工し、その中に粉末を充填した後、真空中もしくは不活性ガス中、黒鉛パンチで単軸加圧しながら1100℃以上の温度で焼結する。本実施形態では、SPSを利用してZrO2と陶材とを複合化する方法について説明する。
SPSでは、ダイとして一般に黒鉛が用いられる。粉末を黒鉛ダイに充填後、上下の黒鉛パンチに荷重をかけながらパルス状の大電流を通電し、黒鉛ダイ及びパンチにより80MPa以下で1100℃以上に加熱することによって焼結が行われる。パルス通電によって粉末間にプラズマが発生し、ジュール熱との相乗効果により、低温、短時間での焼結が可能になる。
(ジルコニア)
ZrO2粉末は、粒径が大きいほど、SPSによる焼結を行う場合に比較的高い温度で焼結を行う必要がある。例えば、平均粒径が90nmのZrO2粉末の場合は、1450℃より高い焼結温度が必要となる。この温度域でSPSを行うと、焼結体の色は灰色となるため、歯冠表面部分での使用は審美性の点で適さない。したがって、コア材料としてのみ利用できる。一方、平均粒径が40nmのZrO2粉末の場合は、比較的低い温度(1300~1350℃)での焼結が可能である。この温度域でSPSを行うと、条件によっては焼結体の色は白もしくはそれに近い色となり、審美性の点では適している。したがって、コアとしてだけでなく、歯冠全体としての使用も可能である。
ZrO2粉末は、粒径が大きいほど、SPSによる焼結を行う場合に比較的高い温度で焼結を行う必要がある。例えば、平均粒径が90nmのZrO2粉末の場合は、1450℃より高い焼結温度が必要となる。この温度域でSPSを行うと、焼結体の色は灰色となるため、歯冠表面部分での使用は審美性の点で適さない。したがって、コア材料としてのみ利用できる。一方、平均粒径が40nmのZrO2粉末の場合は、比較的低い温度(1300~1350℃)での焼結が可能である。この温度域でSPSを行うと、条件によっては焼結体の色は白もしくはそれに近い色となり、審美性の点では適している。したがって、コアとしてだけでなく、歯冠全体としての使用も可能である。
なお、ZrO2粉末の平均粒径は、10nm~500μmであることが好ましい。前述したように、粒径が小さいほど低温度での焼結が可能であるため、40nmより小さい粒径のものも利用できる。実現が容易である最小の平均粒径としては、10nmと考えられる。一方、平均粒径を500μmにすると焼結温度が高くなる。焼結温度を低くするためには、Al2O3等の助剤を多く添加しなければならないが、焼結体の色は白色にはならない。しかし、コアとしては利用できるので最大の平均粒径は500μmであることが好ましい。また、焼結温度を低下したり助剤を不要にしたりするなど、コスト面での観点から、10nm~90nmであることがより好ましく、10nm~40nmであることがさらに好ましい。
ここで、平均粒径が40nmのZrO2粉末(東ソー株式会社、TZ-3Y-E:3mol%のイットリアを含む部分安定化ジルコニア粉末)2gを用いて、以下の条件に従ってSPSを行った結果を、表1、及び図4に示す。
SPSによる焼結
黒鉛ダイ: 内径20.5mm、外径40mm、長さ40mm
黒鉛パンチ: 外径20mm、長さ25mm
離型材: 0.25mm厚さの黒鉛シート
予備成型(単軸加圧): 10MPa
雰囲気: 真空中(10Pa)、アルゴンガス中
装置: 富士電波工機株式会社製
黒鉛ダイ: 内径20.5mm、外径40mm、長さ40mm
黒鉛パンチ: 外径20mm、長さ25mm
離型材: 0.25mm厚さの黒鉛シート
予備成型(単軸加圧): 10MPa
雰囲気: 真空中(10Pa)、アルゴンガス中
装置: 富士電波工機株式会社製
真空中で、加圧力を30MPaにしてSPSを行うと、1250℃では10分保持でも十分焼結されず、曲げ強さは低かった(試験片G)。1300℃では焼結が進み、曲げ強さ840~866MPaのものが得られた(試験片E、F)。1350℃に温度を上げると、1分保持(試験片D)では焼結の進行がまだ十分でなく、曲げ強さは610MPaであったものの、4分保持(試験片C)では、曲げ強さが968MPaとなり、1300℃で10分保持のものより高くなった。温度を上げたことにより、焼結が進行したものと考えられる。さらに高温の1400℃で1分保持した場合(試験片A)、曲げ強さは674MPaと1350℃で1分保持したものより高くなったが、1300℃で4分保持したものより低下した。以上の結果より、焼結温度は1400℃未満が好ましく、1100~1400℃がより好ましく、1200~1400℃がさらに好ましく、1300~1350℃が最も好ましい。また、保持時間は15分未満が好ましく、1~15分がより好ましく、1~10分がさらに好ましく、1~4分が最も好ましい。
また、加圧力30MPaの場合、焼結体の色は、1分保持(1350℃および1400℃)では、不均一(外周付近はほぼ白色、中央部は灰色)であったが、その他のSPS条件ではいずれも灰色でかつ均一であった。焼結体の色が灰色となった原因は、10Pa程度の真空中で加熱された場合、ダイ中に残存している微量な酸素とダイの成分である炭素(黒鉛)とが反応してCOガスが生成され、ZrO2が還元されることによってZrO2中に酸素欠陥が形成されたためと考えられる。
次いでSPSの加圧力の効果を調べた。1300℃において、加圧力を10MPaに下げて4分間保持したところ(試験片Hの場合)、焼結体の色はほぼ白色でかつ均一であった。SPSの加圧力を下げたことにより、ダイ中の圧粉体に残存している酸素量が増加したことによると考えられる。しかし、曲げ強さは669MPaであり、30MPaでSPSしたもの(試験片F)より低下した。このことは、コア材料のように強度を重視する場合、SPSの加圧力は30MPaで問題ないが、陶材を被覆しないで焼結体(ZrO2-陶材複合材料)のままで歯冠として用いる場合、審美性の観点から色は白いことが望まれるので、SPSの加圧力を低くする必要があることを示唆している。以上の結果より、加圧力は黒鉛ダイの破壊強度である80MPa未満が好ましく、焼結体の強度の観点からは30~80MPaがより好ましく、焼結体の色の観点からは5~30MPaがより好ましく、5~20MPaがさらに好ましく、5~10MPaが最も好ましい。
なお、ZrO2とは、純粋なZrO2に限定するものではなく、Al203、Y203等の公知の焼結助剤として用いられている物質が少量含まれているものも含まれる。
(陶材)
陶材の種類としては、長石系、マイカ系、アルミナ系、スピネル系といったものが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。長石系の場合には、長石を主成分とし、石英、カオリン、顔料、フラックス等が添加されたものを用いることができる。
陶材の種類としては、長石系、マイカ系、アルミナ系、スピネル系といったものが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。長石系の場合には、長石を主成分とし、石英、カオリン、顔料、フラックス等が添加されたものを用いることができる。
また、陶材は焼成温度によって低溶陶材と高溶陶材とに分けられ、さらに細かく分類すると、超低溶陶材(850℃以下)、低溶陶材(850~1100℃)、中溶陶材(1100~1300℃)、高溶陶材(1300℃以上)の4種類に分けられる。例えば、低溶陶材(株式会社松風、ヴィンテージハロー)の場合は、焼成温度は900~950℃と低く、1300℃を超える温度では粘度の低い液体となるので、1300~1350℃で焼結して複合化するのには適さない。一方、高溶陶材(株式会社松風 SI-HF10901)の場合は、焼成温度は1290℃と高く、ZrO2粉末の焼結温度と近いため、1300℃~1350℃で焼結して複合化するのに適している。
ここで、陶材の粒径が大きくなるほど複合材料の曲げ強さは低下する傾向にあるが、陶材の粒径を小さくする場合には、遊星型ボールミルによる粉砕時間が長くなるため、多くの処理時間を要する。したがって、陶材の平均粒径は、ZrO2と同様に10nm~500μmであることが好ましい。また、焼結温度の低下、複合材料の高強度化およびコスト面の観点から10nm~20μmであることがより好ましく、10nm~1μmであることがさらに好ましい。
(ZrO2-陶材複合材料)
以上のようなZrO2粉末と高溶陶材とを所定の割合で混合して所定の条件で焼結を行うと、目的とするZrO2-陶材複合材料が得られる。ここで、ZrO2の割合が高くなると曲げ強さも高くなるが、陶材の粒径が小さくなるほど複合材料の曲げ強さが上昇する傾向にある。したがって、ZrO2の体積率は陶材の粒径によって異なるが、50~99%とする。なお、ZrO2及び陶材の特徴をバランスよく得るためには、55~99%であることが好ましく、60~99%であることがさらに好ましく、70~99%であることが最も好ましい。
以上のようなZrO2粉末と高溶陶材とを所定の割合で混合して所定の条件で焼結を行うと、目的とするZrO2-陶材複合材料が得られる。ここで、ZrO2の割合が高くなると曲げ強さも高くなるが、陶材の粒径が小さくなるほど複合材料の曲げ強さが上昇する傾向にある。したがって、ZrO2の体積率は陶材の粒径によって異なるが、50~99%とする。なお、ZrO2及び陶材の特徴をバランスよく得るためには、55~99%であることが好ましく、60~99%であることがさらに好ましく、70~99%であることが最も好ましい。
そして、ZrO2粉末と高溶陶材とを真空中またはアルゴン雰囲気中において1300℃~1350℃で焼結して複合化する。成型加工を行う際には、前述のSPSを用いた焼結によりブロックを作成し、CAD/CAM法により歯科用切削工具を用いて所定の形状に加工する。なお、ミリングや焼結により、極微量の不可避不純物が含まれる場合もあるが、材料の特性には影響はない限りは使用することができる。また、曲げ強さや破壊靱性値などの機械的性質は、相対密度が小さくなると大幅に低下するという理由から、歯冠材料の相対密度は90%以上であることが好ましい。
また、他の方法としては、CAD/CAM法により黒鉛ダイを所定の形状に加工した後、ZrO2-陶材混合粉末を充填し、SPSによる焼結を行う。そして、CAD-CAMシステムもしくは手動によって焼結体に切削加工を施し寸法の微調整を行ってもよい。
図3に示すような傾斜機能材料(FGM)14を作製する場合には、例えば図5に示すように、ZrO2と高溶陶材との比率が異なる4種類の複合材料を組み合わせて充填し、SPSによる焼結を行う。そして、CAD/CAM法により歯科用切削工具を用いて所定の形状に加工する。例えば、図6に示すように、目的とする形状の黒鉛ダイと、その形状に沿った3種類の黒鉛パンチを用意する。そして、最初の100%のZrO2を充填し、次に、90%のZrO2を充填するような方法で、傾斜機能材料を作製する。組成傾斜付与の方法については、段差がなく組成を連続的に傾斜させた傾斜機能材料が最も理想的である。そのためには、層間の配合率の変化を小さくし、さらに層数を多くすることによって、理想に近い傾斜機能材料を作製することが可能である。
以下、本発明の実施例について説明する。これらの実験における条件等は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した例であり、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず、陶材は、長石系の陶材であって、重量比で長石(K2O・Al2O3・6SiO2とNa2O・Al2O3・6SiO2の混合物)が80~90%と、石英(SiO2)が10~15%と、カオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)が0~5%と、少量の顔料、フラックス等とが添加されている高溶陶材(株式会社松風 SI-HF10901)を用意した。そして、一部を、遊星型ボールミルを用いて300rpmでミリングし、平均粒径の異なる3種類の高溶陶材を作製した。平均粒径及び最大粒径を測定したところ、ミリングを行わなかった高溶陶材の平均粒径は12.23μmで、最大粒径は124.5μmであった。また、6時間ミリングを行った高溶陶材の平均粒径は1.30μmで、最大粒径は18.5μmであった。さらに、9時間ミリングを行った高溶陶材の平均粒径は0.53μmで、最大粒径は4.63μmであった。ZrO2粉末は、平均粒径が40nmのZrO2粉末(東ソー株式会社、TZ-3Y-E:3mol%のイットリアを含む部分安定化ZrO2粉末)を用いた。
まず、陶材は、長石系の陶材であって、重量比で長石(K2O・Al2O3・6SiO2とNa2O・Al2O3・6SiO2の混合物)が80~90%と、石英(SiO2)が10~15%と、カオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)が0~5%と、少量の顔料、フラックス等とが添加されている高溶陶材(株式会社松風 SI-HF10901)を用意した。そして、一部を、遊星型ボールミルを用いて300rpmでミリングし、平均粒径の異なる3種類の高溶陶材を作製した。平均粒径及び最大粒径を測定したところ、ミリングを行わなかった高溶陶材の平均粒径は12.23μmで、最大粒径は124.5μmであった。また、6時間ミリングを行った高溶陶材の平均粒径は1.30μmで、最大粒径は18.5μmであった。さらに、9時間ミリングを行った高溶陶材の平均粒径は0.53μmで、最大粒径は4.63μmであった。ZrO2粉末は、平均粒径が40nmのZrO2粉末(東ソー株式会社、TZ-3Y-E:3mol%のイットリアを含む部分安定化ZrO2粉末)を用いた。
次に、体積比でZrO2:高溶陶材=60:40、70:30、75:25、80:20、90:10の5種類の組成比が異なる混合粉末を高溶陶材の平均粒径ごとに作製した。加えて、ミリングを行っていない低溶陶材(株式会社松風、ヴィンテージハロー)についても、上記5種類の体積比からなる混合粉末を作製した。そして、高溶陶材の混合粉末に対しては、SPSにより、(1)真空中の雰囲気で1350℃、30MPa、(2)アルゴンガスの雰囲気中で1350℃、30MPaの2つの条件で4分間焼結を行った。さらに、低溶陶材の混合粉末については、真空中の雰囲気で1300℃、10MPaの条件で4分間焼結を行った。また、比較のため、前記のZrO2単体のものも同様の条件で焼結した。その他のSPSの条件は、以下のとおりである。
黒鉛ダイ: 内径20.5mm、外径40mm、長さ40mm
黒鉛パンチ: 外径20mm、長さ25mm
離型材: 0.25mm厚さの黒鉛シート
予備成型(単軸加圧): 10MPa
装置: 富士電波工機株式会社製
黒鉛ダイ: 内径20.5mm、外径40mm、長さ40mm
黒鉛パンチ: 外径20mm、長さ25mm
離型材: 0.25mm厚さの黒鉛シート
予備成型(単軸加圧): 10MPa
装置: 富士電波工機株式会社製
焼結後、これらのブロックを取り出し、CAD/CAM法により歯科用切削工具を用いて所定の形状に加工することを試みた。その結果、従来から市販されている真密度に近いジルコニア焼結体は、一次焼結(仮焼結)後にCAD/CAM法により所定の形状に切削加工を行い、その後二次焼結(常圧焼結)を行って作成されたものであることから硬さが高く、歯科用切削工具では加工できなかった。一方、比較のため、陶材複合材料と同様の条件で焼結した円盤状のZrO2焼結体は20分程度、ZrO2-陶材複合材料からは、10分程度で曲げ試験片を歯科用切削工具で切り出すことができた。
図7は、高溶陶材の平均粒径とZrO2-陶材複合材料の曲げ強さとの関係を示す図であり、図8は、高溶陶材の最大粒径とZrO2-陶材複合材料の曲げ強度との関係を示す図である。図7及び図8に示すように、陶材の粒径が大きくなるほど曲げ強さは低下する傾向が見られた。
図9は、ZrO2の体積率と曲げ強さとの関係を示す図である。図9に示すように、陶材の体積率が増加する(ZrO2の体積率が減少する)ほど曲げ強さは低下する傾向が見られた。なお、真空中とアルゴンガス中とではほとんど差が見られなかった。真空中、1350℃、30MPaの条件で4分間SPSを行って得られた焼結体の相対密度は、100%ZrO2で98.96、90%ZrO2-10%高溶陶材で99.14、70%ZrO2-30%高溶陶材で100.00であり、ほとんど変化はなかった。以上のように、高溶陶材を増やしても空孔は増加しないことが確認できた。
(実施例2)
実施例1と同様の平均粒径が40nmのZrO2粉末、及び高溶陶材(株式会社松風 SI-HF10901)を用意し、体積比でジルコニア:高溶陶材=70:30、80:20、90:10、100:0の4種類の組成比が異なる混合粉末を作製した。なお、陶材は、9時間ミリングを行った平均粒径が0.53μmの高溶陶材を用いた。そして、図5に示すような傾斜組織となるように、各層それぞれ0.5gの混合粉末を充填し、真空中で4分間、(1)1350℃、10MPa、(2)1350℃、20MPa、(3)1300℃、10MPa、(4)1300℃、20MPaの4つの条件でSPSによる焼結を行った。その他の条件は、実施例1と同様である。
実施例1と同様の平均粒径が40nmのZrO2粉末、及び高溶陶材(株式会社松風 SI-HF10901)を用意し、体積比でジルコニア:高溶陶材=70:30、80:20、90:10、100:0の4種類の組成比が異なる混合粉末を作製した。なお、陶材は、9時間ミリングを行った平均粒径が0.53μmの高溶陶材を用いた。そして、図5に示すような傾斜組織となるように、各層それぞれ0.5gの混合粉末を充填し、真空中で4分間、(1)1350℃、10MPa、(2)1350℃、20MPa、(3)1300℃、10MPa、(4)1300℃、20MPaの4つの条件でSPSによる焼結を行った。その他の条件は、実施例1と同様である。
そして、焼結体の曲げ試験を、100%ZrO2を下(引張応力側)にした場合と、70%ZrO2-30%高溶陶材を下(引張応力側)にした場合との2種類を行った。
図10は、傾斜組織を有する複合材料の曲げ試験結果を示す図である。100%ZrO2を下にして曲げ試験を行った場合、(K)の条件では曲げ強さが若干低く、250MPa程度であったが、(I)、(J)、(L)の条件では、いずれも曲げ強さは500MPaを超える高いFGMが得られた。なお、70%ZrO2-30%高溶陶材を下にして曲げ試験を行った場合の曲げ強さもほぼ(K)に近い値が得られ、これらの値は歯冠材料として十分使用できるレベルにあったといえる。色については(J)の条件の場合にやや灰色であったが、他の条件ではほぼ白色であり、審美性の観点からも問題ないことが確認できた。
また、図11は、1300℃、10MPaの焼結で得られたFGMの曲げ試験後の破面を示す写真である。図11において、最下層が100%ZrO2、最上層が70%ZrO2-30%高溶陶材であり、組織は4層からなっていることが確認できた。また、4層いずれの層においても組織中に大きな空孔は見られず、さらには各層間には明確な界面は見られなかったことより、材料としての連続性は保たれていた。曲げ試験の際の破壊は、最下層から最上層に向かって生じるが、図11に示されるように破面は平坦であり、層と層との間に亀裂が進展した様子は認められなかった。このようにFGMの場合も材料中に明確な界面は存在せず、1つの材料としてみなされるため、結果的に高い曲げ強さが得られたものと考えられる。
(実施例3)
実施例1と同様の平均粒径が40nmのZrO2粉末、及び高溶陶材(株式会社松風 SI-HF10901)を用意し、体積比でジルコニア:高溶陶材=70:30、80:20、90:10、100:0の4種類の組成比が異なる混合粉末を作製した。なお、陶材は、9時間ミリングを行った平均粒径が0.53μmの高溶陶材を用いた。この粉末を用いて100%ZrO2、ZrO2-高溶陶材複合材料およびFGMを作製し、相対密度、組織観察、曲げ強さ、破壊靭性値、ビッカース硬さおよび研削加工性について調べた。なお、SPSの条件は、以下に示す条件とした。その他の条件は、実施例1と同様である。
実施例1と同様の平均粒径が40nmのZrO2粉末、及び高溶陶材(株式会社松風 SI-HF10901)を用意し、体積比でジルコニア:高溶陶材=70:30、80:20、90:10、100:0の4種類の組成比が異なる混合粉末を作製した。なお、陶材は、9時間ミリングを行った平均粒径が0.53μmの高溶陶材を用いた。この粉末を用いて100%ZrO2、ZrO2-高溶陶材複合材料およびFGMを作製し、相対密度、組織観察、曲げ強さ、破壊靭性値、ビッカース硬さおよび研削加工性について調べた。なお、SPSの条件は、以下に示す条件とした。その他の条件は、実施例1と同様である。
図12は、真空中、1100℃~1350℃で4分間SPSを行った100%ZrO2の相対密度の結果を示す図である。図12に示すように焼結温度が高くなるに従って相対密度は高くなり、1350℃では92.1%であった。
図13は、真空中、1350℃、10MPaの条件で4分間SPSを行って得られた焼結体のZrO2の体積率と相対密度の結果を示す図である。図13に示すように、100%ZrO2では相対密度は92.1%であったが、90%ZrO2-10%高溶陶材では相対密度は98.7%であり、80%ZrO2-20%高溶陶材および70%ZrO2-30%高溶陶材では相対密度は100%に近い値であった。
図14は、真空中、1350℃、10MPaの条件で4分間SPSを行って得られた100%ZrO2、90%ZrO2-10%高溶陶材、80%ZrO2-20%高溶陶材、および70%ZrO2-30%の高溶陶材焼結体の電子顕微鏡による組織写真を示す。100%ZrO2では真密度ではなく空孔が残存していた。90%ZrO2-10%高溶陶材では、空孔が減少し、80%ZrO2-20%高溶陶材で空孔はほぼなくなり、70%ZrO2-30%高溶陶材では、高溶陶材が凝集している部分が存在していた。市販の真密度に近いジルコニアは、歯科用セメントとの接着力が弱いという問題点が指摘されてきたが、本発明例の複合材料では、100%ZrO2に近い組織には空孔が存在する。そのため、歯科用セメントがその中に浸透し、分散している陶材と歯科用セメントとの化学的な結合も良好であることから、歯科用セメントとの接着力の向上が期待できる。
(実施例4)
図15に示すように、実施例1と同様の平均粒径が40nmのZrO2粉末、及び高溶陶材(株式会社松風 SI-HF10901)を用意し、体積比でZrO2:高溶陶材=70:30、80:20、90:10、100:0の4種類の組成比が異なる混合粉末を用いて、各層の厚さが同じサンプル(以下、FGM(同層))と、各層の厚さが異なるサンプル(以下、FGM(変層))との2通りの組成傾斜となるように、混合粉末を填入し、真空中、1350℃、10MPaの条件で4分間SPSを行ってFGM(同層)とFGM(変層)とを作製した。その他の条件は、実施例1と同様である。また、焼結体の色はほぼ白色であった。さらに実施例3で用いたものと同じ100%ZrO2、およびZrO2-高溶陶材複合材料を用意した。
図15に示すように、実施例1と同様の平均粒径が40nmのZrO2粉末、及び高溶陶材(株式会社松風 SI-HF10901)を用意し、体積比でZrO2:高溶陶材=70:30、80:20、90:10、100:0の4種類の組成比が異なる混合粉末を用いて、各層の厚さが同じサンプル(以下、FGM(同層))と、各層の厚さが異なるサンプル(以下、FGM(変層))との2通りの組成傾斜となるように、混合粉末を填入し、真空中、1350℃、10MPaの条件で4分間SPSを行ってFGM(同層)とFGM(変層)とを作製した。その他の条件は、実施例1と同様である。また、焼結体の色はほぼ白色であった。さらに実施例3で用いたものと同じ100%ZrO2、およびZrO2-高溶陶材複合材料を用意した。
図16は、光学顕微鏡によるFGM試験片の断面の写真である。図16に示すように、同層および変層のいずれの場合も、4層の段階的な組織の傾斜が確認できた。なお、層間には、いずれも明確な界面は認められなかった。
図17は、真空中、1350℃、10MPaの条件で4分間SPSを行って得られた100%ZrO2、ZrO2-高溶陶材複合材料およびFGMの曲げ試験の結果を示す図である。図17に示すように、ZrO2-高溶陶材複合材料では、高溶陶材の体積率が増加するに伴い、曲げ強さは低下した。100%ZrO2が503MPaであったのに対し、FGMについては、100%ZrO2層を下側(引張応力側)にした場合の曲げ強さは、FGM(同層)の場合は587MPaであり、FGM(変層)の場合は545MPaであり、100%ZrO2単体の曲げ強さと同程度の曲げ強さを示した。これはFGMにした効果と考えられる。一方、100%ZrO2層を上側(70%ZrO2-30%高溶陶材の層が引張応力側)にした場合は、FGM(同層)の場合は249MPaとなり、70%ZrO2-30%高溶陶材単体の曲げ強さより若干高かった。これに対して、FGM(変層)の場合は、411MPaであり、70%ZrO2-30%高溶陶材単体の曲げ強さの2倍近くであった。このようにFGMの構造とすることによる強化が確認できた。
図18には、光学顕微鏡によるFGM(同層)の曲げ試験後の破面の写真を示す。図18に示す写真は、100%ZrO2を下側(引張応力側)にしたFGMおよび上側(70%ZrO2-30%高溶陶材の層が引張応力側)にしたFGMである。100%ZrO2を下側にしたサンプルには、破面に凹凸や縞模様が確認されたが、100%ZrO2を上側にしたサンプルは、全体的に平坦であった。また、いずれの破面も、層間の剥離は認められなかった。
図19には、光学顕微鏡によるFGM(変層)の曲げ試験後の破面の写真を示す。図19に示す写真は、100%ZrO2を下側(引張応力側)にしたFGMおよび上側(70%ZrO2-30%高溶陶材の層が引張応力側)にしたFGMである。100%ZrO2を下側にしたサンプルには、70%ZrO2-30%高溶陶材の層に縞模様が確認された。一方、100%ZrO2を上側にしたサンプルの場合は、破面は比較的平坦であった。また、いずれの破面も、層間の剥離は認められなかった。
図20は、真空中、1350℃、10MPaの条件で4分間SPSを行って得られた100%ZrO2、ZrO2-高溶陶材複合材料およびFGM(同層および変層)の破壊靭性値を示す図である。なお、図20に示す破壊靭性値はIndentation Fracture法により求めた。また、図21には、ビッカース硬さの測定結果を示す。具体的な測定方法は、まず、ビッカース硬度計を用いて、それぞれの試験片について適切な圧痕とクラックが生じる荷重(50 kgfもしくは30 Kgf)で、試験片に圧子を圧入し、15秒間保持した。そして、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてクラックの長さをSEM像から観察して測定した。ビッカース硬さおよび破壊靭性値はJIS R 1607に従って求め、各試料に対して6~8個の圧痕について測定を行った。FGMについては、70%ZrO2-30%高溶陶材側の圧痕およびクラック形状をSEM像から調べた。
図20に示すように、100%ZrO2の破壊靭性値は5.06
MPa・m1/2であった。ZrO2-高溶陶材複合材料の破壊靭性値は、陶材の体積率の増加に伴って低下し、70%ZrO2-30%高溶陶材では2.42 MPa・m1/2であった。FGMの70%ZrO2-30%高溶陶材層の破壊靭性値は、FGM(同層)で3.18 MPa・m1/2 であり、FGM(変層)で4.23 MPa・m1/2であった。これらの値は、70%ZrO2-30%高溶陶材単体と比較すると、いずれもP<0.01で有意に高い値を示した。また、FGM(同層および変層)のクラックの断面のSEM像から観察した結果、クラックはMedian crackであり、いずれも70%ZrO2-30%高溶陶材の層内に留まっていた。以上より、ZrO2と陶材とを複合化し、更にFGMの構造とすると、曲げ強さを高めるだけでなく、破壊靭性値を高めるためにも非常に有効であることが確認できた。
MPa・m1/2であった。ZrO2-高溶陶材複合材料の破壊靭性値は、陶材の体積率の増加に伴って低下し、70%ZrO2-30%高溶陶材では2.42 MPa・m1/2であった。FGMの70%ZrO2-30%高溶陶材層の破壊靭性値は、FGM(同層)で3.18 MPa・m1/2 であり、FGM(変層)で4.23 MPa・m1/2であった。これらの値は、70%ZrO2-30%高溶陶材単体と比較すると、いずれもP<0.01で有意に高い値を示した。また、FGM(同層および変層)のクラックの断面のSEM像から観察した結果、クラックはMedian crackであり、いずれも70%ZrO2-30%高溶陶材の層内に留まっていた。以上より、ZrO2と陶材とを複合化し、更にFGMの構造とすると、曲げ強さを高めるだけでなく、破壊靭性値を高めるためにも非常に有効であることが確認できた。
一方、ビッカース硬さに関しては、図21に示すFGM(同層)およびFGM(変層)の硬さは70%ZrO2-30%高溶陶材層の測定値である。ZrO2-高溶陶材複合材料およびFGMの硬さはいずれも100%ZrO2よりも高い値を示した。ZrO2-高溶陶材複合材料の中では、90%ZrO2-10%高溶陶材が最も高い値を示した。このことは、高溶陶材が空孔を充填した型で分散していることによると考えられる。高溶陶材がさらに多くなると硬さが低下したのは、高溶陶材の硬さが500~600というように低いことによるものと考えられる。また、FGM(同層)の硬さは70%ZrO2-30%高溶陶材単体と同程度であったが、FGM(変層)の硬さは70%ZrO2-30%高溶陶材単体よりも高かった。このようにFGMの構造とすることによる効果が確認された。
図22は、厚さ1mmの試験片を、6200rpmのドリリングマシーンで、200グリッドのダイヤモンドバーを用いて、3kgf(29.4N)の荷重下で水冷しながら垂直方向に研削した時の貫通時間(研削時間)を示す図である。90%ZrO2-10%高溶陶材、80%ZrO2-20%高溶陶材、70%ZrO2-30%高溶陶材、およびFGM(同層および変層)は、いずれも2分以内で、貫通することができた。なお、90%ZrO2-10%高溶陶材の研削時間が最も長かったのは、ビッカース硬さが最も高かったからであると考えられる。また、図14に示したように、実施例1で比較のため作成した100%ZrO2の焼結体は、真密度ではなく空孔が存在するため、研削加工性が向上したと考えられる。市販のほぼ真密度の100%ZrO2は、3分間で0.527mmの深さまでしか研削できず、また、ダイヤモンドバーの摩耗が著しく、これ以上の研削は困難であった。以上のように、ZrO2-高溶陶材複合材料およびFGMの加工性は、市販のほぼ真密度の100%ジルコニアよりも優れていることが確認された。
本発明によれば、歯科治療の分野に貢献できる。
Claims (15)
- 支台の周りに接着される歯冠材料であって、
体積比で50~99%のジルコニアと1~50%の陶材との複合材料からなることを特徴とする歯冠材料。 - 前記複合材料は、前記支台から外側に向けて、段階的もしくは連続的に前記陶材の比率が高くなっている傾斜機能材料であることを特徴とする請求項1に記載の歯冠材料。
- 前記傾斜機能材料は、前記陶材の比率が異なる複数の層から形成されており、前記複数の層のそれぞれの厚さが同じか、もしくは段階的に異なっていることを特徴とする請求項2に記載の歯冠材料。
- 前記複合材料が陶材によって被覆されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の歯冠材料。
- 前記ジルコニアの平均粒径が10nm以上500μm以下であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の歯冠材料。
- 前記陶材の平均粒径が10nm以上500μm以下であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の歯冠材料。
- 前記陶材は、長石系、マイカ系、アルミナ系、及びスピネル系からなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の歯冠材料。
- 200MPa以上の曲げ強さ、および2MPa・m1/2以上の破壊靭性値を有することを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の歯冠材料。
- 相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の歯冠材料。
- 体積比で50~99%のジルコニアと、1~50%の陶材とを混合して混合粉末を得る工程と、
前記混合粉末を1100℃以上で焼結して焼結体を得る工程と、
前記焼結体をCAD-CAM法により加工する工程と、
を有することを特徴とする歯冠材料の製造方法。 - 前記焼結体を得る工程においては、放電プラズマ焼結(SPS)により、所定の形状に加工された黒鉛ダイを用いて80MPa以下で焼結を行うことを特徴とする請求項10に記載の歯冠材料の製造方法。
- 前記焼結体を得る工程においては、放電プラズマ焼結(SPS)により、体積比の異なる複数種類の混合粉末を焼結することを特徴とする請求項10又は11に記載の歯冠材料の製造方法。
- 前記焼結体を得る工程においては、前記混合粉末とともに少なくとも前記ジルコニアまたは前記陶材を焼結することを特徴とする請求項12に記載の歯冠材料の製造方法。
- 前記焼結体を得る工程においては、ゴム型、金型、またはプラスチック型に前記混合粉末を充填して予備焼結した後に、大気中焼結して前記焼結体を得ることを特徴とする請求項10に記載の歯冠材料の製造方法。
- 前記焼結体を得る工程においては、ホットプレスにより黒鉛ダイを用いて焼結し、前記焼結体を得ることを特徴とする請求項10に記載の歯冠材料の製造方法。
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121 | Ep: the epo has been informed by wipo that ep was designated in this application |
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ENP | Entry into the national phase |
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NENP | Non-entry into the national phase |
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122 | Ep: pct application non-entry in european phase |
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