WO2011081003A1

WO2011081003A1 - 運動案内装置及び運動案内装置用のカバー

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Publication number: WO2011081003A1
Application number: PCT/JP2010/072158
Authority: WO
Inventors: 薫星出; 勝也飯田; 明正吉田; 拓也堀江; 輝明大岡
Original assignee: Thk株式会社
Priority date: 2009-12-28
Filing date: 2010-12-09
Publication date: 2011-07-07
Also published as: TW201139880A

Abstract

　異物が軌道レールの長手方向の端面から軌道レールの内部に侵入することがなく、軌道レールへのカバーの取り付けも容易な運動案内装置を提供する。　軌道レール１には、軌道レール１の長手方向に細長く、軌道レール１の上面に開口する少なくとも一つのカバー取付け穴１９が設けられる。軌道レール１のカバー取付け穴１９は、軌道レール１の幅方向に対向する平行な一対の側壁１９ａと、一対の側壁１９ａの長手方向の両端部を接続する一対の端部壁１９ｂと、を有する。カバー２０は、軌道レール１の上面に載せられて複数の通し孔１８を覆うカバー本体２１と、カバー本体２１に結合される少なくとも一つの嵌入部２２と、を有する。カバー２０の嵌入部２２を軌道レール１のカバー取付け穴１９に弾性変形又は塑性変形させつつ嵌めることによって、嵌入部２２が対向する一対の側壁１９ａ間で弾性変形又は塑性変形し、カバー２０が軌道レール１に固定される。

Description

運動案内装置及び運動案内装置用のカバー

　本発明は、長手方向に伸びる軌道レールが複数の締結部材によって基台に固定され、軌道レールに多数の転動体を介して移動部材が線運動可能に組み付けられる運動案内装置及び運動案内装置用のカバーに関する。

　運動案内装置は、長手方向に伸びる長尺の軌道レールに鞍状の移動部材を多数のボール、ローラ等の転動体を介して組み付けてなる。転動体の転がり運動を介して移動部材が軌道レール上を直線運動又は曲線運動する。移動部材で支持する構成物の線運動を高精度に案内するのに用いられる。

　この運動案内装置において、転動体に塵芥等の異物が付着すると、転動体の摩耗が進行し、案内精度が低下するおそれがある。これを防止するために、移動部材の移動方向の両端面には、軌道レールに付着した異物を掻き取り、移動部材の内部に侵入するのを防止するシールが取り付けられる。

　ところで、軌道レールを基台に締結するために、軌道レールの上面には長手方向に相互に間隔を置いて複数の通し孔が開口する。通し孔にボルトを通し、ボルトを基台にねじ込むと、ボルトの頭部がこの通し孔のザグリの座面に着座し、軌道レールが基台に締結される。

　運動案内装置を塵芥の多い環境で使用した場合、軌道レールのこの通し孔に塵芥が溜まる。通し孔に溜まった塵芥は軌道レールの上面を掻き取るシールでは除去することができない。通し孔に塵芥が溜まるのを防止するために、軌道レールには上面の複数の通し孔を覆うカバーが取り付けられる。

　特許文献１には、軌道レールの上面の長手方向に延在し、軌道レールの複数の通し孔を覆うプレート状の本体部と、本体部に結合される複数の係合部と、から構成される上面カバーが開示されている。上面カバーの複数の係合部は、軌道レール上面のボルト用の通し孔に係合して上面カバーを固着状態にする。特許文献１に記載の発明によれば、上面カバーを固着状態にするのに軌道レールの既存の通し孔を利用しているので、軌道レールに新たに上面カバーを取り付けるための加工が不要になり、加工工数を低減することができる。

　特許文献２には、軌道レールの上面の幅方向の両縁部に長手方向の全長に伸びる二列の長手溝を加工し、カバーの幅方向の両縁部を折り曲げてなる板ばね部を軌道レールの長手溝に係合させることによって、カバーを固着状態にする運動案内装置が開示されている。

特開平８－２４７１４６号公報独国特許出願公開第１９９１９２４７号明細書

　しかし、軌道レールは長尺であるので、軌道レールの長さだけでなく、軌道レールに加工される通し孔のピッチにも誤差が生ずる。例えば全長が３ｍの軌道レールの場合、通し孔のピッチの累積誤差は±０．３ｍｍ、軌道レールの全長の誤差は±２ｍｍまで許容されている。

　特許文献１に記載の上面カバーにおいては、ピッチに誤差がある複数の通し孔に上面カバーの複数の係合部を係合させるのは困難であるという問題がある。さらに、軌道レールに上面カバーを取り付けられたとしても、軌道レールに対する上面カバーの長手方向の位置を調節できないという問題がある。複数本の軌道レールを長手方向に繋ぐと、上面カバーの長手方向の位置を調整できないので、隣接する一対の上面カバーの間にすきまが生じ易い。

　特許文献２に記載の運動案内装置においては、軌道レールの上面の幅方向の両縁部の長手溝にカバーの幅方向の両縁部を係合させているので、軌道レールに対するカバーの長手方向の位置が調節できる。しかし、長手溝が軌道レールの長手方向の全長に渡って伸びるので、軌道レールの長手方向の端部に開口する長手溝の端部から異物が侵入し、長手溝を長手方向に移動した後、軌道レールの転動体転走部に到達するという問題がある。こうなると、転動体に異物が付着するのを防止するというカバーの本来の効用を果たすことができなくなる。

　特許文献２に記載の運動案内装置においては、板ばね部もカバーの長手方向の全長に渡って形成されるので、軌道レールの長手溝及びカバーの板ばね部の幅方向のずれに対する許容能力が小さいという問題もある。例えば、軌道レールの長手溝やカバーの板ばね部の加工誤差によって、これらが幅方向に位置ずれを起こすと、軌道レールに対してカバーが傾いた状態で取り付けられたり、カバーの板ばね部に過度の力がかかったりするという問題が発生する。また、二本の軌道レールを長手方向に繋ぎ、二本の軌道レールの全長に合わせたカバーを二本の軌道レールに跨って取り付けているきにも、一本目と二本目の軌道レールの長手溝の幅方向のずれが発生することによって、同様な問題が発生する。

　そこで本発明の第一の課題は、従来の運動案内装置の上述の問題点を解決できる運動案内装置及び運動案内装置用のカバーを提供することある。

　ところで、軌道レールに取り付けるカバーは、厚みが例えば０．５ｍｍ以下と薄く、かつ軌道レールの長手方向に細長いという特徴を持つ。近年、軌道レールの長尺化が進み、例えば５ｍ以上の長尺のカバーも要請されている。このような長尺のカバーには、カバーを運搬するとき等に、カバーが撓んで曲がり易いという問題がある。カバーが曲がると、軌道レールに取り付けたとき、カバーを軌道レールの上面に密着させることができず、軌道レールとカバーとの間にすきまが生じてしまう。

　カバーの強度を上げると、カバーの曲がりを抑えることができる。しかし、カバーの強度を上げると、カバーの平らな中央部にその長手方向にポケットウェーブと呼ばれる円形状の凹凸が発生するという新たな問題が生じる。

　そこで本発明の第二の課題は、運搬時のカバーの曲がりを抑制でき、またカバーにポケットウェーブが発生するのも防止できる運動案内装置用のカバーを提供することにある。

　以下、本発明について説明する。

　上記第一の課題を解決するために、本発明の一態様は、長手方向に伸びる軌道レールが複数の締結部材によって基台に固定され、前記軌道レールに多数の転動体を介して移動部材が線運動可能に組み付けられる運動案内装置において、前記軌道レールの上面に開口し、前記長手方向に相互に間隔を置いて配列され、前記複数の締結部材を挿入するための複数の通し孔を有すると共に、前記軌道レールの上面に開口する少なくとも一つのカバー取付け穴を有する前記軌道レールと、前記軌道レールの上面の前記複数の通し孔を覆うカバーと、を備え、前記軌道レールのカバー取付け穴は、前記軌道レールの幅方向に対向する平行な一対の側壁と、前記一対の側壁の、前記軌道レールの前記長手方向の両端部を繋ぐ一対の端部壁と、を有し、前記カバーは、前記軌道レールの上面に載せられて前記複数の通し孔を覆うカバー本体と、前記カバー本体に結合され、前記カバー本体から前記軌道レールに向かって突出する少なくとも一つの嵌入部と、を有し、前記カバーの嵌入部を前記軌道レールのカバー取付け穴に弾性変形又は塑性変形させつつ嵌めることによって、前記カバーの嵌入部が前記カバー取付け穴の前記一対の側壁間で弾性変形又は塑性変形し、前記カバーが前記軌道レールに固定される運動案内装置である。

　上記第一の課題を解決するために、本発明の他の態様は、長手方向に伸びる軌道レールが複数の締結部材によって基台に固定され、前記軌道レールに多数の転動体を介して移動部材が線運動可能に組み付けられる運動案内装置用のカバーであって、前記軌道レールの上面には、前記軌道レールの長手方向に相互に間隔を置いて配列され、前記複数の締結部材を挿入するための複数の通し孔が開口すると共に、少なくとも一つのカバー取付け穴が開口し、前記軌道レールのカバー取付け穴は、前記軌道レールの幅方向に対向する平行な一対の側壁と、前記一対の側壁の前記長手方向の両端部を繋ぐ一対の端部壁と、を有し、前記カバーは、前記軌道レールの上面に載せられて、前記軌道レールの前記複数の通し孔を覆うカバー本体と、前記カバー本体に結合され、前記カバー本体から前記軌道レールに向かって突出する少なくとも一つの嵌入部と、を有し、前記カバーの嵌入部を前記軌道レールの前記カバー取付け穴に弾性変形又は塑性変形させつつ嵌めることによって、前記カバーの嵌入部が前記カバー取付け穴の前記一対の側壁間で弾性変形又は塑性変形し、前記カバーが前記軌道レールに固定される運動案内装置用のカバーである。

　上記第二の課題を解決するために、本発明のさらに他の態様は、長手方向に伸びる軌道レールが複数の締結部材によって基台に固定され、前記軌道レールに多数の転動体を介して移動部材が線運動可能に組み付けられる運動案内装置用のカバーであって、前記軌道レールの上面には、前記軌道レールの長手方向に相互に間隔を置いて配列され、前記複数の締結部材を挿入するための複数の通し孔が開口し、前記カバーは、前記軌道レールの上面に載せられて、前記軌道レールの前記複数の通し孔を覆い、前記カバーの材料は、ビッカース硬さＨＶが３７０未満に調質圧延されたばね用ステンレス鋼帯のＳＵＳ３０４-ＣＳＰ又はＳＵＳ３０１-ＣＳＰである運動案内装置用のカバーである。

　本発明の一態様及び他の態様によれば、軌道レールのカバー取付け穴が軌道レールの長手方向の端面に開口することがないので、異物が軌道レールの長手方向の端面からカバー取付け穴を経由して軌道レールの内部に侵入するのを防止できる。また、カバー取付け穴は、軌道レールの幅方向に対向する平行な一対の側壁を有し、嵌入部はカバー取付け穴の一対の側壁間で弾性変形又は塑性変形するので、嵌入部とカバー取付け穴の嵌合状態を一定に保ったまま、カバー取付け穴に対する嵌入部の長手方向の位置ずれを許容することができる。したがって、カバーを軌道レールに取り付けるのが容易になるし、軌道レールの長手方向におけるカバーの位置の調節も容易になる。

　本発明のさらに他の態様によれば、カバーの材料にばね用ステンレス鋼帯を用いるので、カバーの強度を上げることができ、長尺化したカバーが曲がるのを抑制することができる。また、ばね用スレンレス鋼帯はビッカース硬さＨＶが３７０未満に調質圧延されているので、カバーを軟らかくすることができ、カバーにポケットウェーブが発生するのを抑制することができる。

本発明のカバーが取り付けられる運動案内装置の分解斜視図図１の運動案内装置の断面図軌道レールにカバーを取り付けた状態を示す斜視図軌道レール及びカバーの斜視図（軌道レールからカバーを取り外した状態）軌道レールの詳細図（図中（ａ）は平面図を示し、（ｂ）は側面図を示す）カバーの詳細図（図中（ａ）は側面図を示し、（ｂ）は平面図を示し、（ｃ）は正面図を示す）ばね部の詳細図カバーを軌道レールに取り付けた状態を示す詳細図（図中（ａ）は平面図を示し、（ｂ）は側面図を示す）カバーを軌道レールに取り付けた状態を示す正面図本発明の第二の実施形態の軌道レールの側面図駒部材の詳細図（図中（ａ）が平面図を示し、（ｂ）が側面図を示す）本発明の第二の実施形態のカバー付き軌道レールの長手方向に直交する断面図本発明の第三の実施形態のカバー付き軌道レールの長手方向の断面図本発明の第四の実施形態のカバー付き軌道レールの長手方向の断面図本発明の第五の実施形態のカバー付き軌道レールの長手方向に直交する断面図ばね部の他の例を示す図（図中（ａ）は斜視図を示し、図中（ｂ）は平面図を示し、図中（ｃ）は正面図を示す）軌道レールの長手方向に沿った断面図（図中（ａ－１）（ａ－２）は、誤挿入防止片を設けた例を示し、図中（ｂ－１）（ｂ－２）は、誤挿入防止片を設けていない例を示す）長穴に嵌合した板ばねを示す図（図中（ａ）はＣ字形状の板ばねを示し、図中（ｂ）はＪ字形状の板ばねを示す）カバー本体に発生したポケットウェーブを示す模式図調質の記号がＨのカバーと１／２Ｈのカバーを比較した写真カバー取付け穴として四角形の矩形穴を形成した例を示す斜視図長穴が通し孔に連通した状態を示す軌道レールの斜視図

　以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の運動案内装置を詳細に説明する。図１及び図２は、軌道レールにカバーが取り付けられていない状態の運動案内装置の第一の実施形態を示す。図１は運動案内装置の分解斜視図を示し、図２は軌道レールの長手方向に直交する運動案内装置の断面図を示す。

　運動案内装置は、長手方向に直線状に伸びる軌道レール１と、この軌道レール１に転動体として多数のローラ３を介して長手方向に移動可能に組み付けられる移動部材としての移動ブロック２と、を備える。

　図１に示すように、軌道レール１の上面には、長手方向に相互に間隔を置いて複数の通し孔１８が開口する。通し孔１８には、軌道レール１を基台に固定するための締結部材としての六角穴付きボルト（以下単にボルトという）が挿入される。図２の断面図に示すように、通し孔１８には、ボルトの頭部よりも径の大きなザグリ部１８ａと、ボルトのねじ部よりも僅かに大きい孔１８ｂとが同心円的に形成されている。ボルトが通し孔１８内に完全に埋没するように、ザグリ部１８ａの高さはボルトの頭部の高さよりも高い。

　図１に示される複数の通し孔１８のうち少なくとも二つにボルトが挿通される。通し孔１８にボルトを通し、ボルトを基台にねじ込むと、ボルトの頭部が軌道レール１のザグリ部１８ａの座面に着座し、軌道レール１が基台に締結される。テーブル等の線運動する構造物は、移動ブロック２の上面にねじ込み可能なボルトを用いて移動ブロック２に取り付けられる。

　図２に示すように、軌道レール１は、断面略四角形状で、その左右側面には、Ｖ字状の凹み１ａが形成される。軌道レール１の底面を水平面に配置した状態（図２に示される状態）において、凹み１ａの傾いた上下の壁面には、転動体が転がり運動する転動体転走部としてのローラ転走面１ｂが形成される。軌道レール１の左右側面には、上下に二条ずつ合計四条のローラ転走面１ｂが形成される。各ローラ転走面１ｂは平面的に形成され、軌道レ－ル１の長手方向に沿って細長く伸びる。上側のローラ転走面１ｂが含まれる平面と下側のローラ転走面１ｂが含まれる平面とは、ほぼ９０度の角度で交差する。四条のローラ転走面１ｂをこのような配置にすることにより、移動ブロック２に作用する垂直方向荷重（ラジアル荷重、逆ラジアル荷重）、水平方向荷重、モーメント荷重を負荷できるようになる。軌道レ－ル１は金属製であり、ローラ転走面１ｂは研削加工される。

　図１に示すように、移動ブロック２は、軌道レ－ル１の四条のローラ転走面１ｂに対向する四条の負荷ローラ転走面２ｄ、四条の負荷ローラ転走面２ｄに平行な四条の無負荷戻し路８が形成される移動ブロック本体４と、四条の負荷ローラ転走面２ｄそれぞれ及び四条の無負荷戻し路８それぞれを接続する方向転換路が形成される方向転換路構成部材５，１６，１７を備える。方向転換路構成部材５，１６，１７は、エンドプレート５、内側方向転換路構成部材１７、及び内外方向転換路構成部材１６から構成される。移動ブロック２の左右の側壁それぞれには、二条の方向転換路が形成される。二条の方向転換路は、移動ブロック２の移動方向の端部において立体交差するように形成される。エンドプレート５には、立体交差する方向転換路の外周側が形成される。内側方向転換路構成部材１７には、内側の方向転換路の内周側が形成される。内外方向転換路構成部材１６には、内側の方向転換路の外周側及び外側の方向転換路の内周側が形成される。エンドプレート５は、移動ブロック本体４の移動方向の端面に取り付けられる。内側方向転換路構成部材１７及び内外方向転換路構成部材１６は、エンドプレート５と移動ブロック本体４の端面との間に挟まれる。

　移動ブロック本体４は、軌道レール１の上面に対向する中央部２ａと、中央部２ａの左右両側から下方に延びて軌道レール１の左右側面に対向する側壁部２ｂと、を備える。移動ブロック本体４の側壁部２ｂには、軌道レール１の側面に設けた凹み１ａに形状を合わせたＶ字状の突出部２ｃが形成される。この突出部２ｃの両側面には、ローラ転走面１ｂに対応する二条の負荷ローラ転走面２ｄが形成される。図２に示すように、突出部２ｃの上側の負荷ローラ転走面２ｄは軌道レ－ル１の上側のローラ転走面１ｂと平行であり、突出部２ｃの下側の負荷ローラ転走面２ｄは下側のローラ転走面１ｂと平行である。上側の負荷ローラ転走面２ｄが含まれる平面と下側の負荷ローラ転走面２ｄが含まれる平面とは、ほぼ９０度の角度で交差する。

　移動ブロック２の四条の負荷ローラ転走面２ｄ、四条の無負荷戻し路８、及び四条の方向転換路によって四条のサーキット状のローラ循環路が形成される。各ローラ循環路には、複数のローラ３が配列される。複数のローラ３は、リテーナ１０に一連に回転自在に保持される。

　図２の断面図に示すように、軌道レール１のローラ転走面１ｂと移動ブロック本体４の負荷ローラ転走面２ｄとの間には、ローラ３が介在される。ローラ３は、ローラ転走面１ｂと負荷ローラ転走面２ｄとの間で圧縮荷重を受けている。軌道レ－ル１に対して移動ブロック本体４が相対的に移動すると、ローラ３が負荷ローラ転走路７（ローラ転走面１ｂと負荷ローラ転走面２ｄとの間）で荷重を受けながら転がり運動する。移動ブロック本体４の負荷ローラ転走面２ｄの一端まで転がったローラ３は、図１に示すように、エンドプレート５内に掬い上げられ、Ｕ字状の方向転換路を経由した後、無負荷戻し路８に入る。

　方向転換路及び無負荷戻し路８内では、ローラ３は無負荷状態になり、後続のローラ３に押されながら移動する。無負荷戻し路８を通過したローラ３は、反対側の方向転換路を経由した後、再び負荷ローラ転走路７に入る。これら負荷ローラ転走路７、方向転換路及び無負荷戻し路８でサーキット状のローラ循環路が形成される。

　図１に示すように、移動ブロック本体４の負荷ローラ転走面２ｄの両側縁には、長尺の保持部材１１，１２，１３が取り付けられる。樹脂製の保持部材１１，１２，１３には、軌道レ－ル１から移動ブロック２を外した際に負荷ローラ転走面２ｄからローラ３が脱落するのを防止できるよう、リテーナ１０を案内する案内溝が形成されている（図２参照）。軌道レール１の底面を水平面に配置した状態（図２に示される状態）において、第１保持部材１１は、下側のローラ転走面２ｄを移動するリテーナ１０の下側を案内する。第２保持部材１２は、下側のローラ転走面２ｄを移動するリテーナ１０の上側を案内すると共に、上側のローラ転走面２ｄを移動するリテーナ１０の下側を案内する。第３保持部材１３は、上側のローラ転走面２ｄを移動するリテーナ１０の上側を案内する。

　移動ブロック本体４の側壁部２ｂには、上下２条の負荷ローラ転走面２ｄから所定間隔を隔てて平行に伸びる貫通孔１４が空けられる。この貫通孔１４に無負荷戻し路８を構成する無負荷戻し路構成部材１５が挿入される。無負荷戻し路構成部材１５は、細長のパイプ形状の部材を軸線方向に沿って２分割した一対のパイプ半体からなる。無負荷戻し路構成部材１５には無負荷戻し路８が形成されると共に、リテーナ１０を案内する案内溝が形成される。無負荷戻し路構成部材１５は、その両端がエンドプレート５に支持される。

　軌道レール１とそれを囲む移動ブロック２との間には断面Ｕ字形状の隙間が空く。この隙間を塞ぐために、移動ブロック２の移動方向の両端面には軌道レール１の外形形状に対応するシール６（図１参照）が取り付けられる。シール６によって塵、埃、きり屑等の異物が隙間から移動ブロック２の内部に侵入し、ローラ３に付着するのを防止する。

　移動ブロック２が走行する範囲内にある通し孔１８内に異物が溜まると、移動ブロック２の内部に異物が侵入する。また、通し孔１８の円形の縁部とシール６とが軌道レール１の上面で交差すると、シールの摩耗を招く。これを防止するために図３に示すように、軌道レール１の上側部は板状のカバー２０によって覆われる。移動ブロック２に取り付けられるシール６の内側面の形状は、カバー２０の外形形状に対応する。

　図４は、軌道レール１からカバー２０を取り外した状態を示す。この図４において、カバー２０は裏返されていて、カバー２０の底面側の斜視図が示されている。軌道レール１には、一対の通し孔１８の間に軌道レール１の長手方向に所定の間隔を置いて、軌道レール１の長手方向に細長い複数のカバー取付け穴としての長穴１９が開口する。複数の長穴１９は軌道レール１の幅方向の中央に一列に配列される。カバー２０は、軌道レール１の上面に載せられるカバー本体２１と、カバー本体２１に結合される複数の嵌入部としてのばね部２２と、を有する。カバー本体２１の長手方向の両端部は軌道レール１の端面に対応して直角に折り曲げられて折曲げ部２１ａが形成される。カバー本体２１の幅方向の両端部には、軌道レール１の側面に対応して曲げられる縁部２１ｂが形成される。カバー本体２１を軌道レール１の上面に載せ、ばね部２２を一つずつ軌道レール１の長穴１９にぱちんと弾性変形させつつ嵌めることによって、カバー２０が軌道レール１に固定される。その後、結合手段としてのカバー締結ねじ２３（図３参照）でカバー２０の折曲げ部２１ａを軌道レール１の端面１ｅに固定することによって、最終的にカバー２０が軌道レール１に固定される。

　図５は、軌道レール１の詳細図を示す。軌道レール１の長穴１９は、軌道レール１の幅方向に対向する一対の側壁１９ａと、一対の側壁１９ａの長手方向の両端部を繋ぐ一対の端部壁１９ｂと、を有する。一対の側壁１９ａは、軌道レール１の長手方向と平行でありかつ互いに平行な平面に形成されると共に、当該平面は軌道レール１の上面と直交する。一対の側壁１９ａ間の距離（幅Ｗ）は長穴１９の長手方向の位置及び深さによらず一定である。端部壁１９ｂは半円筒面に形成される。すなわち、長穴１９の平面形状は軌道レール１の長手方向に細長い方形部分と方形部分の長手方向の両端部の半円部分とを組み合わせた形状になる。長穴１９の長手方向の端から端までの長さＬは、幅Ｗよりも長い。長穴１９は底面１９ｃを有し、軌道レール１を上下方向に貫通していない。長穴１９は例えばエンドミル等のフライスを軌道レール１の長手方向に移動させることによって形成される。軌道レール１の長手方向の両端面１ｅには、カバー締結用ねじ２３がねじ込まれるねじ孔２５が形成される。

　図６は、カバー２０の詳細図を示す。カバー２０は、軌道レール１の上面に載せられるカバー本体２１と、カバー本体２１に結合される複数のばね部２２と、を有する。カバー本体２１の幅方向の両端部には、軌道レール１の一対の側面の上部に対応して折り曲げられる一対の縁部２１ｂが形成される。縁部２１ｂはカバー本体２１に対して直交し、縁部２１ｂとカバー本体２１の接続部分は円弧形状に曲げられている。一対の縁部２１ｂの内法Ｄ１は軌道レール１の一対の側面の外法Ｄ２（図９参照）よりも僅かに大きい。縁部２１ｂの長さは、軌道レール１のＶ字形状の凹み１ａに達しない長さに設定される。ただし、あまり短いと、折り曲げ加工（ロールフォーミング）ができなくなる。カバー本体２１に縁部２１ｂを設けることによって、カバー本体２１の断面二次モーメントを大きくすることができ、また軌道レール１に対してカバー２０を幅方向に位置決めすることができる。

　カバー本体２１は、その長手方向の端部に軌道レール１の長手方向の端面に向かって折り曲げられる一対の折曲げ部２１ａを有する。折曲げ部２１ａには、カバー締結ねじ２３が通される孔２７が空けられる。なお、カバー２０の折曲げ部２１ａは当初（製造・販売する段階）では折り曲げられていない。カバー２０の購入者がカバー２０を軌道レール１に取り付ける段階で折り曲げられる。また、カバー２０には折曲げ部２１ａが設けられない場合もある。例えば、複数本の軌道レール１を長手方向に繋ぐ必要がある場合、互いに接合される軌道レール１の端面１ｅに折曲げ部２１ａを設けることはできない。三本の軌道レール１を繋ぐ場合、端の軌道レール１には一つの折曲げ部２１ａを設けることができるが、真中の軌道レール１には折曲げ部２１ａを設けることができない。

　カバー本体２１の軌道レール１側の表面には長手方向に間隔を置いて複数のばね部２２が結合される。複数のばね部２２の取付けピッチと長穴１９のピッチとは一致する。図７はばね部２２の詳細図を示す。ばね部２２は、カバー本体２１に溶接等の結合手段によって結合される板状の基部２２ａと、板状の基部２２ａに一体の板ばね２２ｂと、を有する。基部２２ａは長穴に対応した形状を有し、カバー２０の長手方向に細長い方形部分と方形部分の長手方向の両端部の半円部分とを組み合わせた形状をなす。基部２２ａの長手方向の長さＢＬは長穴１９の長手方向の長さＬよりも短く、基部２２ａの幅ＢＷは長穴１９の幅Ｗと同一であるか僅かに小さい（図６（ｂ）参照）。

　図７に示すように、板ばね２２ｂは、基部２２ａから軌道レール１に向かって折り曲げられる中央部２２ｂ１と、中央部２２ｂ１に対して折り返すように曲げられる先端部２２ｂ２と、を有する。板ばね２２ｂの長手方向の長さＳＬは基部２２ａの長手方向の長さＢＬよりも短い（図６（ｂ）参照）。これにより、基部２２ａをカバー２０に溶接するためのスペースを確保することができる。また、図６（ｃ）に示すように、板ばね２２ｂの中央部２２ｂ１と先端部２２ｂ２との間の幅ＳＷは、長穴１９の一対の側壁１９ａ間の幅Ｗ（図５（ａ）参照）よりも長い。

　図８及び図９は、カバー２０を軌道レール１に取り付けた状態の詳細図を示す。カバー２０を軌道レール１に取り付けると、ばね部２２の基部２２ａが軌道レール１の長穴１９に入り込む。ばね部２２の基部２２ａを長穴１９に入り込ませ、ばね部２２の板ばね２２ｂを長穴１９の一対の側壁１９ａ間で圧縮変形させることで、軌道レール１にカバー２０を固定することが可能になる。長穴１９の一対の側壁１９ａは互いに平行な平面に形成されるので、長穴１９に対してばね部２２が長手方向の位置ずれを起こしても、長穴１９とばね部２２との嵌合状態が一定に保たれる。さらに、基部２２ａの長手方向の長さＢＬは長穴１９の長手方向の長さＬよりも短いので、これらの間にはすきま２８が空く。このすきま２８によって、軌道レール１の長穴１９のピッチとカバー２０のばね部２２のピッチにずれが生じても、ずれを吸収することができる。このため、カバー２０を軌道レール１に取り付けるのが容易になる。しかも、移動ブロック２の移動に伴ってカバー２０が軌道レール１の長手方向に滑ろうとしても、カバー２０のばね部２２の基部２２ａが軌道レール１の長穴１９の端部壁１９ｂに当たる。長穴１９の端部壁１９ｂがストッパとして機能するので、カバー２０の滑りを防止することができる。ただし、カバー２０に軌道レール１の長手方向の端面に取り付けられる折曲げ部２１ａを形成したときは、ストッパとしての機能は少ない。

　図９に示すように、カバー２０のばね部２２を軌道レール１の長穴に嵌めた状態では、板ばね２２ｂが長穴１９の一対の側壁１９ａ間で挟まれて弾性変形する。板ばね２２ｂの幅ＳＷが長穴１９の幅Ｗよりも大きいからである。弾性変形した板ばね２２ｂの中央部２２ｂ１は長穴１９の一対の側壁１９ａの一方に接触し、板ばね２２ｂの先端部２２ｂ２が長穴１９の一対の側壁の他方に接触する。弾性変形した板ばね２２ｂの反力によってばね部２２が長穴１９内に固定される。このように、板ばね２２ｂを中央部２２ｂ１と先端部２２ｂ２とから構成することで、板ばね２２ｂの構造がシンプルになり、廉価に板ばね２２ｂを製造することができる。カバー２０には、カバー２０を軌道レール１から取り外すような力はかからないので、板ばね２２ｂのばね力はそれほど大きくなくてよい。

　ばね部２２は、カバー２０の長手方向の全長に渡って伸びるのではなく、カバー２０の長手方向に部分的にかつ複数設けられている。このため、長穴１９及びばね部２２の幅方向のずれに対する許容能力が向上する。すなわち、例えば、カバー２０のばね部２２の取付け誤差や軌道レール１の長穴１９の加工誤差によって、これらが幅方向に位置ずれを起こしても、複数のばね部２２が変形することによってこの位置ずれが吸収される。また、二本の軌道レール１を長手方向に繋ぎ、二本の軌道レール１の全長に合わせたカバー２０を二本の軌道レール１に跨って取り付けるきにも、複数のばね部２２が変形することによって一本目と二本目の軌道レール１の長穴１９の幅方向のずれが吸収される。

　図１０ないし図１２は、本発明の第二の実施形態のカバー付き軌道レールを示す。図１０は軌道レール３１の側面図を示す。軌道レール３１の上面には、通し孔１８の間に長穴１９の替わりに丸い穴である駒部材用穴３２が開口する。駒部材用穴３２は軌道レール３１の長手方向に相互に間隔を置いて複数設けられる。

　図１１は、駒部材用穴３２に挿入される駒部材３３を示す。円盤状の駒部材３３の上面には軌道レール３１の長手方向に伸びる溝３３ａが形成される。溝３３ａは駒部材３３の中心線上に形成され、駒部材３３の直径の全長に渡る。駒部材３３の上部３３ｂの外形は、駒部材用穴３２に締まり嵌めで挿入・固定できるように、駒部材用穴３２の内径よりも僅かに大きい。駒部材３３の下部３３ｃはテーパに形成される。駒部材３３は例えば金属射出成形により製造される。

　図１２に示すように、軌道レール３１の駒部材用穴３２に駒部材３３を嵌めることによって、軌道レール３１の上面に端のある長穴３３ａが形成される。軌道レール３１の長穴３３ａにカバー２０のばね部２２を係合させる点は、上記第一の実施形態の運動案内装置と同一である。この実施形態のカバー付き軌道レールによれば、駒部材用穴３２が通し孔１８と同様に丸いので、軌道レールの上面に駒部材用穴３２を空けるのが容易になる。

　図１３は、本発明の第三の実施形態のカバー付き軌道レールを示す。この実施形態では図１１に示される駒部材３３を駒部材用穴３２の替わりにボルト用の通し孔１８に嵌めている。駒部材３３の高さは、駒部材３３が軌道レール４１の上面から突出しない高さに設定される。駒部材３３の上面には、軌道レール４１の長手方向に伸びる溝３３ａが形成される。駒部材３３を通し孔１８に嵌めることによって、軌道レール４１の上面に長穴が形成される。この実施形態のカバー付き軌道レールによれば、軌道レール４１に駒部材用穴３２を空ける必要もなくなるので、軌道レール４１の長穴をさらに廉価に製造することができる。

　図１４は、本発明の第四の実施形態のカバー付き軌道レールを示す。この実施形態において、図１１に示される駒部材３３は軌道レール５１の通し孔１８に挿入されるボルト５２の頭部に取り付けられる。円盤状の駒部材３３の表面には、軌道レールの長手方向に伸びる溝３３ａが形成される。駒部材３３の裏面には、ボルト５２の頭部に形状を合わせた円形状の凹み３３ｄが形成される。駒部材３３の凹み３３ｄをボルト５２の頭部に嵌めることによって、軌道レール５１の表面に長穴が形成される。この実施形態のカバー付き軌道レールによれば、軌道レール５１に駒部材用穴３２を空ける必要がなく、駒部材３３を通し孔１８の内径一杯に高精度に成形する必要もなくなるので、軌道レール５１の長穴をさらに廉価に製造することができる。

　ただし、上記第二ないし第四の実施形態の駒部材３３を軌道レール３１，４１又はボルト５２に取り付けるとき、駒部材３３の溝３３ａが同じ方向を向くようにする必要がある。軌道レール３１，４１又はボルト５２への駒部材３３の取り付けに当たって、駒部材３３の溝３３ａの方向を揃える治具が必要になる。

　図１５は、本発明の第五の実施形態のカバー付き軌道レールを示す。この実施形態の運動案内装置には、ＤＦ構造のものが使用される。本発明のカバーは上記第一の実施形態のようなＤＢ構造のものにも、ＤＦ構造のものにも使用することができる。ただし、ＤＦ構造の運動案内装置の場合、軌道レール６１の上面と側面の交差部分にローラ３のローラ転走面６１ａが形成されるので、カバー２０に軌道レール６１の側面に対向する縁部を形成することができなくなる。カバー２０には、軌道レール６１の上面につながる傾斜面に対応する折曲げ部２１ｅが形成される。

　図１６は、ばね部の他の例を示す。この例のばね部８２は、カバー本体２１に溶接等の結合手段によって結合される板状の基部８２ａと、基部８２ａに一体の板ばね８２ｂと、を有する。基部８２ａは長穴１９に対応した略長方形に形成される。基部８２ａの長手方向の両端部には、軌道レール１に向かって突出するように折り曲げられる一対の誤挿入防止片８２ａ１が設けられる。一対の誤挿入防止片８２ａ１は長方形の板状に形成されている。誤挿入防止片８２ａ１が基部８２ａの本体部分から軌道レール１に向かって突出する長さＬ１は、板ばね８２ｂが基部８２ａの本体部分から軌道レール１に向かって突出する長さＬ２よりも短い（図１６（ｃ）参照）。

　この例では、板ばね８２ｂがＣ形状、すなわち軌道レール１の長手方向に直交する断面で見たとき円弧形状に形成される。図１６（ｂ）に示すように、基部８２ａには、二か所に切り込み８３が入れられている。二箇所の切り込み８３の間を円弧形状に折り曲げることによって板ばね８２ｂが形成される。

　図１６（ｃ）に示すように、軌道レール１の長手方向から見たとき（すなわち、図１８（ａ）に示すように、軌道レール１の長手方向に直交する断面でみたとき）、基部８２ａと板ばね８２ｂとの結合箇所Ｐ１において、直線状に形成される基部８２ａの直線方向Ｃ１と円弧形状に形成される板ばね８２ｂの接線方向Ｃ２とが一致する。そして、基部８２ａと板ばね８２ｂとの結合箇所Ｐ１は、長穴１９の一対の側壁の一方１９ａ１から所定距離Ｌ３だけ離れている。言い換えれば、板ばね８２ｂは基部８２ａとの結合箇所Ｐ１から一対の側壁の一方１９ａ１に向かって当該側壁の一方１９ａ１に当接するまで円弧形状に曲がりながら伸び、当該側壁の一方１９ａ１に当接した後は、折り返されて一対の側壁の他方１９ａ２に向かって当該側壁の他方１９ａ２に当接するまで曲がりながら伸びる。板ばね８２ｂの円弧形状は単一の曲率の円弧形状に限定されることなく、複数の曲率を組み合わせた複合の円弧形状であってもよい。

　図１７は、軌道レール１の長手方向に沿った断面図であり、カバー２０の取付け時の状況を示す。図１７（ａ）は、基部８２ａに誤挿入防止片８２ａ１が設けられている例を示し、図１７（ｂ）は、基部８２ａに誤挿入防止片８２ａ１が設けられていない例を示す。図１７（ｂ－１）に示すように、基部８２ａが軌道レール１の長穴１９内に入っていると、基部８２ａに誤挿入防止片８２ａ１が設けられていなくても問題は発生しない。しかし、図１７（ｂ－２）に示すように、基部８２ａが軌道レール１の長穴１９に対して位置ずれを起こすと、基部８２ａが軌道レール１の上面に乗り上げる。基部８２ａの厚みは、例えば０.５ｍｍ未満とわずかなので、作業者は基部８２ａの乗り上げに気が付かない。このため、カバー２０は、基部８２ａの厚みの分、軌道レール１から浮き上がった状態で軌道レールに取り付けられる。カバー２０の浮き上がった部分を移動ブロック２のシール６が通過すると、摺動抵抗が変動することになるので、カバー２０の浮き上がりは避けなければならない。

　図１７（ａ－２）に示すように、基部８２ａに誤挿入防止片８２ａ１が設けられている場合、基部８２ａが軌道レール１の長穴１９から位置ずれを起こすと、基部８２ａの誤挿入防止片８２ａ１が軌道レール１の上面に乗り上げるので、カバー２０を軌道レール１に取り付けることができなくなり、作業者も基部８２ａの位置ずれを確実に認識できる。その後、作業者が基部８２ａを正規の位置に移動させることで、図１７（ａ－１）に示すように、必ず長穴１９に基部８２ａを嵌めることができるようになり、カバー２０の浮き上がりを防止できる。

　図１８は、図１６に示すＣ字形状の板ばね８２ｂ（図１８（ａ））と図７に示すＪ字形状の板ばね２２ｂ（図１８（ｂ））とを比較した図である。板ばね８２ｂ，２２ｂは、長穴１９の一対の側壁１９ａ１，１９ａ２間で圧縮されて変形している。移動ブロック２のシール６が長穴１９上を繰り返し往復運動すると、板ばね８２ｂ，２２ｂに繰り返し荷重が作用する。図１８（ｂ）に示すＪ字形状の板ばね２２ｂの場合、板ばね２２ｂに作用する繰り返し荷重によって、板ばね２２ｂの根元２２ｂ０（板ばね２２ｂと基部２２ａとの結合箇所）に応力集中が起きる。この応力集中は板ばね２２ｂの寿命に影響を及ぼす。繰り返し荷重が作用したときの板ばね２２ｂに発生する曲げモーメントが応力集中に関係すると考えられる。

　これに対し、図１８（ａ）に示すＣ字形状の板ばね８２ｂの場合、板ばね８２ｂと基部８２ａとの接合箇所Ｐ１が長穴１９の一対の側壁の一方１９ａ１から離間しているので、
繰り返し荷重が作用しても、接合箇所Ｐ１に至るまでの板ばね８２ｂが撓み、板ばね８２ｂの接合箇所Ｐ１に作用する曲げモーメントも低減する。したがって板ばね８２ｂの接合箇所Ｐ１に発生する応力集中も緩和すると考えられる。

　カバー２０のカバー本体２１の材料には、調質圧延されたばね用ステンレス鋼帯のＳＵＳ３０４-ＣＳＰ又はＳＵＳ３０１-ＣＳＰが用いられる。ＳＵＳ３０４-ＣＳＰ又はＳＵＳ３０１-ＣＳＰは熱処理ではなく、冷間圧延によって強度を得るオーステナイト系の材料である。ＳＵＳ３０４-ＣＳＰ又はＳＵＳ３０１-ＣＳＰを使用することで、引張り強さ、耐力等の強度が向上するので、運搬時等に長尺のカバー本体２１が曲がるのを防止することができる。

　しかし、カバー本体２１の強度を上げると、図１９に示すように、カバー本体２１にその長手方向にポケットウェーブと呼ばれる円形状の凹凸が発生する。図１９には、長方形状の凹凸が示されているが、実際にはポケットウェーブは円形状に近い。ポケットウェーブの発生は、カバー本体２１の硬さと相関関係があり、硬ければ硬いほど、ポケットウェーブが発生し易くなる。カバー本体２１の硬さを軟らかくすれば、ポケットウェーブの発生を抑制できることになる。しかし、カバー本体２１の硬さは強度とも相関関係があり、カバー本体２１の硬さを軟らかくすれば、強度が小さくなってしまう。

　カバー本体２１として必要な強度を確保し、かつポケットウェーブの発生を抑制するために、ビッカース硬さＨＶが３７０未満のばね用ステンレス鋼帯を使用する。１／２Ｈ，３／４Ｈ，Ｈ，ＥＨ等の調質の記号を指定することで硬さの指定が可能になる。１／２Ｈ，３／４Ｈ，Ｈ等、大きなＨになるほど、圧下率が大きくなり、硬さが硬くなる。ビッカース硬さＨＶを３７０未満にするためには、調質の記号に留意する必要がある。

　以下の表１に、ＳＵＳ３０４、ＳＵＳ３０４-ＣＳＰ、ＳＵＳ３０１-ＣＳＰの機械的性質を比較する。

　ＳＵＳ３０４を使用すると、硬さＨＶが２００以下になるので、ポケットウェーブの発生を抑制することができる。しかし、長尺にしたときの耐力、引張り強さ等の強度が不足する。

　ＳＵＳ３０４-ＣＳＰ又はＳＵＳ３０１-ＣＳＰを使用すると、耐力、引張り強さ等の強度が向上し、長尺にしたときの曲げを抑制することができる。しかし、硬さＨＶが３７０以上になると、ポケットウェーブが発生する。このため、ＳＵＳ３０４-ＣＳＰは３／４Ｈ以下、ＳＵＳ３０１-ＣＳＰは１／２Ｈ以下にする必要がある。ＳＵＳ３０４はＳＵＳ３０１よりも軟らかいので、成形性がいい。

　図２０に示すように、ＳＵＳ３０４-ＣＳＰを用いて、厚さ０.３ｍｍ、幅４５ｍｍ又は幅５５ｍｍ、長さ５ｍ、幅方向の両端部が曲げ加工されたカバーを製造した。調質の記号を変化させ、調質の記号がＨのカバーと１／２Ｈのカバーを比較したところ、調質の記号がＨのカバーにはポケットウェーブが発生したが、調質の記号が１／２Ｈのカバーにはポケットウェーブがほとんど発生しなかった。

　なお、本発明は上記実施形態に限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更可能である。例えば転動体としてはローラのみならずボールを使用することもできる。

　また、軌道レールの長穴は一列のみ設けられているが、軌道レールの上面に二列の長穴を設けてもよい。さらに、一列の長穴を千鳥に配列、すなわち軌道レール上面の幅方向の中心に対して左側、右側、左側、右側…の順番に配列してもよい。このように長穴を配列すると、カバーの幅方向の両端部の浮き上がりをより防止することができる。

　軌道レールの長穴はアリ溝形状、すなわち一つの側壁間の距離が軌道レールの内部に向かって徐々に広がるように形成されてもよい。長穴は、互いに平行な一対の側壁、及び端部壁を有すれば、その数は限定されるものではなく、その数は少なくとも一つあればよい。一つの長穴にカバーの複数のばね部が嵌められてもよい。

　図２１に示すように、軌道レール１の上面にカバー取付け穴として長穴１９の替わりに平面視正方形の矩形穴７１を形成し、この矩形穴７１に、平面形状のウェブ部７２ａ、及びウェブ部７２ａの幅方向の両端部を軌道レール向かって折り曲げてなる一対の板ばね部７２ｂを有するばね部７２を嵌めるようにしてもよい。

　さらに、前述した各実施形態においては、軌道レール１の長穴１９他に嵌入する嵌入部がばね部２２であるとしたが、嵌入部としてはこれに限らず、弾性変形することで長穴１９他に嵌入するものであれば、どのような形態、材質のものも適用可能である。加えて、該嵌入部は、弾性変形に止まらず、塑性域までの変形をして長穴１９他に嵌入させてもよい。

　さらに、図２２に示すように、長穴１９の長手方向の端部が通し孔１８に連通してもよい。

　カバーの材料にＳＵＳ３０４-ＣＳＰ又はＳＵＳ３０１-ＣＳＰを使用する発明において、カバーにはばね部が設けられなくてもよい。カバーの幅方向の両端部の折曲げ部にばね性を持たせることで、カバーを軌道レールに取り付けてもよい。

　本明細書は、２００９年１２月２８日出願の特願２００９－２９８７７４に基づく。この内容はすべてここに含めておく。

１…軌道レール，１ｅ…軌道レールの端面，２…移動ブロック（移動部材），３…ローラ（転動体），１８…通し孔，１９…長穴，１９ａ…側壁，１９ｂ…端部壁，２０…カバー，２１…カバー本体，２１ａ…折曲げ部，２１ｂ…縁部，２２…嵌入部（ばね部），２２ａ…基部，２２ｂ…板ばね，２２ｂ１…中央部，２２ｂ２…先端部，３１，４１，５１…軌道レール，３２…駒部材用穴，３３…駒部材，３３ａ…溝，８２…嵌入部（ばね部），８２ａ…基部，８２ｂ…板ばね，８２ａ１…誤挿入防止片

Claims

　長手方向に伸びる軌道レールが複数の締結部材によって基台に固定され、前記軌道レールに多数の転動体を介して移動部材が線運動可能に組み付けられる運動案内装置において、
　前記軌道レールの上面に開口し、前記長手方向に相互に間隔を置いて配列され、前記複数の締結部材を挿入するための複数の通し孔を有すると共に、前記軌道レールの上面に開口する少なくとも一つのカバー取付け穴を有する前記軌道レールと、
　前記軌道レールの上面の前記複数の通し孔を覆うカバーと、を備え、
　前記軌道レールのカバー取付け穴は、前記軌道レールの幅方向に対向する平行な一対の側壁と、前記一対の側壁の、前記軌道レールの前記長手方向の両端部を繋ぐ一対の端部壁と、を有し、
　前記カバーは、前記軌道レールの上面に載せられて前記複数の通し孔を覆うカバー本体と、前記カバー本体に結合され、前記カバー本体から前記軌道レールに向かって突出する少なくとも一つの嵌入部と、を有し、
　前記カバーの嵌入部を前記軌道レールのカバー取付け穴に弾性変形又は塑性変形させつつ嵌めることによって、前記カバーの嵌入部が前記カバー取付け穴の前記一対の側壁間で弾性変形又は塑性変形し、前記カバーが前記軌道レールに固定される運動案内装置。
　前記カバー取付け穴に対する前記嵌入部の前記長手方向の位置を調節できるように、前記カバー取付け穴の前記長手方向の長さが前記嵌入部の前記長手方向の長さよりも長いことを特徴とする請求項１に記載の運動案内装置。
　前記カバーの前記嵌入部は、弾性変形可能なばね部を有することを特徴とする請求項１又は２に記載の運動案内装置。
　前記ばね部は、
　前記カバー本体の前記軌道レール側の表面に結合される基部と、
　前記基部に結合され、前記カバー取付け穴の一対の側壁に接触する板ばねと、を有し、
　前記基部が前記カバー取付け穴内に入り込み、かつ前記カバー取付け穴に対する前記基部の前記長手方向の位置を調節できるように、前記基部の幅は前記カバー取付け穴の幅以下であり、かつ前記基部の前記長手方向の長さは前記カバー取付け穴の前記長手方向の長さ未満であることを特徴とする請求項３に記載に運動案内装置。
　前記ばね部は、
　前記カバー本体の前記軌道レール側の表面に結合される基部と、
　前記基部に結合され、前記カバー取付け穴の一対の側壁に接触する板ばねと、を有し、
　前記板ばねは、前記基部から前記軌道レールに向かって折り曲げられ、前記カバー取付け穴の前記一対の側壁の一方に接触する中央部と、
　前記中央部に対して折り返すように曲げられ、前記カバー取付け穴の前記一対の側壁の他方に接触する先端部と、を有することを特徴とする請求項３又は４に記載の運動案内装置。
　前記軌道レールはさらに、前記長手方向に相互に間隔を置いて駒部材を挿入するための複数の駒部材用穴と、前記長手方向に伸びる溝が形成される駒部材と、を有し、
　駒部材を前記軌道レールの通し孔又は駒部材用穴に嵌めることによって、前記軌道レールの前記カバー取付け穴が形成されることを特徴とする請求項１ないし５のいずれかに記載の運動案内装置。
　前記軌道レールはさらに、表面に前記長手方向に伸びる溝が形成され、裏面に締結部材に係合する凹みが形成される複数の駒部材を有し、
　駒部材を前記締結部材に嵌めることによって、前記軌道レールの前記カバー取付け穴が形成されることを特徴とする請求項１ないし５のいずれかに記載の運動案内装置。
　前記カバー本体は、前記幅方向の両端部に前記軌道レールの側面の上部に対応して折り曲げられる縁部を有することを特徴とする請求項１ないし７のいずれかに記載の運動案内装置。
　前記カバー本体は、前記長手方向の端部に、前記軌道レールの前記長手方向の端面に対応して折り曲げられる折曲げ部を有し、
　前記カバー本体の折曲げ部が結合手段によって前記軌道レールの前記長手方向の前記端面に固定されることを特徴とする請求項１ないし８のいずれかに記載の運動案内装置。
　前記ばね部の前記基部には、前記軌道レールの前記長手方向の端部に、前記軌道レールに向かって突出するように折り曲げられる誤挿入防止片が設けられることを特徴とする請求項４又は５に記載の運動案内装置。
　前記ばね部の前記基部と前記ばね部の前記板ばねとの結合箇所は、前記板ばねの前記中央部が接触する前記カバー取付け穴の前記一対の側壁の一方から離れていることを特徴とする請求項５に記載の運動案内装置。
　前記ばね部を前記長手方向に直交する断面で見たとき、前記板ばねが円弧形状に形成されると共に、前記ばね部の前記基部と前記ばね部の前記板ばねとの結合箇所において、直線状に形成される前記基部の直線方向と円弧状に形成される前記板ばねの接線方向とが実質的に一致することを特徴とする請求項１１に記載の運動案内装置。
　長手方向に伸びる軌道レールが複数の締結部材によって基台に固定され、前記軌道レールに多数の転動体を介して移動部材が線運動可能に組み付けられる運動案内装置用のカバーであって、
　前記軌道レールの上面には、前記軌道レールの長手方向に相互に間隔を置いて配列され、前記複数の締結部材を挿入するための複数の通し孔が開口すると共に、少なくとも一つのカバー取付け穴が開口し、
　前記軌道レールのカバー取付け穴は、前記軌道レールの幅方向に対向する平行な一対の側壁と、前記一対の側壁の、前記軌道レールの前記長手方向の両端部を繋ぐ一対の端部壁と、を有し、
　前記カバーは、前記軌道レールの上面に載せられて、前記軌道レールの前記複数の通し孔を覆うカバー本体と、前記カバー本体に結合され、前記カバー本体から前記軌道レールに向かって突出する少なくとも一つの嵌入部と、を有し、
　前記カバーの嵌入部を前記軌道レールの前記カバー取付け穴に弾性変形又は塑性変形させつつ嵌めることによって、前記カバーの嵌入部が前記カバー取付け穴の前記一対の側壁間で弾性変形又は塑性変形し、前記カバーが前記軌道レールに固定される運動案内装置用のカバー。
　長手方向に伸びる軌道レールが複数の締結部材によって基台に固定され、前記軌道レールに多数の転動体を介して移動部材が線運動可能に組み付けられる運動案内装置用のカバーであって、
　前記軌道レールの上面には、前記軌道レールの長手方向に相互に間隔を置いて配列され、前記複数の締結部材を挿入するための複数の通し孔が開口し、
　前記カバーは、前記軌道レールの上面に載せられて、前記軌道レールの前記複数の通し孔を覆い、
　前記カバーの材料は、ビッカース硬さＨＶが３７０未満に調質圧延されたばね用ステンレス鋼帯のＳＵＳ３０４-ＣＳＰ又はＳＵＳ３０１-ＣＳＰである運動案内装置用のカバー。