以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、本発明を基地局装置、移動局装置及び移動通信システムに具現化した場合について説明しているが、本発明は、これらに限定されるものではなく、基地局装置における送信電力制御方法としても成立するものである。
まず、本発明に係る基地局装置eNode B及び移動局装置UEの適用環境について説明する。図1は、本発明に係る基地局装置eNode B及び移動局装置UEの適用環境の一例を説明するための図である。なお、図1において、基地局装置eNode Bは、LTE-A仕様のものであり、送信アンテナを8つ備える場合について示すが、基地局装置eNode Bの構成については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、LTE仕様のものであって、送信アンテナを4つ備える基地局装置eNode Bにも適用することも可能である。
図1に示すように、本発明に係る基地局装置eNode Bは、8つの送信アンテナTX#1~TX#8を備え、これらの送信アンテナTX#1~TX#8により下りリンクでSU-MIMO伝送(空間多重伝送)を行うことが可能となっている。これらの送信アンテナTX#1~TX#8は、空間Sで構成される屋内環境において分散配置されている。具体的には、空間Sの長手方向の一対の壁面にそれぞれ4つずつ等間隔に配置されている。移動局装置UEは、空間S内に位置し、これらの送信アンテナTX#1~TX#8からの送信信号を分離して受信信号を得ることが可能となっている。
複数の送信アンテナTX#1~TX#8を空間Sに分散配置する場合には、移動局装置UEの位置に応じて、各送信アンテナTX#1~TX#8と移動局装置UEとの距離が異なってくるため、送信信号の減衰量(パスロス)に差異が生じることとなる。例えば、図1に示すように、空間Sにおける長手方向の一方の壁面際の中央近傍に移動局装置UEが位置している場合、送信アンテナTX#4との距離は、送信アンテナTX#6との距離よりも長いことから、送信アンテナTX#4からの送信信号のパスロスは、送信アンテナTX#6からの送信信号のパスロスよりも大きくなる。この場合、送信アンテナTX#4からの送信信号を移動局装置UE側で得ることができず、システム全体におけるスループット特性が劣化し得る。また、パスロスの大きい送信信号は、受信対象となる移動局装置UEに対する情報伝送に十分に寄与しない一方で、隣接セルにおける干渉の原因となり得る。この場合には、隣接セルに位置する移動局装置UEにおいて、適切に受信信号を得られなくなる事態が発生し、当該セルにおけるスループット特性を劣化させ得る。送信信号のパスロスは、各送信アンテナからの送信電力に関係するものであり、本発明者らは、送信信号のパスロスに応じて各送信アンテナからの送信電力を制御することがスループット特性の劣化を抑制に有効であることを見出した。
本発明者らは、上記の点に着目し、各送信アンテナからの送信電力を制御することで送信信号間に生じるパスロスの差異に起因するスループット特性の劣化を抑制すべく本発明をするに至った。すなわち、本発明の骨子は、基地局装置の複数の送信アンテナからの各送信信号の平均受信電力を反映した電力制御行列によって、予め複数のプリコーディングウェイトを定めたコードブックを更新し、更新したコードブックから各送信信号を合成した後のスループット又は受信SINRが最大となるプリコーディングウェイトを選択し、選択されたプリコーディングウェイトに応じて各送信信号の送信電力を制御することである。
図2は、本発明に係る基地局装置eNode B及び移動局装置UEで構成されるMIMOシステムの概念図である。図2に示すMIMOシステムにおいて、基地局装置eNode Bは、下り送信データを送信レイヤ数(ストリーム数)分に分配するレイヤマッピング部11と、8つの送信アンテナTX#1~TX#8に対応する8系統の乗算器121~128及び無線周波数(RF)送信回路131~138と、移動局装置UEから通知される平均受信電力フィードバック値Sm及びプリコーディング行列インデックス(PMI:Precoding Matrix Indicator)に基づいてプリコーディングウェイト(位相・振幅制御量)を決定するプリコーディングウェイト決定部14とを含んで構成されている。
下り送信データが入力されると、レイヤマッピング部11によって上位局装置から指示された送信レイヤ数分に分配される。その後、乗算器121~128によって下り送信データにプリコーディングウェイトが乗算されて位相・振幅がそれぞれ制御(シフト)される。そして、位相・振幅シフトされた送信データは、RF送信回路131~138により無線周波数帯に変換する周波数変換処理が施された後、8つの送信アンテナTX#1~TX#8から送信信号として送信される。
プリコーディングウェイト決定部14は、移動局装置UEから通知される、送信アンテナTX#1~TX#8からの各送信信号の平均受信電力を示す平均受信電力フィードバック値Sm及びPMIに基づいて、各送信アンテナTX#1~TX#8からの送信信号を合成した後のスループット(又は受信SINR)が最大となる最適なプリコーディングウェイトを決定し、乗算器121~128に与える。すなわち、基地局装置eNode Bからは、送信アンテナTX#1~TX#8からの各送信信号の平均受信電力及びPMIを反映して位相・振幅シフトされた送信信号が移動局装置UEに送信されるものとなっている。
プリコーディングウェイト決定部14は、基地局装置eNode B及び移動局装置UEの双方で既知のN個のプリコーディングウェイトを定めたコードブック(以下、「ベースコードブック」という)を備え、平均受信電力フィードバック値Smに応じて生成される送信電力制御行列(以下、「電力制御行列」という)Sxを用いてベースコードブック(より具体的には、ベースコードブックに定められたプリコーディングウェイト)を更新する。そして、この更新されたコードブック(以下、「更新コードブック」という)に定められたプリコーディングウェイトのうち、プリコーディングウェイト決定部24から通知されたPMIに応じて最適なものを選択する。なお、ベースコードブックを更新する際に利用される電力制御行列Sxの構成については後述する。
一方、移動局装置UEは、8つの受信アンテナRX#1~RX#8に対応する8系統の無線周波数(RF)受信回路211~218と、これらのRF受信回路211~218で受信した受信信号を分離する信号分離部22と、受信信号に含まれるリファレンス信号(参照信号)から基地局装置eNode Bの各送信アンテナTX#1~TX#8からの送信信号の平均受信電力を測定する平均受信電力測定部23と、この平均受信電力測定部23で測定された平均受信電力及び受信信号に含まれるリファレンス信号に基づいて、プリコーディングウェイト(位相・振幅制御量)を決定するプリコーディングウェイト決定部24とを含んで構成されている。
受信アンテナRX#1~RX#8を介して入力された受信信号は、RF受信回路211~218により無線周波数信号からベースバンド信号に変換する周波数変換処理が施される。ベースバンド信号に変換された受信信号は、信号分離部22により各ストリームに関する受信信号に分離される。そして、各ストリームに関する受信信号に、データ復調処理及びチャネル復号処理が施されることで下り送信データが再生されるものとなっている。
平均受信電力測定部23は、受信信号に含まれるリファレンス信号に応じて各受信アンテナRX#1~RX#8における平均受信電力を測定し、測定した平均受信電力を平均受信電力フィードバック値Smとしてプリコーディングウェイト決定部24及び基地局装置eNode Bのプリコーディング決定部14に通知する。平均受信電力の測定には、例えば、LTE-Aで規定されるチャネル状態情報リファレンス信号(CSI-RS:Channel State Information-Reference Signal)が用いられるが、これに限定されるものではなく、LTEで規定されるセル特定リファレンス信号(Cell-specific Reference Signal)を用いることも可能である。
プリコーディングウェイト決定部24は、平均受信電力測定部23から通知される平均受信電力フィードバック値Smと、受信信号に含まれるリファレンス信号(例えば、CSI-RS)に基づいて、基地局装置eNode Bの各送信アンテナTX#1~TX#8からの送信信号を合成した後のスループット(又は受信SINR)が最大となる最適なプリコーディングウェイトを決定し、このプリコーディングウェイトに対応するPMIを基地局装置eNode Bのプリコーディング決定部14に通知する。
プリコーディングウェイト決定部24は、基地局装置eNode Bのプリコーディング決定部14と同様に、基地局装置eNode B及び移動局装置UEの双方で既知のN個のプリコーディングウェイトを定めたベースコードブックを備え、平均受信電力フィードバック値Smに応じて生成される電力制御行列Sxに応じてベースコードブックに定められたプリコーディングウェイトを更新する。そして、この更新コードブックに定められたプリコーディングウェイトのうち、受信信号に含まれるリファレンス信号に応じて最適なプリコーディングウェイトを選択する。その後、プリコーディングウェイト決定部24は、選択したプリコーディングウェイトに対応するPMIをプリコーディングウェイト決定部14に通知する。
なお、プリコーディングウェイト決定部24においては、基地局装置eNode B及び移動局装置UEの双方で既知のベースコードブックを備えているため、PMIを通知するだけで選択したプリコーディングウェイトを通知することができるものとなっている。このPMIは、プリコーディングウェイト決定部24により決定された最適なプリコーディングウェイトに関する情報を構成する。また、プリコーディングウェイト決定部14及びプリコーディングウェイト決定部24は、共通するベースコードブックを備えており、平均受信電力フィードバック値Smに応じて電力制御行列Sxを生成することから、同一の電力制御行列Sxを得ることができるものとなっている。そして、この電力制御行列Sxを用いてベースコードブックを更新することから、同一の更新コードブックを得ることができるものとなっている。
ここで、プリコーディングウェイト決定部14及びプリコーディングウェイト決定部24でベースコードブックを更新する際に利用される電力制御行列Sxについて説明する。図3は、本発明に係る基地局装置eNode Bのプリコーディング決定部14及び移動局装置UEのプリコーディングウェイト決定部24が利用する電力制御行列Sxを説明するための図である。
図3に示すように、電力制御行列Sxは、基地局装置eNode Bの送信アンテナ数(移動局装置UEの受信アンテナ数)の次元を有する対角行列(すなわち、ここでは8次の対角行列)で構成される。また、電力制御行列Sxは、各送信アンテナTX#1~TX#8からの送信信号の平均受信電力値を行列要素の対角成分に有し、その他の行列要素に「0」成分を有している。なお、図3に示す電力制御行列Sxにおいて、「t0」は平均化初期時間を示し、「T」は平均化時間を示し、「NTX」、「NRX」はそれぞれ送信アンテナ数、受信アンテナ数を示し、「rij(t)」は送信アンテナi、受信アンテナj間の受信信号電力を示している。
図2に示すような8つの送信アンテナTX#1~TX#8を備える基地局装置eNode Bが保持するベースコードブックにおいては、例えば、1~8レイヤ送信用にそれぞれ16から32個のプリコーディングウェイトを用意することが検討され、これらが行列要素として定められている。なお、このベースコードブックに定められるプリコーディングウェイトの個数については、特に限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。このようなベースコードブックに定められたプリコーディングウェイト(プリコーディング行列)が、上述した電力制御行列Sxを用いて更新される。より具体的には、ベースコードブックに定められたプリコーディングウェイトに電力制御行列Sxの平方根を乗算することでベースコードブックが更新される。
このようにベースコードブックに定められたプリコーディングウェイトを更新することにより、更新後のプリコーディングウェイトには、各送信アンテナTX#1~TX#8からの送信信号の平均受信電力値が反映される。より具体的には、各送信アンテナTX#1~TX#8からの平均受信電力値が相対的に小さい送信信号(つまり、パスロスの大きい送信信号)の送信電力が低減される一方、各送信アンテナTX#1~TX#8からの平均受信電力値が相対的に大きい送信信号(つまり、パスロスの小さい送信信号)の送信電力が増大される。これにより、パスロスが小さい送信アンテナからの送信信号に対して、パスロスが大きい送信アンテナからの送信信号と比べて大きな送信電力が割り当てられることから、パスロスが小さい送信アンテナからの送信信号を確実に移動局装置UEに伝送することができるので、各送信アンテナTX#1~TX#8と移動局装置UEとの距離に応じてパスロスに差異が生じる場合と比べて、より効率的に信号伝送を行うことが可能となり、システム全体におけるスループット特性の劣化を抑制することができるものとなっている。
また、この場合、パスロスが大きい送信アンテナからの送信信号の送信電力が低減されることから、当該送信信号が干渉信号として隣接セルに与える影響を低減することができるので、当該セルにおけるスループット特性が劣化する事態を発生し難くすることができ、システム全体におけるスループット特性の劣化を抑制することが可能となる。
なお、図3に示す電力制御行列Sxにおいては、行列要素の対角成分として平均受信電力値を有する場合について示しているが、行列要素の対角成分については、平均受信電力値に限定されるものではない。例えば、平均受信電力値の他、各送信アンテナTX#1~TX#8からの送信信号のパスロスの逆数(以下、単に「パスロスの逆数」という)や、これらに比例した値であっても良い。例えば、パスロスの逆数は、上述した平均受信電力値と、各送信アンテナTX#1~TX#8における送信電力値の比から推定することができる。プリコーディングウェイト決定部14、24においては、平均受信電力フィードバック値Smに基づいて、このようなパスロスの逆数を行列要素に含む電力制御行列Sxを生成し、この電力制御行列Sxを用いてベースコードブックに定められたプリコーディングウェイトを更新する。
このようにパスロスの逆数を行列要素の対角成分に含む電力制御行列Sxを用いてベースコードブックを更新した場合には、平均受信電力を行列要素の対角成分に含む電力制御行列Sxとは逆に、各送信アンテナTX#1~TX#8からの平均受信電力値が相対的に小さい送信信号(つまり、パスロスが大きい送信信号)の送信電力が増大される一方、各送信アンテナTX#1~TX#8からの平均受信電力値が相対的に大きい送信信号(つまり、パスロスが小さい送信信号)の送信電力が低減される。これにより、パスロスが小さい送信アンテナからの送信信号に割り当てられる送信電力と、パスロスが大きい送信アンテナからの送信信号に割り当てられる送信電力とが略等しくなるように調整されることから、パスロスが大きい送信アンテナからの送信信号を移動局装置UE側で得ることができないという事態を発生し難くすることができるので、各送信アンテナTX#1~TX#8と移動局装置UEとの距離に応じてパスロスに差異が生じる場合と比べて、より効率的に信号伝送を行うことが可能となり、システム全体におけるスループット特性の劣化を抑制することができるものとなっている。
なお、電力制御行列Sxにおいて、行列要素の対角成分として平均受信電力値又はパスロスの逆数を有するかは、本実施の形態に係るMIMOシステムが適用される環境や、どのようなスループット(例えば、ピークスループット又はセル端スループット)を重視するかで選択することが好ましい。
以下、本実施の形態に係る基地局装置eNode B及び移動局装置UEを有する移動通信システムの構成について説明する。図4は、本実施の形態に係る基地局装置eNode B及び移動局装置UEが適用される移動通信システムのネットワーク構成図である。
移動通信システム1000は、例えば、LTE(Long Term Evolution)-Advancedが適用されるシステムである。移動通信システム1000は、基地局装置100と、基地局装置100と通信する複数の移動局装置200(2001、2002、2003、・・・200n、nはn>0の整数)とを備える。基地局装置100は、上位局、例えば、アクセスゲートウェイ装置300と接続され、アクセスゲートウェイ装置300は、コアネットワーク400と接続される。移動局装置200は、セル50において基地局装置100とLTE-Advancedにより通信を行っている。なお、アクセスゲートウェイ装置300は、MME/SGW (Mobility Management Entity/Serving Gateway)と呼ばれてもよい。
各移動局装置2001、2002、2003、・・・200nは、同一の構成、機能、状態を有するので、以下の説明においては、特段の断りがない限り移動局装置200として説明を進めるものとする。説明の便宜上、基地局装置100と無線通信するのは移動局装置200であるが、より一般的には携帯電話装置などの移動端末や、パーソナルコンピュータなどの固定端末も含むユーザ装置(UE)でよい。
移動通信システム1000では、無線アクセス方式として、下りリンクについてはOFDMA(直交周波数分割多元接続)が、上りリンクについてはSC-FDMA(シングルキャリア-周波数分割多元接続)に基づく無線アクセスが適用される。ここで、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiplexing Access)は、周波数帯域を複数の狭い周波数帯域(サブキャリア)に分割し、各サブキャリアにデータを載せて伝送を行うマルチキャリア伝送方式である。SC-FDMA(Single-Carrier Frequency Division Multiple Access)は、システム帯域を端末毎に1つ又は連続したリソースブロックからなる帯域に分割し、複数の端末が互いに異なる帯域を用いることで、端末間の干渉を低減するシングルキャリア伝送方式である。
ここで、LTE-Advancedにおける通信チャネルについて説明する。下りリンクについては、各移動局装置200で共有される物理下りリンク共有チャネル(PDSCH:Physical Downlink Shared Channel)と、下りリンクの制御チャネルである物理下りリンク制御チャネル(PDCCH:Physical Downlink Control Channel、下りL1/L2制御チャネルともいう)とが用いられる。上記物理下りリンク共有チャネルにより、ユーザデータ、すなわち、通常のデータ信号が伝送される。
また、下りリンクにおいては、Physical-Broadcast Channel(P-BCH)やDynamic Broadcast Channel(D-BCH)等の報知チャネルが送信される。P-BCHにより伝送される情報は、Master Information Block(MIB)であり、D-BCHにより伝送される情報は、System Information Block(SIB)である。D-BCHは、PDSCHにマッピングされて、基地局装置100より移動局装置200nに伝送される。
上りリンクについては、各移動局装置200で共有して使用される物理上りリンク共有チャネル(PUSCH:Physical Uplink Shared Channel)と、上りリンクの制御チャネルである物理上りリンク制御チャネル(PUCCH:Physical Uplink Control Channel)とが用いられる。物理上りリンク共有チャネルにより、ユーザデータ、すなわち、通常のデータ信号が伝送される。また、物理上りリンク制御チャネルにより、下りリンクMIMO伝送のためのプリコーディング行列インデックス(PMI)、平均受信電力フィードバック値Sm、下りリンクの共有チャネルに対する送達確認情報や、下りリンクのチャネル状態情報(CSI:Channel State Information)等が伝送される。なお、PMIや平均受信電力フィードバック値Smは、物理上りリンク共有チャネル(PUSCH)で伝送されても良い。
また、上りリンクにおいては、初期接続等のための物理ランダムアクセスチャネル(PRACH:Physical Random Access Channel)が定義されている。移動局装置200は、PRACHにおいて、ランダムアクセスプリアンブルを基地局装置100に送信するものとなっている。
図5は、本実施の形態に係る基地局装置100の構成を示すブロック図である。図6は、本実施の形態に係る移動局装置200の構成を示すブロック図である。なお、図5及び図6に示す基地局装置100及び移動局装置200の構成は、本発明を説明するために簡略化したものであり、それぞれ通常の基地局装置及び移動局装置が有する構成は備えているものとする。
図5に示す基地局装置100において、送信データは、不図示のレイヤマッピング部により上位局装置から指示された送信レイヤ数(ストリーム数)分に分配されて直列/並列変換部501に入力される。各ストリームに関する送信データは、直列/並列変換部501により直列/並列変換処理が施された後、それぞれチャネル符号化部502#1~502#Nstream、データ変調部503#1~503#Nstreamでチャネル符号化、データ変調される。データ変調部503#1~503#Nstreamでデータ変調された送信データは、不図示の離散フーリエ変換部で逆フーリエ変換され、時系列の信号から周波数領域の信号に変換されてサブキャリアマッピング部504に出力される。
サブキャリアマッピング部504は、チャネル符号化部502#1~502#Nstream、データ変調部503#1~503#Nstreamにより処理された各ストリームに関する送信データを、不図示のスケジューラから与えられるスケジュール情報に応じてサブキャリアにマッピングする。このとき、サブキャリアマッピング部504は、復調用リファレンス信号(RS)生成部505により生成された復調用リファレンス信号(例えば、DM-RS)、並びに、チャネル状態情報用リファレンス信号(CSI-RS)生成部506により生成されたCSI-RSを送信データと共にサブキャリアにマッピング(多重)する。このようにしてサブキャリアにマッピングされた送信データは、プリコーディング乗算部507に入力される。
ここで、CSI-RSは、移動局装置200における各送信アンテナTX#1~TX#8からの平均受信電力を測定するためのリファレンス信号として機能するものである。このCSI-RSは、上述した電力制御行列Sxの影響を受けることなく、一定の送信電力で送信される。このようにCSI-RSを一定の送信電力で送信することにより、移動局装置200における平均受信電力を測定する際の精度を高めることができるものとなっている。なお、このCSI-RSは、移動局装置200におけるPMIの選択の際にも利用される。
プリコーディング乗算部507は、送信電力制御部として機能するものであり、後述するプリコーディングウェイト決定部508から与えられるプリコーディングウェイトに基づいて、送信アンテナTX#1~TX#NTX毎に送信信号を位相及び/又は振幅シフトする(プリコーディングによる送信アンテナTX#1~TX#NTXの重み付け)。例えば、平均受信電力値を行列要素に含む電力制御行列Sxにより更新された更新コードブックから選択されたプリコーディングウェイトが与えられる場合、プリコーディング乗算部507は、平均受信電力が相対的に小さい送信信号(つまり、パスロスが大きい送信信号)の送信電力を低減する一方、平均受信電力が相対的に大きい送信信号(つまり、パスロスが小さい送信信号)の送信電力を増大する送信電力制御を行う。一方、パスロスの逆数を行列要素に含む電力制御行列Sxにより更新された更新コードブックから選択されたプリコーディングウェイトが与えられる場合、プリコーディング乗算部507は、平均受信電力が相対的に小さい送信信号(つまり、パスロスが大きい送信信号)の送信電力を増大する一方、平均受信電力値が相対的に大きい送信信号(つまり、パスロスが小さい送信信号)の送信電力を低減する送信電力制御を行う。
なお、例えば、平均受信電力値を行列要素に含む電力制御行列Sxを用いる場合において、平均受信電力が相対的に小さい送信信号(つまり、パスロスが大きい送信信号)の送信電力を低減した結果、その送信電力が予め定めた送信電力の閾値を下回る場合にその送信電力を「0」とし、当該送信信号の送信を制限することは実施の形態として好ましい。この場合には、パスロスが大きい送信アンテナからの送信信号の送信電力が「0」とされることから、当該送信信号が干渉信号として隣接セルに与える影響をなくすことができるので、当該セルにおけるスループット特性が劣化する事態をより発生し難くすることができ、システム全体におけるスループット特性の劣化を抑制することができる。
プリコーディングウェイト決定部508は、ベースコードブックを保持するベースコードブック保持部508aと、移動局装置200から通知される平均受信電力フィードバック値Smに応じて電力制御行列Sxを生成する電力制御行列生成部508bと、電力制御行列Sxに応じてベースコードブックに定められたプリコーディングウェイトを更新するコードブック更新部508cと、移動局装置200から通知されるPMIに応じて更新後のコードブック(更新コードブック)に定められたプリコーディングウェイトのうち、最適なものを選択するプリコーディングウェイト選択部508dとを備える。
プリコーディングウェイト決定部508は、移動局装置200から上りリンクで平均受信電力フィードバック値Sm及びPMIのフィードバックを受けると、電力制御行列生成部508bで平均受信電力フィードバック値Smに基づいて上述した電力制御行列Sxを生成する。そして、コードブック更新部508cでベースコードブックを電力制御行列Sxに応じて更新した後、プリコーディングウェイト選択部508dでPMIに従って更新コードブックの最適なプリコーディングウェイトを選択し、当該プリコーディングウェイトをプリコーディング乗算部507に出力する。なお、電力制御行列生成部508bで上述したパスロスの逆数を行列要素に含む電力制御行列Sxを生成する場合には、平均受信電力フィードバック値Smと、各送信アンテナTX#1~TX#NTXにおける送信電力との比からパスロスの逆数が推定される。
プリコーディング乗算部507により位相及び/又は振幅シフトされた送信信号は、逆高速フーリエ変換部509#1~509#NTXにて逆高速フーリエ変換して周波数領域の信号から時間領域の信号に変換される。そして、サイクリックプレフィックス付与部510#1~510#NTXにてサイクリックプレフィックスが付与される。サイクリックプレフィックスが付与された送信信号は、RF送信回路511#1~511#NTXへ送出され、無線周波数帯に変換する周波数変換処理が施された後、送信アンテナTX#1~TX#NTXを介して下りリンクで移動局装置200に送出される。
次に、図6を参照して本実施の形態に係る移動局装置200の構成について説明する。図6に示す移動局装置200において、基地局装置100から送信された送信信号は、受信アンテナRX#1~RX#NRXにより受信され、デュプレクサ(Duplexer)601#1~601#NRXにて送信経路と受信経路とに電気的に分離された後、RF受信回路602#1~602#NRXに出力される。そして、RF受信回路602#1~602#NRXにて、無線周波数信号からベースバンド信号に変換する周波数変換処理が施された後、CP除去部603#1~603#NRXにより受信信号に付与されたサイクリックプレフィックスが除去され、高速フーリエ変換部(FFT部)604#1~604#NRXに出力される。
受信タイミング推定部605は、RF受信回路602#1~602#NRXから出力された受信信号を取得し、例えば、この受信信号に含まれるリファレンス信号から受信タイミング(FFT処理タイミング)を推定し、FFT部604#1~604#NRXに通知する。RF受信回路602#1~602#NRXからの受信信号は、FFT部604#1~604#NRXにおいて、受信タイミング推定部605から通知された受信タイミングに応じてフーリエ変換され、時系列の信号から周波数領域の信号に変換された後、データチャネル信号分離部606に出力される。
データチャネル信号分離部606は、FFT部604#1~604#NRXから入力された受信信号を、例えば、最尤推定検出(MLD:Maximum Likelihood Detection)信号分離法により分離する。これにより、基地局装置100から到来した受信信号は、ストリーム#1~#Nstreamに関する受信信号に分離される。チャネル推定部607は、FFT部604#1~604#NRXから出力された受信信号に含まれるリファレンス信号からチャネル状態を推定し、推定したチャネル状態をデータチャネル信号分離部606に通知する。データチャネル信号分離部606においては、通知されたチャネル状態に基づいて、受信信号をMLD信号分離法により分離する。
データチャネル信号分離部606により分離されたストリーム#1~#Nstreamに関する受信信号は、不図示のサブキャリアデマッピング部にてデマッピングされて時系列の信号に戻された後、不図示のデータ復調部でデータ復調される。そして、チャネル復号部608にてチャネル復号処理が施されることで送信信号が再生される。
平均受信電力測定部609は、FFT部604#1~604#NRXから入力された受信信号に含まれるリファレンス信号(CSI-RS)の受信状態から各送信アンテナTX#1~TX#NTXからの送信信号の平均受信電力を測定する。測定された平均受信電力は、平均受信電力フィードバック値Smとして、後述するプリコーディングウェイト決定部610の電力制御行列生成部610bに通知されると共に、不図示の上り制御信号生成部に通知される。平均受信電力フィードバック値Smは、上り制御信号生成部により生成された上り制御信号(PUCCH)に含めて上りリンクで基地局装置100に送出(フィードバック)される。なお、平均受信電力フィードバック値Smを基地局装置100側にフィードバックする際には、例えば、平均受信電力フィードバック値Smの絶対値をフィードバックする方法や、前回にフィードバックした平均受信電力フィードバック値Smからの差分をフィードバックする方法が考えられる。
プリコーディングウェイト決定部610は、ベースコードブックを保持するベースコードブック保持部610aと、平均受信電力測定部609から通知される平均受信電力フィードバック値Smに応じて電力制御行列Sxを生成する電力制御行列生成部610bと、電力制御行列に応じてベースコードブックに定められたプリコーディングウェイトを更新するコードブック更新部610cと、FFT部604#1~604#NRXから入力された受信信号に含まれるリファレンス信号(CSI-RS)の受信状態に応じて更新後のコードブック(更新コードブック)に定められたプリコーディングウェイトのうち、最適なものを選択するプリコーディングウェイト選択部610dとを備える。
プリコーディングウェイト決定部610は、平均受信電力測定部609から平均受信電力フィードバック値Smの通知を受けると、電力制御行列生成部610bで平均受信電力フィードバック値Smに基づいて上述した電力制御行列Sxを生成する。そして、コードブック更新部610cでベースコードブックを電力制御行列Sxに従って更新した後、プリコーディングウェイト選択部508dで受信信号に含まれるリファレンス信号(CSI-RS)の受信状態に応じて更新コードブックの最適なプリコーディングウェイトを選択する。そして、選択した最適なプリコーディングウェイトに対応するPMIを上りリンクで基地局装置100に送出する。PMIは、不図示の上り制御信号生成部に通知され、この上り制御信号生成部により生成された上り制御信号(PUCCH)に含めて上りリンクで基地局装置100に送出される。なお、電力制御行列生成部610bで上述したパスロスの逆数を行列要素に含む電力制御行列Sxを生成する場合には、平均受信電力フィードバック値Smと、基地局装置100の各送信アンテナTX#1~TX#NTXにおける送信電力との比からパスロスの逆数が推定される。
このような構成を有する移動局装置200においては、基地局装置100の各送信アンテナTX#1~TX#NTXからの送信信号の平均受信電力を測定し、平均受信電力フィードバック値Smを基地局装置100にフィードバックすると共に、これを反映した電力制御行列Sxを生成する。そして、この電力制御行列Sxでベースコードブックを更新した後、この更新コードブックの最適なプリコーディングウェイトを選択すると共に、これに対応するPMIを基地局装置100にフィードバックする。
本実施の形態に係る移動局装置200によれば、基地局装置100の各送信アンテナTX#1~TX#NTXからの送信信号の平均受信電力に基づいて最適なプリコーディングウェイトが選択され、当該プリコーディングウェイトに対応するPMIが基地局装置100にフィードバックされることから、各送信アンテナTX#1~TX#NTXからの送信信号の平均受信電力を反映したPMIを基地局装置100に提供することができるので、基地局装置100における各送信信号の送信電力を制御する際の処理を簡素化することが可能である。
一方、基地局装置100においては、移動局装置200から平均受信電力フィードバック値Sm及びPMIのフィードバックを受けると、平均受信電力フィードバック値Smを反映した電力制御行列Sxを生成し、この電力制御行列Sxでベースコードブックを更新する。そして、この更新コードブックの最適なプリコーディングウェイトを上記PMIに従って選択し、当該プリコーディングウェイトを各ストリームに関する送信信号に乗算して移動局装置200に送出する。
本実施の形態に係る基地局装置100によれば、各送信アンテナTX#1~TX#NTXからの送信信号の平均受信電力に基づいて生成される電力制御行列Sxに応じて各ストリームに関する送信信号に乗算されるプリコーディグウェイトを調整し、各ストリームに関する送信信号の送信電力を制御する。これにより、各送信アンテナTX#1~TX#NTXからの送信信号の平均受信電力に応じて各ストリームに関する送信信号の送信電力が決定されることから、各送信アンテナTX#1~TX#NTXからの送信信号の平均受信電力を反映して柔軟に各ストリームに関する送信信号の送信電力を制御することができるので、屋内環境にて複数の送信アンテナが配置される場合においても、システム全体におけるスループット特性の劣化を抑制することが可能となる。
特に、本実施の形態に係る基地局装置100においては、移動局装置200から平均受信電力フィードバック値Smのフィードバックを受け、この平均受信電力フィードバック値Smに応じて電力制御行列Sxを生成することから、移動局装置200と共通する電力制御行列Sxを生成することができるので、双方で共通するベースコードブックから確実に同一の更新コードブックを得ることができるものとなっている。また、基地局装置100においては、移動局装置200からフィードバックされるPMIに従って更新コードブックから最適なプリコーディングウェイトを選択することから、確実に移動局装置200と同一のプリコーディングウェイトを選択できるものとなっている。
例えば、平均受信電力値を行列要素に含む電力制御行列Sxを用いる場合には、パスロスが小さい送信アンテナからの送信信号に対して、パスロスが大きい送信アンテナからの送信信号と比べて大きな送信電力が割り当てられることから、パスロスが小さい送信アンテナからの送信信号を確実に移動局装置200に伝送することができるので、各送信アンテナTX#1~TX#NTXと移動局装置UEとの距離に応じてパスロスに差異が生じる場合と比べて、より効率的に信号伝送でき、システム全体におけるスループット特性の劣化を抑制することが可能となる。
また、パスロスの逆数を行列要素に含む電力制御行列Sxを用いる場合には、パスロスが小さい送信アンテナからの送信信号に割り当てられる送信電力と、パスロスが大きい送信アンテナからの送信信号に割り当てられる送信電力とが略等しくなるように調整されることから、パスロスの大きい送信アンテナからの送信信号を移動局装置UE側で得ることができないという事態を発生し難くすることができるので、各送信アンテナTX#1~TX#NTXと移動局装置UEとの距離に応じてパスロスに差異が生じる場合と比べて、より効率的に信号伝送でき、システム全体におけるスループット特性の劣化を抑制することが可能となる。
さらに、電力制御行列Sxは、基地局装置100の送信アンテナ数の次元を有する対角行列で構成され、各送信アンテナTX#1~TX#NTXからの平均受信電力値(又はこの平均受信電力値に基づくパスロスの逆数)を行列要素の対角成分に有している。このため、基地局装置100で電力制御行列Sxを生成するために必要なフィードバック情報として、移動局装置200から電力制御行列Sxの行列要素の対角成分(例えば、送信アンテナ数が8つの場合には、8つの対角成分)だけフィードバックすれば良いので、電力制御行列Sxを生成するためのフィードバック情報のために多量の情報ビット数を確保する必要がなくなる。
例えば、複数の送信アンテナと移動局装置UEとの位置関係に起因して生じる送信信号のパスロスの差異に対応する類似技術として、プリコーディングウェイトとして送信信号の送信電力をオフとする成分(つまり、「0」成分)を定めるコードブックを用いて、特定の送信アンテナからの送信信号の送信を制限する内容が提案されている(3GPP, TR36.814, “Further Advancements for E-UTRA: Physical Layer Aspects”)。このようなコードブックを用いる場合には、特定の送信アンテナからの送信信号の送信電力をオン/オフすることが可能である。しかしながら、送信アンテナ数に応じてコードブックに定められるプリコーディングウェイトの数を増大する必要があり、これらのプリコーディングウェイトの特定に必要となるフィードバック情報量も、特にアンテナ数が多いほど大きくなる。これに対して、本実施の形態に係る移動通信システム1000においては、移動局装置200から電力制御行列Sxの行列要素の対角成分だけフィードバックすれば良いので、移動局装置200から基地局装置100へのフィードバック情報量を大幅に低減することが可能となる。
なお、以上の説明では、複数の送信アンテナが分散配置されることにより、送信信号のパスロスが発生する場合を具体例として説明しているが、本発明の適用対象は、複数の送信アンテナが分散配置される場合に限定されるものではない。例えば、複数の送信アンテナが局所的に配置(局所配置:Localized配置)される場合であって送信信号のパスロスに差異が生じる場合や、垂直/水平偏波アンテナを用いる場合であって、垂直偏波面と水平偏波面とで受信レベル差が異なる場合等にも適用することが可能である。
以上、上述の実施形態を用いて本発明について詳細に説明したが、当業者にとっては、本発明が本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。本発明は、特許請求の範囲の記載により定まる本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。従って、本明細書の記載は、例示説明を目的とするものであり、本発明に対して何ら制限的な意味を有するものではない。
本出願は、2009年10月5日出願の特願2009-231924に基づく。この内容は全てここに含めておく。