以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を、建設車両としてのホイールローダに適用した場合を例に挙げて説明する。但し、本実施形態は、ホイールローダ以外の他の建設車両にも適用することができる。
図2は、本実施形態に係るホイールローダ100の全体構成の概略を示すブロック図である。
ホイールローダ100は、例えば、エンジン130と、ホイールローダ100を走行させるための走行装置138と、作業機106と、主に作業機106を駆動するための油圧回路134と、エンジン130の出力を走行装置138及び油圧回路134に分配する出力分配器(PTO:Power Take Off)132とを備えている。
走行装置138は、例えば、モジュレーションクラッチ(以下、単に「クラッチ」という)140と、トルクコンバータ(T/C)142と、トランスミッション(T/M)144と、アクスル146と、ホイール148とを備えている。エンジン130から出力された動力は、クラッチ140、トルクコンバータ142、トランスミッション144及びアクスル146を介して、ホイール148に伝達される。本実施形態に係るクラッチ140は、単なる直結(係合度100%)と切り離し(係合度0%)だけでなく、滑らせることも考慮されたクラッチ(即ち、その係合度を100%から0%の間の中間的な値に調整することができ、それによりエンジン出力の伝達量を調整することができるクラッチ)である。クラッチ140の係合度が低下するほど、エンジン出力のトランスミッション144へ伝達されるトルクの最大値が低下し、それにより同じエンジン出力の場合でも、ホイール148から出力される走行駆動力(以下、単に「駆動力」という)が低下するようになっている。クラッチ140の係合度を制御する方法には、いくつかのやり方があるが、本実施形態では、クラッチ140の係合度は、クラッチ140に加えられる制御油圧によって決定される。以下、クラッチ140に加えられる制御油圧を、「クラッチ圧」と呼ぶ。
作業機106は、ブーム108、バケット110、ブームシリンダ136及びバケットシリンダ112等を有する。油圧回路134は、エンジン130で駆動された図示されていない油圧ポンプを用いて、ブームシリンダ136及びバケットシリンダ112に作動油を供給し、それぞれのシリンダ136,112を伸縮させることにより、ブーム108及びバケット110をそれぞれ駆動する。ブーム108は、バケットストッパ108Aを有し、バケットストッパ108Aは、バケット110のそれ以上のチルトを止め、壁掘削時などに壁からバケット110に加わる反力122を受ける役目をする。
ここで、図3を参照する。図3は、ホイールローダ100の側面図である。図3に示されるように、ブーム108と本体102との連結箇所には、ブーム108の角度を検出するためのブーム角度センサ152が設けられている。また、バケットシリンダ112には、バケットシリンダ112がこれ以上伸長し得ないストロークエンド状態にあることを検出するためのストロークエンドセンサ150が設けられている。ストロークエンドセンサ150は、この実施形態では、バケットシリンダ112の本体112Aに取り付けられた近接スイッチ150Aと、バケットシリンダ112のロッド112Bに取り付けられた可動バー150Bとを有する。可動バー150Bは、バケットシリンダ112のロッド112Bが最大限に伸び出たストロークエンド状態のときに、近接スイッチ150Aに接触してこれをターンONするようになっている。従って、近接スイッチ150は、バケットシリンダ112がストロークエンド状態にある場合にONとなり、それ以外の状態にある場合にOFFとなる。図3(又は図1(a))に示されるように、ブーム108とバケット110の高さが所定高さより低い場合には、バケットシリンダ112がストロークエンド状態になるより前に、バケット110がバケットストッパ108Aに当接し、そこがバケット110のチルトエンド位置(バケット110がそれ以上はチルトし得ない位置)になる。他方、図1(b)及び(c)に示されるように、ブーム108とバケット110の高さが所定高さより高い場合には、バケットシリンダ112がストロークエンド状態になったときのバケット110の位置が、そのままバケット110のチルトエンド位置になる。この時にはバケット110はバケットストッパ108Aに接触していない。この後者の場合が、既に説明したように、壁掘削などのときに壁からの反力122によってバケットシリンダ112に過大な負荷がかかる場合である。この場合には、ストロークエンドセンサ150からの信号(ONかOFFか)は、バケット110がチルトエンド位置にあるか否かを示すことになる。上述したブーム角度センサ152から出力される信号(ブーム108の角度に応じた値を示す)及びストロークエンドセンサ150から出力される信号(ONかOFFか)は、後述するコントローラ160に入力される。
図2に戻る。ホイールローダ100には、主にクラッチ140及びトランスミッション144の制御を行うコントローラ160が備えられている。コントローラ160は、例えば、マイクロプロセッサ及びメモリ170を備えたコンピュータを含む電子回路として構成される。クラッチ140及びトランスミッション144等の制御は、コントローラ160のマイクロプロセッサが、コントローラ160のメモリ170に記憶されている所定のプログラムを実行することにより行われる。
コントローラ160は、例えば、クラッチ圧制御部161と、T/M制御部162と、クラッチ圧目標値決定部163と、駆動力制御判定部164と、姿勢判別部165と、走行判別部166と、駆動力判別部167と、傾斜判別部168とを備える。メモリ172には、例えば、速度段記憶部172と、クラッチ圧記憶部174とが備えられる。
T/M制御部162は、トランスミッション144に対して速度段を指示する信号を送信することにより、トランスミッション144における速度段の切り替えを制御する処理部である。例えば、T/M制御部162は、トランスミッション144の現在の速度段を速度段記憶部172に記憶しておくことができる。
クラッチ圧制御部161は、クラッチ140に対してクラッチ圧を指示する信号(以下、「クラッチ圧指示信号」)を送信することにより、クラッチ圧を制御し、それによりクラッチ140の係合度を調整する処理部である。以下、クラッチ圧指示信号において、クラッチ圧制御部161が指示したクラッチ圧を、「クラッチ圧指令値」と呼ぶ。クラッチ160は、そのクラッチ圧がクラッチ圧指令値に制御され、それによりその係合度がクラッチ圧指令値に対応した係合度となる。
姿勢判別部165は、作業機106の現在の姿勢が、図1(b)及び(c)に示されるような所定の姿勢に該当するか否か判別する処理部である。走行判別部166は、走行装置138の現在の走行動作が、作業機106に過大な負荷を与える作業(本実施形態では、掘削作業)を行う場合の走行動作に該当するか否かを判別する処理部である。駆動力判別部167は、現在の走行駆動力の大きさが、作業機106に過大な負荷を与える所定の大きさに該当するか否かを判別する処理部である。傾斜判別部168は、車体の前後方向軸の傾斜角度が、作業機106に過大な負荷を与える作業(本実施形態では、掘削作業)が行われる可能性のない所定の角度範囲に該当しているか否かを判別する処理部である。駆動力制御判定部164は、姿勢判別部165、走行判別部166、駆動力判別部167及び傾斜判別部168のそれぞれの判別結果に基づいて、クラッチ制御(後述する)を行うか否かを判定する処理部である。クラッチ圧目標値決定部163は、現在の駆動力値に対応したクラッチ圧の目標値を決定する処理部である。
本実施形態に係るコントローラ160は、図3に示されるように、ホイールローダ100が垂直壁などの掘削作業を行っている場合に、その駆動力120に対応した反力122によって、作業機106に過大な負荷がかかることを防止するために、走行装置138から出力される駆動力120を作業機106に過大な負荷がかからない大きさに調節するという制御を行う。以下、この制御を「駆動力制御」と呼ぶ。駆動力制御において、コントローラ160は、ホイールローダ100の動作状態が、作業機106に過大な負荷がかかる状態にあるか否かを判定し、作業機106に過大な負荷がかかる状態にある場合に、クラッチ圧を制御(クラッチ140の係合度を調整)して駆動力120の調整を行う。以下、駆動力制御において行われる、クラッチ140の係合度を調整して駆動力120を調整する制御を「クラッチ制御」と呼ぶ。駆動力制御及び駆動力制御において行われるクラッチ制御の詳細については、後述する。
再び図2を参照して、ホイールローダ100には、クラッチ140の出力軸回転数を検出するクラッチ出力軸回転数センサ154と、トランスミッション144の出力軸回転数を検出するT/M出力軸回転数センサ156と、車体の前後方向軸の傾斜角度(つまり、ピッチ角度)を検出する傾斜計158とが設けられている。クラッチ出力軸回転数センサ154、T/M出力軸回転数センサ156及び傾斜計158から出力される信号は、矢印(3)~(5)に示されるように、コントローラ160に入力される。具体的には、クラッチ出力軸回転数センサ154から出力される信号(クラッチ140の出力軸回転数を示す信号)が、駆動力判別部167に入力される(図2(3))。また、T/M出力軸回転数センサ156から出力される信号(トランスミッション144の出力軸回転数を示す信号)が、走行判別部166及び駆動力判別部167に入力される(図2(4))。更に、傾斜計158から出力される信号(車体の前後方向軸の傾斜角度を示す信号)が、傾斜判別部168に入力される。また、上述したように、ブーム角度センサ152からの信号及びストロークエンドセンサ150からの信号(ONかOFFか)も、矢印(1)及び(2)に示されるように、コントローラ160(具体的には、姿勢判別部165)に入力される。コントローラ160は、これらのセンサ信号((1)~(5))に基づいて、駆動力制御を行う。以下、本実施形態に係る駆動力制御の内容について具体的に説明する。
図4は、本実施形態に係る駆動力制御の内容を示すフローチャートである。
まず、姿勢判別部165は、バケット110がチルトエンド位置にあるか否かを判定する(S101)(厳密には、バケットシリンダ112がストロークエンド状態にあるか否かを判断するのであるが、本発明で問題とする図1(b)及び(c)に示されたような場合には、チルトエンド位置がストロークエンド状態に対応するので、この制御では、両者を厳密に区別せずに等価なものとして扱う)。具体的には、例えば、姿勢判別部165は、ストロークエンドセンサ150から受信した信号(図2の(1))(ONかOFFか)に基づいて、バケット110がチルトエンド位置にあるか否かを判定することができる。即ち、姿勢判別部165は、ストロークエンドセンサ150からの信号がONの状態にある場合は、バケット110がチルトエンド位置(ストロークエンド状態)にあると判定し、ストロークエンドセンサ150からの信号がOFFの状態にある場合は、バケット110がチルトエンド位置(ストロークエンド状態)にはないと判定することができる。変形例として、他の信号、例えば、角度センサをバケット110とブーム108の結合部108Bに設け、ブーム108に対するバケット110の角度を検出し、検出した角度とブーム108の高さに基づいて、チルトエンド位置(ストロークエンド状態)を検出してもよい。この変形例の場合、後述する「所定の姿勢」か否かが一度に判別できる。
バケット110がチルトエンド位置(ストロークエンド状態)にない場合は(S101:NO)、駆動力制御判定部164は、クラッチ制御(クラッチ140の係合度を調節して駆動力を調節する制御)を行わないと判定する。即ち、バケット110がチルトエンド位置(或いは、ストロークエンド状態)にない場合は、作業機106は、図1(b)及び(c)に示されたような、バケットシリンダ112がストロークエンド状態であって、大きな反力122を一手に受けることでバケットシリンダ112に過大な負荷がかかるような姿勢(本明細書では、このような作業機106の姿勢を「所定の姿勢」という)にはなっていない。従って、この場合、クラッチ制御は行われずに、一定時間待機後、再度ステップS101の処理が行われる。
一方、バケット110がチルトエンド位置にある場合は(S101:YES)、姿勢判別部165は、現在のブーム108の高さが、上記「所定の姿勢」か否かを判断するための所定の高さ閾値、例えば1.35[m]以上か否かを判定する(S102)。本実施形態では、図3に示したように、ブーム108とバケット110との連結箇所108Bの地上高さを、ブーム108の高さと定義している。姿勢判別部165は、ブーム角度センサ152によって検出された、現在のブーム108の角度に基づいて、ブーム108の高さを計算することができる。上記1.35[m]という高さ閾値は、バケット110がチルトエンド位置にある場合において、バケット110がバケットストッパ108Aに当接するか否かを分ける、ブーム108の高さの境界値である。即ち、ブーム108の高さが1.35[m]よりも低ければ、バケット110は、チルトエンド位置にてバケットストッパ108Aに当接しており、ブーム108の高さが1.35[m]以上であれば、バケット110は、チルトエンド位置にてバケットストッパ108Aに当接していないことになる。
ステップS102の判断の結果、現在のブーム108の高さが高さ閾値(1.35[m])より低い場合(即ち、バケット110がチルトエンド位置にあり(ステップS101で判断済み)且つバケットストッパ108Aに当接している場合)は(S102:NO)、駆動力制御判定部164は、クラッチ制御を行わないと判定する。即ち、この場合は、バケット110に加わる強大な反力122は、バケットストッパ108Aとバケットシリンダ112とが分担して受けることになり、バケットシリンダ112に加わる引っ張り力は過大にはならない。つまり、作業機106は、図1(b)及び(c)に示されるような所定の姿勢とはなっていない。従って、この場合も、クラッチ制御は行われずに、一定時間待機後、再度ステップS101の処理が行われる。
一方、ステップS102の判断の結果、現在のブーム108の高さが高さ閾値(1.35[m])以上である場合(即ち、バケット110がチルトエンド位置にあり且つバケットストッパ108Aに当接していない場合)は(S102:YES)、これは、作業機106が図1(b)及び(c)に示されるような所定の姿勢にあることを意味する。この場合、走行判別部166は、トランスミッション144の現在の速度段がF1(前進第一速)であるか否かを判定する(S103)。上述したように、T/M制御部162は、トランスミッション144の速度段を制御しており、速度段記憶部172には、トランスミッション144の現在の速度段が記憶されている。従って、走行判別部166は、速度段記憶部172に記憶されているトランスミッション144の速度段を参照することにより、現在の速度段がF1であるか否かを判定することができる。変形例として、他の信号、例えば、運転席にあるシフト操作装置(典型的にはシフトレバー)からの速度段選択信号に基づいて、或いは、トランスミッション144の実際のギア状態を検出することで、現在の速度段がF1か否かが判断されてもよい。
トランスミッション144の現在の速度段がF1でない場合は(S103:NO)、駆動力制御判定部164は、クラッチ制御を行わないと判定する。即ち、大きな前進駆動力が出力できるのは速度段がF1のときであり、一般に、掘削作業を行うときに選択される速度段がF1である。従って、速度段がF1でない場合は、掘削作業が行われていない可能性が高い。また、速度段がF1以外の場合の駆動力は、作業機106に過大な負荷がかかるほど大きくはない。従って、速度段がF1でない場合も、クラッチ制御は行われずに、一定時間待機後、再度ステップS101の処理が行われる。
一方、トランスミッション144の現在の速度段がF1である場合は(S103:YES)、走行判別部166は、ホイールローダ100の前進走行速度が、掘削作業で通常使われるような低い速度範囲内(0[km/h]近傍の範囲であり、以下、単に「低速」という)であるか否かを判定する(S104)。具体的には、例えば、走行判別部166は、T/M出力軸回転数センサ156によって検出されたトランスミッション144の出力軸回転数に基づいて計算された走行速度が所定の速度閾値(例えば、1[km/h])以下の場合に、走行速度が低速であると判定することができる。
走行速度が低速でない場合は(S104:NO)、駆動力制御判定部164は、クラッチ制御を行わないと判定する。即ち、掘削作業が行われている場合の走行速度はほぼ0[km/h]であるから、走行速度が低速でない場合は、掘削作業が行われていない(つまり、作業機106は大きな力を受けない)と判断できる。従って、走行速度が低速でない場合も、クラッチ制御は行われずに、一定時間待機後、再度ステップS101の処理が行われる。
一方、走行速度が低速である場合は(S104:YES)、駆動力判別部167は、駆動力120の値(駆動力値)が所定の駆動力閾値、例えば45000[kgf]以上であるか否かを判定する(S105)。この45000[kgf]という駆動力閾値は、その駆動力120に対応した反力122によって所定の姿勢の作業機106に過大な負荷がかかる可能性が出てくるか否かを分ける、駆動力値の境界値である。即ち、駆動力値が45000[kgf]よりも小さければ、作業機106が所定の姿勢であっても作業機106に過大な負荷がかかる可能性はなく、駆動力値が45000[kgf]以上であれば、所定の姿勢の作業機106に過大な負荷がかかる可能性がある。駆動力閾値は作業機の所定の姿勢に応じて、すなわちブーム108の高さに応じて変化させてもよい。
ここで、駆動力値の計算手順について簡単に説明する。駆動力値の計算は、駆動力判別部167によって行われる。まず、駆動力判別部167は、クラッチ出力軸回転数センサ154によって検出されたクラッチ140の出力軸回転数(トルクコンバータ142の入力軸回転数に相当する)と、T/M出力軸回転数センサ156により検出されたトランスミッション144の出力軸回転数(トランスミッション144の出力軸回転数にトランスミッション144の現在の減速比を用いて、トランスミッション144の入力軸回転数を求める。トランスミッション144の入力軸回転数はトルクコンバータ142の出力軸回転数に相当する)とに基づいて、速度比を計算する。次に、駆動力判別部167は、所定のマップを参照して、上記計算された速度比に対応したプライマリトルク係数を取得する。次に、駆動力判別部167は、上記検出されたクラッチ140の出力軸回転数(トルクコンバータ142の入力軸回転数)と、上記取得されたプライマリトルク係数とに基づいて、トルクコンバータ142の入力トルクを計算する。そして、駆動力判別部167は、トルクの伝達効率、トランスミッション144の減速比、アクスル146の減速比及びホイール(タイヤ)148の有効半径を考慮して、上記計算されたトルクコンバータ142の入力トルクから、駆動力値を計算する。勿論、別の方法で駆動力値を検出又は計算してもよい。或いは、変形例として、作業機106に加わる反力122の値、或いは、バケットシリンダ112にかかる引っ張り力を、駆動力値と等価なものとして、検出又は計算してもよい。
駆動力値が駆動力閾値(45000[kgf])よりも小さい場合は(S105:NO)、駆動力制御判定部164は、クラッチ制御を行わないと判定する。即ち、駆動力値が45000[kgf]よりも小さい場合は、その駆動力に対応した反力によって作業機10に過大な負荷がかかるおそれはないため、クラッチ制御は行われずに、一定時間待機後、再度ステップS101の処理が行われる。
一方、駆動力が駆動力閾値(45000[kgf])以上である場合は(S105:YES)、傾斜判別部168は、傾斜計158によって検出された車体の前後方向軸の傾斜角度が、掘削作業が行われる可能性のない所定の角度範囲(例えば、伏角または仰角が4度以上であり、以下、「作業不実施角度」という)に該当しているか否かを判定する(S106)。例えば、車体の伏角または仰角が4度以上のときは、ホイールローダ100が急な下り坂又は上り坂にいる状態にあると言え、このような状態において、掘削作業が行われる可能性は、極めて低いと言える。変形例として、伏角は考慮せず、車体の仰角が所定角度以上である場合だけを、作業不実施角度として検出してもよい。急な上り坂では、車両の重量のために、作業機106に過大な負荷がかかるおそれがなくても、駆動力値が上記閾値駆動力45000[kgf]を超えることがあるからである。
車体の傾斜角度が作業不実施角度に該当している場合は(S106:YES)、駆動力制御判定部164は、クラッチ制御を行わないと判定する。即ち、この場合は、掘削作業が行われる可能性がなく、作業機106に過大な負荷がかかる可能性がないため、クラッチ制御は行われずに、一定時間待機後、再度ステップS101の処理が行われる。
一方、車体の傾斜角度が作業不実施角度に該当していない場合は(S106:NO)、駆動力制御判定部164は、クラッチ制御を行うと判定し、クラッチ制御が開始される(S107)。クラッチ制御の詳細については、後に図5及び6を参照して説明する。
このように、本実施形態では、ステップS101~S106において判定された六つの条件(即ち、(1)バケット110がチルトエンド位置にあること、(2)ブーム108の高さが1.35[m]以上であること、(3)速度段がF1であること、(4)車速が低速であること、(5)駆動力が45000[kgf]以上であること、(6)車体の傾斜角度が作業不実施角度に該当しないこと)の全てが成立したときに、ホイールローダ100の動作状態が、作業機106に過大な負荷がかかる状態にあると判定され、クラッチ制御が開始される。以下、これら六つの条件の各々を、「クラッチ制御開始条件」と呼ぶ。尚、クラッチ制御開始条件は、必ずしも上記六つの条件である必要はなく、ホイールローダ100の動作状態が、作業機106に過大な負荷がかかる状態にあることを判定できるような条件であればよい。また、上記六つの条件のうちの一部が、クラッチ制御開始条件として考慮されてもよい。例えば、(6)の条件を考慮せずに((6)の条件をクラッチ制御開始条件とせずに)、(1)~(5)の条件の全てが成立したときに、クラッチ制御が開始されてもよい。
クラッチ制御の解除は、クラッチ制御開始条件のいずれか一つでも成立しなくなった場合に行われる。即ち、本実施形態では、(1)~(6)の条件のうちのいずれか一つでも成立しなくなった場合に、クラッチ制御が解除される。具体的には、図4に示されるように、クラッチ制御が行われている状態において、ステップS101~S106と同様の判定が行われる(S108~S113)。そして、ステップS108~S113における判定のいずれかにおいて、クラッチ制御開始条件を満たさないとの判定結果が得られた場合に、クラッチ制御が解除される(S114)。
以下、クラッチ制御の内容について具体的に説明する。
クラッチ制御では、現在の駆動力値に応じた、クラッチ140の係合度の目標値(以下、「目標係合度」)が決定され、クラッチ140の係合度が目標係合度となるように(或いは、目標係合度に近づくように)制御される。具体的には、クラッチ圧目標値決定部163が、現在の駆動力値に対応したクラッチ圧の目標値(以下、「クラッチ圧目標値」)を決定し、クラッチ圧制御部161が、その決定されたクラッチ圧目標値に基づいて、クラッチ圧がクラッチ圧目標値となるように(或いは、現在のクラッチ圧よりもクラッチ圧目標値に近い値となるように)、クラッチ140を制御する。例えば、クラッチ圧目標値決定部163は、種々の駆動力値の各々ごとにその駆動力値に対応したクラッチ圧目標値を予め定めておき、その駆動力値とクラッチ圧目標値との対応関係に基づいて、現在のクラッチ圧に対応したクラッチ圧目標値を決定することができる。
図5は、駆動力値とクラッチ圧目標値との対応関係の一例を示す図である。図6は、図5の対応関係をグラフ化したものである。図5(又は図6)に示されるように、本実施形態では、クラッチ圧の最大値は、25[kg/cm2]である。クラッチ圧が最大(即ち、25[kg/cm2])の場合、クラッチ140は直結状態(係合度が100%)となる。
図5に示されるように、駆動力値が大きいほど、クラッチ圧目標値は低い値とされる。即ち、現在の駆動力値が大きいほど、クラッチ圧がより低くなるように(つまり、係合度がより低くなるように)制御され、駆動力120が抑えられるように制御される。
図7は、本実施形態に係るクラッチ制御の内容を示すフローチャートである。
まず、クラッチ圧目標値決定部163は、図5に示された、駆動力値とクラッチ圧目標値との対応関係を参照して、現在の駆動力値に対応したクラッチ圧目標値を取得する(S201)。例えば、現在の駆動力値が48000[kgf]であれば、クラッチ圧目標値は、9.5[kg/cm2]とされる。尚、駆動力値の計算手順は、図4のステップS105において説明したとおりである。
次に、クラッチ圧制御部161は、現在のクラッチ圧指令値(クラッチ圧指示信号(クラッチ圧を指示する信号)において、クラッチ圧制御部161が指示したクラッチ圧)が、ステップS201で取得されたクラッチ圧目標値よりも大きいか否かを判定する(S202)。ここで、現在のクラッチ圧指令値とは、現在クラッチ140に対して指示されているクラッチ圧指令値のこと、即ち、前回送信されたクラッチ圧指示信号において指示されたクラッチ圧指令値のことである。後述するが、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧指示信号を送信した際、そのクラッチ圧指示信号において指示したクラッチ圧指令値を、クラッチ圧記憶部174に記憶しておく。従って、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧記憶部174に記憶されているクラッチ圧指令値を、現在のクラッチ圧指令値として参照することができる。尚、クラッチ制御の開始直後であって未だクラッチ圧指示信号が一度も送信されていない場合は、クラッチ圧記憶部174には現在のクラッチ圧指令値が記憶されていないことになる。この場合、クラッチ圧制御部161は、例えば、クラッチ140が直結(係合度100%)の状態にある場合のクラッチ圧(即ち、25[kg/cm2])を、現在のクラッチ圧指令値とすることができる。
現在のクラッチ圧指令値がクラッチ圧目標値よりも大きい場合は(S202:YES)、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧目標値を、実際に指示するクラッチ圧指令値(以下、「実指令値」)とし、実指令値を指示するクラッチ圧指示信号をクラッチ140へ送信する(S204)。これにより、クラッチ圧は、実指令値(クラッチ圧目標値)に制御され、クラッチ140の係合度は、実指令値(クラッチ圧目標値)に対応した係合度となる。このように、現在のクラッチ圧指令値がクラッチ圧目標値よりも大きい場合は、クラッチ圧目標値が直接実指令値とされ、クラッチ圧がクラッチ圧目標値となるように制御される。つまり、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧目標値に向ってクラッチ圧を一気に低下させるように、クラッチ140を制御する。その結果、実際に出力される駆動力120が強制的に抑制されるので、作業機106に過大な負荷がかかるおそれが減少する。
その後、クラッチ圧制御部161は、ステップS204において送信されたクラッチ圧指示信号におけるクラッチ圧指令値(即ち、クラッチ圧目標値)を、クラッチ圧記憶部174に記憶する(S205)。
一方、現在のクラッチ圧指令値がクラッチ圧目標値以下の場合は(S202:NO)、クラッチ圧制御部161は、現在のクラッチ圧指令値が、クラッチ圧目標値から所定のオフセット値だけ差し引いた値(以下、「オフセット減算値」)よりも小さいか否かを判定する(S203)。
現在のクラッチ圧指令値がオフセット減算値よりも小さい場合は(S203:YES)、クラッチ圧制御部161は、現在のクラッチ圧指令値に所定の増分(以下、「第一の増分」)を加えた値(以下、「増分加算値」)を実指令値とし、実指令値を指示するクラッチ圧指示信号をクラッチ140へ送信する(S206)。これにより、クラッチ圧は、実指令値(増分加算値)に制御され、クラッチ140の係合度は、実指令値(増分加算値)に対応した係合度となる。ここで、第一の増分は、クラッチ圧(係合度)を上昇させる際の上げ幅であり、比較的小さい値に設定される。具体的には、本実施形態では、図5に示されるように、クラッチ圧目標値は、5[kg/cm2]~25[kg/cm2]の範囲で、0.5[kg/cm2]刻みの値とされている。例えば、第一の増分は、この刻み幅(0.5[kg/cm2])よりも小さい値(例えば、0.2[kg/cm2])に設定される。このように、第一の増分が比較的小さい値に設定されることにより、クラッチ圧は、現在のクラッチ圧から比較的小さい上げ幅で大きくなるように制御される。つまり、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧(係合度)をクラッチ圧目標値に向って緩やかに上昇させるように、クラッチ140を制御する。
その後、クラッチ圧制御部161は、ステップS206において送信されたクラッチ圧指示信号におけるクラッチ圧指令値(即ち、増分加算値)を、クラッチ圧記憶部174に記憶する(S207)。
一方、現在のクラッチ圧指令値がオフセット減算値以上である場合は(S203:NO)、クラッチ圧指示信号は、送信されない。即ち、現在のクラッチ圧指令値が、オフセット減算値からクラッチ圧目標値までの範囲内にある場合は、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧を変化させずに、現在のクラッチ圧を維持する。このように、クラッチ圧を変化させない範囲である不感帯(オフセット減算値からクラッチ圧目標値までの範囲)が設けられている理由は、現在のクラッチ圧指令値がクラッチ圧目標値付近の値となった場合にクラッチ圧の上昇と低下とが交互に繰り返されて動作が不安定になるといった問題(所謂チャタリングの問題)の発生を防止するためである。そして、この不感帯がクラッチ圧目標値よりも小さい領域に設けられている理由は、クラッチ圧を低下させる場合は応答性よく一気に低下させ、クラッチ圧を上昇させる場合は緩やかに上昇させるといった、本実施形態に係るクラッチ制御の制御方針に合致させるためである。
その後、クラッチ圧目標値決定部163は、所定時間(例えば、10[ms])待機した後、再度、S201の処理を行う。つまり、所定時間間隔で、ステップS201~S208の処理が繰り返して行われる。
尚、クラッチ制御が解除された場合、クラッチ圧制御部161は、クラッチ140を直結の状態(即ち、クラッチ圧が25[kg/cm2]の状態)に戻すために、クラッチ圧を上昇させる制御を行う。具体的には、例えば、クラッチ圧制御部161は、クラッチ圧が25[kg/cm2]になるまで、10[ms]ごとに、現在のクラッチ圧指令値に所定の増分(以下、「第二の増分」)を加えた値をクラッチ圧として指示するクラッチ圧指示信号を、クラッチ140へ繰り返して送信する。ここで、第二の増分は、例えば、第一の増分(0.2[kg/cm2])よりも大きい値(例えば、0.5[kg/cm2])とされる。つまり、クラッチ制御が実行されている間のクラッチ圧の上げ幅よりも大きい上げ幅で、クラッチ圧の上昇が行われる。
図8,図9を参照して第2実施例を説明する。本実施例では、電動モータ181を用いるホイールローダに、本発明の駆動力制御を適用する場合を説明する。
本実施例では、第1実施例で述べたクラッチ制御に代えて、例えば、電動モータ181の出力を単独で制御してもよい。これにより、走行駆動力を低減させて、作業機106に過大な負荷がかかるのを未然に防止することができる。または、トランスミッション144の速度段をニュートラルにする制御、あるいは、ブレーキ量の制御のような他の制御と、電動モータの出力制御とを適宜組み合わせる構成でもよい。クラッチ制御、電動モータの出力制御、トランスミッションの速度段制御、ブレーキ制御のいずれか一つ、またはそれらの組合せは、「調節装置」に該当する。
図8は、電動モータ181を利用するホイールローダの走行系構成の要部を模式的に示す。なお、図8(b),(c)に示す構成では、便宜上、クラッチ及びバッテリ等を省いている。発電機180から出力される電気エネルギのうち余分のエネルギはバッテリ等の充放電装置182に蓄電され、電動モータ181の減速時の逆起電力も充放電装置182に保存される。充放電装置182は、バッテリに限らず、コンデンサ等であってもよい。
図8(a)に示すタイプは、エンジン130の出力により発電機180を駆動させ、発電された電気エネルギによって電動モータ181を回転させる。電動モータ181の回転力は、トランスミッション144から出力される回転力に加えられる。
ホイール148に作用する回転力のうち、例えば、80%程度をエンジン出力でまかない、残りの20%を電動モータ181によってまかなう構成が考えられる。コントローラ160は、作業機106に過大な負荷が加わらないように、電動モータ181の回転力を制御することができる。
図8(b)に示すタイプは、電動モータ181の回転力のみでホイール148を回転させる。発電機180は、エンジン出力によって発電する。電動モータ181は、発電機180から供給される電気エネルギを回転力に変換し、トランスミッション144を介して、各ホイール148に伝達する。コントローラ160は、作業機106に過大な負荷が加わらないように、電動モータ181の回転力を制御する。
図8(c)に示すタイプでは、駆動輪となる複数のホイール148にそれぞれ電動モータ181を設ける。後輪駆動の場合、後輪となる各ホイール148に電動モータ181が設けられ、前輪駆動の場合、前輪となる各ホイール148に電動モータ181が設けられる。4輪駆動の場合、全てのホイール148に電動モータ181が設けられる。
各電動モータ181の回転力は、各ファイナルギア145を介して各ホイール148に伝達される。コントローラ160は、作業機106に過大な負荷が加わらないように、各電動モータ181の回転力を個別に制御する。
図9に示すタイプでは、エンジン130の回転力は、遊星歯車機構143を介して各ホイール148に伝達される。発電機180はエンジン出力を利用して発電し、電動モータ181に電気エネルギを供給する。電動モータ181の回転力は、遊星歯車機構143を介して、エンジン130からの回転力に加えられる。コントローラ160は、バケットシリンダ112の最大負荷を超えないようにするために、電動モータ181の回転力を制御する。
このように、電動モータ181を用いるホイールローダにも本発明を適用して、信頼性及び寿命を高めることができる。
上述した本発明の実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。