ATR阻害剤
技術分野
[0001」 本発明は、 ATR、ataxia— telangiectasia mutated and rad3— related)の 活性を阻害する ATR阻害剤に係り、詳しくは、三環性化合物を有効成分として含有 する ATR阻害剤に関する。
背景技術
[0002] ATM (ataxia― telangiectasia mutated)及び ATR (.ataxia― telangiectasia mutated and rad3—related)プロテインキナーゼ(以下、単に、 ATM及び AT Rとも称する。)は、細胞の DNA損傷に係る修復において、重要な役割を演じること が知られている(非特許文献 1)。紫外線 (UV)や電離放射線 (IR)照射により、細胞 は、 DNA損傷を受け、チェックポイントシグナルカスケードが惹起され、 DNA損傷を 修復したりアポトーシスを起こすように、細胞周期を G1ZS、中間 S期及び G2ZM期 にァレスト(arrest)される。 ATMを欠損する AT (ataxia— telangiectasia ;血管拡 張性失調症)患者由来の細胞は、 G1ZS及び G2ZMチェックポイントが欠落した発 現型を示すため、 IRに感受的である。従って、 ATM及びその下流の経路は、染色 体の維持に重要である。さらに、一過的又は安定的な ATRの欠損により、染色体の 安定性が著しく損なわれ、或いは初期胚の段階で致死に至る (非特許文献 2)。興味 深いことに、 ATRによる p53タンパク(以下、単に p53と称する。)又は NBS1のリン酸 ィ匕は、 ATMの存在により遅延することが知られている。このことは、 ATRが DNA損 傷反応の点で、 ATMの協調的な分子種であることを示唆する。事実、 ATRは、 DN A損傷から防御するのに中心的な役割を演じる。これらの事項は、 ATM又は ATR 活性の制御は、染色体の安定性を保持するのに必要であるのみならず、化学療法 や放射線治療などの抗癌治療への適用が可能であることを示すものである。
[0003] 非特許文献 3は、カフェイン(3, 7—ジヒドロ— 1, 3, 7—トリメチル— 1H—プリン— 2, 6—ジオン)で補助したィ匕学療法により、非増殖性の骨肉腫に係る腫瘍の切除が 最小限ですむことを開示する。カフェインは、化学療法で惹起された DNA損傷に反
応して ATM及び ATRのプロテインキナーゼ活性を阻害すると考えられる力 カフェ インは、相対的に ATRよりも ATMを阻害することが知られている。
[0004] 近年、細胞に siRNAをトランスフエタトしたり、組み換え体のキナーゼからキナーゼ 活性部位を欠落させたタンパク質を過剰発現させるなどして、 ATR及び ATMの主 要な役割の解明がなされている(非特許文献 4乃至 6)。し力しながら、ステーブル (st able)な ATRのノックアウトマウスは致死的であるため、 ATMに比較して ATRの機 能を報告した例はあまり知られていない。また、 ATRの特異的な阻害剤が知られて いない現状において、カフェインや、 PI3キナーゼの阻害剤であるワートマン-ンを用 Vヽて、化学的に ATM及び ATRのプロテインキナーゼ活性を阻害する研究が広く行 われている。従って、 ATRの特異的な阻害剤の発見により、 DNA損傷応答反応に おける生化学的な情報、ひいては抗癌治療の研究に多くの利点力 Sもたらされることに なり、 ATRの活性を阻害する薬物が望まれていた。
[0005] これらのなかで、 ATM及び ATRは、細胞における DNA損傷に対する反応の間、 p53の 15番目のセリン残基をリン酸ィ匕する。 p53は、 DNA損傷で誘導される G1/S チェックポイントにおいて、中心的な役割を演じる。近年の知見により、 UV光を曝露 した場合、 p53の 15番目のセリン残基が直接的に ATM又は ATR力もリン酸ィ匕され て G1期での細胞周期停止が起こることが示されている。従って、 p53の 15番目のセ リン残基のリン酸ィ匕は、 UVで誘導した DNA損傷の後において ATM又は ATRを起 点とした G1ZSチェックポイントが機能している力否かを評価する妥当な指標である 。また、このリン酸化は、 UVに対する損傷反応において、 ATRの活性を反映するも のである。 G2ZMチェックポイントは、 G1ZSと同様に、 DNA損傷細胞において、 A TRと ATMとで制御される。 G2ZMチェックポイントは、非常に重要であり、 p53欠損 又は突然変異腫瘍などの多くの癌細胞において良く保存されている。特に、 P53の 機能を欠いた細胞もまた、 G2/Mチェックポイントの廃止は、 DNA損傷に対して感 受的である。事実、 G2ZMチヱックポイントに関連する場合、 ATRは、分裂細胞の 染色体維持に重要である。これらの結果により、 ATRプロテインキナーゼ活性の阻 害を含む G2ZMチヱックポイントに係る一群を阻害することが抗癌治療の候補にな ると示唆される。
一方、五味子(Schisandrae Fructus)に由来する、各種シザンドリン類及びゴミ シン類は、ジベンゾシクロォクタジン誘導体であり、生薬製剤として最もよく使用され ている化合物群である。この化合物群の一つの有用性として、非特許文献 8は、 SM MC 7721肝臓癌細胞にお!、て、シザンドリン Bがカスパーゼ 3依存性アポトーシ スを誘導することを開示する。この化合物により腫瘍を含む多種類の細胞において、 他のシグナル調節物質又は他の効果について、さらなる研究が望まれている。元来 信じられているのは、中国における数千年の経験から、各種シザンドリン類及びゴミ シン類を含む伝統的な生薬、五味子において、多くの可能性が残されている、という ことである。抗癌剤の 70%以上は、天然物由来であり、或いはより少ない副作用を期 待された類似物である。本願出願人は、抗癌治療増感剤という観点で、各種シザンド リン類及びゴミシン類を DNA損傷に係る反応におけるシグナル伝達経路に適用する ことを想到した。
特許文献 1 :特開平 7— 206751号公報
特許文献 2:特開平 6— 192133号公報
特許文献 3 :特開平 2— 48592号公報
特許文献 4:特開平 5 - 123184号公報
特許文献 5 :米国特許出願公開第 2005Z0282910号明細書
非特許文献 1: Shiloh Y著、" ATM and ATR: networking cellular respo nses to DNA damage", Curr Opin. Genet. Dev.、 2001年、 11卷、 71— 7 頁
非特許文献 2 : Cortez Dら著、" ATR and ATRIP : partners in checkpoint signaling", Science, 2001年、 294卷、 1713〜6頁
非特許文献 3 : Tsuchiya Hら著、 "Caffeine― assisted chemotherapy and minimized tumor excision lor nonmetastatic osteosarcoma. 、 Antic a ncer Res.、 1998年、 18卷、 657〜66頁
特許文献 4 : Shackelford REら著、 fhe Ataxia telangiectasia gene pro duct is required for oxidative stress— induced Gl and G2 checkpoi nt function in human fibroblasts. '\ J. Biol. Chem.、 2001年、 276卷、 2
1951〜9頁
非特許文献 5 : Wright JAら著、" Protein kinase mutants of human ATR increase sensitivity to UV and ionizing radiation and abrogate cell cycle checkpoint control. ,,、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 、 1998年、 95 卷、 7445〜50頁
非特許文献 6 : Shigeta Tら著、,, Defective control of apoptosis and mito tic spindle checkpoint in heterozygous carriers of ATM mutations . ,,、 Cancer Res. 、 1999年、 59卷、 2602〜7頁
非特許文献 7 : Sarkaria JNら著、,, Inhibition of ATM and ATR kinase ac tivities by the radio sensitizing agent, caffeine. 、 し ancer Res. 、 199 9年、 59卷、 4375〜82頁
非特許文献 8 : Wu YFら著、,, Down— modulation of heat shock protein 70 and up― modulation of Caspase— 3 during scnisandrin B— indue ed apoptosis in human hepatoma SMMC— 7221 cells"、 World J. Gas troenterol、 2004年、 10卷、 2944〜48頁
非特許文献 9 :Tibbettsら著、 Gene & Development, 2000年、 14卷、 2989〜 3002頁
非特許文献 10 : Canmanら著、 Science, 、 1998年 281卷、 1677〜9頁
非特許文献 ll :Rouetら著、 Proc. Natl. Acad. Scie. USA, 1994年、 91卷、 60
64〜8頁
非特許文献 12 : Chem. Pharm. Bull. 、 2003年、 51卷、 11号、 1233〜1236 頁
非特許文献 13 :Acta Pharmacologica Sinica、 1998年、 19卷、 4号、 313〜31 6頁
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
そこで、本発明は、 ATRプロテインキナーゼの阻害剤として有用な、各種シザンドリ ン類及びゴミシン類などの三環性化合物を有効成分として含有する ATR阻害剤を提
供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明による ATR阻害剤は、 下記式(1)
[化 11]
に示す化合物を有効成分として含有することを特徴とする。 また、本発明による ATR阻害剤は、 下記式(2)
[化 12]
に示す化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
[0010] また、本発明による ATR阻害剤は、
下記式(3)
[化 13]
に示す化合物を有効成分として含有することを特徴とする。 また、本発明による ATR阻害剤は、
下記式 (4)
[化 14]
に示す化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
[0012] また、本発明による ATR阻害剤は、
下記式(5)
[化 15]
に示す化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
[0013] また、本発明による ATR阻害剤は、
下記式(6)
[化 16]
に示す化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
[0014] また、本発明による ATR阻害剤は、
下記式 (7)
に示す化合物を有効成分として含有することを特徴とする。 また、本発明による ATR阻害剤は、
下記式(9)
[化 19]
に示す化合物を有効成分として含有することを特徴とする。 また、本発明による ATR阻害剤は、
下記式(10)
に示す化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
[0018] なかでも、本発明による ATR阻害剤として、上記式(1)乃至(5)に示す化合物を有 効成分として含有することが好ま ヽ。
[0019] 本発明による ATR阻害剤にぉ 、て、前記 ATR活性は、タンパクリン酸ィ匕活性であ ることが好ましい。
[0020] 本発明による ATR阻害剤において、前記タンパクリン酸ィ匕活性は、細胞周期関連 タンパクをリン酸ィ匕する活性であることが好ま 、。
[0021] 本発明による ATR阻害剤において、 前記細胞周期関連タンパクは、 p53であるこ とが好ましい。
[0022] 本発明による ATR阻害剤において、 前記細胞周期関連タンパクは、 Brcal及び Chklからなる群力も選択されたものであることが好ましい。
発明の効果
[0023] 本発明によれば、 in vitroにおいても in vivoにおいても、 ATR活性を特異的に 阻害することが可能となる。
図面の簡単な説明
[0024] [図 1]UV照射した A549細胞におけるシザンドリン Bによる生存率への影響を示すグ ラフである。
[図 2]UV照射した A549細胞におけるシザンドリン Bによる細胞周期に対する影響を 示す図であって、(A)は、全細胞数に対するリン酸ィ匕ヒストン H3量を示す図であり、 ( B)は、リン酸ィ匕ヒストン H3量を指標として、全細胞に占める分裂細胞数の割合をダラ フ化したものである。
[図 3]電離放射線照射した A549細胞における分裂細胞数に対するシザンドリン Bの 影響を示すグラフである。
[図 4]UV照射又は電離放射線照射した A549細胞における p53リン酸ィ匕に及ぼすシ ザンドリン Bの影響を示す図である。
[図 5-l]UV照射した A549細胞における p53リン酸ィ匕に及ぼすシザンドリン Bの濃度 依存的影響を示す図である。
[図 5-2]UV照射した A549細胞における p53リン酸ィ匕に及ぼす本発明による ATR阻 害剤の影響を示す図である。
[図 6]A549細胞における細胞周期に対するシザンドリン Bの影響を示す図である。
[図 7]シザンドリン Bによる ATR及び ATMの有するリン酸ィ匕活性に及ぼす影響を示 すグラフであって、(A)は、 ATRに対応し、 (B)は、 ATMに対応するグラフである。
[図 8]UV照射した AT2KY細胞における各種蛋白のリン酸ィ匕に及ぼすシザンドリン B の影響を示す図である。
[図 9]ATR又は ATM発現を阻害して UV照射した A549細胞における各種蛋白のリ ン酸ィ匕に及ぼすシザンドリン Bの影響を示す図である。
[図 10]A549細胞における MAPKのリン酸ィ匕に及ぼすシザンドリン Bの影響を示す 図である。
発明を実施するための最良の形態
[0025] 本発明による ATR阻害剤は、合成品、天然品など、種々の市販で利用可能な化合 物を利用してもよぐ特許文献 1等に記載の公知の合成方法により製造したものであ つてもよ \、さりに、五味ナ (Schisandra Chmensis)由来の Fructus ¾chisanara e等の天然生薬力 特許文献 2等の公知の方法により抽出 Z精製したものであっても よい。
[0026] 具体的には、上記式(1)で示すシザンドリン B (Schizandrin B; SchB)としては、 特許文献 2に記載の通り、五味子(Fructus Schisandrae)を、 n キサンなどの 炭化水素系溶剤又はメタノールなどのアルコール系溶剤で加熱下一定時間抽出し た後、カラムクロマトグラフィーにかけて得た非水溶性物質と水溶性物質の混合物を 含む溶液を濃縮乾固し、これに水酸ィ匕カリウムとメタノールの混液を加えて鹼ィ匕した 原料に、メタノールを加えて撹拌溶解した後、水酸化カリウム水溶液で溶解した後、 上述のメタノールを留去し、 目的物質である非水溶性物質を析出させて得たものであ
つてもよい。
[0027] また、上記式(2)で示すゴミシン C (Gomisin C; GC)としては、上述の特許文献 3 で示す方法の通り、石油エーテルなどの低極性溶媒で抽出した後、さらに石油エー テル、 n—ヘプタンなどの低極性水不溶性溶媒とメタノールなどの高極性水溶性溶 媒とを用いた分配抽出を行ったのち、必要に応じて、カラムクロマトグラフィー、高速 液体クロマトグラフィーなどで目的物質を分離したものであってもよい。
[0028] また、上記式(3)で示すゴミシン G (Gomisin G; GG)としては、上述の非特許文 献 12に示す通り、 Shizandra arisanensisの乾燥幹から酢酸ェチルで抽出し、必 要に応じてカラムクロマトグラフィーを用いて精製したものであってもよ!/、。
[0029] また、上記式 (4)で示すゴミシン H (Gomisin H ;GH)としては、特許文献 5に記載 の通り、 Schizandra chinensisに由来するものであってもよい。
[0030] また、上記式(5)で示すゴミシン J (Gomisin C; GJ)としては、特許文献 1に示す通 り、五味子力 抽出したデォキシシザンドリンをァシルイ匕して合成した下記式 (B)に 示す化合物を得た後、脱アルキル化 (式中の R基)し、脱ァシル化 (式中、 COR基) して得たものであってもよ 、。
[0031] [化 21]
(式中、 Rは、低級アルキル基を示し、 Rは、水素原子又は低級アルキル基を示す 。)
また、上記式(6)で示すシザンドリン(Schizandrin; Sch)としては、特許文献 3に 示す通り、石油エーテルなどの低極性溶媒で抽出した後、さらに石油エーテル、 n— ヘプタンなどの低極性水不溶性溶媒とメタノールなどの高極性水溶性溶媒とを用い た分配抽出を行ったのち、必要に応じて、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマト グラフィーなどで目的物質を分離したものであってもよい。
[0033] また、上記式(7)で示すゴミシン A (Gomisin A ;GA)としては、上述の特許文献 3 に従った方法の他、特許文献 4に記載の通り、下記式 (A)に示す化合物の 5員環を 還元してジヒドロキシィ匕した後、酸化反応、メタンスルホニル化反応を付して得られる dl—シザンドリン (III)から、光学異性体を分離して得たものであってもよ!/、。
[0034] [化 22]
[0035] また、上記式(8)で示すゴミシン B (Gomisin H ;GB)としては、非特許文献 12に 示す通り、 Shizandra arisanensisの乾燥幹から酢酸ェチルで抽出し、必要に応じ てカラムクロマトグラフィーを用いて精製したものであってもよ 、。
[0036] また、上記式(9)で示すゴミシン N (Gomisin N ;GN)としては、特許文献 5に記載 の通り、 Schizandra chinensisに由来するものであってもよい。
[0037] また、上記式(10)で示すシザンドリン C (Schizandrin C; SC)としては、非特許文 献 13に示す通り、五味子の石油エーテル抽出物を用いてシリカゲルカラムクロマトグ ラフィーにより精製したものであってもよい。
実施例
[0038] (実施例 1) UV照射した A549細胞におけるシザンドリン Bによる生存率への影響
A549細胞(American Tissue Type Collection社製)を、 10%ゥシ胎児血清 (FBS)、 100 μ g/mLストレプトマイシン及び 100ユニット/ mLペニシリン含有 DM EM培地(以下、増殖培地と称する。 )中で 500個 Z60mmディッシュとなるように播 種して一昼夜培養した後、最終濃度 1 μ Μ及び 10 Μとなるように培地中にシザン ドリン B (10g/Lとなるようにシザンドリン Β含有 DMSO溶液を調製し、培地中で 5g ZL未満の DMSO濃度となるようにさらに培地で希釈して用いた。以下、同様。)を 添加した。
[0039] 添加 1時間後、培地を除去し、 Stratalinker(Stratagene社製)を用いて 20及び 5
OjZm2の UV (波長 254nmを使用。以下同様。)を照射し、再度上述と同濃度のシ ザンドリン Bを有する培地(以下、シザンドリン B含有培地と称する。 )に交換して 14日 間継続培養後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、 2%メチレンブルー を用いて、クローン形成法に従って、生存細胞数をカウントした。結果を図 1に示す。 図 1中、横軸は、照射した UVの線量を示し、縦軸は、未処理群に対する処理群にお ける生存細胞の比率を百分率で示す。図中、〇は、シザンドリン Bを処理しない群を 示し、▲は、 1 Mのシザンドリン Bで処理した群を示し、國は、 10 Μのシザンドリン Βで処理した群を示す。なお、各群とも、平均士標準誤差 (η= 3)で示す。
[0040] (実施例 2— 1) UV照射した Α549細胞におけるシザンドリン Βによる細胞周期に対 する影響
A549細胞を増殖培地中で 3 X 104個/ cm2となるように 10mmディッシュに播種し て一昼夜培養した後、最終濃度 30 Mとなるように培地中にシザンドリン Bを添加し た。 1時間後、培地を除去し、 20及び 50jZm2の UVを照射し、上述と同濃度のシザ ンドリン B含有培地で細胞を 1時間培養した。その後、下述のヒストン H3リン酸ィ匕量の 測定に従って、細胞中のヒストン H3リン酸ィ匕量を測定した。結果を図 2に示す。図 2 ( A)は、シザンドリン Bで処理した際に得られたフローサイトメトリーの結果であって、図 2 (A)中、丸で囲った部分は、 G2ZM期の細胞群を示し、その上方に記載の数値は 、全細胞数に対する G2ZM期の細胞群の数の割合を示す。また、図 2 (B)は、この 割合をグラフで示したものである。
[0041] (実施例 2— 2)
実施例 2— 1にお!/、て、 20及び 50jZm2の UVの代わりに 20jZm2の UVを照射し 、最終濃度 30 Mのシザンドリン Bの代わりに、上記式(1)乃至(10)に示す化合物 、及び下記式(C)に示すアンジェロイルゴミシン A (Angeloylgomisin A; AG A) ( 最終濃度 30 /z M)を用いた以外は、実施例 2—1と同様に行い、全細胞数に対する G2ZM期の細胞群の数の割合を得た。結果を表 1に示す。
[0042] [化 23]
[0043] [表 1] 化合物 分裂率 (%)
コント口一ノレ 1 88 ± 0. 1 1
UV照射 0 52 ± 0. 1 0
S c h C 0 68 ± 0. 1 1
S c hB 1 09 ± 0. 1 1
S 0 68 ± 0. 0 4
AGA 1 04 ± 0. 0 6
GA 0 90 ± 0. 0 7
GB 0 85 ± 0. 1 2
GC 1 16 ± 0. 1 6
GG 1 13 ± 0. 0 5
GH 1 42 ± 0. 0 3
G J 1 08 ± 0. 0 8
GN 0 88 ± 0. 1 2
[0044] (実施例 3)電離放射線照射した A549細胞における分裂細胞数に対するシザンド リン Bの影響
A549細胞を増殖培地中で 3 X 104個 Zcm2となるように 10cmディッシュに播種し て一昼夜培養した後、最終濃度 30 Mとなるように培地中にシザンドリン Bを添加し た。 1時間後、培地を除去し、 3Gyの電離放射線を照射し、上述と同濃度のシザンド リン B含有培地で細胞を 1時間培養した。この細胞に関し、下述のヒストン H3リン酸ィ匕 量の測定を行った。結果を図 3に示す。それぞれの数値は、図 2(B)と同様である。
[0045] (実施例 4) UV照射又は電離放射線照射した A549細胞における p53リン酸化に 及ぼすシザンドリン Bの影響
A549細胞を増殖培地中で 3 X 104個 Zcm2となるように 10cmディッシュに播種し て一昼夜培養した後、最終濃度 30 Mとなるように培地中にシザンドリン Bを添加し
た。 1時間後、培地を除去し、 20jZm2の UVを照射し 3時間培養した (以下、この細 胞群を、 UV細胞群と称する。 ) 0
[0046] また、同様に、一昼夜培養し最終濃度 30 Mとなるように培地中にシザンドリン Bを 添加し 1時間培養した A549細胞の培地を除去し、 lOGyの電離放射線( γ線)を照 射し、上述と同濃度のシザンドリン Β含有培地で 2時間培養した (以下、この細胞群を IR細胞群と称する。)。
[0047] なお、 UV細胞群及び IR細胞群の 、ずれも、照射の 15分前から下述の細胞の回 収まで、 50 mの Ν -ァセチル -L-ロイシル -L-ロイシル— L—ノルロイシナル( N— acetyl— L— Leucyl— L— Leucyl— L— norleucinal):以下、 LLnLと称する。 )、 Sigma社製、 MO、米国)の存在下で細胞を培養した。その後、下述の蛋白調製 に準じて細胞中の蛋白質を抽出した後、下述のィムノブロット分析に準じて、 p53蛋 白の 15番目のセリン残基のリン酸化体(P— p53 (Serl5) )、 p53蛋白(p53)、 ATM 蛋白の 1981番目のセリン残基のリン酸化体(P— ATM (Ser 1981) )及びグリセルァ ルデヒドー 3—リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に関して、ィムノブロット分析を行つ た。結果を図 4に示す。
[0048] (実施例 5— 1) UV照射した A549細胞における p53リン酸ィ匕に及ぼすシザンドリン Bの濃度依存的影響
A549細胞を増殖培地中で 3 X 104個 Zcm2となるように 10cmディッシュに播種し て一昼夜培養した後、最終濃度 10、 30及び 100 /z Mとなるように培地中にシザンド リン Bを添加した。 1時間後、培地を除去し、 20jZm2の UVを照射した。なお、実施 例 4と同様に LLnLを用いて細胞を処理した。その後、上述と同濃度のシザンドリン B で 1時間処理した細胞を、下述のィムノブロット分析に準じて、 p53及び p53の 15番 目のセリン残基のリン酸ィ匕体 (P— p53 (Serl5) )の発現を検討した。結果を図 5— 1 に示す。
[0049] (実施例 5— 2)
実施例 5—1において、最終濃度 10、 30及び 100 /z mとなるように培地中にシザン ドリン Bを添加するのに代えて、上記式(1)乃至(10)に示す化合物及び上記式 (C) に示す化合物(最終濃度 30 μ Μ)をそれぞれ添加し、 20jZm2の UVを照射する代
わりに、 25jZm2の UVを照射した以外は、実施例 5—1と同様に行い、 p53の 15番 目のセリン残基のリン酸ィ匕体 (P— p53(Serl5))の発現を検討した。この際に得た電 気泳動像を図 5— 2に示し、 P-p53(Serl5)に該当するバンド強度 (チューブリンで 標準化したもの)について、 UV照射して得たものを 100%とした際の各化合物で得 たバンド強度の相対比を表 2に示す。
[0050] [表 2] 化合物 相対比 (%)
UV照射 100 . 0
コント口ール 15. 4
S c h C 42. 6
S c h B 37. 9
S 42. 7
AG A 92. 2
GA 58. 3
GB 60. 9
GC 49. 8
GG 51. 3
GH 50. 3
G J 61. 1
GN 38. 4
[0051] (実施例 6) A549細胞における細胞周期に対するシザンドリン Bの影響
A549細胞を増殖培地中で 3 X 104個 Zcm2となるように 10cmディッシュに播種し て一昼夜培養した後、最終濃度 30 Mとなるように培地中にシザンドリン Bを添加し た。 4時間後、下述の FACS分析に準じて、細胞周期を検討した。 FACS分析の結 果を図 6に示す。
[0052] (実施例 7— 1)シザンドリン Bによる ATR及び ATMの有するリン酸ィ匕活性に及ぼ す影響
基質として 1 μ gのリコンビナント PHAS— Iタンノ ク(Alexis Biochemicals社製) を、下述のリン酸化反応用 ATR混液及び ATM混液の調製に従って得たリン酸化反 応用 ATR混液及び ATM混液に添加すると同時にシザンドリン Bをカ卩え、適当な濃 度の32 P—ATPを有する 300/zMATPを添カ卩して、 30°Cで 20分間反応させた。この 反応液の 4倍の量の SDSサンプルローデイングバッファー(200mMTris— HCl(pH
6. 8)、 400mMDTT及び 8%SDS)で反応を停止し、この混液を 12%SDS— PAG Eにかけ、ゲルを乾燥後、上述の混液中の32 P— PHAS—Iに対応するバンドに関し 、オートラジオグラフィ一で、 γ線量をカウントした。結果を図 7に示す。(Α)及び (Β) は、それぞれ ATR及び ATMの相対活性を示し、横軸は、シザンドリン Bの濃度を示 し、縦軸は、シザンドリン B無添カ卩に対するカウントの相対値で示す。
[0053] (実施例 7— 2)本発明による ATR阻害剤による ATRの有するリン酸ィ匕活性に及ぼ す影響
実施例 7—1において、シザンドリン Bの代わりに、上記式(1)乃至(5)に示す化合 物及び上記式 (C)に示すィ匕合物を用いた以外は、実施例 7—1と同様に行い、得た 直線から、 IC 値を算出した。この値を、表 3に示す。
50
[0054] [表 3] 化合物 I C 5 0 ( M)
S c h B 7 . :
A G A 1 1 0 .
G C 1 0 .
G G 3 2 .
G H 4 5 .
G J 6 7 .
[0055] (実施例 8) UV照射した AT2KY細胞における各種蛋白のリン酸化に及ぼすシザ ンドリン Bの影響
AT2KY細胞(ヘルスサイエンス振興財団(大阪))を、 15%FBS、 100 /z gZmLス トレプトマイシン及び 100ユニット/ mLペニシリン含有 RPMI1640培地中で 3 X 104 個/ cm2となるように 10cmディッシュに播種して一昼夜培養した。最終濃度 30 M となるように培地中にシザンドリン Bを添加した。添加 1時間後、培地を除去し、 20J/ m2の UVを照射した。その後、上述と同濃度のシザンドリン Bで 4時間処理した細胞 について、下述のィムノブロット分析に準じて、 p53の 15番目のセリン残基のリン酸化 体(P— p53 (Serl5) )、 Brcalの 1423番目のセリン残基のリン酸化体(P— Brcal ( S1423) )及び Chklの 345番目のセリン残基のリン酸化体(P— Chkl (S345) )の
発現を検討した。結果を図 8に示す。
[0056] (実施例 9) ATR又は ATM発現を阻害して UV照射した A549細胞における各種 蛋白のリン酸ィ匕に及ぼすシザンドリン Bの影響
A549細胞を増殖培地中で 3 X 104個/ cm2となるように 10cmディッシュに播種し て一昼夜培養した。その後、 Oligof ectamine (Invitrogen社製)と Opti— MEM (I nvitrogen社製)とを用いて、細胞に、下述の siRNAの調製に従って得た各二本鎖 s iRNA(siGFP、 siATM及び siATR)をトランスフエタトした。ー晚培養した後、新鮮 な増殖培地に交換して 72時間後、 30 /z mのシザンドリン Bで 1時間処理し、培地を 除去し、 20jZm2の UVを照射した。その後、上述と同濃度のシザンドリン Bで 3時間 処理した細胞について、下述のィムノブロット分析に準じて、 p53の 15番目のセリン 残基のリン酸化体(P— p53 (S15) )、 Chklの 345番目のセリン残基のリン酸化体(P -Chkl (S345) )、 ATM蛋白(ATM)、 ATM蛋白の 1981番目のセリン残基のリン 酸ィ匕体 (P— ATM (Serl981) )及び ATR蛋白(ATR)の発現を検討した。結果を図 9に示す。なお、図 9中、?ー 53 (315)及び13— 0^1 (3345)欄の下に記した発現 比率は、コントロールである siGFPと UVとで処理して得たそれぞれの蛋白のバンド 強度を 1. 0とした際のそれぞれのバンドの相対強度を示す。
[0057] (実施例 10) A549細胞における MAPKのリン酸ィ匕に及ぼすシザンドリン Bの影響
A549細胞を増殖培地中で 3 X 104個 Zcm2となるように 10cmディッシュに播種し て一昼夜培養した後、無血清の増殖培地で 16時間さらに培養した。その後、細胞を 、 50 iu MPD098059 (Sigma社製)又は30 iu MシザンドリンBで処理し、さらに、 10 Ong,mLフオルボール 12—ミリスチン酸 13—酢酸(PMA; Sigma社製)で 5分 間処理した。その後、細胞を下述のィムノブロット分析に準じて、 42kDa及び 44kDa マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(p42MAPK及び p44MAPK)並びにこれら のリン酸化体の発現を検討した。結果を図 10に示す。
[0058] (ヒストン H3リン酸化量の測定)
細胞を PBSで洗浄した後、 70%氷冷エタノールで固定した。これに、 0. 25%Trit on X— 100含有 PBSを添加し、氷上で 30分間載置した後、細胞を回収し、遠心分 離(500G、 5分間)して得た細胞ペレットに、 1%ゥシ血清アルブミン (BSA)及び 1
g抗ゥサギ血清 (ヒストン H3の 13番目のセリン残基のリン酸ィ匕体に特異的なもの)含 有 PBS (100 μ L)を添カ卩して、室温で 4時間載置した。その後、これを 1%BSA含有 PBSで洗浄し、 1%BSA含有 PBSで 100倍に希釈した FITCでコンジュゲートしたャ ギ抗ゥサギ IgG抗体を添加し、暗所で 30分間、載置した。さらに、下述の FACS分析 に準じて PI染色を行った後、フローサイトメトリー(Beckman— Coulter社製)でリン 酸ィ匕ヒストン H3量を測定した。
[0059] (ィムノブロット分析)
50 μ gの蛋白(下述の蛋白調製に準じて調製したもの)を SDSポリアクリルアミドゲ ル電気泳動(12. 5%)を行い、泳動後の各蛋白を、定法に従い-トロセルロース膜 に転写し、 5%スキムミルク及び 0. l%Triton X— 100含有トリス緩衝生理食塩水( TBS— T)を用い、室温で 1時間、ブロッキング反応を行った。得た膜を、以下に示す 所望の抗体で 4°C16時間インキュベートし、その後、西洋わさび由来ペルォキシダー ゼでコンジュゲートした二次抗血清(上述の所望の抗体の由来動物に対するもの)で 、室温 1時間インキュベートした。その後、標的蛋白を、 ECL reaction kit (Amers ham社製)及び chemiluminescence film (Amersham社製)で可視ィ匕して、蛋白 像を得た。
[0060] <抗体 >
p53抗体(Calbiochem社製)
リン酸化 P 53抗体(Cell signaling technology社製)
リン酸化 ATM抗体 (Rockland社製)
リン酸化 Chkl抗体(Cell signaling technology社製)
ATR抗体(Bethyl社製)
チューブリン抗体 (Sigma社製)
GAPDH抗体(Santa Cruz社製)
リン酸化 Brcal抗体(Upstate社製)
抗 MAPK抗体及び抗リン酸化 MAPK抗体(Cell Signaling社製)
[0061] (蛋白調製)
細胞を、氷冷 PBSで培養ディッシュ力も剥離し、冷 PBSで 2回洗浄した後、遠心分
離して得た細胞ペレットに、下述の UTB緩衝液で可溶ィ匕して、細胞由来の蛋白混合 物を調製した。蛋白量は、 Protein Assay Kit (Bio— Rad社製)で測定した。
[0062] く UTB緩衝液〉
8mM 尿素
150mM 2—メルカプトエタノール
50mM Tris (pH 7. 5)
[0063] (FACS分析)
細胞を PBSで洗浄した後、 70%氷冷エタノールで固定した。遠心分離により回収 したペレットに PBSを加え洗浄した後、再度遠心分離を行った。ペレットを最終濃度 1 00 μ Μの Propidium Iodide (Sigma社、以下 PI)と 40 μ g/mLの RNaseAを含 む溶液 (PI Solution)で懸濁し 30分間室温にて培養した。その後フローサイトメトリ 一(Beckman— Coulter社製)で細胞周期の解析を行った。
[0064] (リン酸化反応用 ATR混液及び ATM混液の調製)
リン酸化反応用 ATR混液には、非特許文献 9等の公知の方法を用いて製造された Flagでタグ付けした ATRを用いた。詳しくは、非特許文献 9に開示の方法は、 ATR 遺伝子(配列番号 4)の BamHl— Swalフラグメント(lkb)を、 Flag (DYKDDDDK) を N末端に有する ATRに対応する遺伝子に置き換えて PCRで増幅させた遺伝子産 物を、 pcDNA3. 1に導入したプラスミドから合成する方法である。また、リン酸化反 応用 ATM混液には、非特許文献 10及び 11等の公知の方法及び Quikchange Si te- Directed Mutagenesis Kit (Stratagene社製)を用いて製造された Flagで タグ付けした ATMを用いた。
[0065] これら Flagでタグ付けした ATR及び ATMプラスミド(配列番号 4及び 5)を、下述の リン酸カルシウム法に準じて、 293T細胞(ATCC番号 CRL—11268)にトランスフエ タトし、 2日間培養した。その後、上述の UTB緩衝液を下述の IP緩衝液に変更して 行った上述の蛋白調製に準じて得た蛋白混合物 5mgを、 4°C4時間、 20 μ gの抗 F1 ag— M2モノクローナル抗体 (Sigma社製)で、免疫沈降させた。これと、 4°C1時間、 プロテイン Gセファロース(Amersham社製)でコンジュゲートしたビーズとをインキュ ペートした。得た免疫複合体を、下記の TGN緩衝液で 2回洗浄し、さら〖こ、下記のキ
ナーゼ緩衝液で 1回洗浄し、リン酸化反応用 ATR混液及び ATM混液 (配列番号 6 及び 7)を得た。
[0066] く IP緩衝液〉
10mM Tris (pH7. 5)
ImM EDTA
ImM EGTA
150mM NaCl
0. 5% NP-40
1% Triton X— 100
ImM フエ-ルメタンスルフォ-ルフルオライド(PMSF)
2 μ g/mL ぺプスタチン
2 μ g/mL ァプロチュン
ImM p, p,一ジクロロジフエ-ルトリクロロェタン(DDT)
[0067] <TGN緩衝液 >
50mM Tris (pH 7. 4)
50mM グリセ口リン酸
150mM NaCl
1% Tween20
10% グリセロール
[0068] <キナーゼ緩衝液 >
10mM Hepes (pH7. 5)
50mM グリセ口リン酸
50mM NaCl
lOmM MgCl
lOmM MnCl
[0069] <リン酸カルシウム法 >
293T細胞を増殖培地中で 2 X 104/cm2となるように 10cmディッシュに播種して 一昼夜培養した。その後、上述の Flag— ATM及び Flag— ATRを最終濃度 25mM
の BES (N, N ビス(2 ヒドロキシェチル) 2 アミノエタンスルホン酸)と 25mM の CaClとに混合して、細胞にトランスフ タトさせた。一晩培養後、新鮮な増殖培地
2
に交換して 2日間培養した。
[0070] (siRNAの調製)
ATR、 ATM及び緑色蛍光タンパク質(GFP)に対する二本鎖 siRNA (それぞれ配 列表に記載の配列番号 1、 2及び 3に対応)を、 HP GenomeWide siRNA (キアゲ ン社製)に従って、それぞれ合成した。得た二本鎖 siRNAをそれぞれ、 siATR、 siA
TM及び siGFPとする。
[0071] (考察)
ATM ataxia telangiectsia mutated)及び ATR (ataxia telangiectasia a nd Rad— 3— related)は、細胞周期の DNA損傷に対する反応に係るシグナル伝 達において、重要な役割を演じる。 ATM及び ATRは、 Chkl、 p53、 NBS1、 Brcal 、 SMC1などのいわゆるチェックポイント 'タンパク質群や転写因子をリン酸ィ匕する。 発癌の原因ともなる次の世代への DNA損傷の持ち越しを防ぐために、上述のチエツ クポイントシグナルは、細胞周期全体を制御している。 ATM又は ATRの不全は、 U V若しくは IR照射又は障害誘導性薬剤により誘導された DNA損傷により、細胞の生 存率を低下させる。このことは、損傷を受けた DNAの修復、維持、及び管理におい て、 ATM及び ATRが必要であることを、示す。本発明において、本願出願人は、 Sc hisandra Chinensisの成分であるシザンドリン Bが UV照射後の細胞の生存率を濃 度依存的に低下させることを、示した。このことは、 in vivoでの DNA損傷反応にお けるチェックポイントシグナル伝達経路に対してシザンドリン Bが阻害効果を有するこ とを示す。
[0072] ヒストン H3は、正常な分裂細胞においてその 10番目のセリン残基がリン酸化され、 G2期から M期への移行の指標となるが、 DNA損傷により、 G2期 ZM期チェックボイ ントが機能すると、リン酸ィ匕ヒストン H3陽性細胞の割合は減少する。図 2によると、 20 及び 50jZm2の UV照射によりリン酸ィ匕ヒストン H3の割合が減少した。一方、 50JZ m2の UV照射では有意ではな力つた力 20jZm2の UV照射により、上記式(1)で示 すシザンドリン Bは、 G2ZMチェックポイントを顕著に崩壊させた。事実、低線量の U
V照射において、 DNA損傷に対する反応中、シザンドリン Bは、 G2ZMチェックボイ ントを完全に無効にした。また、上記式(1)乃至(10)に示す化合物及び上記 (C)に 示すィ匕合物によっても、 G2ZMチェックポイントを完全に無効にした。一方、 A549 細胞に IR照射した場合、 G2ZMチェックポイントの劇的な阻害は起きな力つた。一 般的に、 IR照射は、 ATMを活性化させ、 UV照射は、 ATRを活性化させ、細胞周期 チェックポイントを機能させることが知られている。これらの結果により、シザンドリン B は、低線量の UV照射で誘導された DNA損傷の過程中の G2ZMチェックポイントに おいて、 ATMよりもむしろ ATR活性に対して阻害効果を有することが、示唆された。 同様の事項は、上記式(1)乃至(10)に示す化合物など、本発明による ATR阻害剤 の他の化合物についても、適用可能である。
[0073] in vivoにおける ATRキナーゼ活性に及ぼす、本発明による ATR阻害剤の阻害 活性を検証するため、 IR又は UV照射により誘導される DNA損傷の後の p53リン酸 化を検討した。 p53は、 in vivoにおいて、種々のプロテインキナーゼにより、複数の 部位でリン酸化を受け、細胞にとって大変重要な転写因子として知られている。癌治 療における DNA損傷反応時の p53の機能を考えた場合、 p53は、細胞が UV照射、 γ IR照射及びメチル化剤により障害された際、 15番目のセリン残基において、 ATR 及び ATMにより特異的にリン酸ィ匕される。本発明において、 A549細胞に対して 20J Zm2の UV照射を行った後、 p53リン酸ィ匕は、シザンドリン Bにより減少した力 IR照 射では減少しな力つた。 IR照射の後に ATMの 1981番目のセリン残基が顕著に活 性ィ匕され、 20jZm2の UV照射によりわずかながら活性ィ匕されたが、シザンドリン Bは 、いずれの DNA損傷においても、 ATM活性に影響を及ぼさな力つた。また、シザン ドリン Bによる細胞周期の局所的な蓄積や偏りも認められな力つた。また、上記式(1) 乃至(10)に示すィ匕合物によっても、 P53リン酸ィ匕の阻害が観察された。これらの結 果により、 20j/m2の UV照射による p53の 15番目のセリン残基のリン酸ィ匕の減少は 、 ATRによってのみ起こることが示された。
[0074] 非特許文献 7は、 A549アデノカルシノーマ細胞における ATM及び ATRプロティ ンキナーゼに対するカフェインの阻害効果を開示する。本願出願人は、この文献と同 一の方法により、 in vitroにおける ATM及び ATRのプロテインキナーゼ活性に及
ぼすシザンドリン Bの影響を検討した。シザンドリン Bをキナーゼ緩衝液とインキュべ ートすると、 ATM及び ATRの両者を阻害するが、シザンドリン Bは、 ATMよりも ATR プロテインキナーゼの阻害が顕著である。事実、シザンドリン Bによる ATRに対する I C は、 ATMの約 240倍であった。また、上記式(1)乃至(5)に示す化合物によって
50
も、 ATRプロテインキナーゼ活性の阻害が顕著に観察された。細胞の生存率及びキ ナーゼ活性の結果が示すのは、細胞の DNA損傷を誘導する UV照射の反応中、 A TRプロテインキナーゼ活性が阻害されたということである。
[0075] シザンドリン Bの DNA損傷に係るチェックポイント対する影響を検討するため、 AT 患者由来の繊維芽細胞 ( AT2KY細胞)及び siRNA処理細胞を用 V、た。 AT2KY細 胞を UV照射すると、リン酸化 p53のみならずチェックポイント経路における ATM及 び ATRの下流分子としての、 Brcal (Serl423)及び Chkl (Ser345)のリン酸化体 が増加した。さらに、コントロール及び ATMに係る siRNAで処理した細胞において のみ、シザンドリン Bによる p53及び Chklのリン酸化が減少した。また、 siATRで処 理した細胞では、チェックポイントのタンパク質に係るリン酸ィ匕の減少が観察されなか つた。これらの結果から、シザンドリン Bは、 in vivoにおいて、 ATRプロテインキナー ゼ活性の阻害を介して、 DNA損傷に係るチェックポイントのシグナル伝達経路を阻 "i した。
[0076] in vivoにおける ATR阻害に対するシザンドリン Bの特異性を確認するため、マイト ジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)とも称される ERKの血清刺激及び PMA 処理による特異的な活性ィ匕システムによるリン酸ィ匕に対するシザンドリン Bの効果を 検討した。 ERKのリン酸化は、上述の参照方法により、強く促進された。シザンドリン Bにより、この ERKリン酸ィ匕は、全く影響を受けな力つた。従って、 DNA損傷に対す る反応において、シザンドリン Bの有効性は、 ATR活性に高度に特異的であることが 分かった。
[0077] 本発明にお ヽて、細胞に対する UV照射で誘導される DNA損傷応答反応 (チエツ クポイント)におけるシザンドリン Bの効果を示した。 ATRのノックアウトにより胚細胞は 致死的であるので、 ATRが哺乳類の発生に段階において重要な役割を演じることは 予想されていた。これは、クロマチンの不安定ィ匕や、生体内で連続的に生成するラジ
カルに対するチェックポイントの欠損、さらには発生過程での細胞性 DNAの複製スト レスによってもチェックポイントに ATRが必須であることを示している。一方、 ATRは ATMのバックアップとしても機能するので、 AT患者の細胞(遺伝的に ATMが機能 しない細胞)におけるチェックポイントを維持している。これらは、腫瘍発生を含む増 殖性の細胞にぉ 、て、 ATRプロテインキナーゼが大変重要であることを示して 、る。 シザンドリン Bは患者における DNA損傷チェックポイントを ATRのキナーゼ活性阻害 を介して阻止し得るので、本発明の知見により、放射線療法や化学療法などの抗癌 治療に利点をもたらし得る。カフェインは、 ATRに比べ ATMの活性を 1/5の IC を
50 有している。従って臨床における癌治療の際、シザンドリン B単独、又はカフェインと を組み合わせて放射線治療や抗癌剤療法を行うと、これらの感受性を顕著に増加さ せることが予想される。
[0078] 非特許文献 3は、化学療法剤又は放射線治療の補助として、臨床で試験的にカフ エインを適用することを報告する。この文献は、カフェインで補助した治療により、化 学療法剤又は放射線療法を個々に処理するよりも、骨肉腫の寸法を減少かつ最小 限化したことを示す。この結果が示すのは、カフェインは、 ATM及び ATRプロテイン キナーゼ活性を阻害することであり、増殖する腫瘍の細胞周期のいずれにおいても、 DNA損傷に係るチェックポイントの阻害をもたらす。このことにより、シザンドリン Bで 補助した化学療法及び放射線療法として、シザンドリン Bは、臨床で試験的に適用し 得る可能性がある。さらなる検討に関し、カフェインの臨床試験と同時に、腫瘍を消 失又は最小限ィ匕させることに関して効率ィ匕が可能力どうかについて、シザンドリン Bと の併用効果を試験する必要がある。特に、シザンドリン Bは、患者において、副作用 が全くないかほとんどないことが期待される天然の植物抽出物中の成分である。上述 のような ATM又は ATR阻害剤は化学療法 Z放射線療法の投与量や線量を最低限 に引き下げても、従来と同じかそれ以上の効果が期待されるので、化学療法 Z放射 線療法に対してシザンドリン Bとカフェインとを組み合わせることにより、患者に対する 副作用を最小限に抑えることが期待できる。
[0079] 以上、本発明の好適な実施の形態により本発明を説明した。ここでは特定の具体 例を示して本発明を説明したが、特許請求の範囲に定義された本発明の広範な趣
旨および範囲力 逸脱することなぐこれら具体例に様々な修正および変更を加える ことができることは明らかである。すなわち、具体例の詳細および添付の図面により本 発明が限定されるものと解釈してはならない。