明 細 書
リグノセルロース材料からの繊維成分の製造およびその利用
技術分野
[0001] 本発明は、リグノセルロース材料から繊維成分を取り出して有用物質を製造する方 法に関する。より具体的には、本発明は、リグノセルロース分解性がありかつセルロー ス分解性および/またはへミセルロース分解性が抑制された微生物をリグノセルロー ス材料と接触させたのち、繊維化工程を経て繊維成分を取り出すことを含む、上記方 法に関する。従って、本発明の方法は、省資源または省エネルギーに寄与するもの であり、特に、紙パルプ原料からの紙パルプの製造や、バガスなどのリグノセルロース 材料からの糖類の製造にぉレ、て、省資源または省エネルギー型の製造方法を提供 する。
背景技術
[0002] リグノセルロース材料力 繊維成分を取り出す工程では、繊維間の結合に関与する リグニンやへミセルロースの構造を機械的な力によって破壊するもしくはリグニンやへ ミセルロースを選択的に化学的に溶解、分解することによって繊維成分を取り出すこ とが行われている。
[0003] 紙パルプの製造工程も、木材やその他のリグノセルロース材料力 機械的、化学的 処理により、繊維間結合物質を切断または分解し、繊維成分であるパルプを製造し ている。この様な紙パルプの製造工程はエネルギーを必要とする工程であり、省エネ ルギー化には長年に亘りさまざまな対策が実施されてきた。しかし、環境問題を解決 するため、更に省エネルギー化する技術の開発が求められている。
[0004] また、リグノセルロース材料をいわゆるバイオマスとして化学原料やエネルギー原料 の発酵生産の基質として利用する場合、発酵基質となる糖類を製造するために、繊 維成分を分解せずに、リグニンを分解除去する前処理方法の開発が求められている
[0005] 紙パルプ工業で製造されているパルプは、その製造方法により機械パルプと化学 パルプに分けられる。機械パルプは、機械的エネルギーを用いて木材繊維を物理的
に摩砕して製造される。木材成分をほとんどそのまま含んでいるため、高い収率で製 造することができ、薄く不透明度の高い紙を作ることができる。し力 ながら、摩砕の ために大きな電力を必要とする欠点がある。
[0006] 上記のような多大な電力の消費を抑制するため、微生物特に白色腐朽菌と呼ばれ るリグニン分解力を有する担子菌で予め木材チップを処理し、エネルギーを削減しよ うという研究が行われてきた。例えば、ハンノキの一次解繊サーモメカニカルパルプ( TMP)の製造に先立ち、ファネロカエテ 'タリソスポリゥム (Phanerochaete chrysosporiu m)をグルコースとともに木材チップに添加し、 2週間放置すると、 TMP製造の二次解 繊のエネルギーを 25から 30%削減できたという報告がある(非特許文献 1)。また、フ ァネロカエテ.タリソスポリゥムとディコミタス.スクアレンス (Dichomitus squalens)を用レヽ 、アスペン材を処理した際には、コントロールと比べて紙力強度が増加している(非特 許文献 2)。
[0007] Akamatsuらは、ァラゲ力ワラタケ (Coriolus hirsutus)を含む白色腐朽菌 10株を用レヽ ポプラ材上に培養し、パルプ収率、解繊エネルギー、パルプ強度について調べてい る。その結果、ァラゲ力ワラタケで処理すると解繊エネルギーが減少し、結晶化度が 増加するなど、用いた菌株の中ではァラゲ力ワラタケがチップの前処理菌として好ま しいことが示された。し力 ながら、このときの収率が約 7%低下した(非特許文献 3)。
[0008] Nishibeらは、白色腐朽菌 61種、 85株から予備選抜した 10種類の腐朽菌を使って、 サヮグルミ木片と針葉樹 2次離解 TMPを微生物分解し、選択的に脱リグニンを行い、 ノ ノレプ繊維の崩壊が少ないネナガノヒトヨタケ (Coprinus cinereus)、ファネロカエテ 'ク リソスポリゥムを選抜し、グノレコースと尿素の存在下では紙力強度の低下が抑えられ ることを示した。し力し、パルプ収率の低下が、 14日間、 30°Cの処理でそれぞれ 6.3% 、 9.7%であった。ァラゲ力ワラタケを用いた場合、収率減は 7.5%であった(非特許文 献 4)。
[0009] Kashinoらは、白色腐朽菌 IZU- 154を自然界力もスクリーニングし、ファネロカエテ. タリソスポリウムゃカワラタケ (Trametes versicolor)より選択的にリグニンを分解し、広 葉樹を 7日間処理した場合、解繊エネルギー力 /2〜2/3減少することを確認した。ま た、パルプ強度は約 2倍増加した。針葉樹を 10〜14日間処理した場合では解繊エネ
ルギ一力 Sl/3減少し、強度増加も得られた。培地を加えた場合には 7日間で同等の結 果を得ることができた (非特許文献 5)。
[0010] さらに、米国では USDA Forest Products Laboratoryのグループを中心に研究機関 、紙パルプ産業数社から成るリグニンコンソーシアムを形成し、リグニン分解力が高く 、セルロース分解力の低い菌株のスクリーニングを行レ、、セリポリオプシス'サブバー ミスポラ (Ceriporiopsis subvermispora)を新たに選抜した。この株を用いて機械パルプ の動力削減を検討し、例えば、 TMPの製造エネルギーの 40%近くを削減でき、このと きの収率の低下が 3〜5%程度であり、心配される紙の強度への悪影響はなぐむし ろ強度が上がっていると報告している(非特許文献 6)。 USDA Forest Products Labor atoryでは既にパイロットプラントを建設し、単離したセリポリオプシス.サブバーミスポ ラの実証試験を行っている。米国内の工場を想定し、工場のチップヤードで微生物 処理を行うことを考えている。し力し、セリポリオプシス 'サブバーミスボラは増殖に好 適な温度が低ぐ 32°Cまでの温度でしか効果が得られないが、チップを保存している パイル内部が高温となるため、冷却のための通気のエネルギーおよびコストが大きく 、温暖な地域での使用には不適切である。
[0011] また、これまでスクリーニングで得られてきた微生物はリグニン分解の選択性が必ず しも高くなぐリグニンのみでなぐセルロースも分解するため、パルプ収率や紙力低 下を生じる。従って、リグニン分解の選択性を高めた微生物、すなわち、リグニン分解 能力には優れるが、セルロース分解は抑制されている微生物の取得 '作製が求めら れている。
[0012] リグニン分解の選択性を高めた変異体は Anderらにより作製されている。彼らは、 U V照射によりスポロトリカム'プルベルレンタム (Sporotrichum pulverulentum)に変異処 理を行い、セルラーゼ活性が弱い変異株 Cel44株の菌株を開発している。野生株とこ のセルラーゼ抑制株 Cel44とを用いてカバ材木片の分解を行ったところ、前者がリグ ニン及びキシランをよく分解するのに対し、後者はリグニン及びキシランをよく分解す るが、グルカンをほとんど分解しなかった (非特許文献 7)。
[0013] この Cel44を用いてバーチ材を 6週間処理した後、機械パルプの製造を行ったとこ ろ、紙力強度の増加が見られた (非特許文献 8)。また、バーチ材とパイン材を用いて
実験を行い、処理時間を増加させることによって、繊維のフィブリルィ匕とリファイユング のエネルギーが 30%減少したと報告してレ、る (非特許文献 9)。
[0014] 彼らはフレビア'ラヂァータ (Phlebia radiata)においても同様にセルラーゼ活性の弱 い株 Cel26を作製した。この Cel26でパイン材のチップとパルプを処理した後、機械パ ルプを製造した際、いずれの場合も紙力の改善は見られなかったものの、解繊エネ ルギ一の低下が見られた。また、重量減少は 2%以下であった (非特許文献 10)。
[0015] 一方、化学パルプは、化学薬品を用いて木材中のリグニンを溶出させセルロース、 へミセルロースを取り出す製造方法である。現在では水酸化ナトリウムと硫化ナトリウ ムを用いて脱リグニンを行うクラフトパルプが主流となっている。クラフトパルプにおい ても機械パルプと同様に微生物処理を行い、蒸解前に脱リグニンを行うことでの製造 エネルギーの削減、パルプ品質の向上が試みられてレ、る。
[0016] 例えばファネロカエテ 'タリソスポリゥムを用いて、レッドオーク材ゃアスペン材を 30
日間処理すると、同一 Ka価における収率が向上し、叩解エネルギーが削減すること、 また、引張り強度と破裂強度が増加するという報告がある (非特許文献 11)。同じぐ ファネロカエテ .クリソスポリゥムを用いた実験において、破裂強度、引裂き強度の増 加が報告されてレ、る(非特許文献 12)。 Molinaらはラジア一タパインを力ワラタケとヒラ タケ (Pleurotus ostreatus)で処理した際には、 11〜14%の製造エネルギーが削減でき ると報告している。し力 ながら、力ワラタケの場合にはパルプ強度の減少が見られた (非特許文献 13及び非特許文献 14)。
[0017] Bajpaiらは、セリポリオプシス ·サブバーミスボラを用いた実験において活性アルカリ を 18%削減し、蒸解時間を 33%削減し、白液中の硫化度を 30%削減することができ ることを報告してレ、る (非特許文献 15)。
[0018] 上記のように、クラフトパルプにおける微生物処理は蒸解性を向上させエネルギー の削減をもたらすが、収率や紙力強度を低下させる場合があり、機械パルプと同様に 微生物処理を実用化するには、リグニンを分解する能力には優れる力 セルロースを 分解する能力は抑制されかつリグニン分解の選択性を高めた微生物の取得 '作製が 必要となっている。
[0019] それに対し、上記のようにセルラーゼ活性の弱い変異株の作製が行われ、機械パ
ルプ処理への利用の検討が行われている力 これらの変異株は紫外線照射により変 異処理しているため、変異株の成長速度が遅 分解処理に長時間力かってしまうと レ、う問題がある。このため、成長速度には影響せずセルロース分解活性のみを抑え る変異株の作製が望まれてレ、る。
[0020] セルロースを分解する酵素(セルラーゼ)は /3 _ 1 , 4—グルカン(セルロース)又は その誘導体の 一 1, 4一ダルコビラノシル結合を加水分解する数種の酵素の総称 であり、エンドグルカナーゼ(EGと略)、セロビォヒドロラーゼ(CBHと略) I、 II、などから なる。 EGはセルロース主鎖の —1 , 4—ダルコビラノシル結合をエンド型に加水分 解することでセルロース鎖に断点を入れ、続いて CBHがその断点力 順次セロビォ ース単位で分解し結晶性の高い部分も分解することが知られている。 CBH Iはセル口 ース鎖の還元末端からセロビオース残基を切り取り、 CBH IIは非還元末端から切り取 つてゆく。また生じたセロビオースを酸化するセロビオースデヒドロゲナーゼ、セロオリ ゴ糖の末端から β結合を加水分解する β—グノレコシダーゼが知られている。そして、 これらの加水分解酵素が相乗的に作用することによりセルロース基質が低分子化し てセロビオースを生じ、さらに —グノレコシダーゼが関与することにより、グルコース 単位まで分解される。
[0021] し力しながらセルロース分解酵素の研究が進むに連れて、セロビォヒドロラーゼが E Gのような活性を示すケース、その逆のケースもあり、これまでの分類方法では説明で きなレ、酵素が見つかつてきてレ、る。
[0022] これまでに多数のセルロース分解酵素が単離精製され、また遺伝子の配列が明ら 力にされている。セルロース分解酵素はハイド口フォービッククラスターアナリシスとよ ばれる疎水性アミノ酸のクラスタ構造に基づく二次元的解析によりグリコシドヒドロラー ゼファミリ一としてグループ分けできることが明らかにされている(非特許文献 16)。
[0023] これらの酵素の分類では、 CBHと EGのセルロース分解特性の違いはそれぞれの活 性中心を上から覆うペプチドループの有無並びにその存在状態の際に基づくことが 示されてレ、る。 Trichodermaでは CBHIと CBHIIの三次元の結晶構造の特徴として活 性中心がペプチドループによって覆い隠されているトンネル構造を持つことが報告さ れている。一方、エンド型の酵素は活性中心にクレフトと呼ばれる溝を持ち、そこでセ
ルロース鎖を捕捉、切断後、一旦セルロース鎖から離れ、再度セルロース鎖を捕捉 するノンプロセッシブな切断様式で作用する(非特許文献 17)。
[0024] また、セロビオースデヒドロゲナーゼは、セロビオースゃセロオリゴ糖を酸化してセロ ピオノラタトンを生成すると同時にキノン、鉄などの金属錯体、フエノキシラジカル、酸 素などを還元する酸化還元酵素である。この酵素は、微生物がセルロースを分解す るときにセルラーゼと同時に産生される(非特許文献 18)こと、セロビオースによるセ ルラーゼ活性の阻害、すなわち生成物阻害を解除する(非特許文献 19)ことから、セ ルラーゼとの共役でセルロース分解を促進すると考えられている。
[0025] また、セロビオースデヒドロゲナーゼは強力にセルロースを分解するハイド口キシラ ジカルを発生する Fenton反応を引き起こすため、セルロース分解に深く関与している と考えられている。このことは Dumonceauxらによるセロビオースデヒドロゲナーゼ活性 を抑制した変異株の作製ならびにその諸性質の検討結果によっても示唆されている 。彼らは、抗生物質であるフエロマイシンを指標にした相同組換え法によるセロピオ 一スデヒドロゲナーゼ欠損株の作製を行い、セロビオースデヒドロゲナーゼ欠損株で は非晶性セルロースを炭素源とした場合には野生株と成長速度が変わらないが、結 晶性セルロース上で培養した際には生育速度が著しく遅くなること、セロビオースデヒ ドロゲナーゼ欠損株においても広葉樹未漂白パルプのリグニンや合成リグニンである
C-DHPを野生株と同等に分解することを報告している(非特許文献 20)。
14
[0026] セロビオースデヒドロゲナーゼを生産する微生物としては、ファネロカエテ'クリソス ポリゥム、力ワラタケ、スェヒロタケ(Schizophyllum commune)等の木材腐朽菌、コネオ フオラ-プテアナ (Coneophora puteana)、ミセリオフトラ-テノレモフイラ (Myceliophthora thermophila) ,フミコーラ'インソレンス(Humicola insolens)等のカビ類が知られている
[0027] また、セロビオースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(以下、セロビオースデヒド ログナーゼ遺伝子と称する)については、例えば、ファネロカエテ 'タリソスポリウムで は、 K3株の cDNA (非特許文献 21)、 OGC101株では cDNA (非特許文献 22)、染色 体遺伝子(非特許文献 23)のクローニングが行われている。また、力ワラタケ (非特許 文献 24)や、シュタケ (非特許文献 25)においてもセロビオースデヒドロゲナーゼ遺伝
子が報告されている。
[0028] また植物繊維の主要構成成分であるへミセルロースも微生物により分解を受け、繊 維成分の収率低下をもたらす。へミセルロースには、キシラン、マンナン、ガラクタン、 ぺクチンなどが知られており、これらを分解する酵素として、エンド 1,4- /3キシラナ一 ゼ、エンド 1,4- /3マンナナーゼ、ぺクチナーゼなどが知られている。キノコもこれらの 酵素を生産することが知られており、例えば白色腐朽菌の 1種である Phanerochaete c hrysosporium力ら 3種類のキシラナーゼ遺伝子がクローニングされ、 Aspergillus niger を宿主として酵素の発現、生産、精製が行われた。これらのうち 2っはグリコシドヒドロ ラーゼファミリー 10で、残りの 1つはファミリー 11に分類されていた(非特許文献 26) また、ヒラタケもキシラナーゼ、マンナナーゼ、セルラーゼを生産することが報告され ている (非特許文献 27)。
[0029] 機械パルプや化学パルプ製造における微生物処理にあたって、リグニン分解の選 択性を高めた微生物の取得 '作製に必要なァラゲ力ワラタケ由来のセロビオースデヒ ドロゲナーゼをはじめとするセルロース分解酵素やセルロース分解酵素遺伝子の解 明、並びに該遺伝子を用いた遺伝子組換え技術、及びそのような技術によって得ら れる形質転換体を用いた効果的なパルプ処理方法については、特許文献 1及び特 許文献 2に記載されている。
[0030] 一方リグノセルロース材料の糖化は、セルロース成分を取り出した後、酵素による糖 化する方法が環境面、コスト面で注目されている。一般にリグノセルロース材料はセ ルロース、へミセルロース、リグニンから構成されており、リグニン含量が多いリグノセ ルロース材料ほどセルラーゼによるセルロースの加水分解が困難になる。リグニンは へミセルロースと共にセルロースの繊維質を包み込むような形で存在しており、酵素 糖ィ匕では酵素のセルロースへの接触を妨害するため、リグニン含量が多いリグノセル ロース材料の糖化率は低くなる。
[0031] このような問題を改良するため、蒸煮 ·爆砕法等によりリグニンを低分子化する物理 的前処理、セルロース系バイオマスを溶媒やアルカリ等でリグニンを抽出する化学的 前処理 (非特許文献 28)、リグニン分解菌ゃリグニン分解酵素を用いてリグニンを分
解する生物前処理が検討されてレ、る(非特許文献 29)。
[0032] 生物前処理は比較的温和な条件で処理ができ、物理的前処理や化学的前処理よ りも環境への負荷が少なレ、。特許文献 3にはリグノセルロースをセルラーゼ及びリグ二 ン分解菌又はリグニン分解酵素存在下で加水分解することによりセロビオースを効率 的に製造することが記載されてレ、る。
[0033] し力 ながら、この技術で用いられる菌を含め、生物前処理に用いられるリグニン分 解菌の多くは、リグノセルロース材料の分解の際に、リグニンと共にセルロース等リグ ノセルロースの他の成分も消費してしまうため、結果的にリグノセルロース材料の糖化 率を下げてしまう。特許文献 4には、リグニンの分解活性が高ぐさらにリグニン分解 物の逆重合化を起こさない微生物を用いたリグニンの分解が記載されている力 この 菌もまたリグニンと共にセルロース等のリグノセルロース成分も消費してしまうという欠 点、がある。
[0034] Carle-Uriosteら(非特許文献 30)は、糸状菌トリコデルマ'リーセィ(Trichoderma re esei)においてセルロース分解酵素の発現メカニズムを遺伝子の転写レベルで明らか にする目的で、 3種類のセルロース分解酵素 cbhll、 egll、 egl2遺伝子の発現をアンチ センス法で抑制する実験を行った。しかし、これらの酵素遺伝子の発現量は確認され なかったし、また実際に複数のセルロース分解酵素活性の同時抑制が可能であった か否かは示されていなレ、。またこのようなアンチセンス法が、リグノセルロース材料の セルロース分解の抑制に使用することについて、その示唆はなかった。
特許文献 1:国際公開 WO03/070939
特許文献 2:国際公開 WO03/070940
特許文献 3:特開平 8— 89274号公報
特許文献 4 :特開平 5— 292980号公報
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非特許文献 2 : Myers., Tappi J., 105, 1988
非特許文献 3 : Akamatsuら, Mokuzai Gakkaishi, 30(8), 697-702, 1984
非特許文献 4 : Nishibeら, Japan Tappi, 42(2), 1988
非特許文献 5 : Kashinoら, Tappi J., 76(12), 167, 1993
非特許文献 6: Scottら, Tappi J., 81(12), 153, 1998
非特許文献 7: Ander及び Eriksson, Svensk Papperstid., 18, 643, 1975
非特許文献 8: Ander及び Eriksson, Svensk Papperstid., 18, 641, 1975
非特許文献 9 1*33011及び &11&11(161\, Svensk Papperstid, 85, R33, 1982 非特許文献 10:Samuelssonら, Svensk Papperstid., 8, 221, 1980
非特許文献 ll:Oriaranら, Tappi J., 73, 147, 1990
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非特許文献 13: Molina, 50th Appita Annual General Conference, pp.57- 63, 1996 非特許文献 14: Molina, 51th Appita Annual General Conference, pp.199- 2061997 非特許文献 15: P. Bajpaiら, J. Pulp and Paper Science: 27 (7), 235-239, 2001 非特許文献 16:Henrissat, Β·, Bairoch, A., Biochem. J., 293, 781, 1993
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発明が解決しょうとする課題
[0035] リグノセルロース材料力 繊維成分を得る方法、特に紙パルプを製造する方法にお いて、省資源、省エネルギー化を目的に機械パルプ又は化学パルプの製造に先立 ち、リグノセルロース材料を微生物で処理するときに、微生物が生産するセルロース 分解酵素やへミセルロース分解酵素により紙の主成分であるセルロースやへミセルロ ースが分解される結果、繊維成分特にパルプの収率の低下や紙力の低下が生じる ので、これを抑制する必要がある、という課題がある。
[0036] この課題を解決する方法としてリグニン分解能力に優れ、セルロース分解酵素の活 性の低い微生物の作出が求められている。し力しながら微生物のセルロース分解系 は複数のセルロース分解酵素から構成されているため、これらの酵素の活性をより効 果的に抑制するためには、複数の酵素の活性を抑制することが好ましい。すなわち、 そのためには、複数のセルロース分解酵素の活性を同時に抑制した微生物を作出 する必要がある。ァラゲ力ワラタケのようなキノコの形質転換法において、これまで行 われてきた個別の遺伝子を用いて抑制する方法では、複数の酵素の生産を同時に 抑制することは困難であった。また同様の課題はへミセルロースの分解についても存 在するが、へミセルロース分解酵素の抑制は研究されてレ、なレ、。
[0037] このような状況にあって、本発明の目的は、複数のセルロース分解酵素遺伝子およ び/またはへミセルロース分解酵素遺伝子の発現が同時に抑制された、かつリグニン 分解性のある微生物を使用してリグノセルロース材料を処理することを含む、リグノセ ルロース材料の繊維成分から有用物質を製造する方法を提供することである。
課題を解決するための手段
[0038] 上記課題を解決するために、本発明者らは今回、ある種の担子菌が産生するセル ロース分解酵素遺伝子の DNA断片を作製し、プロモーターの下流に複数のセルロー ス分解酵素遺伝子の DNA断片をアンチセンス方向に直列に連結することにより、複 数のセルロース分解酵素遺伝子を同時に抑制する方法、および/または、同様の手 法でへミセルロース分解酵素遺伝子を抑制する方法を開発し、さらに紙パルプ、糖 類、ノ ィォマスエタノールなどの製造を目的として、それらの製造に使用するための 繊維成分をリグノセルロースからセルロース収率を下げずに取り出す方法を確立した
[0039] <発明の概要 >
本発明は、以下のものからなる。
[0040] (1) リグノセルロース材料から繊維成分を取り出して該繊維成分から有用物質を製 造する方法にぉレ、て、複数のセルロース分解酵素遺伝子および/または複数のへミ セルロース分解酵素遺伝子の発現が抑制されたかつリグニン分解性のある微生物を 該リグノセルロース材料と接触させること、および該材料力 繊維成分を得ることを含 む上記方法。
[0041] (2) 前記微生物が、複数のセルロース分解酵素遺伝子および/または複数のへミセ ルロース分解酵素遺伝子のうち、少なくとも 4種類の異なる酵素遺伝子の発現が抑制 されているものである、 (1)に記載の方法。
[0042] (3) 前記微生物が、複数のセルロース分解酵素遺伝子および/または複数のへミセ ルロース分解酵素遺伝子のうち、少なくとも 6種類の異なる酵素遺伝子の発現が抑制 されているものである、 (2)に記載の方法。
[0043] (4) 前記微生物が、複数のセルロース分解酵素遺伝子および/または複数のへミセ ルロース分解酵素遺伝子の各転写産物の全部またはその一部に対して相補的なァ ンチセンス DNA断片、あるいは該アンチセンス DNA断片のヌクレオチド配列と 90%以 上の相同性を有するその変異体、の各々を任意の順序で連結した合成 DNA断片を 含む、(1)に記載の方法。
[0044] (5) 前記アンチセンス DNA断片の各々がリンカ一を介して連結されている、(4)に 記載の方法。
[0045] (6) 前記微生物が、前記合成 DNA断片を含む発現ベクターで形質転換されたもの である、 (4)に記載の方法。
[0046] (7) 前記発現ベクターにおいて、前記合成 DNA断片が発現制御配列と作動可能に 連結されている、 (6)に記載の方法。
[0047] (8) 前記複数のセルロース分解酵素遺伝子が、エンドダルカナーゼ、セロビォヒドロ ラーゼ I、セロビォヒドロラーゼ II、およびセロビオースデヒドロゲナーゼ、ならびにそれ らのァイソザィムから選択される酵素をコードしている遺伝子であり、また前記複数の
へミセルロース分解酵素遺伝子が、キシラナーゼおよびマンナナーゼ、ならびにそれ らのァイソザィムから選択される酵素をコードしている遺伝子である、 (1)に記載の方 法。
[0048] (9) 前記複数のセルロース分解酵素遺伝子が、エンドダルカナーゼ 61、エンドグノレ カナーゼ 5、エンドグノレカナーゼ 12、セロビォヒドロラーゼ I、セロビォヒドロラーゼ II、お よびセロビオースデヒドロゲナーゼからなる酵素をコードしている遺伝子であり、また 前記複数のへミセルロース分解酵素遺伝子力 キシラナーゼ I、キシラナーゼ II、マン ナナーゼ I、およびマンナナーゼ IIからなる酵素をコードしている遺伝子である、(8)に 記載の方法。
[0049] (10) 前記発現制御配列が、セロビオースデヒドロゲナーゼ遺伝子もしくはダリセルァ ルデヒド 3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターの配列である、 (7)に記載の 方法。
[0050] (11) 前記微生物が担子菌である、(1)に記載の方法。
[0051] (12) 前記担子菌が白色腐朽菌である、(11)に記載の方法。
[0052] (13) 前記白色腐朽菌がコリオラス (Coriolus)属である、(12)に記載の方法。
[0053] (14) 前記微生物が、内因性もしくは外因性リグニン分解酵素をコードする DNAまた は cDNAを発現可能な状態で含む、(1)に記載の方法。
[0054] (15) 前記リグニン分解酵素が、マンガンペルォキシダーゼ、リグニンペルォキシダー ゼまたはラッカーゼである、(14)に記載の方法。
[0055] (16) 複数の異なるセルロース分解酵素遺伝子および/または複数の異なるへミセル ロース分解酵素遺伝子の各転写産物の全部またはその一部に対して実質的に相補 的なアンチセンス DNA断片を任意の順序で連結した合成 DNA断片を作製し、該合 成 DNA断片を発現制御配列と作動可能に連結した発現ベクターを作製し、該発現 ベクターで、リグニン分解性のある微生物を形質転換して形質転換微生物を作製し、 セルロース分解性および/またはへミセルロース分解性を抑制した該微生物をリグノ セルロース材料と接触させて該材料中のリグニンを分解し、リグニン分解した該材料 から繊維成分を得ることを含む、(1)に記載の方法。
[0056] (17)前記セルロース分解酵素遺伝子が少なくとも 6種類である、および/または、前記
へミセルロース分解酵素が少なくとも 4種類である、(1)または (16)に記載の方法。
[0057] (18) 前記繊維成分がパルプまたはセルロースである、(1)に記載の方法。
[0058] (19) 前記有用物質が紙パルプである、(1)に記載の方法。
[0059] (20) 前記紙パルプが、前記繊維成分から化学パルプ化法、機械パルプ化法または セミケミカルパルプ化法により製造される、(19)に記載の方法。
[0060] (21) 前記有用物質が糖類である、(1)に記載の方法。
[0061] (22) 前記糖類が、前記繊維成分を酵素により糖化することによって製造される、 (21) に記載の方法。
[0062] (23) 前記酵素がセルラーゼおよびへミセルラーゼである、(22)に記載の方法。
[0063] (24) 前記繊維成分を糖化し、有用物質であるバイオマスエタノールを製造する、 (1 )に記載の方法。
[0064] <定義 >
本明細書中で使用する用語は、以下の定義を有する。
[0065] 「リグノセルロース材料」という用語は、構造性多糖のセルロース及びへミセルロース と芳香族化合物の重合体のリグニンとから構成されるリグノセルロースを多量に含む 植物性材料、例えば木材、ノくガス、牧草 (例えばオーチャードグラス及びチモシ一)な どの材料を意味する。ここでバガスとは、さとうきび力 糖汁を搾ったあとのカスを指す
[0066] 「繊維成分」という用語は、リグノセルロースからリグニンを化学的に除去または機械 的に切断して得られる繊維状成分、具体的にはセルロースまたはパルプ繊維を意味 する。この繊維状成分はセルロースとへミセルロースを主成分とする。
[0067] 「パルプ」という用語は、木材その他の植物から機械的または化学的処理によって抽 出したセルロース繊維の集合体を意味し、製造方法によって機械パルプと化学パル プに、また用途によって製紙パルプと溶解パルプに分類される。
[0068] 「セルロース分解酵素」とレ、う用語は、セルロースを分解する酵素を意味する。
[0069] 「へミセルロース分解酵素」という用語は、へミセルロースを構成する成分を分解す る酵素を意味し、キシラナーゼ、マンナナーゼなどが含まれる。
[0070] 「リグニン分解性のある微生物」という用語は、リグニン分解酵素を含む微生物を指
す。この微生物においては、内因性または外因性のリグニン分解酵素をコードする遺 伝子が、該微生物のゲノム上力、あるいはその細胞内に含まれる自律複製可能なプ ラスミドなどのベクター上に、発現可能に組み込まれている。微生物には、細菌類、 真菌類、担子菌類、酵母類などが含まれる。特に担子菌の 1種である白色腐朽菌は、 リグニン分解酵素であるリグニンペルォキシダーゼを含むことが知られており、好まし い微生物の 1つである。
[0071] 「セルロース分解酵素の発現が抑制されている」という用語は、セルロース分解酵素 遺伝子の発現が抑制されるために、該酵素遺伝子の翻訳が阻害され、結果としてセ ルロース分解酵素の産生が起こらなレ、かまたは起こり難レ、状態を意味する。
[0072] 「へミセルロース分解酵素の発現が抑制されている」という用語は、へミセルロース 分解酵素遺伝子について、セルロース分解酵素と同様の意味で、へミセルロース分 解酵素の産生が起こらなレ、かまたは起こり難レ、状態を意味する。
[0073] 「転写産物」とレ、う用語は、セルロース分解酵素遺伝子をコードする mRNAまたはプ レ mRNAを意味する。ここでプレ mRNAは、スプライシングされる前の mRNA前駆体を 指す。
[0074] 「アンチセンス DNA」という用語は、セルロース分解酵素遺伝子の転写産物である m RNAの全部又はその一部に対して実質的に相補的な配列を含む DNAであって、該 アンチセンス DNAの転写産物であるアンチセンス RNAが細胞内で、それと相補的とな るセルロース分解酵素遺伝子の mRNAと結合し、それによつてセルロース分解酵素遺 伝子の発現を抑制し翻訳を阻害する DNAを意味する。
[0075] 「発現制御配歹' とレ、う用語は、遺伝子の発現を制御する配列を指す。発現制御配 列は例えばプロモーター、ェンハンサー配列などを含み、好ましくはプロモーター配 列である。
発明の効果
[0076] 本発明により、リグニン分解性があるかつセルロースおよび/またはへミセルロース 分解力が抑制された微生物を用いて木材チップを処理し、っレ、でパルプを製造した 際、機械パルプの製造においては収率低下という従来技術の問題点を解消し、エネ ルギ一の削減と同時に紙力強度の向上が可能となる。また化学パルプの製造におい
ても収率や紙力強度の低下を抑制することが可能となる。また一方リグノセルロース 材料の糖化にぉレ、て、糖の著しレ、低下を伴わずにリグニンを除去することができるた め、糖の収率向上が可能となる。
発明を実施するための最良の形態
[0077] 以下において本発明をさらに具体的に説明するが、本明細書は本願の優先権の 基礎である日本国特許出願 2004-235539号の明細書に記載される内容を包含するも のとする。
[0078] 本発明は、リグノセルロース材料から繊維成分を取り出して有用な物質を製造する 方法において、複数のセルロース分解酵素および/またはへミセルロース分解酵素 の発現が抑制されたかつリグニン分解力のある微生物を該リグノセルロース材料と接 触させること、および該材料力 繊維成分を得ることを含む方法を提供する。
[0079] 本発明の特徴は、リグノセルロース材料力 複数のセルロース分解酵素の発現およ び/またはへミセルロース分解酵素の発現が抑制されたかつリグニン分解力のある微 生物によって予め処理されることにある。これによつて、セルロースおよび/またはへミ セルロースの酵素的分解を抑制もしくは阻害する一方で、リグニンが酵素的に分解さ れる。その結果、セルロースおよび/またはへミセルロースの収率がより向上するとい う利点が達成される。
[0080] <リグニン分解活性をもつ微生物 >
本発明で使用される微生物は、リグニンを分解する酵素を発現可能に含む。リグ二 ン分解酵素の例は、マンガンペルォキシダーゼ、リグニンペルォキシダーゼ、ラッカ ーゼまたはフエノールォキシダーゼである(欧州特許出願公開第 1029922号、 PCT/J P03/02057) oこのような酵素遺伝子は、微生物が固有にもつ天然型遺伝子でもよい し、あるいは微生物が本来もっていないため遺伝子組換え技術によって細胞内に発 現可能に導入された外来性遺伝子であってもよい。
[0081] 天然型遺伝子を含む微生物には、例えば担子菌(Basidiomycetes)、例えば木材腐 朽菌類など、とりわけ白色腐朽菌が含まれる。例えば、白色腐朽菌の 1種であるコリオ ラス (Coriolus)属、例えばァラゲ力ワラタケ (Coriolus hirsutus)など、は固有にリグニン ペルォキシダーゼを有している。本発明で使用可能なァラゲ力ワラタケの菌株は、例
えば独立行政法人製品評価技術基盤機構生物資源遺伝部門 (NBRC;東京、 日本) 力 IFO04917として分譲可能な株、 NTGIII-55株(FERM P-14046)、 OJI—1078株( FERM BP-4210), NTGIII-55株 (FERM P-14046)などを含む (特開 2004— 173688号 公報、特開平 07— 274958号公報)。またマンガンペルォキシダーゼを産生する微生 物の例は、担子菌の 1種であるファネロカエテ(Phanerochaete)に属する菌、例えばフ ァネロカエテ ·ソルディダ(Phanerochaete sordida)、例えば YK- 624株(ATCC 90872) が含まれる (特開 2002— 069881号公報)。
[0082] 白色腐朽菌の培養は、好気的条件下で振とう培養によって行なうのが好ましい。培 養液の pHは 3〜8であり、さらに好ましくは 4〜6である。培養温度は 10〜45°C、好ま しくは 25〜35°Cである。培養時間は、通常:!〜 10日間、好ましくは 7〜10日間であ る。培地は、通常の菌類のなどに使用される培地を使用できるが、 MnSO、 MnClな
4 2 どのマンガン (Π)イオンを 0.01〜100mM、好ましくは 0.1〜lmMの量で培地に加える 必要がある。培地には、必要に応じて炭素源あるいは窒素源を添加する。炭素源とし ては、グルコース、フルクトース、マルトース、サッカロースなどが含まれる。窒素源に は、肉エキス、ペプトン、ダルテンミール、大豆粉、乾燥酵母、酵母エキス、硫酸アン モニゥム、酒石酸アンモニゥム塩、尿素、 L—ァスパラギンなどが例示される。さらに 必要に応じて、ナトリウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、カルシウム塩、リン酸塩などの無 機塩類や、イノシトール、ビタミン B塩酸塩、ビォチンなどのビタミン類を添カ卩すること
1
ができる。
[0083] リグニン分解酵素遺伝子を生来保有していなレ、か、あるいは該遺伝子を保有して レ、るが該酵素の活性が弱い微生物については、外来性のリグニン分解酵素遺伝子 を発現可能に導入することによって、リグニン分解力のある微生物に変換することが できる。微生物の例は、限定されないが、担子菌、真菌類、酵母類などを含む菌類、 細菌類などを含む。好ましい微生物は、担子菌および真菌類、特に担子菌類、好ま しくは白色腐朽菌である。マンガンペルォキシダーゼ、リグニンペルォキシダーゼ、ラ ッカーゼまたはフエノールォキシダーゼなどのリグニン分解酵素の遺伝子に関する公 知の配列情報を文献や GenBankなどのデータバンクから入手し、その配列に基いて 約 15〜30塩基長のプライマーを作製し、該遺伝子を含む微生物のゲノム DNAを铸型
にしたポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)を行い、 目的の酵素遺伝子を増幅することができ る。あるいは、周知の方法によって微生物細胞から取得したリグニン分解酵素遺伝子 をコ一ドする mRNAから、または市販のもしくは周知の方法で作製された cDNAライブ ラリー力 、周知の cDNAクローニング法によって該酵素をコードする cDNAを作製す ることができる。得られたゲノム DNAまたは cDNAを、プロモーター、ェンハンサーなど の適する発現制御配列に作動可能に連結した DNA断片を作製し、これをベクターの 適当な制限部位間に適切な方向で揷入する。ベクターはさらに、選択マーカー、複 製開始点、ターミネータ一、リボゾーム結合部位、ポリ Aシグナルなど、必要に応じて ポリリンカ一、を含むことができる。得られた発現ベクターで微生物宿主細胞を形質 転換して、リグニン分解酵素遺伝子を含む微生物を作製することができる。
[0084] 形質転換は、塩化カルシウム/ PEG法、リン酸カルシウム法、酢酸リチウム法、エレク トロポーレシヨン法、プロトプラスト法、スフエロプラスト法、リポフエクシヨン法などの一 般的方法から適宜選択して行うことができる。なお、微生物細胞からのプロトプラスト の形成については、細胞壁分解酵素、例えばリゾチームを微生物と接触させる従来 法で行うことができる。
[0085] リグニン分解酵素の能力を高めるためにセロビォヒドロラーゼほたは II遺伝子プロモ 一ター領域などの異種のプロモーター領域を白色腐朽菌に遺伝子組換え法によつ て導入することもできる(欧州特許出願公開第 1029922号、 PCT/JP03/02057)。
[0086] <セルロースおよび/またはへミセルロース分解活性が抑制されたリグニン分解性微 生物 >
本発明で使用される微生物としては、リグニン分解酵素を含むが、セルロース分解 酵素および/またはへミセルロース分解酵素を含まなレ、かまたはセルロース分解酵素 活性および/またはへミセルロース分解酵素活性が極度に抑制された微生物が好ま しい。しかし、実際にリグノセルロース材料、例えば木材、竹、綿、リンター、トウモロコ シ穂軸、バガス、ビール柏、わら類、もみ殻などの農産廃棄物、あるいは古新聞、雑 誌、段ボール、オフィス古紙、パルプ及び製紙メーカーから排出される廃パルプなど を微生物で処理する場合、環境に有害な作用を及ぼすような微生物の使用が規制さ れている。このため、リグノセルロース材料のリグニン分解に使用可能な微生物として
、上記の方法によってリグニン分解活性を外因的に導入された安全性の保障された 微生物およびリグニン分解活性を内因的に有する安全性の保障された微生物が、本 発明で使用可能な微生物の候補である。このような微生物のなかで、担子菌、とりわ け白色腐朽菌が好ましい。しかし、担子菌類は一般に複数のセルロース分解酵素活 性および/または複数のへミセルロース分解酵素活性を含むため、リグノセルロース 材料を処理する際にセルロースおよび/またはへミセルロースの分解を引き起こし、そ の結果、セルロースおよび/またはへミセルロースの収率を下げるという欠点を有して いる。このために、リグニンの分解力を増強しつつ、かつセルロースおよび/またはへ ミセルロースの分解を極度に抑制した微生物が作製できれば、本発明の目的を達成 できることになる。
[0087] 本発明で使用可能な微生物は、リグニン分解酵素遺伝子を保有する微生物におい て、内因性の複数のセルロース分解酵素および/または複数のへミセルロース分解 酵素の発現が抑制されるように遺伝子操作される。そのような発現抑制のための方法 として、本発明では、内因性のセルロース分解酵素遺伝子および/またはへミセルロ ース分解酵素遺伝子の転写産物に相補的なアンチセンス RNAによる方法が使用さ れる。
[0088] <アンチセンス RNA法 >
セルロース分解酵素遺伝子には、以下のものに限定されないが、エンドダルカナー ゼ(以下、 EGともレ、う)、セロビォヒドロラーゼ 1(以下、 CBH Iともいう)、セロビォヒドロラ ーゼ II (以下、 CBH IIともレ、う)、セロビオースデヒドロゲナーゼ、およびそれらのァイソ ザィムからなる酵素をコードする遺伝子が含まれる。ここでアイソザィムとは、異なる一 次構造をもつが類似の触媒作用を有する酵素群を指す。アイソザィムの例には、ェ ンドグルカナーゼ 61、エンドグルカナーゼ 5、エンドグルカナーゼ 12、エンドグルカナ ーゼ 17、エンドグルカナーゼ 45、エンドグルカナーゼ 9、セロビォヒドロラーゼ Iなどが 含まれる(M. Sandgrenら, J. Mol. Biol. 308: 295-310, 2001) ; A.V. Wymelenbergら, Appl. Environ. Microbiol. 68: 5765-5768, 2002)。
[0089] へミセルロース分解酵素遺伝子には、以下のものに限定されないが、キシラナーゼ 、マンナナーゼおよびそれらのアイソザィムをコードする遺伝子が含まれる。アイソザ
ィムの例には、キシラナーゼファミリー 10、ファミリー 11などが含まれる。より具体的に は、へミセルロース分解酵素遺伝子には、例えばキシラナーゼ I、キシラナーゼ II、マ ンナナーゼ I、およびマンナナーゼ IIからなる酵素をコードしている遺伝子などが含ま れる。
[0090] セルロースあるいはへミセルロース分解酵素遺伝子の配列は、文献や GenBank等 のデータバンクなどから入手可能である。例えば、 GenBankからの入手可能な情報と して、エンドグルカナーゼ 61遺伝子は受託番号 AY094489、エンドグルカナーゼ 5遺 伝子は受託番号 AB125597、エンドグルカナーゼ 12遺伝子は受託番号 AAD02275、 セロビオースデヒドロゲナーゼ遺伝子は受託番号 AAC50004、セロビォヒドロラーゼ I- 27遺伝子は受託番号 BAD16575、セロビォヒドロラーゼ II遺伝子は受託番号 AAB329 42としてそれぞれ登録された配列情報を利用することができる。
[0091] あるいは、微生物に内在するセルロースあるいはへミセルロース分解酵素遺伝子の 配列が不明の場合には、微生物細胞から公知の手法で作製したゲノムライブラリーも しくは cDNAライブラリ一中の目的の DNAを铸型にして、エンドダルカナーゼ、セロビ ォヒドロラーゼ I、セロビォヒドロラーゼ II、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キシラナーゼ 、マンナナーゼの 6種類の酵素遺伝子の公知の配列に基いて作製された順方向お よび逆方向プライマーを用いて PCRを行レ、、遺伝子増幅された目的遺伝子について 、 Sanger法 (Pro Natl. Acad. Sci. USA, 74: 5463 (1977))などの公知の配列決定法を 用いて酵素遺伝子の配列を決定することができる。
[0092] アンチセンス RNAによる方法としては、複数の内因性セルロースおよび/または複数 のへミセルロース分解酵素遺伝子のすべてまたは一部の発現を同時に抑制するた めに、各遺伝子の転写産物である mRNAの全部またはその一部に対して相補的なァ ンチセンス DNA断片の各々を任意の順序で連結した合成 DNA断片を作製し、微生 物宿主細胞内に導入することを含む。導入された合成 DNA断片の転写産物であるァ ンチセンス RNAが微生物細胞内に存在した場合、相補的となるセルロース分解酵素 遺伝子あるいはへミセルロース分解酵素遺伝子の mRNAと結合し、それによつてセル ロース分解酵素遺伝子および/またはへミセルロース分解酵素遺伝子の発現が抑制 され翻訳が阻害される。
[0093] 連結されるアンチセンス DNA断片間には、リンカ一配列が存在してもよレ、。リンカ一 配列の長さは好ましくは約 20塩基以下、さらに好ましくは約 10塩基以下である力 場 合により 20塩基を超えてもよい。リンカ一配列は、アンチセンス DNA断片同士を連結 するための配列であり、セルロース分解酵素遺伝子あるいはへミセルロース分解酵素 遺伝子の転写の阻害に影響を与えない限り任意に選択可能な配列である。リンカ一 配列の例は、制限酵素認識配列である。制限酵素認識配列は、アンチセンス DNA断 片の切断および連結に好都合な配列であり、任意の制限酵素を認識する配列でよ レヽ。制限酵素認識配列は、例えば BamH I、 EcoR I、 Bgl II、 Hae III、 Hind III、 Hpa I、 Pst Iなどの酵素によって認識される配列でよぐパリンドロームおよび非パリンドロー ムのいずれの配列型もとることができる。
[0094] セルロース分解酵素遺伝子は、セルロースを分解し得る酵素の遺伝子であれば特 に限定されなレ、が、予めリグノセル口ース材料を処理する微生物がもつセル口ース分 解力を抑制する配列をもつものであればいずれのものでもよい。例えば、セロビオー スデヒドロゲナーゼ遺伝子、 CBHI遺伝子、 CBHII遺伝子及び EG遺伝子が好ましい。 また、へミセルロース分解酵素遺伝子は、へミセルロースを分解し得る酵素の遺伝子 であれば特に限定されないが、リグノセルロース材料を前処理する微生物がもつへミ セルロース分解力を抑制する配列をもつものであればいずれのものでもよい。例えば
、キシラナーゼ遺伝子、マンナナーゼ遺伝子が例示される。本発明では、これらの遺 伝子を 2種以上、好ましくは 3種以上、さらに好ましくは 4種以上、特に好ましくは上記 の 4種の他にアイソザィムをコードする遺伝子も含めて 6種以上、組み合わせることに より、セルロースおよび/またはへミセルロース分解性の抑制を強めた株を得ることが できる。
[0095] また、アンチセンス RNAが mRNAと結合して二本鎖を形成し、それが mRNAのタンパ ク質への翻訳を阻害する限り、アンチセンス DNA配列に 1又は複数の、好ましくは 1も しくは数個の、欠失、置換又は付加等の変異が含まれていてもよいし、あるいはアン チセンス DNAは、天然型に対応するアンチセンス DNA配列と比べて約 90%以上、好 ましくは約 95%以上、さらに好ましくは約 98%以上の相同性もしくは同一性を有して レ、てもよい。このような変異は、オリゴヌクレオチド部位特異的突然変異法やカセット
変異法などの周知の部位特異的突然変異技術(例えば Short protocols In Molecular Biology, Third Edition, John Wiley & Sons, Inc.)を用いて実施できる。
[0096] 上記の合成 DNA断片を構成する各アンチセンス DNA断片の配列の長さは、本発明 のいずれかのセルロース分解酵素遺伝子および/またはへミセルロース分解酵素遺 伝子の発現を抑制し得る長さであれば適宜設定可能であり、セルロース分解酵素遺 伝子および/またはへミセルロース分解酵素遺伝子のゲノムヌクレオチド配列または 成熟ヌクレオチド配列と等しい長さである必要は必ずしもなぐ該配列の一部、例え ばゲノム上のセルロース分解酵素遺伝子配列の複数のェキソンのうちの 1つのェキソ ン配列、または該ェキソン配列の少なくとも 30塩基 (もしくは塩基対)、少なくとも 50塩 基 (もしくは塩基対)、好ましくは少なくとも 100塩基 (もしくは塩基対)、より好ましくは 少なくとも 200塩基 (もしくは塩基対)からなる断片であってもよい。
[0097] アンチセンス DNAの調製及び該配列を利用する方法については、当業者に公知の 常法に従って実施することができる。具体的には、セルロース分解酵素遺伝子のアン チセンス DNAは、セルロース分解酵素遺伝子の少なくとも 1つのェキソン領域を含む DNAが得られるように PCR法にて増幅を行ったり、セルロース分解酵素遺伝子を適当 な制限酵素で消化して得ることができる。また、セルロース分解酵素遺伝子の cDNA からも取得可能である。 目的の cDNAは cDNAライブラリーを既知の手法で作製した のち、該酵素遺伝子のユニーク配列に基くプライマー対を用いた PCR法によって目 的の cDNAを増幅することができる。さらには、このアンチセンス DNAは、セルロース 分解酵素遺伝子の塩基配列情報 (上記)をもとにして人工的に作られた合成 DNAであ つてもよレ、。上記方法は、へミセルロース分解酵素遺伝子についても同様である。
[0098] PCR法にっレ、ては、具体的には、セルロースまたはへミセルロース分解酵素遺伝子 のゲノム配列(ェキソン配歹 1J、イントロン配歹 IJ、 5'非翻訳領域または 3'非翻訳領域)ま たは cDNA配列に基いて約 15塩基以上、好ましくは約 15〜約 30塩基、さらに好まし くは約 15〜約 25塩基のセンスおよびアンチセンスプライマーを合成し、ゲノム DNAを 鎳型にして PCR反応を行うことによって例えばェキソン領域を含む DNA配列を増幅 することができる。 PCR反応条件については、例えば、 F.S. Ausbelら, Short Protocols in Molecular Biology, 3片及, Aし ompendium of Methods from urrent Protocols in M
olecular Biology (1995年), John Wiley & Sons, Inc.の丄 ΰ早 The Polymerase Chain R eaction"等に記載の条件を使用することができる。 PCRの反応条件は、例えば DNAの 変性(例えば 94°C、 15〜30秒)、プライマーのアニーリング(例えば 55°C、 30秒〜 1分) および伸長反応 (例えば、 72°C、 30秒〜 10分)を 1サイクルとして通常 25〜40サイクノレ である。また PCRには、 Taqポリメラーゼ、 Pf iポリメラーゼなどの市販の耐熱性ポリメラ ーゼが DNA合成酵素として使用される。
[0099] 上記の手法で合成されたアンチセンス DNAの 2種類以上、好ましくは 3種類以上、 さらに好ましくは 4種類以上、特に好ましくは 6種類以上をアンチセンスの方向に結合 する。結合の方法は直接、あるいはリンカ一を介して結合することができる。アンチセ ンス DNAは種々の活性をもつセルロースまたはへミセルロース分解酵素あるいはそ のァイソザィムの遺伝子によってコードされる mRNA配列に相補的な配列を有する。 本発明においては、できる限り多くの種類のアンチセンス DNAを結合することが好ま しぐ 6種類以上、例えば、エンドダルカナーゼ 61、エンドダルカナーゼ 5、エンドダル カナーゼ 12、セロビォヒドロラーゼ I、セロビォヒドロラーゼ II、セロビオースデヒドロゲナ ーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼからなる酵素の mRNAに相補的なアンチセンス D NA類が挙げられる。また各種のアンチセンス DNAの配列の順番は特に制限がなぐ 任意の順番でよいが、セルロース分解活性の高い順番、そしてへミセルロース分解 活性の高い順番に、プロモーターなどの発現制御配列に隣接して 5'側から配置する こともできる。
[0100] アンチセンス RNAが生成され得るように結合するには、発現制御配列例えばプロモ 一ター配列を有する DNA断片の下流にアンチセンスの方向(逆向き方向)にアンチ センス RNAをコードする DNAを結合し、プロモーターの作動により mRNAに転写させ ればよい。得られる mRNAは、上記酵素遺伝子の塩基配列のアンチセンス RNAであ る。
[0101] プロモーターとしては、プロモーターの作用を有する遺伝子断片であれば特に限定 されることなく、あらゆる遺伝子のプロモーターを使用することができる。例えばセロビ オースデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター、 GPD (グリセルアルデヒド- 3-リン酸 デヒドロゲナーゼ)遺伝子プロモーター、 ras遺伝子プロモーターなどが挙げられる。こ
れらのプロモーターは、 GenBankに登録される配列、文献記載の配列等に基づいて 周知のゲノムクローニング、 PCR法、 DNA合成などによって得ることができる。あるい は、寄託されている遺伝子については、分譲請求により入手可能なものを利用するこ とがでさる。
[0102] プロモーター配列を含む遺伝子とセルロース分解酵素遺伝子又は該遺伝子のアン チセンス RNAをコードする DNAは、必要に応じて制限部位の導入、平滑末端化また は付着末端化後、適当な DNAリガーゼを用いて連結することができる。クローニング 、連結反応、 PCR等を含む組換え DNA技術は、例えば、 J. Sambrook et al., Molecula r Cloning, A Laboratory Manual, second Edition,し old Spring Harbor Laooratory P ress, 1989及び F. S. Ausbelら (上記)に記載されるものを利用することができる。
[0103] ベクターの種類は特に限定されないが、このベクターによって形質転換される宿主 の種類に応じて選択される。ベクターとしては、原核または真核生物宿主細胞におい て自律複製可能または染色体中に相同組換え可能なベクターを使用することができ る。ベクターの例は、 pUCベースプラスミド (例えば pUC19)、 pBluescript(Stratagene), YIp5(ATCC 37061)などを含むプラスミド、ファージ、ウィルス、コスミドなどである。ベ クタ一は、選択マーカー、複製開始点、ターミネータ一、ポリリンカ一、ェンハンサー、 リボゾーム結合部位などを適宜含むことができる。細菌、真菌、酵母、動物、植物など の原核および真核生物用の種々のベクターが市販されている力あるいは文献等に 記載されており、これらを利用して本発明のセルロース分解酵素遺伝子類の複数の アンチセンス RNAをコードする連結 DNA又は組換え DNAをベクターに導入することが できる。
[0104] ベクターへの DNA導入は、例えば、 J. Sambrookら(上記)に記載される技術を使用 して実施することができる。例えば、ユニバーサルベクター、ポリリンカ一導入べクタ 一などのベクターを使用することによって、特定の部位に、例えばプロモーター、アン チセンス DNAおよびターミネータ一を含むカセットを該ベクターに組み込むことができ る。なお、アンチセンス RNAをコードする DNA又は組換え DNAをベクターに導入する にあたっては、上述のように、転写によりセルロース分解酵素遺伝子のアンチセンス R NAが生成するように導入する。得られた組換え DNAを環状のまま形質転換に用いる
ことも可能である。また他の生物由来の遺伝子を同時に形質転換することを避けるた めに、必要な領域のみを切り出して形質転換に供することも可能である。
[0105] 上記ベクターもしくは DNA断片を用いた形質転換を行レ、、セルロース分解力を抑制 した微生物を調製する。ここで宿主細胞は、担子菌、真菌類、酵母類を含む菌類だ けではな 他の真核細胞(動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、藻類など)や原核細胞 (細菌、藍藻など)であっても、本発明のセルロース分解酵素遺伝子のアンチセンス R NAをコードする DNAの発現においてプロモーター活性を発揮できるならば、いずれ の宿主細胞も使用可能である。このうち、好ましい宿主細胞は、リグニン分解力を有 する担子菌、更に好ましくは白色腐朽菌、特に好ましくはコリオラス属、例えばァラゲ 力ワラタケである。例えば、具体的には、後述の実施例に記載されているァラゲ力ワラ タケのオノレニチン力ルバモイルトランスフェラーゼ活性を欠損している栄養要求性変 異株 OJI-1078 (FERM BP-4210)などを宿主として使用できる。
[0106] 形質転換法としては、塩ィヒカルシウム/ PEG法、リン酸カルシウム法、酢酸リチウム法 、エレクト口ポーレシヨン法、プロトプラスト法、スフエロプラスト法、リポフエクシヨン法、 ァグロバタテリゥム法などを例示できるが、これらに限定されなレ、。
[0107] <リグノセルロース材料からの繊維成分の製造 >
本発明の実施形態によると、本発明の方法は、少なくとも 4種類の異なるセルロース 分解酵素遺伝子の各転写産物の全部またはその一部に対して実質的に相補的なァ ンチセンス DNA断片を任意の順序で連結した合成 DNA断片を作製し、該合成 DNA 断片を発現制御配列と作動可能に連結した発現ベクターを作製し、該発現ベクター で、リグニン分解性のある微生物を形質転換して形質転換微生物を作製し、セル口 ース分解力を抑制した該微生物を該リグノセルロース材料と接触させて該材料中のリ グニンを分解し、リグニン分解した該材料から繊維成分を得ることを含む。
[0108] もう一つの本発明の実施形態によると、本発明の方法は、少なくとも 1種類の異なる へミセルロース分解酵素遺伝子の各転写産物の全部またはその一部に対して実質 的に相補的な合成アンチセンス DNA断片を作製し、該合成 DNA断片を発現制御配 歹 1Jと作動可能に連結した発現ベクターを作製し、該発現べクタ一で、リグニン分解性 のある微生物を形質転換して形質転換微生物を作製し、へミセルロース分解性を抑
制した該微生物を該リグノセルロース材料と接触させて該材料中のリグニンを分解し 、リグニン分解した該材料力 繊維成分を得ることを含む。
[0109] また、より好ましい実施形態は、上記と同様なアンチセンス法により、 4種以上のセ ルロース分解酵素遺伝子と 1種以上のへミセルロース分解酵素遺伝子の発現を同時 に抑制した形質転換微生物を作製し、セルロース及びへミセルロース分解性を抑制 した該微生物を該リグノセルロース材料と接触させて該材料中のリグニンを分解し、リ グニン分解した該材料から繊維成分を得る方法である。
[0110] 本明細書中で使用される「実質的に」という用語は、アンチセンス 1^八カ¾1^八と結 合して二本鎖を形成し、それカ¾1^八のタンパク質への翻訳を阻害する限り、アンチ センス DNA配列は、天然型に対応する配列と比べて 1もしくは複数の、好ましくは 1も しくは数個の、欠失、置換または付加等の変異が含まれていてもよいこと、あるいは 約 90%以上、約 95%以上もしくは約 98%以上の相同性を有すること、を意味する。 % 相同性 (または%同一性)は、ギャップを導入した配列アラインメント比較により決定さ れ得る全アミノ酸数に対する異なるアミノ酸数のパーセンテージである。%同一性は 、例えば公知の BLASTプログラムを用いて求めることができる。
[0111] 本発明で対象となるリグノセルロース材料は、木材、竹、綿、リンター、トウモロコシ 穂軸、ノくガス、ビール粕、わら類、もみ殻等の農産廃棄物、古新聞、雑誌、段ボール 、オフィス古紙、パルプ及び製紙メーカーから排出する廃パルプ等が挙げられる。本 発明においてはリグニン含量の高い木材および農産廃棄物等において特にその効 果を発揮する。
[0112] 紙の原料となるパルプを紙パルプの製造方法によって取り出す場合、木材を機械 的に 2〜3cm、厚さ約 5mmの大きさに小片化した木材チップが挙げられる。例えばマ ッ、スギ、モミ、トウヒ、ダグラスファー、ラジア一タパイン等の針葉樹及びブナ、カバ、 ハンノキ、力ェデ、ユーカリ、ポプラ、アカシア、ラワン、ゴム等の広葉樹を含む木材か ら得られ、パルプ等の原料として用いることができるものであればいずれの材種のチ ップをも用いることができる。
[0113] リグノセルロース材料はセルロースおよび/またはへミセルロース分解性を抑制した 微生物で処理される。セルロースおよび/またはへミセルロース分解性を抑制した微
生物が十分に生育するのであれば、リグノセルロース材料は前処理なくそのまま用い ることができる力 他の微生物を殺菌する前処理を実施した方がセルロースおよび/ またはへミセルロース分解性を抑制した微生物が生育しやすいのであれば、オートク レーブやスチーミング等により、セルロースおよび/またはへミセルロース材料を予め 処理することが好ましい。
[0114] リグノセルロース材料を、セルロースおよび/またはへミセルロース分解性を抑制し た微生物で処理する温度は 10〜60°Cが好ましぐさらに好ましくは 20〜35°Cである 。リグノセルロース材料中の水分は 20〜80%、好ましくは 30〜50%とするのがよレ、。 接種後リグノセルロース材料への空気供給量はセルロース分解力を抑制した微生物 が十分に生育可能であれば必要ないが、通常、対チップもしくはリグノセルロース材 料容積 1L当たりに供給する空気量は毎分 0.001〜1 L/ (い min) (以下、空気供給量 の単位 L/ (い min)を wmと称する)とするのがよぐ好ましくは、対チップもしくはリグノ セノレロース容積当たり 0.01 wm〜0.1 wmである。
[0115] セルロースおよび/またはへミセルロース分解性を抑制した微生物のリグノセルロー ス材料への接種量は、パルプ収率や紙力を軽減することがない限り、適宜設定する ことができる。例えば白色腐朽菌で処理する場合には、原料表面積 1平方 cm当り 0.0 1〜1,000,000個程度、特に好ましくは 0.1〜1, 000個のコロニーを生ずるように菌体を 噴霧、あるいは滴下し、該菌株の増殖に適した条件、すなわち適当な温度と pHに保 つことが好ましレ、。ァラゲ力ワラタケの場合、 0°C〜40°C、 pH4〜pH8の範囲が好ま しい。
[0116] セルロースおよび/またはへミセルロース分解性を抑制した微生物は、滅菌水ととも に粉砕し、リグノセルロース材料に対して植菌して培養することができる力 リグノセノレ ロース材料に培地を添加して処理してもよレ、。培地は、セルロースおよび/またはへミ セルロース分解力を抑制した微生物が生育できるのであればいずれの培地をも用い ることができる。例えば、炭素源としては、グルコース、セロビオース、非晶性セルロー ス等を使用することができる。また、窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、各種アミ ノ酸、大豆粕、コーンスティープリカ一、各種無機窒素などの窒素化合物を用いること 力 Sできる。さらに、必要に応じて、各種塩類やビタミン、ミネラル等を適宜カ卩えることが
できる。
[0117] セルロースおよび/またはへミセルロース分解性を抑制した微生物によって処理し たリグノセルロース材料からは、繊維成分としてパルプまたはセルロース'へミセル口 ースを得ることができる。
[0118] <繊維成分からの有用物質の製造 >
本発明の方法においては、リグノセルロース材料から得られた繊維成分から有用物 質を製造する。繊維成分はセルロースまたはパルプ繊維からなり、本発明の有用物 質として、例えば、パルプ繊維から紙パルプを、またセルロース繊維から単糖類、多 糖類、オリゴ糖類などの糖類を製造することができる。
[0119] <紙パルプの製造 >
上記の方法によって得られた繊維成分は、紙パルプの製造のために使用すること ができる。
[0120] 本発明の微生物による処理を施された木材チップは、その後、機械的な処理による 機械パルプあるいは化学的な処理による化学パルプとして製紙用のパルプ原料とな る。
[0121] 化学パルプィヒ法は、アルカリなどの薬品を用いて化学的に木材繊維からセルロー ス以外の成分を分解'溶出して繊維を取り出す方法である。一方、機械パルプ化法 は、本方法で処理した木材チップを機械的に粉砕して繊維化する方法である。また、 セミケミカルパルプ化法は、機械パルプ化法と化学パルプィヒ法の中間的な方法であ つて、アルカリ薬品によりチップが軟ィ匕する程度まで蒸解した後にリファイナ一で繊維 化する方法である。本発明では、紙パルプの製造において、上記方法のいずれも使 用できる。
[0122] 機械パルプの一例としてはサーモメカニカルパルプ(TMP)、リファイナーグラウン ドパルプ (RGP)、ケミグラウンドパルプ(CGP)などが挙げられる。
[0123] 化学パルプを得るための蒸解法としては、クラフト蒸解、ポリサルファイド蒸解、ソー ダ蒸解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用いることができる力 パルプ 品質、エネルギー効率等を考慮すると、クラフト蒸解法が好適に用いられる。例えば 、木材をクラフト蒸解する場合、クラフト蒸解液の硫化度は 5〜75%、好ましくは 15〜
45%、有効アルカリ添力卩率は絶乾木材質量当たり 5〜30質量%、好ましくは 10〜2 5質量%、蒸解温度は 130〜: 170°Cである。
[0124] クラフト蒸解には、修正連続蒸解法(Modified Continuous Cooking)、拡大修 正連続蒸解法(Extended Modified Continuous Cooking)、全缶等温蒸解法 (Isothermal Cooking)、 Lo— Solids蒸角率法、スーノ ーノ ッテ^角率法、 Compact 蒸解法なども含む。
[0125] 本発明の微生物による処理を施された木材チップから得られる特にサーモメカ二力 ルパルプ(TMP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)などの機械パルプにぉレ、ては 解繊エネルギーの減少や紙力の増加が認められた。また、クラフトパノレプゃサルファ イトパルプなどの化学パルプの製造においては蒸解性の向上や紙力の増加が得ら れる。
[0126] <糖類の製造 >
上記の方法によって得られた繊維成分は、直接あるいは乾燥させてからその後の 糖ィ匕反応に用いることができる。また、上記の菌処理と糖化反応を同時に行うこともで きる。さらに、物理的前処理および/または化学的前処理を菌処理の前後に施すこ とちできる。
[0127] 糖ィ匕反応においてセルラーゼの添力卩量はバイオマス lgに対し濾紙分解活性で 0.
01〜: 1000単位、特に好ましくは 0. 1〜: 100単位が経済的に効率が高く適している。 本発明で使用するセルラーゼとしては市販のセルラーゼがいずれも使用可能である 、例えば、トリコデノレマ (Tricoderma)属、ァスぺノレギノレス (Aspergillus)属、イノレぺッ クス (Irpex) j¾、セノレ口モナス (し ellulomonas)属、サ1 ~モモノスホフ、丄, hermomonospor a)属、クロストリディウム (Clostridium)属等由来のセルラーゼを使用できる。
[0128] セルラーゼを添カ卩した反応液を約 20〜 60°Cで約 0. 5〜 72時間撹拌あるレ、は静置 することにより、セルロースが加水分解されてセロオリゴ糖およびグルコースへ変換す る。また共存するへミセルロース分解酵素 (別名へミセルラーゼ)によって、へミセル口 ースからキシロオリゴ糖ゃキシロース、マンノース、ァラビノースなどの糖類に分解され る。以上の反応により、原料として用いるバイオマスにも依存する力 ノ ィォマスに存 在する多糖類の糖化率は、セルロース分解性を抑制したリグニン分解菌を用いて前
処理を施すことにより向上させることができる。
[0129] 本発明の方法によって得られる繊維成分はまた、上記のように糖ィ匕したのちアルコ ール (例えば、エタノール)などのバイオマスの原料としても使用できる。すなわち、ァ ルコール発酵菌 (例えば、酵母)の存在下で該繊維成分からの糖を原料にしてアルコ ールを製造することができる。エタノールは、燃料用、工業用および飲料用として、世 界的に需要が高い。
[0130] 以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの 具体例に限定されないものとする。
実施例
[0131] [実施例 1]
a)アンチセンス鎖を発現するプロモーターを有するベクタープラスミドの調製 パルプ上でァラゲ力ワラタケを培養したときに酵素活性が高いセロビオースデヒドロ ゲナーゼ遺伝子プロモーター領域の増幅を行うため、ァラゲ力ワラタケのゲノム DNA を铸型にして、 5'- GAGGATCGCAACCGCG -3' (配列番号 1)に示すプライマーと 5' - GTTGCTGACATGGCAC-3' (配列番号 2)に示すプライマーを用いて PCR反応を 行った。得られた約 2.2kbの DNA断片は、 TOPO TA Cloning Kit (Invitrogen社製)を 用いてクローニングを行レ、、 pTACDHPを得た。プロモーター領域において翻訳開始 点の約 800 bp上流に、 Nmlサイトが存在したため、 pTACDHPを制限酵素 Nmlで消化 後、末端平滑化反応を行い、再度ライゲーシヨン反応を行った。このプラスミドは、制 限酵素 BamHI、制限酵素 ^Iで消化後、 pBluescriptll SK+プラスミドを制限酵素 Bam HIならびに制限酵素 1で消化したベクターに導入し、 pCDHPとした。
[0132] さらに pCDHPの下流にマンガンパーォキシダーゼ遺伝子(MnP)のイントロンを含む
3'末端領域 (0.8 kb)を導入するために、ァラゲ力ワラタケ由来 MnP遺伝子を含むブラ スミド pBSMPOGlを鍀型に、 5'— CACCATGGCCTTCCCGACCCTTC—3' (酉己歹 IJ番号 3)に示すプライマーと 5'- GCGGCCGCGGGTACTGTG -3' (配列番号 4)に示すプラ イマ一を用いて、 PCR反応を行った。得られた 0.8 kbの DNA断片は TOPO TA Clonin g Kitを用いてクローニングを行った後、得られたプラスミドを制限酵素 ^Ιと制限酵 素 Notlで消化した後、ァガロースゲル電気泳動により 0.8 kbの DNA断片を回収し、上
記プラスミド pCDHPを制限酵素 Nmlと制限酵素 Neilで消化したベクター PCDHPに導 入し、プラスミド pCDHP-Mnpterとした。
[0133] b)アンチセンス鎖発現プラスミドの調製
エンドグルカナーゼ 'ファミリー 61遺伝子(EG61)の DNA断片を増幅するため、チッ プ上で生育中のァラゲ力ワラタケから作成した cDNAライブラリーを铸型に、 A61NcoI N1: 5 ' -CATGCCATGGGTCATGTTCTCGTCTAC-3 ' (配列番号 5)に示すプライマ 一と A61NcoICl : 5,_CATGCCATGGATTCACCAGCCTTGAGC-3,(配列番号 6)に 示すプライマーを用いて PCRにより増幅し、 430bpの断片を TOPO TA Cloning Kitを 用いてクローニングを行レ、、得られたプラスミドを 5' - GTAAACGACGGCCAG- 3' (配 列番号 7)に示す M13フォワード (-20)プライマーを用いて解析を行い、 pCR-TOPO上 に存在する lacZ遺伝子( β -ガラタトシダーゼ遺伝子)に対し、センス方向に挿入され ているクローンを選抜し、 pTA-EG61とした。
[0134] 次にセロビォヒドロラーゼ II遺伝子の第三ェクソン領域(620 bp)を増幅するために ゲノム DNAを铸型に、制限酵素サイトを付加した H3-Nco-CBH2F : 5,_cccaagcttCCA TGGATCTACCTGAGC-3, (配列番号 8)に示すプライマーと H2- CBH2R: 5, - gccgtc aacTCACTAGTGGCGAGAC-3 ' (配列番号 9)に示すプライマーを用いて PCRを行 つた。得られた DNA断片は制限酵素 mndiii、制限酵素 Hindiで消化し、挿入断片を 得た。この DNA断片を上記プラスミド pTA_EG61を制限酵素 Hindinならびに制限酵素 Hindiで消化したベクターに導入し、 pTA- CBHII-EG61とした。
[0135] 次にセロビォヒドロラーゼ 1-27遺伝子の第三ェクソン領域(750 bp)を増幅するため 、ゲノム DNAを铸型に、制限酵素サイトを付加した Sacl_CBH27F : 5' _ccgagctcCAAC GTCCTCGGCTG-3, (配列番号 10)に示すプライマーと Xba- Nco_CBH27R: 5, -gctc tagaCCATGGGTAGGTCGAG-3 ' (配列番号 11)に示すプライマーを用いて PCR法 にて増幅した。得られた DNA断片を制限酵素^ I、制限酵素 で消化し、揷入断 片を得た。この DNA断片を上記プラスミド pTA-CBHII-EG61を制限酵素^ I、制限酵 素 1で消化したベクターに導入し、プラスミド pTA_CBHn_EG61_CBHIとした。
[0136] さらに、セロビオースデヒドロゲナーゼ遺伝子の 630 bpの DNA断片を増幅するため にゲノム DNAを铸型に、制限酵素サイトを付加した Sacl-CDHfl : 5,_ccgagctcTCTTT
ACTGGTACCCCAAC-3 ' (配列番号 12)に示すプライマーと Sacl- CDHrl : 5' - ccgag ctcGTTGATCGACGGGTTGTC_3' (配列番号 13)に示すプライマーを用いて PCR法 にて増幅した。得られた DNA断片は制限酵素^ Iで消化し、揷入 DNA断片を得た。 この DNA断片を上記プラスミド pTA-CBHII-EG61_CBHIを^ Iで消化したベクターに 導入し、得られたプラスミドを配列番号 11に示すプライマーと配列番号 12に示すブラ イマ一を用いて PCRを行い約 1.4kbの DNA断片が増幅されるクローンを選抜し、 pTA- CBHII— EG61— CDH—CBHIとした。
[0137] さらに、エンドグルカナーゼ.ファミリー 5遺伝子(EG5)の 500 bpの DNA断片を取得す るため、チップ上で生育しているァラゲ力ワラタケから作成した cDNAライブラリーを铸 型に、 sac-EG5f2: 5, -ccgagctcGGCAGAAGCTTGCCGCTGA_3,(配列番号 14)に示 すプライマーと xho-EG5r2: 5, -ccgctcgagGCCTGCTGCATCTCGCAGA_3,(配列番 号 15)に示すプライマーを用いて PCRを行レ、、 DNA断片を増幅した。得られた DNA断 片は TOPO TA Cloning Kitを用いてクローニングを行い、 M13プライマーによる解析 の結果、 βガラクトシダーゼ遺伝子とセンス方向に挿入されているクローンを pTA-EG 5とした。
[0138] また、エンドグルカナーゼ.ファミリー 12遺伝子(EG12)の 500 bpの DNA断片を取得す るため、チップ上で生育しているァラゲ力ワラタケから作成した cDNAライブラリーを铸 型に xho-EG12fl : 5,-ccgctcgagGAAGAGCTTCACGAACATCCAG- 3' (配列番号 16 )に示すプライマーと Xba— EG12rl : 5,_gctctagaACATGTTTCGTCTCCCTAGTTGA TA-3' (配列番号 17)に示すプライマーを用いて PCR法にて増幅した。得られた断片 は制限酵素 1ならびに制限酵素 1で消化後、上記で得られたプラスミド pTA-E G5を制限酵素 Xi^Iならびに制限酵素 1で消化したベクターに導入し、 pTA-EG5- EG12とした。
[0139] EG5と EG12を含む DNA断片を調製するために kpn- EG5f: 5' - ggggtaccGGCAGAAG CTTGCCGCTGA- 3' (配列番号 18)に示すプライマーと kpn-EG12r: 5' - ggggtaccACA TGTTTCGTCTCCCTAGTTGATA-3' (配列番号 19)に示すプライマーを用いて PCR を行った。得られた DNA断片を制限酵素 Kmiで消化し、両端に Kmiサイトを持つ約 1 kbの断片を得た。この断片を 4種類のセルロース分解酵素遺伝子断片を持つプラスミ
ド pTA-CBHII-EG61_CDH-CBHIの CDH遺伝子部位に存在する Kmlサイトに導入し 、 6種の遺伝子断片が同方向に連結した DNA配列をもつプラスミド pTA_CBHII_EG61 - EG5- EG12-CDH- CBHIを調製した。
[0140] 次に CDH遺伝子プロモーター領域を含むプラスミド pCDHP-Mnpterにセルロース分 解酵素遺伝子の DNA断片をアンチセンス方向に揷入する操作を行った。上記プラス ミドから 6種類のセルロース分解関連酵素遺伝子の DNA断片を含む領域を増幅する ため、 H3_Nco-CBH2F: 5 ' -cccaagcttCCATGGATCTACCTGAGC-3 ' (配列番号 20) に示すプライマーと Xba-Nco_CBH27R: 5 ' -gctctagaCCATGGGTAGGTCGAG-3 ' ( 配列番号 21)に示すプライマーを用いて上記プラスミド pTA-CBHII-EG61-EG5-EGl 2-CDH-CBHIを铸型に PCR反応を行い、約 3.4kbの DNA断片を得た。得られた DNA 断片は ^Ιで消化後、 pCDHP-Mnpterのプロモーター領域と Μηρ遺伝子 3 '末端領 域の連結部位の teiサイトにセロビオースデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーターに対 してアンチセンス方向に挿入した。プロモーター領域の下流には順に CBHI_27、 CD H、 EG12、 EG5、 EG61、 CBHII遺伝子断片が連結している(配列番号 34)。以上の操 作により、 CDH遺伝子のプロモーターにより 6種類のセルロース分解酵素遺伝子断片 のアンチセンス RNAが転写される、アンチセンス鎖発現プラスミド pCDHP-T6とした。
[0141] [実施例 2]
ァラゲ力ワラタケの形質転換
a)—核菌糸体培養
直径 6mm前後のガラスビーズを約 30個入れた 500 ml容三角フラスコに SMY培地(シ ユークロース 1 %、麦芽エキス 1 %、酵母エキス 0.4 %) 100 mlを分注して滅菌後、ァラゲ 力ワラタケ OJI-1078株の平板寒天培地から直径 5mmの寒天片をコルクボーラ一で打 ち抜き SMY培地に植菌し、 28 °Cで 7日間静置培養した(前培養)。ただし、菌糸を細 分化するために、 1日に 1〜2回振り混ぜた。次に、 1L容の三角フラスコに SMY培地 2 00 mlを分注し、さらに回転子を入れ、滅菌後、前培養菌糸をナイロンメッシュ(孔径 3 0 μ πι)で濾集し、全量を植菌し、 28 °Cで培養した。なお、スターラーで 1日 2時間程 度撹拌することにより菌糸を細分化した。この培養を 4日間行った。
[0142] b)プロトプラストの調製
上記液体培養菌糸をナイロンメッシュ(孔径 30 μ πι)で濾集し、浸透圧調節溶液 (0. 5 M MgSO 、 50mlマレイン酸バッファー(pH 5.6) )で洗浄した。次に、湿菌体 100 mg
4
あたり 1 mlの細胞壁分解酵素液に懸濁し、緩やかに振盪しながら 28°Cで 3時間インキ ュペートしてプロトプラストを遊離させた。細胞壁溶解酵素として、次の市販酵素製剤 を組み合わせて使用した。即ち、セルラーゼ 'オノズカ (cellulase ONOZUKA RS) (ャ クルト社製、東京、 日本) 5 mg、ャタラーゼ (Yatalase) (宝酒造社製、京都、 日本) 10 mgを上記浸透圧調節溶液 1 mgに溶解して酵素液として用いた。
[0143] c)プロトプラストの精製
上記酵素反応液からナイロンメッシュ(孔径 30 μ m)で菌糸断片を除いた後、プロト プラストの回収率を高めるため、ナイロンメッシュ上に残存する菌糸断片とプロトプラ ストを上記浸透圧調節溶液で 1回洗浄した。得られたプロトプラスト懸濁液を遠心分 離(l,000 X g、 5分間)し、上静を除去し、 4 mlの 1Mシユークロースを含む 20 mM MO PS緩衝液 (pH 6.3)で再懸濁後、遠心操作を繰り返し、上記 1Mシユークロース溶液で 2回洗浄した。沈殿物に 1Mソルビトールを含む 20 mM MES緩衝液 (pH 6.4)に 40 mM 塩化カルシウムを加えた溶液 500 μ ΐに懸濁し、プロトプラスト懸濁液とした。この懸濁 液を 4°Cで保存した。
[0144] プロトプラスト濃度は血球計算盤を用いて、直接検鏡により求めた。すべての遠心 操作はスウィングローターで 1,000 X g、 5分間、室温で行った。
[0145] d)形質転換
約 106個/ 100 μ ΐのプロトプラスト懸濁液 100 μ ΐに対して、実施例 1で作製したプラ スミド PCDHP-T6を制限酵素 BamHIと Notlで切り出し、ァラゲ力ワラタケ DNA部分のみ をァガロースゲルから回収した DNA断片を 2 μ g添加した。さらに選択マーカーとして 、ァラゲ力ワラタケ由来のオノレニチン力ルバモイルトランスフェラーゼ遺伝子を保持す るプラスミド pUCRl (特開平 6-054691号公報; FERM BP-4201)を制限酵素 Sailで処 理し、ァラゲ力ワラタケ部分のみをァガロースゲルから回収し、 0.2 a g添加し 30分間 氷冷した。次に、液量に対して等量の PEG溶液(50 % PEG 3400を含む 20 mM MOPS 緩衝液 (PH6.4))を加え、 30分間氷冷した。次に、 0.5 Mシユークロースおよびロイシン を含む最小寒天培地 (寒天 1 %)に混合してシャーレに撒いた。上記シャーレを 28 °C
で数日間培養を行い、形質転換体を得た。さらに形質転換体から DNAを調製し、 目 的とするセルロース分解遺伝子のアンチセンス鎖発現プラスミド PCDHP-T6が組み込 まれていることを PCR法により確認した。
[0146] [実施例 3]
セルロース分解酵素活性を抑制した形質転換体の選抜
前記形質転換法にて単離された形質転換体は酸素漂白後広葉樹パルプ (LOKP) ' ペプトン培地(LOKP 1 %、ポリペプトン 1 %、 KH PO 0.15 %、 MgSO 0.05 %、リン酸で p
2 4 4
H 5.0に調製)を 100 mlずつ含む 300 ml容三角フラスコに植菌し、 28 °C、 120卬 mで 振盪培養した。セロビォヒドロラーゼ I活性、セロビオースデヒドロゲナーゼ活性、 CMC 分解活性を経時的に測定した。その結果、培養 5日目において、セロビォヒドロラー ゼ I活性を 70%、セロビオースデヒドロゲナーゼ活性を 83 %、 CMC分解活性を 83 % 抑制された形質転換体を得ることができた。
[0147] [実施例 4]
セルロース分解酵素活性を抑制した形質転換体で処理した木材チップからの機械パ ルプの製造
実施例 3により選抜したセルロース分解酵素活性を抑制した形質転換株をポテトデ キストロース寒天培地上で 28 °Cにて培養した後、 4°Cで保存した。このプレートから 直径 5mmのコルクボーラ一で打ち抜いた切片を 5つずつ、グルコース ·ペプトン培地( グルコース 3 %、ポリペプトン 1 %、 KH PO 0.15 %、 MgSO 0.05 %、リン酸で pH 5.0に調
2 4 4
製)を 100 mlずつ含む 300 ml容三角フラスコに植菌し、 28°C、 100卬 mで 1週間振盪 培養した。培養後、菌体をろ別し、菌体に残存した培地を滅菌水で洗浄した。菌体は 滅菌水と共に、ワーリンダブレンダ一で 45秒間粉砕し、絶乾重量 1 kgのラジア一タパ インチップに対し、菌体の乾燥重量が 5 mgになるように植菌した。植菌後は菌が全体 に行き渡るようによく撹拌した。培養は 28 °Cで通気をしながら 2週間静置培養を行つ た。チップ含水率が 40〜65 %になるように随時飽和水蒸気を通気させた。通気する際 の通気量は対チップ当り、 0.01 wmになるように行った。
[0148] 菌処理後の木材チップをラボ用リファイナー (熊谷理機工業社製、東京、 日本)を用 いて叩解して、カナディアンスタンダードフリーネスを 200 mlとした後、パルプ物理用
試験用手抄きシートの調製は JIS試験法 (P8209)に準拠して、パルプ手抄きシートの 物理試験は Tappi法 T220 om_83に準拠して行った。使用電力量はワットメーター(Hi okidenki model 3133)と積分計(model 3141)を用いた。チップ収率測定は水分を含 んだ木材チップを容器に絶乾重量で 1 kg分取し、処理前後のチップ絶乾重量を測定 し、以下の式を用いてチップ収率を算出した。
[0149] チップ収率 = (処理後の絶乾重量) / (処理前の絶乾重量) X 100
結果を表 1に示す。
[0150] [比較例 1]
ァラゲ力ワラタケ野生株を用いた機械パルプの製造
実施例 4で、セルロース分解酵素活性を抑制した形質転換株の代わりにァラゲカヮ ラタケの野生株を用いた他は、同様の方法で実験を行った。結果を表 1に示す。
[0151] [比較例 2]
菌処理を行なわなレ、チップを用いた機械パルプの製造
実施例 4で、菌を接種することなしに同様に実験を行った。結果を表 1に示す。
[0152] [実施例 5]
セルロース分解酵素活性を抑制した形質転換体により処理したチップのクラフトパル プの製造
実施例 4に準じてラジア一タパインの代わりにユーカリ材のチップ処理を行った後、 絶乾重量 400 gのチップを測りとりオートクレーブ内で液比 5、硫化度 30 %、有効アル カリ 15 % (Na 0として)となるように蒸解白液を加え、蒸解温度を 150 °Cから 165での 間で蒸解後のカッパ一価が 16になるようにクラフト蒸解を行った。クラフト蒸解終了後 、黒液を分離し、得られたチップを高濃度離解機によって解繊後、濾布で遠心脱水と 水洗浄を 3回繰り返した。次いでスクリーンにより、未蒸解の柏を分離し、遠心脱水し 蒸解未漂白パルプを得た。柏は 105 °Cで乾燥後絶乾重量を測定した。また未漂白パ ルプの一部を採って絶乾重量を測定し、チップからの収率 (精選収率)を求めた。ま たパルプのカッパ一価の測定を、 JIS P 8211に準じて行った。結果を表 2に示した。
[0153] 次にクラフト蒸解して得られたパルプに対して、 NaOHを 2.0質量%添カ卩し、酸素ガ スを注入し、 100 °C、酸素ゲージ圧 0.49 MPa(5 kgん m2)で 60分間処理を行った。
[0154] 続いて得られたパルプを下記に示すように、二酸化塩素処理 (D)—アルカリ抽出 処理 )一過酸化水素処理 (P)—二酸化塩素処理 (D)の 4段漂白処理を行った。 最初の二酸化塩素処理 (D)は、パルプ濃度が 10質量%となるように調製し、二酸化 塩素を 0.4質量%添カ卩し、 70 °C、 40分間処理を行った。次いで、イオン交換水にて洗 浄、脱水後、パルプ濃度を 10質量%に調製し、苛性ソーダを 1質量%添加し、 70 °C、 90分間のアルカリ抽出処理 (E)を行った。次いで、イオン交換水にて洗浄、脱水後、 パルプ濃度を 10質量%に調製し、過酸化水素 0.5質量%、苛性ソーダ 0.5質量%を順 次添加し、 70 °C、 120分間の過酸化水素処理(P)を行った。次いで、イオン交換水に て洗浄、脱水後、パルプ濃度を 10 %に調製し、二酸化塩素 0.25質量%を添加し、 70 °C、 180分間二酸化塩素処理 (D)を行った。最後にイオン交換水にて洗浄、脱水後 、JIS P 8123に準じた白色度 86.0 %の漂白パルプを得た。
[0155] 上記で得たパルプ濃度が 4質量%のパルプスラリーをリファイナ一によりフリーネス 力 S410 ml(CSF)となるように叩解した。パルプ物理試験用手抄きシートの調製は JIS試 験法(P8209)に準拠して、パルプ手抄きシートの物理試験は Tappi法 T220 om_83に 準拠して行った。結果を表 2に示す。
[0156] [比較例 3]
ァラゲ力ワラタケ野生株を用レ、たクラフトパルプの製造
実施例 5で、セルロース分解酵素活性を抑制した形質転換株の代わりにァラゲカヮ ラタケの野生株を用いた他は、同様の方法で実験を行った。結果を表 2に示す。
[0157] [比較例 4]
菌処理を行わないチップを用いたクラフトパルプの製造
実施例 5で、菌を接種することなしに同様に実験を行った。結果を表 2に示す。
[0158] [実施例 6]
セルロース分解酵素活性を抑制した形質転換体によるリグノセルロース材料の処理 ノ ガス 1 gを 121 °Cで 20分間滅菌した後、ポリペプトン 10 g/L、酵母エキス 5 g/L 、 KH PO 1.5 g/L、 MgSO · 7Η Ο 0.5 g/L、チアミン _HC1 2 mg/Lの組成からなる
2 4 4 2
培地と、実施例 3で得られた 6種類のセルロース分解関連遺伝子をアンチセンス方向 にタンデムに連結したセルラーゼ活性抑制リグニン分解菌の培養液を 3 ml加え、 30
°Cで 20日間静置した。
[0159] 10日後、バガスに対して 1.5質量0 /0となるように NaOHを加え、 70°C、 60分間処理し た。上記アルカリ抽出後、バガスを蒸留水で洗浄'脱水後、 105 °Cで一晩乾燥させ乾 燥重量から重量減少率を求め、また J. TAPPI 222に準拠してクラソンリグニン量を測 定し、クラソンリグニン減少率を求めた。結果を表 3に示す。
[0160] [比較例 5]
ァラゲ力ワラタケ野生株を用いたリグノセルロース材料の処理効果
実施例 6で、セルラーゼ活性抑制リグニン分解菌の代わりにァラゲ力ワラタケ野生 株を用いた他は同様に実験を行った。結果を表 3に示す。
[0161] [比較例 6]
原料バガスのクラソンリグニン量
実施例 6で、原料のバガスのクラソンリグニン量を測定した。結果を表 3に示す。
[0162] [実施例 7]
セルロース分解活性を抑制した形質転換体で処理したリグノセルロース材料の糖化 実施例 6で得られたアルカリ抽出後のリグノセルロース材料を 100 mlの酢酸緩衝液 ( pH 4)にカロえ、 0.5 gの市販のセルラーゼ(Trichoderma longibrachiatum起源)を添カロ して 50 °Cで 48時間攪拌することにより、リグノセルロース材料に含まれるセルロースを 糖化した。糖化後濾別し、濾液中の全糖濃度(グルコース換算)をフエノール硫酸法 により測定した。原料バガス 1 gからの収率を計算し、結果を表 4に示す。
[0163] [比較例 7]
ァラゲ力ワラタケ野生株で処理したリグノセルロース材料の糖ィ匕
実施例 7で、セルロース分解活性を抑制した形質転換体の代わりにァラゲ力ワラタ ケ野生株を用いた他は同様に実験を行った。結果を表 4に示す。
[0164] [比較例 8]
菌処理を行なわない場合のリグノセルロース材料の糖化
実施例 6, 7で、菌を接種せずに、実施例 6と同様の培地を加えて静置、アルカリ抽 出し、実施例 7と同様に糖化した。結果を表 4に示す。
[0165] [実施例 8]
へミセルロース分解酵素遺伝子アンチセンス鎖発現プラスミドの調製 へミセルロース分解に関与するァラゲ力ワラタケのキシラナーゼ遺伝子 1の DNA断片 を増幅するため、木材チップ上で生育中のァラゲ力ワラタケから作成した cDNAライブ ラリーを铸型に、 chxynl-N: 5, -GGTCGAGGGTCTAGGCCC-3' (配列番号 22)に示 すプライマーと chxynl- C: 5, -GGCTCCTTGACCTCACGG-3' (配列番号 23)に示 すプライマーを用いて PCRにより増幅し、 450bpの断片を TOPO TA Cloning Kitを用 いてクローニングを行レ、、得られたプラスミドを配列番号 7に示す M13フォワード (-20) プライマーを用いて解析を行い、 pCR-TOPO上に存在する lacZ遺伝子( -ガラタト シダーゼ遺伝子)に対し、センス方向に挿入されているクローンを選抜し、 pTA-Xynl とした。
[0166] 次に、ァラゲ力ワラタケのキシラナーゼ遺伝子 2の DNA断片を増幅するために、上記 c DNAライブラリーから制限酵素サイトを付加した kpn-chxyn2-N: 5' _CATGGTACCG CTGTCGCGGTCTGGGG- 3,(配列番号 24)に示すプライマーと bam- chxyn2- C: 5,- CATGGATCCGCCGAGACCCAGGACGG-3 ' (配列番号 25)に示すプライマーを用 いて PCRにより増幅し、 480bpの断片を得た。得られた DNA断片を制限酵素 Kpnlと Ba mHIで消化し、挿入断片を得た。この DNA断片を上記プラスミド pTA-Xynlを制限酵 素 Kpnlと制限酵素 BamHIで消化したベクターに導入し、プラスミド pTA_Xyn2_Xynlを 得た。
[0167] さらに、ァラゲ力ワラタケのマンナナーゼ 1遺伝子の DNA断片を増幅するために、上 記 cDNAライブラリーから制限酵素サイトを付加した EV-Manl_N: 5 ' -CATGGATATC CAATGGGATCAGGAGCC-3 ' (配列番号 26)に示すプライマーと Xh-Manl- C: 5' - CATGCTCGAGGCCACCATACCCGACCC-3 ' (配列番号 27)に示すプライマーを 用いて PCRを行レ、、約 400bpの DNA断片を得た。得られた DNA断片は制限酵素 EcoR V、ならびに Xholにて消化し、揷入断片とした。この DNA断片を上記プラスミド pTA- X yn2-Xynlを制限酵素 EcoRV,ならびに Xholで消化したベクターに導入し、プラスミド p TA-Xyn2-Xyn 1 -Man 1を得た。
[0168] また、ァラゲ力ワラタケのマンナナーゼ 2遺伝子の DNA断片を増幅するために、上記 c DNAライブラリーから制限酵素サイトを付加した Xh-Man2-N: 5' _CATGCTCGAGCG
CCCCAGAGTGGGGAC-3 ' (配列番号 28)に示すプライマーと Xb_Man2_C: 5,_CA TGTCTAGAGTTGGCCTTTGCCGCGG-3 ' (配列番号 29)に示すプライマーを用レヽ て PCRを行レ、、約 500bpの DNA断片を得た。得られた断片は制限酵素 XhoI、ならび に Xbalにて消ィ匕し、揷入断片とした。この DNA断片を上記プラスミド pTA_Xyn2-Xynl - Manlを制限酵素 XhoI、ならびに Xbalで消化したベクターに導入し、 4種のへミセル ロース分解遺伝子断片が同方向に連結した DNA配列をもつプラスミド pTA-Xyn2- Xy nl- Manl-Man2を得た。
[0169] 次に CDH遺伝子プロモーター領域を含むプラスミド pCDHP-Mnpterにへミセルロース 分解酵素遺伝子の DNA断片をアンチセンス方向に挿入する操作を行った。上記ブラ スミドから 4種類のへミセルロース分解関連酵素遺伝子の DNA断片を含む領域を増 幅するため、 Not- HT4- N: 5 ' -CATGGCGGCCGCCGCCCCAGAGTGGGGAC-3 ' ( 配列番号 30)に示すプライマーと Not-HT4-C: 5 ' -CATGGCGGCCGGTTGGCCTT TGCCGCGG-3' (配列番号 31)に示すプライマーを用いて上記プラスミド pTA- Xyn2 -Xynl-Manl-Man2を铸型に PCR反応を行い、約 1.9kbの DNA断片を得た。得られた DNA断片は で消化後、 pCDHP-Mnpterのプロモーター領域と Mnp遺伝子 3'末 端領域の連結部位の サイトにセロビオースデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター に対してアンチセンス方向に挿入されているクローンを選抜した。以上の操作により プロモーター領域の下流には順に Man2、 Manl, Xynl、 Xyn2遺伝子断片が連結して いる。これにより、 CDH遺伝子プロモーターにより 4種類のへミセルロース分解酵素遺 伝子断片のアンチセンス RNAが転写される、アンチセンス鎖発現プラスミド pCDHP_H CT4とした。
[0170] [実施例 9]
ァラゲ力ワラタケの形質転換
実施例 2に準じてァラゲ力ワラタケにへミセルロース分解酵素遺伝子アンチセンス鎖 発現遺伝子を用いて形質転換を行い、 目的とする抑制遺伝子 PCDHP-HCT4が組み 込まれていることを PCR法により確認した。
[0171] [実施例 10]
へミセルロース分解酵素活性を抑制した形質転換体の選抜
実施例 9にて単離された形質転換体は実施例 3に準じて培養を行い、 30 °C、 120 r pmで振盪培養し、経時的にサンプリングを行レ、、キシラナーゼ活性ならびにマンナナ ーゼ活性を測定した。酵素活性はクェン酸ナトリウム緩衝液 (pH 4.5)を用いて行った 。エンド- β -1,4_D-キシラナーゼ活性はシグマ社製カバキシランを 1%となるように溶 解し、 50°Cで 5分間反応させることにより遊離する還元糖量を DNS法を用いて測定し た。また、またエンド- j3 _l,4-D -マンナナーゼ活性は 0.5%イナゴマメガラタトマンナ ン溶液中、 50°Cで 5分間反応させ、遊離する還元糖量を DNS法により測定した。その 結果、培養 5日目において、上記で得られた形質転換株のキシラナーゼ活性は宿主 細胞に比べ 40%まで、またマンナナーゼ活性にっレ、ては 20%まで抑制された。
[0172] [実施例 11]
へミセルロース分解酵素活性を抑制した形質転換体で処理した木材チップからの機 械パルプの製造
実施例 10により選抜したへミセルロース分解酵素活性を抑制した形質転換体を実 施例 4に準じて菌処理を行い、機械パルプを製造した。結果を表 1に示す。
[0173] [実施例 12]
へミセルロース分解酵素活性を抑制した形質転換体により処理したチップのクラフト パルプの製造
実施例 9により選抜した形質転換体を用いて、実施例 5に準じてユーカリ材のチッ プ処理を行い、クラフトパノレプを調製し、パルプ収率や物理的影響について評価した 。結果を表 2に示す。
[0174] [実施例 13]
へミセルロース分解酵素活性を抑制した形質転換体によるリグノセルロース材料の処 理
実施例 9により得られた形質転換体を用いて、実施例 6に準じてリグノセルロース材 料としてバガスに対して菌処理を行レ、、クラソンリグニン量を測定し、クラソンリグニン 減少率を求めた。結果を表 3に示す。
[0175] [実施例 14]
へミセルロース分解活性を抑制した形質転換体で処理したリグノセルロースの糖化
実施例 13で得られたアルカリ抽出後のリグノセルロース材料を実施例 7に準じた方 法で市販のセルラーゼ製剤で酵素処理し、リグノセルロースを糖化した。結果を表 4 に示す。
[0176] [実施例 15]
セルロース分解酵素遺伝子ならびにへミセルロース分解酵素遺伝子を含むアンチセ ンス鎖発現プラスミドの作製
キシラナーゼ 1遺伝子(Xynl)の 450 bpの DNA断片を取得するため、チップ上で生 育しているァラゲ力ワラタケから作成した cDNAライブラリーを铸型に、配列番号 22に 示すプライマーと配列番号 23に示すプライマーを用いて PCRを行い、 DNA断片を増 幅した。得られた DNA断片は TOPO TA Cloning Kitを用いてクローニングを行い、 M 13プライマーによる解析の結果、 βガラクトシダーゼ遺伝子とセンス方向に挿入され ているクローンを pTA-Xynlとした。
[0177] また、マンナナーゼ 2遺伝子(Man2)の 500 bpの DNA断片を取得するため、チップ上 で生育しているァラゲ力ワラタケから作成した cDNAライブラリーを铸型に配列番号 28 に示すプライマーと配列番号 29に示すプライマーを用いて PCR法にて増幅した。得 られた断片は制限酵素 1ならびに制限酵素 ¾1で消化後、上記で得られたプラス ミド PTA-EG5を制限酵素 1ならびに制限酵素 1で消化したベクターに導入し、 p TA-Xynl- Man2とした。
[0178] ここで Xynlと Man2を含む DNA断片を調製するために kpn- Xynlf: 5' - ggggtaccGTCG AGGGTCTAGGCCC-3' (配列番号 32)に示すプライマーと kpn- Man2r : 5,- ggggtacc GTTGGCCTTTGCCGCGG-3 ' (配列番号 33)に示すプライマーを用いて pTA-Xynl _Man2に対して PCRを行った。得られた DNA断片を制限酵素 Kpnlにて消化し、両末 端に Kpnlサイトを有する約 lkbpの断片を得た。この DNA断片を 4種類のセルロース分 解酵素遺伝子断片を持つプラスミド PTA-CBHII-EG61-CDH-CBHIの CDH遺伝子部 位に存在する Kpnlサイトに導入し、 6種の DNA断片が同方向に連結されたプラスミド p TA-CBHII-FG61-Xynl-Man2- CDH-CBHIを調製した。
[0179] 次に CDH遺伝子プロモーター領域を含むプラスミド pCDHP-Mnpterにセルロースな らびにへミセルロース分解酵素遺伝子の DNA断片をアンチセンス方向に挿入する操
作を行った。上記プラスミドから 6種類の酵素遺伝子の DNA断片を含む領域を増幅 するため、配列番号 20に示すプライマーと配列番号 21に示すプライマーを用いて上 記プラスミド PTA-CBHII-EG61- Xynl-Man2- CDH-CBHIを鎳型に PCR反応を行レヽ、 約 3.4kbの DNA断片を得た。得られた DNA断片は Nmlで消化後、 pCDHP-Mnpterの プロモーター領域と Mnp遺伝子 3'末端領域の連結部位の Nmlサイトにセロビオース デヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーターに対してアンチセンス方向に揷入した。プロモ 一ター領域の下流には順に CBHI-27、 CDH、 EG12、 Xynl、 Man2、 CBHII遺伝子断 片が連結している。以上の操作により、 CDH遺伝子のプロモーターにより 6種類のセ ルロースならびにへミセルロース分解酵素遺伝子断片のアンチセンス RNAが転写さ れる、アンチセンス鎖発現プラスミド PCDHP-MT6とした。
[0180] [実施例 16]
抑制遺伝子の存在確認
実施例 2に準じて実施例 15で作製したセルロース分解酵素遺伝子ならびにへミセ ルロース分解酵素遺伝子が一本の転写産物として生産されるアンチセンス鎖発現遺 伝子を用いて形質転換を行い、 目的とする抑制遺伝子 PCDHP-MT4が組み込まれて レ、ることを PCR法により確認した。
[0181] [実施例 17]
セルロースならびにへミセルロースの分解酵素活性を抑制した形質転換体の選抜 実施例 3および実施例 10に示す方法に準じて、セルロース分解酵素ならびにへミセ ルロース分解酵素を経時的に測定した。
[0182] [実施例 18]
セルロースならびにへミセルロースの分解酵素活性を抑制した形質転換体で処理し た木材チップからの機械パルプの製造
実施例 17により選抜したセルラー巣分解酵素活性ならびにへミセルロース分解酵 素活性を抑制した形質転換体を実施例 4に準じて菌処理を行い、機械パルプを製造 した。結果を表 1に示す。
[0183] [実施例 19]
セルロースならびにへミセルロースの分解酵素活性を抑制した形質転換体で処理し
た木材チップからのクラフトパルプの製造
実施例 17により選抜した形質転換体を用いて、実施例 5に準じてユーカリ材のチッ プ処理を行い、クラフトパノレプを調製し、パルプ収率や物理的影響について評価した 。結果を表 2に示す。
[0184] [実施例 20]
セルロース分解酵素活性ならびにへミセルロース分解酵素活性を抑制した形質転換 体によるリグノセルロース材料の処理
実施 17により得られた形質転換体を用いて、実施例 6に準じてリグノセルロース材 料としてバガスに対して菌処理を行い、クラソンリグニン量を測定し、クラソンリグニン 減少率を求めた。結果を表 3に示す。
[0185] [実施例 21]
セルロース分解酵素活性ならびにへミセルロース分解活性を抑制した形質転換体で 処理したリグノセルロースの糖化
実施例 20で得られたアルカリ抽出後のリグノセルロース材料を実施例 7に準じた方 法で市販のセルラーゼ製剤で酵素処理し、リグノセルロースを糖化した。結果を表 4 に示す。
[0186] 上記実施例の結果を以下に示す。
1]
表 1に示すようにセルロース分解酵素活性やへミセルロース分解酵素活性を抑制し た実施例 4、 11および 18の形質転換株は比較例 2の菌処理しない場合に比べて解繊 エネルギーを削減できた。比較例 1の野性株は比較例 2の菌処理をしなレ、場合と比 ベると解繊エネルギーは削減できるが、チップ収率も紙力(比引裂強さと比破裂強さ)
も共に低下が大きかった。実施例 4、 11および 18の形質転換株は比較例 1に示す野 性株に比べて収率の減少を改善することができ、また、引き裂き強さ、破裂強さ共に 比較例 1の野性株より改善することができた。
[表 2]
表 2で示すように、形質転換体で処理した木材チップ(実施例 5、実施例 12、実施 例 19)、野性株で処理した木材チップ (比較例 3)をカッパ一価 16となるように蒸解し た際のパルプの精選収率は菌処理しなかった場合(比較例 4)に比べて、いずれも増 加し、粕率は減少した。また、いずれの菌処理 (実施例 5、実施例 12、実施例 19、比 較例 3)でも、処理しない場合 (比較例 4)に比べて、 目標フリーネスが 410 mlに達する までの PFIミルによる叩解の回転数を削減できた。
[表 3]
表 3の結果より、形質転換体で処理したバガス(実施例 6、実施例 13、実施例 20) の重量減少率は野性株(比較例 5)よりも最大で約 10%改善されてレ、た。また、リグ二
ンの減少率と重量減少率との比(LZW)の値は、セルロース分解活性を抑制した形 質転換体(実施例 6、実施例 13、実施例 20)の方が野性株(比較例 5)の L/Wの値 より高まっており、リグニン分解の選択性が高まっていた。
[表 4]
[0190] 表 4の結果より、野性株や形質転換体で処理したバガスを市販の糖化酵素で処理 して得た糖の収率(実施例 7、実施例 14、実施例 21、比較例 7)は菌処理しない場合 (比較例 8)に比べて向上していた。セルロース分解酵素活性ならびにへミセルロース 分解酵素活性を抑制した形質転換体で処理したバガスからの糖の収率(実施例 7、 実施例 14、実施例 21)は野性株処理バガスからの糖収率(比較例 7)より最大 7%収 率が向上していた。
産業上の利用可能性
[0191] 本発明により得られたリグニン分解菌のセルロース分解酵素活性および/またはへ ミセルロース分解酵素活性を抑制した形質転換体を用いて木材チップに接種し、通 気、保温することにより、パルプの収率低下や紙力の低下の少ない方法で、木材中 のリグニンを分解し、機械パルプの製造工程では、大量に電力エネルギーを消費す る叩解エネルギーを削減することが収率低下を伴わずにできる。また、化学パルプの 製造工程では、蒸解性の向上と収率増加が可能となり、紙パルプ製造工程上有利な 方法を提供するものである。
[0192] またリグノセルロース材料から糖類を製造し、糖類を発酵原料として燃料用アルコ ールゃ乳酸などの化成品原料を製造する際に、糖化を阻害するリグニンをリグニン 分解微生物により除去することにより、糖ィ匕の効率を高め、セルロース分解酵素活性 および/またはへミセルロース分解酵素活性を抑制することによって、糖類の収率を 高めることが可能となる。
[0193] 本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本
明細書にとり入れるものとする。 配列表フリーテキスト 配列番号 1:プライマ 配列番号 2:プライマ 配列番号 3:プライマ 配列番号 4:プライマ 配列番号 5:プライマ 配列番号 6:プライマ 配列番号 7:プライマ 配列番号 8:プライマ 配列番号 9:プライマ 配列番号 10 プライマ 配列番号 11 プライマ 配列番号 12 プライマ 配列番号 13 プライマ 配列番号 14 プライマ 配列番号 15 プライマ 配列番号 16 プライマ 配列番号 17 プライマ 配列番号 18 プライマ 配列番号 19 プライマ 配列番号 20 プライマ 配列番号 21 プライマ 配列番号 22 プライマ 配列番号 23 プライマ 配列番号 24 プライマ 配列番号 25 プライマ 配列番号 26 プライマ
配列番号 27:プライマー 配列番号 28:プライマー 配列番号 29:プライマー 配列番号 30:プライマー 配列番号 31:プライマー 配列番号 32:プライマー 配列番号 33:プライマー 配列番号 34:アンチセンス DNA