明 細 書
液種識別方法及び液種識別装置
技術分野
[0001] 本発明は、液体の熱的性質を利用して当該液体が所定のものである力否かを識別 する液種識別の方法及び装置に関するものである。
[0002] 本発明の液種識別方法及び液種識別装置は、例えば自動車の内燃エンジンなど 力も排出される排ガスを浄ィ匕するシステムにお 、て窒素酸化物 (NOx)の分解のため に排ガス浄ィ匕触媒に対し所定濃度の尿素水溶液であるとして噴霧される液体が真に 所定濃度の尿素水溶液である力否かを識別するのに利用することができる。
背景技術
[0003] 自動車の内燃エンジンではガソリンや軽油などの化石燃料が燃焼される。これに伴 つて発生する排ガス中には、水や二酸化炭素などと共に、未燃焼の一酸化炭素 (C O)及び炭化水素 (HC)や、硫黄酸化物(SOx)や、窒素酸化物 (NOx)等の環境汚 染物質が含まれる。近年、特に環境保護及び生活環境の汚染防止のため、これら自 動車の排ガスを浄ィ匕すべく各種の対策が講じられて 、る。
[0004] このような対策の 1つとして、排ガス浄化触媒装置の使用が挙げられる。これは、排 気系の途中に排ガス浄化用三元触媒を配置し、ここで、 CO、 HC、 NOx等を酸化還 元により分解して、無害化を図るものである。触媒装置での NOxの分解を継続的に 維持するために、排気系の触媒装置のすぐ上流側力 触媒に対して尿素水溶液が 噴霧される。この尿素水溶液は、 NOx分解の効果を高めるためには特定の尿素濃 度範囲にあることが必要とされ、特に尿素濃度 32. 5%が最適であるとされている。
[0005] 尿素水溶液は、自動車に積載される尿素水溶液タンクに収容されるのである力 経 時的に濃度変化が生ずることがあり、また、タンク内において局所的に濃度分布の不 均一が発生することもある。タンク力もポンプにより供給管を介して噴霧ノズルへと供 給される尿素水溶液は、一般にタンクの底部に近い出口力 採取されるので、この領 域のものが所定の尿素濃度であることが触媒装置の効率を高めるためには重要であ る。
[0006] また、尿素水溶液タンクに誤って尿素水溶液以外の液体が収容されることも現実に はあり得る。このような場合、液体が所定の尿素濃度の尿素水溶液以外であることを 素早く検知して警告を発することが、触媒装置の機能発揮のためには必要である。
[0007] しかるに、従来は、尿素水溶液中の尿素濃度の直接的測定はなされていない。ま た、排気系において、触媒装置の上流側と下流側とにそれぞれ NOxセンサーを配 置し、これらセンサーで検知される NOx濃度の差異に基づき NOxの分解が最適に 行われたカゝ否かを判別することがなされている。しかし、この手法は、実際に NOxを 低減した効果を測定するものであるので、尿素水溶液噴霧の前にはもちろんのこと噴 霧当初においても、液体が所定の尿素濃度の尿素水溶液である力否かの識別を行 うことはできない。また、このような方法で使用される NOxセンサーは、所定の尿素濃 度範囲内の尿素水溶液の噴射を実現するためには感度が十分とは云えな力つた。
[0008] ところで、特開平 11— 153561号公報 (特許文献 1)には、通電により発熱体を発 熱させ、この発熱により感温体を加熱し、発熱体から感温体への熱伝達に対し被識 別流体により熱的影響を与え、感温体の電気抵抗に対応する電気的出力に基づき、 被識別流体の種類を判別する流体識別方法であって、発熱体への通電を周期的に 行う方法が開示されている。
[0009] し力しながら、この流体識別方法では、発熱体への通電を周期的に行う(即ち多パ ルスで行う)ので、識別に時間を要することになり、短時間に流体を識別することは困 難である。又、この方法は、たとえば水と空気と油などの性状のかなり異なる物質に 対して、代表値によって流体識別を行うことが可能であるが、上記の様な液体が所定 の尿素濃度の尿素水溶液であるか否かの識別に適用して正確で迅速な識別を行う ことは困難である。
特許文献 1:特開平 11 153561号公報 (特に、段落 [0042]〜 [0049] ) 発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0010] 本発明は、以上のような現状に鑑みて、液体が所定のものである力否かを正確にし 力も迅速に識別することの可能な液種識別の方法及び装置を提供することを目的と する。
課題を解決するための手段
[0011] 本発明によれば、上記目的を達成するものとして、
被測定液体に臨んで配置された発熱体を単一パルス電圧印加により発熱させ、そ の際の、前記被測定液体に臨んで配置された感温体の初期温度と前記単一パルス 電圧印加の開始から第 1の時間経過時の第 1温度との差に対応する液種対応第 1電 圧値及び前記感温体の初期温度と前記単一パルス電圧印加の開始から前記第 1の 時間より長い第 2の時間経過時の第 2温度との差に対応する液種対応第 2電圧値の 組み合わせに基づ 、て、前記被測定液体が所定のものである力否かの識別を行う液 種識別方法、
が提供される。
[0012] 本発明の一態様においては、前記液種対応第 1電圧値が所定範囲内にあり且つ 前記液種対応第 2電圧値が所定範囲内にある時にのみ前記被測定液体が所定のも のであると判別し、且つそれ以外の時には前記被測定液体が所定のものでな 、と判 別する。本発明の一態様においては、前記液種対応第 1電圧値の所定範囲及び前 記液種対応第 2電圧値の所定範囲は前記被測定液体の温度に応じて変化する。本 発明の一態様にお!、ては、前記液種対応第 1電圧値及び前記液種対応第 2電圧値 を、前記感温体と前記被測定液体の温度を検知する液温検知部とを含んでなる液種 検知回路の出力に基づき得る。
[0013] 本発明の一態様においては、前記感温体の初期温度に対応する電圧値として前 記発熱体に対する前記単一パルス電圧の印加の開始前の初期電圧を所定回数サ ンプリングして平均することで得られた平均初期電圧値を用い、前記感温体の第 1温 度に対応する電圧値として前記発熱体に対する前記単一パルス電圧印加の開始か ら前記第 1の時間経過時の第 1電圧を所定回数サンプリングして平均することで得ら れた平均第 1電圧値を用い、前記感温体の第 2温度に対応する電圧値として前記発 熱体に対する前記単一パルス電圧印加の開始力 前記第 2の時間経過時の第 2電 圧を所定回数サンプリングして平均することで得られた平均第 2電圧値を用い、前記 液種対応第 1電圧値として前記平均第 1電圧値と前記平均初期電圧値との差を用い 、前記液種対応第 2電圧値として前記平均第 2電圧値と前記平均初期電圧値との差
を用いる。
[0014] 本発明の一態様においては、前記所定の液体は尿素濃度が所定範囲内にある尿 素水溶液である。本発明の一態様においては、互いに異なる複数の尿素濃度の尿 素水溶液について温度に対する前記液種対応第 1電圧値または液種対応第 2電圧 値の関係を示す第 1の検量線または第 2の検量線を作成しておき、前記被測定液体 が所定範囲内の尿素濃度を持つ尿素水溶液であると判別された場合には、その後、 前記被測定液体の温度を検知する液温検知部の出力と前記液種対応第 1電圧値ま たは液種対応第 2電圧値と前記第 1または第 2の検量線とに基づき前記尿素水溶液 の尿素濃度を算出する。
[0015] また、本発明によれば、上記目的を達成するものとして、
被測定液体が所定のものであるカゝ否かの識別を行う液種識別装置であって、 前記被測定液体の流通経路に臨んで配置された識別センサー部を備えており、該 識別センサー部は発熱体及び感温体を含んでなる傍熱型液種検知部と前記被測定 液体の温度を検知する液温検知部とを有しており、
前記傍熱型液種検知部の発熱体に対して単一パルス電圧を印加して前記発熱体 を発熱させ、前記傍熱型液種検知部の感温体と前記液温検知部とを含んでなる液 種検知回路の出力に基づき前記被測定液体の識別を行う識別演算部を備えており 、該識別演算部は、前記発熱体の発熱の際の、前記感温体の初期温度と前記単一 パルス電圧印加の開始から第 1の時間経過時の第 1温度との差に対応する液種対 応第 1電圧値及び前記感温体の初期温度と前記単一パルス電圧印加の開始から前 記第 1の時間より長い第 2の時間経過時の第 2温度との差に対応する液種対応第 2 電圧値の組み合わせに基づ 、て、前記被測定液体が所定のものである力否かの識 別を行うことを特徴とする液種識別装置、
が提供される。
[0016] 本発明の一態様においては、前記所定の液体は尿素濃度が所定範囲内にある尿 素水溶液である。本発明の一態様においては、前記識別演算部には前記液温検知 部から前記被測定液体の温度に対応する液温対応出力値が入力され、前記識別演 算部では、互いに異なる複数の尿素濃度の尿素水溶液について作成され前記被測
定液体の温度に対する前記液種対応第 1電圧値または前記液種対応第 2電圧値の 関係を示す第 1の検量線または第 2の検量線を用いて、前記被測定液体につ!、て得 られた前記液温対応出力値と前記液種対応第 1電圧値または液種対応第 2電圧値 と前記第 1または第 2の検量線とに基づき、前記被測定液体が尿素水溶液であるとし た場合の尿素濃度を算出する。
[0017] 本発明の一態様にお!、ては、前記傍熱型液種検知部及び前記液温検知部はそれ ぞれ前記被測定液体との熱交換のための液種検知部用熱伝達部材及び液温検知 部用熱伝達部材を備えて 、る。
発明の効果
[0018] 本発明によれば、発熱体を単一パルス電圧印加により発熱させ、その際の、感温体 の初期温度と第 1の時間経過時の第 1温度との差に対応する液種対応第 1電圧値及 び前記感温体の初期温度と第 2の時間経過時の第 2温度との差に対応する液種対 応第 2電圧値の組み合わせに基づ 、て、被測定液体が所定のものである力否かの 識別を行うようにしたので、前記液種対応第 1電圧値が所定範囲内にあり且つ前記 液種対応第 2電圧値が所定範囲内にある時にのみ前記被測定液体が所定のもので あると判別し、且つそれ以外の時には前記被測定液体が所定のものでな 、と判別す ることにより、被測定液体が所定のものである力否かを正確にし力も迅速に識別する ことが可能である。
[0019] 前記液種対応第 1電圧値の所定範囲及び前記液種対応第 2電圧値の所定範囲を 前記被測定液体の温度に応じて適宜に変化させることで、被測定液体が所定のもの であるか否かの一層正確な識別が可能になる。
図面の簡単な説明
[0020] [図 1]本発明による液種識別装置の一実施形態を示す分解斜視図である。
[図 2]図 1の液種識別装置の一部省略断面図である。
[図 3]図 1の液種識別装置のタンクへの取り付け状態を示す図である。
[図 4]傍熱型液種検知部及び液温検知部の部分の拡大図である。
[図 5]図 4の傍熱型液種検知部の断面図である。
[図 6]傍熱型液種検知部の薄膜チップの分解斜視図である。
[図 7]液種識別ための回路の構成図である。
[図 8]発熱体に印加される単一パルス電圧 Pとセンサー出力 Qとの関係を示す図であ る。
[図 9]尿素濃度が所定範囲内の尿素水溶液で得られる液種対応第 1電圧値 V01の 範囲内には、或る砂糖濃度範囲内の砂糖水溶液の液種対応第 1電圧値が存在する ことを示す図である。
[図 10]尿素水溶液及び砂糖水溶液及び水についての液種対応第 1電圧値 V01及 び液種対応第 2電圧値 V02を、尿素濃度 30%の尿素水溶液のものを 1. 000とした 相対値で示す図である。
[図 11]第 1の検量線の例を示す図である。
[図 12]第 2の検量線の例を示す図である。
[図 13]液温対応出力値 Tの一例を示す図である。
[図 14]液種対応第 1電圧値 V01及び液種対応第 2電圧値 V02の組み合わせによる 所定液体識別の判定基準が温度に応じて変化することを模式的に示すグラフである
[図 15]液種識別プロセスを示すフロー図である。
符号の説明
2 液種識別センサー部
2a 基体
2b, 2c O—リング
2d カバー部材
21 傍熱型液種検知部
22 液温検知部
23 モールド榭脂
24 被測定液体導入路
21a 薄膜チップ
21b 接合材
21c, 22c 金属製フィン
Id ボンディングワイヤー
1e, 22e 外部電極端子
1al 基板
1a2, 22a2 感温体
1a3 層間絶縁膜
1a4 発熱体
1a5 発熱体電極
1a6 保護膜
1a7 電極パッド
支持部
a 取り付け部
回路基板
蓋部材
0, 14 配線
2 コネクタ
4, 66 抵抗体
8 ブリッジ回路
0 差動増幅器
1 液温検知増幅器
2 マイコン(マイクロコンピュータ) スィッチ
6 出力バッファ回路
0 尿素水溶液タンク
2 開口部
4 液種識別装置
6 入口配管
8 出口配管
10 尿素水溶液供給ポンプ
us 被測定液体
発明を実施するための最良の形態
[0022] 以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
[0023] 図 1は本発明による液種識別装置の一実施形態を示す分解斜視図であり、図 2は その一部省略断面図であり、図 3はそのタンクへの取り付け状態を示す図である。本 実施形態では、所定の液体として尿素濃度が所定範囲内にある尿素水溶液が想定 されている。
[0024] 図 3に示されているように、たとえば自動車に搭載された排ガス浄ィ匕システムを構成 する NOx分解用の尿素水溶液タンク 100の上部には開口部 102が設けられており、 該開口部に本発明による液種識別装置 104が取り付けられている。タンク 100には、 尿素水溶液が注入される入口配管 106及び尿素水溶液が取り出される出口配管 10 8が設けられている。出口配管 108は、タンク 100の底部に近い高さ位置にてタンク に接続されており、尿素水溶液供給ポンプ 110を介して不図示の尿素水溶液噴霧 器に接続されて 、る。排気系にお 、て排ガス浄ィ匕用触媒装置の直前に配置された 上記尿素水溶液噴霧器により触媒装置に対する尿素水溶液の噴霧が行われる。
[0025] 液種識別装置は、識別センサー部 2と支持部 4とを備えて 、る。支持部 4の一方の 端部(下端部)に識別センサー部 2が取り付けられており、支持部 4の他方の端部(上 端部)にはタンク開口部 102へ取り付けるための取り付け部 4aが設けられている。
[0026] 識別センサー部 2は、発熱体及び感温体を含んでなる傍熱型液種検知部 21と被 測定液体の温度を測定する液温検知部 22とを有する。傍熱型液種検知部 21と液温 検知部 22とは、上下方向に一定距離隔てて配置されている。図 4に傍熱型液種検知 部 21及び液温検知部 22の部分を拡大して示し、図 5にその断面図を示す。
[0027] 図示されているように、これら傍熱型液種検知部 21と液温検知部 22とは、モールド 榭脂 23によって一体ィ匕されている。図 5に示されているように、傍熱型液種検知部 2 1は、発熱体及び感温体を含んでなる薄膜チップ 21a、該薄膜チップと接合材 21bに より接合された液種検知部用熱伝達部材としての金属製フィン 21c、及び薄膜チップ の発熱体の電極及び感温体の電極とそれぞれボンディングワイヤー 21dにより電気 的に接続されている外部電極端子 21eを有する。液温検知部 22も同様な構成を有
しており、液温検知部用熱伝達部材としての金属製フィン 22c及び外部電極端子 22 eを有する。
[0028] 図 6に傍熱型液種検知部 21の薄膜チップ 21aの分解斜視図を示す。薄膜チップ 2 laは、たとえば Al Oからなる基板 21alと、 Ptからなる感温体 21a2と、 SiO力もなる
2 3 2 層間絶縁膜 21a3と、 TaSiO力もなる発熱体 21a4及び N もなる発熱体電極 21a5
2
と、 SiO力もなる保護膜 21a6と、 TiZAuからなる電極パッド 21a7とを、順に適宜積
2
層したものからなる。感温体 21a2は、図示はされていないが蛇行パターン状に形成 されている。尚、液温検知部 22の薄膜チップ 22aも同様な構造であるが、発熱体を 作用させずに感温体 22a2のみを作用させる。
[0029] 図 1及び図 2に示されているように、識別センサー部 2は支持部 4の下端部に取り付 けられる基体 2aを有しており、この基体の取り付けに際しては O—リング 2bが介在せ しめられる。基体 2aの側面には O―リング 2cを介して上記傍熱型液種検知部 21及 び液温検知部 22のモールド榭脂 23が取り付けられている。基体 2aには、液種検知 部用フィン 21c及び液温検知部用フィン 22cを囲むようにカバー部材 2dが付設され ている。このカバー部材により、液種検知部用フィン 21c及び液温検知部用フィン 22 cを順次通って上下方向に延びた上下両端開放の被測定液体導入路 24が形成され る。尚、カバー部材 2dを基体 2aに取り付けることでモールド榭脂 23のフランジ部が 基体 2aの方へと押圧され、これによりモールド榭脂 23が基体 2aに対して固定されて いる。
[0030] 支持部 4の上端部には、後述する液種検知回路を構成する回路基板 6が配置され ており、該回路基板を覆って蓋部材 8が取り付けられている。図 2に示されているよう に、支持部 4には、識別センサー部 2の傍熱型液種検知部 21及び液温検知部 22と 回路基板 6とを電気的に接続する配線 10が収納されている。回路基板 6には、後述 する識別演算部を構成するマイクロコンピュータ (マイコン)が搭載されている。蓋部 材 8に設けられたコネクタ 12を介して、回路基板 6と外部との通信のための配線 14が 設けられている。識別演算部を、回路基板 6上ではなしに、外部に配置することもで き、この場合には配線 14を介して回路基板 6と識別演算部とが接続される。
[0031] 以上の識別センサー部 2の基体 2a及びカバー部材 2d、支持部 4及び蓋部材 8は、
いずれも耐腐食性材料たとえばステンレススチール力もなる。
[0032] 図 7に、本実施形態における液種識別ための回路の構成を示す。上記の傍熱型液 種検知部 21の感温体 21a2、液温検知部 22の感温体 22a2、及び 2つの抵抗体 64 , 66によりブリッジ回路 68が形成されている。このブリッジ回路 68の出力が差動増幅 器 70に入力され、該差動増幅器の出力(液種検知回路出力またはセンサー出力とも いう)が不図示の AZD変換器を介して識別演算部を構成するマイコン (マイクロコン ピュータ) 72に入力される。また、マイコン 72には液温検知部 22の感温体 22a2から 液温検知増幅器 71を経て被測定液体の温度に対応する液温対応出力値が入力さ れる。一方、マイコン 72からは傍熱型液種検知部 21の発熱体 21a4への通電経路に 位置するスィッチ 74に対してその開閉を制御するヒーター制御信号が出力される。
[0033] 以下、本実施形態における液種識別動作につき説明する。
[0034] タンク 100内に被測定液体 USが収容されると、識別センサー部 2のカバー部材 2d により形成される被測定液体導入路 24内にも尿素水溶液 USが満たされる。尿素水 溶液導入路 24内を含めてタンク 100内の被測定液体 USは実質上流動しない。
[0035] マイコン 72からスィッチ 74に対して出力されるヒーター制御信号により、該スィッチ 74を所定時間(たとえば 8秒間)閉じることで、発熱体 21a4に対して所定高さ (たとえ ば 10V)の単一パルス電圧 Pを印加して該発熱体を発熱させる。この時の差動増幅 器 70の出力電圧 (センサー出力) Qは、図 8に示されるように、発熱体 21a4への電圧 印加中は次第に増加し、発熱体 21a4への電圧印加終了後は次第に減少する。
[0036] マイコン 72では、図 8に示されているように、発熱体 21a4への電圧印加の開始前 の所定時間(たとえば 0. 1秒間)センサー出力を所定回数 (たとえば 256回)サンプリ ングし、その平均値を得る演算を行って平均初期電圧値 VIを得る。この平均初期電 圧値 VIは、感温体 21a2の初期温度に対応する。
[0037] また、図 8に示されているように、発熱体への電圧印加の開始から比較的短い時間 である第 1の時間(例えば単一パルスの印加時間の 1Z2以下であって 0. 5〜3秒間 ;図 8では 2秒間)経過時 (具体的には第 1の時間の経過の直前)にセンサー出力を 所定回数 (たとえば 256回)サンプリングし、その平均値をとる演算を行って平均第 1 電圧値 V2を得る。この平均第 1電圧値 V2は、感温体 21a2の単一パルス印加開始
から第 1の時間経過時の第 1温度に対応する。そして、平均初期電圧値 VIと平均第 1電圧値 V2との差 VOl (=V2—V1)を液種対応第 1電圧値として得る。
[0038] また、図 8に示されているように、発熱体への電圧印加の開始から比較的長い時間 である第 2の時間(例えば単一パルスの印加時間;図 8では 8秒間)経過時 (具体的に は第 2の時間の経過の直前)にセンサー出力を所定回数 (たとえば 256回)サンプリ ングし、その平均値をとる演算を行って平均第 2電圧値 V3を得る。この平均第 2電圧 値 V3は、感温体 21a2の単一パルス印加開始力も第 2の時間経過時の第 2温度に対 応する。そして、平均初期電圧値 VIと平均第 2電圧値 V3との差 V02 (=V3— VI) を液種対応第 2電圧値として得る。
[0039] ところで、以上のような単一ノ ルスの電圧印加に基づき発熱体 21a4で発生した熱 の一部は被測定液体を介して感温体 21a2へと伝達される。この熱伝達には、パルス 印加開始からの時間に依存して異なる主として 2つの形態がある。即ち、パルス印加 開始力も比較的短い時間 (例えば 3秒とくに 2秒)内の第 1段階では、熱伝達は主とし て伝導が支配的である(このため、液種対応第 1電圧値 V01は主として液体の熱伝 導率による影響を受ける)。これに対して、第 1段階後の第 2段階では、熱伝達は主と して自然対流が支配的である(このため、液種対応第 2電圧値 V02は主として液体の 動粘度による影響を受ける)。これは、第 2段階では、第 1段階で加熱された被測定 液体による自然対流が発生し、これによる熱伝達の比率が高くなるからである。
[0040] 上記のように、排ガス浄ィ匕システムにおいて使用される尿素水溶液の濃度 [重量パ 一セント:以下同様]は 32. 5%が最適とされている。従って、尿素水溶液タンク 100 に収容されるべき尿素水溶液の尿素濃度の許容範囲を、たとえば 32. 5% ± 5%と 定めることができる。この許容範囲の幅 ± 5%は、所望により適宜変更可能である。即 ち、本実施形態では、所定の液体として、尿素濃度が 32. 5% ± 5%の範囲内の尿 素水溶液を定めている。
[0041] 上記液種対応第 1電圧値 V01及び液種対応第 2電圧値 V02は、尿素水溶液の尿 素濃度が変化するにつれて変化する。従って、尿素濃度 32. 5% ± 5%の範囲内の 尿素水溶液に対応する液種対応第 1電圧値 V01の範囲 (所定範囲)及び液種対応 第 2電圧値 V02の範囲 (所定範囲)が存在する。
[0042] ところで、尿素水溶液以外の液体であっても、その濃度によっては、上記の液種対 応第 1電圧値 V01の所定範囲内及び液種対応第2電圧値 V02の所定範囲内の出 力が得られる場合がある。即ち、液種対応第 1電圧値 V01または液種対応第 2電圧 値 V02がそれぞれ所定範囲内であったとしても、その液体が所定の尿素水溶液であ るとは限らない。例えば、図 9に示されているように、尿素濃度が所定範囲内 32. 5% ± 5%の尿素水溶液で得られる液種対応第 1電圧値 V01の範囲内(即ち、センサー 表示濃度値に換算して 32. 5% ± 5%の範囲内)には、砂糖濃度が 25% ± 3%程度 の範囲内の砂糖水溶液の液種対応第 1電圧値が存在する。
[0043] しカゝしながら、この砂糖濃度範囲内の砂糖水溶液から得られる液種対応第 2電圧 値 V02の値は、所定の尿素濃度範囲内の尿素水溶液で得られる液種対応第 2電圧 値 V02の範囲とはかけ離れたものとなる。即ち、図 10に示されているように、 25%士 3%程度の砂糖濃度範囲を包含する 15%〜35%の砂糖濃度範囲内の砂糖水溶液 では、液種対応第 1電圧値 V01が所定の尿素濃度範囲内の尿素水溶液と重複する ものがある力 液種対応第 2電圧値 V02は所定の尿素濃度範囲内の尿素水溶液と は大きく異なる。尚、図 10では、液種対応第 1電圧値 V01及び液種対応第 2電圧値 V02の双方力 尿素濃度 30%の尿素水溶液のものを 1. 000とした相対値で示され ている。力べして、液種対応第 1電圧値 V01及び液種対応第 2電圧値 V02の双方に つ!、てそれぞれの所定範囲内にあることを所定の液体であるか否かの判定基準とす ることで、上記砂糖水溶液が所定の液体ではな 、と確実に識別することができる。
[0044] また、液種対応第 2電圧値 V02が所定の液体のものと重複する場合もあり得る。し かし、この場合には、液種対応第 1電圧値 V01が所定の液体のものと異なるので、上 記判定基準により当該液体が所定のものではないと確実に識別することができる。
[0045] 本発明は、以上のように液種対応第 1電圧値 V01と液種対応第 2電圧値 V02との 関係が溶液の種類により異なることを利用して、液種の識別を行うものである。即ち、 液種対応第 1電圧値 V01と液種対応第 2電圧値 V02とは液体の互いに異なる物性 即ち熱伝導率と動粘度との影響を受け、これらの関係は溶液の種類により互いに異 なるので、以上のような液種識別が可能となる。尿素濃度の所定範囲を狭くすること で、更に識別の精度を高めることができる。
[0046] 即ち、本発明の実施形態では、尿素濃度既知の幾つかの尿素水溶液 (参照尿素 水溶液)について、温度と液種対応第 1電圧値 V01との関係を示す第 1検量線及び 温度と液種対応第 2電圧値 V02との関係を示す第 2検量線を予め得ておき、これら の検量線をマイコン 72の記憶手段に記憶しておく。第 1及び第 2の検量線の例を、そ れぞれ図 11及び図 12に示す。これらの例では、尿素濃度 cl (例えば 27.5%)及び c2(例えば 37.5%)の参照尿素水溶液について、検量線が作成されている。
[0047] 図 11及び図 12に示されているように、液種対応第 1電圧値 V01及び液種対応第 2 電圧値 V02は温度に依存するので、これらの検量線を用いて被測定液体を識別す る際には、液温検知部 22の感温体 22a2から液温検知増幅器 71を介して入力され る液温対応出力値 Tをも用いる。液温対応出力値 Tの一例を図 13に示す。このような 検量線をもマイコン 72の記憶手段に記憶しておく。
[0048] 液種対応第 1電圧値 V01の測定に際しては、先ず、測定対象の被測定液体につ いて得た液温対応出力値 Tから図 13の検量線を用いて温度値を得る。得られた温 度値を tとして、次に、図 11の第 1の検量線において、温度値 tに対応する各検量線 の液種対応第 1電圧値 VOl (cl; t) , VOl (c2;t)を得る。そして、測定対象の被測定 液体について得た液種対応第 1電圧値 VOl (cx;t)の cxを、各検量線の液種対応第 1電圧値 V01(cl;t), VOl (c2;t)を用いた比例演算を行って、決定する。即ち、 cx は、 V01(cx;t), V01(cl;t), V01(c2;t)に基づき、以下の式(1)
cx = cl +
(c2-cl) [VOl (cx;t) -VOl (cl; t) ]
/[VOl (c2;t) -VOl (cl; t) ]… · (1)
から求める。
[0049] 同様にして、液種対応第 2電圧値 V02の測定に際しては、図 12の第 2の検量線に お!、て、以上のようにして被測定液体にっ 、て得た温度値 tに対応する各検量線の 液種対応第2電圧値¥02(じ1;1 , V02(c2;t)を得る。そして、被測定液体について 得た液種対応第 2電圧値 V02 (cy;t)の cyを、各検量線の液種対応第 2電圧値 V02 (cl;t), V02(c2;t)を用いた比例演算を行って、決定する。即ち、 cyは、 V01(cy; t), V01(cl;t), V01(c2;t)に基づき、以下の式(2)
cy = cl +
(c2-cl) [V02 (cy;t) -V02 (cl ;t) ]
/[V02 (c2 ;t) -V02 (cl ;t) ] - · · · (2)
から求める。
[0050] 尚、図 11及び図 12の第 1及び第 2の検量線として温度の代わりに液温対応出力値 Tを用いたものを採用することで、図 13の検量線の記憶及びこれを用いた換算を省 略することちでさる。
[0051] 以上のように、液種対応第 1電圧値 V01及び液種対応第 2電圧値 V02のそれぞれ について、温度に応じて変化する所定範囲を設定することができる。上記のように cl を 27. 5%とし、且つ c2を 37. 5%とすることで、図 11及び図 12のそれぞれにおける 2つの検量線で囲まれた領域が、所定の液体 (即ち尿素濃度 32. 5% ± 5%の尿素 水溶液)に対応するものとなる。
[0052] 図 14は、液種対応第 1電圧値 V01及び液種対応第 2電圧値 V02の組み合わせに よる所定液体識別の判定基準が温度に応じて変化することを模式的に示すグラフで ある。温度が tl, t2, t3と上昇するにつれて、所定の液体と判別される領域 AR(tl) , AR(t2) , AR(t3)が移動する。
[0053] 図 15は、マイコン 72での液種識別プロセスを示すフロー図である。
[0054] 先ず、ヒーター制御による発熱体 21a4へのパルス電圧印加の前に、マイコン内に N= lを格納し (S1)、次いでセンサー出力をサンプリングし平均初期電圧値 VIを得 る(S2)。次に、ヒーター制御を実行し、発熱体 21a4への電圧印加の開始から第 1の 時間経過時にセンサー出力をサンプリングし、平均第 1電圧値 V2を得る(S3)。次に 、 V2— VIの演算を行って、液種対応第 1電圧値 V01を得る(S4)。次に、発熱体 21 a4への電圧印加の開始力も第 2の時間経過時にセンサー出力をサンプリングし、平 均第 2電圧値 V3を得る(S5)。次に、 V3— VIの演算を行って、液種対応第 2電圧値 V02を得る(S6)。
[0055] 次に、被測定液体にっ ヽて得た温度値 tを参照して、液種対応第 1電圧値 V01が 当該温度での所定範囲内にあり且つ液種対応第 2電圧値 V02が当該温度での所定 範囲内にあるという条件が満たされるカゝ否かを判断する(S7)。 S7において液種対応
第 1電圧値 V01及び液種対応第 2電圧値 V02のうちの少なくとも一方がそれぞれの 所定範囲内にない (NO)と判断された場合には、上記格納値 Nが 3である力否かを 判断する(S8)。 S8にお 、て Nが 3ではな 、 [即ち現測定ルーチンが 3回目ではな ヽ (具体的には 1回目または 2回目である) ] (NO)と判断された場合には、続いて格納 値 Nを 1だけ増加させ(S9)、 S2へと戻る。一方、 S8において Nが 3である [即ち現測 定ルーチンが 3回目である] (YES)と判断された場合には、被測定流体が所定のも のではないと判定する(S10)。
[0056] 一方、 S7において液種対応第 1電圧値 V01及び液種対応第 2電圧値 V02の双方 がそれぞれの所定範囲内にある (YES)と判断された場合には、被測定流体が所定 のものであると判定する(S11)。
[0057] 本実施形態においては、 S11に続いて、尿素水溶液の尿素濃度を算出する(S 12 )。この濃度算出は、液温検知部 22の出力即ち被測定液体について得た温度値 tと 、液種対応第 1電圧値 V01と、図 11の第 1の検量線とに基づき、上記式(1)を用いて 行うことができる。或いは、濃度算出は、液温検知部 22の出力即ち被測定液体につ いて得た温度値 tと、液種対応第 2電圧値 V02と、図 12の第 2の検量線とに基づき、 上記式(2)を用いて行うこともできる。
[0058] 以上のようにして液種の識別を正確に且つ迅速に行うことができる。この液種識別 のルーチンは、自動車のエンジン始動時に、或いは定期的に、或いは運転者または 自動車 (後述の ECU)側力もの要求時に、或いは自動車のキー OFF時等に、適宜 実行することができ、所望の様式にて尿素タンク内の液体が所定の尿素濃度の尿素 水溶液であるか否かを監視することができる。このようにして得られた液種を示す信 号 (所定のものである力否力 更には所定のもの [所定の尿素濃度の尿素水溶液]で ある場合の尿素濃度を示す信号)が不図示の DZA変換器を介して、図 7に示される 出力バッファ回路 76へと出力され、ここ力もアナログ出力として不図示の自動車のェ ンジンの燃焼制御などを行うメインコンピュータ (ECU)へと出力される。液温対応の アナログ出力電圧値もメインコンピュータ (ECU)へと出力される。一方、液種を示す 信号は、必要に応じてデジタル出力として取り出して、表示、警報その他の動作を行 う機器へと入力することができる。
[0059] 更に、液温検知部 22から入力される液温対応出力値 Tに基づき、尿素水溶液が凍 結する温度(一 13°C程度)の近くまで温度低下したことが検知された場合に警告を発 するよう〖こすることがでさる。
[0060] なお、以上の液種識別は、自然対流を利用しており、尿素水溶液等の被測定液体 の動粘度とセンサー出力とが相関関係を有するという原理を利用している。このような 液種識別の精度を高めるためには、液種検知部用フィン 21c及び液温検知部用フィ ン 22cの周囲の被測定液体にできるだけ外的要因に基づく強制流動が生じにくくす るのが好ましぐこの点力もカバー部材 2dとくに上下方向の被測定液体導入路を形 成するようにしたものの使用は好ましい。尚、カバー部材 2dは、異物の接触を防止す る保護部材としても機能する。
[0061] 以上の実施形態では所定の流体として所定の尿素濃度の尿素水溶液が用いられ ているが、本発明では、所定の液体は溶質として尿素以外を用いた水溶液その他の 液体であってもよい。