ケージ状配位子を有する多核金属錯体
技術分野
[0001] 本発明は、ケージ状ィ匕合物を配位子とする三核以上の多核金属錯体およびその 製造方法に関する。
本出願は、 2004年 3月 30日に出願された日本国特許出願第 2004— 099164号 に基づく優先権を主張し、その出願の全ての内容はこの明細書中に参照により援用 されている。
背景技術
[0002] 一分子中に複数個の金属中心を有する多核金属錯体が知られている。このような 多核金属錯体には、多核ィ匕のメリットとして、多様な酸化状態をとり得ること、共鳴によ る電子状態の安定化、活性部位の増加による協同効果、等のうち一または二以上が 期待される。したがって、このような錯体は、例えば、種々の化合物の合成反応、酸 化還元反応等において有用な材料となり得る。また、このような錯体を構成する配位 子となり得る化合物も、該錯体と同様に有用なものとなり得る。
米国特許第 5114688号明細書には、大環状および大ニ環式の二核 (binuclear) 金属錯体が記載されている。しかし、三核以上の金属錯体およびその製造方法につ いての記載はない。
[0003] そこで本発明は、分子内の複数箇所 (典型的には三箇所以上)に配位空間を形成 し得るケージ状ィ匕合物を配位子とする、三核以上の多核金属錯体を提供することを 一つの目的とする。本発明の他の一つの目的は、力かる錯体の好適な製造方法を 提供することである。さらに他の目的は、上記錯体を形成する配位子として適したケ 一ジ状ィ匕合物を提供することである。
発明の開示
[0004] 本発明によると、三核以上の多核金属錯体 (以下、特記しない場合には、「多核錯 体」とは三核以上の錯体を指す。すなわち二核錯体を含まない。)であって、分子構 造中に下記一般式 (I)で表される n個(n≥ 3)のブリッジ部と二つのコア部とを含む化
合物を配位子とする多核金属錯体が提供される。上記化合物は、これら二つのコア 部が前記各ブリッジ部を介して連結されたケージ状 (かご状)の構造を有する。典型 的には、下記式 (I)中の A1および A2のうち一方が第一のコア部に結合し、他方が第 二のコア部に結合することによって、前記二つのコア部(第一のコア部と第二のコア 部)が互いに連結されている。
[0005] [化 1]
[0006] 上記式(I)中の A1および A2は、それぞれ— R2 = N または— R3— NR4 で表され るいずれかの基であり得る。典型的には、これらの基における R2または R3が上記式 (I )中のピリジン環の 2位または 6位に結合しており、窒素 (N)がー方または他方のコア 部に結合している。
[0007] 上記 R2は、炭素数 1〜3の炭化水素基であり得る。力かる炭化水素基の典型例とし ては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基が挙げられる。これら の基に含まれる一または二以上の水素が置換 (例えば、メチル基、ハロゲン等により 置換)された基であってもよ 、。 R2カ チレン基であるものが特に好まし!/、。
また、上記 R3は、炭素数 1〜3の炭化水素基であり得る。力かる炭化水素基の典型 例としては、 CH =、 -CH CH =、 一 CH CH CH =が挙げられる。これらの基に
2 2 2
含まれる一または二以上の水素が置換 (例えば、メチル基、ハロゲン等により置換)さ れた基であつてもよい。 R3が— CH =であるものが特に好ま U 、。
上記 R4は、水素、アルキル基およびァリール置換アルキル基力 なる群力 選択さ れるいずれかであり得る。 R4がアルキル基である場合、そのアルキル基としては炭素 数 1〜3のもの(例えばメチル基)が好ましい。 R4がァリール置換アルキル基である場 合には、炭素数 1〜3のアルキル基がァリール基によって一置換されたものが好まし い。そのようなァリール置換アルキル基の典型例としてはべンジル基が挙げられる。 R
4が水素である(すなわち、ブリッジ部が二級アミンを有する)ことが好ましい。
[0008] 各ブリッジ部に含まれる A1と A2とは同一でもよく異なっていてもよい。上記化合物の 製造 (合成)が容易であること、該化合物がより高い対称性を有するものとなりやすい こと等から、 A1と A2とが同一であることが好ましい。
[0009] また、上記式 (I)中の R1は、それぞれ、水素、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、 ハロゲン、シァノ基、アミノ基、アルキルアミノ基 (典型的には、炭素数 1〜3のアルキ ル基で置換されたァミノ基)およびァリール基 (例えばフ -ル基)力 なる群力 選 択されるいずれかであり得る。 R2がアルキル基である場合、そのアルキル基としては 炭素数 1〜3のもの(例えばメチル基)が好ましい。 R1がアルコキシ基である場合、そ のアルコキシ基としては炭素数 1〜3のもの(例えばメトキシ基)が好ましい。 R1がハロ ゲンである場合、そのハロゲンとしては塩素(C1)または臭素(Br)が好まし 、。
[0010] 各ピリジン環に結合する三つの R1は同一でもよく異なってもよい。これらの R1がいず れも水素であることが好ましい。また、三つの R1のうち二つが水素であり、他の一つが 水素以外の基 (置換基)であってもよ 、。三つの R1のうち一つが置換基である場合、 該置換基はピリジン環の 4位に結合して 、ることが好ま U、。ピリジン環の窒素と 6位 の炭素を結ぶ線に対して実質的に線対称となり得るブリッジ部が好ましい。
[0011] この化合物一分子には n個 (n≥3)のブリッジ部が含まれる。これらのブリッジ部は 同一でもよく異なっていてもよい。上記化合物の製造 (合成)が容易であること、該化 合物がより高い対称性を有するものとなりやすいこと等から、この化合物に含まれるブ リッジ部の全てが同一または実質的に同一の構造であることが好ましい。
[0012] 上記化合物に含まれるブリッジ部は、単独でまたは協同して、金属(特に遷移金属 )の配位に適した一または二以上の場 (配位空間)を構成し得る。典型的には、上記 化合物一分子によって、該化合物の有するブリッジ部の数に対応した数 (n個)また はそれ以上の数の配位空間が形成される。ブリッジ部の数と同数の配位空間を形成 する化合物が好ましい。好ましい態様では、そのような配位空間の少なくとも一つ (好 ましくは二つ以上、典型的には三つ以上)力 ブリッジ部およびコア部により形成され たケージ状構造の内方に形成される。カゝかるケージ状の配位空間に配位した金属は 安定に保持され得る。したがって、ここで開示される化合物は、該化合物を配位子と
して、安定性の高い (例えば、酸性条件に対してより安定な)金属錯体を構成し得る。 好適な態様では、三核以上 (例えば三核)の金属中心を有する多核金属錯体 (すな わち、本発明に係る三核以上の多核金属錯体)を構成し得る。また、この化合物自体 も、ケージ状の構成を有すること等力も安定性の高いものとなり得る。
[0013] ここで開示される発明の好適な態様では、前記式 (I)における A1および A2が 、ずれ も— CH=N—である。このような化合物 (ィミン型のブリッジ部を有するケージ状ィ匕合 物)は、該化合物の有する一つのピリジン窒素と一または二以上のィミン窒素とによつ て、金属の配位が可能な一または二以上 (好ましくは三以上)の配位空間を構成し得 る。好ましい一つの態様では、各ブリッジ部の有する一つのピリジン窒素と一または 二以上のィミン窒素とによって、該ブリッジ部毎に、金属の配位が可能な少なくとも一 つ(典型的には一つ)の配位空間を構成し得る。これにより、分子全体として、ブリツ ジ部の数 nと同数またはそれ以上の配位空間を構成し得る。
[0014] 他の好適な態様では、前記式 (I)における A1および A2が!、ずれも CH— NH—
2 である。このような化合物(ァミン型のブリッジ部を有するケージ状ィ匕合物)は、該化合 物の有する一つのピリジン窒素と一または二以上の二級アミン窒素とによって、金属 の配位が可能な一または二以上 (好ましくは三以上)の配位空間を構成し得る。好ま し 、一つの態様では、各ブリッジ部の有する一つのピリジン窒素と一または二以上の ィミン窒素とによって、該ブリッジ部毎に、金属の配位が可能な少なくとも一つ(典型 的には一つ)の配位空間を構成し得る。これにより、分子全体として、ブリッジ部の数 nと同数またはそれ以上の配位空間を構成し得る。なお、ァミン型のブリッジ部はイミ ン型のブリッジ部に比べて柔軟なものとなり得る。
[0015] 上記化合物を構成するブリッジ部の数 (n)は 3以上 (典型的には、 nが 3〜6)であり 得る。ここに開示される多核金属錯体の配位子として特に好ましいィ匕合物は、一分子 中に三つのブリッジ部を有する化合物(すなわち n= 3である化合物)である。ここで 開示される多核金属錯体の好適な態様では、これら三つのブリッジ部の構造が同一 または実質的に同一である。また、各ブリッジ部がピリジン環の窒素と 6位の炭素とを 結ぶ線に対して実質的に線対称である。
[0016] ここに開示される多核金属錯体の配位子は、 n個のブリッジ部の一端が共通的に結
合 (連結)し得る構造のコア部を有することが好ましい。例えば、一つの窒素に結合し た三つのアルキル基のそれぞれに各ブリッジ部の一端が結合し得る構造(トリアルキ ルァミン型)、一つの炭素に結合した四つのアルキル基のそれぞれに各ブリッジ部の 一端が結合し得る構造 (テトラアルキルメタン型)、ベンゼン環を構成する炭素のうち n 個に各ブリッジ部の一端がそれぞれ結合し得る構造 (ベンゼン型)、ベンゼン環に結 合した n個の置換基に各ブリッジ部の一端がそれぞれ結合し得る構造 (置換ベンゼン 型)等の構造を有するコア部であり得る。また、コア部が単一の原子 (例えば窒素、炭 素等)により構成されていてもよい。ブリッジ部の数 (n)に対応した n回対称の構造を 有する(n回対称軸を有する)コア部が好まし 、。
[0017] ここに開示される多核金属錯体にとり好適なコア部の一例として、下記一般式 (II) で表されるものが挙げられる。下記式 (II)で表される二つのコア部(第一のコア部およ び第二のコア部)と、上記式 (I)で表される三つのブリッジ部とを有する化合物が好ま しい。典型的には、それら三つのブリッジ部の A1または A2の一端が第一のコア部の A 3, A4および A5にそれぞれ結合し、 A1または A2の他端が第二のコア部の A3, A4およ び A5にそれぞれ結合して 、る。このようにして第一のコア部と第二のコア部とが三箇 所で連結されている。
[0018] [化 2]
上記式 (Π)中の A
3, A
4および A
5は、それぞれ炭素数 1〜3のアルキレン基であり得 る。例えば、それぞれメチレン基、エチレン基およびプロピレン基のいずれかであり得 る。また、これらの基に含まれる一または二以上の水素が置換 (例えば、メチル基、ハ ロゲン等により置換)された基であってもよい。これらのうち好ましいものとしてメチレン
基が挙げられる。 A
3, A
4および A
5は互いに同一であっても異なっていてもよい。 A
3, A
4および A
5が同一であることが好ましぐいずれもメチレン基であることが特に好まし い。
[0020] また、 R5, R6および R7は、それぞれ水素、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、ハロ ゲン、シァノ基、アミノ基、アルキルアミノ基およびァリール基力 なる群力 選択され るいずれかであり得る。アルキル基としては炭素数 1〜3のもの(例えばメチル基)が 好ましい。アルコキシ基としては炭素数 1〜3のもの(例えばメトキシ基)が好ましい。 ハロゲンとしては塩素(C1)または臭素(Br)が好ましい。置換アミノ基としては、炭素 数 1〜3のアルキル基で一置換または二置換されたァミノ基が好ましい。 R5, R6およ び R7は、互いに同一であっても異なってもよい。より対称性の高い化合物を構成し得 ること等から、 R5, R6および R7が全て同一または実質的に同一であることが好ましい。 この場合、 R5, R6および R7がいずれも炭素数 1〜3のアルキル基カゝら選択される同一 の基 (例えばメチル基)である力、あるいは R5, R6および R7がいずれも水素であること が好ましい。また、上記化合物を効率よ 例えば高収率で)合成し得るという観点か らは、上記式 (II)における R5, R6および R7のうち少なくとも一つ (好ましくは二つ以上 、より好ましくは全て)がアルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、シァノ基、ァ ミノ基、アルキルアミノ基およびァリール基力 なる群力 選択される 、ずれかである コア部が好ましい。例えば、 R5, R6および R7がいずれも炭素数 1〜3のアルキル基か ら選択される基 (例えばメチル基)であるコア部が好ま 、。
[0021] ここで開示される多核金属錯体の配位子として好適な化合物は、ブリッジ部の数 (n )に対応した n回対称軸を有するケージ状の化合物である。典型的には、この化合物 力 Sコア部を軸として n回対称の構造を有する。 nが 3である化合物が特に好ましい。三 回対称軸を有する二つのコア部が三つの同一のブリッジ部によって連結されたィ匕合 物は、三回対称軸を有するケージ状ィ匕合物の好適な一例である。三回対称軸を有 するコア部の好ましい一例としては、上記式 (Π)における A3, A4および A5がいずれも メチレン基であり、 R5, R6および R7が炭素数 1〜3のアルキル基力 選択される同一 の基 (典型的にはメチル基)であるコア部が挙げられる。
[0022] また、ここで開示される多核金属錯体の配位子として好適な化合物の他の例として
、前記式 (II)における A3, A4および A5がいずれも炭素数 1〜3のアルキレン基 (特に 好ましくはメチレン基)である二つのコア部と、前記式 (I)における A1および A2がいず れも CH=N—である三つのブリッジ部とを含み、これら三つのブリッジ部を介して 前記二つのコア部が連結されているケージ状ィ匕合物が挙げられる。
[0023] さらに他の好適例として、前記式 (II)における A3, A4および A5がいずれも炭素数 1 〜3のアルキレン基 (特に好ましくはメチレン基)である二つのコア部と、前記式 (I)に おける A1および A2がいずれも— CH—NH である三つのブリッジ部とを含み、これ
2
ら三つのブリッジ部を介して前記二つのコア部が連結されているケージ状ィ匕合物が 挙げられる。
[0024] 上記式 (I)における A1および A2がいずれも CH=N である化合物は、例えば以 下に示す方法によって好適に製造 (合成)することができる。その製造方法は、ピリジ ン環の 4位および 6位にそれぞれカルボ二ル基を有する第一化合物を用意する工程 を含む。また、前記第一化合物中のカルボニル基と反応してイミノ基を生成し得る官 能基を一分子中に n個またはそれ以上 (すなわち、ブリッジ部の数と同数またはそれ 以上)有する第二化合物を用意する工程を含む。さらに、前記第一化合物と前記第 二化合物とを反応させる工程を含む。
[0025] 第一化合物の有するカルボニル基は、例えばアルデヒド基 (ホルミル基)またはケト ン基 (例えば、炭素数 1〜3のアルカノィル基)等であり得る。アルデヒド基を有する第 一化合物を好ましく用いることができる。例えば、下記一般式 (III)で示される第一化 合物を好ましく用いることができる。
[0026] [化 3]
(ΙΠ)
[0027] 上記式 (III)中の R8および R9は、それぞれ水素または炭素数 1〜3のアルキル基で
あり得る。 R8と R9とは同一であってもよく異なってもよい。より対称性の高いケージ状 化合物が得られること等から、 R8と R9とが同一または実質的に同一である第一化合 物を用いることがより好まし 、。 R8および R9カ^、ずれも水素である第一化合物を用い ることが特に好ましい。なお、上記式 (III)の R1については式 (I)と同様であるので、再 度の説明は省略する。
[0028] 一方、第二化合物の有する官能基としては、カルボニル基と反応してィミノ結合( CH=N-)を形成し得るものを適宜選択すればよい。そのような官能基の好適例とし て、アミノ基( NH )およびその塩(例えば、 -NH CI, -NH Br等のアンモ -ゥム
2 3 3
塩)が挙げられる。例えば、ベンゼン環の 2, 4, 6位にそれぞれ—R9NHまたは—R9
2
NH Xを有する第二化合物を好ましく使用することができる。ここで、 R9は炭素数 1〜
3
3のアルキレン基 (好ましくはメチレン基)であり、 Xはハロゲン (好ましくは塩素または 臭素)である。このような官能基を n個またはそれ以上 (典型的には n個)有する第二 化合物を好ましく使用することができる。
[0029] また、上記式 (I)における A1および A2がいずれも CH—NH である化合物は、
2
例えば以下に示す方法によって好適に製造 (合成)することができる。その製造方法 は、上記式 (I)における A1および A2がいずれも CH=N である化合物を用意す る工程を含む。また、該化合物のイミノ基を還元する工程を含む。ここで、上記式 (I) における A1および A2がいずれも CH=N である化合物を用意する工程は、例え ば、該化合物を上述の方法により製造 (合成)する工程であり得る。また、該化合物を 他の方法により製造 (合成)する工程であってもよ 、。
[0030] ここに開示される多核金属錯体は、典型的には、上記ケージ状化合物 (配位子)の ブリッジ部の数 (n)に対して 3個〜 n個の金属中心を有する。すなわち、三核〜 n核の 金属錯体である。合成の容易性、有用性、安定性等の観点から、ブリッジ部の数と同 数 (すなわち n個)の金属中心を有する n核金属錯体が特に好ましい。かかる錯体の 好適例として、二つのコア部と三つのブリッジ部とを有するケージ状ィ匕合物を配位子 とする三核金属錯体が挙げられる。
[0031] ここに開示される錯体の各金属中心を構成する金属は、それぞれ、アルカリ土類金 属元素(Mg, Ca, Srおよび Baを指す。)、遷移金属元素(ここでは周期表の 3〜12
族に属する元素をいう。すなわち、 Zn, Cdおよび Hgを含む。)からなる群から選択さ れる一種または二種以上であり得る。該金属が遷移金属元素力 選択される一種ま たは二種以上であることが好ま U、。金属中心を構成する金属が 、ずれも同じ金属 であることがより好ましい。
ここで開示される錯体の一つの好適例では、該金属中心を構成する金属がいずれ も第一遷移系列元素(Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cuおよび Znを指す。)および 第二遷移系列元素(Zr, Nb, Mo, Tc, Ru, Rh, Pd, Agおよび Cdを指す。)から選 択される一種または二種以上である。該金属が!/、ずれも第一遷移系列元素から選択 される一種または二種以上である(例えば、該金属がいずれも Cu, Ni, Mnおよび F eからなる群力も選択される 、ずれかである)多核金属錯体が好ま ΙΛ、。該金属が!/、 ずれも銅 (Cu)である多核銅錯体がさらに好ま 、。三つのブリッジ部を有する三核 銅錯体が特に好ましい。
ここに開示される多核金属錯体の一つの好ましい態様では、該錯体の各金属中心 を構成する金属原子のうち少なくとも一つ (より好ましくは二つ以上、さらに好ましくは 全て)の金属原子が還元状態にある。ここで「還元状態」とは、該金属原子の酸化数 が大気中における安定な酸ィ匕数よりも小さい状態にあることをいう。例えば、 Cu, Ni 等のように酸ィ匕数 2で安定な金属原子については、酸化数 1のときは還元状態にある といえる。また Fe, Mn等のように酸ィ匕数 3で安定な金属原子については、酸化数が 1または 2のときは還元状態にあるといえる。好ましい一つの態様では、該錯体の各 金属中心を構成する金属原子のうち少なくとも一つ (より好ましくは二つ以上、さらに 好ましくは全て)の金属原子の酸ィ匕数が 1である。このように中心金属の少なくとも一 つが還元状態にある(例えば、酸ィ匕数が 1である)金属錯体は、酸素(例えば酸素分 子 (O ) )と結合する能力 (換言すれば、酸素を捕捉して酸素錯体を形成する能力)に
2
優れたものであり得る。したがって酸素結合剤の有効成分として適している。ここで酸 素結合剤とは、酸素 (例えば酸素分子 (O ) )と結合する機能を有する材料をいう。か
2
かる酸素結合剤は、例えば、酸素吸収剤、脱酸素剤等として有用なものとなり得る。 本発明によると、上述したいずれかの多核金属錯体であって、その金属中心を構成 する金属のうち少なくとも一つ(より好ましくは二つ以上、さらに好ましくは全て)が還
元状態にある (典型的には、酸ィ匕数が 1である)多核金属錯体を有効成分として含む 酸素結合剤が提供される。また、このように酸素錯体を形成する能力に優れた多核 金属錯体は、該酸素錯体を経由して種々の化学反応 (典型的には酸化反応または 還元反応)を促進する触媒として機能し得る。金属中心を構成する金属がいずれも c u, Ni, Mnおよび Feからなる群力 選択されるいずれ力 (例えば Cu)である多核 (例 えば三核)金属錯体は、酸素結合剤の有効成分または触媒 (例えば酸化触媒)として 特に適している。例えば、中心金属を構成する金属がいずれも一価の Cuである三核 銅錯体が好適である。
[0033] ここに開示される多核金属錯体の他の一つの好ましい態様では、該錯体の各金属 中心を構成する金属原子のうち少なくとも一つ (より好ましくは二つ以上、さらに好ま しくは全て)の金属原子の酸ィ匕数が 2である。このような金属錯体は、炭酸 (CO )と結
2 合する能力に優れたものであり得る。したがって炭酸結合剤 (炭酸 (CO )と結合する
2
機能を有する材料をいう。)の有効成分として適している。力かる炭酸結合剤は、例え ば、炭酸吸収剤、脱炭酸剤等として有用なものとなり得る。本発明によると、上述した いずれかの多核金属錯体であって、その金属中心を構成する金属のうち少なくとも 一つ(より好ましくは二つ以上、さらに好ましくは全て)の酸ィ匕数が 2である多核金属 錯体を有効成分として含む炭酸結合剤が提供される。ここに開示される一つの発明 は、カゝかる多核金属錯体に炭酸が結合して成る炭酸ィ匕錯体 -CO型錯体)であ
3 3
る。このような炭酸化錯体は、他の化合物に炭酸を供給する炭酸供給剤 (炭酸転移 剤)の有効成分として機能し得る。また、このように炭酸化錯体を形成する能力に優 れた多核金属錯体またはその炭酸化錯体は、該錯体を経由して種々の化学反応( 典型的には、分子間での炭酸の移動を伴う化学反応)を促進する触媒として機能し 得る。このような炭酸錯体を形成する多核金属錯体の好適例として、例えば、金属中 心がいずれも Cuである多核 (典型的には三核)銅錯体、金属中心がいずれも Znであ る多核 (典型的には三核)亜鉛錯体が挙げられる。
[0034] ここに開示される多核金属錯体は、例えば、上述したいずれかのケージ状ィ匕合物と 金属イオンを含む溶液とを混合することによって合成することができる。該溶液として は、例えば、適当な溶媒と、該溶媒に溶解して溶液中に金属イオンを供給する金属
化合物 (典型的には金属塩)を含むものを使用することができる。該金属化合物とし ては、該金属のハロゲン化物(例えば塩ィ匕物)、過塩素酸塩、硝酸塩、トリフルォロメ タンスルホン酸塩、へキサフルォロリン酸(PF—)塩、へキサフルォロアンチモン酸(S
6
bF―)塩、テトラフエ-ルホウ酸塩等を適宜採用することができる。 目的とする錯体中
6
における金属原子の酸化数に対応した価数の金属原子を有する金属化合物を選択 することが好ましい。溶媒としては、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、 ジクロロェタン等のハロカーボン類;ジェチルエーテル、ェチルプロピルエーテル、ジ プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(τ
HF)等の鎖状または環状のエーテル類;ァセトニトリル、プロピオ-トリル等の-トリル 類;アセトン、 2—ブタノン等の低級ケトン類;酢酸ェチル、酢酸ブチル等のエステル 類;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール類; n—へキサン、 n—ヘプタン、シクロへキサン等の(シクロ)アルカン類;等力 選択され る一種または二種以上の有機溶媒を好ましく使用することができる。
例えば、三核金属錯体 (典型的には、三核銅錯体)であって該錯体の三つの金属 中心を構成する金属のうち少なくとも一つ (好ましくは二つ以上、より好ましくは全て) の金属原子の酸化数が 1である錯体を合成する場合には、一価の金属原子を有する 金属塩 (以下、一価の金属を「金属1」と表記することがある。)とケージ状化合物とを適 当な有機溶媒中で反応させることによって、該三核金属錯体を効率よく生じさせるこ とができる。ここに開示される一つの発明は、三核金属錯体であって該錯体の三つの 金属中心を構成する金属のうち少なくとも一つ (好ましくは二つ以上、より好ましくは 全て)の金属原子の酸ィ匕数が 1である多核金属錯体の製造方法に関する。その方法 は、上記式 (I)で表される n個(n≥ 3)のブリッジ部と、二つのコア部と、を含み、これら 二つのコア部が前記各ブリッジ部を介して連結されているケージ状ィ匕合物を用意す ること;および、そのケージ状化合物と一価の金属イオンとを有機溶媒中で反応させ ること;を包含する。
上記方法に使用する有機溶媒としては非プロトン性の溶媒が好ましい。例えば、上 述したハロカーボン類およびエーテル類力 選択される一種または二種以上の溶媒 を好ましく使用することができる。また、金属1塩の解離を助けるために、該金属1塩を
例えば-トリル類に溶解させた溶液を、より極性の低い溶媒 (例えば、上述したハロカ 一ボン類およびエーテル類力 選択される一種または二種以上の溶媒)に溶解させ たケージ状ィ匕合物と混合してもよい。力かる三核金属1錯体の合成は、水分の混入を 防いだ条件で行うことが好ましい。例えば、水分含有量が凡そ lppm以下の有機溶 媒中で金属1塩とケージ状ィ匕合物とを反応させることが好ましい。また、該反応は嫌気 性条件下で行うことが適当である。例えば、酸素ガスの濃度が凡そ lppm以下の不 活性ガス (アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気下で行うことが好まし 、。
[0036] また、本発明によると、分子構造中に上記式 (I)で表される n個(n≥ 3)のブリッジ部 と上記式 (II)で表される二つのコア部とを含む化合物(ケージ状化合物)と金属ィォ ンとを有機溶媒中で反応させて成る、三核以上の多核金属錯体が提供される。かか る金属錯体の好ましい態様 (例えば、好ましいケージ状ィ匕合物の構造、好ましい中心 金属およびその酸ィヒ数、好ましく使用される有機溶媒等)については上記と同様であ るので、再度の説明は省略する。
力かる多核 (典型的には三核)金属錯体の一好適例では、該錯体の各金属中心を 構成する金属のうち少なくとも一つ (好ましくは二つ以上、より好ましくは全て)の金属 原子が還元状態にある (例えば、該金属原子の酸ィ匕数が 1である)。上記ケージ状化 合物と一価の金属イオンとを有機溶媒中で反応させて成る多核金属錯体であって、 該錯体の各金属中心を構成する金属のうち少なくとも一つの金属原子の酸ィ匕数が 1 である錯体が好ましい。
[0037] また、本発明によると、上記一般式 (I)で表される n個(n≥ 3、典型的には n= 3)の ブリッジ部と、上記一般式 (II)で表される二つのコア部とを含み、これら二つのコア部 が前記各ブリッジ部を介して連結されて 、るケージ状ィ匕合物が提供される。かかるケ 一ジ状ィ匕合物の好ましい態様 (例えば、ブリッジ部およびコア部の構造)については 上記と同様であるので、再度の説明は省略する。 このようなケージ状ィ匕合物は、プリ ッジ部の数 (n)に対して 2個〜 n個の金属中心を有する金属錯体 (すなわち二核〜 n 核の金属錯体)を形成するための配位子として使用し得る。特に、 3個〜 n個の金属 中心を有する金属錯体 (すなわち、三核〜 n核の金属錯体)を形成するための配位 子として好適である。
[0038] 一般に、二つのコア部が三以上のブリッジ部で連結された構造の化合物を配位子 として有する金属錯体では、一つ目の金属原子が第一のコア部の近傍で複数の (例 えば三つの)ブリッジ部に跨って配位し、二つ目の金属原子が第二のコア部の近傍 で複数のブリッジ部に跨って配位しがちである。しかし、配位子に対して一つ目およ び二つ目の金属原子がこのように配位した構造では、三つ目以降の金属原子が配 位するスペースを確保することができない。したがって、ブリッジ部の数 (例えば三つ) と同じ数の金属原子が配位した多核 (例えば三核)金属錯体を形成することはできな い。
ここに開示されるケージ状ィ匕合物は、式 (II)に示すコア部のベンゼン環に各ブリツ ジ部が共通的に結合した構造を有する。このように各ブリッジ部が剛直なリング構造( ここではベンゼン環)に結合していることにより、分子内でブリッジ部同士が不適当に 近づくことが防げられている。このことによって、一つの金属原子が複数のブリッジ部 に跨って配位することを防止し、各ブリッジ部毎に一つの金属原子を配位させること ができる。したがって、力かる構造の化合物は、ブリッジ部の数と同数またはそれ以上 (すなわち、三核またはそれ以上)の錯体を形成するための配位子として好適である
[0039] 本発明により提供されるケージ状ィ匕合物は、複数の (典型的には、三つ以上の)ケ ージ状の配位空間を形成し得ることから、二核以上 (好ましくは三核以上)の金属錯 体を構成する配位子として有用なものとなり得る。例えば、安定性の高い(例えば、酸 性条件に対してより安定な)金属錯体を構成し得る。カゝかる配位子を有する本発明の 多核金属錯体は、種々の化合物の合成反応、酸化還元反応等において有用な材料 となり得る。例えば、該錯体に対応する (すなわち、実質的に同等の状態にある)多核 金属中心を有するタンパク質の機能の一部または全部と同じ機能または類似した機 能を発揮するものとなり得る。
図面の簡単な説明
[0040] [図 1]ケージ状化合物 (L1)の合成スキームを示す説明図である。
[図 2]L1ィ匕合物の1 H— NMRスペクトルおよび各ピークの帰属を示す説明図である。
[図 3] (a)および (b)は、それぞれ、 L1化合物を互いに異なる方向からみた構造を示
す説明図である。
[図 4]L1化合物の結晶学的データを示すチャートである。
[図 5]L1化合物を配位子とする銅錯体 (錯体 1)の合成方法を示す説明図である。 圆 6]錯体 1の構造を示す説明図である。
[図 7]錯体 1の結晶学的データを示すチャートである。
圆 8]錯体 1中における Cuの状態を示す説明図である。
圆 9]ケージ状ィ匕合物 (L2)の合成スキームを示す説明図である。
[図 10]L2ィ匕合物の1 H— NMRスペクトルおよび各ピークの帰属を示す説明図である
[図 11] (a)および (b)は、それぞれ、 L2化合物を互いに異なる方向からみた構造を示 す説明図である。
[図 12]L2化合物の結晶学的データを示すチャートである。
[図 13]L2化合物を配位子とする銅錯体 (錯体 2)の合成方法を示す説明図である。 圆 14]錯体 2の構造を示す模式図である。
[図 15]錯体 2の結晶学的データを示すチャートである。
圆 16]錯体 2中における Cuの状態を示す説明図である。
[図 17]L2化合物を配位子とする銅錯体 (錯体 3)の合成方法を示す説明図である。 圆 18]錯体 3の構造を示す模式図である。
[図 19]錯体 3の結晶学的データを示すチャートである。
圆 20]錯体 3中における Cuの状態を示す説明図である。
圆 21]L2化合物を配位子とする亜鉛錯体 (錯体 4)の合成方法を示す説明図である 発明を実施するための最良の形態
以下、本発明に関する具体的な実験例につき説明するが、本発明をかかる具体例 に示すものに限定することを意図したものではない。また、本明細書において特に言 及している内容以外の技術的事項であって本発明の実施に必要な事項は、従来技 術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書および図面 によって開示されている技術内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施す
ることがでさる。
[0042] <実験例 1:ケージ状化合物 (L1)の合成 >
図 1に示す合成スキームによりケージ状ィ匕合物 (L1)を合成した。
すなわち、 2, 4, 6—トリス(プロモメチル)メシチレン 2. OOOg (5. 01 X 10— ol)お よびアジ化ナトリウム 1. 142g (l . 75 X 10— 2mol)を、脱水ジメチルホルムアミド(DM F) 50mlに溶解した。この溶液を 50°Cで攪拌しつつ、薄層クロマトグラフィ (TLC)に より反応の進行(目的物の生成)を確認した。 TLCの展開溶媒としてはへキサン:酢 酸ェチル =4 : 1 (体積比)を用いた。その後、反応液を冷却し、得られた白色沈殿を 回収した。これをエタノールに溶解させて再結晶を行い、 2, 4, 6—トリス (アジドメチ ル)メシチレンの無色針状結晶を得た。
[0043] 得られた 2, 4, 6—トリス(アジドメチル)メシチレン 1. 000g (3. 50 X 10— 3mol)をェ タノール 100mlに溶解し、触媒としての酸ィ匕白金(PtO )をカ卩えて、水素添加装置に
2
より接触水素還元を行った。反応後、濾過により酸化白金を除去して反応液を減圧 濃縮し、 0. 1Nの HC1を加えてさらに減圧濃縮して粗結晶を得た。これをメタノールに 溶解させ、ジェチルエーテルを添加することにより、 2, 4, 6—トリス(アミノメチル)メシ チレントリヒドロクロライドの無色結晶を得た。
[0044] 得られた 2, 4, 6—トリス(アミノメチル)メシチレントリヒドロクロライド 0. 500g (l. 58
X 10— 3mol)をメタノール 300mlに溶解し、トリェチルァミン 720 1 (3. 3当量)を加え た。この溶液に 2, 6—ピリジンジカルボキシアルデヒド 0. 320g (2. 37 X 10— 3mol)を 含むメタノール溶液 100mlをゆっくりと滴下したところ、白色沈殿が析出した。これを ジクロロメタンに溶解させ、ジェチルエーテルを加えて再結晶を行い、無色針状結晶 を得た。
[0045] このようにして得られたサンプルにっき、元素分析および1 H— NMR ^ベクトルの測 定を行った。 CDC1溶媒を用いた1 H— NMRスペクトルにおける各プロトンのケミカル
3
シフト δ (ppm, TMS標準)の値は次のとおりであった。
δ (ppm) = 2. 109 (s, 18H, CH ) , 5. 128 (s, 12H, NCH ) , 7. 784 (dd, 3H
3 2
, J = 7. 8Hz, py) , 8. 015 (s, 6H, NCH) , 8. 166 (d, 6H, J = 7. 8Hz, py)。 この
1 H— NMR ^ベクトルおよび各ピークの帰属を図 2に示す。
また、このサンプルの IR ^ベクトル測定を行ったところ、イミノ基(C = N)の存在を示 唆する IR吸収が 1645cm
1に観察された。また、元素分析の結果、 C, H, Nの各元
ヽた。
[0046] 以上より、このサンプルが図 1中に L1で示すィ匕合物(以下、「L1ィ匕合物」ということも ある。)であることを確認した。また、上記サンプル (結晶)を用いて X線結晶構造解析 等を行ったところ、この L1化合物は図 3 (a) , (b)に示すような構造 (水素は省略して 示している。)を有することが判った。ここで、図 3 (a)は二つのコア部が左右に位置す る方向から L1化合物を見た構造を示しており、図 3 (b)は二つのコア部が斜め前方 および後方に位置する方向から L1化合物を見た構造を示している。また、この L1ィ匕 合物の結晶学的データを図 4に示す。
[0047] 本実験例により得られた L1ィ匕合物は、一般式 (II)における A3, A4および A5が 、ず れもメチレン基であり R5, R6および R7がいずれもメチル基である二つのコア部と、式 (I )における A1および A2がいずれも一 CH = N—である三つのブリッジ部とを有し(すな わち n= 3である。)、各ブリッジ部が一方のコア部のメチレン基と他方のコア部のメチ レン基とを連結している化合物に相当する。これら二つのコア部(三回対称軸を有す る。)および三つのブリッジ部によってケージ状の構造が形成されている。この L1ィ匕 合物は、コア部の周囲に三回対称軸を有する C3対称型の化合物である。各ブリッジ 部は、ピリジン環の窒素と 6位の炭素とを結ぶ線に対して線対称である。
なお、本実験例における L1化合物の収率は 95%以上であった。
[0048] <実験例 2: L1化合物を配位子とする三核銅錯体 (錯体 1)の合成 >
アルゴン雰囲気下において、 L1化合物 50. 0mg (7. 02 X 10— 5mol)を含むジクロ ロメタン(CH C1 )溶液 10mlに、 CuClを 20. 9mg (2. 11 X 10— 4mol、すなわち L1化
2 2
合物のモル数に対して約 3倍量)含むァセトニトリル (CH CN)溶液 2mlを滴下して放
3
置した。その後、析出物を再結晶等により精製して赤紫色の結晶を得た (図 5参照)。
[0049] 得られた結晶を用いて X線結晶構造解析等を行ったところ、この結晶は図 6に示す ような構造 (水素は省略して示している。)を有する三核銅錯体 [Cu (LI) (C1) ] (以
3 3 下、これを「錯体 1」ということもある。)であることが判った。その結晶学的データを図 7 に示す。なお、図 6には銅原子の disorderにより「Cu4」が表れている力 個々の錯体
分子は三核であることを確認した。
[0050] 上記解析等の結果によれば、錯体 1を構成する三つの Cuは、それぞれピリジン窒 素、ィミン窒素および二つの塩素が配位した四面体 (tetrahedral)構造をとつて 、た。 また、図 8に示すように、この錯体 1を構成する三つの Cuは互いに塩素により架橋( μ—C1架橋)していた。図 8には、それらの Cu間の距離を併せて示している。
[0051] なお、錯体 1のジクロロメタン溶液に低温下で酸素ガスを供給して UV— VIS (紫 外-可視光)スペクトルの変化を追跡したところ、溶液の色が変化し、錯体 1を構成す る銅が一価力 二価に変化したことを支持するスペクトル変化が観測された。この結 果は、錯体 1が還元作用を示すこと (還元剤として機能し得ること)を示唆して!/、る。
[0052] <実験例 3:ケージ状化合物 (L2)の合成 >
図 9に示す合成スキームによりケージ状ィ匕合物 (L2)を合成した。
すなわち、実験例 1で得られた L1ィ匕合物 0. 500g (7. 02 X 10— 4mol)をジクロロメ タン 30ml【こ溶解し、 NaBH 0. 159g (4. 21 X 10— 3mol)のエタノーノレ溶液 20mlを
4
加えて攪拌した。目的物の生成は、クロ口ホルム:メタノール = 1: 1 (体積比)を展開 溶媒とする TLCにより確認した。反応終了後、反応液に HC1を加えて濃縮乾固した。 その乾固物を少量の水に溶解し、 pHが 9になるまで NaOHをカ卩えた。これにより生じ た白色沈殿を、抽出、再結晶等の手法により精製して無色針状結晶を得た。
[0053] このようにして得られたサンプルにっき、 iH— NMR ^ベクトルの測定を行った。 CD C1溶媒を用いた1 H—NMR ^ベクトルにおける各プロトンのケミカルシフト δ (ppm,
3
TMS標準)の値は次のとおりであった。
δ (ppm) = l. 922 (s, 6H, NH) , 2. 229 (s, 18H, CH ) , 3. 802 (s, 12H, N
3
CH ) , 3. 863 (s, 12H, NCH ) , 7. 043 (d, 6H, J = 7. 8Hz, py) , 7. 515 (dd,
2 2
3H, J = 7. 8Hz, py)。この1 H— NMRスペクトルおよび各ピークの帰属を図 10に示 す。
また、このサンプルの IR ^ベクトル測定を行ったところ、アミノ基(N— H)の存在を 示唆する IR吸収が 3319cm 1に観察された。また、元素分析の結果、 C, H, Nの各 元素の含有率は 、ずれも計算式とよく一致して!/、た。
[0054] 以上より、このサンプルが図 9中に示すィ匕合物 L2 (以下、「L2化合物」ということも
ある。)であることを確認した。また、上記サンプル (結晶)用いて X線結晶構造解析等 を行ったところ、この L2化合物は図 11 (a) , (b)に示すような構造を有することが判つ た。ここで、図 11 (a)は二つのコア部が左右に位置する方向力 L2ィ匕合物を見た構 造を示しており、図 11 (b)は二つのコア部が斜め前方および後方に位置する方向か ら L2ィ匕合物を見た構造を示している。また、この L2ィ匕合物の結晶学的データを図 1 2に示す。
[0055] 本実験例により得られた L2ィ匕合物は、一般式 (II)における A3, A4および A5が 、 ずれもメチレン基であり R5, R6および R7がいずれもメチル基である二つのコア部と、式 (I)における A1および A2がいずれも一 CH—NH—である三つのブリッジ部とを有し(
2
すなわち n= 3である。)、各ブリッジ部が一方のコア部のメチレン基と他方のコア部の メチレン基とを連結している化合物に相当する。これら二つのコア部(三回対称軸を 有する。)および三つのブリッジ部によってケージ状の構造が形成されている。この L 2化合物は、コア部の周囲に三回対称軸を有する C3対称型の化合物である。各プリ ッジ部は、ピリジン環の窒素と 6位の炭素とを結ぶ線に対して線対称である。
なお、本実験例により得られた L2化合物の収率は、 L1化合物の合成段階 (実験例 1)を含めた全体として 80%以上であった。
[0056] 上記実験例による L1化合物および L2ィ匕合物の合成において良好な収率が実現さ れたことは、これらの化合物のコア部の構造に関連していると考えられる。すなわち、 これらの化合物のコア部は、式 (II)における R5, R6および R7がいずれも炭素数 1〜3 のアルキル基(ここではメチル基)である。実験例 1では、ベンゼン環の 1, 3, 5位にそ れぞれアルキル置換基を有する構造の第二化合物(2, 4, 6—トリス (アミノメチル)メ シチレントリヒドロクロライド)と第一化合物(2, 6—ピリジンジカルボキシアルデヒド)と の反応によって L1化合物を合成している。このとき、第二化合物の有するアルキル 置換基の立体効果によって、第一化合物と第二化合物との反応 (へキサ縮合反応) が効率よく進行したものと考えられる。その結果、 L1化合物の収率が向上し、該 L1 化合物を用いて合成された L2ィ匕合物の収率も向上したものと考えられる。
[0057] <実験例 4: L2化合物を配位子とする三核銅錯体の合成 >
アルゴン雰囲気下において、 L2化合物 50. 0mg (6. 91 X 10— 5mol)を含むジクロ
ロメタン溶液 2mlに、 CuClを 20. 9mg (2. 11 X 10 mol、すなわち L2化合物のモル 数に対して約 3倍量)含むァセトニトリル溶液 2mlを滴下した。ここへジェチルエーテ ルを加えて放置した。その後、析出物を再結晶等により精製して薄黄色の結晶を得 た(図 13参照)。
[0058] 得られた結晶を用いて X線結晶構造解析等を行ったところ、この結晶は図 14に示 すような構造を有する三核銅錯体 [Cu (L2) (C1) ] (以下、これを「錯体 2」ということ
3 3
もある。)であることが判った。その結晶学的データを図 15に示す。
[0059] 上記解析等の結果によれば、錯体 2を構成する三つの Cuには、それぞれピリジン 窒素および二級アミン窒素が配位していた。そして、それらの Cuのうち二つ(図 14に 示す Culおよび Cu3)は、それぞれさらに一つの塩素が配位した三角平面 (trigonal planer)構造をとつていた。また、残る一つの Cu (図 14に示す Cu2)は、さらに二つの 塩素が配位した四面体 (tetrahedral)構造をとつていた。また、図 14および図 16に示 すように、 Cu2と Cu3とは一つの塩素(C12)により架橋していた。図 16には、各 Cu間 の距離を併せて示している。
[0060] なお、錯体 2のジクロロメタン溶液に低温下で酸素ガスを供給して UV— VISスぺ タトルの変化を追跡したところ、溶液の色が変化し、錯体 2が酸素錯体を構成してい ることを示唆するスペクトル変化が観測された。このことは、錯体 2が酸素の活性化に 寄与し得ること、したがって該錯体が酸ィ匕触媒として有効に機能し得ることを示唆して いる。
[0061] 実験例 2および実験例 4により得られた三核銅錯体 (錯体 1および錯体 2)は、三核 の銅中心を有するタンパク質の有する機能の一部または全部と同じ機能または類似 した機能を発揮するものとなり得る。例えば、 Type II銅と Type III銅を含む三核の銅 中心をもっとされるパティキュレートメタンモノォキゲナーゼ(particulate methane monooxygenase, pMMO)、三核の銅中心を有するァスコルビン酸ォキシダーゼ( Ascorbate Oxidase)の機能を模倣するものとなり得る。
[0062] <実験例 5: L2化合物を配位子とする μ — CO型三核銅錯体の合成 >
3 3
アルゴン雰囲気下において、 L2化合物 50. 0mg (6. 91 X 10— 5mol)を含むメタノ 一ノレ溶液 10mlに、 Cu" (C10 ) · 6Η Οを 76. 8mg (2. 07 X 10— 4mol、すなわち L2
化合物のモル数に対して約 3倍量)含むァセトニトリル溶液 10mlを滴下し、反応溶液 を濃縮した。これを数日間放置することによって濃青色の結晶を得た(図 17参照)。 得られた結晶を用いて X線結晶構造解析等を行ったところ、この結晶は図 18に示 すような構造を有する炭酸架橋型の三核銅錯体 [Cu" (L2) CO ) ] (C10 ) (
3 3 3 4 4 以下、これを「錯体 3」ということもある。)であることが判った。その結晶学的データを 図 19に示す。
上記解析等の結果によれば、図 18および図 20に示すように、錯体 3を構成する三 つの Cuの各々は、各ブリッジ部のピリジン窒素および二つの二級アミン窒素が配位 し、さらに COの一つの酸素が配位した平面四角形(square planar)構造をとつてい
3
た。図 20には、各 Cu間の距離を併せて示している。
[0063] <実験例 6: L2化合物を配位子とする μ — CO型三核亜鉛錯体の合成 >
3 3
アルゴン雰囲気下において、 L2化合物 50. 0mg (6. 91 X 10— 5mol)を含むメタノ 一ノレ溶液 10mlに、 Zn" (C10 ) · 6Η Οを 77· lmg (2. 07 X 10— 4mol、すなわち L2
4 2 2
化合物のモル数に対して約 3倍量)含むァセトニトリル溶液 10mlを滴下し、反応溶液 を濃縮した。これを数日間放置することによって濃青色の結晶を得た(図 21参照)。 得られた結晶を用いて X線結晶構造解析等を行ったところ、この結晶は、炭酸架橋 型の三核亜鉛錯体 [Zn (L¾ ( -CO ) ] (CIO ) (以下、これを「錯体4」ということ
3 3 3 4 4
もある。)であることが判った。
上記錯体 3および錯体 4は、他の化合物に炭酸を供給する炭酸供給剤 (炭酸転移 剤)の有効成分として利用可能である。また、炭酸化錯体を経由して種々の化学反 応 (典型的には、分子間での炭酸の移動を伴う化学反応)を促進する触媒として機能 し得る。また、上記実験例 5および 6により錯体 3および 4が形成されたことは、 L2ィ匕 合物を配位子とする三核銅錯体および三核亜鉛錯体が炭酸 (CO )と容易に結合す
2
ること、したがって炭酸吸収剤の有効成分として有用であることを示して 、る。
なお、上述した実験例中、 L1化合物または L2化合物を用いて錯体を合成する操 作は、いずれも、水分含有量 lppm以下かつ酸素ガス濃度 lppm以下のアルゴンガ ス雰囲気中で行った。
[0064] 以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の
範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した 具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合 わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせ に限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的 を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有 用性を持つものである。
なお、この明細書の全趣旨から把握されるように、ここに開示される発明には以下 のものが含まれる。
(1)二つのコア部と、
下記一般式 (I) :
[化 4]
(式中、 A1および A2は、それぞれ、 R2 = N または一 R3— NR4 で表される基で ある。ここで、 R2および R3は前記式 (I)中のピリジン環に結合している炭素数 1〜3の 炭化水素基である。 R4は、水素、アルキル基およびァリール置換アルキル基力もなる 群力 選択されるいずれかである。 R1は、それぞれ水素、アルキル基、アルコキシ基 、ニトロ基、ハロゲン、シァノ基、アミノ基、アルキルアミノ基およびァリール基力 なる 群力 選択されるいずれかである。 );
で表される n個 (n≥3)のブリッジ部とを含み、
これら各ブリッジ部を介して前記二つのコア部が連結されている、ケージ状ィ匕合物 (2)前記式 (I)における A1および A2がいずれも— CH=N—である、前記(1)に記載 の化合物,
(3)前記式 (I)における A1および A2がいずれも CH—NH である、前記(1)に記
2
載の化合物。
(4)前記コア部が、下記一般式 (II):
[化 5]
(式中、 A3, A4および A5はそれぞれ炭素数 1〜3のアルキレン基である。 R5, R6およ び R7はそれぞれ水素、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、シァノ基、アミ ノ基、アルキルアミノ基およびァリール基力 なる群力 選択されるいずれかである。 ) で表される、前記(1)から (3)の 、ずれかに記載の化合物。
(5)前記式 (Π)における A3, A4および A5がいずれもメチレン基であり、 R5, R6および R7がいずれもメチル基である、前記 (4)に記載の化合物。
(6) n回対称軸を有する、前記(1)から(5)の 、ずれかに記載の化合物。
(7)前記 nが 3である、前記(1)から(6)の 、ずれかに記載の化合物。
(8)前記 (4)に記載の式 (II)における A3, A4および A5がいずれも炭素数 1〜3のァ ルキレン基である二つのコア部と、
前記(1)に記載の式 (I)における A1および A2がいずれも CH=N である三つ のブリッジ部とを含み、
これら三つのブリッジ部を介して前記二つのコア部が連結されている、ケージ状ィ匕 合物。
(9)前記 (4)に記載の式 (II)における A3, A4および A5がいずれも炭素数 1〜3のァ ルキレン基である二つのコア部と、
前記(1)に記載の式 (I)における A1および A2がいずれも— CH— NH—である三
2
つのブリッジ部とを含み、
これら三つのブリッジ部を介して前記二つのコア部が連結されている、ケージ状ィ匕 合物。
(10)前記(2)に記載のケージ状ィ匕合物を製造する方法であって、
ピリジン環の 4位および 6位にそれぞれカルボ二ル基を有する第一化合物を用意す る工程と、
前記第一化合物中のカルボニル基と反応してイミノ基を生成し得る官能基を一分 子中に n個またはそれ以上有する第二化合物を用意する工程と、
前記第一化合物と前記第二化合物とを反応させる工程と、
を包含する、ケージ状化合物の製造方法。
(11)前記(3)に記載のケージ状ィ匕合物を製造する方法であって、
前記(2)に記載の化合物を用意する工程と、
該化合物のイミノ基を還元する工程と、
を包含するケージ状化合物の製造方法。
(12)前記(1)から(9)の 、ずれかに記載の化合物を配位子として有する、二核また は三核以上の金属錯体。
(13)前記錯体の金属中心を構成する金属が第一遷移系列元素力 選択されるい ずれかの金属である、前記(12)に記載の錯体。
(14)前記金属がいずれも銅である、前記(13)に記載の錯体。