腫瘍増殖を抑制する方法
技術分野
[0001] 本発明は、腫瘍増殖を抑制する方法に関する。
背景技術
[0002] 抗血管新生薬による腫瘍増殖の低下を示す多くの動物実験により、腫瘍の拡大に は血管新生を必要とすることが示されている(Folkman J., N Engl J Med
1971;285:1182-1186; Holmgren L. et al, Nat Med. 1995;1:149-153; Hlatky L et al., J Natl Cancer Inst. 2002;94:883-893)。血管内皮増殖因子(VEGF)は腫瘍の血 管新生の鍵となるメディエーターであり、可溶性の高親和性受容体である fins-likeチ 口シンキナーゼ -1 (FLT-1)の過剰発現による VEGF活性の阻害は、腫瘍の休眠を誘 導する(Goldman CK et al., Proc Natl Acad Sci USA. 1988;95:8795-8800; Kuo CJ et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2001 ;98:4605—4610)。これらの研究は、 VEGFに関 連するシグナル伝達が腫瘍の血管新生の標的となり得ることを示唆する。しかしなが ら、これらとは別の研究では、 FLT-1の抗腫瘍効果は、調べた各腫瘍型の VEGF発現 レベルに高度に依存していることが報告されており(Takayama K et al., Cancer Res. 2000;60:2169-2177)、抗 VEGFによる治療戦略はごく限られたものになることが示唆さ れる。従って広範囲に作用する抗腫瘍薬の開発にとって、各腫瘍型における血管新 生増殖因子の発現プロフィールによらない、共通した腫瘍血管新生の分子標的を見 つけ出すことが必要である。
非特許文献 1 : Folkman J., N Engl J Med 1971 ;285: 1182- 1186
非特許文献 2 : Holmgren L. et al., Nat Med. 1995;1:149-153
非特許文献 3 : Hlatky L et al., J Natl Cancer Inst. 2002;94:883-893
非特許文献 4 : Goldman CK et al., Proc Natl Acad Sci USA. 1988;95:8795-8800 非特許文献 5 : Kuo CJ et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2001;98:4605-4610 非特許文献 6 : Takayama K et al., Cancer Res. 2000;60:2169-2177
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0003] 本発明は、腫瘍における血管系の形成および維持を阻害し、それにより腫瘍の増 殖を抑制する方法を提供する。
課題を解決するための手段
[0004] 最近の研究により開発された新たな免疫抑制薬であるラパマイシン(RAPA)は抗血 管新生作用を持っており、腫瘍を縮退させることが示されている(Guba M et al, Nat Med. 2002;8:128-135)。臓器移植後の患者の免疫抑制治療は、腫瘍の発生および 再発のリスクを増大させるが、 RAPAの使用は、悪性腫瘍の発生の機会を減少させる と考えられてきた。培養細胞のデータから、 RAPAの抗血管新生効果は、腫瘍からの VEGF発現の減少が関与することが示唆されている力 インビボにおける正確な作用 機構は不明である。
[0005] これとは別に、本発明者らは最近、重症肢虚血の治療のための線維芽細胞増殖因 子- 2 (FGF-2)を用いた治療的血管新生において、内皮細胞(endothelial cell; EC) ではなく間葉系細胞(mesenchymal cell; MC)における血管新生に関与するポリぺプ チドの発現が必須の役割を果たすことを実証している(Masaki I et al, Circ Res. 2002;90:966-973; Onimaru M et al., Circ Res. 2002;91:723-730)o FGF- 2は、血管 系の間葉系細胞(MCs;周皮細胞(pericyte) 血管平滑筋細胞、および外膜線維芽 細胞(adventitial fibroblasts)を含む)における VEGFおよび別の血管新生因子である 肝細胞増殖因子/ scatter因子(hepatocyte growth factor/scatter factor) (HGF/SF) の局所的発現を刺激する(Onimaru M et al., Circ Res. 2002;91:723-730)。興味深 いことに、 FGF-2を介した HGF/SF発現の時間経過は二相的(W- phasic)で、初期の アップレギュレーションは新規の蛋白質合成を必要としないが、後期のアップレギユレ ーシヨンは内在性の胎盤由来増殖因子受容体 a (platelet-derived growth factor receptor- a ; PDGFR a )— p70S6キナーゼ経路により媒介.維持される(Onimaru M et al., Circ Res. 2002;91 :723-730)。
[0006] 腫瘍の拡大には、 VEGFだけでなく宿主由来の FGF-2の活性が関わっている
(Compagni A et al., Cancer Res. 2000;60:7163-7169)と予想され、また RAPAは TOR (target of rapamycin)の活性を低下させることを介した p70S6Kの特異的阻害剤
であることから、本発明者らは、 RAPAによる抗腫瘍効果は、宿主に由来するストロー マ MCにおける PDGFR a -p70S6Kシグナル伝達経路が関与しており、各々の腫瘍か らの様々な血管新生シグナルには影響されな 、と予想した。
[0007] 実際、腫瘍フリーのアツセィ系(すわなちマウスの肢虚血)を用いた実験の結果、本 発明者らは、 p70S6K阻害剤ラバマイシン(RAPA)力 間葉系細胞を標的として、 PDGFR a— p70S6K経路のサイレンシングにより血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor; VEGF)および肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor; HGF)の持続的発現を遮断することを証明した(実施例 2)。また、腫瘍を用い た評価においては、調べた各腫瘍における血管新生因子の発現プロフィールが多 様であることとは無関係に、たとえ腫瘍で VEGFの発現が亢進している場合であって も、一定して RAPAは腫瘍を休眠(dormancy)させ、時間経過と共に重度の虚血状態 に導いた(実施例 4)。 RAPAは、培養系においては、低酸素(hypoxia)に関連する VEGFの発現に対して最小限の影響し力示さな 、ことから、これらの結果は RAPAはィ ンビボにおいて、腫瘍そのものというよりも宿主の血管系(host-vasculature)を標的と していることが示唆された。すなわち本発明は、 PDGFR a -p70S6K経路は、 FGF-2を 介した治療的新血管形成に必須の調節ファクターであるのみならず、腫瘍の血管新 生における宿主由来の血管系の必須の調節ファクターであり、複数の血管増殖因子 の発現を制御していることを示した。このように本発明は、間葉系細胞における PDGFR a p70S6Kシグナル伝達経路は、悪性腫瘍の性質によらずに血管新生を阻 害することができる、共通でュビキタスな分子標的となることを証明した。
[0008] PDGFR aの生物学的役割は長 、期間議論のあるものであった。 PDGF-Aホモダイ マー(PDGF-AA)は DNA合成を誘導し NIH3T3細胞の増殖も誘導する。しかし反対 に、他の細胞では、他の試薬により誘導されたケモタキシス反応を阻害する
(Siegbahn A et al., J Clin Invest. 1990;85:916-920)。 PDGF受容体の内皮細胞にお ける発現についてはほとんど証拠がないが、 PDGF受容体リガンドは、 PDGF-AAおよ び PDGF— BBだけでなく、新規の PDGFである PDGF— CC (Li X et al, Nat Cell Biol. 2000;2:302-309)もまた、インビボで血管新生を刺激する(Nicosia RF et al., Am J Pathol. 1994;145:1023-1029; Cao R et al" FASEB J. 2002;16:1575- 1583)。これらの
ことは、他の血管新生の刺激因子も PDGF依存的血管新生の過程を媒介して 、る可 能性を示唆している。本発明は、以前の研究(Onimaru M et al., Circ Res.
2002;91:723-730)と同様に、 MCにおける VEGFおよび HGF/SFを用いた血管新生シ グナルの維持に、 PDGFR o;系が必須であることを示唆する。し力しながら、これらのリ ガンドは全て PDGFR aを活性ィ匕し、それぞれ異なる細胞応答を引き起こすことができ るため、血管新生において必須のリガンドを決定できな力つた。本発明において、 PDGFR o;リガンド中でも、特に PDGF-Aが腫瘍血管系の形成に重要な役割を果たし ていることが示された。 PDGF-Aの発現の亢進は、腫瘍の悪性度と密接に関連してお り、腫瘍細胞における PDGF-Aの発現を阻害することによって、腫瘍の増殖は劇的に 抑制された(実施例 5)。このように、 PDGF-Aの発現を抑制、あるいは PDGF-AAと PDGFR aとの結合を阻害することによって、腫瘍における血管系形成を効果的に抑 制し、腫瘍を休眠に導くことができることが明らかとなった。
[0009] 例えば、 PDGF-Aの発現を阻害する siRNAまたは siRNAを発現するベクターを腫瘍 に投与することによって、あるいは、可溶性 PDGFR αまたは PDGF-A抗体、またはそ れらを発現するベクターを腫瘍に投与することによって、腫瘍における宿主血管系の 形成および維持を阻害し、腫瘍の増殖を抑制、さらには虚血に導き、腫瘍を縮退さ せることができる。このような治療は腫瘍血管系における PDGFR a -p70S6キナーゼシ グナル伝達を特異的に阻害することができるため、優れた治療効果を示し、かつ副 作用が少ない。本発明の方法は、非常に効果的に腫瘍休眠を誘導できる新たな抗 腫瘍治療方法として極めて有用である。
[0010] すなわち本発明は、腫瘍の増殖を抑制する方法に関し、より具体的には、請求項 の各項に記載の発明に関する。なお同一の請求項を引用する請求項に記載の発明 の 1つまたは複数の組み合わせ力 なる発明は、それらの請求項に記載の発現に既 に意図されている。すなわち本発明は、
〔1〕 PDGF- Aの発現または PDGF- Aホモダイマーと PDGFR aとの結合を阻害するェ 程を含む、腫瘍の増殖を抑制する方法、
〔2〕該工程力 PDGF-Aホモダイマーまたは PDGFR o;に結合する分泌性蛋白質をコ ードするマイナス鎖 RNAウィルスベクターを腫瘍に投与する工程である、〔1〕に記載
の方法、
〔3〕該ベクターが投与された細胞を投与する、〔2〕に記載の方法、
〔4〕細胞が榭状細胞である、〔3〕に記載の方法、
[5]該分泌性蛋白質が可溶性 PDGFR aである、〔2〕から〔4〕の 、ずれかに記載の方 法、
〔6〕マイナス鎖 RNAウィルスベクターがセンダイウィルスベクターである、〔2〕から〔5〕 のいずれかに記載の方法、
〔7〕該工程が、 PDGF-A遺伝子のアンチセンス RNA、 siRNA、あるいは該アンチセン ス RNAまたは siRNAをコードするベクターを腫瘍に投与する工程である、〔1〕に記載 の方法、
〔8〕腫瘍が扁平上皮細胞癌、肝細胞癌、および腺癌力 なる群より選択される、〔1〕 から〔7〕のいずれかに記載の方法、
〔9〕 PDGF-Aの発現または PDGF-Aホモダイマーと PDGFR aとの結合を阻害する化 合物を有効成分として含む抗腫瘍剤、
〔10〕下記 (a)から(d)の 、ずれかを含む、〔9〕に記載の抗腫瘍剤、
(a) PDGF-Aホモダイマーまたは PDGFR aに結合する分泌性蛋白質、
(b) PDGF-A遺伝子または PDGFR a遺伝子のアンチセンス RNA、
(c) PDGF- A遺伝子または PDGFR a遺伝子の siRNA、
(d) (a)から(c)のいずれかをコードするベクター、
〔11〕 PDGF-Aホモダイマーまたは PDGFR aに結合する分泌性蛋白質をコードする マイナス鎖 RNAウィルスベクターを含む、〔10〕に記載の抗腫瘍剤、
〔12〕該分泌性蛋白質が可溶性 PDGFR αである、〔10〕または〔11〕に記載の抗腫瘍 剤、
〔13〕マイナス鎖 RNAウィルスベクターがセンダイウィルスベクターである、〔11〕に記 載の抗腫瘍剤、
〔14〕 PDGF-Aホモダイマーまたは PDGFR aに結合する分泌性蛋白質をコードする ベクターが導入された細胞を含む、〔10〕から〔13〕のいずれか〖こ記載の抗腫瘍剤、 〔15〕細胞が榭状細胞である、〔14〕に記載の抗腫瘍剤、
〔16〕PDGF-A遺伝子のアンチセンス RNA、 siRNA、あるいは該アンチセンス RNAまた は siRNAをコードするベクターを有効成分として含む、〔10〕に記載の抗腫瘍剤、 〔17〕腫瘍が扁平上皮細胞癌、肝細胞癌、および腺癌力 なる群より選択される、〔9〕 力も〔16〕のいずれかに記載の抗腫瘍剤、に関する。
図面の簡単な説明
[図 1]VEGF発現のアップレギュレーションにおける FGF- 2および PDGF- AAの作用機 構の解析結果を示す図である。 (A)組み換え FGF-2および PDGF-AAは協同して線 維芽細胞(MRC5)および血管平滑筋細胞(HSMC)力 の VEGF分泌を増加させる。 血清不含条件下で 48時間プレインキュベーションした後、各細胞型を FGF-2および/ または PDGF-AAで刺激した。 72時間後、培養液を ELISAに供した。各群 n=3。 * Pく 0.01。 # P〈0.05。 (B) MRC5細胞および HSMCにおける FGF- 2を介した PDGFR a mRNA発現のタイムコースのノーザンブロット解析。血清不含条件下で 48時間プレイ ンキュベーシヨンした後、各細胞型を FGF-2で刺激した。図示した時間に細胞を回収 し、ノーザンブロット解析に供した。バンドを可視化し、フォトイメージヤーを用いたデ ンシトメトリー解析に供した。 2回実験を行 ヽ類似の結果を得た。
[図 2]PDGFR a -p70S6Kは、間葉系細胞における FGF-2を介した VEGF/HGFの持続 的 /2相的発現に必須であることを示す図である。 (A) MRC5細胞の VEGFおよび HGF分泌に及ぼす、細胞内シグナル伝達経路の種々の阻害剤の効果。 1%FBS存 在下で 48時間プレインキュベーションした後、種々の阻害剤の存在下または非存在 下で、 10 ng/mlのヒト組み換え FGF-2で細胞を刺激した。 72時間後、培地を ELISAに 供した。各群 n=3。 * P〈0.01。 (B) p70S6K阻害剤であるラパマイシン(RAPA)は、 MRC5細胞の FGF-2を介した VEGF mRNA発現の後期フェーズを止める。 1%FBS存 在下で 48時間プレインキュベーションした後、 10 ng/mlのヒト組み換え FGF-2で細胞 を刺激した。図示した時間で細胞を回収し、ノーザンプロット解析を行った。バンドを 可視化し、フォトイメージヤーを用いたデンシトメトリー解析に供した。グラフは、トリプリ ケートの実験の結果を反映した VEGFの相対 mRNAレベルの定量結果を示す。 * P< 0.01。 (C) FGF-2を介した VEGF分泌の上昇は完全に PDGFR aに依存する。 1% FBS存在下で 48時間プレインキュベーションした後、抗 PDGFR α中和抗体の存在下
または非存在下で、 MRC5細胞を 10 ng/mlのヒト組み換え FGF-2で刺激した。 72時間 後、培地を ELISAに供した。 HGF発現についても類似の結果を得た(データ非提示) 。 * P〈0.01。
[図 3]PDGFR a系により媒介される VEGFおよび HGFのアップレギュレーションは、マ ウス重症肢虚血における FGF-2遺伝子導入の治療効果に必須であることを示す図で ある。 * P〈0.01。 # P〈0.05。 (Aおよび B) FGF-2遺伝子導入を行った場合と行わな!/ヽ 場合の C57BL6救肢モデルマウスにおける虚血大腿筋での PDGF-A (上パネル)お よび PDGFR o; (下パネル) mRNA相対発現の時間経過。肢虚血誘導術の直後に、 SeV-mFGF2 (107 plaque forming units: pfo)を筋肉内注射した。各時間に、大腿筋 サンプルを調製しリアルタイム PCRに供した。データは GAPDH mRNAの各レベルで 標準化し、未治療コントロールマウス力 得た結果の相対発現で示した。各群はマウ ス 4個体を含む。各時間で、コントロールウィルスベクター(SeV- luciferase)を注入し た虚血マウス 1または 2個体をコントロールマウスとした力 これらのマウスは肢虚血を 起こしたマウスで見られた結果と同様の結果を示した(データ非提示)。 (Cおよび D) FGF-2遺伝子導入に続き、抗 PDGF-AA中和抗体(プロトコルは図 4の説明を参照) または RAPA (1.5 mg/kg/day、毎日腹腔内注入)で処理した C57BL6救肢モデルマウ スにおける虚血大腿筋での VEGF (上パネル)および HGF (下パネル) mRNA相対発 現の時間経過。図 3Aの虚血群、および虚血 +FGF-2群と同じ組織サンプルを用いた 。各時間で、コントロールウィルスベクター(SeV-luciferase)を注入した虚血マウス 1ま たは 2個体をコントロールマウスとした力 虚血のみを起こしたマウスで見られた結果と 同様の結果を示した(データ非提示)。 (Eおよび F) RAPAは、マウス肢虚血救肢モ デルにおける FGF- 2を介した VEGF (パネル E)および HGF (パネル!7)蛋白質の発現 を阻害する。 day 0の前日力も RAPA (1.5 mg/kg/day,毎日)腹腔注入を開始し、 day 0で虚血術を実施した。その時に、 107 pluのコントロールウィルス (SeV-liciferase)ま たは SeV-mFGF2を筋肉内注入した。 2日後、大腿筋を ELISAに供した。 FGF-2遺伝 子導入を介して誘導された外来性 FGF-2発現は、 RAPAで処理したマウスとしな 、マ ウスで違いは見られな力つた(データ非提示)。
[図 4]肢虚血を起こした balb/c nu/nuマウス(肢脱落モデル)において、抗 PDGF- AA
中和抗体は、 RAPAと同様に、 FGF-2遺伝子導入の効果を失わせることを示す図で ある。肢の予後を 12の救肢スコアにより決定し、データを log-rank testで解析した。抗 PDGF-AA中和抗体を、デイスポーザブルの浸透圧ポンプの移入を介した腹腔への 連続放出(200 §/7日)により投与した。手術による虚血誘導の直後にも、付加的に 腹腔内へのボーラス注入(100 g)を行った。
[図 5]腫瘍増殖における RAPA処理および可溶性 PDGFR a発現の効果を示す図であ る。各腫瘍型細胞 106細胞を皮下移植して 7日後に、 RAPA (15 mg/kg/day)または 0.1 mol/Lのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の腹腔内注入を毎日、あるいは
SeV- luciferaseまたは SeV- hsPDGFR α (1 X 108 pfo/tumor)の腫瘍内注入を 1回行つ た。 * Pく 0.01。 # Pく 0.05。 (A— D) SAS (ヒトロ腔由来、口腔扁平上皮細胞癌)および MH134 (マウス肝細胞癌)における PDGF-AAを含む血管新生増殖因子のインビトロ 発現パターン、および RAPAの腫瘍抑制効果。データは、 3つの独立した実験の結果 を含み、それぞれの実験では 2-4個体のマウスを用いた。 Day 28に全体的な観察像 を撮影した。矢印は腫瘍を示す。 (Eおよび F)ヒト PDGFR aの細胞外ドメインを発現 する組み換え SeVの SASおよび MH134に対する抗腫瘍効果。細胞移植の 5日後にベ クタ一溶液 50 Lを腫瘍内注入した。ルシフェラーゼを発現する組み換え SeVをコン トロールとして用いた。
[図 6]腫瘍増殖におけるインビボおよびインビト口での血管新生増殖因子の発現に及 ぼす RAPA処理の効果を示す図である。 MH134 (A— C)および SAS (D)における腫 瘍血流と血管新生増殖因子との関係を示す。 (A)および(B)インビボにおける腫瘍 内血流の RAPAによる減少(B:パネルおよびグラフ)およびマウス VEGFの比較的高 い発現パターン(A)。同系(syngenic)の腫瘍(MH134、アスタリスク)を持つマウスへ の RAPAの注入の開始から 7日後に、ドップラー環流像を記録し、腫瘍サンプルを ELISAに供した。 Day 3の腫瘍も独立に蛋白質測定に供した(A: day 3、各群 n=4)。 day 7では、腫瘍のサイズは互いに有意差はなかった(B:アスタリスク)。 (C) hypoxia が誘導する MH 134細胞の VEGF発現に対する RAPAの効果は有意であるが最小限で あることを示す棒グラフ。血清不含の条件で 12時間培養後、新しい培地で細胞を洗 い、 normoxia (21% 0 )または hypoxia (2.5% 0 )の状態に暴露した。 48時間後、培地
を ELISAに供しマウス VEGFを測定した。 (D)ヒト腫瘍型 (SAS)を担持するマウスの 血管新生増殖因子の発現における RAPAに関連する変化。アップレギュレートされた VEGFの起源を調べるために観察した。 SAS担持マウスへの RAPA注入開始の 7日後 、腫瘍サンプルをヒトおよびマウス VEGF特異的 ELISA系に供した。
[図 7]外来的 VEGF165遺伝子からの VEGF165発現に及ぼすアンチセンスヒト PDGF-A遺伝子導入の効果を示す図である。
[図 8]腫瘍細胞からの内在性 VEGF165の発現に及ぼすアンチセンスヒト PDGF-A遺 伝子導入の効果を示す図である。
[図 9]PDGF-Aの発現を阻害した腫瘍細胞の in vivo増殖能の低下を示す図である。
[図 10]ヒト肺癌手術新鮮標本における、 PDGF- Aと VEGFの mRNA発現の相関を示す 図である。
[図 11]ヒト肺癌切除標本における PDGF-AA陽性率と患者予後の相関を示す図であ る。
発明を実施するための最良の形態
本発明は、 PDGF-Aの発現または PDGF-Aホモダイマーと PDGFR aとの結合を阻 害する工程を含む、腫瘍の増殖を抑制する方法に関する。 PDGFR aは、 PDGF-A、 - B、 -C等の PDGFファミリーのヘテロまたはホモダイマーの受容体であり細胞内チロ シンキナーゼを活性ィヒし自身および他の下流分子のリン酸化を誘導する
(Claesson- Welsh, L. (1994) Prog. Growth Factor Res. 5:37)。 PDGFR aの活性化は 、 p70S6キナーゼ(p70S6K)を介して腫瘍における血管新生を誘導する。 p70S6キナ ーゼは mRNAの翻訳にかかわるエフェクター分子であり、 PI-kinase-related kinase (PIK-RK)ファミリー蛋白質の 1つである mTORによる制御を受けている。本発明にお いて、間葉系細胞の PDGFR o;シグナル伝達経路は、損傷等による虚血における血 管再生のみならず、腫瘍の血管新生にも本質的な役割を果たしていることが判明し た。さらに、腫瘍血管新生において PDGFR aシグナル伝達経路は、各腫瘍型におけ る血管新生物質の発現パターンの多様性によらず必須であることが判明した。このよ うに、宿主由来の血管系における PDGFR a -p70S6Kシグナル伝達経路は、腫瘍休 眠を誘導するためのュビキタスな分子標的となると結論された。さらに本発明者らは、
腫瘍血管形成には、特に PDGF-Aが寄与しており、 PDGF-Aホモダイマーによる PDGFR a活性ィ匕を阻害することにより、効果的に腫瘍の血管形成を阻害することが できることを見出した。すなわち PDGF-Aの発現または PDGF-Aホモダイマーと PDGFR aとの結合を阻害することにより、腫瘍血管系の形成および維持を阻害し、 腫瘍を虚血に導き、増殖性および生存性を失わせることができる。
[0013] PDGFR a -p70S6Kシグナル伝達経路の阻害を確かめるには、例えば、 PDGFR a のリガンド(PDGF- A、 PDGF- B、 PDGF- Cなど)の発現レベルの低下、 PDGFR αの発 現レベルの低下、 PDGFR αとそのリガンドとの結合の低下、 PDGFR α活性化阻害( チロシンリン酸化レベルの低下ゃチロシンキナーゼ活性の低下)、 p70S6キナーゼの 発現または活性の低下などを指標にすることができる。すなわち、上記のような PDGFR a -p70S6Kシグナル伝達を阻害する化合物を選択することにより、抗腫瘍剤 を選択することができる。 PDGFR αやそのリガンド、あるいは p70S6キナーゼの発現が 低下するかどうかは、例えば被験化合物存在下または非存在下でこれらの蛋白質ま たはその遺伝子 (mRNA)の発現を測定し、該被験化合物存在下で有意に発現が阻 害されるかどうかで判断することができる。また、 PDGFR αとそのリガンドとの結合を阻 害するかどうかは、例えば被験化合物存在下または非存在下で PDGFR αとそのリガ ンドとを接触させ、これらの結合が該被験化合物により阻害されるかどうかで判断する ことができる。チロシンのリン酸ィ匕ゃキナーゼ活性は、例えば [ γ -32Ρ]ΑΤΡの取り込み や、抗リン酸ィ匕チ口シン抗体などにより定量が可能である。
[0014] ヒト PDGF- Α遺伝子および蛋白質の配列は、 Accession Nos. NM.002607 (protein ID NP— 002598X配列番号: 1および 2)、 NM— 033023 (protein ID NP— 148983X配列番号 : 3および 4)、 protein ID AAA60045等に示されている(Bonthron D.T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:1492—1496 (1988); Rorsman F. et al, Mol. Cell. Biol. 8:571-577 (1988); Betsholtz C. et al., Nature 320:695—699 (1986); Hoppe J. et al., FEBS Lett. 223:243-246 (1987); Takimoto Y. et al., Hiroshima J. Med. Sci.
42:47-52 (1993); Tong B.D. et al., Nature 328:619-621 (1987); Collins T. et al" Nature 328:621-624 (1987); Andersson M. et al" J. Biol. Chem. 267:11260-11266 (1992))。他の生物の PDGF- Aは、例えばラット(protein ID S25096, CAA78490)
(Herren'B. et al" Biochim. Biophys. Acta 1173, 294-302 (1993》、マウス (Accession number NM— 008808, protein ID NP— 032834, protein ID A37359; Rorsman'F. and
Betsholtz.C, Growth Factors 6, 303—313 (1992); Mercola.M. et al., Dev. Biol. 138, 114-122 (1990》、 -ヮトリ(Accession number BAB62542, protein ID AB031023;
Horiuchi'H. et al., Gene 272, 181-190 (2001》、ゥサギ (protein ID P34007;
Nakahara.K. e al" Biochem. Biophys. Res. Commun. 184, 811-818 (1992))などで知 られている。
[0015] 哺乳動物の PDGF-A遺伝子は、既に知られている PDGF-A遺伝子に関しては、上 記の PDGF-A遺伝子の配列を基に BLAST検索等により探し出すことができる
(Altschul, S. F. et al" 1990, J. Mol. Biol. 215: 403—410)。あるいは、既知の PDGF— A cDNAを基に設計したプライマーを用いた RT-PCR (実施例 5参照)により得ることも できるし、または PDGF-A cDNAをプローブにしてストリンジェントな条件におけるハイ ブリダィゼーシヨンにより、ヒト、マウス、ラット、およびその他の哺乳動物および鳥類の cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより得ることも容易である。ハイブリダィゼ ーシヨンの条件は、 PDGF-Aのコード配列を含む核酸、またはハイブリダィズの対象と する核酸のどちら力からプローブを調製し、それが他方の核酸にハイブリダィズする かを検出することにより同定することができる。ストリンジェントなノ、イブリダィゼーショ ンの条件は、例えば 5 X SSC (1 X SSCは 150 mM NaCl, 15 mM sodium citrateを含 む)、 7%(W/V) SDS、 100 μ g/ml変性サケ精子 DNA、 5 Xデンハルト液(1 Xデンハルト 溶液は 0.2%ポリビニールピロリドン、 0.2%牛血清アルブミン、および 0.2%フイコールを 含む)を含む溶液中、 48°C、好ましくは 50°C、より好ましくは 52°Cでハイブリダィゼー シヨンを行い、その後ハイブリダィゼーシヨンと同じ温度、より好ましくは 60°C、さらにこ の好ましくは 65°C、最も好ましくは 68°Cで 2 X SSC中、好ましくは 1 X SSC中、より好まし くは 0.5 X SSC中、より好ましくは 0.1 X SSC中で、振蘯しながら 2時間洗浄する条件で ある。
[0016] 哺乳動物 PDGF-Aの塩基配列またはアミノ酸配列は、一般に既知の PDGF-Aの配 列(例えば配列番号: 1一 4)と高いホモロジ一を有する配列を含んでいる。高いホモ口 ジ一とは、 70%以上、好ましくは 75%以上、より好ましくは 80%以上、より好ましくは 85
%以上、より好ましくは 90%以上、より好ましくは 95%以上の同一性を有する配列で ある。配列の同一性は、例えば BLASTプログラムにより決定することができる
(Altschul, S. F. et al" 1990, J. Mol. Biol. 215: 403-410)。具体的には、塩基配列の 同一性を決定するには blastnプログラム、アミノ酸配列の同一性を決定するには blastxプログラムを用い、例えば NCBI (National Center for Biothchnology Information )の BLASTのウェブページにおいて" Low complexity"などのフィルターの設定は全て OFFにして、デフォルトのパラメータを用いて計算を行う(Altschul, S.F. et al. (1993) Nature Genet. 3:266—272; Madden, T.L. et al. (1996) Meth. Enzymol. 266:131—141;
Altschul, S.F. et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402; Zhang, J. & Madden, T.L. (1997) Genome Res. 7:649-656)。パラメータの設定は、例えば open gapのコスト はヌクレオチドは 5で蛋白質は 11、 extend gapのコストはヌクレオチドは 2で蛋白質は 1 、 nucleotide mismatchのへナノレアィ ~~は- 3、 nucleotide matchの報酬は 1、 expect valueは 10、 wordsizeはヌクレオチドは 11で蛋白質は 2、 Dropoff (X) for blast extensions in bits ίま blastnで ίま 20で他のプログフムで ίま 7、 X dropoff value for gapped alignment (in bits)iま blastn以外で ί 15、 nnal X dropoff value for gapped alignment un bits)は blastnでは 50で他のプログラムでは 25にする。アミノ酸配列の比較において は、スコアのためのマトリックスとして BLOSUM62を用いることができる。 2つの配列の 比較を行う blast2sequencesプログラム(Tatiana A et al. (1999) FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)により、 2配列のァライメントを作成し、配列の同一性を決定することが できる。ギャップはミスマッチと同様に扱い、コーディング配列(CDS)の外側のギヤッ プは無視して、 PDGF-Aの CDS全体(例えば配列番号: 1または 3の CDS、あるいは配 列番号: 2または 4)に対する同一性の値を計算する。
また、 PDGF-Aには多型およびバリアントが存在し得る。例えばヒト PDGF-Aには、
(NM.033023)が知られている。 PDGF- Aの多型およびバリアントは、一般に 1つの PDGF-A分子種 (例えば配列番号: 1または 3の CDS、あるいは配列番号: 2または 4) の塩基配列またはアミノ酸配列において 1または複数の残基が置換、欠失、および/ または挿入された配列を含み得る。公知の PDGF-Aの配列との違いは、通常 30残基
以内、好ましくは 20残基以内、好ましくは 10残基以内、より好ましくは 5残基以内、より 好ましくは 3残基以内、より好ましくは 2残基以内である。アミノ酸の置換は、保存的置 換であってもよい。保存的に置換した蛋白質は活性が維持されやすい。保存的置換 は、例えば塩基性アミノ酸 (例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(例 えばァスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性アミノ酸(例えばグリシン、ァスパラ ギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システィン)、非極性アミノ酸(例えば ァラニン、ノ リン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フエ二ルァラニン、メチォニン、トリ ブトファン)、 β分岐アミノ酸(例えばスレオニン、パリン、イソロイシン)、および芳香族 アミノ酸(例えばチロシン、フエ-ルァラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などの各グル ープ内のアミノ酸間の置換などが挙げられる。
[0018] ヒト PDGFR a遺伝子および蛋白質の配列は、 Accession number NM.006206
(protein ID NP_006197)(配列番号: 5および 6)、 protein ID P16234等に示されている (Matsui T. et al., Science 243:800—804 (1989); Claesson— Welsh L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:4917—4921 (1989); Kawagishi J. and Ku T" Genomics 30:224-232 (1995); Strausberg R.L. et al. , Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
99: 16899-16903 (2002); Cools J. et al" N. Engl. J. Med. 348: 1201-1214 (2003); Karthikeyan S. et al. , J. Biol. Chem. 277: 18973-18978 (2002))。他の生物の PDGFR α遺伝子は、例えばマウス(Accession number NM— 011058, protein ID
NP_035188)(Hamilton,T.G. et al., Mol. Cell. Biol. 23 (11), 4013-4025 (2003);
Lih.C.J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93 (10), 4617-4622 (1996); Do.M.S. et al. , Oncogene 7 (8), 1567—1575 (1992》、ラット(Accession number XM_214030, protein ID XP_214030, P20786)(Lee,K.H. et al" Mol. Cell. Biol. 10 (5), 2237-2246 (1990); Herren.B. et al. , Biochim. Biophys. Acta 1173 (3), 294—302 (1993》、 -ヮトリ (Accession number AF188842, protein ID AAF01460; Ataliotis.P., Mech. Dev. 94 (1-2), 13-24 (2000))などで知られている。
[0019] 哺乳動物の PDGFR α遺伝子は、既に知られている PDGFR α遺伝子に関しては BLAST検索等により探し出すことができる。あるいはヒト PDGFR αの塩基配列または アミノ酸配列(配列番号: 5または 6)を基に設計したプライマーを用いた RT-PCRによ
り得ることもできるし、または既知の PDGFR a cDNAをプローブにしてストリンジェント な条件におけるハイブリダィゼーシヨンにより、ヒト、マウス、ラット、およびその他の哺 乳動物および鳥類の cDNAライブラリーをスクリーニングすることに得ることも容易であ る。ハイブリダィゼーシヨンの条件は上記の条件を用いるとよい。他生物の PDGFR a の塩基配列またはアミノ酸配列は、公知の PDGFR aの配列(例えば配列番号: 5の CDSまたは 6)と高いホモロジ一を有する配列を含んでいる。高いホモロジ一とは、 70 %以上、好ましくは 75%以上、より好ましくは 80%以上、より好ましくは 85%以上、より 好ましくは 90%以上、より好ましくは 95%以上の同一性を有する配列である。ギャップ はミスマッチと同様に扱い、 CDSの外側のギャップは無視して、 PDGFR aの CDS全体 (例えば配列番号: 5の CDSまたは配列番号: 6)に対する同一性の値を計算する。
[0020] また、 PDGFR aには多型およびバリアントが存在し得る。例えばヒト PDGFR aの多 型およびバリアントは、例えば配列番号: 5の CDSまたは配列番号: 6に記載の配列に おいて 1または複数の残基が置換、欠失、および/または挿入された配列を含むもの である。残基の違いは、通常 100残基以内であり、好ましくは 50残基以内、より好まし くは 30残基以内、より好ましくは 10残基以内、より好ましくは 5残基以内、より好ましく は 3残基以内、より好ましくは 2残基以内である。アミノ酸の置換は、保存的置換であ つてもよい。
[0021] PDGF-Aの発現を阻害するには、 PDGF-Aの転写または翻訳を阻害したり、あるい は PDGF-A mRNAまたは PDGF-A蛋白質の安定性を低下または分解を促進させるこ とにより実施することができる。典型的な方法としては、例えば、 PDGF-A遺伝子に対 して RNAi (RNA interferance; RNA干渉)効果を有する RNAを用いて PDGF- Aの発現 を抑制する方法が挙げられる。一般的に RNAiとは、標的遺伝子の mRNA配列の一部 と相同な配列力 なるセンス RNAおよびこれと相補的な配列力 なるアンチセンス RNAを含む RNAにより、標的遺伝子 mRNAの破壊が誘導され、標的遺伝子の発現が 阻害される現象を言う(Genes Dev. 2001, 15:188-200; Elbashir, SM et al. (2001) Nature 411 :494-498) 0 RNAi効果を持つ 2本鎖 RNAが細胞内に導入されると、 DICER と呼ばれる RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種が 2本鎖 RNAと接触し、 2本鎖 RNA力 mall interfering RNA (siRNA)と呼ばれる小さな断片に分解される。この siRNA
が標的 mRNAを分解し発現を抑制する。また siRNAは、このような細胞内プロセッシン グにより生成した RNAでなくても、人工的に合成または発現させた RNA分子であって も機能することができる。 siRNAにより、インビボにおいて標的遺伝子の発現を抑制す る方法が知られている(Anton P. et al., Nature Vol. 418 38-39 2002; David L. et al" Nature genetics Vol. 32 107—108, 2002) 0
[0022] 標的遺伝子に対する siRNAは、通常、この遺伝子の転写配列 (mRNA配列)におけ る連続する 15塩基以上の配列(より好ましくは 16塩基以上、 17塩基以上、 18塩基以 上、または 19塩基以上の配列)、およびその相補配列を含み、これらの配列がハイブ リダィズして 2本鎖を形成する RNAである。好ましくは、連続する 17— 30塩基、より好ま しくは 18— 25塩基の配列、より好ましくは 19一 23塩基の配列またはその相補配列を 片方の鎖に含み、これとストリンジェントな条件下でハイブリダィズするもう一方の鎖を 含む RNAである。し力し、より長い配列を含む RNAであっても、細胞において、 RNAi 効果を有する siRNAへ分解されることが期待されるため、 RNAの長さは特に制限され ないと考えられる。また、標的遺伝子の mRNAの全長もしくはほぼ全長の領域に対応 する長鎖二本鎖 RNAを、予め DICERまたは他の RNaseで分解し、その分解産物を利 用することも可能である。この分解産物には、 RNAi効果を有する RNA分子(siRNA) が含まれることが期待される。この方法によれば、 RNAi効果を有することが期待され る mRNA上の領域を、特に選択しなくともよい。即ち、標的遺伝子の RNAi効果を有す る配列は、必ずしも正確に規定される必要はないと考えられる。合成した siRNAを使 用する場合は、 siRNAは適宜修飾することができる。
[0023] 通常、末端に数塩基のオーバーハングを有する 2本鎖 RNAは、 RNAi効果が高 、こ とが知られている。本発明において用いる siRNAは、必須ではないが、末端 (好ましく は 3'末端)に数塩基のオーバーハングを有することが望ましい。このオーバーハング を形成する塩基の長さは特に制限されな 、が、好ましくは 2塩基のオーバーハングで ある。本発明においては例えば、 TT (チミンが 2個)、 UU (ゥラシルカ ¾個)、その他の 塩基のオーバーハングを有する 2本鎖 RNA (最も好ましくは 19塩基対の 2本鎖 RNA部 分と 2塩基のオーバーハングを有する分子)を好適に用いることができる。本発明の siRNAには、このようにオーバーハングを形成する塩基が DNAであるような分子も含
まれる。
[0024] siRNAにお!/、て塩基対を形成する 2つの鎖は、スぺーサーを介して連結されて!、て もよい。すなわち、このスぺーサ一がループを形成して、その前後の RNA配列同士が ァニールして 2本鎖を形成する RNAも好適に用いることができる。スぺーサ一の長さ に制限はな 、が、例えば 3— 23塩基としてよ 、。
[0025] また、上記の siRNAを発現し得るベクターもまた、本発明にお 、て使用することがで きる。即ち本発明は、 RNAi効果を持つ RNAを発現し得るベクターの使用に関する。 上記 RNAを発現し得るベクターは、例えば 2本鎖力 なる siRNAの一方の鎖と他方の 鎖が別々に発現するように、それぞれ別々のプロモーターと連結した核酸であってよ い。あるいは選択的スプライシング等により 1つのプロモーターから 2種の RNAが転写 されるようにしてもよい。あるいは、センス鎖とアンチセンス鎖がスぺーサー(ループを 形成する)を介して連結された一本鎖 RNAを発現するベクターであってもよい。この ベクターカゝら発現した RNAは、 RNAi効果を持つ テムを形成して標的遺伝子の 発現を抑制する。ステムの長さは上記の siRNAと同様である力 例えば 19一 29塩基と してよい。スぺーサ一の長さに制限はないが、例えば 3— 23塩基としてよい。 5'および /または 3'に数塩基のオーバーハングを有していても、いなくてもよい。これらのベクタ 一は、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、容易に作製することが できる(Brummelkamp TR et al. (2002) Science 296: 550—553; Lee NS et al. (2001) Nature Biotechnology 19: 500—505; Miyagishi M & Taira K (2002) Nature
Biotechnology 19: 497—500; Paddison PJ et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 1443-1448; Paul CP et al. (2002) Nature Biotechnology 19: 505-508; Sui G et al. (2002) Proc Natl Acad Sci USA 99(8): 5515-5520; Proc Natl Acad Sci USA 99: 14943-14945, 2002; Paddison, PJ et al. (2002) Genes Dev. 16:948-958)。より具体 的には、 目的の RNA配列をコードする DNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入 することによって構築することが可能である。プロモーターとしては、 RNAポリメラーゼ IIIプロモーターなどを好適に用いることができる。具体的には、例えば U6 Pol IIIプロ モーター、および HI RNAプロモーター(HI RNAは RNasePを構成する一成分である) などが利用できる。
[0026] 以下に、好ましい siRNAの一例を例示する力 本発明において用いられる siRNAは これらに限定されない。まず、標的遺伝子の開始コドンから、 50塩基以上、好ましくは 60塩基以上、より好ましくは 70塩基以上下流の転写配列領域を選択する。該領域か ら AA配列を見つけ、該 AAに続く 17— 20ヌクレオチド(例えば AAに続く 19ヌクレオチド )を選択する。 AAの次の塩基は特に制限はないが、 Gまたは Cである配列が好適に は選択される。ここで、選択する配列の GC含量は、 20— 80%であることが好ましぐよ り好ましくは 30— 70%、より好ましくは 35— 65%である。また、選択した配列は、 siRNA を投与する組織で発現する遺伝子の中で、標的遺伝子に特異的な配列であることが 好ましい。例えば、公共の遺伝子配列データベースで選択配列を queryにして検索し 、投与個体の遺伝子の中で標的遺伝子以外に同一の配列を転写配列に持つ遺伝 子が存在しないことを確認することが好ましい。また配列は、標的遺伝子の蛋白質コ ード配列(CDS)内から選択することが好ましい。このようにして選択された配列の初 めの AAを除く配列を含む配列 (好ましくは、 3'に UUまたは TTが付加されている)、お よびその相補配列 (好ましくは 3'に UUまたは TTを有する)は、好適な siRNAとなる。必 ずしも AAに続く配列を探す必要はなぐ例えば CAに続く配列を上記と同様に探して もよい。あるいは他の任意の配列であってもよい。複数種作製された siRNAから、最 適な RNAi効果を有する RNAを適宜選択することも可能である。
[0027] siRNAの作用には非対称性があることが知られている(Schwarz, DS. Et al., 2003, Cell 115:199-208; Khvorova A et al, Cell, 2003, 115(2):209— 16)。すなわち、 siRNA のセンス鎖(標的 mRNA側)の 3'側の 2本鎖形成力 5'側のそれよりも不安定になるよ うに配列を選択することで、標的 mRNAに対する RNAi効果をより高めることができる。 このために、センス鎖 3'側に 1から数個のミスマッチを導入してもよ 、。
[0028] また、 PDGF-Aの発現を阻害するには、 siRNAを用いる以外にも、例えば PDGF-A 遺伝子の転写産物またはその一部に対するアンチセンス核酸を用いたり、あるいは PDGF-A遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザィムを用いることができる。標 的遺伝子の発現を阻害する方法として、アンチセンス技術を利用する方法が当業者 によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を阻害する作用としては 、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、
RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド 形成による転写阻害、合成の進みつつある RNAとのハイブリッド形成による転写阻害 、イントロンとェキソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、 スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、 mRNAとの ノ、イブリツド形成による核力も細胞質への移行阻害、キヤッビング部位やポリ (A)付カロ 部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのノ、ィ ブリツド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイプリ ッド形成による翻訳阻害、 mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形 成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸と蛋白質との相互作用部位とのハイプリ ッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、ス プライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を阻 害する(平島および井上著、新生化学実験講座 2核酸 IV遺伝子の複製と発現、 日本 生化学会編、東京化学同人、 1993年、 p.319-347)。
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用により PDGF-A遺 伝子の発現を阻害してもよい。アンチセンス核酸としては、 PDGF-A遺伝子の転写さ れる配列の連続した 13ヌクレオチド以上、好ましくは 14ヌクレオチド以上、さらに好ま しくは 15ヌクレオチド以上に対するアンチセンス配列を含む核酸であってよい。例え ば、初期転写配列中のェクソン イントロン境界、イントロンーェクソン境界、翻訳開始 コドンを含む領域、 5'端近傍の非翻訳領域、または成熟 mRNA中の蛋白質コード配 列(CDS)の連続した 13ヌクレオチド以上、好ましくは 14ヌクレオチド以上、さらに好ま しくは 15ヌクレオチド以上に対するアンチセンス配列を含む核酸などが好ま 、。また 臨床応用を考慮する場合、使用されるアンチセンス核酸は、通常、合成オリゴマーで ある。アンチセンス核酸は DNAであってよぐさらに修飾されていてもよい。例えば、ヌ クレアーゼ分解に対する感受性を減らし、且つアンチセンス核酸としての活性を維持 するために、 Sオリゴ(ホスホロチォエート型オリゴヌクレオチド)を用いてもよい。アン チセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に抑制するには、アンチセンス核 酸の長さは、好ましくは 17塩基以上であり、より好ましくは 20塩基以上、より好ましくは 25塩基以上、より好ましくは 30塩基以上、より好ましくは 40塩基以上、より好ましくは 50
塩基以上であり、さらに好ましくは 100塩基以上である。アンチセンス RNAは細胞内で 発現させることもできる。標的細胞で活性を持つプロモーターの下流に目的の RNAを コードする核酸を連結したベクターを作製し、これを細胞に導入すればょ ヽ。
[0030] ベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイ ルスベクター、マイナス鎖 RNAウィルスベクターなどのウィルスベクターやプラスミドな どの非ウィルスベクターなどが利用できる。これらのベクター系または遺伝子導入用 の担体(リボソーム、カチオン脂質など)を利用して、腫瘍に投与を行う遺伝子治療が 可能となる。
[0031] また、 PDGF-A遺伝子の発現の阻害は、リボザィム、またはリボザィムをコードする ベクターを利用して行うことも可能である。リボザィムとは触媒活性を有する RNA分子 を指す。リボザィムには種々の活性を有するものが存在し、 RNAを部位特異的に切 断するリボザィムの設計も可能である。リボザィムには、グループ Iイントロン型や RNase Pに含まれる Ml RNAのように 400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ノヽ ンマーヘッド型 (Rossi et al. (1991) Pharmac. Ther. 50: 245— 254)やヘアピン型 (Hampel et al. (1990) Nucl. Acids Res. 18: 299—304, and U.S. Pat. No. 5,254,678)と 呼ばれる 40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄 子、蛋白質核酸酵素、 1990年、 35、 2191)。
[0032] 例えば、ハンマーヘッド型リボザィムの自己切断ドメインは、 G13U14C15という配列 の C15の 3'側を切断する力 その活性には U14と A9との塩基対形成が重要とされ、 C15の代わりに A15または U15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M.ら著 、 FEBS Lett, 1988年、 228、 228.) 0基質結合部位が標的部位近傍の RNA配列と相 補的なリボザィムを設計すれば、標的 RNA中の UC、 UUまたは UAという配列を認識 する制限酵素的な RNA切断リボザィムが作出できる(Koizumi, M.ら著、 FEBS Lett, 1988年、 239, 285.、小泉誠および大塚栄子、蛋白質核酸酵素、 1990年、 35, 2191.、 Koizumi, M.ら著、 Nucl Acids Res、 1989年、 17, 7059.)。
[0033] また、ヘアピン型リボザィムも本発明の目的に有用である。このリボザィムは、例え ばタバコリングスポットウィルスのサテライト RNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986年、 323, 349.)。ヘアピン型リボザィムからも、標的特異的な RNA切
断リボザィムを作出できることが示されている(Kikuchi, Y. & Sasaki, N., Nucl Acids Res, 1991, 19, 6751.、菊池洋,化学と生物, 1992, 30, 112.)。このように、リボザィム を用いて標的遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を阻 害することができる。
[0034] リボザィムをベクター力 発現させる場合は、レトロウイルスベクター、アデノウイルス ベクター、アデノ随伴ウィルスベクター、マイナス鎖 RNAウィルスベクターなどのウィル スベクター、あるいはプラスミドなどの非ウィルスベクターなどがベクターとして利用で きる。
[0035] 発現の阻害効果は、定量的 RT-PCRなどによる mRNAレベルの測定や、抗体を用 いたウェスタンブロッテイングなどによる蛋白質レベルの測定により検証することがで きる。 PDGF-Aおよび/または PDGFR aの発現を抑制する化合物をスクリーニングす ることにより、効果的に抗腫瘍剤をスクリーニングすることができる。本発明は、抗腫瘍 剤製造における、 PDGFR aまたはそのリガンドの発現を抑制する化合物の使用にも 関する。また本発明は、 PDGFR aまたはそのリガンドの発現を抑制する化合物およ び薬学的に許容できる所望の担体および/または添加物等を含む組成物を製造する 工程を含む、抗腫瘍剤の製造方法にも関する。
[0036] また、 PDGF- AAと PDGFR aとの結合の阻害は、例えば PDGF- AAまたは PDGFR a に結合し、 PDGF-AAと PDGFR αとの結合を阻害する化合物を用いて実施することが できる。 PDGFR αとそのリガンドとの結合は、例えば一方を担体に固定ィ匕しておき、 他方をそれに接触させ、結合したものを抗体などを用いて検出することができる。また 、免疫沈降やプルダウンアツセィにより結合を検出することもできる。あるいは、 PDGFR aを発現する細胞にリガンドを接触させ、 PDGFR aを介したシグナル伝達( チロシンリン酸ィ匕ゃ細胞増殖作用)などを検出することにより PDGFR aとリガンドとの 結合をアツセィすることもできる。これらの方法により PDGFR αとそのリガンドとの結合 を測定し、その結合を阻害する化合物をスクリーニングすることにより、効果的に抗腫 瘍剤をスクリーニングすることもできる。本発明は、抗腫瘍剤製造における、 PDGFR aとそのリガンドとの結合を阻害する化合物の使用にも関する。また本発明は、 PDGFR aとそのリガンドとの結合を阻害する化合物および薬学的に許容できる所望
の担体および/または添加物等を含む組成物を製造する工程を含む、抗腫瘍剤の製 造方法にも関する。
[0037] PDGF-AAと PDGFR aとの結合を阻害する化合物として、 PDGFR aまたはそのリガ ンドに結合し、両者の結合を阻害する蛋白質を比較的容易に作製することができる。 より具体的には、 PDGFR aの細胞外ドメインに結合する抗体またはその断片 (抗体可 変領域、 CDRs (相補性決定領域)等)を含むポリペプチド、 PDGF-AAに結合する抗 体またはその断片を含むポリペプチド、 PDGF-Aの受容体結合断片、および PDGFR aのリガンド結合部位を含む可溶性ポリペプチド (または分泌性ポリペプチド)等を好 適に用いることができる。 PDGFR αの細胞外ドメインに結合する抗体は、例えば、 PDGFR αの細胞外ドメインまたはその一部力もなるポリペプチドを抗原として、哺乳 動物に免疫することにより作製することができる。あるいは、 PDGFR o;を発現する細 胞またはその膜画分等を抗原として用いてもょ 、。抗原として用いられる PDGFR aの 細胞外ドメインとしては、天然に見られる可溶型 PDGFR α (Tiesman J, Hart CE., J Biol Chem., 1993, 268(13):9621- 8)、および PDGFR αの細胞外ドメインを含む人工的 に作製した断片を用いることができる。例えば、ヒト PDGFR a (配列番号: 6)の 24番目 から 524番目までのアミノ酸配列またはその部分を抗原として用いることが好ま 、。 他の哺乳動物 PDGFR aの細胞外ドメインは、ヒト PDGFR aのアミノ酸配列とのァライ メントにより同定することができる。脾臓細胞力もハイプリドーマを作製し、 PDGFR aの 細胞外ドメインに高い親和性で結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択すれ ば、目的の抗体を産生する細胞クローンを得ることができる(V.T. Oi and
L.A.Herzenberg (1980) Immunogiobuin- producing hybrid cell lines, in (B.B. isbell and S.M.Shiigi eds) Selected method in cellu - lar immunology. pp351 - 372;岩崎辰 夫ら (1983)単クローン抗体,ハイプリドーマと ELISA,講談社,東京;富山朔ニ '安東 民衛 編(1987)単クローン抗体実験マニュアル,講談社,東京)。この細胞力 抗体 遺伝子を単離することにより、目的の抗体の遺伝子を得ることができる。これをべクタ 一に搭載することによって、 PDGFR αの細胞外ドメインに結合する抗体を発現するべ クタ一が得られる。
[0038] PDGFR aリガンドに結合する抗体を得るには、 PDGFR aリガンドまたはその一部を
抗原として上記と同様に免疫して抗体またはその遺伝子を得ることができる。抗体は 、 PDGFR aリガンドのダイマーに対する抗体であってもよ 、。 PDGFR aリガンドとして は、 PDGF-A, -B,および -Cが挙げられる力 特に PDGF-Aに対する抗体が好まし い。例えば、 PDGF-Aホモダイマーに対する抗体を好適に用いることができる。
[0039] 抗体は、例えば硫安沈殿、プロテイン Aカラム、プロテイン Gカラム、 DEAEイオン交 換クロマトグラフィー、抗原をカップリングしたァフィユティーカラム等により精製するこ とができる。抗体は、 PDGF-Aまたは PDGFR aに結合し、 PDGF-Aと PDGFR αとの結 合を阻害する限り、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよ ヽ 。また、ヒト抗体、遺伝子組み換えによるヒト型化抗体、さらに抗体可変領域を含む断 片(Fab, Fc, F(ab')2, scFv等を含む)、および抗体修飾物等であってもよい。抗体ま たは抗体発現ベクターをヒトに投与する目的 (抗体治療)で使用する場合には、免疫 原性を低下させるため、ヒト抗体やヒト型抗体が好ま 、。
[0040] PDGF-Aまたは PDGFR aに結合する抗体は、商業的に入手することも可能である( 例えば Rabbit anti-human PDGF-AA, Cat.No. IM-R136, DIACLONE; Anti-Human Platelet Derived Growth Factor- AA (PDGF-AA) Antibody, Leinco Technologies Inc. ;Anti— PDGF— AA neutralizing goat antibody, R&D systems; Anti-PDGFR neutralizing goat antibody, R&D systems)。
[0041] PDGFR aのリガンド結合部位を含む分泌性ポリペプチドとしては、 PDGFR aの細 胞外ドメイン含む分泌蛋白質を好適に用いることができる。このような蛋白質は天然 にも知られている (Tiesman J, Hart CE., J Biol Chem., 1993, 268(13):9621- 8)。ある いは、 PDGFR aの細胞外ドメインを含む人工的に作製した分泌蛋白質を用いること ができる(実施例参照)。 PDGFR aの細胞外ドメインは 5つの immunogloblin (Ig)-like ドメインを持ち、そのうち最初の 3つのドメイン(domain 1-3) (ヒト PDGFR α (配列番号: 6)の 24番目から 341番目のアミノ酸)カ^ガンド結合活性を示すことが知られている (D. Mahadevan et al., J. Biol. Chem., 270, 1995, 27595-27600; B Herren et al, J. Biol. Chem., 268, 15088-15095, 1993)。従って、この 3つの Ig- like領域、好ましくは 5 つの Ig-like領域(ヒト PDGFR α (配列番号: 6)の 24番目力も 524番目のアミノ酸)を含 む分泌蛋白質を用いることによって、 PDGF-AAを吸収させ内在性受容体への結合
を阻害することができる。蛋白質を分泌させるために、 N末端には適宜分泌シグナル 配列を付加することができる。分泌シグナル配列としては、例えばヒト PDGFR o;の 1番 目から 23番目までのアミノ酸を用いればよぐヒト PDGFR aの 1番目から 524番目のァ ミノ酸を含む可溶性蛋白質を好適に用いることができる。他の哺乳動物 PDGFR aの 細胞外ドメインは、ヒト PDGFR o;のアミノ酸配列とのァライメントにより同定すればよい
[0042] ベクターを介した遺伝子治療により上記の蛋白質を発現させるには、遺伝子組み 換え技術により上記の蛋白質をコードする核酸を搭載するベクターを構築することが できる。ここで蛋白質をコードするとは、核酸が該蛋白質を適当な条件下で発現でき るように、該蛋白質のアミノ酸配列をコードする ORFをセンスまたはアンチセンス(ある 種のウィルスベクター等においては)に含むことを言う。核酸はベクターの種類にあ わせて一本鎖または二本鎖であってよ 、。また核酸は DNAであっても RNAであっても よい。ベクターとしては、例えばプラスミドベクター、その他の naked DNA、ウィルスべ クタ一等が挙げられる。
[0043] Naked DNAとは、 DNA力 ウィルスエンベロープ、リボソーム、またはカチォニック脂 質などの核酸を細胞に導入する試薬と結合していない DNAを言う(Wolff et al, 1990, Science 247, 1465-1468)。この場合、 DNAは生理的に許容可能な溶液、例え ば滅菌水、生理食塩水、または緩衝液中に溶解して使用することができる。プラスミド などの naked DNAの注入は最も安全で簡便な遺伝子送達法であり、これまでに承認 されている臨床プロトコルの多くを占める(Lee, Y. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2000; 272: 230-235)。例えば、サイトメガロウィルス (CMV)プロモーターは 入手可能な最も強力な転写制御配列の 1つであり、 CMVプロモーターを含むベクタ 一は臨床の遺伝子治療にも広く用いられている(Foecking, M.K, and Hofstetter H. Gene 1986; 45: 101-105)。また、 CMV immediately earlyェンハンサーおよびニヮトリ βァクチンプロモーターを含むキメラプロモーターである CAGプロモーター(Niwa, H. et al. (1991) Gene. 108: 193-199)は、 CMVプロモーター以上に強い発現が可能で あり好適に用いられる。
[0044] ベクターに目的遺伝子を組み込む場合は、 目的遺伝子の発現効率を高めるため、
開始コドン周辺の配列は Kozakのコンセンサス配列 [例えば CC(G/A)CCATG]とする ことが好ましい (Kozak, M., Nucleic Acids Res 9(20), 5233 (1981); Kozak, M., Cell 44, 283 (1986); Kozak, M. Nucleic Acids Res.15:8125 (1987); Kozak, M., J. Mol. Biol. 196, 947 (1987); Kozak, M., J. Cell Biol. 108, 229 (1989); Kozak, M., Nucl. Acids Res. 18, 2828 (1990》。
[0045] DNAは適宜トランスフエクシヨン試薬と組み合わせて投与することができる。例えば、 リボソームまたは所望のカチォニック脂質と結合させてトランスフエクシヨン効率を上 昇させることができる。
[0046] 本発明に用いられるより好まし 、ベクターはウィルスベクターである。ウィルスベクタ 一を用いることによって、幅広い組織において十分な量のポリペプチドを発現させる ことができる。ウィルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウィルス ベクター、レトロウイノレスベクター、レンチウイノレスベクター、単純へノレぺスゥイノレスべ クタ一、ワクシニアウィルスベクター、マイナス鎖 RNAウィルスベクターなどが挙げられ るがこれらに制限されない。好ましいウィルスベクターの 1つはアデノウイルスベクター である。アデノウイルスベクターは、広範囲の組織に高い効率で遺伝子を導入し、導 入遺伝子を高発現させることができる。本発明にお 、てはアデノウイルスベクターを 好適に用いることができる。本発明において、アデノウイルスベクターは適宜公知の ベクターを用いることができ、それらは例えば外来遺伝子発現の向上のため、または 抗原性の減弱などのために野生型ウィルスの遺伝子が改変されて 、てよ ヽ。アデノ ウィルスベクターの作製は、例えば斎藤らにより開発された COS- TPC法(Miyake, S., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 1320—1324 (1996》を用いることができる。
[0047] 本発明において好適に用いることができるウィルスベクターの他の 1つは、マイナス 鎖 RNAウィルスベクターである。実施例に示すように、マイナス鎖 RNAウィルスベクタ 一を用いた遺伝子治療は、インビボにおいて腫瘍増殖を有意に抑制することが示さ れた。マイナス鎖 RNAウィルスベクターは、本発明において最も好適に用いられるべ クタ一の 1つである。マイナス鎖 RNAウィルスとは、マイナス鎖(ウィルス蛋白質をコー ドするセンス鎖に対するアンチセンス鎖)の RNAをゲノムとして含むウィルスである。マ イナス鎖 RNAはネガティブ鎖 RNAとも呼ばれる。本発明にお!/、て用いられるマイナス
鎖 RNAウィルスとしては、特に一本鎖マイナス鎖 RNAウィルス (非分節型( non- segmented)マイナス鎖 RNAウィルスとも言う)が挙げられる。「一本鎖ネガティブ 鎖 RNAウィルス」とは、一本鎖ネガティブ鎖 [すなわちマイナス鎖] RNAをゲノムに有 するウィルスを言う。このようなウィルスとしては、パラミクソウィルス(Paramyxoviridae; Paramyxovirus, Morbilnvirus, Rubulavirus,および PneumovirusJ¾等を む)、フブト ウイノレス (Rhabdovindae; Vesiculovirus, Lyssavirus,および Epnemerovirus属等を含 む)、フィロウイノレス (Filoviridae)、ォノレトミクソゥイノレス (Orthomyxoviridae; Inluluenza virus A, B, C,および Thogoto- like viruses等を含む)、ブ-ャウィルス(
Bunyavindae; Bunyavirus, Hantavirus, Nairo virus,および Phlebovirus属等を含? _?リ、 ァレナウィルス (Arenaviridae)などの科に属するウィルスが含まれる。本発明にお!/ヽ て用いられるマイナス鎖 RNAウィルスベクターは、伝播能を有していてもよぐ伝播能 を有さない欠損型ベクターであってもよい。「伝播能を有する」とは、ウィルスベクター が宿主細胞に感染した場合、該細胞においてウィルスが複製され、感染性ウィルス 粒子が産生されることを指す。
[0048] 特に PDGF-Aに結合する抗体、 PDGFR aの細胞外ドメインに結合する抗体、また はそれらの抗原結合断片を含む分泌性蛋白質をコードするマイナス鎖 RNAウィルス ベクター、ならびに PDGFR aのリガンド結合ドメインを含む分泌性蛋白質をコードす るマイナス鎖 RNAウィルスベクターは、本発明における抗腫瘍剤として有用である。こ れらのベクターを直接または間接に腫瘍に投与することにより、腫瘍の増殖を抑制す ることができる。間接投与のためには、例えば榭状細胞などにベクターを導入し、この 細胞を腫瘍に投与することができる。
[0049] 本発明にお!/、て特に好適に用いられるマイナス鎖 RNAウィルスを具体的に挙げれ ば、例えばパラミクソウィルス科 (Paramyxoviridae)ウィルスのセンダイウィルス (Sendai virus) ^ニューカツスノレ柄ゥづ /レス (Newcastle disease virus) ^おたふく力ぜゥイノレス (Mumps virus) ^脉诊ゥ ノレス (Measles virus) ^ R;クイノレス (Respiratory syncytial virus) 、牛疫ウイノレス (rinderpest virus) ^システンノヽーウイノレス (distemper virus) ^サノレノヽライ ンフルェンザウィルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス 1,2,3型、オルトミクソウイ ノレス科 (Orthomyxoviridae)のインフノレエンザゥイノレス (Influenza virus),ラブドウイノレス
科 (Rhabdoviridae)の水抱'性口内炎ウイノレス (Vesicular stomatitis virus),狂犬病ウイ ルス (Rabies virus)等が例示できる。
[0050] 本発明にお!/、て用いることができるウィルスをさらに例示すれば、例えば Sendai virus (SeV)、 human parainfluenza virus- 1 (HPIV- 1)、 human parainfluenza virus- 3 (HPIV- 3)、 phocine distemper virus (PDV)、 canine distemper virus (CDV)、 dolphin molbillivirus (DMV)、 peste—des—petits— ruminants virus (PDPR)、 measles virus (MV)、 rinderpest virus (RPV)、 Hendra virus (Hendra)、 Nipah virus (Nipah)、 human parainfluenza virus- 2 (HPIV- 2)、 simian parainfluenza virus 5 (SV5)、 human parainfluenza virus- 4a (HPIV- 4a)、 human parainfluenza virus- 4b (HPIV- 4b)、 mumps virus (Mumps),および Newcastle disease virus (NDV)などが含まれる。より好ましく は、 Sendai virus (SeV)、 human parainfluenza virus- 1 (HPIV- 1)、 human parainfluenza virus- 3 (HPIV- 3)、 phocine distemper virus (PDV)、 canine distemper virus (CDV)、 dolphin molbillivirus (DMV)、 peste—des—petits— ruminants virus (PDPR)、 measles virus (MV)、 rinderpest virus (RPV)、 Hendra virus (Hendra) ^および Nipah virus (Nipah)カゝらなる群より選択されるウィルスが挙げられる。
[0051] 本発明において用いられるウィルスベクターは、より好ましくは、ノ ラミクソウィルス 亜科(レスピロウィルス属、ルブラウィルス属、およびモルビリウィルス属を含む)に属 するウィルスまたはその誘導体であり、より好ましくはレスピロウィルス属(genus Respirovirus) (パラミクソウィルス属(Paramyxovirus)とも言う)に属するウィルスまたは その誘導体である。誘導体には、ウィルスによる遺伝子導入能を損なわないように、 ウィルス遺伝子が改変されたウィルス、およびィ匕学修飾されたウィルス等が含まれる 。本発明を適用可能なレスピロウィルス属ウィルスとしては、例えばヒトパラインフルェ ンザウィルス 1型(HPIV- 1)、ヒトパラインフルエンザウイルス 3型(HPIV- 3)、ゥシパライ ンフルェンザウィルス 3型(BPIV-3)、センダイウィルス (Sendai virus;マウスパラインフ ルェンザウィルス 1型とも呼ばれる)、およびサルパラインフルエンザウイルス 10型( SPIV-10)などが含まれる。本発明においてパラミクソウィルスは、最も好ましくはセン ダイウィルスである。これらのウィルスは、天然株、野生株、変異株、ラボ継代株、およ び人為的に構築された株などに由来してもよい。
[0052] 組み換えマイナス鎖 RNAウィルスベクターの再構成は公知の方法を利用して行うこ とができる(W097/16539; W097/16538; WO00/70055; WO00/70070;
WO03/025570; PCT/JP03/07005; PCT/JP2004/000944; Durbin, A. P. et al., 1997, Virology 235: 323-332; Whelan, S. P. et al, 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 8388-8392; Schnell. M. J. et al., 1994, EMBO J. 13: 4195-4203; Radecke, F. et al" 1995, EMBO J. 14: 5773-5784; Lawson, N. D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 4477-4481; Garcin, D. et al" 1995, EMBO J. 14: 6087—6094; Kato, A. et al., 1996, Genes Cells 1: 569—579; Baron, M. D. and Barrett, T., 1997, J. Virol. 71: 1265-1271; Bridgen, A. and Elliott, R. M., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 15400-15404; Hasan, M. K. et al., J. Gen. Virol. 78: 2813—2820, 1997; Kato, A. et al., 1997, EMBO J. 16: 578—587; Yu, D. et al., 1997, Genes Cells 2: 457-466) oこれらの方法により、パラインフルエンザ、水疱性口内炎ウィルス、狂犬病 ウィルス、麻疹ウィルス、リンダ一ペストウィルス、センダイウィルスなどを含むマイナス 鎖 RNAウィルスを DNAカゝら再構成させることができる。これらの方法に準じて、本発明 にお 、て用いられるマイナス鎖 RNAウィルスを再構成させることができる。ウィルスゲ ノムをコードする DNAにおいて、 F遺伝子、 HN遺伝子、および/または M遺伝子等の エンベロープを構成する蛋白質をコードする遺伝子をウィルスゲノム力 欠失させた 場合には、そのままでは感染性のウィルス粒子を形成しないが、宿主細胞に、これら 欠失させた遺伝子および/または他のウィルスのエンベロープ蛋白質 (例えば水疱性 口内炎ウィルス(Vesicular stomatitis virus; VSV)の G蛋白質(VSV— G) (J. Virology 39: 519-528 (1981)) )をコードする遺伝子などを別途、ウィルス産生細胞に導入し発 現させることにより、感染性のウィルス粒子を形成させることが可能である(Hirata, T. et al., 2002, J. Virol. Methods, 104:125—133; Inoue, M. et al., 2003, J. Virol.
77:6419-6429)。
[0053] マイナス鎖 RNAウィルスは宿主細胞の細胞質でのみ転写.複製を行い、 DNAフエ一 ズを持たないため染色体への組み込み(integration)は起こらない(Lamb, R.A. and Kolakofsky, D., Paramyxovindae: ηβ viruses and their replication. In: Fields BN, Knipe DM, Howley PM, (eds). Fields Virology, 3rd Edition, Vol. 2. Lippincott -
Raven Publishers: Philadelphia, 1996, pp. 1177-1204)。このため染色体異常による 癌化および不死化などの安全面における問題が生じな 、。マイナス鎖 RNAウィルス のこの特徴は、ベクター化した時の安全性に大きく寄与している。異種遺伝子発現の 結果では、例えばセンダイウィルス (SeV)を連続多代継代しても殆ど塩基の変異が 認められず、ゲノムの安定性が高ぐ挿入異種遺伝子を長期間に渡って安定に発現 する事が示されている(Yu, D. et al., Genes Cells 2, 457-466 (1997)) 0また、カプシ ド構造蛋白質を持たな 、ことによる導入遺伝子のサイズまたはパッケージングの柔軟 性 (flexibility)など性質上のメリットがある。またセンダイウィルスは、齧歯類にとっては 病原性で肺炎を生じることが知られている力 ヒトに対しては病原性が認められない。 これはまた、野生型センダイウィルスの経鼻的投与によって非ヒト霊長類にぉ 、て重 篤な有害作用を示さな ヽと 、うこれまでの報告によっても支持されて 、る (Hurwitz, J.L. et al, Vaccine 15: 533—540, 1997; Bitzer, M. et al, J. Gene Med,.5: 543—553, 2003) oマイナス鎖 RNAウィルスベクターは、本発明において用いられるベクターとし て極めて有用である。
回収したウィルスベクターは実質的に純粋になるよう精製することができる。精製方 法はフィルトレーシヨン (濾過)、遠心分離、吸着、およびカラム精製等を含む公知の 精製 ·分離方法またはその任意の組み合わせにより行うことができる。「実質的に純 粋」とは、ウィルスベクターを含む溶液中で該ウィルスの成分が主要な割合を占める ことを言う。例えば実質的に純粋なウィルスベクター組成物は、溶液中に含まれる全 蛋白質 (但しキャリアーや安定剤として加えた蛋白質は除く)のうち、ウィルスベクター の成分として含まれる蛋白質の割合が 10% (重量/重量)以上、好ましくは 20%以上、よ り好ましくは 50%以上、好ましくは 70%以上、より好ましくは 80%以上、さらに好ましく は 90%以上を占めることにより確認することができる。例えばパラミクソウィルスベクタ 一であれば、具体的な精製方法としては、セルロース硫酸エステルまたは架橋ポリサ ッカライド硫酸エステルを用いる方法 (特公昭 62-30752号公報、特公昭 62-33879号 公報、および特公昭 62-30753号公報)、およびフコース硫酸含有多糖および/または その分解物に吸着させる方法 (WO97/32010)等を例示することができる力 これらに 制限されない。
[0055] 腫瘍増殖の抑制は、上記に記載した PDGF-Aの発現または PDGF-Aホモダイマー と PDGFR aとの結合を阻害する化合物、核酸、蛋白質、あるいはそれらを発現する ベクターを、腫瘍に投与することにより行われる。ここで「腫瘍に投与する」とは、腫瘍 の血管系の形成および/または維持を阻害するように、腫瘍内または腫瘍の近傍に 投与することを言う。近傍とは、腫瘍に十分近い領域であって、投与領域の血管系の 破壊により腫瘍への血液供給を有意に低下させ得る領域である。通常は、腫瘍から 9 mm以内、好ましくは 8 mm以内、より好ましくは 7 mm以内、より好ましくは 6 mm以内、 より好ましくは 5 mm以内、より好ましくは 3 mm以内の領域である。投与物または投与 したベクターからの発現産物により、 PDGFR a -p70S6キナーゼシグナル伝達が阻害 され、腫瘍近傍の血管系の形成および維持が阻害される。これにより、腫瘍への血液 供給が遮断され、腫瘍増殖が抑制される。投与化合物またはベクターは、担体と組 み合わせた組成物として投与することができる。用いられる担体としてはは、生理的 に許容できるものであれば制限はなぐバイオポリマーなどの有機物、ハイド口キシァ パタイトなどの無機物、具体的にはコラーゲンマトリックス、ポリ乳酸ポリマーまたはコ ポリマー、ポリエチレングリコールポリマーまたはコポリマーおよびその化学的誘導体 などがあげられる。更に担体はこれらの生理的に許容される材料の混合組成物でも 良い。ベクターを投与する場合は、ウィルスベクター、あるいは非ウィルスベクターも 含めて、所望のベクターが利用できる。ベクターから分泌性蛋白質を発現させる場合 は、ベクターを投与した細胞の形態で投与してもよい(ex vivo投与)。例えばベクター またはベクターを導入した細胞の腫瘍内注入が考えられる。細胞としては、例えば榭 状細胞(Dendritic cells; DCs)が好ましい。注入手段は通常の医療用注射器または、 体外および体内に留置される持続注入器などの工業製品があげられる。
[0056] Ex vivo投与のために榭状細胞を用いる場合は、例えばリンパ球系榭状細胞 (Th2 への誘導または免疫寛容を誘導するものであってもよい)、骨髄球系榭状細胞(一般 的に用いられる榭状細胞。未熟榭状細胞および成熟榭状細胞を含む)、ランゲルノ、 ンス細胞 (皮膚の抗原提示細胞で重要な榭状細胞)、相互連結細胞(リンパ節、脾臓 の T細胞領域にあり、 T細胞への抗原提示に働いていると考えられている細胞)、ろ胞 榭状細胞 (B細胞への抗原提示細胞として重要、抗原と抗体複合体、抗原と補体複
合体を抗体レセプター、補体レセプターにより、榭状細胞上に提示することで、 B細 胞に抗原提示している。)などを用いることができる。榭状細胞は、例えば、 CDla+、 HLA- class II+、および CDl lc+の細胞で、かつ T細胞マーカー(CD3)、 B細胞マーカ 一(CD19、 CD20)、 NK細胞マーカー(CD56)、好中球マーカー(CD15)、単球マー カー (CD14)を発現してな 、細胞である。これらのマーカー遺伝子の発現につ!ヽては 、以下の文献も参照のこと(Knapp, W. et al., eds., 1989, Leucocyte Typing IV: White Cell Differentiation Antigens, Oxford University Press, New York; Barclay, N.A. et al., eds., 1993, The Leucocyte Antigen FactsBook, CD11 Section,
Academic Press Inc., San Diego, California, p. 124; Stacker, S.A. and T.A. Springer,
1991, J. Immunol. 146:648; Knapp, W. et al., eds., 1989, Leucocyte Typing IV: White Cell Differentiation Antigens, Oxford University Press, New York;
Schlossman, S. et al., eds., 1995, Leucocyte Typing V: White Cell Differentiation Antigens. Oxford University Press, New York; Hanau, D. et al., 1990, J.
Investigative Dermatol. 95: 503; Calaoi, F. and A. Bradbury., 1991., Tissue
Antigens 37: 1; McMichael, A.J. et al" eds., 1987, Leucocyte Typing III: White Cell
Differentiation Antigens, Oxford University Press, New York; Knapp, W. et al., eds., 1989, Leucocyte Typing IV: White Cell Differentiation Antigens, Oxford University Press, New York; Schlossman, S. et al" eds., 1995, Leucocyte Typing V:
White Cell Differentiation Antigens. Oxford University Press, New York; Wright , S.D. et al" 1990, Science 249: 1434; Pawelec, G. et al" 1985, Human Immunology 12: 165; Ziegler, A. et al., 1986, Immunobiol. 171:77)。これらのマーカーに対する抗 体は、例えば BD Biosciences社(BD PharMingen)より入手することができ、その詳細 は同社または販売代理店のウェブサイトで知ることができる。
また、榭状細胞マーカーに関しては、以下の Kiertscherらおよび Oehlerらの文献も 参照のこと(Kiertscher SM, Roth MD, Human CD14+ leukocytes acquire the phenotype and function of antigen— presenting dendritic cells when cultured in GM-CSF and IL— 4, J. Leukoc. Biol., 1996, 59(2):208— 18; Oehler, L. et al,
Neutrophil granulocyte— committed cells can be driven to acquire dendritic cell
characteristics., J. Exp. Med., 1998, 187(7):1019- 28)。各マーカーの発現について は、例えば、 isotype control ant¾odyで染色した時に、陽性率力 1%以下の蛍光強度 を境界として、それ以上は陽性、それ未満は陰性と判断される。
[0058] 榭状細胞またはその前駆細胞の調製は、公知の方法に従ってまたは準じて行うこと ができる。例えば、血液 (例えば末梢血または臍帯血)、骨髄、リンパ節、他のリンパ 器官、脾臓、皮膚など力も分離することができる。好ましくは、榭状細胞は、本発明に 使用するために血液または骨髄力 得られる。また、本発明で用いられる榭状細胞 は、皮膚のランゲルノヽンス細胞、輸入リンパ管のベール細胞、ろ胞榭状細胞、脾臓 の榭状細胞、およびリンパ器官の指状突起細胞などであってもよい。また本発明で用 いられる榭状細胞は、 CD34+由来榭状細胞、骨髄由来榭状細胞、単球由来榭状細 胞、脾細胞由来榭状細胞、皮膚由来榭状細胞、濾胞榭状細胞、および胚中心榭状 細胞からなる群から選択される榭状細胞が含まれる。 CD34+由来榭状細胞は、臍帯 血または骨髄等力 得た造血幹細胞または造血始原細胞等から、顆粒球コロニー刺 激因子(G- CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM- CSF)、腫瘍ネクロー シスファクター(TNF)- alpha、 IL-4、 IL-13、ステムセルフアクター(SCF)、 Flt-3リガンド 、 c-kitリガンド、またはその組み合わせなどにより分ィ匕させることができる。例えば、末 梢血の単球を GM-CSFおよび IL-4により未成熟榭状細胞に分化させ、さら〖こ TNF-alphaで刺激することにより成熟榭状細胞へと分ィ匕させることができる。
[0059] 榭状細胞の具体的な単離方法は、例えば Cameron et al, 1992, Science 257: 383 、し anghoff et al" 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 7998、 Chehimi et al" 1993J. Gen. Viol. 74: 1277、 Cameron et al" 1992, Clin. Exp. Immunol. 88: 226、 Thomas et al., 1993, J. Immunol. 150: 821、 Karhumaki et al., 1993, Clin. Exp. Immunol. 91: 482などに記載されている。また、フローサイトメトリーによる榭状細胞の 単離については、例えば、 Thomas et al., 1994, J. Immunol. 153: 4016、 Ferbas et al" 1994, J. Immunol. 152: 4649、および O'Dohelrty et al" 1994, Immunology 82: 487に記載されている。また、磁気細胞選別については、例えば Miltenyi et al, 1990, Cytometry 11: 231-238に記述されている。
[0060] また、例えばヒト榭状細胞の単離および増殖に関しては、 Macatonia et al., 1991,
Immunol. 74: 399—406、 O'Doherty et al, 1993, J. Exp. Med. 178: 1067—1078、 Markowicz et al., 1990, J. Clin. Invest. 85: 955—961、 Romani et al" 1994, J. Exp. Med. 180: 83—93、 Sallusto et al" 1994, J. Exp. Med. 179: 1109—1118、 Berhard et al., 1995, J. Exp. Med. 55: 1099-1104などに記載の方法を用いてもよい。また、骨 髄、臍帯血、または末梢血等力も得られる CD34+細胞および末梢血由来の単核細胞 からの榭状細胞形成については Van Tendeloo et al., 1998, Gene Ther. 5: 700-707 に記載の方法を用いて実施してもよ ヽ。
本明細書に記載した抗腫瘍薬の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状、投与 組成物の形態、投与方法等により異なってよぐ当業者であれば適宜調整することが 可能である。投与回数は、 1回または臨床上容認可能な副作用の範囲で複数回可 能であり、投与部位についても一箇所または複数箇所投与してよい。非ペプチド性 低分子化合物であれば、通常成人 (体重 60kgとして)においては、経口投与なら一般 的に、 1日あたり約 0.1から 100mg、好ましくは約 1.0から 50mg、より好ましくは約 1.0から 20mgである。非経口的に投与する場合は、その 1回投与量は投与対象、対象臓器、 症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形ではにおいては、 1日あたり 約 0.01から 30mg、好ましくは約 0.1から 20mg、より好ましくは約 0.1から 10mg程度を静 脈注射により投与することができる。他の動物の場合も、例えば上記の投与量を体重 で換算した量を投与することができる。蛋白質製剤であれば、投与量は例えば 1日あ たり約 100 gから 50mgであると考えられる。例えばウィルスベクターであれば、腫瘍 内またはその近傍に 1箇所または複数箇所 (例えば 2から 10箇所)に投与してよい。投 与量は、アデノウイルスであれば、例えば 10ω— 1013 pfo、より好ましくは 1011— 1013 pfo が望ましい。マイナス鎖 RNAウィルスであれば、例えば 2 X 105 CIU— 5 X 1011 CIU が望ましい。 Naked DNA、アンチセンス核酸、 siRNA等であれば、腫瘍内またはその 近傍に 1箇所または複数箇所 (例えば 2から 10箇所)に投与してよい。投与部位 1箇所 あたりの投与量は、例えば 10 /z g— 10 mg、より好ましくは 100 /z g— 1 mgが望ましい。 Ex vivo投与において、ベクターを導入した細胞を投与する場合は、例えば MOI 1— 500の間で体外 (例えば試験管またはシャーレ内)で標的細胞にウィルスベクターを 導入する。遺伝子導入細胞は、例えば 105— 109細胞、好ましくは 106— 108細胞を腫瘍
に移植することができる。投与量については、文献 Freedman SB et al Ann Intern Med 136:54-71 (2002)を参照することができる。治療の対象動物としては、ヒトおよび その他の所望の非ヒト哺乳動物が挙げられ、具体的にはヒト、サル、マウス、ラット、ゥ サギ、ヒッジ、ゥシ、ィヌなどが含まれる。
[0062] また本発明は、 PDGF-Aの発現または PDGF-Aホモダイマーと PDGFR aとの結合を 阻害する化合物を有効成分として含む抗腫瘍剤にも関する。また本発明は、 PDGF-Aの発現または PDGF-Aホモダイマーと PDGFR aとの結合を阻害する化合物 の、抗腫瘍治療薬製造における使用にも関する。ここで、上記化合物としては、 PDGF-A遺伝子のアンチセンス RNA、 siRNA、および該アンチセンス RNAまたは siRNAをコードするベクターが例示できる。さらに、 PDGF-Aホモダイマーまたは PDGFR aに結合する分泌性蛋白質、または該分泌性蛋白質をコードするベクターが 挙げられる。このような分泌蛋白質としては、 PDGF-Aホモダイマーまたは PDGFR α に結合する抗体、抗体断片、および可溶性 PDGFR o;等が挙げられる。ベクターとし ては、例えばマイナス鎖 RNAウィルスベクターを好適に用いることができる。ベクター は、腫瘍へ局所的に投与のために注射剤等の形態に製剤化されることが好ましい。
[0063] 上記の抗腫瘍剤は、有効成分以外に、薬学的に許容できる所望の担体および/ま たは添加物等を含む組成物であってよい。例えば、滅菌水、生理食塩水、慣用の緩 衝剤(リン酸、クェン酸、他の有機酸等)、安定剤、塩、酸化防止剤 (ァスコルビン酸 等)、界面活性剤、懸濁剤、等張化剤、または保存剤などを含んでよい。局所投与の ために、バイオポリマーなどの有機物、ハイドロキシアパタイトなどの無機物、具体的 にはコラーゲンマトリックス、ポリ乳酸ポリマーまたはコポリマー、ポリエチレングリコー ルポリマーまたはコポリマーおよびその化学的誘導体などと組み合わせることも好ま しい。注射に適当な剤型に調製するには、有効成分を薬学的に許容される水溶液中 に溶解するか、または溶解できるように例えば凍結乾燥製剤として調製する。また、 有効成分を溶解または希釈するための担体と組み合わせてキットとしてもょ 、。このよ うな担体としては、薬学的に許容できる所望の担体が挙げられ、例えば蒸留水、生理 食塩水などが挙げられる。
実施例
[0064] 以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制 限されるものではない。なお、本明細書中に引用された文献は、本明細書の一部とし て組み込まれる。
[0065] 細朐および試薬
HSMC (J. Cell Biol, 1971, 50, 172— 86)、 MRC— 5 (ATCC CCL- 171)、 SAS (J. Biol. Chem., 1995, 270(41), 24321— 6)、 MH134 (J. Natl. Cancer Inst., 1956, 17, 1—21)、 QG56 (lnt. J. Cancer, 1985, 35(6), 808- 12)、 TF (Cancer, 1992, 69(10), 2589—97)、 KN (Cancer, 1992, 69(10), 2589- 97)、 EBC- 1 (Am. J. Pathol, 1993, 142(2), 425-31 )、 PC9 (Int. J. Cancer, 1985, 15(4), 449- 55)、および COS7細胞(ATCC CRL- 1651 )は American Type Culture Correction (ATCC)より購入した。以前の記載のように、 以下の細胞内シグナル阻害剤を、それぞれ以下の濃度で HSMCおよび MRC5細胞 に用いた(Onimaru M et al, Circ Res. 2002;91:723— 730)。 Ras, Ras— inhibitory peptide (50 μ mol/L, Alexis Japan, Tokyo, Japan); p70S6K, p70S6K inhibitor rapamycin (100 ng/ml, Sigma— Aldrich Japan, Tokyo, Japan); PKC, PKC inhioitor bisindonlylmaleimide (100 nmol/L, Sigma); PI3K, PI3K— inhibitor wortmannin (120 nmol/L, Sigma); MEK inhibitor U0126 (10 μ mol/L, Promega K.K., Tokyo, Japan); PKA, PKA-inhibotory peptide (1 μ mol/L, Calbiochem, San Diego, CA);および NF— K B, NF— K B inhibitor ALLN (5 μ mol/L, Roche Diagnostics, Tokyo, Japan)。抗 PDGF- AA-中和ャギ抗体、抗 PDGFR a中和ャギ抗体、およびコントロールのャギ IgGは R&D systems (Minneapolis, MN)より入手した。マウス FGF- 2をコードする SeV (SeV-FGF2)およびホタルルシフェラーゼをコードする SeV (SeV-luciferase)を含む、 使用した組み換え SeVのストックは、以前の記載の通りに調製した (Masaki I et al, Circ Res. 2002;90:966-973; Onimaru M et al., Circ Res. 2002;91:723— 730)。ヒト PDGFR aの細胞外ドメインを発現する組み換え SeVは以下のように構築した。制限酵 素タグ付きの合成プライマー(forward— Bglll: 5'— aaAGATCTatggggacttcccatccggc— 3' (配列番号: 9), reverse-Nhel:
o— tttjCTAGし tcacttgtcatcgtcgtccttgtagtcttcagaacgcagggt— 3' (目歹 号: 10))を用 いて、 MRC-5細胞より抽出した total RNAより逆転写により合成した cDNAを铸型にし
て cDNA断片(増幅領域: CDSの 1-1575塩基)を増幅し、 pcDNA3.1 (InVitrogen, Carlsbad, CA)にサブクローユングした(配列番号: 7および 8)。 capillary sequencer (model CEQ2000L, Beckman Coulter Inc. Fullerton, CA)を用いて、全配列が報告 されているもの(GenBank No. NM.006206)と完全に一致することを確認し、 SeV18+ をコードする铸型プラスミドにサブクロー-ングした(Hasan, M. K. et al., J. Gen. Virol. 78: 2813-2820, 1997)。以前の記載のように、可溶性ヒト PDGFR αを発現する 組み換え SeV (SeV-hsPDGF a )を回収した(Masaki I et al., Circ Res.
2002;90:966-973; Onimaru M et al., Circ Res. 2002;91:723-730; Yonemitsu Y et al, Nat Biotechnol. 2000;18:970- 973)。ウェスタンブロッテイングにより、 SeV- hsPDGF aを導入した COS7細胞の培養上清中に、可溶性ヒト PDGFR aが分泌されて ヽること が確認された(データ非提示)。
[0066] WM
雄 C57BL/6 (6週齢)および balb/c nu/nuマウス(5週齢)は KBT Oriental Co., Ltd. (Charles River Grade, Tosu, Saga, Japan)より入手した。全ての動物実験は、認可さ れた手順に従って実施し、九州大学における動物、組み換え DNA、および感染性病 原体実験委員会による研究動物の飼育および使用の推奨手順および日本国政府の 法律 (No.105)および告知 (No.6)に従った。
[0067] 胺虚血モデル
外科的処置および肢の予後評価の詳細は以前に記載されている(Masaki I et al, Circ Res. 2002;90:966-973; Onimaru M et al., Circ Res. 2002;91:723- 730)。遺伝子 導入では、手術完了の直後に 25 1のベクター溶液を大腿筋 2箇所に注入した。内 在性 PDGF-AA活性のインビボ抑制は、 PDGF-AA特異的中和ャギポリクローナル IgG (ヒトおよびマウス蛋白質に交差反応する) (R&D)を用い、デイスポーザブルのマ イク口浸透圧ポンプ(Model 1007D, ALZA Co., Mountain View, CA)を介して以前の 記載の通りに行った (Masaki I et al" Circ Res. 2002;90:966-973; Onimaru M et al" Circ Res. 2002;91:723— 730)。
[0068] 腫瘍移植
106の SASまたは MH134細胞を腹壁の皮内に移植し、腫瘍容積を 1日おきに評価し
た。移植から 7日後、 RAPA (1.5 mg/kg/day)を毎日腹腔内投与した。 Day 7または 28 に、マウスを犠牲死させ腫瘍を ELISAに供した。
[0069] 酵素結合ィムノソルベントアツセィ(ELISA)
以前の記載 (Masaki I et al, Circ Res. 2002;90:966-973; Onimaru M et al, Circ Res. 2002;91:723-730)の通り、マウス肢筋、腫瘍、および培養液中の蛋白質含量を 、 Quantikine Immunoassay systemsを用い、製造元の説明に従ってマウス(164およ び 220アミノ酸残基型の両方を認識)およびヒト VEGF- A、ヒト FGF- 2 (ヒトおよびマウス の両方を認識)、ヒト HGF (R&D Systems Inc., Minneapolis, MN)、およびラット HGF ( マウス HGFも認識, Institute of Immunology Inc. Tokyo, Japan)について決定した。
[0070] ノーザンブロット解析
全細胞 RNAを ISOGEN system (Wako Pure Chemicals, Osaka, Japan)で単離し、電 気泳動しナイロンメンブレンに転写した。メンブレンは、ランダム [ o; -32P]dCTPラベル したプローブと 60°Cでー晚ハイブリダィズさせた。バンドを可視化し photoimagerでデ ンシトメトリーに供した。
[0071] リアルタイム PCR
ISOGEN systemを用いて虚血肢筋から全 RNAを抽出し、 RNaseフリー DNase (Boehringer)で処理した。分注(25 ng)した全 RNAを逆転写し、 TaqMan EZ RT- PCR kitおよび Sequence Detection System, model 7000 (PE Biosystems) 用いて製造兀 の説明に従 、トリプリケートで増幅した。 PCTプライマーおよび TaqManプローブの塩 基配列を表に示した。マウス GAPDHコントロール試薬を内部標準として用いた。コン トロールの全 RNA (PE Biosystems)の連続希釈を用いて構築した相対標準曲線から 製造元の説明に従!ヽ標的量を決定した。各試料にお!ヽて標的遺伝子の発現レベル を GAPDHレベルにより標準化した。
表 1
リアルタイム PCRに用いたプライマーおよびプローブの配列
VEGF (アンプリコンサイズ: 137 bp)
VEGF- forward 5'- GCAGGCTGCTGTAACGATGAA- 3' (配列番号: 11)
VEGF- reverse 5'- TCACATCTGCTGTGCTGTAGGA- 3' (配列番号: 12)
VEGF— hybridization probe
5'- FAM- CATGCAGATCATGCGGATCAAACCTC- TAMRA- 3' (配列番号: 13) HGF (アンプリコンサイズ: 87 bp)
HGF- forward 5'- CAGCAATACCATTTGGAATGGAAT- 3' (配列番号: 14)
HGF- reverse 5'- TTGAAGTTCTCGGGAGTGATATCA- 3' (配列番号: 15)
HGF— hybridization probe
5'- FAM- CGTTGGGATTCGCAGTACCCTCACA- TAMRA- 3' (配列番号: 16) PDGF-A (アンプリコンサイズ: 125 bp)
PDGF- A- forward 5'- CGTCAAGTGCCAGCCTTCA- 3' (配列番号: 17)
PDGF— A— reverse 5し ATGCACACTCCAGGTGTTCCT— 3' (配列番号: 18)
PDGF— A— hybridization probe
5'- FAM- CACTTTGGCCACCTTGACACTGCG- TAMRA- 3' (配列番号: 19) PDGFR α (アンプリコンサイズ: 148 bp)
PDGFR a -forward 5'- GAGCATCTTCGACAACCTCTACAC- 3' (配列番号: 20)
PDGFR a -reverse 5'- CCGGTATCCACTCTTGATCTTATTG- 3' (配列番号: 21)
PDGFR -hybridization probe
5'- FAM- CCCTATCCTGGCATGATGGTCGATTCT- TAMRA- 3' (配列番号: 22) GAPDH (アンプリコンサイズ: 117 bp)
GAPDH- forward 5'- CCTGGAGAAACCTGCCAAGTAT- 3' (配列番号: 23)
GAPDH- reverse 5'- TTGAAGTCGCAGGAGACAACCT- 3' (配列番号: 24)
GAPDH— hybridization probe
5し FAM- TGCCTGCTTCACCACCTTCTTGATGT- TAMRA- 3' (配列番号: 25) レーザードップラー還流像
腫瘍内血流をレーザードップラー環流像 (Laser Doppler perfusion image; LDPI) 解析機 (Moor Instruments, Devon, UK)を用いて以前の記載の通りに評価した (Masaki I et al, Circ Res. 2002;90:966-973; Onimaru M et al, Circ Res.
2002;91:723-730)。小腸の血流によるバックグランドノイズを除去するため、測定の直 前にブルーシートを腹腔に挿入した。周囲の明るさおよび温度によるデータのばらつ きを最小化するため、 LDPIインデックスは陰嚢内の pixelに対する腫瘍内の pixelの比 として表した。
[0073] 統龍析
全てのデータは平均士 SEMとして表し、 Fisherの補正による one-way ANOVAで解 祈した。生存解析では、救肢スコア(limb salvage score)で表した生存率(Masaki I et al., FASEB J. 2001;15: 1294-1296)を Kaplan- Meyer法で解析した。生存実験の統計 的有意性は log rank testで決定し、 P〈0.05を統計的有意とした。
[0074] [実施例 1]
本実施例では、 FGF- 2および PDGF- AAは、 FGF- 2が媒介する PDGFR aのアップ レギュレーションを介して協同的に VEGFおよび HGF/SF発現を亢進することを示す。 宿主血管系の血管新生応答における PDGF-AAシグナルの役割を評価するため、 血清フリーの条件で培養したヒト間葉系細胞(MRC5および HSMC)における FGF-2 を介した VEGFおよび HGFの誘導を調べた。図 1 Aに示すように、 MRC5細胞の培養 液中への VEGF放出は、 FGF-2により刺激された力 PDGF-AAによっては刺激され なかった(図 1A左)。逆に、 PDGF- AAは HSMC培養液中の VEGF量をアップレギユレ ートしたが、 FGF-2は VEGFをアップレギュレートしないことが判明した(図 1A右)。一 方、 FGF- 2および PDGF- AAを用いた共刺激は、 MRC5および HSMCの両方の細胞 型において、 VEGF発現(図 1A)および HGF/SF発現(データ非提示)に関して協同 的な増強効果を示すことが判明した。 MRC5細胞と同様に、マウス線維芽細胞株 NIH3T3でも、 VEGFおよび HGF発現に対する FGF-2と PDGF-AAの協同効果が観察 された(データ非提示)ことから、このような効果は動物種によらず間葉系細胞に共通 していることが示された。虚血治療等の臨床場面においても、 FGF2および PDGF-AA を投与することにより、それぞれを単独で投与するよりも高い効果で血管新生を誘導 することが可能と考えられる。ノーザンブロット解析により、 MRC5および HSMCの両方 の細胞型にぉ 、て FGF-2を介した PDGFR a転写のアップレギュレーションが示され たが(図 1B)、 PDGF-AAは FGFR1の発現は変化させなかった(データ非提示)。これ
らの知見は、 FGF-2は、間葉系細胞における VEGFおよび HGF/SFの発現を調節す る PDGF-AAの応答を、 PDGFR aの転写調節を介して調節して 、ることを示唆して!/ヽ る。
[0075] [実施例 2]
本実施例では、間葉系細胞における FGF-2依存的 VEGFおよび HGF/SF発現は PDGFR a〖こより媒介され、 PDGFR α - p70S6Kシグナル伝達経路の阻害によりシャット ダウンされることを示す。
MCにおける VEGFおよび HGF/SF発現に及ぼす FGF-2および PDGF-AAの協同的 効果に加え、本発明者らは、以前、 FGF-2は、 HSMCにおける HGF/SFの持続発現 に寄与する Rasおよび p70S6Kシグナル伝達を介して、 PDGF-AAの内在発現を上昇 させることを見出した (Onimaru M et al., Circ Res. 2002;91:723-730)o本発明者らは 、線維芽細胞(MRC5細胞)においても、 VEGFおよび HGF/SF発現において類似し た系が見られると予想した。以前の研究で観察されたように、 FGF-2は典型的に VEGFおよび HGF/SF蛋白質をアップレギュレートし、これらの効果は MEK阻害剤、 Ras- inhibitory peptideゝおよび p70S6Kインヒビター (RAPA)によって失われた(図 2 A)。 MRC5細胞における FGF-2を介した VEGF発現の時間経過の繰り返しノーザンブ ロット解析では、 HSMCを用いた HGF/SF発現の場合で以前みられたのと同様に (Onimaru M et al., Circ Res. 2002;91:723-730), bi- phasic (3時間目とそれより後)な VEGFのアップレギュレーションが起こることが判明した(図 2B)。初期の方の VEGF発 現は RAPA処理により影響されな ヽが、後期の持続的発現は RAPA処理により完全に 消滅した(図 2B)。さらに、 FGF-2を介した VEGF蛋白質のアップレギュレーションは、 抗 PDGFR o;抗体により完全になくなり(図 2C)、 RAPAで観察されたのと同様であった
(図 2A)。 HGF/SF発現についても同じ結果が得られたことから(データ非提示)、 MC において PDGFR a系は、 FGF-2を介した VEGFおよび HGF/SF発現の増強および持 続に必須の役割を果たして ヽると結論された。
[0076] [実施例 3]
本実施例では、 PDGFR o;は、マウス重症肢虚血における FGF-2の治療効果に必 須の役割を果たすことを示す。
インビボにおける FGF- 2— PDGFR a VEGF/HGFの予想されるカスケード様の関連 を調べるため、 FGF-2を発現する組み換えセンダイウィルス (SeV-FGF2)をインビボ で用いて、 2つの別々のマウス肢虚血モデル、すなわち C57BL/6マウスの救肢モデ ノレ (limb salvage model)および balb/c nu/nuマウスの肢ft落モテノレ (autoamptation model) (Masaki I et al, Circ Res. 2002;90:966-973)を評価した (Masaki I et al., Circ Res. 2002;90:966-973; Onimaru M et al., Circ Res. 2002;91:723-730;
Compagni A et al., Cancer Res. 2000;60:7163-7169; Yonemitsu Y et al., Nat Biotechnol. 2000;18:970-973; Masaki I et al., FASEB J. 2001;15: 1294-1296;
Yamashita A et al., J Immunol. 2002;168:450-457; Shoji F et al., Gene Ther.
2003;10:213-218)。救肢モデルでは、 ELISAによるアツセィで FGF-2の過剰発現が確 認されたが(データ非提示)、リアルタイム PCRによる定量アツセィでは PDGF-Aおよ び PDGFR aの両 mRNAのアップレギュレーションが確認された(図 3Aおよび B)。同じ 組織サンプルにおいて、 FGF- 2により VEGFおよび HGF/SF発現も同様に増強するこ とが観察され、その効果は抗 PDGF-AA中和抗体により消滅し、また RAPA処理によつ ても消滅した(図 3Cおよび D)。 RAPAのこの効果は蛋白質レベルでも確認された(図 3Eおよび F)。また、肢脱落モデルにおける FGF-2の治療効果は抗 PDGF-AA抗体お よび RAPAにより失われた(図 4)こと力ら、 PDGFR a系は FGF-2を介した治療的な血 管新生にぉ 、ても必須の役割を果たして 、ることが示された。
[実施例 4]
本実施例では、 PDGFR a -p70S6Kシグナル伝達経路の阻害は、各腫瘍型におけ る血管新生因子群の発現の多様性とは無関係に腫瘍休眠(tumor dormancy)を誘 導することを示す。
腫瘍フリー系での結果は、 MCにおける PDGFR a -p70S6Kシグナル伝達経路は血 管新生に必須であり、 RAPAは FGF-2を介した血管新生における抗 PDGF-AA抗体 の効果を模倣することを示唆する。し力しながら、ュビキタスな血管新生反応におけ る血管新生刺激とは無関係に RAPAが作用できるのかについては疑問がある。これを 明らかにするため、 2つの別々の腫瘍細胞株を用いて腫瘍血管新生の試験を行った 。腫瘍細胞株としては、 VEGF、 FGF-2,および PDGF-AAを高レベルで発現するヒト
口腔扁平上皮細胞癌である SAS、および SASに比べ VEGFおよび FGF-2の分泌がは る力に低く、 PDGF- AAの発現は見られないマウス肝細胞癌である MH134を用いた。
[0078] 図 5A— Dに示すように、 RAPAは SASおよび MH134両方の腫瘍型の増殖を抑制し たことから、 RAPAの抗腫瘍効果は各腫瘍型の血管新生増殖因子の発現パターンと は無関係であることが示唆された。 PDGFR a -p70S6K経路における抗腫瘍効果が腫 瘍型に依存しないことを示す証拠をさらに得るため、ヒト PDGFR o;可溶型を発現する SeV- hsPDGFR aを腫瘍内注射し、腫瘍の増殖をアツセィする実験を行った。期待し たように、 SeV-hsPDGFR aは両腫瘍型の増殖を有意に阻害した(図 5E— F)。実験の 終了時に腫瘍重量を測定したところ、ルシフェラーゼを発現する SeVベクターを投与 したコントロールに比べ、 SeV-hsPDGFR aを投与した腫瘍重量は両腫瘍型とも有意 に減少していた(SAS- luciferase: 415.1 ± 104.9 mg vs. SAS-hsPDGFR a 54.3 ±9.6 mg, MH134— luciferatse: 3,930.4±304.4 mg vs. MH134— hsPDGFR a 2,654.4士 296.5 mg,それぞれ P=0.0027および P=0.0106、平均士 S.E.)。
[0079] RAPA処理では内皮の直接的増殖阻害(Vinals F et al., J Biol Chem.
1999;274:26776-26782; Yu Y et al, J Cell Physiol. 1999;178:235-246)などの、 P70S6K阻害とは別の抗腫瘍作用があることを考慮すると、 SeV-hsPDGFR aによる PDGFR a -p70S6K経路の阻害作用は非常に高ぐ複数回投与を行なえば、より効果 的に腫瘍増殖を抑制することが可能と考えられる。
[0080] PDGFR a -p70S6Kシグナル伝達経路の阻害による抗腫瘍効果が血管新生因子の 発現パターンによらないことを確かめるため、インビボおよびインビト口において、
RAPAの存在下および非存在下における VEGFの発現を調べた。培養系にお!/、ては 、 100 ng/mlの RAPAは SASの内因的 VEGF分泌量を基底状態の約 30から 50%に有意 に減少させた。調べた他の腫瘍(口腔扁平上皮細胞癌: QG56、 TF、 KN、 EBC- 1、お よび腺癌: PC9)でも、 normoxiaの条件で基底状態からの同様の減少が見られた。同 様の知見は他のグループからも報告されている(Guba M et al., Nat Med.
2002;8:128-135)。また、各腫瘍型において PDGF-AAおよび FGF-2発現に対する RAPAの影響は観察されな力つた(データ非提示)。しかしながら、 MH134腫瘍のイン ビボ評価においては、 RAPA処理して 3日または 7日後の腫瘍内での VEGF発現は、
ノ ッファーで処理したコントロールと比べ有意に上昇した(図 6A)。さらに、両方の腫 瘍において、 RAPA注入の開始力 7日後の血流が減少していること力 ドップラー環 流像解析により判明した(図 6B)。
[0081] これらの結果は以下のように説明し得る。 RAPA処置は低酸素症(hypoxia)を誘導 し、その結果、 hypoxiaに依存した機構を介して VEGFがアップレギュレートされ、 RAPAを介したダウンレギュレーションが相殺された。この機構は、以下のようにして確 認された。培養 MH134における hypoxia (2.5% 0 )が誘導する VEGF発現に対して、
2
RAPAは、有意ではあるが、最小限の効果し力示さない(図 6C)。同様の結果が、調 ベた全ての細胞株で得られた(データ非提示)。
[0082] そこで、 SASの xenograftモデルにお!、て、ヒトおよびマウス特異的 ELISA系を用いて VEGFの起源を調べた。固形癌において、 RAPAはマウス VEGF量には影響せず、ヒト VEGFを有意に上昇させたことから(図 6D)、腫瘍細胞由来の VEGFの上昇は、各腫 瘍型の血管新生因子の発現の多様性によらず、宿主血管系を標的とする血管新生 による hypoxiaに媒介されることが示された。
[0083] [実施例 5]
本実施例では、 PDGF-Aの発現の阻害による腫瘍増殖の抑制を例示する。 ヒト PDGF-A遺伝子のクローユングを以下のように行った。 MRC5細胞 mRNAより逆 転写(Isogen,01igo dT primerを使用)した cDNAを用い、フォワードプライマー AA GAATTCATGAGGACCTTGGCTTGCCTGC (配列番号: 26)、リバースプライマー AAGAATTCTTAGGTGGGTTTTAACCTTTTTCTTTT (配列番号: 27)を用いて PCRを行った(下線部は EcoRI部位)。 96°C5分の後、 96°C30秒 60°C45秒 72°C45秒 を 35サイクル行い、 72°C5分を行った。 PCR産物(636 bp)を TAクロー-ングベクター pCR II (登録商標, Invitrogen)にサブクローユングした。配列をシークェンシングに より確認後、制限酵素 EcoRIにて切り出し、発現ベクター pcDNA 3.1(+) (登録商標, Invitrogen)へサブクローユングした。制限酵素 Sadで切断して方向性を確認し、アン チセンス遺伝子を同定した(pcDNA3-asPDGFA)。
[0084] 外来的に導入した VEGF遺伝子の発現に対する PDGF-Aの発現の有無の影響を 調べるため、 NIH3T3細胞にヒト VEGF165発現プラスミドベクター
(pcDNA3-hVEGF165)とアンチセンスヒト PDGF- A発現ベクター
(pcDNA3- asPDGFA)を同時に遺伝子導入した。コントロールとして、空ベクター
(pcDNA 3.1)またはヒト VEGF165発現プラスミドベクター(pcDNA3- hVEGF165)を単 独で導入した細胞を作製し VEGFレベルを比較した。その結果、空ベクター (pcDNA
3.1)導入細胞からの VEGF発現は検出されず、 pcDNA3-hVEGF165単独を導入した 細胞からの VEGFレベルは 2.42 ± 0.73 (平均士 S.E.) pg/ μ g protein,
pcDNA3- hVEGF165および pcDNA3- asPDGFAを共導入した細胞からの VEGFレべ ルは 2.27 ± 0.57 pg/ μ g proteinであり、 VEGF165レベルは、 pcDNA3- asPDGFAの 導入の有無により有意な影響を受けず、 PDGF-Aのアンチセンスによる外来 VEGF発 現への干渉は見られないことが判明した(図 7)。
[0085] ヒト扁平上皮癌、腺癌に対し、アンチセンスヒト PDGF-A発現ベクター
(pcDNA3-asPDGFA)を遺伝子導入し、安定形質転換細胞株の作製を行った。具体 的には、腫瘍細胞株 (SAS, TF, QG56, A549)へ Lipofectamine (登録商標, Life Technologies)にて pcDNA3- asPDGFAをトランスフエクシヨン後、 G418 500 μ g/ml (Promega)にて培養し、形質転換細胞株を得た。これらの細胞を 96 well plateにて single cell cultureを行い、 ELISAにて PDGF- A発現抑制の強いコロニーを選択した。 同過程を 3回繰り返し行った。得られた腫瘍細胞 5 X 105個を 6 well plateに撒き、一 晚培養し、血清不含 RPMI 1640培地にて 2回 washし、血清不含 RPMI 1640培地 1ml にて 24時間インキュベートした。その後細胞を回収し、 PDGF-AA ELISA kit (R&D) にて PDGF-AAの発現レベルを定量した。同様に、培養液中に分泌された VEGFを、 ELISAにて定量した。コントロールとして空ベクターを導入した腫瘍細胞を作製した。
[0086] 図 8(A)は、各種癌細胞における PDGFR aの発現を RT-PCRにより測定した結果を 示す。対象とした腫瘍細胞全てに PDGFR aが発現していることが判明した。これらの 癌細胞にアンチセンスヒト PDGF-A発現ベクターを導入したところ、全ての腫瘍細胞 において、 PDGF-AAの発現レベルを有意に低下させると同時に、 VEGFの発現レべ ルも低下させることが判明した (図 8(B)— (E))。
[0087] 次に、 PDGF-Aの発現を阻害した癌細胞について、腫瘍移植アツセィにより腫瘍の 増殖性の変化を調べた。上記で作製した形質転換腫瘍細胞 1 X 106個を、 Balb/c
nudeマウス (5週齢、雄)の側腹部へ皮下注射した。以降、腫瘍サイズの計測を週 3回 行った。腫瘍容積は、 7u /6*a*b*Cにて計算した(a, b,および cは腫瘍の横径、縦径 、および幅を表す)。図 9に示すように、 PDGF-Aアンチセンスを発現させた全ての腫 瘍細胞において、腫瘍増殖の明らかな低下を認めた。なお in vitroでは、これらの細 胞の増殖能に有意差はな力つた。
[0088] ヒト肺癌手術新鮮標本における、 PDGF-Aと VEGFの mRNA発現の相関をリアルタイ ム PCRにより調べた。具体的には、ヒト肺癌組織 ·正常組織より mRNAを逆転写および 精製して cDNAを調製し(Isogen,01igo dT primerを使用)、 ABI 7000を用いてリアルタ ィム PCRにより PDGF-A mRNAを定量した。フォワードプライマーとして
TCCACGCCACTAAGCATGTG (配列番号: 28)、リバースプライマーとして
TCGACCTGACTCCGAGGAAT (配列番号: 29)、 Taqmanプローブ(FAM、 TAMRA) として CTGCAAGACCAGGACGGTCATTTACGA (配列番号: 30)を用いた。 50°C2 分の後、 96°C10分を行い、 95°C15秒 60°C1分を 40サイクル行った。結果、癌部およ び非癌部ともに、 PDGF-A発現と VEGF発現は有意に相関することが判明した(図 10 ) oこれは、 PDGF-Aのオートクラインによる VEGF発現誘導システム力 正常組織の みならず、癌においても成立していることを示唆する。
[0089] また、ヒト肺癌切除標本における PDGF-AA陽性率と患者予後の相関を調べた。ヒト 肺癌切除標本における PDGF-AA発現を免疫組織ィ匕学染色により調べるため、ヒト肺 癌組織切片を脱パラフィンし、 PBSにて 3回洗浄した。 3%スキムミルクにて 30分間プロ ッキングを行い、 1次抗体(抗ヒト PDGF-AA抗体、 60倍希釈、 R&D)にて 4°Cでー晚反 応させた。 PBSで 3回洗浄後、 2次抗体(ヒストファインシンプルスティン MAX PO(G)、 Nichirei Corp.)にて室温、 30分反応させ、 DABにて発色させた。図 11〖こ示すよう〖こ、 PDGF-AA陽性肺癌患者の予後は、陰性患者のそれと比較して有意に低力つた。こ れらの結果から、 PDGF-Aの発現レベルの検査により、腫瘍の悪性度、患者予後を 予測することが可能である。すなわち、腫瘍における PDGF-Aの発現を測定し、 PDGF-Aの発現が検出された場合に、発現が陰性の腫瘍に比べ悪性であり、予後が 不良と判断される。また、この結果は PDGF-Aの発現および/または活性の阻害が、 PDGF-A陽性癌に対する抗腫瘍治療に有効であることを示して ヽる。
産業上の利用可能性
本発明により、 PDGF- Aの発現または PDGF- Aホモダイマーと PDGFR aとの結合を 阻害することを通して腫瘍増殖を抑制する方法が提供された。 PDGF-AAによる PDGFR a -p70S6Kシグナル伝達経路の活性化は、腫瘍血管形成の重要なファクタ 一であり腫瘍を患う患者の予後と関連している。腫瘍またはその周辺組織における PDGF- Aの発現を阻害することによって、あるいは PDGF- Aホモダイマーと PDGFR a との結合を阻害することによって、腫瘍血管形成は阻害され、腫瘍の増殖を抑制する ことができる。