給水ポンプシステム
技術分野
[0001] 本発明は、原子力発電所や火力発電所等における給水ポンプシステムに関するも のである。
背景技術
[0002] 従来より、例えば原子力発電プラントや火力発電プラントにおいては、復水給水系 統が採用されている。図 6は、このような従来の発電プラントにおける復水給水系統 の一例を模式的に示す図であり、原子力発電プラントの場合を例示している。同図に おいて、図示しない原子炉からの熱により蒸気発生器 1で発生した蒸気は、高圧蒸 気タービン 2さらには低圧蒸気タービン 3を駆動し、これにより発電機 4にて発電が行 われる。なお、火力発電の場合は原子炉の代わりにボイラーが採用される。
[0003] これら蒸気タービンにて発電に寄与した蒸気は、復水器 5にて図示しない海水と熱 交換され、凝縮し復水となって復水器 5内に一時貯蔵される。復水器 5内に一時貯蔵 された復水は、互いに並列に配設された 2台の復水ポンプ 6により昇圧され、さらに、 前記復水ポンプ 6と直列に接続され互いに並列に配設された 2台の復水ブースター ポンプ 7によりさらに昇圧される。
[0004] そして、脱気器水位制御弁 10を介して加熱器 11で加熱された後、脱気器 12へと 流入する。脱気器 12へ流入した復水は、給水ブースターポンプ 13a及び給水ポンプ 13bにより昇圧され、加熱器 14で加熱された後、蒸気発生器 1へ給水される。さて、 このような原子力発電プラントの給水ブースターポンプは、原子炉の冷却のため脱気 器圧力が急激に低下するといつた負荷急減時にも、トリップすることなく運転継続する ことが要求されている。
[0005] そこで従来より、脱気器の圧力低下を緩和するとともに、給水ブースターポンプへ の復水の輸送遅れ短縮を行い、 NPSH (Net Positive
SuctionHead:正味有効吸込水頭)を確保するため、いわゆる NPSHコントローラが用 いられている(例えば、特許文献 1参照)。 NPSHコントローラは、復水絞り,脱気器
への補助蒸気注入,及びポンプミニマムフロー運転を組み合わせた制御システムで あり、具体的には以下の制御を行う。
[0006] まず、負荷遮断時には、通常運転時に脱気器を加熱して!/ヽるタービン抽気が遮断 されるので、その遮断信号により脱気器水位制御弁を通常開度力 絞り込み、給水 に必要な脱気器タンク貯水量を確保しつつ、脱気器への冷水を減少させることにより 、脱気器圧力の低下を緩和する。
[0007] また、抽気以外の補助蒸気等から加熱蒸気を脱気器へ強制注入し、圧力低下を緩 和する。さらに、ポンプのミニマムフロー運転を強制的に行い、タンク'ポンプ間の配 管の輸送遅れを緩和する。そして、これらの組み合わせにより、有効 NPSH (NPSH av.)を要求 NPSH (NPSHreq.)以上に確保する。
[0008] 一方、 NPSHコントローラの設計に用いて 、るシユミレーシヨン手法は、過渡時の脱 気器圧力,タンク'ポンプ間の配管の輸送遅れ時間,及び圧力損失から、ポンプ吸込 点の圧力と給水温度を求め、有効 NPSHを計算するものであり、その精度は実機デ ータと照合して十分であることが確認されて 、る。
[0009] ここで、有効 NPSH (NPSHav.)は以下のように定義される(図 6参照)。
NPSHav. = Pp-Ps = (Pd + Η— Δ P)— Ps
但し、
Pp :ポンプ吸込点圧力
Ps:ポンプ吸込点給水温度の飽和蒸気圧
Pd:脱気器圧力
H :静水頭
Δ Ρ :配管圧損
である。
[0010] また、要求 NPSH (NPSHreq.)は、プラント出荷時に実機で常温工業用水を用い て実施される試験結果が用いられ、例えば堅型給水ブースターポンプの場合、 4m 程度の数値となる。そして、給水ポンプシステム設計時の判定には以下の条件式が 用いられる。
NPSH余裕 = NPSHav.— NPSHreq. > 0
特許文献 1:特公平 7 - 122486号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0011] し力しながら、上記従来の計算方法によると、給水ポンプシステムは有効 NPSH (N PSHav.)の過大な設計となってしまう。具体的には、タンク据付高さが不必要に高く 、またタンク容量が不必要に大きい無駄な設計となる。或いは、先行して決められた システム配置条件のもとでの不必要な機器設計や、過剰で複雑な制御設計が行わ れ、コストアップや制御不安定による信頼性の低下を招くこととなる。
[0012] これは、要求 NPSH (NPSHreq.)の値が常温.空気飽和.不純物含有状態の工業 用水に基づき決定されており、実機における高温 ·脱気 ·純水状態の復水使用時で の必要値と比較して、不必要に高 、数値となって!/、るからである。
[0013] 本発明は、このような問題点に鑑み、簡単な構成で、実機運転条件での要求 NPS Hを高精度に導出し、これに基づき小型,簡素化を図った、低コストでしかも信頼性 の高 、給水ポンプシステムを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0014] 上記目的を達成するために本発明では、常温,空気飽和,不純物含有状態の試 験水に基づく第 1の要求 NPSHを補正して、実機運転条件である高温,脱気,純水 状態の復水に基づく第 2の要求 NPSHを導出し、その第 2の要求 NPSHに基づき設 計されて成ることを特徴とする。
[0015] また、以下の式に基づき前記補正を行うことを特徴とする。
NPSHreq. A = NPSHreq. + f (T) +g (x) +h
但し、
NPSHreq.A:第 2の要求 NPSHの値
NPSHreq. :第 1の要求 NPSHの値
f (T) :試験水温度の影響の補正項
g (X) :溶存酸素量の影響の補正項
h :微粒子不純物の影響の補正項
である。
[0016] また、実機運転条件にお!、て、ポンプ翼間での減圧沸騰によるキヤビテーシヨンか ら規定される要求 NPSHと、ポンプ入口での減圧沸騰による気相体積から規定され る要求 NPSHとを比較し、何れか大き!/、方を前記第 2の要求 NPSHとするようにした ことを特徴とする。
[0017] さらに、常温及び所定の高温における、ポンプ揚程と NPSHとの関係を求めた試験 結果から、 NPSHの差即ち飽和蒸気圧の低下量を求め、これに対応する比容積比 より所定の実験式を用いて所望の更なる高温条件での比容積比を求め、これに対応 する飽和蒸気圧の低下量即ち要求 NPSHの低下量を求めて、前記ポンプ翼間での 減圧沸騰によるキヤビテーシヨン力 規定される要求 NPSHを予測するようにしたこと を特徴とする。
発明の効果
[0018] 本発明によれば、簡単な構成で、実機運転条件での要求 NPSHを高精度に導出 し、これに基づき小型,簡素化を図った、低コストでし力も信頼性の高い給水ポンプ システムを提供することができる。
図面の簡単な説明
[0019] [図 1]試験水温度の影響の補正項を導出する線図。
[図 2]溶存酸素量の影響の補正項を導出する線図。
[図 3]各運転条件における NPSHとポンプ揚程との関係を示すグラフ。
[図 4]ポンプ入口蒸気の影響を示すグラフ。
[図 5A]各運転条件における NPSHとポンプ揚程との関係を詳しく示すグラフ。
[図 5B]各運転条件における NPSHとポンプ揚程との関係を詳しく示すグラフ。
[図 5C]各運転条件における NPSHとポンプ揚程との関係を詳しく示すグラフ。
[図 6]従来の発電プラントにおける復水給水系統の一例を模式的に示す図。
符号の説明
[0020] 1 蒸気発生器
2 高圧蒸気タービン
3 低圧蒸気タービン
4 発電機
5 復水器
6 復水ポンプ
7 復水ブースターポンプ
10 脱気器水位制御弁
11 加熱器
12 脱気器
13a 給水ブースターポンプ
13b 給水ポンプ
14 加熱器
発明を実施するための最良の形態
[0021] 以下に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。実機運転条件は、飽和蒸 気圧が約 lOata (飽和温度 180°C程度)であり、これに対してポンプの試験状態では 常温 (飽和蒸気圧 0. 05ata)となっている。つまり、同一の圧力変化に対する発生蒸 気量はほぼ同一であるにもかかわらず、圧力が実機では試験状態の約 200倍である ため、発生蒸気の体積は約 200分の 1となり、気相体積支配のポンプ吐出性能即ち 要求 NPSHに対する影響は、実機では非常に小さくなる。具体的には、常温の場合 と比較して 200倍の重量のガスが発生しないと、 NPSH不足にはならない。
[0022] し力も、周知のように、高温での飽和蒸気圧の温度に対する変化率が常温でのそ れよりも遙かに大きいので、高温時に沸騰したとしても周囲の水がサブクールされや すぐ即ち加圧状態となりやすいので、ポンプ吐出性能への影響は小さくなる。従つ て、高温 NPSHが常温の場合より小さぐ或る程度の減圧沸騰状態であっても、ボン プ吐出圧は低下しない。
[0023] また、実機では脱気水 (溶存酸素 5ppb以下)を用いるが、試験時は上述したように 常温工業用水を用いるため、ポンプ吸込点では蒸気の他に空気が発生し、その分、 気相体積が大きくなる。即ち、試験時の要求 NPSHは実機の場合より大きい値となる 。さらに、実機運転で用いる水においては、沸騰核となりうる微小鉄成分の含有量は 高々 lOppb程度である力 試験で用いる工業用水には多くのゴミ(不純物)が含まれ るので沸騰しやすくなる。即ち、この場合も試験時の要求 NPSHは実機の場合より大
きい値となる。
[0024] 本発明では、以上のような実状を考慮し、給水ポンプシステム設計時に通常用いら れる、常温工業用水での試験結果に基づく要求 NPSHを補正して、実機運転条件 での要求 NPSHを高精度に導出する。そして、これに基づき給水ポンプシステムを 設計する。
実施例 1
[0025] まず、実機運転条件での要求 NPSHを導出するための基本的な考え方を実施例 1 として述べる。本実施例では、通常行われている常温工業用水での試験結果である 要求 NPSHを下記の式にて補正し、実機運転条件での要求 NPSHを高精度に導出 する。
NPSHreq. A = NPSHreq. + f (T) +g (x) +h
但し、
NPSHreq.A:実機運転時の要求 NPSHの値
NPSHreq. :常温工業用水による試験結果に基づく要求 NPSHの値 f (T) :試験水温度の影響の補正項
g (X) :溶存酸素量の影響の補正項
h :微粒子不純物の影響の補正項
である。
[0026] 図 1は、 f (T)の導出線図である。同図では横軸に水の温度 Tを取っており、縦軸に f (T)を取っている。同図に示すように、試験水温度 20— 95°Cの範囲で温度変更試 験を行い、各温度での f (T)を求め(図中に'で示す)、これに基づき指数関数や 2次 関数等の近似曲線 (破線で示す)を導出し、実機における温度 180°Cでの f (T)を推 測し決定する。
[0027] 図 2は、 g (x)の導出線図である。同図では横軸に溶存酸素量 Xを取っており、縦軸 に g (x)を取っている。なお、横軸は対数目盛を想定している。同図に示すように、溶 存酸素量 8000ppb (8ppm,空気飽和水)一 50ppbの範囲で溶存酸素量変更試験( 脱気水試験)を行い、各温度での g (x)を求め(図中に'で示す)、これに基づき指数 関数や 2次関数等の近似曲線 (破線で示す)を導出し、実機における溶存酸素量 5
ppbでの g (X)を推測し決定する。
[0028] また、微粒子不純物の影響の補正項 hについては、上記図 1,図 2で説明したものと 同様にして、試験水の不純物含有量を管理し、各不純物含有量での hを求め、これ に基づき指数関数や 2次関数等の近似曲線を導出し、実機における純水状態での h を推測し決定する。
実施例 2
[0029] 次に、実機運転条件での要求 NPSHを導出するための更に具体的な手法を実施 例 2として述べる。 NPSHに対する影響因子としては、一つにはポンプ翼間の閉塞が ある。これは、給水ブースターポンプの回転する翼間において、流水の速度上昇によ り静圧が低下することでガスが発生し、これにより翼間の通路が閉塞 (空洞になること ,キヤビテーシヨン)して給水ブースターポンプの揚程が低下するものである。これが、 従来より一般的に考えられてきた NPSHの要求メカニズムである。
[0030] 発生するガスの種類としては、溶存酸素によるものと減圧沸騰による蒸気とが挙げ られる。溶存酸素によるものとは、常温飽和状態での溶存酸素(8ppm)が減圧されて 気相となるものであり、これが翼間を閉塞する。また、減圧沸騰による蒸気とは、上述 した流水の速度上昇による静圧低下力 加圧量より大きいときに減圧沸騰し、これに より発生する蒸気のことであり、これが翼間を閉塞する。
[0031] NPSHに対する影響因子としてもう一つには、ポンプの入口気相体積がある。これ は、給水ブースターポンプの入口で既に減圧沸騰が生じているとき、発生した蒸気の 気相体積の影響により、給水ブースターポンプの揚程が低下するものである。なお、 ポンプの入口で減圧沸騰が生じて 、るときは、有効 NPSHが負と表現される。
[0032] ここで、上述した蒸気によるポンプ翼間の閉塞は、翼間での減圧沸騰により翼表面 で新たに発生した蒸気が翼間通路を閉塞するものであるが、その圧力では既にボン プ入口で沸騰して ヽるので、翼間の閉塞と入口気相体積はそれぞれ独立に検討す るべきものとなっている。そして、最終的には両者のうち要求 NPSHの大きい方がポ ンプの吐出性能を支配し、即ちここでの高温 NPSHを示すこととなる。つまり、温度に より NPSHの要求根拠とその数値が異なる。
[0033] さて、このような高温 NPSHを予測するための試験を行った。ここでのポンプ運転条
件は、常温空気飽和,常温脱気,及び高温(95°C)脱気の 3つとした。ここで、常温と は 30°C程度であり、また高温である 95°Cは試験設備における限界温度から定めた 温度であって、これらより高温(150°C)脱気における NPSHを予測する。この高温 N PSH予測手法については後に詳述する。また、計測流量点は、ポンプの定格流量 点,過大流量点,及び部分流量 (定格未満の流量)点の 3種とした。
[0034] 図 3は、各運転条件における NPSHとポンプ揚程との関係を示すグラフである。同 図では横軸に NPSHを取っており、縦軸にポンプ揚程を取っている。ここでのポンプ 揚程は、揚程係数比により示してある。同図において、実線で示す曲線 aは常温空気 飽和、破線で示す曲線 bは常温脱気、点線で示す曲線 cは高温(95°C)脱気の試験 結果である。また、一点鎖線で示す曲線 dは高温(150°C)脱気の計算結果、一点鎖 線で示す直線 eは入口気相体積制限である。
[0035] 同図に示すように、曲線 a— cで示した各試験結果のデータと後述する高温 NPSH 予測手法より、曲線 dで示した高温(150°C)脱気での計算結果が得られた。また、ポ ンプ入口蒸気の影響を調べる試験を別途実施し、この試験結果から入口気相体積 制限を決定した。
[0036] 図 4は、前述したポンプ入口蒸気の影響を示すグラフである。同図では横軸に気液 体積流量比(%)を取っており、縦軸にポンプの全揚程 (%)を取って!/、る。この試験 結果から、システム設計上最低限必要なポンプの揚程より、そのときの気液体積流量 比を読み取り、これを入口気相体積制限として NPSHで表すことができる。
[0037] 例えば、同図において、気液体積流量比 25%となる全揚程低下点をクリティカルポ イントとして、蒸気表力も蒸気比 25%となる減圧圧力を算出し、この圧力を要求 NPS H (入口気相体積制限からの NPSH)とする。但し、気液体積流量比 25%は一例で あって、これに限定されるものではない。
[0038] 具体的には、同図より、実際に設計に用いている全揚程低下相当の気相体積を安 全側に見て 25%として、 25%気相割合となる減圧量を求める。一例として、初期温 度 151. 1°C (5. Oata飽和)を選定すると、まず、
h ' =h ' (1— x) + ·χ
ο ο
v" •x=R- [v (1— χ) +ν ·χ]
但し、
R :気相体積割合
ν' :水の比容積 (m3Zkg)
V" :蒸気の比容積 (m3Zkg)
W :水の比ェンタルピー(kcalZkg)
W :蒸気の比ェンタルピー(kcalZkg)
であり、
Ata 。C v〃 W h〃
5.00 151.11 0.001092 0.3816 152.13 656.03
4.90 150.35 0.001091 0.3890 151.35 655.82
である。
[0039] これより、基準を 5. OOataとして 4. 90ataへの減圧時は、
152. 13 kcal/kg = 151. 35 (1— x) +655. 82x
3890x m3/kg =R- [0. 001091 (1—x) +0. 3890x]
から、
x= l. 546 X 10— 3 , R=0. 354 ( = 35. 4%気相割合;)
となり、即ち 0. lata減圧 [ImAq減圧]で 35. 4%となる。よって、 25%気相体積となる のは、
ImAq X (25%/35. 4%) =0. 7mAq
である。
[0040] 図 3に戻って、同図に示されるように、溶存酸素の影響は約 0. 3mであり、それが無 くなつたとしても曲線 aが曲線 bに変化するのみであって、相対的に小さ 、ものとなつ ている。また、常温では翼間での減圧沸騰力も規定される NPSHにより、ポンプ揚程 が決まってくる。この NPSHは正の値であるため、ポンプ入口での減圧沸騰は生じず 、ここでの気相の有無の概念は無い。これが従来一般的に考えられていた NPSHの 概念である。そして、水の温度が高くなるにつれて、翼間での減圧沸騰力 規定され る NPSHは低下し、やがて負の値となる(曲線 c, d参照)。この負の絶対値は温度が 上がると大きくなり、図の横軸で左側へ移動して行く。
[0041] 一方、 NPSHが負の値となるとポンプ入口で気相となり、その発生蒸気がポンプ揚 程に影響する。つまり、 NPSHが正の領域では、ポンプ翼間で減圧沸騰の可能性が あり、従来一般的に考えられていた NPSHの議論だけで良いが、 NPSHが負の領域 では、新たにポンプ入口で気相が発生するという現象が現れ、これも翼間を閉塞する 可能性があるため検討課題となる。
[0042] 例えば 150°Cでは、翼間減圧沸騰からの制限はすでに入口気相体積からの制限よ り小さくなつており、ポンプ入口気相体積制限からの値である約 lmが NPSHとなる 。即ち、温度が或る値以上になると、翼間での減圧沸騰による NPSHが、入口気相 体積からの制限 (直線 e参照)より小さくなり、その温度以上では入口気相体積力も N PSHが規定される。以上のようにして、翼間での減圧沸騰と入口気相体積のトータル 概念として、高温 NPSHが負であると規定される。
[0043] カ卩えて、減圧沸騰して ヽるポンプ入口での発生蒸気は、その給水ブースターポンプ カゝらガス抜き管により排出され、脱気器に戻されることが確認されており、即ち有効 N PSHは概ね 0となっている。このこと力 、計算上はポンプ入口で沸騰している状態 でもその給水ブースターポンプが運転継続可能であることが分かる。
[0044] ここで、各運転条件における NPSHとポンプ揚程との関係を、更に詳しく説明して おく。図 5A— Cは、図 3に示した各運転条件における NPSHとポンプ揚程との関係 を更に詳しく示すグラフである。
[0045] まず、図 5Aに示すように、常温力 少なくとも 95°Cまでは、翼間での減圧沸騰によ る性能低下、即ち発生ガスが翼間を閉塞することで NPSHが決まる(曲線 b, c参照) 。この NPSHは正圧であるため、ポンプ入口ではガスは発生しないので、入口気相 体積制限 (直線 e参照)は検討対象にならない。
[0046] 次に、図 5Bに示すように、概ね 120— 130°Cまで温度が上昇すると、翼間での減 圧沸騰による性能低下力 の制限値が負の領域へ移動するので、ポンプの入口気 相体積からの制限とほぼ同じ値になる(曲線 f参照)。
[0047] そして、図 5Cに示すように、少なくとも 150°C以上まで更に温度が上昇すると、例え ば 150°Cでは既に翼間での減圧沸騰による性能低下からの制限値力 ポンプの入 口気相体積からの制限よりさらに小さくなる(曲線 d参照)。この温度域では、 NPSH
を制限するものはポンプの入口気相体積制限である(直線 e参照)。
[0048] 以下、高温 NPSHの予測手法について説明する。まず、キヤビテーシヨンによる熱 力学的効果について述べる。ポンプの翼面上では、圧力面と比較して負圧面の方が 、水の湘対)速度が速くなる。そして、速度が増加すると圧力が低下し、その低下量 が水の飽和蒸気圧を下回る領域では、液体 (水)が蒸発して気体 (水蒸気)となる。こ れがキヤビテーシヨンである。
[0049] このように水が蒸発するときは、その周りから熱量が奪われる。即ち、蒸発潜熱が必 要となる。つまり、キヤビテーシヨンが発生しているときは、蒸発潜熱により、キヤビティ 近傍の温度が低下する。このような温度低下はキヤビティ周辺の局所的領域で生じ、 温度が低下すると飽和蒸気圧も低下する。これを、キヤビテーシヨンによる熱力学的 効果という。
[0050] 次に、実機高温条件における NPSH予測手法を以下に示す。実機でのポンプ運 転における水の温度条件は 150°Cである力 試験設備の仕様上モデル試験は 100 °Cまでしか実施できない。そこで、常温として 30°Cの試験、及び高温として 95°Cの試 験を実施し、キヤビテーシヨンの熱力学的効果を検証する。そして、 30°C, 95°C試験 の結果から、 150°Cでのキヤビテーシヨン性能を予測する。
[0051] 具体的に述べると、熱力学的効果、即ち飽和蒸気圧の低下量は、近似理論式によ り、蒸発に関与する蒸気,水の比容積比で表されることが分力つている。ここで、実際 に蒸発に関与する比容積比は、試験力 求めるしかないので、本実施例では 30°C 及び 95°Cの試験結果から、 NPSHの差即ち飽和蒸気圧の低下量を求め、それに対 応する比容積比を求める。
[0052] この場合、温度が異なると比容積比も異なるのである力 150°Cでの比容積比は、 上記で求めた 30°C及び 95°Cの比容積比から、後述する Ruggeriらの実験式を用い ることで求められる。そして、上述したように、その温度での蒸発に関与する比容積比 が分かれば、飽和蒸気圧の低下量も分かる。即ち、飽和蒸気圧の低下量は要求 NP SHの低下量とみなすことができるので、実機での温度条件である 150°Cでのキヤビ テーシヨン性能が予測できる。
[0053] さて、高温時キヤビテーシヨン性能予測手法にっ 、て説明する。実機高温条件に
おけるキヤビテーシヨン性能予測は、 Ruggeriらにより提案された方法に基づき実施 される。なお、この方法の出典は、
文献 [1]
Ruggeri, R. Moore, R. D., 1969, Method for prediction of pump cavitation performance for various liquids, liquid temperatures, and rotative speeds, NASA TN D-5292.
である。
[0054] 以下に、その予測手法について簡潔に説明する。キヤビテーシヨンの発生に伴う気 化熱による蒸気圧の低下量 Ahは以下の式で表される。
V
Ah =(l/g) - (p / p
ν v i )2-(LVC τ)·(ν
Pi ν Ζν)···(ι)
l
この場合、蒸発に関与する気液の体積比 v ゝら直接計測することが
V Zvは、試験カ
1
できない。そこで、次式に示す相対関係を表す実験式からこれを見積もる。
(V /V) =(V /V) - (a /a)10- (U /U )08- (D/D )°2
V 1 pred V 1 ref ref 0 0, ref ref
•{(Δχ/ϋ)/(Δχ/ϋ) Γ ··· (¾
ref
なお、熱量の関係式は、
Ah =(p / ) - (V /V) - (L
V 1 V 1 /C )-(dh /άΎ) · · · (3)
V PI V
である。
[0055] ここで、式中の記号は以下のように定義する。
C :定圧比熱
P
h :飽和蒸気圧
V
L :蒸発の潜熱
T :温度
V :蒸発に関与する気液の体積
a :熱拡散率 (温度伝導率)
Ah :蒸発による蒸気圧低下
V
P :飽和状態の密度
g :重力加速度
u :代表速度 (例えばインペラ一周速)
D :代表寸法
X :キヤビテーシヨン長さ
[0056] また、添え字は以下のように定義する。
1 :液体
V :蒸気
ref :参照値として用いる試験値
pred:予測値
[0057] 具体的には、
〔1〕 30°Cを refとし、 95°Cを predとする。
〔2〕 試験結果から、或る揚程での NPSHの差すなわち Ah -Ah
V, ref V, pred を求める。
〔3〕 一方、式 (2)から (V ZV) と (V ZV) の関係が求まる。
V 1 ref V 1 pred
〔4〕 このとき、式(3)より、或る任意の (V ZV) の値に対し、 Ah を求める。また
V 1 ref V, ref
、同様にして、そのときの (V /V ) に対する Δ h を求める。そして、これらの差
V 1 prea V, pred
Ah -Ah を求める。
V, ref V, pred
〔5〕 〔4〕で求めた Ah -Ah 力 〔2〕で求めた試験による Ah -Ah と
V, ref V, pred V, ref V, pred 同じ値になるまで計算を繰り返す。
〔6〕 〔5〕により(V /V) が求まる。
V 1 ref
[0058] これにより、形状が相似であるポンプでは、流量係数,揚程係数が等しければ、任 意の温度,回転数,大きさに対し、(V /V) が算出可能であり、式(1)から、熱力
V 1 pred
学的効果による蒸気圧の低下量を見積もることができる。
[0059] 以下、キヤビテーシヨン特性予測の計算例を示す。温度 T= 151. 3°Cのキヤビテー シヨン特性の予測曲線は、ポンプの流量係数と回転数が同じで温度が異なる 2つの 条件の試験結果から、上述した文献 [1]の方法によって求めることができる。この方 法を改めて以下に要約する。
[0060] 用いる数式は次の 3つである。
(H + Ah ) / (H + Ah ) = (N /N)2- - - (a)
SV, ref V, ref SV V ref
V /V = (V /V) - (N/N )°·8· ( α / a ) - - - (b)
V 1 V 1 ref ref 1, ref 1
Ah =(p / ) - (V /V) - (L/C ) - (dh /dT) · · · (c)
V V 1 V 1 PI V
[0061] ここで、式中の記号は以下のように定義する。
C :定圧比熱
P
H : NPSH
SV
h :飽和蒸気圧
V
L:蒸発の潜熱
N:回転数
T:温度
V :飽和状態の体積
a :熱拡散率 (温度伝導率)
Ah :蒸発による蒸気圧低下
V
P :飽和状態の密度
Φ :揚程係数
Φ * :揚程係数比 Φ/Φ
NC
[0062] また、添え字は以下のように定義する。
V :蒸気
1 :液体
NC:キヤビテーシヨンなし
Ref :参照値として用いる実験値
[0063] ここでは回転数 Nが一定であるから、(a), (b)より、
Ah -Ah =H — H ··· ((!)
V V, ref SV, ref SV
V /V = ( a /a ) · (V /V)
V I 1, ref 1 V I ref…(e)
となる。
[0064] 式(d)の左辺に式(c)の右辺を代入し、更にその中の V ZVに式(e)の右辺を代
V 1
入して、(V /V) について解くと、
V 1 ref
(V /V) =(H — H )
V 1 ref SV, ref SV
/[L-{(p / β ) /a ) - (dh /dT )/C
V I 1, ref 1 v pi
-(p / β ) - (dh /dT) /C }〕···(ί)
V 1 ref V ref PI, ref
となる。この式で、参照値の条件を一方の温度条件とし、他方をもう一方の温度条件 とすると、前者の温度条件の V Zvが求まり、式 ( より、任意の予測対象温度の V
V 1 Λ
Zvが求まる。
1
[0065] 次に、式 (d)より、
H =H -A h + A h · · · (g)
SV SV, ref V V, ref
となり、今度は参照値の項を実験条件とし、他方の項を予測対象条件として、 A h ,
V
A h を式(c)で計算すれば、目的の NPSHである H が求められる。
V, ref SV
産業上の利用可能性
[0066] 本発明は、原子力発電所や火力発電所に限らず、様々なプラントにおける高温ポ ンプシステムに適用可能である。