明 細 書
生体構造認識部位を提示する中空ナノ粒子およびその生産方法、並び にその利用
技術分野
[0001] 本発明は、生体構造認識部位を提示する中空ナノ粒子およびその生産方法とその 利用とに関するものであり、より詳細には、少なくとも粒子形成能を有するタンパク質 からなり、さら〖こ、表面に生体構造認識部位を提示する中空ナノ粒子およびその生 産方法と、その代表的な利用の一例とに関するものである。
背景技術
[0002] 近年、医学の分野にぉ 、て、患部に直接作用し、高 、効果を示す副作用の少な い薬品の開発が盛んに行われている。特に、ドラッグデリバリーシステム(DDS)と呼 ばれる方法は、目的細胞あるいは目的糸且織に対して特異的に薬剤等の有効成分を 運搬し、目的箇所で有効成分を作用させることのできる方法として注目されている。
[0003] また、最近の分子細胞生物学の分野においても特定細胞への遺伝子導入は必要 不可欠な技術として盛んに研究されている。さらに、ヒトゲノム計画の進展により各種 疾患の遺伝的な背景が明らかになりつつある現在、このような細胞および組織に対 する特異性の高 、遺伝子導入法が確立されれば、遺伝子治療の分野での応用も可 能となる。
[0004] 細胞または組織に遺伝子を導入する方法 (遺伝子導入法)としては、すでに様々な 方法が提案されている。代表的なものとしては、(1)特異的に薬剤となるタンパク質を コードする遺伝子が組み込まれた発現プラスミドを、電気パルス刺激により細胞膜に 穿孔を開けて流入させるエレクト口ポレーシヨン法、(2)パーティクルガン (遺伝子銃) 等により目的細胞に導入して、この遺伝子を細胞内で発現させることにより当該タン ノ ク質を細胞内に送り込むパーティクルデリバリー法等が挙げられる。
[0005] けれどもこれらの遺伝子導入法は、簡便ではあるが、細胞を物理的に傷つけ、遺伝 子導入部位を外科的に露出させる必要がある。そのため、生体内部の細胞や組織に は容易に適用できない。また、 100%近い導入率を得ることも困難となっている。
[0006] さらに、感染性ウィルスを用いて遺伝子導入法を行う技術が開発されている。この方 法は、ウィルス DNAに目的の遺伝子を組み込んだ感染性ウィルスを生成し、目的細 胞を感染させて遺伝子を導入する。この方法では、上述した各遺伝子導入法のよう に、導入部位を露出させる必要がなぐ個体にも応用でき、導入効率も 100%近い画 期的な方法として注目されている。し力しながら、ウィルスが広範囲の細胞に非特異 的に感染するため目的の細胞以外にも遺伝子が導入されてしまうという問題が生じる
[0007] このように、従来の遺伝子導入法は、いずれも、目的の細胞に対して特異的に遺伝 子を送り込み、細胞内で薬剤となるタンパク質を発現させる方法としては不十分なも のであった。他方、薬剤となるタンパク質を直接的に目的細胞、あるいは、目的組織 に送り込む方法にっ 、ては、未だ有効な方法が開発されて 、な 、状況にあった。
[0008] そこで本発明者らは、新規な遺伝子導入法として、目的とする細胞や組織に、物質
(遺伝子、タンパク質、化合物等)を運搬、導入するため方法として、粒子形成能を有 するタンパク質を用いて形成される中空ナノ粒子を用いた技術を提案した (特許文献 1 :特開 2001— 316298 (公開曰: 2001年 11月 13曰))。
[0009] この技術では、粒子形成能を有するタンパク質に対して、そのアミノ酸配列の N末 端に、特定の細胞または組織に対する認識能を有した生体構造認識部位を導入し て!、る。上記生体構造認識部位を導入したタンパク質を中空ナノ粒子として用いるこ とにより、物質 (遺伝子、タンパク質、化合物等)を特定の細胞あるいは組織に運搬、 導入することが可能となる。それゆえ、この技術は、上述したような遺伝子治療等の分 野への応用が非常に期待できるものとなっている。
発明の開示
[0010] ところで、上記中空ナノ粒子を利用する場合には、その用途に応じて、実用性を高 めるための工夫が必要となる。
[0011] また、上記遺伝子導入法に上記中空ナノ粒子を用いる場合には、当該中空ナノ粒 子を精製する必要がある。ここで、従来までの中空ナノ粒子の精製方法としては、例 えば、勾配をかけた CsClあるいはショ糖を用いた超遠心を繰返し行う方法、透析を 繰り返し行う方法等を挙げることができるが、これら精製方法は煩雑であり、多くの時
間を必要とする。それゆえ、実用性をより高めるためには、中空ナノ粒子の精製をより 効率的にすることが非常に好ましい。
[0012] また、 DDS等の用途においては、中空ナノ粒子内に封入した薬剤となる物質を効 率良く特定の細胞または組織に送達する必要がある。このように送達の効率性を高 めるためには、組織や細胞側の受容体数が少ない場合、 N末端に導入した生体構 造認識部位が何らかの物質で阻害された場合、さら〖こは、他の分子と競合して受容 体認識に支障がある場合を考慮する必要がある。
[0013] このように、上記中空ナノ粒子の技術は、それ自体画期的な技術ではあるものの、 実用性をより高めるためには、さらなる改良が求められる。
[0014] そこで、本発明は、精製が簡便で、標的となる細胞または組織に細胞導入物質を 効率よく導入することが可能な中空ナノ粒子とその生産方法、利用法の一例を提供 することを目的としている。
[0015] 本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ヒト B型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質を 利用して N末端部以外の部分 (C末端領域)に種々の標的認識部位を融合すること により、精製が簡便で、標的となる細胞または組織に細胞導入物質を効率よく導入す ることが可能で、実用性をより向上させた中空ナノ粒子を提供できることを見出し、本 発明を完成させるに至った。
[0016] すなわち、本発明にかかる中空ナノ粒子は、粒子形成能を有するタンパク質により 形成され、生体由来の化学構造を認識する生体構造認識部位を表面に提示する中 空ナノ粒子にぉ 、て、上記粒子形成能を有するタンパク質のァミノ末端およびカルボ キシル末端の双方に、上記生体構造認識部位が設けられているとともに、それぞれ の生体構造認識部位が認識する生体由来の化学構造は異なっていることを特徴とし ている。
[0017] 上記中空ナノ粒子においては、上記生体構造認識部位の少なくとも一方は、標的 となる細胞または組織に特異的な構造を認識する標的構造認識部位であり、上記生 体構造認識部位の何れか一方は、中空ナノ粒子そのものを特異的に認識するため の識別部位として機能することが好ま 、。
[0018] 上記生体構造認識部位は、ウィルス由来の宿主細胞認識構造、抗原決定基、リガ
ンド、リガンドの受容体の少なくとも何れかを挙げることができる。このうち、上記ウィル ス由来の宿主細胞認識構造として、例えば、 B型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質に おける肝細胞認識部位を挙げることができる。また、上記抗原決定基としては、例え ば、タグ配列を挙げることができる。このタグ配列としては、 Strep-tag II、 HA-tag、 FLAG-tagの少なくとも何れかを挙げることができる。さら〖こ、上記生体構造認識部位 は、複数種類のタグ配列を組み合わせてなるものであってもよ 、。
[0019] また、上記リガンドとしては、例えば、細胞増殖因子を挙げることができる。この細胞 増殖因子としては、上皮増殖因子または繊維芽細胞増殖因子を挙げることができる。 また、抗体認識部位としての機能をもつ ZZ-tagもリガントとして含むことができる。
[0020] さらに、上記生体構造認識部位は、タグ配列とリガンドとを組み合わせてなるもので あってもよい。
[0021] 上記中空ナノ粒子の具体的な一例としては、上記粒子形成能を有するタンパク質 力 ウィルス由来の表面抗原タンパク質であり、当該表面抗原タンパク質の末端部に 存在する宿主細胞認識構造を上記標的構造認識部位として用いる例を挙げることが できる。このとき、上記粒子形成能を有するタンパク質としては、 B型肝炎ウィルス表 面抗原タンパク質を挙げることができる。
[0022] また、上記中空ナノ粒子においては、上記抗原決定基および Zまたはリガンドが、 中空ナノ粒子そのものを特異的に認識するための上記識別部位として設けられてい ることが好ましい。
[0023] さらに、上記中空ナノ粒子においては、上記生体構造認識部位は、粒子形成能を 有するタンパク質の末端側のアミノ酸配列を置換することにより、当該タンパク質に導 入されていてもよい。
[0024] 本発明にかかる中空ナノ粒子の生産方法は、少なくとも粒子形成能を有するタンパ ク質により形成され、生体由来の化学構造を認識する生体構造認識部位を表面に提 示する中空ナノ粒子の生産方法において、当該中空ナノ粒子が、上記粒子形成能 を有するタンパク質のァミノ末端およびカルボキシル末端の双方に、上記生体構造 認識部位が設けられており、かつ、各生体構造認識部位が認識する生体由来の化 学構造は異なって ヽるものであり、上記粒子形成能を有するタンパク質をコードする
遺伝子と、上記生体構造認識部位をコードするポリヌクレオチドとをつなげたキメラ遺 伝子を構築し、これを真核細胞に導入して発現させることを特徴として ヽる。
[0025] 上記生産方法にお!、ては、上記真核細胞は、酵母、昆虫細胞または動物細胞の 何れかであることが好ましい。また、上記生産方法においては、上記粒子形成能を有 するタンパク質をコードする遺伝子として、ウィルス由来の表面抗原タンパク質をコー ドする遺伝子が用いられるとともに、当該遺伝子における、表面抗原タンパク質の力 ルポキシル末端側となる側に、生体構造認識部位をコードするポリヌクレオチドをつ なげること〖こより、上記キメラ遺伝子を構築すればよい。このとき、上記キメラ遺伝子は 、上記粒子形成能を有するタンパク質の末端側のアミノ酸配列を、生体構造認識部 位に置換するように構築されて 、ることが好ま 、場合がある。
[0026] 上記生産方法においては、さらに、上記識別部位により認識される化学構造を有 する物質を担体として用いて、上記中空ナノ粒子を精製することが好ましい。
[0027] 本発明の利用の一例としては、上記中空ナノ粒子に細胞導入物質が封入されてい る薬剤を挙げることができる。この薬剤においては、上記細胞導入物質が、遺伝子ま たは薬理作用を有する化合物であればよい。また、本発明の他の利用としては、この 薬剤を用いる疾患の治療方法等を挙げることができる。
[0028] 本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十 分わ力るであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白にな るであろう。
図面の簡単な説明
[0029] [図 1]本発明に係る複数の生体構造認識部位を提示するタンパク質中空ナノ粒子を 示す模式図である。
[図 2(A)]本発明の一実施形態における C末端タグ (tag)融合 HBsAg Lタンパク粒子 の培養上清への分泌を示すグラフである。
[図 2(B)]本発明の一実施形態における C末端タグ (tag)融合 HBsAg Lタンパク粒子 の培養上清への分泌を示すグラフである。
[図 2(C)]本発明の一実施形態における C末端タグ (tag)融合 HBsAg Lタンパク粒子 の培養上清への分泌を示すグラフである。
圆 3(A)]本発明の一実施形態における C末端タグ (tag)融合 HBsAg Lタンパク粒子 を、抗 HBsAg抗体によって免疫沈降させた結果を示す図であり、各泳動レーンは、 1が野生型 HBsAgLタンパク質、 2が陰性対照、 3が C-7-FLAG、 4が A25-6-FLAG 、 5が Δ54- 6- FLAG、 6が C- 7- HA、 7が Δ25- 6- HA、 8が Δ54- 6- HA、 9が Δ 11- 6- FLAG、 10が Δ33- 6- FLAG、 l ^SA45-6-FLAG、 12がΔ58-6-FLAG、 13が Δ 63- 6- FLAG、 14が Δ 130- 6- FLAGを泳動したレーンである。
圆 3(B)]本発明の一実施形態における C末端タグ (tag)融合 HBsAg Lタンパク粒子 を、抗 HBsAg抗体によって免疫沈降させた結果を示す図であり、各泳動レーンは、 1が野生型 HBsAgLタンパク質、 2が陰性対照、 3が C-7-FLAG、 4が A25-6-FLAG 、 5が Δ54- 6- FLAG、 6が C- 7- HA、 7が Δ25- 6- HA、 8が Δ54- 6- HA、 9が Δ 11- 6- FLAG、 10が Δ33- 6- FLAG、 l ^SA45-6-FLAG、 12がΔ58-6-FLAG、 13が Δ 63- 6- FLAG、 14が Δ 130- 6- FLAGを泳動したレーンである。
圆 4(A)]本発明の一実施形態における C末端タグ (tag)融合 HBsAg Lタンパク粒子 を、抗タグ (tag)抗体によって免疫沈降させた結果を示す図であり、各泳動レーンは、 1が野生型 HBsAgLタンパク質、 2が陰性対照、 3が C-7-FLAG、 4が A25-6-FLAG 、 5が Δ54- 6- FLAG、 6が C- 7- HA、 7が Δ25- 6- HA、 8が Δ54- 6- HA、 9が Δ 11- 6- FLAG、 10が Δ33- 6- FLAG、 l ^SA45-6-FLAG、 12がΔ58-6-FLAG、 13が Δ 63- 6- FLAG、 14が Δ 130- 6- FLAGを泳動したレーンである。
圆 4(B)]本発明の一実施形態における C末端タグ (tag)融合 HBsAg Lタンパク粒子 を、抗タグ (tag)抗体によって免疫沈降させた結果を示す図であり、各泳動レーンは、
1が野生型 HBsAgLタンパク質、 2が陰性対照、 3が C-7-FLAG、 4が A25-6-FLAG
、 5が Δ54- 6- FLAG、 6が C- 7- HA、 7が Δ25- 6- HA、 8が Δ54- 6- HA、 9が Δ
11- 6- FLAG、 10が Δ33- 6- FLAG、 l ^SA45-6-FLAG、 12がΔ58-6-FLAG、 13が
Δ 63- 6- FLAG、 14が Δ 130- 6- FLAGを泳動したレーンである。
[図 5]C末端に融合された FLAG-BTC-His-tagの DNA配列(上段)と推定アミノ酸配 列(下段)を示す図である。
[図 6]C末端に融合された FLAG-ZZ-His-tagの DNA配列(上段)と推定アミノ酸配列 (下段)を示す図である。
発明を実施するための最良の形態
[0030] 本発明の実施の一形態について以下に詳細に説明する力 本発明は以下の記載 に限定されるものではない。
[0031] 本実施の形態では、本発明にかかる中空ナノ粒子、この中空ナノ粒子の生産方法
、並びに、この中空ナノ粒子の利用の順に、本発明を詳細に説明する。
[0032] (1)本発明にかかる中空ナノ粒子
<中空ナノ粒子の定義 >
本発明にかかる中空ナノ粒子は、少なくとも粒子形成能を有するタンパク質により 形成されており、内部が空洞となっている粒子であれば特に限定されるものではない 。ここでいうナノ粒子とは、立体的な形状を有し、かつナノメートルオーダーのサイズ を有する微小な構造体であればよぐその形状は特に限定されるものではない。一般 的には、略球状または楕円球状となっている。なお、ナノメートルオーダーとは、 nm 単位で表示することが妥当な範囲内を指す。
[0033] なお、以下に述べるように、本発明に力かる中空ナノ粒子は、粒子形成能を有する タンパク質により形成されることで、生体由来の化学構造を認識する生体構造認識部 位を表面に提示している。
[0034] <粒子形成能を有するタンパク質 >
本発明にかかる中空ナノ粒子を形成する、粒子形成能を有するタンパク質とは、真 核細胞内で発現させることにより、当該真核細胞由来の脂質二重膜に多数の同タン ノ^質が埋め込まれた中空粒子を形成させることができる機能 (粒子形成能)を有す るタンパク質であれば特に限定されるものではなぐ動物細胞、植物細胞、ウィルス、 菌類等に由来する天然タンパク質や、種々の合成タンパク質等を挙げることができる
。代表的なものとして、種々のウィルスから得られるサブウィルス粒子を挙げることがで き、具体的には、ウィルス由来の表面抗原タンパク質を挙げることができる。なお、上 記粒子形成能を有するタンパク質として用いられるタンパク質が、生体内において抗 体を惹起する可能性がある場合などは、改変して抗原性を減少させたものを用いて ちょい。
[0035] 上記ウィルス由来の表面抗原タンパク質としては、後述する実施例にも示すように、
B型肝炎ウィルス(Hepatitis B Virus :HBV)表面抗原(Hepatitis B virus surface Antigen,以下、説明の便宜上、適宜 HBsAgと略す)タンパク質を挙げることができる (例えば、国際出願 WO01Z64930参照)。
[0036] HBsAgタンパク質は、 226個のアミノ酸力も構成される Sタンパク質を含んでいる。
Sタンパク質の N末端側に 55アミノ酸 (pre-S2 peptide)が付カ卩したものが Mタンパク 質、 Mタンパク質の N末端側に、 108もしくは 119アミノ酸 (pre- SI peptide)が付カロし たものが Lタンパク質である。
[0037] 本発明者らは、遺伝子組換え酵母で上記 HBsAgの Lタンパク質を発現させると、 酵母由来の脂質二重膜に多数の同タンパク質が埋め込まれた短径約 20nm、長径 約 150nmの楕円状中空粒子が形成されることを見出し、報告している (J. Biol. Chem., Vol.267, No.3, 1953-1961, 1992) 0この中空粒子は、 HBVゲノムを全く含ま ないので、ウィルスとしては機能せず、人体への安全性が極めて高い。また、 HBVの 肝細胞への感染力を担う肝細胞特異的レセプターを粒子表面に提示しているため、 肝細胞に対して特異的に物質を運搬する運搬体としての機能も有している。それゆ え、本発明では、 HBsAgタンパク質を好適に用いることができる。
[0038] この HBsAgタンパク質の Lタンパク質は、配列番号 2に示すアミノ酸配列を有して いるが、これに限定されるものではなぐ上記粒子形成能を有していれば、その一部 が改変された変異タンパク質であってもよ 、。
[0039] すなわち、本発明で用いられる B型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質には、(a)配 列番号 2に示されるアミノ酸配列からなる Lタンパク質のみならず、(b)配列番号 2に 示されるアミノ酸配列において、 1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び Z 又は付加されたアミノ酸配列力もなり、かつ、粒子形成能を有する Lタンパク質の変 異タンパク質も含まれる。
[0040] 上記「1個又はそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び Z又は付加された」と は、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失 、挿入、及び Z又は付加できる程度の数 (好ましくは 10個以下、より好ましくは 7個以 下、さらに好ましくは 5個以下)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び Z又は付加され ることを意味する。このように、上記 (b)のタンパク質は、上記 (a)のタンパク質の変異
タンパク質である。なお、ここでいう「変異」は、主として公知の変異タンパク質作製法 により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異タンパク 質を単離精製したものであってもよ 、。
[0041] なお、上記 Lタンパク質の変異タンパク質は、少なくとも粒子形成能を有して!/ヽれば よぐ宿主細胞認識構造が機能する構造が含まれていなくてもよい。これは、後述す るように、 Lタンパク質の宿主細胞認識構造 (Pre-S領域)を他の生体構造認識部位に 置換してもよ 、ためである。
[0042] <生体構造認識部位 >
本発明にかかる中空ナノ粒子は、生体由来の化学構造を認識する生体構造認識 部位を表面に提示している。この生体構造認識部位としては、特に限定されるもので はなく、本発明にかかる中空ナノ粒子の標的とした 、細胞や組織に特異的な分子を 選択すればよい。具体的には、ウィルス由来の宿主細胞認識構造、抗原決定基、リ ガンドおよびリガンドの受容体の少なくとも何れかを挙げることができる。
[0043] 上記ウィルス由来の宿主細胞認識構造とは、由来となるウィルスの感染の対象とな る宿主細胞を認識する構造を指し、ウィルスの種類に応じてそれぞれ異なるものであ る。例えば、上記 HBVの場合は、肝細胞認識部位である Pre-S領域を挙げることがで きる。
[0044] 上記抗原決定基とは、抗体と結合する部位または T細胞受容体によって認識される 部位であれば特に限定されるものではなぐ抗原決定基を含む抗原そのものであつ てもよいが、本発明では、タグ (tag)配列を好適に用いることができる。このタグ配列と しては、例えば、 Strep-tag II、 HA-tag、 FLAG-tag、 ZZ-tag等を挙げることができるが 、特に限定されるものではない。
[0045] 上記リガンドとは、機能タンパク質に特異的に結合する物質であれば特に限定され るものではなぐ広義では、上記抗原決定基や抗原、宿主細胞認識構造等も含まれ る。具体的には、例えば、上皮増殖因子 (EGF)、繊維芽細胞増殖因子 (FGF)、神 経成長因子 (NGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、骨由来成長因子(BDG)、ィ ンシュリン様成長因子 (IGF)等の細胞増殖因子 (成長因子);インターロイキン等の 細胞機能調節分子;抗体;抗体を結合する ZZ-tag;細胞膜結合透過性の TATぺプ
チド等の機能ペプチド、タンパク質結合性ペプチド;糖鎖、脂質等の非ペプチド性リ ガンド;上記抗原決定基や抗原;等を挙げることができる。ここで、 TATペプチドとは 、透過性を持つ HIVの tatの部分ペプチドで、血液脳関門(blood-brain barrier, BBB )を透過させるキャリアとして使用できると 、う報告がなされて 、る。
[0046] 上記リガンドの受容体 (レセプター)とは、上記リガンドと特異的に結合する機能タン パク質であれば特に限定されるものではない。具体的には、上記細胞増殖因子の受 容体、インターロイキン受容体等の細胞機能調節分子の受容体、抗原や抗原決定 基に対する抗体、非タンパク質性リガンド等のレセプター等を挙げることができる。
[0047] 上記生体構造認識部位としてはどのようなものを採用してもよ!/、。具体的には、本 発明にかかる中空ナノ粒子の用途、すなわち標的となる細胞または組織に特異的な 構造を認識するものを適宜選択すればよい。換言すれば、上記生体構造認識部位 は、標的となる細胞または組織に特異的な構造を認識する標的構造認識部位となつ ていればよい。
[0048] 具体的な例としては、標的となる細胞または組織 (あるいは器官)が肝臓である場合 、上記 HBVの Pre-S領域を採用すればよい。また、標的がウィルス感染細胞である場 合には、抗ウィルス性タンパク質抗体を選択すればよい。また、抗ウィルス性タンパク 質抗体を提示させた場合は、本発明にかかる中空ナノ粒子をウィルス感染細胞の除 去に利用することができる。
[0049] さらに、標的となる細胞が癌細胞である場合には、様々な生体構造認識部位を採 用することができる。例えば、癌特異的抗体や癌細胞に特異的に現れる EGF受容体 等が挙げられる。これらを提示した中空ナノ粒子に、癌を治療するための物質 (薬剤 や遺伝子等)を包含させることにより、癌細胞に対して特異的かつ効果的に作用する 有効な治療薬となる。
[0050] 癌細胞に特異的に現れる EGF受容体としては、標的となる細胞がヒト扁平上皮癌 由来細胞である場合には、上記上皮増殖因子の一種であるベータセルリン (BTC : Betacellulin)を選択することができる。このベータセルリンは、上皮細胞上の上皮細 胞増殖因子受容体 (EGFR)と高い親和性を有する。そのため、これを粒子表面に提 示した中空ナノ粒子は、 EGFR過剰発現細胞であるヒト扁平上皮癌由来細胞に対し
て認識能をもつことが可能となる。
[0051] さらに、本発明における生体構造認識部位は、タグ配列とリガンドとを組み合わせ てなるものであってもよい。具体的には、例えば、後述する実施例 5で用いている FLAG- BTC- His- tagや、実施例 10で用いて!/、る FLAG- ZZ- His- tag等を挙げること ができる。特に、 FLAG-ZZ-His-tagのように、 ZZタグを介した場合、各種の「抗体」ま たは「抗体 Fc領域とリガンドタンパク質との融合タンパク質」を生体構造認識部位とし て中空ナノ粒子表面に提示することができる。
[0052] <本発明における生体構造認識部位の提示 >
本発明にカゝかる中空ナノ粒子は、上記粒子形成能を有するタンパク質 (説明の便 宜上、粒子形成タンパク質と称する場合がある)のァミノ末端およびカルボキシル末 端の双方に、上記生体構造認識部位が設けられており、それぞれの生体構造認識 部位が認識する生体由来の化学構造は異なっている。すなわち、本発明では、粒子 形成タンパク質の両末端に設けられて!/ヽる生体構造認識部位は、それぞれ異なるぺ プチド分子となっている。
[0053] 図 1は、本発明にかかる中空ナノ粒子を示す模式図である。図 1に示すように、中空 ナノ粒子は、真核細胞由来の脂質二重膜に複数の粒子形成タンパク質 2が埋め込ま れた構造を有している。埋め込まれた状態は、脂質二重膜に粒子形成タンパク質 2 が複数回貫通した状態となっており、少なくともそのアミノ末端 (N末端)に生体構造 認識部位 3が設けられている。これによつて、生体構造認識部位 3は中空ナノ粒子の 表面に提示されることになる。
[0054] ここで、粒子形成タンパク質 2として、上記 HBsAgの Lタンパク質を用いた場合を例 に挙げると、 N末端側の生体構造認識部位 3としては HBVの肝細胞認識部位をその まま用いることができる。すなわち、本発明では、上記粒子形成タンパク質が、ウィル ス由来の表面抗原タンパク質であれば、当該表面抗原タンパク質の末端部に存在す る宿主細胞認識構造を上記標的構造認識部位として用いることができる。
[0055] 本発明では、さら〖こ、 C末端側に、他の生体構造認識部位 1を設けることで、複数の 生体構造認識部位を提示する中空ナノ粒子として ヽる。
[0056] 従来の中空ナノ粒子は生体構造認識部位を N末端側に 1つしか有していなカゝつた
。そのため、組織や細胞側の受容体数が少ない場合、 N末端に導入した生体構造認 識部位が何らかの物質で阻害された場合、さらには、他の分子と競合して受容体認 識に支障がある場合等には、中空ナノ粒子を標的となる細胞や組織に効率的に送 達することが困難となっていた。これに対して、本発明では、それぞれ異なる生体構 造認識部位 1 · 3を有しているため、上記各場合にも十分に対応することが可能となり 、従来よりも標的に対する認識率をより高くすることが可能となる。
[0057] ここで、本発明では、上記生体構造認識部位の少なくとも一方、好ましくは双方とも 、標的となる細胞または組織に特異的な構造を認識する標的構造認識部位となって いればよいが、さら〖こ、上記生体構造認識部位の何れか一方は、中空ナノ粒子その ものを特異的に認識するための識別部位として機能することがより好ましい。この識 別部位となる生体構造認識部位としては、上記タグ配列等の抗原決定基および Zま たは細胞増殖因子等のリガンドを挙げることができる。
[0058] 例えば、 C末端側の生体構造認識部位 1を上述したタグ配列とすれば、固相化した 抗タグ抗体を用いることにより、ァフィユティー精製による精製が可能となる。それゆえ 、 N末端側の生体構造認識部位 3が標的構造認識部位であるので、特定の細胞また は組織へ中空ナノ粒子を効率的に送達できる上に、中空ナノ粒子の精製が簡便に なる。その結果、本発明にかかる中空ナノ粒子の実用性をより一層高めることができ る。
[0059] また、タグ配列とリガンドとを組み合わせたものを C末端側の生体構造認識部位 1と して用いれば、標的構造認識部位と識別部位とを確実に兼用することができる。それ ゆえ、標的となる細胞や組織への効率的な送達をより十分なものとすることができる。 さら〖こ、タンパク質に対する翻訳後修飾を利用することにより、非ペプチド分子である 生体構造認識部位を粒子形成タンパク質 2に導入しても良い。これにより、標的とな る細胞や組織への送達の効率をより一層十分なものとすることができる。
[0060] なお、本発明に力かる中空ナノ粒子において、上記 HBV等のウィルス由来の表面 抗原タンパク質を用いた場合、当該ウィルス由来の宿主細胞認識構造を上記標的構 造認識部位として用いる必要はなぐ前述した他の生体構造認識部位に置換するこ ともできる。例えば、 HBVの肝細胞認識部位を他の標的認識部位に改変してもよい
。この場合、 HBV由来の表面抗原タンパク質 HBsAgの Lタンパク質は、本来有して いる肝細胞認識部位を欠くことになるが、 N末端側に他の標的構造認識部位を導入 するか、 C末端側に標的構造認識部位を導入することで、肝細胞以外の任意の細胞 または組織に特異的に物質を運搬、導入することが可能となる。
[0061] (2)本発明にかかる中空ナノ粒子の生産方法
本発明にかかる中空ナノ粒子は、上記粒子形成タンパク質をコードする遺伝子と、 上記生体構造認識部位をコードするポリヌクレオチドとをつなげたキメラ遺伝子を構 築し、これを真核細胞に導入して発現させることにより生産することができる。真核細 胞内で粒子形成タンパク質を生産させることにより、同タンパク質は、小胞体膜上に 膜タンパク質として発現、蓄積され、中空ナノ粒子として放出 (分泌)される。本発明 で用いられる真核細胞は特に限定されるものではないが、酵母、昆虫細胞または動 物細胞の何れかを挙げることができる。
[0062] 上記キメラ遺伝子の構築方法は特に限定されるものではなぐ公知の遺伝子組換 え技術を用いればよい。具体的には、例えば、上記粒子形成タンパク質をコードする 遺伝子として、ウィルス由来の表面抗原タンパク質をコードする遺伝子を用いるときに は、当該遺伝子における、表面抗原タンパク質のカルボキシル末端側となる側に、生 体構造認識部位をコードするポリヌクレオチドをつなげてキメラ遺伝子を構築し、これ を発現ベクターとすればよい。発現ベクターに含まれるプロモーター等の各種 DNA セグメントについては特に限定されるものではなぐ宿主となる真核細胞の種類に応 じて適宜選択すればよい。
[0063] このとき用いられる粒子形成タンパク質をコードする遺伝子としては、本発明では、 配列番号 1に示される塩基配列を有するものを好適に用いることができる。もちろん、 本発明はこれに限定されるものではなぐ粒子形成能を有していれば、変異遺伝子 であってもよ!/、し、配列番号 1に示される塩基配列からなる DNAと相補的な塩基配 列からなる DNAとストリンジェントな条件下でノヽイブリダィズする相同遺伝子であって もよい。なお、上記「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも 90%の同一性、好ましく は少なくとも 95%の同一性、最も好ましくは少なくとも 97%の同一性が配列間に存在 するときにのみハイブリダィゼーシヨンが起こることを意味する。
[0064] 上記生体構造認識部位をコードするポリヌクレオチドにつ 、ても特に限定されるも のではなぐ生体構造認識部位として用いることのできる上記ウィルス由来の宿主細 胞認識構造、抗原決定基、リガンド等のペプチド分子をコードする遺伝子等を好適に 用いることができる (例えば、後述する各実施例参照)。
[0065] ここで、粒子形成タンパク質に生体構造認識部位を導入する場合、粒子形成タン ノ ク質の末端側のアミノ酸配列を置換するようにキメラ遺伝子を設計すると好ま 、。 換言すれば、上記キメラ遺伝子は、上記粒子形成能を有するタンパク質の末端側の アミノ酸配列を、生体構造認識部位に置換するように構築されていると好ましい。これ により、不必要なアミノ酸配列を排除することが可能となるので、中空ナノ粒子の表面 に生体構造認識部位を確実に提示することができる。なお、生体構造認識部位を導 入する場合に、粒子形成タンパク質の末端側のアミノ酸配列を置換する場合でも、置 換せず付加する場合でも、任意のアミノ酸残基数力もなるスぺーサー配列を設けても ょ 、。これにより効率的な置換または付加が可能となる。
[0066] 本発明にかかる中空ナノ粒子の生産方法では、真核細胞内で上記キメラ遺伝子を 発現させることにより、真核細胞力 中空ナノ粒子が放出されるが、さらに、生体構造 認識部位に含まれる識別部位となる構造に応じて、当該識別部位により認識される 化学構造を有する物質 (担体)を固相化し、これを用いて、中空ナノ粒子を精製する 。これにより効率的な精製が可能となる。このとき用いられる担体としては特に限定さ れるものではなぐ公知のものを好適に用いることができる。同様に精製方法も特に 限定されるものではなぐカラムクロマトグラフィー等の公知の方法を好適に用いるこ とがでさる。
[0067] (3)本発明に力かる中空ナノ粒子の利用
く薬剤としての利用 >
本発明にかかる中空ナノ粒子は、内部に細胞導入物質を封入することで各種薬剤 として好適に用いることができる。すなわち、本発明にカゝかる中空ナノ粒子は、遺伝 子や薬物を疾患部位特異的に送達するナノカプセルとして応用することができる。こ れによって、中空ナノ粒子に封入した遺伝子や薬物を、標的となる疾患細胞あるいは 疾患組織に効率的に送達することができるだけでなぐ生体構造認識部位をそれぞ
れ変えることによって、異なる細胞や組織に対してそれぞれ遺伝子や薬物を同時に 送達することも可能になる。また、遺伝子の場合には、各種形質転換等の遺伝子導 入法に本発明を利用できるだけでなぐ遺伝子治療等にも利用することができる。
[0068] このとき用いられる細胞導入物質としては、特に限定されるものではないが、遺伝子 または薬理作用を有する化合物であればよい。より具体的には、例えば DNA、 RNA などの遺伝子 ·オリゴヌクレオチド;天然ある 、は合成タンパク質 ·ペプチド;天然また は合成化合物等の薬物;等を挙げることができる。
[0069] より具体的には、すでに発明者らにより報告されたヒト RNasel (Jinno H, Ueda M, Ozawa S, Ikeda T, Enomoto K, Psarras K, Kitajima M, Yamada H, Seno M Life Sci. 1996;58(21):1901- 8)または RNase3 (別名 ECP : eosinophil cationic protein; Mallorquト Fernandez G, Pous J, Peracaula R, Aymami J, Maeda T, Tada H, Yamada H, Seno M, de Llorens R, Gomis- Ruth FX, Coll M; J Mol Biol. 2000 Jul
28;300(5):1297-307.)等が適用される。これらのタンパク質は、細胞内外で作用し細 胞傷害活性を有するものであるが、これらの RNaseを本発明の物質運搬体 (薬剤)に 内包させて運搬することにより、細胞外では無毒化する一方、細胞内だけで作用させ ることができるので、より副作用の少な 、新 、癌治療方法として期待される。
[0070] 他にも、癌抑制遺伝子類 (p53等)、インターフェロン類、インターロイキン類、サイト 力イン類、コロニー刺激因子類、腫瘍壊死因子類、トランスフォーミング増殖因子 |8 類、血小板由来増殖因子類、エリスロポイエチン類、 Fas抗原類などのタンパク質ある いは当該タンパク質をコードする遺伝子も挙げることができる。
[0071] <薬剤の製造方法 >
本発明にかかる薬剤の製造方法、すなわち上記細胞導入物質を上記の中空ナノ 粒子に封入する方法は特に限定されるものではなぐ公知の化学的、分子生物学的 実験手法で用いられる様々な方法が適用される。たとえば、エレクト口ポレーシヨン法 、超音波法、単純拡散法、あるいは電荷を有する脂質を用いる方法等を挙げることが できる。
[0072] また、細胞導入物質としてタンパク質を用いる場合は、粒子形成タンパク質に細胞 導入物質を融合させて粒子形成する方法もある。粒子形成タンパク質に細胞導入物
質を融合させる方法とは、例えば、 B型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質をコードする 遺伝子と、上記タンパク質薬剤をコードする遺伝子とがインフレームで連結されたプ ラスミドを構築し、このプラスミドを用いて真核細胞に粒子を形成させる。これによつて 、B型肝炎ウィルス表面抗原タンパク質にタンパク質薬剤が融合した薬剤を製造する ことができる。
[0073] <その他の禾 lj用 >
本発明にかかる中空ナノ粒子は、薬剤とした場合には、これを用いて疾患の治療 方法に利用することができる。上記薬剤を静脈注射などによって体内に投与すれば 、当該粒子は体内を循環し、粒子表面に提示した肝細胞特異的レセプターおよび表 面に提示された認識部位により肝細胞に導かれ、感染する。そして、細胞導入物質 が肝細胞中に送り込まれ、細胞導入物質の肝臓組織特異的な導入が行われる。な お、薬剤の投与方法としては、静脈注射による投与のほかに、経口投与、筋肉内投 与、腹腔内投与、皮下投与等が挙げられる。
[0074] このように、本発明の薬剤を用いれば、 in vivoある!/、は in vitroで細胞、または組織 に特異的に物質を導入することができ、特定細胞または糸且織に物質を導入することを 各種疾患の治療法あるいは治療法の 1ステップとして行うことも可能になるのである。
[0075] また、薬剤以外にも、各種実験用試薬類やキット類として利用することができる。例 えば、遺伝子導入法 (形質転換法)に利用することで、より効率的な遺伝子導入が可 能となる。
[0076] なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなぐ特許請求の範囲 に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技 術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に 含まれる。
[0077] 〔実施例〕
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに 詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなぐ細部につ V、ては様々な態様が可能であることは言うまでもな 、。
[0078] 以下の実施例において、 HBsAgとは、 HBVの外被タンパク質である B型肝炎ウイ
ルス表面抗原(Hepatitis B virus surface Antigen)を示す。 HBsAgは、 226個のアミ ノ酸カゝら構成される Sタンパク質を含んでいる。 Sタンパク質の N末端側に 55アミノ酸( pre-S2 peptide)が付カ卩したものが Mタンパク質、 Mタンパク質の N末端側に、 108も しくは 119アミノ酸 (pre-Si peptide)が付カ卩したものが Lタンパク質である。
[0079] HBsAg Lタンパク質の上記 Pre- S領域(pre- SI, pre- S2)は、 HBVが肝細胞に結 合する際に、それぞれ重要な役割を担うことが知られている。 pre- S1は、肝細胞に直 接結合する部位を持ち、 pre-S2は、血中の重合アルブミンを介して肝細胞に結合す る重合アルブミンレセプターである。
[0080] 真核細胞で HBsAg Lタンパク質を発現させると、同タンパク質は、小胞体膜上に 膜タンパク質として発現、蓄積される。 HBsAgの Lタンパク質は、分子間で凝集を起 こし、小胞体膜を取り込みながら、出芽様式でルーメン側に粒子として放出され、動 物細胞を宿主とした場合には、最終的には培養上清中へ放出される。
[0081] 以下の実施例では、 HBsAgの Lタンパク質を用いた。
[0082] 〔実施例 1 : C末端に抗原となる各種のタグ配列を融合した HBsAg Lタンパク質を 発現するプラスミドの構築〕
(1) C末端にストレプタグ II (Strep-tagll)配列を融合した HBsAg Lタンパク質を発 現するプラスミドの構築
発明者らによって J. Biol. Chem., Vol. 267, No. 3, 1953-1961, 1992にて報告され た酵母用 HBsAg Lタンパク質発現プラスミド pGLDLIIP39— RcTを制限酵素 Xhol を用いて切断し、さらに T4 DNA polymerase処理により末端平滑化したのち、 HBsAg Lタンパク質をコードする遺伝子断片を得た。一方、動物細胞用発現プラスミド pTB 1455 (j.Biotechnol., Vol.33:, No.2, 157-174, 1994に記載)を制限酵素 EcoRIで切 断し、さらに Klenow DNA polymerase処理により末端平滑化した。その後、末端平滑 化した PTB1455の SR a,プロモーターの下流に上述した HBsAg Lタンパク質をコ ードする遺伝子断片を組み込んで、動物細胞用 HBsAg Lタンパク質発現プラスミド PB0441を得た。 pB0441がコードする HBsAg Lタンパク質の塩基配列は配列番 号 1に示され、アミノ酸配列は配列番号 2に示されて 、る。
[0083] 上記動物細胞用 HBsAg Lタンパク質発現プラスミド pB0441の終止コドンを、 Ser
残基をコードする塩基配列に置換するために、また同時に制限酵素 Saclサイトを挿 入するために、 pB0441を铸型として、 PCR法に基づく部位特異的変異導入操作を Quickし hangeTM; te— directed Mutagenesis Kit (Strategene社)を用 ヽてノフイマ ~~ には配列番号 3および 4の合成オリゴヌクレオチドを用いた。具体的には反応液 50 1 中に铸型 DNA 50nmol、合成 DNAプライマー(配列番号 3および 4の変異導入プライ マー)各 15pmol、 dATP 40nmol、 dCTP 40nmol、 dGTP 40nmol、 dTTP 40nmol、 Plu turbo DNA polymerase 2.5U、 lOmM KC1、 lOmM (NH4)2S02、 20mM Tris- HCl (pH 8.75)、 2mM MgS04、 0.1% Triton (登録商標) X- 100、 100 μ g/ml BSA中で、 95°C30 秒加熱後、 95°C30秒の変性、 45°C1分のアニーリング、 68°C20分の合成反応を 18 サイクル行った。その後、制限酵素 DpnI (10,000U/ml)を: 1カ卩えて 37°Cで 1時間処 理し、大腸菌 XL-1 Blueを形質転換し、得られたコロニーカゝらプラスミド DNAを抽出し 、制限酵素地図および塩基配列により、 目的の変異が導入されているプラスミド DNA (以下、 pB0611とする)を選抜した。
[0084] 次に、 Strep-tagll配列をコードする合成オリゴヌクレオチド(配列番号 5とこれに相 補的な配列番号 6、 EcoRVサイト挿入)の末端を T4ヌクレオチドキナーゼによりリン酸 化したのち、アニーリングし、上記 pB0611を制限酵素 Saclで切断したものに挿入す ることにより、 C末端に Strep-tagll配列が融合された HBsAg Lタンパク質 (以下、 C- 4- Strepとする)発現プラスミド pB0647を構築した。
[0085] ここで、 Strep-tagllとは、ストレプトアビジンに対してピオチンの様に高 、親和性で 結合するペプチドであり、 N末端力 順に WSHPQFEKのアミノ酸配列力もなる。な お、 C- 4- Strepは、 HBsAg Lタンパク質の C末端と Strep- tagllとの間に 4アミノ酸残 基からなるスぺーサー配列(SSSA)を有して!/ヽる。 Strep- tagll融合 HBsAg Lタン パク質の名称と、これを発現するプラスミド DNAの名称と、 HBsAg Lタンパク質の C 末端に実際に融合した配列を表 1 (A)に示す。
[表 1]
(A)
プラスミド 融合タンパク質名 c末端部アミノ酸配列
名称 (C末-スぺ一サ一- taq)
226(0
PB0441 /^"-LAg - - - C L W V Y *
PB0647 C-4-Strep · • · c L W V Y S S S A W S H P O F E K I S *
pB0710 C-7-HA · • - c L W V Y S S S G G S S Y P Y D V P D Y A I S *
PB0711 C -了 - His · • - c L W V Y S S S G G S S H H H H H H I S *
PB0747 C-了- FLAG ■ • · c L W V Y S S S G G S S D Y K D D D D K I S *
PB0764 C-9-FLAG - - - c L W V Y S S S G G G S S S D Y K D D D D K I S *
PB0765 C-13-FLAG - - - c L V Y S S S G G G S G G G S S S D Y K D D D D K I S *
PB0766 C-17-FLAG - - - C L V Y S S S G G G S G G G S G G G S S S D Y K D D D D K i S *
PB0767 C - 17(Trb)- FLAG ' • · C L V Y S S S G G G S G G Gし V P R G S S D Y K D D D D K i S *
PB0790 C-17CTrb)-FLAG-His
' - - £7/ ^l K/S S S G G G S G G G L V P R G S S D Y K D D D D K I H Q L H H H H H H*
(B)
プラスミド 融合タンパク質名 c末端部アミノ酸配列
名称 (。末-スぺ一サ一- tag)
PB0792 ΔΙΙ-6-FLAG F
'93
PB0793 Δ33- 6- FLAG
18.
PB0794 △45-6-FLAG
PB0789 A58-6-FLAG A S V
164
PB0788 Δ63- 6-FLAG F L f アミノ酸配列番号は Sタンパク質配列を基準として表示した。 (2) C末端に HAタグ (HA-tag)配列を融合した HBsAg Lタンパク質を発現するプ ラスミドの構築
まず、 HA-tag配列をコードする合成オリゴヌクレオチド (配列番号 7とこれに相補的 な配列番号 8)の末端を T4ヌクレオチドキナーゼによりリン酸化したのちアニーリング させた。その後、上記 C末端 Strep- tagll融合 HBsAg Lタンパク質発現プラスミド pB 0647を制限酵素 Saclと EcoRVとで切断して Strep-tagll配列を除去したのちに、上記 合成オリゴヌクレオチドを挿入することにより C末端に HA-tag配列が融合された C末 端 HA- tag融合 HBsAg Lタンパク質発現プラスミド pB0710が構築された。なお、こ の C末端 HA-tag配列融合 HBsAg Lタンパク質は、 HBsAg Lタンパク質の C末端
と HA-tag配列との間に 7アミノ酸残基力 なるスぺーサー配列(SSSGGSS)を有し ている。 HA-tag融合 HBsAg Lタンパク質の名称と、これを発現するプラスミド DNA の名称と、 HBsAg Lタンパク質の C末端に実際に融合した配列とを表 1 (A)に示す
[0087] ここで、 HA-tagとは、 N末端より YPYDVPDYAの配列を有するェピトープペプチド で、市販の抗 HA抗体(例えば、 Roche Diagnostics社)と高い親和性で結合する。
[0088] (3) C末端に Hisタグ (His-tag)配列を融合した HBsAg Lタンパク質を発現するプ ラスミドの構築
まず、 His-tag配列をコードする合成オリゴヌクレオチド (配列番号 9とこれに相補的 な配列番号 10)の末端を T4ヌクレオチドキナーゼによりリン酸ィ匕したのちアニーリング させた。その後、上記 C末端 Strep- tagll融合 HBsAg Lタンパク質発現プラスミド pB 0647の Strep-tagll配列領域を除去し、上記合成オリゴヌクレオチドを挿入することに より C末端に His- tag配列が融合された C末端 His- tag融合 HBsAg Lタンパク質発現 プラスミドが構築された。なお、この C末端 His-tag配列融合 HBsAg Lタンパク質は 、 HBsAg Lタンパク質の C末端と His-tag配列との間に 7アミノ酸残基力もなるスぺ ーサー配列(SSSGGSS)を有して!/、る。 His- tag融合 HBsAg Lタンパク質の名称と 、これを発現するプラスミド DNAの名称と、 HBsAg Lタンパク質の C末端に実際に融 合した配列とを表 1 (A)に示す。
[0089] ここで、 His-tagとは、 His残基が 6個連続した配列(HHHHHH)を有するペプチド で、ニッケルやコバルトなどの金属イオンにキレートする能力をもつ。 His-tag配列を 付加することにより、 HBsAg Lタンパク質を金属キレートカラムによってァフィ-ティ 一精製することが可能となる。
[0090] (4) C末端に FLAGタグ(FLAG-tag)配列を融合した HBsAg Lタンパク質を発現 するプラスミドの構築
まず、 FLAG-tag配列をコードする合成オリゴヌクレオチド(配列番号 11とこれに相 補的な配列番号 12)の末端を T4ヌクレオチドキナーゼによりリン酸ィ匕したのちァニー リングさせた。その後、上記 C末端 Strep-tagll融合 HBsAg Lタンパク質発現プラスミ ド PB0647の Strep-tagll配列領域を除去し、上記合成オリゴヌクレオチドを挿入する
ことにより C末端に FLAG-tag配列が融合された C末端 FLAG-tag融合 HBsAg Lタン ノ ク質発現プラスミドが構築された。なお、この C末端 FLAG- tag配列融合 HBsAg L タンパク質は、 HBsAg Lタンパク質の C末端と FLAG-tag配列との間に、 7アミノ酸残 基からなるスぺーサー配列(SSSGGSS)を有して!/、る。 FLAG- tag融合 HBsAg L タンパク質の名称と、これを発現するプラスミド DNAの名称と、 HBsAg Lタンパク質 の C末端に実際に融合した配列とを表 1 (A)に示す。
[0091] ここで、 FLAG- tagとは、 N末端より DYKDDDDKの配列を有するペプチドで、巿 販の抗 FLAG抗体 (Sigma社)と高 、親和性で結合する。
[0092] 〔実施例 2 :スぺーサー配列の長さの異なる C末端 FLAG-tag融合 HBsAg Lタンパ ク質を発現するプラスミドの構築〕
HBsAg Lタンパク質の C末端と FLAG-tag配列との間のスぺーサー配列の長さの 異なる、 4種類の C末端 FLAG- tag融合 HBsAg Lタンパク質発現プラスミドを構築し た。
[0093] 具体的には、実施例 1の (4)で構築した C末端に FLAG-tag配列が融合した HBsA g Lタンパク質(C-7-FLAG)発現プラスミド pB0747を制限酵素 Saclと Xholとで切断 し、スぺーサー配列をコードする配列番号 13とこれに相補的な配列番号 14の合成 オリゴマー、配列番号 15とこれに相補的な配列番号 16の合成オリゴマー、配列番号 17とこれに相補的な配列番号 18の合成オリゴマー、あるいはスぺーサ一中にスロン ビン認識配列をコードする配列番号 19とこれに相補的な配列番号 20の合成オリゴマ 一の末端を T4ヌクレオチドキナーゼによりリン酸ィ匕したものを、各々挿入した。各々の 長さのスぺーサー配列をもつ FLAG-tag融合 HBsAg Lタンパク質の名称と、各発現 プラスミドの名称と、 HBsAg Lタンパク質の C末端に実際に挿入された配列とを表 1 (A)に示す。
[0094] またスぺーサー配列が長く、スロンビン認識配列、 FLAG-tag配列、 His-tag配列を 同時に有する融合 HBsAg Lタンパク質を発現するプラスミドも構築した。具体的に は、上記で得られたスロンビン認識配列と FLAG-tag配列とを融合した HBsAg Lタ ンパク質(C- 17(Trb)-FLAG)発現プラスミド pB0767を制限酵素 EcoRVで切断し、こ れに His-tag配列をコードする配列番号 21とこれに相補的な配列番号 22の合成オリ
ゴマーの末端を T4ヌクレオチドキナーゼによりリン酸ィ匕したものを、挿入した。その結 果得られたプラスミド ΡΒ0790がコードする C末端 -tag部分の配列を表 1 (A)に示す。 〔実施例 3:種々の C末端領域欠損体 C末端に tag配列を融合した HBsAg Lタンパ ク質を発現するプラスミドの構築〕
(1) C末端領域 25アミノ酸残基を欠失した HBsAg Lタンパク質の C末端に FLAG-tag配列あるいは HA-tag配列を融合した融合 HBsAg Lタンパク質の発現プ ラスミドの構築
まず、実施例 1で構築した C末端に FLAG-tag配列が融合した HBsAg Lタンパク 質発現プラスミド pB0747、あるいは HA-tag配列が融合した HBsAg Lタンパク質発 現プラスミド PB0710を铸型として用い、配列番号 23の合成オリゴヌクレオチドと配列 番号 24の合成オリゴヌクレオドとをプライマーとして用い、 PCR法に基づく部位特異 的変異導入法(QuickChangeTM Site-directed Mutagenesis Kit (Strategene社))を用 いて、欠損させたい部分の前 (具体的には Sタンパク質領域の W201の後ろ)に制限 酵素 Saclサイトを挿入した。反応液 50 μ 1中に铸型 DNA 50nmol、合成 DNAプライマー (配列番号 23および 24の変異導入プライマー)各 15pmol、 dATP 40nmol、 dCTP 40nmol、 dGTP 40nmol、 dTTP 40nmol、 Pfo turbo DNA polymerase 2.5U、 lOmM KC1 、 lOmM (NH4)2S02、 20mM Tris- HCl (pH 8.75)、 2mM MgS04、 0.1% Triton (登録 商標) X-100、 100 μ g/ml BSA中で、 95°C30秒加熱後、 95°C30秒の変性、 45°Cま たは 55°C1分のアニーリング、 68°C20分の合成反応を 18サイクル行った。その後、 制限酵素 DpnI (10,000U/ml)を: 1カ卩えて 37°Cで 1時間処理し、大腸菌 XL-1 Blue を形質転換し、得られたコロニー力 プラスミド DNAを抽出し、 2ケ所の Saclサイトを有 するプラスミド DNAを選抜した。铸型として用いた pB0747と pB0710とはその C末端 部に Saclサイトを有しており、今回の変異で第 2の Saclサイトが挿入されたことになる。 塩基配列を確認したのち、得られたプラスミド DNAを制限酵素 Saclで切断し、ライゲ ーシヨン反応を行うことにより Saclサイトに挟まれた部分 (HBsAg Lタンパク質の C末 端領域 25アミノ酸残基)を欠失した FLAG- tag融合した HBsAg Lタンパク質( Δ 25- 6- FLAG)発現プラスミド ρΒ0748、および、 HA- tag融合した HBsAg Lタンパク 質( Δ 25- 6- HA)発現プラスミド pB0744を構築した。得られた各 tag融合タンパク質の
名称、プラスミドの名称、 HBsAg Lタンパク質の C末端に実際に融合した配列とを 表 1 (B)に示す。
[0096] (2) C末端領域 54アミノ酸残基を欠失した HBsAg Lタンパク質の C末端に
FLAG-tag配列あるいは HA-tag配列を融合した融合 HBsAg Lタンパク質の発現プ ラスミドの構築
PB0747あるいは pB0710を铸型プラスミド DNAとして用い、変異導入用プライマー として、配列番号 25の合成オリゴヌクレオチドと配列番号 26の合成オリゴヌクレオチド を用いて、実施例 3 (1)と同様の操作を行うことにより、 HBsAg Lタンパク質の C末 端領域 54アミノ酸残基を欠失した FLAG-tag融合 HBsAg Lタンパク質( Δ
54— 6— FLAG)発現プラスミド pB0749、 HA— tag融合 HBsAg Lタンパク質( Δ 54-6-ΗΑ)発現プラスミド ρΒ0745を構築した。得られた各 tag融合タンパク質の名称 、プラスミドの名称、 HBsAg Lタンパク質の C末端に実際に融合した配列とを表 1 (B )に示す。
[0097] (3) C末端領域 130アミノ酸残基を欠失した HBsAg Lタンパク質の C末端に
FLAG-tag配列あるいは HA-tag配列を融合した融合 HBsAg Lタンパク質の発現プ ラスミドの構築
PB0747あるいは pB0710を铸型プラスミド DNAとして用い、変異導入用プライマー として、配列番号 27の合成オリゴヌクレオチドと配列番号 28の合成オリゴヌクレオチド を用いて、上記(1)と同様の操作を行うことにより、 HBsAg Lタンパク質の C末端領 域 130アミノ酸残基を欠失した FLAG-tag融合した HBsAg Lタンパク質( Δ
130- 6- FLAG)発現プラスミド pB0750、 HA- tag融合した HBsAg Lタンパク質( Δ 130- 6- HA)発現プラスミド ρΒ0746を構築した。得られた各 tag融合タンパク質の名称 、プラスミドの名称、 HBsAg Lタンパク質の C末端に実際に融合した配列とを表 1 (B )に示す。
[0098] (4)その他の C末端領域アミノ酸残基を欠失した HBsAg Lタンパク質の C末端に FLAG-tag配列を融合した融合 HBsAg Lタンパク質の発現プラスミドの構築 上記(1)と同様の操作を行うことにより、 HBsAg Lタンパク質の C末端領域がそれ ぞれ 11アミノ酸残基 (変異導入用プライマー:配列番号 29および 30)、 33アミノ酸残
基 (変異導入用プライマー:配列番号 31および 32)、45アミノ酸残基 (変異導入用プ ライマー:配列番号 33および 34)、 58アミノ酸残基 (変異導入用プライマー:配列番 号 35および 36)、 63アミノ酸残基 (変異導入用プライマー:配列番号 37および 38)を 欠失した FLAG-tag融合した HBsAg Lタンパク質( Δ 11-6-FLAG)発現プラスミド p B0792、 pB0793 ( Δ 33- 6- FLAG)、 pB0794 ( Δ 45- 6- FLAG)、 pB0789 ( Δ 58- 6- FLAG)、 pB0788 ( Δ 63- 6- FLAG)を構築した。得られた各 tag融合タンパク質 の名称、プラスミドの名称、 HBsAg Lタンパク質の C末端に実際に融合した配列と を表 1 (B)に示す。
[0099] また、 FLAG-tagと His-tag配列が連続して融合された HBsAg Lタンパク質発現プ ラスミド PBO790を铸型に、配列番号 25の合成オリゴヌクレオチドと配列番号 26の合 成オリゴヌクレオチドを変異導入プライマーに用いて、上記と同様の操作を行うことに より、 C末端領域 54アミノ酸欠失した C末端 FLAG- His- tag融合 HBsAg Lタンパク 質( Δ 54-17(Trb)-FLAG- His)発現プラスミド pB0791を作成した。
[0100] 得られた各種の tag融合 C末端欠失 HBsAg L蛋白質の名称と、プラスミドの名称、
C末端領域および tag部分の配列を、表 1 (B)に示す。
[0101] 〔実施例 4 : C末端に各種タグ配列を融合した HBsAg Lタンパク質の COS7細胞 による発現と粒子分泌の確認〕
( 1)トランスフエクシヨン試薬を用いたトランスフエクシヨン
サル腎由来細胞株 COS7は、ゥシ胎児血清 (FBS) 5%を含むダルベッコ改変ィー グル培地(DMEM)中で 37°C、 5%C02下で培養した。 COS7細胞を 3 X 104cell/ml となるようにゥシ胎児血清(FBS) 10%を含む DMEM培地に浮遊し、 3.5cmディッシュ へ 1.5mlずつ播種して、 37°C、 5%C02下で 14一 15時間培養した。 1.5mlチューブに 、 95 μ 1の DMEM培地と 4 μ 1のトランスフエクシヨン試薬 FuGene6 (Roche Diagnostics社 )とを加えて混合したのち、上述した実施例 1一 3でそれぞれ構築した各種 C末端 tag 融合 HBsAg Lタンパク質発現プラスミド DNA (1 μ g/ μ 1溶液)を 1 μ 1加えて混合した 。室温で 15分間放置して複合体を形成させたのち、その全量を上記 COS7細胞( 3.5cmディッシュ)に添加した。 37°C、 5%C02の条件下で 14一 15時間培養したのち 、培地を 1.5mlの無血清培地 CHO- SFM II (インビトロジェン社)に交換し、さらに 3日
間培養後、培養上清を回収した。同様に、 10cmディッシュでトランスフエクシヨンを行う 場合は、 COS7細胞を 5 X 105cells/dishとなるように播種して、 DMEM培地: FuGene6 :プラスミド DNA= 665 ^ 1: 28 ^ 1: 7 ^ 1の複合体を添カ卩し、 10mlの培養上清 を回収した。
[0102] (2) C末端 tag融合 HBsAg L粒子分泌の検出
回収した培地 90 μ 1に 1%FBSを含むダルベッコリン酸緩衝液 (PBS) 90 μ 1を加えて 、抗 HBsAg抗体を用いた酵素免疫測定法である IMX HBsAgアツセィシステム (ダイ ナボット社製)により、培養上清中に分泌された HBs抗原を検出した。ここで、培養上 清中に HBsAg抗原が検出された場合、 HBsAg L粒子が形成されて分泌されたと 判断し、これにより培養液中に各 C末端 tag融合 HBsAg L粒子の存在を確認した。
[0103] 図 2 (A)—図 2 (C)は、実施例 1および 3でそれぞれ構築した各種 C末端 tag融合 H BsAg Lタンパク質発現プラスミドを用いて、上記の方法によって検出した各 C末端 tag融合 HBsAg L粒子分泌の結果を示したグラフである。各々の粒子分泌量は、野 生型 HBsAg Lタンパク質を 100とした場合の HBs抗原当量の相対値(%)で示して いる。また、 HBsAg L遺伝子を含まないプラスミドによる培養上清の結果を陰性対 照 (ネガティブ:図中 mock)とした。図 2 (A)—図 2 (C)に示すように C- 7-ΗΑ、 Δ 54-6-HA、 A 54-6-FLAG、 A 45-6-FLAGで野生型粒子の 40%以上の HBsAg L 粒子の分泌が見られた力 他の tag融合体の野生型粒子の 10%程度と分泌が低か つた。なお、各々の実験は 3回以上行い、偏差値をバーで示してある。
[0104] 次に、実施例 2で構築したスぺーサ一の長さを変えた各種 C末端 tag融合 HBsAg Lタンパク質発現プラスミドを用いた場合、図 2 (B)に示すように、 C-7-FLAGが野生 型粒子の 10%程度であつたのに対し、スぺーサ一の長い C- 9-FLAG、 C-13-FLAG 、 C-17-FLAGおよび C- 17(Trb)-FLAGでは培養上清への分泌量が 10%程度増加し ていることが、すなわち、野生型粒子の 20%程度分泌していることが示された。
[0105] (3) C末端 tag融合 HBsAg L粒子の免疫沈降による検出
抗 HBsマウスモノクローナル抗体による免疫沈降と、抗 HBsマウスモノクローナル 抗体あるいは抗 tag抗体によるウェスタンブロット法 (Western Blotting)を用いて、 C末 端 tag融合 HBsAg L粒子の分子量および分泌量を確認した。
[0106] 回収した培養上清 4mlに IMX HBsAgアツセィシステムの抗 HBsマウスモノクローナ ル抗体固定ィ匕マイクロパーティクルを 30 1加えて、ゆっくりチューブを回転させなが ら 1晚、 4°Cにおいた。 3分間卓上型高速遠心機を用いてマイクロパーティクルと共に 培養上清中の粒子を沈降させ、得られた沈澱に TBST (10mM Tris-HCl緩衝液 pH7.5, 150mM NaCl, 0.1% Tween20)をカ卩えて懸濁し、さらに遠心を行って沈澱を回 収する洗浄操作を 5回くり返した。この沈殿を、還元条件下で SDS-PAGEをおこなつ た。還元条件下とは、上記沈殿をメルカプトエタノールをカ卩えて 95°C、 5分間処理し てから SDS-PAGEを行ったもので、システィン残基同士のジスルフイド結合は切断さ れ、タンパク質はモノマーとして検出される。得られた電気泳動ゲル中のタンパク質を PVDF膜(Bio- rad社)に電気転写し、 1次抗体に IMX HBsAgアツセィシステム(ダイ ナポット社)のャギ抗 HBsAg抗体 'ピオチン結合体、 2次抗体にアルカリホスファタ一 ゼ標識ゥサギ抗ビォチン抗体を用いたウェスタンブロッテイングにより、培養上清中の HBsAg L粒子を検出した。アルカリホスファターゼ活性は CDP-starTM
Chemiluminescent Substrate (NEB社)を用いて検出した(図 3A)。その結果、図 2 (A )および図 2 (C)で示した培養上清中の分泌量測定結果と矛盾しな 、強さの各 tag融 合タンパク質のバンドが検出された。
[0107] 次に、同じ PVDF膜について、 1次抗体に抗 HA-tag抗体 ·ピオチン結合体(
Anti- [HA]- biotin、 Diagnostics社)ある!/、は抗 FLAG- tag抗体 ·ビォチン結合体 ( Anti-FLAGR biotinylated M2 monoclonal antibody, Sigma社)を、 2次抗体に西洋ヮ サビパーォキシダーゼ(HRP)標識アビジン (Zymed社)を用いてリプロービングした。
HRP活'性 ίま、 Western LighteningTMし nemiluminescence Reagent Plus (Per kin Elmer Life Sciences社)で検出した(図 3B)。
[0108] その結果、図 3Aと同じ位置にバンドが検出されたことから、 C末端に tag配列が融合 した HBsAg Lタンパク質であることが確認された。
[0109] 〔実施例 5 :各種 C末端 tag融合 HBsAg L粒子表面への tag配列提示の確認〕
C末端に融合した tag配列が粒子の表面に提示されて ヽれば、抗 tag抗体を用いた 免疫沈降が可能となる。そこで、各種 C末端 tag融合 HBsAg L粒子について、抗 FLAG-tag抗体固定ィ匕ビーズある 、は抗 HA-tag抗体固定ィ匕ビーズを用いた免疫沈
降を行った。
[0110] 具体的には、実施例 4の(1)に記載した方法に従って COS7細胞に各発現プラスミ ド DNAをトランスフエクシヨンして得られた培養上清 4mlに抗 FLAG-tag抗体固定化ビ ーズ(Anti- FLAGR M2 agarose affinity gel, Sigma社) (1: 1懸濁液)あるいは抗 HA- tag抗体固定ィ匕ビ ~~ズ (Monoclonal anti- HA agarose conjugate clone HA- 7、 Sigma社)(1 : 1懸濁液)を各々30 1カ卩ぇて、ゆっくりチューブを回転させながら 1晚、 4°Cにおいた。抗 FLAG-tag抗体固定化ビーズは、予め 10%ブロックエース(雪印乳 業)を加えて 4°Cで 30分以上処理したものを使用した。 3分間卓上型高速遠心機を 用いてビーズと共に培地中の粒子を沈降させ、得られた沈澱に TBST (10mM
Tris- HCl緩衝液 pH7.5, 150mM NaCl, 0.1% Tween20)を加えて懸濁し、さらに遠心を 行って沈澱を回収する洗浄操作を 5回くり返した。この沈殿を、実施例 4の(3)と同様 の方法で、還元条件下で SDS-PAGEを行い、 1次抗体に IMX HBsAgアツセイシステ ム (ダイナポット社)のャギ抗 HBsAg抗体 'ピオチン結合体、 2次抗体にアルカリホス ファターゼ標識ゥサギ抗ビォチン抗体を用いたウェスタンブロッテイングを行った(図 4 A)。次に、同じ PVDF膜について、 1次抗体に抗 HA-tag抗体 'ピオチン結合体( Anti- [HA]- biotin、 Diagnostics社)ある!/、は抗 FLAG- tag抗体 ·ビォチン結合体 ( Anti-FLAGR biotinylated M2 monoclonal antibody, Sigma社)を、 2次抗体に西洋ヮ サビパーォキシダーゼ(HRP)標識アビジン (Zymed社)を用いてリプロービングした。 HRP活'性 ίま、 Western LighteningTMし nemiluminescence Reagent Plus (Per kin Elmer Life Sciences社)で検出した(図 4B)その結果、 C- 7-HA、 Δ 54-6-ΗΑ、 Δ
45-6-FLAG, A 54-6-FLAG、 A 58-6-FLAGは、対応する抗 tag抗体で免疫沈降され たことから、 C末端 tag融合 HBsAg L粒子の表面に tag配列を提示していることが示 された。
[0111] 〔実施例 6 : C末端 tag融合 HBsAg L粒子のァフィ-テフィークロマトグラフィーによ る濃縮精製〕
粒子表面に提示されたタグ配列を利用することにより、抗タグ抗体によるァフィ-テ ィークロマトグラフィーによる簡易精製および濃縮が可能となる。
[0112] (1)エレクト口ポレーシヨンによる tag融合 HBsAg L粒子の大量発現
5%FBS- DMEM培地で COS7細胞を培養しておき、 80%コンフルェントに達した細 胞を用意する。培地を新しいものに交換し、 6— 8時間後にトリプシン処理して細胞を 集め、 1. 5mlチューブ 1本につき細胞が 4 X 106個になるように分注し、遠心した。 遠心条件は、 30秒、 l,2000rpmである。遠心後、上清を吸引除去し、エレクトロボレ ーシヨン溶液(Ep medium:RPMI-1640+ 10mMグルコース + 0.1mM DDT)を 30 0 1カ卩ぇ細胞を懸濁した。この細胞懸濁液に、表 1の各種 C末端 tag融合 HBsAg L 粒子発現プラスミド 5 gを加え、キュベット(4mmギャップ)に移した。これに 0.3KV、 950 Fの条件で電圧を印加(エレクト口ポレーシヨン)後、すぐに氷冷した。そして、キ ュベット内の細胞を 15mlの培地に再懸濁し、 10cmシャーレに播種した。 37°Cで 14一 15時間培養した後、培地をシャーレ 1枚につき無血清培地 CHO-S-SFM II (GIBCO 社) 8mlに交換し、さら〖こ 2日間培養した。培養上清を回収した後、再び CHO-S-SFM IIを 8πύ添加し、さらに 2日培養後の培養上清を集めた。数回分の培養上清を 4°Cで 保存しておいた。
(2)抗 FLAG-tag抗体固定ィ匕カラムによるァフィ二テフィークロマトグラフィー ベッドボリューム 0.35mlとなるよう抗 FLAG- tag抗体固定化ビーズ (Anti- FLAG M2 agarose Affinity gel, Sigma社)をカラムにつめて、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水( PBS)で平衡化した。上記で得られた Δ 54-6-FLAGあるいは Δ 45-6-FLAG発現培養 上清 10mlをこのカラムに通して粒子を吸着させた後、 0.1Mリン酸 buffer (pH 3.5)を 300 μ Lづっ 7回通して粒子を溶出した。溶出液はあらかじめ 27 μ Lの 2Μリン酸 buffer (pH 8.0)を含むチューブに受けて分画した。培養上清およびカラム溶出液に含まれる粒 子濃度は、 IMXHBsAgアツセィシステムを用いて測定し、 280nmの吸光度より全タン ノ ク質濃度を概算した。その結果、抗 FLAG-tag抗体固定ィ匕カラム精製により、 4一 5 倍濃縮された精製粒子を、回収率 30— 40%の収率で得る事ができた。この結果を下 記の表 2にまとめた。いずれも場合も 100倍以上精製された。
[表 2]
サンプル 精製前 p H 3 . 5溶出液
回収 液量 抗原量 液量 抗原量
(%)
(mL) (ng) (ml) (ng)
L-厶 45- FLAG 10 142 0.9 45.7 32
L- Δ 54 - FLAG 10 271 0.9 120 44
[0114] (3)コバルトカラムによるァフィ二テフィークロマトグラフィー
ベッドボリューム 0.4mlとなるよう TALON Co-レジン(CLONETECH社)をカラムにつ めて、 50mMリン酸カリウム緩衝液 (pH7.0)、 0.3M NaClで平衡化した。上記で得られ た His-tag付 HBsAg L粒子発現培養上清 50mlをこのカラムに通して粒子を吸着さ せた。約 5mlの 50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、 0.3M NaCl, 5 mMイミダゾー ルでカラムを洗浄した後、ゆっくりと 50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、 0.3M NaCl 、 150mMイミダゾールを通して粒子を溶出した。カラム溶出液に含まれる粒子濃度( HBsAg当量)を IMX HBsAgアツセィシステムを用いて測定したところ、 150mMイミダ ゾール溶出液に His-tag融合 HBsAg L粒子が濃縮回収された。
[0115] (4)ァフィ-テフィー精製された C末端 tag融合 HBsAg L粒子のヒト肝細胞特異的 感染能
上記のァフィ-テフィー精製された C末端 tag融合 HBsAg L粒子では、 N末端の PreS領域 (ヒト肝細胞認識領域)が保存されているため、野生型 HBsAg L粒子同様 のヒト肝細胞特異的感染能を保持して 、る。
[0116] 上記でァフィ-テフィー精製した C末端 tag融合 HBsAg L粒子をダルベッコ PBSで 平衡ィ匕したセフアデックス G25 (アマシャム)カラムに通して緩衝液を置換した。粒子( HBsAg濃度として 10-500ng/ml)に最終濃度 10mMとなるように力ルセイン (黄色蛍光 物質、ドータイト社)を混合して液量を 0.5mlとしたのち、エレクト口ポレーシヨン用チヤ ンバーに入れ、エレクト口ポレーシヨン(条件: 220V, 950 μ F)〖こより、力ルセインを粒 子内部に封入した。
[0117] あら力じめヒト肝癌由来細胞株 HepG2、ヒト扁平上皮癌由来細胞株 A431,および
ハムスター由来 CHO細胞を、各々 8ウエルチヤンバースライドに播種し、 1日培養して 70-80%コンフルェント状態の細胞を準備しておいた。これらの細胞に、上記で調製 した力ルセイン封入粒子を添カ卩し、 8— 16時間培養した。各ゥエルを培地で 2回洗浄 して遊離の力ルセイン除 、た後、細胞に取り込まれた力ルセインを共焦点レーザー顕 微鏡で観察した。その結果、力ルセインを封入した tag融合 HBsAg L粒子では、野 生型 HBsAg L粒子に封入した場合と同様に、 HepG2細胞への力ルセイン導入増 強がみられたが、他の細胞では増強効果が見られな力つた。
[0118] 〔実施例 7 : C末端ベータセルリン (BTC)融合 HBsAg Lタンパク質粒子を発現す るプラスミドの作製〕
実施例 2および実施例 3に記載の、 HBsAg Lタンパク質あるいは C末端領域欠損 HBsAg Lタンパク質の C末端にスぺーサーを介して tag配列を融合した粒子を発現 するプラスミドに、さらにヒト BTC配列を融合することにより、 BTCを粒子表面に提示 する HBsAg Lタンパク粒子発現プラスミドを作成した。上記 BTCとは、ヒト上皮細胞 増殖因子 (EGF)ファミリーに属する増殖因子で、細胞上の EGF受容体 (EGFR)と 高い親和性を有する。従って、 C末端に融合された BTCと EGFRとの結合を介した E GFR陽性細胞認識能が期待される。
[0119] 具体的には、 Growth Factors Vol. 13,pl81-191記載のヒト BTC配列をコードするプ ラスミド、 pB041を铸型として、 Ndel配列を付加した配列番号 39の合成オリゴヌタレ ォチドと PvuII配列を付加した配列番号 40の合成オリゴヌクレオチドとをプライマーと して用いた PCR反応を行って、 BTCの EGFドメイン配列を含む遺伝子断片を増幅し 、増幅 DNAを pCRR2.1ベクター(Invitrogen社)にクローユングした。クロー-ングさ れた塩基配列を確認した後、 BTC配列を含む遺伝子断片を制限酵素 Ndelと PvuIIで 切り出した。実施例 2および実施例 3で作成した pB0790あるいは pB0791を制限酵 素 Ndelと PvuIIとで切断し、上記の BTC遺伝子断片を各々挿入することにより、 C末端 BTC融合 HBsAg L粒子発現用プラスミドを作成した。これらのプラスミドにおいて、 HBsAg L蛋白質 C末端に融合された BTC配列を図 5に示す。なお図中、 HBsAg
Lタンパク質との融合に使用した Sadサイトを波線で、ベータセルリン (EGFドメイン) 配列挿入用に導入した Ndelサイトを点線、 PvuIIサイトを二重下線で各々示した。また
アミノ酸配列中、 FLAG-tag配列をボールド、 ZZ-tag配列を下線、 His-tag配列をィタリ ックで示した。
[0120] 〔実施例 8 : C末端 BTC融合 HBsAg Lタンパク質粒子の発現〕
実施例 6(1)記載の方法を用いて、上記 C末端 BTC融合 HBsAg L粒子発現用プ ラスミドを COS7細胞にトランスフエタトし、その培養上清を回収した。この培養上清中 の粒子量を、抗 HBsAg抗体を用いた IMX HBsAgアツセィキットで測定した結果、培 養上清への粒子分泌が確認された。
[0121] 〔実施例 9 : C末端 BTC融合 HBsAg Lタンパク質粒子の二つの認識部位による感 染能〕
C末端 BTC融合 HBsAg Lタンパク質粒子は、 N末端の PreS領域 (ヒト肝細胞認識 領域)によるヒト肝細胞特異的感染能と同時に、新たに表面に提示された BTCの特 異性による感染能を有する。 EGFRは多くの癌細胞に過剰発現されており、 EGFR に結合するリガンドゃ抗体は肝癌細胞標的に用いられて 、る。
[0122] 上記で作製された C末端 BTC融合 HBsAg L粒子(100-lOOOng/ml)に最終濃度 10mMとなるように力ルセインを混合したのち、エレクト口ポレーシヨン用チャンバ一に 入れ、エレクト口ポレーシヨン (条件:220V、 950 μ F)〖こより、力ルセインを粒子内部に 封入した。
[0123] あらカゝじめヒト肝癌由来細胞株 HepG2 (EGFRも陽性)、と EGFR過剰発現細胞で あるヒト扁平上皮癌由来細胞株 A431、および EGFRがほとんど発現して ヽな 、ノヽム スター由来 CHO細胞を、各々 8ウエルチヤンバースライドに播種し、 1日培養しておい た。これらの細胞に上記で調製した力ルセイン封入粒子を添加し、 6— 16時間培養し た。遊離の力ルセインを培地で洗浄した後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。そ の結果、力ルセイン封入 BTC融合 HBsAg L粒子を用いることにより、 HepG2細胞 と A431細胞への力ルセイン導入増強がみられた力 CHO細胞では増強効果が見ら れなかった。
[0124] また、あら力じめ野生型 HBsAg L粒子あるいは BTCタンパク質を各細胞に添カロし て 4°Cで 30分インキュベートし、細胞上の受容体をブロックした。その後、力ルセイン 封入粒子を添加して、 6時間培養後観察した。 HepG2細胞に力ルセイン封入野生型
HBsAg L粒子を添加した場合には、野生型 HBsAg L粒子前処理によりカルセィ ン導入が大きく低下したのに対し、力ルセイン封入 BTC融合 HBsAg L粒子を添カロ した場合には、少し低下しただけだった。 A431細胞への力ルセイン封入 BTC融合 H BsAg L粒子を添加した場合、野生型 HBsAg L粒子前処理による力ルセイン導入 能の低下は見られなカゝつた。 BTCタンパク質で各細胞を前処理した場合、カルセィ ン封入 BTC融合 HBsAg L粒子の A431細胞への力ルセイン導入はほぼ消失したが 、 HepG2細胞への導入能は少し低下しただけだった。野生型 HBsAg L粒子と BT Cタンパク質とで同時に前処理した HepG2細胞への導入能は、大きく低下した。ヒト 肝癌細胞に対する二種の異なる認識部位 (本実施例の場合、 N末端部の PreSと C末 端部の BTC)が相補的に働くことにより、より確実に標的細胞への感染を達成できる ことが示された。
[0125] 〔実施例 10 : C末端 ZZタグ (ZZ-tag)融合 HBsAg Lタンパク質粒子を発現するプ ラスミドの作製〕
実施例 3に記載の、 HBsAg Lタンパク質 C末端にスぺーサーを介して tag配列を 融合した粒子を発現するプラスミドに、さらに ZZ-tag配列を融合することにより、 ZZ-tag配列を粒子表面に提示する HBsAg Lタンパク粒子発現プラスミドを作成し た。上記 ZZ-tagとは、 Staphyrococcus aureus由来 ProteinAの「ィムノグロブリン Gの Fc 領域結合領域をコードするアミノ酸配列 (ZZタグの配列: N末から、
APK)」であり、 ZZ-tag表面に提示した粒子ではこれを介することにより各種の「抗体」 あるいは「抗体 Fc領域とリガンドタンパク質との融合タンパク質」の粒子表面への提示 が可能となる。
[0126] 具体的には、 ZZ- tag配列をコードするプラスミド pMWIZl(Appl. Microbiol.
Biotechnol. Vol. 57, p.500-505, 2001に記載)を铸型として、 Ndel配列を付加した配 列番号 41の合成オリゴヌクレオチドと、 PvuII配列を付加した配列番号 42の合成オリ ゴヌクレオチドとを、プライマーとして用いて PCR反応を行い、 ZZ-tag配列を含む遺伝
子断片を増幅し、増幅 DNAを pCR(R)2.1ベクター(Invitrogen社)にクローユングした 。クローニングされた塩基配列を確認した後、 ZZ-tag配列を含む遺伝子断片を制限 酵素 Ndelと PvuIIで切り出した。実施例 2および 3で作成した pB0790あるいは pB079 1を制限酵素 Ndelと PvuIIとで切断し、上記の ZZ-tag遺伝子断片を各々挿入すること により、 C末端 ZZ-tag融合 HBsAg L粒子発現用プラスミドを作成した。これらのブラ スミドにおいて、 HBsAg L蛋白質領域に付加された配列を図 6に示す。なお図中、 HBsAg Lタンパク質との融合に使用した Saclサイトを波線で、 ZZ_tag配列挿入用に 導入した Ndelサイトを点線、 PvuIIサイトを二重下線で各々示した。またアミノ酸配列中 、 FLAG-tag配列をボールド、 ZZ-tag配列を下線、 His-tag配列をイタリックで示した。
[0127] 〔実施例 11 : C末端 ZZ- tag融合 HBsAg Lタンパク質粒子の発現〕
実施例 6 (1)と同様に、上記 C末端 ZZ-tag融合 HBsAg L粒子発現用プラスミドを C OS7細胞にトランスフエタトし、その培養上清を回収した。この培養上清中の粒子量 を、抗 HBsAg抗体を用いた IMX HBsAgアツセィキットで測定した結果、培養上清へ の粒子分泌が確認された。
[0128] 〔実施例 12 :抗体提示 ZZ- tag融合 HBsAg Lタンパク質粒子の二つの認識部位に よる感染能〕
ZZ-tag配列は、抗体分子の Fc部分に対して高い親和性を有しており、例えば癌特 異的抗体であるヒト EGF受容体 (EGFR)に対するマウスモノクローナル抗体 7G7B6 等と特異的に結合することができる。そこで、上記 C末端 ZZ-tag融合 HBsAg Lタン ノ^質粒子と抗体とを結合させることにより、粒子表面に抗体を提示した C末端 ZZ-tag融合 HBsAg Lタンパク質粒子を作成した。抗体を提示した C末端 ZZ_tag融 合 HBsAg Lタンパク質粒子は、 N末端の PreS領域 (ヒト肝細胞認識領域)〖こよるヒト 肝細胞特異的感染能と同時に、新たに表面に提示された抗体の特異性による感染 能を有する。
[0129] (1)抗 EGFR抗体提示粒子による EGFR高発現細胞への感染
実施例 11で作製された C末端 ZZ-tag融合 HBsAg L粒子(50-lOOOng/ml)に最終 濃度 ImMとなるように力ルセイン (黄色蛍光物質)を混合したのち、エレクト口ポレーシ ヨン用チャンバ一に入れ、エレクト口ポレーシヨン (条件: 220V、 950 F)により、力ルセ
インを粒子内部に封入した。力ルセイン封入粒子に対し、等モル量のマウスモノクロ ーナル抗体 7G7B6を混合し、 PBS中で約 1時間反応させた。これにより粒子表面に抗 EGFR抗体を提示し内部に力ルセインを封入した C末端 ZZ-tag融合 HBsAg Lタン ノ ク質粒子が作製できた。
[0130] あら力じめヒト肝癌由来細胞株 HepG2と、 EGFR過剰発現細胞であるヒト扁平上皮 癌由来細胞株 A431と、 EGFRがほとんど発現して!/、な!/ヽハムスター由来 CHO細胞と を、各々 8ウエルチヤンバースライドに播種し、 1日培養しておいた。これらの細胞に、 上記で調製した力ルセイン封入粒子を添加し、 6— 16時間培養した。遊離の力ルセ インを培地で洗浄した後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。その結果、カノレセイン 封入抗 EGFR抗体提示 C末端 ZZ- tag融合 HBsAg L粒子を用いることにより、 Hep G2細胞と A431細胞への力ルセイン導入増強がみられた力 CHO細胞では増強効 果が見られなカゝつた。
[0131] また、あら力じめ野生型 HBsAg L粒子を各細胞に添カ卩して、 4°C30分インキュべ ートした後、力ルセイン封入抗 EGFR抗体提示融合 HBsAg L粒子を添加した。さら に、 6時間培養後観察したところ、野生型 HBsAg L粒子で前処理した A431細胞へ の導入能は低下しな力つた力 HepG2細胞に対する力ルセイン導入は少し低下した 。抗 EGF抗体あるいは BTCタンパク質で各細胞を前処理した場合、 A431細胞への 力ルセイン導入は消失した力 HepG2細胞への導入能は少し低下しただけだった。 野生型 HBsAg L粒子と BTCタンパク質とで同時に前処理すると、 HepG2細胞へ の導入能が大きく低下した。
[0132] (2)抗ヒトトランスフ リン抗体提示粒子による TfR高発現細胞への感染
実施例 11で作製された C末端 ZZ-tag融合 HBsAg L粒子(50-lOOOng/ml)に最終 濃度 ImMとなるように力ルセイン (黄色蛍光物質)を混合したのち、エレクト口ポレーシ ヨン用チャンバ一に入れ、エレクト口ポレーシヨン (条件: 220V、 950 F)により、力ルセ インを粒子内部に封入した。力ルセイン封入粒子に対し、等モル量のマウス抗ヒトトラ ンスフヱリンレセプター(CD71)抗体(クロ-ン DF1513、 Ancell社等)を混合し、 PBS中 で約 1時間反応させた。これにより粒子表面に抗 TfR抗体を提示し内部に力ルセイン を封入した C末端 ZZ-tag融合 HBsAg Lタンパク質粒子が作製できた。
[0133] あら力じめヒト肝癌由来細胞株 HepG2と TfR過剰発現細胞であるヒト乳癌由来細 胞株 MCF7とヒト TfRを持たないマウス正常線維芽細胞 Balb/C 3T3 A31細胞を、各 々8ウエルチヤンバースライドに播種し、 1日培養しておいた。これらの細胞に上記で 調製した力ルセイン封入封入抗 TfR抗体提示粒子を添加し、 6— 16時間培養した。 遊離の力ルセインを培地で洗浄した後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。その結 果、力ルセイン封入抗 TfR抗体提示 HBsAg L粒子を用いることにより、 HepG2細 胞と MCF7細胞への力ルセイン導入増強がみられた力 Balb/C 3T3 A31細胞へは 認められなかった。
[0134] (3)抗ヒト CD40抗体提示粒子によるヒト肝癌細胞株の二重標的化
ヒト肝細胞ガン表面特異的抗原に対する抗体、例えば抗ヒト CD10抗体ある ヽは抗 ヒト CD40抗体(BDファーミジェン社)は、 HepG2細胞をはじめ多くのヒト肝細胞ガン に結合することが知られている。実施例 12 (1)と同様にして、粒子表面に抗ヒト肝細 胞ガン抗体 (抗 CD40)を提示し内部に力ルセインを封入した C末端 ZZ-tag融合 HBs Ag Lタンパク質粒子を作製した。
[0135] あら力じめヒト肝癌由来細胞株 HepG2 (CD40陽性)と CD40陰性のヒト乳癌由来 細胞株 MCF7を、各々 8ウエルチヤンバースライドに播種し、 1日培養しておいた。こ れらの細胞に上記で調製した力ルセイン封入抗 CD40抗体提示粒子を添加し、 6— 16時間培養した。遊離の力ルセインを培地で洗浄した後、共焦点レーザー顕微鏡で 観察した。その結果、力ルセイン封入抗 CD40抗体提示 HBsAg L粒子を用いること により、 HepG2細胞への力ルセイン導入増強がみられた力 CD40抗原陰性の非肝 細胞である MCF7細胞への導入は認められなかった。
[0136] また、あら力じめ野生型 HBsAg L粒子を各細胞に添カ卩して、 30分インキュベート した後、力ルセイン封入抗 CD40抗体提示 HBsAg L粒子を添カ卩した。さらに、 6時 間培養後観察したところ、野生型 HBsAg L粒子で前処理した HepG2細胞に対す る力ルセイン導入は保たれて 、た。抗 CD40抗体で前処理した HepG2細胞に対す る力ルセイン導入も保たれていた。抗 CD40抗体と野生型 HBsAg L粒子で同時に 前処理した HepG2細胞に対する力ルセイン導入は大きく低下した。
[0137] 尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様また
は実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような 具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなぐ本発明の精神と次に記 載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。 産業上の利用の可能性
[0138] 以上のように、本発明は、中空ナノ粒子を標的となる細胞や組織に効率的に送達 することができるとともに、その精製が簡便になり、薬剤等として用いた場合にその実 用性をより一層高めることができる。
[0139] 従って、本発明は、ドラッグデリバリーシステムに利用可能なナノカプセルとして、医 療関連産業や医薬品関連産業野に利用できるだけでなぐ各種試薬産業等にも利 用することが可能となる。