AB Cタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法 技術分野
本発明は、 AB C (ATP Binding Cassette) タンパク質 (AB C トラ ンスポ一ター) と相互作用する物質のスクリーニング方法や、 AB C夕 ンパク質のトランスポーター活明性の測定方法や、 これらスクリーニング 方法や測定方法に有利に用いること細ができる A B Cタンパク質のトラン スポーター活性測定用キッ トに関する。 背景技術
細胞は形質膜や小胞体, ミ トコンドリアなどの細胞内小器官膜を介し てイオンや栄養素の輸送ならびに老廃物や毒素の排出を行うことにより 細胞機能を維持している。 これらの物質輸送は、 チャネル, トランスポ —ターと呼ばれる膜輸送タンパク質により選択的に行われている。 ィォ ンゃ栄養素等の物質が細胞膜を透過するための機構としていくつか知ら れているが、 その一つとして A B C夕ンパク質が知られている (例えば、 C. F. Higgins, Ann. Rev. Cell Biol. , 8, 67 (1992)参照) 。 AB C夕 ンパク質は、 卜ランスボー夕一, チャネル, 受容体 (レギユレ一夕一) という多様な機能に分化し、 それぞれの生物で重要な生理機能を果たし ており、 いずれも類似の 2次構造をもち、 膜貫通ドメインを含む AT P 結合ドメインを共通に有する膜夕ンパク質ファミリ一であり、 細胞内 A T P、 AD Ρによって駆動あるいは制御されている。 AB Cタンパク質 は、 細菌から酵母、 植物、 哺乳類に至る広い生物種に分布する最も大き い遺伝子ファミリ一の一つである。 ヒトでは現在約 5 0以上の A B C夕
ンパク質遺伝子が同定されてこれらのタンパク質の大部分は、 膜間の分 子の能動輸送に関連していることから、 AB Cタンパク質は AB C トラ ンスポ一ターとも呼ばれている。
AB C夕ンパク質は、 AT P加水分解のエネルギーをタンパク質分子 の構造変化に変換し、 それとカップリングすることによって薬剤を細胞 の中から外へ輸送することから、 薬物の体内動態プロファイル (吸収、 分布、 代謝、 排泄、 ターゲッ ト部位での薬剤実効濃度) を規定し、 ひい ては薬物の全体的な薬理効果をも左右するといわれており、 例えば、 小 腸上皮細胞や脳血管内皮細胞に発現した AB C 卜ランスポーターは、 経 口投与した薬物のバイオアべイラビリティーや中枢神経系への薬物移行 に大きく影響を与える。 また、 AB Cタンパク質遺伝子の異常が病気と 関連しているといわれており、 特にヒトにおいては、 AB Cタンパク質 の異常がさまざまな疾病を引き起こすことが明らかになり、 AB Cタン パク質の生体防御機構としての重要性が理解されつつある。 例えば、 A B Cタンパク質ファミリーに属する P—糖タンパク質 (MD R 1 ) や M R P 1が過剰発現すると、 多くの制癌剤を細胞外へ排出することによつ て癌細胞が耐性になることが、 癌の化学療法の分野では良く知られてい る
そして、 A B Cタンパク質がトランスポーターとして細胞膜を介して 薬物を輸送する機構は次のように考えられている。
( 1 ) AB Cタンパク質は細胞膜の両面 (細胞の内側及び外側) にわた つて膜中に存在する。
(2 ) この AB Cタンパク質に、 細胞の内側から、 エネルギ一源として の 1分子の AT P及び輸送されるべき 1分子の薬物が結合し、 AT Pは AB Cタンパク質の AT Pァーゼ活性により AD Pとリン酸とに加水分 解され、 この際に放出されるエネルギーによる AB Cタンパク質の変形
により薬物は細胞の内側から外側に輸送される。
( 3) 前記薬物は細胞の内側に放出されると共に、 ( 2) において生成 したリン酸も A B Cタンパク質から開放される。
(4) AB Cタンパク質に、 細胞の内側から、 新たな AT P分子が結合 し、 この AT Pが AD Pとリン酸とに分解し、 エネルギーが開放され、 このエネルギーにより前記 ( 2) において変形した AB Cタンパク質の 形状が復旧する。
( 5) 前記 (4) において生成した AD P及びリン酸が AB Cタンパク 質から開放され、 輸送系は前記 ( 1 ) の状態に戻る。
現在、 AB Cトランスポ一ターの中で最も注目を浴びている P—糖夕 ンパク質のアツセィにおいて、 P—糖タンパク質が発現している膜に基 質を添加した際の AT Pァ一ゼ活性を測定する方法が多くの製薬会社等 で採用されている。 具体的には、 上記のサイクルにおいて、 上記 ( 2) の段階において輸送されるべき薬物の存在により AT Pが A B Cタンパ ク質に結合し、 AD Pに分解されることから、 AB Cタンパク質に結合 した状態の AD Pを測定すれば、 AB Cタンパク質により認識される薬 物を検出することができる。 従って、 AT Pに標識を付しておき、 標識 が結合した A B Cタンパク質 (すなわち標識された A D Pが結合してい る AB Cタンパク質) を測定すれば、 A B Cタンパク質によって輸送さ れる薬物又は阻害剤を検出することができる。この手法の長所としては、 試薬代が非常に安価であること、 大量の検体を処理することが可能であ ること等の長所を有する。 しかしながら、 上記輸送系は酵素回転してお り動的状態にあるので、 標識された A B C夕ンパク質を測定することは 事実上困難である。 また、 膜自体の持つ内因性 ATPァ一ゼ活性により 若干バックグラウンドが高くなる場合があることや、 リン酸濃度の分解 量を測定することから、 感度が比較的低いといった弱点があった。
そこで、上述の AT Pァ一ゼ活性を測定する手法に変わる方法として、 バナデート法を応用したアツセィが考案された。 バナデート法は、 1 9 9 5年以降に論文に報告されるようになった方法であり、 AB C トラン スポーターが AT Pを分解する際、 リン酸イオンがバナデ一トに置換さ れることによって、 AD Pがトランスポ一夕一に結合するという現象を 利用するものである。 すなわち、 AT Pとして予めラジオアイソトープ 等で標識した AT Pを用い、 上記輸送系にバナジン酸を存在させれば、 上記 ( 2) の段階で、 バナジン酸がリン酸と置き換わり、 上記輸送系の 回転が停止し、 標識された A D Pが A B Cタンパク質に結合した状態に 留まり、 AB C夕ンパク質に結合した A D Pの量を定量することができ、 間接的に AB Cタンパク質のトランスポ一夕一活性を測定することが可 能となる。
この測定において、 従来は、 細胞膜から膜タンパク質及び A B Cタン パク質を遊離せしめ、 遊離した A B C夕ンパク質を電気泳動により他の タンパク質から分離し、 AB Cタンパク質に結合している標識 (すなわ ち標識された AD P) を測定していた。 この方法によれば被験薬物が A B C夕ンパク質の基質又は阻害剤であるか否かを決定することが可能で あるが、 多量の被験物質を短時間に試験することは不可能であった。 そこで、 本発明者らは、 AB C—結合カセッ ト (AB C) 蛋白質に対 する基質のスクリーニング方法において、 A B C蛋白質が発現している 細胞膜画分、 標識された AT P及びバナジン酸、 並びに被験試料を混合 してインキュベートし、 この混合物を、 AB C蛋白質に対する抗体が固 定化された支持体に添加する、 又はその支持体上で標識試薬及び被験試 料等を混合してインキュベートし、 そして固定化された標識又は固定化 されなかった標識を測定する A B C蛋白質の基質のスクリーニング方法 を提案した (国際公開第 0 2 / 0 5 2 2 6 2号パンフレッ ト参照) 。 か
かるスクリ一ニング方法によれば、 A B C トランスポーターが発現した 細胞膜画分を、 抗体を介して支持体 (例えば 9 6ウェルマイク口プレー ト) に結合させ、 A B C トランスポ一夕一に結合した [ 32 P ] A T P ( A D P ) の結合量を測定することにより A B C トランスポーターに対する 基質又は阻害剤を極めて効率よくスクリーニング可能であり、 ハイスル —プッ トスクリーニングへの応用が可能となる。 しかしながら、 上記の 方法及びキットでは、 抗体を介して支持体に固定化した後の A B Cトラ ンスポ一ターが発現している細胞膜画分は生理活性が不安定であること, 1ゥエルあたりに吸着可能な細胞膜画分の量に制限があり、 実験データ の再現性に問題がある等の不都合があり、 安定したデータ解析の可能な より実用的な実験系の構築に迫られていた。
本発明の課題は、 少量のサンプルを用いても、 データ変動が小さく再 現性も良好で、 多くのサンプルを同時にかつ簡便に測定することができ る A B C夕ンパク質のトランスポー夕一活性の測定方法や、 かかる測定 方法を利用した A B C夕ンパク質と相互作用する物質のスクリーニング 方法や、 それら方法に有利に用いることができる A B Cタンパク質の卜 ランスポーター活性測定用キッ トを提供することにある。
本発明者らは、 上記課題を解決するために鋭意研究し、 本発明者らに よる既存のバナデ一ト法 (国際公開第 0 2 / 0 5 2 2 6 2号パンフレツ ト参照) の改良に着手し、 バナジン酸と [ 3H ] A T Pとを含む反応緩衝 液にヒト P糖夕ンパク質が発現した昆虫細胞膜を添加してプレインキュ ベ一シヨンを行い、 次いで、 被験化合物を添加して反応させ、 反応終了 後の反応液を 9 6ウェルタイブのグラスフィルターに添加し、 吸引洗浄 法を用いて 1ステップによる P糖夕ンパク質発現メンブレンへの [ 3H ] A D P吸着量を測定したところ、 少量のサンプルを用いても、 データ変 動が小さく再現性も良好で、 多くのサンプルを同時にかつ簡便に測定す
ることができることを見い出し、 本発明を完成するに至った。 発明の開示
すなわち本発明は、 AB C (ATP Binding Cassette) タンパク質が発 現している膜画分と、 標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体 と、 ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌ クレオシドニリン酸と複合体を形成し、 ヌクレオシドニリン酸と膜タン パク質との結合を維持するヌクレオシドニリン酸不動化物質と、 被験物 質とを接触させる工程と、 前記膜タンパク質が発現している膜画分を洗 浄液で洗浄し、 少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又 はその誘導体をフィルタ一により濾過して分離する工程と、 フィルタ一 上の標識及びノ又は濾液中の標識を測定する工程とを有することを特徴 とする A B Cタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法 (請 求項 1 ) や、 フィル夕一により濾過して分離する工程が、 フィルターに より吸引濾過及び/又は遠心濾過して分離する工程であることを特徴と する請求項 1記載の AB C夕ンパク質と相互作用する物質のスクリー二 ング方法 (請求項 2) や、 ヌクレオシドニリン酸不動化物質が、 バナジ ン酸であることを特徴とする請求項 1又は 2記載の AB Cタンパク質と 相互作用する物質のスクリ一二ング方法 (請求項 3 ) や、 ヌクレオシド 三リン酸が、 AT Pであることを特徴とする請求項 1〜 3のいずれか記 載の AB Cタンパク質と相互作用する物質のスクリ一ニング方法 (請求 項 4) や、 標識が、 放射性標識, 蛍光標識又は光親和基標識であること を特徴とする請求項 1〜 4のいずれか記載の A B Cタンパク質と相互作 用する物質のスクリーニング方法 (請求項 5 ) や、 放射性標識が、 32P, 33P, 35 S , "C又は 3 Ηであることを特徴とする請求項 5記載の A Β C夕 ンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法 (請求項 6 ) や、 A
B Cタンパク質が発現している膜画分が、 AB Cタンパク質が発現して いる哺乳類又は昆虫の細胞膜画分であることを特徴とする請求項 1〜 6 のいずれか記載の A B Cタンパク質と相互作用する物質のスクリーニン グ方法 (請求項 7) や、 AB Cタンパク質と相互作用する物質が、 AB C夕ンパク質に対する基質であることを特徴とする請求項 1〜 7のいず れか記載の AB Cタンパク質と相互作用する物質のスクリ一ニング方法 (請求項 8) や、 AB Cタンパク質と相互作用する物質が、 AB Cタン パク質の阻害物質であることを特徴とする請求項 1〜 7のいずれか記載 の AB Cタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法 (請求項 9 ) や、 A B C夕ンパク質が、 AB CAサブファミリ一, AB C Bサブ ファミリ一, AB C Cサブファミリー, AB CDサブファミリ一, AB C Eサブファミリー, AB C Fサブフアミリー又は AB C Gサブフアミ リーに属するヒト AB C夕ンパク質であることを特徴とする請求項 1〜 9のいずれか記載の AB Cタンパク質と相互作用する物質のスクリ一二 ング方法 (請求項 1 0 ) に関する。
また本発明は、 AB C (ATP Binding Cassette) タンパク質が発現し ている膜画分と 標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、 ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレ オシドニリン酸と複合体を形成し、 ヌクレオシドニリン酸と膜夕ンパク 質との結合を維持するヌクレオシドニリン酸不動化物質と、 少なくとも 未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体を濾過 ·分離 しうるフィル夕一とを有することを特徴とする AB Cタンパク質のトラ ンスポーター活性測定用キッ ト (請求項 1 1 ) や、 濾過 ·分離しうるフ ィルターが、 吸引濾過及び Z又は遠心濾過手段を備えていることを有す ることを特徴とする請求項 1 1記載の A B Cタンパク質のトランスポ一 ター活性測定用キッ ト (請求項 1 2 ) や、 ヌクレオシドニリン酸不動化
物質が、 バナジン酸であることを特徴とする請求項 1 1又は 1 2記載の AB Cタンパク質のトランスポー夕一活性測定用キッ ト (請求項 1 3) や、 ヌクレオシド三リン酸が、 AT Pであることを特徴とする請求項 1 1〜 1 3のいずれか記載の A B Cタンパク質のトランスポー夕一活性測 定用キッ ト (請求項 1 4) や、 標識が、 放射性標識, 蛍光標識又は光親 和基標識であることを特徴とする請求項 1 1〜 1 4のいずれか記載の A B Cタンパク質のトランスポーター活性測定用キッ ト (請求項 1 5)や、 放射性標識が、 32P, 33P, 35 S , 14C又は 3 Ηであることを特徴とする請 求項 1 5記載の AB C夕ンパク質のトランスポーター活性測定用キッ ト (請求項 1 6) や、 AB Cタンパク質が発現している膜画分が、 AB C 夕ンパク質が発現している哺乳類又は昆虫の細胞膜画分であることを特 徴とする請求項 1 1〜 1 6のいずれか記載の A B Cタンパク質のトラン スポーター活性測定用キッ ト (請求項 1 7) や、 AB Cタンパク質と相 互作用する物質が、 AB Cタンパク質に対する基質であることを特徴と する請求項 1 1〜 1 7のいずれか記載の A B Cタンパク質のトランスポ —ター活性測定用キット (請求項 1 8) や、 AB Cタンパク質と相互作 用する物質が、 AB C夕ンパク質の阻害物質であることを特徴とする請 求項 1 1〜 1 7のいずれか記載の A B Cタンパク質のトランスポ一タ一 活性測定用キット (請求項 1 9) や、 AB Cタンパク質が、 AB CAサ ブファミリー, A B C Bサブファミリー, AB C Cサブファミリー, A B CDサブファミリ一, AB C Eサブファミ リー, AB C Fサブフアミ リー又は AB C Gサブフアミリーに属するヒ 卜 AB Cタンパク質である ことを特徴とする請求項 1 1〜 1 9のいずれか記載の A B Cタンパク質 のトランスポ一夕一活性測定用キッ ト (請求項 2 0) に関する。
さらに本発明は、 AB C (ATP Binding Cassette) タンパク質が発現 している膜画分と、標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、
ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレ オシドニリン酸と複合体を形成し、 ヌクレオシドニリン酸と膜夕ンパク 質との結合を維持するヌクレオシドニリン酸不動化物質と、 AB Cタン パク質の基質とを接触させる工程と、 前記膜夕ンパク質が発現している 膜画分を洗浄液で洗浄し、 少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド 三リン酸又はその誘導体をフィル夕一により濾過して分離する工程と、 フィル夕一上の標識及び/又は濾液中の標識を測定する工程とを有する ことを特徴とする AB Cタンパク質のトランスポーター活性の測定方法 (請求項 2 1 ) に関する。 図面の簡単な説明
第 1図は、 P糖夕ンパク質発現メンブレンにベラパミルを添加したと き (嚳 : P _ g pZV e r . ( + ) ) 、 P糖タンパク質発現メンブレン にべラパミルを添加しなかったとき (〇: P - g p / V e r . (一) ) 、 S f 9コントロールメンブレンにベラパミルを添加したとき (國 : C o n t r o 1 /V e r . ( + ) ) 、 並びに S f 9コントロールメンブレン にベラパミルを添加しなかったとき(□: C o n t r o 1 Z V e r . ( + )) における [3H] AT P結合活性の経時変化を示す図である。
第 2図は、 P糖夕ンパク質発現メンブレンの使用量を検討した図であ り、 5 it g、 2. 5 g又は 1 gの P糖タンパク質発現メンブレンに ベラパミルを添加したとき ( V e r a p a m i 1 (+ ) ) 又は添加しな かったとき (V e r a p am i 1 (一) ) における [3H] AT P結合活 性の変化を示す図である。
第 3図は、 ベラパミルの P糖夕ンパク質に対する濃度依存性を示す図 である。
第 4図は、 P糖夕ンパク質に対する各種被験物質の結合活性を示す図
である。
第 5図は、 洗浄条件の検討結果を示す図であり、 反応緩衝液 Aによる 洗浄と P V Pによるブロッキング法との組合せ (B u f . A + P VP) 、 反応緩衝液 Aによる洗浄 (B u f . A) 、 P B Sによる洗浄と P V Pに よるブロッキング法との組合せ (P B S + P V P) 、 及び P B Sによる 洗浄 (P B S) について検討結果を示す図である。
第 6図は、 A ; j6—ェストラジオ一ル— 1 7— ( β - Ό一ダルクロニ ド) 及び Β ; スルフォブロモフタレイン添加時におけるバナデ一ト法で のヒト MR Ρ 2発現 S f 9メンブレンへの [3H] AD P結合量の測定結 果を示す図である。 発明を実施するための最良の形態
本発明の AB Cタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法 としては、 AB Cタンパク質が発現している膜画分と、 標識されたヌク レオシド三リン酸又はその誘導体と、 ヌクレオシド三リン酸又はその誘 導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシドニリン酸と複合体を形成し, ヌクレオシドニリン酸と膜夕ンパク質との結合を維持するヌクレオシド 二リン酸不動化物質と、 被験物質とを接触させる工程と、 前記膜タンパ ク質が発現している膜画分を洗浄液で洗浄し、 少なく とも未反応の標識 されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体をフィルターにより濾過し て分離する工程と、 フィルター上の標識及び Z又は濾液中の標識を測定 する工程とを有するスクリ一二ング方法であれば特に制限されるもので はなく、 また、 本発明の AB Cタンパク質のトランスポーター活性の測 定方法としては、 AB Cタンパク質が発現している膜画分と、 標識され たヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、 ヌクレオシド三リン酸又は その誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシドニリン酸と複合体を
形成し、 ヌクレオシドニリン酸と膜タンパク質との結合を維持するヌク レオシドニリン酸不動化物質と、 AB Cタンパク質の基質とを接触させ る工程と、 前記膜夕ンパク質が発現している膜画分を洗浄液で洗浄し、 少なくとも未反応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体を フィルタ一により濾過して分離する工程と、 フィルター上の標識及び Z 又は濾液中の標識を測定する工程とを有する測定方法であれば特に制限 されるものではなく、 そしてまた、 本発明の AB Cタンパク質のトラン スポ一夕一活性測定用キットとしては、 AB C夕ンパク質が発現してい る膜画分と、 標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体と、 ヌク レオシド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシ ドニリン酸と複合体を形成し、 ヌクレオシドニリン酸と膜夕ンパク質と の結合を維持するヌクレオシドニリン酸不動化物質と、 少なくとも未反 応の標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体を濾過 ·分離しう るフィルターとを有する測定用キッ トであれば特に制限されるものでは ない。
AB Cタンパク質は、 AT Pの加水分解によって得られるエネルギー を駆動力として物質を輸送したり、 チャンネルを制御する。 AB C夕ン パク質は、 特徴的な AT P—結合部位を持ち、 その 1次構造は A B C夕 ンパク質の種類を超えて、 また生物種を超え、 進化を通してよく保持さ れている。 特に、 AB Cタンパク質の AT P結合部位は、 膜貫通部等の 部分の 1次構造と比較してアミノ酸残基配列が保存されている。 Walker Aと Walker Bモチーフ (Walker, J. E. , Saraste, Μ·, Runswick, M. J. , Gay, N. J. (1982) EMBO J 1, 945- 941)及び A B C s ignatureモチーフ (Higgins, C. F. (1992) Annu. Rev. Cell Biol .8, 67- 113)が、 その AT P結合部位に共通のアミノ酸残基配列としてほぼ例外なく存在する。 本発明において AB Cタンパク質とは、 WalkerAモチーフ(Gly- X-X -
Gly-X-Gly~Lys-Ser-[Ser, Thr, Gin] (配列番号 1 ) と WalkerBモチ一 フ([Leu, He, Phe]-[Ile, Leu, Val] -X-Asp- [Glu, Asp, Ser]) (配列番 号 2 ) であり、 且つ以下の AB C signatureモチーフ ([Leu, He, Val, Met, Phe, Tyr, Cys] - [Ser, Ala] - [Ser, Ala, Pro, Gly, Leu, Val, Phe, Tyr, Lys, Gin, Hi s] -Gly- [Asp, Glu, Asn, Gin, Met, Trp]-[Lys, Arg, Gin, Ala, Ser, Pro, Cys, Leu, lie, Met, Phe, Trp]-[Lys, Arg, Asn, Gin, Ser, Thr, Ala, Val, Met]-[Leu, lie, Val, Met, Phe, Tyr, Pro, Ala, Asn]- [Pro, His, Tyr]-[Leu, lie, Val, Met, Phe, Trp]- [Ser, Ala, Gly, Cys, Leu, lie, Val, Phe]-[Phe, Tyr, Trp, His, Pro]- [Lys, Arg, His, Pro]-[Leu, lie, Val, Met, Phe, Tyr, Trp, Ser, Thr, Ala] (た だし Xは不特定のアミノ酸を意味する。 ) (配列番号 3) を有するタン パク質及びそれに類似するタンパク質をいい、 その由来は細菌、 酵母、 植物及び動物など、 特に制限されない。
かかる AB Cタンパク質としては、 AB CA 1 (別名 AB C 1, TG D, HD L DT 1 ) , A B C A 2 (別名 AB C 2) , AB CA 3 (別名 AB C 3, AB C— C, E S T 1 1 1 6 5 3) , AB CA4 (別名 S T GD I , R P 1 9 , F F M, S T GD) , AB CA 5 (別名 E S T 9 0 6 2 5 ) , A B C A 6 (別名 E S T 1 5 5 0 5 1 ) , AB CA 7 , A B CA 8, AB CA 9 , AB CA 1 0 (別名 E S T 6 9 8 7 3 9) , A B C A 1 1 (別名 E S T 1 1 3 3 5 3 0) , A B C A 1 2 (DKF Z P 4 34 G 2 3 2 ) 等の A B C Aサブファミリー (別名 A B C 1サブファミ リー) に属するヒト AB Cタンパク質や、 AB C B 1 (別名 MD R 1 , P— g p, P GY 1 ) ; TAP 1 (別名 P S F 1 , I N G 4 , D 6 S 1 1 4 E) , TAP 2 (別名 P S F 2, R I N G 1 1 , D 6 S 2 1 7 E) AB C B 4 (別名 MD R 2 Z 3 , P F I C— 3 , P GY 3 ) , AB C B 5 (別名 E S T 4 2 2 5 6 2 ) , AB C B 6 (別名 E S T 4 5 5 9 7 ,
urn a t , H s . 1 0 7 9 1 1 ) , AB C B 7 (別名 E S T 1 4 0 5 3 5 , A t m 1 , A B C 7 ) , AB C B 8 (別名 E S T 3 2 8 1 2 8 , M— AB C l ) , AB C B 9 (別名 E S T 1 2 2 2 3 4) , A B C B 1 0 (別名 E S T 2 0 2 3 7) , AB C B 1 0 P (別名 M— AB C 2 , M AB C 2) , AB C B 1 1 (別名 S P GP, P F I C— 2 , B S E P, P GY 4.) 等の AB C Bサブファミリ一 (別名 MDRZTAPサブファ ミリ一) に属するヒト AB Cタンパク質や、 AB C C 1 (別名 MR P 1 , MR P , G S—X) , AB C C 2 (別名 MR P 2 , c MOAT, c MR P ) , AB C C 3 (別名 MR P 3 , c MO AT 2 , E S T 9 0 7 5 7 , ML P 2 , MO AT - D) , A B C C 4 (別名 MR P 4, E S T 1 7 0
2 0 5 , MO AT - B ) , AB C C 5 (別名 MR P 5, SMR P, E S T 2 7 7 1 4 5 , MOAT— C) , AB C C 6 (別名 M R P 6, E S T
3 4 9 0 5 6 , ML P 1 , A R A) , C F TR (別名 C F , MR P 7 , AB C C 7 ) , AB C C 8 (別名 S UR 1 , MR P 8 , P HH I , H I , HR I N S) , AB C C 9 (別名 S UR 2 ) , A B C C 1 0 (別名 E S T 1 8 2 7 6 3 ) , A B C C 1 1 , AB C C 1 2 (別名 MR P 9) , A B C C 1 3 (別名 P R E D 6 , C 2 1 o r f 7 3 ) 等の AB C Cサブフ ァミリ一 (別名 C F T R / M R Pサブフアミリー) に属するヒト A B C タンパク質や、 AB CD 1 (別名 ALD P, AL D, AMN) , AB C D 1 P 1 , AB CD 1 P 2 , AB CD 1 P 3 , AB CD 1 P 4, AB C D 2 (別名 ALD R, ALD R P, A L D L 1 ) , AB CD 3 (別名 P M P 7 0 , P XMP 1 ) , AB C D 4 (別名 P 7 0 R, E S T 3 5 2 1 8 8 , P XMP 1 L, PMP 6 9 ) 等の AB CDサブファミリ一 (別名 A L Dサブファミリー) に属する AB Cタンパク質や、 AB C E 1 (別 名 RN S 4 I , R L 1 , OAB P, RNA S E L I ) 等の AB C Eサブ ファミリ一 (別名 OA B Pサブファミリ一) に属する AB Cタンパク質
や、 AB C F 1 (別名 E S T 1 2 3 1 4 7 , AB C 5 0 ) , AB C F 2 (別名 E S T 1 3 3 0 9 0 , H s . 1 5 3 6 1 2 ) , A B C F 3 (別名 E S T 2 0 1 8 6 4) 等の AB C Fサブファミリ一 (別名 GC N 2 0サ ブファミリ一) に属するヒト AB Cタンパク質や、 AB C G 1 (別名 W H I T E, AB C 8 ) , AB C G 2 (別名 E S T 1 5 7 4 8 1 , MX R, B C R P, AB C P) , A Β C G 3 (別名 A b c p 2 , M x r 2 ) , A B C G 4 (別名 WH I T E 2 ) , AB C G 5 , AB C G 8等の AB C G サブファミリ一 (別名 WH I T Eサブファミリ一) に属するヒト AB C タンパク質などを挙げることができるが、 これらの中でも、 P糖タンパ ク質 (P— g p) , MR P 1 , M R P 2 , C F T R, S UR l , AB C 1, TAP 1等を好適に例示することができる。
上記の AB Cタンパク質が発現している膜画分としては、 AB Cタン パク質遺伝子が導入され、 AB C夕ンパク質が発現している生体膜の画 分であればどのようなものでもよく、 かかる生体膜としては細胞膜や小 胞体, ミ トコンドリアなどの細胞内小器官膜を挙げることができる。 こ れら生体膜の由来としては特に制限されるものではないが、 大腸菌、 ス トレプトミセス 枯草菌、 ストレプトコッカス、 ス夕フイロコッカス等 の細菌原核細胞や、 酵母、 ァスペルギルス等の真核細胞や、 ドロソフィ ラ S 2、 スポドプテラ S f 9等の昆虫細胞や、 L細胞、 CHO細胞、 C 0 S細胞、 H e L a細胞、 C 1 2 7細胞、 B AL BZ c 3 T 3細胞、 B HK 2 1細胞、 H E K 2 9 3細胞、 V E R O細胞、 C V— 1細胞、 MD CK細胞、 B o w e sメラノ一マ細胞、 アフリカッメガエル等の卵母細 胞等の動植物細胞などを挙げることができるが、 ドロソフイラ S 2、 ス ポドプテラ S f 9等の昆虫細胞が好ましい。 ·
AB Cタンパク質が発現している膜画分の調製方法としては、 AB C タンパク質を発現している細胞の調製し、 AB Cタンパク質を発現して
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いる細胞からの膜画分の調製する方法を挙げることができる。 上記 A B Cタンパク質を発現している細胞の調製方法としては、 例えば、 A B C タンパク質をコードする c D N Aを選択マ一カーを有する発現べクタ一 に組み込み、 哺乳類細胞, 昆虫細胞, 酵母, 細菌等の培養細胞にトラン スフエクシヨンする方法を挙げることができる。 選択マ一力一を有する 発現べクタ一として、 例えば、 ネオマイシン, ピューロマイシン, ハイ グロマイシン等の特定の抗生物質に対して耐性を付与する遺伝子を持つ ベクターを使用し、 トランスフエクションした細胞を抗生物質の存在下 で培養することによって、 A B C夕ンパク質の発現べクタ一を持つ細胞 のみを選択する。 A B Cタンパク質の発現を R T— P C R又は特異的抗 体によって確認することが好ましい。 かくして得られた A B Cタンパク 質発現細胞を大量に培養する。 また、 A B Cタンパク質を発現している 細胞からの膜画分の調製方法としては、 例えば、 上記 A B Cタンパク質 発現細胞の培養物を遠心分離し、 A B Cタンパク質を発現する細胞を集 め、 細胞を超音波、 浸透圧処理等によって破砕して、 遠心によって膜画 分を採取し、 採取した膜画分を緩衝液中に懸濁して、 ショ糖濃度勾配遠 心によって細胞膜画分を単離精製する方法を挙げることができる。 調製 後の細胞膜画分は、 そのタンパク質濃度を測定した後、 液体窒素温度で 瞬時凍結して摂氏一 8 0 °Cで保存することが好ましい。
標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体における標識として は、 検出可能なものであれば特に限定されないが、 32 P, 33 P , 35 S , 14 C , 3Η等の放射性同位体を用いる放射性標識や、 フルォレスセインイソ チオシァネート, フィコピリタンパク, 希土類金属キレート, ダンシル クロライ ド, テトラメチルローダミンイソチオシァネート等を用いる蛍 光標識や、 アジド基, ベンゾフエノン等を用いる光親和基標識や、 ペル ォキシダ—ゼ, アルカリフォスファタ一ゼ等を用いる酵素標識などを挙
げることができ、中でも放射性標識を特に好適に例示することができる。 標識されたヌクレオシド三リン酸又はその誘導体におけるヌクレオシ ド三リン酸としては、 AT P, GT P, I TP, UT P, C T P等を例 示することができるが、 中でも AT Pを特に好適に例示することができ る。 また、 ヌクレオシド三リン酸の誘導体、 例えば、 ATPの誘導体と しては、 〔35 S〕 AT P r S , ひ、 i3—メチレン AT P, 8—アジド A T P等を挙げることができる。
本発明におけるヌクレオシドニリン酸不動化物質としては、 ヌクレオ シド三リン酸又はその誘導体のリン酸イオンと置換してヌクレオシドニ リン酸と複合体を形成し、 ヌクレオシドニリン酸と膜タンパク質との結 合を維持する化学物質であれば特に制限されるものではなく、 バナジン 酸やその塩等を挙げることができる。 バナジン酸塩としては、 バナジン 酸ナトリウム (オルトバナジン酸ナトリウム N a3V〇4, ピロパナジン 酸ナトリウム N a 4V 207, メ夕バナジン酸ナトリウム N a V03) , バナ ジン酸カリウム (オルトバナジン酸カリウム K3V04, ピロバナジン酸 力リゥム κ4ν2〇7, メタバナジン酸カリウム κ vo3) , バナジン酸カル シゥム (オルトバナジン酸カルシゥム C a 3 ( V〇,,) 2, ピロバナジン酸 カルシウム C a 2V 207, メタバナジン酸カルシウム C a ( V 03) 2) 等 を例示することができる。
本発明において用いられるフィル夕一としては、 未反応の標識された ヌクレオシド三リン酸又はその誘導体を濾過 ·分離しうるフィルタ一で あれば特に制限されるものではないが、 吸引濾過手段, 遠心濾過手段, 限外濾過手段等を備えているものが濾過 ·分離効率の点で好ましく、 中 でも底部にフィルタ一が内蔵されたプレートとフィルター下方に吸引濾 過手段を備えたものが好ましく、 例えば、 底部にフィルタ一が内蔵され たマイクロプレート「ュニフィルタ」(N o .7 7 0 0 - 3 3 0 3、 Whatman
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社製) 、 マルチスクリーンプレート (Multiscreen Plate; MILLIPORE社 製) 、 サイレントスクリーンプレート (Silent Screen Plate; Nalge Nunc 社製) などを具体的に挙げることができる。
本発明の A B Cタンパク質と相互作用する物質のスクリーニング方法 における被験物質としては、 抗腫瘍剤等の薬剤の候補物質を好適に例示 することができ、 また、 本発明の AB Cタンパク質のトランスポーター 活性の測定方法における A B Cタンパク質の基質としては、 AB Cタン パク質が P糖タンパク質の場合、 ベラパミル (ヮソラン) , キニジン, ローダミン 1 2 3 , ドキソルビシン, ジゴキシン, ビンクリスチン, ビ ンブラスチン, ダウノルビシン, フォレート, コルチゾール, アルドス テロン等の一部のステロイ ド等を挙げることができ、 AB Cタンパク質 が MR P 2の場合、 ]3—エストラジオール一 1 7— ( β — Ό -ダルク口 二ド) , スルフォブロモフタレイン等を挙げることができる。
本発明の A B C夕ンパク質と相互作用する物質のスクリ一ニング方法 [ A B Cタンパク質のトランスボーター活性の測定方法] について、 A B C夕ンパク質が P糖夕ンパク質、 標識されたヌクレオシド三リン酸が 放射性標識 AT P ¾ ヌクレオシドニリン酸不動化物質がバナジン酸の場 合について説明する。 P糖夕ンパク質が発現している膜画分と、 放射性 標識された AT Pと、 バナジン酸と、 被験物質 [P糖タンパク質の基質] とを T r i s — HC 1, リン酸緩衝液等の反応緩衝液中で反応させる。 反応緩衝液の P Hは 6〜 8、 特に ρ Η 7〜 7 · 5が好ましい。 反応時間 は 1 0秒〜 3時間、 例えば 1〜 3 0分程度とすることが好ましい。 反応 は、 例えば 0 に冷却した緩衝液を過剰量 (例えば、 反応液の 2 0〜 1 0 0倍量) 反応液に加えて混合することにより停止させる。 次いで、 反 応終了後の反応液を、 例えば 9 6ゥエルグラスフィル夕一に添加して吸 引洗浄を行う。 洗浄液としては、 緩衝液をあらかじめ 4 に氷冷したも
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のを使用し、 1ゥエル当たり 5 0〜 5 0 0 /2 1、 例えば 2 0 0 1の洗 浄液で複数回吸引洗浄する。 この吸引洗浄操作により、 反応液中の未反 応の ATP, バナジン酸, 被験物質 [P糖タンパク質の基質] がフィル 夕一により濾過 '分離され除去することができる。 次に、 膜画分が存す る洗浄後のプレート 1ゥエル当たり 3 0〜: L O O 1、 例えば 5 0 x l の液体シンチレーションカクテルを添加し、 約 1時間プレートを室温で 静置した後、 液体シンチレーションやべ一夕一カウン夕一を用いて放射 性標識を測定する。 この測定値と被験物質 [P糖タンパク質の基質] 未 添加の場合の測定値とを比較し、 P糖タンパク質のトランスポ一タ一活 性が大きい場合は P糖タンパク質に対する基質であると判断し、 P糖夕 ンパク質のトランスポーター活性が小さい場合は P糖タンパク質の阻害 物質であると判断することができる。
[実施例]
以下、 実施例により本発明をより具体的に説明するが、 本発明の技術 的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例 1
(資材と材料)
9 6ウェルタイブのグラスフィル夕一を使用し、 吸引洗浄法を用いて 1ステツプによる P糖夕ンパク質発現メンブレンへの [3H] AD P吸着 量測定法の構築を試みた。 9 6ウェルタイブのグラスフィルタ一として は、 3 5 0 lュニフィルタ (N o. 7 7 0 0— 3 3 0 3、 Whatman 社 製) を用いた。 反応緩衝液 Aとしては、 0. 2 mM N a3V04、 3 m M M g S 04、 2 mM Ouabain, 0. 1 mM ED TA、 0. 0 5 m M ATP、 40 mM T r i s - H C 1 ( H 7. 4 ) の組成のもの を用いた。 ラジオアイソトープとしては、 [3H] AT P (N E T - 4 2 0、 PerkinElmer life science社製) を用いた。 S f 9メンブレンとし
ては、 ヒト P糖夕ンパク質 (P g p o r MDR 1 ) 発現メンブレン (N o . 4 5 3 2 2 8、 第一化学薬品社製) と S f 9コントロールメン プレン (N o. 4 5 3 2 0 0、 第一化学薬品社製) を用いた。 液体シン チレーシヨンカクテルとしては、 MicroScint (登録商標) 20 (N o . 6 0 1 3 6 2 1、 Packard Bi oSc i ence社製) を用いた。
(測定方法)
5 0 1 の上記反応緩衝液 Aに P糖夕ンパク質発現メンブレン 5 g を添加し、 3 7 °Cで 1分間のプレインキュベーションを行った。 次に、 被験物質 [P糖タンパク質の基質化合物]を上記反応液に添加し、 3 7で で一定時間 ( 1〜 3 0分間) 反応させた。 反応終了後、 上記反応液を 9 6ゥエルグラスフィルターに添加し、 吸引洗浄を行った。 反応緩衝液 A をあらかじめ 4 °Cに氷冷したものを洗浄液として使用し、 1ゥエル当た り 2 0 0 ." 1 の洗浄液で 5回吸引洗浄を行った。 次に、 洗浄後のプレー ト 1ゥエル当たり 5 0 // 1の液体シンチレ一ションカクテルを添加した t 約 1 時間、 プレー トを室温で静置した後、 パッカ一 ド社製、 TOP COUNT(C990201/42637)を用いて R I活性を測定した。 すべての実験は、 基本的に N= 3で行った。
実施例 2 (経時変化検討)
P糖夕ンパク質発現メンブレン及び S f 9コントロールメンブレンを 用いて、 バナデート法による [3H] AD P結合量の経時変化を測定した ( 使用化合物 (陽性対照) として、 P糖タンパク質の代表的基質として知 られているベラパミルを使用した。 ベラパミルの最終濃度は 5 0 /ζΜと した。 結果を図 1に示す。 図 1から、 コントロールメンブレンにおいて は [3H] AD Ρのメンブレンへの結合における経時変化は見られないが、 P糖夕ンパク質発現メンブレンにおいては、ベラパミル添加時において、 [3H] AD P結合量の上昇が経時的に観察されることがわかった。 興味
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深い点として、 P糖夕ンパク質発現メンブレンにベラパミルを未添加状 態であっても、 ベースラインが高くなるという若干の [3H] AD P結合 活性が観察されることが明らかになった。 この活性は、 P糖タンパク質 の内因性の働きに依存した活性ではないかと考えられる。
実施例 3 (メンプレン使用量)
グラスフィルターを利用した吸引洗浄法では、 1ゥエル当たりの反応 メンブレン量を自由に設定できる。 そこで、 至適反応メンブレン量を探 るため、 ゥエル当たりのメンブレン量を 3段階 ( 5 z g、 2. 5 g > 1 g ) に振り、 化合物としてべラバミルを用いて反応を行った。 ベラ パミルの添加濃度は、 最終濃度 2 0 Mとした。 結果を図 2に示す。 図 2から、 メンブレン使用量の増加に従い、 検出域が広がることが明らか になった。 そこで、 今回の条件ではメンブレン使用量 5 ^ gが適当であ ると判断し、 以下の実験に用いる P糖夕ンパク質発現メンプレンの使用 量を、 1ゥエル当たり 5 si gに設定した。
実施例 4 (ベラパミルと P糖タンパクの基質親和性)
ベラパミルの P糖タンパク質に対する基質親和性 (濃度依存性) を測 定するため、 0〜 1 0 0 0 n Mの濃度のベラパミルを反応緩衝液 Aに添 加し、 R I活性を測定した。 結果を図 3に示す。 図 3からもわかるよう に、 約 3 0 0 nMという Km値が得られた。 これは従来法である P糖夕 ンパク質の A T P a s e活性測定時におけるベラパミルの Km値 1 7 n Mと比較して、 約 2 0分の 1 という非常に低い値である。 AT P a s e 活性測定時では AT Pの P糖タンパク質に対する反応は競合的であるが. バナデート法においては、 一旦反応した AT P (正確には AD P) はバ ナデートにより非競合的に結合してしまうため、 見かけの Km値が低く 見積もられるのではないかと考えた。 この結果より、 本発明によるアツ セィ方法は、 従来法である AT P a s e法と比較して、 低濃度でアツセ
ィが可能であると考えられる。
実施例 5 (P糖タンパク質の基質特異性)
ベラパミルの他、 1 3種類の化合物におけるバナデート法での [3H] AD P結合量の測定を行った。 反応条件は、 反応時間 5分、 反応温度 3 7 °C, 基質添加濃度 0. 0 5 mMで行った。 測定結果は、 コントロール メンブレンのバックグラウンドを差し引いてある。 結果を図 4に示す。 図 4から、 一般的に P糖タンパク質の基質と考えられているベラパミル Verapamil, キニジン Quinidine, ヒンフラスチン Vinbras t ine, ピンク リ スチン Vincristine , ジゴキシン Digoxin, ローダミ ン 1 2 3 Rhodaminel23, ド ク ソ ル ビシ ン Doxorubicin, ダウ ノ ル ビシ ン Daunorubicin, メソ卜リキセ一卜 Methotrexate, フォレー卜 Folate に おいて [3H] AD P結合活性の有意な上昇が観察された。 興味深いこと に、 ブロモサルファレイン Bromosulfaleinにおいては、基質未添加の P 糖タンパク質発現膜による測定値 (Substrate(- ))と比較して有意な [3 H] AD P結合活性の低下が観察されている。 この低下分は実施例 2で 検出された P糖夕ンパク質の内因性の働きを阻害した結果と考えられ、 この測定値はコント口一ルメンブレンにおける測定値(Control) とほぼ 同等である。 プロモサルファレインは一般に P糖タンパク質の阻害剤と 考えられている。 よって、 このアツセィ系を用いた化合物スクリ一ニン グにより P糖タンパク質の基質 (ァゴ二スト) になるか阻害剤 (アンタ ゴニスト) となるかを同時に検出することができることが分かった。 実施例 6 (洗浄法の検討)
測定のバックグラウンドを下げるための手段として、 一般に有効と考 えられるプレートの P VP (ポリビニルピロリ ドン) によるブロッキン グ法及び P B Sによる洗浄法を検討した。 ベラパミルの最終濃度は 2 0 Mとした。 P VPによるブロッキング法は、 具体的には洗浄用プレー
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ト使用直前に、 反応緩衝液 Aに P VPを 1 %溶解したブロッキング液を 1ゥエルあたり 2 0 0 2 1添加し、 室温で 1時間放置した。 その後、 反 応緩衝液 A 2 0 0 1で 1回洗浄後、 使用した。 また、 P B Sによる洗 浄法は、 1ゥエルあたり 2 0 0 1添加し、 5回吸引洗浄を行った。 結 果を図 5に示す。 この結果、 両手法ともに、 劇的な効果は得られなかつ た。 P B Sによる洗浄に関しては、 特異的な [3H] AD Pの結合をむし ろ抑制する結果であった。 測定のバックグラウンドの原因は、 プレ一卜 への吸着のみではなく、 むしろメンブレンそのものへの内因性の結合の 影響が大きいと考えられる。
実施例 7 (ヒト MR P 2発現 S f 9メンブレンの調製)
P C R法を用いて常法によりクロ一ニングを行ったヒト MR P 2をコ ―ドする c DNAを、バキュロウィルスベクター pFASTBac 1 (BAC-T0-BACR Bacu 1 ov i rus Express ion Systems (Invi t rogen, 10359-016))に組み込み、 S f 9細胞 (Sf9 Frozen Cel Is B825-0 K Invi t rogen社製) にリポフエ クシヨン法により トランスフエクシヨンした。 卜ランスフエクションし た細胞からバキュロウィルスを回収し、 バキュロウィルスを更に S f 9 細胞に感染させることにより MR P 2夕ンパク質を発現する細胞を得た ( また、 MR P 2の発現をウェスタンブロッ ト法によつて確認することに より得られた MR P 2発現 S ί 9細胞を無血清昆虫培地 ( S F 9 0 0 I I 一 S FM、 Invitrogen社製) を用い、 2 7 °Cで 3 日間培養した。 MR P 2発現 S f 9細胞を遠心分離 ( 3 0 0 0 r p mで 1 0分) によつて集 めた後、 超音波処理 (ソニケ一ター中で 1 0分間処理) によって破砕し て、 遠心分離 ( 1 0 0 , 0 0 0 r pmで 3 0分) によってヒト MR P 2 発現 S f 9細胞膜画分を採取し、 分離した膜画分を P B S緩衝液 (p H 7. 4) 中に懸濁して、 ショ糖濃度勾配遠心によって細胞膜画分を単離 精製した。 細胞膜画分のタンパク質濃度を測定した後、 液体窒素温度で
瞬時凍結して摂氏一 8 0 °Cで保存した。
実施例 8
MRP 2は、 肝臓の胆管側に高発現し、 多くの薬物を肝臓から大腸側 へ排出するという、 肝臓の解毒機構に重要な働きを持った AB C トラン スポ一夕一の一種である。 そこで、 9 6ウェルタイブのグラスフィルタ 一を使用し、 吸引洗浄法を用いて 1ステップによるヒト MR P 2発現メ ンブレンへの [3H] AD P吸着量測定法の構築を試みた。 ヒト P糖タン パク質発現メンブレンに代えて実施例 7で調製したヒト MR P 2発現 S f 9メンブレンを用いる他は、 実施例 1 と同様に測定した。 MR P 2に 輸送されることが良く知られている代表的な化合物である β—エストラ ジオール— 1 7 - ( /3 _ D—ダルクロニド) β -Estradiol-17-( /3 - D- glucuronide)及びスルフォブロモフタレイン Sul fobromophthal ein添カロ 時におけるバナデート法での [3H] AD P結合量の測定を行った。 反応 条件は、 反応時間 5分、 反応温度 3 7°C、 基質添加濃度 0. I mMで行 つた。 結果を図 6に示す。 図 6中、 Aは 3一エストラジオ一ル— 1 7 - ( β一 D—ダルクロニド) を、 Βはスルフォブロモフタレインを、 Cは 基質無添加を表す。 その結果、 上記 2種類の化合物において、 基質未添 加の MR Ρ 2発現膜による測定値と比較して、 有意な [3H] AD P結合 活性の上昇が観察され、 MR P 2においても吸引洗浄法によるスクリ― ニングシステムの有用性が確認された。
産業上の利用可能性
本発明のグラスフィルターを用いた吸引洗浄法による条件検討の結果、 バナデ一ト法による P糖タンパク質や MR P 2検出系の確立に成功した c 得られた測定結果は、 データ変動が小さく再現性も良好であるため、 バ ナデート法の応用法である本方法は、 P糖タンパク質や MR P 2等の A B Cタンパク質の基質認識性測定において、 非常に大きなメリッ トを有
している。 特に、 国際公開第 0 2 / 0 5 2 2 6 2号パンフレッ トに開示 される E L I S Aプレートを用いたバナデ一ト法と比較した場合の利点 として、 以下の 4点を挙げることができる。
1 . 1ゥエル当たりのメンブレン量を自由に増量できる。
2 . E L I S Aプレートへの膜結合ステップを省略できるため、 製品 の品質をコントロールしゃすく、コストも低下することが可能である。
3 . 従来法の A T P a s e法と比較して、 少量の化合物量でアツセィ が可能である。
4 . アツセィを行う化合物が、 A B C 卜ランスポーターへのァゴニス トであるか、 アンタゴニス卜であるかを、 一度にアツセィ可能である。