明 細 書 高効率神経分化誘導法と疾患変異ノックイン ES細胞を組合わせた疾患神経細胞 の確立
技術分野
本発明は、 胚性幹細胞 (ES細胞) を遺伝子操作することにより、 疾患モデル細 胞として利用する方法に関する。 より具体的には、 ES細胞に優性遺伝性疾患の原 因となる遺伝子変異をノックインすることにより、 疾患モデル細胞を作製する方 法に関する。 また、 遺伝性疾患の 1つである家族性アルツハイマー病を含む、 神 経変性疾患のモデル細胞を作製するための、 ES細胞から中枢神経系型ニューロン への分化を誘導する方法にも関する。 これらを用いて、疾患の治療および/または 予防薬をスクリーニングするための方法も提供する。 さらに、 本発明のノックィ ン ES細胞から個体発生させた疾患モデ^/動物を提供する。特に、アミロイド前駆 体タンパク質(APP) の遺伝子変異をノックインすることにより、 アルツハイマー 病 (特に家族性アルツハイマー病) のモデル動物を提供する。
背景技術
胚性幹細胞 (ES細胞) は、 癌化することなく複製 ·増殖が可能で、 個体形成能 を維持しているため、 個体に存在するあらゆる種類の細胞に分化可能な全能性を 有する細胞である。 ES細胞は 1981年に樹立されて以来、 多くの研究者の手によ つて、 特に再生医療医学を初めとする医学分野において多岐に渡って研究 ·開発 に利用されてきた。
ES細胞は、 所望の細胞型へ分化させることにより、 所望の細胞の in vi t roの モデル細胞として利用できる。 かかる細胞は、 正常個体組織における分化した細 胞と同様の形質を有すると考えられる。 しかしながら、 ES細胞を最終分化した細 胞へと分化させる技術は多くの場合、 分化した細胞を十分に効率よく取得するこ とを可能とするには未だ不十分な状況にある
医学的に機序ならびに予防および/または治療法の解明が待たれる疾患の中に は、 遺伝性のものが多い。 遺伝学的研究を通して、 その遺伝性疾患の原因となる
遺伝子突然変異が多く特定されている。 中でも、 遺伝的に発症するァルツハイマ 一病(AD)は、 遺伝学的研究により、 APP、 プレセ二リン(PS) 1および PS2 という、 3種のタンパク質における変異が、 家族性 AD (FAD)の原因となることが示されて いる(4)。 ADは、 ニューロンの損失、 細胞内神経原繊維変化 (NFT) および老人斑 の出現が特徴である。 老人班の主要な構成物質は A jSアミロイドであり , これは 一回膜貫通型前駆タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質 (APP) と呼ばれ るタンパク質から、 切断によって生成される。 Kangら ( 1) によって APPffi (これ は、 695残基のアミノ酸からなる APPである) が同定されて以来、 少なくとも 10 種の APPァイソフォームが同定されているが、 これらは全て同じ遣伝子のオルタ ナティブスプライシングに由来するものである (2)。非神経組織で主に発現する A PP751および APP は、 細胞外領域に Kuni tz型プロテア一ゼインヒビ夕一ドメイン を有している。 KPI ドメインを欠損する APPffは、 脳で優位に発現されており APP の神経型であると考えられている。
FADの原因として最も良く知られているものは、 PS 1の変異であり、 これには 1 00種以上の変異体があるが、 PS2では病因として確立されているものは N141 Iお よび M239Vなどの数種の変異体しかない。 APPの FAD関連突然変異では、 642位の バリンのイソロイシン、 フエ二ルァラニンまたはダリシンへの突然変異体が最も 良く見られる病因である(3)。 ごく少数の FAD系の家族では、 APPの A617G、 E618 G、L648Pおよび K595N/M596Lの変異体が、 FADの原因として同定されている(4-7)。
AD研究の発展における難題の 1つは、 ADの病理学的分析および抗 AD治療薬の 開発において、 AD患者から、 最終分化ニューロンを生きたままで採取し、 試験に 供することが難しいということである。 かかるニューロンが得られたとしても、 増殖させることはできないので、 データの再現性を試験することや、 このニュー ロンを他の研究室と分けて試験に用いるようなことは不可能である。 さらに、 病 因が異なる ADの症例ではその機序を異にする可能性があるため (8 - 10)、原因が未 特定である AD 患者から得たニュ一ロンを調べることは得策ではないということ も考えられる。
そこで、 ES細胞の培養 ·利用技術と遺伝子工学的技法とを組合わせることによ り、 多くの医学的研究が進展すると考えられる。 しかしながら、 ES細胞を最終分
化した細胞へと分化させる技術は、 いくつか試みられているが、 未だ発展途上で あり、 多くの場合、 分化した細胞を効率よく取得することは、 現在のところ未だ 困難である。
したがって、 FADの in vi t roのモデル細胞の確立は、 研究において急務である が、 今のところ確実な方法はない。 発明の開示
本発明では、 ES細胞を特定の細胞に分化させて最終分化した細胞を用いて、 特 定の疾患のモデル細胞とすることに注目した。 そこで、 ES細胞に優性遺伝性疾患 の原因となる遗伝子変異をノックインして、 該細胞を分化させることにより得ら れる疾患形質を有する最終分化細胞を該疾患の in vi t ro のモデル細胞として提 供するための方法および該細胞を提供する。 さらに、 遺伝性神経変性疾患を対象 として、 ES細胞を高率かつ短期間にニューロンに分化させる方法、 およびこれに よって得られるニューロンを提供する。
本発明は、 上記難題を克服すべく鋭意検討を重ねた結果、 完成に至った。 すな わち、 胚性幹細胞 (ES細胞) に遺伝性疾患の原因となる遺伝子変異をノックイン して、 分化させると遺伝性疾患のモデル細胞となり得る細胞が得られる。 特に、 神経変性疾患である家族性アルツハイマー病の原因となる遺伝子変異を ES 細胞 にノックインして、 さらに in vi t roで該 ES細胞を最終分化後の神経細胞へと分 化させることにより、 本発明者は、 FAD遺伝子変異をノックインした ES細胞を確 立し、 最終分化した AD性ニューロンの作製を行った。 本発明では、 2つの重要な ステップ、 すなわち、 ES 細胞を最終分化後のニューロンへと分化させる方法と、 FAD性変異である V642Iの変異を有する内因性 APP遺伝子を含有する ES細胞の構 築法とを組合わせて、 AD性ニューロンを作製する新しい方法を見出した。 こうし て作製した細胞は、 本明細書中では V642I- APP-ノックイン ES細胞と呼ぶ。
かかる ADニューロンは ADの in vi t roのモデルとして利用でき、 また ES細胞 の培養開始からわずか約 3週間程度で得られるという利点がある。 ES細胞から個 体発生させて該個体からニューロンを採取して初代培養系を用いるという従来技 術を本発明の FAD遗伝子変異をノックインした ES細胞と組合わせて用いたとして も、 個体として発生させるまでに約 3週間の期間を要し、 さらに該個体を発育さ せ、 大脳摘出、 神経細胞の単離、 培養という過程を経ねばならないため、 時間と
労力を有する。 本発明の分化方法は、 時間おょぴ労力 ·コストという点において 従来技術より有意に優れている。
さらにまた、本発明のノックイン ES細胞を個体発生させることにより、疾患モ デル動物を得ることができる。 したがって、 上記のとおり、 FAD性変異である V6 421の変異を有する内因性 APP遺伝子を含有する ES細胞(特にマウス由来のもの) を、 偽妊娠メス個体に移植して、 FAD モデル動物 (特にマウス) を得ることがで きる。 かかるモデル動物は、 行動実験、 in vivo試験等に用いることができる。 したがって、 本発明は、 以下の、
1 . 対象とする遗伝性疾患の原因となる遗伝子変異をノックインした胚性幹 細胞 (ES細胞) ;
2 . 遺伝性疾患が神経変性疾患であり、 中枢神経系型ニューロンに分化させ ることにより遺伝性神経変性疾患のモデル細胞となり得る、 上記 1記載の細胞;
3 . 神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、 脊髄小脳失調症 1型、 脊髄小脳失調症 2型、 脊髄小脳失調症 6型、 脊髄小脳失調 症 7型、 マチヤド-ジヨセフ病、 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、 クロイツフェル 1、ヤコプ病、 ゲルストマン ·シュトロイスラ一 ·シャインカー病、 致死的家族性 不眠症、 家族性プリティッシュ痴呆症、 筋萎縮性側索硬化症、 FTDP- 17、 進行性核 上性麻痺、 大脳皮質基底核変性症およびピック病からなる群より選択される、 上 記 2記載の細胞;
4 . 遺伝性神経変性疾患がアルツハイマー病であって、 その原因となる変異 を有する遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質(APP)、 プレセ二リン 1 (PS1) ま たはプレセ二リン 2 (PS2)の変異型をコードするものである、上記 3記載の細胞;
5 . 神経変性疾患がアルツハイマー病であって、 その原因となる変異を有す る遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質(APP)の、 KM595/596NL, A617G, E618Q, E
618G、 D619N, T639A, T639L 難 M、 V640A、 I 641V、 I641T, V642L V642L, V64
2F、 V642Gもしくは L648Pの変異型、 プレセ二リン 1 (PS 1) の R35Q、 A79V、 V82
L、 V89L、 C92S、 V94M、 、 F 105L、 L 1 13P、 Y1 15H、 Y115C、 T116N, P 1 17Sゝ P l l
7L、 E120L、 E120D, E123L、 N135D, M139V、 M139L、 M139T, M139L I 143F, I 143T、
I 143M、 M146L、 M146V, M146L、 M146L T147L L 153V, Y154C、 H163Y, H163R, Wl
65G、 W165C、 L166P, L霞、 S169P, S169L、 L171P, L173W、 L174M, F 177L F177
S、 S178P、 E184D、 G206S、 G206A, G209R、 G209E、 G蒙、 I213L, I213Tゝ G217D、 L219F、 L219P、 Q222R、 I229F, A231T、 A231Vゝ M233L、 M233V, M233L L235V, L2 35P、 F237L F237L, A246E、 L250S、 A260V, V261F, L262F、 C263L C263F, P264 L、 P267S, R269G、 R269H, V272A, E273A, T274L R278L, R278L E讓、 E280G、 L282V, L282R, A285V, L286V、 T354L R358Q、 S365Y、 R377M, G378E、 G378V, G3 84A、 S390L L392V, L392P, G394V, 画 S、 A409T、 C410Y、 L響、 A426P、 A431 E、 A431V, A434C, L435F, P436S、 P436Q, I439V変異型、 I83/M84欠失変異型、 I 167欠失変異型、遺伝子の 23024位の G塩基欠失変異型、 25669位と 25670位との 間に塩基配列 TTATATの挿入変異型、 56305〜62162位の塩基配列の欠失変異型、 5 6681〜61235位の塩基配列の欠失変異型、 58304位の塩基 Gの塩基 Aへの置換変異 型、 58304位の塩基 Gの塩基 Tへの置換変異型、 もしくは 63786位と 63787位と の間に塩基配列 TCGの挿入による変異型、 またはプレセ二リン 2 (PS2)の R62H、 T 122P, S130L、 N141 L V148L M239V, M239I もしくは D439A変異型をコードする ものである、 上記 4記載の細胞;
6 . 上記遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質(APP)の V642I変異型をコード するものである、 上記 5記載の細胞;
7 . 中枢神経系型ニューロンに分化させることにより、 該分化した細胞から 培養液中に分泌される ]8アミロイド 40 (Aj3 40) の量と /3アミロイド 42 (Α ι842) の量との和に対する培養液中に分泌される A /3 42の量の比が、野生型 ES細胞から 分化させた細胞から分泌されたものに比べて高いことを特徴とする、 上記 4〜 6 のいずれかに記載の細胞;
8 . ES細胞に、 対象とする遺伝性疾患の原因となる遺伝子変異をノックイン し、 該細胞を疾患関連細胞に分化させることを含む、 遺伝性疾患のモデル細胞を 作製する方法;
9 . 遺伝性疾患が神経変性疾患であり、 中枢神経系型ニューロンに分化させ ることを含む、 上記 8記載の方法;
1 0 . 神経変性疾患が、 アルツハイマー病、 パーキンソン病、 ハンチントン 病、 脊髄小脳失調症 1型、 脊髄小脳失調症 2型、 脊髄小脳失調症 6型、 脊髄小脳 失調症 7型、 マチヤド-ジヨセフ病、 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、 クロイツフ エル卜ヤコブ病、 ゲルストマン ·シュトロイスラー ·シャインカ一病、 致死的家
族性不眠症、 家族性プリティッシュ痴呆症、 筋萎縮性側索硬化症、 FTDP-17、 進行 性核上性麻痺、 大脳皮質基底核変性症、 ピック病からなる群より選択される、 上 記 9記載の方法;
1 1 . 遺伝性神経変性疾患がアルツハイマー病であって、 上記変異を有する 遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質 (APP)、 プレセ二リン 1 (PS1) またはプレ セニリン 2 (PS2)の変異型をコードするものである、 上記 1 0記載の方法;
1 2 . 神経変性疾患がアルツハイマー病であって、 その原因となる変異を有 する遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質 (APP)の、 KM595/596NL, A617G, E6環、 E618G、 D619N、 T639A、 T639L V6棚、 V640A、 I641V、 I641T, V642L V642L, V6 42F、 V642Gもしくは L648Pの変異型、 プレセ二リン 1 (PS1) の R35Q、 A79V、 V8 2L、 通、 C92S、 V94M、 V96F、 F105し L113P、 Y115H、 Y115C、 Tl亂 P117S、 PI 17L、 E置、 E120D、 E123L, N135D, M139V, M139L, M139T、 M139L I 143F, 1143 T、 I 143M、 M146L、 M146V、 M146Lゝ M146I、 T147L L153V, Y154C, H腿、 H163R、 W165Gゝ W165C, L166P、 L醒、 S169P, S169L、 L171P, L173W, L174M、 F177L、 Fl 77S、 S178P, E184D, G206S, G腿、 G209Rゝ G209E、 G209V、 I213L, I213T, G217 D、 L219F、 L219P, Q222R, I229F, A231T、 A231V, M233L, M233V, M233T, L235V, L235P, F237L F237L、 A246E、 L250S, A260V、 V261F、 L262F、 C263R C263F、 P2 64L、 P267S, R269G, R画、 V272A, E273A, T274R、 R278L、 R278T、 E280A, E280 G、 L282V、 L282R、 A285V, L286V, T354L R358Q, S365Yゝ 377M, G378E, G378V, G384A、 S390L L392Vゝ L392P, G394V、 N405S、 A409T、 C410Y、 L418F、 A426P、 A4 31E、 A431V、 A434C、 L435F, P436S, P436Q, I439V変異型、 I83/M84欠失変異型、 1167欠失変異型、 遺伝子の 23024位の G塩基欠失変異型、 25669位と 25670位と の間に塩基配列 TTATATの挿入変異型、 56305〜62162位の塩基配列の欠失変異型、 56681〜61235位の塩基配列の欠失変異型、 58304位の塩基 Gの塩基 Aへの置換変 異型、 58304位の塩基 Gの塩基 Tへの置換変異型、 もしくは 63786位と 63787位 との間に塩基配列 TCGの挿入による変異型、またはプレセ二リン 2 (PS2)の R62H、 T122P, S130L、 N141 L V148L M239V, M239Iもしくは D439A変異型をコードする ものである、 上記 1 1記載の方法;
1 3 . 上記遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質(APP)の V642I変異型をコ一 ドするものである、 上記 1 2記載の方法;
1 4 . 中枢神経系型ニューロンに分化させると、 培養液中に分泌される A i3 4 0の量と A j3 42の量との和に対する培養液中に分泌される A jS 42の量の比が、 野 生型 ES 細胞から分化させた細胞から分泌されたものに比べて高いことを特徴と する、 上記 1 1〜 1 3のいずれかに記載の方法;
1 5 . ES細胞を中枢神経系型ニューロンに分化させる方法であって、 ES細胞 を培養して得られた胚様体 (EB)を、 培養しながらレチノイン酸 (RA) で処理し、 次いで bFGFで処理し、 その後 AraCで処理することを含む方法;
1 6 . フイブロネクチンコートを施した培養容器内で培養することをさらに 含む、 上記 1 5記載の方法;
1 7 . フイブロネクチンとラミニンとでコートを施した培養容器内で培養す ることを含む、 上記 1 5記載の方法;
1 8 . 上記レチノイン酸 (RA) で処理後、 bFGF処理の前に細胞を、 フイブ口 ネクチンコートを施した培養容器内に移すことを含む、 上記 1 6または 1 7記載 の方法;
1 9 . ポリオル二チンコートを施した培養容器内で培養することをさらに含 む、 上記 1 5〜1 8のいずれかに記載の方法;
2 0 . ポリオル二チン/ラミニンコ一トを施した培養容器内で培養することを さらに含む、 上記 1 5〜 1 9のいずれかに記載の方法;
2 1 . 上記 bFGF処理開始後、 AraC処理の前に細胞をポリオル二チン/ラミニ ンコートを施した培養容器に移すことを含む、 上記 2 0記載の方法;
2 2 . 培養細胞がニューロンへ分化したことを ES細胞の培養開始から 25日 以内に、 細胞において、 微小管関連タンパク質(MAP) - 2、 神経フィラメント- M (NF - M)、 シナプトフイジン、 Rat>3Aおよびシナプシン 1からなる群より選択される少 なくとも 1つの神経細胞特異的マーカー遺伝子の mRNA の発現を検出することに より確認する、 上記 1 5〜2 1のいずれかに記載の方法;
2 3 . 培養細胞が成人型中枢神経系型ニューロンへ分化したことを ES細胞の 培養開始から 25日以内に、細胞において、成人型の t auタンパク質中枢神経系特 異的アイソフォームの mRNAの発現を検出することにより確認する、上記 1 5〜2
2のいずれかに記載の方法;
2 4 . ES細胞を、 上記 1 5〜2 3のいずれかに記載の方法を用いて分化させ
て得られる中枢神経系型ニューロン;
2 5 . 対象とする遺伝性神経変性疾患の原因となる遺伝子変異をノックイン した ES細胞を、上記 1 5〜 2 3のいずれかに記載の方法を用いて中枢神経系型二 ユー□ンに分化させることにより得られる、 遺伝性神経変性疾患のモデル細胞;
2 6 . 遺伝性神経変性疾患がアルツハイマー病であって、 上記変異を有する 遗伝子がアミロイド前駆体夕ンパク質(APP)、 プレセ二リン 1 (PS 1) またはプレ セニリン 2 (PS2)の変異型をコードするものである、上記 2 5記載のモデル細胞;
2 7 . 遺伝性神経変性疾患がアルツハイマー病であって、 上記変異を有する 遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質(APP)の、 腹 595/596NL、 A617G, E618Q、 E6 18G、 D619N, T639A, T639L V6極、 V6概、 I641V, I641L V642L V642L, Y642
F、 V642Gもしくは L648Pの変異型、 プレセ二リン 1 (PS1) の R35Q、 A79V、 V82L、 V89L, C92S、 V94M、 清、 F105L. L U3P、 YH5H、 YU5C、 T蘭、 Pi l 7S、 FUIU E120L、 E蘭、 E123L, N 、 M139V, M139L、 M139T, M139L I 143F、 I 143L I I 43M、 M魔、 M146Y, M146L、 M146L T147L L153V、 Y154C、 H 、 H蘭、 W165
G、 W165C L腿、 L腿、 S169P, S169L, L171P、 L173W, L 174M, F 177L, F 177S,
S178P、 E184D、 G206S、 G206A、 G209R、 G應、 G209V, I213L, I213T、 G217D, L2
19F、 L219P, Q222R, I229F, A231T, A231V, M233L, M233Y, M233T, L235V, L235
P、 F237K F237L、 A246E、 L250S、 A260V, F、 L262F, C263R, C263F、 P264L,
P267S, R269G, R細、 V272A, E273A, T274R, R278L, 278T, E280A, E280G, L2
82V, L282R、 A285V, L286V, T354L 358Q, S365Y, R377M, G378E, G378V, G384
A、 S390K L392V, L392P, G394V, 画 S、 A409T、 C410Y、 L響、 A426P, A431E、
A431V、 A434C、 L435F, P436S、 P436Q, I439V変異型、 I83/M84欠失変異型、 1167 欠失変異型、 遺伝子の 23024位の G塩基欠失変異型、 25669位と 25670位との間 に塩基配列 TTATATの挿入変異型、 56305〜62162位の塩基配列の欠失変異型、 566
81~61235位の塩基配列の欠失変異型、 58304位の塩基 Gの塩基 Aへの置換変異型、
58304位の塩基 Gの塩基 Tへの置換変異型、 もしくは 63786位と 63787位との間 に塩基配列 TCGの挿入による変異型、またはプレセ二リン 2 (PS2)の R62H、T 122P、
S 130L, N141 K V148L M239V, M239I もしくは M39A変異型をコードするもので あり、 上記 1 5〜 2 3のいずれかに記載の方法を用いて中枢神経系型ニューロン 分化させることにより得られる、 上記 2 6記載のモデル細胞;
2 8. 上記遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質 (APP)の V642I変異型をコー ドするものである、 上記 27記載のモデル細胞;
2 9. 培養液中に分泌される A|340の量と Α|342の量との和に対する培養液 中に分泌される Α/342の量の比が、野生型 ES細胞から分化させた細胞から分泌さ れたものに比べて高いことを特徴とする、 上記 2 6〜2 8のいずれかに記載の細 胞;
3 0. 上記 1 5〜 23のいずれかに記載の方法を用いて、 対象とする遺伝性 神経変性疾患の原因となる遺伝子変異をノックインした胚性幹細胞 (ES細胞) を 分化させることを含む、 上記 9〜 1 4のいずれかに記載の神経変性疾患モデル細 胞を作製する方法;
3 1. 上記 1〜7および 24〜 2 9のいずれかに記載の細胞を用いて、 対象 とする遺伝性疾患を治療および/または予防する化合物をスクリ一ニングする方 法;
32. 上記 4〜 7のいずれかに記載の細胞を、 上記 1 5〜2 3のいずれかに 記載の方法により分化させた細胞を用いて、アルツハイマー病を治療および/また は予防する化合物をスクリ一ニングする方法;
3 3. 上記 24〜2 9のいずれかに記載の細胞を用いて、 アルツハイマー病 を治療および/または予防する化合物をスクリーニングする方法;
34. 対象とする遺伝性疾患の原因となる遺伝子変異をノックインした疾患モ デルノックイン動物;
3 5. 遗伝性疾患がアルツハイマー病であって、 その原因となる変異を有する 遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質(ΑΡΡ)、 プレセ二リン 1 (PS1) またはプレ セニリン 2 (PS2)の変異型をコ一ドするものである、上記 34記載のノックイン動 物;
3 6. 上記原因となる変異を有する遺伝子が、 アミロイド前駆体タンパク質(Α
ΡΡ)の、 漏 5/5赚、 A617G, E618Q、 E618G、 D619N、 T639A, T639K V640M, V64
0A、 I641V, I641T、 V642L V642L, V642F, Y642Gもしくは L648Pの変異型、 プレ セニリン 1 (PS1) の R35Q, A79V、 鳳、 V89L、 C92S, 簡、 窗、 F105L, L113
P、 Y115H, Y115C、 T1 、 P117Sゝ P117Lゝ E120L, E120D、 E123L, N135D, M139V,
M139し M139T, M139L I143F、 I143T、 I 、 M146U M146V, M146L, M146I, Tl
471、 L153V, Y154C H163Y, H163 , W165G, W165C, L166P, L蘭、 S169P, S169 L、 L171P, L173W, L174M、 F177L, F1 S、 S178P、 E184D、 G206S G2亂 G贿、 G209E, G蕭、 I213L, I213T、 G217D, L219F, L219P、 Q222 , I229F, A231T、 A2 3 IV、 M233L、 M233V, M233T, L235V, L235P, F237L F237L, 讓 E、 L250S、 A260 V、 V261F, L262F、 C263R, C263F、 P264L、 P267S, R269G, R269H, V272A-. E273A, T274R、 R278L, R278L E腿、 E280G、 L282V、 L282R、 A285V, L讓、 T354I, R3 58Q、 S365Y、 R377M, G378E, G378V、 G384A, S390L L392V、 L392P, G394V、 N405 S、 A409T, C410Y、 L418F, A信、 A431E, A431V, A434C, L435F, P436S, P436Q, I439V変異型、 I83/M84欠失変異型、 1167欠失変異型、 遺伝子の 23024位の G塩 基欠失変異型、 25669位と 25670位との間に塩基配列 TTATATの揷入変異型、 5630 5〜62162位の塩基配列の欠失変異型、 56681〜61235位の塩基配列の欠失変異型、 58304位の塩基 Gの塩基 Aへの置換変異型、 58304位の塩基 Gの塩基 Tへの置換変 異型、 もしくは 63786位と 63787位との間に塩基配列 TCGの挿入による変異型、 またはプレセ二リン 2 (PS2)の R62H、 T122P, S130L, N141 L V148L M239V, M239 I もしくは D439A変異型をコードするものである、 上記 3 5記載のノックイン動 物;
3 7 .上記遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質(APP)の V642I変異型をコード するものである、 上記 3 6記載のノックイン動物;
3 8 . 脳内の /3アミロイド 40 (Α ι340) の量と ^アミロイド 42 (A 3 42) の量と の和に対する A 3 42の量の比が、 野生型動物に比べて高いことを特徴とする、 上 記 3 6または 3 7記載のノックイン動物;
3 9 . 野生型に比べて潜在学習能力が低下していることを特徴とする、 上記 3 6〜3 8のいずれか 1項記載のノックイン動物;
4 0 . マウスである、 上記 3 4〜 3 9のいずれかに記載のノックイン動物; に関する。
本発明の第 1の態様は、 対象とする遣伝性疾患の原因となる遗伝子変異をノッ クインした ES細胞の提供である。
本明細書中 「遺伝性疾患」 とは、 動物の体細胞ゲノムの遺伝子突然変異に起因 するあらゆる疾患、 異常症状および状態をいい、 一般に 「家族性疾患」 と呼ばれ るものも含まれる。 哺乳動物、 特にヒトでは 現在、 遺伝性疾患の遺伝子突然変
異部位は多数特定されているが、 将来的にはその数は増大するはずである。 特定の疾患に関与する遺伝性疾患の原因となる遺伝子変異を、野生型 ES細胞に ノックィンすることにより、遺伝的かつ潜在的に該疾患を発症し得る ES細胞を得 ることができる。 ノックイン技術は、 特定の遺伝子をゲノム内の対応する遺伝子 と置換する技術であり、 当技術分野では公知である (例えば、 11および 12 を参 照のこと)。遺伝性疾患の原因となる遺伝子変異をノックインして得られるノック イン ES細胞は、それを種々の特定の細胞型に分化させると、対象とする遺伝性疾 患の in vi troのモデル細胞として用いることができ、 また、個体として発生させ ると、 in vivo のモデル動物として用いることができるとともに、 特定の細胞型 を該モデル動物から回収して初代培養系 in vi tro モデル細胞としても用いるこ とができる。 ES細胞を in vi troで特定の細胞型に分化させる方法は、 その細胞 型に応じて種々の方法が多く報告されている。 これらのモデル細胞およびモデル 動物は、対象とする疾患の治療および/または予防のための手段、薬剤の開発にお いて大変有用な手段として提供され得る。
遺伝性疾患の中でも特に、 神経変性疾患、 特に中枢神経の変性を伴う疾患は、 その in vi troのモデルの開発が待たれている疾患の一つである。このような遺伝 性神経変性疾患には、 限定はされないが、 例えばアルツハイマー病、 パーキンソ ン病、 ハンチントン病、 脊髄小脳失調症 1型、 脊髄小脳失調症 2型、 脊髄小脳失 調症 6型、 脊髄小脳失調症 7型、 マチャド-ジヨセフ病、 歯状核赤核淡蒼球ルイ体 萎縮症、 クロイツフェルトヤコブ病、 ゲルストマン 'シュトロイスラー 'シャイ ンカ一病、 致死的家族性不眠症、 家族性プリティッシュ痴呆症、 筋萎縮性側索硬 化症、 FTDP- 17、 進行性核上性麻痺、 大脳皮質基底核変性症およびピック病などが ある。かかる神経変性疾患の原因となる遺伝子変異をノックインした ES細胞も本 発明の 1つの態様である。かかるノックイン ES細胞を中枢神経系型ニュ一ロンに 分化させることにより、 その遺伝性神経変性疾患のモデル細胞が得られる。
それぞれの原因となる遗伝子の変異は多種知られており、 例えば、 パーキンソ ン病では αシヌクレイ ( a -synucle in; SNCA)の 30位のァラニンのプロリンへの 変異または 53位のァラニンのスレオニンへの変異、ハンチントン病ではハンチン チンにおける 37〜121個のグルタミンリピートの変異、 脊髄小脳失調症 1型では
SCA 1における 46〜82個のグルタミンリピートの変異、 脊髄小脳失調症 2型では
SCA 2における 35〜59個のグルタミンリピートの変異、 脊髄小脳失調症 6型では a 1(1Caチャネルにおける 21〜27個のグルタミンリピートの変異、脊髄小脳失調症
7型では SCA 7における 38〜 130個のグルタミンリピー卜の変異、マチヤド -ジョ セフ病ではマチヤド-ジヨセフ病タンパク質(MJD 1 )の 65〜84個のグルタミンリピ ートの変異、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症では DRPLAの 49〜85個のグルタミン リピートの変異、クロイツフェルトヤコブ病では PRNPの 200位のグルタミン酸の リジンへの変異、 ゲルス卜マン ·シュ卜口イスラ一 ·シャインカ一病では PRNP の 102位のプロリンのロイシンへの変異、 致死的家族性不眠症では PRNP の 178 位のァスパラギン酸のァスパラギンへの変異、 家族性プリティッシュ痴呆症では BRI遺伝子の 267番目のコドンの Tから Aへの変異、 筋萎縮性側索硬化症ではス 一パ一ォキシドジスム夕ーゼ(SOD) 1の 4位のァラニンのスレオニンへの変異、 85 位のグリシンのアルギニンへの変異および 93 位のグリシンのァラニンへの変異 など、 FTDP-17では tauタンパク質の 301位のプロリンのロイシンへの変異、 進 行性核上性麻痺では tau夕ンパク質の 406位のアルギニンのトリプ卜ファンへの 変異、 大脳皮質基底核変性症では tauタンパク質の 305位のセリンのァスパラギ ンへの変異、 ならびにピック病では tauタンパク質の 389位のダリシンのアルギ ニンへの変異などが挙げられる。
特に、 アルツハイマー病の原因となる遺伝子変異は、 APP、 PS1および PS2にお いて多種同定されており、 今後もさらに発見されると考えられる。 現在同定され ているものとしては、 限定はされないが、 神経変性疾患がァルツハイマー病であ つて、 その原因となる変異を有する遺伝子がアミロイド前駆体タンパク質(APP) では、 KM595/596NL, A617Gゝ E618Qゝ E618G, D619N, T639A、 T639L V6纏、 V640 A、 I641V, I641T、 V642L V642L, V642F, V642Gもしくは L648Pの変異型が挙げ られる (なお、 ΑΡΡ はオルタナティブスプライシングによりそのアミノ酸配列の 長さの異なる分子種が存在するため、 そのアミノ酸配列のアミノ酸位を数える場 合、 オルタナティブスプライシングを受けた分子種に基づいてその Ν末端から数 える場合と、 オル夕ナティブスプライシングを受けていない分子種に基づいてそ の Ν末端から数える場合とが、 当技術分野で慣用されている。 上記の記載は、 前 者のオルタナティブスプライシングを受けた分子種に基づいたものであり、 後者
のオルタナティブスプライシングを受けていない分子種に基づくと、 アミノ酸位 が 75増加して、 それぞれ KM670/671NL A692G E693Q E693G, D694N ΤΠ4Α Τ
7141 V715M, V715A I716V, Ι716Τ V717L V717L, V717F V717Gもしくは L72
3P となる。 図 1においては、 この後者の記載を採用している。) さらに、 プレセ 二リン 1 (PS1) では、 R35Q, A79V, V82L V89L C92S V94M V96F F i05L LI
13P Y115H, Y115C T116N P117S, P 117L El 201 E薦、 E123L, N135D M139
V M139L M139L M139L I 143F, I 143T I 143M, M146L M蘭、 M146L M146L
T147L L153V, Y154C H163Y H163R W165G, W165C, L166P L蘭、 S169P SI
69し L171P, ί而、 L 174M F177L, F 177S, S 178P E184D G S G腸、 G209
R G209E G丽、 I 213L, I213T, G217D, L219F L219P Q222 , I 229F, A231T,
A231V, M233L, M233V, M233T L235V, L235P, F237L F237L, A246E L250S A2
60V V261F L262F, C263R, C263F P264L P267S, R269G, R269H, V272A, E273
A T274L R278L, R278T, E280A, E280G L282V, L282 , A285Y, L286V, T354L
R358Q, S365Y, R377M, G378E. G378V, G384A S390L L392V, L392P G394V N4
05S A409T C410Y L禱、 A426P, A431E A431V A434C L435F, P436S, P436
Q I439V変異型、 I83/M84欠失変異型、 1167欠失変異型、 遺伝子の 23024位の G 塩基欠失変異型、 25669位と 25670位との間に塩基配列 TTATATの挿入変異型、 56
305 62162位の塩基配列の欠失変異型、 56681 61235位の塩基配列の欠失変異型、
58304位の塩基 Gの塩基 Aへの置換変異型、 58304位の塩基 Gの塩基 Tへの置換変 異型、 もしくは 63786位と 63787位との間に塩基配列 TCGの挿入による変異型、 ならびに、 プレセ二リン 2 (PS2)では、 R62H T122P S 130L N141 L V148L M23
9V M239Iもしくは D439A変異型が挙げられる。
いずれも、 タンパク質の N末端側から数えた変異しているアミノ酸位の番号を 中央に示し、その左側に野生型タンパク質の該アミノ酸位のアミノ酸残基を示し、 変異型タンパク質におけるアミノ酸残基を右側に示す。 アミノ酸残基は、 一文字 表記とする。 また、 遺伝子の塩基位を用いて示している場合は、 遺伝子の 5, 末 端から数えた塩基位を示している (図 1参照)。 将来、 この他にも多数発見される であろうアルツハイマー病の原因となる変異もまた、 本発明に利用することがで きることは、 当業者であれば理解できるであろう。 例えば、 ADMDA Akzgeuner Di sease Mut at ion Database (ht tp ://molgeii-www. uia. ac. be/ADMut at ions)に現在
掲載されている、 または将来的に掲載される全てのアルツハイマー病の原因とな る変異を本発明に利用することができる。 これらの変異型 APP、 PS 1 または PS2 をコードする遺伝子の変異を ES細胞にノックインし、神経細胞に分化させるとァ ルツハイマー病のモデル細胞となる疾患神経細胞が提供される。
アルツハイマー病のニューロンの特徴としては、 該細胞から分泌される ]3アミ ロイドタンパク質 (A j3 : A /3 40と A /3 42が含まれる) のうちの、 λ β の比率が 増大することが挙げられるが、 上記変異型 ΑΡΡまたは PS 1をコードする遺伝子を ノックインした ES細胞は、 中枢神経系型ニュ一ロンに分化させると、該分化した 細胞から培養液中に分泌される /3アミロイド 40 (A j3 40) の量と /3アミロイド 42 (Α ι3 42)の量との和に対する培養液中に分泌される A /3 42の量の比(A JS 42/A JS 4 0 +A /3 42) が、 野生型 ES細胞から分化させた細胞から分泌されたものに比べて、 1. 2倍以上、 好ましくは 1. 3倍以上、 より好ましくは 1. 5倍以上高いというアル ッハイマー病のニューロンの特徴を示し得る。
本発明の別の態様は、 上記の遺伝性疾患の原因となる遺伝子変異をノックイン した ES細胞を、疾患関連細胞、すなわち疾患に関連する形質を示す特定の細胞型 に分化させることを含む、 遺伝性疾患のモデル細胞を作製する方法を提供する。 遺伝子疾患は特定のものに限定されないが、 特に、 上記のアルツハイマー病を初 めとする遺伝性神経変性疾患のモデル細胞を、 特定の変異遺伝子をノックインし た ES細胞から中枢神経系型ニューロンに分化させることを含む、神経変性疾患の モデル細胞を作製する方法が提供される。
さらに、 本発明は、 上記方法における中枢神経系型ニュ一ロンへの分化を効果 的に誘導するための、 ES細胞を中枢神経系型ニューロンに分化させる方法を提供 する。 かかる方法は、 ES 細胞を公知の方法で胚様体 (EB) まで培養し、 0. 1 以上、 好ましくは 1〜50 il l, さらに好ましくは 5〜20 M、 最も好ましくは 5 Mの濃度でレチノイン酸 (RA) を培地に添加し、 0. 5〜48時間、 好ましくは 6〜
36時間、 さらに好ましくは 12〜30時間、 最も好ましくは 24時間培養し、 その後 培地交換することにより RAを除去した後 96時間以内、好ましくは 24〜72時間以 内、より好ましくは 36〜60時間、特に好ましくは約 48時間後に 0. 05 ng/ml以上、 好ましくは 0. 1 ng/ml以上、 より好ましくは 1 ng/ml以上、 特に好ましくは 5 ng
/ml以上、 例えば 10 ng/mlの濃度の bFGFで培地に添加し、 さらに 12時間以上、
より好ましくは 24〜120時間、特に好ましくは 72〜120時間、例えば約 96時間培 養する。 その後、 AraCを 0. 1〜200 M、 好ましくは 1〜100 Λ より好ましく は 5〜50 /χ Μ、 特に好ましくは約 5〜20 β Μ、 例えば 10 Μの濃度で含む培地に 交換し培養する。 AraCで刺激する時間は、 その濃度によって異なるが、 96時間以 内とすることが好ましく、 2時間以上 60時間以内がより好ましく、 例えば約 48 時間刺激するとよい。
本発明のこの態様における本質は、 RAと bFGFと AraCの 3種の薬剤を組合わせ て用いて効率的に中枢神経系型ニューロンへと ES細胞を分化させることにある。 上記の RA、 bFGFおよび AraCの濃度および処理時間は、 例示であり、 濃度および 細胞の状態、 さらには培地、 試薬の供給元、 製造ロット番号等の微細な細胞を取 り巻く環境の相違によって、 変更することができる。 この方法に用いるのに適切 な培地は、 例えば、 RA刺激の終わりまでは 10 %FCSおよび 10%NCS添加 MEM培 地、 RA除去後は ITS- Gサプリメント添加 DMEM- F 12培地、 FGF除去後は N2サプリ メント添加 DMEM-F 12培地、 AraC除去後は Neurobasal培地 B27などを使用すると よい。 各種培地を交換するタイミングは、 RA等の薬剤処理時間等と同じく、 細胞 の環境および/または状態によつて変更することができる。
上記方法における培養には、 RA処理の前又は後からフイブロネクチンコートを 施した培養容器内で培養してもよく、 その場合、 bFGF処理の前、 後または処理中 にポリオル二チン/ラミニンコートを施した培養容器、またはポリオル二チンコー トを施した培養容器に移して培養してもよい。 あるいは、 RA処理の前または後か らフイブロネクチン/ラミニンコートを施した培養容器内で培養してもよい。これ らの細胞外刺激のためのコートした培養容器の使用についても、当業者であれば、 適宜適切なものを選択し、 実験条件を設定することができる。 細胞の分化を誘導 する上で、 時間的な条件の変更は、 当業者の経験おょぴ知識に基づいて行うこと ができ、 これらの変更は本発明に包含されるものである。
したがって、 各種のコートを施した培養容器を用いる場合、 時間的な条件は厳 密ではないが、 例えば、 RA処理の終了時点でフィプロネクチンコートの培養容器 に細胞を移し、その 24時間後に bFGF刺激を加え さらに 24時間後にポリオル二 チン/ラミニンコート培養容器に移した後、 24時間後に bFGFを除去して AraCを 添加しさらに 24時間培養した時点で Ar aCを除去し、 さらに培養を続けることに
より、高効率で中枢神経系型ニューロンに分化した細胞を得ることが可能である。
AraCの除去後、 適宜培地交換しながら、 1週間以上培養することができる。 かか る条件で実施する場合、 例えば、 フイブロネクチンコート培養容器からポリオル 二チン/ラミニンコート培養容器に移す際、 および/またはフイブロネクチンコー ト培養容器に移してから 24時間後などの時点で、通常の方法にてトリプシン処理 を行い、 培養容器表面から細胞を剥離して回収し、 必要に応じて培地を交換し、 新しい培養容器に移す。 かかる工程を行うことにより、 細胞接着能を利用して、 分化の進行した細胞の割合を増加させることができる。 かかるトリプシンによる 細胞剥離と再接着の工程のタイミングも、 当業者が経験および知識に基づいて適 切に設定することができる。
上記の方法で分化を誘導した ES細胞は、 AraC除去後、 ニューロンとして用い ることができる。 ニューロンへの分化は、 ニューロン特異的タンパク質の mRNA の転写、 または発現で確認することができる。 これらは、 ノーザンプロット、 RT - PCR法およびウェスタンプロッティング等の公知の方法で実施できる。ニューロ ン特異的タンパク質の例としては、微小管関連タンパク質(MAP) -2、神経フィラメ ント -M (NF- M)、 シナプトフイジン、 Rab3A およびシナプシン 1が挙げられる。 こ れらはいずれもニューロンのマ一カーであり、 このうちの少なくとも 1種以上の タンパク質、 好ましくは複数種、 より好ましくは 3種以上、 さらに好ましくは 4 種以上、 特に好ましくは 5種以上のタンパク質について、 検出することが好まし い。 さらに、 中枢神経系のニュ一ロン細胞への分化を確認するためには、 tau 夕 ンパク質中枢神経系特異的ァイソフォームについて検出することが好ましい。 し かし、 神経細胞のマ一力一はこの他にも種々見出されており、 細胞の使用目的に 応じたマーカーを当業者が選択し、 検出することも可能である。 また、 例えば、 上記以外の神経幹細胞のマーカ一であるネスチンは、 RA処理後、 bFGF処理に伴つ て最も早い段階で発現し、 その後神経細胞への分化が進行するにつれて、 発現が 消失する。 したがって、 神経幹細胞のモデルとして使用する場合、 Aと bFGFの 処理後すぐに用いることが可能であり、 その際、 ネスチン遺伝子の発現を指標と することができる。
さらに、 tauの中枢神経系特異的ァイソフォームの mRNAの発現の検出により、 分化した細胞が中枢神経系型ニューロンであるか否かを調べることができる。 上
記方法により分化させたニューロンは、 AraC処理後顕著に t auの転写が増大し得 る。 さらに、 t auには胎児型 t auと成人型 t auの 2種類が存在し、 成人型 t au夕 ンパク質は胎児型 t auタンパク質にさらにェキソン 2、 3および 1 0に由来する アミノ酸配列が挿入されるため、、成人型 t auタンパク質は、胎児型 t auタンパク 質のものに比べて、 mRNAが長く、 かつタンパク質の分子量が大きい。 胎児型 t au は胎児において発現しており、 成人型 t auは新生児期から発現することがわかつ ているが、その mRNAの長さ、タンパク質の分子量によりいずれかを判別すること ができる。 上記方法で分化させた細胞は、 AraC刺激により胎児型 t auの転写が確 認されるが、培養を続けることにより Ar aC刺激後約 2週間を経過したあたりから 徐々に成人型 t auの転写が検出されるようになり、 さらに培養を継続していると AraC刺激後約 3週間を経過したあたりから、胎児型 t auに代わつて成人型 t auの 転写が優勢になり得る。 したがって、 成人型 t auの転写が検出されるまで培養し た細胞、 好ましくは成人型 t auの転写が優勢になるまで培養した細胞は、 成体の 中枢神経系型ニュ一ロンのモデルとして使用できることは当業者であれば、 理解 できよう。
t auも含めて上記に列挙したニューロンのマーカ一はすべて、 RA刺激後 20日以 内に検出され得る。 したがって、ニューロンのマーカ一の転写および/または発現 を指標として、 当業者が使用の目的に応じて、 所望の分化状態にある細胞をニュ 一ロンのモデル細胞として使用することができることは、 当業者には理解できょ 5。
本明細書において開示する ES 細胞を中枢神経系型ニューロンに分化させる本 発明の方法を用いると、分化誘導処理過程を経た培養細胞のうち少なくとも 50 % 以上、 好ましくは 60 %以上、 さらに好ましくは 70 %以上、 特に好ましくは 80 % 以上の細胞がニューロンのマーカ一を発現し得る。 場合によっては、 90 %以上の 細胞が該マーカーを発現する場合もある。 したがって、 本方法によると、 ES細胞 を非常に高効率でニューロンに分化させることができる。また、本発明の方法は、 ニューロンをセルソー夕一またはバニング技術などを用いて選別する手順等を含 まないので、 設備費および労力等の面で安価かつ簡便な方法である。
上記 ES細胞を中枢神経系型ニューロンに分化させる方法と、対象とする優性遺 伝性神経変性疾患の原因となる遺伝子変異をノックインした ES 細胞を分化させ
ることを含む優性遺伝性神経変性疾患モデル細胞を作製する方法とを組合わせる ことができ、 それによつて優性遺伝性神経変性疾患のモデル細胞を効率的に作製 する方法が提供される。
したがって、上記 ES細胞を中枢神経系型ニュ一ロンに分化させる方法を,対象 とする優性遺伝性神経変性疾患の原因となる遺伝子変異をノックインした ES 細 胞に適用することにより、 優性遺伝性神経変性疾患のモデル細胞が得られる。 特 に、 該方法を、 変異を有する遺伝子が APPの KM595/596NL (KM670/671NL) , A617G
(A692G)、 E618Q (E693Q) , E618G (E693G) , D619N (醒 N)、 T639A (T714A)、 T6 391 (T714I) , V640M (V715M)、 Y640A (V715A) , I641V (I716V)、 I641T (I716T)、 V642I (V717I) , V642L (V717L)ゝ V642F (V717F) , V642G (V717G) もしくは L648P
(L723P) の変異型、 またはプレセ二リン 1 (PS1) の R35Q、 A79V、 V82し V89し C92S, V94M、 V96F、 F105L、 L113P、 Y115H, Y115C、 Ti l6N、 P117S、 PI 、 P117L、 E颜、 E120D、 E123K, N135D, M139V、 M139K、 M139L M139L I 143Fゝ I 143Tの変 異型、 183および M84欠失型、 もしくは第 5ェキソン欠失型、 または PS2の N141 I または M239V変異型をコードするアルツハイマー病の原因となる遺伝子変異を ノックインした ES細胞に適用した場合、アルツハイマー病のモデル細胞となる二 ユーロンが得られる。
ここで得られるアルツハイマー病のモデル細胞となるニューロンは、 Ai3 42 の 分泌が増大するというアルツハイマー病ニューロンに特徴的な性質を示す。 具体 的には、 培養液中に分泌される A /340の Ai3 42の量との和に対する培養液中に分 泌される Α)842の量の比が、野生型 ES細胞から分化させた細胞から分泌されたも のに比べて、 好ましくは 1. 2倍以上、 好ましくは 1. 3倍以上、 より好ましくは 1. 5倍以上高いという特徴を示す。
本発明では、数週間、厳密には約 3 〜 4週間以内という短期間の ES細胞の培養 で、かかる優性遺伝性神経変性疾患のモデル細胞が得られるという利点を有する。 かかるモデル細胞を用いて、雄性遺伝性疾患を治療および/または予防する化合 物をスクリーニングすることができる。 すなわち、 候補化合物を上記モデル細胞 に接触させて、 その結果該化合物がその細胞にもたらす影響を検出することによ り、 スクリーニングできる。 化合物により細胞にもたらされる影響とは、 細胞の あらゆる機能 '活性のうちの疾患に特徴的なものの変化をいい、 例えば、 タンパ
ク質発現量の変化、 遺伝子転写量の変化、 細胞内酵素活性の変化、 細胞の生存活 性の変化、 細胞形態の変化などが挙げられる。 これらの検出方法は、 適切なもの を当業者であれば容易に選択し、 実施することができる。
したがって、 アルツハイマー病に特異的な APPまたは PS 1の突然変異体をコー ドする遺伝子をノックインした ES 細胞を上記方法において分化させたニューロ ンを用いて、アルツハイマー病の治療および/または予防する化合物をスクリー二 ングすることが可能である。この場合、候補化合物を該ニューロンに接触させて、 その結果該化合物がその細胞にもたらす影響を検出する。 該モデルニューロンで は、 アルツハイマー病の特徵である A /3 42の発現量の A 3全体の発現量に対する 割合の増加が認められるが、 候補化合物が該割合の低減をもたらすかどうかを検 出するとよい。
さらに、 本発明は、 上記ノックイン動物に関する。 ES細胞をから個体を得る方 法は、 当業者には公知であり、 該方法により、 上記のノックイン ES細胞から個体 発生させることにより、 種々の疾患モデル動物を得ることができる。 特に、 上記 の、 APPの KM595/596NL (KM670/671NL) , A617G (A692G)、 E618Q (E693Q) , E618G (E693G) , D619N (D694N) , T639A (T714A)、 T639I (T714I)、 V640M (V715M) , V6 40A (V715A) , I641V (I716V)、 I641T (I716T)ゝ V642I (V717I) , V642L (V717L) , V642F (V717F) , V642G (V717G) もしくは L648P (L723P) の変異型、 またはプレ セニリン 1 (PS1) の R35Q、 A79V、 V82L、 皿、 C92S、 V94M、 清、 F105L、 L113 P、 Y115H、 Y115C、 Tl 、 P117S, P117L, P117L, E蘭、 E120D、 E薦、 N135D, M蘭、 M139K、 M139T、 M139L I 143F、 I 143Tの変異型、 183および M84欠失型、 もしくは第 5ェキソン欠失型、 または PS2の N141Iまたは M239V変異型をコード するアルツハイマー病の原因となる遺伝子変異をノックインした ES 細胞を用い ることにより、 アルツハイマー病のモデル動物が得られる。 動物種は、 哺乳動物 であれば、 任意の動物種でよいが、 好ましくは、 嚙歯動物、 特にラッ卜、 モルモ ッ ト、 マウス等であり、 最も好ましくはマウスである。
実際に、 後述の実施例で示すように、 V642I変異を有する APP遺伝子をノック ィンした ES細胞から個体発生させることにより得られたマウスは、潜在学習能力 の低下が認められ(特に、 27 ヶ月齢以降でこの低下傾向が顕著になり得る〉、 29 ヶ月齢の脳組織中の Aj3 42 (43)の Aj840に対する量比が、 有意に増加しており、
アルツハイマー病の形質を示す。 本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願 2003- 51922号、および米 国仮出願 60/482, 021号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。 図面の簡単な説明
図 1 A- 1は、家族性アルツハイマー病の原因となる APPの遺伝子変異を列挙し たものである。
図 1 A - 2は、家族性アルツハイマー病の原因となる APPの遗伝子変異を列挙し たものである (図 1 A- 1の続き)。
図 1 B - 1は、家族性アルツハイマー病の原因となるプレセニリン 1の遺伝子変 異を列挙したものである。
図 1 B - 2は、家族性アルツハイマー病の原因となるプレセ二リン 1の遺伝子変 異を列挙したものである (図 I B - 1の続き)。
図 1 B - 3は、家族性アルツハイマー病の原因となるプレセニリン 1の遺伝子変 異を列挙したものである (図 1 B - 2の続き)。
図 1 B - 4は、家族性アルツハイマー病の原因となるプレセ二リン 1の遺伝子変 異を列挙したものである (図 I B - 3の続き)。
図 1 B - 5は、家族性アルツハイマー病の原因となるプレセニリン 1の遺伝子変 異を列挙したものである (図 1 B - 4の続き)。
図 1 B - 6は、家族性アルツハイマー病の原因となるプレセニリン 1の遺伝子変 異を列挙したものである (図 1 B - 5の続き)。
図 1 Cは、 家族性アルツハイマー病の原因となるプレセニリン 2の遺伝子変異 を列挙したものである。
図 2は、 APP遺伝子内に FAD関連突然変異である V642I突然変異を有するマウ ス変異体 ES細胞クローンの確立の略図を示している。図 2 Aは、マウス APP遺伝 子の 2ステップでの改変を簡略に示したものである。 相同組換えによって、 ター ゲティングベクターにより V642I突然変異がェキソン 17に導入され、 2つの lox
P配列によって挟まれた TK-Neoカセット(Π oxP-TK-Neo)がその下流のイントロン に導入される( 「中間」 突然変異体)。 Cre リコンビナーゼを一過性発現させるこ とにより、 イントロン Π内の薬剤選択カセットが切断され、 1つの ΙοχΡ配列だ
けが残存する変異体 (「最終」 突然変異体) が得られる。 サザン解析のプローブお よび相同組換えの同定法も併せて示す。 制限酵素部位の表記は、 Bが BamH I切断 部位、 Hが Hind I I I切断部位、 および Xが Xho 切断部位である。 図 2 Bは、 異種 プローブにより 「中間」 突然変異体を同定するためのサザン解析の結果を示して いる。 「中間 _! 突然変異体クローン (Mut (I) ;明細書中 「R34」 とも記す) からゲ ノム DNAサンプルを調製し、 該サンプルを BamH Iと Hind I I Iで切断し、 各プロ ーブにハイブリダィズさせた。 フラグメントのサイズ (kb) は予想通りのもので あった。 図中 WTは、 野生型のコントロールを示している。 図 2 Cは、 「最終」 突 然変異体の同定を示している。 予定通りの Creによる組換え後には、 ΙοχΡ (灰色 の△で示す) と隣接する制限酵素切断部位からなる 97 bpの外来配列が残る。 し たがって、 PCR反応により、 「最終」 突然変異クローン (Mut (F) ;本明細書中 R34 C (30) - 9とも記す)が同定された。右図中のサイズマーカ一は 100 b ラダーマー カーである。
図 3は、 最終分化ニューロンへの ES細胞の分化を示す。 図 3 Aは、 ES細胞の 最終分化ニューロンへの分化のプロトコルを模式的に示している。 詳細について は、 実施例の方法の檷に記載している。 図 3 Bは、 野生型 E S細胞からニューロ ンへの分化に伴う、 マ一カー発現の経時的変化を示す。 図の上部の小さい数字は ポリ 0/L-コートディッシュ上での培養日数を示す。 右端のレーンの 「B」 は成熟 マウスの脳を表す (以下全ての図において同じ)。 図 3 Cは、 野生型 ES細胞また はノックイン ES 細胞からの分化 2 3日目のニューロンにおける神経細胞マーカ —のノーザンプロット解析である。 「W」 は野生型 E S細胞、 「K」 はノックイン E S細胞,「Ν」はマウス大脳皮質ニューロンを表す(以下全ての図において同じ)。 図 3 Dは、 野生型 ES細胞またはノックイン ES細胞からの分化 2 3日目のニュー ロンにおける神経伝達物質の形質型である。 最右のレーンの 「S」 は脊髄を表す
(以下全ての図において同じ)。 図 3 Eは、 ポリ 0/L-コートディッシュに移した 後野生型 ES細胞 (WT) またはノックイン ES細胞(KI)から分化したニューロンに おける BASE1の発現を示す。 シナプシン Iおよびシナプトフイシンは、 それぞれ SynJ および rsypj と表す。
図 4は、 ES細胞から分化した細胞の形態およびマーカ一の発現についての解析 結果を示す。 図 4 Aおよび Bは 7日目のフイブロネクチンコートディッシュ上に
接着した野生型 ES細胞を染色した結果である。 Aは、抗ネスチン抗体(緑)で染色 したもの、 Bは、抗 MAP2抗体(緑)と抗 NF- M抗体(赤)で二重染色したものである。 図 4 Cおよび Dは、 9日目のフィプロネクチンコートディッシュ上で培養中の野 生型 ES細胞を染色した結果である。 Cは、 抗ネスチン抗体(緑)で染色したもの、
Dは、 抗 MAP2抗体(緑)と抗 NF- M抗体(赤)で二重染色したものである。 図 4 E〜
Hは、 1 1 日目(ポリ 0/Lディッシュ培養 2日目)の野生型 ESから分化した細胞を 抗体染色したものである。 図 4 Fは、 抗ネスチン抗体 (緑) と抗 E- NCAM (赤)で染 色したもの, Gは抗 MAP2抗体 (緑) と抗 E- NCAM抗体(赤)で染色したもの、 また は Hは抗 MAP2抗体(緑)と抗 NF-M抗体で染色したものであり、 Eは Fの位相差像 である。 代表的な視野を示している。 図 4 I〜Lは、 1 1 日目(ポリ 0/Lディッシ ュ培養 2日目)のノックイン ESから分化した細胞を抗体染色したものである。 図
4 Jは、 抗ネスチン抗体 (緑) と抗 E- NCAM (赤)で染色したもの、 Kは抗 MAP2抗 体 (緑) と抗 E- NCAM抗体(赤)で染色したもの、 または Lは抗 MAP2抗体(緑)と抗
NF - M抗体で染色したものであり、 Iは Jの位相差像である。 代表的な視野を示し ている。 図 4 M〜Pは、 13 日目(ポリ 0/Lディッシュ培養 4日目)の野生型 ESか ら分化した細胞を抗体染色したものである。 図 4 Nは、 抗ネスチン抗体 (緑) と 抗 E- NCAM (赤)で染色したもの、 Oは抗 MAP2抗体 (緑) と抗 E- NCAM抗体(赤)で染 色したもの、 または Pは抗 MAP2抗体(緑)と抗 NF- M抗体で染色したものであり、
Mは Nの位相差像である。代表的な視野を示している。図 4 Q〜Tは、 13日目(ポ リ 0/Lディッシュ培養 4日目)のノックイン ESから分化した細胞を抗体染色した ものである。 図 4 Rは、 抗ネスチン抗体 (緑) と抗 E - NCAM (赤)で染色したもの、
Sは抗 MAP2抗体 (緑) と抗 E- NCAM抗体(赤)で染色したもの、 または Tは抗 MAP2 抗体(緑)と抗 NF-M抗体で染色したものであり、 Qは Rの位相差像である。代表的 な視野を示している。 図中のバ一は Aおよび Bでは 200 u rn, Cおよび Dでは 1
00 u rn, および E〜Tでは 25 /x mである。
図 5は、 ポリ 0/L -コートディッシュで 3週間培養した ES細胞における形態お よびマーカー発現の解析である。 図 5 Aおよび Bは, ポリ 0/L-コートディッシュ で 3週間培養した野生型 ES細胞から分化した細胞を抗 MAP2抗体(緑)および抗 NF
- M抗体 (赤) で染色したものである。 図 5 Cおよび Dは、 ポリ 0/L-コートデイツ シュで 3週間培養したノックイン ES細胞から分化した細胞を抗 MAP2抗体(緑)お
よび抗 NF- M抗体 (赤) で染色したものである。 図 5 Eおよび Fは、 ポリ 0/L-コ 一トディッシュで 3週間培養した野生型 ES細胞から分化した細胞を抗ネスチン抗 体(緑)および Cy3標識抗 GFAP抗体 (赤) で染色したものである。 B、 Dおよび F は、 それぞれ A、 Cおよび Eの位相差画像である。 図中のバーは、 100 であ る。
図 6は、 APP ァイソフォームの発現解析の結果を示す。 図 6 Aは、 APP、 APLP および APLP2についてのノーザンブロッ卜解析の結果である。 図の上の小さな数 字は、 ポリ 0/L-コートディッシュ上で培養した日数を表す。 図 6 Bは、 分化 23 日目の野生型またはノックイン ES細胞から分化したニューロンにおける APP、 AP LPおよび APLP2についてのノーザンプロット解析の結果である。 図 6 Cは、 分化 開始から 4、 9および 23日目の野生型またはノックイン ES細胞から分化した細胞 におけるェキソン 15のスプライシングについての RT-PCRの結果である。 図 6 D は、 野生型 ES細胞から分化した細胞における ΑΡΡ77ί、 ΑΡΡ751および ΑΡΡ∞の発現を
RT-PCRにより解析した結果である。 PCR産物を APPの 273 bpフラグメントを用い てサザンプロット解析に供した。 図 6 Eは、 分化開始から 4、 9および 23日目の 野生型またはノックイン ES細胞から分化した細胞における APP fl、 ΑΡΡΪ5,および A
PPffiの発現を RT- PCRにより解析した結果である。 PCR産物を APPの 273 bpフラ グメントを用いてサザンブロット解析に供した。
図 7は、 tau アイソフオームの発現を調べた結果である。 図 7 Aは、 分化開始 から 23日目の野生型またはノックイン ES細胞から分化したニューロンにおいて ェキソン 6および 8におけるスプライシングについてプライマーセット 1を用い て RT- PCRにより解析した結果である。 図 7 Bは、 分化開始から 23日目の野生型 またはノックイン ES細胞から分化したニューロンにおいてェキソン 4a、 6および 8におけるスプライシングについてプライマーセッ卜 2を用いて RT- PCRにより解 析した結果である。 図 7 Cは、 ポリ 0/Lディッシュ上での培養 1週〜 5週目まで の間の野生型またはノックイン ES 細胞から分化したニューロンにおいてェキソ ン 2および 3におけるスプライシングについて RT-PCRにより解析した結果である。 -/-、 2/ -および 2/3は、 それぞれ、 ェキソン 2および 3両方欠失、 ェキソン 2の み含有、 ェキソン 2および 3両方含有を示す。 PCR産物を、 tauの 301 bpフラグ
メントによるサザンプロット解析に供した。 図 7Dは、 ポリ 0/Lディッシュ上で の培養 1週〜 5週目までの間の野生型 (WT)またはノックイン(KI)ES細胞から分化 したニューロンにおいてェキソン 10におけるスプライシングについて RT-PCRに より解析した結果である。 +10および- 10は、 それぞれ、 ェキソン 10含有および ェキソン 10欠失を示す。 PCR産物を、 tauの 164 b フラグメントによるサザンプ ロット解析に供した。
図 8は、 ノックイン ES細胞の最終分化ニューロンへの分化を示す。図 8 Aおよ び Bは、 ES細胞から分化したニューロンの培養培地中の A3の分泌を示す。 野生 型 ES細胞およびノックイン ES細胞を同様に方法の欄に記載した通りに分化誘導 し、ポリ 0/L-コートディッシュ上での培養開始から 7〜28日の間 3日ごとに培養 培地を回収した。野生型 ES細胞(きおよび▲)またはノックイン ES細胞(〇および △)から分化したニューロンから分泌される Α/340 (·、 〇)および Aj842の(▲、 Δ)の濃度を two- site ELISAで測定した(A)。同じ実験を独立して 7回実施したう ち、 1回は値が非常にばらつきが大きくかつ再現性が得られなかったので除外し、 残りの 6回分の結果の平均値土 S. E.で示している。図 8 Bは、野生型 ES細胞(暴) またはノックイン ES細胞(〇)から分化したニューロンから分泌される全 A)3に対 する ^42の割合^ 42/ /340+八 342)を八]3の量から算出してグラフに表したも のである。 *は、 野生型 ES細胞から分化したニューロンとノックイン ES細胞か ら分化したニューロンとの間に有意差があることを示す。
図 8 C〜Kは、 AT8(( 〜 G)または AP422(H)で染色したものである。 ポリ 0/L -コ一トディッシュ上で 3週間(C、 D)または 6週間(F〜K)培養した野生型 ES 細胞(C、 Fおよび I)もしくはノックイン ES細胞(D、 G、 H、 Jおよび K)から 分化した細胞、 または大脳皮質神経細胞の 7日間初代培養したもの(Ε)を AT8(C 〜G)または AP422(H)で染色した。 I、 Jおよび Kはそれぞれ、 F、 Gおよび H の位相差像である。 図中のバーは 100 mである。
図 9は、 29 ヶ月齢のマウス脳組織のホモジェネートにおける two- site EL ISA による A]3の定量結果である。 A〜Cは、 それぞれ A ]340量、 AjS 42 (43)量、 および
A ;340に対する A i942 (43)の量比 (A β 42 (43) ( M) / Α β 40 ( M) )を示している ρ<
0.05)それぞれ、 3回の独立した実験の結果を、 平均値土 SDで表示している。 白い バーは、 野生型マウスであり、 黒いバーは変異型マウスである。 野生型について
はォス 9匹、 メス 12匹、 変異型についてはォス 10匹、 メス 10匹からなる群につ いて試験した。
図 1 0は、 Yメイズ試験の結果を示す。 26〜27ヶ月齢のマウスを用いて、 3分 間ずつの試験とした。 アームに侵入した回数 (総数) (A) および自発的交替行動 率 (%) (B)を、 平均値土 SDで表示している。 白いバーは、 野生型マウスであり、 黒いバーは変異型マウスである。 野生型についてはォス ·メス共各 1 9匹、 変異 型についてはォス 29匹、 メス 18匹からなる群について試験した。
図 1 1は、 水発見タスク試験の結果を示す。 試験セッションにおける., 探索行 動を開始するまでの時間(A)、 アルコープに入るまでの時間(B)、 水を見つけるま での時間(0、 水を飲み始めるまでの時間(D)を示している(Pく 0. 05)。 水を飲むま での間に格子線をまたいだ回数を、 水を飲むまでに要した時間で割った値を移動 速度として Eに示す。 トレーニングセッションと試験セッションとの間での体重 の減少を Fに示す。 白いバ一は、 野生型マウスであり、 黒いバーは変異型マウス である。 野生型についてはォス 17匹、 メス 23匹、 変異型についてはォス 25匹、 メス 15匹からなる群について試験した。
図 1 2は、 29ヶ月齢のォスの V642I- APP- KI変異型マウス(A、 C, E、 G、 Iおよ び K)、 21ヶ月齢のメス Tg2576 (B、 D、 Fおよび H)および 11ヶ月齢のォス JNPL3ひ と L)の脳幹の皮質および海馬の構成の矢状切片について組織学的試験の結果を 示す。 Niss l染色(Aと B)、 Tliion avin-T (Cと D)、 BSB (Eと F)および抗 A i3 42ポ リクローナル抗体 (Gと I)による染色では、 Tg2576におけるプラークが検出され ているが、 V642I- APP - KI変異型ではプラークは検出されなかった (B, D, F, Gにおけ る挿入図は、 矢印部分のプラークの拡大図である)。 PHF -タウ特異的抗血清 pSer4 22による染色 (1と J)およびモノクローナル抗体 AT8による染色(Kと L)では、 J NPL3においては神経が染色されたが、 V642I- APP- KI変異型マウスの切片で染色は 認、められなかった。
発明を実施するための最良の形態
実施例 1 : V642I変異ノックイン ES細胞の作製と中枢神経への分化誘導 方法
マウスゲノムの APP遺伝子の 1 7番目のェキソン部分の DNAのクローニング
C57BL/6マウスのゲノム丽 Aから、 第 1 6イントロンとそれに隣接するェキソ ンを増幅するよう設計した、 5'- GATTCAGGATTTGMGTCCGC- 3' (配列番号 1 ) の配列 のオリゴヌクレオチドと 5'_ATGATGGATGGATGTGTACTG- 3' (配列番号 2 ) の配列の オリゴヌクレオチドとをプライマーとして用いて PCRを実施し.. 3kbの APP遗伝 子プローブを得た。
TT2 ES細胞のマウスゲノム DMライプラリー(Lifetech Oriental, 東京、日本) を、 上記プローブを用いてスクリーニングして、 第 1 6ェキソン、 第 1 7ェキソ ンおよび第 1 8ェキソンを含む約 14 kbのインサートを有するクローンを単離し た。 制限酵素地図の作製および塩基配列決定により解析して、 4.4- kb Sal I-Hin d IIIフラグメント (SHIフラグメント〉と 3.6-kb Hind ΙΙΙ-Xho Iフラグメント(H XIフラグメント)とをそれぞれ 5' および 3' 相同領域として選び、 以下の通りべ クタ一を構築した。
V642I変異ノックインベクターの構築
SH1フラグメント中の 371b からなる Smal-Smalフラグメント (SM1フラグメン 卜)は、マウス APP第 17ェキソンの全長を含んでおり、該ェキソンには 642位(こ の場合、 APPM5を基準として数える)のバリンをコ一ドするコドンが含まれている。 このフラグメントを PCR法により、 642位の Val (GTC)のイソロイシン(^TC)への変 異を導入した。変異を導入した SM1フラグメント(mSMlと呼ぶ)は配配列決定後、 元の SH1フラグメントの SM1領域で置換して SH2フラグメントを作製する。 SH2 フラグメントを floxP- TK- Neoと連結させて HX1フラグメントとする。そして、構 築された 11.6kbのフラグメントを pBluescript- SK(+) (Stratagene, La Jolla,
CA)に挿入し、 V642I - APP変異ノックインベクターとする。
相同組換え ESクローンの確立
TT2 ES 細胞を ES培地 (Knockout -DMEM (GIBCO-BRL, Rockville, MD)、 15% K nockout Serum Replacement (KSR; GIBCO-B L) , 100 非必須アミノ酸混合物
(GIBCO-BRL) , 100 βΜ /3-メルカプトエタノール(Sigma, St. Louis, M0), 30 M ヌクレオシド混液 (A/G/C/T/U: Sigma), 1000 U/ml LIF (CHEMIC0N, Temecu la, CA), 2 mM L -グルタミン, 50 U/ml ペニシリンおよび 50 g/ml ストレプ トマイシン) 中で培養し、 維持した。 マイトマイシン Cで有糸分裂不活化したマ ウス初代培養細胞 (Lifetecli Oriental) をフィーダ一層として用いた。 V642I - A
PP -ノックインベクター DNA (22 g)をエレクト口ポレーシヨンにより ES細胞に 導入し、 該細胞をネオマイシン耐性マウス初代培養線維芽細胞(Lifetecli Orient al)のフィーダ一層上に、 100- nun培養ディッシュ 1枚あたり 2 x 106個の細胞と なるように播種し、 250 g/mlの G418 (GIBCO- BRL)を用いて選択した。 組換え E Sクローンのゲノム匪を Renaissance Random Primer Fluorescein Label ing K i t (NEN Life Science Products, Bos ton, MA)を用いてサザン解析に供した。 プ ライマー 5' _GCTTACCTGTTAAAGGGCT - 3' (配列番号 3 ) と 5' - GCACATTAAATTCATGG CACCC-3' (配列番号 4 ) とを用いて V642位を含む領域を PCRにて増幅し、 プライ マー 5' -AGGTGTTCTTTGCTGAAGATGTGG-3' (配列番号 5 )により塩基配列決定を行い、 該ゲノム内に上記 V642Iの点突然変異が導入されていることを確認した。
Creリコンビナーゼの一過性発現による f loxP_TK- Neoの切断
相同組換え ESクローンに、 Creリコンピナ一ゼ (13) の発現用プラスミド pIC -Cre (30 n g)をエレクトロポレーシヨンにより一過性トランスフエクシヨンし、 6
0-皿ディッシュ 1枚あたり 1 X 10^細胞の密度で播種し、 G418不含培地で培養し た。 ゲノム DNAサンプルをプライマ一 ·· 5' -TCTAGAACCCAAAGAACGCCGAGTCC- 3' (配 列番号 6 ) と 5' -CCAATGAATGTGAGATCTCTGGCTTTC-3' (配列番号 7 ) とを用いた PC Rスクリーニングに供した。 266- bp長の産物 (野生型対立遺伝子由来) と共に 36 3 - bp長の産物(変異体対立遺伝子由来)も検出されたことから、 Cre_loxP系による 組換えが成功していることが示された。 ΠοχΡ が切断されたと推定されるクロー ンを、 さらに PCR、 配列決定およびサザン解析に供して、 その組換えが正確に起 こっていることを確かめた。 f loxP- TK- Neoをそのまま含有する細胞の混入の可能 性を完全に消去するために、構築したクローンをガンシクロピル(2 M)を含む E S 培地にてリクローニングした。 そこで得られたクローンはすべて、 いずれの遺 伝子解析手法によっても期待どおりの結果を示した。 V642I 変異は、 この段階で 調べた全てのクローンで維持されていた。 これらの最終的な組換え変異体の中か ら、 クローン R34C (30) -9Gを本発明に用いた。
ES細胞の分化
すでに報告されている方法(14, 15)の変法により、 ES細胞をニューロンに分化 させた。 その概略については図 3 Aに示している。
まず、 ES細胞をゼラチンコートディッシュに 1ディッシュあたり 2 X 106細胞 の密度で播種し、 ES培地で 2〜3日培養して増殖させた。 細胞をその後、 トリプ シンを用いてディッシュから剥がして、細菌用のディッシュに播種して 10%ゥシ 胎児血清、 10%新生ゥシ血清、 ヌクレオシド混液、 ぺニシリンおよびストレブト マイシンを含む DMEM中で胚様体(EB)を形成させるために 5日間浮遊培養した。 E B形成期の最後の 24時間を、 5 レチノイン酸(RA; Sigma)を添加した後、 EB を 60— mmのフイブロネクチンコートディッシュ(Becton— Dickinson, Franklin La kes, NJ)に播種して、 ITS 培地 (ITS- Gサプリメント(Lifetech Oriental), 50 U/ml ペニシリン、 50 gM ストレプトマイシンを添加した DMEM/F12 (1:1)培 地) で培養した。 2日後に、 トリプシンで細胞をディッシュから剥がし、 bFGF(10 ng/ml, R & D Systems)を含む ITS培地の入った 60- mmのフイブロネクチンコー トディッシュに再度播種した。 2日後、 細胞を再度剥がして、 ポリ- L-オル二チン /ラミニン(ポリ 0/L)-コート 6ゥエルプレート(Becton- Dickinson)に 1ゥエルあ たり 106細胞の密度で播種し、 bFGFを含む ITS培地で 2日間培養した。 続いて、 b FGFを含まない N2サプリメント(Lifetech Oriental)、 ベニシリンおよびストレ プトマイシン含有 DMEM/F12(1:1)培地に培地交換した。 シトシン -)3- D-ァラピノ フラノシド(AraC, 10 ig/ml, Sigma)を培地に添加して、 最終分化したニューロ ンが高効率で得られた。 2日間培養した後、 培地を B27サプリメント(Lifetech 0 riental) , L-グルタミン、 ペニシリンおよびストレプトマイシンを加えた Neurob asal培地(Lifetech Oriental)に交換した。 その後、 培地を 3 日毎に半量づっ交 換した。
プローブ:
マウス脳、 脊髄またはマウス胚性癌腫細胞 P19細胞の全 RNAから、 トリ骨髄芽 球症ウィルス(AMV)逆転写酵素(Life Sciences Inc. )を用いた逆転写反応の後 Ta d DNA ポリメラ一ゼ(Takara)を用いて、 各プローブをクローニングした。 用いた プライマーおよびクローニング産物のサイズを以下に示す。
0ct3 (463 bp) :
5' -GTGGAGGAAGCCGACAACAATG-3' (配列番号 8 )および
5' -GATATCAGTTTGAATGCATGGGAGAG-3' (配列番号 9 )
ネスチン (nes t in) (407 bp) :
5' -CTGGAACAGAGATTGGAAGGCCGCT-3' (配列番号 1 0 )および 5 ' -GGATCCTGTGTCTTCAGAAAGGCTGTCAC-3 ' (配列番号 1 1 )
MAP2 (微小管結合タンパク質, 455 bp) :
5' -GGAGAGGCAGAATTTCCACTCCTGA-3' (配列番号 1 2 )および
5' -TCCTGCTCTGCGAATTGGTTCTGAC-3' (配列番号 1 3 ) ニューロフィラメント- M (NF-M, 528 bp) :
5' -TTCGCCGGCTACATCGAGAAAGTG-3' (配列番号 1 4 )および
5' -CTGGTGCATGTTCTGGTCTGAGTG-3' (配列番号 1 5 ) グリア繊維酸性タンパク質 (GFAP, 592 bp) :
5' -CTCGAGATGATGGAGCTCAATGACCGCT-3' (配列番号 1 6 )および
5' -CAGCGTCTGTGAGGTCTGCAAACTT-3' (配列番号 1 7 )
MAG (ミエリン結合糖タンパク質, 401 bp) :
5' -TGAGAACCAGTATGGCCAGAGAGCC-3' (配列番号 1 8 )および
5' -CAATCAGGATGGCAAAGGCGACCAC-3' (配列番号 1 9 ) シナプ卜フィジン (529 bp) :
5' -ACATCTTCCTGCAGAACAAGTACCG-3' (配列番号 2 0 )および 5' -CCGTAGCCTTGCTGCCCATAGTCGC-3' (配列番号 2 1 ) シナプシン I (493 bp) :
5' -GGTGGATTCTCTGTGGACATGGAAG-3' (配列番号 2 2 )および 5' -AGTTCTGCCCAATCTTCTGGACACG-3' (配列番号 2 3 )
Rab3A (513 bp)
5' -ATGGCTTCCGCCACAGACTCTCGCT-3' (配列番号 2 4 )および 5' -ATTAATGTTGTCCTTGGCGCTGGCCT-3' (配列番号 2 5 ) β -部位 ΑΡΡ-切断酵素 1 (BACE1, 926 bp) :
5' -CACAAGGCCCGGGCTCACTATG-3' (配列番号 2 6 )および
5' -CAAATACTTTCTTGGGCAAGCGAAGGTTGG-3' (配列番号 2 7 ) tau (1033 bp) :
5' -CTTTGAACCAGTATGGCTGACCCT-3' (配列番号 2 8 )および 5' -TCACAAACCCTGCTTGGCCAAGGAAGC-3' (配列番号 2 9 ) コリンァセチルトランスフェラーゼ (ChAT, 493 bp) : 5' -AGCAGTTCAGGAAGAGCCAGGCCAT-3' (配列番号 3 0 )および 5' -AAATTAATGACAACATCCAAGAC-3' (配列番号 3 1 ) グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD) 1 (528 bp) : 5' -GCCCATGGATGCACCAGAAAACTGG-3' (配列番号 3 2 )および 5' -GGTATTGGCCGTTGATGTCAGCCAT-3 ' (配列番号 3 3 )
GAD 2 (578 bp) :
5' -TTGGGAATTGGCAGACCAACCGCAA-3' (配列番号 3 4 )および 5' -TGGTTCCAGCTGTGGCACTCACCAG-3' (配列番号 3 5 ) チロシンヒドロキシラーゼ (TH, 478 bp) :
5' -AGAGTCTCATCGAGGATGCCCGCAA-3' (配列番号 3 6 )および
5' -TGGTCAGAGAAGCCCGGATGGTCCA-3' (配列番号 3 7 ) トリプ卜ファンヒドロキシラーゼ(TPH, 566 bp) :
5' -GACCACCCTGGCTTCAAAGACAATG-3' (配列番号 3 8 )および
5' -CCACAGTGAAAAAGTAGCACGTTGCC-3' (配列番号 3 9 )
VGluT 1 (91 bp) :
5' -CGCCTACTTTGAAGAAGTGTTCGG-3' (配列番号 40)および
5' -TCACTTTCGTCACTGCCAGCCAGC-3' (配列番号 41)
VGluT 2 (720 bp) :
5' -GAGCCCTGCAAAGCATCCTACCAT-3' (配列番号 42)および
5' -GCCCAAGGTTGTTTCTCTCCTGAG-3' (配列番号 43)
PCR産物を精製して、 CRI I-TOPO TAクロ一ニングベクタ一(Invit rogen, Carl sbad, CA)にサプクローニングし、 自動配列解析装置 (ABI- PRISM310 Genetic Ana lyzer, Perkin-Elmer Applied Biosystems, Foster City, CA)にて配列を決定し た。 これらのプローブのテンプレートとして用いた他の cDNAは、 マウス APPM5 c
DNAの Xho I フラグメント(1.2 kb); マウス APLP1 (APP様タンパク質 1) cDNAの EcoR I- EcoR V フラグメント(1.3 kb); およびマウス APLP2 cDNAの Hind III フ ラグメント(1.3 kb)とした。 各プローブをランダムプライマー法により [«-¾>] dCTP (Afflers am Pharmacia Biotech)で標識した。
ノーザンブロット解析
細胞の全 RNAを IS0GEN(Nippon Gene)で抽出し、 その一部(10 g)をホルムァ ルデヒド /ァガ口一スゲル電気泳動にて分離し、 Hybond-N ナイロンメンブラン (A mersham Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden) ίこ転写して、各プローブと/ヽイブ リダィゼーシヨンさせた。
RT-PCR分析
ES 細胞に由来するニューロンの神経伝達物質についての形質を調べるために、 ChAT, GAD1, GAD2, TH, TPH, VGluTlおよび VGlu め発現を、各プローブのクロ 一二ングに用いたプライマーと同様のプライマー対を用いて、 rTth DNA ポリメラ ーゼ (RT-PCR high Plus, T0Y0B0)により 1ステップ RT- PCR法により検出した。全 RNA (1 xg)を 60 で 30分インキュベート後、 PCR (94°Cで 1分および 60°Cで 1. 5分: 40サイクル)および PCR (25 サイクル)を行った。 GAD2についての PCRは. 94°C 1分および 65°C 1.5分で 25サイクル実施し、 VGluTlと VGluT2についての
PCRは、 94°C 1分および 65°C 1. 5分で 40サイクル実施した。 PCR産物をァガロ ースゲル電気泳動により分離し、 Hybond-N+ナイロンメンブラン(Amersham P arm ac ia Biotech)に転写して、各マ一力一に対するプローブを用いてサザンハイブリ ダイゼーシヨンを行った。
ΑΡΡ Γ ΑΡΡ75|および ΑΡΡ の発現は、 以下のプライマー:共通のセンスプライマ
-5' -GAGGATGACTCTGATGTCTGGTG-3' (配列番号 4 4 )と、 APPfflアンチセンスプライ マー 5' - GTTTATCAGGAKTTGGGGAAGAGG- 3' (配列番号 4 5 )、 ΑΡΡΪ51アンチセンスプラ イマ一 5' -TGCTGGCTGCTGTCGTGGGAGACAC-3 ' (配列番号 4 6 )もしくは ΑΡΡ∞ アンチ センスプライマー 5' -TGCTGTCGTGGGAACTCGGACCAC-3' (配列番号 4 7 );とを用いて、 または G3PDHセンスプライマー 5' - TCCACCACCCTGTTGCTGTA - 3' (配列番号 4 8 )と G3 PDH アンチセンスプライマー 5' - ACCACAGTCCATGCCATCAC- 3' (配列番号 4 9 )とを用 いて、 上述の 1ステップ RT- PCR法にて調べた。 PCRは、 94°C 1分、 60°C (ΑΡΡ ί、
ΑΡ および G3PDHの場合)または 65°C (APP∞の場合)で 1. 5分の条件で 25サイ クル行った。 上記共通プライマ一と APP∞アンチセンスプライマー PCR産物(273 bp)を用いてマウス ΑΡΡδ35 cDNAから増幅させた PCR産物を上述のように pCRI I TO
P0ベクターにサブクローニングしてサザンハイブリダイゼーションを行った。ェ キソン 15を欠損したスプライシング変異体 (L-APP)が存在するか否
かを調べるために、プライマー: 5' -CCGTGGAGCTCCTTCCCGTGAATG-3' (配列番号 5 0 ) と 5' - CATATCCGTTCTGCTGCATCTTGG- 3' (配列番号 5 1 )とを用いて上述の 1ステップ RT - PCR法も実施した。 PCRは、 94でで 1分および 60°Cで 1. 5分の条件で 35サイ クル実施した。
上述の ES細胞由来のニューロンでは中枢神経系(CNS)型か末梢神経系(PNS)型 かいずれの型のタウタンパク質(tail)が発現されているかを調べるために、ェキソ ン 4から 9に渡る領域を増幅させるためのセンスプライマ一 5 ' -GAAGAAGCAGGCATC GGAGACACC-3' (配列番号 5 2 )と、 ェキソン 5から 9に渡る領域を増幅させるため のセンスプライマ一 5' - GCCAGCAAAGACAGGACAGGMATG- 3' (配列番号 5 3 )、および共 通のアンチセンス 5' -TGTAGCCGCTTCGTTCTCCGGATT-3' (配列番号 5 4 )を用いて 1ス テツプ RT- PCR法を行った。 PCR は 94°Cで 1分、 60°Cで 1. 5分の条件で 40サイク
ル実施した。
ェキソン 2と 3とを含む tailのオル夕ナティブスプライシングを以下のプライ マーおよび条件:ェキソン 2と 3の両方を欠損したスプライシング変異体に対す るセンスプライマ一 5' - GACCATGGCTTAAAAGTGGAAG- 3' (配列番号 5 5 ) (94°C 1 分、 60°C 1. 5分を 20サイクル)、ェキソン 3を欠損しスプライシング変異体に対する センスプライマー 5' _ACTCCAACTGCTGAACTCGAAGAA- 3' (配列番号 5 6 ) (94で 1 分、 65°C 1. 5分を 25サイクル)、ェキソン 2と 3の両方を含むスプライシング変異体 に対するセンスプライマ一 5' - ACTCCAACTGCTGATCACGTGACT- 3' (配列番号 5 7 ) (9 4°C 1分、 60°C 1. 5分を 20サイクル)、 および共通なアンチセンスプライマ一 5' -TGTAGCCGCTTCGTTCTCCGGATT-3' (配列番号 5 8 )にて 1ステツプ RT- PCR法により調 ベた。
ェキソン 2および 3の両方を欠損するスプライシング変異体に対するセンスプ ライマーと共通のアンチセンスプライマーとを用いてマウス初代培養大脳皮質二 ユーロンから増幅させた PCR産物(301 bp)を pCRI I T0P0にサブクローニングして、 サザンハイブリダイゼーションに用いた。ェキソン 10を含む t auのオル夕ナティ ブスプライシングは、 プライマー 5' - GTGCCCATGCCAGACCTAAAGAAT- 3' (配列番号 5 9 )と 5' -CCTGGCTTGTGATGGATGTTCCCT-3' (配列番号 6 0 )を用いて 1ステップ RT - P CRにより調べた。 PCRは、 94°C 1分、 65°C 1. 5分の条件で 25サイクルにて実施 した。 これらのプライマーによりマウス初代培養大脳皮質ニュ一ロンから増幅さ れた PCR産物(164 bp)は、ェキソン 10を欠損するフラグメントであり pCRI I TOP 0にサブクローニングして、 サザンハイブリダィゼーシヨンに供した。
大脳皮質ニューロンの初代培養系
初代培養大脳皮質ニューロンは、 胎生 14日目(E14)のマウス胚の脳から既に報 告されている方法にて(16- 18)調製した。 in vi t ro培養 7 日目に、 全 RNAを抽出 し、 ノ一ザン解析および RT- PCR、 または 4%パラフオルムアルデヒド/ PBSで固定 化して免疫染色に供した。
抗体
モノクローナル抗ネスチン抗体(クローン Rat401)およびモノクローナル抗 E-
NCAM (クローン 5A5)抗体は、 Deve lopmental Stud ies Hybr idoma Bank (DSHB)より 入手した。 モノクローナル抗 MAP2 (クローン HM-2)および Cy3-標識化モノクロ一
ナル抗 -GFAP (クローン G- A_5)は Sigmaより購入した。 NF- M (145 kDa)の C末端に 対するゥサギポリクロ一ナル抗 NF- M抗体, ゥサギ抗ガラクトセレブロシド抗体 およびモノクローナル抗 04抗体は CHEMIC0Nから購入した。 モノクローナル抗リ ン酸化 tail抗体 (クローン AT8)およびポリクロ一ナル抗リン酸化 tau抗体 AP422 はそれぞれ .. IimogeneUcs (Gent, Be lgium)およぴ和光純薬(大阪、 日本)から入 手した。 FITC-標識化ャギ抗マウス IgG抗体および Cy3標識化ャギ抗マウス IgM fci体は、 Jackson Imm漏 research Laboratories (Wes t Grove, PA)から入手した。 ローダミン標識化ブ夕抗ゥサギ IgGは MKO (Glos t rup, Denmark)から購入した。 蛍光抗体法
細胞を 4%パラフオルムアルデヒド/ PBS で固定化し、 0. 1% Tri ton X-100/PBS で細胞膜を透過性にして 0. 1% BSA/PBSでブロッキングした。これらの細胞をそれ ぞれの 1次抗体と室温にて 1時間インキュベートし、 その後、 適切な 2次抗体と 室温にて 1時間ィンキュベートした。細胞を LSM510レーザー走査共焦点顕微鏡(C arl Ze i ss, Oberkoc en, Germany)で観察した。核をへキスト 33258 (S igma)で染 色して細胞数を計測した。
Two-s i te EUSA法による A /3の定量
B27を添加した Neurobasal培地の入ったポリ 0/Lコートディッシュ上に播種後 7〜28日目の間に 3日毎に培地を回収した。 40または 42/43番目の残基で切断さ れた分泌型 Α ι8分子の量を既に報告されている方法(19, 20)に従い Two- s i te ELI SA法(BNT77/BA27または BC05)で定量した。
統計学的分析
本明細書中に記載の全ての実験は、 少なくとも 3回の独立した処理を行い、 そ れぞれの実験について、 実質的に同一の結果を得た。 統計学的分析は、 一元分散 分析(one-way AN0VA)と post-hoc試験にて実施した。 pく 0. 05を有意差ありと評価 した。
結果
V642I - APP-ノックイン - ES ce l l sの樹立
FAD 患者に見られる遺伝子突然変異による影響を呈示するニューロンを作製す るために、一般的遺伝子ターゲティング法と Cre- ΙοχΡ組換えシステムを組合わせ た。 APPの ValM2をコードするコドンのイソロイシンをコードするコドンへの点突
然変異は、 FADで最初に同定された遺伝子変異である(3)。 TT2マウス ES細胞への APP 遺伝子の点突然変異の導入には、 遺伝子ターゲティングベクターを図 2 Aに 記載のスキームで突然変異導入することにより構築した。 このベクターは、 以下 の 3つのエレメント: (i) ValM2 (^TC)がイソロイシン(ATC)に置換される変異を有 するェキソン 17を含む 4. 4-kbの 5'相同エレメント、 (i i)単純へルぺスウィルス チミジンキナーゼ(TK)およびネオマイシンホスホトランスフェラーゼ (Neo) をそ れぞれネガティブセレクションおよびポジティブセレクション用の薬剤選択マ一 カーとして含有し、 これらがいずれも 2つの ΙοχΡ配列に挟まれている 3. 6-kb f l oxP_TK- Neoカセット、ならびに(i i i) 3. 6-k の相同エレメントからなる。 この夕 ーゲティングベクタ一におけるェキソン 1 7の中の Val642コドンと上流の Ι οχΡ部 位との間の距離は、 l. Okb 以下である。 サザン解析スクリーニング(図 2 B )の結 果より、 144株の該突然変異ノックインベクターが組込まれた G418耐性クローン より R34、 37, R58および R60という 4つの相同組換えクローンが特定された。 これらのクローンの配列を解析したところ、意図したとおりにィントロン 17内に V642Iの突然変異が ΠοχΡ- TK- Neoカセットと共に組込まれているのはクローン R
34 だけであることが判明した。 他の 3つのクローンには、 Val642のコドンがその まま存在していた。 これは、 ValM2の点突然変異部位と 1つめの ΙοχΡ配列との間 の 1. 0 kbの相同領域で 5 ' 側の組換えが起こり、 夕一ゲティングベクター内の V alM2コドンの 5 ' 上流領域では組換えが起こらなかったからではないかと考えら れる。 クローン R34を、 PCRおよび配列解析によりさらに解析し、 ェキソン 17の 遺伝子が意図したとおりであることを確認した(データは示していない)。
イントロン Πに長いィントロン配列が挿入されたことで、組換え対立遺伝子か らの APPの発現が変化する可能性があるため、 Cre リコンピナ一ゼの一過性発現 によりイントロン 17内に存在する 2つの ΙοχΡ配列により挟まれている薬剤選択 カセッ卜を切除した。 Cre発現プラスミド pic- Cre (13)をエレクトロポレーシヨン により R34細胞に導入し、 薬剤選択を用いることなく全部で 128クローンを単離 した。 これらのうちの 3 クローンが、 f l oxPにより切除された対立遗伝子の PCR 増幅パターンを示し(図 2 C )、 これらのクローンについては、 更に PCR、 配列解 析およびサザン解析を行い、 意図した通りに切除が起こっていることを確認した
(データは示していない)。元の(切除していない) ES細胞の混入の可能性を消去す るために、ガンシク口ビル(2 μ Μ)を含む ES培地中でクローン R34C (30) 9をリク ローニングした。 PCR および塩基配列解析により調べたところ、 得られたクロー ンは全て f l oxP-TK- eo配列を含んでいなかった (データは示していない)。クロー ン R34C (30) -9Gを更なる解析に用いた。
最終分化ニューロンへの ES細胞の分化
図 3および上記の方法の欄に記載の要領で ES 細胞をニューロンへと分化させ るプロ トコルを実施した。 分化過程を促進させるために、 EBを EB形成期の 5 日 間の最後の 24時間は 5 μ Mの RAで刺激した。 RAで刺激した ΕΒを、 フイブロネ クチンコート細胞培養ディッシュの表面に接着させ、血清不含培地で培養すると、 未分化 ES細胞のマーカーである 0ct3 mRNAの発現は確実に減少した力 S、神経幹細 胞のマーカーであるネスチンの発現は、 最初は陰性であつたが、 7 日目から明ら かに検出されるようになった(図 3 B )。 EBからネスチン陽性細胞へと分化したこ とは、 免疫染色によっても検出された(図 4 A)。 中には、 すでにニューロンのマ 一力一である MAP2および NF - Mをこの時点ですでに発現している細胞も見られた (図 4 B )。フィプロネクチンコートディッシュ上で bFGF存在下でさらに 2 日間培 養すると、 ネスチン陽性細胞の率が向上した(図 4 C )。 この間に、 MAP2および N F - M が陽性である成熟ニューロンが増加した(図 4 D )。 この知見はこれらのマー カーを用いたノーザンプロットのデータと一致した(図 3 B )。 9 日目に、 これら の細胞をディッシュから剥がして、 ポリ 0/Lコートディッシュに播種し、 bFGFの 存在下で培養した。
ポリ 0/Lコートディッシュでの培養開始から 2 日目 (全工程の 11 日目) には、 野生型 ES細胞(wtES)および V642 I-APP-ノックイン ES細胞から分化した'細胞の約 70%のものが MAP2陽性となり、 約 30 %の細胞がネスチン陽性となった (表 1)。 さらに、 約 40%の細胞が、 PSA- NCAMまたは E- NCAM (ポリシアル酸付加神経細胞 接着分子) を発現していた (表 1 )。
マーカー 2曰目 4日目
野生型 V642I-APPノ 野生型 V642I-APPノ
ックイン ックイン
(%) (%) (%)
ネスチン E7.1 ± 11-3 3.4士 1.0 4.8 ± 0.3
E-NCAM 39.8 ± 10.0 91.2± 0.5 90.4 ± 1.7
MAP2 70.0 ± 2.4 67.1 ± 2.9 87.7 ± 0.4 88.6 ± 1.5 表 1は、 ES細胞からニューロンへの分化の確率を示す。 野生型 ES細胞および V 642I-APP ノックイン(V642- APPKD ES 細胞を方法の欄に記載したプロ トコルにし たがって分化させた。 細胞数をポリ 0/Lディッシュ上での培養の 2 日目おょぴ 4 日目に計数した。 神経前駆細胞(ネスチン陽性細胞)および最終分化ニューロン(E - NCAMおよび MAP2陽性細胞)の数の全細胞数 (へキス ト 33258陽性細胞) に対す る割合を算定した。 3回の独立した実験の結果の平均土 S. E.を示している。
E-NCAM陽性細胞は、ネスチンは発現していなかったが、 MAP2は発現しているこ とが免疫染色により検出された(図 4 Fおよび 4 G )。 V642I-APP -ノックイン ES 細胞に由来する細胞でも同様の結果が示された(図 4 Jおよび 4 K:)。 ネスチンの 発現は、 ポリ- 0/Lコートディッシュに播種後は減少し始め、 AraC処理によって、
MAP2の発現が増加し、 ネスチンの発現はなくなつた(図 3 B )。 細胞を免疫染色し て計数したところ、 1 3日目の野生型 ESおよび V642I - APP-ノックイン ES細胞の 両方に由来する細胞ともに約 90%が MAP2陽性かつ E- NCAM陽性であった(図 4 O および S、 表 1)。 また対照的に、 ネスチン陽性の細胞は 5%未満であり、 ネスチ ン陽性細胞は、 E - NCAM陽性細胞ではなかった(図 4 Nおよぴ尺、 表 1)。 これらの 結果より、 増殖性のネスチン陽性神経幹細胞は、 AraC処理によってほとんど排除 されることが示唆される。 NF-Mの発現が認められる細胞も MAP2陽性細胞の中に 存在したが、 MAP2陽性細胞全てが NF-M陽性というわけではなかった(図 4 H、 L、
Pおよび T )。 GFAP陽性細胞も 04/ガラク トセレブロシド陽性細胞も、 13 日目ま でに観察されなかった (データは示していない)。 MAP2 およびシナプスのマーカ 一である Rab3Aおよぴシナプトフイシンの発現は、 さらに 2週間培養している間 に、成熟マウスの脳と同程度まで増加しつづけ、そのレベルで維持された(図 3 B )。
—方、 タウの発現は、 AraC処理の後増加したが、 これは一過性であり、 ポリ 0/L
コートディッシュでの培養の 2週間後から劇的に減少した(図3 B )。 ポリ 0/Lコ ートディッシュ上で培養をはじめて 2週間後 (全過程の 23日目) には、 V642I- A PP-ノックイン ES細胞に由来する細胞でのシナプスのマーカーである Rab3A、 シ ナプトフイシンおょぴシナプシン I、 並びに MAP2およびタウの発現は、 野生型 E Sに由来する細胞内での発現と同様であった。 B27添加 Neurobasal培地でのボリ 0/Lコートディッシュ上で培養をはじめて 3週間後 (全過程の 30 日目) には、 野 生型 ESに由来する細胞では、比較的短い MAP2陽性突起と、長い NF-M陽性線維が 観察された(図 5 Aおよび B )。V642I - APP -ノックイン ES細胞に由来する細胞から も同様の結果が得られた(図 5 Cおよび D )。 この時点で、 ネスチン陽性細胞は依 然として観察され、 その中には GFAPを発現するものが観察された(図 5 E、 F )。 ネスチンはノーザンプロット解析では検出されなかったが、 GFAPの転写産物はポ リ 0/L コートディッシュに播種後弱いながら観察され、 3週間の培養で増加した (図 3 B )。 オリゴデンドログリアのマーカーである MAGの発現は、 この分化方法 の全過程で検出されなかった (図 3 B )。 同時に、 この方法においては 04および ガラク トセレブ口シドに陽性の細胞も誘導されなかった(データは示していない)。 BACE 1の発現は、 ポリ 0/L上での 3週間の培養の間は一定しており、 その後やや 減少した (図 3 E )。 これらの結果から、 ES細胞の V642Iの突然変異が ES細胞の 神経分化に影響を与えないという知見が得られた。
ES細胞由来ニューロンの伝達物質の形質
ES細胞から分化したニューロンの種類を特定するために、 RT-PCR法を用いて伝 達物質の形質を調べた。 ES細胞由来ニューロンで、 GAD1、 GAD2および VGluT2は、 ポリ 0/L-コートディッシュ上での培養 2週間後には検出された (図 3 D )。 この ことは、 GABA作動性おょぴグルタミン酸作動性ニューロンの存在を示唆するもの である。 反対に、 ChAT、 THまたは TPHはこのニューロンではほとんど発現されな かった (図 3 D )。 野生型 ES細胞由来の細胞と V642I-APP-ノックイン ES細胞由 来の細胞との間で明確な相違は認められなかった (図 3 D )。 VGluTl は、 成熟マ ゥスの脳全体および脊髄と同様、 大脳皮質二ユーロンの初代培養でも検出される が、 ES細胞由来のニューロンでは、 ポリ 0/L-コートディッシュ上での培養 4週間 の間には VGluTlの発現が観察されなかった(図 3 D、一部データを示していない)。 APPアイソフォームの発現
2296 次に、 APPおよび他の APPファミリーの発現について調べた。 図 6 Aに示すよ うに、 分化のどの時点の細胞の全 RNAからも約 3. 5kbの APPのバンドが一本検出 された。 このことは、 これらの細胞においては、 APRP563 ( 21) および APRP365 (22) など非ァミロイ ド形成性型の APPは発現されないことを示す。 APP遺伝子の総転 写量は、 分化過程において顕著に増大した。 この増加は、 APLP1 の発現の場合も 同様であり、 分化過程を通して APLP2の発現はわずかしか増加しなかった (図 6 A)。 APP ファミ リーのメンバー各々の発現レベルは、 野生型 ES細胞由来ニュー ロンと V642I-APP-ノックイン ES細胞由来ニューロンとの間での差異は認められ なかった (図 6 B )。
第 15ェキソンにおける 1つの APP遺伝子のスプライシング部位について調べた。 第 14〜第 18ェキソンの配列を挟むようにプライマーを設計し、 このプライマー を用いて RT - PCRを、 Konigらの方法 (23) に軽微な変更を加えて実施した。 第 1 5ェキソンを含む 465bpの cDNAとこれを含まない 411 b の cDNAが PCR産物とし て得られるはずである。 図 6 Cに示すように、 ES細胞に由来する細胞種おょぴ E S 細胞自体において、 遺伝子型は初代培養大脳皮質ニューロンや成人型ニューロ ンと同様であるにもかかわらず、 65bpの分子種のみが検出された。この結果は、 ニューロンではェキソン 15を欠損した分子種である L - APPは発現していない(2) という知見と一致する。
分化段階の細胞において APPのどのァイソフォームが発現されるかを特定する ために、 1ェキソン内の配列 (ェキソン 5を認識する共通センスプライマーおよ ぴェキソン 8 を認識する APP77()に対するアンチセンスプライマー) かェキソンの 連結部の配列 (ェキソン 7 とェキソン 9との連結部を認識する APP に対するァ ンチセンスプライマーとェキソン 6とェキソン 9 との'連結部を認識する APP695に 対するアンチセンスプライマー) のいずれかを認識する特異的プライマーを用い て RT-PCRを実施した。 APP7raに対するプライマーセッ ト、 APP751に対するプライマ ーセッ トおよび APP695に対するプライマーセッ トによりそれぞれ、 484 bp, 448 b pおよび 273 bpのフラグメントが増幅され得る。 実際、 各プライマ一セッ トは、 マウス脳の全 RNAでは、これらの対応するフラグメントを特異的に増幅できた(図
6 D ) Q 図 6 Dに示すように、 ネスチン陽性細胞が濃縮するにつれて、 APP77flおよ び APP751の両方とも一過性に増大した。 しかし、 AraCの処理後、 これらの転写は 減少した。 これとは逆に、 APP695の発現は、 成熟ニューロンのマーカ一の発現に伴 つて増加した (図 6 D )。 ΑΡΡ77ΰに対するプライマーは、 ェキソン 8 を含む他のァ イソフォームのうちの 1つである APP も増幅すると予想された。 ΑΡΡΪ14の PCR産 物の予想サイズは 316 bpであると考えられるが、 ΑΡΡ 0よりかなり発現が低いも のの、 RT - PCR とその後のサザンハイブリダイゼーションで、 マウス脳と同様 ES 細胞から分化途上の細胞、特に分化 13 日目の細胞から得た RNAにおいても、 316 bpのフラグメントが検出された。 これらの結果は、 ES細胞由来ニューロンが in vivoのニュ一ロンと同様の特性を有することのさらなる証明となる。
さらに、 APPの V642I突然変異は APPファミ リ一の発現レベルおよび APPのオル タナティブスプライシングに影響を与えないことがわかった。
tauアイソフォームの発現
CNSニューロンは、 6種の tauのァイソフォームを発現する。 これらはすべて、 ェキソン 4a、 ェキソン 6およぴェキソン 8を欠失している(24)。 PNSニューロン で発現される tauァイソフォームはェキソン 4aを含有しており、ェキソン 6を含 有しているものもある(25, 26)。本発明者らの方法によって ES細胞から得られた ニュ一ロンの種類を特定するために、ェキソン 5およぴェキソン 9 (プライマーセ ッ ト 1 )間またはェキソン 4およぴェキソン 9 (プライマーセット 2 )間のいずれ かを増幅させるための RT- PCRを実施した。 プライマーセット 1は、 PNS型の tau (ェキソン 6は存在するが、 ェキソン 8は存在しない)であれば、 409 bpフラグメ ントを増幅させるが、 CNS型の tau (ェキソン 6およぴェキソン 8の両方とも存在 しない)であれば、 プライマーセット 1は 211 bpフラグメントを増幅させる。 図
7 Aに示すように、 ES細胞由来ニューロンの全 RNAでは、 マウス大脳皮質ニュー ロン初代培養細胞および成熟マウスの脳全体と同じように、 211 bpのフラグメン トのみが検出された。 この結果は、 ES細胞に由来するニューロンで発現される t auのアイソフォームは、 ェキソン 6も 8も有していないことを示す。 プライマー セット 2を用いて同様の実験をした。プライマーセット 2は、ェキソン 4aが存在 してェキソン 6および 8が存在しない場合は 994 bpフラグメントを増幅させ、ェ
キソン 4a、 6および 8のいずれも存在しない場合は 283 bp フラグメントを増幅 させる。 ES細胞に由来するニューロンでは、 283 bpフラグメントのみが増幅され (図 7 B )、このことは ES細胞に由来するニューロンで発現される tauアイソフォ ームにはェキソン 6とェキソン 8のみならず、ェキソン 4aも欠失していることを' 示している。以上のデータより、本発明の方法によって ES細胞から得られるニュ 一ロンは CNS型のニューロンであることが示唆された。
ES細胞に由来するニューロンに発現している CNS型 tauァイソフォームをさら に解析する。 CNS型 tauには、 ェキソン 2、 3および 10の位置でのオルタナティ ブスプライシングによる 6種のアイソフォームがあるが、 胎児の脳では、 ェキソ ン 2、 3および 10欠失した最も低分子のァイソフォームが主に発現している。 ES 細胞から得られた-ユーロンで発現された tauにェキソン 2および 3が存在する か否かを調べるために、 ェキソン 2および 3の両方を欠損するアイソフォームで あるェキソン 1とェキソン 4との連結か(図 7 C、 -/-)、 またはェキソン 2は存在 するがェキソン 3は存在しないアイソフォームであるェキソン 2とェキソン 4と の連結(図 7 C、 2/ -)、ェキソン 2および 3の両方を含有するアイソフォームであ るェキソン 2および 3の連結(図 7 C、2/3)のいずれかを認識するプライマーセッ トを用いて RT- PCRを実施した。 それぞれの PCR産物の予想されるサイズは、上記 の順に、 301 bp、 301 bp、 および 388 bpである。 E 胚から調製した大脳皮質二 ユーロンの初代培養細胞では、 ェキソン 2とェキソン 3の両方を欠損するアイソ フォームが主として発現されており、 成熟マウス脳では上記全種類のアイソフォ ームが発現されている(図 7 C )。 ES細胞から得られたニューロンは、 最初はェキ ソン 2およぴェキソン 3を欠損したァイソフォームだけであった(図 7 C )。 しか し、 このアイソフォームの発現は徐々に減少した(図 7 C )。 そして、 ポリ 0/L-コ ートディッシュ上での培養開始から 2週間後には、 成人型である、 他の 2種のァ ィソフォームが発現し始めた(図 7 C )。 し力 し、上記と同様の RT - PCRによっては ェキソン 1とェキソン 3の連結物は全く検出されず、 ェキソン 3は含有するがェ キソン 2は含有しないァイソフォームは存在しないことがわかった (データは示 していない)。
ェキソン 10に関しては、ェキソン 9〜: 12の配列を挟むように設計したプライマ 一を用いて RT-PCRを行った。 cDNAにェキソン 10が存在していればその PCR産物
は 257 bp であり、 存在していなければ 164 bpと予想される。 大脳皮質ニューロ ンの初代培養細胞から調製したサンプルでは、ェキソン 10を欠損した分子種が主 として増幅され、一方、成人型を示すェキソン 10を含む分子種が、成熟マウスの 脳から調製したサンプルで主として増幅された(図 7 D )。
ェキソン 2とェキソン 3の結果と一致して、 ポリ 0/Lディッシュ上に播種した 一週間後の ES細胞由来ニューロンは、 ェキソン 10を欠失するアイソフォームを 発現していた。 さらに、ェキソン 10を欠失するアイソフォームの発現は徐々の減 少し、 ポリ 0/L-コートディッシュ上での培養 5週間でェキソン 10を含有するァ イソフォームが増加した(図 7 D)。 以上より、 ES細胞に由来するニューロンで発 現する tauァイソフォームは、 最後の播種の後 2〜 4週間の間に胎児型から成人 型へと変化する。 野生型 ES細胞でも V642Iノックイン ES細胞でも同様の結果が 得られた。
V642I-APP -ノックイン ES細胞に由来するニューロンは A j3 42の分泌を増加させる V642I- APP-ノックイン ES細胞に由来する成熟ニューロンが ADの形質を呈する か否かを調べるために、ポリ 0/L コートディッシュ播種後 7〜28日目までの間、 E S細胞から得たニューロンを培養した培地を集め、 A j3 40と A /3 42の濃度を測定し た。野生型 ES細胞に由来するニューロンと V642I- APP -ノックイン ES細胞に由来 するニューロンとでは、 それぞれから分泌される A j3 40は量的には同じであった が、 A ]3 42の分泌量は、調べた期間内で特異的に増大した(図 8 A)。結果として、 総 λ β (A J3 40 + A J3 42)に対する Α の分泌量は、 V642I - ΑΡΡ-ノックイン ES細胞に 由来するニューロンの培地の方が、野生型 ES細胞に由来するニューロンの培地よ り、 恒常時かつ再現性をもって、 約 1. 5倍高かった(図 8 Β )。 最初の時期に観察 された Α;8の分泌量の増加、および後の段階で観察されるその減少は、それぞれ、 APP の発現量の増加(図 6 A)および BACE1 (図 3 E )の発現量の減少であると考え られる。
これらのデータより、 V642ト APP-ノックイン ES細胞に由来するニューロンは、主 要な ADの形質の 1っを呈することを示す。
ES細胞由来ニューロンの tauリン酸化
V642I - APP-ノックイン ES細胞に由来するニューロンは、 NFTに関連する残基で リン酸化を受けているか否かを調べるために、ポリ 0/L-コートディッシュ上に播
種した 3週間後に ES細胞に由来する細胞を抗リン酸化 tau抗体 AT8で染色した。 ポリ 0/L-コ一トディッシュへの播種後 3週間の野生型 ES細胞由来のニューロン および V642I - APP -ノックイン ES細胞由来のニューロンは両方とも、 AT8で顕著に 染色された(図 8 Cおよび D)。 このことは、 この時点において、 野生型 ES細胞由 来のニューロンおよび V642I - APP-ノックイン ES 細胞由来のニューロンが、 AT8 によって認識される残基で同じようにリン酸化されていることを示唆する。 この ことは、 E14マウス胚の脳から得た 7DIV初代培養大脳皮質ニューロンが AT8で染 色されるのと同様であった(図 8 E )。
これに対して、 ポリ 0/L -コートディッシュでの培養 6週間の時点では、 野生型 ES細胞に由来するュユーロンも V642I - APP -ノックイン ES細胞に由来するニュー ロンも AT8で染色されなかった(図 8 Fおよび G)。野生型および V642IAPPノック イン ES細胞由来のニューロンはともに、 NFT特異的な tauのリン酸化部位である セリン 422のリン酸化を特異的に認識する抗体である、 抗 pSer422抗体 AP422で も染色されなかった(V642I - APP-ノックイン ES細胞に由来するニューロンについ ては図 8 H、野生型 ES細胞に由来するニューロンについてはデータは示していな い)。
V642I-APPノックィンマゥスの作製
さらに、 in vivoにおける V642I - APPノックインによるアルツハイマー病形質 の発現を確認するために、 V642I - APPノックインマウスを作製した。
該マウスの作製方法は、 上記ノックイン ES細胞の作製と同様に、 Cre-loxP技 法を用いて行った。 本実施例においては、 以下の方法にしたがって行ったが、 こ の方法に限定されることなく、 公知の方法でノックイン動物を作製できることは 当業者であれば容易に理解することである。 上記の V642I-APPノックインターゲ ティングベクターを、 TT2細胞に導入し、 相同組換え V642I-APP ノックイン変異 クローン R34を得た。 該クローンに pIC- Creプラスミ ドをエレク ト口ポレーショ ンすることにより Creリコンビナーゼを一過性発現させて TK - Neo配列を切除した c 得られたクローンのうちの 1つ R34C (30) -9と過排卵 CD- 1マウス (Charles Rive r Japan,横浜市,日本) から得た 8細胞期胚とを用いて、 常法のマイクロインジェ クション法おょぴコカルチャー法の両方の方法により、 それぞれキメラ胚盤胞を 作製した。 いずれの方法でも、 キメラ胚盤胞が得られた。 該キメラを偽妊娠メス
マウスに移植して、 キメラ個体を産生させた。 得られたキメラ個体のォスを CD - 1 メスマウスと交配させて、 F1個体を得た。 該マウスの変異を、 尾部切片よりゲノ ム DNAを抽出し、 それを上記と同様のサザンブロッテイングにより確認した。 さ らに、 塩基配列を確認して、 V642I変異へテロ個体であることを確認した。
以下の実験には、 野生型ォスマウス 50匹、 V642I変異ォスマウス 46匹、 野生 型メスマウス 38匹、 V642I変異メスマウス 51匹を用いた。
V642I-APPノックィンマゥスの形質
上記変異ノックインマウス (以下、 単に変異型マウスという) は、 生後 30ヶ月 まで観察したところ、 外観、 平常時の行動においては野生型マウスの何ら差異は 示さなかった。 生殖能も正常であった。 さらに、 体重の増加、 寿命についても、 野生型と有意な差は示さなかつた。
V642I-APPノックインマウス脳における、 A 0分子種の検出
29ヶ月齢の V642I- APPノックインマウスから脳を摘出し、ホモジェネートを調 製して、 該脳組織中の A 40および A;8 42のレベルを、 上記同様 two- site ELISA 法により測定した。 ォスおよびメスともに、 野生型に比べて、 A /3 40は減少し、 A i3 42 (43) は増加する傾向にあつたが、 いずれも有意差はなかった (図 9 A. B)。 しかしながら、 A /3 40に対する A 42 (43) の量比(A 42 (pM) /A j8 40 (PM) )は、 ォ スおよびメスともに野生型に比べて、 有意に増大していた (図 9 C)。
V642I-APPノックィンマゥスの行動実験
V642I-APP ノックインマウスの行動実験を行った。 まず、 オープンフィーノレド テストにより、移動の活発さ(locomoter activity)、壁面を採す性向(接触走性: thigmotaxis)、 探索行動 (exprolation behavior) およぴ精神運動行為(psychom otor performance)を調べに。
マウスを、 格子線を引いた四角形の壁面で囲まれたオープンブイールド內に入 れ、 3 分間自由に行動させて、 その様子を観察した。 通常、 マウスは、 一定時間 じっとしているが、 その後、 その領域内の探索行動を始める。 この行動の開始ま での時間(格子線を 1本またぐまでの時間)を測定したところ、 野生型に比べて、 変異マウスではやや長時間要したが、 有意差はなかった。 さらに、 接触走性につ いて、 壁面付近に滞在する時間を測定したが、 野生型と変異マウスの間で差はな かった。 3 分間で格子線をまたいだ回数を測定すると、 野生型と変異マウスの間
で、 メスでは有意差はなかったものの、 ォスでは変異マウスの方が有意に多かつ た(p<0. 05)。 しかしながら、 その他の情緒的な状態の指標として、 立ち上がりう: earing) , 排便、 毛づくろい、排尿等についても観察したが、 野生型と変異マウス の間で、 有意差はなかった。
以上より、 探索行動 (exprolation behavior) および精神運動行為(psychomot or performance)については、野生型および変異型マウスの間で有意な差異はない と考えられる。
エレべ一ティ ドプラスメイズ(elevated plus maze : EPM)試験を、 1 日に 1回ず つ連続して 4日間行った。該試験は、中央で十字に交差する 4つのアーム(1つの アームは 50cm X 10cm)のうち、 縦方向の 2つのアームは壁がなく、 横方向の 2つ のアームのみ 20cniの高さの透明なァクリル製の壁がある迷路を用いて行う。該迷 路を、床から 100cmのところに置き、その縦方向のアームの先端にマウスを入れ、 3 分間自由に行動させ、 行動を観察する。 マウスの習性として、 壁があるアーム 内にいることを好む傾向がある。そこで、壁があるアームに到達するまでの時間、 およびアームに侵入した回数、 さらに壁のないアーム内にいた時間を、 測定した が、 いずれも野生型と変異型では有意差はなかった。
Yメイズ試験
さらに、 短期記憶能力を調べるために、 Yメイズ試験を行った。
該試験は、 20cmの高さの透明なァクリル製の壁がある灰色の床からなる 3つの アーム( 1つのアームは 50cm X 10cni:;)が、 120°Cの角度で Y字型に連結されてい る Y字型のメイズを用いて行った。 1匹のマウスをアームの連結部に置き、 3分間 自由に行動させて、各アームに侵入する頻度、いずれかのアームに侵入した回数、 自発的交替行動、 およびその他の行動、 立ち上がり(real ing)、 排便、 毛繕い、 排 尿等を観察および測定した。 ここで自発的交替行動率は、 直前に入っていたァー ムおよびその前に入っていたアームの両アームとは違うアームを選択する比率で ある。 例えば、 アームそれぞれをアーム 1、 アーム 2およびアーム 3とし、 被験 マウスがアーム 1 - >2→3→2→ 3→1--2— 3-> 2→1_の順で 10回アーム内に侵入した 場合を想定すると、 下線を付した合計 5回のアームの選択が正解としてカウント され、 この場合では総アーム侵入回数は 10回であるので、 5/10 となり自発的交 替行動率は 50%となる。
ォス .メス両性とも野生型および変異型マウスについて実施したが、 いずれの 測定においても両性とも野生型と変異型との間で有意差は認められなかった。 いずれかのアームに侵入した回数 (図 1 0 A)、 自発的交替行動率 (図 1 0 B) の測 定結果を図 1 0に示す。
放射状アームメイズ
50 X 10cmの灰色のプラスチック製の床に、 20cmの高さの透明なァクリル製壁面 を設置したアーム 8本が、 8 角形のプラットフォームに放射状に連結されている メイズを用いて、 放射状アームメイズ試験を行った。 プラッ トフォームから各ァ ームへの入り口には、 ギロチンタイプの透明な戸板が設置されている。 各アーム の先には、 青色のプラスチック製カップに入れた固形飼料を入れておく。 14時間 固形飼料を与えずに置いたマウスを、 中央のプラットフォーム上に置き、 10秒間 ドアを閉めて、 ドアの内側に居るようにした後、 ドアを取り除き、 自由にメイズ 内を移動できるようにした。 15 分以内に全アームを選択できなかったマウスは、 この実験から除外した。 この実験において、 いずれかのアームに侵入するまでに 要する時間、 アームに侵入する順序、 各アームでの摂食行動、 全アームの飼料を 食べるのに要する時間を測定した。 同じ実験を、 1 日に 1回ずつ 5 日間連続して 行った。
該試験により、 空間認識記憶能力を試験することができる。 しかしながら、 本 試験においても、 有意な差は認められなかった。
水発見タスク試験
10cm間隔で格子線を引いた 50 X 30cmの長方形の領域に 15cmの壁を設置し、長 い辺の中央に壁に沿わせて 10cm四方の立方形のアルコープを設置し、該マウスの 日常の給水に用いているのと同じ金属製の給水チューブを該アルコーブの上面の 中央にある穴から見えるようにセットした。
トレ一ニングセッションでは、 給水チューブの高さを床から 5cmとし、 トレー ユングセッションの前には、 試験するマウスは水を自由に摂取できる状態にして おいた。 マウスを、 右手前の角に入れ、 3 分間自由にその領域を移動できるよう にした。この間のマウスの移動の活発さを、移動した 10cmの格子の数で測定した。 マウスが最初に隣の格子内に移動するまでに要する時間、 アルコーブの中に入る のに要する時間、 給水チューブに最初に触れる /嗅ぐ/なめるまでに時間を測定し
た。 3 分以内にチューブを発見できないマウスはこの試験から除外した(表 2参 照)。 メス変異型では、 除外されるマウスの割合が有意に高かった。
表 2
卜レ- -二ングセッションで除外されたマゥスの割合
全個体数 (a) 除外せず 除外 (b) 除外した割合(%) (b/aX100) 才ス
野生型 2 2 1 7 5 2 2. 7 変異型 32 2 5 7 2 1. 9 メス
野生型 2 5 23 2 8. 0 麵型 2 5 1 5 1 0 4 0. 0 口 pi
野牛 4 7 40 7 14. 8 変異型 5 7 40 1 7 2 9. 8 表 3
卜レーニングセッションの結果 ォス メス
野生型 野生型 探索行動開始までの時間 6-8 ±1-3 5.8 ±1.3 8.1 ±1.7 11.2 ±4.4 アルコーブ侵入までの時間 36.5土 7.9 37-5 ±6.3 40.1 + 7.0 41.4 ±10.2 水を見つけるまでの時間 643 ±9-7 62.5 ±7.8 73.2 ±9.7 95.2土 16.4 セッション中の接触回数 6.5土 1.0 5.2土 0.6 5.5土 0.6 3.9土 0.8
63.5 ±4.4 79.4 + 6.2 82.9土 10.6 83.6土 10.6
Γ水を見つけるまでの時間 Jとは、アルコーブに入つ.て水と最初に接触するまでの時間である。 「セッション中の接鍅回数」 とは、 セッション全体で接触した時間である。 「移動度」 とは、 格 子線をまたいだ回数である。
野生型と変異型の で、 ォス -メスとも fc有意差は認められなかった。 .
トレーニングセッション後、 飼育ケージに戻し、 24時間水を与えずに、 体重の 減少を記録しておいた。 そして、 試験セッションでは、 給水チューブの高さを床 から 7cmとし(ここで、高さを上げるのは、偶然にチューブを見つける確率を下げ るためである)、 トレーニングセッション後 24時間水を与えていないマウスを、 トレーニングセッションと同様に領域内に入れ、 同様に、 各時間を測定した。 さ らに、 試験セッションでは、 水を飲むまでに要した時間を測定した。
この試験は、 マウスの潜在学習能力を試験するものである。 潜在学習能力は、 以前に試験環境(27)を経験した場合、 より迅速にそのメイズタスクを完了するこ とができる能力として測定することができる。 この能力は、 海馬の機能おょぴコ リン作動性のニューロンと関係があると考えられている。 テストの 1 日目に、 給 水を受けていたマウスは、 3 分間環境を自由に移動して探索することができ、 こ の過程では、 その行動が喉の渴きによるのではなく、 もっぱら自発的な探索によ つてのみ行われる。 27ヶ月齢の野生型および変異型マウスの合計 104個体につい て試験したが、 メス変異型マウスは、 有意に高い割合で(表 2、 pく 0. 01)で 3分以 内の給水チューブを見つけるという基準を満たさないマウスがいたが、 ォスでは かかる差は認められなかった。 その他の測定においても、 トレーニングセッショ ンに関しては、 有意な差は認められなかった。 トレーニングセッションの後に、 マウスは 24時間水を与えられず、 テスト 'セッションに供された。移動開始まで の時間(図 1 1 A)は、すべての群で実質的に同等であつたが、ォスでは野生型より 変異型マウスの方が時間がかかる傾向にあり、またメスでは逆の傾向を示した(有 意差は検出されなかった:図 1 1 A)。 アルコーブに入るまでに要した時間は、 ォ スメスともに、 変異型の方が、 野生型に比べて有意に長かった(図 1 1 B、 ォス、 メスとも pく 0. 05)。 さらに、 変異型マウスは給水チューブを見つけるのにより長 い時間を要する傾向があった(有意差は検出されなかった:図 1 1 0。水を飲み始 めるまでに要する時間は、 変異型の方が長い傾向にあり、 ォスでは有意差があつ た(図 1 1 D:ォスのみ pく 0. 05)。 全体の移動の活発さは、 格子線をまたいで移動 した回数においてはすぺての群で有意な差がなかった(図 1 1 E)。体重の変化にも 有意差は認められなかった(図 1 1 F)。
27ヶ月齢の V642I- APP - KIマウスの行動分析についての以上の結果から、 放射 状アームメイズ試験で若干の差異は認められたものの、 水発見タスク以外では、
野生型との間で有意な差はみとめられなかった。 有意差が認められた水発見タス ク試験は、 潜在学習能力(27〜31)、 すなわち、 環境の特性(ここでは、領域内のァ ルコープ内に給水チューブがあるということ)を理解し記憶する能力、を見るため のものとして、従来から多くの研究に用いられてきた試験である。この試験では、 野生型と比較した場合、ォスの V642I- APP- KI変異マウスでは著しくその能力の低 下が認められた。 メスでは、 野生型の能力が低下していたため、 野生型と変異型 との間での差はォスほど顕著ではなかった。かかる性別による相違は、より若い(2 -6 ヶ月齢)マウスで同じテストを行った場合は観察されなかった。 したがって、 より若い(2 - 6 ヶ月齢)マウスで同じ試験を行うと、 メス変異型マウスでもォス変 異型マウスと同様の差が認められるのではないかと推測される。
なお、 トレーニングセッションにおける結果を表 2に示しているが、 該結果か らわかるように、 トレーニングセッションでの各測定値には有意差はなく、 上記 試験セッションでの差が、 トレーニングセッションにおける経験の相違に左右さ れたものではないことがわかる。 さらに、 体重の減少、 移動の活発さの低減にお いても、 野生型と変異型での差は有意ではなく、 上記試験セッションの差が、 喉 の渴きによる衝動や移動能力の低下によるものではないことが分かる。
したがって、 変異型マウスにおいては、 潜在学習能力が低下していることが示 唆される。
組織学的解析
29ヶ月齢の変異型マウスの脳切片を、 ADに関連する病理的診断、特に老人班お よび神経原線維変化の形成について調べた。 コントロールとして、 21ヶ月齢のメ スの Tg2576 トランスジエニック (Tg) マウス(これは、 強力なハムスタープリオ ンタンパク質プロモーター(32)の制御下でヒ ト APPのスウェーデン型変異(K595N
/M596L; APP770に基づくナンバリングによると K670N/M671Lを発現するマウス)、 および 11ヶ月齢のォス JNPL3 Tgマウス(33:これは、マウスプリオンプロモータ 一の制御下で、第 17番染色体上に連鎖するパーキンソン症候群を伴った前頭側頭 型 (frontoteraporal) 痴呆 (FTDP-17) に関係する P301L変異型ヒトタウタンパク 質を発現するマウス)の切片を用いた。 Nissl染色により、変異型の切片(図 1 2 A) を、 同腹由来の野生型個体の切片(データ示さず)と比較した場合、 ニューロンの 減少や奇形は認められなかった。 Tg2576の切片では、 Mssl染色(図 1 2 B)、 Thi
oflavin- T (図 1 2 D)、 BSB、 高感度コンゴレツド蛍光プローブ(36) (図 1 2 F)およ ぴ抗 A 42抗体(図 1 2 Η)により、以前に報告されている通り多くの老人班が大脳 皮質および海馬で検出された(Hsiaoら、 1996年)。 同様に変異型マウスの切片を 染色したところ、 老人班の顕著な形成は認められなかった (図 1 2 A、 C, E およ ぴ G)。 次に、 ペアードヘリカルフィラメント(PHF) -タウ特異的免疫組織染色の検 出により、 神経原線維変化形成について調べた。 JNPL3 (図 1 2 Jおよび L)の脳幹 中のニューロンは、抗血清 pSer422 (34)およびモノクローナル抗体 AT8 (35)により 染色されたが、 V642I-APP-KI ヘテロ接合変異マウスでは染色されなかった(図 1 2 1および K)。 これらの結果は、 V642I-APP-KI変異体の脳では、 加齢マウスの正 常な形態を維持しており、 老人班または神経原線維変化の明らかな形成は認めら れないことを示すものである。 本明細書で引用した全ての刊行物、 特許および特許出願をそのまま参考として 本明細書にとり入れるものとする。 産業上の利用の可能性
本発明により、遺伝性疾患の in vitroモデルの作製方法、および in vivoモデ ル動物の作製方法が提供される。 さらに、 アルツハイマー病の原因となる遺伝子 変異をノックインしたアルツハイマー性ニューロンへ分化可能な ES細胞、および その作製方法、 ならびに、 アルツハイマー病モデル動物が提供される。 さらに、 E
S 細胞を非常に効率的に中枢神経系型ニューロンに分化させる方法が提供される。 上記アルッハイマー性ニューロンへ分化可能な ES細胞を、該方法により分化させ ることにより、 アルツハイマー病のモデルニューロンが得られる。 該モデルニュ 一ロンは、 アルツハイマー病の予防 '治療薬および診断薬の開発、 ならびにアル ッハイマー病の病理学的研究等の研究において、 有用である。
上記実施例に示すように、 本発明の方法では、 野生型 ES細胞、 ノックイン ES 細胞を問わず、約 90%以上の確率でニューロンのマーカーを発現する細胞へと分 化させることができ、 従来技術に比べて有意に高効率に分化を誘導することがわ かるであろう。 さらに、 ノックイン ES細胞が、分化後変異遺伝子に由来する形質 を示すことが実証され、 本発明の対象とする遺伝性疾患の原因となる遺伝子変異 をノックインした ES細胞が、疾患モデル細胞の取得に利用できることが示された。
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