JPWO2020079878A1 - 糖鎖構造解析装置、及び糖鎖構造解析用プログラム - Google Patents

糖鎖構造解析装置、及び糖鎖構造解析用プログラム Download PDF

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Abstract

本発明の一態様の糖鎖構造解析装置では、解析条件を設定するための複数のタブの一つをシアル酸結合様式特異的化学修飾に関する条件設定専用とし、主要な化学修飾試薬をユーザが選択できるようにしている。これら試薬が選択される場合、結合様式毎の質量変動は自動的に設定される。また、既定の化学修飾以外の化学修飾の使用時に、ユーザは結合様式毎の質量変動量を数値で入力すればよい。解析時には、一つの化学修飾に対応して結合様式によって異なるm/z値の複数の糖鎖構造候補の理論m/zと、実測のイオンピークのm/zと、の照合が一括して行われる。これにより、シアル酸結合様式特異的化学修飾試薬を用いた化学修飾によりシアル酸の結合様式を含む糖鎖の構造解析を行う際に、解析に伴うユーザの作業の手間を軽減し解析の効率を向上させることができる。

Description

本発明は、質量分析を利用して糖鎖の構造を解析する糖鎖構造解析装置、及びコンピュータ上で糖鎖の構造を解析するための糖鎖構造解析用プログラムに関し、さらに詳しくは、糖鎖に結合しているシアル酸の結合様式を含めた糖鎖の構造解析が可能である糖鎖構造解析装置、及び糖鎖構造解析用プログラムに関する。なお、ここでいう「糖鎖」は単独で存在する糖鎖のみならず、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸などの生体分子を修飾している状態の糖鎖、つまりは糖鎖の修飾体を含むものとする。
生体内におけるタンパク質やペプチドなどの生体分子の生合成の過程は精緻に制御されている。そのため、生合成の過程で生成される糖鎖修飾を受けた生体分子は生命活動において重要な役割を担っていると考えられてきたが、近年、特に生理機能や疾患との関連について、糖鎖分子レベルでの具体的な報告が数多くなされている。こうしたことから、生命現象における様々な過程に関わる生体分子を修飾する糖鎖の構造を明らかにすることは、生命現象の解明や創薬・診断に役立つものと期待されている。
糖の一種であるシアル酸はタンパク質の品質管理や神経における情報伝達、或いは細胞間の認識などにおいて重要な物質であると考えられていたが、最近、糖鎖の末端に対するシアル酸残基の付き方、つまりは結合様式の相違がそうした生体活動に重要であることが解明されつつある。そのため、糖鎖へのシアル酸の結合様式を把握することは、糖鎖構造解析における一つの重要な作業である。
例えば、ヒトの場合、シアル酸の結合様式として、α2,3結合型とα2,6結合型とが主として知られている。その結合様式は細胞の癌化に伴って変化することが分かっており、結合様式をバイオマーカーとして利用したり、バイオ医薬品の品質管理等に利用したりすることが期待されている。しかしながら、結合様式のみが異なるシアル酸を含有する糖鎖異性体には質量差がないため、糖鎖分析に広く用いられている質量分析装置による結合様式の判別は難しい。また、一般に、シアル酸は糖鎖から解離し易く不安定であるため、検出感度や定量性の低さが課題であった。このため、迅速に且つ正確にシアル酸の結合様式を解析できる手法の開発が強く望まれている。
こうしたことを背景として、シアル酸の構造を安定化し、且つ、結合様式の相違をスループットの高い質量分析装置で判別できるようにするために、シアル酸の結合様式に特異的な化学修飾の手法が開発されている。例えば、特許文献1、非特許文献1には、糖鎖を含む分析対象試料と、イソプロピルアミン等のアミン及びカルボジイミドを含む脱水縮合剤とを反応させることで、α2,3−シアル酸を有する糖鎖の修飾体としてラクトンを生成させるとともに、α2,6−シアル酸を有する糖鎖の修飾体としてアミドを生成させる手法が開示されている。また、上記文献には、いくつかの別の化学修飾法も記載されている。
上述したようなシアル酸結合様式に特異的な化学修飾の手法で以て処理された糖鎖の組成や構造を解析するには、マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)−飛行時間型質量分析装置(TOFMS)などを用いて質量分析を実施し、それにより収集されたデータをコンピュータで解析するという作業が必要である。糖鎖について質量分析により得られたデータから糖鎖組成やその構造を求めるためのコンピュータソフトウェアは、従来いくつか知られている。代表的なものとして、グリコ−ピークファインダ「Glyco-peakfinder」(非特許文献2参照)やシムグリカン「SimGlycan」(登録商標)(非特許文献3参照)などがある。
「Glyco-peakfinder」は、実測で得られたマススペクトル上のピーク(以下「イオンピーク」という)の質量電荷比値に対し所定の許容誤差の下で質量が合致する糖鎖組成を、様々な単糖の組合せについて総当たり的に調べるものである。一方、「SimGlycan」は、実測で得られたMS/MSスペクトル上のピークの質量電荷比に対応する糖鎖の組成や構造を、そのソフトウェアの製造メーカが独自に構築したデータベースを用いたデータベース検索により求めるものである。
こうした既存の糖鎖解析用ソフトウェアでは、糖鎖修飾体を含めた糖鎖誘導体の解析も可能である。しかしながら、そうしたソフトウェアでは、シアル酸結合様式に特異的な化学修飾手法による糖鎖修飾体の解析を行うことまでは想定されていない。そのため、例えば総当たり検索を行う場合には、或る一種類のシアル酸結合様式特異的化学修飾試薬を用いたときにシアル酸の結合様式の相違によって生成される複数の異なる修飾体を、複数種類の異なる質量を持つ単糖残基として探索する必要がある。N種類のシアル酸について、それぞれ2種類の結合様式を想定した場合、2×N個のシアル酸修飾体をユーザ自身が調べて探索対象の単糖残基として追加的に入力する必要がある。一般に、ユーザが検索対象として独自に追加できる単糖残基数にはソフトウェア上で上限が設けられており、必要な全ての種類のシアル酸の組合せを検索できるとは限らないことが問題となる。この場合に探索対象を増やすためには、検索条件を変えて複数の検索を実行する必要があり、多大な手間と時間が掛かる。また、修飾体の追加的な入力設定に手間が掛かるのみならず、設定ミスを引き起こし易いという問題もある。
特開2016−194500号公報
西風 隆司、ほか5名、「ディファレンティエイション・オブ・シアリル・リンケージ・アイソマーズ・バイ・ワン-ポット・サイアリック・アシッド・デリバタイゼイション・フォー・マス・スペクトロメトリ-ベースド・グリカン・プロファイリング(Differentiation of Sialyl Linkage Isomers by One-Pot Sialic Acid Derivatization for Mass Spectrometry-Based Glycan Profiling)」、アナリティカル・ケミストリ(Analytical Chemistry)、2017年、Vol.89、pp.2353-2360 マアース(K. Maass)、ほか4名、「グリコ-ピークファインダ デ・ノボ・コンポジション・アナリシス・オブ・グリココンジュゲイツ("Glyco-peakfinder" -De novo composition analysis of glycoconjugates)」、プロテオミクス(Proteomics)、2007年、Vol.7、No.24、pp.4435-4444 アプテ(A. Apte)、ほか1名、「バイオインフォマティックス・イン・グリコミクス:グリカン・キャラクタリゼイション・ウィズ・マス・スペクトロメトリック・データ・ユージング・シムグリカン(Bioinformatics in Glycomics: Glycan Characterization with Mass Spectrometric Data Using SimGlycan)」、ファンクショナル・グリコミック(Functional Glycomic)、メソッズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Methods in Molecular Biology)、ヒューマン・プレス(Humana Press)、2010年、pp.269-281
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主たる目的は、シアル酸結合様式に特異的な化学修飾を行った糖鎖を含む試料に対するマススペクトルデータに基づいて、シアル酸の結合様式を含む糖鎖構造を解析する際に、ユーザによる面倒な検索条件の設定などの作業の手間を軽減するとともに、解析を効率良く行うことができる糖鎖構造解析装置、及びコンピュータ用の糖鎖構造解析用プログラムを提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様に係る糖鎖構造解析装置は、シアル酸結合様式に特異的な化学修飾試薬を用いて前処理されたシアル酸結合糖鎖又は該シアル酸結合糖鎖により修飾された分子、を含む試料を質量分析することで得られたマススペクトルデータに基づいて、シアル酸結合糖鎖の構造を解析する糖鎖構造解析装置であって、
解析対象のイオン種、該イオン種の電荷の極性、及び、修飾によって糖鎖の質量変動を生じる質量変動因子、をユーザが設定するための条件設定部と、
複数種類で且つ複数個の単糖残基で構成されるコア構造を有する種々の糖鎖とそれに対応する質量情報とを取得する糖鎖コア構造情報取得部と、
前記糖鎖コア構造情報取得部で取得された種々の糖鎖に対し、前記条件設定部で設定された質量変動因子に基づいて質量を増加又は減少させることで糖鎖理論質量電荷比を求める理論質量算出部と、
前記糖鎖理論質量電荷比を、与えられたマススペクトルデータにおけるイオンピークの質量電荷比と照合することで、糖鎖の構造を推定する糖鎖構造推定部と、
を備え、前記条件設定部は、質量変動因子の一つとしてシアル酸の結合様式に特異的な化学修飾を他の修飾とは独立にユーザが設定することが可能であるシアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変動設定部を有し、
前記理論質量算出部は、前記シアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変動設定部で設定された化学修飾に対応してシアル酸結合様式毎に質量を増加又は減少させた糖鎖理論質量電荷比を求めるものである。
また上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様に係る糖鎖構造解析用プログラムは、上記第1の態様に係る糖鎖構造解析装置における機能を実現するためのコンピュータプログラムであり、シアル酸結合様式に特異的な化学修飾試薬を用いて前処理されたシアル酸結合糖鎖又は該シアル酸結合糖鎖により修飾された分子、を含む試料を質量分析することで得られたマススペクトルデータに基づいて、シアル酸結合糖鎖の構造を解析するための糖鎖構造解析用プログラムであって、コンピュータを、
解析対象のイオン種、該イオン種の電荷の極性、及び、修飾によって糖鎖の質量変動を生じる質量変動因子、をユーザに設定させる条件設定機能部と、
複数種類で且つ複数個の単糖残基で構成されるコア構造を有する種々の糖鎖とそれに対応する質量情報とを取得する糖鎖コア構造情報取得機能部と、
前記糖鎖コア構造情報取得機能部により取得された種々の糖鎖に対し、前記条件設定機能部により設定された質量変動因子に基づいて質量を増加又は減少させることで糖鎖理論質量電荷比を求める理論質量算出機能部と、
前記糖鎖理論質量電荷比を、与えられたマススペクトルデータにおけるイオンピークの質量電荷比と照合することで糖鎖の構造を推定する糖鎖構造推定機能部と、
して動作させ、前記条件設定機能部は、質量変動因子の一つとしてシアル酸の結合様式に特異的な化学修飾であるシアル酸結合様式特異的化学修飾を他の修飾とは独立にユーザに設定させ、
前記理論質量算出機能部は、設定された前記シアル酸結合様式特異的化学修飾に対応して、シアル酸結合様式毎に質量を増加又は減少させた糖鎖理論質量電荷比を求めるものである。
なお、上記第1の態様に係る糖鎖構造解析用プログラムは、汎用パーソナルコンピュータ、より高性能なコンピュータ、又は、各種のシステムに組み込まれた専用のコンピュータ、などを動作させるプログラムである。こうしたプログラムは、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカード、USBメモリ(ドングル)などの、非一時的な記録媒体に収録されてユーザに提供されるようにすることができる。或いは、インターネットなどの通信回線を介したデータ転送の形式で、ユーザに提供されるようにすることもできる。もちろん、ユーザがシステムを新規に購入する場合、該システムに含まれるコンピュータに上記態様に係る糖鎖構造解析用プログラムを予め組み込んでおくこともできる。
本発明において、シアル酸結合糖鎖により修飾された分子とは例えば、シアル酸結合糖鎖により修飾されたタンパク質、ペプチド、脂質、核酸などの生体分子である。また、本発明において前提となる、シアル酸結合様式に特異的な化学修飾試薬を用いた前処理は、例えば特許文献1、非特許文献1に開示されているものであるが、それに限るものでなく、例えばα2,3結合型、α2,6結合型、さらにはα2,8結合型などの少なくとも2以上の異なるシアル酸の結合様式を識別するための特異的な化学修飾を行うものであればよい。
また、シアル酸結合糖鎖等を含む試料に対して質量分析を行うための質量分析装置の種類や方式は、特に限定されないが、例えば、イオントラップ型質量分析装置、リニアイオントラップ型質量分析装置、TOF/TOF型質量分析装置、四重極−飛行時間型(Q−TOF型)質量分析装置、四重極−イオントラップ型質量分析装置、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置などが利用可能である。
本発明の第1の態様に係る糖鎖構造解析装置において、条件設定部は例えば表示部の画面上に所定の条件設定用ウインドウを表示し、該ウインドウ上で入力されたり選択されたりした情報を受け付ける。このとき、糖鎖構造解析のための検索条件として、解析対象であるイオン種、該イオン種の電荷の極性、及び、質量変動因子、をユーザが設定できるようになっており、特に、質量変動因子の一つとしてシアル酸の結合様式に特異的な化学修飾を他の修飾とは独立にユーザが設定できるようになっている。即ち、糖鎖への修飾としては、蛍光標識などのための還元末端への修飾などもしばしば行われるが、これとは別に、結合様式に特異的な化学修飾についての情報を設定できるようになっている。
具体的には例えば、メインの設定画面とは異なる、独立したウインドウやタブで、結合様式に特異的な化学修飾による質量変動因子を設定可能とすることができる。また、一つのウインドウ内に配置された、複数に分割された表示領域のうちの一つにおいて結合様式に特異的な化学修飾による質量変動因子を設定可能とすることもできる。
解析が開始されると、まず糖鎖コア構造情報取得部は、複数の単糖残基で構成されるコア構造を有する種々の糖鎖とそれに対応する質量情報とを取得する。コア構造を有する糖鎖の情報を得るために、具体的には、理論的に構成可能である糖鎖を総当たり的に求めていく方法と、既存の糖鎖構造データベースを用いたデータベース検索により求める方法とが考えられる。
即ち、本発明に係る糖鎖構造解析装置の一実施態様として、前記糖鎖コア構造情報取得部は、単糖残基の種類とその数の制約条件の下で想定される糖鎖構造を総当たり的に推定してコア構造を有する種々の糖鎖とそれに対応する質量情報とを求める構成とすることができる。
また別の実施態様として、各種の糖鎖構造と質量とが収録されている糖鎖構造データベースをさらに備え、
前記糖鎖コア構造情報取得部は、ユーザにより設定された糖鎖の質量情報に基づいて前記糖鎖構造データベースに収録されている情報を検索することにより、コア構造を有する種々の糖鎖を求める構成としてもよい。
糖鎖コア構造情報取得部で得られる糖鎖は、修飾や置換、イオン化の際の特定物質の付加などが無い状態のものである。これに対し理論質量算出機能部は、条件設定部により設定された質量変動因子に基づいて質量を増加又は減少させることで、イオンとして質量分析により検出されるときの糖鎖の理論質量電荷比を計算する。このとき、シアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変動設定部で化学修飾が設定されている場合には、その化学修飾に対応してシアル酸結合様式毎に異なる質量を増加又は減少させた糖鎖理論質量電荷比を算出する。例えばα2,3結合型とα2,6結合型とを識別可能な化学修飾であれば、その二つの結合様式それぞれに異なる質量だけ糖鎖の質量が増加し、1種類のコア糖鎖構造にN個のシアル酸が含まれる場合に、N+1(=N+2N)個の異なる糖鎖理論質量電荷比が求まることになる。
糖鎖構造推定機能部は、上記算出された糖鎖理論質量電荷比を、与えられたマススペクトルデータにおけるイオンピークの質量電荷比と照合する。そして、質量電荷比の偏差が所定の許容範囲に収まるものをイオンピーク毎に選択して、そのイオンピークに対応する糖鎖の候補とする。上述したように、元のコア構造が同一である糖鎖に対しシアル酸結合様式の相違によって糖鎖理論質量電荷比が相違する二つ以上の修飾後の糖鎖イオンの質量電荷比が求まるから、その二つ以上の糖鎖イオンとイオンピークとの対応を一度に求めることができる。
また本発明に係る糖鎖構造解析装置において、好ましくは、前記糖鎖構造推定部により推定された糖鎖構造の情報を表示部に表示させる表示処理部をさらに備え、
該表示処理部は、推定された糖鎖構造にシアル酸が含まれていて結合様式の識別が可能である場合に、シアル酸毎に結合様式を示す情報を付加して表示させる構成とするとよい。
具体的には、α2,3結合型とα2,6結合型との識別が可能な化学修飾の場合には、「α2,3−」と「α2,6−」を示す文字情報や記号などが糖鎖組成に付加されて表示されるものとすることができる。これにより、ユーザはシアル酸の結合様式の相違を一目で把握することができる。
なお、本発明に係る糖鎖構造解析装置において、前記シアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変動設定部は、既定のシアル酸結合様式特異的化学修飾を選択可能であるとともに、それ以外の化学修飾についてシアル酸結合様式毎の質量変動値を入力可能であるものとすることができる。
これにより、ユーザが、一般に頻用される既定のシアル酸結合様式特異的化学修飾を使用する場合には、簡単な選択操作のみでシアル酸結合様式特異的化学修飾を選択することができる。また、あまり一般的でない、又は従来は使用されていないシアル酸結合様式特異的化学修飾を使用する場合でも、シアル酸結合様式毎の質量変動値を直接入力することで、そうした化学修飾に対応する糖鎖構造の推定を実施することができる。
本発明によれば、シアル酸の結合様式に特異的な化学修飾を使用した糖鎖構造解析において、一種の糖鎖に含まれるシアル酸の結合様式の相違に応じて異なる質量電荷比の複数の糖鎖(糖鎖修飾体)の構造を、1種類のシアル酸結合様式特異的化学修飾の設定及び一度の解析処理によって過不足なく探索することができる。それにより、シアル酸の結合様式を含めた糖鎖構造解析における、ユーザによる面倒な検索条件の設定などの作業の手間を軽減することができる。また、解析処理に要する時間を短縮し、解析のスループットを向上させることができる。
また本発明によれば、主要なシアル酸の結合様式に特異的な化学修飾試薬を用いる場合に、予め用意された複数の選択肢の中からユーザが使用するものを選択しさえすればよく、ユーザ自身が質量変動量等を調べて手入力する必要がない。そのため、作業の手間が軽減されるとともに、手
入力による作業ミスも抑えることができる。
本発明の一実施例である糖鎖構造解析システムの概略ブロック構成図。 本実施例の糖鎖構造解析システムにおける解析処理手順のフローチャート。 本実施例の糖鎖構造解析システムにおいてシアル酸結合様式特異的化学修飾をユーザが設定するためのタブの一例を示す図。 本実施例の糖鎖構造解析システムにおける糖鎖構造推定結果の表示例を示す図。 解析対象とされるイオンピークの質量電荷比値の一例を示す図。 ユーザにより設定された検索条件の一例を示す図。 コア糖鎖構造を総当たり的に求める際の制約条件の一例を示す図。
まず本発明の一実施例である糖鎖構造解析システムについて、添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施例の糖鎖構造解析システムの概略ブロック構成図である。図1に示すように、本システムは、試料に対して測定を実行する質量分析部1と、解析処理を実行するデータ解析部2と、ユーザインターフェイスである入力部3及び表示部4と、を備える。データ解析部2は、データ格納部21と、ピーク検出部22と、糖鎖構造解析部23とを含み、糖鎖構造解析部23は、解析条件設定部24、糖鎖コア構造質量計算部25、糖鎖理論質量電荷比計算部26、糖鎖構造推定部27、及び、推定結果表示処理部28を機能ブロックとして含む。さらに、解析条件設定部24は、本実施例に特徴的であるシアル酸結合様式特異的化学修飾条件設定部241を下位の機能ブロックとして含み、糖鎖理論質量電荷比計算部26はシアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変化算出部261を下位の機能ブロックとして含む。
質量分析部1は特にその方式を問わないが、一般に質量精度や質量分解能が高いことが望ましいことから、飛行時間型質量分析装置(TOFMS)、或いはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置(FT−ICRMS)などが有用である。また、質量分析装置におけるイオン化法としては、マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)法のほか、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、探針エレクトロスプレーイオン化(PESI)法などを用いることもできるが、1価イオンの発生が主であるという点でMALDI法が好適である。
また、後述するように、糖鎖を修飾しているシアル酸の数や結合様式を含めた糖鎖の構造解析には、イオンの解離操作を伴わない通常の質量分析で十分であることが多いが、例えば糖鎖が結合しているペプチド等の構造解析を行うには、nが2以上であるMSn分析を実行してMSnスペクトルデータを取得するのが一般的である。その場合には、質量分析部1としては、イオントラップやコリジョンセルなど、衝突誘起解離(CID)等によりイオンを解離させる機能を有する質量分析装置を用いる。
また、質量分析部1は質量分析装置単独ではなく、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC−MS)を用いてもよいし、或いは、液体クロマトグラフで成分分離された溶出液を分取・分画して複数の試料を調製し、その複数の試料をそれぞれ質量分析装置で質量分析する構成でもよい。
本システムにおいて、データ解析部2の実体は汎用のパーソナルコンピュータ又はより性能の高いワークステーションであり、そうしたコンピュータにインストールされた専用のデータ処理用プログラムを該コンピュータにおいて動作させることで図1に示したような各機能ブロックの機能が実現される。このデータ処理用プログラムが本発明に係る糖鎖構造解析用プログラムに相当する。この場合、入力部3はコンピュータに付設されたキーボードやポインティングデバイス(マウスなど)であり、表示部4は同じくコンピュータに付設されたモニタである。上記データ処理用プログラムは、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカード、USBメモリ(ドングル)などの、非一時的な記録媒体に収録されてユーザに提供されるようにすることができる。或いは、インターネットなどの通信回線を介したデータ転送の形式で、ユーザに提供されるようにすることもできる。
本実施例のシステムにより糖鎖構造解析を実行する際には、糖鎖を含む試料(糖鎖試料)に対しシアル酸結合様式特異的化学修飾による前処理を実施し、その処理済みの試料を質量分析部1で質量分析することにより、所定の質量電荷比範囲に亘るマススペクトルデータを取得する。ここでは一例として、シアル酸結合様式特異的化学修飾は、特許文献1、非特許文献に記載されているような、アミン及びカルボジイミドを含む脱水縮合剤の存在下で糖鎖試料に対する反応を実施するものとする。この場合、糖鎖に含まれるシアル酸がα2,3結合型である場合には修飾体としてラクトンが形成され、糖鎖に含まれるシアル酸がα2,6結合型である場合には修飾体としてアミドが形成され、元の糖鎖の組成は同じでも修飾体の質量は互いに相違する。上述したような化学修飾による処理済みの試料に対し質量分析部1で得られたマススペクトルデータがデータ解析部2に入力され、データ格納部21に保存される。
データ解析部2においてピーク検出部22は収集されたマススペクトルデータについて所定のアルゴリズムに従ってピークを検出し、各ピークの質量電荷比値と信号強度とを取得してピークリストを作成する。そして、作成したピークリストをデータ格納部21に一旦保存する。このピークリストが糖鎖構造解析部23による解析対象のデータとなる。
糖鎖構造解析を行う際に、ユーザが入力部3から所定の操作を行うと、この操作を受けて解析条件設定部24は表示部4の画面上にメインウインドウを表示する。メインウインドウは切替え可能な複数のタブから構成される。図3は、タブの一つである「Sialic Acid Modification」設定タブ52が開かれた状態のメインウインドウ50を示す図である。この「Sialic Acid Modification」設定タブ52のほか、「Data」設定タブ、「Residue」設定タブ、「Labelling」設定タブ、「Ion Species」設定タブ、「Salt Formation」設定タブ、結果表示(図3では「Results」)タブが用意されており、タブ切替領域51において任意のタブをクリックすることで簡単にタブの切替えが行える。
結果表示タブは糖鎖構造の解析結果を表示するタブであり、それ以外のタブは解析の実行前に解析の条件等を設定したり解析の実行を指示したりするためのタブである。
各タブについて、概略的に説明する。
「Data」設定タブは、ユーザが解析対象のピークリストを選択するとともに、測定データの質量許容誤差等の数値を入力するためのタブである。この入力により、後述する、実測のイオンピークの質量電荷比と糖鎖理論質量電荷比とを照合する際の許容誤差が決まる。
「Residue」設定タブは、糖鎖組成を推定する際の糖等の種類とその種類毎の個数の条件とをユーザが設定するためのタブである。「Residue」設定タブでは、例えば糖の種類として、ヘキソース(Hexose)、Nアセチルヘキソサミン(N-Acetyl hexosamine)、デオキシヘキソース(Deoxyhexose)、Nアセチルノイラミン酸(N-Acetyl neuraminic acid)、Nグリコリルノイラミン酸(N-Glycolyl neuraminic acid)、KDN(2-keto-3-deoxy-D-glycero-D-galacto-nononic acid)、ペントース(Pentose)などのシアル酸を含む単糖類や、そのほかの分子としてリンや硫黄などについての選択とそれらの個数の条件が設定可能となっている。なお、個数を0とした場合には、その糖や分子を含まないことを意味する。
「Labelling」設定タブは、主として蛍光標識等のラベル標識による修飾の種類をユーザが選択するためのタブである。「Labelling」設定タブでは、例えば、標識物質として2−アミノベンズアミド(2-Amino benzamide)やピリジルアミン(Pyridylamin)などが選択可能となっている。
「Ion Species」設定タブは、糖鎖がイオン化したときのイオンの極性、価数、及び、イオン種をユーザが選択するためのタブである。「Labelling」設定タブでは、イオン種として、正イオンではプロトン(H+)付加、ナトリウムイオン(Na+)付加、カリウムイオン(K+)付加などが選択可能であり、負イオンではプロトン(H-)脱離、塩素イオン(Cl-)付加、リン酸イオン(H2PO4 -)付加などが選択可能となっている。
「Salt Formation」設定タブは、価数変化を伴わない糖鎖の部分構造の置換をユーザが設定するためのタブである。「Salt Formation」設定タブでは、プロトンがナトリウム、カリウム、又はリチウムに置き換わる置換が選択可能であり、さらにその置換の数の上限が指定可能となっている。
シアル酸結合様式特異的化学修飾条件設定部241により表示される、図3に示した「Sialic Acid Modification」設定タブ52は、シアル酸結合様式特異的化学修飾の種類をユーザが選択するためのタブである。「Sialic Acid Modification」設定タブ52では、図3に示すように、設定対象領域53において、非修飾(図3中の「None」)、5種類の既定のシアル酸結合様式特異的化学修飾、及び未定義のシアル酸結合様式特異的化学修飾(図3中の「Other modification」)のうちの一つが、ラジオボタンを用いて選択可能となっている。5種類の既定のシアル酸結合様式特異的化学修飾についてはそれぞれ、二つの結合様式、つまりはα2,3結合とα2,6結合とにそれぞれ対応して既知である化学式の変化に基づく質量変動量(図3中の「Mass Change」)が定義されている。これにより、イソプロピルアミンなどの比較的高い頻度で利用される化学修飾については、ユーザが簡便に選択することができる。
また、既定の化学修飾以外の、未定義の化学修飾試薬を用いる場合には、「Other Modification」を選択したうえで、ユーザはα2,3結合とα2,6結合とにそれぞれ対応する化学式の変化に基づく質量変動量を数値で入力する。これにより、ここで想定されていない新規な或いはあまり一般的でない化学修飾試薬が使用されるときでも、簡便な作業で以て解析を進めることができる。なお、図3に示した「Sialic Acid Modification」設定タブ52上でユーザが「Default」ボタン54をクリック操作すると、設定対象領域53内の情報が予め指定されているファイルに登録されているデフォルト状態に戻る。
また、「Sialic Acid Modification」設定タブ52上でユーザが「Save Settings」ボタン57をクリック操作すると、その時点において設定対象領域53内で設定されている情報が、予め指定されている設定情報保存用ファイルに保存される。一方、ユーザが「Load Settings」ボタン56をクリック操作すると、設定情報保存用ファイルに保存されている情報が設定対象領域53内に自動的に設定される。これにより、例えば、簡単な操作で、過去に実施した解析と同じ条件での解析を行うことができる。
ユーザは、上述したようにメインウインドウ50の各タブにおいて解析条件について適宜の設定を行う(ステップS1)。図5は「Data」設定タブで設定されるピークリストの例を示す図である。図6は、イソプロピルアミンをシアル酸結合様式特異的化学修飾試薬として用いた場合の各項目の設定例である。また図7は、「Residue」設定タブ上で設定される糖鎖検索条件の一例である。図7は例えば、ヘキソースについては最小3個、最大15個を含む糖鎖を総当たり的に探索することを意味している。また、シアル酸については、Nアセチルノイラミン酸を含まないか或いは最大5個まで含む糖鎖を総当たり的に探索することを意味している。
「Sialic Acid Modification」設定タブ52(又は他の設定タブ)上でユーザが「Analyze」ボタン55をクリック操作すると、この操作を受けて糖鎖構造解析部23は、設定されている解析条件の下で実際に解析処理を開始する。
即ち、まず糖鎖コア構造質量計算部25は、「Residue」設定タブ上で設定された糖鎖検索条件に従って総当たり的な組み合わせにより、想定される糖鎖組成を全て求める。この糖鎖組成は糖鎖の構造、例えば分枝数などを考慮しないものである。そして、想定した糖鎖組成毎に、単糖等の理論質量を加算することで糖鎖の理論質量を計算する(ステップS2)。ここで求まるのは、修飾等がなされない状態で、且つイオン化される前の糖鎖の理論質量である。
糖鎖理論質量電荷比計算部26は、組成が相違する各糖鎖に対し、上記の検索条件として設定されているイオン種へのイオン化、修飾、或いは置換などが行われたときの理論質量電荷比を計算する(ステップS3)。例えば、図6に示した設定例にあるようにシアル酸結合様式特異的化学修飾試薬としてイソプロピルアミンが使用された場合、修飾により、α2,3−シアル酸では13.0316、α2,6−シアル酸では41.0629だけ質量が増加する。そこで、α2,3−シアル酸をn個含む糖鎖では、糖鎖イオンの質量電荷比に対し13.0316×nだけ質量電荷比を増加させる。他方、α2,6−シアル酸をn個含む糖鎖では、糖鎖イオンの質量電荷比に対し41.0629×nだけ質量電荷比を増加させる。ラベル修飾や置換についても同様である。したがって、同じ糖鎖組成の一つの糖鎖から、修飾や置換の相違により、複数の理論質量電荷比が算出される。即ち、糖鎖に少なくとも1個のシアル酸が含まれる場合、そのシアル酸の結合様式の相違が理論質量電荷比に反映される。
次いで糖鎖構造推定部27は、与えられたピークリストに挙げられているイオンピークの質量電荷比値(実測値)と、ステップS3で算出された各糖鎖の理論質量電荷比(理論値)とを順次照合する。即ち、イオンピーク毎に、質量電荷比値の実測値と理論値との偏差を計算し(ステップS4)、その偏差が予め設定された許容誤差に収まる糖鎖をそのイオンピークに対応する糖鎖構造候補として抽出する(ステップS5)。通常、理論的に推定された糖鎖(修飾体)の数は膨大であるから、一つのイオンピークに複数の糖鎖構造候補が対応付けられるのが一般的である。糖鎖にシアル酸が含まれる場合、その糖鎖に対応する互いに異なる理論質量電荷比を示す糖鎖構造はシアル酸の結合様式の情報を含む。つまりは、そのシアル酸がα2,3結合型であるかα2,6結合型であるかを示す情報を有している。
イオンピーク毎に一又は複数の糖鎖構造候補が抽出され、各糖鎖構造候補には質量電荷比の偏差の情報が対応付けられている。そこで推定結果表示処理部28は、イオンピーク毎に、シアル酸の結合様式の情報を含む糖鎖構造候補の一覧の画面を作成し、ユーザが結果表示タブを開いたときに、そのタブに糖鎖構造候補の一覧を表示する(ステップS6)。
図4は、イソプロピルアミンを用いてシアル酸結合様式特異的化学修飾を行った場合の糖鎖イオンに対する糖鎖構造の推定結果である。この結果は、図5〜図7に示した条件の下での糖鎖構造の推定結果である。
例えば、図4においてm/z 2471.88のイオンピークに対応する1番目の糖鎖組成候補は「Neu5Ac(a2,3)」を含むから、α2,3−シアル酸を1個有する糖鎖である。また、m/z 2499.92のイオンピークに対応する1番目の糖鎖組成候補は、「Neu5Ac(a2,3)」と「Neu5Ac(a2,6)」とを共に含むから、1個のα2,6−シアル酸と1個のα2,3−シアル酸を有する糖鎖である。このように、糖鎖組成にシアル酸が含まれる場合には、その結合様式が情報として併せて表示されるから、ユーザはその糖鎖組成に含まれるシアル酸の個数だけでなく、各シアル酸の結合様式の情報も得ることができる。
以上のように本実施例の糖鎖構造解析システムにおけるデータ解析部2では、シアル酸結合様式を把握するために前処理用いた化学修飾試薬を検索条件の一つとして単に選択するだけで、糖鎖に含まれるシアル酸の数だけでなくシアル酸の結合様式の情報を得ることができる。
なお、上記実施例の糖鎖構造解析システムでは、予め設定された糖等の種類や個数の制限の下で総当たり的にコア構造を有する糖鎖構造を推定していたが、予め作成された糖鎖構造データベースを用いてコア構造を有する糖鎖構造を求めてもよい。その場合、各種の糖鎖構造とそれに対応する質量情報とを糖鎖構造データベースに収録しておき、ユーザは糖鎖組成を推定する際の条件を設定する代わりに糖鎖質量の範囲を探索条件として設定する。糖鎖コア構造質量計算部25は設定された質量を条件としてデータベース検索を実行し、条件を満たす糖鎖構造候補を推定すればよい。
また、上記実施例はあくまでも本発明の一例にすぎず、上記記載の変形例以外でも、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
1…質量分析部
2…データ解析部
21…データ格納部
22…ピーク検出部
23…糖鎖構造解析部
24…解析条件設定部
241…シアル酸結合様式特異的化学修飾条件設定部
25…糖鎖コア構造質量計算部
26…糖鎖理論質量電荷比計算部
261…シアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変化算出部
27…糖鎖構造推定部
28…推定結果表示処理部
3…入力部
4…表示部
50…メインウインドウ
51…タブ切替領域
52…「Sialic Acid Modification」設定タブ
53…設定対象領域
54…「Default」ボタン
55…「Analyze」ボタン
56…「Load Settings」ボタン
57…「Save Settings」ボタン
糖鎖コア構造情報取得部で得られる糖鎖は、修飾や置換、イオン化の際の特定物質の付加などが無い状態のものである。これに対し理論質量算出機能部は、条件設定部により設定された質量変動因子に基づいて質量を増加又は減少させることで、イオンとして質量分析により検出されるときの糖鎖の理論質量電荷比を計算する。このとき、シアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変動設定部で化学修飾が設定されている場合には、その化学修飾に対応してシアル酸結合様式毎に異なる質量を増加又は減少させた糖鎖理論質量電荷比を算出する。例えばα2,3結合型とα2,6結合型とを識別可能な化学修飾であれば、その二つの結合様式それぞれに異なる質量だけ糖鎖の質量が増加し、1種類のコア糖鎖構造にN個のシアル酸が含まれる場合に、N+1(= N+1 N)個の異なる糖鎖理論質量電荷比が求まることになる。
「Ion Species」設定タブは、糖鎖がイオン化したときのイオンの極性、価数、及び、イオン種をユーザが選択するためのタブである。「Ion Species」設定タブでは、イオン種として、正イオンではプロトン(H+)付加、ナトリウムイオン(Na+)付加、カリウムイオン(K+)付加などが選択可能であり、負イオンではプロトン(H-)脱離、塩素イオン(Cl-)付加、リン酸イオン(H2PO4 -)付加などが選択可能となっている。
以上のように本実施例の糖鎖構造解析システムにおけるデータ解析部2では、シアル酸結合様式を把握するために前処理用いた化学修飾試薬を検索条件の一つとして単に選択するだけで、糖鎖に含まれるシアル酸の数だけでなくシアル酸の結合様式の情報を得ることができる。

Claims (10)

  1. シアル酸結合様式に特異的な化学修飾試薬を用いて前処理されたシアル酸結合糖鎖又は該糖鎖により修飾された分子を含む試料を質量分析することで得られたマススペクトルデータに基づいて、シアル酸結合糖鎖の構造を解析する糖鎖構造解析装置であって、
    解析対象のイオン種、該イオン種の電荷の極性、及び、修飾によって糖鎖の質量変動を生じる質量変動因子、をユーザが設定するための条件設定部と、
    複数種類の複数個の単糖残基で構成されるコア構造を有する種々の糖鎖とそれに対応する質量情報とを取得する糖鎖コア構造情報取得部と、
    前記糖鎖コア構造情報取得部で取得された種々の糖鎖に対し、前記条件設定部で設定された質量変動因子に基づいて質量を増加又は減少させることで糖鎖理論質量電荷比を求める理論質量算出部と、
    前記糖鎖理論質量電荷比を、与えられたマススペクトルデータにおけるイオンピークの質量電荷比と照合することで糖鎖の構造を推定する糖鎖構造推定部と、
    を備え、前記条件設定部は、質量変動因子の一つとしてシアル酸の結合様式に特異的な化学修飾を他の修飾とは独立にユーザが設定することが可能であるシアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変動設定部を有し、
    前記理論質量算出部は、前記シアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変動設定部で設定された化学修飾に対応してシアル酸結合様式毎に質量を増加又は減少させた糖鎖理論質量電荷比を求めることを特徴とする糖鎖構造解析装置。
  2. 請求項1に記載の糖鎖構造解析装置であって、
    前記糖鎖コア構造情報取得部は、単糖残基の種類とその数の制約条件の下で想定される糖鎖構造を総当たり的に推定してコア構造を有する種々の糖鎖とそれに対応する質量情報とを求める、ことを特徴とする糖鎖構造解析装置。
  3. 請求項1に記載の糖鎖構造解析装置であって、
    各種の糖鎖構造と質量とが収録されている糖鎖構造データベースをさらに備え、
    前記糖鎖コア構造情報取得部は、ユーザにより設定された糖鎖の質量情報に基づいて前記糖鎖構造データベースに収録されている情報を検索することにより、コア構造を有する種々の糖鎖を求める、ことを特徴とする糖鎖構造解析装置。
  4. 請求項1に記載の糖鎖構造解析装置であって、
    前記糖鎖構造推定部により推定された糖鎖構造の情報を表示部に表示させる表示処理部をさらに備え、
    該表示処理部は、推定された糖鎖構造にシアル酸が含まれていて結合様式の識別が可能である場合に、シアル酸毎に結合様式を示す情報を付加して表示させる、ことを特徴とする糖鎖構造解析装置。
  5. 請求項1に記載の糖鎖構造解析装置であって、
    前記シアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変動設定部は、既定のシアル酸結合様式特異的化学修飾を選択可能であるとともに、それ以外の化学修飾についてシアル酸結合様式毎の質量変動値を入力可能であるものである、ことを特徴とする糖鎖構造解析装置。
  6. シアル酸結合様式に特異的な化学修飾試薬を用いて前処理されたシアル酸結合糖鎖又は該糖鎖により修飾された分子を含む試料を質量分析することで得られたマススペクトルデータに基づいて、シアル酸結合糖鎖の構造を解析するための糖鎖構造解析用プログラムであって、コンピュータを、
    解析対象のイオン種、該イオン種の電荷の極性、及び、修飾によって糖鎖の質量変動を生じる質量変動因子、をユーザに設定させる条件設定機能部と、
    複数種類の複数個の単糖残基で構成されるコア構造を有する種々の糖鎖とそれに対応する質量情報とを取得する糖鎖コア構造情報取得機能部と、
    前記糖鎖コア構造情報取得機能部により取得された種々の糖鎖に対し、前記条件設定機能部により設定された質量変動因子に基づいて質量を増加又は減少させることで糖鎖理論質量電荷比を求める理論質量算出機能部と、
    前記糖鎖理論質量電荷比を、与えられたマススペクトルデータにおけるイオンピークの質量電荷比と照合することで糖鎖の構造を推定する糖鎖構造推定機能部と、
    として動作させ、前記条件設定機能部は、質量変動因子の一つとしてシアル酸の結合様式に特異的な化学修飾を他の修飾とは独立にユーザに設定させ、
    前記理論質量算出機能部は、設定されたシアル酸結合様式に特異的な化学修飾に対応してシアル酸結合様式毎に質量を増加又は減少させた糖鎖理論質量電荷比を求めることを特徴とする糖鎖構造解析用プログラム。
  7. 請求項6に記載の糖鎖構造解析用プログラムであって、
    前記糖鎖コア構造情報取得機能部は、単糖残基の種類とその数の制約条件の下で想定される糖鎖構造を総当たり的に推定してコア構造を有する種々の糖鎖とそれに対応する質量情報とを求める、ことを特徴とする糖鎖構造解析用プログラム。
  8. 請求項6に記載の糖鎖構造解析用プログラムであって、
    前記糖鎖コア構造情報取得機能部は、ユーザにより設定された糖鎖の質量情報に基づいて、各種の糖鎖構造と質量とが収録されている糖鎖構造データベースに収録されている情報を検索することにより、コア構造を有する種々の糖鎖を求める、ことを特徴とする糖鎖構造解析用プログラム。
  9. 請求項6に記載の糖鎖構造解析用プログラムであって、
    前記糖鎖構造推定機能部により推定された糖鎖構造の情報を表示部の画面上に表示させる表示処理機能部をさらに有し、
    該表示処理機能部は、推定された糖鎖構造にシアル酸が含まれていて結合様式の識別が可能である場合に、シアル酸毎に結合様式を示す情報を付加して表示させる、ことを特徴とする糖鎖構造解析用プログラム。
  10. 請求項6に記載の糖鎖構造解析用プログラムであって、
    前記シアル酸結合様式特異的化学修飾対応質量変動設定機能部は、既定のシアル酸結合様式特異的化学修飾を選択可能であるとともに、それ以外の化学修飾についてシアル酸結合様式毎の質量変動値を入力可能である、ことを特徴とする糖鎖構造解析用プログラム。
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