JPWO2019155789A1 - ランダムエステル交換リパーゼ - Google Patents
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Abstract
食品用途に適した、ランダムエステル交換能を示す酵素を提供することを課題とする。油脂中での耐熱性が高いランダムエステル交換リパーゼが提供される。
Description
本発明はランダムエステル交換リパーゼ及びその用途に関する。本出願は、2018年2月9日に出願された日本国特許出願第2018−022441号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
油脂のエステル交換反応は油脂の物性(融点、結晶性、耐熱性等)を改質するのに有効な方法であり、化学的エステル交換と酵素的エステル交換の2つに大別される(例えば非特許文献1、2を参照)。化学的エステル交換には環境負荷が高いことや作業安全性が悪いことなど課題も多い。近年、トランス脂肪酸の健康リスクへの懸念から、トランス脂肪酸の原因となる部分水素添加の代替となるエステル交換油脂の製造が注目されており、酵素的なランダムエステル交換反応の需要が高まっている。酵素的ランダムエステル交換には、キャンディダ属(Candida)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、シュードモナス属(Pseudomonas)、フミコーラ属(商品名:ノボザイム社、Lipozyme TL IM)等の由来のリパーゼが利用できるとされている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献3、4を参照)。尚、本出願人は、先の特許出願(特許文献4)において、ランダムエステル交換能を示す、ジオバチルス属(Geobacillus)微生物由来の新規リパーゼを報告した。
油化学会誌, 48, 1151-1159 (1999)
オレオサイエンス, 6, 145-151 (2006)
J. Am. Oil Chem. Soc., 60, 291-294 (1983)
J. Am. Oil Chem. Soc., 75, 953-959 (1998)
特に食品用途において酵素的ランダムエステル交換のニーズは高い。しかしながら、食品用途に使用可能な酵素は実用化されていない。本発明は、この現状を打破すべく、食品用途に適した酵素(ランダムエステル交換リパーゼ)を提供することを課題とする。
本発明者らは、食品用途に適したランダムエステル交換リパーゼを見出すべく、約1,500株の微生物(細菌、酵母、糸状菌、放線菌等)を対象とした大規模スクリーニングを実施した。独自の工夫を加えた段階的なスクリーニングの結果、ランダムエステル交換活性が高く、且つ油脂中での耐熱性に優れた酵素(耐熱性ランダムエステル交換リパーゼ)を取得・同定することに成功した。更に、当該酵素のアミノ酸配列及び当該酵素をコードする遺伝子の塩基配列の同定にも成功した。以下の発明は、これらの成果に基づく。
[1]下記の酵素化学的性質を有するリパーゼ、
(1)作用:ランダムエステル交換反応を触媒する、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約41 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)油脂中での温度安定性:50℃以下で安定(トリカプリリンとステアリン酸メチルを基質とし、カプリリン酸メチル生成量を指標とした評価による)、
(4)油脂中での反応性:40〜80℃で反応させた場合に、80℃で最も高い反応性を示す(カカオバターを基質とし、トリパルミチン生成量を指標とした評価による)。
[2]下記の酵素化学的性質を更に有する、[1]に記載のリパーゼ、
(5)pH安定性:pH4〜6の範囲で安定(30℃、1時間)、
(6)至適pH:6。
[3]N末端アミノ酸配列がFSDNVYNKLVEITNYAKISY(配列番号1)である、[1]又は[2]に記載のリパーゼ。
[4]カンジダ・ニトラティボランス由来である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のリパーゼ。
[5]カンジダ・ニトラティボランスがNBRC 101137株又はその変異株である、[4]に記載のリパーゼ。
[6]配列番号2に示すアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と等価なアミノ酸配列を有するリパーゼ。
[7]等価なアミノ酸配列が、配列番号2に示すアミノ酸配列と75%以上同一のアミノ酸配列である、[6]に記載のリパーゼ。
[8][1]〜[7]のいずれか一項に記載のリパーゼを含む酵素剤。
[9][1]〜[7]のいずれか一項に記載のリパーゼを油脂に作用させるステップを含む、油脂のランダムエステル交換法。
[10]以下のステップ(1)及び(2)を含む、ランダムエステル交換用リパーゼの製造法:
(1)カンジダ・ニトラティボランスを培養するステップ;
(2)培養後の培養液及び/又は菌体よりリパーゼを回収するステップ。
[11]カンジダ・ニトラティボランスがNBRC 101137株である、[10]に記載の製造法。
[12][1]〜[7]のいずれか一項に記載のリパーゼを油脂に作用させるステップを含む、ランダムエステル交換油脂の製造方法。
[13]以下の(a)〜(c)からなる群より選択されるいずれかのDNAからなるリパーゼ遺伝子:
(a)配列番号2のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と等価なアミノ酸配列をコードするDNA;
(b)配列番号4又は5の塩基配列からなるDNA;
(c)配列番号4又は5の塩基配列と等価な塩基配列を有し、且つランダムエステル交換活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[14][13]に記載のリパーゼ遺伝子を含む組換えDNA。
[15][14]に記載の組換えDNAを保有する微生物。
[16]以下のステップ(i)及び(ii)を含む、リパーゼの製造法:
(i)[15]に記載の微生物を、前記遺伝子がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップ;
(ii)産生された前記タンパク質を回収するステップ。
[1]下記の酵素化学的性質を有するリパーゼ、
(1)作用:ランダムエステル交換反応を触媒する、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約41 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)油脂中での温度安定性:50℃以下で安定(トリカプリリンとステアリン酸メチルを基質とし、カプリリン酸メチル生成量を指標とした評価による)、
(4)油脂中での反応性:40〜80℃で反応させた場合に、80℃で最も高い反応性を示す(カカオバターを基質とし、トリパルミチン生成量を指標とした評価による)。
[2]下記の酵素化学的性質を更に有する、[1]に記載のリパーゼ、
(5)pH安定性:pH4〜6の範囲で安定(30℃、1時間)、
(6)至適pH:6。
[3]N末端アミノ酸配列がFSDNVYNKLVEITNYAKISY(配列番号1)である、[1]又は[2]に記載のリパーゼ。
[4]カンジダ・ニトラティボランス由来である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のリパーゼ。
[5]カンジダ・ニトラティボランスがNBRC 101137株又はその変異株である、[4]に記載のリパーゼ。
[6]配列番号2に示すアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と等価なアミノ酸配列を有するリパーゼ。
[7]等価なアミノ酸配列が、配列番号2に示すアミノ酸配列と75%以上同一のアミノ酸配列である、[6]に記載のリパーゼ。
[8][1]〜[7]のいずれか一項に記載のリパーゼを含む酵素剤。
[9][1]〜[7]のいずれか一項に記載のリパーゼを油脂に作用させるステップを含む、油脂のランダムエステル交換法。
[10]以下のステップ(1)及び(2)を含む、ランダムエステル交換用リパーゼの製造法:
(1)カンジダ・ニトラティボランスを培養するステップ;
(2)培養後の培養液及び/又は菌体よりリパーゼを回収するステップ。
[11]カンジダ・ニトラティボランスがNBRC 101137株である、[10]に記載の製造法。
[12][1]〜[7]のいずれか一項に記載のリパーゼを油脂に作用させるステップを含む、ランダムエステル交換油脂の製造方法。
[13]以下の(a)〜(c)からなる群より選択されるいずれかのDNAからなるリパーゼ遺伝子:
(a)配列番号2のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と等価なアミノ酸配列をコードするDNA;
(b)配列番号4又は5の塩基配列からなるDNA;
(c)配列番号4又は5の塩基配列と等価な塩基配列を有し、且つランダムエステル交換活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[14][13]に記載のリパーゼ遺伝子を含む組換えDNA。
[15][14]に記載の組換えDNAを保有する微生物。
[16]以下のステップ(i)及び(ii)を含む、リパーゼの製造法:
(i)[15]に記載の微生物を、前記遺伝子がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップ;
(ii)産生された前記タンパク質を回収するステップ。
1.用語
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。用語「単離された」は、天然の状態、即ち、自然界において存在している状態のものと区別するために使用される。単離するという人為的操作によって、天然の状態とは異なる状態である、「単離された状態」となる。単離されたものは、天然物自体と明確且つ決定的に相違する。
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。用語「単離された」は、天然の状態、即ち、自然界において存在している状態のものと区別するために使用される。単離するという人為的操作によって、天然の状態とは異なる状態である、「単離された状態」となる。単離されたものは、天然物自体と明確且つ決定的に相違する。
単離された酵素の純度は特に限定されない。但し、純度の高いことが要求される用途への適用が予定されるのであれば、単離された酵素の純度は高いことが好ましい。
2.新規リパーゼ
本発明の第1の局面は、本発明者らが取得・同定に成功し、その有用性を見出した新規リパーゼに関する。本発明のリパーゼ(以下、「本酵素」ともいう)は、以下の酵素化学的性質を備えることを特徴とする。
(1)作用
本酵素はリパーゼであり、ランダムエステル交換反応を触媒する。ランダムエステル交換活性は、カカオバター(カカオ脂)を基質とした方法(後述の「ランダムエステル交換活性測定法」)で評価することができる。カカオバターはオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等を構成脂肪酸として含み、主に2位にオレイン酸が結合したトリグリセリドを主成分とする。その為、パルミチン酸が1位、2位、3位の全てに結合しているトルパルミチン(PPP)はランダムエステル交換反応によってのみ生じる(1位又は3位のパルミチン酸を2位のオレイン酸と交換する必要があり、1位、3位特異的なリパーゼで反応をさせた場合は、2位にパルミチン酸が挿入されたトリグリセリドは生じない)。従って、トリパルミチン生成量を指標としてランダムエステル交換活性を評価することができる。後述のランダムエステル交換活性測定法にて評価した場合に、反応によってトリパルミチン(C48)の生成比が上昇していればランダムエステル交換反応を触媒すると言える。上昇の程度は特に限定されないが、好ましくはΔPPP(%)が0.01以上、より好ましくはΔPPP(%)が0.03以上、更に好ましくはΔPPP(%)が0.05以上であることが望ましい。
本発明の第1の局面は、本発明者らが取得・同定に成功し、その有用性を見出した新規リパーゼに関する。本発明のリパーゼ(以下、「本酵素」ともいう)は、以下の酵素化学的性質を備えることを特徴とする。
(1)作用
本酵素はリパーゼであり、ランダムエステル交換反応を触媒する。ランダムエステル交換活性は、カカオバター(カカオ脂)を基質とした方法(後述の「ランダムエステル交換活性測定法」)で評価することができる。カカオバターはオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等を構成脂肪酸として含み、主に2位にオレイン酸が結合したトリグリセリドを主成分とする。その為、パルミチン酸が1位、2位、3位の全てに結合しているトルパルミチン(PPP)はランダムエステル交換反応によってのみ生じる(1位又は3位のパルミチン酸を2位のオレイン酸と交換する必要があり、1位、3位特異的なリパーゼで反応をさせた場合は、2位にパルミチン酸が挿入されたトリグリセリドは生じない)。従って、トリパルミチン生成量を指標としてランダムエステル交換活性を評価することができる。後述のランダムエステル交換活性測定法にて評価した場合に、反応によってトリパルミチン(C48)の生成比が上昇していればランダムエステル交換反応を触媒すると言える。上昇の程度は特に限定されないが、好ましくはΔPPP(%)が0.01以上、より好ましくはΔPPP(%)が0.03以上、更に好ましくはΔPPP(%)が0.05以上であることが望ましい。
(2)分子量
本酵素は天然型(カンジダ・ニトラティボランスが産生する場合)では糖鎖を含み(即ち、糖タンパク質である)、N型糖鎖除去後の分子量、即ち、N型糖鎖を含まない場合の本酵素の分子量は約41 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)である。
本酵素は天然型(カンジダ・ニトラティボランスが産生する場合)では糖鎖を含み(即ち、糖タンパク質である)、N型糖鎖除去後の分子量、即ち、N型糖鎖を含まない場合の本酵素の分子量は約41 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)である。
(3)油脂中での温度安定性
油脂中での温度安定性は、トリカプリリンとステアリン酸メチルを基質とし、カプリリン酸メチル生成量を指標とした方法(詳細は後述する)によって評価することができる。本発明の酵素では、トリカプリリン中、1時間処理した場合、50℃以下であれば60%以上の活性を維持する。このように優れた温度安定性を示す本酵素は、比較的高温での処理が必要な食品用途(例えば融点の高い油脂の加工など)に適する。
油脂中での温度安定性は、トリカプリリンとステアリン酸メチルを基質とし、カプリリン酸メチル生成量を指標とした方法(詳細は後述する)によって評価することができる。本発明の酵素では、トリカプリリン中、1時間処理した場合、50℃以下であれば60%以上の活性を維持する。このように優れた温度安定性を示す本酵素は、比較的高温での処理が必要な食品用途(例えば融点の高い油脂の加工など)に適する。
(4)油脂中での反応性
油脂中での反応性は、カカオバターを基質とし、トリパルミチン生成量を指標とした方法(詳細は後述する)によって評価することができる。本酵素の油脂中において40〜80℃で反応させた場合に、80℃で最も高い反応性を示す。このように高温での反応性が高いことは、比較的高温での処理が必要な食品用途(例えば融点の高い油脂の加工など)に適する。
油脂中での反応性は、カカオバターを基質とし、トリパルミチン生成量を指標とした方法(詳細は後述する)によって評価することができる。本酵素の油脂中において40〜80℃で反応させた場合に、80℃で最も高い反応性を示す。このように高温での反応性が高いことは、比較的高温での処理が必要な食品用途(例えば融点の高い油脂の加工など)に適する。
本酵素を以下の酵素化学的性質(5)及び(6)で更に特徴付けることができる。
(5)pH安定性
本酵素はpH4〜6で安定した活性を示す。例えば、処理に供する酵素溶液のpHが4〜6の範囲内にあれば、30℃、1時間の処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。尚、pH安定性は、例えば、pH2〜3のpH域ではグリシン-塩酸緩衝液中、pH3〜6のpH域ではクエン酸緩衝液中、pH6〜8のpH域ではリン酸緩衝液中、pH8〜9のpH域ではTris-塩酸緩衝液中、pH9〜11のpH域では炭酸ナトリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
(5)pH安定性
本酵素はpH4〜6で安定した活性を示す。例えば、処理に供する酵素溶液のpHが4〜6の範囲内にあれば、30℃、1時間の処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。尚、pH安定性は、例えば、pH2〜3のpH域ではグリシン-塩酸緩衝液中、pH3〜6のpH域ではクエン酸緩衝液中、pH6〜8のpH域ではリン酸緩衝液中、pH8〜9のpH域ではTris-塩酸緩衝液中、pH9〜11のpH域では炭酸ナトリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
(6)至適pH
本酵素の至適pHは6である。至適pHは、例えば、pH2〜3のpH域ではグリシン-塩酸緩衝液中、pH3〜6のpH域ではクエン酸緩衝液中、pH6〜8のpH域ではリン酸緩衝液中、pH8〜9のpH域ではTris-塩酸緩衝液中、pH9〜11のpH域では炭酸ナトリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
本酵素の至適pHは6である。至適pHは、例えば、pH2〜3のpH域ではグリシン-塩酸緩衝液中、pH3〜6のpH域ではクエン酸緩衝液中、pH6〜8のpH域ではリン酸緩衝液中、pH8〜9のpH域ではTris-塩酸緩衝液中、pH9〜11のpH域では炭酸ナトリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
本酵素をその由来、即ち、「カンジダ・ニトラティボランス(Candida nitrativorans)」で更に特徴づけることができる。「カンジダ・ニトラティボランスに由来する」とは、カンジダ・ニトラティボランスに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい)が生産するリパーゼ、或いはカンジダ・ニトラティボランス(野生株であっても変異株であってもよい)のリパーゼ遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたリパーゼであることを意味する。従って、カンジダ・ニトラティボランスより取得したリパーゼ遺伝子(又は当該遺伝子を改変した遺伝子)又はそれと等価な塩基配列を有する遺伝子を導入した宿主微生物によって生産された組み換え体も、カンジダ・ニトラティボランスに由来するリパーゼに該当する。本酵素がそれに由来することになるカンジダ・ニトラティボランスのことを、説明の便宜上、本酵素の由来菌という。また、本酵素を生産するために用いた微生物(カンジダ・ニトラティボランス、宿主微生物)を生産菌という。
カンジダ・ニトラティボランスの具体例はNBRC 101137株である。NBRC 101137株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に保存された菌株(NBRC CultureカタログにNBRC 101137として掲載されている)であり、所定の手続を経ることにより、入手することができる。
NBRC 101137株由来の精製酵素(リパーゼ)のアミノ酸配列を解析した結果、N末端アミノ酸配列がFSDNVYNKLVEITNYAKISY(配列番号1)であることが明らかとなった。この事実に基づき、本酵素を当該N末端アミノ酸配列で更に特徴づけることができる。本酵素は配列番号1のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列と等価なアミノ酸配列をN末端に含むという、特徴を備える。
本発明者らの更なる検討の結果、NBRC 101137株が産生するリパーゼのアミノ酸配列(配列番号2)が決定された。そこで本発明の一態様は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質からなるという特徴を備える。ここで、一般に、あるタンパク質のアミノ酸配列の一部に改変を施した場合において改変後のタンパク質が改変前のタンパク質と同等の機能を有することがある。即ちアミノ酸配列の改変がタンパク質の機能に対して実質的な影響を与えず、タンパク質の機能が改変前後において維持されることがある。そこで本発明は他の態様として、配列番号2に示すアミノ酸配列と等価なアミノ酸配列からなり、ランダムエステル交換活性を有するタンパク質(以下、「等価タンパク質」ともいう)を提供する。
本明細書における「等価なアミノ酸配列」とは、基準となる配列(配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号2のアミノ酸配列)と一部で相違するが、当該相違がタンパク質の機能(ここではランダムエステル交換能)に実質的な影響を与えていないアミノ酸配列のことをいう。従って、配列番号1のアミノ酸配列が基準となる場合、N末端アミノ酸配列として等価なアミノ酸配列を有する酵素はランダムエステル交換反応を触媒する。活性の程度は、ランダムエステル交換リパーゼとしての機能を発揮できる限り特に限定されない。但し、基準となる配列をN末端に有する酵素と同程度又はそれよりも高いことが好ましい。配列番号2のアミノ酸配列が基準となる場合も同様に、等価なアミノ酸配列を有する酵素はランダムエステル交換反応を触媒する。活性の程度は、ランダムエステル交換リパーゼとしての機能を発揮できる限り特に限定されない。但し、基準となるアミノ酸配列(配列番号2)を有する酵素と同程度又はそれよりも高いことが好ましい。
配列番号1のアミノ酸配列が基準となる場合の「アミノ酸配列の一部の相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1〜数個(上限は例えば2個、3個、4個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1〜数個(上限は例えば2個、3個、4個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列の相違はランダムエステル交換能が保持される限り許容される(活性の多少の変動があってもよい)。この条件を満たす限り、アミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。即ち、等価なアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列が基準となる場合、例えば約75%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約85%以上、より一層好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性を有する。尚、アミノ酸配列の相違は複数の位置で生じていてもよい。
配列番号2のアミノ酸配列が基準となる場合の「アミノ酸配列の一部の相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1〜数個(上限は例えば2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1〜数個(上限は例えば2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列の相違はランダムエステル交換能が保持される限り許容される(活性の多少の変動があってもよい)。この条件を満たす限り、アミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの「複数」とは例えば全アミノ酸の約35%未満に相当する数、約20%未満に相当する数、約15%未満に相当する数又は約10%未満に相当する数であり、好ましくは約5%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約3%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約2%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。即ち等価タンパク質は、基準となるアミノ酸配列と例えば約75%以上、約80%以上、約85%以上又は約90%以上、好ましくは約95%以上、更に好ましくは約97%以上、より一層好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上(同一性のパーセンテージが高いほど好ましい)の同一性を有する。尚、アミノ酸配列の相違は複数の位置で生じていてもよい。
好ましくは、ランダムエステル交換能に必須でないアミノ酸残基において保存的アミノ酸置換が生じることによって等価なアミノ酸配列が得られる。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの核酸(以下、これらを含む用語として「二つの配列」を使用する)の同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい)。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。二つの配列の同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 × 100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数およびサイズも考慮に入れる。
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。本発明の核酸分子に等価なヌクレオチド配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。本酵素に等価なアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくはhttp://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の相同度を、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
本酵素が、より大きいタンパク質(例えば融合タンパク質)の一部であってもよい。融合タンパク質において付加される配列としては、例えば、多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、組み換え生産の際の安定性を確保する付加配列等が挙げられる。
上記アミノ酸配列を有する本酵素は、遺伝子工学的手法によって容易に調製することができる。例えば、本酵素をコードするDNAで適当な宿主細胞(例えば大腸菌)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製することができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜精製される。このように組換えタンパク質として本酵素を得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、本酵素をコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなる本酵素を得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
3.酵素剤
本酵素は例えば酵素剤の形態で提供される。酵素剤は、有効成分(本酵素)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。有効成分である本酵素の精製度は特に問わない。即ち、粗酵素であっても精製酵素であってもよい。賦形剤としては乳糖、ソルビトール、D-マンニトール、マルトデキストリン、白糖等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
本酵素は例えば酵素剤の形態で提供される。酵素剤は、有効成分(本酵素)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。有効成分である本酵素の精製度は特に問わない。即ち、粗酵素であっても精製酵素であってもよい。賦形剤としては乳糖、ソルビトール、D-マンニトール、マルトデキストリン、白糖等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
4.本酵素をコードする核酸等
本発明の第2の局面は本酵素に関連する核酸を提供する。即ち、本酵素をコードする遺伝子、本酵素をコードする核酸を同定するためのプローブとして用いることができる核酸、本酵素をコードする核酸を増幅又は突然変異等させるためのプライマーとして用いることができる核酸が提供される。
本発明の第2の局面は本酵素に関連する核酸を提供する。即ち、本酵素をコードする遺伝子、本酵素をコードする核酸を同定するためのプローブとして用いることができる核酸、本酵素をコードする核酸を増幅又は突然変異等させるためのプライマーとして用いることができる核酸が提供される。
本酵素をコードする遺伝子は典型的には本酵素の調製に利用される。本酵素をコードする遺伝子を用いた遺伝子工学的調製法によれば、より均質な状態の本酵素を得ることが可能である。また、当該方法は大量の本酵素を調製する場合にも好適な方法といえる。尚、本酵素をコードする遺伝子の用途は本酵素の調製に限られない。例えば、本酵素の作用機構の解明などを目的とした実験用のツールとして、或いは本酵素の変異体をデザイン又は作製するためのツールとして、当該核酸を利用することもできる。
本明細書において「本酵素をコードする遺伝子」とは、それを発現させた場合に本酵素が得られる核酸のことをいい、本酵素のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有する核酸は勿論のこと、そのような核酸にアミノ酸配列をコードしない配列が付加されてなる核酸をも含む。また、コドンの縮重も考慮される。開始コドンを含まない塩基配列を有する核酸に関しては、開始コドン、又は開始コドンを含むシグナルペプチドを付加した上で発現することで本酵素を得ることができる。
本酵素をコードする遺伝子の配列の例を配列番号4(成熟体の配列(配列番号2のアミノ酸配列)をコードするcDNA配列であり、シグナル配列を含まない)、配列番号5(シグナルペプチドを含む配列(配列番号3のアミノ酸配列)をコードするcDNA配列であり、シグナル配列を含む)に示す。
本発明の核酸は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって、単離された状態に調製することができる。
本発明の他の態様では、本酵素をコードする遺伝子の塩基配列と比較した場合にそれがコードするタンパク質の機能は同等であるものの一部において塩基配列が相違する核酸(以下、「等価核酸」ともいう。また、等価核酸を規定する塩基配列を「等価塩基配列」ともいう)が提供される。等価核酸の例として、本酵素をコードする核酸の塩基配列を基準として1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、本酵素に特徴的な酵素活性(即ちランダムエステル交換活性)を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該核酸がコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが例えば2〜40塩基、好ましくは2〜20塩基、より好ましくは2〜10塩基である。
等価核酸は、基準となる塩基配列(配列番号4の配列又は配列番号5の配列)に対して、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より一層好ましくは85%以上、さらに好ましくは約90%以上、さらに一層好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する。
以上のような等価核酸は例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などによって得られる。また、紫外線照射など他の方法によっても等価核酸を得ることができる。
本発明の他の態様は、本酵素をコードする遺伝子の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する核酸に関する。本発明の更に他の態様は、本発明の本酵素をコードする遺伝子の塩基配列、或いはそれに相補的な塩基配列に対して少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、99%、99.9%同一な塩基配列を有する核酸を提供する。
本発明の更に別の態様は、本酵素をコードする遺伝子の塩基配列又はその等価塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する核酸に関する。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃〜約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃〜約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
本発明の更に他の態様は、本酵素をコードする遺伝子の塩基配列、或いはそれに相補的な塩基配列の一部を有する核酸(核酸断片)を提供する。このような核酸断片は、本酵素をコードする遺伝子の塩基配列を有する核酸などを検出、同定、及び/又は増幅することなどに用いることができる。核酸断片は例えば、本酵素をコードする遺伝子の塩基配列において連続するヌクレオチド部分(例えば約10〜約100塩基長、好ましくは約20〜約100塩基長、更に好ましくは約30〜約100塩基長)にハイブリダイズする部分を少なくとも含むように設計される。プローブとして利用される場合には核酸断片を標識化することができる。標識化には例えば、蛍光物質、酵素、放射性同位元素を用いることができる。
本発明のさらに他の局面は、本発明の遺伝子(本酵素をコードする遺伝子)を含む組換えDNAに関する。本発明の組換えDNAは例えばベクターの形態で提供される。本明細書において用語「ベクター」は、それに挿入された核酸を細胞等のターゲット内へと輸送することができる核酸性分子をいう。
使用目的(クローニング、タンパク質の発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。大腸菌を宿主とするベクターとしてはM13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8、pTrcなど)等、酵母を宿主とするベクターとしてはpYepSec1、pMFa、pYES2、pPick3.5k等、昆虫細胞を宿主とするベクターとしてはpAc、pVL等、哺乳類細胞を宿主とするベクターとしてはpCDM8、pMT2PC等を例示することができる。
本発明のベクターは好ましくは発現ベクターである。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や、発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には、選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
本発明の核酸のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
宿主細胞としては、取り扱いの容易さの点から、細菌(大腸菌(Escherichia coli)、バチルス属(Bacillus subtilis等)等)、酵母(サッカロマイセス属(Saccharomyces cerevisiae等)、ピキア属(Pichia pastoris等)等)、糸状菌(アスペルギルス属(Aspergillus oryzae等)等)、放線菌(Streptomyces 属等)などの微生物を用いることが好ましいが、組換えDNAが複製可能で且つ本酵素の遺伝子が発現可能な宿主細胞であれば利用可能である。大腸菌の例としてT7系プロモーターを利用する場合は大腸菌BL21(DE3)、そうでない場合は大腸菌JM109、DH5αを挙げることができる。また、酵母の例として出芽酵母SHY2、出芽酵母AH22あるいは出芽酵母INVSc1(インビトロジェン社)、酵母Pichia pastris GS115(サーモフィッシャーサイエンス社)を挙げることができる。
本発明の更に他の局面は、本発明の組換えDNAを保有する微生物(即ち形質転換体)に関する。本発明の微生物は、上記本発明のベクターを用いたトランスフェクション乃至はトランスフォーメーションによって得ることができる。例えば、塩化カルシウム法(ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー(J.Mol. Biol.)、第53巻、第159頁 (1970))、ハナハン(Hanahan)法(ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー、第166巻、第557頁 (1983))、SEM法(ジーン(Gene)、第96巻、第23頁(1990)〕、チャング(Chung)らの方法(プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA、第86巻、第2172頁(1989))、リン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1984))等によって実施することができる。尚、本発明の微生物は、本酵素を生産することに利用することができる。
5.本酵素の製造法
本発明の更なる局面は本酵素の製造法を提供する。本発明の製造法の第1態様では、本酵素を産生する微生物を培養するステップ(ステップ(1))と培養後の培養液及び/又は菌体よりリパーゼを回収するステップ(ステップ(2))を行う。本酵素を産生する微生物はカンジダ・ニトラティボランスであり、好ましくは、カンジダ・ニトラティボランスNBRC 101137株又はその変異株である。変異株は、紫外線、X線、γ線などの照射、亜硝酸、ヒドロキルアミン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどによる処理等によって得ることができる。変異株は、本酵素を産生する限り限定されない。変異株として、本酵素の生産性が向上した株、夾雑物の生産性が低減した株、培養が容易になった株、培養液からの回収が容易になった株などが挙げられる。
本発明の更なる局面は本酵素の製造法を提供する。本発明の製造法の第1態様では、本酵素を産生する微生物を培養するステップ(ステップ(1))と培養後の培養液及び/又は菌体よりリパーゼを回収するステップ(ステップ(2))を行う。本酵素を産生する微生物はカンジダ・ニトラティボランスであり、好ましくは、カンジダ・ニトラティボランスNBRC 101137株又はその変異株である。変異株は、紫外線、X線、γ線などの照射、亜硝酸、ヒドロキルアミン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどによる処理等によって得ることができる。変異株は、本酵素を産生する限り限定されない。変異株として、本酵素の生産性が向上した株、夾雑物の生産性が低減した株、培養が容易になった株、培養液からの回収が容易になった株などが挙げられる。
培養条件や培養法は、本酵素が生産されるものである限り特に限定されない。即ち、本酵素が生産されることを条件として、使用する微生物の培養に適合した方法や培養条件を適宜設定できる。培養法としては液体培養、固体培養のいずれでも良いが、好ましくは液体培養が利用される。液体培養を例にとり、その培養条件を説明する。
培地としては、使用する微生物が生育可能な培地であれば、特に限定されない。例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。使用する微生物の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。培地のpHは例えば約3〜8、好ましくは約4〜7程度に調整し、培養温度は通常約20〜40℃、好ましくは約25〜35℃程度で、1〜20日間、好ましくは3〜10日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、ジャーファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。
以上の条件で培養した後、培養液又は菌体より目的の酵素を回収する(ステップ(2))。培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、イオン交換樹脂等の各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理などによって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより本酵素を得ることができる。尚、ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。
酵素の精製度は特に限定されないが、例えば比活性が0.1〜10(U/mg)、好ましくは比活性が1〜10(U/mg)の状態に精製することができる。また、最終的な形態は液体状であっても固体状(粉体状を含む)であってもよい。
本発明の他の態様では、上記の形質転換体を用いて本酵素を製造する。この態様の製造法ではまず、それに導入された遺伝子によってコードされるタンパク質が産生される条件下で上記の形質転換体を培養する(ステップ(i))。様々なベクター宿主系に関して形質転換体の培養条件が公知であり、当業者であれば適切な培養条件を容易に設定することができる。培養ステップに続き、産生されたタンパク質(即ち、本酵素)を回収する(ステップ(ii))。回収及びその後の精製については、上記態様の場合と同様に行えばよい。
上記のようにして得られた精製酵素を、例えば凍結乾燥や真空乾燥或いはスプレードライなどにより粉末化して提供することも可能である。その際、精製酵素を予め酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、トリス塩酸緩衝液やGOODの緩衝液に溶解させておいてもよい。好ましくは、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液を使用することができる。尚、ここでGOODの緩衝液としてはPIPES、MES又はMOPSが挙げられる。
通常は、以上のように適当な宿主−ベクター系を利用して遺伝子の発現〜発現産物(本酵素)の回収を行うが、無細胞合成系を利用することにしてもよい。ここで、「無細胞合成系(無細胞転写系、無細胞転写/翻訳系)」とは、生細胞を用いるのではく、生細胞由来の(或いは遺伝子工学的手法で得られた)リボソームや転写・翻訳因子などを用いて、鋳型である核酸(DNAやmRNA)からそれがコードするmRNAやタンパク質をin vitroで合成することをいう。無細胞合成系では一般に、細胞破砕液を必要に応じて精製して得られる細胞抽出液が使用される。細胞抽出液には一般に、タンパク質合成に必要なリボソーム、開始因子などの各種因子、tRNAなどの各種酵素が含まれる。タンパク質の合成を行う際には、この細胞抽出液に各種アミノ酸、ATP、GTPなどのエネルギー源、クレアチンリン酸など、タンパク質の合成に必要なその他の物質を添加する。勿論、タンパク質合成の際に、別途用意したリボソームや各種因子、及び/又は各種酵素などを必要に応じて補充してもよい。
タンパク質合成に必要な各分子(因子)を再構成した転写/翻訳系の開発も報告されている(Shimizu, Y. et al.: Nature Biotech., 19, 751-755, 2001)。この合成系では、バクテリアのタンパク質合成系を構成する3種類の開始因子、3種類の伸長因子、終結に関与する4種類の因子、各アミノ酸をtRNAに結合させる20種類のアミノアシルtRNA合成酵素、及びメチオニルtRNAホルミル転移酵素からなる31種類の因子の遺伝子を大腸菌ゲノムから増幅し、これらを用いてタンパク質合成系をin vitroで再構成している。本発明ではこのような再構成した合成系を利用してもよい。
用語「無細胞転写/翻訳系」は、無細胞タンパク質合成系、in vitro翻訳系又はin vitro転写/翻訳系と交換可能に使用される。in vitro翻訳系ではRNAが鋳型として用いられてタンパク質が合成される。鋳型RNAとしては全RNA、mRNA、in vitro転写産物などが使用される。他方のin vitro転写/翻訳系ではDNAが鋳型として用いられる。鋳型DNAはリボソーム結合領域を含むべきであって、また適切なターミネータ配列を含むことが好ましい。尚、in vitro転写/翻訳系では、転写反応及び翻訳反応が連続して進行するように各反応に必要な因子が添加された条件が設定される。
6.本酵素の用途(油脂のランダムエステル交換法)
本発明の更なる局面は本酵素の用途に関し、本酵素を用いた油脂のランダムエステル交換法を提供する。本発明のランダムエステル交換法では本酵素を触媒として用いる。換言すれば、本発明では本酵素を油脂に作用させるステップを行い、当該ステップによって油脂のランダムエステル交換、即ち、油脂中のトリアシルグリセロール(TG又はTAGと略称される)の構成脂肪酸を再編成(再配列)させる。
本発明の更なる局面は本酵素の用途に関し、本酵素を用いた油脂のランダムエステル交換法を提供する。本発明のランダムエステル交換法では本酵素を触媒として用いる。換言すれば、本発明では本酵素を油脂に作用させるステップを行い、当該ステップによって油脂のランダムエステル交換、即ち、油脂中のトリアシルグリセロール(TG又はTAGと略称される)の構成脂肪酸を再編成(再配列)させる。
本発明のランダムエステル交換法によって処理可能な油脂として、大豆油、ナタネ油、米油、コーン油、ひまわり油、綿実油、落花生油、サフラワー油、パーム油、パーム軟質油、パーム分別油、パーム核油、ヤシ油、カカオバター等の植物油脂、魚油、ラード、牛脂、乳脂等の動物油脂及びこれらの分別油、硬化油、トリラウリン、トリオレイン、トリパルミチン等の合成油脂を例示することができる。本発明のランダムエステル交換法は、油脂同士のエステル交換の他、油脂と脂肪酸又は脂肪酸エステルとの間のエステル交換に利用可能である。脂肪酸の例はステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸であり、脂肪酸エステルの例はステアリン酸エチル、パルミチン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチルである。
本発明のランダムエステル交換法では、本酵素を油脂に添加し(本酵素を含有する酵素剤を添加することにしてもよい)、例えば30〜100℃、好ましくは35〜80℃の条件下、所定時間(例えば5時間〜48時間)反応させる。反応を促進させるために、反応中は攪拌するとよい。
反応に供する酵素として、固定化した本酵素を使用することにしてもよい。固定化酵素による反応には、回分式攪拌槽型反応器、流通式攪拌槽型反応器、充填層型反応器、流動層型反応器等を利用できる。
本発明のランダムエステル交換法は油脂又は油脂加工品(例えばショートニング、マーガリン)の物性の改質・改良に有用である。例えば、展延性の向上、エマルジョン安定性の向上、固体脂含有値(SFC)の最適化、固化性の向上、特定の脂肪酸の選択的濃縮、低トランス酸油脂又は低トランス酸油脂加工品の製造等を目的として、本発明のランダムエステル交換法を適用することができる。本発明のランダムエステル交換法を適用して得られる油脂又はそれを含む油脂加工品は、処理前に比して物性に改善を認め、産業上の利用価値が高い。
以上の説明から明らかな通り、本発明のランダムエステル交換法によればランダムエステル交換油脂を製造することができる。即ち、本発明はランダムエステル交換油脂の製造方法も提供することになる。典型的には、本発明のランダムエステル交換油脂の製造方法では、受容体基質(油脂(トリグリセリド)、グリセリン脂肪酸エステル(ジグリセリド、モノグリセリド)、グリセリン)と供与体基質(脂肪酸、エステル化合物(脂肪酸エステルなど)若しくは油脂(受容体基質と同じでもよい))を準備する工程と、本発明の酵素を作用させる工程(即ち受容体基質と供与体基質の存在下での酵素反応)が行われる。受容体基質や供与体基質に使用される油脂、脂肪酸、脂肪酸エステルは上記のものが使用することができる。酵素反応の条件は上記の条件(例えば30〜100℃、好ましくは35〜80℃の条件下、所定時間(例えば5時間〜48時間)反応させる)を採用することができる。
<リパーゼ活性測定法>
特に記載がない限り、リパーゼ活性(加水分解活性)の測定はリパーゼキットS(DSファーマ製)を使用し、キット添付のマニュアルに従い行った。但し、緩衝液にはpH7に調整した付属緩衝液を使用し、反応停止液にはアセトンを使用した。以下計算式によってリパーゼ活性を算出した。
U/mL=(A412 sample−A412 blank)×1/0.05 × n
(但し、A412 sampleはサンプルの412nmの吸光度、A412 blankはブランクの412nmの吸光度、0.05はサンプル添加量(mL)、nは希釈倍率)
特に記載がない限り、リパーゼ活性(加水分解活性)の測定はリパーゼキットS(DSファーマ製)を使用し、キット添付のマニュアルに従い行った。但し、緩衝液にはpH7に調整した付属緩衝液を使用し、反応停止液にはアセトンを使用した。以下計算式によってリパーゼ活性を算出した。
U/mL=(A412 sample−A412 blank)×1/0.05 × n
(但し、A412 sampleはサンプルの412nmの吸光度、A412 blankはブランクの412nmの吸光度、0.05はサンプル添加量(mL)、nは希釈倍率)
<pH安定性の測定>
以下の緩衝液、即ち、1M グリシン-塩酸緩衝液(pH2,3)、1M クエン酸緩衝液(pH3,4,5,6)、1M リン酸緩衝液(pH6,7,8)、1M Tris-塩酸緩衝液(pH8,9)、1M 炭酸ナトリウム緩衝液(pH9,10,11)を使用した。酵素溶液を等量の各緩衝液と混合し、30℃にて1時間処理した。処理後のサンプルを用い、以下の方法でリパーゼ活性を測定した。まず、0.5M PIPES溶液(pH7) 0.45mLにリパーゼキットS発色原液0.05mLとリパーゼキットS基質液0.05mLを添加し、30℃で5分間加温した。次に、酵素溶液を0.025mL添加し、正確に15分間反応させた後、1mLのエタノールを添加して反応を停止させた。遠心処理して上清を回収し、吸光度(412nm)を測定した。上記の計算式を用い、リパーゼ活性を算出した。
以下の緩衝液、即ち、1M グリシン-塩酸緩衝液(pH2,3)、1M クエン酸緩衝液(pH3,4,5,6)、1M リン酸緩衝液(pH6,7,8)、1M Tris-塩酸緩衝液(pH8,9)、1M 炭酸ナトリウム緩衝液(pH9,10,11)を使用した。酵素溶液を等量の各緩衝液と混合し、30℃にて1時間処理した。処理後のサンプルを用い、以下の方法でリパーゼ活性を測定した。まず、0.5M PIPES溶液(pH7) 0.45mLにリパーゼキットS発色原液0.05mLとリパーゼキットS基質液0.05mLを添加し、30℃で5分間加温した。次に、酵素溶液を0.025mL添加し、正確に15分間反応させた後、1mLのエタノールを添加して反応を停止させた。遠心処理して上清を回収し、吸光度(412nm)を測定した。上記の計算式を用い、リパーゼ活性を算出した。
<至適pHの測定>
以下の緩衝液、即ち、50mM グリシン-塩酸緩衝液(pH2,3)、50mM クエン酸緩衝液(pH3,4,5,6)、50mM リン酸緩衝液(pH6,7,8)、100mM Tris-塩酸緩衝液(pH8,9)、100mM 炭酸ナトリウム緩衝液(pH9,10,11)を使用した。まず、各緩衝液0.45mLにリパーゼキットS発色原液0.05mLとリパーゼキットS基質液0.05mLを添加し、30℃で5分間加温した。次に、酵素溶液を0.025mL添加し、正確に15分間反応させた後、1mLのリパーゼキットS反応停止液を添加した。続いて0.3mLの1M Tris-HCl(pH9)を添加した後、吸光度(412nm)を測定した。上記の計算式を用い、リパーゼ活性を算出した。
以下の緩衝液、即ち、50mM グリシン-塩酸緩衝液(pH2,3)、50mM クエン酸緩衝液(pH3,4,5,6)、50mM リン酸緩衝液(pH6,7,8)、100mM Tris-塩酸緩衝液(pH8,9)、100mM 炭酸ナトリウム緩衝液(pH9,10,11)を使用した。まず、各緩衝液0.45mLにリパーゼキットS発色原液0.05mLとリパーゼキットS基質液0.05mLを添加し、30℃で5分間加温した。次に、酵素溶液を0.025mL添加し、正確に15分間反応させた後、1mLのリパーゼキットS反応停止液を添加した。続いて0.3mLの1M Tris-HCl(pH9)を添加した後、吸光度(412nm)を測定した。上記の計算式を用い、リパーゼ活性を算出した。
<ランダムエステル交換活性測定法>
酵素溶液を凍結乾燥させ、酵素1U(リパーゼ活性)あたり1mLのカカオバター(大東カカオ製)と2μLの超純水を添加し、60℃で撹拌しながら反応させた。各測定時間で反応液をサンプリングし、10μLを1mLのヘキサンに溶解させ、ガスクロマトグラフィー用サンプルとした。ガスクロマトグラフィー分析(カラム:DB-1HT(J&W社, 5 m×0.25 mm, df 0.1μm)、温度条件:120℃、4分間保持後、20℃/分の速度で150℃まで昇温、さらに30℃/分の速度で315℃まで昇温後3分間保持、その後1.5℃/分の速度で325℃まで昇温、さらに30℃/分の速度で370℃まで昇温後2分間保持、検出器:FID、キャリアーガス:ヘリウム)により、トリグリセリド分子種中のトリパルミチン(C48)(PPP)の組成比を算出し、C48の生成比の上昇、即ち、「(反応油脂のトリグリセリド画分中のPPPの組成比)−(基質油脂のトリグリセリド画分中のPPPの組成比)」(ΔPPP(%))を指標として、各酵素のランダムエステル交換能を評価した。
酵素溶液を凍結乾燥させ、酵素1U(リパーゼ活性)あたり1mLのカカオバター(大東カカオ製)と2μLの超純水を添加し、60℃で撹拌しながら反応させた。各測定時間で反応液をサンプリングし、10μLを1mLのヘキサンに溶解させ、ガスクロマトグラフィー用サンプルとした。ガスクロマトグラフィー分析(カラム:DB-1HT(J&W社, 5 m×0.25 mm, df 0.1μm)、温度条件:120℃、4分間保持後、20℃/分の速度で150℃まで昇温、さらに30℃/分の速度で315℃まで昇温後3分間保持、その後1.5℃/分の速度で325℃まで昇温、さらに30℃/分の速度で370℃まで昇温後2分間保持、検出器:FID、キャリアーガス:ヘリウム)により、トリグリセリド分子種中のトリパルミチン(C48)(PPP)の組成比を算出し、C48の生成比の上昇、即ち、「(反応油脂のトリグリセリド画分中のPPPの組成比)−(基質油脂のトリグリセリド画分中のPPPの組成比)」(ΔPPP(%))を指標として、各酵素のランダムエステル交換能を評価した。
<油脂中での熱安定性の評価>
(1)温度安定性の評価
凍結乾燥した1U相当の酵素粉末に、トリカプリリン(和光純薬工業(株)製)0.5mLを添加し、よく懸濁した。各温度で1時間熱処理を実施した。各液を60℃で10分間プレインキュベーションした後、60℃で予熱しておいたステアリン酸メチル(和光純薬工業(株)製)0.5mLを添加しよく懸濁し、60℃で酵素反応を2時間行った。反応後の溶液30μLを1mLのヘキサンに溶解させガスクロマトグラフィーのサンプルとした。
(1)温度安定性の評価
凍結乾燥した1U相当の酵素粉末に、トリカプリリン(和光純薬工業(株)製)0.5mLを添加し、よく懸濁した。各温度で1時間熱処理を実施した。各液を60℃で10分間プレインキュベーションした後、60℃で予熱しておいたステアリン酸メチル(和光純薬工業(株)製)0.5mLを添加しよく懸濁し、60℃で酵素反応を2時間行った。反応後の溶液30μLを1mLのヘキサンに溶解させガスクロマトグラフィーのサンプルとした。
ガスクロマトグラフィー分析(カラム:DB-1HT(J&W社, 5 m×0.25 mm, df 0.1μm)、温度条件:50℃、1分間保持後、40℃/分の速度で370℃まで昇温、検出器:FID、キャリアーガス:ヘリウム)により、酵素反応(エステル交換)の結果として生成したカプリリン酸メチルの生成量のエリア値を求め、未処理のサンプルに対する残存活性を比較した。
(2)油脂中での反応性の評価
5U相当の酵素粉末(凍結乾燥体)をカカオバターに懸濁し、カカオバター1mLあたり2μLの精製水を添加し、反応を開始した。反応開始8時間後のトリパルミチン生成量を反応温度間で比較した。
5U相当の酵素粉末(凍結乾燥体)をカカオバターに懸濁し、カカオバター1mLあたり2μLの精製水を添加し、反応を開始した。反応開始8時間後のトリパルミチン生成量を反応温度間で比較した。
1.スクリーニング
ランダムエステル交換活性を示す菌を見出すべく、細菌、酵母、糸状菌、放線菌を含む約1500株をスクリーニングに供した。1次スクリーニングでは、大豆油0.5%を含む各プレートにて菌を生育させてハローを形成させ、その後55℃でさらにインキュベートし、ハローが拡大する株を耐熱性リパーゼ生産菌として選抜した。
ランダムエステル交換活性を示す菌を見出すべく、細菌、酵母、糸状菌、放線菌を含む約1500株をスクリーニングに供した。1次スクリーニングでは、大豆油0.5%を含む各プレートにて菌を生育させてハローを形成させ、その後55℃でさらにインキュベートし、ハローが拡大する株を耐熱性リパーゼ生産菌として選抜した。
2次スクリーニングでは、1次スクリーニングで選抜した株を液体培養した培養液を60℃での真空乾燥により粉末化し、1mLのカカオバターと2μlの水を添加した後、8日間反応させた。ランダムエステル交換の指標としたトリパルミチンの生成をガスクロマトグラフィー(GC)で確認できた株(表1)を次のスクリーニングに供した。
3次スクリーニングでは、酵素活性を一定(6U)にした条件の下、2次スクリーニングと同様にトリパルミチンの生成量で評価した(12日間反応)。その結果、高いランダムエステル交換活性を有する菌株としてカンジダ・ニトラティボランス(Candida nitrativorans)NBRC 101137株が見出された。
2.粗酵素の取得
500mL坂口フラスコに前培養培地100mLを入れて蒸気殺菌後カンジダ・ニトラティボランス(Candida nitrativorans)NBRC 101137株を1白金耳接種し、27℃で4日間培養し、前培養液を得た。
<前培養培地>
Yeast extract. (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 0.3%
Malto extract. (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 0.3%
Bacto Peptone (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 0.5%
含水結晶ブドウ糖 1.0%
大豆サラダ油 0.5%
pH 6.2
500mL坂口フラスコに前培養培地100mLを入れて蒸気殺菌後カンジダ・ニトラティボランス(Candida nitrativorans)NBRC 101137株を1白金耳接種し、27℃で4日間培養し、前培養液を得た。
<前培養培地>
Yeast extract. (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 0.3%
Malto extract. (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 0.3%
Bacto Peptone (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 0.5%
含水結晶ブドウ糖 1.0%
大豆サラダ油 0.5%
pH 6.2
容量30 Lのジャーファーメンターに本培養培地を入れて蒸気殺菌後、前培養液を添加し、27℃、撹拌数250rpm、通気量0.5vvmにて4日間培養し、培養液を取得した。
<本培養培地>
Yeast extract. (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 0.9%
Malto extract. (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 0.9%
Peptone (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 1.5%
含水結晶ブドウ糖(サンエイ糖化製) 3.0%
大豆サラダ油(日清オイリオ) 1.5%
pH 6.2
<本培養培地>
Yeast extract. (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 0.9%
Malto extract. (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 0.9%
Peptone (ベクトン・ディッキンソン株式会社製) 1.5%
含水結晶ブドウ糖(サンエイ糖化製) 3.0%
大豆サラダ油(日清オイリオ) 1.5%
pH 6.2
得られた培養液を遠心分離し、培養上清を回収した。培養上清を珪藻土濾過に供し、清澄液を得た。清澄液を限外濾過により濃縮脱塩し、得られた脱塩液(粗酵素液)を凍結乾燥することにより粗酵素粉末とした。粗酵素液の一部は酵素の精製に使用した。
3.酵素化学的特性の評価
(1)pH安定性と至適pH
粗酵素粉末を水に溶解し、酵素溶液とした。酵素溶液を用い、上記の測定法でpH安定性と至適pHを測定した。測定結果を図1(pH安定性)と図2(至適pH)に示す。pH4〜6で高い活性維持(30℃で1時間処理後80%以上残存)し、至適pHは6であった。
(1)pH安定性と至適pH
粗酵素粉末を水に溶解し、酵素溶液とした。酵素溶液を用い、上記の測定法でpH安定性と至適pHを測定した。測定結果を図1(pH安定性)と図2(至適pH)に示す。pH4〜6で高い活性維持(30℃で1時間処理後80%以上残存)し、至適pHは6であった。
(2)油脂中での温度安定性と反応性
粗酵素粉末を用い、上記の評価法で油脂中での温度安定性と反応性を評価した。結果を図3(温度安定性)と図4(反応性)に示す。50℃まで安定であり(トリカプリリン中、1時間処理した場合、50℃以下であれば60%以上の活性を維持)、温度安定性に優れていた。また、油脂中において40〜80℃の範囲では80℃で最も高い反応性を示した。
粗酵素粉末を用い、上記の評価法で油脂中での温度安定性と反応性を評価した。結果を図3(温度安定性)と図4(反応性)に示す。50℃まで安定であり(トリカプリリン中、1時間処理した場合、50℃以下であれば60%以上の活性を維持)、温度安定性に優れていた。また、油脂中において40〜80℃の範囲では80℃で最も高い反応性を示した。
4.酵素の精製と分子量の測定
粗酵素液を陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAE Sepharose (GEヘルスケア社製)を使用)に供した。カラムは20mMリン酸Na緩衝液 pH7.0+0.1%(V/V)Triton X-100で平衡化し、NaCl(0→2M) 30CVのリニアグラジエントで溶出した。リパーゼ活性(加水分解活性)を指標に分画した。精製チャートを図5に示す。リパーゼ活性を含む複数の画分を確認できたため、これらの画分をSDS-PAGEに供した。一方、活性がピークとなる画分(活性メインピーク画分)についてはEndo-Hf(New England Biolabs製)で処理し(N型糖鎖の除去)、処理前後の分子量をSDS-PAGEで比較した。
粗酵素液を陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAE Sepharose (GEヘルスケア社製)を使用)に供した。カラムは20mMリン酸Na緩衝液 pH7.0+0.1%(V/V)Triton X-100で平衡化し、NaCl(0→2M) 30CVのリニアグラジエントで溶出した。リパーゼ活性(加水分解活性)を指標に分画した。精製チャートを図5に示す。リパーゼ活性を含む複数の画分を確認できたため、これらの画分をSDS-PAGEに供した。一方、活性がピークとなる画分(活性メインピーク画分)についてはEndo-Hf(New England Biolabs製)で処理し(N型糖鎖の除去)、処理前後の分子量をSDS-PAGEで比較した。
精製画分のSDS-PAGEの結果を図6Aに示す。また、活性画分のEndo-Hf処理の結果を図6Bに示す。目的の酵素(リパーゼ)のEndo-Hf処理後(N型糖鎖除去後)の分子量は約41 kDaであった。尚、精製酵素のアミノ酸配列を解析した結果、N末端アミノ酸配列はFSDNVYNKLVEITNYAKISY(配列番号1)であり、同属菌(Wickerhamomyces ciferrii)の推定リパーゼ(putative lipase)の配列と高い相同性(90%)を示した(目的の酵素を精製できていることが裏付けられた)。
5.精製酵素のランダムエステル交換活性の確認
精製画分(画分24、25を回収し、濃縮脱塩したもの)を使用し、ランダムエステル交換活性を測定した。その結果、精製画分においてもトリパルミチン(PPP)の生成が確認でき(図7)、目的の酵素の精製に成功していることが示された。
精製画分(画分24、25を回収し、濃縮脱塩したもの)を使用し、ランダムエステル交換活性を測定した。その結果、精製画分においてもトリパルミチン(PPP)の生成が確認でき(図7)、目的の酵素の精製に成功していることが示された。
6.遺伝子クローニング
C. nitrativorans NBRC 101137株を、1.5% 大豆サラダ油を添加した3倍濃度YM培地(Yeast extract. (Bacto) 0.9%、Malto extract. (Bacto) 0.9%、Peptone (Bacto) 1.5%、含水結晶ブドウ糖3.0%、大豆サラダ油1.5%)(pH6.2)にて1日間培養し、菌体を遠心分離で回収した。回収した菌体はTE緩衝液(pH8.0)を用いて十分に洗浄した。獲得した菌体を溶菌酵素溶液(1M sorbitol, 0.1M EDTA, 0.1M DTT, 100U/mL Zymolyase pH7.4)で37℃、60分間処理し、スフェロプラスト化した。RNAiso Plus(タカラバイオ製)を使用し、スフェロプラスト化した菌体から、添付のプロトコールに従ってtotal RNAを抽出した。続いて、OligotexTM-dT30<Sup er> mRNA Purification Kit(タカラバイオ製)を使用し、添付のプロトコールに従ってmRNAを調製した。
C. nitrativorans NBRC 101137株を、1.5% 大豆サラダ油を添加した3倍濃度YM培地(Yeast extract. (Bacto) 0.9%、Malto extract. (Bacto) 0.9%、Peptone (Bacto) 1.5%、含水結晶ブドウ糖3.0%、大豆サラダ油1.5%)(pH6.2)にて1日間培養し、菌体を遠心分離で回収した。回収した菌体はTE緩衝液(pH8.0)を用いて十分に洗浄した。獲得した菌体を溶菌酵素溶液(1M sorbitol, 0.1M EDTA, 0.1M DTT, 100U/mL Zymolyase pH7.4)で37℃、60分間処理し、スフェロプラスト化した。RNAiso Plus(タカラバイオ製)を使用し、スフェロプラスト化した菌体から、添付のプロトコールに従ってtotal RNAを抽出した。続いて、OligotexTM-dT30<Sup er> mRNA Purification Kit(タカラバイオ製)を使用し、添付のプロトコールに従ってmRNAを調製した。
PrimeScriptTM High Fidelity RT-PCR Kit(タカラバイオ製)を使用し、添付のプロトコールに従ってcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、構造遺伝子の上流に相同性のあるプライマー(NO.1REL_N_forward:5’-ATGAAATTATCCCAATTGATCC-3’:配列番号6)と構造遺伝子の下流に相同性のあるプライマー(NO.9REL_C_reverse:5’-TTAGATGTCTAAATCGTTACATG-3’:配列番号7)を使用し、PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase(タカラバイオ製)を用い、添付のプロトコ−ルに従ってPCRを実施した。増幅が確認された約1000bpの増幅産物を、Mighty TA-cloning Kit(タカラバイオ製)を用いてクローニングし、配列(配列番号5)を確認した。
7.組換え発現
Pichia発現系を利用し、得られたcDNAが目的酵素の遺伝子であることを確認した。cDNA配列(配列番号5)の開始コドンから終始コドンまでをPCRで増幅し、pPick3.5k(サーモフィッシャーサイエンス製)のsnaBIサイトに常法に従ってクローニングし、発現ベクターpPick3.5k-REL NO.1を作成した。pPick3.5k-REL NO.1を制限酵素SalIで切断し、PCI・エタノール沈殿により直鎖状DNAを回収した。回収したDNAを用い、定法に従ってPichia pastris GS115(サーモフィッシャーサイエンス製)をエレクトロポレーションで形質転換し、形質転換体を得た。形質転換体をBMGY培地(2%バクトペプトン、1%イーストエキストラクト、1%グリセリン、0.67%イーストニトロゲンベース(YNB(硫酸アンモニウムを含む、アミノ酸を含まない))、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、0.00004% D-ビオチン)で30℃、2日間培養し、得られた菌体をBMMY培地(2%バクトペプトン、1%イーストエキストラクト、0.5%メタノール、0.67%イーストニトロゲンベース(YNB(硫酸アンモニウムを含む、アミノ酸を含まない))、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、0.00004% D-ビオチン)に懸濁し、メタノールを適宜添加しながら30℃、3日間培養した。遠心分離により上清を回収し、粗酵素液を得た。得られた粗酵素液のリパーゼ活性を前記方法に従い確認した。
Pichia発現系を利用し、得られたcDNAが目的酵素の遺伝子であることを確認した。cDNA配列(配列番号5)の開始コドンから終始コドンまでをPCRで増幅し、pPick3.5k(サーモフィッシャーサイエンス製)のsnaBIサイトに常法に従ってクローニングし、発現ベクターpPick3.5k-REL NO.1を作成した。pPick3.5k-REL NO.1を制限酵素SalIで切断し、PCI・エタノール沈殿により直鎖状DNAを回収した。回収したDNAを用い、定法に従ってPichia pastris GS115(サーモフィッシャーサイエンス製)をエレクトロポレーションで形質転換し、形質転換体を得た。形質転換体をBMGY培地(2%バクトペプトン、1%イーストエキストラクト、1%グリセリン、0.67%イーストニトロゲンベース(YNB(硫酸アンモニウムを含む、アミノ酸を含まない))、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、0.00004% D-ビオチン)で30℃、2日間培養し、得られた菌体をBMMY培地(2%バクトペプトン、1%イーストエキストラクト、0.5%メタノール、0.67%イーストニトロゲンベース(YNB(硫酸アンモニウムを含む、アミノ酸を含まない))、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、0.00004% D-ビオチン)に懸濁し、メタノールを適宜添加しながら30℃、3日間培養した。遠心分離により上清を回収し、粗酵素液を得た。得られた粗酵素液のリパーゼ活性を前記方法に従い確認した。
8.ランダムエステル交換活性の確認
得られた粗酵素液を用いて、ランダムエステル交換活性を前記方法に従い確認した。その結果を図8に示す。トリパルミチン(PPP)の生成が認められ(図8)、配列番号5の配列が目的酵素(ランダムエステル交換活性を示すリパーゼ)の遺伝子(cDNA)であることが確認された。配列番号5の配列がコードする目的酵素のアミノ酸配列を配列番号3に示す。配列番号5の配列の5'末端側54塩基はシグナル配列であり、シグナル配列を除いた配列(配列番号4)が成熟体酵素(シグナルペプチドを含まない)のアミノ酸配列(配列番号2)をコードする。
得られた粗酵素液を用いて、ランダムエステル交換活性を前記方法に従い確認した。その結果を図8に示す。トリパルミチン(PPP)の生成が認められ(図8)、配列番号5の配列が目的酵素(ランダムエステル交換活性を示すリパーゼ)の遺伝子(cDNA)であることが確認された。配列番号5の配列がコードする目的酵素のアミノ酸配列を配列番号3に示す。配列番号5の配列の5'末端側54塩基はシグナル配列であり、シグナル配列を除いた配列(配列番号4)が成熟体酵素(シグナルペプチドを含まない)のアミノ酸配列(配列番号2)をコードする。
本発明のランダムエステル交換リパーゼは耐熱性が高く、食品用途での使用に適する。本発明のランダムエステル交換リパーゼは、例えば、マーガリンやショートニング等の食用油脂の改質に利用される。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
Claims (16)
- 下記の酵素化学的性質を有するリパーゼ、
(1)作用:ランダムエステル交換反応を触媒する、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約41 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)油脂中での温度安定性:50℃以下で安定(トリカプリリンとステアリン酸メチルを基質とし、カプリリン酸メチル生成量を指標とした評価による)、
(4)油脂中での反応性:40〜80℃で反応させた場合に、80℃で最も高い反応性を示す(カカオバターを基質とし、トリパルミチン生成量を指標とした評価による)。 - 下記の酵素化学的性質を更に有する、請求項1に記載のリパーゼ、
(5)pH安定性:pH4〜6の範囲で安定(30℃、1時間)、
(6)至適pH:6。 - N末端アミノ酸配列がFSDNVYNKLVEITNYAKISY(配列番号1)である、請求項1又は2に記載のリパーゼ。
- カンジダ・ニトラティボランス由来である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリパーゼ。
- カンジダ・ニトラティボランスがNBRC 101137株又はその変異株である、請求項4に記載のリパーゼ。
- 配列番号2に示すアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と等価なアミノ酸配列を有するリパーゼ。
- 等価なアミノ酸配列が、配列番号2に示すアミノ酸配列と75%以上同一のアミノ酸配列である、請求項6に記載のリパーゼ。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載のリパーゼを含む酵素剤。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載のリパーゼを油脂に作用させるステップを含む、油脂のランダムエステル交換法。
- 以下のステップ(1)及び(2)を含む、ランダムエステル交換用リパーゼの製造法:
(1)カンジダ・ニトラティボランスを培養するステップ;
(2)培養後の培養液及び/又は菌体よりリパーゼを回収するステップ。 - カンジダ・ニトラティボランスがNBRC 101137株である、請求項10に記載の製造法。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載のリパーゼを油脂に作用させるステップを含む、ランダムエステル交換油脂の製造方法。
- 以下の(a)〜(c)からなる群より選択されるいずれかのDNAからなるリパーゼ遺伝子:
(a)配列番号2のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と等価なアミノ酸配列をコードするDNA;
(b)配列番号4又は5の塩基配列からなるDNA;
(c)配列番号4又は5の塩基配列と等価な塩基配列を有し、且つランダムエステル交換活性を有するタンパク質をコードするDNA。 - 請求項13に記載のリパーゼ遺伝子を含む組換えDNA。
- 請求項14に記載の組換えDNAを保有する微生物。
- 以下のステップ(i)及び(ii)を含む、リパーゼの製造法:
(i)請求項15に記載の微生物を、前記遺伝子がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップ;
(ii)産生された前記タンパク質を回収するステップ。
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Also Published As
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