以下、本開示に係る成分測定装置及び成分測定装置セットの実施形態について、図1〜図19を参照して説明する。各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
まず、本開示に係る成分測定装置の1つの実施形態について説明する。図1は、本実施形態における成分測定装置1に成分測定チップ2が装着された成分測定装置セット100を示す上面図である。図2は、図1のI-Iに沿う断面を示す断面図であり、図3は、図1のII-IIに沿う断面を示す断面図である。図2及び図3は、成分測定チップ2が装着されている箇所近傍を拡大して示している。
図1〜図3に示すように、成分測定装置セット100は、成分測定装置1と、成分測定チップ2と、を備えている。本実施形態の成分測定装置1は、血液中の被測定成分としての血漿成分中のグルコースの濃度を測定可能な血糖値測定装置である。また、本実施形態の成分測定チップ2は、成分測定装置1としての血糖値測定装置の先端部に装着可能な血糖値測定チップである。ここで言う「血液」とは、成分毎に分離されておらず、すべての成分を含む全血を意味する。
成分測定装置1は、樹脂材料からなるハウジング10と、このハウジング10の上面に設けられたボタン群と、ハウジング10の上面に設けられた液晶又はLED(Light
Emitting Diodeの略)等で構成される表示部11と、成分測定装置1に装着された状態の成分測定チップ2を取り外す際に操作される取り外しレバー12と、を備えている。本実施形態のボタン群は、電源ボタン13と、操作ボタン14とにより構成されている。
図1に示すように、ハウジング10は、上述したボタン群及び表示部11が上面に設けられている、上面視の外形が略矩形の本体部10aと、本体部10aから外方に突設され、上面に取り外しレバー12が設けられたチップ装着部10bと、を備えている。図2に示すように、チップ装着部10bの内部には、チップ装着部10bの先端面に形成された先端開口を一端とするチップ装着空間Sが区画されている。成分測定装置1に対して成分測定チップ2を装着する際は、外方から先端開口を通じてチップ装着空間S内に成分測定チップ2を挿入し、成分測定チップ2を所定位置まで押し込むことにより、成分測定装置1のチップ装着部10bが成分測定チップ2を係止した状態となり、成分測定チップ2を成分測定装置1に装着することができる。成分測定装置1による成分測定チップ2の係止は、例えば、チップ装着部10b内に成分測定チップ2の一部と係合可能な爪部を設ける等、各種構成により実現可能である。
成分測定装置1に装着されている成分測定チップ2を成分測定装置1から取り外す際は、ハウジング10の外部から上述した取り外しレバー12を操作することにより、成分測定装置1のチップ装着部10bによる成分測定チップ2の係止状態が解除される。同時に、ハウジング10内のイジェクトピン26(図2参照)が連動して移動し、成分測定チップ2を成分測定装置1から取り外すことができる。
本実施形態のハウジング10は、上面視(図1参照)で略矩形の本体部10aと、本体部10aから外方に突設されているチップ装着部10bと、を備える構成であるが、成分測定チップ2を装着可能なチップ装着部を備える構成であればよく、本実施形態のハウジング10の形状に限られない。したがって、本実施形態のハウジング10の形状の他に、ユーザにとって片手で把持し易くするための形状を種々採用することも可能である。
表示部11は、成分測定装置1により測定された被測定成分の情報を表示可能である。本実施形態では、成分測定装置1としての血糖値測定装置により測定されたグルコース濃度を表示部11に表示することができる。表示部11には、被測定成分の情報のみならず、成分測定装置1の測定条件やユーザに所定の操作を指示する指示情報等、各種情報を表示できるようにしてもよい。ユーザは、表示部11に表示された内容を確認しながら、ボタン群の電源ボタン13や操作ボタン14を操作することができる。
また、図2及び図3に示すように、成分測定装置1は、発光部66及び受光部72を備える。発光部66及び受光部72は、チップ装着空間Sを挟んで対向して配置されている。図2及び図3に示すように、成分測定装置1のチップ装着空間Sに成分測定チップ2が装着されている状態において、発光部66が発する照射光は、成分測定チップ2に照射される。受光部72は、発光部66から成分測定チップ2に照射される照射光のうち成分測定チップ2を透過した透過光を受光する。受光部72は、成分測定チップ2が装着されてない状態にて、発光部66から照射される照射光量を計測し、初期値とすることで、発光部の光量変化を補正することもできる。
また、図2、3及び図6に示すように、発光部66は5つの光源を備えている。具体的に、発光部66は、第1光源67、第2光源68a、第3光源68b、第4光源68c及び第5光源68dを備えている。ここで、図3に示すように、第1光源67、第2光源68a及び第3光源68bは、後述する成分測定チップ2の流路23において血液が流れる流れ方向A(図2では右へ向かう方向)と直交する流路幅方向B(図3では左右両方向)において、異なる位置に配置されている。第1光源67〜第5光源68dの配置の詳細については後述する(図8参照)。
次に、成分測定チップ2について説明する。図4は、成分測定チップ2を示す上面図である。また、図5は、図4のIII-IIIに沿う断面図である。図4及び図5に示すように、成分測定チップ2は、略矩形板状の外形を有するベース部材21と、このベース部材21に保持されている測定試薬22と、ベース部材21を覆うカバー部材25と、を備えている。
ベース部材21の厚み方向(本実施形態では図2及び図3に示す成分測定チップ2の厚み方向Cと同じ方向のため、以降厚み方向Cと記載)の一方側の外面には溝が形成されている。ベース部材21の溝は、カバー部材25に覆われることにより、厚み方向Cと直交する方向に延在する中空部となり、この中空部が成分測定チップ2の流路23を構成している。流路23の一端には、血液を外方から供給可能な供給部24が形成されている。また、流路23の内壁のうちベース部材21の溝の溝底部には、測定試薬22が保持されており、外方から供給部24に供給された血液は、例えば毛細管現象を利用して流路23に沿って流れ方向Aに移動し、測定試薬22が保持されている保持位置まで到達し、測定試薬22と接触する。測定試薬22には血液と呈色反応して発色する発色試薬が含まれている。そのため、測定試薬22と血液が接触すると、測定試薬22に含まれる発色試薬が発色する呈色反応がおこり、呈色成分を含む混合物X(図2等参照)が生成される。
また、カバー部材25と測定試薬22との間には空隙23aが形成されており、供給部24から流路23を流れ方向Aに移動する血液は、空隙23aを通じて、流路23の他端まで到達する。そのため、血液を、測定試薬22の流れ方向A全域に接触させ、呈色反応を発生させ、その結果、流路23全域に混合物Xが拡がった状態にすることができる。
図2では、説明の便宜上、測定試薬22の保持位置を「混合物X」として示しているが、混合物Xは、測定試薬22の保持位置のみならず、空隙23aなどの、測定試薬22の保持位置近傍にも位置している。より具体的に、供給部24から流路23に進入する血液は、保持位置で測定試薬22と接触しつつ、空隙23aを通じて流路23の下流端まで到達し、流路23内が血液で満たされた状態となる。その後、測定試薬22と血液との呈色反応が進み、保持位置及びその近傍に混合物Xが位置する状態となる。
本実施形態の流路23は、ベース部材21とカバー部材25とにより区画される中空部により構成されているが、流路はこの構成に限られない。ベース部材21の厚み方向Cの一方側の外面に形成された溝のみにより流路を形成してもよい。
ベース部材21およびカバー部材25の材質としては、照射光が透過した後の透過光量が測定に十分なシグナルとなるために透明性の素材を用いることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、環状ポリオレフィン(COP)や環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリカーボネード(PC)等の透明な有機樹脂材料;ガラス、石英等の透明性な無機材料;が挙げられる。
測定試薬22は、血液中の被測定成分と反応して、被測定成分の血中濃度に応じた色に呈色する呈色反応を引き起こす発色試薬を含む。本実施形態の測定試薬22は、流路23としての溝の溝底部に塗布されている。本実施形態の測定試薬22は、血液中の被測定成分としてのグルコースと反応する。本実施形態の測定試薬22としては、例えば、(i)グルコースオキシダーゼ(GOD)と(ii)ペルオキシダーゼ(POD)と(iii)1−(4−スルホフェニル)−2,3−ジメチル−4−アミノ−5−ピラゾロンと(iv)N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン,ナトリウム塩,1水和物(MAOS)との混合試薬、あるいはグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)とテトラゾリウム塩及び電子メディエーターとの混合試薬などが挙げられる。さらに、リン酸緩衝液のような緩衝剤が含まれていてもよい。測定試薬22の種類、成分については、これらに限定されない。
但し、本実施形態の測定試薬22としては、血液中のグルコースとの呈色反応により生成した呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長と、血球中のヘモグロビンの光吸収特性に起因するピーク波長とが異なるピーク波長となる発色試薬を選択している。本実施形態の測定試薬22が含む発色試薬は、呈色成分の吸光度スペクトルが650nm付近にピーク波長を有するが、ピーク波長が650nm付近になる発色試薬に限られない。この詳細は後述する。
図2に示すように、成分測定装置1により被測定成分を測定する際には、成分測定チップ2をチップ装着部10b内に装着する。そして、成分測定チップ2の一端に設けられている供給部24に血液を供給すると、血液は、例えば毛細管現象により流路23内を移動し、流路23の測定試薬22が保持されている保持位置まで到達し、この保持位置において血液中のグルコースと測定試薬22とが反応する。そして、流路23の上記保持位置において、呈色成分を含む混合物Xが生成される。いわゆる比色式の成分測定装置1は、呈色成分を含む混合物Xに向かって照射光を照射し、その透過光量(又は反射光量)を検出し、血中濃度に応じた発色の強度に相関する検出信号を得る。そして、成分測定装置1は、予め作成された検量線を参照することにより、被測定成分を測定することができる。本実施形態の成分測定装置1は、上述したように、血液中の血漿成分におけるグルコース濃度を測定可能である。
図6は、図1〜図3に示す成分測定装置1の電気ブロック図である。図6には、説明の便宜上、成分測定装置1に装着された状態の成分測定チップ2の断面(図5と同じ断面)を併せて示している。また、図6では、成分測定チップ2の近傍を拡大した拡大図を左上に別途示している。以下、成分測定装置1の更なる詳細について説明する。
図6に示すように、成分測定装置1は、上述したハウジング10、表示部11、取り外しレバー12、電源ボタン13及び操作ボタン14の他に、演算部60と、メモリ62と、電源回路63と、測定光学系64と、を更に備えている。
演算部60は、MPU(Micro-Processing Unit)又はCPU(Central Processing Unit)で構成されており、メモリ62等に格納されたプログラムを読み出し実行することで、各部の制御動作を実現可能である。メモリ62は、揮発性又は不揮発性である非一過性の記憶媒体で構成され、ここで示す成分測定方法を実行するために必要な各種データ(プログラムを含む)を読出し又は書込み可能である。電源回路63は、電源ボタン13の操作に応じて、演算部60を含む成分測定装置1内の各部に電力を供給し、又はその供給を停止する。
測定光学系64は、血液中のグルコースと、測定試薬22中に含まれる発色試薬との呈色反応により生成された呈色成分を含む混合物Xの光学的特性を取得可能な光学システムである。測定光学系64は、具体的には、発光部66と、発光制御回路70と、受光部72と、受光制御回路74と、を備えている。
発光部66は複数の光源を備えている。具体的に、本実施形態の発光部66は分光放射特性が異なる照射光(例えば、可視光、赤外光)を放射する5つの光源を備えている。より具体的に、本実施形態の発光部66は、第1光源67、第2光源68a、第3光源68b、第4光源68c及び第5光源68dを備えている。図6では、説明の便宜上、第1光源67〜第5光源68dの5つの光源を図示すべく5つの光源を一列に並べる位置関係を示しているが、第1光源67〜第5光源68dの実際の位置関係は異なる。第1光源67〜第5光源68dの実際の位置関係は、図2及び図3に示す位置関係である。第1光源67〜第5光源68dの実際の位置関係の詳細については後述する(図8参照)。
第1光源67〜第5光源68dから発せられる光のピーク波長はそれぞれλ1〜λ5である。第1光源67〜第5光源68dとしては、発光ダイオード(LED(Light Emitting Diode))素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL(Electro-Luminescence))素子、無機EL素子、レーザーダイオード(LD(Laser Diode))素子等の種々の発光素子を適用することができる。第1光源67〜第5光源68dとしては、汎用性等を考慮すると上述のLED素子が利用し易い。以下、上述の「ピーク波長」を各光源から発せられる光の波長として説明し、説明の便宜上、第1光源67のピーク波長λ1を「第1所定波長λ1」、第2光源68aのピーク波長λ2を「第2所定波長λ2」、第3光源68bのピーク波長λ3を「第3所定波長λ3」、第4光源68cのピーク波長λ4を「第4所定波長λ4」、及び、第5光源68dのピーク波長λ5を「第5所定波長λ5」と記載する。
図2、図6に示すように、本実施形態の受光部72は、発光部66と成分測定チップ2を挟んで対向して配置された1個の受光素子により構成されている。受光部72は、発光部66の第1光源67〜第5光源68dから成分測定チップ2の測定試薬22の保持位置に生成される混合物Xに照射され、成分測定チップ2を透過した透過光を受光する。受光部72としては、PD(Photo Diodeの略)素子、フォトコンダクタ(光導電体)、フォトトランジスタ(Photo Transistorの略)を含む種々の光電変換素子を適用することができる。
発光制御回路70は、第1光源67〜第5光源68dそれぞれに駆動電力信号を供給することで、第1光源67〜第5光源68dを点灯させ、又は消灯させる。受光制御回路74は、受光部72から出力されたアナログ信号に対して、対数変換及びA/D変換を施すことでデジタル信号(以下、検出信号という)を取得する。
図7は、図6に示す演算部60の機能ブロック図である。演算部60は、測定光学系64による測定動作を指示する測定指示部76、及び、各種データを用いて被測定成分の濃度を測定する濃度測定部77の各機能を実現する。
濃度測定部77は、吸光度取得部78と、吸光度補正部84と、を備えている。
図7では、メモリ62には、測定光学系64により測定された第1所定波長λ1〜第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度である第1実測値D1〜第5実測値D5の実測値データ85と、第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5それぞれでの混合物Xの吸光度に相関する一群の補正係数を含む補正係数データ86と、第1所定波長λ1で実測された混合物Xの吸光度を補正係数データ86により補正して得られる混合物X中の呈色成分の吸光度と各種物理量(例えば、グルコース濃度)との関係を示す検量線や、混合物X中のヘモグロビンの吸光度とヘマトクリット値との関係を示す検量線などの検量線データ90と、が格納されている。「ヘマトクリット値」とは、血液中の血球成分の血液(全血)に対する容積比を百分率で示した値である。
詳細は後述するが、成分測定装置1は、血液中の被測定成分と試薬との呈色反応により生成された呈色成分を含む混合物Xの光学的特性に基づいて血液中の被測定成分を測定可能である。具体的に、成分測定装置1は、測定波長としての第1所定波長λ1の照射光を混合物Xに照射して測定される混合物Xの吸光度の第1実測値D1に含まれる呈色成分以外のノイズ量を、第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5の照射光を利用して推定可能である。より具体的に、成分測定装置1は、上述のノイズ量を、第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5の照射光を混合物Xに照射して測定される混合物Xの吸光度の第2実測値D2〜第5実測値D5を利用して推定し、呈色成分の吸光度、更には被測定成分を測定可能である。
ここで、図8は、混合物Xへ照射される第1所定波長λ1の照射光を発する第1光源67、混合物Xへ照射される第2所定波長λ2の照射光を発する第2光源68a、混合物Xへ照射される第3所定波長λ3の照射光を発する第3光源68b、混合物Xへ照射される第4所定波長λ4の照射光を発する第4光源68c、及び、混合物Xへ照射される第5所定波長λ5の照射光を発する第5光源68d、の位置関係を示す図である。図8は、成分測定装置1の上面(図1参照)側から見た場合の第1光源67〜第5光源68dの位置関係を示している。また、図8では、説明の便宜上、成分測定チップ2の流路23における受光部72の位置を二点鎖線により示しており、本実施形態では、流路23内の上記保持位置及びその近傍で混合物Xが生成される。
図2、図3、図8に示すように、第1光源67〜第5光源68dは、血液の流路23に位置する混合物Xに対向して配置されている。より具体的に、本実施形態の第1光源67〜第5光源68dは、血液の流路23の測定試薬22の保持位置に、流れ方向A及び流路幅方向Bの両方に直交する方向(本実施形態では成分測定チップ2の厚み方向Cと同じ方向)において、対向して配置されている。
また、図3、図8に示すように、第1光源67及び第2光源68aは、血液の流路23における混合物Xの位置での血液の流れ方向Aと直交する流路幅方向Bに沿って並んで配置されている。このような構成とすることにより、第1光源67からの照射光の混合物Xにおける後述する第1照射位置SL1(図9参照)と、第2光源68aからの照射光の混合物Xにおける後述する第2照射位置SL2(図9参照)と、を流路幅方向Bにおいて少なくとも一部が重なる位置に設定し易くなる。
ここで、図9は、成分測定装置1の上面(図1参照)側から見た場合の第1光源67〜第5光源68dによる混合物Xの第1照射位置SL1〜第5照射位置SL5を示す図である。図9に示すように、本実施形態では、第1光源67からの照射光の混合物Xにおける第1照射位置SL1と、第2光源68aからの照射光の混合物Xにおける第2照射位置SL2とは、流路幅方向Bにおいて重なっている。このような構成とすれば、流路23における血液の流れの影響により試薬の流れ方向Aにおける位置によって血液との呈色反応に反応ムラが生じたとしても、この反応ムラによる測定結果のばらつきを抑制することができる。上述の反応ムラは、流れ方向Aで生じ得る血球量の勾配に起因する。流れ方向Aで生じる血球量の勾配とは、流路23の一端から供給された血液が、流れ方向Aに移動し、測定試薬22と接触して呈色反応が起こる際の、測定試薬22の溶解を原因として発生し得る。測定試薬22の溶解時は、血液成分のうち、主に血漿成分が測定試薬22内へ取り込まれ、混合物Xが生成される。これにより、混合物Xの周辺においては、血球成分の比率が高い状態になる。血液は流れ方向Aに向かって進む。そのため、空隙23a内では、流れ方向Aの上流側よりも下流側で血球量が多くなる。つまり、空隙23a内に血球量の勾配が発生する。この血球量の勾配により、上述の反応ムラが発生し得る。流路幅方向Bでは血球量の勾配は発生し難い。
図9に示すように、本実施形態において、第1照射位置SL1及び第2照射位置SL2は、その流れ方向Aの全域が流路幅方向Bにおいて重なっている。すなわち、本実施形態において、第1照射位置SL1の領域及び第2照射位置SL2の領域は、流れ方向Aにおいて略等しい位置である。しかしながら、第1照射位置SL1及び第2照射位置SL2は、上述の位置関係に限られず、少なくとも流れ方向Aの一部の領域が流路幅方向Bにおいて重なっている位置関係であればよい。換言すれば、第1照射位置SL1の領域の一部と、第2照射位置SL2の領域の一部と、が流れ方向Aの同じ位置にあればよい。但し、本実施形態のように、両方の照射位置の流れ方向Aの全域が流路幅方向Bにおいて重なっている構成とすれば、流れ方向Aの一部領域のみが流路幅方向Bにおいて重なっている構成と比較して、上述の反応ムラによる測定結果のばらつきをより一層抑制することできる。
更に、本実施形態では、第1照射位置SL1の流路幅方向Bの領域及び第2照射位置SL2の流路幅方向Bの領域は、流れ方向Aにおいて一部が重なっている。換言すれば、第1照射位置SL1の一部の領域は、第2照射位置SL2の一部の領域と、流路幅方向Bの同じ位置にある。このようにすれば、第1照射位置SL1及び第2照射位置SL2を、より一致させることができ、混合物Xにおける測定位置の違いに基づき測定結果がばらつくことを抑制することができる。第1照射位置SL1の流路幅方向Bの全域及び第2照射位置SL2の流路幅方向Bの全域が、流れ方向Aにおいて重なっていること、すなわち、第1照射位置SL1及び第2照射位置SL2が流路幅方向Bにおいて略等しい位置であること、がより好ましい。
また、本実施形態では、図3、図8に示すように、第1光源67、第2光源68a、及び、第3光源68bは、第1光源67を中央として流路幅方向Bに沿って並んで配置されている。このような配置とすれば、第1光源67の第1照射位置SL1、及び、第2光源68aの第2照射位置SL2の2つの照射位置の流れ方向Aの領域だけではなく、第1照射位置SL1及び第3光源68bの第3照射位置SL3の2つの照射位置の流れ方向Aの領域についても、流路幅方向Bにおいて少なくとも一部が重なる位置に設定し易くなる。
そして、図9に示すように、本実施形態では、第1光源67からの照射光の混合物Xにおける第1照射位置SL1の流れ方向Aの領域と、第3光源68bからの照射光の混合物Xにおける第3照射位置SL3の流れ方向Aの領域とは、流路幅方向Bに重なっている。このような構成とすれば、上述の第1照射位置SL1及び第2照射位置SL2の関係と同様、流路23における血液の流れの影響により試薬の流れ方向Aにおける位置によって血液との呈色反応に反応ムラが生じたとしても、この反応ムラによる測定結果のばらつきを抑制することできる。
図9に示すように、本実施形態において、第1照射位置SL1及び第3照射位置SL3は、その流れ方向Aの全域が流路幅方向Bにおいて重なっている。すなわち、本実施形態において、第1照射位置SL1及び第3照射位置SL3は、流れ方向Aにおいて略等しい位置である。しかしながら、第1照射位置SL1及び第3照射位置SL3は、上述の位置関係に限られず、少なくとも流れ方向Aの一部の領域が流路幅方向Bにおいて重なっている位置関係であればよい。換言すれば、第1照射位置SL1の一部の領域と、第3照射位置SL3の一部の領域と、が流れ方向Aの同じ位置にあればよい。但し、本実施形態のように、両方の照射位置の流れ方向Aの全域が流路幅方向Bにおいて重なっている構成とすれば、流れ方向Aの一部領域のみが流路幅方向Bにおいて重なっている構成と比較して、上述の反応ムラによる測定結果のばらつきをより一層抑制することができる。
また、本実施形態では、第1照射位置SL1の流路幅方向Bの領域及び第3照射位置SL3の流路幅方向Bの領域は、流れ方向Aにおいて一部が重なっている。換言すれば、第1照射位置SL1の一部の領域は、第3照射位置SL3の一部の領域と、流路幅方向Bの同じ位置にある。このようにすれば、第1照射位置SL1及び第3照射位置SL3を、より一致させることができ、混合物Xにおける測定位置の違いに基づき測定結果がばらつくことを抑制することができる。第1照射位置SL1の流路幅方向Bの全域及び第3照射位置SL3の流路幅方向Bの全域が、流れ方向Aにおいて重なっていること、すなわち、第1照射位置SL1及び第3照射位置SL3が流路幅方向Bにおいて略等しい位置であること、がより好ましい。
ここで、図9に示すように、本実施形態の第2照射位置SL2の流れ方向Aの領域及び第3照射位置SL3の流れ方向Aの領域は、流路幅方向Bにおいて重なっている。本実施形態の第2照射位置SL2及び第3照射位置SL3は、その流れ方向Aの全域が流路幅方向Bにおいて重なっているが、少なくとも流れ方向Aの一部の領域が流路幅方向Bにおいて重なっている構成であればよい。換言すれば、第2照射位置SL2の一部の領域と、第3照射位置SL3の一部の領域と、が流れ方向Aの同じ位置にあればよい。但し、本実施形態のように、両方の照射位置の流れ方向Aの全域が流路幅方向Bにおいて重なっている構成とすれば、流れ方向Aの一部領域のみが流路幅方向Bにおいて重なっている構成と比較して、上述の反応ムラによる測定結果のばらつきをより一層抑制することできる。
また、本実施形態では、第2照射位置SL2の流路幅方向Bの領域及び第3照射位置SL3の流路幅方向Bの領域は、流れ方向Aにおいて一部が重なっている。換言すれば、第2照射位置SL2の一部の領域は、第3照射位置SL3の一部の領域と、流路幅方向Bの同じ位置にある。このようにすれば、第2照射位置SL2及び第3照射位置SL3を、より一致させることができ、混合物Xにおける測定位置の違いに基づき測定結果がばらつくことを抑制することができる。第2照射位置SL2の流路幅方向Bの全域及び第3照射位置SL3の流路幅方向Bの全域が、流れ方向Aにおいて重なっていること、すなわち、第2照射位置SL2及び第3照射位置SL3が流路幅方向Bにおいて略等しい位置であること、がより好ましい。
以上のように、第1光源67〜第3光源68bは、流路幅方向Bに沿って並んで配置され、第1照射位置SL1〜第3照射位置SL3の流れ方向Aの領域が流路幅方向Bにおいて重なることが好ましく、第1照射位置SL1〜第3照射位置SL3の流路幅方向Bの領域が流れ方向Aにおいても重なることがより好ましい。
本実施形態において、第1光源67と第2光源68aとは、流路幅方向Bにおいて隣接して配置されており、第1光源67と第2光源68aとの間に別の光源を配置可能な空隙はない。また、第1光源67と第3光源68bとは、流路幅方向Bにおいて隣接して配置されており、第1光源67と第3光源68bとの間においても別の光源を配置可能な空隙はない。このように、第1光源67、第2光源68a及び第3光源68bは、流路幅方向Bにおいて、別の光源を間に介在させることなく隣接して配置されている。そのため、第1照射位置SL1、第2照射位置SL2及び第3照射位置SL3を、流れ方向Aにおいて領域が重なる構成を実現し易い。
次に、第1光源67と、第4光源68c及び第5光源68dと、の位置関係について説明する。図2、図8に示すように、本実施形態の第1光源67及び第4光源68cは、流れ方向Aに沿って並んで配置されている。また、図2、図8に示すように、本実施形態の第1光源67及び第5光源68dは、流れ方向Aに沿って並んで配置されている。より具体的に、第1光源67、第4光源68c、及び、第5光源68dは、第1光源67を中央として流れ方向Aに沿って並んで配置されている。
上述したように、第2光源68a及び第3光源68bが、第1光源67と流路幅方向Bにおいて隣接して配置されている。流路23での血液の流れによる測定結果のばらつきを抑制するためには、第4光源68c及び第5光源68dについても、第1光源67と流路幅方向Bに沿って並んで配置することが好ましい。しかしながら、第4光源68c及び第5光源68dを、第1光源67と流路幅方向Bに沿って並んで配置する構成とする場合には、第2光源68a及び第3光源68bの存在により、第1光源67と、第4光源68c及び第5光源68dそれぞれと、を隣接させて配置することができない。そのため、第1光源67と、第4光源68c及び第5光源68dそれぞれと、の流路幅方向Bにおける距離は、第1光源67と、第2光源68a及び第3光源68bそれぞれと、の流路幅方向Bにおける距離よりも大きくなる。この距離が大きくなると、第1光源67の第1照射位置SL1の流路幅方向Bの領域と、第4光源68cの第4照射位置SL4及び第5光源68dの第5照射位置SL5それぞれの流路幅方向Bの領域と、を流れ方向Aに重ねることは難しくなる。つまり、第1照射位置SL1の領域と、第4照射位置SL4及び第5照射位置SL5それぞれの領域と、が全く重ならない構成になり易い。第1照射位置SL1の領域と、第4照射位置SL4及び第5照射位置SL5それぞれの領域と、が重ならない場合、吸光度の測定箇所が異なるため、被測定成分の測定結果の精度が低下しかねない。第4光源68c及び第5光源68dを傾斜させるなどして、第1光源67の第1照射位置SL1の領域と、第4光源68cの第4照射位置SL4及び第5光源68dの第5照射位置SL5それぞれの領域と、を重ねるようにすることも可能であるが、かかる場合には、第1光源67からの照射光の混合物Xへの入射角度と、第4光源68c及び第5光源68dそれぞれからの照射光の混合物Xへの入射角度と、の差が大きくなる。入射角度の差が大きくなると、第1光源67からの照射光の混合物Xにおける光路長さと、第4光源68c及び第5光源68dそれぞれからの照射光の混合物Xにおける光路長さと、の相違が大きくなる。更に、第1光源67からの照射光の界面反射と、第4光源68c及び第5光源68dそれぞれからの照射光の界面反射と、も相違するようになる。光路長さの差及び界面反射の相違は、吸光度の実測値に影響を与える。つまり、第1光源67の照射光による吸光度の実測値におけるノイズ量の推定精度が低下するおそれがある。
そのため、本実施形態では、第1光源67及び第4光源68cを、第1照射位置SL1と第4照射位置SL4とが、混合物Xへの入射角度の差が所定値以下とした上で領域が重なるように、流れ方向Aに沿って並んで配置している。より具体的に、流れ方向Aにおいて第1光源67と第4光源68cとの間には、別の光源を配置できる空隙はなく、第1光源67及び第4光源68cは、流れ方向Aにおいて隣接している。このようにすれば、流路幅方向Bに沿って配置する構成と比較して、血液の流れによる影響は受け易いが、入射角度の差を小さくして照射位置を重ねることで、ノイズ量の推定精度を却って向上させ得る。
第1光源67及び第5光源68dについても、第1照射位置SL1と第5照射位置SL5とを、混合物Xへの入射角度の差が所定値以下とした上で領域を重ねることができるように、流れ方向Aに沿って並んで配置している。より具体的に、流れ方向Aにおいて第1光源67と第5光源68dとの間には、別の光源を配置できる空隙はなく、第1光源67及び第5光源68dは、流れ方向Aにおいて隣接している。
また、上述した第1光源67と、第2光源68a及び第3光源68bそれぞれは、流路幅方向Bにおいて隣接しているため、第1照射位置SL1と第2照射位置SL2及び第3照射位置SL3それぞれと、を混合物Xへの入射角度の差が所定値以下とした上で領域を重ねることができる。つまり、本実施形態の第2光源68a及び第3光源68bについては、第1光源67との関係で血液の流れによる影響を受け難く、かつ、第1光源67との間で入射角度の差を小さくして照射位置の領域を重ねることができる。
ここで、本実施形態では、第1光源67の第1所定波長λ1の照射光により測定される吸光度の実測値に含まれるノイズ量の推定に対して影響度の大きい第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3の照射光を発する第2光源68a及び第3光源68bを、第1光源67に対して流路幅方向Bに沿って並んで配置している。そして、第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3と比較して、上述のノイズ量の推定に対して影響度の小さい第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5の照射光を発する第4光源68c及び第5光源68dを、第1光源67に対して流れ方向Aに沿って並んで配置している。このような配置とすることで、上述のノイズ量の推定精度を向上させることができる。ノイズ量の推定に対する「影響度」の詳細については後述する(図14参照)。また、詳細は後述するが、上述の第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3は、赤外領域に属する波長であり、上述の第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5は、可視領域に属する波長である。
また、図2、図3に示すように、受光部72は、第1光源67〜第5光源68dと、装着されている成分測定チップ2の流路23に位置する混合物Xを挟んで厚み方向Cに対向しており、上述したように、第1光源67〜第5光源68dからの照射光が混合物Xを透過した透過光を受光する。そして、図2、図3に示すように、成分測定装置1は、混合物Xと受光部72との間に位置し、混合物Xを透過した透過光のうち受光部72に到達する光量を調整する第1絞り部69aを備えている。上述したように、第1光源67からの照射光の混合物Xへの入射角度と、第2光源68a〜第5光源68dそれぞれからの照射光の混合物Xへの入射角度と、の差はノイズ量の推定精度に影響を与える。そのため、第1光源67からの照射光の混合物Xへの入射角度と、第2光源68a〜第5光源68dそれぞれからの照射光の混合物Xへの入射角度と、の差は小さくすることが好ましい。つまり、第1光源67〜第5光源68dと第1絞り部69aとの間の対向方向(図2、図3では成分測定チップ2の厚み方向Cと同じ方向)の距離T1は長くすることがノイズ量の推定精度を向上させる為に好ましい。その一方で、第1光源67〜第5光源68dと受光部72との間の対向方向の距離T2を小さくすることで、光効率の向上と、成分測定装置1の小型化とを実現できる。
また、第1光源67の第1照射位置SL1の領域と、第2光源68a〜第5光源68dの第2照射位置SL2〜第5照射位置SL5それぞれの領域と、のずれ(以下、「測定視野差」と記載)が大きいと、測定箇所が一致していないため、被測定成分の測定結果の精度が低下しかねない。そのため、この測定視野差は小さくすることが好ましい。したがって、混合物Xと第1絞り部69aとの間の対向方向(図2、図3では成分測定チップ2の厚み方向Cと同じ方向)の距離T3は短くすることが好ましい。
更に、図2、図3に示すように、成分測定装置1は、第1光源67〜第5光源68dと混合物Xとの間に位置し、第1光源67〜第5光源68dから混合物Xに到達する光量を調整する第2絞り部69bを備えている。特に、第2絞り部69bは、第1光源67〜第5光源68dから発せられた光のうち、第2絞り部69bの内壁に反射した光(以下、「迷光」と記載)が、第1絞り部69aに入光しないように設計することが好ましい。第1光源67〜第5光源68dから発せられた光は、1回の壁面反射により5%まで光減衰し、3回以上の多重反射で消滅する、とみなすことができる。したがって、本実施形態では、第2絞り部69bの内壁に反射した迷光が、第1絞り部69bに到達せず、どこかの壁面に反射されれば、多重反射により、第1絞り部69aに入光することはない。本実施形態では、各光源の光軸が第2絞り部69bの内壁で鏡面反射する、として設計しているが、実際は、第2絞り部69bの内壁では乱反射し、迷光にも所定の分布がある。そのため、本実施形態では、仮に迷光の一部が第1絞り部69aに入光した場合であっても、その入射角度が、第1光源67の入射角度と所定値以下の差となるように、上述の距離T4等を設定することが好ましい。
このように、第1絞り部69a及び第2絞り部69bの位置等を調整することにより、照射光の入射角度の差及び測定視野差を所定範囲内にしている。ところで、成分測定装置1の光学系では集光レンズ等のレンズを利用していない。レンズを用いる場合、レンズを光源に近づけて集光効率を向上させることができるが、光源とレンズとの位置関係を精度良く保つ必要があり、高い組み立て精度が要求される、又は、光源とレンズとの位置関係のばらつきを調整する追加工程が必要となる。そのため、成分測定装置1では、レンズを用いずに、第1絞り部69a及び第2絞り部69bの位置等を設定することにより、高い組み立て精度を要求することなく測定精度を高めた構成を実現している。
以上のように、成分測定装置1では、第1光源67〜第5光源68dを所定の配置とすることにより、血液の流路23における血液の流れ方向Aの影響を低減させつつ、ノイズ量の推定精度の向上を実現している。
本実施形態の成分測定装置1は、血液が流れる流路23を区画し、流路23に前液中の被測定成分と呈色反応する発色試薬を含む測定試薬22が配置されている成分測定チップ2を装着可能である。そして、本実施形態の成分測定装置1は、成分測定チップ2が装着され、流路23において被測定成分との反応により生成された呈色成分を含む混合物の光学的特性に基づいて血液中の被測定成分を測定可能である。また、成分測定装置1は、第1光源67と、第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5の照射光を発する第2光源68a〜第5光源68dと、を備える。第1光源67は、装着されている状態の成分測定チップ2の流路23における混合物Xへ照射される第1所定波長λ1の照射光を発する。第2光源68a〜第5光源68dは、装着されている状態の成分測定チップ2の流路23における混合物Xへ照射され、第1光源67の照射光の透過光量によって測定される混合物Xの吸光度の実測値に含まれる呈色成分以外の外乱因子起因のノイズ量の推定に利用される第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5の照射光を発する。そして、第1光源67〜第3光源68bは、装着されている状態の成分測定チップ2の流路23における混合物Xの位置での血液の流れ方向Aと直交する流路幅方向Bに沿って並んで配置されている。
このように、本実施形態の成分測定装置1は、着脱可能な成分測定チップ2内の混合物Xの吸光度を測定可能であるが、成分測定チップ2の着脱を要しない構成としてもよい。但し、ユーザの利便性や環境性等を考慮すると、リユース可能な成分測定装置1に、使い捨ての成分測定チップ2を着脱可能な構成とすることが好ましい。
図8に示すように、本実施形態の第1光源67〜第5光源68dは、薄板状のホルダ部材80に保持されている。本実施形態のホルダ部材80は、上面視で十文字状の外形を有しており、上面視の中央部(十文字の交差部分)に第1光源67が保持されている。そして、第1光源67が保持されている中央部に対して流路幅方向Bの一方側の位置に第2光源68aが保持され、流路幅方向Bの他方側の位置に第3光源68bが保持されている。また、第1光源67が保持されている中央部に対して流れ方向Aの位置に第5光源68dが保持され、流れ方向Aと反対側の位置に第4光源68cが保持されている。
以下、血液中の被測定成分としてのグルコースと測定試薬22中の発色試薬との呈色反応を、グルコースを含む血漿成分を血液から分離することなく、血液(全血)と発色試薬とにより行い、この呈色反応により得られた混合物X全体の各種波長における吸光度に基づき、グルコースと発色試薬との呈色反応により生成した呈色成分の所定の測定波長における吸光度を推定し、被測定成分濃度を算出する成分測定方法について説明する。
まず、図10及び図11を参照しつつ、血液中の被測定成分を、血液(全血)を用いた吸光度測定に基づいて推定しようとする際の問題点について言及する。以降の実施例では、発色試薬としてテトラゾリウム塩(WST−4)を含み、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)及び電子メディエーターと混合した測定試薬22を用いた。
図10は、ヘマトクリット値及びグルコース濃度が既知である6種の血液検体それぞれを測定試薬22と反応させることにより得られる6種の混合物Xの吸光度スペクトルを示している。この6種の血液検体を第1〜第6検体とする。第1検体は、ヘマトクリット値が20%で、グルコース濃度が0mg/dL(図10中では「Ht20 bg0」と表記)である。第2検体は、ヘマトクリット値が20%で、グルコース濃度が100mg/dL(図10中では「Ht20 bg100」と表記)である。第3検体は、ヘマトクリット値が20%で、グルコース濃度が400mg/dL(図10中では「Ht20 bg400」と表記)である。第4検体は、ヘマトクリット値が40%で、グルコース濃度が0mg/dL(図10中では「Ht40 bg0」と表記)である。第5検体は、ヘマトクリット値が40%で、グルコース濃度が100mg/dL(図10中では「Ht40 bg100」と表記)である。第6検体は、ヘマトクリット値が40%で、グルコース濃度が400mg/dL(図10中では「Ht40 bg400」と表記)である。
また、図11は、ヘマトクリット値及びグルコース濃度が既知である7種の血液検体それぞれの吸光度スペクトルを示している。この7種の血液検体を第1〜第7検体とする。第1〜第6検体は、図10に示す第1〜第6検体と同じである。第7検体は、ヘマトクリット値が70%で、グルコース濃度が100mg/dLである。また、ヘマトクリット値が等しい血液検体の吸光度スペクトルは略一致するため、図11ではヘマトクリット値の異なる3つの曲線のみを示している。具体的には、ヘマトクリット値が20%(図11では「Ht20」と表記)、40%(図11では「Ht40」と表記)、70%(図11では「Ht70」と表記)の3つの曲線のみを示している。
一般的に、吸光度の測定対象となる呈色成分以外の成分が試料の中に含まれるとき、光学的現象の発生によって呈色成分の吸光度に基づく被測定成分の濃度の測定結果に外乱因子(ノイズ)として影響を与えることがある。例えば、血液中の血球成分、成分測定チップ表面、又は成分測定チップに付着した塵埃といった微粒子等による「光散乱」や、測定対象となる呈色成分とは別の色素成分(具体的には、ヘモグロビン)による「光吸収」が発生することで、真の値よりも大きい吸光度が測定される傾向がある。
具体的に、図11に示す血液検体の吸光度スペクトルは、540nm付近及び570nm付近を中心とする2つのピークを有する。この2つのピークは、主に、赤血球中の酸化ヘモグロビンの光吸収に起因する。また、図11に示す血液検体の吸光度スペクトルでは、600nm以上の波長域において、波長が長くなるにつれて、吸光度が略直線状になだらかに減少している。この略直線状の部分は、主に、血球成分や成分測定チップに付着した塵や埃といった微粒子等の光散乱に起因する。
換言すれば、600nm付近より長波長側の波長域における血液検体の吸光度は、血球成分等による光散乱の影響が支配的である。600nm付近より短波長側の波長域における血液検体の吸光度は、血球成分等による光散乱の影響よりも、ヘモグロビンによる光吸収の影響が大きい。
一方、図10に示す混合物Xの吸光度スペクトルでは、図11に示す血液の吸光度スペクトルと同様、波長が長くなるにつれて吸光度が次第に小さくなるトレンド曲線を有している。しかし、図10に示す混合物Xの吸光度スペクトルは、図11に示す曲線と比較して、可視光の波長域である600nm〜700nm辺りにわたって吸光度が増加している。この600nm〜700nm辺りにわたって増加している吸光度は、主に、血液中のグルコースと測定試薬22中の発色試薬との呈色反応により生成する呈色成分の吸光特性に起因する。
このように、測定対象となる呈色成分の他に、図11に示す吸光特性を有する血液を含む混合物Xを用いて、呈色成分由来の吸光度を正確に測定する場合には、所定の測定波長(例えば650nm)における吸光度の実測値から、血球成分等による光散乱やヘモグロビンによる光吸収などの外乱因子(ノイズ)を除去する必要がある。
より具体的には、測定対象となる呈色成分の光吸収率が高い所定の測定波長(例えば650nm)における、血球成分等による光散乱やヘモグロビンによる光吸収などの外乱因子(ノイズ)量を推定し、同測定波長における吸光度の実測値を補正することが必要となる。
以下、成分測定装置1により実行される成分測定方法の詳細について説明する。
成分測定装置1は、血液と測定試薬22との呈色反応により生成した呈色成分を含む混合物Xの光学的特性に基づいて、血液中の被測定成分を測定可能である。具体的に、本実施形態では、血液中の血漿成分に含まれるグルコースの濃度を測定する。
そして、成分測定装置1は、血液中の血球成分、成分測定チップ2の表面、又は成分測定チップ2に付着した塵埃といった微粒子による光学的特性と、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率と、に基づいて、測定波長における混合物Xの吸光度の実測値を補正することにより、血液中のグルコース濃度を算出可能である。換言すれば、成分測定装置1による成分測定方法は、血液中の血球成分、成分測定チップ2の表面、又は成分測定チップ2に付着した塵埃といった微粒子、による散乱光の情報と、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率に基づいて、測定波長における混合物Xの吸光度の実測値を補正する工程を含む。
図12は、還元ヘモグロビン(図12では「Hb」と表記)の吸収係数及び酸化ヘモグロビン(図12では「HbO2」と表記)の吸収係数を示している。赤血球中のヘモグロビンは、主に、酸素と結合した酸化ヘモグロビンと、酸素分圧が小さい場所で酸素が解離した還元ヘモグロビンと、を含んでいる。酸化ヘモグロビンは、還元ヘモグロビンが肺を通過して酸素と結合し、動脈を通って体中に酸素を運搬する役割を果たしており、動脈血中に多く確認できる。例えば、指の腹から血液を採取する際は、毛細血管の血液となるためこの酸化ヘモグロビンの量が比較的多い。逆に、還元ヘモグロビンは、静脈血中に多く確認できる。
既存の技術としては、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率は何ら考慮することなく、例えばヘマトクリット値を利用して、測定対象となる呈色成分に対応する測定波長で得られた吸光度を補正することが一般的である。しかしながら、図12に示すように、還元ヘモグロビンの吸収係数と、酸化ヘモグロビンの吸収係数とは一致しておらず、還元ヘモグロビンによる吸収量と酸化ヘモグロビンによる吸収量とは波長により異なる。図13に還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビン吸収係数の比率を示す。例えば、測定対象となる呈色成分の吸光度を測定する測定波長が650nmのとき、還元ヘモグロビンの吸収係数は約0.9であり、酸化ヘモグロビンの吸収係数は約0.09である。すなわち、酸化ヘモグロビンの吸収係数は、全ヘモグロビンの吸収係数の約10%に相当する。測定対象となる呈色成分に由来する吸光度をより正確に推定するためには、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を考慮することが重要である。
そのため、成分測定装置1では、混合物Xに含まれる呈色成分の吸光度を測定するための測定波長を650nmとし、この測定波長で測定された混合物Xの吸光度の実測値から、血球成分等の光散乱による影響や、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を加味したヘモグロビンの光吸収による影響を外乱因子(ノイズ)として除去する補正を行う。これにより、混合物Xに含まれる呈色成分の吸光度を推定し、この推定された吸光度とグルコース濃度との関係を示す検量線を用いてグルコース濃度を算出する。
以下、成分測定装置1により実行される成分測定方法の更なる詳細について説明する。
まず、本実施形態で用いる測定試薬22中の発色試薬は、血液中のグルコースと呈色反応することにより生成される呈色成分の吸光度が600nm付近にピークを有するが、本実施形態において呈色成分の吸光度を測定する測定波長は650nmとしている。
測定対象となる呈色成分の吸光度を測定するための測定波長は、呈色成分の光吸収率が相対的に大きくなる波長であって、かつ、ヘモグロビンの光吸収による影響が比較的小さい波長を用いればよい。具体的には、測定対象となる呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応し、かつ、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合が比較的小さい波長範囲W3(図10、図11参照)に属する波長とすればよい。「ピーク波長域の半値全幅域に対応する」波長範囲とは、吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域を特定した際に、短波長側の半値を示す波長から、長波長側の半値を示す波長までの範囲を意味している。本実施形態の測定対象となる呈色成分の吸光度スペクトルは、600nm付近がピーク波長となり、約500nm〜約700nmが半値全幅域に対応する波長範囲となる。また、全吸光度におけるヘモグロビンの光吸収による影響は、600nm以上の波長域で比較的小さくなる。したがって、本実施形態において、測定対象となる呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応し、かつ、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合が比較的小さい波長範囲W3は、600nm以上、かつ、700nm以下である。そのため、測定波長としては、本実施形態の650nmに限られず、600nm〜700nmの範囲に属する別の波長を測定波長としてもよい。呈色成分の吸光度を表すシグナルが強く、全吸光度に対するヘモグロビンの光吸収による吸光度の割合をできる限り低減させた波長範囲である方が、呈色成分由来の吸光度をより正確に測定できるため、呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長となる600nm付近よりやや長波長となる650nm付近を測定波長とすることが好ましい。より具体的には、測定波長を630nm〜680nmの範囲に属する波長とすることが好ましく、640nm〜670nmの範囲に属する波長とすることがより好ましく、本実施形態のように650nmとすることが特に好ましい。このような発色試薬の例としてはテトラゾリウム塩が好ましく、例えばWST−4が最も好ましい。
更に、本実施形態では、呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域が約500nm〜約700nmとなるような発色試薬を使用しているが、ピーク波長域の半値全幅域がこの範囲と異なるような発色試薬を使用してもよい。但し、上述したとおり、ヘモグロビンの吸光特性を考慮し、ヘモグロビンの光吸収による吸光度が大きくなる波長域(600nm以下)と、呈色成分の吸光度スペクトルにおける測定波長とが重ならないようにすることが望ましい。
以下、本実施形態の測定波長である650nmにおける呈色成分の吸光度を推定するための方法について説明する。成分測定装置1は、測定波長(650nm)とは異なる4つの第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5における混合物Xの吸光度をそれぞれ実測し、この4つの第2実測値D2〜第5実測値D5と、予め定めた補正係数データ86とを用いて、測定波長における混合物Xの吸光度の第1実測値D1を補正し、測定波長における呈色成分の吸光度を推定する。本実施形態の測定波長とは、上述の第1所定波長λ1である。
具体的に、成分測定装置1は、上述した4つの第2実測値D2〜第5実測値D5として、測定波長である第1所定波長λ1よりも長波長側の2つの第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3それぞれにおける混合物Xの吸光度の2つの第2実測値D2及び第3実測値D3と、測定波長である第1所定波長λ1よりも短波長側の2つの第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度の2つの第4実測値D4及び第5実測値D5と、を利用する。
より具体的には、上述した4つの第2実測値D2〜第5実測値D5として、測定波長である第1所定波長λ1よりも長波長側で、全吸光度において血球成分等の光散乱による影響が支配的な波長域に属する2つの第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3それぞれにおける混合物Xの吸光度の2つの第2実測値D2及び第3実測値D3と、測定波長である第1所定波長λ1よりも短波長側で、全吸光度においてヘモグロビンの光吸収による影響が大きい波長域に属する2つの第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度の2つの第4実測値D4及び第5実測値D5と、を利用する。
換言すれば、成分測定装置1は、上述した第2実測値D2及び第3実測値D3として、測定対象である呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応する波長範囲(本実施形態では500〜700nm)に属する測定波長よりも長波長域に属する、例えば、波長範囲W3よりも長波長側の長波長域W1に属する第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3それぞれにおける混合物Xの吸光度を利用する。
また、成分測定装置1は、上述した第4実測値D4及び第5実測値D5として、測定対象である呈色成分の吸光度スペクトルにおけるピーク波長域の半値全幅域に対応する波長範囲(500〜700nm)に属する測定波長よりも短波長域に属する、例えば、波長範囲W3よりも短波長側の短波長域W2に属する第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度である第4実測値D4及び第5実測値D5を利用する。
成分測定装置1の吸光度取得部78は、上述した第1実測値D1〜第5実測値D5を取得する。具体的には、発光部66の第1光源67〜第5光源68dから、第1所定波長λ1〜第5所定波長λ5それぞれの発光波長を含む照射光が混合物Xに対して照射される。そして、受光部72は、それぞれの照射光のうち混合物Xを透過する透過光を受光する。そして、演算部60は、照射光と透過光との関係から各波長における混合物Xの吸光度を算出し、各波長における混合物Xの吸光度である第1実測値D1〜第5実測値D5を、実測値データ85としてメモリ62に格納する。成分測定装置1の吸光度取得部78は、メモリ62から実測値データ85を取得することができる。吸光度取得部78が第1実測値D1〜第5実測値D5を取得する手段は、上述した手段に限られず、各種公知の手段により取得することが可能である。
そして、成分測定装置1の吸光度補正部84は、第2実測値D2〜第5実測値D5を用いて第1実測値D1を補正し、測定波長である第1所定波長λ1(本例では650nm)における呈色成分の吸光度を推定する。
特に、図10及び図11から分かるように、血球成分等の光散乱が支配的な長波長域W1では、混合物Xの吸光度スペクトルが略直線状になることから、第2所定波長λ2における吸光度である第2実測値D2と、第3所定波長λ3における吸光度である第3実測値D3と、が取得できれば、第2実測値D2と第3実測値D3との間の傾きを求めることにより、測定波長である第1所定波長λ1における、呈色成分起因の吸光度以外の、外乱因子(ノイズ)を起因とする吸光度をある程度推定することは可能である。成分測定装置1は、血液中の血球成分等による光学的特性に加えて、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を考慮して、血液中のグルコース濃度を算出可能である。そのため、成分測定装置1では、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率により選択される2つの波長(第4所定波長及び第5所定波長)を利用することでより精度の高い補正を行うことができる。
具体的には、第4所定波長λ4として、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの吸収係数の差が、第1の所定値以下となる波長を用いると共に、第5所定波長λ5として、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの吸収係数の差が、上述の第1の所定値より大きくなる波長を用いる。より具体的には、第4所定波長λ4として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率(図13参照)が、所定の閾値としての第1閾値以上となる波長を用いると共に、第5所定波長λ5として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が上述した第1閾値未満となる波長を用いている。換言すれば、第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が、第1閾値以上となる波長及び第1閾値未満となる波長の2つの波長を利用する。これにより、上述した吸光度補正部84が、第1実測値D1を、第2実測値D2〜第5実測値D5を用いて補正する際に、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率を考慮した、より精度の高い補正を行うことができる。
還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率により選択される2つの波長としては、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率によるヘモグロビンの光吸収の差が大きい2つの波長とすることが好ましい。したがって、本実施形態では、第4所定波長λ4として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が0.8以上となる波長、すなわち、520nm〜550nmの範囲に属する波長、又は、565nm〜585nmの範囲に属する波長を利用する。また、第5所定波長λ5として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が0.8未満となる波長、すなわち、550nmより大きく、かつ、565nm未満の範囲に属する波長、又は、585nmより大きく、かつ、600nm未満の範囲に属する波長、を利用することが好ましい。但し、第4所定波長λ4としては、ヘモグロビン全体の量やヘマトクリット値を同時に推定することが可能となるように、還元ヘモグロビンの吸収係数と酸化ヘモグロビンの吸収係数とが等しい波長、すなわち、本実施形態では530nm付近、545nm付近、570nm付近又は580nm付近の波長を用いることが好ましく、更にヘモグロビン全体の吸収係数が大きい540〜545nmの範囲から選ばれる波長を用いるのが特に好ましい。また、第5所定波長λ5としては、550nmより大きく、かつ、565nm未満の範囲内でも吸収係数の差が最も大きくなる560nm付近、又は、585nmより大きく、かつ、600nm未満の範囲内でも吸収係数の差が最も大きくなる590nm付近、とすることがより好ましい。
このように、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率によってヘモグロビン全体の光吸収が大きく変動する短波長域W2において、ヘモグロビン全体の光吸収の差が大きくなる第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5を利用することにより、測定波長である第1所定波長λ1(本実施形態では650nm)におけるノイズの吸光度を、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率をも加味して精度よく推定することができる。そのため、成分測定装置1によれば、測定波長である第1所定波長λ1における呈色成分の吸光度、更には、被測定成分の測定(本実施形態ではグルコースの濃度測定)を精度よく行うことができる。
本実施形態では、第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5のみを、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率の影響を大きく考慮した波長としたが、第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5に加えて、第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3についても、
同様の波長を利用することがより好ましい。
具体的には、血球成分等の光散乱が支配的な長波長域W1における第2所定波長λ2として、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの吸収係数の差が、第2の所定値以下となる波長を用いると共に、同じく長波長域W1における第3所定波長λ3として、第2の所定値より大きくなる波長を用いる。より具体的に、第2所定波長λ2として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が、上述の第1閾値以上で、かつ、第2閾値以下となる波長を用いると共に、同じく長波長域W1における第3所定波長λ3として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が上述の第1閾値未満となる波長、又は、第2閾値より大きくなる波長を用いることが好ましい。第2閾値とは、第1閾値よりも大きい別の所定の閾値である。つまり、第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が異なる範囲にある2つの波長を利用することが好ましい。これにより、上述した吸光度補正部84が、第1実測値D1を、第2実測値D2〜第5実測値D5を用いて補正する際に、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率をより一層考慮した精度の高い補正を行うことができる。
特に、長波長域W1では血球成分等の光散乱による影響が支配的ではあるが、ヘモグロビンの光吸収による影響も被測定成分の測定波長と同程度含まれるため、第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3として、ヘモグロビンの光吸収が、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率により比較的大きく変化する2つの波長を利用することが好ましい。
したがって、本実施形態では、第2所定波長λ2として、還元ヘモグロビンの吸収係数に対する酸化ヘモグロビンの吸収係数の比率が0.8以上かつ1.5以下となる範囲に属する波長を利用することが好ましく、790nm〜850nmの範囲に属する波長を利用することが好ましい。但し、第2所定波長λ2としては、長波長域W1においてヘモグロビンの光吸収が比較的大きく表れる、還元ヘモグロビンの吸収係数と酸化ヘモグロビンの吸収係数とが等しい波長付近から選ぶのが特に好ましく、本実施形態では800〜810nmの範囲から選ばれる波長を用いることが特に好ましい。
更に、第3所定波長λ3は、長波長域W1であって、第3所定波長λ3における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度が、測定波長における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度の10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは実質的に0%となる波長とする。換言すれば、呈色成分の吸光度スペクトルのピーク波長域の長波長側の裾となる波長以上の波長を利用することが特に好ましい。これにより、呈色成分の光吸収の影響を排除し、長波長域W1における血球成分等の光散乱による影響が支配的なノイズをより正確に推定することができる。したがって、本実施形態では、第3所定波長λ3として、725nm以上であり、かつ、790nm未満の範囲に属する波長を利用することがより好ましい。そして、第3所定波長λ3としては、測定波長により近い波長が最も好ましいことから、第3所定波長λ3として、呈色成分の吸光度がゼロとなる波長、すなわち、呈色成分の吸光度スペクトルのピーク波長域の長波長側の裾となる波長を利用することが特に好ましい。したがって、本実施形態では、755nmを第3所定波長λ3とすることが特に好ましい。上述した「全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度」の「全吸光度」とは、混合物全体の吸光度を意味する。また、上述した「全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度」の「呈色成分の吸光度」とは、血液中の被測定成分と試薬中の発色試薬とが呈色反応することにより生じる反応物の吸光度、すなわち、混合物における呈色成分由来の吸光度を意味する。
以上のとおり、成分測定装置1は、測定波長における混合物Xの吸光度の実測値である第1実測値D1を、第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度の実測値である第2実測値D2〜第5実測値D5を用いて補正し、測定波長における呈色成分の吸光度を推定することができる。
以下、成分測定装置1の吸光度補正部84による補正手法について説明する。
上述したように、成分測定装置1のメモリ62には、測定光学系64により測定された第1所定波長λ1〜第5所定波長λ5それぞれにおける混合物Xの吸光度である第1実測値D1〜第5実測値D5の実測値データ85と、第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5それぞれでの混合物Xの吸光度に相関する一群の補正係数データ86と、第1所定波長λ1で実測された混合物Xの吸光度を補正係数データ86により補正して得られる混合物X中の呈色成分の吸光度と各種物理量との関係を示す検量線データ90と、が格納されている。
吸光度補正部84は、メモリ62に格納されている実測値データ85及び補正係数データ86に基づき、測定波長である第5波長λ5における呈色成分の吸光度を算出する。
補正係数データ86は、以下の[数1]で示す式を用いて予め実施された回帰分析によって導出される。
B(λ)とは、波長λにおける、呈色成分の吸光度以外の、外乱因子(ノイズ)を起因とする吸光度を意味しており、多種の血液検体を用いて上記[数1]で示す式によって回帰計算を行い、係数b0、b1、b2、b3及びb4を導出する。具体的に、本実施形態では、上述した第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5の選定基準に基づき、第2所定波長λ2として810nm、第3所定波長λ3として750nm、第4所定波長λ4として545nm、第5所定波長λ5として560nmを用いている。また、多種の血液検体は、成分組成が異なる6つの血液検体を基礎とし、それぞれヘマトクリット値が10%〜70%の範囲に調整された血液検体を準備し、調整した血液検体の吸光度スペクトル測定を行い、回帰分析を使用して、係数b0、b1、b2、b3及びb4を導出している。また、今回行った観測数は全部で766回である。そして、導出されたこれらの係数b0〜b4に基づき、第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5それぞれでの混合物Xの吸光度に相関する一群の補正係数を導出する。この補正係数を含む補正係数データ86を用いることにより、545nm、560nm、750nm、810nmの混合物Xの吸光度の実測値から、測定波長である650nmの混合物Xの吸光度の実測値を補正し、650nmにおける呈色成分の吸光度を推定することができる。
ここで、上記回帰計算によって得られる係数b0〜b4それぞれは、測定系に固有の値として定めることが可能であり、ヘマトクリット値によって異なる値ではない。したがって、ヘマトクリット値に応じては、回帰計算に使用するB(λ2)〜B(λ5)の数値(実測値)が変動する。
図14は、上述の回帰計算において、測定波長における呈色成分以外の、外乱因子(ノイズ)を起因とする吸光度であるノイズ量(以下、単に「ノイズ吸光度」とも記載)における、長波長域W1の実測値による影響度(図14では「W1」と表記)と、短波長域W2の実測値による影響度(図14では「W2」と表記)と、を示すグラフである。ここで言う「影響度」とは、データの占有率を意味している。図14に示すように、上述の回帰計算により得られた実測データの結果を考察すると、測定波長である第1所定波長λ1におけるノイズ吸光度を、第2実測値D2〜第5実測値D5を用いて推定する際に、長波長域W1の第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3での第2実測値D2及び第3実測値D3は、ヘマトクリット値が10%から70%へと大きくなるにつれて、92%から90%へと影響度が減少する(図14の「W1」参照)。その一方で、短波長域W2の第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5での第4実測値D4及び第5実測値D5は、ヘマトクリット値が10%から70%へと大きくなるにつれて、8%から10%へと影響度が増加する(図14の「W2」参照)。このように、ヘマトクリット値に応じて使用する長波長域W1と短波長域W2の影響度が変化することにより、測定波長におけるノイズ吸光度をより正確に推定することができ、結果として測定波長における呈色成分の吸光度をより正確に推定することができる。また、第2実測値D2〜第5実測値D5に呈色成分の吸収が含まれる場合は、第2実測値D2〜第5実測値D5に補正計算を行い、ノイズ吸光度であるB(λ)を算出する必要がある。
成分測定装置1では、第4所定波長λ4として、ヘモグロビンの光吸収による影響が圧倒的に大きい短波長域W2で、還元ヘモグロビンの吸収係数と酸化ヘモグロビンの吸収係数とが等しい波長(図12では530nm、545nm、570nm又は580nm)を用いる場合、この第4実測値D4から、又は、この第4実測値D4と血球成分等の光散乱による影響が大きい長波長域W1で、還元ヘモグロビンの吸収係数と酸化ヘモグロビンの吸収係数とが等しい波長(図12では800nm)を用いた第2実測値D2を利用して、ヘマトクリット値を算出することが可能である。ヘマトクリット値は、メモリ62に格納されたヘモグロビンの吸光度とヘマトクリット値との検量線から算出可能である。
次に、上述した成分測定装置1において、血液中の血球成分等や埃などによる散乱光を含む光学的特性と、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率と、に基づいて推定した、測定波長における呈色成分の吸光度の精度についての検証実験の結果を説明する。検体(n=766)は、各血液をヘマトクリット値が10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%に調製したものを用いた。
図15(a)は、上述した第2所定波長λ2として810nm、第3所定波長λ3として750nm、第4所定波長λ4として545nm、第5所定波長λ5として560nm、測定波長である第1所定波長λ1として650nmを用いた場合に、成分測定装置1の上記成分測定方法により算出される測定波長でのノイズ吸光度の算出値と、同測定波長におけるノイズ吸光度の真値と、の誤差を示すグラフである。本実施例では、第3所定波長λ3における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度は、測定波長における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度の3%に相当する。これに対して図15(b)は、比較例として、上述した第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5のうち810nm及び750nmの2つのみを用いて同様の手法により算出された、測定波長(650nm)におけるノイズ吸光度の算出値と、同測定波長におけるノイズ吸光度の真値と、の誤差を示すグラフである。
図15(a)に示す誤差は、標準誤差の2倍が0.0058であるのに対して、図15(b)に示す誤差は、標準誤差の2倍が0.0109であり(不図示)、図15(a)に示す誤差が、図15(b)に示す誤差よりも小さいことがわかる。つまり、本実施形態の成分測定装置1により実行される上述の成分測定方法によれば、長波長域W1の2つの波長(本検証実験では810nm及び750nm)のみから推定した測定波長における呈色成分の吸光度よりも、精度の高い吸光度を推定することができる。本実施例においては、ヘマトクリット40%とした際に、吸光度誤差0.001は血糖値で1[mg/dL]の誤差に相当する。この成分測定方法を用いた成分測定装置1は、ヘマトクリット10%〜70%の幅広いヘマトクリット値の血液に対して、血糖値測定誤差を低減させることが可能となる。
最後に、上述した成分測定装置1の成分測定方法について、図16を参照してまとめて説明する。図16は、成分測定装置1により実行される成分測定方法を示すフローチャートである。
この成分測定方法は、測定波長としての第1所定波長λ1における混合物Xの吸光度である第1実測値D1、第2所定波長λ2における混合物Xの吸光度である第2実測値D2、第3所定波長λ3における混合物Xの吸光度である第3実測値D3、第4所定波長λ4における混合物Xの吸光度である第4実測値D4、及び、第5所定波長λ5における混合物Xの吸光度である第5実測値D5、を取得するステップS1と、第1実測値D1〜第5実測値D5の少なくとも1つを利用してヘマトクリット値を算出するステップS2と、第1実測値D1を、第2実測値D2〜第5実測値D5及び、回帰計算によって得られた補正係数を用いて補正し、測定波長としての第1所定波長λ1における呈色成分の吸光度を取得するステップS3と、測定波長としての第1所定波長λ1における呈色成分の吸光度と算出したヘマトクリット値から血液中の被測定成分を算出するステップS4と、を含む。
ステップS1では、上述したように、測定光学系64の発光部66及び受光部72を用いて、第1実測値D1〜第5実測値D5を取得する。本実施形態では、ステップS2において、第4実測値D4に基づいて、又は、第4実測値D4及び第2実測値D2に基づいて、ヘマトクリット値を算出する。具体的には、ステップS2において、第4実測値D4から、または、第4実測値D4及び第2実測値D2から、ヘモグロビンの吸光度を推定し、ヘマトクリット値を算出する。さらに、第4実測値D4に、又は、第4実測値D4及び第2実測値D2に、呈色成分の吸収が含まれる場合は、それぞれ、第4実測値D4に、又は、第4実測値D4及び第2実測値D2に、呈色成分の吸収分を差し引く補正計算を行い取得した補正値から、ヘマトクリット値を算出する。本実施形態では、ヘマトクリット値を、メモリ62に格納されている混合物X中のヘモグロビンの吸光度とヘマトクリット値との関係を示す検量線から算出する。ステップS3では、実際に、第1実測値D1を、第2実測値D2〜第5実測値D5及び回帰計算によって得られた補正係数を用いて補正し、測定波長における呈色成分の吸光度を推定し、取得する。最後に、ステップS4では、取得した測定波長である第1所定波長λ1における呈色成分の吸光度と、算出したヘマトクリット値と、からグルコース濃度との関係を示す検量線を用いて、グルコース濃度を算出する。
ここで、測定試薬22について、上述した発色試薬とは異なる別の発色試薬を使用した場合について説明する。上述の測定試薬22は、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)とテトラゾリウム塩(WST−4)及び電子メディエーターとの混合試薬であるが、ここでは、テトラゾリウム塩(WST−4)に代わって、[化1]で示されるテトラゾリウム塩Aを含む。式中 X=Naである。
図17は、グルコース濃度が300mg/dLのグルコース水を検体として用いた場合の、上述の測定試薬22に含まれる発色試薬であるWST−4の呈色成分の吸光度スペクトル(図17では「呈色成分1」と表記)と、ここで説明する測定試薬22に含まれる発色試薬であるテトラゾリウム塩Aの呈色成分の吸光度スペクトル(図17では「呈色成分2」と表記)と、を示す図である。
図17に示すように、テトラゾリウム塩Aの呈色成分の吸光度スペクトルは、WST-4の呈色成分の吸光度スペクトルと比較して、より大きく、かつ、より明瞭な吸収ピークを有する。そのため、テトラゾリウム塩Aを含む測定試薬22の吸収ピークを利用すれば、WST−4を含む測定試薬22の吸収ピークを利用する場合よりも、呈色成分の吸光度を表すシグナルを検出し易く、被測定成分の測定誤差を低減することができる。また、テトラゾリウム塩Aのピーク波長は、650nm付近であるため、上述した例と同様、測定波長である第1所定波長λ1として650nmを利用することができる。但し、図17に示すように、テトラゾリウム塩Aのピーク波長域は、WST-4のピーク波長域よりも長波長側にずれている。そのため、上述の例で用いた第3所定波長λ3と同じ波長を利用すると、テトラゾリウム塩Aの光吸収による影響を大きく受けるため、被測定成分の測定誤差が生じ易くなる。
そこで、発色試薬としてテトラゾリウム塩Aを含む測定試薬22を用いる場合は、第3所定波長λ3として、発色試薬の光吸収の影響を受けにくい波長範囲に属する波長を利用する。具体的に、テトラゾリウム塩Aを含む測定試薬22を用いる場合の第3所定波長λ3は、長波長域W1であって、第3所定波長λ3における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度が、測定波長における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度の10%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは実質的に0%となる波長とする。そのため、本例では、測定波長である第1所定波長λ1を650nmとした場合、790nm以上の波長を利用することが好ましく、810nm以上の波長を利用することがより好ましく、830nm以上の波長を利用することが更に好ましく、920nm以上の波長を利用することが特に好ましい。
但し、実際に用いるLED素子などの汎用的な光源の特性を考慮すると、950nm以下の波長であることが好ましく、940nm以下であることがより好ましい。
第1所定波長λ1、第2所定波長λ2、第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5については、上述の例で示した波長範囲と同様の波長範囲を利用することができる。そして、第1所定波長λ1〜第5所定波長λ5を用いて、上述の例と同様の成分測定方法を実行すれば、血液中の血球成分等による光学的特性と、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率に応じた補正を行うことができるため、精度の高い測定結果を得ることができる。
ここで、テトラゾリウム塩Aを含む測定試薬22を用いることを想定した上で、上述した第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5の選定基準に基づき、第2所定波長λ2として810nm、第3所定波長λ3として900nm、第4所定波長λ4として545nm、第5所定波長λ5として560nmを用いて、上述の例で示した[数1]の式を用いて回帰分析を実行した。回帰分析の手法は、上述の例で示した手法と同様である。
図18は、この回帰計算において、測定波長におけるノイズ吸光度における、長波長域W1の実測値による影響度(図18では「W1」と表記)と、短波長域W2の実測値による影響度(図18では「W2」と表記)と、を示すグラフである。ここで言う「影響度」とは、上記同様、データの占有率を意味している。図18に示すように、上述の回帰計算により得られた実測データの結果を考察すると、上述の例と同様の結果が得られていることがわかる。具体的に、測定波長におけるノイズ吸光度を第2実測値D2〜第5実測値D5を用いて推定する際に、長波長域W1の第2所定波長λ2及び第3所定波長λ3での第2実測値D2及び第3実測値D3は、ヘマトクリット値が10%から70%へと大きくなるにつれて、90%から88%へと影響度が減少する(図18の「W1」参照)。その一方で、短波長域W2の第4所定波長λ4及び第5所定波長λ5での第4実測値D4及び第5実測値D5は、ヘマトクリット値が10%から70%へと大きくなるにつれて、10%から12%へと影響度が増加する(図18の「W2」参照)。このように、ヘマトクリット値に応じて使用する長波長域W1と短波長域W2の影響度が変化することにより、測定波長におけるノイズ吸光度をより正確に推定することができ、結果として測定波長における呈色成分の吸光度をより正確に推定することができる。第2実測値D2〜第5実測値D5に呈色成分の吸収が含まれる場合は、第2実測値D2〜第5実測値D5に補正計算を行い、ノイズ吸光度であるB(λ)を算出する必要がある。
次に、テトラゾリウム塩Aを含む発色試薬を用いた上で、血液中の血球成分等による光学的特性と、赤血球中の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとの比率と、に基づいて推定した、測定波長における呈色成分の吸光度の推定精度についての検証実験の結果を説明する。検体(n=766)は、各血液をヘマトクリット値が10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%に調製したものを用いた。
図19(a)は、上述した第2所定波長λ2として810nm、第3所定波長λ3として900nm、第4所定波長λ4として545nm、第5所定波長λ5として560nm、測定波長である第1所定波長λ1として650nmを用いた場合に、成分測定装置1の上記成分測定方法により算出される測定波長でのノイズ吸光度の算出値と、同測定波長におけるノイズ吸光度の真値と、の誤差を示すグラフである。本例では、第3所定波長λ3における全吸光度に含まれる呈色成分の吸光度は、測定波長における全吸光度に含まれる吸光度の1%に相当する。これに対して図19(b)は、比較例として、上述した第2所定波長λ2〜第5所定波長λ5のうち810nm及び900nmの2つのみを用いて同様の手法により算出された、測定波長(650nm)におけるノイズ吸光度の算出値と、同測定波長におけるノイズ吸光度の真値と、の誤差を示すグラフである。
図19(a)に示す誤差は、標準誤差の2倍が0.0085であるのに対して、図19(b)に示す誤差は、標準誤差の2倍が0.0140であり(不図示)、図19(a)に示す誤差が、図19(b)に示す誤差よりも小さいことがわかる。つまり、発色試薬の種類にかかわらず、成分測定装置1により実行される成分測定方法によれば、長波長域W1の2つの波長(本検証実験では810nm及び900nm)のみから推定した測定波長における呈色成分の吸光度よりも、高い精度で吸光度を推定することができる。本例においては、ヘマトクリット40%とした際に、吸光度誤差0.002は血糖値で1[mg/dL]の誤差に相当する。この成分測定方法を用いた成分測定装置1は、ヘマトクリット10%〜70%の幅広いヘマトクリット値の血液に対して、血糖値測定誤差を低減させることが可能となる。
上述したように、本例で用いる第3所定波長λ3は900nmであり、上述した例で用いた第3所定波長λ3である750nmよりも長波長側の波長域に属する。そのため、テトラゾリウム塩Aを含む測定試薬22を用いる場合の第3所定波長λ3の値は、WST−4を含む測定試薬22を用いる場合の第3所定波長λ3の値と比較して、測定波長である650nmからは離れることになる。そのため、この観点では、測定誤差が生じ易い条件となる。しかしながら、図17に示すように、テトラゾリウム塩Aは、WST−4よりも吸収ピークが大きいため、呈色成分の吸光度を表すシグナルをより検出し易い。このシグナルの強さにより、第3所定波長λ3が測定波長から離れることによる測定誤差の増加を抑制することができる。その結果、測定波長から離れた第3所定波長λ3を利用しても、被測定成分の測定誤差を小さくすることができる。
本開示に係る成分測定装置及び成分測定装置セットは、上述した実施形態の具体的な記載に限られず、特許請求の範囲の記載した発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。上述の実施形態では、被測定成分としてのグルコースの測定として、グルコース濃度を測定しているが、濃度に限らず、別の物理量を測定してもよい。また、上述の実施形態では、血液中の被測定成分として、血漿成分中のグルコースを例示しているが、これに限られず、例えば血液中のコレステロール、糖類、ケトン体、尿酸、ホルモン、核酸、抗体、抗原等を被測定成分とすることも可能である。したがって、成分測定装置は、血糖値測定装置に限られない。更に、上述の実施形態では、成分測定チップ2を透過する透過光を受光する受光部72としているが、成分測定チップ2から反射する反射光を受光する受光部としてもよい。上述の実施形態では、血液を分離する工程を持たず、全血中の血糖値を測定しているが、血液を濾過し、血球成分もしくは塵埃等を一部除去した後の血液を測定対象としてもよく、血球を溶解させる薬剤を用いて、チップ2内で溶血させた後の血液を測定対象としてもよい。血液を分離する工程においては、血液を濾過せず、全血として、測定試薬22と反応させる測定用エリアと補正を行う補正エリアに分け、各々計算してもよい。