JPWO2018147018A1 - 抗原検出又は測定用キット - Google Patents

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Abstract

固相化工程や洗浄工程を必要とせず、高感度で抗原を検出又は測定可能なキットの開発を目的として、抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体と、蛍光色素で標識されたプロテインMの断片とを含む抗原検出又は測定用キットであって、前記プロテインMの断片は、前記複合体と結合能を有する断片である、抗原検出又は測定用キットを提供する。

Description

本発明は、抗原検出又は測定用キット、及び抗原の検出又は測定方法に関する。本発明のキット及び方法は、固相化工程や洗浄工程を必要とせず、高感度で抗原を検出又は測定することができる。
現在、臨床診断において免疫測定法はますます重要な測定技術となってきている。個々の免疫測定法を採択するにあたっては、感度・特異性の向上のみならず、測定の迅速・簡便化も大きな要素となってきている。現在主流な免疫測定法においては、タンパク質バイオマーカーの検出にあたってはサンドイッチ法、低分子検出においては競合法が測定原理として用いられる。しかしそのどちらも、数回の反応と洗浄の後に主にラベルに用いた酵素活性を測定する酵素免疫測定法であることが多く、測定には手間と数時間の時間がかかる問題がある。これに比べ、サンプルと測定試薬を混ぜて反応させ、検出するホモジニアス免疫測定法の開発が行われてきている。
本発明者は、近年、このようなホモジニアス免疫測定法に用いうる迅速高感度な測定素子として抗原が結合すると光る抗体Quenchbody (Q-body)の構築に成功し、特許出願及び論文等の発表を行ってきた(WO2011/061944、WO2013/065314、R. Abe et al., J. Am. Chem. Soc., 2011, 133(43), 17386-17394)。Q-bodyは、抗体の抗原結合部位近傍の特定の1箇所ないし2箇所に、短いリンカーを介してTAMRAなどの蛍光色素を標識した蛍光修飾抗体であり、色素が抗体内のアミノ酸(主にトリプトファン)と相互作用し、クエンチ(消光)状態になるが、抗原を添加することでその消光が解除され発光する。しかし、従来その作製には抗体遺伝子のクローニングが必須で構築に時間とコストがかかる問題があった。
この問題を解決するため、最近、本発明者は、PAxPGという抗体結合タンパク質(J. Dong et al., J. Biosci. Bioeng., 2015, 120, 504-509)に着目し、このタンパク質を蛍光色素とリンカーを介して結合させた蛍光プローブを、抗体と混合し、Q-bodyと同様、抗原の添加により消光が解除される複合体の作製に成功した(非特許文献1)。
H. Jeong et al., Anal. Methods, 2016, 8, 7774-7779
上記のPAxPGと抗体との複合体は、Q-bodyと同様に、抗原の検出が可能である一方、Q-bodyとは異なり、その作製に抗体遺伝子のクローニングは不要であるという利点がある。しかし、PAxPGと抗体との複合体は、抗原添加による蛍光強度の上昇値が、Q-bodyほど高くないという問題があった。
本発明の目的は、抗体遺伝子のクローニングが不要であるというPAxPGと抗体との複合体を用いた抗原検出手段の利点を維持しつつ、これに代わる新たな抗原検出手段を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、PAxPGの代わりに、マイコプラズマ由来の抗体結合タンパク質であるプロテインM(R. Grover et al., Science, 2014, 343(6171), 656-661)におけるC末端側ドメインを含む断片を用いても、抗原の検出が可能な複合体を作製できることを見出した。
上記のプロテインMに関する論文(R. Grover et al., Science, 2014, 343(6171), 656-661)には、プロテインMのC末端側ドメイン(残基番号441-468に存在するドメイン)が抗原と抗体の結合を妨げるという記載がある。従って、プロテインMのC末端側ドメインを含む断片と抗体との複合体は、抗原と結合しないものと予想され、この複合体が抗原の検出に用いることができるということは全く予想外のことであった。
また、PAxPGを蛍光プローブとした場合、50 nMの蛍光プローブと200 nMのFab断片の複合体に1μMの抗原を加えても、蛍光強度は2.3〜5.3%程度しか増加しないことが報告されている(H. Jeong et al., Anal. Methods, 2016, 8, 7774-7779)。これに対し、プロテインMの断片を蛍光プローブとした場合、抗原の添加により蛍光強度は40%以上増加している(図9)。従って、PAxPGの代わりにプロテインMの断片を用いることによって、より高感度で抗原を検出することが可能になると考えられる。
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔14〕を提供する。
〔1〕抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体と、蛍光色素で標識されたプロテインMの断片とを含む抗原検出又は測定用キットであって、前記プロテインMの断片は、前記複合体と結合能を有する断片である、抗原検出又は測定用キット。
〔2〕プロテインMの断片が、プロテインMのC末端側ドメインの全部又は一部を含む断片である、〔1〕に記載の抗原検出又は測定用キット。
〔3〕プロテインMの断片が、プロテインMにおけるN末端側の50〜100アミノ酸残基及びC末端側の50〜100アミノ酸残基を欠損させた断片である、〔1〕に記載の抗原検出又は測定用キット。
〔4〕抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体が、全長抗体である、〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の抗原検出又は測定用キット。
〔5〕蛍光色素が、プロテインMの断片のC末端側に標識されている、〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の抗原検出又は測定用キット。
〔6〕プロテインMの断片が、2種類の蛍光色素で標識されている、〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の抗原検出又は測定用キット。
〔7〕2種類の蛍光色素が、ローダミン系蛍光色素、及びGFP又はその変異体である、〔6〕に記載の抗原検出又は測定用キット。
〔8〕試料中の抗原を検出又は測定する方法であって、以下の工程(1)〜(3)を順次行うことを特徴とする抗原の検出又は測定方法、
(1)試料を、蛍光色素で標識されたプロテインMの断片の存在下で、抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体と接触させる工程であって、前記プロテインMの断片は、前記複合体と結合能を有する断片である工程、
(2)前記蛍光色素の蛍光強度を測定する工程、
(3)前記蛍光強度から試料中の抗原の存在を判定、又は前記蛍光強度から試料中の抗原量を算出する工程。
〔9〕プロテインMの断片が、プロテインMのC末端側ドメインの全部又は一部を含む断片である、〔8〕に記載の抗原の検出又は測定方法。
〔10〕プロテインMの断片が、プロテインMにおけるN末端側の50〜100アミノ酸残基及びC末端側の50〜100アミノ酸残基を欠損させた断片である、〔8〕に記載の抗原の検出又は測定方法。
〔11〕抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体が、全長抗体である、〔8〕乃至〔10〕のいずれかに記載の抗原の検出又は測定方法。
〔12〕蛍光色素が、プロテインMの断片のC末端側に標識されている、〔8〕乃至〔11〕のいずれかに記載の抗原の検出又は測定方法。
〔13〕プロテインMの断片が、2種類の蛍光色素で標識されている、〔8〕乃至〔11〕のいずれかに記載の抗原の検出又は測定方法。
〔14〕2種類の蛍光色素が、ローダミン系蛍光色素、及びGFP又はその変異体である、〔13〕に記載の抗原の検出又は測定方法。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2017‐021164の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
本発明のキット及び方法は、固相化工程や洗浄工程を必要とせず、高感度で抗原を検出又は測定することができる。また、このキット及び方法は、検出又は測定のために使用する抗体などを、抗体遺伝子のクローニングにより作製する必要がないという利点も有する。
Fab(左)とプロテインM(右)の複合体の構造を示す図である。この構造は、PDB(Protein Data Bank)からダウンロードし(ID:4NZR)、PyMOL(Schrodinger)で表示した。Fab上面の抗原結合部位のL鎖側(VL)近傍に、プロテインMのC末端が存在する。 プロテインMを含む蛍光プローブを用いた抗原検出原理を模式的に表した図である。 PMdQ(1)、dPMdQ(2)、PM-Q(3)、及びdPM-Q(4)の構造を示す図である。 PM-Qプローブの電気泳動写真。図中、レーン1、2、3、4、及び5は、それぞれ分子量マーカー、pET32-PM-Qの発現産物、pET32dC-PM-Qの発現産物、pET32-PMdQの発現産物、及びpET32dC-PMdQの発現産物を加えた場合の結果を示す。 PMdQ(左上)、PM-Q(右上)、dPMdQ(左下)、及びdPM-Q(右下)の蛍光強度の測定結果を示す図。 抗BGP Fab断片存在下、並びに抗BGP Fab断片及び抗原存在下におけるPMdQ(左上)、PM-Q(右上)、dPMdQ(左下)、及びdPM-Q(右下)の蛍光強度の測定結果を示す図。 蛍光標識プローブに、種々の濃度の抗原溶液又はPBSTを加えた場合の蛍光強度の測定結果を示す図。 抗原投入時の蛍光強度変化の抗原濃度依存性のグラフ。 抗原投入の有無で規格化したグラフ。図中のSampleは図8に示した測定値を表し、PBSTは抗原と等量の緩衝液を加えた場合の測定値を表し、RatioはSample/PBSTの比を表す。 ATTO520-C2(左図)又はTAMRA C5(右図)で標識された蛍光プローブの蛍光強度の測定結果を示す図。 全長ヒトBGPの濃度に依存した蛍光強度の変化を示すグラフ(蛍光色素としてTAMRA-C5を使用)。図中のsampleは抗原溶液の測定値を表し、PBSTは抗原と等量の緩衝液を加えた場合の測定値を表し、ratioはsample/PBSTの比を表す。 全長ヒトBGPの濃度に依存した蛍光強度の変化を示すグラフ(蛍光色素としてTAMRA-C6を使用)。図中のsampleは抗原溶液の測定値を表し、PBSTは抗原と等量の緩衝液を加えた場合の測定値を表し、ratioはsample/PBSTの比を表す。 pET32-PMEGFPの構造を示す図。 pET32-PMの構造を示す図。 pET32-VL(HEL)-EGFPの構造を示す図。 pET32-PMEGFPの構築方法の概略を示す図。 pET-PMをPCRで増幅した後の電気泳動結果を示す図。M: 1kb DNA Ladder、1 : PCR products、2 : pET-PM (Control)。 EGFP及びリンカーをoverlap PCRで増幅した後の電気泳動結果を示す図。M: 100 bp DNA Ladder、1: Linker + EGFP、2: EGFP (Control)。 蛍光標識したPM-EGFPの電気泳動の結果を示す図。 プロテインMプローブの蛍光測定の結果を示す図。プロテインM(PM) 5 nM、抗BGP抗体Fab断片(human Fab) 100nM、抗原(BGP-C7:Ag) 1μM。実験は同じ条件で3回行った。図中の3つのグラフはそれらの結果を示す。グラフ右上の数値は、消光時の最大蛍光強度を1とした場合の抗原添加時の最大蛍光強度の相対値である。 プロテインMプローブの蛍光測定の結果を示す図。プロテインM(PM) 5 nM、抗BGP抗体Fab断片(mouse Fab) 350nM、抗原(BGP-C7:Ag) 1μM。実験は同じ条件で3回行った。図中の3つのグラフはそれらの結果を示す。グラフ右上の数値は、消光時の最大蛍光強度を1とした場合の抗原添加時の最大蛍光強度の相対値である。 EGFP結合プロテインMプローブの蛍光測定の結果を示す図。EGFP結合プロテインM(PMEGFP) 5 nM、抗BGP抗体Fab断片(mouse Fab) 550nM、抗原(BGP-C7:Ag) 1μM。実験は同じ条件で3回行った。図中の3つのグラフはそれらの結果を示す。グラフ下の上段の数値は、蛍光強度比(580nmにおける蛍光強度/515nmにおける蛍光強度)であり、Fab断片添加前(PMEGFP)、Fab断片添加時(Fab)、及び抗原添加時(Ag)の値が示されている。グラフ下の下段の数値は、Fab断片添加時の蛍光強度比を1とした場合の上段の蛍光強度比の相対値である。抗原の添加により、約1.4倍の蛍光強度比の変化がみられた。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の抗原検出又は測定用キットは、抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体(以下、この複合体を「抗体複合体」という場合がある。)と、蛍光色素で標識されたプロテインMの断片とを含むものである。
プロテインMとは、Mycoplasma genitalium由来の抗体結合タンパク質であり(R. Grover et al., Science, 2014, 343(6171), 656-661)、そのアミノ酸配列は、配列番号1に示す通りである。プロテインMは、556のアミノ酸残基からなり、残基番号16-30に膜貫通ドメインが存在し、残基番号78-440に大きなドメイン(以下、このドメインを「N末端側ドメイン」という場合がある。)が存在し、残基番号441-468に小さなドメイン(以下、このドメインを「C末端側ドメイン」という場合がある。)が存在する。
Mycoplasma genitalium以外のMycoplasma属の細菌(例えば、Mycoplasma pneumonia、Mycoplasma iowae、 Mycoplasma gallisepticumなど)にも、プロテインMのホモログが存在することが知られている(R. Grover et al., Science, 2014, 343(6171), 656-661)。通常、プロテインMは、Mycoplasma genitalium由来のタンパク質のみを意味するが、本明細書においては、このMycoplasma genitalium由来のタンパク質だけでなく、上述したホモログもプロテインMに含まれるものとする。
本発明においては、プロテインMそのものではなく、プロテインMの断片を使用する。ここで、「プロテインMの断片」とは、プロテインMにおけるN末端側及び/又はC末端側のアミノ酸残基を欠損させたタンパク質をいう。
プロテインMの断片は、上記の抗体複合体と結合するものであればどのようなものでもよいが、プロテインMのC末端側ドメインの全部又は一部を含む断片であることが好ましい。ここで、「C末端側ドメインの一部を含む」とは、C末端側ドメインの全アミノ酸残基(28残基)の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上のアミノ酸残基を含むことをいう。また、プロテインMの断片は、プロテインMのN末端側ドメインの全部又は一部を含む断片であることが好ましい。ここで、「N末端側ドメインの一部を含む」とは、N末端側ドメインの全アミノ酸残基(363残基)の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上のアミノ酸残基を含むことをいう。更に、プロテインMの断片は、膜貫通ドメインを含まない断片であることが好ましい。
プロテインMの断片は、上記の抗体複合体と結合する限り、天然のプロテインMから得られる断片において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入されたものであってもよい。このようなアミノ酸を改変した断片が、上記の抗体複合体と結合するかどうかは、タンパク質間の結合の有無を調べるのに用いられる一般的な方法によって調べることができる。例えば、結合性を調べようとするプロテインMの断片を、Q-bodyにおいて用いられる蛍光色素(例えば、TAMRAなど)で標識し、これを上記の抗体複合体と共存させた場合、プロテインMの断片が抗体複合体と結合するのであれば蛍光強度は低下し、抗体複合体と結合しないのであれば蛍光強度は変化しないので、この蛍光強度の変化を指標として、結合の有無を調べることができる。
プロテインMの断片の作製において、欠損させるN末端側及びC末端側のアミノ酸残基数は、C末端側ドメインの全部又は一部を含み、N末端側ドメインの全部又は一部を含み、膜貫通ドメインを含まない数であることが好ましい。具体的には、欠損させるN末端側の残基数は50〜100であることが好ましく、70〜80であることが更に好ましい。欠損させるC末端側の残基数は50〜100であることが好ましく、80〜90であることが更に好ましい。
蛍光色素によりプロテインMの断片を標識する方法は特に限定されず、例えば、プロテインMの断片の末端に、リンカーを介して、標識可能な官能基(例えば、チオール基やアミノ基など)を有するアミノ酸タグを付加し、この官能基にマレイミドやスクシンイミドなどを用いて蛍光色素を標識する方法を用いることができる。蛍光色素による標識は、無細胞翻訳系を利用してプロテインMの断片を合成しながら部位特異的に標識する方法、大腸菌や動物細胞を宿主とする遺伝子組み換え技術により部位特異的に蛍光色素を導入する方法も用いることができる。無細胞翻訳系を利用して標識する方法としては、アンバーサプレッション法(Ellman J et al.(1991)Methods Enzymol.202:301-36)、4塩基コドン法(Hohsaka T., et al., J. Am. Chem. Soc., 118, 9778-9779, 1996)、C末端標識法(特開2000-139468号公報)、N末端標識法(米国特許第5643722号公報、Olejnik et al.(2005)Methods 36:252-260)などを例示できる。
蛍光色素は、プロテインMの断片のN末端側に標識してもよいが、C末端側に標識することが好ましい。
蛍光標識に用いる蛍光色素としては、プロテインMの断片を標識した場合、上記の抗体複合体とプロテインMの断片が結合した状態で、抗原の非存在下で消光される蛍光色素であって、前記複合体に抗原が結合したときには消光機能が解除され、蛍光が発せられる蛍光色素であれば特に限定されない。このような蛍光色素とてしては、従来のQ-bodyにおいて使用されていた蛍光色素、例えば、国際公開番号WO2013/065314の明細書に記載されている蛍光色素を挙げることができる。具体的には、ローダミン、クマリン、Cy、EvoBlue、オキサジン、Carbopyronin、naphthalene、biphenyl、anthracene、phenenthrene、pyrene、carbazoleなどを基本骨格として有する蛍光色素やその蛍光色素の誘導体を例示することができる。蛍光色素の具体例としては、CR110:carboxyrhodamine 110:Rhodamine Green(商標名)、TAMRA:carbocytetremethlrhodamine:TMR、Carboxyrhodamine 6G:CR6G、ATTO655(商標名)、BODIPY FL(商標名):4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indancene-3-propionic acid、BODIPY 493/503(商標名):4,4-difluoro-1,3,5,7-tetramethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indancene-8-propionicacid、BODIPY R6G(商標名):4,4-difluoro-5-(4-phenyl-1,3-butadienyl)-4-bora-3a,4a-diaza-s-indancene-3-propionic acid、BODIPY 558/568(商標名):4,4-difluoro-5-(2-thienyl)-4-bora-3a,4a-diaza-s-indancene-3-propionic acid、BODIPY 564/570(商標名):4,4-difluoro-5-styryl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indancene-3-propionic acid、BODIPY 576/589(商標名):4,4-difluoro-5-(2-pyrrolyl)-4-bora-3a,4a-diaza-s-indancene-3-propionic acid、BODIPY 581/591(商標名):4,4-difluoro-5-(4-phenyl-1, 3-butadienyl)-4-bora-3a,4a-diaza-s-indancene-3-propionic acid、Cy3(商標名)、Cy3B(商標名)、Cy3.5(商標名)、Cy5(商標名)、Cy5.5(商標名)、EvoBlue10(商標名)、EvoBlue30(商標名)、MR121、ATTO 390(商標名)、ATTO 425(商標名)、ATTO 465(商標名)、ATTO488(商標名)、ATTO 495(商標名)、ATTO 520(商標名)、ATTO 532(商標名)、ATTO Rho6G(商標名)、ATTO 550(商標名)、ATTO 565(商標名)、ATTO Rho3B(商標名)、ATTO Rho11(商標名)、ATTO Rho12(商標名)、ATTO Thio12(商標名)、ATTO 610(商標名)、ATTO 611X(商標名)、ATTO 620(商標名)、ATTO Rho14(商標名)、ATTO 633(商標名)、ATTO 647(商標名)、ATTO 647N(商標名)、ATTO 655(商標名)、ATTO Oxa12(商標名)、ATTO 700(商標名)、ATTO 725(商標名)、ATTO 740(商標名)、Alexa Fluor 350(商標名)、Alexa Fluor 405(商標名)、Alexa Fluor 430(商標名)、Alexa Fluor 488(商標名)、Alexa Fluor 532(商標名)、Alexa Fluor 546(商標名)、Alexa Fluor 555(商標名)、Alexa Fluor 568(商標名)、Alexa Fluor 594(商標名)、Alexa Fluor 633(商標名)、Alexa Fluor 647(商標名)、Alexa Fluor 680(商標名)、Alexa Fluor 700(商標名)、Alexa Fluor 750(商標名)、Alexa Fluor 790(商標名)、Rhodamine Red-X(商標名)、Texas Red-X(商標名)、5(6)-TAMRA-X(商標名)、5TAMRA(商標名)、SFX(商標名)を挙げることができる。これらの中でも、ローダミン系蛍光色素であるCR110やTAMRA、及びオキサジン系蛍光色素であるATTO655を特に好適な蛍光色素として例示することができる。
プロテインMの断片に標識する蛍光色素は1種類だけでもよいが、2種類の蛍光色素でプロテインMの断片を標識してもよい。2種類の蛍光色素は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のエネルギー供与体(ドナー)となる供与体色素とエネルギー受容体(アクセプター)となる受容体色素とであることが好ましい。この際、供与体色素と受容体色素は、抗体複合体がプロテインMの断片に結合したときに、相互作用し、供与体色素が発するエネルギーが受容体色素に移動するような位置に配置する。このような位置に配置することにより、供与体色素と受容体色素の蛍光強度の変化で、抗原を検出することが可能になる。即ち、抗体複合体のみが存在する条件では、プロテインMの断片単独の場合に比べ、FRETにより供与体色素の蛍光強度が低下し、受容体色素の蛍光強度が上昇するが、抗体複合体と抗原が存在する条件では、抗体複合体に抗原が結合することにより、抗体複合体の立体構造が変化し、FRETが起こらなくなり、前述した蛍光強度の変化が打ち消される(供与体色素の蛍光強度が上昇し、受容体色素の蛍光強度が低下する。)。
供与体色素と受容体色素の組合せとしては、ローダミン系蛍光色素とGFP又はGFPの変異体の組合せを挙げることができる。ここで、GFPの変異体とは、例えば、EGFP、BFP、YFPなどである。最も好ましい組合せとしては、TAMRAとEGFPの組合せを挙げることができる。供与体色素と受容体色素の組合せは、前述したものに限定されるわけではなく、例えば、特開2014-156428号公報に記載されている組合せ、即ち、BODIPY(登録商標) FLとBODIPY(登録商標) 558/568、BODIPY FLとBODIPY 576/586、BODIPY FLとTAMRA、BODIPY FLとCy3、FluoresceinとBODIPY 558/568、Alexa488とBODIPY 558/568、BODIPY 558/568とCy5などの組合せも利用できる。
プロテインMの断片は、抗体複合体への結合能、抗体複合体との結合時における消光能、及び抗原存在時における脱消光能を阻害されない限り、任意のアミノ酸配列からなるタンパク質、ペプチドタグ、リンカー、可溶化タグなどが付加されていてもよく、放射性同位体、酵素、上述した蛍光色素と異なる種類の蛍光色素により標識されていてもよく、リン酸化、メチル化などの修飾を受けていてもよい。ここで、ペプチドタグとしては、ProXタグ、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグ、Niタグ、Cysタグなどを例示でき、リンカーとしては、GSやDDAKKやEAAAKの繰り返し配列である(GS)2-6、(DDAKK)2-6、(EAAAK)2-6などを例示でき、可溶化タグとしては、チオレドキシンやアミロイド前駆体タンパク質由来可溶化タグなどを例示できる。なお、蛍光色素による標識のため、プロテインMの断片にCysタグを付加し、更にこの断片にチオレドキシンを付加した場合、チオレドキシンがシステイン残基を含むため、蛍光色素がチオレドキシンに付加されてしまう可能性がある。これを防ぐため、このような場合には、チオレドキシンではなく、チオレドキシン中のシステイン残基をセリン残基に置き換えた変異型チオレドキシンを使用するのが好ましい。
抗体軽鎖可変領域は、抗体軽鎖遺伝子のV領域及びJ領域のエクソンによりコードされる抗体軽鎖可変領域に特異的なアミノ酸配列を含むものであれば特に限定されるものではなく、上記の抗体複合体と抗原との親和性が損なわれない限り、上記抗体軽鎖可変領域に特異的なアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端側に、さらに任意のアミノ酸配列が付加されたものであっても、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入されていてもよい。このような抗原との親和性は、ELISA法やFACSなどの常法により適宜調べることができる。また、上記抗体軽鎖可変領域に特異的なアミノ酸配列としては、カバット(Kabat)の番号付け系で第35番目のアミノ酸がトリプトファンであるアミノ酸配列であることが好ましい。
抗体重鎖可変領域は、抗体重鎖遺伝子のV領域、D領域、及びJ領域のエクソンによりコードされる抗体重鎖可変領域に特異的なアミノ酸配列を含むものであれば特に限定されるものではなく、上記の抗体複合体と抗原との親和性が損なわれない限り、上記抗体重鎖可変領域に特異的なアミノ酸配列のN末端及び/又はC末端側に、さらに任意のアミノ酸配列が付加されたものであっても、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入されていてもよい。かかる抗原との親和性は、ELISA法やFACSなどの常法により適宜調べることができる。また、上記抗体重鎖可変領域に特異的なアミノ酸配列としては、カバット(Kabat)の番号付け系で第36番目、第47番目、又は第103番目のアミノ酸がトリプトファンであるアミノ酸配列であることが好ましい。
抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドとしては、抗体軽鎖可変領域を含有していればよく、抗体軽鎖や、抗体軽鎖に任意のアミノ酸配列からなるペプチドを含むことができ、例えば、抗体軽鎖可変領域に、抗体軽鎖定常領域(Cκ)や、さらにヒンジ部分を付与したポリペプチドとすることができ、これらの中でも抗体軽鎖可変領域にCκを付加したポリペプチドが好ましい。このようなポリペプチドは、検出又は測定対象とする抗原に応じて適宜作製することができる。抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドの具体例としては、国際公開番号WO2013/065314の明細書に記載されているポリペプチドを例示できる。
抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドとしては、抗体重鎖可変領域を含有していればよく、抗体重鎖や、抗体重鎖に任意のアミノ酸配列からなるペプチドを含むことができ、例えば、抗体重鎖可変領域に、抗体重鎖定常領域(CH1)や、さらにヒンジ部分やFc領域を付与したポリペプチドとすることができ、これらの中でも抗体重鎖可変領域にCH1を付加したポリペプチドが好ましい。このようなポリペプチドは、検出又は測定対象とする抗原に応じて適宜作製することができる。抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドの具体例としては、国際公開番号WO2013/065314の明細書に記載されているポリペプチドを例示できる。
抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体(抗体複合体)は、抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドを構成要素として含み、複合体を形成するものであればよく、抗原との親和性が損なわれない限り、前記ポリペプチドに加え、さらにペプチドやタンパク質、脂質、金属その他の化合物などを構成要素として含んでもよい。
また、この抗体複合体は、前記ポリペプチド同士が組み合わさって一体として機能しうる構造体であればよく、前記ポリペプチド間の化学結合の有無は特に問題とされない。前記結合としては、前記ポリペプチド同士による、ジスルフィド結合や、架橋剤を用いて形成された結合などを挙げることができ、これらの結合は1つの複合体において複数組み合わせて使用されてもよい。これらの中でもジスルフィド結合を好適に例示することができる。抗体複合体は、前記ポリペプチド同士が互いに近い距離となる複合体を形成することが好ましく、このような機能をもつペプチドを含む、抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体が好ましい。抗体分子において抗体軽鎖定常領域と抗体重鎖定常領域はその相互作用により抗体軽鎖可変領域と抗体重鎖可変領域をより近い距離とし、強固な抗原結合ポケットを形成する補助的役割を果たしている。このことから、この抗体複合体としては、抗体軽鎖可変領域と抗体軽鎖定常領域からなるポリペプチドと、抗体重鎖可変領域と抗体重鎖定常領域からなるポリペプチド鎖が、ジスルフィド結合で結合した1分子の抗体タンパク質であるFab抗体や、Fab抗体2つがヒンジを介してジスルフィド結合で結合したF(ab')2抗体や、更にFc領域も含む全長抗体が好ましい。PAxPGを蛍光プローブとする方法(H. Jeong et al., Anal. Methods, 2016, 8, 7774-7779)では、PAxPGがFab領域だけでなく、Fc領域にも結合してしまうため、全長抗体を使用することができないので、全長抗体を使用できる点は本発明の大きな特徴の一つである。
抗体複合体は、従来のQ-bodyと同様に、遺伝子組み換え技術により調製してもよいが(例えば、公開番号WO2013/065314の明細書に記載されている方法に従って調製してもよい。)、本発明においては、市販の抗体やこれを酵素(例えば、パパインやペプシンなど)などで処理したもの(例えば、Fab抗体やF(ab')2抗体など)をそのまま使用することができるので、作製の容易さなどの観点から、これらを使うことが好ましい。
抗原としては、上記抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドや上記抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドや上記抗体複合体により特異的に認識される抗原であれば特に限定されず、例えば、タンパク質、ペプチド、糖質、脂質、糖脂質、低分子化合物の他、リン酸化、メチル化などのタンパク質修飾などやこれらの修飾を受けたタンパク質などを挙げることができる。本発明の抗原検出又は測定用キットは、検出感度に優れることから、低分子化合物の検出において特に有用である。
本発明の抗原検出又は測定用キットは、抗体複合体と蛍光色素で標識されたプロテインMの断片のほかに、他の構成要素を含んでいてもよい。このような他の構成要素としては、標準物質として使用できる抗原や、通常この種の免疫測定キットに用いられる試薬など、器具、取扱説明書などを挙げることができる。
本発明の抗原の検出又は測定方法は、試料中の抗原を検出又は測定する方法であって、(1)試料を、蛍光色素で標識されたプロテインMの断片の存在下で、抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体(抗体複合体)と接触させる工程、(2)前記蛍光色素の蛍光強度を測定する工程、及び(3)前記蛍光強度から試料中の抗原の存在を判定、又は前記蛍光強度から試料中の抗原量を算出する工程、を順次行うことを特徴とするものである。この抗原の検出又は測定方法は、上述した本発明の抗原検出又は測定用キットを使用して行うことができる。
本発明において「抗原の検出」とは、試料中に抗原が存在するかどうか判定することを意味し、「抗原の測定」とは、試料中に存在する抗原の量を決定することを意味する。
試料は、検出又は測定対象とする抗原が含まれる可能性があるものであればどのようなものでもよく、液体の試料でも、液体以外の試料であってもよい。
液体の試料は、そのまま検出又は測定対象としてもよく、また、抗原を損なうことや検出又は測定を阻害することもない限り、緩衝液や生理食塩水などで希釈、あるいは濃縮、又はpHや塩濃度などを適宜調整した後に検出又は測定対象としてもよい。このような液体の試料としては、血清、血漿、唾液、髄液、尿などの体液、培養上清、細胞抽出液、菌体抽出液、工業廃水などを挙げることができる。
固体など液体以外の試料は、緩衝液や生理食塩水などの液体に溶解、懸濁、又は液浸し、上記の抗体複合体と接触できる状態とした後に試料とすることが好ましい。また、液体に溶解、懸濁、又は液浸する前に、分割、細断、粉砕、すりつぶす、切片化するなどの処理を行ってもよく、特定成分のみを除去又は抽出するといった処理を行ってもよい。
本発明においては、さらに、生体内の血液や髄液などの体液、組織などをも検出又は測定用試料とすることができる。即ち、実験動物などの非ヒト動物に、抗体複合体及び蛍光色素で標識されたプロテインMの断片を投与することにより、抗体複合体を生体内の抗原と接触させることができる。ここで使用する非ヒト動物としては、ヒト以外の動物であればよく、例えば、脊椎動物、中でも哺乳類、魚類、鳥類、爬虫類、両生類などの非ヒト動物を挙げることができ、これらの中でも哺乳類が好ましく、マウス、ラット、ハムスター、サル、ブタなどがより好ましい。また、上記投与方法も特に制限されず、筋肉内注射、腹腔内注射、静脈内注射、皮下注射、埋込み、塗布などの非経口的な局所投与方法や、経口的な投与方法の中から適宜選択することができる。また、抗体複合体及び蛍光色素で標識されたプロテインMの断片と同時、又はその前後に他の薬剤などを投与してもよい。非ヒト動物に、抗体複合体及び蛍光色素で標識されたプロテインMの断片を投与することにより、生体内における抗原の位置やその移動、抗原量やその変化を観察することも可能である。このような観察においては、経時的に体液や組織などを採取して、その蛍光強度測定や蛍光の局在観察を行うことも、あるいは生体中の蛍光強度やその変化、蛍光の局在やその移動をリアルタイムに検出し観察することもできる。
試料と、上記の抗体複合体との接触は、どのような条件で行ってもよいが、通常は液相中で行う。接触の際の反応条件は、従来のQ-bodyを用いた反応と同様の条件とすることができ、例えば、国際公開番号WO2013/065314の明細書に記載されている反応条件とすることができる。具体的には、温度条件は、例えば、1〜30℃、好ましくは18〜25℃、反応時間は、例えば、瞬時〜180分、好ましくは1〜90分とすることができる。また、非ヒト動物体内において反応を行う場合は、投与後、例えば、5〜180分、好ましくは60〜120分インキュベートし、必要に応じて、組織、血液、細胞などを摘出、又は観察対象部位を露出させるなどの処理を適宜行うことができる。
試料中に検出又は測定対象とする抗原が存在する場合、抗体複合体はその抗原を認識する。このとき、抗体複合体に結合しているプロテインMの断片の蛍光色素の消光が解消され、励起光の照射により蛍光が発せられる。一方、試料中に検出又は測定対象とする抗原が存在しない場合、抗体複合体に結合しているプロテインMの断片の蛍光色素は消光されたままで、励起光の照射によっても蛍光を発しない。このように本発明の方法は、洗浄などの工程を経ることなく、そのまま抗原の検出又は測定を行うことができ、このことは本発明の方法の大きな特徴の一つである。
蛍光強度の測定方法は、蛍光色素から発せられる蛍光強度を測定できる限り特に限定されず、接触反応後の試料に励起光を照射して蛍光色素の蛍光強度を測定すればよい。照射する励起光、及び測定する蛍光の波長は、使用する蛍光色素の種類に応じて適宜選択することができ、例えば蛍光色素にCR110を用いた場合は励起光波長480nmと蛍光波長530nm、TAMRAを用いた場合は励起光波長530nmと蛍光波長580nm、ATTO655を用いた場合は励起光波長630nmと蛍光波長680nmの組み合わせとすることができる。
蛍光強度測定に用いる光源や測定装置は適宜選択することができ、光源は励起光波長を照射できるものであればよく、光源としては水銀ランプ、キセノンランプ、LED、レーザー光などを挙げることができ、適当なフィルターを用いて特定の波長の励起光を得ることができる。蛍光測定装置は、蛍光観察に通常用いられるデバイスを用いることができ、励起光の光源及びその照射システム、蛍光画像取得システムを備えた顕微鏡などを適宜利用することができ、MF20/FluoroPoint-Light(オリンパス社製)やFMBIO-III(日立ソフトウェアエンジニアリング社製)などを例示することができる。蛍光強度と抗原の濃度とは正の相関関係にあるので、濃度既知の抗原を含む試料を用いたときの蛍光強度を測定して抗原濃度と蛍光強度との関係を示す標準曲線を作成し、この標準曲線から、濃度未知の抗原濃度を算出することができる。このような抗原濃度の算出は、あらかじめ作成されたに標準曲線に基づいて設定された変換式などにより自動的に抗原量を算出することもできる。なお、蛍光強度の測定は、蛍光スペクトルの測定であっても、特定の波長の蛍光強度の測定であってもよい。
また、上記の抗体複合体及び蛍光色素で標識されたプロテインMの断片を、非ヒト動物に投与した場合は、その体液や組織などを採取するほか、非ヒト動物の検出対象領域に励起光を照射して、蛍光色素の蛍光強度を2次元又は3次元的に測定することもでき、この場合、蛍光顕微鏡や蛍光イメージアナライザー、光源を備えた内視鏡などを使用する例を挙げることができる。また、検出の際には、内視鏡、X線、CT、MRI、超音波、顕微鏡などを用いて、非ヒト動物の個体、組織、又は細胞の構造を示す画像も合わせて取得することが好ましい。測定された蛍光強度と抗原量とは正の相関関係にあるので、測定された蛍光の2次元又は3次元的画像に基づいて、抗原の局在(位置)及び/又は量を知ることができ、この際前記構造を示す画像と比較することもできる。これらの蛍光強度の測定に際しては、上記の抗体複合体及び蛍光色素で標識されたプロテインMの断片を除いた試料、試料の希釈に用いた緩衝液などをネガティブコントロールとして調製し、合わせて蛍光強度の測定を行うことが好ましい。また、前記ネガティブコントロールにおける測定値で、対象試料における測定値を除した、蛍光強度比を用いて、抗原量の算出などを行うこともできる。あるいは、蛍光強度と抗原量とは正の相関関係にあるので、適宜設定した閾値を越える蛍光強度が得られた場合に、測定試料中に抗原が存在すると判定することもできる。
以上のように、本発明によると、ELISA法、免疫拡散法、ラテックス凝集法、イムノクロマト法、表面プラズモン共鳴法などの免疫測定法で測定することのできるすべての抗原類を検出又は測定することができる。例えば、低分子物質に対する免疫測定法は、一般的には競合ELISA法が用いられているが、本発明による低分子物質の検出又は測定は、手法の簡便さ、測定感度やSN比などで競合ELISA法より優れており、最もその能力を発することができる。このような本発明の検出又は測定に適した低分子化合物としては、例えば、アンフェタミン、メタンフェタミン、モルヒネ、ヘロイン、コデインなどの覚せい剤や麻薬類、アフラトキシン、ステリグマトシスチン、ネオソラニオール、ニバレノール、フモニシン、オクラトキシン、エンドファイト産生毒素などのカビ毒、テストステロンやエストラジオールなどの性ホルモン、クレンブテロールやラクトパミンなどの飼料に不正に用いられる添加物、PCB、ゴシポール、ヒスタミン、ベンツピレン、メラミン、アクリルアミド、ダイオキシンなどの有害物質、アセタミプリド、イミダクロプリド、クロルフェナピル、マラチオン、カルバリル、クロチアニジン、トリフルミゾール、クロロタロニル、スピノサド、ランネート、メタミドホス、クロルピリホスなどの残留農薬、ビスフェノールAなどの環境モルモンなどを挙げることができる。
また本発明によると、測定結果が瞬時に得られる上に、検出又は測定方法が単純なため機器を小型化かつ低価格化することが可能となる。これらの利点は、低分子物質に限定されず、現場に出向き測定するオンサイト分析に威力を発揮することができる。しかも、測定が容易なため、専門家でなくても測定することができる。例えば、インフルエンザ、伝染病や感染症などの原因ウイルスや細菌、薬物血中濃度やPOCTを含む臨床診断分野や職場、学校、保育園や家庭での簡易健康測定分野、炭疸菌、ボツリヌス毒素、サリンやVXガスなどテロ対策などの安心安全分野、現場サイドで測定が必要となる環境汚染物質やハウスダストなどの環境分野、免疫測定を必要とする研究開発分野などで、その能力を遺憾なく発揮することができる。
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕 PM-Qプローブ発現ベクターの構築
すべての実験において、MilliQ (ミリポア)にて精製し、オートクレーブにより滅菌処理した水を用いた。以下、滅菌水と表記する。通常の試薬を特に表記のあるもの以外は、シグマ、ナカライテスク、和光純薬、関東化学のものを使用した。
プロテインM(図1)の残基番号78-468をコードする遺伝子配列(配列番号2)を合成した(Eurofin Genomics)。これを発現ベクターpET32a (Novagen)に挿入するため、合成配列と発現ベクターをそれぞれ制限酵素NcoIとNotIで切断し、常法に従いライゲーション、形質転換とアンピシリン培地での選択を行った。得られたコロニーを培養し、プラスミドを抽出して挿入配列を持つものを選択した。
次に、プロテインMのC末端にリンカーを介してシステイン(Cys)残基を持つタグ配列を挿入するため、以下の操作を行った。なお、抗原結合に影響が考えられるC末端側ドメインを削ったもの(以後PMdと呼ぶ)も作製した。PMdおよびPMのC末側に(SGGG)2Cを挿入するため、プライマーDeltaC_SGGG2C_back (5'-GAGAACTATTATCCCTCAGGTGGAGGGAGCGGC-3'、配列番号3)あるいはC-term_SGGG2C_back (5'-CTGAAACGTGCGGCCTCAGGTGGAGGGAGCGGC-3'、配列番号4)とSGGG2For(5'-TGCTCGAGTGCGGCCGTTATTAACAACCTCCGCCGCTCCCTCCACC-3'、配列番号5)のペアと、KOD-Plus-Neo ポリメラーゼ(Toyobo)を用いて、まず94℃で2分間インキュベートしDNAを変性させた。その後、94℃ 30秒、55℃30秒、68℃1分の反応を30サイクル行い、増幅断片をSmaI-NotIあるいはNotIで切断したベクターとIn-Fusion HD cloning kit (Clontech, 宝バイオ)を用いて接続させた。これらをT7 terminatorプライマー(5'-CTAGTTATTGCTCAGCGGTG-3'、配列番号6)を用いて配列を確認し、それぞれpET32-PMdQならびにpET32-PM-Qとした。
〔実施例2〕 PM-Qプローブ発現ベクター中のチオレドキシンからのCys残基除去
pET32は、タンパク質の可溶性を向上させるためチオレドキシン(以下Trx)がN末に融合した形でタンパク質が発現されるよう設計されている。しかし、Trx中には蛍光色素修飾される可能性のあるCys残基が2個(残基番号33および36)隣接して存在するため、これらをそれぞれセリン(Ser)に変異させた。プライマーTrxMutCS2-top (5'-GGGCAGAGTGGTCCGGACCGTCCAAAATGATCGCC-3'、配列番号7)とTrxMutCS2-bottom (5'-GGCGATCATTTTGGACGGTCCGGACCACTCTGCCC-3'、配列番号8)を用いてQuikChange mutagenesis kit (Stratagene, Agilent)を用いて変異導入をおこない、T7promoterプライマー (5'-TAATACGACTCACTATAGGG-3'、配列番号9)を用いて配列を確認した。この作業をpET32-PMdQおよびpET32-PM-Qについて行い、それぞれpET32d-PMdQおよびpET32d-PM-Qを得た。
〔実施例3〕 融合タンパク質の発現と精製
pET32-PMdQ、pET32-PM-Q、pET32dC-PMdQ及びpET32dC-PM-Qを用いて、大腸菌 SHuffle T7 lysYを形質転換した。その後、プラスミドを保持した大腸菌を100 mLのLBA培地(10 g/L トリプトン、5g/L 酵母、5g/L NaCl、100 μg/mLアンピシリン)で30℃でOD600が0.6となるまで培養した後、0.4 mM となるようIPTGを添加し、16℃でさらに16時間培養した。遠心分離によって集菌した。10 mlのExtraction buffer(50 mM リン酸ナトリウム, 300 mM 塩化ナトリウム, pH 7.0)に懸濁した大腸菌を菌体破砕装置One Shot Disruptor, Constant Systems)によって破砕した後、1000 g、20分遠心を行い、上清を集め、固定化金属アフィニティクロマトグラフィーにより精製を行った。具体的には適量のTALON (Clontech社,宝バイオ)アガロースゲルを上清に加えて、30分間撹拌した。その後ゲルをカラムに移して10 mlのExtraction bufferで3回洗浄を行い、2.5 mLの150 mMイミダゾールを含むExtraction bufferを用いてゲルに結合したタンパク質を溶出した。SDS-PAGEによって分析を行った結果を図4に示す。想定された分子量のバンドが確認された。Nanosep Centrifugal-3k Ultrafltration Device (Pall)を用いて緩衝液をPBST(PBS+0.05% Tween20)に変更・濃縮し、終濃度15%のグリセリンを加えて-80℃で分注、保存した。なお、C末端側ドメインを含まないpET32dC-PM-Q及びpET32dC-PMdQの発現産物に比べ、C末端側ドメインを含むpET32-PM-Q及びpET32-PMdQの発現産物の方が、収量が高く、安定的に発現させることができた。
〔実施例4〕 融合タンパク質の蛍光色素標識
精製タンパク質75μgに対し、まずCys残基の還元のため等量のImmobilized TCEP gel (Thermo)で室温30分処理した。遠心し上清を回収した後、20倍モル量のマレイミド色素を加え、遮光して4℃2時間、ゆっくりと回転させながらタンパク質中のCysと色素マレイミドを反応させた。なお色素としては5(6)TAMRA-C6 (AAT Bioquest)、 5(6)TAMRA-C5 (Biotium)、 ATTO520-C2(ATTO-Tech)を用いた。反応後、Nanosep限外ろ過膜(Pall)を用いて500 μLのPBSTで3回遠心洗浄を行い、未反応色素を除去した。さらに必要に応じてTALONあるいはHis SpinTrapカラム(GE Healthcare)を用いて更に精製し、色素を完全に除去した。最後にNanosep 限外ろ過膜を用いて緩衝液をPBSTに変更・濃縮し、終濃度15%のグリセリンを加えて-25℃で分注、保存した。なお、これらの蛍光標識タンパク質の濃度は、既知濃度のTAMRA色素を同時に用いて蛍光分光光度計(日本分光 FP-8500)を用いて545 nmで励起し、580 nm付近のピーク波長で蛍光強度の測定を行い、それらを比較し決定した。
〔実施例5〕 蛍光測定
このようにして得られた蛍光標識プローブ(以下PMdQ, PM-Q, dPMdQ, dPM-Qと記す)を250μLのPBSTで希釈し、蛍光分光光度計で540 nmで励起し580 nm付近の蛍光強度を測定した(図5)。測定開始30分後に、終濃度10 nMの抗BGP Fab断片(2-10μL)を加えたところ、その後数分にわたり蛍光強度の減少が観察された。これに対し、Fabの代わりにPBSTを加えた場合には顕著な減少は見られなかった。抗BGP Fab断片を加えた後、更に抗原(BGP-C7)を加えたところ、PMdQを用いた場合を除き、蛍光強度の増加が観察された。抗BGP Fab断片存在下、及び抗BGP Fab断片と抗原存在下における蛍光強度の測定結果を図6に示す。
次に、dPM-Qに抗BGP Fab断片を加えたサンプルに対し、更に抗原濃度が3、10、30、100、300、1000 nMになるよう各10 μLの抗原溶液、あるいは各10 μLのPBSTを段階的に加え、蛍光強度変化を測定した(図7)。さらにこれを抗原投入時の蛍光強度で規格化し、抗原投入の有無での比として表したところ(図9)、標識プローブとFabの混合物(複合体)への抗原添加により、蛍光強度が増加したことがわかる。すなわち、本標識プローブが、Fabと結合してQ-bodyとしての性質を示しうる事が明らかとなった。
なお、抗BGP FabとしてはN末に修飾用のタグ配列を持たないKTM-219由来のVH/VLを持ち、ヒトIgG1由来のCH1/Ckを持つもの(Dong et al., J. Biosci. Bioeng. 122, 125-130, 2016)を文献の方法で調製して用いた。
〔実施例6〕 全長抗体を用いた抗原検出
10 nMの蛍光標識プローブ(ATTO520-C2又はTAMRA C5で標識されたdPM-Q)に5 nMの抗オステオカルシン全長抗体(KTM219 IgG)を加え、更に1μMの抗原(BGP-C7)を加えた。抗体添加前、抗体添加後、及び抗原添加後に、励起光を照射し、蛍光強度の測定を行った。この結果を図10に示す。
ATTO520-C2、TAMRA C5のいずれの蛍光色素を用いた場合も、抗体の添加により蛍光強度が減少し(ATTO520-C2:27%減少、TAMRA C5:38%減少)、抗原の添加により蛍光強度が増加した(ATTO520-C2:10%増加、TAMRA C5:13%増加)。この結果から、本発明の蛍光標識プローブは、抗体の断片だけでなく、全長抗体に対しても、抗原を検出可能な複合体を形成できることが明らかとなった。
〔実施例7〕 全長ヒトBGPの測定
5 nMの蛍光標識プローブ(TAMRA-C5又はTAMRA-C6で標識されたdPM-Q)に5 nMの抗BGP Fab断片を加えた。これに種々の濃度の全長(49アミノ酸)ヒトBGPを抗原として加え、蛍光強度変化を測定した。全長ヒトBGPの抗原濃度は、3、10、30、100、300、又は1000 nMとし、添加量は10μLとした。また、抗原溶液の代わりに等量のPBSTを加え、同様に蛍光強度変化を測定した。この結果を図11及び図12に示す。
これらの図に示すように、蛍光強度は、全長ヒトBGPの濃度に依存して上昇した。この結果から、本標識プローブにより、7アミノ酸からなるBGP-C7だけでなく、分子量の大きい(約6 kDa)全長ヒトBGPも測定できることがわかった。また、TAMRA-C5で標識した場合(図11)よりも、TAMRA-C6で標識した場合(図12)の方が、応答がよく、より高感度で全長ヒトBGPを測定できると考えられる。
〔実施例8〕 pET32-PMEGFPの構築
I 実験方法
1.1 実験材料
本実施例で用いた滅菌水は全て、Milli Q水製造装置(Millipore)で精製したのち、オートクレーブで滅菌処理した水(Milli Q水)を用いた。オリゴヌクレオチドは、ユーロフィンジェノミクスに合成依頼したものを使用した。制限酵素はNew England Biolabs JapanまたはTakaraから購入した。
1.1.1 オリゴヌクレオチド
使用したオリゴヌクレオチドの塩基配列を以下に示す。
PM_AgeFor : 5’-CCGGTGGCCGCACGTTTCAGGATTTC-3’(配列番号10)
pET_EagBack : 5’-GGCCGCACTCGAGCACCAC-3’ (配列番号11)
GSCGS_For : 5’-ACCGCCGCTGCCTCCACCACAACCTCCGCCGCTCCCTCC-3’(配列番号12)
Age_P2GSCGS_Back : 5’-ACGTGCGGCCACCGGTCCACCTGGAGGGAGCGGCGGA -3’(配列番号13)
EGFP_Back : 5’-GGAGGCAGCGGCGGTGGATCGATGGTGAGCAAGGGCGAGG-3’ (配列番号14)
EGFP_XhoI_For : 5’-GGTGGTGGTGCTCGAGCTTG-3’ (配列番号15)
1.1.2 大腸菌
使用した大腸菌を以下に示す。
XL10-Gold (Kanr): Tetr, Δ(mcrA)183, Δ(mcrCB-hsdSMR-mrr)173, endA1, supE44, thi-1, recA1, gyrA96, relA1, lac, Hte, [F', proAB, lacIqZΔM15, Tn10 (Tetr), Tn5 (Kanr), Amy]
大腸菌の培養にはLB培地をオートクレーブ滅菌した後、抗生物質を添加した。抗生物質として100 μg/mLアンピシリン (Amp)または50 μg/mLカナマイシン(Km)となるよう調製した。
1.2 pET32-PMEGFPの構築
pET32-PMEGFP(図13)の構築には、三宅千絢氏によって構築されたプラスミドであるpET32-PM(図14)をベクターとして用いた。pET32-PM を鋳型としてプライマーPM_AgeFor及びpET_EagBackを用いてPCRで増幅し、精製した。インサートは、EGFP及びリンカーの2種類を用意した。前者はpET32-VL(HEL)-EGFP(図15)を鋳型としてプライマーEGFP_Back及びEGFP_XhoI_Forを用いてPCRで増幅し、精製した。後者は塩基数が少ないため鋳型を用いず、プライマーGSCGS_For及びAge_P2GSCGS_Backを用いてPCRで増幅し、精製した。
増幅した3つのDNA断片をそれぞれアガロースゲル電気泳動と切り出し精製によって取得した。次に2つのインサート同士を鋳型としてEGFP_XhoI_For 及びAge_P2GSCGS_Back でoverlap PCRを行った。これについてもPCR後にアガロースゲル電気泳動と切り出し精製を行った。最後にベクターとインサートをIn-fusion反応によって融合させた。プラスミドの構築概略について図16に示す。得られたプラスミドを用いてXL10-Goldへのトランスフォーメーションを行い、培養後にプラスミドを抽出し、プラスミドのシークエンスを解析した。
II 結果・考察
pET-PMをPCRで増幅した後のアガロースゲル電気泳動結果を図17に示す。この結果より、目的のベクターの取得が確認できた。また、EGFP及びリンカーをそれぞれPCRで増幅し、両者をoverlap PCRで増幅した後のアガロースゲル電気泳動結果を図18に示す。コントロールとして置いたEGFPのみのバンドよりも大きい分子量のDNAが確認できた。ベクターとインサートのIn-fusion反応による融合で得られたpET32-PMEGFPのシークエンス解析結果を配列番号16に示す。この結果より、pET32-PMEGFPの取得を確認した。
〔実施例9〕 PMEGFPプローブの作製及び評価
1.1 実験手順
1.1.1 タンパク質発現
タンパク質発現用大腸菌SHuffle T7 Express LysY 20 μL (BioLabs)に目的プラスミドを1 μL加え、42℃で1分ヒートショックを行った。1分間氷上静置した後、SOC培地200 μLを加え、30℃でインキュベートした。その後、培地のうち20 μLをLBA寒天培地に播種し、30℃で一晩培養した。翌日、単一コロニーを4 mL LBA液体培地に植菌し、30℃で一晩振盪培養した。培養した大腸菌4 mL全量をLBA 液体培地400 mLを加え30℃でOD = 0.6〜0.8となるまで培養し、タンパク質発現誘導を行うためにIPTGを0.4 mMとなるよう添加した。そして16℃で一晩振盪培養し、タンパク質を発現させた。
1.1.2 His-tagによるタンパク質精製
本実施例で使用したプラスミドにはHis×6が含まれている。この配列を認識してHis-tag融合タンパク質を精製するため、TALON(登録商標) Metal Affinity Resin (Clontech)を用いた固定化金属アフィニティ精製 (IMAC) を行った。手順を以下に示す。
1) 振盪培養した大腸菌培養液を500 mLチューブに200 mLずつ分注し、4℃, 5000 Gで20分遠心し、上清を除く。
2) ペレットをPhophate buffer (+NaCl) (以後PBと表記) 5 mLで懸濁させ、フレンチプレス(Constant Systems Ltd.)で細胞破砕する。
3) 4℃, 8000 Gで10分遠心し、上清を回収する。
4) ここでTALON(登録商標) Metal Affinity Resinビーズ(Clontech) 200 μL (bed volume:100μL) を用意する。ビーズを1.5mLチューブに移して4℃ , 100Gで遠心後、上清を捨てる。PBを500 μL添加、遠心、上清除去を3回繰り返し、ビーズを洗浄する。
5) 3)の上清に4)のビーズを加え、小型ロータリーミキサーNRC-20D (NISSIN)を用いて室温で1時間回転させる。
6) 4℃, 100 Gで1分間遠心し、上清を除く。
7) TALON(登録商標) 2mL Disposable Gravity Column (Takara) にビーズを移し、上清を排出する。
8) His Spin Trap binding buffer 500 μLの添加を3回繰り返し、ビーズを洗浄する。
9) His Spin Trap elution buffer を200 μL加えて目的タンパク質を溶出させ、1.5 mLチューブに回収する。
1.1.3 illustraTM MicrospinTM G-25 ColumnsによるBuffer交換
溶出バッファーに含まれるイミダゾールはタンパク質を失活させるおそれがあり、サンプルの長期保存に適していない。また、この後に行う蛍光色素修飾においても目的タンパク質の溶出にイミダゾールを用いるため、この時点でイミダゾールを除かなければならない。そこで、illustraTM MicrospinTM G-25 Columns (GE Healthcare)を用いてタンパク精製後のバッファーをPBSへと交換した。手順を以下に示す。
1) カラム内を再懸濁後、下蓋を除き、上蓋を緩ませた状態で2 mLチューブにセットし、735 G、室温で1 分間遠心する。遠心後、保存液を捨てる。
2) PBS 200 μLを加えて再度懸濁させ、735 G、室温で1 分間遠心する。遠心後、洗浄液を捨てる。
3) カラムを1.5 mLチューブにセットし、サンプル約200 μLを加えて、735 G、室温で1 分間遠心する。遠心後のサンプルを回収する。
1.1.4 SDS-PAGE
精製したタンパク質が目的物かどうかを確認するため、SDS-PAGEを行った。まず、タンパク質を1〜2 μgになるよう調整し、DTTを加えたのち、95℃で5分間加熱し変性させた。その後、ウェルにタンパク質溶液をアプライし、電気泳動させた。電気泳動後の染色はCoomassie Brilliant Blue (CBB)によって行った。具体的には、固定液、染色液、MilliQ水の順にそれぞれ30分ほど振盪浸漬した。
1.1.5 蛍光色素標識
得られたタンパク質に蛍光色素を修飾した。本実施例では5(6)-TAMRA C6-maleimide (AAT Bioquest)を蛍光色素として用いた。この蛍光色素をタンパク質と混合することで、タンパク質内に存在するCys残基と蛍光色素がマレイミド-チオール反応を起こし、結合する。
タンパク質0.5 nmolにTCEPを2.5 mMとなるよう添加し30分室温で回転させることで、Cys残基の還元反応を行った。次に、4-Azidobenzoic Acid (Tokyo CHEM. INDU.)を10 mMとなるよう添加し、氷上で10分静置後、5(6)-TAMRA C6-maleimideを50 μMとなるよう添加し、遮光した状態で2時間回転させた。反応後、His Spin Trapカラム (GE Fealthcare)を用いてタンパク質精製を行い、未反応の蛍光色素を除去した。手順を以下に示す。
1) カラム内の溶液を懸濁後、2 mLチューブに入れて、4℃, 100Gで30秒遠心し濾液を除去する。
2) カラムにbinding buffer 600 μLを加えて4℃, 100Gで30秒遠心し、濾液を除去する。
3) タンパク質溶液を加え、4℃, 100Gで30秒遠心し、濾液を除去する。
4) binding buffer 600 μLを加えて4℃, 100Gで30秒遠心し、濾液を除去する。この作業はwash用であり、これを10回繰り返すことで未反応の蛍光色素を可能な限り除去する。
5) 1.5 mLチューブにカラムを入れ、elution bufferを200 μL加え、タッピングを挟みながら5分間氷上で静置する
6) 4℃, 100Gで30秒遠心してタンパク質を溶出させる。
溶出後のタンパク質濃度はSDS-PAGEで測定した。
1.1.6 蛍光測定
蛍光測定にはFP-8500 分光蛍光光度計(日本分光)を用いた。蛍光色素や蛍光タンパク質に適する励起波長を照射し、得られる蛍光の強度変化を測定した。以下に測定条件を示す。
温度 : 25 ℃
励起バンド幅 : 5 nm
蛍光バンド幅 : 5 nm
走査速度 : 500 nm / min
レスポンス : 2 sec
感度 : High
励起波長、測定波長 : 各々の実験で記述
タンパク質プローブを光路長5×5 mm の石英マイクロセル 4本に250 μLずつ加えた。また、同時にスターラーもマイクロセルに入れ攪拌させることで、測定中の溶液の均一化を図った。4本のうち3本には、さらに抗体もしくはFab断片、抗原を順に添加し、それぞれ添加後に蛍光測定した。残り1本はこれらを添加する代わりに同溶液量のPBSTを加えてコントロールとして測定し、希釈や蛍光色素の褪色による蛍光強度の変化を確認した。また、マイクロセルに各溶液を添加後、20分以上経過してから測定を行った。
1.2 各プローブのタンパク質発現及び蛍光色素修飾
pET32-PMEGFPをSHuffle T7 Express lysYに形質転換し、培養後にTalonビーズを用いたIMAC精製を行った。その後、蛍光色素TAMRA-C6を各プローブに修飾し、SDS-PAGEにて確認した。
1.3 各プローブのBGPペプチドを用いた蛍光測定
TAMRA-C6を修飾した各プローブ を5 nMとなるようPBSTで希釈し、セルに入れて蛍光測定した。その後、マウスヒトキメラ(可変領域はマウス由来だが定常領域はヒトIgG1由来配列のもの)あるいはマウス型の抗BGP抗体Fab断片(BGP Fab)、BGP-C7を順に加え、それぞれ添加20分後に測定した。励起波長は460 nm、蛍光波長は500-600 nmとした。これにより、用意した3つのプローブについて蛍光強度変化の比較を行った。
II 実験結果・考察
2.1 各プローブのタンパク質発現及び蛍光色素修飾
蛍光標識したPM-EGFP (約90 kDa)のSDS-PAGEの結果を図19に示す。この結果より、プローブの取得を確認した。
2.2 各プローブのBGPペプチドを用いた蛍光測定
TAMRA-C6を修飾した各プローブの蛍光測定の結果を図20〜22に示す。図20及び図21には、プローブとしてプロテインMを使用した場合の結果が示されており、図22にはプローブとしてEGFP結合プロテインMを使用した場合の結果が示されている。
図22に示すように、EGFP結合プロテインMを使用した場合においても、プロテインMを使用した場合と同様、580nm付近(TAMRA-C6の蛍光波長)での消光(Fab断片添加時)及び消光の解除(抗原添加時)が確認された。一方、EGFPの蛍光波長である515nm付近では、抗原添加時において、FRETによる蛍光強度の低下が観察された。
Fab断片としてマウスヒトキメラ抗BGP抗体Fab断片(図20及び図22)とマウス型抗BGP抗体Fab断片(図21)を使用したが、マウス型抗BGP抗体Fab断片を添加した場合は、マウスヒトキメラ抗BGP抗体Fab断片を添加した場合ほど、蛍光強度は低下しなかった。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
本発明は、試料分析や薬物検査の分野、又は携帯型試料分析キットの分野などにおいて有用に利用することができる。

Claims (14)

  1. 抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体と、蛍光色素で標識されたプロテインMの断片とを含む抗原検出又は測定用キットであって、前記プロテインMの断片は、前記複合体と結合能を有する断片である、抗原検出又は測定用キット。
  2. プロテインMの断片が、プロテインMのC末端側ドメインの全部又は一部を含む断片である、請求項1に記載の抗原検出又は測定用キット。
  3. プロテインMの断片が、プロテインMにおけるN末端側の50〜100アミノ酸残基及びC末端側の50〜100アミノ酸残基を欠損させた断片である、請求項1に記載の抗原検出又は測定用キット。
  4. 抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体が、全長抗体である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の抗原検出又は測定用キット。
  5. 蛍光色素が、プロテインMの断片のC末端側に標識されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の抗原検出又は測定用キット。
  6. プロテインMの断片が、2種類の蛍光色素で標識されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の抗原検出又は測定用キット。
  7. 2種類の蛍光色素が、ローダミン系蛍光色素、及びGFP又はその変異体である、請求項6に記載の抗原検出又は測定用キット。
  8. 試料中の抗原を検出又は測定する方法であって、以下の工程(1)〜(3)を順次行うことを特徴とする抗原の検出又は測定方法、
    (1)試料を、蛍光色素で標識されたプロテインMの断片の存在下で、抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体と接触させる工程であって、前記プロテインMの断片は、前記複合体と結合能を有する断片である工程、
    (2)前記蛍光色素の蛍光強度を測定する工程、
    (3)前記蛍光強度から試料中の抗原の存在を判定、又は前記蛍光強度から試料中の抗原量を算出する工程。
  9. プロテインMの断片が、プロテインMのC末端側ドメインの全部又は一部を含む断片である、請求項8に記載の抗原の検出又は測定方法。
  10. プロテインMの断片が、プロテインMにおけるN末端側の50〜100アミノ酸残基及びC末端側の50〜100アミノ酸残基を欠損させた断片である、請求項8に記載の抗原の検出又は測定方法。
  11. 抗体軽鎖可変領域を含むポリペプチドと抗体重鎖可変領域を含むポリペプチドからなる複合体が、全長抗体である、請求項8乃至10のいずれか一項に記載の抗原の検出又は測定方法。
  12. 蛍光色素が、プロテインMの断片のC末端側に標識されている、請求項8乃至11のいずれか一項に記載の抗原の検出又は測定方法。
  13. プロテインMの断片が、2種類の蛍光色素で標識されている、請求項8乃至11のいずれか一項に記載の抗原の検出又は測定方法。
  14. 2種類の蛍光色素が、ローダミン系蛍光色素、及びGFP又はその変異体である、請求項13に記載の抗原の検出又は測定方法。
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